混合段数算出装置
【課題】逐次反応における正確な混合段数および選択率を求める。
【解決手段】選択率算出装置1は、反応器の内部を流れる反応液の空塔速度と同じ空塔速度で、任意の流通器の内部に流体を流しながら、流通器の供給口にトレーサーを供給開始したのちの、流通器の排出口におけるトレーサーの濃度を経時的に測定した測定結果71を取得する入力制御部3と、測定結果71と、空塔速度と、流通器の供給口から排出口までの長さとを用いて、トレーサーの濃度の経時的変化を近似する滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出する軸方向混合係数算出部4と、軸方向混合係数算出部4が算出した軸方向混合係数と、空塔速度と、流通器の塔径とを用いて、反応器の混合段数を算出する混合段数算出部5とを備えている。
【解決手段】選択率算出装置1は、反応器の内部を流れる反応液の空塔速度と同じ空塔速度で、任意の流通器の内部に流体を流しながら、流通器の供給口にトレーサーを供給開始したのちの、流通器の排出口におけるトレーサーの濃度を経時的に測定した測定結果71を取得する入力制御部3と、測定結果71と、空塔速度と、流通器の供給口から排出口までの長さとを用いて、トレーサーの濃度の経時的変化を近似する滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出する軸方向混合係数算出部4と、軸方向混合係数算出部4が算出した軸方向混合係数と、空塔速度と、流通器の塔径とを用いて、反応器の混合段数を算出する混合段数算出部5とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逐次反応を行う反応器を完全混合槽の列としてモデル化した場合の、完全混合槽の数として表される混合段数を算出する混合段数算出装置、混合段数算出方法、混合段数算出プログラム、混合段数算出プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体、および、混合段数から選択率を算出する選択率算出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
反応液を反応器の内部において一方向に流通させ、複数段階の化学反応を当該反応液中で逐次的に生じさせることにより、目的生成物を生成する場合には、反応液の流量等その流し方を適切に調整することが重要である。なぜなら、反応液の流し方によって、生成される目的生成物の量が変化するからである。
【0003】
目的生成物の量が反応液の流し方に左右される理由について、図13に示す逐次反応を例に挙げて説明する。同図に示す逐次反応では、原料物質Aから、目的生成物である中間生成物Rが生成され、中間生成物Rからさらに副生成物Sが生成される。
【0004】
反応液中の原料物質Aのモル濃度をCAとすると、原料物質Aから中間生成物Rへの反応速度r1は下記(1)式で表される。
【0005】
r1=k1CA・・・(1)
上記(1)式において、k1は反応速度定数である。
【0006】
また、反応液中の中間生成物Rのモル濃度をCRとすると、中間生成物Rから副生成物Sへの反応速度r2は下記(2)式で表される。
【0007】
r2=k2CR・・・(2)
上記(2)式において、k2は反応速度定数である。
【0008】
また、原料物質Aの反応率XAを下記(3)式で表す。
【0009】
XA=(CA0−CA)/CA0・・・(3)
上記(3)式において、CA0は、逐次反応が始まる前の原料物質Aのモル濃度である。
【0010】
上記(3)式が示すように、原料物質Aの反応率XAとは、逐次反応により減少した原料物質Aのモル濃度と、逐次反応が始まる前の原料物質Aのモル濃度との比である。
【0011】
また、中間生成物Rの選択率SRを下記(4)式で表す。
【0012】
SR=CR/(CA0−CA)・・・(4)
上記(4)式が示すように、中間生成物Rの選択率SRとは、逐次反応中の中間生成物Rのモル濃度と、反応により減少した原料物質Aのモル濃度との比である。つまり、選択率SRとは、反応した原料物質Aに対して、どれだけの中間生成物Rが生成されたのかを示す値である。さらに換言すれば、選択率SRとは、逐次反応において、反応した原料物質Aに対する、目的生成物Rの割合である。
【0013】
また、上記(2)から、CRの増加に伴いr2は増加し、副生成物Sの生成量が増加する。つまり、反応率XAが増加するにつれて選択率SRは減少する。したがって、上記のような逐次反応を取り扱う場合には、反応率XAを小さく抑えることが好ましい。
【0014】
さらに、反応速度定数k1に対する反応速度定数k2の比(k2/k1)が大きい場合には、反応率XAの値が小さい範囲における、反応率XAの増加に伴う選択率SRの減少率は高くなる。ここで、一例として、k2/k1=5とし、完全混合流れ(CSTR(Continuous Stirred Tank Reactor))状態と、押し出し流れ(PFR(Piston Flow Reactor))状態とを仮定した場合の、反応率XAと選択率SRとの関係を図14に示す。
【0015】
CSTR状態およびPFR状態については、非特許文献1にその説明が記載されている。CSTR状態とは、反応液が反応器に供給されると同時に完全に混合される流れの状態であり、PFR状態とは、反応液が反応器に供給されてから排出されるまで、全く混合されない状態である。
【0016】
CSTR状態の場合の反応率XAと選択率SRとの関係は、下記(6)式で表される。
【0017】
【数1】
【0018】
上記(6)式において、K=k2/k1であり、Kは1ではない。
【0019】
一方、PFR状態の場合の反応率XAと選択率SRとの関係は、下記(7)式で表される。
【0020】
【数2】
【0021】
上記(7)式において、K=k2/k1であり、Kは1ではない。
【0022】
CSTR状態では、反応液の混合が迅速であり、反応液中の各成分の濃度が反応器内で均一になると仮定するため、CSTR状態における選択率SRは、PFR状態における選択率SRよりも常に低くなる。
【0023】
実際の反応器内を流れる反応液の流れは、CSTR状態とPFR状態との間の状態であり、反応率XAが同じでも、反応液の混合の度合いが小さいほど(PFR状態に近づくほど)選択率SRは増加する。
【0024】
選択率SRを増加させることにより、反応した原料物質Aに対する、目的生成物Rの蓄積量の割合を高めることができ、経済的には、原料費、精製費および不純物処理費を節減することができる。したがって、逐次反応を行う場合には、反応液の流れの状態を適切に調整することが重要である。
【0025】
反応液に限らず、流体の流れの状態を表す指標として混合段数(混合槽数)という値が知られている。
【0026】
この混合段数とは、筒状の胴体を有する容器(流通器と称する)の中を一方向に流れる流体が、流通器を流れる間に混合される度合いを示す値であり、上記流通器を、直列に連結された互いに同一体積の複数の完全混合槽にモデル化した場合の、当該完全混合槽の数である。混合段数については、非特許文献1および2にその説明が記載されている。
【0027】
この混合段数が1(最小)の場合が、CSTRの状態であり、混合段数が∞の場合が、PFRの状態である。実際の流通器における流体の流れの状態は、混合段数が1と∞との間の状態にある。
【非特許文献1】橋本健治、「反応工学」、改訂版、培風館、1993年3月20日、p.179−187、195―197
【非特許文献2】Octave Levenspiel, “Chemical reaction engineering”, Fifth printing, USA, John Wiley and Sons, INC., May, 1967 p.261-265
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
上述のように、逐次反応の選択率SRは、反応液の混合度合いがCSTR状態からPFR状態に近づくほど高まるため、逐次反応の選択率SRは、混合段数が大きいほど増加する。
【0029】
ところが、従来の混合段数の評価精度は、必ずしも十分ではない。それゆえ、混合段数から求められる選択率SRは、必ずしも正確なものではないという問題が生じる。
【0030】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、逐次反応における正確な混合段数を求めることができる混合段数算出装置および混合段数算出方法、および正確な選択率を求めることができる選択率算出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記の課題を解決するために、本発明に係る混合段数算出装置は、反応液を内部に一方向に流通させ、複数段階の化学反応を当該反応液中で逐次的に生じさせる筒状の反応器を、互いに等しい体積の複数の完全混合槽が互いに直列に連結されたモデルにモデル化した場合の、上記完全混合槽の数である混合段数を算出する混合段数算出装置であって、上記反応器の流通方向の単位断面積あたりかつ単位時間あたりの流量を液流速度とし、上記反応器の内部を流れる反応液の液流速度と同じ液流速度で、任意の流通器の内部に流体を流しながら、上記流通器の流体の供給口に、流体の流れに追従するトレーサーを供給開始したのちの、上記流通器の流体の排出口における上記トレーサーの濃度の経時的変化を示すトレーサーデータを取得するトレーサーデータ取得手段と、上記トレーサーデータ取得手段が取得したトレーサーデータと、上記液流速度と、流通器の供給口から排出口までの長さとを用いて、上記トレーサーの濃度の経時的変化を近似する滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出する軸方向混合係数算出手段と、上記軸方向混合係数算出手段が算出した軸方向混合係数と、上記液流速度と、上記流通器の塔径とを用いて、上記反応器の混合段数を算出する混合段数算出手段とを備えることを特徴としている。
【0032】
本発明に係る混合段数算出方法は、反応液を内部に一方向に流通させ、複数段階の化学反応を当該反応液中で逐次的に生じさせる筒状の反応器を、互いに等しい体積の複数の完全混合槽が互いに直列に連結されたモデルにモデル化した場合の、上記完全混合槽の数である混合段数を算出する混合段数算出装置における混合段数算出方法であって、上記反応器の流通方向の単位断面積あたりかつ単位時間あたりの流量を液流速度とし、上記反応器の内部を流れる反応液の液流速度と同じ液流速度で、任意の流通器の内部に流体を流しながら、上記流通器の流体の供給口に、流体の流れに追従するトレーサーを供給開始したのちの、上記流通器の流体の排出口における上記トレーサーの濃度の経時的変化を示すトレーサーデータを取得するトレーサーデータ取得工程取得工程と、上記トレーサーデータ取得工程において取得されたトレーサーデータと、上記液流速度と、流通器の供給口から排出口までの長さとを用いて、上記トレーサーの濃度の経時的変化を近似する滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出する軸方向混合係数算出工程と、上記軸方向混合係数算出工程において算出された軸方向混合係数と、上記液流速度と、上記流通器の塔径とを用いて、上記反応器の混合段数を算出する混合段数算出工程とを含むことを特徴としている。
【0033】
上記の構成によれば、トレーサーデータ取得手段は、反応器の内部を流れる反応液の液流速度と同じ液流速度で、任意の流通器の内部に流体を流しながら、流通器の供給口に対してトレーサーの供給を開始した後の、流通器の排出口におけるトレーサーの濃度の経時的変化を示すトレーサーデータを取得する。
【0034】
軸方向混合係数算出手段は、トレーサーデータと、反応器の液流速度と、流通器の供給口から排出口までの長さとを用いて、供給口におけるトレーサーの濃度の経時的変化を近似する滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出する。
【0035】
混合段数算出手段は、軸方向混合係数算出手段が算出した軸方向混合係数と、上記液流速度と、上記流通器の塔径とを用いて、反応器の混合段数を算出する。
【0036】
それゆえ、従来、熟練者の経験および勘に基づいて決められていた混合段数を計算により正確に求めることができる。また、反応器とは異なる流通器の内部に流体を流した場合の実験結果を利用できるため、例えば、反応器よりも小さな容積を有する流通器を用いて得られたトレーサーデータを利用することができ、反応器と同じ大きさの流通器を用いる場合よりも、例えば、流通器を含む実験装置の設置にかかる負荷を低減することができる。それゆえ、混合段数の算出にかかるコストを節約することができる。
【0037】
なお、上記塔径とは、流通器の供給口から排出口へ向かう方向に対して垂直な平面で流通器を切断した場合の当該流通器の断面の直径である。
【0038】
上記混合段数算出装置は、上記トレーサーデータをシミュレーションによって生成するトレーサーデータ生成手段をさらに備え、上記トレーサーデータ取得手段は、上記トレーサーデータ生成手段が生成したトレーサーデータを取得することが好ましい。
【0039】
上記の構成によれば、シミュレーションデータ生成手段は、反応器の内部を流れる反応液の液流速度と同じ液流速度で、反応器とは異なる流通器の内部に流体を流しながら、流通器の供給口にトレーサーを供給し、流通器の排出口におけるトレーサーの濃度の経時変化を測定するというシミュレーションを行うことによりトレーサーデータを生成する。そして、トレーサーデータ取得手段は、トレーサーデータ生成手段が生成したトレーサーデータを取得する。
【0040】
それゆえ、実際に実験を行う場合よりも、短時間でトレーサーデータを得ることができる。また、シミュレーションを行うことにより、反応器とは異なる、多様な形状の流通器についてのトレーサーデータを容易に得ることができる。
【0041】
また、上記軸方向混合係数算出手段は、下記(8)式
【0042】
【数3】
【0043】
(ただし、上記(8)式において、Cはトレーサーの濃度、Uは液流速度、zは流通器の供給口から排出口までの長さ、tは供給口にトレーサーを供給し始めてからの経過時間、Dは軸方向混合係数を意味する)を用いて上記軸方向混合係数を算出することが好ましい。
【0044】
上記の構成により、上記測定結果または上記シミュレーションデータから軸方向混合係数を算出することができる。
【0045】
また、上記混合段数算出手段は、下記(9)式を用いてペクレ数を算出し、
Pe=Ud/D・・・(9)
(ただし、上記(9)式において、Uは液流速度、dは流通器の塔径、Dは軸方向混合係数を意味する)算出したペクレ数を下記(10)式
【0046】
【数4】
【0047】
(ただし、上記(10)式において、Peはペクレ数、Nは混合段数を意味する)に代入することにより上記反応器の混合段数を算出することが好ましい。
【0048】
上記の構成により、軸方向混合係数から反応器の混合段数を算出することができる。
【0049】
本発明に係る選択率算出装置は、上記の課題を解決するために、上記混合段数算出装置を搭載した選択率算出装置であって、上記混合段数算出手段が算出した混合段数に相当する数の上記完全混合槽を直列に連結することにより上記反応器をモデル化し、上記逐次反応において、反応物に対する、目的生成物の割合である選択率を算出する選択率手段を備えることを特徴としている。
【0050】
上記の構成によれば、選択率手段は、混合段数算出手段が算出した混合段数に相当する数の完全混合槽を直列に連結することにより反応器をモデル化し、目的生成物の選択率を算出する。
