説明

渦流量計および検査方法。

【課題】フローセンサに疎水性を有する物質が付着した場合を識別することのできる渦流量計および検査方法を提供する。
【解決手段】流体の温度を検出する周囲温度センサ17と流体を加熱するヒータ14とを有する熱式フローセンサ10と、ヒータ14の温度が周囲温度センサ17により検出された流体の温度よりも所定の温度高くなるように、ヒータ14に電気エネルギーを供給する駆動回路5と、電気エネルギーに対応する所定の物理量を検出する所定物理量検出部と、流体の流量に基づいて、前述の所定の物理量のしきい値を設定するしきい値設定部と、所定物理量検出部により検出された所定の物理量としきい値設定部により設定されたしきい値とに基づいて、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着しているか否かを判定する付着判定部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に係るいくつかの態様は、渦流量計および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の渦流量計として、ガス等の流体が流通する流路に配置された渦発生体により渦列(カルマン渦)を発生させ、この周波数に基づいて流体の流量を測定(算出)する渦流量計が提案され、実用化されている。また、現在においては、渦発生体の下流側に、流体の流通方向と直交するバイパス流路を形成し、このバイパス流路内にフローセンサを配置し、このフローセンサにより流体振動の周波数を検出して流体の体積流量を算出する渦流量計が提案され、実用化されている。さらに、この体積流量を質量流量に変換する渦流量計が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−93349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フローセンサに、疎水性を有する物質、例えば、一般に油と呼ばれる物質が付着すると、フローセンサの熱容量が変化してしまう。その結果、引用文献1に記載の渦流量計は、フローセンサの検出信号に基づいて渦周波数を算出しているので、渦周波数検出のために十分な信号感度が得られず、流量を測定(出力)ができない場合や、流路を流れている流体の実際の流量と比較して、少ない流量を測定(出力)してしまう場合があった。これらの場合、測定(出力)された流体の流量だけでは、フローセンサに疎水性を有する物質が付着した場合と、渦流量計自体の故障や測定異常の場合などとを識別することができなかった。
【0005】
本発明のいくつかの態様は前述の問題に鑑みてなされたものであり、フローセンサに疎水性を有する物質が付着した場合を識別することのできる渦流量計および検査方法を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る渦流量計は、流路を流通する流体に渦を発生させる渦発生体と、前述の渦により内部に交番の流れが生成されるバイパス流路と、バイパス流路内に設けられ、交番の流れを検出するためのフローセンサであって、流体の温度を検出する周囲温度センサと流体を加熱するヒータとを有するフローセンサと、ヒータの温度が周囲温度センサにより検出された流体の温度よりも所定の温度高くなるように、ヒータに電気エネルギーを供給する供給部と、前述の電気エネルギーに対応する所定の物理量を検出する検出部と、流体の流量に基づいて、所定の物理量のしきい値を設定する設定部と、検出部により検出された所定の物理量と設定部により設定されたしきい値とに基づいて、フローセンサに疎水性を有する物質が付着しているか否かを判定する判定部と、を備える。
【0007】
かかる構成によれば、ヒータに供給された電気エネルギーに対応する所定の物理量が検出され、流体の流量に基づいて、所定の物理量のしきい値が設定され、検出部により検出された所定の物理量と設定部により設定されたしきい値とに基づいて、フローセンサに疎水性を有する物質が付着しているか否かが判定される。ここで、フローセンサが正常である場合、バイパス流路の内部に生成される交番の流れによって、ヒータから発せられた熱が流体に奪われる。この場合、ヒータの温度が周囲温度センサにより検出された流体の温度よりも所定の温度高くなるように、供給部がヒータに電気エネルギーを供給しているので、ヒータに供給される電気エネルギーは、ヒータが消費した熱量(流体に奪われた熱量)に応じて変化する。そのため、ヒータに供給される電気エネルギーに対応する所定の物理量は、流体の流量に対して、所定の関係(傾向)を有することが実験などで確認されている。
【0008】
一方、フローセンサに、疎水性を有する物質が付着している場合、ヒータから発せられた熱が付着した物質に奪われるため、フローセンサの熱容量が増加する。その結果、ヒータに供給される電気エネルギーは、流体の流量に対して、前述したフローセンサが正常である場合、すなわち、フローセンサに疎水性を有する物質が付着していない場合と比較して、大きくなることが実験などで確認されている。よって、流体の流量に基づいて、前述した所定の関係(傾向)により定められる所定の物理量よりも大きい値をしきい値として設定することにより、検出部により検出された所定の物量と設定部により設定されたしきい値とに基づいて、フローセンサに疎水性を有する物質が付着している場合とフローセンサに疎水性を有する物質が付着していない場合とを識別(判別)することが可能となる。
【0009】
好ましくは、判定部によりフローセンサに疎水性を有する物質が付着していると判定された場合に、その旨を報知する報知部をさらに備える。
【0010】
かかる構成によれば、判定部によりフローセンサに疎水性を有する物質が付着していると判定された場合に、その旨が報知される。これにより、フローセンサに疎水性を有する物質が付着していることを自ら発見することが困難な利用者(ユーザ)に、容易に知らせることができる。
【0011】
好ましくは、フローセンサにより検出された交番の流れの周波数に基づいて、流体の流量を算出する算出部をさらに備え、設定部は、算出部により算出された流体の流量と検出部により検出された前述の所定の物理量とに基づいて、前述の所定の物理量のしきい値を設定する。
【0012】
かかる構成によれば、算出部により算出された流体の流量と検出部により検出された前述の所定の物理量とに基づいて、前述の所定の物理量のしきい値が設定される。これにより、設定されるしきい値には、実装されたフローセンサによる周波数の検出誤差(バラツキ)と実装された検出部による所定の物理量の検出誤差(バラツキ)とが含まれる。これにより、実際に検出された値に基づく所定の物理量のしきい値が設定され、フローセンサに疎水性を有する物質が付着している場合とフローセンサに疎水性を有する物質が付着していない場合とを、より正確に識別(判別)することができる。
【0013】
好ましくは、流体の圧力を検出する圧力センサをさらに備え、算出部は、流体の流量として、フローセンサにより検出された交番の流れの周波数と周囲温度センサにより検出された流体の温度と圧力センサにより検出された流体の圧力とに基づいて、流体の質量流量を算出する。
【0014】
かかる構成によれば、流体の流量として、フローセンサにより検出された交番の流れの周波数と周囲温度センサにより検出された流体の温度と圧力センサにより検出された流体の圧力とに基づいて、流体の質量流量が算出される。これにより、流路を流通する流体が、ガスなどの、温度や圧力により体積が変化する気体である場合に、好適に用いることができる。
