説明

温和な接触水蒸気ガス化法

本発明は、ガス化装置内でCO2捕捉物質及び/又は無機質結合物質を使用する、改良されたアルカリ金属触媒による水蒸気ガス化法を提供する。本方法は、最適には80%超のメタン収率と共に90%超の炭素転換率を達成する。原ガス生成物は直接燃料として使用し得る。触媒は固体排出物から回収され、ガス化装置にリサイクルでき、及び/又はCO2トラップは再生され、ガス化装置にリサイクルできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質材料の低温接触ガス化に関する。より詳しくは、本発明は低温でメタンへの高い炭素転換率を達成する、炭素質材料をガス化する改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、仮出願60/695,994号に基づいて米国特許法第119(e)条のもとの優先権を主張するものであり、当該仮出願は参照により本明細書の一部に組み込まれている。
【0003】
全世界の石油の供給力はピークに達し、以後急速に低下すると予想されている。中国やインド等の人口の多い国の急速な経済的、技術的、工業的な成長が、この需要を増加させ、代替となるエネルギー源の必要性がさらに深刻なものにしている。この増え続ける需要に対処するため、石炭をより有用で輸送し易い形態に変換することが提案されている。このような技術の一つが、石炭を可燃性ガスにガス化することである。メタン等のパイプライン仕様の燃料を製造する石炭ガス化法は、既存の基幹施設がメタンを天然ガスと同様に輸送するのに適合していることから、特に望ましいと考えられる。
【0004】
典型的な石炭ガス化システムでは、石炭又は他の炭素質材料及び水蒸気を酸素(又は空気)と反応させ、主に水素及び一酸化炭素を含む合成ガスを製造する。商業用の触媒を使用しない石炭ガス化システム及びその設計は、多くの経済的、技術的な課題に直面している。触媒を使用しないで、炭素質材料の吸熱ガス化を進めるために、厳しい温度(華氏2,400度乃至2,600度)を使用し、高レベルの酸素を消費するので、これらの方法は高価な操業となる。スラギングや腐蝕も操業上及び保守上の問題を呈し、採算性を落とし製品原価を引き上げることになる。
【0005】
ガス化複合発電(IGCC)システムの現在の概念は、触媒を使用しない石炭ガス化システムを取り入れて、中間体として合成ガスを製造し、この合成ガスを燃焼して発電するというものである。IGCCシステムの資本費は、その設計や方法の統合度にもよるが、キロワット当り、約1,250ドル乃至1,400ドルの範囲と見積もられる。この費用を著しく下げる方法の一つは、石炭を低温でしかも酸素を添加しないでガス化できる方法を開発することであろう。この目標に向け、石炭ガス化の熱力学を考慮にいれることが大切である。
【0006】
石炭及び類似した物質のガス化には、一般に次の反応を伴う。
C + H2O → CO + H2 (吸熱反応) (1)
C + 2H2 → CH4 (発熱反応) (2)
C + CO2 → 2CO (吸熱反応) (3)
CO + H2O ≡ CO2 + H2 (発熱反応) (4)
【0007】
従来の(即ち、熱による)ガス化中の反応速度論では、メタンの生成量は少ないのが一般的である。上の式(2)で表されるような炭素の直接水素化/ガス化の速度は、夫々式(1)及び(3)で表されるような水蒸気及び二酸化炭素の炭素との吸熱反応に比べて非常に遅い。従って、石炭及び類似の物質のガス化では、通常、主として水素及び一酸化炭素で構成される合成ガスが生成する。
【0008】
アルカリ金属を触媒として添加すれば、水蒸気ガス化がより低温で進行し、次の発熱反応によってメタンの生成を増加させることができる。
2CO + 2H2 → CO2 + CH4(発熱反応) (5)
CO + 3H2 → H2O + CH4 (発熱反応) (6)
CO2 + 4H2 → 2H2O + CH4 (発熱反応) (7)
【0009】
このような接触水蒸気ガス化法の一つが、Kohらによる米国特許第4,094,650号に記載されている(“‘650方法”)。同特許に記載された好ましい温度及び圧力は約華氏1,300度(700℃)及び500psia(34気圧)である。好ましい触媒として炭酸カリウムが記載されている。触媒を使用しないガス化よりも温度は低いが、それでも主な原生成物(raw product)は未だにH2及びCOである。H2及びCOの生成を抑え、炭素のメタンへの転換を進めるために、‘650方法では原生成物からH2及びCOをリサイクルすることを教示している。‘650方法の温度では、アルカリ金属触媒が揮発し、及び/又は石炭中の灰成分と反応して触媒活性がかなり減少してしまうから、この方法では、触媒の補給ストリーム(stream)も必要である。
【0010】
より安価な石炭ガス化触媒を見出すべく、種々の化合物の組み合わせが研究されて来た。例えば、Langらによる米国特許第4,336,034号には、12質量%以下の触媒充填量(loading)では、K2SO4とCaO、Ca(OH)2又はCaCO3等のカルシウム化合物との比較的安価な組み合わせで、比較的高価なK2CO3に比肩しうるガス化速度を得ることができることが記載されている。上記‘034号特許には、K/Ca比が2.0(即ち、カルシウムが1/3)の混合物の性能がカルシウムを更に多く含む混合物より良いと報告されている。Langは少量のカルシウムを使用して、K2SO4等の比較的活性の低い触媒の活性を高めることを報告している。カルシウムの量を増やすことが水酸化カリウム若しくは炭酸カリウムの触媒活性に影響しうること、又はカルシウム塩を使うことで、生成物収率を上げ、反応速度論を変え、若しくはより低温でガス化を進行させることができるとは、Langは示唆していない。更に、カルシウムを存在させることで、触媒の回収率を改良できることも何ら示唆していない。
【0011】
石炭の接触ガス化法において更に完全に炭素を転換させるための他の改善案が提案されている。例えば、McKeeらによる米国特許第4,558,027号では、共融アルカリ混合物を触媒に使用することを記載しており、Nahasによる米国特許第4,077,778号及び第6,955,695号では、夫々、2基の反応器、又は2段の反応器を使用することを記載している。‘650特許の方法のようにこれらの方法でも、メタンの生成を最大にするために相当な量のH2及びCOを原ガス生成物からガス化装置にリサイクルすることが報告されている。
【0012】
熱力学的には、メタンの生成は約540℃より低い温和な温度及び高圧で有利であるが、従来の石炭接触ガス化法は、低温でのガス化速度及び収率が低いため、一般には石炭接触ガス化法ではより高温、即ち約700℃乃至約820℃の間で操作されている。
【0013】