【0051】
それゆえ、混合段数算出手段が算出した混合段数から選択率を求めることができる。
【0052】
なお、上記混合段数算出装置を動作させるための混合段数算出プログラムであって、コンピュータを上記各手段として機能させるための混合段数算出プログラム、および当該混合段数算出プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も本発明も技術的範囲に含まれる。
【発明の効果】
【0053】
以上のように、本発明に係る混合段数算出装置は、反応器の流通方向の単位断面積あたりかつ単位時間あたりの流量を液流速度とし、上記反応器の内部を流れる反応液の液流速度と同じ液流速度で、任意の流通器の内部に流体を流しながら、上記流通器の流体の供給口に、流体の流れに追従するトレーサーを供給開始したのちの、上記流通器の流体の排出口における上記トレーサーの濃度の経時的変化を示すトレーサーデータを取得するトレーサーデータ取得手段と、上記トレーサーデータ取得手段が取得したトレーサーデータと、上記液流速度と、流通器の供給口から排出口までの長さとを用いて、上記トレーサーの濃度の経時的変化を近似する滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出する軸方向混合係数算出手段と、上記軸方向混合係数算出手段が算出した軸方向混合係数と、上記液流速度と、上記流通器の塔径とを用いて、上記反応器の混合段数を算出する混合段数算出手段とを備える構成である。
【0054】
本発明に係る混合段数算出方法は、反応器の流通方向の単位断面積あたりかつ単位時間あたりの流量を液流速度とし、上記反応器の内部を流れる反応液の液流速度と同じ液流速度で、任意の流通器の内部に流体を流しながら、上記流通器の流体の供給口に、流体の流れに追従するトレーサーを供給開始したのちの、上記流通器の流体の排出口における上記トレーサーの濃度の経時的変化を示すトレーサーデータを取得するトレーサーデータ取得工程と、上記トレーサーデータ取得工程において取得されたトレーサーデータと、上記液流速度と、流通器の供給口から排出口までの長さとを用いて、上記トレーサーの濃度の経時的変化を近似する滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出する軸方向混合係数算出工程と、上記軸方向混合係数算出工程において算出された軸方向混合係数と、上記液流速度と、上記流通器の塔径とを用いて、上記反応器の混合段数を算出する混合段数算出工程とを含む構成である。
【0055】
それゆえ、従来、熟練者の経験および勘に基づいて決められていた混合段数を計算により正確に求めることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
〔実施の形態1〕
本発明の実施の一形態について図1〜図8に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0057】
(選択率算出システム40の構成)
図2は、本実施形態の選択率算出システム40の構成を示す概略図である。同図に示すように、選択率算出システム40は、模擬装置20および選択率算出装置1を含んでいる。この選択率算出システム40は、模擬装置20によって得られた実験結果を用いて、選択率算出装置1において選択率を算出するシステムである。
【0058】
模擬装置20は、流通器21の内部に、トレーサーを含む流体を一方向に流通させ、トレーサーの濃度を測定することにより当該流体の混合状態を調べるための流通装置であり、逐次反応を実際に行う反応装置90を模した流通装置である。
【0059】
(反応装置90の構成)
図3は、反応装置90の構成を示す概略図である。同図に示すように、反応装置90は、円筒形状(または筒状)の胴体を有する反応器(反応塔)91の内部に反応液を一方向に流通させ、複数段階の化学反応を当該反応液中で逐次的に生じさせるものである。逐次反応の初発物質(原料物質)を含む反応液は、供給ポンプ93により、原料供給部95から反応器91の供給口91aに供給される。反応液の体積流量は、流量計94bによって計測される。また、調整弁92bは、反応液の流量を調節するものである。
【0060】
また、反応装置90は、反応器91の内部にガスを供給するガス供給部96などを備えていてもよい。反応器91に供給されるガスの量は流量計94aによって計測され、当該ガスの圧力は、圧力計97によって計測される。また、当該ガスの供給量は、調整弁92aによって調節される。
【0061】
供給口91aに供給された反応液は、全体としては一定の速度で反応器91の内部を流れ、排出口91bから排出される。反応液が流れる液流速度(以下、空塔速度と称する)を、反応器91の単位断面積あたりかつ単位時間あたりの反応液の流量として表現する。すなわち、空塔速度Uは、下記(11)式で表される値である。
【0062】
U=Q/A・・・(11)
上記(11)式において、Qは、反応器91の内部を流れる反応液の体積流量値であり、Aは反応器91の長軸方向(流通方向)(供給口91aから排出口91bへ向かう方向)における断面積である。
【0063】
(模擬装置20の構成)
模擬装置20は、反応装置90が実現する空塔速度と同じ空塔速度で流体を流通器21の内部において流通させることができる。図2に示すように、模擬装置20は、流通器21、濃度計22、調整弁23a〜c、圧力計24、流量計25a〜b、トレーサータンク26、供給ポンプ29および制御装置30を備えている。
【0064】
流通器21は、その内部に流体を流すことができる円筒状(または筒状)の容器であり、流体を供給するための供給口21aと流体を排出するための排出口21bを有している。この流通器21は、反応器91の容積よりも小さな容積を有している。流通器21の容積は、特に限定されず、後述する軸方向混合係数を算出するための実験を行うのに適したものであればよい。
【0065】
なお、流通器21は、反応器91とは異ならないでもよい。すなわち、流通器21は、任意の流通器でよい。しかし、実験にかかる時間および費用を節減するという観点から、流通器21は、反応器91の容積よりも小さな容積を有しているものであることが好ましい。
【0066】
流通器21の内部を流れる流体は、供給ポンプ29により、液相供給部28から流通器21の供給口21aに供給される。模擬装置20の空塔速度は、調整弁23bを調節することにより調節できる。
【0067】
また、流体の体積流量は、流量計25bによって計測できる。
【0068】
トレーサーは、トレーサータンク26から供給され、供給されるトレーサーの量は、調整弁23cによって調節される。トレーサータンク26から流出したトレーサーは、液相供給部28から流出した流体と混合された後、供給口21aから流通器21へ供給される。
【0069】
トレーサーを含む流体は、全体としては一定の速度(空塔速度)で流通器21内を流れ、排出口21bに到達する。排出口21bにおけるトレーサーの濃度は、濃度計22によって測定される。より詳細には、濃度計22は、排出口21bにおけるトレーサー濃度の変化を、供給口21aにトレーサーを供給し始めてからの経過時間と対応付けて測定する。この濃度計22は、排出口21bにおけるトレーサー濃度と、供給口21aにトレーサーを供給し始めてからの経過時間とを対応付けた測定結果を選択率算出装置1へ出力する。
【0070】
なお、濃度計22が取得する測定結果は、時間的に離散した測定値によって構成されているものでよく、時間的に連続した測定値によって構成されているものでなくてもよい。また、厳密には、トレーサーの濃度そのものを測定する必要はなく、トレーサーの濃度に比例して増減する流体の物性の変化(例えば、電気伝導度)を測定すればよい。
【0071】
模擬装置20に供給するトレーサーは、流体の流れに追従し、その存在量が検出できるものであればよく、特に限定されない。トレーサーとして、例えば、色素、電解質物質、放射性同位元素を用いることができる。トレーサーとして色素を用いた場合には、流通器21内を流れる、色素を含む流体を画像として捉え、当該画像を解析することにより色素の濃度を測定してもよい。
【0072】
また、トレーサーを供給する方法として、ある時点で瞬間的にトレーサーを供給するインパルス応答方法を用いてもよいし、ある時点からトレーサーを継続的に供給するステップ応答方法を用いてもよい。また、上述した方法を組み合わせてもよい。
【0073】
本実施形態では、トレーサーとして電解質物質(例えば、塩化ナトリウム)を用い、ステップ応答方法により当該電解質物質を供給する。これは、ステップ応答方法の方が、トレーサー濃度の変化が大きくなるため、トレーサー濃度の変化を測定し易いからである。よって、濃度計22は、電解質物質の濃度(電気伝導度)を測定するものである。
【0074】
図4は、トレーサーの濃度の測定結果の一例を示すグラフである。当該グラフにおいては、縦軸に、排出口21bにおける、トレーサーである塩化ナトリウムの濃度(電気伝導度)が示され、横軸に塩化ナトリウムを供給口21aに供給してからの経過時間が示されている。
【0075】
また、模擬装置20は、流通器21の内部にガスを供給するガス供給部27などを備えていてもよい。流通器21に供給されるガスの量は流量計25aによって計測され、当該ガスの圧力は、圧力計24によって計測される。また、当該ガスの供給量は、調整弁23aによって調節される。
【0076】
(選択率算出装置1の構成)
図1は、選択率算出装置1の構成を示す機能ブロック図である。同図に示すように、選択率算出装置1は、入力制御部(トレーサーデータ取得手段)3、軸方向混合係数算出部(トレーサーデータ取得手段、軸方向混合係数算出手段)4、混合段数算出部(混合段数算出手段)5、選択率算出部(選択率算出手段)6、記憶部7、入力部8、表示制御部9および表示部10を備えている。
【0077】
入力制御部3は、濃度計22から出力された、排出口21bにおけるトレーサー濃度と、供給口21aにトレーサーを供給し始めてからの経過時間とを対応付けた測定結果を取得し、当該測定結果を記憶部7に格納する。図1において、当該測定結果は、測定結果71として図示されている。
【0078】
すなわち、入力制御部3は、反応器91の内部を流れる反応液の空塔速度と同じ空塔速度で流通器21の内部に流体を流しながら、流通器21の供給口21aにトレーサーを供給開始した後に、流通器21の排出口21bにおけるトレーサーの濃度を経時的に測定した測定結果(トレーサーデータ)を取得する。
【0079】
また、入力制御部3は、入力部8を介して、ユーザから、反応装置90の空塔速度、流通器21の供給口21aから排出口21bまでの長さ(以下、軸方向長さと称する)、流通器21の、長軸方向(供給口21aから排出口21bへ向かう方向)に対して垂直な平面で流通器21を切断した場合の、流通器21の断面の直径(以下、塔径と称する)、後述する反応速度定数および原料物質Aの反応前の濃度CA0を取得し、当該値を記憶部7に格納する。
【0080】
入力部8は、ユーザが空塔速度等の値を入力できるものであればよく、例えば、操作キーまたはタッチパネルである。
【0081】
なお、記憶部7は、選択率算出装置1に対して脱着可能なものでもよく、例えば、フラッシュメモリであってもよい。また、上記測定結果が格納された記憶手段をユーザが選択率算出装置1に挿入することにより、軸方向混合係数算出部4が上記測定結果を取得可能となる構成としてもよい。この場合には、軸方向混合係数算出部4が、トレーサーデータ取得手段として機能する。
【0082】
軸方向混合係数算出部4は、記憶部7に格納された測定結果、上記空塔速度および上記軸方向長さを用いて、後述する方法により、トレーサーの濃度の経時的変化を近似する滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出し、算出した軸方向混合係数を混合段数算出部5へ出力する。
【0083】
混合段数算出部5は、軸方向混合係数算出部4から出力された軸方向混合係数、および、記憶部7から取得した空塔速度および流通器21の塔径を用いて、後述する方法により、反応器91の混合段数を算出し、算出した混合段数を選択率算出部6へ出力する。反応器91の混合段数とは、反応器91を、等しい体積の複数の完全混合槽が直列に連結されたモデルにモデル化した場合の、上記完全混合槽の数である。
【0084】
選択率算出部6は、混合段数算出部5が算出した混合段数に相当する数の完全混合槽を直列に連結することにより反応器91をモデル化し、逐次反応において、反応物に対する目的生成物の割合である選択率選択率を算出する。選択率算出部6における選択率の算出方法については後述する。
【0085】
選択率算出部6が算出した選択率は、表示制御部9へ出力され、表示制御部9は、表示部10を制御することにより当該選択率を表示する。なお、選択率は、プリンタによって紙に印刷されてもよいし、通信回線を介して他の装置へ送信されてもよい。
【0086】
(軸方向混合係数算出部4における軸方向混合係数の算出方法)
排出口21bにおけるトレーサーの濃度変化は、下記(12)式でモデル化することができる。
【0087】
【数5】
【0088】
ただし、上記(12)式において、Cはトレーサーの濃度、Uは空塔速度、zは軸方向長さ、tは供給口21aにトレーサーを供給し始めてからの経過時間、Dは軸方向混合係数を意味する。
【0089】
換言すれば、上記(12)式を用いて軸方向混合係数を算出できる。軸方向混合係数算出部4は、記憶部7に格納された測定結果、空塔速度および軸方向長さを用いて、トレーサーの濃度の時間変化が、測定結果と一致する軸方向混合係数を試行錯誤的に求める。すなわち、軸方向混合係数算出部4は、軸方向混合係数を最適化する。
【0090】
図5は、軸方向混合係数と、トレーサーの濃度の経時変化との関係を示すグラフである。同図に示すように、軸方向混合係数Dが0の場合は、流通器21内の流体の混合が全く起こらないことを意味しており、空塔速度と同じ速度で全てのトレーサーが排出口21bに到達する。このような流れをプラグフローとも称する。軸方向混合係数Dが0の場合は、トレーサーの平均滞留時間は、軸方向長さを空塔速度で割った時間と等しくなる。
【0091】
一方、軸方向混合係数Dが大きくなると、排出口21bにおけるトレーサーの濃度は、軸方向混合係数Dが0の場合の平均滞留時間よりも早い時点からゆっくりと増加する。
【0092】
このように、軸方向混合係数は、トレーサーの濃度の経時的変化を示すグラフのカーブと近似したカーブを描く滞留時間分布関数を規定するものであり、この軸方向混合係数を求めることにより、流通器21を流れる流体の混合状態を知ることができる。
【0093】
(混合段数算出部5における混合段数の算出方法)
混合段数は、非特許文献2に記載されているように、下記(13)式から求めることができる。
【0094】
【数6】
【0095】
上記(13)式において、Peは、ペクレ数であり、下記(14)式によって定義される値である。
【0096】
Pe=Ud/D・・・(14)
上記(14)式において、dは流通器21の塔径であり、Dは軸方向混合係数であり、Uは模擬装置20の空塔速度である。空塔速度Uは、下記(15)式で表される値である。
【0097】
U=Q/A・・・(15)
上記(15)式において、Qは流通器21の内部を流れる流体の体積流量であり、Aは流通器21の長軸方向における断面積である。
【0098】
ただし、模擬装置20の空塔速度は、反応装置90の空塔速度と同じ速度に設定されているため、模擬装置20の空塔速度として、記憶部7に格納された、反応装置90の空塔速度を用いればよい。
