説明

減衰装置

【課題】部品点数の増加と構造の複雑化を招くことなく減衰力を高い応答性で適宜調整することができる減衰装置を提供すること。
【解決手段】本発明による減衰装置1は、円筒2と、円筒2内を軸方向に摺動自在な摺動部材3と、摺動部材3により円筒2内部に画成されて作動油LNと作動油LNより動粘度が大きい磁性イオン流体LMを含む流体Lが充填された第一流体室8と第二流体室9と、摺動部材3に設けられて流体Lに抵抗を付与して第一流体室8と第二流体室9とを連通する流路4、5と、円筒2内において磁性イオン流体LMを流路4、5に対して接近する方向又は離隔する方向に選択的に移動させる移動手段10、11、12を備えることを特徴とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車、トラック、バス等の車両に適用されて好適なショックアブソーバに代表される減衰装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に車両においては路面から車輪に作用する衝撃を直接的に車体に伝達させないために、車輪を回転自在に支持するナックルと車体との間には、衝撃を緩和するための緩衝装置としてのスプリングが介装され、さらに、ナックルに衝撃が作用した後、ナックルがスプリングにより継続的に振動するエネルギーを迅速に減衰する減衰装置としてのショックアブソーバが、同様にナックルと車体との間に介装されており、これらによりサスペンション装置が構成されている。
【0003】
前者のスプリングとしては円筒状の鋼材を螺旋状に巻回したコイルスプリングや、棒状の鋼材の捩り剛性を利用するトーションバースプリングや、空気やその他の気体を封入したダイヤフラムを用いた空気バネが用いられる。後者のショックアブソーバとしては、シリンダに挿通されるシャフトと、シリンダの内周面と摺接するピストンとをさらに備え、シリンダ内部のシリンダ上下の液室に油等の流体を充填し、ピストンに絞りと弁を適宜設けることで、シャフトとシリンダとが軸方向に変位した場合に、流体が上下の液室間を移動して、流体が絞りを通過する時に絞りが流体に抵抗を付与することにより発生する減衰効果を利用するものが一般的に用いられる。
【0004】
このようなショックアブソーバにおいて、シリンダに減衰力を適宜変更する手法としては、例えば、特許文献1に記載されているようなものがありに、流体に磁性イオン流体を混成してシリンダに連通するサブリザーバに励磁器を設けて、励磁器の励磁により磁界を発生させて、磁性イオン流体が流体からサブリザーバに収容されて流体の粘度を低下させて、減衰力を適宜調整している。
【特許文献1】特開2006−292096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、このような従来技術におけるショックアブソーバにおいては、ピストンのストロークに伴うシリンダ内のロッドの体積の変化を吸収するリザーバとは別体のサブリザーバを設ける必要があり部品点数の増加と構造の複雑化を招くという問題があった。
【0006】
これとともに、従来技術におけるショックアブソーバにおいては、磁性イオン流体をシリンダからサブリザーバまで移動させる必要があるため、磁性イオン流体の移動距離が長くなり、減衰力を調整するにあたっての応答性を迅速なものとすることが困難であり、車両における高周波の振動を減衰する効果を奏することは難しいという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑み、部品点数の増加と構造の複雑化を招くことなく減衰力を高い応答性で適宜調整することができる減衰装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の減衰装置は、
円筒と、前記円筒内を軸方向に摺動自在な摺動部材と、前記摺動部材により前記円筒内部に画成されて作動油と前記作動油より動粘度が大きい磁性イオン流体を含む流体が充填された第一流体室と第二流体室と、前記摺動部材に設けられて前記流体に抵抗を付与して前記第一流体室と前記第二流体室とを連通する流路と、前記円筒内において前記磁性イオン流体を前記流路に対して接近する方向又は離隔する方向に選択的に移動させる移動手段を備えることを特徴とする。
【0009】
なお、前記作動油とは、通常用いられるノーマルオイルを示し、前記磁性イオン流体とは、正の電荷を有する陽イオンと、負の電荷を有する陰イオンのみから構成されるイオン流体であって、磁束を発生する磁石等により磁気的に吸引することにより移動可能なものである。
【0010】
さらに、前記作動油と前記磁性イオン流体とは、磁束が発生していない状態においては混合されてはいるが、科学的に安定しておりマクロ的には分離していて、それぞれ別個の動粘度と透磁率を保持することが可能であり、磁束を発生させることにより混合された状態から分離することも、混合された状態から前記磁性イオン流体のみを磁束の発生により移動させることができるものである。
【0011】
また、前記流路とは、前記流路に前記流路の長さにより抵抗を付与して減衰力を発生させるチョーク及び前記流路の断面積により抵抗を付与して減衰力を発生させるオリフィスを含む。ここで、前記移動手段は後述するように前記円筒のいずれかの箇所又は前記摺動部材に設けられた磁束発生手段により構成される。
【0012】
これによれば、前記円筒内において前記摺動部材により画成される前記第一流体室及び第二流体室に充填された前記流体のうち、前記磁性イオン流体のみを、前記流路に近接した位置に移動させることと、前記流路から離隔された位置に移動させることを、前記移動手段により選択的に実現することができる。
【0013】
これに伴い、前記磁性イオン流体を前記流路に近接させて位置させた場合には、前記摺動部材の摺動に伴って前記流路を通過する前記流体を、例えば、動粘度が大きい前記磁性イオン流体のみとする又は前記磁性イオン流体を主体として、前記流路が発生する減衰力を大きいものとすることができる。なお、前記磁性イオン流体の動粘度は前記流体に対して小さいものとすることもでき、この場合には、前記磁性イオン流体を前記流路に近接させて位置させると、前記流路が発生する減衰力は小さくなる。すなわち、前記磁性イオン流体の動粘度が前記流体に対して異なっていれば、前記磁性イオン流体の前記流路に対する近接又は離隔により前記流路が発生する減衰力を変化させることができる。
【0014】
同様に、前記磁性イオン流体を前記流路から離隔させて位置させた場合には、前記摺動部材の摺動に伴って前記流路を通過する流体を動粘度が小さい前記作動油のみとする又は前記磁性イオン流体主体として、前記流路が発生する減衰力を小さなものとすることができる。
【0015】
また、本発明によれば、前記摺動部材の摺動に伴う前記円筒内に位置するロッドの体積の変化を吸収するリザーバとは別体のサブリザーバを設ける必要性を廃することができるので、従来技術のように部品点数の増加と構造の複雑化を招くことを回避することができる。
