説明

減揺水槽装置の制御方法

【課題】 近年、コンテナ船等において、搭載量増加のための船型変更に伴って、その発生の可能性が増え、それによって受ける影響も大きくなっているパラメトリック横揺れに対して良好な減揺効果を得ることができる減揺水槽装置の制御方法を提供する。
【解決手段】 パラメトリック横揺れ発生条件である、横揺れ固有周期と縦揺れ周期の比が概ね1:2になった際に、縦揺れ角がほぼ正のピークの時、横揺れ角が正と負のピークを交互に取る場合には、縦揺れ角が正から負に移る瞬間付近に空気バルブ16を閉鎖し、縦揺れ角が負から正に移る瞬間付近に空気バルブ16を開放する。また、縦揺れ角がほぼ負のピークの時、横揺れ角が正と負のピークを交互に取る場合には、縦揺れ角が負から正に移る瞬間付近に空気バルブ16を閉鎖し、縦揺れ角が正から負に移る瞬間付近に空気バルブ16を開放する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の横揺れを抑制する減揺水槽装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コンテナ船等において、搭載しているコンテナが多数流出したり損傷するという事故が多発しており、その原因の一つがパラメトリック横揺れと呼ばれる横揺れの発生であると考えられている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
パラメトリック横揺れは、横揺れ運動方程式中のパラメータである復原力係数が時間とともに変化することにより引き起こされる横揺れであり、復原力係数が時間とともに変化する主な要因は、縦波中又は横波中において相対水位変化により水線面積2次モーメントが増減することである。
【0004】
パラメトリック横揺れ自体は古くから知られていたが、近年、コンテナ船等において搭載量の増加を図るために行われている船型の変更に伴って、パラメトリック横揺れの発生の可能性が増え、それによって受ける影響も大きくなっている。
【0005】
これに対して、従来、船舶の横揺れを軽減する装置として、左右一対のウイングタンクと、左右一対のウイングタンクの下部を連通させる連結水路と、左右一対のウイングタンクの上部を連通させる空気ダクトとを有する減揺水槽と、空気ダクトに設けられ、その開閉によって減揺水槽の作動及び非作動の切り替えを行うためのバルブとを備えた減揺水槽装置が知られている。この減揺水槽装置は、船舶の横揺れにより励起される減揺水槽内の液体が移動する際の位相差を利用して減揺効果を得るものである。
【0006】
【非特許文献1】梅田 直哉、外1名、「第3−2章 パラメトリック横揺れ」、日本造船学会・試験水槽委員会シンポジュウム、平成15年12月、p.217−236
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通常、横波中の船体の動揺は横波に対して90度の位相遅れをもって起きるが、船体の横揺れ周期に減揺水槽の固有周期を一致させると、減揺水槽内の液体の移動は、船体の横揺れに対して90度の位相遅れが生じ、その結果、横波に対しては180度の位相遅れが生じる。この時、横波によって生じる横揺れモーメントと減揺水槽内の液体によって生じるモーメントが正反対の方向になり、船体に作用する横揺れモーメントが相殺されて、減揺効果が得られる。
【0008】
しかし、パラメトリック横揺れは、縦揺れ周期と横揺れ固有周期の比が概ね1:2となった場合に急速に大きな横揺れが発生、発達する現象である。しかし従来の減揺水槽装置は、減揺水槽の固有周期を船体の横揺れ周期に一致させるように制御を行っており、パラメトリック横揺れ発生の要因である縦揺れ周期と横揺れ固有周期の比が概ね1:2となった場合に、パラメトリック横揺れの発達を防止するための、制御は行われておらず、パラメトリック横揺れの発達を防止するための有効な制御効果を得ることができなかった。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、パラメトリック横揺れの発生、発達の防止と、パラメトリック横揺れに対して良好な減揺効果を得ることができる減揺水槽装置の制御方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明においては、パラメトリック横揺れは、船体の縦揺れ周期と横揺れ固有周期の比が概ね1:2となった場合に発生するとの考えに基づいて、船体の縦揺れ周期と横揺れ固有周期の比が1:2となった場合に、減揺水槽内の液体の移動を、船体の縦揺れ角に対して制御を行うことにより、パラメトリック横揺れを抑止して、適切な減揺効果を発揮させることができるという観点に立っている。