【0099】
図1に示すように、混合段数算出部5は、第1演算部51および第2演算部52を備えている。
【0100】
第1演算部51は、軸方向混合係数算出部4が算出した軸方向混合係数D、、記憶部7から取得した空塔速度Uおよび流通器21の塔径dを上記(14)式に代入することによりペクレ数Peを算出する。第1演算部51は、算出したペクレ数を第2演算部52へ出力する。
【0101】
第2演算部52は、第1演算部51が算出したペクレ数を上記(13)式に代入することにより混合段数Nを算出し、算出した混合段数Nを選択率算出部6へ出力する。
【0102】
(軸方向混合係数と混合段数との関係)
図6(a)は、U=0.0117m/s、d=0.3mの時の、軸方向混合係数Dと、混合段数Nとの関係を示すグラフであり、図6(b)は、軸方向混合係数Dと、ペクレ数との関係を示すグラフである。同図(a)に示すように、軸方向混合係数Dが0.002までは、軸方向混合係数Dの増加に伴い混合段数Nが急激に低下し、軸方向混合係数Dが0.002以上になると、混合段数Nは穏やかに1に収束する。同図(b)に示すように、軸方向混合係数Dが0.001〜0.1の範囲は、ペクレ数Peに換算すると、およそ0.005〜10に相当する。
【0103】
(選択率算出部6における選択率の算出方法)
図1に示すように、選択率算出部6は、プロセスシミュレート部61および数値演算部62を備えている。
【0104】
プロセスシミュレート部61は、第2演算部52が算出した混合段数および記憶部7に格納された反応速度定数を用いて、所定の逐次反応が起こった後の、原料物質の濃度、中間生成物(目的生成物)および最終生成物の濃度をそれぞれ算出する。本実施形態では、図13に示すように、原料物質Aから、中間生成物Rが生成され、中間生成物Rからさらに副生成物S(最終生成物)が生成される、2段階の逐次反応を想定して、プロセスシミュレート部61の処理について説明する。
【0105】
プロセスシミュレート部61が用いる反応速度定数は、原料物質Aから中間生成物Rが生成される反応の反応速度定数k1、および中間生成物Rから副生成物Sがされる反応の反応速度定数k2である。
【0106】
つまり、プロセスシミュレート部61は、反応速度定数k1で初期濃度CA0の原料物質Aから中間生成物Rが生成され、反応速度定数k2で中間生成物Rから副生成物Sがされた場合の、原料物質Aの濃度CAおよび中間生成物Rの濃度CRを、原料物質Aの反応前の濃度CA0、反応速度定数k1、反応速度定数k2および第2演算部52が算出した混合段数Nを用いて算出する。
【0107】
換言すれば、プロセスシミュレート部61は、図13に示す逐次反応が、直列に連結されたN個の完全混合槽において段階的に起こった場合の、最後(N番目)の完全混合層における原料物質Aの濃度CAおよび中間生成物Rの濃度CRを算出する。
【0108】
数値演算部62は、記憶部7に格納された原料物質Aの反応前の濃度CA0、プロセスシミュレート部61が求めた原料物質Aの濃度CAおよび中間生成物Rの濃度CRを下記(16)式に代入し、選択率SRを算出する。
【0109】
SR=CR/(CA0−CA)・・・(16)
数値演算部62は、算出した選択率SRを表示制御部9へ出力する。
【0110】
(選択率算出装置1における処理の流れ)
次に選択率算出装置1における処理の流れの一例について、図7を参照しつつ説明する。図7は、選択率算出装置1における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0111】
まず、入力制御部3は、濃度計22から出力された、トレーサー濃度の経時変化の測定結果を取得し、当該測定結果を記憶部7に格納する(S1)。
【0112】
また、入力制御部3は、入力部8を介して、反応装置90の空塔速度、流通器21の軸方向長さ、流通器21の塔径、反応速度定数k1および反応速度定数k2を取得し、当該値を記憶部7に格納する。なお、これらの値は、予め記憶部7に格納されていてもよい。
【0113】
次に、軸方向混合係数算出部4は、記憶部7に格納された測定結果、空塔速度および軸方向長さを用いて、下記(17)式における軸方向混合係数Dを最適化する(S2)。
【0114】
【数7】
【0115】
軸方向混合係数算出部4は、最適化した軸方向混合係数を混合段数算出部5へ出力する。なお、このとき軸方向混合係数算出部4は、最適化した軸方向混合係数を記憶部7に格納してもよい。
【0116】
混合段数算出部5の第1演算部51は、軸方向混合係数を受け取ると、当該軸方向混合係数D、記憶部7から取得した空塔速度Uおよび流通器21の塔径dを下記(18)式に代入することによりペクレ数Peを算出する(S3)。
【0117】
Pe=Ud/D・・・(18)
第1演算部51は、算出したペクレ数Peを第2演算部52へ出力する。
【0118】
第2演算部52は、第1演算部51が算出したペクレ数Peを下記(19)式に代入することにより混合段数Nを算出し、算出した混合段数Nを選択率算出部6へ出力する(S4)。なお、このとき第2演算部52は、算出した混合段数を記憶部7に格納してもよい。
【0119】
【数8】
【0120】
選択率算出部6のプロセスシミュレート部61は、混合段数Nを受け取ると、反応速度定数k1で初期濃度CA0の原料物質Aから中間生成物Rが生成され、反応速度定数k2で中間生成物Rから副生成物Sがされた場合の、原料物質Aの濃度CAおよび中間生成物Rの濃度CRを、記憶部7に格納された反応速度定数k1および反応速度定数k2、および上記混合段数Nを用いて算出する(S5)。
【0121】
数値演算部62は、記憶部7に格納された原料物質Aの反応前の濃度CA0、プロセスシミュレート部61が求めた原料物質Aの濃度CAおよび中間生成物Rの濃度CRを下記(20)式に代入し、選択率SRを算出する。
【0122】
SR=CR/(CA0−CA)・・・(20)
選択率算出部6は、算出した選択率を表示制御部9へ出力し、表示制御部9は、表示部10を制御することにより当該選択率を表示する(S7)。
【0123】
なお、選択率算出部6は、選択率とともに混合段数を表示制御部9へ出力し、表示制御部9は、表示部10を制御することにより当該選択率および混合段数を表示してもよい。
【0124】
(模擬装置20における処理の流れ)
次に、模擬装置20がトレーサー濃度の測定を行う時の処理の流れの一例について、図8を参照しつつ説明する。図8は、模擬装置20における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0125】
まず、供給ポンプ29は、制御装置30の制御下で、流通器21の内部に流体(例えば、水)を供給する。制御装置30は、調整弁23bを調整することにより、流通器21の供給口21aから排出口21bまで当該流体が、反応器91の内部を流れる反応液の空塔速度と同じ空塔速度で流れるように当該流体の空塔速度を調節する(S11)。
【0126】
そして、供給ポンプ29は、流体の流動状態が定常状態になるまで、流体を上記空塔速度で流す(S12)。
【0127】
その後、制御装置30は、調整弁23cを開けることによりトレーサータンク26からトレーサー(例えば、塩化ナトリウム)を流出させ、供給口21aから流通器21内へ当該トレーサーを供給し始めるとともに、濃度計22に、排出口21bにおけるトレーサーの濃度の測定を開始させる(S13)。
【0128】
一定時間トレーサーの濃度の測定を行った後、濃度計22は、測定結果を選択率算出装置1へ送信する(S14)。
【0129】
(選択率算出システム40の効果)
以上のように、選択率算出システム40では、反応装置90と同じ大きさの装置を用いずに、反応器91の容積よりも小さな容積を有する流通器21を備える模擬装置20を用いて、反応装置90が備える反応器91の内部を流れる反応液の空塔速度と同じ空塔速度で、流通器21の内部に流体を流すことにより、反応器91の内部を流れる反応液の混合状態を再現する。
【0130】
そして、流通器21の内部に流体を流しながら、供給口21aからトレーサーを供給し、排出口21bにおけるトレーサーの濃度を濃度計22によって経時的に測定する。
【0131】
それゆえ、反応装置90と同じ大きさの装置を用いる場合よりも短時間でかつより少ない費用で反応器91の内部を流れる反応液の混合状態を調べることができる。
【0132】
さらに、選択率算出装置1は、トレーサーの濃度の測定結果等を用いて、反応器91の混合段数および選択率を算出する。それゆえ、従来、経験によって求められていた混合段数を正確に算出することができ、その結果、正確な選択率を算出することができる。
【0133】
複数段階の反応が起こる逐次反応の場合には、選択率を推定する上で混合段数を正確に見積もることが求められる。それゆえ、本発明は、逐次反応における混合段数を求める場合に、特に有意義である。
【0134】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施形態について図9〜図10に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、実施の形態1と同様の部材に関しては、同じ符号を付し、その説明を省略する。本実施形態の選択率算出装置11は、「反応器91の内部を流れる反応液の空塔速度と同じ空塔速度で、反応器91の容積よりも小さな容積を有する流通器の内部に流体を流しながら、流通器が有する、流体の供給口にトレーサーを供給し、流通器が有する、流体の排出口におけるトレーサーの濃度を経時的に測定した結果」をシミュレーションにより生成するものである。
【0135】
図9は、本実施形態の選択率算出装置11の構成を示す概略図である。同図に示すように、選択率算出装置11は、選択率算出装置1とは異なり、トレーサー実験シミュレート部(トレーサーデータ生成手段)12を備えている。
【0136】
トレーサー実験シミュレート部12は、反応器91の内部を流れる反応液の空塔速度と同じ空塔速度で、反応器91の容積よりも小さな容積を有する仮想的な流通器(以下、仮想流通器と称する)の内部に流体を流しながら、仮想流通器が有する、流体の供給口にトレーサーを供給し、仮想流通器内を移動するトレーサーを追跡するというシミュレーションを行い、当該仮想流通器が有する、流体の排出口におけるトレーサーの濃度の経時的変化を示すシミュレーションデータ(トレーサーデータ)を生成する。
【0137】
トレーサー実験シミュレート部12は、生成したシミュレーションデータを記憶部7に格納する。図9において、当該シミュレーションデータは、シミュレーションデータ72として図示されている。
【0138】
軸方向混合係数算出部4は、記憶部7に格納されたシミュレーションデータ、反応器91の空塔速度および仮想流通器の軸方向長さを用いて、上述した方法により、滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出する。本実施形態における軸方向混合係数の算出方法は、実施の形態1における軸方向混合係数の算出方法と本質的に同様であるため、その説明を省略する。
【0139】
なお、仮想流通器の軸方向長さ、反応装置90の空塔速度、仮想流通器の塔径、反応速度定数および原料物質Aの反応前の濃度CA0は、入力部8を介してユーザによって入力され、記憶部7に格納される。
【0140】
(トレーサー実験シミュレート部12におけるシミュレーションデータ生成方法)
トレーサー実験シミュレート部12におけるシミュレーション(以下、本シミュレーションと称する)に用いる、仮想流通器の内部を流れる流体の流動解析を行うためのモデルは、どのようなものであってもよい。当該モデルとして、例えば、混相流を取り扱う多流体モデルを用いることができる。このような多流体モデルは、市販のソフトにも多く採用されている。
【0141】
トレーサー実験シミュレート部12として利用可能な市販ソフトとしては、例えば、FLUENT(商品名)、ANSYS-CFX(商品名)を挙げることができる。
【0142】
本シミュレーションにおいては、トレーサーに相当するマーカー粒子を、仮想流通器の供給口から連続的に供給し、マーカー粒子を連続相の流れに完全に追従させ、個々のマーカー粒子の、仮想流通器内の滞留時間を測定する。この時、仮想流通器の内部を流れる流体の空塔速度は、反応器91の内部を流れる反応液の空塔速度と同じものに設定する。
【0143】
このようなシミュレーションをトレーサー実験シミュレート部12が行い、各マーカー粒子の、仮想流通器内の滞留時間を測定した測定結果(シミュレーションデータ)を得る。
【0144】
より具体的には、トレーサー実験シミュレート部12は、マーカー粒子の位置情報xpと滞留時間Spとを下記(21)式および(22)式を用いて算出する。
【0145】
dxp/dt=Vc・・・(21)
dSp/dt=1・・・(22)
上記(21)式および(22)式において、tは、マーカー粒子を仮想流通器の供給口から供給し始めてからの経過時間であり、Vcは、反応器91の内部を流れる反応液の空塔速度である。
【0146】
トレーサー実験シミュレート部12は、仮想流通器の排出口においてマーカー粒子をサンプリングし、マーカー粒子の滞留時間分布を取得し、当該滞留時間分布を時間積分する。すなわち、トレーサー実験シミュレート部12は、排出口におけるマーカー粒子の濃度と、供給口にマーカー粒子を供給し始めてからの経過時間とを対応付けたシミュレーションデータを生成する。
【0147】
(選択率算出装置11における処理の流れ)
次に、選択率算出装置11における処理の流れの一例について、図10を参照しつつ説明する。図10は、選択率算出装置11における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0148】
まず、トレーサー実験シミュレート部12は、ユーザからシミュレーションを行うことを命じる命令を受け付けると、上述したように、反応器91の内部を流れる反応液の空塔速度と同じ空塔速度で、反応器91の容積よりも小さな容積を有する仮想流通器の内部に流体を流しながら、仮想流通器の供給口にトレーサーを供給し、当該仮想流通器のトレーサーを追跡するというというシミュレーションを行い、排出口におけるトレーサーの濃度の経時的変化を示すシミュレーションデータを生成する(S21)。
【0149】
トレーサー実験シミュレート部12は、生成したシミュレーションデータを記憶部7に格納する。
【0150】
軸方向混合係数算出部4は、記憶部7に格納されたシミュレーションデータ、反応器91の空塔速度および仮想流通器の軸方向長さを用いて、滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出する(S22)。
【0151】
これ以降の処理の流れは、選択率算出装置1における処理の流れと同様のため、その説明を省略する。
【0152】
(選択率算出装置11の効果)
以上のように、選択率算出装置11は、シミュレーションを行うことにより、流通器の排出口におけるトレーサーの濃度の経時変化を示すデータを生成する。
【0153】
それゆえ、実際にトレーサーの濃度の経時変化を測定するよりも、短時間で当該データを得ることができるとともに、混合段数および選択率を算出するためのコストを削減することができる。また、シミュレーションを行うことにより、多様な形状の流通器についてのデータを容易に得ることができる。
【0154】
〔実施例〕
本実施例では、実施の形態1に係る選択率算出システム40を用いて混合段数および選択率を算出した例について説明する。