温和な温度での石炭ガス化では、炭素からメタンへの直接転換率をより高くでき、炭素質供給物中の無機質との結合又は揮発によって高温で起こり得る触媒のロスを軽減又は回避することができる。更に、温和な温度での石炭ガス化では、石炭が著しく低反応性のチャーに転換することを最小限に抑えることもできる。しかしこれまで、温和な温度でのガス化で、満足がいく程高い反応速度を達成できる触媒は特定されていない。
【0014】
水蒸気/石炭ガス化の触媒として使用できるいくつかの金属(アルカリ金属以外)が特定されているが、温和な温度でのガス化が約束されたわけではない。鉄又はニッケル等の遷移金属が石炭ガス化の触媒として使用できるが、わずか10又は15%程度の炭素転換率で、急速に活性を失ってしまう傾向がある。(D.Tandon,Low Temperature and Elevated pressure Steam Gasification of Illinois Coal(1996)(イリノイ産石炭の低温、高圧での水蒸気ガス化)(博士論文、Southern Illinois University at Carbondale))。研究結果では、担持されていないラネーニッケルは、恐らく触媒表面上にNiAl24が生成することによってH2Sでひどく活性を失うが、ZrO2及びAl23に担持されると失活の程度は小さくなることがわかった。
【0015】
触媒の金属を組み合わせると、単一金属の触媒よりも失活しにくくし得る。例えば、共融触媒混合物はその混合物の一つの成分よりも触媒活性を長く維持することができる。同様に、ニッケル又は鉄と組み合わせたカリウムは水蒸気/グラファイトガス化触媒としての活性を単独の鉄又はニッケルよりも長く維持することができるとTandonが報告している。高分散したアルカリ金属塩は遷移金属塩のための還元雰囲気を提供し、触媒活性を持続できるという可能性がある。
【0016】
高分散したカルシウムの触媒効果も観察されている。例えば、Yasuo Ohtsuka 及び Kenji Asamiの論文「Highly active catalysts from inexpensive raw materials for coal gasification」(安価な原料から得られる石炭ガス化用高活性触媒)(Catalysis Today 39:111(1997))では、石炭粒子と“混練”されたCaCO3又はCa(OH)2等のカルシウム塩は、約550℃で褐炭の水蒸気ガス化を促進することができるが、伝えられるところによれば、酸素含有量の少ないより高級な石炭類には効果がないと云われている。
【0017】
CaO又は石灰もCO2を吸収するために石炭転換法に使用することができる。例えば、約550℃での石炭熱分解を目的とした、Khanによる米国特許第4,747,938号は、25質量%以下の配合量(loading)の粒子状CaOを使用すれば、H2S及びCO2のより少ない生成物ストリーム(stream)を得ることができることを記載している。Khan並びにOhtsuka及びAsamiの方法は両方ともアルカリ触媒を使用していない。
【0018】
石炭ガス化触媒の研究は広範囲に亘って行なわれてきたが、まだ完全には明らかにされていない。本発明をいずれかの特定の理論に限定することの意図はないが、石炭ガス化の触媒として使用することができる遷移金属は、二つの酸化状態を交互にとることができ、炭素表面上での酸化―還元サイクルに関与することができる金属であること、及びアルカリ金属触媒によるガス化には、電子を炭素格子に供与し、又はアルカリ/炭素錯体を形成することによって炭素表面上の活性なCO錯体の数を増加させるようなアルカリ金属を含むことが考えられる。更に、このような触媒の組み合わせが活性を持続して発揮するのは、炭素表面上の種々の型の活性サイトが種々の触媒部分によって活性化され、より多くの活性サイトが利用できるようになり、いずれかの特定の型の反応サイト又は反応機構の失活のインパクトを和らげるからであるということも考えられる。
【0019】
更に、遷移金属及びアルカリ金属は酸化されると触媒活性を失い、しかもガス化環境に存在するH2O、CO2、CO及びH2S等の成分で酸化され得ると考えられる。アルカリ金属触媒は、揮発することによって、及び/又は石炭中の無機成分と結合することによって不活性になったり効力がなくなったりもする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
炭素転換率が高い状態で高い反応性を持続できる接触石炭ガス化法が開発されれば非常に望ましいことであり、相当量のH2及びCOのストリーム(stream)を原ガス生成物からリサイクル(又は供給)することなしに炭素のメタンへの転換を高めることができる接触ガス化法が開発されれば更に望ましいことだろう。このようなガス化法が、蒸発又は炭素質供給物中の無機成分との相互作用による失活による触媒ロスを最小限に抑えられるような温和な温度で操作できれば更に望ましいことだろう。本発明によって開示されるガス化法の主題はこのようなことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
接触石炭ガス化環境から二酸化炭素及び他の酸化性物質を除去し又は“捕捉”するためにカルシウム塩を使用することで、メタンへの炭素転換率を増加させる方向に反応速度論をシフトさせることができ、更にその方法により主としてH2及びCH4を含み酸化炭素類を実質的に含まない乾式原ガス生成物が得られるように、COからCO2への転換を進めることもできる。石炭/炭素の総合転換率は少なくとも50%が可能となり、95%を超える転換率も達成可能である。本発明で開示されるガス化法は、H2及びCOをガス化環境に実質的にリサイクル又は供給する必要がなく、約40容量%以上のメタンを含む乾式原ガス生成物を直接製造することができる。都合よいことには、この乾式原ガス生成物は更に濃縮することなしに燃料として使用でき、追加の処理を殆どすることなくパイプライン仕様のメタンを提供し得る。
【0022】
カルシウム塩及びその他の化合物は、CO2及びH2Sと反応性があり、固形排出物に含めて抜き出せる固形物を形成することができ、従って原ガス生成物の酸性ガス除去処理の必要性を削除又は大幅に減少させることができる。本発明によれば、カルシウム塩は炭素質供給物の無機成分と結合して、不活性化、又は相対的に不活性化させることもでき、その結果、アルカリ金属塩触媒の活性が長く維持できる。このような無機質がアルカリ金属触媒と反応し、それを不活性化するのを防止することによって、固形排出物からの触媒回収量を大幅に増加させることができ、触媒損失を減らすことができる。本ガス化法では約90%の触媒回収率が可能である。
【0023】
