説明

温室栽培システム

【課題】エネルギーの有効利用を図ることができ、低コストで高品質、多収量の栽培を可能とする温室栽培システムを提供する。
【解決手段】ガスタービン1と、ガスタービン1を動力源とする発電機2と、ガスタービン1からの排ガスから熱を回収する排熱回収装置3とを備えた温室栽培システムである。ガスタービン1からの排ガスの窒素酸化物濃度を温室栽培の作物育成を損なわない値にまで低下させる脱硝装置5を、ガスタービン1と排熱回収装置3との間に配置する。作物育成を損なわない濃度にまで低下している濃度の窒素酸化物を含む排ガスを、排熱回収装置3に供給する。排熱回収装置3から熱と炭酸ガスとを、作物育成を行う温室に供給するとともに、発電機2からの電力をこの温室4に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は温室栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
温室内で野菜や果物の作物を土耕栽培、養液栽培する温室栽培(施設栽培、ハウス栽培)は、栽培作物の生育環境(温度、光、湿度、水、風、炭酸ガス)を良好に制御することができることから、園芸栽培にも普及している。温室栽培の場合、日中は温室の側窓や天窓を解放して外気の炭酸ガスを温室内に取り入れて、栽培作物の光合成を促進させることが行われているが、温室内の温度上昇や換気不足などが原因して炭酸ガス不足が生じ、作物の良好な生育が損なわれることがある。また、冬季などで温室を閉め切って栽培作物を光合成させると、温室内の炭酸ガス濃度が大気中の濃度(350ppm程度)より大幅に低下して、栽培作物の生育が抑制されることがある。このようなことから温室栽培においては、温室内に積極的に炭酸ガスを補給して温室内の炭酸ガス濃度を栽培作物の光合成に適した濃度にすることが行われている。
【0003】
このため、温室栽培においては、温室へ、電気、熱、炭酸ガス等が供給される。一般には、電気は系統電源(電力会社が保有する商用の配電線網から供給される電源)にて供給され、熱は重油ボイラー等にて供給される。また、炭酸ガスはLPGまたは灯油焚きの加温機(温風発生器)等で排ガスを多量の空気で希釈し温室内に供給するものが主流である。
【0004】
ところで、エネルギーの有効利用を図るため、近年ではコージェネレーションシステムが使用される(特許文献1)。コージェネレーションシステムとは、一つのエネルギー源から熱と電気等、2つ以上の有効なエネルギー形態を取り出して利用するシステムである。すなわち、前記特許文献1に記載のコージェネレーションシステムは、ガスタービン発電機と排熱回収熱交換器とを組み合わせて、電力と温水等を同時に供給することができるシステムである。
【0005】
このため、エネルギー発生源としてガスタービンコージェネレーション設備を設置して、温室に電気(電力)と熱(温水)を供給した上、炭酸ガス源として排ガスを利用することが考えられる。
【特許文献1】特開2005−69087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、ガスタービンの排ガス中には、窒素酸化物(NOx)が含有されている。このため、窒素酸化物濃度を、大気汚染防止法および関係条例上のNOx規制値をクリアするために低減することになる。しかしながら、NOx規制値をクリアしたとしても、このままでは作物の育成に障害を及ぼす。
【0007】
植物に対するNOxの影響については、大規模温室で栽培されることが多いトマトが、2〜3ppm程度の低濃度でも成長阻害等の症状が現れる。これに対して、ガスタービンの排ガス濃度の低いものでも、排ガス中には15ppm程度のNOxが含まれており、しかも、このガスタービンの排ガスは、大気放出ではなく閉鎖環境への供給である。このため、温室中のNOx濃度が、植物に影響を与える可能性がある。
【0008】
特に、前記したように、従来の脱硝(窒素酸化物濃度を低下させる作業)は、人体への影響を前提とした環境規制をクリアすることを目的に開発されており、排ガスを温室栽培等に利用することを目的とした低濃度脱硝技術を備えたコージェネレーションシステムはない。
【0009】
なお、他の技術分野で使用される脱硝技術も屋内環境下では取扱易さの観点から尿素水を用いたアンモニア還元法が主流である。しかしながら、還元媒体(尿素水)がアンモニアに分解する反応温度として380℃以上のガス温度が必要であり、再生器が装備されたガスタービンの排ガスは260℃程度であり、このような尿素水を還元媒体としては使用できない。
