減圧鋳造装置、及び、減圧鋳造方法
【課題】減圧鋳造の際に閉塞部材と射出チップの支持軸との接触部における、軸シールユニットの耐久性及び保全性の低下を防止することができる、減圧鋳造装置、及び、減圧鋳造方法を提案する。
【解決手段】減圧鋳造装置30は、射出スリーブ2の給湯口6、及び、射出スリーブ2の金型1と反対側の開放端部2a、の双方を取り囲む減圧室11を内部に形成する閉塞部材10を具備し、この閉塞部材10は、底部から開口部に向かって段階的に内径が大きくなるように変化する複数の筒状部材である、第一筒状部材10a、第二筒状部材10b、第三筒状部材10cを組み合わせて形成され、底部と開口部との間で、射出チップ3の射出動作時における移動方向に伸縮可能に構成されている。
【解決手段】減圧鋳造装置30は、射出スリーブ2の給湯口6、及び、射出スリーブ2の金型1と反対側の開放端部2a、の双方を取り囲む減圧室11を内部に形成する閉塞部材10を具備し、この閉塞部材10は、底部から開口部に向かって段階的に内径が大きくなるように変化する複数の筒状部材である、第一筒状部材10a、第二筒状部材10b、第三筒状部材10cを組み合わせて形成され、底部と開口部との間で、射出チップ3の射出動作時における移動方向に伸縮可能に構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧鋳造装置、及び、減圧鋳造方法に関し、具体的には、金型のキャビティ内を減圧して鋳造を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の減圧鋳造においては、高強度・高品質の製品を鋳造するため、キャビティ内において短時間で高い減圧度を達成する技術が用いられている。このような減圧鋳造において使用される減圧鋳造装置においては、射出チップと射出スリーブとの間に生じる隙間から溶湯が漏出したり、キャビティや射出スリーブにおける減圧度が不安定になったりすることを防ぐための技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
前記特許文献1で開示される減圧鋳造装置においては、射出チップの背後(キャブティに対して反対側)にカップ形状の閉塞部材を配設し、この閉塞部材で射出スリーブの開放端部の周囲を塞ぐことで減圧室を形成するように構成されている。これにより、キャビティや射出スリーブにおける減圧度を安定させることができるとともに、射出チップと射出スリーブとの間に生じる隙間から溶湯が漏出することを防止しているのである。
【0004】
しかし、特許文献1に開示される従来の減圧鋳造装置においては、減圧鋳造のショットごとに閉塞部材による開閉を行う。つまり、ショットごとにおける、閉塞部材によって減圧室を形成する際と、射出チップによる射出動作の際と、の二つの場合に、閉塞部材と射出チップとが摺動するのである。このため、閉塞部材と射出チップの支持軸との接触部における軸シールユニットの耐久性及び保全性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−93712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題を鑑み、減圧鋳造の際に閉塞部材と射出チップの支持軸との接触部における、軸シールユニットの耐久性及び保全性の低下を防止することができる、減圧鋳造装置、及び、減圧鋳造方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、金型のキャビティと、給湯口及びその外壁に形成されたフランジ部を備え、前記キャビティに連通された、射出スリーブと、支持軸の先端部に配設されて、該支持軸を前記射出スリーブに挿通することにより、前記射出スリーブの内部を軸心方向に摺動可能に構成された、射出チップと、前記射出スリーブの給湯口、及び、前記射出スリーブにおける前記キャビティと反対側の開放端部、の双方を取り囲む減圧室を内部に形成する、閉塞部材と、前記キャビティ内及び前記減圧室に連通された、減圧手段と、を具備し、前記減圧手段により、前記キャビティ及び前記減圧室の内部を減圧した状態で、前記射出スリーブ内に供給した溶湯を前記射出チップにより押し出して前記キャビティ内へ射出する射出動作を行うことにより、鋳造を行う減圧鋳造装置であって、前記閉塞部材は、前記キャビティと反対の側に形成された底部と、前記キャビティの側にその内寸が前記射出スリーブの外寸よりも大きくなるように形成された開口部と、を備える有底筒状の部材であり、前記底部と前記開口部との間で、前記射出チップの射出動作時における移動方向に伸縮可能に構成され、前記閉塞部材における前記底部の貫通孔に、前記射出チップの支持軸が挿通され、前記閉塞部材の前記開口部が、前記射出チップの射出動作時における移動方向へ移動されて、前記閉塞部材が伸張されることにより、前記閉塞部材の内部の空間に前記射出スリーブの開放端部が挿入され、前記開口部が前記フランジ部に圧接されて、前記減圧室が形成されるものである。
【0009】
また、請求項2においては、前記閉塞部材は、前記底部から前記開口部に向かって段階的に内径が変化する複数の筒状部材を組み合わせて形成され、該複数の筒状部材を、前記射出チップの射出動作時における移動方向に相互に摺動させることにより、伸縮可能に構成されるものである。
【0010】
また、請求項3においては、前記底部は、前記射出チップの支持軸に、該支持軸に対して相対的に摺動不能に固定されるものである。
【0011】
また、請求項4においては、前記閉塞部材は、収縮した状態で固定可能に構成されるものである。
【0012】
また、請求項5においては、金型のキャビティと、給湯口及びその外壁に形成されたフランジ部を備え、前記キャビティに連通された、射出スリーブと、支持軸の先端部に配設されて、該支持軸を前記射出スリーブに挿通することにより、前記射出スリーブの内部を軸心方向に摺動可能に構成された、射出チップと、前記射出スリーブの給湯口、及び、前記射出スリーブにおける前記キャビティと反対側の開放端部、の双方を取り囲む減圧室を内部に形成する、閉塞部材と、前記キャビティ内及び前記減圧室に連通された、減圧手段と、を具備する減圧鋳造装置を用いて行う減圧鋳造方法であって、前記閉塞部材を、前記キャビティと反対の側に形成された底部と、前記キャビティの側にその内寸が前記射出スリーブの外寸よりも大きくなるように形成された開口部と、を備える有底筒状の部材とし、前記底部と前記開口部との間で、前記射出チップの射出動作時における移動方向に伸縮可能に構成し、前記閉塞部材における前記底部の貫通孔に、前記射出チップの支持軸を挿通し、前記閉塞部材の前記開口部を、前記射出チップの射出動作時における移動方向へ移動して、前記閉塞部材を伸張することにより、前記閉塞部材の内部の空間に前記射出スリーブの開放端部を挿入し、前記開口部を前記フランジ部に圧接して、前記減圧室を形成した状態で、前記減圧手段により、前記キャビティ及び前記減圧室の内部を減圧した状態で、射出スリーブ内に供給した溶湯を前記射出チップにより押し出して前記キャビティ内へ射出する射出動作を行うことにより、鋳造を行うものである。
【0013】
また、請求項6においては、前記閉塞部材を、前記底部から前記開口部に向かって段階的に内径が変化する複数の筒状部材を組み合わせて形成し、該複数の筒状部材を、前記射出チップの射出動作時における移動方向に相互に摺動させることにより、前記閉塞部材を伸縮可能に構成するものである。
【0014】
また、請求項7においては、前記底部を、前記射出チップの支持軸に、該支持軸に対して相対的に摺動不能に固定するものである。
【0015】
また、請求項8においては、前記閉塞部材を、収縮した状態で固定可能に構成するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0017】
本発明により、減圧鋳造の際に閉塞部材と射出チップの支持軸との接触部における、軸シールユニットの耐久性及び保全性の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第一実施形態に係る減圧鋳造装置について給湯時の状態を示す概略断面図。
【図2】同じく減圧時の状態を示す概略断面図。
【図3】(a)、(b)はそれぞれ給湯時、減圧時における第一実施形態に係る閉塞部材の周辺を示す断面図。
【図4】第一実施形態に係る減圧鋳造装置における減圧鋳造の一連のプロセスについて示す図。
【図5】(a)、(b)はそれぞれ給湯時、減圧時における第二実施形態に係る閉塞部材の周辺を示す断面図。
【図6】(a)、(b)はそれぞれ給湯時、減圧時における第三実施形態に係る閉塞部材の周辺を示す断面図。
【図7】(a)、(b)はそれぞれ給湯時、減圧時における第四実施形態に係る閉塞部材の周辺を示す断面図。
【図8】第五実施形態に係る減圧鋳造装置について給湯時の状態を示す概略断面図。
【図9】第五実施形態に係る減圧鋳造装置における減圧鋳造の一連のプロセスについて示す図。
【図10】第六実施形態に係る減圧鋳造装置について給湯時の状態を示す概略断面図。
【図11】第六実施形態に係る減圧鋳造装置における減圧鋳造の一連のプロセスについて示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0020】
[減圧鋳造装置30の構成]
まず、本発明の第一実施形態に係る減圧鋳造装置30、及び、減圧鋳造方法について、図1から図3を用いて説明する。本明細書では便宜上、図1における右側を減圧鋳造装置30の右側方、左側を減圧鋳造装置30の左側方として説明する。
図1に示すごとく、減圧鋳造装置30における金型1には、略円筒形状の射出スリーブ2が左側方に突出して付設されている。そして、該射出スリーブ2内にて短円柱状の射出チップ3を右側方に摺動させ、射出スリーブ2内に供給された溶湯5を押し出して、金型1に設けたキャビティ4内に射出する構造としている。
【0021】
前記射出スリーブ2には、給湯口6が設けられており、この給湯口6を介して、溶湯5がラドル7から射出スリーブ2内に供給されるようになっている。
さらに、前記射出スリーブ2には、該射出スリーブ2の外周壁から半径方向外側に突出するフランジ部8が設けられている。このフランジ部8は、射出チップ3によって射出スリーブ2内の溶湯5を押し出し、キャビティ4内に射出する射出動作時における、該射出チップ3の進行方向(図1における右側方)と、略直交する平面と略並行となる壁面を形成するように構成される。
また、このフランジ部8は、前記給湯口6が配置される位置よりも右側方、即ち射出チップ3が溶湯5を射出する際に移動する方向の側に配設されている。
【0022】
前記射出チップ3の支持軸9と同軸上には、射出スリーブ2の給湯口6、及び、射出スリーブ2におけるキャビティ4と反対側の開放端部2a、の双方を取り囲む減圧室11(チャンバ)を内部に形成するための閉塞部材10が設けられる。閉塞部材10は、キャビティ4と反対の側に形成された底部と、キャビティ4の側にその内寸が射出スリーブ2の外寸よりも大きくなるように形成された開口部と、を備える有底筒状の部材である。
【0023】
そして、閉塞部材10は、底部と開口部との間で、射出チップ3の射出動作時における移動方向に伸縮可能に構成されている。具体的には、図3(a)に示す如く、底部から開口部に向かって段階的に内径が大きくなるように変化する複数の筒状部材である、第一筒状部材10a、第二筒状部材10b、第三筒状部材10cを組み合わせて形成されている。つまり、閉塞部材10の底部である第一筒状部材10a、中間部である第二筒状部材10b、開口部である第三筒状部材10cの順に、その内径が大きくなっていくように構成されているのである。
