説明

渡りレール装置

【課題】貨物列車の曲線区間走行に制限を与えることなく貨物列車間を鉄道列車が円滑に移動可能とする。
【解決手段】貨物車両110に鉄道車両210が走行する一対の積載レール112が設けられ、二つの貨物車両の一方に回動端部が位置し、他方に基端部が位置すると共にレール状構造部21を有する一対の渡り部材20と、貨物車両の端部で各渡り部材を水平回動可能に基端部を支持する一対の回動支持部40と、各渡り部材を水平回動における定位置に保持する一対の位置保持手段60とを備え、各位置保持手段は、渡り部材の回動端部側に設けられ、水平回動方向の一方から当接するストッパ64と、渡り部材の回動端部をストッパ側に押圧する弾性手段61とを有する、という構成を採っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連結された複数の鉄道車両を積載して走行する複数の貨物車両の間に設けられる渡りレール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、軌間寸法の異なる線路区間において列車を連続的に移動させるための技術が種々提案されている。その一つとして、所定軌道を走行する複数の鉄道車両からなる鉄道列車を積載する、当該鉄道列車よりも広い軌間の軌道を走行可能な貨物列車(連結された複数の貨物車両)を使用して、広い軌間の線路区間は鉄道列車を積載した貨物列車で走行し、狭い軌間の線路区間では積載されていた鉄道列車で走行する技術を挙げることができる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−262914号公報(第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の従来技術において、鉄道列車を貨物列車に積載する場合に、鉄道車両を一台ずつ貨物列車に格納する作業を行っていては、煩雑に過ぎ、その積載作業には多大な作業負担と時間が必要となってしまう。そこで、連結された複数の貨物車両の一端側から連結された鉄道車両が乗り入れて他端側まで移動することで積載することが効率的である。
その場合、鉄道列車は各貨物車両の連結部を渡って移動しなければならず、そのための渡り構造が必須となる。
例えば、貨物車両内に鉄道列車が移動するための一対のレールを設け、渡り構造としては、一方の貨物車両および他方の貨物車両のそれぞれに設けられたレールの間に別途用意したレールを架設するなどの方法が考えられるが、確実に鉄道列車を渡らせるため、それら各レール同士の接する部分には隙間が極力ない構造とする必要がある。
しかしながら、車両間にほぼ隙間なくレールを架設すると、貨物列車が曲線の線路区間を走行する際に、曲線における各貨物車両間の内輪側のレール同士が接触するおそれがあるため、貨物列車の走行が直線若しくは非常に緩やかな曲線の線路区間に制限されるという問題があった。
【0004】
本発明は、貨物列車の曲線区間走行に制限を与えることなく連結された貨物車両間を鉄道列車が円滑に移動可能とすることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、連結された複数の鉄道車両を積載する連結された複数の貨物車両の相互間を前記各鉄道車両が移動することを可能とする渡りレール装置であって、前記各貨物車両の鉄道車両積載面上には前記鉄道車両が走行するための一対の積載レールが設けられ、連結された二つの貨物車両のいずれか一方に回動端部が位置し、他方に基端部が位置するように掛け渡されると共に上部にレール状構造部を有する一対の渡り部材と、前記各渡り部材の基端部が位置する貨物車両の端部に設けられ、前記各渡り部材の回動端部が水平に回動可能となるように前記基端部を支持する一対の回動支持部と、前記各渡り部材の回動端部を水平回動方向における定位置に保持する一対の位置保持手段とを備え、前記各位置保持手段は、前記渡り部材の回動端部が位置する貨物車両の端部に設けられ、当該渡り部材の回動端部の水平回動方向の一方から当接するストッパと、前記渡り部材の回動端部に前記ストッパに対する弾性的な押圧力を付与する弾性手段とを有することを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記各回動支持部は、前記渡り部材を仰角方向にも回動可能に支持することを特徴とする。