【0010】
ところで、ガスタービンの排ガスを温室に供給すれば、窒素酸化物の植物に対する影響のうち、一酸化窒素による害兆は少なく、ピントビーン、トマトを用いて4および10ppmで接触中に光合成の働きが低下するが、接触を止めると直ちに回復するという報告がある。一般に、二酸化窒素のほうが一酸化窒素の5倍の毒性があると言われている。二酸化窒素については、2.5ppm〜3pmで2時間の接触によりピントビーン、トマトなど感受性の強い植物に害兆が現れる。その症状は、葉肉部における葉脈間や周縁部に白色または黄褐色の不定形の斑点が現れる。また、低濃度長期間接触では高濃度の時のような典型的な急性害兆は現れず、0.5ppm以下では、10〜22日間の連続接触により、トマトやピントビーンの生育が抑制されるが、イネでは0.3ppm程度で55日間の連続接触でも増収する場合もある。(大気汚染植物被害写真集:財団法人日本公衆衛生協会、農業公害ハンドブック、地人書館)しかし、従来の施用方法(LPGor灯油使用の温風発生器)では、燃料費が高くつき、光合成により使用される二酸化炭素を補給する程度(350ppm程度まで補給)かつ短時間施用のため、これらのNOx濃度も問題になっていなかったが、炭酸ガスを積極施用し高品質・多収量を狙うのなら、NOx、エチレン、一酸化炭素、SOxが問題となってくると考えられる。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みて、エネルギーの有効利用を図ることができ、低コストで高品質、多収量の栽培を可能とする温室栽培システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の温室栽培システムは、ガスタービンと、ガスタービンを動力源とする発電機と、ガスタービンからの排ガスから熱を回収する排熱回収装置とを備えた温室栽培システムであって、前記ガスタービンからの排ガスの窒素酸化物の濃度を温室栽培の作物育成を損なわない値にまで低下させる脱硝装置を、ガスタービンと排熱回収装置との間に配置し、作物育成を損なわない濃度にまで低下している濃度の窒素酸化物を含む排ガスを、排熱回収装置に供給して、この排熱回収装置から熱と炭酸ガスとを、前記作物育成を行う温室に供給するとともに、前記発電機からの電力をこの温室に供給するものである。
【0013】
本発明の温室栽培システムでは、作物育成を行う温室には、電気、温水や蒸気での熱、さらには炭酸ガスが供給される。特に、窒素酸化物の濃度を作物育成を損なわない値にまで低下させることができ、しかも温室内の炭酸ガス濃度を栽培作物の光合成に適した濃度とすることができる。
【0014】
脱硝装置が、還元媒体をアンモニア水とするアンモニア還元式脱硝装置であるのが好ましい。すなわち、アンモニアと混合された排ガス(NOx)は、脱硝装置内の還元触媒により、NとHOに分解される。また、希釈したアンモニア水を圧縮空気によって微粒子化して噴出ノズルから排ガス中に噴霧することができる。これによって、温室内にほぼ均一に噴霧することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の温室栽培システムによれば、栽培環境の温度、CO2濃度、日照量などの制御を行うことができ、高品質、多収量の栽培が可能となる。しかも、ガスタービンの排ガスを使用することによって、植物に有害であるエチレンや作業者に影響あるCO等を除去する系統を設ける必要がなく、装置全体のコンパクト化を図ることができるとともに、コスト低減が可能となる。
【0016】
また、脱硝装置が、還元媒体をアンモニア水とするアンモニア還元式脱硝装置であれば、低温域(例えば170℃)から高温域(例えば500℃)において、高い脱硝率を得ることができるので、260℃程度のガスタービンの排ガスに対して高い脱硝率を発揮することができる。しかも設備費及びランニングコストの点においても有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る温室栽培システムの実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。
【0018】
図1に本発明に係る温室栽培システムの全体構成図を示す。この温室栽培システムは、コージェネレーションシステムの排気ガス中に含まれる二酸化炭素(炭酸ガス)を利用するトリジェネレーションシステムである。
【0019】
