説明

清澄化が促進された発酵アルコール飲料の製造方法

【課題】麦芽の使用比率が50%未満の発酵アルコール飲料の香味を低下させることなく、麦酒製造における、清澄化における濁度の低下及び又はトリューブの形成を改善すること。
【解決手段】麦芽の使用比率が50%未満の発酵アルコール飲料の製造において、原料として使用するホップを工夫し、原料として使用するホップに含まれるα酸と、ホップ由来のポリフェノールの比率が、α酸(%)/ポリフェノール(%)≦1.5 となるホップ及び/又はホップ加工品を使用して製造すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、発泡酒やいわゆる第三のビールなど、麦芽を用いない又は麦芽の使用量を低下させた発酵アルコール飲料の製造法に関する。より具体的には、発酵アルコール飲料の製造における、麦芽使用の低減により、糖化・煮沸した後の冷却段階での清澄化が不十分となる課題の解決に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、嗜好の多様化や、価格的なメリットのため、麦芽含量を低下させた発酵アルコール飲料の人気が高く、その消費量も増大している。酒税法上、ビールは、麦芽以外の政令で定められた副材料のみが使用でき、その副原料の重量は麦芽重量の50%以下とされている。他方、発酵アルコール飲料としては、発泡酒や、酒税法上のリキュール(発泡性)等が含まれ、発泡酒は麦芽の使用率が50%以上のもの、25%以上50%以下、及び25%未満に分けられている。また、発酵アルコール飲料には、麦芽を全く含まないもの、いわゆる雑酒(酒税法上のその他醸造酒等)も含まれる。
【0003】
発泡酒及びいわゆるリキュール(発泡性)や雑酒は、コーンスターチや大豆など麦芽以外の原料を使用し、ビール醸造とは異なる製造技術が必要となっている。例えば、麦芽の添加量を減らすと、タンパク質の不足のために、香味が低下する問題など、副原料の使用により、味覚・風味・香味、或いは色合いが、ビールに及ばない。そこで、香味改善のためには、例えば、麦汁中の遊離アミノ態窒素の生成量を調整することにより有機酸の生成量を制御し、発泡酒の香味の調整を行うこと方法(特許文献1)が提案されている。更に、特許文献2には、麦芽を使用せず、デンプンに基づくグルコースシロップ、可溶性タンパク質材料、水、ホップから作るビールタイプ飲料(いわゆる雑酒)の製造方法が記載されている。
【0004】
また、ビールなどの食品・飲料製造におけるタンパク質などの除去対策として、例えば、種々の凝集剤を用いる技術が提案されており、シリカゾル、ベントナイト、及び高分子凝集剤を用いる方法(特許文献3)、ポリビニルピロリドン及びアルギン酸ナトリウムを用いるもの(特許文献4)、ジェランガムを用いるもの(特許文献5)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−052251号
【特許文献2】特開2001−037462号
【特許文献3】特開2005−73769号
【特許文献4】特開2004−230365号
【特許文献5】特開01−039980号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
麦芽中の添加量が少ない、発泡酒やいわゆる第三のビールなどの麦芽の使用比率が50%未満の発酵アルコール飲料の製造においては、副原料を添加した麦汁やその他の糖化原料からなる発酵前液がビールの麦汁と比較して濁度が高く、ワールプールタンクを用いた麦汁又は発酵前液の冷却工程においては、沈殿したトリューブ(凝固したタンパク質)のしまりが悪くなり、冷却工程で、副原料を添加した麦汁やその他糖化原料を含む発酵前液をタンク下部から抜き出す時に、発酵前液が混濁し、結局発酵前液抜き出し時間の短縮しなければならなくなり、収量の低減を生ずるという問題があった。なお、トリューブのしまりが悪いとは、トリューブが緩く形成され、液を抜出す際にトリューブが崩れやすい状態をさす。
【0007】
また、麦芽の使用比率が50%未満の発酵アルコール飲料の製造においては、上記発酵前液を糖化する際に、麦芽量がビール製造に比較して少ないために、タンパク質分解が充分に進まないことから、繊維質の多い副原料、例えば、大豆原料などを用いて製造する場合には、糖化段階で、タンパク質分解酵素を添加することが多い。そのため、発酵前液を糖化、ろ過し、煮沸前又は煮沸中にホップを添加しても、タンパク質の熱凝固(ビール製造における麦汁煮沸工程)が充分に行われず、タンパク質が充分沈殿しないという問題も生じていた。
【0008】
他方、通常のビールで使用している上記先行技術文献で挙げたようなタンパク除去剤は、糖化段階でのタンパク質分解酵素添加のため、タンパク質が低分子化しているので、充分に凝集沈殿効果を挙げることができないものであった。
【0009】
本願発明は、ビールと同様の製造工程を経て製造される、麦芽の使用比率が50%未満の発酵アルコール飲料の製造において、ビール製造における濁度の低下または麦汁煮沸工程後の清澄化工程におけるトリューブの形成を改善することを第1の課題とする(図2)。
【0010】
更に本願発明は、ビールと同様の製造工程を経て製造される、麦芽の使用比率が50%未満の発酵アルコール飲料の製造において、香味を損なうことなく、ビール製造における清澄化工程に相当する工程における濁度の低下またはトリューブの形成を改善することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者等は、様々な試行錯誤の上、原料として使用するホップを工夫し、原料として使用するホップに含まれるα酸と、該ホップに含まれるポリフェノールの比率が、α酸(%)/ポリフェノール(%)≦1.5 となるようにすることにより、麦芽の使用比率が50%未満の発酵アルコール飲料の香味を低下させることなく、清澄化工程における濁度の低下、トリューブの形成を改善することができることを見出した。
【0012】
種々のホップ原料のα酸含量と、ポリフェノール含量を計測し、これら種々のホップを適当な割合で組み合わせることにより、原料として使用するホップに含まれるα酸と、該ホップに含まれるポリフェノールの比率が、α酸(%)/ポリフェノール(%)≦1.5とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本願発明は、ビールと同様の製造工程を経て製造される、麦芽の使用比率が50%未満の発酵アルコール飲料の製造において、ビール製造における麦汁煮沸工程後の清澄化工程におけるトリューブの形成を改善することができる。
【0014】
更に本願発明は、ビールと同様の製造工程を経て製造される、麦芽の使用比率が50%未満の発酵アルコール飲料の製造において、香味を損なうことなく、ビール製造における清澄化工程における濁度の低下またはトリューブの形成を改善することができ、これにより香味を損なわず、収率よく麦芽の使用比率が50%未満の発酵アルコール飲料の製造することができる。
【0015】
麦芽の使用比率50%未満の中でも、特に麦芽を含まない発酵アルコール飲料について効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ビール醸造工程の概要を示す図。
【図2】ワールプールタンクの概略図。
【図3】麦芽使用率0%の発酵アルコール飲料の2KLパイロットプラントによる製造における、ワールプールタンクから出た発酵前液の濁度。
【図4】ホップ増量試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.麦芽の使用比率が50%未満の発酵アルコール飲料の製造工程
麦芽の使用比率が50%未満の発酵アルコール飲料は、麦芽に加えて副原料を用いるか、麦芽に代えて代替原料を用いる点でビール製造方法とは異なるが、その製造工程自体は、図1に示されるビールの製造工程に準じて行われる。
【0018】
しかしながら、麦芽の使用量が低いことから、糖化及びタンパク質の分解が低下するために、酵素製剤を使用される。
【0019】
2.麦芽の使用比率が50%未満の発酵アルコール飲料の製造における、清澄化工程での発酵前液の清澄化
麦芽の使用比率が50%未満の発酵アルコール飲料の製造においては、原料として、穀類及び/又は豆類が使用されるが、麦芽の使用比率は、50%未満とされる。穀類及び/又は豆類としては、不溶性食物繊維が、乾燥状態で可食部100g中5g以上含まれているものが使用される。具体的には、コーン、大豆、エンドウ、などが挙げられる。
【0020】
主要な穀類・豆類の食物繊維量を以下の表1に示す。
【0021】
【表1】