【0155】
模擬装置20の流通器21の容積は0.106m3であり、塔径は0.3mであり、流通器21の断面積は、0.0707m2であり、供給口21aから排出口21bまでの長さ(軸方向長さ)は、1.5mである。これらの数値は、予め記憶部7に格納されている。
【0156】
反応器91の容積は、200m3であり、流通器21の容積(0.106m3)は、反応器91の容積よりも小さい。また、反応器91を流れる反応液の体積流量は、300000kg/hであり、空塔速度は、0.0117m/sである。
【0157】
反応器91では、原料物質Aから、中間生成物Rが生成され、中間生成物Rからさらに最終生成物である副生成物Sが生成される。原料物質Aから中間生成物Rが生成される反応の反応速度定数k1は、0.0002s−1であり、中間生成物Rから副生成物Sが生成される反応の反応速度定数k2は、0.001s−1である。
【0158】
上記空塔速度の値および反応速度定数は、予め求められており、記憶部7に格納されている。
【0159】
(模擬装置20におけるトレーサー濃度の測定)
反応器91の内部を流れる反応液の空塔速度(0.0117m/s)と同じ空塔速度で流体を流通器21の内部に流すために、制御装置30は、49.8L/minの速度で水を供給口21aから供給した。また、制御装置30は、空気を161.9NL/minの速度で供給した。
【0160】
流通器21の内部を流れる水が定常状態に達した後、制御装置30は、トレーサーとして3%(w/w)塩化ナトリウムを、2.3L/minの速度で供給口21aから流通器21内へ供給し始めるとともに、濃度計22に、排出口21bにおける塩化ナトリウムの濃度の測定を開始させた。濃度計22は、塩化ナトリウムの濃度として、排出口21bにおける溶液の電気伝導度を測定した。
【0161】
一定時間電気伝導度の測定を行った後、濃度計22は、測定結果を選択率算出装置1へ送信した。
【0162】
(選択率算出装置1における混合段数および選択率の算出)
入力制御部3は、濃度計22から出力された、塩化ナトリウム濃度の測定結果を取得し、当該測定結果を記憶部7に格納した。
【0163】
次に、軸方向混合係数算出部4は、記憶部7に格納された測定結果、空塔速度および軸方向長さを用いて、下記(23)式における軸方向混合係数Dを最適化した。
【0164】
【数9】
【0165】
この時、軸方向混合係数算出部4は、時間差分として前進差分(オイラー陽解法)を用い、対流項((23)式の左辺の第2項)の拡散化にはQUICK(quadratic upstream interpolation for convective kinematics)を用い、拡散項((23)式の右辺の項)の拡散化には中心差分を用い、軸方向混合係数Dを最適化する手法としてKH法を用いた。最適化された軸方向混合係数Dは、0.00311m2/sであった。
【0166】
前進差分、中心差分およびQUICKについては、「数値流体力学」(越塚誠一、培風館、1997年4月18日発行、p.15、25〜26、35〜36)に記載されている。また、KH法については、「Visual Basicによる数値解析プログラム」(黒田英夫、CQ出版株式会社、2002年4月20日発行、p.233〜235)に記載されている。
【0167】
図11は、実際に測定された、排出口21bにおける塩化ナトリウム濃度の経時変化と、最適化された軸方向混合係数Dを有する滞留時間分布関数が示す塩化ナトリウム濃度の経時変化とを示すグラフである。同図に示すように、測定結果と理論値とがほぼ一致していることが分かる。すなわち、軸方向混合係数Dは、適切に最適化されている。なお、同図に示すグラフの縦軸は、塩化ナトリウム濃度の最大値を「1」とした相対値を示している。
【0168】
軸方向混合係数算出部4は、最適化した軸方向混合係数D(D=0.00311m2/s)を混合段数算出部5へ出力する。
【0169】
混合段数算出部5の第1演算部51は、上記軸方向混合係数D、記憶部7から取得した空塔速度U(U=0.0117m/s)および流通器21の塔径d(d=0.3m)を下記(23)式に代入することによりペクレ数Peを算出した。
【0170】
Pe=Ud/D・・・(23)
第1演算部51は、算出したペクレ数Pe(Pe=1.13)を第2演算部52へ出力した。
【0171】
第2演算部52は、第1演算部51が算出したペクレ数Peを下記(24)式に代入することにより混合段数N(N=1.41)を算出し、算出した混合段数Nを選択率算出部6へ出力した。
【0172】
【数10】
【0173】
選択率算出部6のプロセスシミュレート部61は、混合段数Nを受け取ると、記憶部7に格納された原料物質Aの反応前の濃度CA0(7.65mol/l)、反応速度定数k1(k1=0.0002s−1)および反応速度定数k2(k2=0.001s−1)、および混合段数N(N=1.41)を用いて、原料物質Aの濃度CA(CA=5.61mol/l)および中間生成物Rの濃度CR(CR=0.836mol/l)を算出した。
【0174】
そして、数値演算部62は、原料物質Aの反応前の濃度CA0、プロセスシミュレート部61が求めた原料物質Aの濃度CAおよび中間生成物Rの濃度CRを下記(25)式に代入し、選択率SR(SR=0.409)を算出した。
【0175】
SR=CR/(CA0−CA)・・・(25)
選択率算出部6は、算出した選択率および混合段数を表示制御部9へ出力し、表示制御部9は、表示部10に当該選択率SR(SR=0.409)および混合段数N(N=1.41)を表示した。
【0176】
なお、混合段数が整数ではなく、小数である場合には、小数の混合段数に最も近い、2つの整数の混合段数から算出した2つの選択率を基に、当該小数の混合段数の選択率を算出することができる。例えば、混合段数が「2.5」の場合、混合段数「2」に対応する選択率と、混合段数「3」に対応する選択率とから混合段数「2.5」に対応する選択率を内挿すればよい。また、混合段数「3」の場合の流体の流れの一部を逆流させ、混合量を低下させるという計算を行うことによって、混合段数「2.5」の場合の流体の流れを計算し、その計算結果から混合段数「2.5」の場合の選択率を求めてもよい。
【0177】
〔参考例〕
図12は、混合段数と選択率との関係を示すグラフであり、混合段数を増加させた場合に、選択率がどの様に増加するかを示している。なお、反応速度定数は、上記実施例に示したものと同じものを用いている。
【0178】
同図に示すように、混合段数が増加するにつれて選択率は増加する。しかし、選択率の増加率は、混合段数が1から2に増加した場合に最も増加率が大きく、それ以降増加率は徐々に減少していく。このことから、混合段数をやたらと増加させても選択率は、さほど増加しないため、混合段数を増加させるために要するコストに見合った選択率が得られるよう、適切な混合段数を求めることが重要であることが分かる。
【0179】
(変更例)
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0180】
例えば、入力制御部3、軸方向混合係数算出部4および混合段数算出部5を混合段数算出装置2として、他の機能ブロックと独立した装置として実現してもよい。同様に、選択率算出部6を選択率算出装置として独立した装置として実現してもよい。
【0181】
また、上述の説明では、逐次反応として、A→R、R→Sという2ステップの逐次反応に関する選択率の算出方法について説明したが、3ステップ以上の逐次反応に関して、混合段数から選択率を求めてもよい。
【0182】
また、上述した選択率算出装置1および選択率算出装置11の各ブロック、特に軸方向混合係数算出部4、混合段数算出部5、選択率算出部6、トレーサー実験シミュレート部12は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0183】
すなわち、選択率算出装置1および選択率算出装置11は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである選択率算出装置1および選択率算出装置11の制御プログラム(混合段数プログラム、選択率算出プログラム)のプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記選択率算出装置1および選択率算出装置11に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0184】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0185】
また、選択率算出装置1および選択率算出装置11を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
【産業上の利用可能性】
【0186】
逐次反応における混合段数および選択率を適切に求めることができるため、逐次反応の反応条件を設定するための混合段数算出装置または選択率算出装置として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】本発明の一実施形態に係る選択率算出システムに含まれる選択率算出装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る選択率算出システムの構成を示す概略図である。
【図3】反応装置の構成を示す概略図である。
【図4】トレーサーの濃度の測定結果の一例を示すグラフである。
【図5】軸方向混合係数とトレーサーの濃度の経時変化との関係を示すグラフである。
【図6】(a)は軸方向混合係数Dと、混合段数Nとの関係を示すグラフであり、(b)は軸方向混合係数Dとペクレ数との関係を示すグラフである。
【図7】上記選択率算出装置における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【図8】模擬装置における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【図9】本発明の別の実施形態に係る選択率算出装置の構成を示す概略図である。
【図10】上記選択率算出装置における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【図11】実際に測定された塩化ナトリウム濃度の経時変化と、最適化された軸方向混合係数を有する滞留時間分布関数が示す塩化ナトリウム濃度の経時変化とを示すグラフである。
【図12】混合段数と選択率との関係を示すグラフである。
【図13】逐次反応の一例を示す図である。
【図14】反応率と選択率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0188】
1 選択率算出装置
2 混合段数算出装置
3 入力制御部(トレーサーデータ取得手段)
4 軸方向混合係数算出部(トレーサーデータ取得手段、軸方向混合係数算出手段)
5 混合段数算出部(混合段数算出手段)
6 選択率算出部(選択率算出手段)
11 選択率算出装置
12 トレーサー実験シミュレート部(トレーサーデータ生成手段)
20 模擬装置
21 流通器
21a 供給口
21b 排出口
51 第1演算部(混合段数算出手段)
52 第2演算部(混合段数算出手段)
61 プロセスシミュレート部(選択率算出手段)
62 数値演算部(選択率算出手段)
91 反応器
【技術分野】
【0001】
本発明は、逐次反応を行う反応器を完全混合槽の列としてモデル化した場合の、完全混合槽の数として表される混合段数を算出する混合段数算出装置、混合段数算出方法、混合段数算出プログラム、混合段数算出プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体、および、混合段数から選択率を算出する選択率算出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
反応液を反応器の内部において一方向に流通させ、複数段階の化学反応を当該反応液中で逐次的に生じさせることにより、目的生成物を生成する場合には、反応液の流量等その流し方を適切に調整することが重要である。なぜなら、反応液の流し方によって、生成される目的生成物の量が変化するからである。
【0003】
目的生成物の量が反応液の流し方に左右される理由について、図13に示す逐次反応を例に挙げて説明する。同図に示す逐次反応では、原料物質Aから、目的生成物である中間生成物Rが生成され、中間生成物Rからさらに副生成物Sが生成される。
【0004】
反応液中の原料物質Aのモル濃度をCAとすると、原料物質Aから中間生成物Rへの反応速度r1は下記(1)式で表される。
【0005】
r1=k1CA・・・(1)
上記(1)式において、k1は反応速度定数である。
【0006】
また、反応液中の中間生成物Rのモル濃度をCRとすると、中間生成物Rから副生成物Sへの反応速度r2は下記(2)式で表される。
【0007】
r2=k2CR・・・(2)
上記(2)式において、k2は反応速度定数である。
【0008】
また、原料物質Aの反応率XAを下記(3)式で表す。
【0009】
XA=(CA0−CA)/CA0・・・(3)
上記(3)式において、CA0は、逐次反応が始まる前の原料物質Aのモル濃度である。
【0010】
上記(3)式が示すように、原料物質Aの反応率XAとは、逐次反応により減少した原料物質Aのモル濃度と、逐次反応が始まる前の原料物質Aのモル濃度との比である。
【0011】
また、中間生成物Rの選択率SRを下記(4)式で表す。
【0012】
SR=CR/(CA0−CA)・・・(4)
上記(4)式が示すように、中間生成物Rの選択率SRとは、逐次反応中の中間生成物Rのモル濃度と、反応により減少した原料物質Aのモル濃度との比である。つまり、選択率SRとは、反応した原料物質Aに対して、どれだけの中間生成物Rが生成されたのかを示す値である。さらに換言すれば、選択率SRとは、逐次反応において、反応した原料物質Aに対する、目的生成物Rの割合である。
【0013】
また、上記(2)から、CRの増加に伴いr2は増加し、副生成物Sの生成量が増加する。つまり、反応率XAが増加するにつれて選択率SRは減少する。したがって、上記のような逐次反応を取り扱う場合には、反応率XAを小さく抑えることが好ましい。
【0014】
さらに、反応速度定数k1に対する反応速度定数k2の比(k2/k1)が大きい場合には、反応率XAの値が小さい範囲における、反応率XAの増加に伴う選択率SRの減少率は高くなる。ここで、一例として、k2/k1=5とし、完全混合流れ(CSTR(Continuous Stirred Tank Reactor))状態と、押し出し流れ(PFR(Piston Flow Reactor))状態とを仮定した場合の、反応率XAと選択率SRとの関係を図14に示す。
【0015】
CSTR状態およびPFR状態については、非特許文献1にその説明が記載されている。CSTR状態とは、反応液が反応器に供給されると同時に完全に混合される流れの状態であり、PFR状態とは、反応液が反応器に供給されてから排出されるまで、全く混合されない状態である。
【0016】
CSTR状態の場合の反応率XAと選択率SRとの関係は、下記(6)式で表される。
【0017】
【数1】
【0018】
上記(6)式において、K=k2/k1であり、Kは1ではない。
【0019】
一方、PFR状態の場合の反応率XAと選択率SRとの関係は、下記(7)式で表される。
【0020】
【数2】
【0021】
上記(7)式において、K=k2/k1であり、Kは1ではない。
【0022】
