温度センサ
【課題】従来用いられている保護管内に複数の熱電対を有する温度センサでは、温度を測定するための熱電対の劣化を、熱電対が劣化した段階で検知するため、熱電対が劣化し始めた時点で正確な温度測定ができなくなっていた。
【解決手段】本件発明では、保護管内に複数本の熱センサを有する温度センサであって、保護管内に配置された熱センサの先端はいずれも保護管の先端から略等距離に配置され、前記熱センサの内、少なくとも1本は、他の熱センサに比べて劣化の早い劣化検知用熱センサであり、劣化検知用熱センサ以外の熱センサは、温度測定するための温度測定用熱センサである温度センサを提供する。
【解決手段】本件発明では、保護管内に複数本の熱センサを有する温度センサであって、保護管内に配置された熱センサの先端はいずれも保護管の先端から略等距離に配置され、前記熱センサの内、少なくとも1本は、他の熱センサに比べて劣化の早い劣化検知用熱センサであり、劣化検知用熱センサ以外の熱センサは、温度測定するための温度測定用熱センサである温度センサを提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、温度センサの劣化を予め検知する温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に加熱炉など高温雰囲気の温度測定を行う熱電対などの温度センサは、長時間使用することで、熱衝撃や、機械的衝撃、化学反応など様々な要因により損傷を受けて劣化してしまう。しかし、劣化を検知するのは困難であり、定期的に標準の熱電対などの温度センサと比較検定したり、経験的に所定時間使用する毎に定期的に交換する必要があった。
【0003】
熱電対などの温度センサの比較検定には高価な検定装置が必要であり、また熱電対などの温度センサの取り外しや再設置が必要となり、多大な手間や労力が必要となってしまう。熱電対などの温度センサを定期的に交換した場合には、まだ使用可能な温度センサまで交換してしまい、無駄を生じてしまう。
【0004】
そこで、特許文献1では、温度計測対象物の温度を測定するための第一の熱電対と、第一の熱電対に近接し、第一の熱電対に比べて短い第二の熱電対を設け、二つの熱電対からの出力差を比較することで、第一の熱電対の劣化の判断を行っている。
【0005】
これにより、第一の熱電対の劣化が判断可能となり、無駄な熱電対の交換などの手間や労力を省くことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−218107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された熱電対劣化検知装置では、温度計測対象物の温度を測定するための第一の熱電対が第二の熱電対より先に劣化を起こしてしまう。このため、第一の熱電対が劣化を始めた時点で、正確な温度測定ができなくなってしまう恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本件発明では、上記課題に鑑み、以下の温度センサおよび温度計測システムを提供する。第一の発明としては、保護管内に複数本の熱センサを有する温度センサであって、前記熱センサの先端はいずれも保護管の先端から略等距離に配置され、前記熱センサのうち少なくとも1本は、他の熱センサに比べて劣化の早い劣化検知用熱センサであり、劣化検知用熱センサ以外の熱センサのうち少なくとも1本は、温度測定するための温度測定用熱センサである温度センサを提供する。
【0009】
第二の発明としては、劣化検知用熱センサ及び前記温度測定用熱センサは、熱電対であって、劣化検知用熱センサは、温度測定用熱センサに比べ相対的に断面積が小さい第一の発明に記載の温度センサを提供する。
【0010】
第三の発明としては、第一の発明または第二の発明に記載の温度センサを用いた温度計測システムにおいて、温度測定用熱センサから出力される温度情報を取得する第一温度情報取得部と、劣化検知用熱センサから出力される温度情報を取得する第二温度情報取得部と、第一温度情報取得部と前記第二温度情報取得部が取得した温度情報を比較し、劣化検知用熱センサの劣化を判断する比較判断部と、比較判断部の判断結果が、劣化しているという判断であった場合、劣化信号を発信する劣化信号発信部と、からなる温度計測システムを提供する。
【0011】
第四の発明としては、第一の発明または第二の発明に記載の温度センサを用いた温度計測システムにおいて、温度測定用熱センサから出力される温度情報を取得する第一温度情報取得ステップと、劣化検知用熱センサから出力される温度情報を取得する第二温度情報取得ステップと、第一温度情報取得ステップと前記第二温度情報取得ステップにて取得した温度情報を比較し、劣化検知用熱センサの劣化を判断する比較判断ステップと、比較判断ステップでの判断結果が、劣化しているという判断であった場合、劣化信号を発信する劣化信号発信ステップと、からなる温度計測システムの動作方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本件発明の温度センサにより、温度測定用熱センサが劣化する前に、熱センサの劣化の判断が可能となり、温度センサを交換する時点まで、正確な温度測定が可能となる。また、温度センサ内に異なる断面積の熱電対を複数配置することで、温度測定用熱センサの劣化を予見することが可能となり、熱電対の断面積の差を調整することで、温度測定用熱センサの劣化を予見するタイミングを調整することが可能となる。
【0013】
さらに、本件発明の温度計測システムにより、温度測定用熱センサおよび劣化検知用熱センサから出力される温度情報を比較することで劣化検知用熱センサの劣化を判断し、温度測定用熱センサの劣化を予見することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態1の温度センサを説明するための概念図
【図2】実施形態1の温度センサの一例を説明するための概念図
【図3】実施形態1の温度センサの一例を説明するための概念図
【図4】実施形態1の温度センサの一例を説明するための概念図
【図5】実施形態1の温度センサの一例を説明するための概念図
【図6】実施形態1の温度センサと従来の温度センサとの相違点を説明するための概念図
【図7】実施形態2の温度センサを説明するための概念図
【図8】実施形態3の温度計測システムの機能ブロック図
【図9】実施形態3の温度計測システムの劣化判断基準を説明するための概念図
【図10】実施形態3の温度計測システムのハードウエア構成図
【図11】実施形態3の温度計測システムのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本件発明の実施の形態について、添付図面を用いて説明する。なお、本件発明は、これら実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