【0011】
すなわち、本発明は、前記の課題を解決するために、以下の特徴を有する。
【0012】
[1]船舶の左舷と右舷に設置した一対のウイングタンクと該一対のウイングタンクの下部を連通させる連結水路と該一対のウイングタンクの上部を連通させる空気ダクトとを備えた減揺水槽と、前記空気ダクトに設けられ、その開閉によって減揺水槽の作動及び停止の切り替えを行うためのバルブとを備えた減揺水槽装置本体と、動揺検知手段から出力される横揺れ角データと縦揺れ角データに基づいて船体の横揺れ固有周期と縦揺れ周期を求め、該縦揺れ角に対応して前記バルブの開閉を制御する減揺水槽制御装置とを備えた減揺水槽装置において、
縦揺れ周期と横揺れ固有周期の比が概ね1:2であり、縦揺れ角がほぼ正のピークの時、横揺れ角が正と負のピークを交互に取る場合には、縦揺れ角が正から負に移る瞬間付近に前記バルブを閉鎖し、縦揺れ角が負から正に移る瞬間付近に前記バルブを開放するとともに、
縦揺れ周期と横揺れ固有周期の比が概ね1:2であり、縦揺れ角がほぼ負のピークの時、横揺れ角が正と負のピークを交互に取る場合には、縦揺れ角が負から正に移る瞬間付近に前記バルブを閉鎖し、縦揺れ角が正から負に移る瞬間付近に前記バルブを開放するようにしたことを特徴とする減揺水槽装置の制御方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、船体の縦揺れ周期と横揺れ周期の比が概ね1:2になった場合にパラメトリック横揺れが発生するとの考えに基づいて、船体の縦揺れ周期と横揺れ固有周期の比が概ね1:2となった場合に、減揺水槽内の液体の横移動の周期を、船体の縦揺れ角に対して行うことにより、横揺れ角に対し90度の位相遅れを生じるように減揺水槽の作動・停止を制御しているので、パラメトリック横揺れが抑止され、適切な減揺効果を発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明の一実施形態において用いる減揺水槽装置を示す図である。同図において、本発明の一実施形態において用いる減揺水槽装置は、減揺水槽装置本体10と減揺水槽制御装置20で構成されている。
【0015】
減揺水槽装置本体10は、船体の左舷と右舷にそれぞれ設けられ、動揺緩和液体(タンク水)Wが投入されたウイングタンク11a、11bと、ウイングタンク11a、11bの下部を連通させる連結水路12と、ウイングタンク11a、11bの上部を連通させて空気を流通させる空気ダクト15とを有する減揺水槽11と、空気ダクト15に設けられ、その開閉によって空気の流通を拘束して減揺水槽11の作動と停止を切り替えるための空気バルブ16と、空気バルブ16を開閉するための空気バルブ駆動装置17とを備えている。
【0016】
一方、減揺水槽制御装置20は、中央制御装置21と、横揺れ検知装置22aと縦揺れ検知装置22bからなる動揺検知装置22と、計測値や解析データ等を記憶する記憶装置23と、操作画面や解析データを表示する表示装置24と、空気バルブ駆動装置17に制御信号を送る開閉制御装置25とを備えている。
【0017】
そして、中央制御装置21は、横揺れ検知装置22aと縦揺れ検知装置22bから出力される時系列的な横揺れ角データと縦揺れ角データから横揺れ固有周期と縦揺れ周期等を算出する統計処理手段21aを有している。
【0018】
次に、上記のように構成された減揺水槽装置を用いて行う、この実施形態における減揺水槽装置の制御方法について説明する。
【0019】
まず、中央制御装置21に、横揺れ検知装置22aからの横揺れ角データと、縦揺れ検知装置22bからの縦揺れ角データとが入力される。中央制御装置21は、横揺れ角データと縦揺れ角データに基づいて、それぞれ船体の横揺れ固有周期と縦揺れ周期を算出する。
【0020】
そして、算出された横揺れ固有周期と縦揺れ周期の比が概ね1:2になっている場合には、パラメトリック横揺れが発生する条件に該当していると判断する。
