説明

温室栽培の炭酸ガス施与装置

【課題】 温室内の栽培作物全体に適度な濃度の炭酸ガス混合空気を均一にして安全に施与することのできる温室栽培の炭酸ガス施与装置を提供。
【解決手段】 温室1内の空気を循環させて温室1内の栽培作物5に向け送風する空気循環手段10と、その空気循環手段10の温室1内の空気を吸引する吸気口11に適宜に濃度制御された炭酸ガスを供与する炭酸ガス供給手段20とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温室栽培される作物(栽培植物)に人工的に炭酸ガスを供給して生育を促進する炭酸ガス施与装置に関する。
【背景技術】
【0002】
温室内で野菜や果物の作物を土耕栽培、養液栽培する温室栽培(施設栽培、ハウス栽培)は、栽培作物の生育環境(温度、光、湿度、水、風、炭酸ガス)を良好に制御することができることから、園芸栽培にも普及している。温室栽培の場合、日中は温室の側窓や天窓を解放して外気の炭酸ガスを温室内に取り入れて、栽培作物の光合成を促進させることが行われているが、温室内の温度上昇や換気不足などが原因して炭酸ガス不足が生じ、作物の良好な生育が損なわれることがある。また、冬季などで温室を閉め切って栽培作物を光合成させると、温室内の炭酸ガス濃度が大気中の濃度(350ppm程度)より大幅に低下して、栽培作物の生育が抑制されることがある。このようなことから温室栽培においては、温室内に積極的に炭酸ガスを補給して温室内の炭酸ガス濃度を栽培作物の光合成に適した濃度にすることが行われている。
【0003】
温室内への炭酸ガス施与は、炭酸ガスボンベの純度の高い炭酸ガスや、プロパンガスや天然ガス、灯油を燃焼させて生じる排気ガス中の炭酸ガスを適度な濃度に希釈制御して、温室内に給送する方法、設備が公知である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−296641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、温室栽培の炭酸ガス施与は、温室内の炭酸ガス濃度が大気中の濃度を超える高濃度(700〜1500ppm程度)になるように行われて、栽培作物の光合成を活性化して生育を促進し、品質と収穫量を高める。しかし、温室内に給送された高濃度の炭酸ガスを送風ファンなどで温室内で希釈して温室内の床面近くの栽培作物に施与しても、温室内全体で平面的な炭酸ガス濃度のばらつきが生じて、温室内に配備された多数の栽培作物に平均的な濃度で炭酸ガスが行きわたらず、温室内の場所によっては炭酸ガス濃度が不足して光合成促進効果が不十分となり、逆に、炭酸ガス濃度が高くなりすぎて生育不良を引き起こすことがある。さらに、温室内は広く、温室内の各種の設備や栽培作物自体が空気の循環を妨げて、温室内の全ての栽培作物に均一化された濃度で炭酸ガスを施与することが実質的に難しく、栽培作物の生育状況に場所によるばらつきが生じ、作物の品質にばらつきが生じ易い。
【0006】
また、温室内の各種の設備や栽培作物自体が温室内での空気の循環性を悪くして、床面の低部に高濃度の炭酸ガスが滞留し易く、この滞留した炭酸ガスを拡散することが難しいことから、作物栽培の安全面の懸念が生じて、日中に炭酸ガス施与を連続して長時間継続させることが難しい。
【0007】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたもので、温室内の栽培作物全体に均一化された適度な濃度の炭酸ガスを安全にして連続して施与することのできる温室栽培の炭酸ガス施与装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するため、温室内の空気を循環させて温室内の栽培作物に向け送風する空気循環手段と、前記空気循環手段の温室内の空気を吸引する吸気口に適宜に濃度制御された炭酸ガスを供与する炭酸ガス供給手段とを具備したことを特徴とする。
【0009】