【0016】
実施形態1は、主に請求項1などに関する。実施形態2は、主に請求項2などに関する。実施形態3は、主に請求項3および請求項4などに関する。
<<実施形態1>>
<実施形態1 概要>
【0017】
本実施形態は、同一保護管内に複数本の熱電対等の熱センサを有する温度センサであって、保護管内に温度測定用熱センサと、温度測定用熱センサに比べて劣化の早い劣化検知用熱センサを有することを特徴とした温度センサである。
【0018】
温度測定用熱センサに比べて劣化の早い劣化検知用熱センサを同一保護管内に配置することで、温度測定用熱センサが劣化する前に、熱センサの劣化の予見が可能となり、温度センサを交換する時点まで、正確な温度測定が可能となる。
<実施形態1 構成>
【0019】
本実施形態の温度センサは、保護管内に複数本の熱センサを有し、熱センサの先端はいずれも保護管の先端から略等距離に配置され、前記熱センサのうち少なくとも1本は、他の熱センサに比べて劣化の早い劣化検知用熱センサであり、劣化検知用熱センサ以外の熱センサのうち少なくとも1本は、温度測定するための温度測定用熱センサである。
【0020】
「温度センサ」は、後述する熱センサを保護管内に有する、温度を測定するためのセンサである。たとえば、熱センサとして熱電対を有する温度センサとしては、シース熱電対やソリッドパック熱電対などである。熱電対以外にも熱センサとして抵抗温度計を有する温度センサであってもよい。
【0021】
「熱センサ」は、前述のよう熱電対や抵抗温度計などである。熱電対としては、R熱電対、S熱電対、B熱電対、Pt・40%Rh-Pt・20%Rh熱電対、Ir-Ir・40%Rh熱電対、タングステン-レニウム熱電対のような貴金属熱電対などや、K熱電対、E熱電対、J熱電対、T熱電対、N熱電対などの卑金属熱電対などである。また、抵抗温度計としては、測温抵抗体として、白金やニッケル、銅、ロジウム・鉄合金、白金・コバルト合金などを用いた抵抗温度計である。
【0022】
ここで、「劣化検知用熱センサ」と「温度測定用熱センサ」について述べる。劣化検知用熱センサおよび温度測定用熱センサは、前述のように、熱電対や抵抗温度計によって構成されている。劣化検知用熱センサおよび温度測定用熱センサの違いは、耐久性の差によって相対的に区別されるものである。したがって、温度測定用熱センサに比べて劣化が早い、つまり、耐久性の低い熱センサが、温度測定用熱センサに対して、劣化検知用熱センサとなる。具体的には、実施形態2に述べるような、熱センサが熱電対である場合には、熱電対の断面積に差を設け、太く耐久性のある熱電対を温度測定用熱センサとし、これに対して、相対的に細く耐久性の低い熱電対を劣化検知用熱センサとするなどである。また、熱センサを抵抗温度計とした場合には、測温抵抗体内部の白金線の太さに差を設けることで、相対的に太い熱センサを温度測定用熱センサとし、これに対して細い熱センサを劣化検知用熱センサといった具合である。
【0023】
図1に本実施形態の温度センサの概念図を示した。図1に示した温度センサでは、保護管(0101a、0101b)内に劣化検知用熱センサ(0102a、0102b)と、温度測定用温度センサ(0103a、0103b)の2本の熱センサを有している場合の一例を示した。図1の(a)に示した温度センサでは、保護管内に劣化検知用熱センサと、温度測定用温度センサの2本の熱センサを有している。特にこの熱センサが熱電対であった場合には、熱センサ同士が接触しないように構成する必要がある。このため、例えば(b)に示したように、保護管内を酸化マグネシウムやシリカのような絶縁材料(0104)によって充填することで、熱センサ同士が接触しないように構成してもよい。
【0024】
また、熱センサは、図2に示すように、熱センサの数を2本に限らずそれ以上配置してもよい、図2の(a)に示した温度センサは、図1の(a)と同じく温度測定用熱センサ(0201a)および劣化検知用熱センサ(0202a)を1本ずつの合計2本としたり、(b)のように、温度測定用熱センサ(0201b)と劣化検知用熱センサ(0202b)ともに2本ずつの合計4本の熱センサからなるように構成してもよい。また温度測定用熱センサと劣化検知用熱センサを必ずしも同数にする必要はなく、(c)のように、温度測定用熱センサ(0201c)を2本、劣化検知用熱センサ(0202c)を1本の合計3本の熱センサからなるように構成してもよいし、(c)とは逆に、(d)のように温度測定用熱センサ(0201d)を1本、劣化検知用熱センサ(0202d)を2本としてもよい。また、(c)のように、複数の温度測定用熱センサを保護管内に配置した構成の場合には、一つの温度測定用熱センサを記録計用の熱センサとし、もう一方の温度測定用熱センサを制御機用の熱センサとするなどしてもよい。
【0025】
図1および図2では、熱センサとして熱電対を主に想定して記載したが、熱センサは熱電対以外でもよい。たとえば、図3の(a)に示したような抵抗温度計などであってもよい。(a)のように、保護管内に複数の抵抗温度計を配置し、少なくとも一つの抵抗温度計を劣化の早い劣化検知用熱センサ(0301a)とし、その他の熱センサは温度測定用の抵抗温度計(0302a)としてもよい。また、同じ抵抗温度計どうしを劣化検知用、温度測定用の熱センサとして必ずしも用いる必要はなく、図3の(b)に示したように、熱電対を温度測定用熱センサ(0303b)とし、抵抗温度計を劣化検知用熱センサ(0301b)としてもよい。
【0026】
図4に本実施形態の温度センサの断面図概念を示した。図4の断面図概念は、(a)に示したように、温度センサの熱センサの先端位置(図中A−A')の断面図概念である。図4は(b)以下すべて同様に、熱センサの先端位置の断面図概念である。図中黒で示したのは、温度測定用熱センサの断面(0401)で、グレーで示したのは、劣化検知用熱センサの断面(0402)である。(a)は図1や図2の(a)、図3の(a)に示したような、保護管内に2本の熱センサを有する温度センサの断面図である。保護管内に配置される熱センサの配置位置は、温度センサの用途や目的に応じて適宜、最適な構成とすることが望ましい。したがって、図4の(b)のように、温度測定用熱センサと劣化検知用熱センサを互い違いに4本配置してもよいし、(c)のように、断面の略中心に温度計測用熱センサを配置し、その周りを取り囲むように劣化検知用熱センサを配置するなどしてもよい。熱センサが配置される保護管の断面形状も、(d)のように楕円形であっても、(e)のような四角形であってもよく、熱センサの断面も必ずしも円形である必要はなく、(f)のような楕円形であってもよい。
【0027】