【0021】
そこで、その際に、図2に示すように、縦揺れ角がほぼ正のピークの時、横揺れ角が正と負のピークを交互に取る場合には、縦揺れ角が正から負に移る瞬間付近に空気バルブ16を閉鎖し、縦揺れ角が負から正に移る瞬間付近に空気バルブ16を開放する。これにより、タンク水Wの移動角度が、船体の横揺れ角に対して90度の位相遅れが生じるようになり、パラメトリック横揺れが抑止されて、適切な減揺効果が発揮される。
【0022】
同様に、図3に示すように、縦揺れ角がほぼ負のピークの時、横揺れ角が正と負のピークを交互に取る場合には、縦揺れ角が負から正に移る瞬間付近に空気バルブ16を閉鎖し、縦揺れ角が正から負に移る瞬間付近に空気バルブ16を開放する。これにより、タンク水Wの移動角度が、船体の横揺れ角に対して90度の位相遅れが生じるようになり、パラメトリック横揺れが抑止されて、適切な減揺効果が発揮される。
【0023】
このようにして、この実施形態においては、パラメトリック横揺れが発生する条件である、船体の縦揺れ周期と横揺れ固有周期の比が概ね1:2となった場合に、縦揺れ角によって、減揺水槽の作動・停止を制御し、液体の移動をコントロールすることにより、船体の横揺れに対して減揺水槽内の液体が90度の位相遅れを生じるので、パラメトリック横揺れが抑止され、適切な減揺効果を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態において用いる減揺水槽装置を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態における横揺れ角、縦揺れ角、タンク水移動角度の関係を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態における横揺れ角、縦揺れ角、タンク水移動角度の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
10 減揺水槽装置本体
11 減揺水槽
11a、11b ウイングタンク
12 連結水路
15 空気ダクト
16 空気バルブ
17 空気バルブ駆動装置
20 減揺水槽制御装置
21 中央制御装置
21a 統計処理手段
22 動揺検知装置
22a 横揺れ検知装置
22b 縦揺れ検知装置
23 記憶装置
24 表示装置
25 開閉制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の左舷と右舷に設置した一対のウイングタンクと該一対のウイングタンクの下部を連通させる連結水路と該一対のウイングタンクの上部を連通させる空気ダクトとを備えた減揺水槽と、前記空気ダクトに設けられ、その開閉によって減揺水槽の作動及び停止の切り替えを行うためのバルブとを備えた減揺水槽装置本体と、動揺検知手段から出力される横揺れ角データと縦揺れ角データに基づいて船体の横揺れ固有周期と縦揺れ周期を求め、該縦揺れ角に対応して前記バルブの開閉を制御する減揺水槽制御装置とを備えた減揺水槽装置において、
縦揺れ周期と横揺れ固有周期の比が概ね1:2であり、縦揺れ角がほぼ正のピークの時、横揺れ角が正と負のピークを交互に取る場合には、縦揺れ角が正から負に移る瞬間付近に前記バルブを閉鎖し、縦揺れ角が負から正に移る瞬間付近に前記バルブを開放するとともに、
縦揺れ周期と横揺れ固有周期の比が概ね1:2であり、縦揺れ角がほぼ負のピークの時、横揺れ角が正と負のピークを交互に取る場合には、縦揺れ角が負から正に移る瞬間付近に前記バルブを閉鎖し、縦揺れ角が正から負に移る瞬間付近に前記バルブを開放するようにしたことを特徴とする減揺水槽装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−38780(P2007−38780A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223875(P2005−223875)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(591079188)JFEソルデック株式会社 (9)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)