説明

温度センサ装置および誘導加熱調理器

【課題】測定対象物との間に波長毎に分光透過率の異なる部材が介在していても正確に温度を測定可能な温度センサ装置およびこれを備えた誘導加熱調理器を提供すること。
【解決手段】トッププレート2を通して被加熱物Nからの赤外線を受光する第1のセンサ部7Aと、被加熱物からの赤外線を除いてトッププレートからの赤外線を受光する第2のセンサ部7Bと、これらセンサ部に接続された演算部C1とを備え、演算部が、トッププレートの分光透過率と被加熱物の分光放射輝度とから予め求めておいたトッププレートを通して被加熱物からの輻射エネルギー量の総和を記憶値として記憶しており、トッププレートからの輻射エネルギー量の総和を補償値とし、トッププレートを通して被加熱物からの輻射エネルギー量の総和を実測値として算出し、実測値と補償値との差分に相当する記憶値から被加熱物の温度を特定する機能を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物からの赤外線を検知して該測定対象物の温度を測定する温度センサ装置と、これを備え、トッププレート上の鍋等の被加熱物を電磁誘導加熱(IH)で加熱すると共に鍋底温度を検出可能な誘導加熱調理器とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トッププレート上の鍋等の被加熱物を電磁誘導加熱で加熱すると共に鍋底温度を検出可能な誘導加熱調理器として、例えば、特許文献1には、被加熱物を加熱する加熱コイルと、この加熱コイルの上部で被加熱物を載置する天板(トッププレート)と、この天板下面に配置され被加熱物から放射される赤外線を検出する赤外線検出手段と、この赤外線検出手段の出力から被加熱物温度を検出する第一の温度検出手段(PINフォトダイオード)と、天板下面に配置され天板の温度を検出する第二の温度検出手段(サーミスタ)と、第一、第二の温度検出手段の出力に応じて加熱コイルに供給する電力を制御する制御手段とを備え、第一の温度検出手段は、赤外線検出手段の出力を第二の温度検出手段の出力に応じて減算する出力減算手段と、この出力減算手段の出力を増幅する増幅手段とを有し、この増幅手段の出力に応じて制御手段は加熱コイルへの加熱出力を制御する誘導加熱調理器が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−40778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、誘導加熱調理器などで使われるトッププレートは、分光透過率が波長毎に異なるため、トッププレート越しに吸収した測定対象物の輻射エネルギーについて、ステファン・ボルツマンの法則が成り立たない。そのため、測定対象物の輻射エネルギーからステファン・ボルツマンの法則に基づいて測定対象物の温度を測定する半導体受光素子(PINフォトダイオード等)や赤外線センサのような非接触温度センサに関して正確な温度測定が困難であるという問題があった。また、この問題を解決するために、上記特許文献1に記載の技術のように、トッププレートに直接配置したサーミスタ等の接触式センサとPINフォトダイオードの非接触式センサとの2種類のセンサを併用する方法もあるが、異なる種類のセンサを用意しなければならないと共にPINフォトダイオードの非接触式センサを用いているために、高コストとなってしまう不都合があった。
【0005】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、測定対象物との間に波長毎に分光透過率の異なる部材が介在していても正確に温度を測定可能な温度センサ装置およびこれを備えた誘導加熱調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明の温度センサ装置は、測定対象物との間に仕切り部材が配されている状態で、前記仕切り部材を通して前記測定対象物から放射された赤外線を受光し電気特性が変化する第1のセンサ部と、前記測定対象物から放射された赤外線を除いて前記仕切り部材から放射された赤外線を受光し電気特性が変化する第2のセンサ部と、前記第1のセンサ部と前記第2のセンサ部とに電気的に接続された演算部とを備え、該演算部が、前記仕切り部材の分光透過率と前記測定対象物の一定の温度範囲の分光放射輝度とから予め求めておいた前記仕切り部材を通して前記測定対象物から放射される前記一定の温度範囲の各温度における全波長の輻射エネルギー量の総和を記憶値として記憶しており、前記第2のセンサ部の電気特性の変化から前記仕切り部材から放射される全波長の輻射エネルギー量の総和を補償値として算出すると共に、前記第1のセンサ部の電気特性の変化から前記仕切り部材を通して前記測定対象物から放射される全波長の輻射エネルギー量の総和を実測値として算出し、前記実測値と前記補償値との差分に相当する前記記憶値から前記測定対象物の温度を特定する機能を有していることを特徴とする。