【0007】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記各積載レールに沿って、積載する前記鉄道車両の車輪のフランジ内側面を当該フランジよりも内側から支える一対のガイドレールを有することを特徴とする。
なお、ここでいう「フランジ内側面」とは、車軸両端部に設けられた一対の車輪における一方の車輪のフランジにあっては他方の車輪側の面を示す。
また、「フランジよりも内側から支える」とは、車軸両端部に設けられた一対の車輪における一方の車輪のフランジにあっては他方の車輪側から接して支えることを示す。
【0008】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記各渡り部材の内側面又は外側面がより長くなるようにその回動端部を斜めに切断された形状に形成すると共に、前記各渡り部材の回動端部に対向する前記各積載レールの外側面又は内側面がより長くなるようにその先端部が斜めに切断された形状に形成し、前記各渡り部材の回動端部と前記各積載レールの先端部とに、互いに向かい合う傾斜面を形成したことを特徴とする。
なお、ここでいう「渡り部材の内側面」とは、一対の渡り部材における一方の渡り部材にあっては他方の渡り部材側の面を示す。「渡り部材の外側面」とはその逆側の面を示す。
【0009】
請求項5記載の発明は、請求項4に記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記各渡り部材の内側面が外側面よりも長くなるようにその回動端部を斜めに切断された形状に形成すると共に、前記各渡り部材の回動端部に対向する前記各積載レールの外側面が内側面よりも長くなるようにその先端部が斜めに切断された形状に形成し、前記各位置保持手段のストッパを前記渡り部材の回動端部の外側から当接する配置としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明は、貨物車両が複数連結された貨物列車が水平且つ真っ直ぐなレールの軌道上に配置され、かかる状態で、貨物列車の一端から連結された鉄道車両が内部に積載される。その際、複数の鉄道車両は連結されたまま各貨物車両内を進行する。そして、連結された各貨物車両間を渡りレール装置の一対の渡り部材で渡して連結された鉄道車両の移動が行われる。
一方、各渡り部材はその回動端部が弾性手段によりストッパ側に押圧されているので、例えば、連結された鉄道車両の積載後、貨物列車が曲線区間を走行する場合、各渡り部材は弾性手段からの押圧力に抗してストッパから押圧されることで水平に回動し、或いは、弾性手段からの押圧力に従ってストッパの移動に追従して水平に回動し、各貨物車両の左右の曲がりに対応して向きを変えることができる。これにより、貨物列車が曲線区間を走行する場合であっても、曲線がある程度の範囲内であれば、渡り部材の回動端部が積載レールに接触することを効果的に回避することが可能となる。
従って、渡りレール装置は、貨物列車の曲線区間走行に制限を与えることなく貨物列車間を鉄道列車が円滑に移動することを可能とする。
また、原則的には、貨物列車が直線の線路区間にあるときに鉄道列車の移動が行われると前記したが、貨物列車が曲線区間に停車している場合でも、曲線がある程度の範囲内であれば、渡り部材が左右に回動することによって、貨物車両の互いに離間した積載レールの端部と端部を滑らかに連接し、鉄道車両が各貨物車両間を渡ることが可能である。
【0011】
請求項2記載の発明は、線路区間の高低差によっては、互いに対向する積載レールが仰角方向に角度を生じることもあるが、その場合は各回動支持部による渡り部材の仰角方向の回動によって円滑に走行することができる。
また、原則的には、貨物列車が起伏のない直線の線路区間にあるときに鉄道列車の積載が行われることが望ましいが、貨物列車が起伏のある区間に停車している場合でも、起伏がある程度の範囲内であれば、渡り部材が上下に回動することによって、貨物車両の互いに離間した積載レールの端部と端部を滑らかに連接し、鉄道車両が各貨物車両間を渡ることが可能である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、渡りレール装置がフランジ内側面を当該フランジよりも内側から支えるガイドレールを有することから、積載する鉄道車両の車輪が内側に変位してしまうことを抑止することが可能となる。例えば、鉄道車両の車輪の踏面に勾配が設けられている場合には、その通過時に、渡り部材の水平回動を定位置で保持する位置保持手段に対して荷重が加わることとなるが、反対側の渡り部材に設けられたガイドレールと反対側の車輪のフランジ内側面とが接触することによって位置保持手段に対する荷重を抑制することが可能となる。