【0015】
好ましくは、設定部は、フローセンサによる交番の流れの検出を開始してから所定時間が経過するまでに、前述の所定の物理量のしきい値を設定する。
【0016】
かかる構成によれば、フローセンサによる交番の流れの検出を開始してから所定時間が経過するまでに、前述の所定の物理量のしきい値が設定される。これにより、フローセンサに疎水性を有する物質が付着する前に、しきい値を設定する蓋然性を高めることが可能となる。これにより、正常な状態のフローセンサに基づくしきい値が設定され、フローセンサに疎水性を有する物質が付着している場合とフローセンサに疎水性を有する物質が付着していない場合とを、より正確に識別(判別)することができる。
【0017】
好ましくは、前述の所定の物理量は、電流、電力、および電圧のうちのいずれかである。
【0018】
かかる構成によれば、前述の所定の物理量が、電流、電力、および電圧のうちのいずれかである。これにより、ヒータに供給された電気エネルギーに対応する所定の物理量を、容易に検出することができる。
【0019】
好ましくは、前述の疎水性を有する物質は、油である。
【0020】
かかる構成によれば、前述の疎水性を有する物質が、油である。これにより、渦流量計が設置される配管に油が残っている場合、配管に設置された他の機器が機械油を使用している場合、流量を測定する流体自体に油が含まれる場合、などに、好適に用いることができる。
【0021】
本発明に係る検査方法は、流路を流通する流体に渦を発生させる渦発生体と、前述の渦により内部に交番の流れが生成されるバイパス流路と、バイパス流路内に設けられ、交番の流れを検出するためのフローセンサであって、流体の温度を検出する周囲温度センサと流体を加熱するヒータとを有するフローセンサと、ヒータの温度が周囲温度センサにより検出された流体の温度よりも所定の温度高くなるように、ヒータに電気エネルギーを供給する供給部と、電気エネルギーに対応する所定の物理量を検出する検出部と、設定部と、判定部と、を備える渦流量計において、フローセンサの状態を検査する検査方法であって、設定部が、流体の流量に基づいて、前述の所定の物理量のしきい値を設定する設定工程と、判定部が、検出部により検出された所定の物理量と設定部により設定されたしきい値とに基づいて、フローセンサに疎水性を有する物質が付着しているか否かを判定する判定工程と、を備える。
【0022】
かかる構成によれば、設定部によって、所定の物理量のしきい値が設定され、判定部によって、検出部により検出された所定の物理量と設定部により設定されたしきい値とに基づいて、フローセンサに疎水性を有する物質が付着しているか否かが判定される。ここで、フローセンサが正常である場合、バイパス流路の内部に生成される交番の流れによって、ヒータから発せられた熱が流体に奪われる。この場合、ヒータの温度が周囲温度センサにより検出された流体の温度よりも所定の温度高くなるように、供給部がヒータに電気エネルギーを供給しているので、ヒータに供給される電気エネルギーは、ヒータが消費した熱量(流体に奪われた熱量)に応じて変化する。そのため、ヒータに供給される電気エネルギーに対応する所定の物理量は、流体の流量に対して、所定の関係(傾向)を有することが実験などで確認されている。
【0023】
一方、フローセンサに、疎水性を有する物質が付着している場合、ヒータから発せられた熱が付着した物質に奪われるため、フローセンサの熱容量が増加する。その結果、ヒータに供給される電気エネルギーは、流体の流量に対して、前述したフローセンサが正常である場合、すなわち、フローセンサに疎水性を有する物質が付着していない場合と比較して、大きくなることが実験などで確認されている。よって、流体の流量に基づいて、前述した所定の関係(傾向)により定められる所定の物理量よりも大きい値をしきい値として設定することにより、検出部により検出された所定の物量と設定部により設定されたしきい値とに基づいて、フローセンサに疎水性を有する物質が付着している場合とフローセンサに疎水性を有する物質が付着していない場合とを識別(判別)することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る渦流量計および検査方法によれば、流体の流量に基づいて、前述した所定の関係(傾向)により定められる所定の物理量よりも大きい値をしきい値として設定することにより、検出部により検出された所定の物量と設定部により設定されたしきい値とに基づいて、フローセンサに疎水性を有する物質が付着している場合とフローセンサに疎水性を有する物質が付着していない場合とを識別(判別)することが可能となる。これにより、フローセンサに疎水性を有する物質が付着している場合に、誤って少ない流量を測定(出力)する蓋然性を低減することができ、測定(出力)された流量の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態における渦流量計を説明する正面図である。
【図2】図1に示したII線矢視方向側面図である。
【図3】図1に示した渦流量計の部分断面図である。
【図4】図2に示した渦流量計の部分断面図である。
【図5】図3に示した渦発生体の内部構造を説明する断面図である。
【図6】図3に示したVI−VI線矢視方向側面図である。
【図7】図6に示した熱式フローセンサの斜視図である。
【図8】図7に示したVIII−VIII線矢視方向断面図である。
【図9】図1に示した渦流量計の機能的構成を示すブロック図である。
【図10】図9に示した駆動回路を示す回路図である。
【図11】図9に示した中央制御部の機能的構成を示すブロック図である。
【図12】流体の流量とヒータに供給される電流との関係の一例を示すグラフである。
【図13】図1に示した渦流量計において流量を測定する動作を説明するフローチャートである。
【図14】本発明の第2実施形態における渦流量計の部分断面図である。
【図15】図14に示した渦流量計の機能的構成を示すブロック図である。
【図16】図15に示した中央制御部の機能的構成を示すブロック図である。
【図17】図14に示した渦流量計においてしきい値を設定する動作を説明するフローチャートである。
【図18】図14に示した渦流量計において流量を測定する動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法などは以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。なお、以下の説明において、図面の上側を「上」、下側を「下」、左側を「左」、右側を「右」という。
【0027】
[第1実施形態]
図1乃至図13は、本発明の第1実施形態を示すためのものである。図1は、本発明の第1実施形態における渦流量計を説明する正面図であり、図2は図1に示したII線矢視方向側面図である。図1および図2に示すように、渦流量計1は、例えばガスなどの被測定流体(以下、単に流体という)が流通する流路2aを形成する流体管2と、流路2a内に配置された渦発生体3と、渦発生体3の内部に形成されたバイパス流路4と、を備えている。
【0028】
流体管2は、短い円筒状の部材である。流体管2の両端には、図1に破線で示すように、流体を流通させる配管100が接続される。