本発明はいずれかの理論に限定されるものではないが、ガス化装置中のCO2は触媒を不活性化させるため、CO2を除去することによって、触媒活性を高く維持でき、より完全な転換が達成できる。また、ガス相からCO2を除去すれば、触媒中の炭酸塩形態に対する水酸化物の比を実質的に変更することができる。CO2を効果的に除去することで、触媒の活性が高まり、温和な温度で高いガス化速度が得られる。温和な温度で石炭(又は他の炭素質材料)のメタンへの直接転換率が大きくなる方向に反応速度論をシフトさせ、この結果、従来の接触石炭ガス化の温度では反応性の低いチャーに転換する石炭を、より高い反応性に維持させることができる。温和な温度での操作では、更に触媒の揮発及び炭素質供給物中の微量有害元素に起因する触媒ロス及びシステムの構成要素の腐蝕を減少させることもできる。
【0024】
本発明の接触ガス化法は更に、公知のこれまでのガス化法よりも、簡単であり建設及び操業の費用を低くすることができ、他のガス化法及びシステムでは長期間付随してきた過熱、腐蝕、チャー蓄積、その他の問題が少なくなる傾向がある。凡その出入りのBtu(British thermal unit:英熱単位)効率は全体で80から85%台と見積もられる。
【0025】
本発明の一つの実施態様では、炭素質材料のメタンへの直接接触ガス化の方法であって、約300乃至約700℃の範囲の温和な温度、約15乃至約100気圧の圧力で、水蒸気及びアルカリ金属塩触媒を含む環境中で炭素質材料を反応させること、及びその環境中の反応生成物からCO2(及びH2O)を除去して約30%乃至約90%のメタンから成る乾式原ガス生成物を製造することを含むガス化の方法が提供される。このように、得られた乾式原ガス生成物は容量で少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、又は少なくとも70%までものメタンを含むことができる。この実施態様はH2又はCOの追加若しくはリサイクルなしか、又は大量の追加若しくはリサイクルなしで実行できる。
【0026】
別の実施態様では、H2又はCOの追加またはリサイクルなしで実行できる、炭素質材料を可燃性ガスへ転換させる改良された直接接触ガス化法が提供され、ここで、ガス化反応は約300乃至約700℃の範囲の温度、約15乃至約100気圧の圧力で、水蒸気、アルカリ触媒及び無機質結合物質を含む環境中で進み、そして該炭素質材料がシリカ及び/又はアルミナ並びに他の無機成分を含有する。無機質結合物質はこれらの無機成分の少なくとも一部と結合することができ、シリカ及び/又はアルミナ並びに他の無機成分がアルカリ触媒と結合するのを抑制することができる。
【0027】
本発明の上記特徴は以下の詳細な説明を参考にすることでより容易に理解されるであろう。図1は本発明の実施態様に基づいた温和な接触石炭ガス化(MCCG)法の概略フロー図である。
【0028】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、文脈上、他の意味を要求しない限り、次に掲げる用語はここに示された意味を有するものとする。
【0029】
「触媒」という用語はガス化反応を促進するために本方法に導入される組成物を意味する。この用語は炭素表面を活性化する、又は別の方法で実際にガス化反応に関与する特定の単一又は複数の化学部分に限定されることを意味しない。
【0030】
本明細書で使用される「温和な温度でのガス化」は約550℃以下での炭素質材料の水蒸気ガス化を意味する。
【0031】
本明細書で使用される「合成ガス」は合成によって製造された燃料ガスを意味し、一般には標準的な石炭ガス化法によって製造され、その容量の大部分をCO及びH2が占める。
【0032】
本明細書で使用される「乾式原ガス生成物」は直接接触水蒸気ガス化の生成ガスであって、水蒸気を含まない、又は実質的に水蒸気を含まないガス生成物を意味する。水蒸気は炭素質材料の直接接触水蒸気ガス化からの原ガス生成物の一成分になり得るが、本明細書での「乾式原ガス生成物」の言及は、水蒸気以外のガス状生成物であって、ガス化装置から流動され、それ以上精製されていないガスを意味する。
【0033】
本明細書で使用される「CO2捕捉物質」には、CaO、Ca(OH)2、ドロマイト、石灰石、トロナ、又はCO2と再生可能なように結合して固体の炭酸塩又は重炭酸塩を生成するのに有効な他の化合物、及びこれらの物質が組み合わせられたものがある。
【0034】
本明細書で使用される「無機質結合物質」には、CaO、Ca(OH)2、CaCO3等のカルシウム塩、又は炭素供給物中のシリカ、アルミナ、及び他の無機成分と反応して固定することで、これらの成分が触媒と反応して触媒を不活性化するのを抑制することができる他のいずれのアルカリ土類金属塩がある。
【0035】
本発明は、炭素質材料を、実質的にメタン又は他の可燃性ガスを含むガスに転換する接触水蒸気ガス化法を提供する。本方法は温和な温度で操作でき、大量の一酸化炭素又は酸性ガスを除去する必要がなく、直接に燃料として使用するか、又はパイプライン仕様のメタンに精製することが出来る乾式原ガス生成物を製造することができる。本方法は供給物調製ゾーン、ガス化装置、触媒回収システム及びCO2捕捉再生ゾーンを包含することができる。
【0036】
約300℃乃至約700℃の間の温度、約10気圧乃至約100気圧の範囲の圧力で操作されるガス化装置で、CO2捕捉物質及び一種又はそれ以上のアルカリ金属塩触媒の存
在の下、炭素質材料を水蒸気及び/又は酸素等の酸化剤と反応させて、原生成ガスとして主としてメタンを製造することができる。好ましい実施態様では、反応器内の操作温度は約550℃より低く、圧力は約12乃至約40気圧の範囲である。ガス化装置は移動床又は流動床を具備していてよい。無機質結合物質も反応器内に存在してよく、炭素質原料中のシリカ、アルミナ及び他の無機成分と結合することによって、このような成分が触媒と反応し、不活性化させるのを防止又は抑制することができる。
【0037】
供給物調製ゾーンには、炭素質材料、アルカリ金属触媒、無機質結合物質及びCO2捕捉物質を混合する一つ又はそれ以上の混合槽、及び触媒/炭素質材料/CO2捕捉物質の混合物を乾燥固形物又は液スラリーとして、ガス化装置に導入するための供給システムが含まれていてよい。供給システムは、星形フィーダー、スクリューフィーダー、又はガス化反応器に導入しようとする物質にとって必要な温度、圧力及び流量を維持するのに有効な他の機構であってよい。
【0038】
炭素質材料としては、石炭、重油、石油コークス、他の石油製品、残滓又は副生成物、バイオマス、生ごみ、動物、農業又は生物学的廃棄物、及び他の炭素質廃棄物質等、又はこれらの混合物があり得る。石炭その他の炭素質材料は、ガス化法に使用するべく搬送される前に平均粒径約30乃至100メッシュに粉砕又は微粒化してよい。このような粒子は、既知の方法で水溶液のアルカリ触媒で含浸され、乾燥されてよい。含浸し乾燥した粒子はCO2捕捉物質及び/又は無機質結合物質と混合して、ガス化装置に単一ストリーム(stream)として導入してよい、又はそのようなストーリム(stream)は、適宜、別々に供給又は組み合わせて供給されてもよい。
【0039】