【0007】
この温度センサ装置では、演算部が、実測値(仕切り部材を通して測定対象物から放射される全波長の輻射エネルギー量の総和)と補償値(仕切り部材から放射される全波長の輻射エネルギー量の総和)との差分に相当する記憶値(予め求めておいた仕切り部材を通して測定対象物から放射される一定の温度範囲の各温度における全波長の輻射エネルギー量の総和)から測定対象物の温度を特定する機能を有しているので、実測値から補償値を除いた実質的な測定対象物からの輻射エネルギー量と上記記憶値とを比較することで、仕切り部材越しの測定対象物の温度を正確に推定することができる。このように、センサ部と測定対象物との間に介在する仕切り部材の分光透過率と各温度における測定対象物の分光放射輝度とから、各温度における輻射エネルギー量を予め把握しておき、これを記憶した演算部が、第1のセンサ部と第2のセンサ部とによる実測輻射エネルギー量から測定対象物の温度を正確に算出することができる。
【0008】
また、本発明の温度センサ装置は、前記第1のセンサ部および前記第2のセンサ部が、絶縁性フィルムと、該絶縁性フィルムの一方の面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子及び第2の感熱素子と、前記絶縁性フィルムの一方の面に形成され前記第1の感熱素子に接続された導電性の第1の配線膜及び前記第2の感熱素子に接続された導電性の第2の配線膜と、前記第2の感熱素子に対向して前記絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線反射膜と、を備えていることを特徴とする。
すなわち、この温度センサ装置では、第1のセンサ部および第2のセンサ部が、第2の感熱素子に対向して絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線反射膜を備えているので、第1の感熱素子は赤外線が照射されて赤外線吸収した絶縁性フィルムの部分的な温度を測定するのに対し、第2の感熱素子は赤外線反射膜によって赤外線が反射されて赤外線吸収が大幅に抑制された絶縁性フィルムの部分的な温度を測定する。したがって、第1の感熱素子に対して赤外線の影響を抑制して高いリファレンスが得られる赤外線反射膜下の第2の感熱素子と、薄く熱伝導性の低い絶縁性フィルムと、によって、第1の感熱素子と第2の感熱素子との良好な温度差分を得ることができる。
【0009】
また、本発明の温度センサ装置は、前記第1のセンサ部および前記第2のセンサ部が、サーミスタ素子であることを特徴とする。
すなわち、この温度センサ装置では、第1のセンサ部および第2のセンサ部が、サーミスタ素子であるので、フォトダイオードの赤外線センサに比べて、高温での特性劣化が少なく、高い耐熱性を有しており、高温のトッププレート等の仕切り部材に近接させて設置することが可能になる。また、センサ部がサーミスタ素子の一種類で構成されるため、PINフォトダイオードの非接触式センサとサーミスタの接触式センサとの2種類を併用する必要が無く、部材コストを低減することができる。さらに、トッププレート等の仕切り部材に近接させて設置可能になるため、センサ部における赤外線の視界内に他のものが入り難くなり、外部からの赤外線による干渉を抑制することができるため、より正確な温度測定が可能になる。なお、センサ部を仕切り部材から遠く離して使用する場合、焦点を絞るレンズ等の光学機構が必要になるが、本発明の場合は、仕切り部材への近接設置が可能であるため、前記光学機構が不要になり、部品コストを低減することができる。
【0010】
本発明の誘導加熱調理器は、被加熱物を載置するトッププレートと、該トッププレートの下部に設置され前記被加熱物を電磁誘導加熱により加熱する電磁コイルとを備えた誘導加熱調理器であって、上記本発明の温度センサ装置を備え、前記被加熱物が前記測定対象物であると共に、前記トッププレートが前記仕切り部材であり、前記トッププレートの下方に該トッププレートから離間して前記第1のセンサ部および前記第2のセンサ部が設置されていることを特徴とする。