「保護管」は、熱電対や抵抗温度計などを、雰囲気による酸化や腐食から保護すると共に、衝撃などから熱センサを守るための管である。保護管は、ムライト、コランダム、アルミナ、ムライト結合炭化ケイ素などのほか、ステンレスなどの金属材料からなる。図5の(a)に示したように、熱電対や抵抗温度計などの熱センサ(0501、0502)の先端は保護管(0503)に内包されているのが一般的である。しかし、一部の温度センサでは、熱に対する応答速度を向上させるために、熱センサの先端を保護管の先端から露出させる場合がある。本実施形態の温度センサも、(b)のように熱センサ(0504、0505)の先端を保護管(0506)の先端から露出させることは可能であり、劣化検知用熱センサと温度測定用熱センサが保護管の先端から露出した構成となる。
【0028】
本実施形態の温度センサは、先に述べたように、劣化検知用熱センサと温度測定用熱センサを保護管内に配置することで、温度測定用熱センサの劣化をあらかじめ予見することが可能となっている。たとえば、図6の(a)には特許文献1に示した、熱電対劣化検知装置では、2本の熱電対の長さを変え、温度測定対象の温度を測定する熱電対(長い熱電対)(0601)から出力される電流値などの温度情報と、先の熱電対の劣化を判断するための比較対象となる熱電対(短い熱電対)(0602)との温度情報との差によって熱電対の劣化を判断していた。この場合、温度測定対象の温度を測定する熱電対は、比較対象である熱電対に比べて、熱的に過酷な条件下にさらされることが予想されるため、比較対象の熱電対に比べて先に劣化(0603)する。この温度測定対象の温度を測定するための熱電対が比較対象の熱電対に比べて先に劣化することで、温度情報の差に変化が生じ、熱電対の劣化が判明する。つまり、温度情報の差に変化が生じた段階で、温度測定対象の温度を測定している熱電対は劣化しており、正しい温度情報を出力しているとは限らず、測定された温度の信頼性に問題が生じている可能性がある。
【0029】
一方、本実施形態の温度センサでは、図6の(b)に示したように、劣化を判断するための劣化検知用熱センサ(0604)が、温度測定対象の温度を測定するための温度測定用熱センサ(0605)に比べて先に劣化(0606)することで、熱センサの劣化を予見する。劣化検知用熱センサと温度測定用熱センサから出力される温度情報に基づき劣化を判断する点は、特許文献1に記載された発明に類似しているが、本実施形態の、温度センサでは、劣化検知用熱センサが劣化した段階で、温度センサが劣化したと判断できるため、劣化検知用熱センサが劣化した時点でも、温度測定用熱センサは正常であり、正確で信頼性の高い温度データは得ることが可能である。したがって、本実施形態の温度センサでは、劣化検知用熱センサが劣化し、温度センサの交換を行えば、交換直前まで正確で信頼背の高い温度データを得ることが可能である。
<実施形態1 効果>
【0030】
本実施形態の温度センサにより、温度測定用熱センサが劣化する前に、熱センサの劣化の判断が可能となり、温度センサを交換する時点まで、正確な温度測定が可能となる。
<<実施形態2>>
<実施形態2 概要>
【0031】
本実施形態は、熱電対から構成され、劣化検知用熱センサと温度測定用熱センサの熱電対の断面積に差を設けたことを特徴とする温度センサである。
<実施形態2 構成>
【0032】
本実施形態の温度センサは、劣化検知用熱センサおよび温度測定用熱センサは、熱電対であって、劣化検知用熱センサは、温度測定用熱センサに比べ相対的に断面積が小さくなるように構成されている。
【0033】
一般的に、断面積の小さい熱電対は、相対的に断面積の大きい熱電対に比べて劣化が早い。つまり、断面積の小さい熱電対を実施形態1に述べた劣化検知用熱センサとすることが可能となる。このため、たとえば同種の熱電対の太さを変化させて温度センサ内に配置することで、相対的に断面積の小さい劣化検知用熱センサが先に劣化し、温度測定用熱センサの劣化を予見する。これにより、温度測定用熱センサが劣化する前に、温度センサの交換時期を予見することが可能となる。
【0034】
図7に本実施形態の温度センサを説明するための概念図を示した。図7は、一つの保護管内(0701)に相対的に断面積の大きい温度測定用熱センサ(0702)と、温度測定用熱センサに比べて相対的に断面積の小さい劣化検知用熱センサ(0703)を有する温度センサの概念図である。図7のように、2本の熱センサ(熱電対)が同様条件下で熱が加わるように配置されている場合、相対的に断面積の小さい劣化検知用熱センサが先に劣化(0704)する。この劣化検知用熱センサが劣化したことを、劣化検知用熱センサから出力される起電力の変化などで検知することで、温度センサの交換時期を判断することが可能となる。
【0035】
また、劣化検知用熱センサおよび温度測定用熱センサの相対的な断面積の差を変化させることで、劣化を予見する時期を調節することが可能である。たとえば、劣化検知用熱センサと温度測定用熱センサの断面積の差を大きくした場合、劣化検知用熱センサは、温度測定用熱センサに比べて、極めて早い時期に劣化し交換時期を予見することが可能である。一方で、劣化検知用熱センサと、温度測定用熱センサの断面積の差を小さくした場合、劣化時期の差が縮まるため、温度測定用温度センサが劣化する直前に交換時期を予見することとなる。このように、劣化を予見するタイミングについては、温度センサの使用目的などを考慮し、適宜決定すればよい。
<実施形態2 効果>
【0036】
本実施形態の温度センサにより、温度センサ内に異なる断面積の熱電対を複数配置することで、温度測定用熱センサの劣化を予見することが可能となる。さらに熱電対の断面積の差を調整することで、温度測定用熱センサの劣化を予見するタイミングを調整することが可能となる。
<<実施形態3>>
<実施形態3 概要>
【0037】
本実施形態は、実施形態1および実施形態2に述べた温度センサを用いた温度計測システムである、本実施形態の温度計測システムは、温度測定用熱センサおよび劣化検知用熱センサから出力される温度情報を比較することで劣化検知用熱センサの劣化を判断し、温度測定用熱センサの劣化を予見する温度計測システムである。
<実施形態3 機能的構成>
【0038】
図8に本実施形態の温度計測システムの機能ブロック図を示した。本実施形態の温度計測システムは、温度測定用熱センサから出力される温度情報を取得する第一温度情報取得部(0801)と、劣化検知用熱センサから出力される温度情報を取得する第二温度情報取得部(0802)と、第一温度情報取得部と第二温度情報取得部が取得した温度情報を比較し、劣化検知用熱センサの劣化を判断する比較判断部(0803)と、比較判断部の判断結果が、劣化しているという判断であった場合、劣化信号を発信する劣化信号発信部(0804)とからなる。
【0039】