ここで、温室内で空気を循環させる空気循環手段は、温室内に配置された送風機や空調装置の送風ファンなどで、吸気口から温室内の空気を吸引して排気口から同じ温室内に吹き出し、温室内を循環させる。この空気循環手段は、温室内に配備された既存設備を適用することができる。空気循環手段による温室内の空気循環経路は送風管、エアーダクトなどで構成され、その一部が炭酸ガス供給手段から濃度制御された炭酸ガスが供与される経路となり、別の一部が温室内の栽培作物が存在する経路となる。前者の炭酸ガス供給手段が連接される経路は、空気循環手段の吸気口または排気口のある部所が望ましく、後者の栽培作物のある経路は、温室内の栽培植物に真上から下向きに空気を流通させる部所が望ましい。栽培作物に炭酸ガス混合の空気を直接的に、かつ、下向きに吹き付けることで、栽培作物に施与する炭酸ガス濃度の均一化が容易になり、栽培作物全体を均一に生育促進させることができる。また、温室の床面近くに設置された栽培作物の生長点近くに向けて適度な濃度に希釈された炭酸ガスを下向きに吹き付けることで、吹き付けられた炭酸ガスは周辺の空気と混合しながら作物の葉、茎、果実などと接触し、拡散しながら平均的な濃度に希釈されて、温室の床面近くの炭酸ガス濃度の平面的なばらつきを低減させ、床面などの低所での高濃度の炭酸ガス滞留を防止して作業の安全性を良好にし、長時間連続した炭酸ガス施与を行うことができるようになる。
【0010】
空気循環手段の温室内の空気を吸引する吸気口側に、炭酸ガス供給手段からの炭酸ガスを供与することが実用上に望ましい。この場合、空気循環手段の吸気口に供与された所定濃度の炭酸ガスは、温室内の空気と共に吸気口に吸い込まれて希釈され、所定の炭酸ガス濃度になった空気が空気循環手段の排気口から温室内の栽培作物に向けて吹き出されるため、排気口に炭酸ガス濃度センサーを取付けるなどして作物に施与する空気の炭酸ガス濃度の制御が正確にして容易にできるようになる。
【0011】
本発明においては、空気循環手段に、吸引した温室内の空気を温室内の栽培作物の真上から吹き降ろすエアーダクトを装備させることができる。ここでのエアーダクトは温室の天井に配備したエアー配管を含む。このエアーダクトは、温室内の床面上に平面的に形成された複数条の土耕栽培畝、養液栽培棚の上方に平行に配備されて、エアーダクト下面に設けた複数の吹出口の各々から土耕栽培畝、養液栽培棚で生育する栽培作物の生長点近くに向けて炭酸ガス混合の空気を吹き付ける。エアーダクトで温室内の空気循環経路を形成することで、複雑な空気循環経路が形成でき、より多様な土耕栽培畝、養液栽培棚の栽培作物に対処することができる。
【0012】
また、本発明においては、空気循環手段が、エアーダクトに温室内の空気を吸引して送風する送風機と、この送風機の回転数を制御する送風量制御手段を有し、この送風量制御手段でエアーダクト下面の吹出口からの空気吹出速度が前記栽培作物の生育環境に適合する速度になるよう調整することができる。このようなエアーダクトの吹出口からの空気吹出速度の調整は、吹出口の口径を調整することでも行うこともできるが、送風機によるエアーダクトへの送風量でエアーダクトに多数形成した吹出口からの吹出速度を一括して制御するようにすれば、簡単な作業で自動制御が容易となり、実用的である。
【0013】
また、本発明においては、エアーダクトの吹出口と栽培作物の根元との相対離隔距離を可変に調整する高さ調整手段を温室内に配備することができる。この場合の高さ調整手段は、温室内でのエアーダクトの高さを調整する手段か、温室内の床面からの栽培作物の根元の高さを調整する手段のいずれかが可能であるが、実用上はエアーダクトを栽培作物の生長による高さ変化に応じて上昇させるダクト昇降機構が望ましい。この高さ調整手段でエアーダクトの吹出口と生育する栽培作物の生長点の相対間隔をほぼ一定に保つことで、栽培作物の発芽から収穫までの全生育期間において概ね好適な炭酸ガス施与が実行でき、よりよい生育促進、品質改善、収量増大が可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、温室内に多数設置された栽培作物のそれぞれに濃度ばらつきの少ない炭酸ガスを施与することができて、栽培作物全体を均一的に光合成促進させて生育させ、作物全体の品質を安定させ、収量を上げることができる実益的に優れた効果がある。また、吹き付けた空気中の炭酸ガスが周辺の空気と混合し、作物の葉、茎などと接触して拡散しながら平均的な濃度に希釈され、温室の床面近くの炭酸ガス濃度を速やかに均一化し、床面などの低所での高濃度の炭酸ガス滞留を防止して、長時間の作業の安全性が増し、長時間連続した炭酸ガス施与を行うことができる作業上に優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態である炭酸ガス施与装置の概要を示す正面図である。
【図2】図2装置の平面図である。
【図3】図2装置におけるエアーダクトの部分側面図である。