CSTR状態では、反応液の混合が迅速であり、反応液中の各成分の濃度が反応器内で均一になると仮定するため、CSTR状態における選択率SRは、PFR状態における選択率SRよりも常に低くなる。
【0023】
実際の反応器内を流れる反応液の流れは、CSTR状態とPFR状態との間の状態であり、反応率XAが同じでも、反応液の混合の度合いが小さいほど(PFR状態に近づくほど)選択率SRは増加する。
【0024】
選択率SRを増加させることにより、反応した原料物質Aに対する、目的生成物Rの蓄積量の割合を高めることができ、経済的には、原料費、精製費および不純物処理費を節減することができる。したがって、逐次反応を行う場合には、反応液の流れの状態を適切に調整することが重要である。
【0025】
反応液に限らず、流体の流れの状態を表す指標として混合段数(混合槽数)という値が知られている。
【0026】
この混合段数とは、筒状の胴体を有する容器(流通器と称する)の中を一方向に流れる流体が、流通器を流れる間に混合される度合いを示す値であり、上記流通器を、直列に連結された互いに同一体積の複数の完全混合槽にモデル化した場合の、当該完全混合槽の数である。混合段数については、非特許文献1および2にその説明が記載されている。
【0027】
この混合段数が1(最小)の場合が、CSTRの状態であり、混合段数が∞の場合が、PFRの状態である。実際の流通器における流体の流れの状態は、混合段数が1と∞との間の状態にある。
【非特許文献1】橋本健治、「反応工学」、改訂版、培風館、1993年3月20日、p.179−187、195―197
【非特許文献2】Octave Levenspiel, “Chemical reaction engineering”, Fifth printing, USA, John Wiley and Sons, INC., May, 1967 p.261-265
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
上述のように、逐次反応の選択率SRは、反応液の混合度合いがCSTR状態からPFR状態に近づくほど高まるため、逐次反応の選択率SRは、混合段数が大きいほど増加する。
【0029】
ところが、従来の混合段数の評価精度は、必ずしも十分ではない。それゆえ、混合段数から求められる選択率SRは、必ずしも正確なものではないという問題が生じる。
【0030】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、逐次反応における正確な混合段数を求めることができる混合段数算出装置および混合段数算出方法、および正確な選択率を求めることができる選択率算出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記の課題を解決するために、本発明に係る混合段数算出装置は、反応液を内部に一方向に流通させ、複数段階の化学反応を当該反応液中で逐次的に生じさせる筒状の反応器を、互いに等しい体積の複数の完全混合槽が互いに直列に連結されたモデルにモデル化した場合の、上記完全混合槽の数である混合段数を算出する混合段数算出装置であって、上記反応器の流通方向の単位断面積あたりかつ単位時間あたりの流量を液流速度とし、上記反応器の内部を流れる反応液の液流速度と同じ液流速度で、任意の流通器の内部に流体を流しながら、上記流通器の流体の供給口に、流体の流れに追従するトレーサーを供給開始したのちの、上記流通器の流体の排出口における上記トレーサーの濃度の経時的変化を示すトレーサーデータを取得するトレーサーデータ取得手段と、上記トレーサーデータ取得手段が取得したトレーサーデータと、上記液流速度と、流通器の供給口から排出口までの長さとを用いて、上記トレーサーの濃度の経時的変化を近似する滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出する軸方向混合係数算出手段と、上記軸方向混合係数算出手段が算出した軸方向混合係数と、上記液流速度と、上記流通器の塔径とを用いて、上記反応器の混合段数を算出する混合段数算出手段とを備えることを特徴としている。
【0032】
本発明に係る混合段数算出方法は、反応液を内部に一方向に流通させ、複数段階の化学反応を当該反応液中で逐次的に生じさせる筒状の反応器を、互いに等しい体積の複数の完全混合槽が互いに直列に連結されたモデルにモデル化した場合の、上記完全混合槽の数である混合段数を算出する混合段数算出装置における混合段数算出方法であって、上記反応器の流通方向の単位断面積あたりかつ単位時間あたりの流量を液流速度とし、上記反応器の内部を流れる反応液の液流速度と同じ液流速度で、任意の流通器の内部に流体を流しながら、上記流通器の流体の供給口に、流体の流れに追従するトレーサーを供給開始したのちの、上記流通器の流体の排出口における上記トレーサーの濃度の経時的変化を示すトレーサーデータを取得するトレーサーデータ取得工程取得工程と、上記トレーサーデータ取得工程において取得されたトレーサーデータと、上記液流速度と、流通器の供給口から排出口までの長さとを用いて、上記トレーサーの濃度の経時的変化を近似する滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出する軸方向混合係数算出工程と、上記軸方向混合係数算出工程において算出された軸方向混合係数と、上記液流速度と、上記流通器の塔径とを用いて、上記反応器の混合段数を算出する混合段数算出工程とを含むことを特徴としている。
【0033】
上記の構成によれば、トレーサーデータ取得手段は、反応器の内部を流れる反応液の液流速度と同じ液流速度で、任意の流通器の内部に流体を流しながら、流通器の供給口に対してトレーサーの供給を開始した後の、流通器の排出口におけるトレーサーの濃度の経時的変化を示すトレーサーデータを取得する。
【0034】
軸方向混合係数算出手段は、トレーサーデータと、反応器の液流速度と、流通器の供給口から排出口までの長さとを用いて、供給口におけるトレーサーの濃度の経時的変化を近似する滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出する。
【0035】
混合段数算出手段は、軸方向混合係数算出手段が算出した軸方向混合係数と、上記液流速度と、上記流通器の塔径とを用いて、反応器の混合段数を算出する。
【0036】
それゆえ、従来、熟練者の経験および勘に基づいて決められていた混合段数を計算により正確に求めることができる。また、反応器とは異なる流通器の内部に流体を流した場合の実験結果を利用できるため、例えば、反応器よりも小さな容積を有する流通器を用いて得られたトレーサーデータを利用することができ、反応器と同じ大きさの流通器を用いる場合よりも、例えば、流通器を含む実験装置の設置にかかる負荷を低減することができる。それゆえ、混合段数の算出にかかるコストを節約することができる。
【0037】
なお、上記塔径とは、流通器の供給口から排出口へ向かう方向に対して垂直な平面で流通器を切断した場合の当該流通器の断面の直径である。
【0038】
上記混合段数算出装置は、上記トレーサーデータをシミュレーションによって生成するトレーサーデータ生成手段をさらに備え、上記トレーサーデータ取得手段は、上記トレーサーデータ生成手段が生成したトレーサーデータを取得することが好ましい。
【0039】
上記の構成によれば、シミュレーションデータ生成手段は、反応器の内部を流れる反応液の液流速度と同じ液流速度で、反応器とは異なる流通器の内部に流体を流しながら、流通器の供給口にトレーサーを供給し、流通器の排出口におけるトレーサーの濃度の経時変化を測定するというシミュレーションを行うことによりトレーサーデータを生成する。そして、トレーサーデータ取得手段は、トレーサーデータ生成手段が生成したトレーサーデータを取得する。
【0040】
それゆえ、実際に実験を行う場合よりも、短時間でトレーサーデータを得ることができる。また、シミュレーションを行うことにより、反応器とは異なる、多様な形状の流通器についてのトレーサーデータを容易に得ることができる。
【0041】
また、上記軸方向混合係数算出手段は、下記(8)式
【0042】
【数3】
【0043】
(ただし、上記(8)式において、Cはトレーサーの濃度、Uは液流速度、zは流通器の供給口から排出口までの長さ、tは供給口にトレーサーを供給し始めてからの経過時間、Dは軸方向混合係数を意味する)を用いて上記軸方向混合係数を算出することが好ましい。
【0044】
上記の構成により、上記測定結果または上記シミュレーションデータから軸方向混合係数を算出することができる。
【0045】
また、上記混合段数算出手段は、下記(9)式を用いてペクレ数を算出し、
Pe=Ud/D・・・(9)
(ただし、上記(9)式において、Uは液流速度、dは流通器の塔径、Dは軸方向混合係数を意味する)算出したペクレ数を下記(10)式
【0046】
【数4】
【0047】
(ただし、上記(10)式において、Peはペクレ数、Nは混合段数を意味する)に代入することにより上記反応器の混合段数を算出することが好ましい。
【0048】
上記の構成により、軸方向混合係数から反応器の混合段数を算出することができる。
【0049】
本発明に係る選択率算出装置は、上記の課題を解決するために、上記混合段数算出装置を搭載した選択率算出装置であって、上記混合段数算出手段が算出した混合段数に相当する数の上記完全混合槽を直列に連結することにより上記反応器をモデル化し、上記逐次反応において、反応物に対する、目的生成物の割合である選択率を算出する選択率手段を備えることを特徴としている。
【0050】
上記の構成によれば、選択率手段は、混合段数算出手段が算出した混合段数に相当する数の完全混合槽を直列に連結することにより反応器をモデル化し、目的生成物の選択率を算出する。
【0051】
それゆえ、混合段数算出手段が算出した混合段数から選択率を求めることができる。
【0052】
なお、上記混合段数算出装置を動作させるための混合段数算出プログラムであって、コンピュータを上記各手段として機能させるための混合段数算出プログラム、および当該混合段数算出プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も本発明も技術的範囲に含まれる。
【発明の効果】
【0053】
以上のように、本発明に係る混合段数算出装置は、反応器の流通方向の単位断面積あたりかつ単位時間あたりの流量を液流速度とし、上記反応器の内部を流れる反応液の液流速度と同じ液流速度で、任意の流通器の内部に流体を流しながら、上記流通器の流体の供給口に、流体の流れに追従するトレーサーを供給開始したのちの、上記流通器の流体の排出口における上記トレーサーの濃度の経時的変化を示すトレーサーデータを取得するトレーサーデータ取得手段と、上記トレーサーデータ取得手段が取得したトレーサーデータと、上記液流速度と、流通器の供給口から排出口までの長さとを用いて、上記トレーサーの濃度の経時的変化を近似する滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出する軸方向混合係数算出手段と、上記軸方向混合係数算出手段が算出した軸方向混合係数と、上記液流速度と、上記流通器の塔径とを用いて、上記反応器の混合段数を算出する混合段数算出手段とを備える構成である。
【0054】
本発明に係る混合段数算出方法は、反応器の流通方向の単位断面積あたりかつ単位時間あたりの流量を液流速度とし、上記反応器の内部を流れる反応液の液流速度と同じ液流速度で、任意の流通器の内部に流体を流しながら、上記流通器の流体の供給口に、流体の流れに追従するトレーサーを供給開始したのちの、上記流通器の流体の排出口における上記トレーサーの濃度の経時的変化を示すトレーサーデータを取得するトレーサーデータ取得工程と、上記トレーサーデータ取得工程において取得されたトレーサーデータと、上記液流速度と、流通器の供給口から排出口までの長さとを用いて、上記トレーサーの濃度の経時的変化を近似する滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出する軸方向混合係数算出工程と、上記軸方向混合係数算出工程において算出された軸方向混合係数と、上記液流速度と、上記流通器の塔径とを用いて、上記反応器の混合段数を算出する混合段数算出工程とを含む構成である。
【0055】
それゆえ、従来、熟練者の経験および勘に基づいて決められていた混合段数を計算により正確に求めることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
〔実施の形態1〕
本発明の実施の一形態について図1〜図8に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0057】
(選択率算出システム40の構成)
図2は、本実施形態の選択率算出システム40の構成を示す概略図である。同図に示すように、選択率算出システム40は、模擬装置20および選択率算出装置1を含んでいる。この選択率算出システム40は、模擬装置20によって得られた実験結果を用いて、選択率算出装置1において選択率を算出するシステムである。
【0058】
模擬装置20は、流通器21の内部に、トレーサーを含む流体を一方向に流通させ、トレーサーの濃度を測定することにより当該流体の混合状態を調べるための流通装置であり、逐次反応を実際に行う反応装置90を模した流通装置である。
【0059】
(反応装置90の構成)
図3は、反応装置90の構成を示す概略図である。同図に示すように、反応装置90は、円筒形状(または筒状)の胴体を有する反応器(反応塔)91の内部に反応液を一方向に流通させ、複数段階の化学反応を当該反応液中で逐次的に生じさせるものである。逐次反応の初発物質(原料物質)を含む反応液は、供給ポンプ93により、原料供給部95から反応器91の供給口91aに供給される。反応液の体積流量は、流量計94bによって計測される。また、調整弁92bは、反応液の流量を調節するものである。
【0060】
また、反応装置90は、反応器91の内部にガスを供給するガス供給部96などを備えていてもよい。反応器91に供給されるガスの量は流量計94aによって計測され、当該ガスの圧力は、圧力計97によって計測される。また、当該ガスの供給量は、調整弁92aによって調節される。
【0061】
供給口91aに供給された反応液は、全体としては一定の速度で反応器91の内部を流れ、排出口91bから排出される。反応液が流れる液流速度(以下、空塔速度と称する)を、反応器91の単位断面積あたりかつ単位時間あたりの反応液の流量として表現する。すなわち、空塔速度Uは、下記(11)式で表される値である。
【0062】
U=Q/A・・・(11)
上記(11)式において、Qは、反応器91の内部を流れる反応液の体積流量値であり、Aは反応器91の長軸方向(流通方向)(供給口91aから排出口91bへ向かう方向)における断面積である。
【0063】
(模擬装置20の構成)
模擬装置20は、反応装置90が実現する空塔速度と同じ空塔速度で流体を流通器21の内部において流通させることができる。図2に示すように、模擬装置20は、流通器21、濃度計22、調整弁23a〜c、圧力計24、流量計25a〜b、トレーサータンク26、供給ポンプ29および制御装置30を備えている。
【0064】
流通器21は、その内部に流体を流すことができる円筒状(または筒状)の容器であり、流体を供給するための供給口21aと流体を排出するための排出口21bを有している。この流通器21は、反応器91の容積よりも小さな容積を有している。流通器21の容積は、特に限定されず、後述する軸方向混合係数を算出するための実験を行うのに適したものであればよい。