【0016】
これとともに、本発明においては前記磁性イオン流体を前記円筒内において前記流路に対して接近又は離隔する方向に移動させればよいことから、前記磁性イオン流体の移動距離をなるべく短くして、前記減衰力を調整するにあたっての応答性を迅速なものとすることができる。
【0017】
特に従来技術においては、前記円筒から前記円筒の外部に位置しているサブリザーバまで移動させる必要があったため、磁性イオン流体の移動距離が長くなり、減衰力を調整するにあたっての応答性を迅速なものとすることが困難であり、車両における高周波の振動を減衰する効果を奏することは難しいという問題があったが、本発明によればこのような問題点を解決することを可能とすることができる。
【0018】
ここで、前記減衰装置において、
車体の振動形態を判定する振動形態判定手段と、前記判定された前記振動形態に基づいて前記移動手段を制御する制御手段を備えることとする。これによれば、前記振動形態に対応させて前記移動手段を制御して、前記減衰力の選択をより適切なものとすることができる。
【0019】
より具体的には、前記減衰装置において、
前記振動形態が、周波数が第一所定範囲で振幅が第一所定値より大きい第一所定形態である場合に、前記移動手段が前記制御手段の制御に基づいて、前記磁性イオン流体を前記流路に対して接近する方向に移動させることが好ましい。
【0020】
ここで、前記第一所定形態とは、周波数が比較的低周波の領域であり前記振幅すなわち前記減衰装置のストロークが大きい形態であり、所謂「あおり」と呼ばれる比較的ゆったりとした大きな前記車体の振動形態を示し、前記振動形態がこの前記第一所定形態である場合には、前記減衰装置の発生する減衰力を大きくして前記車体の挙動を安定させることが要求される。
【0021】
すなわち、これによれば、前記移動手段が前記制御手段の制御に基づいて、前記磁性イオン流体を前記流路に対して接近する方向に移動させるので、前記流路を通過する前記流体を前記磁性イオン流体のみ又は前記磁性イオン流体を主体とすることにより、前記減衰力を大きくすることができる。
【0022】
さらに、前記減衰装置において、
前記振動形態が、周波数が前記第一所定範囲より高い領域の第二所定範囲で振幅が第二所定値より小さい第二所定形態である場合に、前記移動手段が前記制御手段の制御に基づいて、前記磁性イオン流体を前記流路に対して離隔する方向に移動させることが好ましい。
【0023】
ここで、前記第二所定形態とは、周波数が比較的高周波の領域であり前記振幅すなわち前記減衰装置のストロークが小さい形態であり、所謂「ゴツゴツ」と呼ばれる比較的小刻みな前記車体の振動形態を示し、前記振動形態がこの前記第二所定形態である場合には、前記減衰装置の発生する減衰力を小さくして、前記車体内の乗員の乗り心地を確保することが要求される。
【0024】
すなわち、これによれば、前記移動手段が前記制御手段の制御に基づいて、前記磁性イオン流体を前記流路に対して離隔する方向に移動させるので、前記流路を通過する前記流体を前記作動油のみ又は前記作動油を主体とすることにより、前記減衰力を小さくすることができる。
【0025】
加えて、この場合においては、前記円筒内部の前記第一流体室及び前記第二流体室の前記流路から離隔した領域においては、前記流体は前記磁性イオン流体のみ又は前記磁性イオン流体を主体として構成されているので、前記減衰装置に入力される振動の振幅すなわちストロークが十分大きくなり、前記摺動部材が前記円筒の下端部に過度に接近する所謂ボトミング又は前記円筒の上端部に前記摺動部材が過度に接近する事象が発生した場合には、前記減衰力を大きくして前記車体の挙動を安定させることができる。
【0026】
なお、前記移動手段は前述したように磁束発生手段により適宜構成することができる。すなわち、前記減衰装置において、典型的には、
前記移動手段が前記円筒の前記軸方向両端の少なくとも一方に備えられた円筒端側磁束発生手段を含む。
【0027】
加えて、前記減衰装置において、
前記移動手段が前記摺動部材に備えられた摺動部材側磁束発生手段を含むこととしてもよい。
【0028】
なお、前記円筒端側磁束発生手段と前記摺動部材側磁束発生手段は一方のみでも前記移動手段を構成可能であるが、前記磁性イオン流体を移動させるにあたっての応答性、前記作動油から分離させるにあたっての確実性を担保するためには双方を備えることが好ましい。
【0029】
あるいは、前記減衰装置において、前記摺動部材の中立位置近傍のみにおいて前記減衰力を制御すれば十分である場合には、前記摺動部材磁束発生手段に換えて、
前記移動手段が前記円筒の摺動部材の中立位置に該当する部分に備えられた円筒中間側磁束発生手段を含むこととしてもよい。
【0030】
これによれば、前記摺動部材に連結されるロッドを中空として配線を配策し、当該配線を前記車体側に接続するスリップリング等の部品増加を伴うことと、構造の複雑化を招くことを回避することができる。
【0031】
なお、上記課題を解決するにあたって、本発明に係わる減衰装置を以下のような形態のものとすることもできる。すなわち、本発明に係わる減衰装置は、
円筒と、前記円筒内を軸方向に摺動自在な摺動部材と、前記摺動部材により前記円筒内部に画成されて磁性イオン流体を含む流体が充填された第一流体室と第二流体室と、前記摺動部材に設けられて前記流体に抵抗を付与して前記第一流体室と前記第二流体室とを連通する流路と、前記磁性イオン流体を前記流路に前記摺動部材の摺動によらずに通流させる通流手段を備えることを特徴とする。
【0032】
ここで、前記通流とは、前記摺動部材の摺動に伴って前記円筒内の前記流体が前記流路を前記摺動方向とは逆方向に移動する前記流体の前記摺動に伴う前記移動と区別されるものであり、前記摺動方向とは無関係に、後述する磁束発生手段により強制的に前記流体を前記流路に流し込んで通過させることを示す。
【0033】
なお、前記作動油、前記磁性イオン流体、前記流路については上述したものと同様であるため、重複する説明は割愛する。また、前記通流手段は後述するように前記円筒のいずれかの箇所又は前記摺動部材に設けられた磁束発生手段により構成される。
【0034】
これによれば、前記円筒内において前記摺動部材により画成される前記第一流体室及び第二流体室に充填された前記流体のうち、前記磁性イオン流体のみを、前記摺動部材の摺動によらずに前記流路に通流させることができる。
【0035】
これに伴い、前記磁性イオン流体を前記摺動部材の摺動方向と逆方向に通流させた場合には、前記摺動部材の摺動に伴って前記流路を前記摺動方向と逆方向に通過する前記流体に加えて、前記摺動部材の摺動に伴って前記通路を通過する領域に位置していない前記流体に含まれる前記磁性イオン流体を前記流路に前記摺動方向と逆方向に通流させて、前記流路を通過する前記流体の量を大きくして、前記流路が発生する減衰力を大きいものとすることができる。
【0036】