【0024】
図3(a)に示す如く、前記の筒状部材10a・10b・10cのうち、第一筒状部材10aだけが有底筒状に形成され、第二筒状部材10b及び第三筒状部材10cは両端部が開口した筒状に形成されている。つまり、閉塞部材10は、第一筒状部材10a、第二筒状部材10b、第三筒状部材10cを組み合わせた状態で有底筒状になるように構成されているのである。
【0025】
そして、これらの複数の筒状部材10a・10b・10cを、射出チップ3の射出動作時における移動方向である左右方向に相互に摺動させることにより、伸縮可能に構成されているのである。詳しくは、図3(b)に示す如く、第三筒状部材10cをアクチュエータ13によって左右方向に移動させることにより、閉塞部材10が伸縮するように構成されているのである。
【0026】
また、第一筒状部材10aと第二筒状部材10bとの間、及び、第二筒状部材10bと第三筒状部材10cとの間には、それぞれシール部材10e及び10fが介挿されている。さらに、第一筒状部材10aの右端面は固定ガイド26を介してフランジ部8と連結されている。つまり、第一筒状部材10aは固定ガイド26によって左右方向への移動が規制されているのである。
【0027】
上記の如く、閉塞部材10は射出チップ3の射出動作時における移動方向側(右側)の端部である第三筒状部材10cの側が開放される略円筒状の部材であり、もう一方の、即ち射出チップ3の射出動作時における移動方向とは反対側(左側)の、閉じた端部である第一筒状部材10aの貫通孔10dには、支持軸9が摺動自在に挿通される。
また、筒状に構成される閉塞部材10(第一筒状部材10a、第二筒状部材10b、第三筒状部材10c)の内径寸は、射出スリーブ2の外径寸よりも大きく構成され、第三筒状部材10cを、前記射出チップ3の射出時における移動方向と同じ方向へ移動させることで、前記閉塞部材10の内部の空間に前記射出スリーブ2の開放端部2aが挿入されるようになっている。
【0028】
前記閉塞部材10(第一筒状部材10a)、前記射出スリーブ2、前記射出チップ3、及び、前記射出チップ3の支持軸9は、同軸上に配置される構成とすることにより、減圧鋳造装置30の小型化が図れるようになっている。
【0029】
前記支持軸9は、エアシリンダや油圧シリンダ等からなる図示せぬアクチュエータによって進退するように制御されており、これにより、先端に設けられた射出チップ3が射出スリーブ2内にて進退する構造となっている。
【0030】
第一筒状部材10aに設けた貫通孔10dに対しては、前記支持軸9が摺動自在に貫装され、また、前記貫通孔10dには、支持軸9との間の隙間をシールするため、Oリング等から構成されるシール部材12が設けられている。
【0031】
図2に示すごとく、閉塞部材10は、エアシリンダや油圧シリンダ等からなるアクチュエータ13によって、第三筒状部材10cを左右方向に移動させることにより伸縮するように構成されている。そして、第三筒状部材10cが右方向に移動して閉塞部材10が伸張した際には、第三筒状部材10cの右側端部が前記射出スリーブ2のフランジ部8に圧接し、前記射出スリーブ2の開放端部2aの周囲を取り囲む減圧室11が形成されるようになっている。
なお、閉塞部材10が伸長する際には、第三筒状部材10cが、図3(a)に示す収縮状態からアクチュエータ13により右方向へ移動されると、まず第三筒状部材10cが第二筒状部材10bに対して右方へ摺動して、第三筒状部材10cの左端部と第二筒状部材10bの右端部とが係合する。第三筒状部材10cと第二筒状部材10bとが係合した後は、第三筒状部材10cの移動に伴い、第二筒状部材10bが第一筒状部材10aに対して右方へ摺動して、図3(b)に示すように閉塞部材10が伸長した状態となる。
このアクチュエータ13は、後述するように、射出チップ3(支持軸9)とは独立して駆動されるようになっており、これにより、閉塞部材10(第三筒状部材10c)と射出チップ3が独立して動作するようになっている。
【0032】
このように、閉塞部材10の開口部である第三筒状部材10cが、アクチュエータ13によって、射出チップ3の射出動作時における移動方向である右側方へ移動されて、閉塞部材10が伸張される。これにより、閉塞部材10の内部の空間に射出スリーブ2の開放端部2aが挿入され、第三筒状部材10cがフランジ部8に圧接されて、減圧室11が形成されるのである。
【0033】
さらに、前記射出スリーブ2に立設されるフランジ部8において、第三筒状部材10cの右側端部と対向する側には、Oリング等から構成されるシール部材14が設けられている。図2に示すごとく、このシール部材14によって、第三筒状部材10cがフランジ部8に圧接される状態において、両者間がシールされるようにしている。
なお、第三筒状部材10cにシール部材14を設ける構成としてもよい。
【0034】
そして、このようなフランジ部8の構成により、第三筒状部材10cの射出動作時における移動方向のストッパー、及び、減圧室11のシール、といった二つの機能が実現可能となる。
また、閉塞部材10(第二筒状部材10b及び第三筒状部材10c)は射出スリーブ2の外側を移動することから、閉塞部材10が射出スリーブ2に摺接することはなく、射出スリーブ2と閉塞部材10の間においては潤滑油が必要とされることはない。
【0035】
前記フランジ部8で構成されるシール部(本実施例ではシール部材14)は、射出スリーブ2の外側に配置されることから、溶湯5の熱によってフランジ部8が変形することなく、確実なシール性能を確保できることとなる。
即ち、射出スリーブ2の金型と反対側の開放端部2aを閉塞部材10で取り囲み、減圧室11を内部に形成する構成としているため、射出スリーブ2の熱による変形、膨張が発生し、射出チップ3と射出スリーブ2と間の隙間が変化しても、シール性能を保持することが可能となるのである。
【0036】
また、前記閉塞部材10は、給湯口6に触れることなく、減圧室11を形成することができる。これにより、給湯口6に付着し得るこぼれ湯等で減圧室11のシール性能が損なわれるといった不具合が発生しない。また、目標とされる減圧度を確実に確保することが可能となり、さらに、シール性能に関連するメンテナンスフリーを実現することが可能となる。
【0037】
そして、図1及び図2に示すごとく、前記閉塞部材10には、その内部の空間で形成されることになる減圧室11内の空気を吸引するための吸引口15が設けられている。
なお、この吸引口15は、前記射出スリーブ2のフランジ部8に設けることとし、前記閉塞部材10を図2の状態とした際に、フランジ部8に設けた吸引口より吸引を行うこととしてもよく、この構成によれば、後述する第1の減圧手段に繋がる吸気配管を固定できることになる。
【0038】
前記吸引口15は、第1の減圧手段(本実施例では第1減圧タンク18及び第1真空ポンプ19)に接続される。前記第1減圧タンク18と前記吸引口15との接続経路上には該接続経路を開閉する第1開閉バルブ20が設けられている。
そして、その接続経路上の前記第1開閉バルブ20を開くことによって、前記減圧室11、及び、キャビティ4の減圧が開始されるようになっている。
【0039】
また、前記金型1には、前記キャビティ4内に通じ、キャビティ4内の空気を吸引するための吸引口16が設けられている。また、キャビティ4と前記吸引口16を結ぶ経路には、シャットバルブ17が設けられている。
【0040】
前記吸引口16は、第2の減圧手段(本実施例では第2減圧タンク21及び第2真空ポンプ22)に接続される。前記第2減圧タンク21と前記吸引口16との接続経路上には該接続経路を開閉する第2開閉バルブ23が設けられている。
そして、その接続経路上の前記第2開閉バルブ23を開くことよって、前記キャビティ4の減圧が開始されるようになっている。
【0041】
このように、本実施形態に係る減圧鋳造装置30は、第1及び第2の減圧手段により、キャビティ4及び減圧室11の内部を減圧した状態で、射出スリーブ2の内部に供給した溶湯5を射出チップ3により押し出してキャビティ4内へ射出する射出動作を行うことにより、鋳造を行うのである。
なお、前記第1減圧タンク18、及び第2減圧タンク21はバッファとして機能させるものである。
【0042】
図1及び図2に示す構成においては、ラドル7、射出チップ3、閉塞部材10(アクチュエータ13)、シャットバルブ17、第1開閉バルブ20、第2開閉バルブ23、第1真空ポンプ19、第2真空ポンプ22は、連動するように制御される構成とすることが望ましい。
例えば、前記アクチュエータ13については、給湯完了後のラドル7の後退とともに閉塞部材10を伸張して、第三筒状部材10cを前進させフランジ部8に圧接させて減圧室11を形成させ、射出完了後は、射出チップ3の後退前に、又は、同時に、後退する動作を行うこととする、といった動作制御が考えられる。
なお、各装置を動作させる具体的な機構については、特に限定されるものではない。
【0043】
[減圧鋳造装置30による減圧鋳造方法]
次に、図4を用いて、上記の減圧鋳造装置30による減圧鋳造プロセスについて説明する。
まず給湯時S1では、ラドル7にて、給湯口6から射出スリーブ2内に溶湯5が供給される。
この際、前記閉塞部材10は、アクチュエータ13によって収縮した状態にある。
また、射出チップ3の射出方向側先端部は、給湯口6よりも手前の位置に配置されるようにして、前記給湯口6が完全に開放された状態とする。また、前記第1開閉バルブ20及び第2開閉バルブ23は閉じた状態とし、減圧は行われない状態とする。
【0044】
前記ラドル7による溶湯5の供給が終了すると、前記アクチュエータ13によって、第三筒状部材10cの図4中矢印A方向への移動により、閉塞部材10の伸張が開始され、減圧室構成工程となる。
減圧室構成工程では、第三筒状部材10cが図4中矢印A方向へ移動し、その後、射出スリーブ2に設けたフランジ部8に圧接される。これにより、給湯口6と、射出スリーブ2における前記金型1と反対側の開放端部2aと、を取り囲む減圧室11が構成されるのである。
このようにして、射出スリーブ2の開放端部2a、及び、給湯口6が、閉塞部材10の減圧室11内に配置される。この状態では、射出チップ3の背面側(溶湯5と接しない側の端面側)の空間と、射出スリーブ2内の空間とが、前記給湯口6を介して連通されることになる。
【0045】
次に、第1減圧工程時S2となる。
第1減圧工程時S2においては、前記射出チップ3は、前記給湯口6よりも前記射出スリーブ2の開放端部2aの側に配置され、前記給湯口6を介して前記減圧室11と前記射出スリーブ2内とが連通される構成となっている。
【0046】
そして、溶湯5の沈静後、前記第1開閉バルブ20を開くことにより、図4中矢印aの方向に、減圧室11、及び、キャビティ4内の空気の吸引が開始され、第1の減圧が開始される。なお、第1の減圧の開始前においては、前記ラドル7による給湯によって揺れている溶湯5を沈静させるため、しばらく時間が置かれる(例えば、数秒程度)。
【0047】
また、この第1減圧工程は、射出チップ3による溶湯5の射出動作が行われる前に開始されるものである。即ち、射出チップ3が給湯口6を塞ぐ前に第1減圧工程が開始されるようになっている。そして、この減圧においては、前記減圧室11は開口の大きな給湯口6で射出スリーブ2に連通されるため、射出スリーブ2内の空気は、前記給湯口6を介して迅速に吸引されるのである。
この第1減圧工程は、射出チップ3が図示せぬアクチュエータによって射出動作を開始した後、該射出チップ3が図4中矢印Bの方向(射出チップ3により溶湯5を射出する方向)に移動して前記給湯口6を塞ぐまでの間、継続する。