【0029】
図3は図1に示した渦流量計の部分断面図であり、図4は図2に示した渦流量計の部分断面図であり、図5は図3に示した渦発生体の内部構造を説明する断面図であり、図6は図3に示したVI−VI線矢視方向側面図である。図2乃至図6に示すように、渦発生体3は、流体管2の直径よりも長い柱状部材であり、流体管2の壁部に形成された貫通孔2bから流体管2内にその径方向に横断するように挿入されている。渦発生体3の外周部と流体管2の貫通孔2bとの間には、流体管2の密閉性を保持するO(オー)リング21が配設されている。また、渦発生体3は、固定プレート22によって流体管2に固定されている。このように構成された渦発生体3は、流路2aを流通する流体に渦を発生させる。
【0030】
バイパス流路4は、図1および図6に矢印Aで示す流体の流通方向に対して、図6に矢印Bで示すように直交する方向に延在するように形成されている。バイパス流路4の両端部は、開口4aとなっている。バイパス流路4の内部には、渦発生体3で発生する渦列(カルマン渦)により交番の流れが生成される。
【0031】
図3および図5に示すように、渦発生体3の内部には、バイパス流路4の途中から渦発生体3の上方に向けて、流体の流通方向(図6において矢印A方向)およびバイパス流路4の延在方向(図6において矢印B方向)に直交する方向に延在するように、小径孔3aが形成されている。小径孔3aの内部には、小径孔3aの内径よりも小さい外径を有するパイプ23が着脱自在に挿入されている。パイプ23の先端部23aには、図6に示す熱式フローセンサ10が実装されるセンサアセンブリ24が固定されている。図3に示すように、パイプ23の先端部23aが小径孔3aの最深部まで挿入されることにより、熱式フローセンサ10はバイパス流路4に臨む位置に配設されることとなる。
【0032】
小径孔3aの上方には、小径孔3aより大きい内径を有する大径孔3bが形成されている。渦発生体3の小径孔3aに挿入されたパイプ23は、大径孔3bに挿入された固定部材25によって、固定されている。
【0033】
固定部材25の外周面には、熱式フローセンサ10の信号増幅用プリント配線基板(図示省略)が設けられており、熱式フローセンサ10の接続線18は、パイプ23の内部空間を通って、このプリント配線基板に接続されている。このプリント配線基板を囲む空間は、渦発生体3の外側にO(オー)リング26を介して取り付けられた円筒状のケース27により保護されている。
【0034】
図1乃至図4に示すように、ケース27の上方には、ハウジング28が取り付けられている。図4に示すように、ハウジング28の内部には、ターミナル29が内蔵されている。ターミナル29には、後述するメモリ7および中央制御部8などが設けられたプリント配線基板30が配設されている。ハウジング28の開口部28aには、カバー31が螺合されており、開口部28aの反対側には、測定した流体の流量などの各種情報を表示する表示部9が設けられている。
【0035】
図7は図6に示した熱式フローセンサの斜視図であり、図8は図7に示したVIII−VIII線矢視方向断面図である。熱式フローセンサ10は、図2乃至図6に示したバイパス流路4内を流れる流体に接触するように配置され、半導体ダイアフラムを有するフローセンサである。図7および図8に示すように、熱式フローセンサ10は、キャビティ12が設けられた基板11、基板11上にキャビティ12を覆うように配置された絶縁膜13、絶縁膜13に設けられたヒータ14、ヒータ14の両側に配置された第1の測温抵抗素子15および第2の測温抵抗素子16、周囲温度センサ17などを有している。
【0036】
絶縁膜13のキャビティ12を覆う部分は、断熱性のダイアフラムを構成している。周囲温度センサ17は、バイパス流路4内を流通する流体の温度を検出し、検出した温度を後述する中央制御部8に出力する。ヒータ14は、例えば抵抗素子であり、キャビティ12を覆う絶縁膜13の中心に配置され、バイパス流路4内を流れる流体を加熱する。
【0037】
第1の測温抵抗素子15は、ヒータ14の一方側(図7および図8において左側)の温度を検出するために用いられ、第2の測温抵抗素子16は、ヒータ14の他方側(図7および図8において右側)の温度を検出するために用いられ、いずれも温度センサとして機能する。第1および第2の測温抵抗素子15、16は、ヒータ14の加熱によって生ずる温度差に対応するセンサ信号を検出する。このセンサ信号は、後述する中央制御部8に出力され、信号増幅、矩形波変換、エッジ検出などの信号処理が施される。これにより、中央制御部8は、バイパス流路4内に生成される交番の流れにおける周波数および振幅に関する情報を得ることが可能となる。
【0038】
なお、基板11の材料としては、シリコン(Si)などが使用可能である。絶縁膜13の材料としては、酸化ケイ素(SiO2)などが使用可能である。キャビティ12は、異方性エッチングなどにより形成される。ヒータ14、第1の測温抵抗素子15、第2の測温抵抗素子16、および周囲温度センサ17の各材料には、白金(Pt)などが使用可能であり、リソグラフィ法などにより形成可能である。
【0039】
図9は図1に示した渦流量計の機能的構成を示すブロック図であり、図10は図9に示した駆動回路を示す回路図である。図9に示すように、渦流量計1は駆動回路5をさらに備える。駆動回路5は、前述した熱式フローセンサ10の信号増幅用プリント配線基板(図示省略)に設けられている。図10に示すように、駆動回路5は、1つのオペアンプOP1と3つの固定抵抗R1,R2,R3とを含んでおり、ヒータ14(図10においてRhと表記)と周囲温度センサ17(図10においてRrと表記)とを用いてブリッジ回路を構成している。この駆動回路5では、中央制御部8の制御信号に基づいて、ヒータ14と周囲温度センサ17との抵抗比が所定の値(一定値)となるように、オペアンプOP1に印加する電圧を制御(フィードバック制御)している。このように、駆動回路5は、周囲温度センサ17により検出された流体の温度よりもヒータ14の温度が所定の温度高くなるように、ヒータ14に電気エネルギーを供給する。
【0040】
なお、図10に示す固定抵抗R2の両端の電圧Va,Vbは、図9に示す中央制御部8のA/D変換器(図示省略)に出力されている。
【0041】
メモリ7は、流量の測定前にあらかじめ登録された情報や、流量の測定中に得られた情報などを記憶するためのものである。メモリ7に記憶される情報は、中央制御部8によって書き込まれ、または読み出される。
【0042】
図11は図9に示した中央制御部8の機能的構成を示すブロック図である。中央制御部8は、例えば、CPUなどによって構成され、各種の演算を行い、渦式流量計1の動作を制御する。図11に示すように、中央制御部8は、交番流れ検出部81と、しきい値設定部82と、流量算出部83と、所定物理量検出部84と、付着判定部85と、を備える。
【0043】
交番流れ検出部81は、バイパス流路4内に生成される交番の流れを検出し、検出した交番の流れにおける周波数を検出する。バイパス流路4内に生成される交番の流れは、熱式フローセンサ10の温度センサ(第1の測温抵抗素子および第2の測温抵抗素子)15,16によって、センサ信号(電圧信号)として検出される。交番流れ検出部81は、温度センサ(第1の測温抵抗素子および第2の測温抵抗素子)15,16から入力されたセンサ信号に基づいて、交番の流れにおける周波数を算出する。なお、交番流れ検出部81は、温度センサ(第1の測温抵抗素子および第2の測温抵抗素子)15,16から入力されたセンサ信号に基づいて、交番の流れにおける振幅を算出することもできる。