「第一温度情報取得部」および「第二温度情報取得部」は、それぞれ温度測定用熱センサ、劣化検知用熱センサから出力される温度情報を取得する。ここで、第一および第二温度情報取得部が取得する温度情報とは、単純に温度を表す情報とは限らず、例えば熱センサが熱電対であった場合には、熱電対から出力される起電力などの温度と相関のある電圧値などである。
【0040】
「比較判断部」は、第一温度情報取得部と第二温度情報取得部が取得した温度情報を比較し、劣化検知用熱センサが劣化したか否かを判断する。比較判断部が劣化検知用熱センサが劣化したか否かを判断する具体例を図9を用いて説明する。まず、温度測定用熱センサと劣化検知用熱センサが同種の熱電対であって、劣化検知用熱センサの断面積が温度測定用熱センサの断面積に比べて相対的に小さい場合を考える。この場合、同種の熱電対であるため、熱電対から得られる温度情報である起電力の値はほぼ同じ値を示す(図中(a)の状態)。温度センサを長時間使用した場合、まず劣化検知用熱センサが劣化する(t0以降の状態)。劣化検知用熱センサが劣化すると、温度測定用熱センサから得られる温度情報と同値であった起電力が変化し、差が生じる。この差は、劣化検知用熱センサの劣化が進行するにつれて、大きくなり、所定の閾値となった段階(t1)で、比較判断部は、劣化検知用熱センサが劣化し、温度センサを交換する時期であると判断する。
【0041】
上記例では、劣化検知用熱センサと温度測定用熱センサから得られる温度情報の差が所定の閾値を超えた段階で劣化検知用熱センサが劣化し、温度センサを交換する時期であると判断していた。この判断が行われるタイミング(t1)は、劣化検知用熱センサが劣化をはじめた直後(t0の状態)であってもよいし、劣化検知用熱センサが劣化の結果、断線した段階(t2の状態)であってもよい。ただし、前述のタイミングは、必ず温度測定用熱センサが劣化をはじめるタイミング(t3)よりも前でなくてはならない。
【0042】
判断基準となる閾値としては、JISC1602に基づき、許容差がクラス2を下回った場合などとしてもよい。例えばK熱電対の場合、温度範囲が‐40℃以上、333℃未満の場合、許容差が±2.5℃を超えた時点で、劣化検知用熱センサが劣化し温度センサを交換する時期であると判断するなどである。
【0043】
「劣化信号発信部」は、前記比較判断部にて劣化検知用熱センサが劣化したと判断された場合、温度センサを交換する時期であることをユーザに知らせるための劣化信号を発信する。発信された信号は、スピーカなどから音声などによって発信されてもよいし、ディスプレイに表示させたり、LEDなどの点灯や点滅などや、記録計や調節計によって表現されてもよい。
<実施形態3 ハードウエア的構成>
【0044】
図10に上記機能的な各構成要件をハードウエアとして実現した際の、本実施形態の温度計測システムにおける構成の一例を表す概略図である。この図を利用して温度計測システムが温度センサの劣化を判断する際の、それぞれのハードウエア構成の働きについて説明する。
【0045】
この図にあるように、温度計測システムは、各種演算処理を行う「CPU(1001)」や「主メモリ(1002)」を備えている。また温度計測や劣化の判断を行うプログラムや、温度測定結果を記憶保持するハードディスクやフラッシュメモリなどの「記憶装置(1003)」や、他の温度計測システムやパソコンなどと通信を行うための「通信用インターフェイス(1004)」や、使用者に対して様々な情報を報知するためのディスプレイやLEDやスピーカなどと接続するための「報知用インターフェイス(1005)」や、温度計測用熱センサおよび劣化検知用熱センサから温度情報を取得するための「熱センサ用インターフェイス(1006)」などを備えている。そしてそれらが「システムバス(1007)」などのデータ通信経路によって相互に接続され、情報の送受信や処理を行う。また、「主メモリ」は、各種処理を行うプログラムをCPUに実行させるために読み込ますと同時にそのプログラムの作業領域でもあるワーク領域を提供する。また、この「主メモリ」や「記憶装置」にはそれぞれ複数のメモリアドレスが割り当てられており、「CPU」で実行されるプログラムは、そのメモリアドレスを特定しアクセスすることで相互にデータのやりとり行い、処理を行うことが可能となっている。
【0046】
まず、CPUは温度計測用プログラムならびに劣化判断用プログラムを主メモリに展開する。CPUは展開されたプログラムに基づき、熱センサ用インターフェイスから温度測定用熱センサならびに劣化検知用熱センサから温度情報を取得する。取得された温度情報は一時的に主メモリ上に保存される。この際、温度計測用プログラムに基づいて、取得された本土情報を逐次記憶装置に保存してもよい。温度情報が取得されると、CPUは、劣化判断用プログラムに基づき、温度情報の比較を行い、劣化検知用熱センサの劣化を判断する。劣化検知用熱センサが劣化していると判断された場合には、CPUは、劣化検知用熱センサが劣化している旨をユーザに知らせるために劣化信号が発信され、スピーカやディスプレイ、LEDなどによって、劣化検知用熱センサが劣化したこと、つまり温度センサが交換時期であることが報知される。
<実施形態3 処理の流れ>
【0047】
図11に本実施形態の温度計測システムの処理の流れを説明するためのフローチャートを示した。本実施形態の温度計測システムはまず、温度測定用熱センサおよび劣化検知用熱センサから温度情報を取得(S1101)し、次に取得した温度情報を比較し、比較結果によって、劣化検知用熱センサが劣化したか否かを判断(S1102)する。劣化検知用熱センサが劣化していないと判断された場合は、熱センサからの温度情報の取得を再度行う、劣化検知用熱センサが劣化したと判断された場合には、劣化信号を発信(S1103)し、使用者へ温度センサが交換時期である旨を知らせる。
<実施形態3 効果>
【0048】
本実施形態の温度計測システムにより、温度測定用熱センサおよび劣化検知用熱センサから出力される温度情報を比較することで劣化検知用熱センサの劣化を判断し、温度測定用熱センサの劣化を予見することが可能となる。
【符号の説明】
【0049】
0601 温度測定対象の温度を測定する熱電対(長い熱電対)
0602 比較対象となる熱電対(短い熱電対)
0603 劣化した熱電対
0604 劣化検知用熱センサ
0605 温度測定用熱センサ
0606 劣化した熱電対
【技術分野】
【0001】
本件発明は、温度センサの劣化を予め検知する温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に加熱炉など高温雰囲気の温度測定を行う熱電対などの温度センサは、長時間使用することで、熱衝撃や、機械的衝撃、化学反応など様々な要因により損傷を受けて劣化してしまう。しかし、劣化を検知するのは困難であり、定期的に標準の熱電対などの温度センサと比較検定したり、経験的に所定時間使用する毎に定期的に交換する必要があった。
【0003】