【図4】図3エアーダクトの吹出口に口径調整手段を装備した場合の拡大下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図4を参照して説明する。
【0017】
図1及び図2は発明を実施する形態の概要を示すもので、図1は温室1の正面図、図2は平面図である。温室1の床面2上に複数条の栽培畝4が平面的に配列され、各栽培畝4で多数の栽培作物5が生育する。温室1の内部に、温室1内の空気を所定の経路で循環させる空気循環手段10が設置され、温室1の外部に炭酸ガス供給手段20が設置される。
【0018】
空気循環手段10は、温室1内で空気を循環させて栽培作物5に下向きに送風する送風機や送風ファン装備の空調装置で、例えば送風機13と、この送風機13の回転数を制御する送風量制御手段14を有する。空気循環手段10は温室内の床上2上の定位置に固定され、吸気口11と排気口12を備え、排気口12にエアーダクト15が連接される。吸気口11が温室外の炭酸ガス供給手段20にガス配管21で連接される。空気循環手段10の送風機13を所望の回転数で駆動させると、吸気口11から温室内の空気が吸引されて排気口12からエアーダクト15に所望の風速で給送され、エアーダクト15から栽培作物5に向け下向きに所望の風速で吹き付けられる。なお、この際の吹出し速度の調整は、図3と図4のようにエアーダクト15の吹出口15cに口径調整手段16を装備することによっても対応できるが、送風機13に送風量制御手段14を装備させることにより、送風機13からエアーダクト15に給送される送風量を調整して、エアーダクト15から栽培作物5に向け下向きに送風される空気吹出速度を栽培作物5の生育環境に適合する速度になるよう調整する。
【0019】
炭酸ガス供給手段20は、炭酸ガスボンベの純度の高い炭酸ガスや、プロパンガスや天然ガス、灯油を燃焼させて生じる排気ガスから窒素酸化物などを除去して得た純度の高い炭酸ガスを濃度制御してガス配管21に給送する。ガス配管21の先端が、温室内の空気循環手段10の吸気口11と連通し、ガス配管21から吸気口11に炭酸ガスを給送すると、吸気口11に流入する温室内の空気と炭酸ガスが混合し、この空気で希釈されてエアーダクト15に給送される。炭酸ガス供給手段20からの炭酸ガス供給量と空気循環手段10からエアーダクト15への循環空気の送風量は、温室内に配備した図示しない炭酸ガス濃度センサーや温度センサー、湿度センサーなどの各種制御信号により自動制御される。この自動制御で、エアーダクト15から栽培作物5に施与される空気の炭酸ガス濃度が栽培作物5の生育環境に最も適合するように制御される。このような自動制御は、栽培作物5の種類に応じ経験に基づいて行われる。
【0020】
また、温室内のエアーダクト15は、空気循環手段10に直接に連接された中央ダクト15aと、中央ダクト15aから枝分かれ的に延在する複数条の分岐ダクト15bを有し、複数の分岐ダクト15bが床面2上の複数条の栽培畝4の真上に平行に配置される。各分岐ダクト15bの下面に栽培畝4上に並ぶ複数の栽培作物5に対応した吹出口15cが設置される。図3に示すように、吹出口15cは対応する栽培作物5の真上にあって、エアーダクト15から送風された炭酸ガス混合空気(循環空気)を栽培作物5の生長点に向けて真下に吹き出す。
【0021】
温室1内の天井近くにエアーダクト15は、高さ調整手段30を介して高さ調整可能に設置される。例えば、中央ダクト15aの両端部にエレベータ式の高さ調整の可能なダクト継ぎ手が連結され、分岐ダクト15bの高さはこれと連動して調整される。高さ調整手段30は、エアーダクト15の吹出口15cと生育する栽培作物5の生長点の間隔を、炭酸ガス施与に最適な間隔となるよう調整して、栽培作物5の発芽から収穫までの全生育期間において効果的な炭酸ガス施与を実行させる。
【0022】
また、エアーダクト15の多数ある各吹出口15cは、対応する栽培作物5に対して最適速度で炭酸ガス混合空気を吹き付ける口径に設定できるようにしてある。例えば図4に示すように、吹出口15cは絞り形口径Dを可変調整する口径調整手段16を装備する。口径調整手段16を絞り操作すると、図4の鎖線で示すように口径Dが小さくなり、逆の操作をすると口径Dが拡大する。このような口径調整は、栽培作物5の種類や栽培作物5との相対距離などの条件と適合させて経験に基づいて行われる。
【0023】
次に、上記した実施の形態による炭酸ガス施与動作を説明する。
【0024】