【0044】
しきい値設定部82は、流体の流量に基づいて、ヒータ14に供給される電気エネルギーに対応する所定の物理量のしきい値を設定する。
【0045】
流量算出部83は、熱式フローセンサ10により検出され、交番流れ検出部81により算出された交番の流れの周波数に基づいて、流路2aを流通する流体の流量を算出する。
【0046】
所定物理量検出部84は、ヒータ14に供給される電気エネルギーに対応する所定の物理量を検出する。本実施形態では、所定物理量検出部84は、ヒータ14に供給される電気エネルギーに対応する所定の物理量として、ヒータ14の電流(ヒータ電流)Ihを検出する。
【0047】
付着判定部85は、所定物理量検出部84により検出された所定の物理量と、しきい値設定部82により設定されたしきい値と、に基づいて、熱式フローセンサ10に、疎水性を有する物質が付着しているか否かを判定する。
【0048】
図12は、流体の流量とヒータ14に供給される電流との関係の一例を示すグラフである。ここで、熱式フローセンサ10が正常である場合、バイパス流路4の内部に生成される交番の流れによって、ヒータ14から発せられた熱が流体に奪われる。この場合、ヒータ14の温度が周囲温度センサ17により検出された流体の温度よりも所定の温度高くなるように、駆動回路5がヒータ14に電気エネルギーを供給しているので、ヒータ14に供給される電気エネルギーは、ヒータ14が消費した熱量(流体に奪われた熱量)に応じて変化する。そのため、ヒータ14に供給される電気エネルギーに対応する所定の物理量、例えば、ヒータ14に供給される電流は、流体の流量に対して、図12に実線で示すグラフL1のような関係(傾向)を有することが実験などで確認されている。
【0049】
一方、熱式フローセンサ10に、疎水性を有する物質が付着している場合、ヒータ14から発せられた熱が付着した物質に奪われるため、熱式フローセンサ10の熱容量が増加する。その結果、ヒータ14に供給される電流は、流体の流量に対して、前述した熱式フローセンサ10が正常である場合、すなわち、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着していない場合と比較して、大きくなることが実験などで確認されている。
【0050】
本実施形態では、しきい値設定部82は、図12に示すグラフL1において、流体の流量が0(ゼロ)[kg/s]のときのヒータ14の電流値I0に、所定値、例えば1[mA]を加算したものを、しきい値T0としてあらかじめ設定し(T0=I0+1)、メモリ7に書き込む(登録する)ものとする。このように、流体の流量に基づいて、図12のグラフL1に示す、ヒータ14に供給される電流I0よりも大きい値をしきい値T0として設定することにより、所定物理量検出部84により検出されたヒータ電流Ihとしきい値設定部82により設定されたしきい値T0とに基づいて、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着している場合と熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着していない場合とを識別(判別)することが可能となる。
【0051】
また、ヒータ14に供給される電気エネルギーに対応する所定の物理量の一例として電流を示したが、これに限定されず、例えば、電力または電圧であってもよい。このように、ヒータ14に供給された電気エネルギーに対応する所定の物理量が、電流、電力、および電圧のうちのいずれかであることにより、ヒータ14に供給された電気エネルギーに対応する所定の物理量を、容易に検出することができる。
【0052】
本明細書における「疎水性を有する物質」という用語は、疎水性の程度を問わず、親水性ではないものを含む概念である。また、疎水性の程度を表す指標は、水に対する溶解度である場合に限定されず、他の指標であってもよい。
【0053】
熱式フローセンサ10に付着しうる疎水性を有する物質は、例えば、油である。熱式フローセンサ10に油が付着すると、付着箇所に油膜が形成され、例えば、温度センサ(第1の測温抵抗素子および第2の測温抵抗素子)15,16の感度を低下させる。このように、前述した疎水性を有する物質が油であることにより、渦流量計1が設置される配管100に油が残っている場合、配管100に設置された他の機器が機械油を使用している場合、流量を測定する流体自体に油が含まれる場合、などに、好適に用いることができる。
【0054】
本明細書における「油」という用語は、鉱物性(鉱物由来)であるか、動物性(動物由来)、植物性(植物由来)であるか、を問わず、また、工業用であるか、燃料用であるかなどの用途をも問わず、広義の油を意味する。さらに、常温で液体であるか、固体であるか、を問わず、一般に「脂」と称されるものを含む概念である。なお、熱式フローセンサ10に付着しうる油は、不揮発性を有する油であることが好ましい。
【0055】
次に、図1に示した渦流量計1が流量を測定(算出)する動作について説明する。
【0056】
図13は、図1に示した渦流量計1において流量を測定する動作を説明するフローチャートである。図13に示すように、渦流量計1は、流路2aを流通する流体の流量を測定するときに、流量測定処理S100を実行する。すなわち、まず、周囲温度センサ17は、バイパス流路4内を流れる流体の温度を検出する(S101)。駆動回路5は、周囲温度センサ17により検出された温度よりもヒータ14の温度が所定の温度高くなるように、ヒータ14に電気エネルギーを供給する(S102)。
【0057】
一方、熱式フローセンサ10の温度センサ(第1の測温抵抗素子および第2の測温抵抗素子)15,16によって、バイパス流路4内に生成される交番の流れが検出され、交番流れ検出部81は、温度センサ(第1の測温抵抗素子および第2の測温抵抗素子)15,16から入力されたセンサ信号に基づいて、交番の流れの周波数を算出する(S103)。流量算出部83は、S103において交番流れ検出部81により算出された交番の流れの周波数に、渦発生体3の幅、ストローハル数、流路断面積に基づいて決定される係数などの所定の係数を乗じて、流体の体積流量を算出後、温度センサにより測定された流体の温度、内蔵されている圧力計により測定された流体の圧力により質量流量を算出する(S104)。
【0058】
なお、流量算出部83は、交番流れ検出部81が算出する交番の流れの振幅が所定の値を超えた場合に、流体の質量流量を算出し、交番の流れの振幅が所定の値を超えない場合には、流体の質量流量を0(ゼロ)[kg/s]とするようにしてもよい。これにより、流路2a内に発生する流体のゆらぎやセンサ信号における電気ノイズなどの影響を低減することができる。
【0059】
次に、付着判定部85は、メモリ7にアクセスして、S104において流量算出部83により算出された流体の質量流量に対して、しきい値が未設定であるか否かを判定する(S105)。前述したように、しきい値設定部82により流体の流量が0(ゼロ)[kg/s]に対してしきい値T0があらかじめ設定され、メモリ7に記憶されているので、付着判定部85は、流量算出部83により算出された流体の質量流量が0(ゼロ)[kg/s]以外である場合にしきい値が未設定であると判定し、流量算出部83により算出された流体の質量流量が0(ゼロ)[kg/s]である場合にしきい値が未設定でないと判定する。