すなわち、この誘導加熱調理器では、上記本発明の温度センサ装置を備え、トッププレートの下方に該トッププレートから離間して第1のセンサ部および第2のセンサ部が設置されているので、分光透過率が波長毎に異なるトッププレートであってもトッププレート越しに鍋等の被加熱物の温度を高精度に測定することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る温度センサ装置によれば、演算部が、上記実測値と上記補償値との差分に相当する上記記憶値から測定対象物の温度を特定する機能を有しているので、実測値から補償値を除いた実質的な測定対象物からの輻射エネルギー量と仕切り部材の分光透過率および分光放射輝度を考慮した上記記憶値とを比較することで、仕切り部材越しの測定対象物の温度を正確に推定することができる。
したがって、この赤外線センサを備えた誘導加熱調理器によれば、トッププレート越しに鍋等の被加熱物の温度を高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る誘導加熱調理器の一実施形態を示す簡略的な断面図である。
【図2】本実施形態において、センサ部を示す斜視図である。
【図3】本実施形態において、筐体を外した状態のセンサ部を示す斜視図である。
【図4】図2のA−A線矢視断面図である。
【図5】本実施形態において、トッププレート越しに測定対象物の温度を測定する方法を示すフローチャートである。
【図6】本実施形態において、トッププレートの分光透過率を示すグラフである。
【図7】本実施形態において、測定対象物の波長に対する分光放射輝度を示すグラフである。
【図8】本実施形態において、トッププレート越しの測定対象物の波長に対する分光放射輝度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る温度センサ装置およびこれを備えた誘導加熱調理器の一実施形態を、図1から図8を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0014】
本実施形態の誘導加熱調理器1は、図1に示すように、被加熱物(測定対象物)Nを載置するトッププレート(仕切り部材)2と、該トッププレート2の下部に設置され被加熱物Nを電磁誘導加熱により加熱する電磁コイル3とを備えた誘導加熱調理器であって、トッププレート2越しに被加熱物Nの温度を測定する温度センサ装置10を備えている。
【0015】
上記温度センサ装置10は、被加熱物Nとの間にトッププレート2が配されている状態で、トッププレート2を通して被加熱物Nから放射された赤外線を受光し電気特性が変化する第1のセンサ部7Aと、被加熱物Nから放射された赤外線を除いてトッププレート2から放射された赤外線を受光し電気特性が変化する第2のセンサ部7Bと、第1のセンサ部7Aと第2のセンサ部7Bとに電気的に接続された演算部C1とを備えている。
【0016】
上記誘導加熱調理器1は、トッププレート2の下方に該トッププレート2から離間して設置された上記第1のセンサ部7Aおよび上記第2のセンサ部7Bを有した温度センサ本体4と、トッププレート2の下面を覆うと共に一部が赤外線透過窓5aとして開けられた赤外線遮蔽層5と、電磁コイル3および温度センサ本体4に電気的に接続され上記演算部C1を有する制御部Cと、これらが設置された本体ケース6と、を備えている。
【0017】
上記被加熱物Nは、磁性体(鉄等)または非磁性体(アルミニウム等)で形成された鍋等である。
上記トッププレート2は、結晶化ガラス等で形成されて高い耐熱性を有しており、本体ケース6の上部に取り付けられている。
【0018】
上記電磁コイル3は、トッププレート2の下方かつ本体ケース6内に円環形状または渦巻き形状に配置され、交流電流による電力が供給されると高周波磁界を発生させてトッププレート2上の被加熱物Nを誘導加熱するものである。
上記制御部Cは、電磁コイル3に電力を供給するインバータ電源(図示略)を備え、温度センサ装置10で検出した被加熱物Nの温度に基づいて、電磁コイル3に供給する電力を制御する機能を有している。
【0019】