温室栽培システムは、ガスタービン1と、ガスタービン1を動力源とする発電機2と、ガスタービン1からの排ガスから熱を回収する排熱回収装置3とを備え、温室4に電力と熱(温水)と炭酸ガス(二酸化炭素)とを供給するものである。この場合、脱硝装置5を、ガスタービン1と排熱回収装置3との間に配置している。
【0020】
ガスタービン1は、燃焼用空気を圧縮する圧縮機6と、この圧縮機6にて加圧された燃焼用空気と燃料とを燃焼させる燃焼器7と、この燃焼器7より排出される燃料ガスを回転エネルギーに変換するタービン8とを備え、発電機2を駆動させて、この発電機2の駆動によって電力を得る。また、このガスタービン1の排ガスを、脱硝装置5を介して排熱回収装置3に供給する。排熱回収装置3は脱硝装置5を通過した排ガスの熱を回収して温水を生成する。
【0021】
脱硝装置5はアンモニア還元式脱硝装置であって、図2に示すように、アンモニア水を貯めているタンク10と、脱硝反応塔11と、ガスタービン1の排ガスダクト12の脱硝装置入口に配置される噴出ノズル13と、圧縮空気を供給するコンプレッサ(圧縮機)14と、タンク10内のアンモニア水を噴出ノズル13に送るポンプ(パルスポンプ)15等を備える。
【0022】
アンモニア水としては精製水で10%に希釈したものを使用し、また、噴出ノズル13としては、噴射孔の孔径(直径)を例えば1.0mm程度とする。この際、噴出ノズル13の噴射孔からの噴射は制御手段9にて制御される。すなわち、排ガス温度が所定設定値(例えば170℃)を超えた時点で、排ガス(ガスタービン1から排ガスダクト12を介して脱硝反応塔11に供給されている排ガス)に対して、アンモニア水(コンプレッサ14から供給される圧縮空気にて微粒子化された還元媒体であるアンモニア水)を、噴出ノズル13より噴射(噴霧)する。ここで、精製水とは、日本薬局方に定められた水質基準に適合する水であって、常水(水道水)を蒸留・イオン交換・超濾過(逆浸透法/限界濾過)のいずれか、あるいはこれらを組み合わせた方法で処理した水である。
【0023】
すなわち、制御手段9は、温度検出器16(サーミスタ等)と、この温度検出器16にて検出された温度が設定値(この場合、170℃)を超えたとき、コンプレッサ14から圧縮空気を供給するように運転信号を発信する信号発生器17等を備える。
【0024】
また、タンク10の蓋部材20は、図3に示すように、一対の貫孔18,18を有し、さらにベント管(通気管)19が設けられている。ベント管19は、蓋部材20から立ち上がる倒立Jの字状の管本体19aと、この管本体19aの下方に開口した開口部に設けられるフランジ部19bとからなり、内部に懸濁物侵入防止のためのフィータが配置されている。なお、蓋部材20の外周側には周方向に沿って所定ピッチで取付孔40が設けられている。このため、アンモニア水が収容される図示省略のタンク本体(有底円筒体)の上方開口部をこの蓋部材20にて塞いだ状態で、取付孔40を介してボルト部材をタンク本体に螺着することによって、蓋部材20をタンク本体に取り付けることができる。
【0025】
タンク10へのアンモニア水供給は図4に示すような補給用タンク21から行う。すなわち、補給用タンク21には、一対のコック22a,22bが設けられ、一方(下方側)のコック22aには、アンモニア水供給用ホース23が接続され、他方(上方側)のコック22bには、エア用ホース24が接続されている。なお、この補給用タンク21としては、市販のポリタンク(ポリエチレン製タンク)を使用することができる。
【0026】
両コック22a、22bを開状態とすることによって、アンモニア水供給用ホース23を介して補給用タンク21内の補給用タンク21のアンモニア水がタンク10へ供給される。この際、供給されるアンモニア水に対応する分(量)のエアがエア用ホース24を介して補給用タンク21に入ることになる。また、アンモニア水供給用ホース23及びエア用ホース24にはそれぞれカップラー(導管接続)25、25が介設され、アンモニア水補給時の懸濁物の侵入を防止している。なお、タンク10の蓋部材20の一方の貫孔18aには、継手(竹の子継手)29を介して、アンモニア水供給用ホース23が接続され、一方の貫孔18bには、継手(竹の子継手)29を介して、エア用ホース24が接続されている。
【0027】