【0065】
なお、流通器21は、反応器91とは異ならないでもよい。すなわち、流通器21は、任意の流通器でよい。しかし、実験にかかる時間および費用を節減するという観点から、流通器21は、反応器91の容積よりも小さな容積を有しているものであることが好ましい。
【0066】
流通器21の内部を流れる流体は、供給ポンプ29により、液相供給部28から流通器21の供給口21aに供給される。模擬装置20の空塔速度は、調整弁23bを調節することにより調節できる。
【0067】
また、流体の体積流量は、流量計25bによって計測できる。
【0068】
トレーサーは、トレーサータンク26から供給され、供給されるトレーサーの量は、調整弁23cによって調節される。トレーサータンク26から流出したトレーサーは、液相供給部28から流出した流体と混合された後、供給口21aから流通器21へ供給される。
【0069】
トレーサーを含む流体は、全体としては一定の速度(空塔速度)で流通器21内を流れ、排出口21bに到達する。排出口21bにおけるトレーサーの濃度は、濃度計22によって測定される。より詳細には、濃度計22は、排出口21bにおけるトレーサー濃度の変化を、供給口21aにトレーサーを供給し始めてからの経過時間と対応付けて測定する。この濃度計22は、排出口21bにおけるトレーサー濃度と、供給口21aにトレーサーを供給し始めてからの経過時間とを対応付けた測定結果を選択率算出装置1へ出力する。
【0070】
なお、濃度計22が取得する測定結果は、時間的に離散した測定値によって構成されているものでよく、時間的に連続した測定値によって構成されているものでなくてもよい。また、厳密には、トレーサーの濃度そのものを測定する必要はなく、トレーサーの濃度に比例して増減する流体の物性の変化(例えば、電気伝導度)を測定すればよい。
【0071】
模擬装置20に供給するトレーサーは、流体の流れに追従し、その存在量が検出できるものであればよく、特に限定されない。トレーサーとして、例えば、色素、電解質物質、放射性同位元素を用いることができる。トレーサーとして色素を用いた場合には、流通器21内を流れる、色素を含む流体を画像として捉え、当該画像を解析することにより色素の濃度を測定してもよい。
【0072】
また、トレーサーを供給する方法として、ある時点で瞬間的にトレーサーを供給するインパルス応答方法を用いてもよいし、ある時点からトレーサーを継続的に供給するステップ応答方法を用いてもよい。また、上述した方法を組み合わせてもよい。
【0073】
本実施形態では、トレーサーとして電解質物質(例えば、塩化ナトリウム)を用い、ステップ応答方法により当該電解質物質を供給する。これは、ステップ応答方法の方が、トレーサー濃度の変化が大きくなるため、トレーサー濃度の変化を測定し易いからである。よって、濃度計22は、電解質物質の濃度(電気伝導度)を測定するものである。
【0074】
図4は、トレーサーの濃度の測定結果の一例を示すグラフである。当該グラフにおいては、縦軸に、排出口21bにおける、トレーサーである塩化ナトリウムの濃度(電気伝導度)が示され、横軸に塩化ナトリウムを供給口21aに供給してからの経過時間が示されている。
【0075】
また、模擬装置20は、流通器21の内部にガスを供給するガス供給部27などを備えていてもよい。流通器21に供給されるガスの量は流量計25aによって計測され、当該ガスの圧力は、圧力計24によって計測される。また、当該ガスの供給量は、調整弁23aによって調節される。
【0076】
(選択率算出装置1の構成)
図1は、選択率算出装置1の構成を示す機能ブロック図である。同図に示すように、選択率算出装置1は、入力制御部(トレーサーデータ取得手段)3、軸方向混合係数算出部(トレーサーデータ取得手段、軸方向混合係数算出手段)4、混合段数算出部(混合段数算出手段)5、選択率算出部(選択率算出手段)6、記憶部7、入力部8、表示制御部9および表示部10を備えている。
【0077】
入力制御部3は、濃度計22から出力された、排出口21bにおけるトレーサー濃度と、供給口21aにトレーサーを供給し始めてからの経過時間とを対応付けた測定結果を取得し、当該測定結果を記憶部7に格納する。図1において、当該測定結果は、測定結果71として図示されている。
【0078】
すなわち、入力制御部3は、反応器91の内部を流れる反応液の空塔速度と同じ空塔速度で流通器21の内部に流体を流しながら、流通器21の供給口21aにトレーサーを供給開始した後に、流通器21の排出口21bにおけるトレーサーの濃度を経時的に測定した測定結果(トレーサーデータ)を取得する。
【0079】
また、入力制御部3は、入力部8を介して、ユーザから、反応装置90の空塔速度、流通器21の供給口21aから排出口21bまでの長さ(以下、軸方向長さと称する)、流通器21の、長軸方向(供給口21aから排出口21bへ向かう方向)に対して垂直な平面で流通器21を切断した場合の、流通器21の断面の直径(以下、塔径と称する)、後述する反応速度定数および原料物質Aの反応前の濃度CA0を取得し、当該値を記憶部7に格納する。
【0080】
入力部8は、ユーザが空塔速度等の値を入力できるものであればよく、例えば、操作キーまたはタッチパネルである。
【0081】
なお、記憶部7は、選択率算出装置1に対して脱着可能なものでもよく、例えば、フラッシュメモリであってもよい。また、上記測定結果が格納された記憶手段をユーザが選択率算出装置1に挿入することにより、軸方向混合係数算出部4が上記測定結果を取得可能となる構成としてもよい。この場合には、軸方向混合係数算出部4が、トレーサーデータ取得手段として機能する。
【0082】
軸方向混合係数算出部4は、記憶部7に格納された測定結果、上記空塔速度および上記軸方向長さを用いて、後述する方法により、トレーサーの濃度の経時的変化を近似する滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出し、算出した軸方向混合係数を混合段数算出部5へ出力する。
【0083】
混合段数算出部5は、軸方向混合係数算出部4から出力された軸方向混合係数、および、記憶部7から取得した空塔速度および流通器21の塔径を用いて、後述する方法により、反応器91の混合段数を算出し、算出した混合段数を選択率算出部6へ出力する。反応器91の混合段数とは、反応器91を、等しい体積の複数の完全混合槽が直列に連結されたモデルにモデル化した場合の、上記完全混合槽の数である。
【0084】
選択率算出部6は、混合段数算出部5が算出した混合段数に相当する数の完全混合槽を直列に連結することにより反応器91をモデル化し、逐次反応において、反応物に対する目的生成物の割合である選択率選択率を算出する。選択率算出部6における選択率の算出方法については後述する。
【0085】
選択率算出部6が算出した選択率は、表示制御部9へ出力され、表示制御部9は、表示部10を制御することにより当該選択率を表示する。なお、選択率は、プリンタによって紙に印刷されてもよいし、通信回線を介して他の装置へ送信されてもよい。
【0086】
(軸方向混合係数算出部4における軸方向混合係数の算出方法)
排出口21bにおけるトレーサーの濃度変化は、下記(12)式でモデル化することができる。
【0087】
【数5】
【0088】
ただし、上記(12)式において、Cはトレーサーの濃度、Uは空塔速度、zは軸方向長さ、tは供給口21aにトレーサーを供給し始めてからの経過時間、Dは軸方向混合係数を意味する。
【0089】
換言すれば、上記(12)式を用いて軸方向混合係数を算出できる。軸方向混合係数算出部4は、記憶部7に格納された測定結果、空塔速度および軸方向長さを用いて、トレーサーの濃度の時間変化が、測定結果と一致する軸方向混合係数を試行錯誤的に求める。すなわち、軸方向混合係数算出部4は、軸方向混合係数を最適化する。
【0090】
図5は、軸方向混合係数と、トレーサーの濃度の経時変化との関係を示すグラフである。同図に示すように、軸方向混合係数Dが0の場合は、流通器21内の流体の混合が全く起こらないことを意味しており、空塔速度と同じ速度で全てのトレーサーが排出口21bに到達する。このような流れをプラグフローとも称する。軸方向混合係数Dが0の場合は、トレーサーの平均滞留時間は、軸方向長さを空塔速度で割った時間と等しくなる。
【0091】
一方、軸方向混合係数Dが大きくなると、排出口21bにおけるトレーサーの濃度は、軸方向混合係数Dが0の場合の平均滞留時間よりも早い時点からゆっくりと増加する。
【0092】
このように、軸方向混合係数は、トレーサーの濃度の経時的変化を示すグラフのカーブと近似したカーブを描く滞留時間分布関数を規定するものであり、この軸方向混合係数を求めることにより、流通器21を流れる流体の混合状態を知ることができる。
【0093】
(混合段数算出部5における混合段数の算出方法)
混合段数は、非特許文献2に記載されているように、下記(13)式から求めることができる。
【0094】
【数6】
【0095】
上記(13)式において、Peは、ペクレ数であり、下記(14)式によって定義される値である。
【0096】
Pe=Ud/D・・・(14)
上記(14)式において、dは流通器21の塔径であり、Dは軸方向混合係数であり、Uは模擬装置20の空塔速度である。空塔速度Uは、下記(15)式で表される値である。
【0097】
U=Q/A・・・(15)
上記(15)式において、Qは流通器21の内部を流れる流体の体積流量であり、Aは流通器21の長軸方向における断面積である。
【0098】
ただし、模擬装置20の空塔速度は、反応装置90の空塔速度と同じ速度に設定されているため、模擬装置20の空塔速度として、記憶部7に格納された、反応装置90の空塔速度を用いればよい。
【0099】
図1に示すように、混合段数算出部5は、第1演算部51および第2演算部52を備えている。
【0100】
第1演算部51は、軸方向混合係数算出部4が算出した軸方向混合係数D、、記憶部7から取得した空塔速度Uおよび流通器21の塔径dを上記(14)式に代入することによりペクレ数Peを算出する。第1演算部51は、算出したペクレ数を第2演算部52へ出力する。
【0101】
第2演算部52は、第1演算部51が算出したペクレ数を上記(13)式に代入することにより混合段数Nを算出し、算出した混合段数Nを選択率算出部6へ出力する。
【0102】
(軸方向混合係数と混合段数との関係)
図6(a)は、U=0.0117m/s、d=0.3mの時の、軸方向混合係数Dと、混合段数Nとの関係を示すグラフであり、図6(b)は、軸方向混合係数Dと、ペクレ数との関係を示すグラフである。同図(a)に示すように、軸方向混合係数Dが0.002までは、軸方向混合係数Dの増加に伴い混合段数Nが急激に低下し、軸方向混合係数Dが0.002以上になると、混合段数Nは穏やかに1に収束する。同図(b)に示すように、軸方向混合係数Dが0.001〜0.1の範囲は、ペクレ数Peに換算すると、およそ0.005〜10に相当する。
【0103】
(選択率算出部6における選択率の算出方法)
図1に示すように、選択率算出部6は、プロセスシミュレート部61および数値演算部62を備えている。
【0104】
プロセスシミュレート部61は、第2演算部52が算出した混合段数および記憶部7に格納された反応速度定数を用いて、所定の逐次反応が起こった後の、原料物質の濃度、中間生成物(目的生成物)および最終生成物の濃度をそれぞれ算出する。本実施形態では、図13に示すように、原料物質Aから、中間生成物Rが生成され、中間生成物Rからさらに副生成物S(最終生成物)が生成される、2段階の逐次反応を想定して、プロセスシミュレート部61の処理について説明する。
【0105】
プロセスシミュレート部61が用いる反応速度定数は、原料物質Aから中間生成物Rが生成される反応の反応速度定数k1、および中間生成物Rから副生成物Sがされる反応の反応速度定数k2である。
【0106】
つまり、プロセスシミュレート部61は、反応速度定数k1で初期濃度CA0の原料物質Aから中間生成物Rが生成され、反応速度定数k2で中間生成物Rから副生成物Sがされた場合の、原料物質Aの濃度CAおよび中間生成物Rの濃度CRを、原料物質Aの反応前の濃度CA0、反応速度定数k1、反応速度定数k2および第2演算部52が算出した混合段数Nを用いて算出する。
【0107】
換言すれば、プロセスシミュレート部61は、図13に示す逐次反応が、直列に連結されたN個の完全混合槽において段階的に起こった場合の、最後(N番目)の完全混合層における原料物質Aの濃度CAおよび中間生成物Rの濃度CRを算出する。
【0108】
数値演算部62は、記憶部7に格納された原料物質Aの反応前の濃度CA0、プロセスシミュレート部61が求めた原料物質Aの濃度CAおよび中間生成物Rの濃度CRを下記(16)式に代入し、選択率SRを算出する。
【0109】
SR=CR/(CA0−CA)・・・(16)
数値演算部62は、算出した選択率SRを表示制御部9へ出力する。
【0110】
(選択率算出装置1における処理の流れ)
次に選択率算出装置1における処理の流れの一例について、図7を参照しつつ説明する。図7は、選択率算出装置1における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0111】
まず、入力制御部3は、濃度計22から出力された、トレーサー濃度の経時変化の測定結果を取得し、当該測定結果を記憶部7に格納する(S1)。
【0112】
また、入力制御部3は、入力部8を介して、反応装置90の空塔速度、流通器21の軸方向長さ、流通器21の塔径、反応速度定数k1および反応速度定数k2を取得し、当該値を記憶部7に格納する。なお、これらの値は、予め記憶部7に格納されていてもよい。
【0113】
次に、軸方向混合係数算出部4は、記憶部7に格納された測定結果、空塔速度および軸方向長さを用いて、下記(17)式における軸方向混合係数Dを最適化する(S2)。
【0114】
【数7】
【0115】
軸方向混合係数算出部4は、最適化した軸方向混合係数を混合段数算出部5へ出力する。なお、このとき軸方向混合係数算出部4は、最適化した軸方向混合係数を記憶部7に格納してもよい。
【0116】
混合段数算出部5の第1演算部51は、軸方向混合係数を受け取ると、当該軸方向混合係数D、記憶部7から取得した空塔速度Uおよび流通器21の塔径dを下記(18)式に代入することによりペクレ数Peを算出する(S3)。
【0117】
Pe=Ud/D・・・(18)
第1演算部51は、算出したペクレ数Peを第2演算部52へ出力する。
【0118】
第2演算部52は、第1演算部51が算出したペクレ数Peを下記(19)式に代入することにより混合段数Nを算出し、算出した混合段数Nを選択率算出部6へ出力する(S4)。なお、このとき第2演算部52は、算出した混合段数を記憶部7に格納してもよい。
【0119】
【数8】
【0120】
選択率算出部6のプロセスシミュレート部61は、混合段数Nを受け取ると、反応速度定数k1で初期濃度CA0の原料物質Aから中間生成物Rが生成され、反応速度定数k2で中間生成物Rから副生成物Sがされた場合の、原料物質Aの濃度CAおよび中間生成物Rの濃度CRを、記憶部7に格納された反応速度定数k1および反応速度定数k2、および上記混合段数Nを用いて算出する(S5)。
【0121】
数値演算部62は、記憶部7に格納された原料物質Aの反応前の濃度CA0、プロセスシミュレート部61が求めた原料物質Aの濃度CAおよび中間生成物Rの濃度CRを下記(20)式に代入し、選択率SRを算出する。