同様に、前記磁性イオン流体を前記摺動部材の摺動方向と同方向に通流させた場合には、前記摺動部材の摺動に伴って前記流路を前記摺動方向と逆方向に通過する前記流体に対して、前記摺動部材の摺動に伴って前記通路を通過する領域に位置していない前記流体に含まれる前記磁性イオン流体を前記流路に前記摺動方向と同方向に通流させて、前記流路を通過する前記流体の量を小さくして、前記流路が発生する減衰力を小さいものとすることができる。
【0037】
また、本発明によれば、前記摺動部材の摺動に伴う前記円筒内のロッドの体積の変化を吸収するリザーバとは別体のサブリザーバを設ける必要性を廃することができるので、従来技術のように部品点数の増加と構造の複雑化を招くことを回避することができる。
【0038】
これとともに、本発明においては前記磁性イオン流体を前記円筒内において前記流路を通流させる範囲において移動させればよいことから、前記磁性イオン流体の移動距離をなるべく短くして、前記減衰力を調整するにあたっての応答性を迅速なものとすることができる。
【0039】
特に従来技術においては、前記円筒から前記円筒の外部に位置しているサブリザーバまで移動させる必要があったため、磁性イオン流体の移動距離が長くなり、減衰力を調整するにあたっての応答性を迅速なものとすることが困難であり、車両における高周波の振動を減衰する効果を奏することは難しいという問題があったが、本発明によればこのような問題点を解決することを可能とすることができる。
【0040】
ここで、前記減衰装置においては、
車体の振動形態を判定する振動形態判定手段と、前記摺動部材の摺動方向を判定する摺動方向判定手段と、前記判定された前記振動形態と前記摺動方向に基づいて前記通流手段を制御する制御手段を備えることとする。
【0041】
これによれば、前記振動形態に対応させて前記移動手段を制御して、前記減衰力の選択をより適切なものとすることができる。
【0042】
より具体的には、前記減衰装置において、
前記振動形態が、周波数が第一所定範囲で振幅が第一所定値より大きい第一所定形態である場合に、前記通流手段が前記制御手段の制御に基づいて、前記磁性イオン流体を前記流路に対して前記摺動方向と逆方向に通流させることが好ましい。
【0043】
ここで、前記第一所定形態とは前述したものと同様に、周波数が比較的低周波の領域であり前記振幅すなわち前記減衰装置のストロークが大きい形態であり、所謂「あおり」と呼ばれる比較的ゆったりとした大きな前記車体の振動形態を示し、前記振動形態がこの前記第一所定形態である場合には、前記減衰装置の発生する減衰力を大きくして前記車体の挙動を安定させることが要求される。
【0044】
すなわち、これによれば、前記通流手段が前記制御手段の制御に基づいて、前記磁性イオン流体を前記流路に対して前記摺動方向と逆方向に通流させるので、前記流路を通過する前記流体の量を大きくして、前記減衰力を大きくすることができる。
【0045】
さらに、前記減衰装置において、
前記振動形態が、周波数が前記第一所定範囲より高い領域の第二所定範囲で振幅が第二所定値より小さい第二所定形態である場合に、前記通流手段が前記制御手段の制御に基づいて、前記磁性イオン流体を前記流路に対して前記摺動方向と同方向に通流させることが好ましい。
【0046】
ここで、前記第二所定形態とは前述したものと同様に、周波数が比較的高周波の領域であり前記振幅すなわち前記減衰装置のストロークが小さい形態であり、所謂「ゴツゴツ」と呼ばれる比較的小刻みな前記車体の振動形態を示し、前記振動形態がこの前記第二所定形態である場合には、前記減衰装置の発生する減衰力を小さくして、前記車体内の乗員の乗り心地を確保することが要求される。
【0047】
すなわち、これによれば、前記通流手段が前記制御手段の制御に基づいて、前記磁性イオン流体を前記流路に対して前記摺動方向と同方向に通流させるので、前記流路を通過する前記流体の量を小さくして、前記減衰力を小さくすることができる。
【0048】
なお、前記移動手段は前述したように磁束発生手段により適宜構成することができる。すなわち、前記減衰装置において、典型的には、
前記移動手段が前記円筒の前記軸方向両端の少なくとも一方に備えられた円筒端側磁束発生手段を含む。
【0049】
あるいは、前記減衰装置において、
前記移動手段が前記摺動部材に備えられた摺動部材側磁束発生手段を含むこととしてもよい。
【0050】
なお、前記円筒端側磁束発生手段と前記摺動部材側磁束発生手段のいずれでも前記移動手段を構成可能であるが、前記磁性イオン流体を前記流路に通流させるにあたっての応答性、前記作動油から分離させるにあたっての確実性を担保するためには前記円筒端側磁束発生手段を用いた方が、発生する磁束の方向性を一定とすることができるので好ましい。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、部品点数の増加と構造の複雑化を招くことなく減衰力を高い応答性で適宜調整することができる減衰装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0053】
図1は、本発明に係る減衰装置が適用されるサスペンション装置の一実施形態を示す模式図である。また、図2は、本発明に係る減衰装置の一実施形態を示す模式図である。
【0054】
図1に示すように、本実施例1の減衰装置が適用されるサスペンション装置51は、ナックル52と、ショックアブソーバ1と、スプリング53と、ロアアーム54と、タイヤ55と、ホイール56と、ボールジョイント57と、ロアスプリングシート58と、アッパスプリングシート59と、ロッド60を備えて構成される。なお、図1中FRは車両前後方向前方を示し、INは車幅方向内側を示し、UPは上方を示す。
【0055】
ナックル52はタイヤ55及びホイール56を回転自在に支持するものであり、その下端部が、ボールジョイント57を介してAアーム形状のロアアーム54の車幅方向外側端部に連結されると共に、その上端部が、ショックアブソーバ1の下端部に連結されるものである。
【0056】
ショックアブソーバ1は、その一部を構成するロット60の上端部が図示しないブッシュを介して車体側の図示しないサスタワーに連結され、その下端部がナックル52の上端部に連結されて、タイヤ55及びホイール56からナックル52を介して伝達される路面からの振動によって、ナックル52が振動し続けることをその減衰力により防止するとともにナックル52を車体側に連結するものであって、減衰装置に相当するものである。
【0057】
スプリング53は、ショックアブソーバ1の外周面の上端部近傍に円板状に設けられたロアスプリングシート58と、ロッド60の上端部近傍の車体側に円板状に設けられたアッパスプリングシート59との間に挟持されて、ロッド60の周囲を渦巻くように形成されて構成され、タイヤ55及びホイール56からナックル52を介して車体側に伝達される振動を低減し緩和する。
【0058】