また、噴出ノズル13は噴射孔の孔径が小さいので、閉塞するおそれがある。このため、図5に示すように、アンモニア水供給路26にパージエア供給路27が接続され、エアパージを可能としている。すなわち、エア供給路28から前記パージエア供給路27を分岐し、このパージエア供給路27をアンモニア水供給路26に接続する。この場合、アンモニア水供給路26には開閉弁30が介装され、パージエア供給路27には開閉弁31と逆止弁32が介装され、エア供給路28には逆止弁33が介装される。
【0028】
パージエア供給路27から噴出ノズル13へのパージエアの供給は、例えば、所定時間(1時間)毎に1回、10秒程度行う。すなわち、アンモニア水をノズル13に供給する場合は、開閉弁31を閉状態として、開閉弁30を開状態とする。これによって、パージエア供給路27から噴射ノズル13にパージエアが供給されず、アンモニア水供給路26からアンモニア水及びエア供給路28からエアが噴射ノズル13に供給される。また、エアパージ供給時には、開閉弁30を閉状態として、開閉弁31を開状態とする。これによって、アンモニア水供給路26からの噴射ノズル13へのアンモニア水の供給が停止され、パージエア供給路27からのエアが噴射ノズル13に供給される。なお、タービン1の駆動が停止している際には、排ガスダクト12内の排ガスの温度(前記温度センサ16にて検出した温度)が例えば100℃以下となるまで、パージエアの供給を連続して行うのが好ましい。
【0029】
図1と図2に示すように、脱硝反応塔11と排熱回収装置3とがガス配管35を介して接続され、排熱回収装置3と温室4とが炭酸ガス供給配管36で接続されている。また、排熱回収装置3と温室4とは温水往き配管37と温水戻り配管38とで接続されている。なお、発電機2にて発電された電力はケーブル34を介して温室4に供給される。
【0030】
排熱回収装置3は熱交換器を備え、この熱交換器にて排ガスの熱と、この排熱回収装置3の水との熱交換を行い、温水を生成するものである。そして、この生成された温水が温水往き配管37を介して温室4に供給される。なお、温室4において熱供給に使用されて低温となった温水(低温水)が温水戻り配管38を介して排熱回収装置3に戻って、再度排ガスにて暖められる。
【0031】
次にこの温室栽培システムにて温室4に電気、熱、炭酸ガスを供給する工程を説明する。ガスタービン1を駆動することによって、発電機2を駆動させて電力を得て、この電力を温室に供給する。また、ガスタービン1の排ガスは脱硝反応塔11に供給される。この脱硝反応塔11では、アンモニアを還元剤とする選択還元触媒法(SCR)に脱硝がおこなわれる。なお、この脱硝触媒には、酸化チタンにバナジウムもしくはタングステン単体を含むもの、あるいは両者を含むものを入れたものが使用される。
【0032】
この場合、タンク10内のアンモニア水(精製水希釈10%)を、排ガス温度が一定温度(例えば、170℃)となったときに、ポンプ15にてノズル13側に送出し、また、コンプレッサ14から圧縮空気をノズル13側に送出して、ノズル13から、圧縮空気によって微粒子化した排ガスを脱硝反応塔11に噴射する。
【0033】
アンモニアと混合された排ガス(NOx)は、脱硝反応塔11内の還元触媒により、次の化1の反応式でわかるように、NとHOに分解される。この際、アンモニアと排ガス(NOx)との比は1:1である。
【0034】
【化1】

【0035】
これによって、作物育成を損なわない濃度にまで低下している濃度の窒素酸化物を含む排ガスの炭酸ガスが、排熱回収装置3から炭酸ガス供給配管36を介して温室4に供給される。また、排熱回収装置3にて生成された温水が温水往き配管37を介して温室4に供給され、温室4において熱供給に使用されて低温となった温水(低温水)が温水戻り配管38を介して排熱回収装置3に戻って、再度排ガスにて暖められる。すなわち、排熱回収装置3と、脱硝装置5との間に温水循環路が形成され、排熱回収装置3にて暖められた温水が温室4に供給され、温室4で低温となった温水が排熱回収装置3に戻ることになる。
【0036】
本発明では、作物育成を行う温室には、電気、温水や蒸気での熱、さらには炭酸ガスが供給される。このため、栽培環境の温度、CO2濃度、日照量などの制御を行うことができ、高品質、多収量の栽培が可能となる。特に、温室内の炭酸ガス濃度を栽培作物の光合成に適した濃度とすることができ、温室内の作物の安定した栽培が可能となる。
【0037】
また、脱硝装置が、還元媒体をアンモニア水とするアンモニア還元式脱硝装置であるので、低温域(例えば170℃)から高温域(例えば500℃)において、高い脱硝率を得ることができる。このため、260℃程度のガスタービン1の排ガスに対して高い脱硝率を発揮することができる。しかも、設備費及びランニングコストの点においても有利である。