【0122】
SR=CR/(CA0−CA)・・・(20)
選択率算出部6は、算出した選択率を表示制御部9へ出力し、表示制御部9は、表示部10を制御することにより当該選択率を表示する(S7)。
【0123】
なお、選択率算出部6は、選択率とともに混合段数を表示制御部9へ出力し、表示制御部9は、表示部10を制御することにより当該選択率および混合段数を表示してもよい。
【0124】
(模擬装置20における処理の流れ)
次に、模擬装置20がトレーサー濃度の測定を行う時の処理の流れの一例について、図8を参照しつつ説明する。図8は、模擬装置20における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0125】
まず、供給ポンプ29は、制御装置30の制御下で、流通器21の内部に流体(例えば、水)を供給する。制御装置30は、調整弁23bを調整することにより、流通器21の供給口21aから排出口21bまで当該流体が、反応器91の内部を流れる反応液の空塔速度と同じ空塔速度で流れるように当該流体の空塔速度を調節する(S11)。
【0126】
そして、供給ポンプ29は、流体の流動状態が定常状態になるまで、流体を上記空塔速度で流す(S12)。
【0127】
その後、制御装置30は、調整弁23cを開けることによりトレーサータンク26からトレーサー(例えば、塩化ナトリウム)を流出させ、供給口21aから流通器21内へ当該トレーサーを供給し始めるとともに、濃度計22に、排出口21bにおけるトレーサーの濃度の測定を開始させる(S13)。
【0128】
一定時間トレーサーの濃度の測定を行った後、濃度計22は、測定結果を選択率算出装置1へ送信する(S14)。
【0129】
(選択率算出システム40の効果)
以上のように、選択率算出システム40では、反応装置90と同じ大きさの装置を用いずに、反応器91の容積よりも小さな容積を有する流通器21を備える模擬装置20を用いて、反応装置90が備える反応器91の内部を流れる反応液の空塔速度と同じ空塔速度で、流通器21の内部に流体を流すことにより、反応器91の内部を流れる反応液の混合状態を再現する。
【0130】
そして、流通器21の内部に流体を流しながら、供給口21aからトレーサーを供給し、排出口21bにおけるトレーサーの濃度を濃度計22によって経時的に測定する。
【0131】
それゆえ、反応装置90と同じ大きさの装置を用いる場合よりも短時間でかつより少ない費用で反応器91の内部を流れる反応液の混合状態を調べることができる。
【0132】
さらに、選択率算出装置1は、トレーサーの濃度の測定結果等を用いて、反応器91の混合段数および選択率を算出する。それゆえ、従来、経験によって求められていた混合段数を正確に算出することができ、その結果、正確な選択率を算出することができる。
【0133】
複数段階の反応が起こる逐次反応の場合には、選択率を推定する上で混合段数を正確に見積もることが求められる。それゆえ、本発明は、逐次反応における混合段数を求める場合に、特に有意義である。
【0134】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施形態について図9〜図10に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、実施の形態1と同様の部材に関しては、同じ符号を付し、その説明を省略する。本実施形態の選択率算出装置11は、「反応器91の内部を流れる反応液の空塔速度と同じ空塔速度で、反応器91の容積よりも小さな容積を有する流通器の内部に流体を流しながら、流通器が有する、流体の供給口にトレーサーを供給し、流通器が有する、流体の排出口におけるトレーサーの濃度を経時的に測定した結果」をシミュレーションにより生成するものである。
【0135】
図9は、本実施形態の選択率算出装置11の構成を示す概略図である。同図に示すように、選択率算出装置11は、選択率算出装置1とは異なり、トレーサー実験シミュレート部(トレーサーデータ生成手段)12を備えている。
【0136】
トレーサー実験シミュレート部12は、反応器91の内部を流れる反応液の空塔速度と同じ空塔速度で、反応器91の容積よりも小さな容積を有する仮想的な流通器(以下、仮想流通器と称する)の内部に流体を流しながら、仮想流通器が有する、流体の供給口にトレーサーを供給し、仮想流通器内を移動するトレーサーを追跡するというシミュレーションを行い、当該仮想流通器が有する、流体の排出口におけるトレーサーの濃度の経時的変化を示すシミュレーションデータ(トレーサーデータ)を生成する。
【0137】
トレーサー実験シミュレート部12は、生成したシミュレーションデータを記憶部7に格納する。図9において、当該シミュレーションデータは、シミュレーションデータ72として図示されている。
【0138】
軸方向混合係数算出部4は、記憶部7に格納されたシミュレーションデータ、反応器91の空塔速度および仮想流通器の軸方向長さを用いて、上述した方法により、滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出する。本実施形態における軸方向混合係数の算出方法は、実施の形態1における軸方向混合係数の算出方法と本質的に同様であるため、その説明を省略する。
【0139】
なお、仮想流通器の軸方向長さ、反応装置90の空塔速度、仮想流通器の塔径、反応速度定数および原料物質Aの反応前の濃度CA0は、入力部8を介してユーザによって入力され、記憶部7に格納される。
【0140】
(トレーサー実験シミュレート部12におけるシミュレーションデータ生成方法)
トレーサー実験シミュレート部12におけるシミュレーション(以下、本シミュレーションと称する)に用いる、仮想流通器の内部を流れる流体の流動解析を行うためのモデルは、どのようなものであってもよい。当該モデルとして、例えば、混相流を取り扱う多流体モデルを用いることができる。このような多流体モデルは、市販のソフトにも多く採用されている。
【0141】
トレーサー実験シミュレート部12として利用可能な市販ソフトとしては、例えば、FLUENT(商品名)、ANSYS-CFX(商品名)を挙げることができる。
【0142】
本シミュレーションにおいては、トレーサーに相当するマーカー粒子を、仮想流通器の供給口から連続的に供給し、マーカー粒子を連続相の流れに完全に追従させ、個々のマーカー粒子の、仮想流通器内の滞留時間を測定する。この時、仮想流通器の内部を流れる流体の空塔速度は、反応器91の内部を流れる反応液の空塔速度と同じものに設定する。
【0143】
このようなシミュレーションをトレーサー実験シミュレート部12が行い、各マーカー粒子の、仮想流通器内の滞留時間を測定した測定結果(シミュレーションデータ)を得る。
【0144】
より具体的には、トレーサー実験シミュレート部12は、マーカー粒子の位置情報xpと滞留時間Spとを下記(21)式および(22)式を用いて算出する。
【0145】
dxp/dt=Vc・・・(21)
dSp/dt=1・・・(22)
上記(21)式および(22)式において、tは、マーカー粒子を仮想流通器の供給口から供給し始めてからの経過時間であり、Vcは、反応器91の内部を流れる反応液の空塔速度である。
【0146】
トレーサー実験シミュレート部12は、仮想流通器の排出口においてマーカー粒子をサンプリングし、マーカー粒子の滞留時間分布を取得し、当該滞留時間分布を時間積分する。すなわち、トレーサー実験シミュレート部12は、排出口におけるマーカー粒子の濃度と、供給口にマーカー粒子を供給し始めてからの経過時間とを対応付けたシミュレーションデータを生成する。
【0147】
(選択率算出装置11における処理の流れ)
次に、選択率算出装置11における処理の流れの一例について、図10を参照しつつ説明する。図10は、選択率算出装置11における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0148】
まず、トレーサー実験シミュレート部12は、ユーザからシミュレーションを行うことを命じる命令を受け付けると、上述したように、反応器91の内部を流れる反応液の空塔速度と同じ空塔速度で、反応器91の容積よりも小さな容積を有する仮想流通器の内部に流体を流しながら、仮想流通器の供給口にトレーサーを供給し、当該仮想流通器のトレーサーを追跡するというというシミュレーションを行い、排出口におけるトレーサーの濃度の経時的変化を示すシミュレーションデータを生成する(S21)。
【0149】
トレーサー実験シミュレート部12は、生成したシミュレーションデータを記憶部7に格納する。
【0150】
軸方向混合係数算出部4は、記憶部7に格納されたシミュレーションデータ、反応器91の空塔速度および仮想流通器の軸方向長さを用いて、滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出する(S22)。
【0151】
これ以降の処理の流れは、選択率算出装置1における処理の流れと同様のため、その説明を省略する。
【0152】
(選択率算出装置11の効果)
以上のように、選択率算出装置11は、シミュレーションを行うことにより、流通器の排出口におけるトレーサーの濃度の経時変化を示すデータを生成する。
【0153】
それゆえ、実際にトレーサーの濃度の経時変化を測定するよりも、短時間で当該データを得ることができるとともに、混合段数および選択率を算出するためのコストを削減することができる。また、シミュレーションを行うことにより、多様な形状の流通器についてのデータを容易に得ることができる。
【0154】
〔実施例〕
本実施例では、実施の形態1に係る選択率算出システム40を用いて混合段数および選択率を算出した例について説明する。
【0155】
模擬装置20の流通器21の容積は0.106m3であり、塔径は0.3mであり、流通器21の断面積は、0.0707m2であり、供給口21aから排出口21bまでの長さ(軸方向長さ)は、1.5mである。これらの数値は、予め記憶部7に格納されている。
【0156】
反応器91の容積は、200m3であり、流通器21の容積(0.106m3)は、反応器91の容積よりも小さい。また、反応器91を流れる反応液の体積流量は、300000kg/hであり、空塔速度は、0.0117m/sである。
【0157】
反応器91では、原料物質Aから、中間生成物Rが生成され、中間生成物Rからさらに最終生成物である副生成物Sが生成される。原料物質Aから中間生成物Rが生成される反応の反応速度定数k1は、0.0002s−1であり、中間生成物Rから副生成物Sが生成される反応の反応速度定数k2は、0.001s−1である。
【0158】
上記空塔速度の値および反応速度定数は、予め求められており、記憶部7に格納されている。
【0159】
(模擬装置20におけるトレーサー濃度の測定)
反応器91の内部を流れる反応液の空塔速度(0.0117m/s)と同じ空塔速度で流体を流通器21の内部に流すために、制御装置30は、49.8L/minの速度で水を供給口21aから供給した。また、制御装置30は、空気を161.9NL/minの速度で供給した。
【0160】
流通器21の内部を流れる水が定常状態に達した後、制御装置30は、トレーサーとして3%(w/w)塩化ナトリウムを、2.3L/minの速度で供給口21aから流通器21内へ供給し始めるとともに、濃度計22に、排出口21bにおける塩化ナトリウムの濃度の測定を開始させた。濃度計22は、塩化ナトリウムの濃度として、排出口21bにおける溶液の電気伝導度を測定した。
【0161】
一定時間電気伝導度の測定を行った後、濃度計22は、測定結果を選択率算出装置1へ送信した。
【0162】
(選択率算出装置1における混合段数および選択率の算出)
入力制御部3は、濃度計22から出力された、塩化ナトリウム濃度の測定結果を取得し、当該測定結果を記憶部7に格納した。
【0163】
次に、軸方向混合係数算出部4は、記憶部7に格納された測定結果、空塔速度および軸方向長さを用いて、下記(23)式における軸方向混合係数Dを最適化した。
【0164】
【数9】
【0165】
この時、軸方向混合係数算出部4は、時間差分として前進差分(オイラー陽解法)を用い、対流項((23)式の左辺の第2項)の拡散化にはQUICK(quadratic upstream interpolation for convective kinematics)を用い、拡散項((23)式の右辺の項)の拡散化には中心差分を用い、軸方向混合係数Dを最適化する手法としてKH法を用いた。最適化された軸方向混合係数Dは、0.00311m2/sであった。
【0166】
前進差分、中心差分およびQUICKについては、「数値流体力学」(越塚誠一、培風館、1997年4月18日発行、p.15、25〜26、35〜36)に記載されている。また、KH法については、「Visual Basicによる数値解析プログラム」(黒田英夫、CQ出版株式会社、2002年4月20日発行、p.233〜235)に記載されている。
【0167】
図11は、実際に測定された、排出口21bにおける塩化ナトリウム濃度の経時変化と、最適化された軸方向混合係数Dを有する滞留時間分布関数が示す塩化ナトリウム濃度の経時変化とを示すグラフである。同図に示すように、測定結果と理論値とがほぼ一致していることが分かる。すなわち、軸方向混合係数Dは、適切に最適化されている。なお、同図に示すグラフの縦軸は、塩化ナトリウム濃度の最大値を「1」とした相対値を示している。
【0168】
軸方向混合係数算出部4は、最適化した軸方向混合係数D(D=0.00311m2/s)を混合段数算出部5へ出力する。
【0169】
混合段数算出部5の第1演算部51は、上記軸方向混合係数D、記憶部7から取得した空塔速度U(U=0.0117m/s)および流通器21の塔径d(d=0.3m)を下記(23)式に代入することによりペクレ数Peを算出した。
【0170】
Pe=Ud/D・・・(23)
第1演算部51は、算出したペクレ数Pe(Pe=1.13)を第2演算部52へ出力した。
【0171】
第2演算部52は、第1演算部51が算出したペクレ数Peを下記(24)式に代入することにより混合段数N(N=1.41)を算出し、算出した混合段数Nを選択率算出部6へ出力した。
【0172】
【数10】
【0173】
選択率算出部6のプロセスシミュレート部61は、混合段数Nを受け取ると、記憶部7に格納された原料物質Aの反応前の濃度CA0(7.65mol/l)、反応速度定数k1(k1=0.0002s−1)および反応速度定数k2(k2=0.001s−1)、および混合段数N(N=1.41)を用いて、原料物質Aの濃度CA(CA=5.61mol/l)および中間生成物Rの濃度CR(CR=0.836mol/l)を算出した。
【0174】
そして、数値演算部62は、原料物質Aの反応前の濃度CA0、プロセスシミュレート部61が求めた原料物質Aの濃度CAおよび中間生成物Rの濃度CRを下記(25)式に代入し、選択率SR(SR=0.409)を算出した。
【0175】
SR=CR/(CA0−CA)・・・(25)
選択率算出部6は、算出した選択率および混合段数を表示制御部9へ出力し、表示制御部9は、表示部10に当該選択率SR(SR=0.409)および混合段数N(N=1.41)を表示した。
【0176】