ロアアーム54は、車幅方向に延在して、車幅方向内側が二股状に分岐するように形成されるいわゆるAアームにより構成され、その車幅方向外側端部つまりはAアームの頂点側がナックル52の下端部に対してボールジョイント57を介して連結され、その車幅方向内側つまりはAアームの頂点の反対側の二箇所が、図示しないブッシュを介して車体側の図示しないサスペンションメンバに揺動自在に連結されて、ナックル52と車体とを連結するものである。
【0059】
このように構成されるサスペンション装置51において、路面からタイヤ55に上下方向の外力が作用すると、ナックル52及びロアアーム54は車体側のブッシュをバネとして上下方向にバウンドリバウンドして、これに伴いナックル52のショックアブソーバ1の下端部との連結点と、ロッド60との間隔はショックアブソーバ1の中心軸線に一致する軸C方向に伸長又は圧縮する。
【0060】
ここで、ショックアブソーバ1の基本的構成を、図2を用いて説明する。図2(a)(b)に示すように、ショックアブソーバ1は、シリンダ2と、前述したロッド60に連結されるピストン3と、ピストン3に設けられたオリフィス4及びオリフィス5と、図2(a)に示すように、オリフィス4に伸長時にのみ流体を流すバルブ6と、図2(b)に示すように、オリフィス5に圧縮時にのみ流体を流すバルブ7とを備える。ここでは、オリフィス4及びオリフィス5及びバルブ6及びバルブ7は説明のため模式的に示している。
【0061】
シリンダ2は円筒を構成し、ピストン3はシリンダ2内を軸C方向に摺動自在な摺動部材を構成し、ピストン3によりシリンダ2内部には、第一流体室8と第二流体室9とが画成され、第一流体室8及び第二流体室9にはともに作動油としてのノーマルオイルLNとノーマルオイルLNよりも動粘度が大きい磁性イオン流体LMを含む流体L=LN+LMが充填されている。オリフィス4及びオリフィス5は流体に断面積に対応する抵抗を付与して第一流体室8と第二流体室9とを連通する流路を構成する。
【0062】
なお、シリンダ2に対してピストン3が摺動することに伴って、シリンダ2内部に位置するロッド60の体積が増減するため、この増減する体積分を吸収するため、シリンダ2の下端部は図示しないリザーバにベースバルブを介して液密に連結されているが、ここでは図示は省略している。
【0063】
さらに、本実施例1のショックアブソーバ1の本発明に係わる特徴事項について図を用いて詳細に説明する。図3は本発明に係わる減衰装置を示す模式断面図である。なお、図3においては、本発明に係わる特徴事項に関連する部位以外の構成要素については省略して示している。
【0064】
本実施例1のショックアブソーバ1は、図3に示すようにシリンダ2の下方端部に、円筒端側磁束発生手段としての電磁石10を備え、電磁石10のコイルのコイルエンドは図示しないAVSECU(Adaptive Variable Suspension System Electronic Control Unit)に接続されて、適宜オンオフされてオンの場合に励磁されており磁束を適宜発生している。AVSECUは、例えばCPU、ROM、RAMおよびそれらを相互に接続するデータバスと入出力インターフェースから構成され、ROMに格納されたプログラムに従い、以下に述べるそれぞれの制御を行う制御手段として機能するものである。
【0065】
なお、AVSECUは、図示しないヨーレートセンサにより実際に検出されたヨーレートと、CAN(Controller Area Network)上で取得した操舵角と車速により求められたヨーレートとの比較により、実際に検出されたヨーレートが小さい場合においては、車両が旋回外側に横滑りするおそれがあると判定して、エンジンの出力を抑制してブレーキをかけて横滑りを防止する。
【0066】
さらに、AVSECUは、実際に検出されたヨーレートが操舵角と車速により求められたヨーレートより大きい場合には、車両挙動が不安定となるおそれがあると判定して、旋回外側の前輪にブレーキをかける制御を行う。
【0067】
このようにショックアブソーバ1を構成することにより、電磁石10は、シリンダ2内において磁性イオン流体LMをオリフィス4及びオリフィス5に対して離隔する方向に選択的に移動させる移動手段を構成する。
【0068】
このように構成される本実施例1のショックアブソーバ1によれば、第二流体室9に充填された流体Lのうち、磁性イオン流体LMをシリンダ2の下端部近傍に移動させて、下端部近傍においては磁性イオン流体LMを主体として存在させて、ピストン3の中立位置を含む、下端部近傍以外の領域においてはノーマルオイルLNを主体として存在させることができる。
【0069】
本実施例1のショックアブソーバ1は上述したような構成とすることにより以下のような作用効果を得ることができる。以下この作用効果について図を用いて説明する。図4は本発明に係わる減衰装置の減衰力の特性を示す模式図である。図4中縦軸は減衰力を、横軸はピストン3の速度を示し、図4中上側はリバウンド側の特性を、図4中下側はバウンド側の特性を示す。
【0070】
つまり、図4に示すように、ショックアブソーバ1がタイヤ55及びホイール56のバウンドに伴い圧縮変位されて、シリンダ2の下端部に対してピストン3が過度に接近するボトミングが発生した場合に、シリンダ2の下端部近傍すなわち第二流体室9の下側においては、動粘度の大きい磁性イオン流体LMが主体となって存在しているため、ピストン3が過度にシリンダ2の下端部に接近して、バウンド側のストロークが大となる場合には、減衰力を大として車体の挙動を安定させることができる。
【0071】
これとともに、ボトミングが発生していないストロークが小さい通常のバウンドにおいては、シリンダ2に対するピストン3の中立位置近傍の領域においては、動粘度の小さいノーマルオイルLNを主体として存在させているため、減衰力を小として車体内部の乗員の乗り心地を損ねることを防止することができる。
【0072】
なお、リバウンド側においては、電磁石10により発生する磁束が第一流体室8内部の磁性イオン流体LMを移動させない程度の磁束密度とすることにより、第一流体室8内部においてノーマルオイルLNと磁性イオン流体LMが混在している状態としているため、減衰力はストロークの大小に係わらず同一となる。
【0073】
さらに、本実施例1のショックアブソーバ1によれば、ピストン3のシリンダ2に対する摺動に伴って、シリンダ2にロッド60が出し入れされてシリンダ2内部におけるロッド60の体積の変化を吸収するリザーバとは別体のサブリザーバを設ける必要性を廃することができるので、従来技術のように部品点数の増加と構造の複雑化を招くことを回避することができる。
【0074】
これとともに、本実施例1のショックアブソーバ1においては磁性イオン流体LMをシリンダ2においてオリフィス4及びオリフィス5に対して接近又は離隔する方向に移動させればよいことから、減衰力の調整に必要な磁性イオン流体LMの移動距離をなるべく短くして、減衰力を調整するにあたっての応答性を迅速なものとすることができる。