熱電対などの温度センサの比較検定には高価な検定装置が必要であり、また熱電対などの温度センサの取り外しや再設置が必要となり、多大な手間や労力が必要となってしまう。熱電対などの温度センサを定期的に交換した場合には、まだ使用可能な温度センサまで交換してしまい、無駄を生じてしまう。
【0004】
そこで、特許文献1では、温度計測対象物の温度を測定するための第一の熱電対と、第一の熱電対に近接し、第一の熱電対に比べて短い第二の熱電対を設け、二つの熱電対からの出力差を比較することで、第一の熱電対の劣化の判断を行っている。
【0005】
これにより、第一の熱電対の劣化が判断可能となり、無駄な熱電対の交換などの手間や労力を省くことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−218107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された熱電対劣化検知装置では、温度計測対象物の温度を測定するための第一の熱電対が第二の熱電対より先に劣化を起こしてしまう。このため、第一の熱電対が劣化を始めた時点で、正確な温度測定ができなくなってしまう恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本件発明では、上記課題に鑑み、以下の温度センサおよび温度計測システムを提供する。第一の発明としては、保護管内に複数本の熱センサを有する温度センサであって、前記熱センサの先端はいずれも保護管の先端から略等距離に配置され、前記熱センサのうち少なくとも1本は、他の熱センサに比べて劣化の早い劣化検知用熱センサであり、劣化検知用熱センサ以外の熱センサのうち少なくとも1本は、温度測定するための温度測定用熱センサである温度センサを提供する。
【0009】
第二の発明としては、劣化検知用熱センサ及び前記温度測定用熱センサは、熱電対であって、劣化検知用熱センサは、温度測定用熱センサに比べ相対的に断面積が小さい第一の発明に記載の温度センサを提供する。
【0010】
第三の発明としては、第一の発明または第二の発明に記載の温度センサを用いた温度計測システムにおいて、温度測定用熱センサから出力される温度情報を取得する第一温度情報取得部と、劣化検知用熱センサから出力される温度情報を取得する第二温度情報取得部と、第一温度情報取得部と前記第二温度情報取得部が取得した温度情報を比較し、劣化検知用熱センサの劣化を判断する比較判断部と、比較判断部の判断結果が、劣化しているという判断であった場合、劣化信号を発信する劣化信号発信部と、からなる温度計測システムを提供する。
【0011】
第四の発明としては、第一の発明または第二の発明に記載の温度センサを用いた温度計測システムにおいて、温度測定用熱センサから出力される温度情報を取得する第一温度情報取得ステップと、劣化検知用熱センサから出力される温度情報を取得する第二温度情報取得ステップと、第一温度情報取得ステップと前記第二温度情報取得ステップにて取得した温度情報を比較し、劣化検知用熱センサの劣化を判断する比較判断ステップと、比較判断ステップでの判断結果が、劣化しているという判断であった場合、劣化信号を発信する劣化信号発信ステップと、からなる温度計測システムの動作方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本件発明の温度センサにより、温度測定用熱センサが劣化する前に、熱センサの劣化の判断が可能となり、温度センサを交換する時点まで、正確な温度測定が可能となる。また、温度センサ内に異なる断面積の熱電対を複数配置することで、温度測定用熱センサの劣化を予見することが可能となり、熱電対の断面積の差を調整することで、温度測定用熱センサの劣化を予見するタイミングを調整することが可能となる。
【0013】
さらに、本件発明の温度計測システムにより、温度測定用熱センサおよび劣化検知用熱センサから出力される温度情報を比較することで劣化検知用熱センサの劣化を判断し、温度測定用熱センサの劣化を予見することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態1の温度センサを説明するための概念図
【図2】実施形態1の温度センサの一例を説明するための概念図
【図3】実施形態1の温度センサの一例を説明するための概念図
【図4】実施形態1の温度センサの一例を説明するための概念図
【図5】実施形態1の温度センサの一例を説明するための概念図
【図6】実施形態1の温度センサと従来の温度センサとの相違点を説明するための概念図
【図7】実施形態2の温度センサを説明するための概念図
【図8】実施形態3の温度計測システムの機能ブロック図
【図9】実施形態3の温度計測システムの劣化判断基準を説明するための概念図
【図10】実施形態3の温度計測システムのハードウエア構成図
【図11】実施形態3の温度計測システムのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本件発明の実施の形態について、添付図面を用いて説明する。なお、本件発明は、これら実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
【0016】
実施形態1は、主に請求項1などに関する。実施形態2は、主に請求項2などに関する。実施形態3は、主に請求項3および請求項4などに関する。
<<実施形態1>>
<実施形態1 概要>
【0017】
本実施形態は、同一保護管内に複数本の熱電対等の熱センサを有する温度センサであって、保護管内に温度測定用熱センサと、温度測定用熱センサに比べて劣化の早い劣化検知用熱センサを有することを特徴とした温度センサである。
【0018】
温度測定用熱センサに比べて劣化の早い劣化検知用熱センサを同一保護管内に配置することで、温度測定用熱センサが劣化する前に、熱センサの劣化の予見が可能となり、温度センサを交換する時点まで、正確な温度測定が可能となる。
<実施形態1 構成>
【0019】
本実施形態の温度センサは、保護管内に複数本の熱センサを有し、熱センサの先端はいずれも保護管の先端から略等距離に配置され、前記熱センサのうち少なくとも1本は、他の熱センサに比べて劣化の早い劣化検知用熱センサであり、劣化検知用熱センサ以外の熱センサのうち少なくとも1本は、温度測定するための温度測定用熱センサである。
【0020】
「温度センサ」は、後述する熱センサを保護管内に有する、温度を測定するためのセンサである。たとえば、熱センサとして熱電対を有する温度センサとしては、シース熱電対やソリッドパック熱電対などである。熱電対以外にも熱センサとして抵抗温度計を有する温度センサであってもよい。
【0021】