従って、渡りレール装置の耐久性を向上することが可能となる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、各渡り部材と各積載レールとの互いの傾斜面が向かい合い、当該傾斜面が鉛直方向に沿う構造としたことにより、曲線の線路区間の走行時や制動時等に連結された貨物車両間の距離が接近した場合に、渡り部材の先端部と積載レールの先端部とに接触を生じたとしても、傾斜面の傾斜により接触圧が左右いずれかの方向に作用することで渡り部材の水平回動を促すので、渡りレール装置が走行の妨げとはならず、貨物列車の円滑な走行を実現することが可能となる。
また、各渡り部材と各積載レールとを互いに所定方向に斜めに切断された形状としたので、積載レールの長手方向について渡り部材の回動端部の上面と積載レールの先端部の上面とが重合する区間が形成される。このため、鉄道車両の車輪が渡り部材と積載レールとの境界位置を通過する際には、車輪の踏面が渡り部材の上面か積載レールの上面のいずれかに接触するので、境界位置の通過の際に鉄道車両に対する振動を低減でき、鉄道車両が各貨物車両間を円滑に渡ることが可能となる。
【0014】
請求項5記載の発明は、各渡り部材の内側面が外側面よりも長くなるようにその先端部を斜めに切断された形状に形成したことにより傾斜面が形成され、また、各渡り部材の回動端部に対向する各積載レールの外側面が内側面よりも長くなるようにその先端部が斜めに切断された形状に形成したことにより傾斜面が形成される。このため、曲線区間等において、連結された貨物車両間の左右のいずれかが狭くなっても、傾斜面同士が当接することで摺動を生じながら渡り部材が内側に回動する。このため、渡りレール装置が走行の妨げとはならず、貨物列車の円滑な走行を実現することが可能となる。
一方、各渡り部材に対してストッパが外側から接するので、渡り部材は外側への回動が規制されている。従って、車輪の踏面にテーパがつけられているような場合であっても各渡り部材が外側に回動することが防止され、脱輪を効果的に防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(貨物車両及び鉄道車両)
以下、本発明の実施の形態を、図を用いて詳細に説明する。
図1は、発明の実施形態である渡りレール装置10を積載した貨物列車100を示す側面図である。
貨物列車100は、図1に示すように、複数の連結された貨物車両110と、これら貨物車両110に接続されて牽引する機関車(図示略)とから構成されている。かかる貨物列車100は、当該貨物列車100が走行する軌道よりも軌間の狭い軌道を走行する鉄道列車200を積載して運行を行う車両である。積載される鉄道列車200も、複数の連結された鉄道車両210から構成され、各鉄道車両210が動力を持っていない場合には必要に応じて機関車が接続されていてもよい。
【0016】
上記各貨物車両110は、上記鉄道列車200を積載するために、鉄道車両積載面としての台枠111の上面に鉄道列車200の軌間幅に合わせた一対の積載レール112が前後方向に沿って設けられている。
そして、鉄道列車200を貨物列車100に積載する際には、連結された貨物車両110の一端部側から鉄道列車200が乗り入れて、連結された貨物車両110の他端部側に移動可能となるように、各貨物車両110の間には、鉄道列車200が渡ることを可能とするための渡りレール装置10が設けられている。
なお、鉄道列車200の積載は、貨物列車100がなるべく直線状の線路区間に停車しているときに行われ、貨物列車100の走行時には鉄道列車200の移動は行われない。
また、貨物車両110の前後長さと鉄道車両210の前後長さとは各連結器間の長さで一致するように設定され、鉄道列車200の積載時には、当該鉄道列車200の各連結器201と貨物列車100の各連結器101とは前後方向について同位置となるように鉄道列車200は停車し保持される。従って、積載時に一両の鉄道車両210が二両の貨物車両110にまたがって積載されることはない。
【0017】
(渡りレール装置の全体構成)
図2は渡りレール装置10の平面図、図3は分解斜視図、図4は側面図、図5は正面図である。