【0075】
また従来技術においては、シリンダ2からシリンダ2の外部に位置しているサブリザーバまで磁性イオン流体LMを移動させる必要があったため、磁性イオン流体LMの移動距離が長くなり、減衰力を調整するにあたっての応答性を迅速なものとすることが困難であり、車両における高周波の振動を減衰する効果を奏することは難しいという問題があったが、本実施例1のショックアブソーバ1によればこのような問題点を解決して、高周波の振動を減衰することができる。
【0076】
なお、円筒端側磁束発生手段としての電磁石は、シリンダ2の上方端部にも設けることができる。以下これについての実施例2について述べる。なお、適用対象となるサスペンション装置51及びショックアブソーバ1の基本構成は実施例1に示したものと同様であるため、重複する説明は割愛する。
【実施例2】
【0077】
本実施例2のショックアブソーバ1の本発明に係わる特徴事項について図を用いて詳細に説明する。図5は本発明に係わる減衰装置を示す模式断面図である。なお、図5においても、本発明に係わる特徴事項に関連する部位以外の構成要素については省略して示している。
【0078】
本実施例2のショックアブソーバ1は、図5に示すようにシリンダ2の下方端部に、円筒端側磁束発生手段としての電磁石10を備え、シリンダ2の上方端部に、円筒端側磁束発生手段としての電磁石11を備える。電磁石10及び電磁石11のコイルは図示しないAVSECUに接続されて、適宜オンオフされてオンの場合に励磁されており磁束を適宜発生している。
【0079】
このようにショックアブソーバ1を構成することにより、電磁石10及び電磁石11は、シリンダ2内において磁性イオン流体LMをオリフィス4及びオリフィス5に対して離隔する方向に選択的に移動させる移動手段を構成する。
【0080】
このように構成される本実施例2のショックアブソーバ1によれば電磁石10の発生する磁束により、第二流体室9に充填された流体L=LN+LMのうち、磁性イオン流体LMをシリンダ2の下端部近傍に移動させて、下端部近傍においては磁性イオン流体LMを主体として存在させて、ピストン3の中立位置を含む、下端部近傍以外の領域においてはノーマルオイルLNを主体として存在させることができる。
【0081】
同様に電磁石11の発生する磁束により、第一流体室8に充填された流体Lのうち、磁性イオン流体LMをシリンダ2の上端部近傍に移動させて、上端部近傍においては磁性イオン流体LMを主体として存在させて、ピストン3の中立位置を含む、上端部近傍以外の領域においてはノーマルオイルLNを主体として存在させることができる。
【0082】
本実施例1のショックアブソーバ1は上述したような構成とすることにより以下のような作用効果を得ることができる。以下この作用効果について図を用いて説明する。図6は本発明に係わる減衰装置の減衰力の特性を示す模式図である。図6中縦軸は減衰力を、横軸はピストン3の速度を示し、図6中上側はリバウンド側の特性を、図6中下側はバウンド側の特性を示す。
【0083】
すなわち、図5右側に示すように、ショックアブソーバ1がタイヤ55及びホイール56のバウンドに伴い圧縮変位されて、シリンダ2の下端部に対してピストン3が過度に接近するボトミングが発生した場合に、シリンダ2の下端部近傍すなわち第二流体室9の下側においては、動粘度の大きい磁性イオン流体LMが主体となって存在しているため、ピストン3が過度にシリンダ2の下端部に接近して、バウンド側のストロークが大となる場合には、減衰力を大として車体の挙動を安定させることができる。
【0084】
同様に、ショックアブソーバ1がタイヤ55及びホイール56のバウンドに伴い伸長変位されて、シリンダ2の上端部に対してピストン3が過度に接近することが発生した場合に、シリンダ2の上端部近傍すなわち第一流体室8の上側においては、動粘度の大きい磁性イオン流体LMが主体となって存在しているため、ピストン3が過度にシリンダ2の上端部に接近して、リバウンド側のストロークが大となる合には、減衰力を大として車体の挙動を安定させることができる。
【0085】
これとともに、ボトミングが発生していないストロークが小さい通常のバウンドリバウンドにおいては、シリンダ2に対するピストン3の中立位置近傍の領域においては、動粘度の小さいノーマルオイルLNを主体として存在させているため、減衰力を小として車体内部の乗員の乗り心地を損ねることを防止することができる。
【0086】
上述した実施例1及び実施例2においては、円筒端側磁束発生手段としての電磁石10又は電磁石11をAVSECUにより適宜オンオフ制御する構成としたが、車体に発生する振動形態に基づいてよりきめの細かい制御とすることもできる。以下それについての実施例3について述べる。なお、適用対象となるサスペンション装置51及びショックアブソーバ1の基本構成は実施例1に示したものと同様であるため、重複する説明は割愛する。
【実施例3】
【0087】
本実施例3のショックアブソーバ1の本発明に係わる特徴事項について図を用いて詳細に説明する。図7及び図8は本発明に係わる減衰装置を示す模式断面図である。なお、図7及び図8においても、本発明に係わる特徴事項に関連する部位以外の構成要素については省略して示している。
【0088】
本実施例3のショックアブソーバ1は、図7及び図8に示すようにシリンダ2の下方端部に、円筒端側磁束発生手段としての電磁石10を備え、シリンダ2の上方端部に、円筒端側磁束発生手段としての電磁石11を備え、さらにピストン3の上面及び下面に摺動部材側磁束発生手段としての電磁石12を備える。
【0089】
電磁石10、電磁石11及び電磁石12は、それぞれを構成するコイルのコイルエンドが図示しないAVSECUに接続されて、それぞれ独立してオンオフされてオンの場合に励磁されて磁束を適宜発生して、シリンダ2内において磁性イオン流体LMをオリフィス4及びオリフィス5に対して接近する方向又は離隔する方向に選択的に移動させる移動手段を構成する。
【0090】
また、AVSECUには車体のいずれかの箇所に設けられた図示しない加速度センサの出力値が入力されており、この加速度センサの出力値を周波数分析して、車体の振動の周波数が例えば1〜2Hz程度の低周波数の第一所定領域であり、パワースペクトラムが大きく、車体の振動の振幅が第一所定値よりも大きく、振動形態が第一所定形態であるとみなせる場合には、「あおり」が大きく発生していると判定する振動形態判定手段を構成して、電磁石10〜12のうち、電磁石12をオンとして、図8に示すように、磁性イオン流体LMがオリフィス4、5を含むピストン3に対して接近する方向に移動される。
【0091】
また、振動計体判定手段つまりAVSECUは、この加速度センサの出力値を周波数分析して、車体の振動の周波数が例えば8〜32Hz程度の高周波数の第二所定領域であり、パワースペクトラムが小さく、車体の振動の振幅が第二所定値よりも小さく、振動形態が第二所定形態であるとみなせる場合には、「ゴツゴツ」が大きく発生していると判定して、電磁石10〜12のうち、電磁石10、11をオンとして、図7に示すように磁性イオン流体LMがオリフィス4、5を含むピストン3に対して離隔する方向に移動される。