【0060】
S105の判定の結果、しきい値が未設定でない、すなわち、しきい値が設定されている場合に、所定物理量検出部84は、駆動回路5から入力される固定抵抗R2の両端の電圧Va,Vbに基づいて、ヒータ電流Ihを算出(検出)する(S106)。
【0061】
なお、ヒータ電流Ihの具体的な算出方法としては、例えば、所定物理量検出部84は、固定抵抗R2の両端の電圧Va,Vbと、固定抵抗R2の既知の抵抗値r2とを用いて、以下の式(1)からヒータ電流Ihを算出する。
Ih=(Vb−Va)/r2 …(1)
【0062】
なお、ヒータ14に供給された電気エネルギーに対応する所定の物理量として、ヒータに供給された電力(ヒータ電力)Whを使用する場合、所定物理量検出部84は、固定抵抗R2の一端の電圧Vaと、式(1)で算出したヒータ電流Ihとを用いて、以下の式(2)からヒータ電流Whを算出する。
Wh=Va×Ih …(2)
【0063】
S106の後、付着判定部85は、メモリ7に記憶されたしきい値T0を読み出し、S106において所定物理量検出部84により算出(検出)されたヒータ電流Ihが、しきい値設定部82により設定されたしきい値T0以下であるか否かを判定する(S107)。
【0064】
S107の判定の結果、ヒータ電流Ihがしきい値T0以下である場合、または、S105の判定の結果、しきい値が未設定である場合、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着していないか、または、算出された流体の質量流量に対してしきい値が設定されていないものと考えられる。よって、付着判定部85は、S104において流量算出部83により算出された流体の質量流量を表示部9に出力して表示部9に表示させ(S109)、流量測定処理S100を終了する。
【0065】
一方、S107の判定の結果、所定物理量検出部84により算出(検出)されたヒータ電流Ihがしきい値設定部82により設定されたしきい値T0を超える場合、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着しているものと考えられる。よって、判定部84は、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着している旨を表示部9に表示(報知)させ(S108)、流量測定処理S100を終了する。これにより、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着していることを自ら発見することが困難な利用者(ユーザ)に、容易に知らせることができる。
【0066】
本実施形態では、表示部9によって熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着している旨を表示(報知)する例を示したが、これに限定されない。例えば、渦流量計1は、スピーカなどの音声出力手段や警報ランプなどの発光手段を備え、判定部84は、表示部9に代えて、または、表示部9とともに、音声出力手段および発光手段のうちの少なくとも一方によって、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着している旨を報知するようにしてもよい。
【0067】
本実施形態では、しきい値設定部82が、1つの流体の流量に対して1つのしきい値を設定する例を示したが、これに限定されない。例えば、しきい値設定部82は、1つの流体の流量に対して複数のしきい値を設定してもよい。この場合、付着判定部85は、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着しているか否かの判定に加え、熱式フローセンサ10に付着した疎水性を有する物質の程度(量)を段階的に判定することが可能となる。
【0068】
このように、本実施形態における渦流量計1によれば、ヒータ14に供給された電気エネルギーに対応する所定の物理量、例えば、ヒータ電流Ihが算出(検出)され、流体の流量に基づいて、ヒータ電流Ihのしきい値T0が設定され、所定物理量検出部84により算出(検出)されたヒータ電流Ihとしきい値設定部82により設定されたしきい値T0とに基づいて、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着しているか否かが判定される。ここで、熱式フローセンサ10が正常である場合、バイパス流路4の内部に生成される交番の流れによって、ヒータ14から発せられた熱が流体に奪われる。この場合、ヒータ14の温度が周囲温度センサ17により検出された流体の温度よりも所定の温度高くなるように、駆動回路5がヒータ14に電気エネルギーを供給しているので、ヒータ14に供給される電気エネルギーは、ヒータ14が消費した熱量(流体に奪われた熱量)に応じて変化する。そのため、ヒータ14に供給される電気エネルギーに対応する所定の物理量、例えば、ヒータ14に供給される電流は、流体の流量に対して、図12に実線で示すグラフL1のような関係(傾向)を有することが実験などで確認されている。
【0069】
一方、熱式フローセンサ10に、疎水性を有する物質が付着している場合、ヒータ14から発せられた熱が付着した物質に奪われるため、熱式フローセンサ10の熱容量が増加する。その結果、ヒータ14に供給される電流は、流体の流量に対して、前述した熱式フローセンサ10が正常である場合、すなわち、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着していない場合と比較して、大きくなることが実験などで確認されている。よって、流体の流量に基づいて、図12のグラフL1に示す、ヒータ14に供給される電流I0よりも大きい値をしきい値T0として設定することにより、所定物理量検出部84により算出(検出)されたヒータ電流Ihとしきい値設定部82により設定されたしきい値T0とに基づいて、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着している場合と熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着していない場合とを識別(判別)することが可能となる。これにより、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着している場合に、誤って少ない流量を測定(出力)する蓋然性を低減することができ、測定(出力)された流量の信頼性を高めることができる。
【0070】
また、本実施形態における渦流量計1によれば、付着判定部85により熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着していると判定された場合に、表示部9にその旨が表示(報知)される。これにより、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着していることを自ら発見することが困難な利用者(ユーザ)に、容易に知らせることができる。
【0071】
また、本実施形態における渦流量計1によれば、ヒータ14に供給された電気エネルギーに対応する所定の物理量が、電流、電力、および電圧のうちのいずれかである。これにより、ヒータ14に供給された電気エネルギーに対応する所定の物理量を、容易に検出することができる。