【0038】
また、タンク13へのアンモニア水の供給は、市販のポリタンク(ポリエチレン製タンク)(補給タンク)から簡単に供給することができ、タンク13に安定してアンモニア水を供給することができる。しかも、タンク13の蓋部材20のベント管19等にはフィールタが配置されており、アンモニア水に懸濁物が混入するのを有効に防止できる。排ガスへのアンモニア水の噴射を安定して行うことができる。
【0039】
ところで、このような温室栽培システムにおいて、ガスエンジンで発電機を駆動して発電し、電力を供給すると同時に、排ガスの排熱を蒸気、温水の形態等で回収し、冷暖房、給湯などに利用するガスエンジンシステムを使用することができる。しかしながら、ガスエンジンによる炭酸ガスの供給では、排ガス中にNOxの他に植物に有害なエチレン、また作業者に影響があると考えられる高濃度COが含まれており、密閉された温室に供給する場合に、植物および作業者に影響が出る可能性がある。除去するには、NOxの除去系統に、エチレン、COを除去する系統が必要であり、装置が複雑かつコスト高となる。
【0040】
これに対して、本発明では、ガスタービン1の排ガスを使用することによって、植物に有害であるエチレンや作業者に影響あるCO等を除去する系統を設ける必要がなく、装置全体のコンパクト化を図ることができるとともに、コスト低減が可能となる。
【0041】
なお、マイクロガスタービン(小型ガスタービンであって、500kWくらい程度のもの)を使用する場合、温室内のCO2濃度を最適濃度(1000ppm〜1500ppm)とするためには、1ha規模の温室で、50kW級のマイクロガスタービン1台程度必要である。
【0042】
床面積1ha、軒高5mの温室に、MGT(マイクロガスタービン)50kW1台の排ガスを施用した場合のCO2濃度は次の表1に示すようになる。また、この排ガスを脱硝せずに温室に施用すれば、NOxの濃度は次の表2のようになる。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
5時間〜6時間の施用で2ppm以上となり、害兆が現れるおそれがあり、長時間の炭酸ガス施用が難しくなる。濃度が、0.5ppmでも長期間接触により、育成の抑制等が考えられるため、1時間程度施用すると0.5ppmも上回るため、長時間の施用は問題がある。
【0046】
このため、排ガスの炭酸ガスを利用する場合、低濃度の脱硝技術の適用が必要である。しかしながら、再生器を備え付けているガスタービンにおいては、排ガス温度は比較的低く、NOx濃度は比較的低濃度であるため、従来の技術を適用するためには下記の問題があった。
【0047】
固定発生源のNOxの低減技術として次の表3のように燃焼改善、乾式脱硝法、湿式脱硝法がある。燃焼改善については、NOx低減率が比較的低い要求の場合(環境規制値をクリアする程度)に用いられ、温室内作物に障害を与えない濃度まで低減するのは難しい。また、ガスタービンの改造や開発費等のコストが大きく嵩むことが考えられるため、この方法の選択は不可能であった。なお、表3において、◎は優れていることを示し、○は良であることを示し、△はやや劣るを示し、×は劣るを示している。
【0048】
【表3】

【0049】
また、湿式脱硝方法は高価な酸化剤を必要とする上に、廃液に窒素酸化物が多く入り、その処理が複雑となるため、この方法の選択も困難であった。乾式脱硝法として、アンモニア接触還元法、無触媒アンモニア還元法、電子線照射法、活性炭吸着法がある。
【0050】
無触媒アンモニア還元法は脱硝率が低くリークアンモニアが多く、電子線照射法と活性炭吸着法は、ランニングコスト、設備費が高額となり汎用性を考慮すれば選択は難しい。アンモニア接触還元法は、触媒とアンモニアを用いて容易に高い脱硝率が得られかつ経済的にも見合う条件が揃っているが、今回の低濃度NOxの脱硝と言う点では例が無く、後述のとおり適用性に関し問題があり検証が必要であった。なお、他にも排ガス中の未燃HCを利用する脱硝方法やCOによる脱硝方法があるが、ガスタービンにおいては燃焼温度が高いため、未燃HCは発生しないため使用不可能であり、COによる脱硝方法についてもガスタービンでは排ガス中のO2の濃度が高すぎる(理論空気燃焼に対して16%)および、COの発生量も少ないため、適用が不可能である。
【0051】