【0048】
次に、前記射出チップ3の射出動作によって前記給湯口6を塞いだ後においては、第2減圧工程時S3となる。
このときには、前記射出チップ3の射出動作により、溶湯5が所定の減圧度が確保されたキャビティ4内へと射出される。この射出が行われる間は、前記第1開閉バルブ20を閉じ、前記第2開閉バルブ23を開くことにより、図3中矢印bの方向にキャビティ4の空気の吸引が開始され、第2減圧工程が行われる。
つまり、第2減圧工程時S3においては、前記第2の減圧手段によりキャビティ4内の空気を吸引した状態で、溶湯5がキャビティ4内へ射出されることとなるのである。
【0049】
このように本実施例に係る減圧鋳造装置30は、減圧室11に連通された第1の減圧手段と、キャビティ4内に連通された第2の減圧手段との複数の減圧手段を備えるため、第1の減圧手段による減圧の後に、第2の減圧手段で減圧を進行させることが可能となる。即ち、減圧速度を向上させることができ、金型1内を所定の圧力に減圧するための時間を短縮することが可能となるのである。
【0050】
さらに、第1の減圧手段から第2の減圧手段への切替は、射出チップ3が給湯口6を塞いだ後に行われるよう制御されるため、第2の減圧手段による減圧が行われる空間は、射出スリーブ2内の射出チップ3進行方向側の空間、及びキャビティ4内の空間に限られ、第2の減圧手段による減圧の効果をより高めることが可能となるのである。
【0051】
また、ここで、射出チップ3が給湯口6を通過した時点では、射出スリーブ2内が射出チップ3によって、キャビティ4側の空間と、射出チップ3の背面側の空間と、の二つの空間に分かれることになる。
しかし、前記吸引口16からの吸引により、射出チップ3の背面側の空間に比べてキャビティ4側の空間の減圧が進行しているため、射出スリーブ2と射出チップ3の間の隙間への溶湯5が浸入を防ぐことができる。
【0052】
次に、射出完了時S4となる。
この状態では、溶湯5を高速射出するため、シャットバルブ17が閉じられる。
そして、射出チップ3が射出側に移動しきった後に、前記第2開閉バルブ23が閉じられて、減圧が終了した状態となるのである。
その後、キャビティ4内の製品が凝固したら、型開きをして製品の取り出しが行われる。
【0053】
また、射出完了後は、前記射出チップ3は引き戻されるが、この際に、射出スリーブ2内にゴミや溶湯5の欠片等が存在する場合には、これらが射出チップ3の背面によって押し戻されるようにして除去され、射出スリーブ2の開放端部2aから掻き出される。
このように、射出チップ3の後退動作によって、射出スリーブ2内の内周面を清浄な状態とすることができる。
そして、前記ゴミ等の除去により、次回の射出時においては不純物の混在を抑制することが可能となり、ひいては品質の向上を図ることができることとなる。
【0054】
以上のように、本実施形態に係る減圧鋳造装置30においては、減圧鋳造のショットごとに閉塞部材10による開閉を行う際に、第三筒状部材10cを左右方向に移動させて閉塞部材10を伸縮させる構成としている。このため、射出チップ3による溶湯5の射出動作が行われる時以外で閉塞部材10と射出チップ3の支持軸9とが摺動することがない。つまり、閉塞部材10と射出チップ3の支持軸9とは、閉塞部材10によって減圧室11を形成する際には摺動することがなく、射出チップ3による溶湯5の射出動作においてのみ摺動するのである。これにより、閉塞部材10と支持軸9との接触部における摺動回数を低減させることが可能となるため、シール部材12(軸シールユニット)の耐久性及び保全性が低下することを防止できるのである。
【0055】
また、本実施形態においては、底部から開口部に向かって段階的に内径が変化する筒状部材である、第一筒状部材10a、第二筒状部材10b、第三筒状部材10cを組み合わせることにより、閉塞部材10を伸縮可能に構成している。これにより、閉塞部材10についてシール性を確保しつつ簡易な構成とすることができるのである。
【0056】
[第二〜第四実施形態]
次に、別の実施形態に係る減圧鋳造装置における閉塞部材の構成について、図5から図7を用いて説明する。
なお、本実施形態以下において説明する減圧鋳造装置においては、上述した第一実施形態に係る減圧鋳造装置30と共通する部分についてはその説明を省略する。
【0057】
第二実施形態に係る減圧鋳造装置については、第一実施形態と構成が異なる閉塞部材110を中心に説明する。図5(a)、(b)はそれぞれ給湯時、減圧時における本実施形態に係る減圧鋳造装置における閉塞部材110の周辺を示す断面図である。
【0058】
本実施形態における閉塞部材110についても、前記第一実施形態における閉塞部材10と同様に、底部と開口部との間で、射出チップ3の射出動作時における移動方向に伸縮可能に構成されている。具体的には、図5(a)に示す如く、底部から開口部に向かって段階的に内径が大きくなるように変化する複数の筒状部材である、第一筒状部材110a、第二筒状部材110b、第三筒状部材110cを組み合わせて形成されている。つまり、閉塞部材110の底部である第一筒状部材110a、中間部である第二筒状部材110b、開口部である第三筒状部材110cの順に、その内径が大きくなっていくように構成されているのである。
【0059】
図5(a)に示す如く、前記の筒状部材110a・110b・110cのうち、第一筒状部材110aだけが有底筒状に形成され、第二筒状部材110b及び第三筒状部材110cは両端部が開口した筒状に形成されている。つまり、閉塞部材110は、第一筒状部材110a、第二筒状部材110b、第三筒状部材110cを組み合わせた状態で有底筒状になるように構成されているのである。
【0060】
そして、これらの複数の筒状部材110a・110b・110cを、射出チップ3の射出動作時における移動方向である左右方向に相互に摺動させることにより、伸縮可能に構成されているのである。詳しくは、図5(b)に示す如く、第三筒状部材110cを左右方向に移動させることにより、閉塞部材110が伸縮するように構成されているのである。
【0061】
また、第一筒状部材110aと第二筒状部材110bとの接触部分(第一筒状部材110aの外周面全体と第二筒状部材110bの左端部内周面)、及び、第二筒状部材110bと第三筒状部材110cとの接触部分(第二筒状部材110bの外周面全体と第三筒状部材110cの左端部内周面)には、それぞれを螺合可能にねじ切り部110e・110fが形成されている。また、第一筒状部材110aと第二筒状部材110bとの接触部分、及び、第二筒状部材110bと第三筒状部材110cとの接触部分において、それぞれのねじ切り部110e・110fで螺合させることにより、図5(a)、(b)に示す如く閉塞部材110が構成されるのである。そして、それぞれのねじ切り部110e・110fにグリス等の潤滑剤が塗布されることにより、ねじ切り部110e・110fにおけるシール性が確保されるとともに、各筒状部材110a・110b・110cにおける相互の摺動が円滑となる。
【0062】
上記の如く、閉塞部材110は射出チップ3の射出動作時における移動方向側(右側)の端部である第三筒状部材110cの側が開放される略円筒状の部材であり、もう一方の、即ち射出チップ3の射出動作時における移動方向とは反対側(左側)の、閉じた端部である第一筒状部材110aの貫通孔110dには、支持軸9が摺動自在に挿通される。
また、筒状に構成される閉塞部材110(第一筒状部材110a、第二筒状部材110b、第三筒状部材110c)の内径寸は、射出スリーブ2の外径寸よりも大きく構成され、第三筒状部材110cを、前記射出チップ3の射出時における移動方向と同じ方向へ移動させることで、前記閉塞部材110の内部の空間に前記射出スリーブ2の開放端部2aが挿入されるようになっている。
【0063】
本実施形態においては、第一筒状部材110aの左側外周面から固定治具27が下方に延出され、固定治具27の先端にはモータ28が配設されている。そして、モータ28からは右側方に出力軸29が延出され、出力軸29の中途部から先端部にかけては軸心方向と平行にギヤ部29aが形成されている。また、第三筒状部材110cの外周面右端部にもギヤ部が形成され、出力軸29におけるギヤ部29aと歯合している。
【0064】
図5(b)に示すごとく、閉塞部材110は第三筒状部材110cを左右方向に移動させることにより伸縮するように構成されている。具体的には、モータ28が出力軸29を図5(a)中の矢印αの如く回転させることにより、第三筒状部材110cが図5(a)中の矢印βの如く回転し、ねじ切り部110fにおける摺動により右側方に移動するのである。また、第三筒状部材110cの回動に伴って第二筒状部材110bも回動し、ねじ切り部110eにおける摺動により右側方に移動するのである。そして、第三筒状部材110c及び第二筒状部材110bが右方向に移動して閉塞部材110が伸張した際には、第三筒状部材110cの右側端部が前記射出スリーブ2のフランジ部8に圧接し、前記射出スリーブ2の開放端部2aの周囲を取り囲む減圧室11が形成されるようになっている。
【0065】
なお、本実施形態においては、出力軸29のギヤ部29aと第三筒状部材110cとを歯合させることにより、モータ28で第三筒状部材110cを回動させる構成としたが、他の構成とすることも可能である。例えば、ベルトやチェーンを介して第三筒状部材110cとモータとを連結し、第三筒状部材110cを回動させる構成とすることもできる。
【0066】
以上のように、本実施形態に係る減圧鋳造装置においても、減圧鋳造のショットごとに閉塞部材110による開閉を行う際に、第三筒状部材110cを左右方向に移動させて閉塞部材110を伸縮させる構成としている。このため、射出チップ3による溶湯5の射出動作が行われる時以外で閉塞部材110と射出チップ3の支持軸9とが摺動することがない。つまり、閉塞部材110と射出チップ3の支持軸9とは、閉塞部材110によって減圧室11を形成する際には摺動することがなく、射出チップ3による溶湯5の射出動作においてのみ摺動するのである。これにより、閉塞部材110と支持軸9との接触部における摺動回数を低減させることが可能となるため、シール部材12(軸シールユニット)の耐久性及び保全性が低下することを防止できるのである。
【0067】
第三実施形態に係る減圧鋳造装置についても、第一実施形態と構成が異なる閉塞部材210を中心に説明する。図6(a)、(b)はそれぞれ給湯時、減圧時における本実施形態に係る減圧鋳造装置における閉塞部材210の周辺を示す断面図である。
【0068】
本実施形態における閉塞部材210についても、前記第一実施形態における閉塞部材10と同様に、底部と開口部との間で、射出チップ3の射出動作時における移動方向に伸縮可能に構成されている。具体的には、図6(a)に示す如く、閉塞部材210の底部である第一筒状部材210aと、開口部である第二筒状部材210cとを、蛇腹状に形成された筒状の伸縮部材210bで連結して形成されているのである。つまり、閉塞部材210は、第一筒状部材210a、伸縮部材210b、第二筒状部材210cを組み合わせた状態で有底筒状になるように構成されているのである。
【0069】
そして、図6(b)に示す如く、第二筒状部材210cをアクチュエータ13によって左右方向に移動させることにより、閉塞部材210が伸縮するように構成されているのである。さらに、第一筒状部材210aの右端面は固定ガイド26を介してフランジ部8と連結されている。つまり、第一筒状部材210aは固定ガイド26によって左右方向への移動が規制されているのである。
【0070】