渡りレール装置10は、連結された二つの貨物車両110,110のいずれか一方に回動端部が位置し、他方に基端部が位置するように掛け渡されると共に上面にレール状構造部21を有する一対の渡り部材20,20と、各渡り部材20の回動端部と基端部のそれぞれの下側に配設された台座30,31と、各渡り部材20,20の基端部が位置する貨物車両110の端部に設けられ、各渡り部材20,20の回動端部が水平方向と仰角方向とに回動可能となるように基端部を支持する一対の回動支持部40,40と、各渡り部材20,20の回動端部を水平回動方向における定位置に保持する一対の位置保持手段としての位置保持機構60,60と、各積載レール112,112に沿って、積載する鉄道車両210の車輪202のフランジ内側面202cを当該フランジよりも内側から支える一対のガイドレール80,80とを備えている。
なお、以下の説明おいて、図2における上側が貨物列車100の前方とする。また、図2における左右の渡り部材20,20と回動支持部40,40と位置保持機構60,60はいずれも同一構造のものであるが、前後の向きが互いに逆に配置されている。つまり、右側の渡り部材20は回動端部が前方を向いて配置され、左側の渡り部材20は回動端部が後方を向いて配置されている。以下の説明では、右側の構成について主に説明し、左側の構成については同一であるため説明を省略する。
【0018】
(積載レール)
前述したように、各積載レール112は、台枠111の上面に前後方向に沿って設けられている。かかる積載レール112は、その上面、内側面および上面から内側面にわたる曲面部分に鉄道車両210の車輪202が接して走行が行われるため、積載レール112の上面から内側面にかけては通常のレールとほぼ等しい断面形状となっている。
また、各積載レール112は、その一端部が渡り部材20の回動端部と対向する構造を有し、他端部は回動支持部40を介して渡り部材20と連結される構造となっている。即ち、各積載レール112の一端部は、その外側面が内側面よりも長くなるようにその先端部が斜めに切断された形状に形成されている。このため、積載レール112はその先端部に鉛直方向に沿った傾斜面112aを有すると共に、尖鋭な形状となっている。また、対向する貨物車両110側の積載レール112の端部は、貨物車両110の台枠111のほぼ端縁位置まで延出されており、後述する回動支持部40が設けられている。
【0019】
(台座)
貨物車両110の台枠111の前後それぞれの端部は、図4に示すように、他の部位よりも一段低くなった段部111aが形成され、当該段部111aの上面であって、各積載レール112,112の端部の下側には台座30,31が固定状態で設置されている。
これらの台座30,31は、図2に示すように、いずれも長方形状のプレートであり、その上面部は、渡り部材20の回動端部と基端部とがそれぞれ載置される載置面となっている。そして、一方の台座30は、渡り部材20の回動端部と積載レール112の傾斜面112aが形成された端部とを載置し、もう一方の台座31は、渡り部材20の基端部と積載レール112の回動支持部40が設けられた端部とを載置している。
【0020】
(渡り部材)
各渡り部材20は、図2〜5に示すように、棒状に形成されており、連結された二つの貨物車両110,110の間に架設することが可能な長さに設定されている。そして、二つの貨物車両110,110の互いに離間した積載レール112,112の端部と端部を連接することで鉄道車両210の車輪202の走行を可能となるようにしている。
従って、各渡り部材20は、その上部にレール状構造部21を備えている。このレール状構造部21は、レールとして機能する構造、即ち、車輪202(図5参照)の踏面202aが接触する上面部21aと車輪202のフランジ外側面202bに対向する内側面21bとを備えており、上述の積載レール112と同様に、上面部21aから内側面21bにかけては通常のレールとほぼ等しい断面形状となっている。なお、レール状構造部21は、上面部21aから内側面21bにかけての通常のレールとほぼ等しい断面形状を有する構造であれば、特にレール状でなくとも良い。
【0021】
かかる渡り部材20の基端部は、前述した、積載レール112における貨物車両110の台枠111のほぼ端縁位置まで延出された端部に回動支持部40を介して連結されている。
また、渡り部材20の回動端部は、いわゆる自由端となっており、その先端には傾斜面22が形成されて尖鋭な形状となっている。かかる傾斜面22は、渡り部材20を真っ直ぐに延ばした状態(水平であって基端部側の積載レール112の延長線に沿った状態)において、鉛直方向に沿った状態となり、且つ、渡り部材20の内側面を外側面よりも長くする(前方まで延出させる)方向に傾斜している。また、この傾斜面22は、二つの貨物車両110,110がいずれも直線の線路区間に乗っている状態で渡り部材20を真っ直ぐに延ばした場合に、対向する積載レール112の傾斜面112aと互いに平行となるように傾斜角度が設定されている。