上記温度センサ本体4は、赤外線透過窓5aの直下に配されて赤外線透過窓5aからの赤外線を検出する上記第1のセンサ部7Aと、赤外線遮蔽層5の直下に配されて赤外線遮蔽層5からの赤外線を検出する上記第2のセンサ部7Bと、を備えている。すなわち、第2のセンサ部7Bは、被加熱物Nから放射される赤外線を除いたトッププレート2からの赤外線を受光するように設置されている。これら第1のセンサ部7Aと第2のセンサ部7Bとは、同一の形状および構造を有するサーミスタボロメータ型温度センサである。
【0020】
また、第2のセンサ部7Bと第1のセンサ部7Aおよび赤外線透過窓5aとの間には、赤外線遮蔽壁8が設置されている。
上記赤外線遮蔽壁8は、例えば赤外線遮蔽効果のあるポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等の耐熱性樹脂で筒状に形成され、上端が赤外線透過窓5aを囲むようにトッププレート2の下面に固定されている。
【0021】
上記赤外線遮蔽層5は、例えばトッププレート2下面に貼り付けられたカーボンブラックを含む結晶化ガラスの吹付材などの赤外線遮蔽シートである。なお、この赤外線遮蔽層5は、赤外線遮蔽シート以外にも赤外線遮蔽効果のある塗料をトッププレート2の下面に塗って形成しても構わない。
上記赤外線透過窓5aは、第1のセンサ部7Aの直上に位置する部分のみ赤外線遮蔽層5に開口部を設けてトッププレート2を露出させて形成したものである。
【0022】
また、赤外線遮蔽壁8の下端には、支持回路板9が固定され、該支持回路板9上に第1のセンサ部7Aおよび第2のセンサ部7Bが設置されている。さらに、赤外線遮蔽壁8の下端は、第1のセンサ部7Aを囲んだ状態で支持回路板9に固定されており、赤外線遮蔽壁8内に入射された赤外線が外部に放射することを防いでいる。このように、赤外線遮蔽壁8によって温度センサ本体4がトッププレート2の下方に設置されている。なお、本実施形態では、温度センサ本体4がトッププレート2の中央部下方に設置されている。また、演算部C1は、図示しない内部配線および支持回路板9を介して第1のセンサ部7Aおよび第2のセンサ部7Bに電気的に接続されている。
【0023】
上記第1のセンサ部7Aおよび第2のセンサ部7Bは、図2から図4に示すように、絶縁性フィルム11と、該絶縁性フィルム11の一方の面(下面)に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子12A及び第2の感熱素子12Bと、絶縁性フィルム11の一方の面に銅箔等でパターン形成され第1の感熱素子12Aに接続された導電性の第1の配線膜13A及び第2の感熱素子12Bに接続された導電性の第2の配線膜13Bと、第1の感熱素子12Aに対向して絶縁性フィルム11の他方の面(上面)に設けられた赤外線吸収膜14と、第2の感熱素子12Bに対向して絶縁性フィルム11の他方の面に設けられた赤外線反射膜15と、絶縁性フィルム11の一方の面に固定されて該絶縁性フィルム11を支持する筐体16と、をそれぞれ備えている。
【0024】
すなわち、上記赤外線吸収膜14は、第1の感熱素子12Aの直上に配されていると共に、上記赤外線反射膜15は、第2の感熱素子3Bの直上に配されている。上記絶縁性フィルム11は、赤外線透過性フィルムで形成されている。なお、本実施形態では、絶縁性フィルム11がポリイミド樹脂シートで形成されている。
【0025】
上記第1の感熱素子12A及び第2の感熱素子12Bは、両端部に端子電極12aが形成されたチップサーミスタ(サーミスタ素子)である。このサーミスタとしては、NTC型、PTC型、CTR型等のサーミスタがあるが、本実施形態では、第1の感熱素子12A及び第2の感熱素子12Bとして、例えばNTC型サーミスタを採用している。このサーミスタは、Mn−Co−Cu系材料、Mn−Co−Fe系材料等のサーミスタ材料で形成されている。なお、これら第1の感熱素子12A及び第2の感熱素子12Bは、各端子電極12aを配線膜13A,13B上に接合させて絶縁性フィルム11に実装されている。
【0026】
上記赤外線吸収膜14は、絶縁性フィルム11よりも高い赤外線吸収率を有する材料で形成され、例えば、カーボンブラック等の赤外線吸収材料を含むフィルムや赤外線吸収性ガラス膜(二酸化珪素を71%含有するホーケー酸ガラス膜など)で形成されている。すなわち、この赤外線吸収膜14によって測定対象物からの輻射による赤外線を吸収する。そして、赤外線を吸収し発熱した赤外線吸収膜14から絶縁性フィルム11を介した熱伝導によって、直下の第1の感熱素子12Aの温度が変化するようになっている。この赤外線吸収膜14は、第1の感熱素子12Aよりも大きなサイズでこれを覆うように形成されている。