上記の如く、閉塞部材210は射出チップ3の射出動作時における移動方向側(右側)の端部である第二筒状部材210cの側が開放される略円筒状の部材であり、もう一方の、即ち射出チップ3の射出動作時における移動方向とは反対側(左側)の、閉じた端部である第一筒状部材210aの貫通孔には、支持軸9が摺動自在に挿通される。
また、筒状に構成される閉塞部材210の内径寸は、射出スリーブ2の外径寸よりも大きく構成され、第二筒状部材210cを、前記射出チップ3の射出時における移動方向と同じ方向へ移動させることで、閉塞部材210の内部の空間に前記射出スリーブ2の開放端部2aが挿入されるようになっている。
【0071】
図6(b)に示すごとく、閉塞部材210はアクチュエータ13によって、第二筒状部材210cを左右方向に移動させることにより伸縮するように構成されている。そして、第二筒状部材210cが右方向に移動して閉塞部材210が伸張した際には、第二筒状部材210cの右側端部が前記射出スリーブ2のフランジ部8に圧接し、前記射出スリーブ2の開放端部2aの周囲を取り囲む減圧室11が形成されるようになっている。
【0072】
以上のように、本実施形態に係る減圧鋳造装置においても、減圧鋳造のショットごとに閉塞部材210による開閉を行う際に、閉塞部材210を伸縮させる構成としている。このため、射出チップ3による溶湯5の射出動作が行われる時以外で閉塞部材210と射出チップ3の支持軸9とが摺動することがない。つまり、閉塞部材210と射出チップ3の支持軸9とは、閉塞部材210によって減圧室11を形成する際には摺動することがなく、射出チップ3による溶湯5の射出動作においてのみ摺動するのである。これにより、閉塞部材210と支持軸9との接触部における摺動回数を低減させることが可能となるため、シール部材12(軸シールユニット)の耐久性及び保全性が低下することを防止できるのである。
【0073】
第四実施形態に係る減圧鋳造装置についても、第一実施形態と構成が異なる閉塞部材310を中心に説明する。図7(a)、(b)はそれぞれ給湯時、減圧時における本実施形態に係る減圧鋳造装置における閉塞部材310の周辺を示す断面図である。
【0074】
本実施形態における閉塞部材310についても、前記第一実施形態における閉塞部材10と同様に、底部と開口部との間で、射出チップ3の射出動作時における移動方向に伸縮可能に構成されている。具体的には、図7(a)に示す如く、閉塞部材310の底部である第一筒状部材310aと、開口部である第二筒状部材310cとを、弾性素材で変形可能に形成された筒状の伸縮部材310bで連結して形成されているのである。つまり、閉塞部材310は、第一筒状部材310a、伸縮部材310b、第二筒状部材310cを組み合わせた状態で有底筒状になるように構成されているのである。その他の構成は、前記第三実施形態と同様であるため、省略する。
【0075】
以上のように、本実施形態に係る減圧鋳造装置においても、減圧鋳造のショットごとに閉塞部材310による開閉を行う際に、閉塞部材310を伸縮させる構成としている。このため、射出チップ3による溶湯5の射出動作が行われる時以外で閉塞部材310と射出チップ3の支持軸9とが摺動することがない。つまり、閉塞部材310と射出チップ3の支持軸9とは、閉塞部材310によって減圧室11を形成する際には摺動することがなく、射出チップ3による溶湯5の射出動作においてのみ摺動するのである。これにより、閉塞部材310と支持軸9との接触部における摺動回数を低減させることが可能となるため、シール部材12(軸シールユニット)の耐久性及び保全性が低下することを防止できるのである。
【0076】
[第五実施形態]
次に、第五実施形態に係る減圧鋳造装置430の構成について、図8及び図9を用いて説明する。
本実施形態に係る減圧鋳造装置430においては、図8に示す如く、第一実施形態に係る減圧鋳造装置30の構成に対して、閉塞部材410の構造が相違する。具体的には、閉塞部材410の底部である第一筒状部材410aは、射出チップ3の支持軸9に、支持軸9に対して相対的に摺動不能に固定されているのである。より詳細には、支持軸9における射出チップ3の射出動作方向と反対側である左側端部にカップリング9aが配設され、第一筒状部材410aがカップリング9aに締結されることにより、第一筒状部材410aが支持軸9に固定されるのである。
【0077】
なお、本実施形態においては、第一筒状部材410aを支持軸9に固定する部材としてカップリング9aを用いたが、他の構成とすることも可能である。例えば、第一筒状部材410aを支持軸9に嵌合させたり、溶接したりすることで直接取り付ける構成とすることもできる。また、第一筒状部材410aを支持軸9に固定するために他の治具を用いる構成とすることも可能である。
【0078】
本実施形態に係る減圧鋳造装置430においては図9に示す如く、第2減圧工程時S3において射出チップ3が射出動作する際に、第一筒状部材410aが支持軸9と一体的に右側方(射出チップ3の射出動作方向)へ移動する。つまり、射出チップ3の射出動作に伴って第一筒状部材410aも移動し、それと同時に伸長状態にある閉塞部材410が収縮するのである。
【0079】
本実施形態に係る減圧鋳造装置430においては、上記の如く構成することにより、閉塞部材410と射出チップ3の支持軸9との摺動をなくしている。つまり、閉塞部材410と射出チップ3の支持軸9とは、閉塞部材410によって減圧室11を形成する際にも、射出チップ3による溶湯5の射出動作においても、摺動することがないのである。これにより、閉塞部材410と支持軸9との接触部において摺動しないため閉塞部材410の耐久性及び保全性をより向上させることができるのである。
【0080】
[第六実施形態]
次に、第六実施形態に係る減圧鋳造装置530の構成について、図10及び図11を用いて説明する。
本実施形態に係る減圧鋳造装置530においては、図10に示す如く、第五実施形態に係る減圧鋳造装置430の構成に対して、閉塞部材410が収縮した状態で固定可能に構成されている。具体的には、第一筒状部材410aと第三筒状部材410cとを連結する固定治具51により、閉塞部材410が伸張しないように固定されるのである。固定治具51は、図10に示すように第一筒状部材410aと第三筒状部材410cとのそれぞれに対してピンのように挿入して固定する構成でも、第一筒状部材410aと第三筒状部材410cとの摺動方向を規制するように周囲に被せる構成でもよい。
【0081】
本実施形態に係る減圧鋳造装置530においては図11に示す如く、減圧工程時S2において射出チップ3が射出動作する際に、閉塞部材410が支持軸9と一体的に右側方(射出チップ3の射出動作方向)へ移動する。つまり、射出チップ3の射出動作に伴って閉塞部材410も移動するのである。なお、本実施形態においては、閉塞部材410によって減圧室が形成されないため、第1の減圧手段による減圧は行われない。
【0082】
本実施形態に係る減圧鋳造装置530においては、上記の如く構成することにより、閉塞部材410を使用しない場合においても鋳造をすることが可能となる。つまり、減圧室からの減圧を行わない場合についても、閉塞部材410を取り外すことなく鋳造を行うことができるため、作業工数を低減して生産性を向上させることが可能となるのである。
【符号の説明】
【0083】
1 金型
2 射出スリーブ
3 射出チップ
4 キャビティ
6 給湯口
10 閉塞部材
11 減圧室
30 減圧鋳造装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧鋳造装置、及び、減圧鋳造方法に関し、具体的には、金型のキャビティ内を減圧して鋳造を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の減圧鋳造においては、高強度・高品質の製品を鋳造するため、キャビティ内において短時間で高い減圧度を達成する技術が用いられている。このような減圧鋳造において使用される減圧鋳造装置においては、射出チップと射出スリーブとの間に生じる隙間から溶湯が漏出したり、キャビティや射出スリーブにおける減圧度が不安定になったりすることを防ぐための技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
前記特許文献1で開示される減圧鋳造装置においては、射出チップの背後(キャブティに対して反対側)にカップ形状の閉塞部材を配設し、この閉塞部材で射出スリーブの開放端部の周囲を塞ぐことで減圧室を形成するように構成されている。これにより、キャビティや射出スリーブにおける減圧度を安定させることができるとともに、射出チップと射出スリーブとの間に生じる隙間から溶湯が漏出することを防止しているのである。
【0004】
しかし、特許文献1に開示される従来の減圧鋳造装置においては、減圧鋳造のショットごとに閉塞部材による開閉を行う。つまり、ショットごとにおける、閉塞部材によって減圧室を形成する際と、射出チップによる射出動作の際と、の二つの場合に、閉塞部材と射出チップとが摺動するのである。このため、閉塞部材と射出チップの支持軸との接触部における軸シールユニットの耐久性及び保全性が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−93712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題を鑑み、減圧鋳造の際に閉塞部材と射出チップの支持軸との接触部における、軸シールユニットの耐久性及び保全性の低下を防止することができる、減圧鋳造装置、及び、減圧鋳造方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、金型のキャビティと、給湯口及びその外壁に形成されたフランジ部を備え、前記キャビティに連通された、射出スリーブと、支持軸の先端部に配設されて、該支持軸を前記射出スリーブに挿通することにより、前記射出スリーブの内部を軸心方向に摺動可能に構成された、射出チップと、前記射出スリーブの給湯口、及び、前記射出スリーブにおける前記キャビティと反対側の開放端部、の双方を取り囲む減圧室を内部に形成する、閉塞部材と、前記キャビティ内及び前記減圧室に連通された、減圧手段と、を具備し、前記減圧手段により、前記キャビティ及び前記減圧室の内部を減圧した状態で、前記射出スリーブ内に供給した溶湯を前記射出チップにより押し出して前記キャビティ内へ射出する射出動作を行うことにより、鋳造を行う減圧鋳造装置であって、前記閉塞部材は、前記キャビティと反対の側に形成された底部と、前記キャビティの側にその内寸が前記射出スリーブの外寸よりも大きくなるように形成された開口部と、を備える有底筒状の部材であり、前記底部と前記開口部との間で、前記射出チップの射出動作時における移動方向に伸縮可能に構成され、前記閉塞部材における前記底部の貫通孔に、前記射出チップの支持軸が挿通され、前記閉塞部材の前記開口部が、前記射出チップの射出動作時における移動方向へ移動されて、前記閉塞部材が伸張されることにより、前記閉塞部材の内部の空間に前記射出スリーブの開放端部が挿入され、前記開口部が前記フランジ部に圧接されて、前記減圧室が形成されるものである。
【0009】
また、請求項2においては、前記閉塞部材は、前記底部から前記開口部に向かって段階的に内径が変化する複数の筒状部材を組み合わせて形成され、該複数の筒状部材を、前記射出チップの射出動作時における移動方向に相互に摺動させることにより、伸縮可能に構成されるものである。
【0010】
また、請求項3においては、前記底部は、前記射出チップの支持軸に、該支持軸に対して相対的に摺動不能に固定されるものである。