【0092】
以下、本実施例3に係わるショックアブソーバ1のAVSECUの制御内容についてフローチャートを用いて説明する。図9は本発明に係わる減衰装置の制御内容を示すフローチャートである。
【0093】
S1において、AVSECUは加速度センサの出力値を周波数分析して、パワースペクトラムが大きく、車体の振動の振幅が第一所定値よりも大きく、振動形態が第一所定形態であるとみなせる場合には、「あおり」が大きく発生していると判定して、S2にすすみ、みなせない場合には「あおり」大きく発生していないと判定して、S3にすすむ。
【0094】
S2において、AVSECUは、電磁石12をオンとしてこれにより電磁石12が励磁されて磁束が発生され、この磁束に基づいて、磁性イオン流体LMは図8に示すように、オリフィス4、5を含むピストン3に接近する方向に移動される。S2の処理が終了するとS3にすすむ。
【0095】
S3において、AVSECUは、この加速度センサの出力値を周波数分析して、車体の振動の周波数が例えば8〜32Hz程度の高周波数の第二所定領域であり、パワースペクトラムが小さく、車体の振動の振幅が第二所定値よりも小さく、振動形態が第二所定形態であるとみなせる場合には、「ゴツゴツ」が大きく発生していると判定して、S4にすすみ、みなせない場合には「ゴツゴツ」が大きく発生していないと判定して、S1に戻る。
【0096】
S4において、AVSECUは、電磁石10、11をオンとしてこれにより電磁石10、11が励磁されて磁束が発生され、この磁束に基づいて、磁性イオン流体LMは図7に示すように、オリフィス4、5を含むピストン3から離隔する方向に移動される。S4の処理が終了するとAVSECUは制御を終了する。
【0097】
以上述べた本実施例3のショックアブソーバ1によれば、以下のような作用効果を得ることができる。すなわち、車体の振動形態が第一所定形態であり、「あおり」が大きく発生していると判定される場合には、ショックアブソーバ1の発生する減衰力を大きくして車体の挙動を安定させることが要求されるため、電磁石10〜12により構成される移動手段のうち電磁石12がAVSECUの制御に基づいて励磁されて、磁性イオン流体LMをピストン3に対して接近する方向に移動させるので、オリフィス4、5を通過する流体Lを動粘度の大きい磁性イオン流体LM主体とすることにより、減衰力を大きくすることができる。
【0098】
さらに、車体の振動形態が第二所定形態であり、「ゴツゴツ」が大きく発生していると判定される場合には、ショックアブソーバ1の発生する減衰力を小さくして、車体内の乗員の乗り心地を確保することが要求されるため、電磁石10〜12により構成される移動手段のうち電磁石10、11がAVSECUの制御に基づいて、磁性イオン流体LMをピストン3に対して離隔する方向に移動させるので、オリフィス4、5を通過する流体LをノーマルオイルLN主体とすることにより、減衰力を小さくすることができる。
【0099】
加えて、図7に示す電磁石10、11が励磁された場合において、シリンダ2内部の第一流体室8及び第二流体室9のオリフィス4、5から離隔した領域においては、流体Lは磁性イオン流体LMを主体として構成されているので、ショックアブソーバ1に入力される振動の振幅すなわちストロークが十分大きくなり、ピストン3がシリンダ2の下端部に過度に接近するボトミング及びその反対の事象であるピストン3がシリンダ2の上端部に過度に接近する事象が発生した場合には、減衰力を大きくして車体の挙動を安定させることができる。
【0100】
なお、ピストン3のシリンダ2に対する中立位置近傍のみにおいて減衰力を制御すれば十分である場合には、電磁石12についてはピストン3に設けることに換えて、図10に示すように、シリンダ2の外周側に設けることもできる。この場合においては、電磁石12は円筒中間側磁束発生手段を構成する。これによれば、ピストン3に連結されるロッド60を中空として電磁石12のコイルエンドとAVSECUとを接続する配線を配策し、配線を車体側に接続するスリップリングをシャフト60に設けることに伴う部品増加と構造の複雑化を回避することができる。
【0101】
なお、上述した実施例1〜3においては、いずれもシリンダ2内部において流体Lを構成する磁性イオン流体LMをピストン3に対して接近又は離隔する方向に移動させることにより、オリフィス4、5を通過させる流体Lの動粘度を変化させることによって減衰力を適宜調節したが、オリフィス4、5に流体Lを通過させる動力はピストン3の摺動によるものである。このような構成に換えて、ピストン3の摺動によらずに流体Lのオリフィス4、5に対する通過量を変化させることで減衰力を調節することもできる。以下それについての実施例4について述べる。
【0102】
なお、適用対象となるサスペンション装置51及びショックアブソーバ21の基本構成は実施例1に示したものと同様であるため、重複する説明は割愛する。
【実施例4】
【0103】
本実施例4のショックアブソーバ21の本発明に係わる特徴事項について図を用いて詳細に説明する。図11及び図12は本発明に係わる減衰装置を示す模式断面図である。なお、図11及び図12においても、本発明に係わる特徴事項に関連する部位以外の構成要素については省略して示している。
【0104】
本実施例4のショックアブソーバ1は、図11及び図12に示すようにシリンダ2の下方端部に、円筒端側磁束発生手段としての電磁石22を備え、シリンダ2の上方端部に、円筒端側磁束発生手段としての電磁石23を備える。
【0105】
電磁石22及び電磁石23は、それぞれを構成するコイルのコイルエンドが図示しないAVSECUに接続されて、それぞれ独立してオンオフされてオンの場合に励磁されて磁束を適宜発生して、磁性イオン流体LMをオリフィス4、5にピストン3の摺動によらずに通流させる通流手段を構成する。
【0106】
また、AVSECUには車体のいずれかの箇所に設けられた図示しない加速度センサの出力値が入力されており、この加速度センサの出力値を周波数分析して、車体の振動の周波数が例えば1〜2Hz程度の低周波数の第一所定領域であり、パワースペクトラムが大きく、車体の振動の振幅が第一所定値よりも大きく、振動形態が第一所定形態であるとみなせる場合には、「あおり」が大きく発生していると判定する。つまりAVSECUは振動形態判定手段を構成する。
【0107】
また、振動計体判定手段つまりAVSECUは、この加速度センサの出力値を周波数分析して、車体の振動の周波数が例えば8〜32Hz程度の高周波数の第二所定領域であり、パワースペクトラムが小さく、車体の振動の振幅が第二所定値よりも小さく、振動形態が第二所定形態であるとみなせる場合には、「ゴツゴツ」が大きく発生していると判定する。