【0072】
また、本実施形態における渦流量計1によれば、前述した疎水性を有する物質が、油である。これにより、渦流量計1が設置される配管100に油が残っている場合、配管100に設置された他の機器が機械油を使用している場合、流量を測定する流体自体に油が含まれる場合、などに、好適に用いることができる。
【0073】
また、本実施形態における検査方法によれば、しきい値設定部82によって、流体の流量に基づいて、ヒータ電流Ihのしきい値T0が設定され、付着判定部85によって、所定物理量検出部84により算出(検出)されたヒータ電流Ihとしきい値設定部82により設定されたしきい値T0とに基づいて、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着しているか否かが判定される。ここで、熱式フローセンサ10が正常である場合、バイパス流路4の内部に生成される交番の流れによって、ヒータ14から発せられた熱が流体に奪われる。この場合、ヒータ14の温度が周囲温度センサ17により検出された流体の温度よりも所定の温度高くなるように、駆動回路5がヒータ14に電気エネルギーを供給しているので、ヒータ14に供給される電気エネルギーは、ヒータ14が消費した熱量(流体に奪われた熱量)に応じて変化する。そのため、ヒータ14に供給される電気エネルギーに対応する所定の物理量、例えば、ヒータ14に供給される電流は、流体の流量に対して、図12に実線で示すグラフL1のような関係(傾向)を有することが実験などで確認されている。
【0074】
一方、熱式フローセンサ10に、疎水性を有する物質が付着している場合、ヒータ14から発せられた熱が付着した物質に奪われるため、熱式フローセンサ10の熱容量が増加する。その結果、ヒータ14に供給される電流は、流体の流量に対して、前述した熱式フローセンサ10が正常である場合、すなわち、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着していない場合と比較して、大きくなることが実験などで確認されている。よって、流体の流量に基づいて、図12のグラフL1に示す、ヒータ14に供給される電流I0よりも大きい値をしきい値T0として設定することにより、所定物理量検出部84により算出(検出)されたヒータ電流Ihとしきい値設定部82により設定されたしきい値T0とに基づいて、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着している場合と熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着していない場合とを識別(判別)することが可能となる。これにより、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着している場合に、誤って少ない流量を測定(出力)する蓋然性を低減することができ、測定(出力)された流量の信頼性を高めることができる。
【0075】
[第2実施形態]
図14乃至図18は、本発明の第2実施形態を示すためのものである。なお、特に記載がない限り、前述した実施形態と同一構成部分は同一符号をもって表し、その説明を省略する。また、図示しない構成部分は、前述した実施形態と同様とする。
【0076】
図14は本発明の第2実施形態における渦流量計1Aの部分断面図であり、図15は図14に示した渦流量計1Aの機能的構成を示すブロック図である。図15に示すように、本実施形態の渦流量計1Aは、円筒状のケース27の内部に配設されている圧力センサ39を備える。圧力センサ39は流体の圧力を検出するためのものであり、図15に示すように、圧力センサ39で検出された流体の圧力は、中央制御部8Aに入力される。
【0077】
図16は図15に示した中央制御部8Aの機能的構成を示すブロック図である。図16に示すように、中央制御部8Aは、交番流れ検出部81と、しきい値設定部82Aと、流量算出部83Aと、所定物理量検出部84と、付着判定部85と、を備える。
【0078】
本実施形態では、しきい値設定部82Aは、流量算出部83Aにより算出された流体の流量と、所定物理量検出部84により検出(算出)されたヒータ14に供給される電気エネルギーに対応する所定の物理量と、に基づいて、当該所定の物理量に対してしきい値を設定する。これにより、設定されるしきい値には、実装された熱式フローセンサ10による周波数の検出誤差(バラツキ)と、実装された所定物理量検出部84による所定の物理量の検出誤差(バラツキ)とが含まれる。
【0079】
また、本実施形態では、流量算出部83Aは、流体の流量として、熱式フローセンサ10により検出され、交番流れ検出部81により算出される交番の流れの周波数と、周囲温度センサ17により検出された流体の温度と、圧力センサ39により検出された流体の圧力とに基づいて、流体の質量流量Qを算出する。これにより、流路2aを流通する流体が、ガスなどの、温度や圧力により体積が変化する気体である場合に、好適に用いることができる。
【0080】
次に、図14に示した流量計1Aが所定の物理量のしきい値を設定する動作について説明する。
【0081】
図17は、図14に示した流量計1Aが所定の物理量のしきい値を設定する動作を説明するフローチャートである。図17に示すように、渦流量計1Aは、図1に示す配管100に設置された後に、しきい値設定処理S200を実行する。すなわち、まず、しきい値設定部82Aは、初期処理を行う(S201)。
【0082】
初期処理S201では、しきい値設定部82Aは、メモリ7にあらかじめ記憶されたデータを読み出して、後述するステップで使用する、しきい値設定数m、登録流量Qnなどの各種の値を設定する。また、しきい値設定部82Aは、後述するステップで使用する、登録流量Qnなどのインデックスを示す添字nに初期値、例えば「1」を設定する。
【0083】
なお、以下に示す例では、特に明記した場合を除き、しきい値設定数mには「3」が、登録流量Q1には90[kg/s]が、登録流量Q2には100[kg/s]が、登録流量Q3には100[kg/s]が、それぞれ設定されたものとして説明する。
【0084】
初期処理S201の後、圧力センサ39は、流体の圧力を検出し(S202)、渦流量計1Aは、図13に示す第1実施形態の処理S100と同様に、S101〜S103の各ステップを行う。
【0085】
S103の後、流量算出部83Aは、S103において交番流れ検出部81により検出された交番の流れの周波数に、渦発生体3の幅、ストローハル数、流路断面積に基づいて決定される係数などの所定の係数を乗じて、流体の体積流量を算出する。さらに、流量算出部83Aは、算出した流体の体積流量と、S201において圧力センサ39により検出された流体の圧力と、S101において周囲温度センサ17により検出された流体の温度と、に基づいて、流体の質量流量Qを算出する(S203)。
【0086】
次に、しきい値設定部82Aは、添字nがしきい値設定数m以下(n≦m)であるか否かを判定する(S204)。
【0087】