※可食部100gあたり
五訂 食品成分表 女子栄養大学出版部より
【0022】
また、原料としての穀類及び/又は豆類は、これらの加工品を含み、例えば、上記穀類及び/又は豆類から、タンパク質画分を生成したものなどが含まれる。具体的には原料として、大豆ペプチド、大豆タンパク、コーンタンパク、コーンペプチド、エンドウタンパク、エンドウペプチドなどが挙げられる。
【0023】
麦芽の使用比率が50%未満の発酵アルコール飲料の製造における糖化の発酵前液として、前記した原料を用いた発酵前液を糖化工程で糖化した後、煮沸工程で、ホップが発酵前液に添加され、発酵前液が殺菌されると共に、ホップ成分が異性化され、発酵前液に溶け込む。また、好ましくない揮発成分はこの工程で上記と共に揮発する。これにより、発酵前液への香味付けがなされる。また、煮沸工程で、タンパク質やポリペプチドが熱凝固し、沈殿し、発酵アルコール飲料の混濁安定性を高めることができる。通常この煮沸工程は1−2時間沸騰させることにより行われている。煮沸工程後の清澄化工程で、熱凝固物やホップ粕はワールプールタンク等の分離槽や遠心分離機で清澄化される。酵母添加前の仕込み工程の液を発酵前液という。
【0024】
なお、ワールプールタンクとは、図2に示されるようなタンクであり、麦汁などの液を側面から勢いよく導入しタンク内で回転させることにより、熱凝固物を中央底部にトリューブとして沈降させ、その後、タンク底部から清澄化された液が発酵前液として排出されるものである。
【0025】
発酵アルコール飲料の発酵前液は、麦芽を含まないか、又は低減された量しか含まないので、糖化のために大量の酵素剤が使用される。そのために、タンパク質の分解も進み、タンパク質が低分子化する傾向にある。そして、ビールの清澄化条件では、低分子化したタンパク質粒子は煮沸工程での熱凝固が不十分であるとともに、粒子の沈降性が低く、凝集性が低いため、清澄化工程でのトリューブの形成不良といった問題が生じている。結果、実際の発酵アルコール飲料の製造においては、煮沸工程後の冷却工程において、ワールプールタンクを用いた場合、沈殿したトリューブ(凝固したタンパク質)のしまりが悪く、副原料を添加した麦汁やその他糖化した発酵前液をタンク下部から抜き出す時にトリューブが崩れ、発酵前液が混濁し、結局発酵前液抜き出し時間の短縮しなければならなくなり、収量の低減を生ずるという問題があった。
【0026】
そこで本願発明者等は、濁度低下させ、清澄化させるために、煮沸工程に添加する原料として使用されるホップの改良を試みた。
【0027】
その結果、麦芽の使用比率50%未満の発酵アルコール飲料の製造方法において、原料として使用するホップが、原料として使用するホップに含まれるα酸と、該ホップに含まれるポリフェノールの比率が、α酸(%)/ポリフェノール(%)≦1.5となるようなホップを使用することにより、清澄化工程におけるタンパク粒子の凝集性を改善することで、トリューブ形成を改善し、発酵液を清澄化できることを見出した。
【0028】
3.原料として使用するホップが、原料として使用するホップに含まれるα酸と、該ホップに含まれるポリフェノールの比率が、α酸(%)/ポリフェノール(%)≦1.5
となるよう、ホップ中の非ルプリン画分の割合を高めたホップ加工品の調製
【0029】
3−1.種々のホップの調製
(1)本願発明でいうホップとは、収穫後加工されていないホップ、及び収穫後加工されたホップ加工品の両者を意味している。原料として使用するホップとしては、ホップそのものももちろん含まれるが、これ以外に、ホップ加工品が含まれる。ホップ加工品には、例えば、ルプリン画分のみを採取するルプリン画分がある。更に原料として使用するホップには、ルプリン画分の製造で生じる非ルプリン画分も含まれる。更に、ホップ加工品には、ホップエキスなど、ホップに由来する加工品であれば、いずれのものも含まれる。
【0030】
(2)全ホップ、非ルプリン画分、ルプリン画分の調製
(i)全ホップとは、ホップ毬花、及びホップ毬花から枝等の発酵アルコール飲料の製造に不要な部分の除去のみを行ったもののことを言い、凍結粉砕など粉砕されたものも含まれる。
【0031】
(ii)ホップの非ルプリン画分、ルプリン画分は、非ルプリン画分及びルプリン画分に画分できる方法であれば、どのような方法で画分してもよい。
【0032】
具体的方法としては、後述する実施例では、次のように調製した非ルプリン画分及びルプリン画分並びに全ホップを採用した。
【0033】
ハンマーミルで粉砕したホップ毬花を、−30〜35度で凍結粉砕する。凍結粉砕したものを全ホップとすることができる。篩目の開き0.15〜0.50mmで篩分けし、篩目より大きい画分を非ルプリン画分、篩目より小さい画分をルプリン画分とする。
【0034】
非ルプリン画分にはポリフェノールが4〜10%、ルプリン画分にはポリフェノールが1〜2.5%、全ホップにはポリフェノールが2〜5%含まれる。なお、α酸等のホップ樹脂成分および精油成分はルプリンに含まれるため、非ルプリン画分には、殆ど含まれてない。