【0011】
また、請求項4においては、前記閉塞部材は、収縮した状態で固定可能に構成されるものである。
【0012】
また、請求項5においては、金型のキャビティと、給湯口及びその外壁に形成されたフランジ部を備え、前記キャビティに連通された、射出スリーブと、支持軸の先端部に配設されて、該支持軸を前記射出スリーブに挿通することにより、前記射出スリーブの内部を軸心方向に摺動可能に構成された、射出チップと、前記射出スリーブの給湯口、及び、前記射出スリーブにおける前記キャビティと反対側の開放端部、の双方を取り囲む減圧室を内部に形成する、閉塞部材と、前記キャビティ内及び前記減圧室に連通された、減圧手段と、を具備する減圧鋳造装置を用いて行う減圧鋳造方法であって、前記閉塞部材を、前記キャビティと反対の側に形成された底部と、前記キャビティの側にその内寸が前記射出スリーブの外寸よりも大きくなるように形成された開口部と、を備える有底筒状の部材とし、前記底部と前記開口部との間で、前記射出チップの射出動作時における移動方向に伸縮可能に構成し、前記閉塞部材における前記底部の貫通孔に、前記射出チップの支持軸を挿通し、前記閉塞部材の前記開口部を、前記射出チップの射出動作時における移動方向へ移動して、前記閉塞部材を伸張することにより、前記閉塞部材の内部の空間に前記射出スリーブの開放端部を挿入し、前記開口部を前記フランジ部に圧接して、前記減圧室を形成した状態で、前記減圧手段により、前記キャビティ及び前記減圧室の内部を減圧した状態で、射出スリーブ内に供給した溶湯を前記射出チップにより押し出して前記キャビティ内へ射出する射出動作を行うことにより、鋳造を行うものである。
【0013】
また、請求項6においては、前記閉塞部材を、前記底部から前記開口部に向かって段階的に内径が変化する複数の筒状部材を組み合わせて形成し、該複数の筒状部材を、前記射出チップの射出動作時における移動方向に相互に摺動させることにより、前記閉塞部材を伸縮可能に構成するものである。
【0014】
また、請求項7においては、前記底部を、前記射出チップの支持軸に、該支持軸に対して相対的に摺動不能に固定するものである。
【0015】
また、請求項8においては、前記閉塞部材を、収縮した状態で固定可能に構成するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0017】
本発明により、減圧鋳造の際に閉塞部材と射出チップの支持軸との接触部における、軸シールユニットの耐久性及び保全性の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第一実施形態に係る減圧鋳造装置について給湯時の状態を示す概略断面図。
【図2】同じく減圧時の状態を示す概略断面図。
【図3】(a)、(b)はそれぞれ給湯時、減圧時における第一実施形態に係る閉塞部材の周辺を示す断面図。
【図4】第一実施形態に係る減圧鋳造装置における減圧鋳造の一連のプロセスについて示す図。
【図5】(a)、(b)はそれぞれ給湯時、減圧時における第二実施形態に係る閉塞部材の周辺を示す断面図。
【図6】(a)、(b)はそれぞれ給湯時、減圧時における第三実施形態に係る閉塞部材の周辺を示す断面図。
【図7】(a)、(b)はそれぞれ給湯時、減圧時における第四実施形態に係る閉塞部材の周辺を示す断面図。
【図8】第五実施形態に係る減圧鋳造装置について給湯時の状態を示す概略断面図。
【図9】第五実施形態に係る減圧鋳造装置における減圧鋳造の一連のプロセスについて示す図。
【図10】第六実施形態に係る減圧鋳造装置について給湯時の状態を示す概略断面図。
【図11】第六実施形態に係る減圧鋳造装置における減圧鋳造の一連のプロセスについて示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0020】
[減圧鋳造装置30の構成]
まず、本発明の第一実施形態に係る減圧鋳造装置30、及び、減圧鋳造方法について、図1から図3を用いて説明する。本明細書では便宜上、図1における右側を減圧鋳造装置30の右側方、左側を減圧鋳造装置30の左側方として説明する。
図1に示すごとく、減圧鋳造装置30における金型1には、略円筒形状の射出スリーブ2が左側方に突出して付設されている。そして、該射出スリーブ2内にて短円柱状の射出チップ3を右側方に摺動させ、射出スリーブ2内に供給された溶湯5を押し出して、金型1に設けたキャビティ4内に射出する構造としている。
【0021】
前記射出スリーブ2には、給湯口6が設けられており、この給湯口6を介して、溶湯5がラドル7から射出スリーブ2内に供給されるようになっている。
さらに、前記射出スリーブ2には、該射出スリーブ2の外周壁から半径方向外側に突出するフランジ部8が設けられている。このフランジ部8は、射出チップ3によって射出スリーブ2内の溶湯5を押し出し、キャビティ4内に射出する射出動作時における、該射出チップ3の進行方向(図1における右側方)と、略直交する平面と略並行となる壁面を形成するように構成される。
また、このフランジ部8は、前記給湯口6が配置される位置よりも右側方、即ち射出チップ3が溶湯5を射出する際に移動する方向の側に配設されている。
【0022】
前記射出チップ3の支持軸9と同軸上には、射出スリーブ2の給湯口6、及び、射出スリーブ2におけるキャビティ4と反対側の開放端部2a、の双方を取り囲む減圧室11(チャンバ)を内部に形成するための閉塞部材10が設けられる。閉塞部材10は、キャビティ4と反対の側に形成された底部と、キャビティ4の側にその内寸が射出スリーブ2の外寸よりも大きくなるように形成された開口部と、を備える有底筒状の部材である。
【0023】
そして、閉塞部材10は、底部と開口部との間で、射出チップ3の射出動作時における移動方向に伸縮可能に構成されている。具体的には、図3(a)に示す如く、底部から開口部に向かって段階的に内径が大きくなるように変化する複数の筒状部材である、第一筒状部材10a、第二筒状部材10b、第三筒状部材10cを組み合わせて形成されている。つまり、閉塞部材10の底部である第一筒状部材10a、中間部である第二筒状部材10b、開口部である第三筒状部材10cの順に、その内径が大きくなっていくように構成されているのである。
【0024】
図3(a)に示す如く、前記の筒状部材10a・10b・10cのうち、第一筒状部材10aだけが有底筒状に形成され、第二筒状部材10b及び第三筒状部材10cは両端部が開口した筒状に形成されている。つまり、閉塞部材10は、第一筒状部材10a、第二筒状部材10b、第三筒状部材10cを組み合わせた状態で有底筒状になるように構成されているのである。
【0025】
そして、これらの複数の筒状部材10a・10b・10cを、射出チップ3の射出動作時における移動方向である左右方向に相互に摺動させることにより、伸縮可能に構成されているのである。詳しくは、図3(b)に示す如く、第三筒状部材10cをアクチュエータ13によって左右方向に移動させることにより、閉塞部材10が伸縮するように構成されているのである。
【0026】
また、第一筒状部材10aと第二筒状部材10bとの間、及び、第二筒状部材10bと第三筒状部材10cとの間には、それぞれシール部材10e及び10fが介挿されている。さらに、第一筒状部材10aの右端面は固定ガイド26を介してフランジ部8と連結されている。つまり、第一筒状部材10aは固定ガイド26によって左右方向への移動が規制されているのである。
【0027】
上記の如く、閉塞部材10は射出チップ3の射出動作時における移動方向側(右側)の端部である第三筒状部材10cの側が開放される略円筒状の部材であり、もう一方の、即ち射出チップ3の射出動作時における移動方向とは反対側(左側)の、閉じた端部である第一筒状部材10aの貫通孔10dには、支持軸9が摺動自在に挿通される。
また、筒状に構成される閉塞部材10(第一筒状部材10a、第二筒状部材10b、第三筒状部材10c)の内径寸は、射出スリーブ2の外径寸よりも大きく構成され、第三筒状部材10cを、前記射出チップ3の射出時における移動方向と同じ方向へ移動させることで、前記閉塞部材10の内部の空間に前記射出スリーブ2の開放端部2aが挿入されるようになっている。
【0028】
前記閉塞部材10(第一筒状部材10a)、前記射出スリーブ2、前記射出チップ3、及び、前記射出チップ3の支持軸9は、同軸上に配置される構成とすることにより、減圧鋳造装置30の小型化が図れるようになっている。
【0029】
前記支持軸9は、エアシリンダや油圧シリンダ等からなる図示せぬアクチュエータによって進退するように制御されており、これにより、先端に設けられた射出チップ3が射出スリーブ2内にて進退する構造となっている。
【0030】
第一筒状部材10aに設けた貫通孔10dに対しては、前記支持軸9が摺動自在に貫装され、また、前記貫通孔10dには、支持軸9との間の隙間をシールするため、Oリング等から構成されるシール部材12が設けられている。
【0031】
図2に示すごとく、閉塞部材10は、エアシリンダや油圧シリンダ等からなるアクチュエータ13によって、第三筒状部材10cを左右方向に移動させることにより伸縮するように構成されている。そして、第三筒状部材10cが右方向に移動して閉塞部材10が伸張した際には、第三筒状部材10cの右側端部が前記射出スリーブ2のフランジ部8に圧接し、前記射出スリーブ2の開放端部2aの周囲を取り囲む減圧室11が形成されるようになっている。
なお、閉塞部材10が伸長する際には、第三筒状部材10cが、図3(a)に示す収縮状態からアクチュエータ13により右方向へ移動されると、まず第三筒状部材10cが第二筒状部材10bに対して右方へ摺動して、第三筒状部材10cの左端部と第二筒状部材10bの右端部とが係合する。第三筒状部材10cと第二筒状部材10bとが係合した後は、第三筒状部材10cの移動に伴い、第二筒状部材10bが第一筒状部材10aに対して右方へ摺動して、図3(b)に示すように閉塞部材10が伸長した状態となる。
このアクチュエータ13は、後述するように、射出チップ3(支持軸9)とは独立して駆動されるようになっており、これにより、閉塞部材10(第三筒状部材10c)と射出チップ3が独立して動作するようになっている。
【0032】
このように、閉塞部材10の開口部である第三筒状部材10cが、アクチュエータ13によって、射出チップ3の射出動作時における移動方向である右側方へ移動されて、閉塞部材10が伸張される。これにより、閉塞部材10の内部の空間に射出スリーブ2の開放端部2aが挿入され、第三筒状部材10cがフランジ部8に圧接されて、減圧室11が形成されるのである。
【0033】
さらに、前記射出スリーブ2に立設されるフランジ部8において、第三筒状部材10cの右側端部と対向する側には、Oリング等から構成されるシール部材14が設けられている。図2に示すごとく、このシール部材14によって、第三筒状部材10cがフランジ部8に圧接される状態において、両者間がシールされるようにしている。
なお、第三筒状部材10cにシール部材14を設ける構成としてもよい。
【0034】
そして、このようなフランジ部8の構成により、第三筒状部材10cの射出動作時における移動方向のストッパー、及び、減圧室11のシール、といった二つの機能が実現可能となる。
また、閉塞部材10(第二筒状部材10b及び第三筒状部材10c)は射出スリーブ2の外側を移動することから、閉塞部材10が射出スリーブ2に摺接することはなく、射出スリーブ2と閉塞部材10の間においては潤滑油が必要とされることはない。
【0035】