また、NH3を使用したアンモニア還元方式が従来から固定発生源では採用されており、NH3−SCR(選択還元触媒:酸化チタンにバナジウムもしくはタングステン単体を含むものあるいは両者を含むものを入れたもの)では、反応温度は170℃〜350℃の温度域で使用可能な触媒があり280℃程度のタービンの排ガスにも適用可能である。(280℃〜420℃、380℃〜500℃程度に対応する触媒の種類もある)
【0052】
これに対して、本発明では、使用燃料をS分のない天然ガスを想定しており、触媒の被毒物質である硫黄分(S分)が発生しないため、適用温度が170℃程度の低温から脱硝可能である。(C重油等では通常320℃以上が脱硝温度の適用範囲)
【0053】
また、従来では、一般に還元媒体においては取扱が容易でランニングコストの安い尿素水が良く使用されるが、所期の脱硝性能を維持するためには排ガス温度を上げ380℃(尿素使用下限温度)〜420℃(触媒上限、これ以上の温度に適用可能なものは脱硝効率が劣る。)の使用領域に制御する必要があり、この使用領域内(40℃)に出力変化および吸気温度の季節変化分(70℃程度)を、制御するのは困難であった。また、運用上380℃以下になった場合は、尿素がアンモニアと二酸化炭素に分解せず還元剤として機能しないだけでなく、シアヌル酸、ビュレットといった副生成物となり、触媒表面に白色結晶として付着し閉塞させ、脱硝後の排熱利用機器(排熱回収型冷温水機、排熱ボイラー等)やケーシングの腐食といったトラブルが発生する可能性がある。また、再生器前の高温で使用する場合は、ガスタービンの大幅な改造が必要であり、高温領域500℃以上では触媒の劣化が早くなり、その際、耐熱性の高い触媒に変更すると脱硝効率が低下する。(75%程度)一方、当該温度域(170℃〜300℃)では、還元媒体としてのアンモニアが有効であるが、アンモニアガスや高濃度のアンモニア水は取扱資格を保持した管理者が必要であり、アンモニアガスの場合消防署等への届けでも必要となる。
【0054】
しかも、ガスタービン排ガスのNOx濃度が低濃度であるため、還元媒体であるNH3水の注入量(25%アンモニア水で、0.03リットル/h)が大変少なく、送出する際のポンプの制御が困難である。また、吹出が不均一である場合、脱硝効率が落ちる可能性がある。
【0055】
なお、NH3−SCR(選択還元触媒:酸化チタンにバナジウムもしくはタングステン単体を含むものあるいは両者を含むものを入れたもの)では、反応温度は170℃の温度域から使用が可能であり280℃程度のタービンの排ガスにも適用可能であるため本発明に適用した。
【0056】
また、問題となる還元媒体においては、尿素の使用領域が380℃以上であり、再熱器後のガスタービン排ガス温度では使用は不可能であり、このため、本発明では、ガスタービン排ガス温度(280℃程度)でも、還元媒体として機能するアンモニアを使用した。その際、アンモニアガスを使用した場合は、高圧ガスとなるため圧力が高く減圧して使用するため、アンモニア水に比較して取扱が難しくなる。また、液化アンモニアボンベは自然に気化する量がボンベ内の残液量により変化するので制御性に問題がある。さらに、残量の確認は圧力の変化を捉えるしか出来ない。
【0057】
このため、本発明では、取扱易いようにアンモニア水の濃度を10%として、ポンプによる送出量を増加させるようにしたものである。具体的には、少量のアンモニア水をパルスポンプ15にて送出し、排ガス配管内に設置したノズル13(噴出孔1.0mmΦ)よりコンプレッサ14から送られる圧縮空気により微粒子化し排ガス中に噴出するようにした。これによって、消防署等への届けも不要となり、しかも、アンモニア水を送出する際のポンプの制御を可能とし、脱硝効率の向上を図ることができる。
【0058】
また、ノズル内、ノズルチップが高温環境にさらされるため、わずかな懸濁物およびアンモニア水中のカルシウム等でノズルが閉塞するおそれがある。このため、本発明では、パージエア供給路27から噴出ノズル13へのパージエアの供給を行って、ノズルが閉塞するのを防止している。これによって、アンモニア水の供給が安定して行うことができ、脱硝を効率よく行うことができる。
【0059】
なお、農業へのソリューションを目的とするため、取扱が容易かつ安全で、劇物、毒物等の資格が不要なものが望ましい。上記脱硝方法によるアンモニアガスや高濃度のアンモニア水では、取扱上資格が必要であり温室等での仕様を念頭に置くと体制上問題がある。また、資格が不要な尿素水もMGT排ガス270℃程度では、反応が十分でなく、再熱器前の高温で脱硝使用とすると大幅なMGT(マイクロガスタービン)パッケージの改造が必要である。