S204の判定の結果、添字nがしきい値設定数m以下である場合、しきい値設定部82Aは、S203において流量算出部83Aにより算出された質量流量Qが、登録流量Qnの許容範囲内であるか否かを判定する(S205)。許容範囲は、例えば、初期処理S201において±10[kg/h]などの値が設定される。この場合、登録流量Q1の許容範囲は、例えば、80[kg/s]以上、かつ、95[kg/s]未満となり(85[kg/s]≦Q1<95[kg/s])、登録流量Q2の許容範囲は、例えば、95[kg/s]以上、かつ、105[kg/s]未満となり(95[kg/s]≦Q1<105[kg/s])、登録流量Q3の許容範囲は、例えば、105[kg/s]以上、かつ、115[kg/s]以下となる(105[kg/s]≦Q3≦115[kg/s])。その結果、登録流量Qnは、85[kg/s]以上、かつ、115[kg/s]以下の範囲(85[kg/s]≦Qn≦115[kg/s])を網羅することができる。
【0088】
前述した例では、許容範囲として±5[kg/s]を設定したが、これに限定されず、他の値であってもよい。許容範囲は、単に所定値で定めてもよいし、登録流量に対する所定割合、例えば±5%で定めてもよい。また、許容範囲の等号は、上限および下限のうちの少なくとも一方に用いてもよいし、もしくは、上限および下限の両方に用いなくてもよい。
【0089】
なお、しきい値設定数m、各登録流量Qn、および、各登録流量Qnの許容範囲は、渦流量計1Aの利用者(ユーザ)の仕様により適宜設定するのが好ましい。前述した例は、利用者(ユーザ)が要求する流量測定範囲が85[kg/s]以上、かつ、115[kg/s]以下の範囲(85[kg/s]≦Qn≦115[kg/s])である場合に、適切な値である。
【0090】
S205の判定の結果、質量流量Qが登録流量Qnの許容範囲内である場合、しきい値設定部82Aは、メモリ7にアクセスして、登録流量Qnに対する所定物理量のしきい値Tnが未設定であるか否かを判定する(S206)。この場合、しきい値設定部82Aは、登録流量Qnに対応するしきい値Tnがメモリ7に記憶(登録)されていなければ未設定であると判定し、登録流量Qnに対応するしきい値Tnがメモリ7に記憶(登録)されていれば未設定でないと判定する。
【0091】
一方、S205の判定の結果、質量流量Qが登録流量Qnの許容範囲内でない場合、しきい値設定部82Aは、添字nを、例えば「1」だけ増加(インクリメント:n=n+1)し(S207)、しきい値設定部82Aは、再度S204以下のステップを行う。
【0092】
S206の判定の結果、登録流量Qnに対する所定物理量のしきい値Tnが未設定である場合、所定物理量検出部84は、図13に示す第1実施形態の処理S100と同様に、S106のステップを行う。
【0093】
S106の後、しきい値設定部82Aは、S106において所定物理量検出部84により算出(検出)されたヒータ電流Ihに、所定値、または所定割合を加算して、しきい値Tnをメモリ7に書き込んで設定(登録)する(S208)。次に、しきい値設定部82Aは、添字nに初期値、例えば「1」を設定し(S209)、渦流量計1Aは、再度S201以下の各ステップを行う。
【0094】
一方、S204の判定の結果、添字nがしきい値設定数m以下でない、すなわち、添字nがしきい値設定数mより大きい場合(n>m)、および、S206の判定の結果、登録流量Qnに対する所定物理量のしきい値Tnが未設定でない、すなわち、設定済みである場合、しきい値設定部82Aは前述したS209のステップを行い、渦流量計1Aは、再度S202以下の各ステップを行う。
【0095】
しきい値設定処理S200は、渦流量計1Aが図1に示す配管100に設置され、熱式フローセンサ10による交番の流れの検出を開始してから所定時間を経過したとき、終了するのが好ましい。この場合、しきい値設定部82Aは、初期処理S201において、例えば、中央制御部8Aに内蔵された水晶振動子などのクロック信号に基づいて、設定時間の計測を開始する。また、S209のステップの後に、しきい値設定部82Aは、設定時間が所定時間よりも大きいか否か(開始から所定時間を経過したか否か)を判定し、設定時間が所定時間よりも大きい場合に、しきい値設定処理S200を終了する。このように、熱式フローセンサ10による交番の流れの検出を開始してから所定時間が経過するまでに、ヒータ14に供給される電流のしきい値Tnを設定することにより、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着する前に、しきい値Tnを設定する蓋然性を高めることが可能となる。
【0096】
次に、図14に示した渦流量計1Aが流量を測定(算出)する動作について説明する。
【0097】
図18は、図14に示した渦流量計1Aにおいて流量を測定する動作を説明するフローチャートである。図18に示すように、渦流量計1Aは、流路2aを流通する流体の流量を測定するときに、流量測定処理S300を実行する。すなわち、まず、流量算出部83Aは、初期処理を行う(S301)。
【0098】
初期処理S301では、前述した初期処理S201と同様に、流量算出部83Aは、メモリ7にあらかじめ記憶されたデータを読み出して、後述するステップで使用する、しきい値設定数m、登録流量Qnなどの各種の値を設定する。また、しきい値設定部82Aは、後述するステップで使用する、添字nに初期値、例えば「1」を設定する。
【0099】
初期処理S301の後、渦流量計1Aは、前述したS202のステップを行い、さらに、図13に示す第1実施形態の処理S100と同様に、S101〜S103の各ステップを行う。
【0100】
S103の後、流量算出部83Aは、前述したS203〜S205の各ステップを行う。
【0101】
S205の判定の結果、質量流量Qが登録流量Qnの許容範囲内である場合、所定物理量検出部84は、図13に示す第1実施形態の処理S100と同様に、S106のステップを行う。
【0102】
一方、S205の判定の結果、質量流量Qが登録流量Qnの許容範囲内でない場合、流量算出部83Aは、添字nを、例えば「1」だけ増加(インクリメント:n=n+1)し(S207)、流量算出部83Aは、再度S204以下のステップを行う。
【0103】
S106の後、付着判定部85は、添字nに基づいてメモリ7に記憶されたしきい値Tnを読み出し、S106において所定物理量検出部84により算出(検出)されたヒータ電流Ihが、しきい値設定部82により設定されたしきい値Tn以下であるか否かを判定する(S302)。
【0104】
S302の判定の結果、ヒータ電流Ihがしきい値Tn以下である場合、または、S204の判定の結果、添字nがしきい値設定数m以下でない、すなわち、添字nがしきい値設定数mより大きい場合(n>m)、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着していないか、または、算出された流体の質量流量Qに対してしきい値が設定されていないものと考えられる。よって、付着判定部85は、S203において流量算出部83Aにより算出された流体の質量流量Qを表示部9に出力して表示部9に表示させ(S303)、流量測定処理S300を終了する。
【0105】
一方、S302の判定の結果、ヒータ電流Ihがしきい値Tn以下でない、すなわち、しきい値Tnより大きい場合、図13に示す第1実施形態の処理S100と同様に、付着判定部85は、S109のステップを行い、流量測定処理S300を終了する。
【0106】