「熱センサ」は、前述のよう熱電対や抵抗温度計などである。熱電対としては、R熱電対、S熱電対、B熱電対、Pt・40%Rh-Pt・20%Rh熱電対、Ir-Ir・40%Rh熱電対、タングステン-レニウム熱電対のような貴金属熱電対などや、K熱電対、E熱電対、J熱電対、T熱電対、N熱電対などの卑金属熱電対などである。また、抵抗温度計としては、測温抵抗体として、白金やニッケル、銅、ロジウム・鉄合金、白金・コバルト合金などを用いた抵抗温度計である。
【0022】
ここで、「劣化検知用熱センサ」と「温度測定用熱センサ」について述べる。劣化検知用熱センサおよび温度測定用熱センサは、前述のように、熱電対や抵抗温度計によって構成されている。劣化検知用熱センサおよび温度測定用熱センサの違いは、耐久性の差によって相対的に区別されるものである。したがって、温度測定用熱センサに比べて劣化が早い、つまり、耐久性の低い熱センサが、温度測定用熱センサに対して、劣化検知用熱センサとなる。具体的には、実施形態2に述べるような、熱センサが熱電対である場合には、熱電対の断面積に差を設け、太く耐久性のある熱電対を温度測定用熱センサとし、これに対して、相対的に細く耐久性の低い熱電対を劣化検知用熱センサとするなどである。また、熱センサを抵抗温度計とした場合には、測温抵抗体内部の白金線の太さに差を設けることで、相対的に太い熱センサを温度測定用熱センサとし、これに対して細い熱センサを劣化検知用熱センサといった具合である。
【0023】
図1に本実施形態の温度センサの概念図を示した。図1に示した温度センサでは、保護管(0101a、0101b)内に劣化検知用熱センサ(0102a、0102b)と、温度測定用温度センサ(0103a、0103b)の2本の熱センサを有している場合の一例を示した。図1の(a)に示した温度センサでは、保護管内に劣化検知用熱センサと、温度測定用温度センサの2本の熱センサを有している。特にこの熱センサが熱電対であった場合には、熱センサ同士が接触しないように構成する必要がある。このため、例えば(b)に示したように、保護管内を酸化マグネシウムやシリカのような絶縁材料(0104)によって充填することで、熱センサ同士が接触しないように構成してもよい。
【0024】
また、熱センサは、図2に示すように、熱センサの数を2本に限らずそれ以上配置してもよい、図2の(a)に示した温度センサは、図1の(a)と同じく温度測定用熱センサ(0201a)および劣化検知用熱センサ(0202a)を1本ずつの合計2本としたり、(b)のように、温度測定用熱センサ(0201b)と劣化検知用熱センサ(0202b)ともに2本ずつの合計4本の熱センサからなるように構成してもよい。また温度測定用熱センサと劣化検知用熱センサを必ずしも同数にする必要はなく、(c)のように、温度測定用熱センサ(0201c)を2本、劣化検知用熱センサ(0202c)を1本の合計3本の熱センサからなるように構成してもよいし、(c)とは逆に、(d)のように温度測定用熱センサ(0201d)を1本、劣化検知用熱センサ(0202d)を2本としてもよい。また、(c)のように、複数の温度測定用熱センサを保護管内に配置した構成の場合には、一つの温度測定用熱センサを記録計用の熱センサとし、もう一方の温度測定用熱センサを制御機用の熱センサとするなどしてもよい。
【0025】
図1および図2では、熱センサとして熱電対を主に想定して記載したが、熱センサは熱電対以外でもよい。たとえば、図3の(a)に示したような抵抗温度計などであってもよい。(a)のように、保護管内に複数の抵抗温度計を配置し、少なくとも一つの抵抗温度計を劣化の早い劣化検知用熱センサ(0301a)とし、その他の熱センサは温度測定用の抵抗温度計(0302a)としてもよい。また、同じ抵抗温度計どうしを劣化検知用、温度測定用の熱センサとして必ずしも用いる必要はなく、図3の(b)に示したように、熱電対を温度測定用熱センサ(0303b)とし、抵抗温度計を劣化検知用熱センサ(0301b)としてもよい。
【0026】
図4に本実施形態の温度センサの断面図概念を示した。図4の断面図概念は、(a)に示したように、温度センサの熱センサの先端位置(図中A−A')の断面図概念である。図4は(b)以下すべて同様に、熱センサの先端位置の断面図概念である。図中黒で示したのは、温度測定用熱センサの断面(0401)で、グレーで示したのは、劣化検知用熱センサの断面(0402)である。(a)は図1や図2の(a)、図3の(a)に示したような、保護管内に2本の熱センサを有する温度センサの断面図である。保護管内に配置される熱センサの配置位置は、温度センサの用途や目的に応じて適宜、最適な構成とすることが望ましい。したがって、図4の(b)のように、温度測定用熱センサと劣化検知用熱センサを互い違いに4本配置してもよいし、(c)のように、断面の略中心に温度計測用熱センサを配置し、その周りを取り囲むように劣化検知用熱センサを配置するなどしてもよい。熱センサが配置される保護管の断面形状も、(d)のように楕円形であっても、(e)のような四角形であってもよく、熱センサの断面も必ずしも円形である必要はなく、(f)のような楕円形であってもよい。
【0027】
「保護管」は、熱電対や抵抗温度計などを、雰囲気による酸化や腐食から保護すると共に、衝撃などから熱センサを守るための管である。保護管は、ムライト、コランダム、アルミナ、ムライト結合炭化ケイ素などのほか、ステンレスなどの金属材料からなる。図5の(a)に示したように、熱電対や抵抗温度計などの熱センサ(0501、0502)の先端は保護管(0503)に内包されているのが一般的である。しかし、一部の温度センサでは、熱に対する応答速度を向上させるために、熱センサの先端を保護管の先端から露出させる場合がある。本実施形態の温度センサも、(b)のように熱センサ(0504、0505)の先端を保護管(0506)の先端から露出させることは可能であり、劣化検知用熱センサと温度測定用熱センサが保護管の先端から露出した構成となる。
【0028】
本実施形態の温度センサは、先に述べたように、劣化検知用熱センサと温度測定用熱センサを保護管内に配置することで、温度測定用熱センサの劣化をあらかじめ予見することが可能となっている。たとえば、図6の(a)には特許文献1に示した、熱電対劣化検知装置では、2本の熱電対の長さを変え、温度測定対象の温度を測定する熱電対(長い熱電対)(0601)から出力される電流値などの温度情報と、先の熱電対の劣化を判断するための比較対象となる熱電対(短い熱電対)(0602)との温度情報との差によって熱電対の劣化を判断していた。この場合、温度測定対象の温度を測定する熱電対は、比較対象である熱電対に比べて、熱的に過酷な条件下にさらされることが予想されるため、比較対象の熱電対に比べて先に劣化(0603)する。この温度測定対象の温度を測定するための熱電対が比較対象の熱電対に比べて先に劣化することで、温度情報の差に変化が生じ、熱電対の劣化が判明する。つまり、温度情報の差に変化が生じた段階で、温度測定対象の温度を測定している熱電対は劣化しており、正しい温度情報を出力しているとは限らず、測定された温度の信頼性に問題が生じている可能性がある。