前記フランジ部8で構成されるシール部(本実施例ではシール部材14)は、射出スリーブ2の外側に配置されることから、溶湯5の熱によってフランジ部8が変形することなく、確実なシール性能を確保できることとなる。
即ち、射出スリーブ2の金型と反対側の開放端部2aを閉塞部材10で取り囲み、減圧室11を内部に形成する構成としているため、射出スリーブ2の熱による変形、膨張が発生し、射出チップ3と射出スリーブ2と間の隙間が変化しても、シール性能を保持することが可能となるのである。
【0036】
また、前記閉塞部材10は、給湯口6に触れることなく、減圧室11を形成することができる。これにより、給湯口6に付着し得るこぼれ湯等で減圧室11のシール性能が損なわれるといった不具合が発生しない。また、目標とされる減圧度を確実に確保することが可能となり、さらに、シール性能に関連するメンテナンスフリーを実現することが可能となる。
【0037】
そして、図1及び図2に示すごとく、前記閉塞部材10には、その内部の空間で形成されることになる減圧室11内の空気を吸引するための吸引口15が設けられている。
なお、この吸引口15は、前記射出スリーブ2のフランジ部8に設けることとし、前記閉塞部材10を図2の状態とした際に、フランジ部8に設けた吸引口より吸引を行うこととしてもよく、この構成によれば、後述する第1の減圧手段に繋がる吸気配管を固定できることになる。
【0038】
前記吸引口15は、第1の減圧手段(本実施例では第1減圧タンク18及び第1真空ポンプ19)に接続される。前記第1減圧タンク18と前記吸引口15との接続経路上には該接続経路を開閉する第1開閉バルブ20が設けられている。
そして、その接続経路上の前記第1開閉バルブ20を開くことによって、前記減圧室11、及び、キャビティ4の減圧が開始されるようになっている。
【0039】
また、前記金型1には、前記キャビティ4内に通じ、キャビティ4内の空気を吸引するための吸引口16が設けられている。また、キャビティ4と前記吸引口16を結ぶ経路には、シャットバルブ17が設けられている。
【0040】
前記吸引口16は、第2の減圧手段(本実施例では第2減圧タンク21及び第2真空ポンプ22)に接続される。前記第2減圧タンク21と前記吸引口16との接続経路上には該接続経路を開閉する第2開閉バルブ23が設けられている。
そして、その接続経路上の前記第2開閉バルブ23を開くことよって、前記キャビティ4の減圧が開始されるようになっている。
【0041】
このように、本実施形態に係る減圧鋳造装置30は、第1及び第2の減圧手段により、キャビティ4及び減圧室11の内部を減圧した状態で、射出スリーブ2の内部に供給した溶湯5を射出チップ3により押し出してキャビティ4内へ射出する射出動作を行うことにより、鋳造を行うのである。
なお、前記第1減圧タンク18、及び第2減圧タンク21はバッファとして機能させるものである。
【0042】
図1及び図2に示す構成においては、ラドル7、射出チップ3、閉塞部材10(アクチュエータ13)、シャットバルブ17、第1開閉バルブ20、第2開閉バルブ23、第1真空ポンプ19、第2真空ポンプ22は、連動するように制御される構成とすることが望ましい。
例えば、前記アクチュエータ13については、給湯完了後のラドル7の後退とともに閉塞部材10を伸張して、第三筒状部材10cを前進させフランジ部8に圧接させて減圧室11を形成させ、射出完了後は、射出チップ3の後退前に、又は、同時に、後退する動作を行うこととする、といった動作制御が考えられる。
なお、各装置を動作させる具体的な機構については、特に限定されるものではない。
【0043】
[減圧鋳造装置30による減圧鋳造方法]
次に、図4を用いて、上記の減圧鋳造装置30による減圧鋳造プロセスについて説明する。
まず給湯時S1では、ラドル7にて、給湯口6から射出スリーブ2内に溶湯5が供給される。
この際、前記閉塞部材10は、アクチュエータ13によって収縮した状態にある。
また、射出チップ3の射出方向側先端部は、給湯口6よりも手前の位置に配置されるようにして、前記給湯口6が完全に開放された状態とする。また、前記第1開閉バルブ20及び第2開閉バルブ23は閉じた状態とし、減圧は行われない状態とする。
【0044】
前記ラドル7による溶湯5の供給が終了すると、前記アクチュエータ13によって、第三筒状部材10cの図4中矢印A方向への移動により、閉塞部材10の伸張が開始され、減圧室構成工程となる。
減圧室構成工程では、第三筒状部材10cが図4中矢印A方向へ移動し、その後、射出スリーブ2に設けたフランジ部8に圧接される。これにより、給湯口6と、射出スリーブ2における前記金型1と反対側の開放端部2aと、を取り囲む減圧室11が構成されるのである。
このようにして、射出スリーブ2の開放端部2a、及び、給湯口6が、閉塞部材10の減圧室11内に配置される。この状態では、射出チップ3の背面側(溶湯5と接しない側の端面側)の空間と、射出スリーブ2内の空間とが、前記給湯口6を介して連通されることになる。
【0045】
次に、第1減圧工程時S2となる。
第1減圧工程時S2においては、前記射出チップ3は、前記給湯口6よりも前記射出スリーブ2の開放端部2aの側に配置され、前記給湯口6を介して前記減圧室11と前記射出スリーブ2内とが連通される構成となっている。
【0046】
そして、溶湯5の沈静後、前記第1開閉バルブ20を開くことにより、図4中矢印aの方向に、減圧室11、及び、キャビティ4内の空気の吸引が開始され、第1の減圧が開始される。なお、第1の減圧の開始前においては、前記ラドル7による給湯によって揺れている溶湯5を沈静させるため、しばらく時間が置かれる(例えば、数秒程度)。
【0047】
また、この第1減圧工程は、射出チップ3による溶湯5の射出動作が行われる前に開始されるものである。即ち、射出チップ3が給湯口6を塞ぐ前に第1減圧工程が開始されるようになっている。そして、この減圧においては、前記減圧室11は開口の大きな給湯口6で射出スリーブ2に連通されるため、射出スリーブ2内の空気は、前記給湯口6を介して迅速に吸引されるのである。
この第1減圧工程は、射出チップ3が図示せぬアクチュエータによって射出動作を開始した後、該射出チップ3が図4中矢印Bの方向(射出チップ3により溶湯5を射出する方向)に移動して前記給湯口6を塞ぐまでの間、継続する。
【0048】
次に、前記射出チップ3の射出動作によって前記給湯口6を塞いだ後においては、第2減圧工程時S3となる。
このときには、前記射出チップ3の射出動作により、溶湯5が所定の減圧度が確保されたキャビティ4内へと射出される。この射出が行われる間は、前記第1開閉バルブ20を閉じ、前記第2開閉バルブ23を開くことにより、図3中矢印bの方向にキャビティ4の空気の吸引が開始され、第2減圧工程が行われる。
つまり、第2減圧工程時S3においては、前記第2の減圧手段によりキャビティ4内の空気を吸引した状態で、溶湯5がキャビティ4内へ射出されることとなるのである。
【0049】
このように本実施例に係る減圧鋳造装置30は、減圧室11に連通された第1の減圧手段と、キャビティ4内に連通された第2の減圧手段との複数の減圧手段を備えるため、第1の減圧手段による減圧の後に、第2の減圧手段で減圧を進行させることが可能となる。即ち、減圧速度を向上させることができ、金型1内を所定の圧力に減圧するための時間を短縮することが可能となるのである。
【0050】
さらに、第1の減圧手段から第2の減圧手段への切替は、射出チップ3が給湯口6を塞いだ後に行われるよう制御されるため、第2の減圧手段による減圧が行われる空間は、射出スリーブ2内の射出チップ3進行方向側の空間、及びキャビティ4内の空間に限られ、第2の減圧手段による減圧の効果をより高めることが可能となるのである。
【0051】
また、ここで、射出チップ3が給湯口6を通過した時点では、射出スリーブ2内が射出チップ3によって、キャビティ4側の空間と、射出チップ3の背面側の空間と、の二つの空間に分かれることになる。
しかし、前記吸引口16からの吸引により、射出チップ3の背面側の空間に比べてキャビティ4側の空間の減圧が進行しているため、射出スリーブ2と射出チップ3の間の隙間への溶湯5が浸入を防ぐことができる。
【0052】
次に、射出完了時S4となる。
この状態では、溶湯5を高速射出するため、シャットバルブ17が閉じられる。
そして、射出チップ3が射出側に移動しきった後に、前記第2開閉バルブ23が閉じられて、減圧が終了した状態となるのである。
その後、キャビティ4内の製品が凝固したら、型開きをして製品の取り出しが行われる。
【0053】
また、射出完了後は、前記射出チップ3は引き戻されるが、この際に、射出スリーブ2内にゴミや溶湯5の欠片等が存在する場合には、これらが射出チップ3の背面によって押し戻されるようにして除去され、射出スリーブ2の開放端部2aから掻き出される。
このように、射出チップ3の後退動作によって、射出スリーブ2内の内周面を清浄な状態とすることができる。
そして、前記ゴミ等の除去により、次回の射出時においては不純物の混在を抑制することが可能となり、ひいては品質の向上を図ることができることとなる。
【0054】
以上のように、本実施形態に係る減圧鋳造装置30においては、減圧鋳造のショットごとに閉塞部材10による開閉を行う際に、第三筒状部材10cを左右方向に移動させて閉塞部材10を伸縮させる構成としている。このため、射出チップ3による溶湯5の射出動作が行われる時以外で閉塞部材10と射出チップ3の支持軸9とが摺動することがない。つまり、閉塞部材10と射出チップ3の支持軸9とは、閉塞部材10によって減圧室11を形成する際には摺動することがなく、射出チップ3による溶湯5の射出動作においてのみ摺動するのである。これにより、閉塞部材10と支持軸9との接触部における摺動回数を低減させることが可能となるため、シール部材12(軸シールユニット)の耐久性及び保全性が低下することを防止できるのである。
【0055】
また、本実施形態においては、底部から開口部に向かって段階的に内径が変化する筒状部材である、第一筒状部材10a、第二筒状部材10b、第三筒状部材10cを組み合わせることにより、閉塞部材10を伸縮可能に構成している。これにより、閉塞部材10についてシール性を確保しつつ簡易な構成とすることができるのである。
【0056】
[第二〜第四実施形態]
次に、別の実施形態に係る減圧鋳造装置における閉塞部材の構成について、図5から図7を用いて説明する。
なお、本実施形態以下において説明する減圧鋳造装置においては、上述した第一実施形態に係る減圧鋳造装置30と共通する部分についてはその説明を省略する。
【0057】
第二実施形態に係る減圧鋳造装置については、第一実施形態と構成が異なる閉塞部材110を中心に説明する。図5(a)、(b)はそれぞれ給湯時、減圧時における本実施形態に係る減圧鋳造装置における閉塞部材110の周辺を示す断面図である。
【0058】
本実施形態における閉塞部材110についても、前記第一実施形態における閉塞部材10と同様に、底部と開口部との間で、射出チップ3の射出動作時における移動方向に伸縮可能に構成されている。具体的には、図5(a)に示す如く、底部から開口部に向かって段階的に内径が大きくなるように変化する複数の筒状部材である、第一筒状部材110a、第二筒状部材110b、第三筒状部材110cを組み合わせて形成されている。つまり、閉塞部材110の底部である第一筒状部材110a、中間部である第二筒状部材110b、開口部である第三筒状部材110cの順に、その内径が大きくなっていくように構成されているのである。
【0059】