さらに、上述の状態において、渡り部材20の傾斜面22は対向する積載レール112の傾斜面112aに所定の隙間が設けられている。その隙間距離は、連結器101が有する緩衝ゴムの伸縮や連結器101のガタ等を考慮して、具体的には前後方向に60[mm]に設定されているが、後述する各傾斜面22,112aの効果を考慮すると、より狭く設定しても良い。
なお、二つの渡り部材20の一方の基端部を支持する回動支持部40は連結された二つの貨物車両110の一方に固定され、もう一方の渡り部材20の基端部を支持する回動支持部40はもう一方の貨物車両110に固定されている。つまり、各渡り部材20は、互いに回動端部を逆方向に向けて支持されている。
【0022】
(回動支持部)
回動支持部40は、図3に示すように、積載レール112の傾斜面112aを備えない方の端部と渡り部材20の基端部とを連結する自在継ぎ手41と、積載レール112に対して自在継ぎ手41を垂直軸回りに回動可能に連結する垂直ピン42と、自在継ぎ手41に対して渡り部材20を水平軸回りに回動可能に連結する水平ピン43とを備えている。
【0023】
積載レール112の傾斜面112aを備えない端部は側方から見て略コ字状に形成され、隙間を介在させて上下に板状部112b,112cを有し、上下の板状部112b,112cには、同心となるように径の異なる貫通穴(下側が大径)が形成されている。
一方、渡り部材20の基端部は上方から見て略コ字状に形成され、隙間を介在させて左右に板状部23,24を有し、左右の板状部23,24には、同心となるように径の異なる貫通穴(図3における左側が大径)が形成されている。
【0024】
自在継ぎ手41は、一端部に積載レール112の二つの板状部112b,112cの隙間に介挿する板状部41aを備え、他端部に渡り部材20の二つの板状部23,24の隙間に介挿する板状部41bを備え、中間でこれらを一体的に連結した構造となっている。
そして、板状部41aの中央には積載レール112の板状部112cと等しい径の貫通穴が形成され、当該板状部41aを積載レール112の板状部112b,112cの隙間に介挿した状態で各貫通穴に対して同時に垂直ピン42が挿入されている。これにより、積載レール112と自在継ぎ手41の連結を図ると共に積載レール112に対して当該自在継ぎ手41を垂直軸回りに水平方向に沿って回動させることを可能としている。なお、垂直ピン42は段付きでありその小径部が積載レール112の板状部112bの貫通穴に嵌合するようになっている。
また、板状部41bの中央には渡り部材20の板状部23と等しい径の貫通穴が形成され、当該板状部41bを渡り部材20の板状部23,24の隙間に介挿した状態で各貫通穴に対して同時に水平ピン43が挿入されている。これにより、自在継ぎ手41と渡り部材20の連結を図ると共に自在継ぎ手41に対して渡り部材20を水平軸回りに仰角方向(上下方向)に沿って回動させることを可能としている。なお、水平ピン43は段付きでありその小径部が渡り部材20の板状部24の貫通穴に嵌合するようになっている。
【0025】
回動支持部40は、自在継ぎ手41と垂直ピン42及び水平ピン43を介在させることにより、積載レール112に対して渡り部材20の回動端部を垂直軸回り及び水平軸回りに回動させることを可能としている。つまり、渡り部材20の回動端部はこれにより上下左右に移動することが可能となっている。
【0026】
(位置保持機構)
位置保持機構60は、渡り部材20が二つの貨物車両の積載レール112,112間でそれらと平行となる状態(積載レール112,112を接続した状態)となるようにその水平方向について弾性力を付与して位置保持を行う。
位置保持機構60は、図2〜5に示すように、渡り部材20の基端部の下面に突出して形成されたバネ受け部25を介して渡り部材20を外側に押圧する弾性手段としての押圧バネ61と、押圧バネ61の一端部を支持するバネ支持部材62と、押圧バネ61のガイド軸63と、渡り部材20の回動端部における側面を押圧バネ61による押圧方向とは逆側から支えるストッパ64とを備えている。
【0027】
渡り部材20のバネ受け部25は、渡り部材20の下面に対して垂直に立設され、前述した水平ピン43と同じ方向に沿って貫通穴が形成されている。