【0029】
一方、本実施形態の温度センサでは、図6の(b)に示したように、劣化を判断するための劣化検知用熱センサ(0604)が、温度測定対象の温度を測定するための温度測定用熱センサ(0605)に比べて先に劣化(0606)することで、熱センサの劣化を予見する。劣化検知用熱センサと温度測定用熱センサから出力される温度情報に基づき劣化を判断する点は、特許文献1に記載された発明に類似しているが、本実施形態の、温度センサでは、劣化検知用熱センサが劣化した段階で、温度センサが劣化したと判断できるため、劣化検知用熱センサが劣化した時点でも、温度測定用熱センサは正常であり、正確で信頼性の高い温度データは得ることが可能である。したがって、本実施形態の温度センサでは、劣化検知用熱センサが劣化し、温度センサの交換を行えば、交換直前まで正確で信頼背の高い温度データを得ることが可能である。
<実施形態1 効果>
【0030】
本実施形態の温度センサにより、温度測定用熱センサが劣化する前に、熱センサの劣化の判断が可能となり、温度センサを交換する時点まで、正確な温度測定が可能となる。
<<実施形態2>>
<実施形態2 概要>
【0031】
本実施形態は、熱電対から構成され、劣化検知用熱センサと温度測定用熱センサの熱電対の断面積に差を設けたことを特徴とする温度センサである。
<実施形態2 構成>
【0032】
本実施形態の温度センサは、劣化検知用熱センサおよび温度測定用熱センサは、熱電対であって、劣化検知用熱センサは、温度測定用熱センサに比べ相対的に断面積が小さくなるように構成されている。
【0033】
一般的に、断面積の小さい熱電対は、相対的に断面積の大きい熱電対に比べて劣化が早い。つまり、断面積の小さい熱電対を実施形態1に述べた劣化検知用熱センサとすることが可能となる。このため、たとえば同種の熱電対の太さを変化させて温度センサ内に配置することで、相対的に断面積の小さい劣化検知用熱センサが先に劣化し、温度測定用熱センサの劣化を予見する。これにより、温度測定用熱センサが劣化する前に、温度センサの交換時期を予見することが可能となる。
【0034】
図7に本実施形態の温度センサを説明するための概念図を示した。図7は、一つの保護管内(0701)に相対的に断面積の大きい温度測定用熱センサ(0702)と、温度測定用熱センサに比べて相対的に断面積の小さい劣化検知用熱センサ(0703)を有する温度センサの概念図である。図7のように、2本の熱センサ(熱電対)が同様条件下で熱が加わるように配置されている場合、相対的に断面積の小さい劣化検知用熱センサが先に劣化(0704)する。この劣化検知用熱センサが劣化したことを、劣化検知用熱センサから出力される起電力の変化などで検知することで、温度センサの交換時期を判断することが可能となる。
【0035】
また、劣化検知用熱センサおよび温度測定用熱センサの相対的な断面積の差を変化させることで、劣化を予見する時期を調節することが可能である。たとえば、劣化検知用熱センサと温度測定用熱センサの断面積の差を大きくした場合、劣化検知用熱センサは、温度測定用熱センサに比べて、極めて早い時期に劣化し交換時期を予見することが可能である。一方で、劣化検知用熱センサと、温度測定用熱センサの断面積の差を小さくした場合、劣化時期の差が縮まるため、温度測定用温度センサが劣化する直前に交換時期を予見することとなる。このように、劣化を予見するタイミングについては、温度センサの使用目的などを考慮し、適宜決定すればよい。
<実施形態2 効果>
【0036】
本実施形態の温度センサにより、温度センサ内に異なる断面積の熱電対を複数配置することで、温度測定用熱センサの劣化を予見することが可能となる。さらに熱電対の断面積の差を調整することで、温度測定用熱センサの劣化を予見するタイミングを調整することが可能となる。
<<実施形態3>>
<実施形態3 概要>
【0037】
本実施形態は、実施形態1および実施形態2に述べた温度センサを用いた温度計測システムである、本実施形態の温度計測システムは、温度測定用熱センサおよび劣化検知用熱センサから出力される温度情報を比較することで劣化検知用熱センサの劣化を判断し、温度測定用熱センサの劣化を予見する温度計測システムである。
<実施形態3 機能的構成>
【0038】
図8に本実施形態の温度計測システムの機能ブロック図を示した。本実施形態の温度計測システムは、温度測定用熱センサから出力される温度情報を取得する第一温度情報取得部(0801)と、劣化検知用熱センサから出力される温度情報を取得する第二温度情報取得部(0802)と、第一温度情報取得部と第二温度情報取得部が取得した温度情報を比較し、劣化検知用熱センサの劣化を判断する比較判断部(0803)と、比較判断部の判断結果が、劣化しているという判断であった場合、劣化信号を発信する劣化信号発信部(0804)とからなる。
【0039】
「第一温度情報取得部」および「第二温度情報取得部」は、それぞれ温度測定用熱センサ、劣化検知用熱センサから出力される温度情報を取得する。ここで、第一および第二温度情報取得部が取得する温度情報とは、単純に温度を表す情報とは限らず、例えば熱センサが熱電対であった場合には、熱電対から出力される起電力などの温度と相関のある電圧値などである。
【0040】
「比較判断部」は、第一温度情報取得部と第二温度情報取得部が取得した温度情報を比較し、劣化検知用熱センサが劣化したか否かを判断する。比較判断部が劣化検知用熱センサが劣化したか否かを判断する具体例を図9を用いて説明する。まず、温度測定用熱センサと劣化検知用熱センサが同種の熱電対であって、劣化検知用熱センサの断面積が温度測定用熱センサの断面積に比べて相対的に小さい場合を考える。この場合、同種の熱電対であるため、熱電対から得られる温度情報である起電力の値はほぼ同じ値を示す(図中(a)の状態)。温度センサを長時間使用した場合、まず劣化検知用熱センサが劣化する(t0以降の状態)。劣化検知用熱センサが劣化すると、温度測定用熱センサから得られる温度情報と同値であった起電力が変化し、差が生じる。この差は、劣化検知用熱センサの劣化が進行するにつれて、大きくなり、所定の閾値となった段階(t1)で、比較判断部は、劣化検知用熱センサが劣化し、温度センサを交換する時期であると判断する。
【0041】
上記例では、劣化検知用熱センサと温度測定用熱センサから得られる温度情報の差が所定の閾値を超えた段階で劣化検知用熱センサが劣化し、温度センサを交換する時期であると判断していた。この判断が行われるタイミング(t1)は、劣化検知用熱センサが劣化をはじめた直後(t0の状態)であってもよいし、劣化検知用熱センサが劣化の結果、断線した段階(t2の状態)であってもよい。ただし、前述のタイミングは、必ず温度測定用熱センサが劣化をはじめるタイミング(t3)よりも前でなくてはならない。