【0108】
さらに、AVSECUにはショックアブソーバ21のストロークを検出する図示しないストロークセンサが接続されており、このストロークセンサの出力値から、サスペンション装置51がバウンド又はリバウンドしているかすなわちピストン3のシリンダ2に対する摺動方向が「下降」であるかどうかを判定する。つまり、AVSECUは摺動方向判定手段をも構成する。
【0109】
AVSECUは、以上述べた三つの判定に基づいて、電磁石22、23を適宜制御して、磁性イオン流体LMをオリフィス4、5にピストン3の摺動によらずに通流させる。
【0110】
以下、本実施例4に係わるショックアブソーバ21のAVSECUの制御内容についてフローチャートを用いて説明する。図13は本発明に係わる減衰装置の制御内容を示すフローチャートである。
【0111】
S11において、AVSECUは加速度センサの出力値を周波数分析して、パワースペクトラムが大きく、車体の振動の振幅が第一所定値よりも大きく、振動形態が第一所定形態であるとみなせる場合には、「あおり」が大きく発生していると判定して、S12にすすみ、みなせない場合には「あおり」大きく発生していないと判定して、S15にすすむ。
【0112】
S12において、AVSECUはストロークセンサの出力値から、サスペンション装置51がバウンド又はリバウンドしているかすなわちピストン3のシリンダ2に対する摺動方向が「下降」であるかどうかを判定し、下降であると判定する場合にはS13にすすみ、下降でないと判定する場合にはS14にすすむ。
【0113】
S13において、AVSECUは、電磁石23をオンとしてこれにより電磁石23が励磁されて磁束が発生され、この磁束に基づいて、磁性イオン流体LMは図11に示すように、オリフィス4、5を第二流体室9から第一流体室8に向かう方向に、ピストン3の摺動によらずに移動される。S13の処理が終了するとS15にすすむ。
【0114】
S14において、AVSECUは、電磁石22をオンとしてこれにより電磁石22が励磁されて磁束が発生され、この磁束に基づいて、磁性イオン流体LMは図12に示すように、オリフィス4、5を第一流体室8から第二流体室9に向かう方向に、ピストン3の摺動によらずに移動される。S14の処理が終了するとS15にすすむ。
【0115】
S15において、AVSECUは、この加速度センサの出力値を周波数分析して、車体の振動の周波数が例えば8〜32Hz程度の高周波数の第二所定領域であり、パワースペクトラムが小さく、車体の振動の振幅が第二所定値よりも小さく、振動形態が第二所定形態であるとみなせる場合には、「ゴツゴツ」が大きく発生していると判定して、S16にすすみ、みなせない場合には「ゴツゴツ」が大きく発生していないと判定して、S11に戻る。
【0116】
S16において、AVSECUはストロークセンサの出力値から、サスペンション装置51がバウンド又はリバウンドしているかすなわちピストン3のシリンダ2に対する摺動方向が「下降」であるかどうかを判定し、下降であると判定する場合にはS17にすすみ、下降でないと判定する場合にはS18にすすむ。
【0117】
S17において、AVSECUは、電磁石22をオンとしてこれにより電磁石22が励磁されて磁束が発生され、この磁束に基づいて、磁性イオン流体LMは図12に示すように、オリフィス4、5を第一流体室8から第二流体室9に向かう方向に、ピストン3の摺動によらずに移動される。S17の処理が終了するとAVSECUは制御を終了する。
【0118】
S18において、AVSECUは、電磁石23をオンとしてこれにより電磁石23が励磁されて磁束が発生され、この磁束に基づいて、磁性イオン流体LMは図11に示すように、オリフィス4、5を第二流体室9から第一流体室8に向かう方向に、ピストン3の摺動によらずに移動される。S18の処理が終了するとAVSECUは制御を終了する。
【0119】
以上述べた本実施例4のショックアブソーバ21によれば以下のような作用効果を得ることができる。つまり、「あおり」と呼ばれる比較的ゆったりとした大きな前記車体の振動形態では、ショックアブソーバ21の発生する減衰力を大きくして前記車体の挙動を安定させることが要求されるため、電磁石22、23により構成される通流手段がAVSECUの三つの判定に基づく制御に基づいて、磁性イオン流体LMをオリフィス4又は5に対してピストン3の摺動方向と逆方向つまりは摺動にともなう流体Lの移動方向と同方向に通流させるので、オリフィス4又は5を通過する流体Lの量を大きくして、減衰力を大きくすることができる。
【0120】
さらに、所謂「ゴツゴツ」と呼ばれる比較的小刻みな振動形態においては、ショックアブソーバ21の発生する減衰力を小さくして、車体内の乗員の乗り心地を確保することが要求されるため、電磁石22、23により構成される通流手段がAVSECUの三つの判定に基づく制御に基づいて、磁性イオン流体LMをオリフィス4又は5に対して、ピストン3の摺動方向と同方向つまりは摺動に伴う流体Lの移動方向と逆方向に通流させるので、オリフィス4又は5を通過する流体Lの量を小さくして、減衰力を小さくすることができる。
【0121】
以上本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明は上述した実施例に制限されることなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0122】
例えば上述した実施例1〜3において、AVSECUの通常の制御すなわち、実際に検出されたヨーレートと、CAN上で取得した操舵角と車速により求められたヨーレートとの比較により、実際に検出されたヨーレートが小さい場合においては、車両が旋回外側に横滑りするおそれがあると判定して、エンジンの出力を抑制してブレーキをかけて、なおかつ、旋回外側の前輪にブレーキをかけて横滑りを防止する制御に伴わせた制御とすることもできる。
【0123】
すなわち、旋回外側に位置するショックアブソーバ1については、ピストン3の備えるオリフィス4、5に接近する方向に磁性イオン流体LMを移動させるように上述した複数の電磁石からなる移動手段をAVSECUの制御手段が制御して、減衰力を大きくして車体の挙動を安定させることとしてもよい。
【0124】
同様に、上述した実施例4においても、実施例1〜3と同じく、AVSECUが通常の制御に併せて、ショックアブソーバ21の上述した複数の電磁石からなる通流手段を制御して、車両が旋回外側に横滑りして車両挙動が不安定となるおそれがある場合に、ピストン3の備えるオリフィス4、5にピストン3の摺動方向と反対方向に磁性イオン流体LMを通流させるように上述した複数の電磁石からなる通流手段をAVSECUの制御手段が制御して、減衰力を大きくして車体の挙動を安定させることとしてもよい。
【0125】