バネ支持部材62は、台座31の端面(対向する貨物車両110側の端面)にネジ留めされ、ガイド軸63の一端部を固定支持する。ガイド軸63は、コイル状の押圧バネ61の内側を貫通した状態で他端部がバネ受け部25の貫通穴に遊挿されている。
押圧バネ61は、バネ支持部材62とバネ受け部25との間で収縮された状態でガイド軸63に支持され、これにより、渡り部材20の回動端部を外方(もう一方の渡り部材20とは逆側)への水平回動方向に押圧している。なお、バネ受け部25は長穴を介してネジ留めされ、水平方向に位置調節可能であり、これにより渡り部材20への押圧力を調節可能としている。
一方、ストッパ64は隣接する貨物車両110の台座30上面に固定装備されており、渡り部材20の外側面に当接する鉛直方向に沿った当接面64aを備えている。ストッパ64は、その当接面64aに渡り部材20を当接させることで、当該渡り部材20を水平回動方向における所定位置に位置決めする。即ち、このストッパ64は、二つの貨物車両110が直線の線路区間にある時に、渡り部材20が前後の積載レール112,112と同一線上(平行)となる位置(以下、正規の位置とする)に位置決めするように配置されている。
前述したように、ストッパ64は押圧バネ61による押圧回動方向とは逆側から渡り部材20を支えるので、ストッパ64と押圧バネ61との協働により押圧バネ61の弾性力に応じた保持力で正規の位置に維持される。
【0028】
なお、バネ受け部25の貫通穴の内径に対してガイド軸63の外径はより小さく設定され、渡り部材20の左右及び上下方向の回動をある程度の範囲で許容する構造となっている。
【0029】
(ガイドレール)
ガイドレール80は、図2,5に示すように、渡り部材20の回動端部側においてこれに対向する積載レール112と平行に設けられた車輪202のフランジ内側面202cに対向するレール状部材である。このガイドレール80は、図5に示すように、外側方向に突出した状態で積載レール112よりも内側となる配置で台座30の上面に固定装備されている。さらに、ガイドレール80の車輪202との対向面にはその両端部にテーパが形成され、車輪202が接した場合に、円滑にガイドすることを可能としている。
また、ガイドレール80と積載レール112(又は正規位置の渡り部材20)との間には、ガイドレール80の脇を通過する車輪202のフランジ幅よりも広く、車輪幅よりも狭い範囲での隙間を設けている。
また、このガイドレール80は、少なくとも、逆側の積載レール112(ガイドレール80が左に位置するならば右側の積載レール112、又は、ガイドレール80が右なら左側の積載レール112)の傾斜面112aと渡り部材20の回動端部の傾斜面22とを通過する際に車輪202をガイド可能な範囲に設けられている。
つまり、積載レール112の傾斜面112aと渡り部材20の傾斜面22とには隙間が形成されていること、及び傾斜面112a,22の形成箇所のレール幅は狭くなっているので、車輪202の通過時には段差を通過するのとほぼ同じような振動を生じたり動作が不安定になりがちだが、反対側の車輪202の内側への移動を防止するので、ガイドレール80側の車輪の乗り上げ等を効果的に抑止することができる。
【0030】
(渡りレール装置の作用及び効果)
図6及び図7は、貨物列車100が右向および左向の曲線区間を走行する際に、渡りレール装置10の渡り部材20がどのように状態変化を生じるかを示した説明図である。これら図6及び図7も踏まえて貨物列車100に対する鉄道列車200の積載作業及び積載後の貨物列車100の走行時における渡りレール装置10の作用について説明する。
【0031】
貨物列車100に鉄道列車200を積載する際には、貨物列車100の一端部側から鉄道列車200を乗り入れて、貨物列車100内を鉄道列車200を移動させることにより行われる。そして、当該積載は、原則として、起伏のない直線の線路区間に貨物列車100を置いて行われる。
貨物列車100内を鉄道列車200が進行する際には、各貨物車両110間を渡りレール装置10の渡り部材20,20が渡して移動を可能とする。
【0032】
そして、鉄道列車200の積載後、図6に示すような右向の曲線区間を貨物列車100が走行する場合、各渡り部材20は、回動端部が各押圧バネ61によりストッパ64側に押圧されているが、各渡り部材20は押圧バネ61の押圧力に抗してストッパ64から押圧されることで内側に回動する。