しかしながら、好ましい実施態様では、本ガス化法に使用される炭素質材料は平均粒径が約1〜2mmと更に粗くてよい。このような粗い粒子は、微粉化された無機質結合物質の水性スラリーと混合、粉砕されてよい。得られたペーストをアルカリ触媒と共に粉砕し、過熱水蒸気を用いて約100℃で乾燥して、高分散した無機質結合物質及びアルカリ触媒を含む平均粒径約0.02mm未満の炭素質材料の微粉末を回収し、それを約30〜100メッシュの粒径のペレットにしてガス化装置に供給してもよい。CO2捕捉物質は混合して、調製された炭素質材料と共に供給しても、別に供給してもよい。
【0040】
CO2捕捉物質はCaO又はCa(OH)2、又はCO2と反応して固体の炭酸塩若しくは重炭酸塩を生成する他のいずれの化合物であってよく、その結果原ガス生成物中のメタン濃度を高める方向に反応速度論をシフトさせる。特定の実施態様では、CO2捕捉物質はCaOである。反応生成物から実質的に全てのCO2を除去して、約2容量%未満のCO2を含有する乾式原ガス生成物が得られるように十分な量のCO2捕捉物質が使用されてよい。反応器内での炭素に対するCO2捕捉物質のモル比は約0.1:1乃至約1:1の範囲、より格別には約0.3:1乃至0.7:1の範囲、そして更により格別には約0.5:1であってよい。CO2捕捉物質としてCaOを使用する場合は、反応器に供給される炭素に対するCaO比は、質量基準で約0.5:1乃至約4:1の範囲、より格別には1:1乃至3:1の範囲、更により格別には約2:1であってよい。CO2捕捉物質は炭素表面に高分散していなくても効果を発揮し得る。このように、CO2捕捉物質と炭素質材料を混合してからガス化装置に供給するか、又は別々に供給するかは操作上の都合によって決定できる。
【0041】
アルカリ触媒は、Na2CO3、K2CO3、Rb2CO3、Li2CO3、Cs2CO3、KNO3、K2SO4、LiOH、NaOH、KOH、又は適切ないずれのアルカリ金属塩、又はトロナ等のアルカリ金属塩を含む天然の無機物、又はこれらの混合物を含むことが出来る。触媒はアルカリ金属塩の単一の化合物であっても、その組み合わせであってもよく、組み合わせの場合、二成分又は三成分の塩混合物であってもよい。アルカリ触媒の充填量(loading)は、乾燥、灰分なし基準での炭素質供給物に対して1乃至50質量%であってよい。好ましくは、アルカリ触媒の充填量は、約1乃至30質量%の範囲である。アルカリ触媒は、いかなるフッ素化合物が存在しなくても効果を発揮し得る。
【0042】
アルカリ金属塩触媒は、Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、Rb2CO3及びCs2CO3の共融塩混合物、又はその混合物を含む。一つの実施態様では、共融塩混合物は約29モル%のNa2CO3と約71モル%のK2CO3の二成分の塩混合物であってよい。別の実施態様では、共融塩混合物は約43.5モル%のLi2CO3、31.5モル%のNa2CO3及び25モル%のK2CO3の三成分の組成物、又は約39モル%のLi2CO3、38.5モル%のNa2CO3及び22.5モル%のRb2CO3の三成分の塩混合物であってよい。
【0043】
無機質結合物質は、CaO、Ca(OH)2、CaCO3及び他のアルカリ土類金属塩から成る群から選ばれる化合物、又はそれらの化合物の混合物であってよい。無機質結合材は、アルカリ触媒が炭素質原料と接触する前の供給物前処理工程で、混練又は他の方法で炭素質原料粒子の上に分散させてよい。本発明では、カルシウム塩を炭素質供給物粒子と混練することが、無機質とアルカリ金属触媒が相互作用することを防止する一助となり得る。別の実施態様では、炭素質供給物、無機質結合材及びアルカリ触媒を同時に通常の方法で混合してよい。更に別の実施態様では、無機質結合物質は個別にガス化装置に供給してもよく、そして/又は無機質結合物質をガス化装置の中で生成させてもよい、そこでは、このような無機質結合物質(例えば、CaCO3)が、炭素質供給物中に存在するシリカ、アルミナ及び他の無機成分と反応しアルカリ触媒のロス及び不活性化をある程度防止又は抑制し得る。
【0044】
無機質結合材は、炭素質原料中のアルミニウム及びシリコン成分等のいずれの反応性無機成分の少なくとも一部と結合して、それによってこのような反応性無機成分がアルカリ触媒と反応することを防止又は抑制することができる。このように、無機質結合物質は炭素質供給物中の反応性無機成分と化学量論的にほぼ等しい量で効果を発揮し得る。従って、例えば、乾式ベースで約10乃至11質量%の灰分を含み、その内シリカが約51質量%、アルミナが約18質量%を占めるイリノイ産#6石炭を炭素質供給物質として使用する場合は、イリノイ産#6石炭100トン中の全てのシリカ及びアルミナと反応するのに、7.1トンのCaCO3又は他の無機物の当量(例えば、約4.0トンのCaO)で十分であろう。化学量論的量より多い量、又は少ない量、すなわち約0.5乃至約1.5の範囲で使用するのが好ましい場合がある。多い量の無機質結合材は、特に高い操作温度で、より完全に物質結合を促進することができる。温和な操作温度では、より少ない量で十分に効果を発揮し得る。
【0045】
無機質結合若しくはCO2捕捉又はその両方を推進するために、本発明に従って炭素質供給物を処理することが望ましい。従って、イリノイ産#6石炭の処理で、どちらかの目的でCaOを使用する例では、単に無機質結合のみを推進するには、CaOの使用量は約2乃至6質量%の範囲であってよく、供給物と高分散していることが好ましく;これに対し、CO2捕捉を推進するには、50乃至200質量%と比較的多い量が使用され、この場合は供給物と高分散している必要はない。少なくとも60%乃至約90%の範囲の相当な量のCO2捕捉物質がCO2捕捉再生器で回収され、本方法の中でリサイクルできることが期待され、この結果、追加するCO2捕捉物質の量はCaOの約5乃至80質量%であってよい。無機質結合とCO2捕捉の両方を推進するためには、供給物は供給物中に高分散したCaOを約5%含有し、残りのCaOを別のストリーム(stream)としてよい。
【0046】
反応器は固形排出物が定期的又は連続的に抜き出されるように設計される。CO2捕捉物質は反応器内でCO2と反応し、「炭酸化」された形で、固形排出物と共に抜き出される。CO2捕捉物質がCaO又はCa(OH)2である場合は、固形排出物には、CaCO3の粒子、及び未反応炭素の粒子、炭素質供給物の灰分又は無機成分、種々の形態のある程度のアルカリ触媒が含まれる。
【0047】
本発明のガス化法は、所望により又は必要に応じて、活性のあるCO2捕捉物質を回収しリサイクルするための従来設計の再生工程を含むことができる。例えば、CO2捕捉物質がCaOの場合、CO2捕捉物質の再生器は焼成炉であってよい。この場合、CaCO3の粒子は、目の粗い篩を通過させるか、微粒子の水簸、又は他の技術で、上記の抜き出された固形物から分離され、焼成炉に送られてCaOを回収することができる。回収されたCaOは必要に応じて、焼成の間又は後で、リサイクルされる前に水蒸気処理、又は同様の処理によって活性化させ、又はその表面積を増加させてよい。ガス化装置にリサイクルされた再生CaOは、固形排出物中の抜き出しカルシウム値の約90%にもなる。焼成された排ガスは、大半がCO2で、場合によりいくらかCaCO3、CaS及びCaSO4、並びにH2S、場合によりSO2及びO2が含まれており、封鎖又は別の方法で適切に処分される。