さらに、ノーズダイブが発生している場合には、前輪側のショックアブソーバ1又は21の減衰力を大きくするように制御し、テールリフトが発生している場合には、後輪側のショックアブソーバ1又は21の減衰力を大きくするように制御しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明は、車両のサスペンション装置に適用されて好適な減衰装置に関するものであり、比較的簡易な構成の追加により、部品点数の増加と構造の複雑化を招くことなく減衰力を高い応答性で適宜調整することができる減衰装置を提供することができるので、通常の乗用車、トラック、バス等の様々な車両に適用して有益なものである。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本発明に係る減衰装置が適用されるサスペンション装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】本発明に係る減衰装置の一実施形態を示す模式図である。
【図3】本発明に係る減衰装置の一実施形態を示す模式図である。
【図4】本発明に係る減衰装置の一実施形態の作用効果を示す模式図である。
【図5】本発明に係る減衰装置の一実施形態を示す模式図である。
【図6】本発明に係る減衰装置の一実施形態の作用効果を示す模式図である。
【図7】本発明に係る減衰装置の一実施形態を示す模式図である。
【図8】本発明に係る減衰装置の一実施形態を示す模式図である。
【図9】本発明に係る減衰装置の一実施形態の制御内容を示すフローチャートである。
【図10】本発明に係る減衰装置の一実施形態を示す模式図である。
【図11】本発明に係る減衰装置の一実施形態を示す模式図である。
【図12】本発明に係る減衰装置の一実施形態を示す模式図である。
【図13】本発明に係る減衰装置の一実施形態の制御内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0128】
1 ショックアブソーバ(減衰装置)
2 シリンダ(円筒)
3 ピストン(摺動部材)
4 オリフィス(伸長時用)
5 オリフィス(圧縮時用)
6 バルブ
7 バルブ
8 第一流体室
9 第二流体室
10 電磁石(円筒端側磁束発生手段)
11 電磁石(円筒端側磁束発生手段)
12 電磁石(摺動部材側磁束発生手段)
21 ショックアブソーバ(減衰装置)
22 電磁石(円筒端側磁束発生手段)
23 電磁石(円筒端側磁束発生手段)
L 流体
LN ノーマルオイル
LM 磁性イオン流体
51 サスペンション装置
52 ナックル
53 スプリング
54 ロアアーム
55 タイヤ
56 ホイール
57 ボールジョイント
58 ロアスプリングシート
59 アッパスプリングシート
60 ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒と、前記円筒内を軸方向に摺動自在な摺動部材と、前記摺動部材により前記円筒内部に画成されて作動油と前記作動油より動粘度が大きい磁性イオン流体を含む流体が充填された第一流体室と第二流体室と、前記摺動部材に設けられて前記流体に抵抗を付与して前記第一流体室と前記第二流体室とを連通する流路と、前記円筒内において前記磁性イオン流体を前記流路に対して接近する方向又は離隔する方向に選択的に移動させる移動手段を備えることを特徴とする減衰装置。
【請求項2】
車体の振動形態を判定する振動形態判定手段と、前記判定された前記振動形態に基づいて前記移動手段を制御する制御手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の減衰装置。
【請求項3】
前記振動形態が、周波数が第一所定範囲で振幅が第一所定値より大きい第一所定形態である場合に、前記移動手段が前記制御手段の制御に基づいて、前記磁性イオン流体を前記流路に対して接近する方向に移動させることを特徴とする請求項2に記載の減衰装置。
【請求項4】
前記振動形態が、周波数が前記第一所定範囲より高い領域の第二所定範囲で振幅が第二所定値より小さい第二所定形態である場合に、前記移動手段が前記制御手段の制御に基づいて、前記磁性イオン流体を前記流路に対して離隔する方向に移動させることを特徴とする請求項2に記載の減衰装置。
【請求項5】
前記移動手段が前記円筒の前記軸方向両端の少なくとも一方に備えられた円筒端側磁束発生手段を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の減衰装置。
【請求項6】
前記移動手段が前記摺動部材に備えられた摺動部材側磁束発生手段を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の減衰装置。
【請求項7】
前記移動手段が前記円筒の摺動部材の中立位置に該当する部分に備えられた円筒中間側磁束発生手段を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の減衰装置。
【請求項8】
円筒と、前記円筒内を軸方向に摺動自在な摺動部材と、前記摺動部材により前記円筒内部に画成されて磁性イオン流体を含む流体が充填された第一流体室と第二流体室と、前記摺動部材に設けられて前記流体に抵抗を付与して前記第一流体室と前記第二流体室とを連通する流路と、前記磁性イオン流体を前記流路に前記摺動部材の摺動によらずに通流させる通流手段を備えることを特徴とする減衰装置。
【請求項9】
車体の振動形態を判定する振動形態判定手段と、前記摺動部材の摺動方向を判定する摺動方向判定手段と、前記判定された前記振動形態と前記摺動方向に基づいて前記通流手段を制御する制御手段を備えることを特徴とする請求項8に記載の減衰装置。
【請求項10】
前記振動形態が、周波数が第一所定範囲で振幅が第一所定値より大きい第一所定形態である場合に、前記通流手段が前記制御手段の制御に基づいて、前記磁性イオン流体を前記流路に対して前記摺動方向と逆方向に通流させることを特徴とする請求項9に記載の減衰装置。
【請求項11】
前記振動形態が、周波数が前記第一所定範囲より高い領域の第二所定範囲で振幅が第二所定値より小さい第二所定形態である場合に、前記通流手段が前記制御手段の制御に基づいて、前記磁性イオン流体を前記流路に対して前記摺動方向と同方向に通流させることを特徴とする請求項9に記載の減衰装置。
【請求項12】
前記通流手段が前記円筒の前記軸方向両端の少なくとも一方に備えられた円筒端側磁束発生手段を含むことを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載の減衰装置。
【請求項13】
前記通流手段が前記摺動部材に備えられた摺動部材側磁束発生手段を含むことを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載の減衰装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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