【0035】
これらのホップは、ペレット加工・エキス加工してもよい。例えば、ルプリン画分には、濃縮ホップペレットが含まれ、非ルプリン除去画分には、例えば、苞部分等が含まれる。
【0036】
(3)ホップエキスは、エタノール・ヘキサンなどの有機溶媒による抽出や、臨界炭酸ガスや超臨界炭酸ガスによる抽出によって得られる。ポリフェノールは0〜1%含まれる。
【0037】
(4)さらに、上記ホップ及びホップ加工品は、触媒塩・化学的手段により異性化処理・還元異性化処理をしてもよい。
【0038】
3−2.α酸・ポリフェノール分析・定量法
α酸分析は、Method of Analysis of the Amer. Soc. Brew. Chem. Hops−6に基づいて測定できる。具体的には、ホップのα酸をトルエンで抽出後、分光光度計の波長355nm,325nm,275nmで定量できる。
【0039】
総ポリフェノールの分析は、Analytica−EBC September 1997 Section 9 Beer Method 9.11を参考に分析できる。具体的には、粉砕ホップ2gを500mlの蒸留水に溶解し、120℃、1気圧、10分間オートクレーブを実施後、上澄みを0.8μmのメンブランフィルターろ過したろ液に、CMC/EDTA溶液、3.5%、クエン酸鉄アンモニウム溶液、アンモニア溶液を添加後、分光光度計で600nmで測定する。 ホップポリフェノール(%)=OD×820×溶液量/ホップ採取量で計算できる。
【0040】
3−3.原料として使用するホップに含まれるα酸と、該ホップに含まれるポリフェノールの比率を、α酸(%)/ポリフェノール(%)≦1.5とする調整
種々のホップ中のポリフェノール及びα酸の量を上記3-2.のα酸・ポリフェノール分析法により測定し、該ホップに含まれるα酸と、該ホップに含まれるポリフェノールの比率を、α酸(%)/ポリフェノール(%)≦1.5となるようにそれぞれのホップの配合比を決定することができる。なお、上述したように、非ルプリン画分にはポリフェノールが4〜10%、ルプリン画分にはポリフェノールが1〜2.5%、全ホップにはポリフェノールが2〜5%含まれる。また、α酸等のホップ樹脂成分および精油成分はルプリンに含まれるので、非ルプリン画分には含まれない。そこで、これらを用いて、全ホップ及び又はルプリン画分にポリフェノールの豊富な非ルプリン画分を添加して上記範囲のホップを調製することができる。
【0041】
また、より好ましくは、原料として使用するホップに含まれるα酸と、該ホップに含まれるポリフェノールの比率を、α酸(%)/ポリフェノール(%)≦1.3となるようにそれぞれのホップの配合比を決定することができる。
【0042】
また、発酵前液煮沸後、清澄化工程前の混濁物質量(kg/kL):非ルプリン画分量(kg/kL)=(0.5〜2.0):(0.01〜1.0)となる量を添加することもできる。
【0043】
4.本願発明で規定するホップを使用して製造された発酵アルコール飲料
本願発明の製造方法で製造された発酵アルコール飲料は、通常の方法で製造される発酵アルコール飲料と同程度の香味であり、化学成分分析においても特に大きな違いは認められなかった。他方、発酵前液の濁度は低下し、収率の向上が図れた。
【実施例】
【0044】
以下の実施例では、次のように調製した非ルプリン画分及びルプリン画分並びに全ホップを採用した。
【0045】
ハンマーミルで粉砕したホップ毬花を、−30〜35度で凍結粉砕する。凍結粉砕したものが全ホップである。凍結粉砕したものを篩目の開き0.15〜0.50mmで篩分けし、篩目より大きい画分を非ルプリン画分、篩目より小さい画分をルプリン画分とする。
【0046】
なお、上記3−2.α酸・ポリフェノール分析法に記載の定量法で定量したところ、全ホップのポリフェノール含量は、4.1%、α酸含量は、7.2%であり、非ルプリン画分からは、ポリフェノール含量は、4.5%で、α酸は検出されなかった。
【0047】
[実施例1]
麦芽使用率0%の発酵アルコール飲料の製造
(1) 2KLスケールのパイロットプラントにて、非ルプリン画分の添加試験を実施した。麦芽使用率0%の発酵アルコール飲料の原料として、大豆蛋白と酵母エキスを使用した糖化液作成し、煮沸するタイミングで非ルプリン画分を720g(原単位0.3kg/kL)及び全ホップを2500g(原単位1.0kg/KL)添加した(試験例1)。その他の条件は一般的な麦芽使用率0%の発酵アルコール飲料の仕込工程条件で統一した(対照試験)。
【0048】
それぞれに含まれる、α酸及びポリフェノールの量を測定し、以下表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
発酵前液の煮沸後のワールプールタンクから出た発酵前液の混濁成分の組成を表3に示す。混濁物質量は麦芽使用率0%の発酵アルコール飲料は810mg/Lであった。
【0051】
【表3】