【0048】
篩を通過する固形排出物部分は可溶性のアルカリ金属塩を含んでいる可能性があるほか、不溶性のアルカリ及び/又はアルミノケイ酸カルシウムも含んでいる可能性がある。これらは触媒回収システムで処理されて、触媒を回収、リサイクルすることができる。触媒回収システムは水洗システムを有していてよく、場合により石灰蒸解システム(lime digestion system)を有してよい。一つの実施態様では、高温の炭素/灰分の粒子を水に接触させて粒子中の可溶性触媒成分を溶液の中に溶解させることができる。粒子がアルカリ金属のアルミノケイ酸塩を少量含んでいる場合は、本質的に完全な触媒回収がこの水との接触工程で十分達成できる。水洗した固形物がかなりの量の不溶性アルカリ成分を含んでいる場合は、水洗した固形物をアルカリ性の溶液又はスラリー中で蒸解して、不溶性のアルカリ部分を回収し得る。水洗した固形物には十分な量のカルシウム又はアルカリ性の化合物が含まれているので、蒸解用に石灰又は他のアルカリ性の溶液を追加する必要性は、殆ど又は全然ない。
【0049】
メタン、又は合成ガス等の他の好ましいガス生成物への転換速度及び総合転換率を最大にするために、水蒸気の分圧及び/又は濃度を監視、制御することができる。いくつかの実施態様では、反応を起こすということに、水蒸気の炭素に対するモル比を約1.5乃至3の範囲に維持すること、及び/又はガス化反応環境に非反応性のガスを添加して水蒸気の分圧を制御することが含まれる。
【0050】
本接触水蒸気ガス化法では、少なくとも約40容量%のメタンを含む乾式原ガス生成物を製造することができ、そして少なくとも約50容量%のメタン、又は少なくとも約60容量%のメタン、更に少なくとも約70容量%以上のメタンさえも含み得る乾式原ガス生成物を製造することができ、ここで、H2及びCOのリサイクル又は大量リサイクルは必要なく、別段での水性ガスシフト反応も必要ない。別の実施態様では、約80%、又はそれ以上のメタンを含み得る乾式原ガス生成物が製造される。
【0051】
炭素質材料のメタンへの総合直接炭素転換率は、少なくとも約50%、より格別には少なくとも約65%、更により格別には少なくとも約80%、そして尚、更により格別には少なくとも約90%になり得る。更により格別には実施態様では、炭素質材料の炭素転換率は、約550℃より低温で少なくとも約50%、又は少なくとも約65%になり得る。
【0052】
以下の実施例で本発明及び特定の実施態様をより十分に説明する。
【0053】
実施例1.低温の水蒸気ガス化の結果
イリノイ産#6石炭の高圧、低温での水蒸気ガス化を検討した。500℃、高圧(500〜1,000psig、即ち約34乃至68気圧)、触媒なしの条件では、石炭の転換は観察されなかった。温度を700℃まで上げると、かなりの量の転換が観察された。明らかに低温では活性化エネルギーのバリヤーを越えるのには不十分のようである。脱鉱物質の石炭試料に対しては、700℃のガス分析で、メタンの生成は無く、又は実質的に無かった。少量のメタンが原料石炭のガス化では検出された。このような観察結果は、触媒が無ければかなりの量のメタンは生成しないという発見、及び石炭中の無機質が触媒の一助になり得るという発見に一致している。
【0054】
水蒸気ガス化における鉄、ニッケル及びカリウムの触媒効果も検討した。これらの触媒の存在下では、相当量のイリノイ産#6石炭が500℃でガス化した。約10質量%充填量での単一の触媒では、殆ど30〜35質量%の石炭がガス化し、しかも最初の5分間でその大半がガス化した。メタン及び二酸化炭素が主な生成ガスであり、一酸化炭素はわずかしか乃至全く生成しなかった。このように、低温、高圧では、平衡はメタン生成に移行し、合成ガスの生成は最小となる。1,000psig(約68気圧)では、予想通り、より高い石炭転換率及びメタン生成が観察された。鉄及びニッケル触媒を使用した反応では、約15分間反応性であったが、その後急激に反応性が低下するのが見られた。概して、脱鉱物質の石炭試料では、より高い総合転換率が得られたが、メタン濃度は、原料石炭のガス化の方がわずかに高かった。
【0055】
原料石炭のガス化で、触媒としてカリウム塩を鉄又はニッケルの塩と共に使用すると、相乗的な効果が観察された。500℃、500psig(約34気圧)では、カリウム/鉄塩触媒系(各5質量%)では、炭素転換率は42質量%であった。触媒充填量を各々10質量%に増やすと、転換率は53質量%まで上昇した。この触媒はメタンと水素の同時生産に有利に働くことがガス分析でわかった。ニッケル/カリウムの各5質量%を含む混合物は有意な相乗効果を示さなかった(転換率39%)が、これはこれらの塩と無機質との相互作用の所為の可能性がある。しかし、各10質量%では、55質量%の転換率が達成された。圧力を500psig(約34気圧)から1,000psig(約68気圧)に上げると、転換率が58質量%まで増加した。カリウム/ニッケル触媒を使用した場合のガス分析結果は、同様の条件下でのカリウム/鉄系のガス分析結果と類似している。
【0056】
これらの転換率は、アルカリ金属塩が遷移金属塩の活性をより長い反応時間維持している点で、遷移金属塩を好んでいることを示している。触媒の活性状態というのは、実際は三種の金属(その二つは外部からの触媒であり、一つは石炭中の無機質に由来する)を含んでいると言ってよい。検討結果、500℃及び500乃至1,000psigの圧力範囲では、ナトリウム塩がカリウム塩、又はいずれの遷移金属−カリウム塩混合物よりも効果的であることもわかった。イリノイ産石炭で70%にもなる高い転換率が得られた。遷移金属−ナトリウム塩の混合物については、調査しなかった。
【0057】
以上の結果から、石炭を低温、高圧でガス化し、メタンを製造できること、及び低温が合成ガスの生成を最小にするのに役立つことがわかる。
【0058】
実施例2.本発明の実施態様に従ったMCCG
想定された低温水蒸気ガス化法、即ち温和な接触石炭ガス化(MCCG)法のプロセスフロー図を図1に示す。この方法の数ある有利な点の一つは、上述の如く、簡単な方法であることである。粒状の石炭又は他の炭素質材料、CO2捕捉物質及び/又は無機質結合物質の粒子、及びアルカリ金属触媒溶液を共に混合槽100の中で混合して供給物ストリーム(stream)とし、一般的にロックホッパー200として示されている一つ又はそれ以上のロックホッパーに送られる。上記粒子ストリーム(stream)は別々に混合槽100に供給されてよく、又は混合槽100に供給される前に合流(図示されていない)してもよい。供給物ストリーム(stream)はロックホッパー200からスクリューフィーダー250でガス化装置300に供給されるが、このスクリューフィーダーの代わりに、星型フィーダー、又は炭素質材料を液体スラリーで供給する機構、又は所望のガス化成績を達成するのに必要な速度、温度、圧力で炭素質材料を反応器に供給することができる、当技術分野で公知の他の任意の供給機構を使用してよい。