【0027】
上記赤外線反射膜15は、絶縁性フィルム11よりも高い赤外線放射率を有する材料で形成され、例えば、鏡面のアルミニウム蒸着膜やアルミニウム箔等で形成されている。この赤外線反射膜15は、第2の感熱素子12Bよりも大きなサイズでこれを覆うように形成されている。
【0028】
上記筐体16は、例えば樹脂製であり、絶縁性フィルム11の熱を必要以上に放熱しないように絶縁性フィルム11よりも熱伝導性の低い材料であることが好ましい。
この筐体16には、第1の感熱素子12A及び第2の感熱素子12Bをそれぞれ個別に収納する第1の収納部16a及び第2の収納部16bが設けられている。これら第1の収納部16a及び第2の収納部16bは、第1の感熱素子12A及び第2の感熱素子12Bの位置にそれぞれ対応して形成された断面矩形状の孔部であり、内部に空気を密封した状態で開口部が絶縁性フィルム11で閉塞されている。なお、第1の収納部16a及び第2の収納部16bの内部には、絶縁性フィルム11よりも熱伝導率の低い発泡樹脂を封入させても構わない。
【0029】
上記演算部C1では、第1のセンサ部7Aおよび第2のセンサ部7Bのそれぞれにおいて、第1の感熱素子12Aと第2の感熱素子12Bとで検出された赤外線の差分(出力の差分)を演算処理し、第2の感熱素子12Bをリファレンスとして第1の感熱素子12Aで検出された輻射エネルギー量(温度)を算出する機能を有している。
【0030】
また、演算部C1は、被加熱物Nからの赤外線を検出した第1のセンサ部7Aの出力と、トッププレート2からの赤外線を検出した第2のセンサ部7Bの出力とを演算処理して差分を求め、干渉成分を除いた被加熱物Nからの赤外線だけを算出し、これに基づいて被加熱物Nの温度(鍋底温度)を求める機能を有している。
【0031】
具体的には、演算部C1は、トッププレート2の分光透過率と被加熱物Nの一定の温度範囲の分光放射輝度とから予め求めておいたトッププレート2を通して被加熱物Nから放射される前記一定の温度範囲の各温度における全波長の輻射エネルギー量の総和を記憶値として記憶部Mに記憶している。また、演算部C1は、第2のセンサ部7Bの電気特性の変化からトッププレート2から放射される全波長の輻射エネルギー量の総和を補償値として算出すると共に、第1のセンサ部7Aの電気特性の変化からトッププレート2を通して被加熱物Nから放射される全波長の輻射エネルギー量の総和を実測値として算出し、前記実測値と前記補償値との差分に相当する前記記憶値から被加熱物Nの温度を特定する機能を有している。
【0032】
次に、上記温度センサ装置10によるトッププレート2越しの被加熱物Nの温度を測定する方法について、図5のフローチャートに基づいて説明する。
【0033】
まず、温度の実測前における演算部C1の設定として、例えば図6に示すように、予めトッププレート2の分光透過率を0.1〜25μmの波長範囲で測定しておく(ステップS1)。次に、図7に示すように、被加熱物Nの一定の温度範囲における各温度(例えば、50〜300℃での0.1℃刻みの各温度)の分光放射輝度を測定しておく(ステップS2)。なお、図7では、例として80℃、100℃、200℃における分光放射輝度を記載している。
【0034】
次に、これらの測定結果から、上記各温度におけるトッププレート2越しの被加熱物Nの分光放射輝度をそれぞれ計算し(ステップS3)、さらにこの計算結果から上記各温度における全波長の輻射エネルギー量の総和をそれぞれ計算する(ステップS4)。そして、この計算結果を記憶部Mの第1記憶領域にデータテーブルとして予め記憶させておく。
【0035】
次に、温度の実測時において、トッププレート2上に被加熱物Nが載置されている状態で、第2のセンサ部7Bにより被加熱物Nから放射される赤外線を除いたトッププレート2からの赤外線を受光し、その出力に基づいて演算部C1がトッププレート2から放射される全波長の輻射エネルギー量の総和を補償値として算出し、その結果を記憶部Mの第2記憶領域に記憶する(ステップS5)。さらに、第1のセンサ部7Aにより被加熱物Nから放射される赤外線をトッププレート2越しに受光し、その出力に基づいて演算部C1がトッププレート2を通して被加熱物Nから放射される全波長の輻射エネルギー量の総和を実測値として算出し、その結果を記憶部Mの第3記憶領域に記憶する(ステップS6)。