【0052】
(2) 2KLスケールのパイロットプラントのワールプールタンク出の発酵前液の濁度はシグリスト濁度計で測定し、結果を図3に示す。対照実験(コントロール)と比較して、非ルプリン画分を使用した試験例1では、濁度が顕著に低下した。平均濁度がコントロールで1535ppmに対して、テストで1165ppmと約25%の濁度の低下が確認できた。
【0053】
発酵工程にも問題は生じなかった。また、7日間の発酵後、発酵タンクの底部より酵母を回収し、酵母活性を測定したが、酵素活性にも影響は見られなかった。
【0054】
(3) トリューブ内部のしまり具合は、ワールプールタンク払い出し工程が全て終了した後に目視で確認した。結果を表4に示す。
【0055】
【表4】

*1 トリューブ形成状況 1(悪い)⇔ 5(良い)
評価5は麦芽使用率50%未満の発酵アルコール飲料でトリューブの形成が最も良い場合の評点
評価1は麦芽使用率50%未満の発酵アルコール飲料でトリューブの形成が最も悪い場合の評点
【0056】
(4) 貯蔵、濾過後に製品詰めし2KLPPの試醸サンプルとした。2KLPPの試醸サンプルの官能評価を社内の訓練された試飲パネルで実施した。その結果、テスト、コントロールとほぼ同等の評価であった。ホップ臭や苦味、渋味の増加は特に指摘されなかった。非ルプリン画分はα酸含量が0.5%以下でまた多くのホップ香気成分が除去されているため、製品への影響が少なくなっていると推測された。結果として香味に関しては特に問題は認められなかった。
【0057】
結果を以下表5に示す。
【0058】
【表5】