【0059】
ガス化装置300は、流動床400A、又は移動床400Bの様式で操作してよい。流動床式400Aの利点は、設計の容易さ、タール制御の容易さにある。流動床の一つの欠点は、新たに供給された石炭粒子及びCO2捕捉物質の粒子が転換残留物(固形排出物)と共に除去される可能性があることである。また、出口ガス中の水蒸気濃度も移動床の場合に比べて高い。これに対して、移動床式では、タールが生成ガスに伴って反応器から出て行くのを防止するのに、部分ガス化した石炭を移動床のトップに戻す固形物リサイクルが必要となるため、より複雑になっている。さらに、移動床の一つの利点は、出口ガス中の水蒸気濃度を十分に低くできること、及びCO2捕捉物質の減少が最小限に抑えられることである。また、この様式では石炭転換率が最大になる。
【0060】
CaO、Ca(OH)2、CaCO3、又は他のアルカリ土類金属塩がガス化装置300の中に存在すれば、これらの化合物は石炭又は他の炭素質材料の中の無機質と反応、固定し、無機質がアルカリ金属塩触媒と反応するのを防止又は抑制し、こうすることで、アルカリ金属塩触媒は活性をより長く維持し、炭素の転換効率、転換速度を増加させ、更に触媒回収率を向上させる。例えば、このような化合物は、石炭中のアルミナ、シリカ、又は他の無機成分と反応し得る。石炭又は他の炭素質原材料を、CaO、Ca(OH)2、CaCO3、又は他のアルカリ土類金属塩で前処理して石炭中の無機質/灰分を固定することもできる。
【0061】
ガス化装置300は、約550℃又はそれ以下、及び約1,000psig(68気圧)未満の操作圧で操作される。効果的にCO2と結合し、再生される、CaO、Ca(OH)2、又は他の化合物は、CO2及び硫黄ガスの捕捉物質として使用できる。これにより、反応が推進されて触媒の活性が高まり、反応速度論をメタンの生成が増加する方向にシフトさせることで、メタン生成が増強される。
【0062】
水蒸気はガス化装置300の底部に供給される。触媒を活性化するために少量のO2/空気を水蒸気に添加するのが有益である。このような実施態様では、約0.1%乃至3%の酸素又は空気が水蒸気に添加され、石炭表面上に酸化サイトを作り、触媒がそこで石炭と相互作用することができる錯体をもたらし、より高いガス化速度及び炭素転換率を達成する。生成ガスはガス化装置300のトップから排出され、凝縮器500を通過して水蒸気を除去する。凝縮した水は触媒回収システム600内で使用可能である。大半がメタンで、H2及びNH3が少ない生成ガスは、必要に応じて伝統的な方法による分離(図示されていない)に向けられる。ガス分離は目標とする製品の最終用途によって変わってくる。所望により、H2/CO比を制御するために圧力を下げ、CaO(又は他のCO2捕捉物質)供給量を減らすことによって合成ガスを製造する。
【0063】
廃残渣は反応器/ガス化装置300の底部から排出され、篩又は他の装置によって分離され(700)、CO2捕捉物質として、CaO又はCa(OH)2を使用した場合に生成する径の大きいCaCO3粒子を分離する。径の小さい残渣は、一般に600で示されている抽出器/触媒回収システムに送られ、ここで触媒が溶解、濃縮(必要に応じて)され、リサイクルされる。次いで抽出器600からの残渣は廃棄物となり、多くの場合埋め立てごみに回されるか、又は有害廃棄物になる可能性を見極めてから副生成物利用に回される。炭酸カルシウムは焼成炉800で焼成され、混合槽100にリサイクルされる。焼成されたオフガス(大半がCO2で、場合によりCaCO3、CaS、及びCaSO4の粒子、並びにH2S、場合によりSO2及びO2)は、システムが加圧下で操作されている場合、封鎖される状態にある。
【0064】
実施例3.別の実施態様のMCCG
他の格別な実施態様では、石炭又は他の炭素質材料;CaO又はCa(OH)2粒子等のCO2捕捉物質;及びアルカリ金属触媒溶液が、上述のように、混合槽100の中で混合され、ロックホッパー200に送られ、そしてガス化装置300に供給される。混合槽100には、炭素質の粒子がその中のアルカリ触媒で含浸されるように、攪拌翼及び内容物を加熱する手段を含んでいてよい。
【0065】
ガス化装置300は、上述のように、流動床400A又は移動床400Bで操作でき、約300℃乃至約700℃の間の温度、約12乃至約40気圧の圧力で操作される。実施例2で述べたように、CaO又はCa(OH)2をCO2及び硫黄ガスの捕捉物質として使用することができ、そしてCaO、Ca(OH)2、CaCO3又は他のアルカリ土類金属塩は、石炭のアルミナ、シリカ、又は他の無機成分と反応し得る。
【0066】
本方法の残余は実施例2で説明した通りである。
【0067】
実施例4.KOH及びCaOを使用する水蒸気ガス化の試験結果
Powder川流域産石炭(PRB)の水蒸気ガス化の炭素転換速度を、500℃及び700℃の温度範囲で検討した。触媒を使用しない場合の炭素転換率は、700℃で15分後に約60%であり、30分後に約75%に上昇した。KOHを触媒に使用した場合は、転換率は夫々の時間で約65%及び85%に上昇した。興味あることに、KOH触媒、及びモル比で1:2(重量比で約2:1)のCaO/Cの充填量を使用すれば、転換率は反応時間に関係なく約95%に上昇した。このように、CaO捕捉物質を使用すれば、石炭転換率がわずか約15分で本質的に完全なものになり、このことは、このような条件のガス化装置は、滞留時間を短く設計することができ、しかも高い転換率を達成できることを示している。
【0068】
温度による効果は、650℃、600℃、及び550℃での30分後の転換率を比較することでわかる。触媒を使用しない場合、転換率は650℃で約70%であり、より低温では約50%に低下した。KOH触媒を使用した場合は、転換率は650℃で約80%であり、600℃及び550℃では夫々約65%及び約60%に低下した。KOH及びCaO(上記と同様にCaO/Cのモル比が1:2で充填)を使用した場合は、650℃での転換率は100%に近く、より低温でも約90%とわずかしか低下しなかった(650℃での転換率は、700℃で観察された約95%より高かった)。
【0069】
わずか20分後の500℃での転換率は、KOH及びCaOを上記と同じ配合量で使用して、少なくとも90%となり、50分又は60分後にもわずかしか上昇しなかった。このことは、CO2捕捉は、転換率をひどく犠牲にすることなく、より低いガス化温度(メタンの生成にとって有利)及び短い滞留時間を使うことができることを実証している。
【0070】