本実施形態では、しきい値設定処理S200によりしきい値を設定する例を示したが、これに限定されない。例えば、しきい値設定処理S200に代えて、または、しきい値設定処理S200とともに、しきい値設定部82Aは、第1実施形態と同様に、所定の流量に対するしきい値をあらかじめ設定し、メモリ7に書き込む(登録する)ようにしてもよい。
【0107】
このように、本実施形態における渦流量計1Aによれば、流量算出部83Aにより算出された流体の流量と所定物理量検出部84により算出(検出)されたヒータ電流Ihとに基づいて、ヒータ14に供給される電流のしきい値Tnが設定される。これにより、設定されるしきい値Tnには、実装された熱式フローセンサ10による周波数の検出誤差(バラツキ)と実装された所定物理量検出部84によるヒータ14に供給された電流の検出誤差(バラツキ)とが含まれる。これにより、実際に検出された値に基づくしきい値Tnが設定され、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着している場合と熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着していない場合とを、より正確に識別(判別)することができる。
【0108】
また、本実施形態における渦流量計1Aによれば、流体の流量として、熱式フローセンサ10により検出され、交番流れ検出部81により算出される交番の流れの周波数と周囲温度センサ17により検出された流体の温度と圧力センサ39により検出された流体の圧力とに基づいて、流体の質量流量Qが算出される。これにより、流路2aを流通する流体が、ガスなどの、温度や圧力により体積が変化する気体である場合に、好適に用いることができる。
【0109】
また、本実施形態における渦流量計1Aによれば、熱式フローセンサ10による交番の流れの検出を開始してから所定時間が経過するまでに、ヒータ14に供給される電流のしきい値Tnが設定される。これにより、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着する前に、しきい値Tnを設定する蓋然性を高めることが可能となる。これにより、正常な状態の熱式フローセンサ10に基づくしきい値Tnが設定され、熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着している場合と熱式フローセンサ10に疎水性を有する物質が付着していない場合とを、より正確に識別(判別)することができる。
【0110】
なお、前述した各実施形態の構成は、組み合わせたり或いは一部の構成部分を入れ替えたりしたりしてもよい。また、本発明の構成は前述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。
【符号の説明】
【0111】
1,1A…渦流量計
2a…流路
3…渦発生体
4…バイパス流路
5…駆動回路
7…メモリ
8,8A…中央制御部
81…交番流れ検出部
82,82A…しきい値設定部
83,83A…流量算出部
84…所定物理量検出部
85…付着判定部
9…表示部
10…熱式フローセンサ
14…ヒータ
17…周囲温度センサ
39…圧力センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路を流通する流体に渦を発生させる渦発生体と、
前記渦により内部に交番の流れが生成されるバイパス流路と、
前記バイパス流路内に設けられ、前記交番の流れを検出するためのフローセンサであって、前記流体の温度を検出する周囲温度センサと前記流体を加熱するヒータとを有するフローセンサと、
前記ヒータの温度が前記周囲温度センサにより検出された前記流体の温度よりも所定の温度高くなるように、前記ヒータに電気エネルギーを供給する供給部と、
前記電気エネルギーに対応する所定の物理量を検出する検出部と、
前記流体の流量に基づいて、前記所定の物理量のしきい値を設定する設定部と、
前記検出部により検出された所定の物理量と前記設定部により設定されたしきい値とに基づいて、前記フローセンサに疎水性を有する物質が付着しているか否かを判定する判定部と、を備える
ことを特徴とする渦流量計。
【請求項2】
前記判定部により前記フローセンサに前記疎水性を有する物質が付着していると判定された場合に、その旨を報知する報知部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の渦流量計。
【請求項3】
前記フローセンサにより検出された前記交番の流れの周波数に基づいて、前記流体の流量を算出する算出部をさらに備え、
前記設定部は、前記算出部により算出された前記流体の流量と前記検出部により検出された前記所定の物理量とに基づいて、前記所定の物理量のしきい値を設定する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の渦流量計。
【請求項4】
前記流体の圧力を検出する圧力センサをさらに備え、
前記算出部は、前記流体の流量として、前記フローセンサにより検出された前記交番の流れの周波数と前記周囲温度センサにより検出された前記流体の温度と前記圧力センサにより検出された前記流体の圧力とに基づいて、前記流体の質量流量を算出する
ことを特徴とする請求項3に記載の渦流量計。
【請求項5】
前記設定部は、前記フローセンサによる前記交番の流れの検出を開始してから所定時間が経過するまでに、前記所定の物理量のしきい値を設定する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の渦流量計。
【請求項6】
前記所定の物理量は、電流、電力、および電圧のうちのいずれかである
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の渦流量計。
【請求項7】
前記疎水性を有する物質は、油である
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか記載の渦流量計。
【請求項8】
流路を流通する流体に渦を発生させる渦発生体と、前記渦により内部に交番の流れが生成されるバイパス流路と、前記バイパス流路内に設けられ、前記交番の流れを検出するためのフローセンサであって、前記流体の温度を検出する周囲温度センサと前記流体を加熱するヒータとを有するフローセンサと、前記ヒータの温度が前記周囲温度センサにより検出された前記流体の温度よりも所定の温度高くなるように、前記ヒータに電気エネルギーを供給する供給部と、前記電気エネルギーに対応する所定の物理量を検出する検出部と、設定部と、判定部と、を備える渦流量計において、前記フローセンサの状態を検査する検査方法であって、
前記設定部が、前記流体の流量に基づいて、前記所定の物理量のしきい値を設定する設定工程と、
前記判定部が、前記検出部により検出された所定の物理量と前記設定部により設定されたしきい値とに基づいて、前記フローセンサに疎水性を有する物質が付着しているか否かを判定する判定工程と、を備える
ことを特徴とする検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−194122(P2012−194122A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59745(P2011−59745)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000006666)アズビル株式会社 (1,808)