また、図7に示すような左向の曲線区間を貨物列車100が走行する場合、各渡り部材20は、回動端部が各押圧バネ61によりストッパ64側に押圧されているために、各渡り部材20は、押圧バネ61からの押圧力に従ってストッパ64の移動に追従して外側に回動する。
これらに示すように、貨物列車100の線路区間が右向左向いずれの曲線であったとしても、各貨物車両110,110の曲がりに対応してより円滑に向きを変えることができる。これにより、貨物列車100が曲線区間を走行する場合であっても、曲線がある程度の範囲内であれば、各渡り部材20の回動端部が積載レール112に接触することを効果的に回避することが可能となる。
【0033】
さらに、貨物列車100がより急な曲線区間を走行したり連結器101が有する緩衝ゴムがより大きく収縮したりする場合には、二つの貨物車両110,110の左右いずれかの間隔が図6,7の場合よりも縮小することがあり得る。しかしながら、積載レール112と渡り部材20とは互いに傾斜面112a,22を対向させると共にこれらの接触時にはストッパ64とは逆方向に渡り部材20が回動を生じるようにこれらの傾斜面112a,22の傾斜方向が設定されているので、図8に示すように、傾斜面112a,22同士が摺接し、渡り部材20がストッパ64とは逆側である内側に回動することとなる。
図6〜8に示すように、渡りレール装置10は、各貨物車両110間で鉄道列車200の積載移動を可能としつつも、貨物列車100が曲線区間を走行する際にも妨げとはならず、貨物列車100の円滑な走行を実現することが可能となる。
【0034】
さらに、線路区間の勾配や高低差によっては、例えば図9に示すように、互いに連結された貨物車両110,110に高低差を生じる場合があるが、その場合は回動支持部40が有する水平ピン43に従って渡り部材20が水平軸回りに回動することによって、貨物列車100は渡りレール装置10による制限を受けることなく起伏のある区間をより円滑に走行することができる。
【0035】
また、原則として、貨物列車100が起伏のない直線の線路区間に停車しているときに鉄道列車200の積載が行われることが望ましいが、仮に、貨物列車100が曲線区間や起伏のある区間に停車している場合でも、曲線や起伏がある程度の範囲内であれば、渡り部材20が左右上下に回動することによって、貨物車両110,110の互いに離間した積載レール112,112の端部と端部を滑らかに連接し、鉄道車両210が各貨物車両110間を渡ることが可能である。
【0036】
また、図10に示すように、各渡り部材20と各積載レール112とを斜めに切断され互いに向い合う形状としたので、積載レールの長手方向について渡り部材20の回動端部の上面と積載レール112の先端部の上面とが重合する区間が形成される。このため、図10に示す領域Aのように、鉄道車両210の車輪202が渡り部材20と積載レール112との境界位置を通過する際には、車輪202の踏面202aが渡り部材20の上面か積載レール112の上面の少なくともいずれか一方に接触し、渡り部材20と積載レール112が車輪202から受ける荷重を徐々に移行する。その結果、境界位置の通過の際に鉄道車両210に対する振動を低減でき、鉄道車両210が各貨物車両110間を円滑に渡ることが可能となる。
【0037】
(その他)
回動支持部40は、積載レール112と渡り部材20の間に介在するように形成されているが、特にこれに限定されるものではない。例えば、図11に示すように、回動支持部40を積載レール112から分離して台座31に固定装備しても良い。
【0038】
なお、前述の台座30,31は一対の渡り部材20,20に対してそれぞれ左右両端側に用意されているが、左右二枚の台座を一体的に形成しても良い。
また、各台座30,31は、独立した一部材ではなく貨物車両110の台枠111の一部となるように形成されていても良い。
また、各積載レール112は、台座30,31に載置される部位のみを別部材としても良い。その場合、別部材となる積載レール先端部を台座30,31の上面に固定装備しても良し、台座30,31と一体的に形成しても良い。
【0039】
また、回動支持部40は渡り部材20の回動端部を少なくとも垂直軸回りに支持可能であればよい。
また、回動支持部40の自在継ぎ手は二軸を設ける構成に限らず、ユニバーサルジョイントにしばし用いられる球面軸受やその他の二自由度を担保する支持構造を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】発明の実施形態である渡りレール装置を搭載した貨物列車を示す側面図である。