【0036】
次に、演算部C1は、第3記憶領域に記憶された実測値と第2記憶領域に記憶された補償値との差分を計算して実質的なトッププレート2越しの被加熱物Nの全波長の輻射エネルギー量の総和を算出する。例えば、図7の分光放射輝度に対応して、例として80℃、100℃、200℃におけるトッププレート2越しの被加熱物Nの分光放射輝度を図8に示す。
そして、演算部C1は、この算出結果と第1記憶領域に記憶された記憶値のデータテーブルとを比較して、対応する記憶値から被加熱物Nの温度を推定する(ステップS7)。
【0037】
上記温度算出方法における演算式を以下に示す。
ここでトッププレート2の通過波長特性(2.5〜100μm)をFsg(λ)、トッププレート2の温度をTsg、黒体(鍋底)の温度をTbb、非接触温度センサである第1のセンサ部7Aと第2のセンサ部7Bとの検出温度差をΔT、検知温度(吸収膜温度)をTdetとする。
このときのプランクの法則は、以下の式となる。
【数1】

また、ステファン・ボルツマンの法則は、以下の式となる。
【数2】

さらに、トッププレート2を通過した放射エネルギーは、以下の式となる。
【数3】

また、トッププレート2からの放射エネルギーは、以下の式となる。
【数4】

これらから以下の関係式が得られる。
【数5】

上記関係式から黒体(鍋底)温度を演算して求めることができる。
【0038】
このように本実施形態の温度センサ装置10は、演算部C1が、実測値(仕切り部材を通して測定対象物から放射される全波長の輻射エネルギー量の総和)と補償値(仕切り部材から放射される全波長の輻射エネルギー量の総和)との差分に相当する記憶値(予め求めておいた仕切り部材を通して測定対象物から放射される一定の温度範囲の各温度における全波長の輻射エネルギー量の総和)から被加熱物Nの温度を特定する機能を有しているので、実測値から補償値を除いた実質的な被加熱物Nからの輻射エネルギー量と上記記憶値とを比較することで、トッププレート2越しの被加熱物Nの温度を正確に推定することができる。このように、センサ部と被加熱物Nとの間に介在するトッププレート2の分光透過率と各温度における分光放射輝度とから、各温度における輻射エネルギー量を予め把握しておき、これを記憶した演算部C1が、第1のセンサ部7Aと第2のセンサ部7Bとによる実測輻射エネルギー量から被加熱物Nの温度を正確に算出することができる。
【0039】
また、第1のセンサ部7Aおよび第2のセンサ部7Bが、第2の感熱素子12Bに対向して絶縁性フィルム11の他方の面に設けられた赤外線反射膜15を備えているので、第1の感熱素子12Aは赤外線が照射されて赤外線吸収した絶縁性フィルム11の部分的な温度を測定するのに対し、第2の感熱素子12Bは赤外線反射膜15によって赤外線が反射されて赤外線吸収が大幅に抑制された絶縁性フィルム11の部分的な温度を測定する。したがって、第1の感熱素子12Aに対して赤外線の影響を抑制して高いリファレンスが得られる赤外線反射膜15下の第2の感熱素子12Bと、薄く熱伝導性の低い絶縁性フィルム11と、によって、第1の感熱素子12Aと第2の感熱素子12Bとの良好な温度差分を得ることができる。
【0040】
さらに、第1のセンサ部7Aおよび第2のセンサ部7Bが、サーミスタ素子であるので、フォトダイオードの赤外線センサに比べて、高温での特性劣化が少なく、高い耐熱性を有しており、高温のトッププレート2に近接させて設置することが可能になる。また、センサ部がサーミスタ素子の一種類で構成されるため、PINフォトダイオードの非接触式センサとサーミスタの接触式センサとの2種類を併用する必要が無く、部材コストを低減することができる。さらに、トッププレート2に近接させて設置可能になるため、センサ部における赤外線の視界内に他のものが入り難くなり、外部からの赤外線による干渉を抑制することができるため、より正確な温度測定が可能になる。なお、センサ部をトッププレート2から遠く離して使用する場合、焦点を絞るレンズ等の光学機構が必要になるが、本実施形態の場合は、トッププレート2への近接設置が可能であるため、前記光学機構が不要になり、部品コストを低減することができる。
【0041】