石油コークスの水蒸気ガス化の炭素転換率速度を700℃及び650℃で検討した。触媒なしの700℃での炭素転換率は15分後で約35%であり、60分後で約45%、90分後で約55%とわずかな上昇にとどまった。KOH触媒を使用した場合は、転換率は15分後に約45%と上昇し、30、60、及び90分後には夫々約55%、60%、及び80%に上昇した。KOH触媒及びCaO(上と同様にCaO/Cのモル比は1:2の充填)を使用した場合は、転換率は15又は30分後に約85%に、60又は90分後に約95%に上昇した。650℃、60分後での対応する転換率は、無触媒の石油コークスの場合で15%、KOHを使用した場合で約50%、及びCO2捕捉物質を使用した場合で約80%であった。650℃でCO2捕捉を使用して転換率が上昇することは、石油コークスの650℃での水蒸気ガス化が経済的に成り立つことを示している。
【0071】
実施例5.KOH、LiOH、NaOH、及びCa(OH)2を使用する水蒸気ガス化の試験結果
Powder川流域産石炭(PRB)についてKOH、LiOH、NaOH、及びCa(OH)2の存在下での接触水蒸気ガス化の炭素転換率を、500℃乃至700℃の温度範囲で測定した。KOHを使用した場合の転換率は700℃及び650℃で夫々約90%及び85%であり、これが600℃で約70%、550℃及び500℃で約60%に低下した。意外なことに、NaOHが600℃で転換率が約80%、550℃で70%と極めて良い性能を示し、700℃、650℃及び500℃では、KOHとほぼ同じ性能を発揮した。このことは、NaOHが低温水蒸気ガス化用の好ましい低コストの触媒であることを示唆している。
【0072】
500℃でNaOH、KOH又はCa(OH)2を使用した場合の転換率約60%に対して、LiOHが約65%の転換率を示したことを除けば、LiOHを使用した場合の転換率は、NaOHを使用した場合よりも5乃至10%低かった。Ca(OH)2を使用した場合の転換率は700℃乃至550℃で約70%であり、500℃では60%未満に低下した。
【0073】
実施例6.本発明に基づく石炭及び残滓の水蒸気ガス化
別の格別な実施態様では、上記のように、石炭にアルカリ金属触媒、CaO、Ca(OH)2、CaCO3から選ばれるカルシウム塩、及び他のアルカリ土類金属塩を混合し、次いで石油残碎と混合した。石炭/残滓混合物は、触媒を分散させるために約400乃至500℃に3乃至30分間加熱し、次いでガス化し、更に上記のような処理をした。
【0074】
触媒を分散させることで、触媒との接触がよくなり、温度を約300℃乃至550℃に下げることができる。また、このような分散により炭素質供給物の反応性無機成分とこのようなアルカリ土類塩との間の接触および反応が良くなり、それによって無機質/触媒の相互作用が回避でき触媒の回収率を上げることもできる。更に、触媒の分散により、硫黄除去がより効率的になり、触媒量が減り、そしてガス化が更に進展する結果、ガス化が完了した後には未反応の固形物及び無機質がわずかしか残らないことになる。特定の実施態様では、残滓に対する石炭の質量比は、約1:1乃至1:10の範囲にある。
【0075】
先ず、4種の供給物成分を組み合わせて、二つのストリーム(stream)とし、その内の一つは石炭及びカルシウム塩から成り、他はアルカリ触媒及び残滓から成るようにしてよい;次いで、このように組み合わせたストリーム(stream)を合わせて混合し、上記のように約400乃至500℃に約3乃至30分間加熱しアルカリ触媒を石炭上に分散させた。こうすることで、有利に触媒をより速やかに潜在有毒物質から分離でき、石炭混合物が希薄相にある触媒のみに曝される。この場合も、このように触媒を分散させることで、炭素/残渣混合物のガス生成物へのガス化をより完全なものにすることができる。
【0076】
別の方法として、少量の残滓を石炭と組み合わせ、触媒と混合してから、残りの残滓と混ぜることもできる。石炭/残滓/触媒の混合物は、次いで上記の分散温度(400乃至500℃)で反応器に上記のように3分乃至30分間導入し、分散した混合物を水蒸気が吹き込まれる別の反応器に導入した。水蒸気でガス化反応が起こり、ガス(メタン、エタン、プロパン及びブタン)及びC5からC10留分(ガソリン留分)の低沸留出物が生成する。この実施態様では、触媒は液相中に分散したままであり、未反応物質と共に除去されるのはそのわずか少量であり、触媒の回収やリサイクルが良くなり、経済性が向上する。
【0077】
これまで詳細なフロー図、操作条件、及び実施例を用いて本発明を説明してきたが、本発明に対し、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の変更、置換がなされ得る。以下の特許請求の範囲に示されたもの以外に、いかなる制限も課せられるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施態様に基づいた温和な接触石炭ガス化(MCCG)法の概略フロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ触媒の存在下、約300℃乃至約700℃の温度範囲で、炭素質材料と水蒸気を反応させ、CO2、CH4、H2O、及びH2を含むガスを生成させること、
該ガス中の該CO2をCO2捕捉物質と結合させること、
該ガスからH2Oを除去し乾式原ガス生成物を生成させること、
を含み、ここで該CO2捕捉物質を十分な量のCO2と結合するのに十分な量で存在させて、少なくとも約40容量%のメタンを含む乾式原ガス生成物を生成させる、炭素質材料の可燃性ガスへの接触ガス化方法。
【請求項2】
アルカリ触媒の存在下、約300℃乃至約700℃の温度範囲で、炭素質材料及び水蒸気を反応させ、CO2、CH4、及びH2を含むガスを生成させること、ここで該炭素質材料がシリカ、アルミナ及び他の無機成分を含有すること、及び、
無機質結合物質を供給して、該無機成分の少なくとも一部と結合させ、該無機成分が該アルカリ触媒と結合するのを抑制すること
を含む炭素質材料の可燃性ガスへの接触ガス化方法。
【請求項3】
アルカリ触媒の存在下、約300℃乃至約700℃の温度範囲で、炭素質材料及び水蒸気を反応させ、CO2、CH4、H2O、及びH2を含むガスを生成させること、ここで該炭素質材料がシリカ、アルミナ及び他の無機成分を含有すること、
無機質結合物質を供給して、該無機成分の少なくとも一部と結合させ、該無機成分が該アルカリ触媒と結合するのを抑制すること、
該ガス中の該CO2をCO2捕捉物質と結合させること、
該ガスからH2Oを除去し乾式原ガス生成物を生成させること、
を含み、ここで該CO2捕捉物質を十分な量のCO2と結合するのに十分な量で存在させて、少なくとも約40容量%のメタンを含む乾式原ガス生成物を生成させる、炭素質材料の可燃性ガスへの接触ガス化方法。
【請求項4】
温度が約300℃乃至約550℃の範囲にある、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