なお、混合段数が整数ではなく、小数である場合には、小数の混合段数に最も近い、2つの整数の混合段数から算出した2つの選択率を基に、当該小数の混合段数の選択率を算出することができる。例えば、混合段数が「2.5」の場合、混合段数「2」に対応する選択率と、混合段数「3」に対応する選択率とから混合段数「2.5」に対応する選択率を内挿すればよい。また、混合段数「3」の場合の流体の流れの一部を逆流させ、混合量を低下させるという計算を行うことによって、混合段数「2.5」の場合の流体の流れを計算し、その計算結果から混合段数「2.5」の場合の選択率を求めてもよい。
【0177】
〔参考例〕
図12は、混合段数と選択率との関係を示すグラフであり、混合段数を増加させた場合に、選択率がどの様に増加するかを示している。なお、反応速度定数は、上記実施例に示したものと同じものを用いている。
【0178】
同図に示すように、混合段数が増加するにつれて選択率は増加する。しかし、選択率の増加率は、混合段数が1から2に増加した場合に最も増加率が大きく、それ以降増加率は徐々に減少していく。このことから、混合段数をやたらと増加させても選択率は、さほど増加しないため、混合段数を増加させるために要するコストに見合った選択率が得られるよう、適切な混合段数を求めることが重要であることが分かる。
【0179】
(変更例)
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0180】
例えば、入力制御部3、軸方向混合係数算出部4および混合段数算出部5を混合段数算出装置2として、他の機能ブロックと独立した装置として実現してもよい。同様に、選択率算出部6を選択率算出装置として独立した装置として実現してもよい。
【0181】
また、上述の説明では、逐次反応として、A→R、R→Sという2ステップの逐次反応に関する選択率の算出方法について説明したが、3ステップ以上の逐次反応に関して、混合段数から選択率を求めてもよい。
【0182】
また、上述した選択率算出装置1および選択率算出装置11の各ブロック、特に軸方向混合係数算出部4、混合段数算出部5、選択率算出部6、トレーサー実験シミュレート部12は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0183】
すなわち、選択率算出装置1および選択率算出装置11は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである選択率算出装置1および選択率算出装置11の制御プログラム(混合段数プログラム、選択率算出プログラム)のプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記選択率算出装置1および選択率算出装置11に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0184】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0185】
また、選択率算出装置1および選択率算出装置11を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
【産業上の利用可能性】
【0186】
逐次反応における混合段数および選択率を適切に求めることができるため、逐次反応の反応条件を設定するための混合段数算出装置または選択率算出装置として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】本発明の一実施形態に係る選択率算出システムに含まれる選択率算出装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る選択率算出システムの構成を示す概略図である。
【図3】反応装置の構成を示す概略図である。
【図4】トレーサーの濃度の測定結果の一例を示すグラフである。
【図5】軸方向混合係数とトレーサーの濃度の経時変化との関係を示すグラフである。
【図6】(a)は軸方向混合係数Dと、混合段数Nとの関係を示すグラフであり、(b)は軸方向混合係数Dとペクレ数との関係を示すグラフである。
【図7】上記選択率算出装置における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【図8】模擬装置における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【図9】本発明の別の実施形態に係る選択率算出装置の構成を示す概略図である。
【図10】上記選択率算出装置における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【図11】実際に測定された塩化ナトリウム濃度の経時変化と、最適化された軸方向混合係数を有する滞留時間分布関数が示す塩化ナトリウム濃度の経時変化とを示すグラフである。
【図12】混合段数と選択率との関係を示すグラフである。
【図13】逐次反応の一例を示す図である。
【図14】反応率と選択率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0188】
1 選択率算出装置
2 混合段数算出装置
3 入力制御部(トレーサーデータ取得手段)
4 軸方向混合係数算出部(トレーサーデータ取得手段、軸方向混合係数算出手段)
5 混合段数算出部(混合段数算出手段)
6 選択率算出部(選択率算出手段)
11 選択率算出装置
12 トレーサー実験シミュレート部(トレーサーデータ生成手段)
20 模擬装置
21 流通器
21a 供給口
21b 排出口
51 第1演算部(混合段数算出手段)
52 第2演算部(混合段数算出手段)
61 プロセスシミュレート部(選択率算出手段)
62 数値演算部(選択率算出手段)
91 反応器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応液を内部に一方向に流通させ、複数段階の化学反応を当該反応液中で逐次的に生じさせる筒状の反応器を、互いに等しい体積の複数の完全混合槽が互いに直列に連結されたモデルにモデル化した場合の、上記完全混合槽の数である混合段数を算出する混合段数算出装置であって、
上記反応器の流通方向の単位断面積あたりかつ単位時間あたりの流量を液流速度とし、上記反応器の内部を流れる反応液の液流速度と同じ液流速度で、任意の流通器の内部に流体を流しながら、上記流通器の流体の供給口に、流体の流れに追従するトレーサーを供給開始したのちの、上記流通器の流体の排出口における上記トレーサーの濃度の経時的変化を示すトレーサーデータを取得するトレーサーデータ取得手段と、
上記トレーサーデータ取得手段が取得したトレーサーデータと、上記液流速度と、流通器の供給口から排出口までの長さとを用いて、上記トレーサーの濃度の経時的変化を近似する滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出する軸方向混合係数算出手段と、
上記軸方向混合係数算出手段が算出した軸方向混合係数と、上記液流速度と、上記流通器の塔径とを用いて、上記反応器の混合段数を算出する混合段数算出手段とを備えることを特徴とする混合段数算出装置。
【請求項2】
上記トレーサーデータをシミュレーションによって生成するトレーサーデータ生成手段をさらに備え、
上記トレーサーデータ取得手段は、上記トレーサーデータ生成手段が生成したトレーサーデータを取得することを特徴とする請求項1に記載の混合段数算出装置。
【請求項3】
上記軸方向混合係数算出手段は、下記(1)式
【数1】
(ただし、上記(1)式において、Cはトレーサーの濃度、Uは液流速度、zは供給口から排出口までの長さ、tは供給口にトレーサーを供給し始めてからの経過時間、Dは軸方向混合係数を意味する)
を用いて上記軸方向混合係数を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の混合段数算出装置。
【請求項4】
上記混合段数算出手段は、下記(2)式を用いてペクレ数を算出し、
Pe=Ud/D・・・(2)
(ただし、上記(2)式において、Uは液流速度、dは流通器の塔径、Dは軸方向混合係数を意味する)
算出したペクレ数を下記(3)式
【数2】
(ただし、上記(3)式において、Peはペクレ数、Nは混合段数を意味する)
に代入することにより上記反応器の混合段数を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の混合段数算出装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の混合段数算出装置を動作させるための混合段数算出プログラムであって、コンピュータを上記各手段として機能させるための混合段数算出プログラム。
【請求項6】
請求項5に記載の混合段数算出プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の混合段数算出装置を搭載した選択率算出装置であって、
上記混合段数算出手段が算出した混合段数に相当する数の上記完全混合槽を直列に連結することにより上記反応器をモデル化し、上記逐次反応において、反応物に対する、目的生成物の割合である選択率を算出する選択率手段を備えることを特徴とする選択率算出装置。
【請求項8】
反応液を内部に一方向に流通させ、複数段階の化学反応を当該反応液中で逐次的に生じさせる筒状の反応器を、互いに等しい体積の複数の完全混合槽が互いに直列に連結されたモデルにモデル化した場合の、上記完全混合槽の数である混合段数を算出する混合段数算出装置における混合段数算出方法であって、
上記反応器の流通方向の単位断面積あたりかつ単位時間あたりの流量を液流速度とし、上記反応器の内部を流れる反応液の液流速度と同じ液流速度で、任意の流通器の内部に流体を流しながら、上記流通器の流体の供給口に、流体の流れに追従するトレーサーを供給開始したのちの、上記流通器の流体の排出口における上記トレーサーの濃度の経時的変化を示すトレーサーデータを取得するトレーサーデータ取得工程と、
上記トレーサーデータ取得工程において取得されたトレーサーデータと、上記液流速度と、流通器の供給口から排出口までの長さとを用いて、上記トレーサーの濃度の経時的変化を近似する滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出する軸方向混合係数算出工程と、
上記軸方向混合係数算出工程において算出された軸方向混合係数と、上記液流速度と、上記流通器の塔径とを用いて、上記反応器の混合段数を算出する混合段数算出工程とを含むことを特徴とする混合段数算出方法。
【請求項1】
反応液を内部に一方向に流通させ、複数段階の化学反応を当該反応液中で逐次的に生じさせる筒状の反応器を、互いに等しい体積の複数の完全混合槽が互いに直列に連結されたモデルにモデル化した場合の、上記完全混合槽の数である混合段数を算出する混合段数算出装置であって、
上記反応器の流通方向の単位断面積あたりかつ単位時間あたりの流量を液流速度とし、上記反応器の内部を流れる反応液の液流速度と同じ液流速度で、任意の流通器の内部に流体を流しながら、上記流通器の流体の供給口に、流体の流れに追従するトレーサーを供給開始したのちの、上記流通器の流体の排出口における上記トレーサーの濃度の経時的変化を示すトレーサーデータを取得するトレーサーデータ取得手段と、
上記トレーサーデータ取得手段が取得したトレーサーデータと、上記液流速度と、流通器の供給口から排出口までの長さとを用いて、上記トレーサーの濃度の経時的変化を近似する滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出する軸方向混合係数算出手段と、
上記軸方向混合係数算出手段が算出した軸方向混合係数と、上記液流速度と、上記流通器の塔径とを用いて、上記反応器の混合段数を算出する混合段数算出手段とを備えることを特徴とする混合段数算出装置。
【請求項2】
上記トレーサーデータをシミュレーションによって生成するトレーサーデータ生成手段をさらに備え、
上記トレーサーデータ取得手段は、上記トレーサーデータ生成手段が生成したトレーサーデータを取得することを特徴とする請求項1に記載の混合段数算出装置。
【請求項3】
上記軸方向混合係数算出手段は、下記(1)式
【数1】
(ただし、上記(1)式において、Cはトレーサーの濃度、Uは液流速度、zは供給口から排出口までの長さ、tは供給口にトレーサーを供給し始めてからの経過時間、Dは軸方向混合係数を意味する)
を用いて上記軸方向混合係数を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の混合段数算出装置。
【請求項4】
上記混合段数算出手段は、下記(2)式を用いてペクレ数を算出し、
Pe=Ud/D・・・(2)
(ただし、上記(2)式において、Uは液流速度、dは流通器の塔径、Dは軸方向混合係数を意味する)
算出したペクレ数を下記(3)式
【数2】
(ただし、上記(3)式において、Peはペクレ数、Nは混合段数を意味する)
に代入することにより上記反応器の混合段数を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の混合段数算出装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の混合段数算出装置を動作させるための混合段数算出プログラムであって、コンピュータを上記各手段として機能させるための混合段数算出プログラム。
【請求項6】
請求項5に記載の混合段数算出プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の混合段数算出装置を搭載した選択率算出装置であって、
上記混合段数算出手段が算出した混合段数に相当する数の上記完全混合槽を直列に連結することにより上記反応器をモデル化し、上記逐次反応において、反応物に対する、目的生成物の割合である選択率を算出する選択率手段を備えることを特徴とする選択率算出装置。
【請求項8】
反応液を内部に一方向に流通させ、複数段階の化学反応を当該反応液中で逐次的に生じさせる筒状の反応器を、互いに等しい体積の複数の完全混合槽が互いに直列に連結されたモデルにモデル化した場合の、上記完全混合槽の数である混合段数を算出する混合段数算出装置における混合段数算出方法であって、
上記反応器の流通方向の単位断面積あたりかつ単位時間あたりの流量を液流速度とし、上記反応器の内部を流れる反応液の液流速度と同じ液流速度で、任意の流通器の内部に流体を流しながら、上記流通器の流体の供給口に、流体の流れに追従するトレーサーを供給開始したのちの、上記流通器の流体の排出口における上記トレーサーの濃度の経時的変化を示すトレーサーデータを取得するトレーサーデータ取得工程と、
上記トレーサーデータ取得工程において取得されたトレーサーデータと、上記液流速度と、流通器の供給口から排出口までの長さとを用いて、上記トレーサーの濃度の経時的変化を近似する滞留時間分布関数を規定する軸方向混合係数を算出する軸方向混合係数算出工程と、
上記軸方向混合係数算出工程において算出された軸方向混合係数と、上記液流速度と、上記流通器の塔径とを用いて、上記反応器の混合段数を算出する混合段数算出工程とを含むことを特徴とする混合段数算出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−125607(P2009−125607A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299755(P2007−299755)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
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