図5(a)に示す如く、前記の筒状部材110a・110b・110cのうち、第一筒状部材110aだけが有底筒状に形成され、第二筒状部材110b及び第三筒状部材110cは両端部が開口した筒状に形成されている。つまり、閉塞部材110は、第一筒状部材110a、第二筒状部材110b、第三筒状部材110cを組み合わせた状態で有底筒状になるように構成されているのである。
【0060】
そして、これらの複数の筒状部材110a・110b・110cを、射出チップ3の射出動作時における移動方向である左右方向に相互に摺動させることにより、伸縮可能に構成されているのである。詳しくは、図5(b)に示す如く、第三筒状部材110cを左右方向に移動させることにより、閉塞部材110が伸縮するように構成されているのである。
【0061】
また、第一筒状部材110aと第二筒状部材110bとの接触部分(第一筒状部材110aの外周面全体と第二筒状部材110bの左端部内周面)、及び、第二筒状部材110bと第三筒状部材110cとの接触部分(第二筒状部材110bの外周面全体と第三筒状部材110cの左端部内周面)には、それぞれを螺合可能にねじ切り部110e・110fが形成されている。また、第一筒状部材110aと第二筒状部材110bとの接触部分、及び、第二筒状部材110bと第三筒状部材110cとの接触部分において、それぞれのねじ切り部110e・110fで螺合させることにより、図5(a)、(b)に示す如く閉塞部材110が構成されるのである。そして、それぞれのねじ切り部110e・110fにグリス等の潤滑剤が塗布されることにより、ねじ切り部110e・110fにおけるシール性が確保されるとともに、各筒状部材110a・110b・110cにおける相互の摺動が円滑となる。
【0062】
上記の如く、閉塞部材110は射出チップ3の射出動作時における移動方向側(右側)の端部である第三筒状部材110cの側が開放される略円筒状の部材であり、もう一方の、即ち射出チップ3の射出動作時における移動方向とは反対側(左側)の、閉じた端部である第一筒状部材110aの貫通孔110dには、支持軸9が摺動自在に挿通される。
また、筒状に構成される閉塞部材110(第一筒状部材110a、第二筒状部材110b、第三筒状部材110c)の内径寸は、射出スリーブ2の外径寸よりも大きく構成され、第三筒状部材110cを、前記射出チップ3の射出時における移動方向と同じ方向へ移動させることで、前記閉塞部材110の内部の空間に前記射出スリーブ2の開放端部2aが挿入されるようになっている。
【0063】
本実施形態においては、第一筒状部材110aの左側外周面から固定治具27が下方に延出され、固定治具27の先端にはモータ28が配設されている。そして、モータ28からは右側方に出力軸29が延出され、出力軸29の中途部から先端部にかけては軸心方向と平行にギヤ部29aが形成されている。また、第三筒状部材110cの外周面右端部にもギヤ部が形成され、出力軸29におけるギヤ部29aと歯合している。
【0064】
図5(b)に示すごとく、閉塞部材110は第三筒状部材110cを左右方向に移動させることにより伸縮するように構成されている。具体的には、モータ28が出力軸29を図5(a)中の矢印αの如く回転させることにより、第三筒状部材110cが図5(a)中の矢印βの如く回転し、ねじ切り部110fにおける摺動により右側方に移動するのである。また、第三筒状部材110cの回動に伴って第二筒状部材110bも回動し、ねじ切り部110eにおける摺動により右側方に移動するのである。そして、第三筒状部材110c及び第二筒状部材110bが右方向に移動して閉塞部材110が伸張した際には、第三筒状部材110cの右側端部が前記射出スリーブ2のフランジ部8に圧接し、前記射出スリーブ2の開放端部2aの周囲を取り囲む減圧室11が形成されるようになっている。
【0065】
なお、本実施形態においては、出力軸29のギヤ部29aと第三筒状部材110cとを歯合させることにより、モータ28で第三筒状部材110cを回動させる構成としたが、他の構成とすることも可能である。例えば、ベルトやチェーンを介して第三筒状部材110cとモータとを連結し、第三筒状部材110cを回動させる構成とすることもできる。
【0066】
以上のように、本実施形態に係る減圧鋳造装置においても、減圧鋳造のショットごとに閉塞部材110による開閉を行う際に、第三筒状部材110cを左右方向に移動させて閉塞部材110を伸縮させる構成としている。このため、射出チップ3による溶湯5の射出動作が行われる時以外で閉塞部材110と射出チップ3の支持軸9とが摺動することがない。つまり、閉塞部材110と射出チップ3の支持軸9とは、閉塞部材110によって減圧室11を形成する際には摺動することがなく、射出チップ3による溶湯5の射出動作においてのみ摺動するのである。これにより、閉塞部材110と支持軸9との接触部における摺動回数を低減させることが可能となるため、シール部材12(軸シールユニット)の耐久性及び保全性が低下することを防止できるのである。
【0067】
第三実施形態に係る減圧鋳造装置についても、第一実施形態と構成が異なる閉塞部材210を中心に説明する。図6(a)、(b)はそれぞれ給湯時、減圧時における本実施形態に係る減圧鋳造装置における閉塞部材210の周辺を示す断面図である。
【0068】
本実施形態における閉塞部材210についても、前記第一実施形態における閉塞部材10と同様に、底部と開口部との間で、射出チップ3の射出動作時における移動方向に伸縮可能に構成されている。具体的には、図6(a)に示す如く、閉塞部材210の底部である第一筒状部材210aと、開口部である第二筒状部材210cとを、蛇腹状に形成された筒状の伸縮部材210bで連結して形成されているのである。つまり、閉塞部材210は、第一筒状部材210a、伸縮部材210b、第二筒状部材210cを組み合わせた状態で有底筒状になるように構成されているのである。
【0069】
そして、図6(b)に示す如く、第二筒状部材210cをアクチュエータ13によって左右方向に移動させることにより、閉塞部材210が伸縮するように構成されているのである。さらに、第一筒状部材210aの右端面は固定ガイド26を介してフランジ部8と連結されている。つまり、第一筒状部材210aは固定ガイド26によって左右方向への移動が規制されているのである。
【0070】
上記の如く、閉塞部材210は射出チップ3の射出動作時における移動方向側(右側)の端部である第二筒状部材210cの側が開放される略円筒状の部材であり、もう一方の、即ち射出チップ3の射出動作時における移動方向とは反対側(左側)の、閉じた端部である第一筒状部材210aの貫通孔には、支持軸9が摺動自在に挿通される。
また、筒状に構成される閉塞部材210の内径寸は、射出スリーブ2の外径寸よりも大きく構成され、第二筒状部材210cを、前記射出チップ3の射出時における移動方向と同じ方向へ移動させることで、閉塞部材210の内部の空間に前記射出スリーブ2の開放端部2aが挿入されるようになっている。
【0071】
図6(b)に示すごとく、閉塞部材210はアクチュエータ13によって、第二筒状部材210cを左右方向に移動させることにより伸縮するように構成されている。そして、第二筒状部材210cが右方向に移動して閉塞部材210が伸張した際には、第二筒状部材210cの右側端部が前記射出スリーブ2のフランジ部8に圧接し、前記射出スリーブ2の開放端部2aの周囲を取り囲む減圧室11が形成されるようになっている。
【0072】
以上のように、本実施形態に係る減圧鋳造装置においても、減圧鋳造のショットごとに閉塞部材210による開閉を行う際に、閉塞部材210を伸縮させる構成としている。このため、射出チップ3による溶湯5の射出動作が行われる時以外で閉塞部材210と射出チップ3の支持軸9とが摺動することがない。つまり、閉塞部材210と射出チップ3の支持軸9とは、閉塞部材210によって減圧室11を形成する際には摺動することがなく、射出チップ3による溶湯5の射出動作においてのみ摺動するのである。これにより、閉塞部材210と支持軸9との接触部における摺動回数を低減させることが可能となるため、シール部材12(軸シールユニット)の耐久性及び保全性が低下することを防止できるのである。
【0073】
第四実施形態に係る減圧鋳造装置についても、第一実施形態と構成が異なる閉塞部材310を中心に説明する。図7(a)、(b)はそれぞれ給湯時、減圧時における本実施形態に係る減圧鋳造装置における閉塞部材310の周辺を示す断面図である。
【0074】
本実施形態における閉塞部材310についても、前記第一実施形態における閉塞部材10と同様に、底部と開口部との間で、射出チップ3の射出動作時における移動方向に伸縮可能に構成されている。具体的には、図7(a)に示す如く、閉塞部材310の底部である第一筒状部材310aと、開口部である第二筒状部材310cとを、弾性素材で変形可能に形成された筒状の伸縮部材310bで連結して形成されているのである。つまり、閉塞部材310は、第一筒状部材310a、伸縮部材310b、第二筒状部材310cを組み合わせた状態で有底筒状になるように構成されているのである。その他の構成は、前記第三実施形態と同様であるため、省略する。
【0075】
以上のように、本実施形態に係る減圧鋳造装置においても、減圧鋳造のショットごとに閉塞部材310による開閉を行う際に、閉塞部材310を伸縮させる構成としている。このため、射出チップ3による溶湯5の射出動作が行われる時以外で閉塞部材310と射出チップ3の支持軸9とが摺動することがない。つまり、閉塞部材310と射出チップ3の支持軸9とは、閉塞部材310によって減圧室11を形成する際には摺動することがなく、射出チップ3による溶湯5の射出動作においてのみ摺動するのである。これにより、閉塞部材310と支持軸9との接触部における摺動回数を低減させることが可能となるため、シール部材12(軸シールユニット)の耐久性及び保全性が低下することを防止できるのである。
【0076】
[第五実施形態]
次に、第五実施形態に係る減圧鋳造装置430の構成について、図8及び図9を用いて説明する。
本実施形態に係る減圧鋳造装置430においては、図8に示す如く、第一実施形態に係る減圧鋳造装置30の構成に対して、閉塞部材410の構造が相違する。具体的には、閉塞部材410の底部である第一筒状部材410aは、射出チップ3の支持軸9に、支持軸9に対して相対的に摺動不能に固定されているのである。より詳細には、支持軸9における射出チップ3の射出動作方向と反対側である左側端部にカップリング9aが配設され、第一筒状部材410aがカップリング9aに締結されることにより、第一筒状部材410aが支持軸9に固定されるのである。
【0077】
なお、本実施形態においては、第一筒状部材410aを支持軸9に固定する部材としてカップリング9aを用いたが、他の構成とすることも可能である。例えば、第一筒状部材410aを支持軸9に嵌合させたり、溶接したりすることで直接取り付ける構成とすることもできる。また、第一筒状部材410aを支持軸9に固定するために他の治具を用いる構成とすることも可能である。
【0078】
本実施形態に係る減圧鋳造装置430においては図9に示す如く、第2減圧工程時S3において射出チップ3が射出動作する際に、第一筒状部材410aが支持軸9と一体的に右側方(射出チップ3の射出動作方向)へ移動する。つまり、射出チップ3の射出動作に伴って第一筒状部材410aも移動し、それと同時に伸長状態にある閉塞部材410が収縮するのである。
【0079】