総合評価は5段階評価
苦味は8段階評価
渋味の不調和、ホップ臭は3段階評価(なし0⇔3強い)
【0059】
(5) 2KLと同様に、200Lスケールのミニプラントで試験醸造を実施した。麦芽使用率0%の発酵アルコール飲料の原料として、大豆蛋白と酵母エキスを使用した糖化液作成し、煮沸する工程で煮沸開始15分後の添加タイミングで90g(原単位0.3kg/KL)を添加した条件(条件1)、煮沸開始5分後の添加タイミングで90gを添加した条件(条件2)で実施した。その他の条件は一般的な麦芽使用率0%の発酵アルコール飲料の工程条件で統一した。
【0060】
【表6】

【0061】
発酵工程にも問題は生じなかった。
【0062】
(6)2KLパイロットプランと及び200Lスケールのミニプラントでの試験醸造の化学分析を行った。
【0063】
冷却した発酵前液及び製品の化学分析結果より、エステル、アセトアルデヒド、ダイアセチル、噴き性、泡持ち、濁度、及び苦味価(BU)はコントロールと差はなく問題ないレベルであった。ポリフェノールの値は、製品で若干上昇したが、香味に影響を与えるほどではなかった。
【0064】
【表7】

【0065】
[実施例2]
2KLパイロットプラント試験(麦芽使用率20〜25%の発酵アルコール飲料)
2KLスケールのパイロットプラントにて、非ルプリン画分の添加試験を実施した。麦芽:副原料の使用比率が20〜25:75〜80の原料を糖化した糖化液を煮沸するタイミングで全ホップを2700g(原単位1.1kg/KL)に非ルプリン画分を1200g(原単位0.5kg/kL)追加で添加した(実験例A)。その他の条件は一般的な発泡酒の工程条件で統一した(対照実験)。
【0066】
【表8】