相当な量のH2及び/又はCOが反応器にリサイクルされないか、又は追加されない、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
アルカリ触媒が、Na2CO3、K2CO3、Rb2CO3、Li2CO3、Cs2CO3、KNO3、K2SO4、LiOH、NaOH、KOH、及びアルカリ金属塩含有の天然に産する無機物から成る群から選ばれる一つ又はそれ以上の化合物を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
CO2捕捉物質が、CaO、Ca(OH)2、ドロマイト、石灰石、トロナ、及びCO2と再生可能なように結合して固体の炭酸塩又は重炭酸塩を生成するのに有効な他の化合物から成る群から選ばれる一つ又はそれ以上の化合物を含む、請求項1又は3記載の方法。
【請求項8】
CO2捕捉物質がCaOを含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
反応器内でCaOの炭素に対する質量比が約0.5:1乃至約4:1の範囲にある、請求項8記載の方法。
【請求項10】
反応器内でCaOの炭素に対する質量比が約2:1である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
アルカリ触媒及び多量のCO2捕捉物質が存在する環境において、約300℃乃至約700℃の温度範囲で、炭素質材料及び水蒸気を反応させ、CH4及びH2Oを含むガス並びに炭酸塩化したCO2捕捉物質含有の固形粒子を生成させること、
該ガスからH2Oを除去し、少なくとも約30%のメタンを含む乾式原ガス生成物を生成させること、
該固形粒子をその環境から除去し、その固形粒子からCO2捕捉物質を再生し、その再生されたCO2捕捉物質を該環境に戻すこと
を含む炭素質材料の可燃性ガスへの接触ガス化方法。
【請求項12】
再生されたCO2捕捉物質が、CO2捕捉物質の量の少なくとも50%を含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
再生されたCO2捕捉物質が、CO2捕捉物質の量の少なくとも90%を含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
無機質結合物質が、CaO、Ca(OH)2、CaCO3、及び他のアルカリ土類金属塩から成る群から選ばれる一つ又はそれ以上の化合物を含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項15】
更に、無機質結合物質を反応に先立って炭素質材料中に分散させることを含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項16】
無機質結合物質の炭素質材料の無機成分に対する化学量論的比が約0.5乃至約1.5の範囲にある、請求項14記載の方法。
【請求項17】
無機質結合物質の炭素質材料の無機成分に対する化学量論的比が約1:1である、請求項14記載の方法。
【請求項18】
炭素質材料の炭素転換率が少なくとも約50%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
炭素質材料の炭素転換率が少なくとも約65%である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
炭素質材料の炭素転換率が少なくとも80%である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
乾式原ガス生成物が少なくとも約50容量%のメタンを含む、請求項1又は3記載の方法。
【請求項22】
乾式原ガス生成物が少なくとも約60容量%のメタンを含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
乾式原ガス生成物が少なくとも約70容量%のメタンを含む、請求項21記載の方法。
【請求項24】
乾式原ガス生成物が少なくとも約80容量%のメタンを含む、請求項21記載の方法。
【請求項25】
更に、反応器内の水蒸気の炭素に対するモル比を約1.5:1乃至3:1の範囲内に維持することを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
更に、非反応性ガスを反応器に添加することによって、水蒸気の分圧を制御することを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
反応器が流動床又は移動床を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
アルカリ触媒が共融塩混合物を含む、請求項6記載の方法。
【請求項29】
共融塩混合物が二成分塩混合物である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
二成分塩混合物が29モル%のNa2CO3及び71モル%のK2CO3である、請求項29記載の方法。
【請求項31】
共融塩混合物が三成分塩混合物である、請求項28記載の方法。
【請求項32】
三成分塩混合物が43.5モル%のLi2CO3、31.5モル%のNa2CO3及び25モル%のK2CO3である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
三成分塩混合物が39モル%のLi2CO3、38.5モル%のNa2CO3及び22.5モル%のRb2CO3である、請求項31記載の方法。
【請求項34】
アルカリ触媒がNaOH、Na2CO3又はトロナを含む、請求項4記載の方法。
【請求項35】
アルカリ触媒の存在下、約300℃乃至約700℃の温度範囲で、炭素質材料及び水蒸気を反応させ、CO2、CH4、H2O、及びH2を含むガスを生成させること、
該ガス中の該CO2をCO2捕捉物質と結合させること、
該ガスからH2Oを除去し乾式原ガス生成物を生成させること、
を含み、ここで該乾式原ガス生成物のCO2含有量が約2容量%未満となるように十分な量のCO2と結合するのに十分な量の該CO2捕捉物質を存在させる、炭素質材料の可燃性ガスへの接触ガス化方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−500471(P2009−500471A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−519394(P2008−519394)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/024050
【国際公開番号】WO2007/005284
【国際公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(508002586)グレイトポイント・エナジー・インコーポレイテッド (7)