本実施形態に係る減圧鋳造装置430においては、上記の如く構成することにより、閉塞部材410と射出チップ3の支持軸9との摺動をなくしている。つまり、閉塞部材410と射出チップ3の支持軸9とは、閉塞部材410によって減圧室11を形成する際にも、射出チップ3による溶湯5の射出動作においても、摺動することがないのである。これにより、閉塞部材410と支持軸9との接触部において摺動しないため閉塞部材410の耐久性及び保全性をより向上させることができるのである。
【0080】
[第六実施形態]
次に、第六実施形態に係る減圧鋳造装置530の構成について、図10及び図11を用いて説明する。
本実施形態に係る減圧鋳造装置530においては、図10に示す如く、第五実施形態に係る減圧鋳造装置430の構成に対して、閉塞部材410が収縮した状態で固定可能に構成されている。具体的には、第一筒状部材410aと第三筒状部材410cとを連結する固定治具51により、閉塞部材410が伸張しないように固定されるのである。固定治具51は、図10に示すように第一筒状部材410aと第三筒状部材410cとのそれぞれに対してピンのように挿入して固定する構成でも、第一筒状部材410aと第三筒状部材410cとの摺動方向を規制するように周囲に被せる構成でもよい。
【0081】
本実施形態に係る減圧鋳造装置530においては図11に示す如く、減圧工程時S2において射出チップ3が射出動作する際に、閉塞部材410が支持軸9と一体的に右側方(射出チップ3の射出動作方向)へ移動する。つまり、射出チップ3の射出動作に伴って閉塞部材410も移動するのである。なお、本実施形態においては、閉塞部材410によって減圧室が形成されないため、第1の減圧手段による減圧は行われない。
【0082】
本実施形態に係る減圧鋳造装置530においては、上記の如く構成することにより、閉塞部材410を使用しない場合においても鋳造をすることが可能となる。つまり、減圧室からの減圧を行わない場合についても、閉塞部材410を取り外すことなく鋳造を行うことができるため、作業工数を低減して生産性を向上させることが可能となるのである。
【符号の説明】
【0083】
1 金型
2 射出スリーブ
3 射出チップ
4 キャビティ
6 給湯口
10 閉塞部材
11 減圧室
30 減圧鋳造装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型のキャビティと、
給湯口及びその外壁に形成されたフランジ部を備え、前記キャビティに連通された、射出スリーブと、
支持軸の先端部に配設されて、該支持軸を前記射出スリーブに挿通することにより、前記射出スリーブの内部を軸心方向に摺動可能に構成された、射出チップと、
前記射出スリーブの給湯口、及び、前記射出スリーブにおける前記キャビティと反対側の開放端部、の双方を取り囲む減圧室を内部に形成する、閉塞部材と、
前記キャビティ内及び前記減圧室に連通された、減圧手段と、を具備し、
前記減圧手段により、前記キャビティ及び前記減圧室の内部を減圧した状態で、前記射出スリーブ内に供給した溶湯を前記射出チップにより押し出して前記キャビティ内へ射出する射出動作を行うことにより、鋳造を行う減圧鋳造装置であって、
前記閉塞部材は、前記キャビティと反対の側に形成された底部と、前記キャビティの側にその内寸が前記射出スリーブの外寸よりも大きくなるように形成された開口部と、を備える有底筒状の部材であり、前記底部と前記開口部との間で、前記射出チップの射出動作時における移動方向に伸縮可能に構成され、
前記閉塞部材における前記底部の貫通孔に、前記射出チップの支持軸が挿通され、
前記閉塞部材の前記開口部が、前記射出チップの射出動作時における移動方向へ移動されて、前記閉塞部材が伸張されることにより、前記閉塞部材の内部の空間に前記射出スリーブの開放端部が挿入され、前記開口部が前記フランジ部に圧接されて、前記減圧室が形成される、
ことを特徴とする、減圧鋳造装置。
【請求項2】
前記閉塞部材は、前記底部から前記開口部に向かって段階的に内径が変化する複数の筒状部材を組み合わせて形成され、該複数の筒状部材を、前記射出チップの射出動作時における移動方向に相互に摺動させることにより、伸縮可能に構成される、
ことを特徴とする、請求項1に記載の減圧鋳造装置。
【請求項3】
前記底部は、前記射出チップの支持軸に、該支持軸に対して相対的に摺動不能に固定される、
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の減圧鋳造装置。
【請求項4】
前記閉塞部材は、収縮した状態で固定可能に構成される、
ことを特徴とする、請求項3に記載の減圧鋳造装置。
【請求項5】
金型のキャビティと、給湯口及びその外壁に形成されたフランジ部を備え、前記キャビティに連通された、射出スリーブと、支持軸の先端部に配設されて、該支持軸を前記射出スリーブに挿通することにより、前記射出スリーブの内部を軸心方向に摺動可能に構成された、射出チップと、前記射出スリーブの給湯口、及び、前記射出スリーブにおける前記キャビティと反対側の開放端部、の双方を取り囲む減圧室を内部に形成する、閉塞部材と、前記キャビティ内及び前記減圧室に連通された、減圧手段と、を具備する減圧鋳造装置を用いて行う減圧鋳造方法であって、
前記閉塞部材を、前記キャビティと反対の側に形成された底部と、前記キャビティの側にその内寸が前記射出スリーブの外寸よりも大きくなるように形成された開口部と、を備える有底筒状の部材とし、前記底部と前記開口部との間で、前記射出チップの射出動作時における移動方向に伸縮可能に構成し、
前記閉塞部材における前記底部の貫通孔に、前記射出チップの支持軸を挿通し、
前記閉塞部材の前記開口部を、前記射出チップの射出動作時における移動方向へ移動して、前記閉塞部材を伸張することにより、前記閉塞部材の内部の空間に前記射出スリーブの開放端部を挿入し、前記開口部を前記フランジ部に圧接して、前記減圧室を形成した状態で、
前記減圧手段により、前記キャビティ及び前記減圧室の内部を減圧した状態で、射出スリーブ内に供給した溶湯を前記射出チップにより押し出して前記キャビティ内へ射出する射出動作を行うことにより、鋳造を行う、
ことを特徴とする、減圧鋳造方法。
【請求項6】
前記閉塞部材を、前記底部から前記開口部に向かって段階的に内径が変化する複数の筒状部材を組み合わせて形成し、該複数の筒状部材を、前記射出チップの射出動作時における移動方向に相互に摺動させることにより、前記閉塞部材を伸縮可能に構成する、
ことを特徴とする、請求項5に記載の減圧鋳造方法。
【請求項7】
前記底部を、前記射出チップの支持軸に、該支持軸に対して相対的に摺動不能に固定する、
ことを特徴とする、請求項5又は請求項6に記載の減圧鋳造方法。
【請求項8】
前記閉塞部材を、収縮した状態で固定可能に構成する、
ことを特徴とする、請求項7に記載の減圧鋳造方法。
【請求項1】
金型のキャビティと、
給湯口及びその外壁に形成されたフランジ部を備え、前記キャビティに連通された、射出スリーブと、
支持軸の先端部に配設されて、該支持軸を前記射出スリーブに挿通することにより、前記射出スリーブの内部を軸心方向に摺動可能に構成された、射出チップと、
前記射出スリーブの給湯口、及び、前記射出スリーブにおける前記キャビティと反対側の開放端部、の双方を取り囲む減圧室を内部に形成する、閉塞部材と、
前記キャビティ内及び前記減圧室に連通された、減圧手段と、を具備し、
前記減圧手段により、前記キャビティ及び前記減圧室の内部を減圧した状態で、前記射出スリーブ内に供給した溶湯を前記射出チップにより押し出して前記キャビティ内へ射出する射出動作を行うことにより、鋳造を行う減圧鋳造装置であって、
前記閉塞部材は、前記キャビティと反対の側に形成された底部と、前記キャビティの側にその内寸が前記射出スリーブの外寸よりも大きくなるように形成された開口部と、を備える有底筒状の部材であり、前記底部と前記開口部との間で、前記射出チップの射出動作時における移動方向に伸縮可能に構成され、
前記閉塞部材における前記底部の貫通孔に、前記射出チップの支持軸が挿通され、
前記閉塞部材の前記開口部が、前記射出チップの射出動作時における移動方向へ移動されて、前記閉塞部材が伸張されることにより、前記閉塞部材の内部の空間に前記射出スリーブの開放端部が挿入され、前記開口部が前記フランジ部に圧接されて、前記減圧室が形成される、
ことを特徴とする、減圧鋳造装置。
【請求項2】
前記閉塞部材は、前記底部から前記開口部に向かって段階的に内径が変化する複数の筒状部材を組み合わせて形成され、該複数の筒状部材を、前記射出チップの射出動作時における移動方向に相互に摺動させることにより、伸縮可能に構成される、
ことを特徴とする、請求項1に記載の減圧鋳造装置。
【請求項3】
前記底部は、前記射出チップの支持軸に、該支持軸に対して相対的に摺動不能に固定される、
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の減圧鋳造装置。
【請求項4】
前記閉塞部材は、収縮した状態で固定可能に構成される、
ことを特徴とする、請求項3に記載の減圧鋳造装置。
【請求項5】
金型のキャビティと、給湯口及びその外壁に形成されたフランジ部を備え、前記キャビティに連通された、射出スリーブと、支持軸の先端部に配設されて、該支持軸を前記射出スリーブに挿通することにより、前記射出スリーブの内部を軸心方向に摺動可能に構成された、射出チップと、前記射出スリーブの給湯口、及び、前記射出スリーブにおける前記キャビティと反対側の開放端部、の双方を取り囲む減圧室を内部に形成する、閉塞部材と、前記キャビティ内及び前記減圧室に連通された、減圧手段と、を具備する減圧鋳造装置を用いて行う減圧鋳造方法であって、
前記閉塞部材を、前記キャビティと反対の側に形成された底部と、前記キャビティの側にその内寸が前記射出スリーブの外寸よりも大きくなるように形成された開口部と、を備える有底筒状の部材とし、前記底部と前記開口部との間で、前記射出チップの射出動作時における移動方向に伸縮可能に構成し、
前記閉塞部材における前記底部の貫通孔に、前記射出チップの支持軸を挿通し、
前記閉塞部材の前記開口部を、前記射出チップの射出動作時における移動方向へ移動して、前記閉塞部材を伸張することにより、前記閉塞部材の内部の空間に前記射出スリーブの開放端部を挿入し、前記開口部を前記フランジ部に圧接して、前記減圧室を形成した状態で、
前記減圧手段により、前記キャビティ及び前記減圧室の内部を減圧した状態で、射出スリーブ内に供給した溶湯を前記射出チップにより押し出して前記キャビティ内へ射出する射出動作を行うことにより、鋳造を行う、
ことを特徴とする、減圧鋳造方法。
【請求項6】
前記閉塞部材を、前記底部から前記開口部に向かって段階的に内径が変化する複数の筒状部材を組み合わせて形成し、該複数の筒状部材を、前記射出チップの射出動作時における移動方向に相互に摺動させることにより、前記閉塞部材を伸縮可能に構成する、
ことを特徴とする、請求項5に記載の減圧鋳造方法。
【請求項7】
前記底部を、前記射出チップの支持軸に、該支持軸に対して相対的に摺動不能に固定する、
ことを特徴とする、請求項5又は請求項6に記載の減圧鋳造方法。
【請求項8】
前記閉塞部材を、収縮した状態で固定可能に構成する、
ことを特徴とする、請求項7に記載の減圧鋳造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−51017(P2012−51017A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197101(P2010−197101)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
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