【0067】
発酵前液の煮沸後のワールプールタンクの混濁成分の組成を表9に示す。混濁物質量は麦芽使用率20〜25%の発酵アルコール飲料では1263mg/Lであった。
【0068】
【表9】

【0069】
ワールプールタンク出の濁度をシグリスト濁度計で測定した。2KLのパイロット試験の結果、コントロールと比較して、非ルプリン画分を使用した条件で低下した。平均濁度が対照実験(コントロール)で84ppmに対して、実験例A(テスト)で61ppmと濁度の低下が確認できた。
【0070】
発酵性についても、2KLパイロットプラント試験では、試験でややエキス消費が緩慢な傾向があったが、発酵終盤では目標の酒下ろし糖度に到達した。
【0071】
回収した酵母の活性を測定したが、対照実験(コントロール)と実験例Aで大きな差は見られなかった。非ルプリン画分の酵母活性への影響はほとんどないと考えられる。
【0072】
トリューブ内部のしまり具合は、ワールプールタンク払い出し工程が全て終了した後に目視で確認した。7日間の発酵後、発酵タンクの底部より酵母を回収し、酵母活性を測定した。貯蔵、濾過後に製品詰めし、官能評価及び各種化学分析を行った。
【0073】
2KLPPの試醸サンプルの官能評価を社内の訓練された試飲パネルで実施した。その結果を以下の表に示す。実験例A(テスト)、対照実験(コントロール)とほぼ同等の評価であった。ホップ臭や苦味、渋味の評価はコントロールとほぼ同等であった。結果として香味に関しては大きな問題は認められなかった。
【0074】
【表10】

総合評価は5段階評価
苦味は8段階評価
渋味の不調和、ホップ臭は3段階評価(なし0⇔3強い)
【0075】
冷却した発酵前液及び製品の化学分析結果より、エステル、アセトアルデヒド、ダイアセチル、噴き性、泡持ち、濁度、及び苦味価(BU)はコントロールと差はなく問題ないレベルであった。ポリフェノールの値は、製品で若干上昇したが、香味に影響を与えるほどではなかった。
【0076】
【表11】

【0077】
[実施例3]
ホップ増量試験
200Lパイロットプラントにて、試醸を行った。麦芽使用率0%の発酵アルコール飲料の原料として、大豆蛋白と酵母エキスを使用した糖化液を作成し、煮沸タイミングでホップの添加量を変えた試験を行った(コントロール:ホップ使用量100%、試験:ホップ使用量161%)。
ワールプールタンクの静置工程で、仕込液のOD800を測定した。
【0078】
結果を図4に示す。ホップを増量させた結果、ワールプール工程での濁度がコントロールと比較して、上昇する傾向が見られた。単純に、ホップを増量させるだけでは濁度低下効果がないことが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本願発明は、醸造業の分野、食品産業の分野で利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦芽の使用比率50%未満の発酵アルコール飲料の製造方法において、
原料として使用するホップが、該ホップ中に含まれるα酸と、該ホップ中に含まれるポリフェノールの比率が、
α酸(%)/ポリフェノール(%)≦1.5
となるよう、ホップ中の非ルプリン画分の割合を高めたホップであることを特徴とする、発酵前液の清澄化が改善された発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
請求項1のホップが、非ルプリン画分及び、ルプリン画分及び/又は全ホップのホップを組み合わせてなることを特徴とする、
発酵前液の清澄化が改善された発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項3】
ホップの非ルプリン画分、ルプリン画分及び/又は全ホップが、ペレット加工及び/又はエキス抽出加工されていることを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
原料に麦芽を使用しないことを特徴とする、請求項1〜3いずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
原料に、不溶性食物繊維が、乾燥状態で可食部100g中5g以上含まれている穀類及び/又は豆類、あるいはそれらの加工品を使用することを特徴とする、請求項1〜4いずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
大豆タンパク、大豆ペプチド、コーンタンパク、コーンペプチド、エンドウタンパク、エンドウペプチドの中から選択される1又は2以上の原料を使用することを特徴とする、請求項1〜5いずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか1項に記載の製造方法で製造された発酵アルコール飲料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−125291(P2011−125291A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288271(P2009−288271)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)