【0060】
また、植物の栽培環境において、アンモニアも悪影響を及ぼすことが考えられる。アンモニアは、数ppm程度で、作物の気孔から体内に入って細胞の酸素を奪うため、被害が急激で被害葉は黒ずんで萎凋するとされている。よって、脱硝出口における残留アンモニア濃度もNOxも同時に限りなくゼロにすることが必要である。
【0061】
このため、本発明では、トリジェネシステムにおけるエネルギー源、炭酸ガス発生源をガスタービンとし、使用燃料を天然ガスとした。これによって、SOxの発生が防げ、前記したようにガスエンジン等で炭酸ガス施用を行った際問題となるエチレンや一酸化炭素の発生が防げ、当該有毒物質に対する除去装置の設置が不要として、装置の大型化を防止した。
【0062】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、脱硝装置5でのアンモニア水の濃度、送出量等は、作物育成を損なわない濃度にまで窒素酸化物の濃度を低下できる範囲で任意に変更できる。
【実施例】
【0063】
次に、脱硝装置の効果についての実施例を示す。脱硝装置の入口のNOx濃度、排ガス量による温室NOx濃度の想定の結果を次の表4に示す。この場合、脱硝装置の入口でのガス量は1400m/hであり、NOx濃度(16%換算)で17ppmである。
【0064】
【表4】

【0065】
脱硝後のNOx濃度、排ガス量による温室NOx濃度の想定の結果を次の表5に示す。この場合、脱硝装置の出口でのガス量は1400m/hであり、NOx濃度(act)で0.2ppmである。
【0066】
【表5】

【0067】
温室内濃度は、ほとんど0ppmに近く、大気中の濃度と比較しても遜色は無いと考えられる。また、NOxの環境規制値の0.04−0.06ppmを下回っている。
【0068】
一酸化炭素の濃度、および温室内CO濃度を次の表6に示す。この場合、脱硝装置の出口でのガス量は1360m/hであり、CO濃度が13ppmである。一酸化炭素の濃度は、環境規制値の10ppmを大幅に下回るため、作業環境には影響を与えないと判断できる。
【0069】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施形態を示す温室栽培システムの簡略全体図である。
【図2】前記温室栽培システムの脱硝装置の簡略ブロック図である。
【図3】前記温室栽培システムの脱硝装置のタンクを示し、(a)は蓋部材の平面図であり、(b)は蓋部材の側面図である。
【図4】前記温室栽培システムの脱硝装置の補給用タンクの簡略斜視図である。
【図5】温室栽培システムの脱硝装置のアンモニア水供給回路を示す簡略図である。
【符号の説明】
【0071】
1 ガスタービン
2 発電機
3 排熱回収装置
4 温室
5 脱硝装置
13 噴出ノズル
38 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンと、ガスタービンを動力源とする発電機と、ガスタービンの排ガスから熱を回収する排熱回収装置とを備えた温室栽培システムであって、
前記ガスタービンの排ガスの窒素酸化物濃度を温室栽培の作物育成を損なわない値にまで低下させる脱硝装置を、ガスタービンと排熱回収装置との間に配置し、作物育成を損なわない濃度にまで低下している濃度の窒素酸化物を含む排ガスを、排熱回収装置に供給して、この排熱回収装置から熱と炭酸ガスとを、前記作物育成を行う温室に供給するとともに、前記発電機からの電力をこの温室に供給することを特徴とする温室栽培システム。
【請求項2】
前記脱硝装置が、還元媒体をアンモニア水とするアンモニア還元式脱硝装置であることを特徴とする請求項1の温室栽培システム。
【請求項3】
前記脱硝装置は、希釈したアンモニア水を圧縮空気によって微粒子化して噴出ノズルから排ガス中に噴射することを特徴とする請求項2の温室栽培システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−99569(P2008−99569A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282964(P2006−282964)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(599019269)株式会社トヨタタービンアンドシステム (7)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】