夜明け前の炭酸ガス供給開始において、空気循環手段10を作動させて温室1内の空気を吸気口11で吸引してエアーダクト15に給送する。夜明け前の温室1の内部空気は、夜間の作物5の呼吸(暗呼吸)によって発生した炭酸ガスによって炭酸ガス濃度が高くなっており、この高濃度の炭酸ガスを吸気してエアーダクト15で栽培作物5に施与し、作物5の光合成を促進する。つまり、夜間で作物呼吸により発生した炭酸ガスの有効利用が図れ、その分、炭酸ガス供給手段20から補給する炭酸ガス量が節約できる。
【0025】
温室1内の炭酸ガス濃度を図示しない濃度センサーで逐一検出して、作物5の光合成を促進する必要があると予め設定された濃度を検出すると炭酸ガス供給手段20を作動させて、ガス配管21から吸気口11に炭酸ガスを供給し、送風量調整手段14で調整された風速でエアーダクト15の吹出口15cから炭酸ガス混合空気を栽培作物5に向け下向きに吹き付ける。この炭酸ガスの吹き付けで栽培作物5の光合成が促進されると共に、吹き付けた炭酸ガスが栽培作物5の葉、茎などと接触して拡散しながら希釈されて炭酸ガス濃度が速やかに均一化し、床面の低所での高濃度炭酸ガスの滞留を防止する。したがって、床面2が大面積であり、栽培畝4が多数条あって多数の栽培作物5が平面的に分布していても、これら栽培作物5の全体を均一的に光合成させ、炭酸ガス施与で均一的に光合成促進させることができ、さらに、床面2の低部の高濃度炭酸ガス溜まりが解消されて、日中に炭酸ガスを長時間連続して施与しても安全である。
【0026】
日中に炭酸ガス施与を積極的に行い、夜間には炭酸ガス施与を中止し、この作業を連日繰り返し行う。そして、栽培作物5が生育し、生長点位置が高くなるにしたがって、エアーダクト15の高さを高さ調整手段30で高く調整する。この高さ調整で生育する栽培作物5の生長点と、エアーダクト15の吹出口15cとの相対離隔距離が常に最適値近くに調整されて、栽培作物5のより良好な生育が継続される。
【0027】
なお、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0028】
1 温室
2 床面
4 栽培畝
5 栽培作物
10 空気循環手段
11 吸気口
12 排気口
13 送風機
14 送風量制御手段
15 エアーダクト
15c 吹出口
16 口径調整手段
20 炭酸ガス供給手段
21 ガス配管
30 高さ調整手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温室内の空気を循環させて温室内の栽培作物に向け送風する空気循環手段と、前記空気循環手段の温室内の空気を吸引する吸気口に適宜に濃度制御された炭酸ガスを供与する炭酸ガス供給手段とを具備したことを特徴とする温室栽培の炭酸ガス施与装置。
【請求項2】
前記空気循環手段が、吸引した温室内の空気を温室内の栽培作物の真上から吹き降ろすエアーダクトを有することを特徴とする請求項1に記載の温室栽培の炭酸ガス施与装置。
【請求項3】
前記エアーダクトを前記温室内の栽培作物の真上に配置すると共に、当該エアーダクトの下面に前記栽培作物の生長点に向け下向きに炭酸ガス混合空気を吹き出す吹出口を設けたことを特徴とする請求項2に記載の温室栽培の炭酸ガス施与装置。
【請求項4】
前記空気循環手段が、前記エアーダクトに温室内の空気を吸引して送風する送風機と、この送風機の回転数を制御する送風量制御手段を有し、この送風量制御手段で前記エアーダクト下面の吹出口からの空気吹出速度が前記栽培作物の生育環境に適合する速度になるよう制御することを特徴とする請求項3に記載の温室栽培の炭酸ガス施与装置。
【請求項5】
前記エアーダクトの吹出口と前記栽培作物の根元との相対離隔距離を可変に調整する高さ調整手段を温室内に配備したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の温室栽培の炭酸ガス施与装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−273481(P2009−273481A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198320(P2009−198320)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【分割の表示】特願2004−254772(P2004−254772)の分割
【原出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】