【図2】渡りレール装置の平面図である。
【図3】渡りレール装置の分解斜視図である。
【図4】渡りレール装置の側面図である。
【図5】渡りレール装置の正面図である。
【図6】貨物列車が走行する右向の曲線区間に対して渡りレール装置の渡り部材がどのように状態変化を生じるかを示した説明図である。
【図7】貨物列車が走行する左向の曲線区間に対して渡りレール装置の渡り部材がどのように状態変化を生じるかを示した説明図である。
【図8】貨物列車同士の近接により渡り部材が積載レールに対してどのような挙動を示すかを表した説明図である。
【図9】貨物列車の線路区間の高低差や勾配に対して渡りレール装置の渡り部材がどのように状態変化を生じるかを示した説明図である。
【図10】渡り部材の傾斜面と積載レールの傾斜面とを突き合わせて近接配置した場合に通過する車輪の踏面が積載レール及び渡り部材の上面に接触する領域を示す説明図である。
【図11】回動支持部の他の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0041】
10 渡りレール装置
20 渡り部材
21 レール状構造部
22 傾斜面
40 回動支持部
60 位置保持機構(位置保持手段)
61 押圧バネ(弾性手段)
64 ストッパ
80 ガイドレール
100 貨物列車
110 貨物車両
111 台枠(鉄道車両積載面)
112 積載レール
112a 傾斜面
200 鉄道列車
210 鉄道車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連結された複数の鉄道車両を積載する連結された複数の貨物車両の相互間を前記各鉄道車両が移動することを可能とする渡りレール装置であって、
前記各貨物車両の鉄道車両積載面上には前記鉄道車両が走行するための一対の積載レールが設けられ、
連結された二つの貨物車両のいずれか一方に回動端部が位置し、他方に基端部が位置するように掛け渡されると共に上部にレール状構造部を有する一対の渡り部材と、
前記各渡り部材の基端部が位置する貨物車両の端部に設けられ、前記各渡り部材の回動端部が水平に回動可能となるように前記基端部を支持する一対の回動支持部と、
前記各渡り部材の回動端部を水平回動方向における定位置に保持する一対の位置保持手段とを備え、
前記各位置保持手段は、
前記渡り部材の回動端部が位置する貨物車両の端部に設けられ、当該渡り部材の回動端部の水平回動方向の一方から当接するストッパと、
前記渡り部材の回動端部に前記ストッパに対する弾性的な押圧力を付与する弾性手段とを有することを特徴とする渡りレール装置。
【請求項2】
前記各回動支持部は、前記渡り部材を仰角方向にも回動可能に支持することを特徴とする請求項1に記載の渡りレール装置。
【請求項3】
前記各積載レールに沿って、積載する前記鉄道車両の車輪のフランジ内側面を当該フランジよりも内側から支える一対のガイドレールを有することを特徴とする請求項1または2のいずれか一項に記載の渡りレール装置。
【請求項4】
前記各渡り部材の内側面又は外側面がより長くなるようにその回動端部を斜めに切断された形状に形成すると共に、前記各渡り部材の回動端部に対向する前記各積載レールの外側面又は内側面がより長くなるようにその先端部が斜めに切断された形状に形成し、
前記各渡り部材の回動端部と前記各積載レールの先端部とに、互いに向かい合う傾斜面を形成したことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の渡りレール装置。
【請求項5】
前記各渡り部材の内側面が外側面よりも長くなるようにその回動端部を斜めに切断された形状に形成すると共に、前記各渡り部材の回動端部に対向する前記各積載レールの外側面が内側面よりも長くなるようにその先端部が斜めに切断された形状に形成し、
前記各位置保持手段のストッパを前記渡り部材の回動端部の外側から当接する配置としたことを特徴とする請求項4記載の渡りレール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−307929(P2008−307929A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155201(P2007−155201)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)