したがって、本実施形態の誘導加熱調理器1では、上記温度センサ装置10を備え、トッププレート2の下方に該トッププレート2から離間して第1のセンサ部7Aおよび第2のセンサ部7Bが設置されているので、分光透過率が波長毎に異なるトッププレート2であってもトッププレート2越しに鍋等の被加熱物Nの温度を高精度に測定することができる。
【0042】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0043】
例えば、上記実施形態では、チップサーミスタの第1の感熱素子及び第2の感熱素子を採用しているが、薄膜サーミスタで形成された第1の感熱素子及び第2の感熱素子を採用しても構わない。
なお、感熱素子としては、上述したように薄膜サーミスタやチップサーミスタのサーミスタ素子が好ましいが、サーミスタ以外に焦電素子等も採用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…誘導加熱調理器、2…トッププレート、3…電磁コイル、4…温度センサ本体、5…赤外線遮蔽層、5a…赤外線透過窓、7A…第1のセンサ部、7B…第2のセンサ部、8…赤外線遮蔽壁、10…温度センサ装置、11…絶縁性フィルム、12A…第1の感熱素子、12B…第2の感熱素子、13A…第1の配線膜、13B…第2の配線膜、15…赤外線反射膜、C1…演算部、N…被加熱物、M…記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物との間に仕切り部材が配されている状態で、前記仕切り部材を通して前記測定対象物から放射された赤外線を受光し電気特性が変化する第1のセンサ部と、前記測定対象物から放射された赤外線を除いて前記仕切り部材から放射された赤外線を受光し電気特性が変化する第2のセンサ部と、
前記第1のセンサ部と前記第2のセンサ部とに電気的に接続された演算部とを備え、
該演算部が、前記仕切り部材の分光透過率と前記測定対象物の一定の温度範囲の分光放射輝度とから予め求めておいた前記仕切り部材を通して前記測定対象物から放射される前記一定の温度範囲の各温度における全波長の輻射エネルギー量の総和を記憶値として記憶しており、
前記第2のセンサ部の電気特性の変化から前記仕切り部材から放射される全波長の輻射エネルギー量の総和を補償値として算出すると共に、前記第1のセンサ部の電気特性の変化から前記仕切り部材を通して前記測定対象物から放射される全波長の輻射エネルギー量の総和を実測値として算出し、前記実測値と前記補償値との差分に相当する前記記憶値から前記測定対象物の温度を特定する機能を有していることを特徴とする温度センサ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の温度センサ装置において、
前記第1のセンサ部および前記第2のセンサ部が、絶縁性フィルムと、
該絶縁性フィルムの一方の面に互いに離間させて設けられた第1の感熱素子及び第2の感熱素子と、
前記絶縁性フィルムの一方の面に形成され前記第1の感熱素子に接続された導電性の第1の配線膜及び前記第2の感熱素子に接続された導電性の第2の配線膜と、
前記第2の感熱素子に対向して前記絶縁性フィルムの他方の面に設けられた赤外線反射膜と、を備えていることを特徴とする温度センサ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の温度センサ装置において、
前記第1の感熱素子および前記第2の感熱素子が、サーミスタ素子であることを特徴とする温度センサ装置。
【請求項4】
被加熱物を載置するトッププレートと、該トッププレートの下部に設置され前記被加熱物を電磁誘導加熱により加熱する電磁コイルとを備えた誘導加熱調理器であって、
請求項1から3のいずれか一項に記載の温度センサ装置を備え、
前記被加熱物が前記測定対象物であると共に、前記トッププレートが前記仕切り部材であり、
前記トッププレートの下方に該トッププレートから離間して前記第1のセンサ部および前記第2のセンサ部が設置されていることを特徴とする誘導加熱調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−173015(P2012−173015A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32666(P2011−32666)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】