【0042】
判断基準となる閾値としては、JISC1602に基づき、許容差がクラス2を下回った場合などとしてもよい。例えばK熱電対の場合、温度範囲が‐40℃以上、333℃未満の場合、許容差が±2.5℃を超えた時点で、劣化検知用熱センサが劣化し温度センサを交換する時期であると判断するなどである。
【0043】
「劣化信号発信部」は、前記比較判断部にて劣化検知用熱センサが劣化したと判断された場合、温度センサを交換する時期であることをユーザに知らせるための劣化信号を発信する。発信された信号は、スピーカなどから音声などによって発信されてもよいし、ディスプレイに表示させたり、LEDなどの点灯や点滅などや、記録計や調節計によって表現されてもよい。
<実施形態3 ハードウエア的構成>
【0044】
図10に上記機能的な各構成要件をハードウエアとして実現した際の、本実施形態の温度計測システムにおける構成の一例を表す概略図である。この図を利用して温度計測システムが温度センサの劣化を判断する際の、それぞれのハードウエア構成の働きについて説明する。
【0045】
この図にあるように、温度計測システムは、各種演算処理を行う「CPU(1001)」や「主メモリ(1002)」を備えている。また温度計測や劣化の判断を行うプログラムや、温度測定結果を記憶保持するハードディスクやフラッシュメモリなどの「記憶装置(1003)」や、他の温度計測システムやパソコンなどと通信を行うための「通信用インターフェイス(1004)」や、使用者に対して様々な情報を報知するためのディスプレイやLEDやスピーカなどと接続するための「報知用インターフェイス(1005)」や、温度計測用熱センサおよび劣化検知用熱センサから温度情報を取得するための「熱センサ用インターフェイス(1006)」などを備えている。そしてそれらが「システムバス(1007)」などのデータ通信経路によって相互に接続され、情報の送受信や処理を行う。また、「主メモリ」は、各種処理を行うプログラムをCPUに実行させるために読み込ますと同時にそのプログラムの作業領域でもあるワーク領域を提供する。また、この「主メモリ」や「記憶装置」にはそれぞれ複数のメモリアドレスが割り当てられており、「CPU」で実行されるプログラムは、そのメモリアドレスを特定しアクセスすることで相互にデータのやりとり行い、処理を行うことが可能となっている。
【0046】
まず、CPUは温度計測用プログラムならびに劣化判断用プログラムを主メモリに展開する。CPUは展開されたプログラムに基づき、熱センサ用インターフェイスから温度測定用熱センサならびに劣化検知用熱センサから温度情報を取得する。取得された温度情報は一時的に主メモリ上に保存される。この際、温度計測用プログラムに基づいて、取得された本土情報を逐次記憶装置に保存してもよい。温度情報が取得されると、CPUは、劣化判断用プログラムに基づき、温度情報の比較を行い、劣化検知用熱センサの劣化を判断する。劣化検知用熱センサが劣化していると判断された場合には、CPUは、劣化検知用熱センサが劣化している旨をユーザに知らせるために劣化信号が発信され、スピーカやディスプレイ、LEDなどによって、劣化検知用熱センサが劣化したこと、つまり温度センサが交換時期であることが報知される。
<実施形態3 処理の流れ>
【0047】
図11に本実施形態の温度計測システムの処理の流れを説明するためのフローチャートを示した。本実施形態の温度計測システムはまず、温度測定用熱センサおよび劣化検知用熱センサから温度情報を取得(S1101)し、次に取得した温度情報を比較し、比較結果によって、劣化検知用熱センサが劣化したか否かを判断(S1102)する。劣化検知用熱センサが劣化していないと判断された場合は、熱センサからの温度情報の取得を再度行う、劣化検知用熱センサが劣化したと判断された場合には、劣化信号を発信(S1103)し、使用者へ温度センサが交換時期である旨を知らせる。
<実施形態3 効果>
【0048】
本実施形態の温度計測システムにより、温度測定用熱センサおよび劣化検知用熱センサから出力される温度情報を比較することで劣化検知用熱センサの劣化を判断し、温度測定用熱センサの劣化を予見することが可能となる。
【符号の説明】
【0049】
0601 温度測定対象の温度を測定する熱電対(長い熱電対)
0602 比較対象となる熱電対(短い熱電対)
0603 劣化した熱電対
0604 劣化検知用熱センサ
0605 温度測定用熱センサ
0606 劣化した熱電対
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護管内に複数本の熱センサを有する温度センサであって、
前記熱センサの先端はいずれも保護管の先端から略等距離に配置され、
前記熱センサのうち少なくとも1本は、他の熱センサに比べて劣化の早い劣化検知用熱センサであり、
劣化検知用熱センサ以外の熱センサのうち少なくとも1本は、温度測定するための温度測定用熱センサである温度センサ。
【請求項2】
前記劣化検知用熱センサ及び前記温度測定用熱センサは、熱電対であり、
劣化検知用熱センサは、温度測定用熱センサに比べ相対的に断面積が小さい請求項1に記載の温度センサ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の温度センサを用いた温度計測システムにおいて、
前記温度測定用熱センサから出力される温度情報を取得する第一温度情報取得部と、
前記劣化検知用熱センサから出力される温度情報を取得する第二温度情報取得部と、
前記第一温度情報取得部と前記第二温度情報取得部が取得した温度情報を比較し、劣化検知用熱センサの劣化を判断する比較判断部と、
前記比較判断部の判断結果が、劣化しているという判断であった場合、劣化信号を発信する劣化信号発信部と、
からなる温度計測システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の温度センサを用いた温度計測システムにおいて、
前記温度測定用熱センサから出力される温度情報を取得する第一温度情報取得ステップと、
前記劣化検知用熱センサから出力される温度情報を取得する第二温度情報取得ステップと、
前記第一温度情報取得ステップと前記第二温度情報取得ステップにて取得した温度情報を比較し、劣化検知用熱センサの劣化を判断する比較判断ステップと、
前記比較判断ステップでの判断結果が、劣化しているという判断であった場合、劣化信号を発信する劣化信号発信ステップと、
からなる温度計測システムの動作方法。
【請求項1】
保護管内に複数本の熱センサを有する温度センサであって、
前記熱センサの先端はいずれも保護管の先端から略等距離に配置され、
前記熱センサのうち少なくとも1本は、他の熱センサに比べて劣化の早い劣化検知用熱センサであり、
劣化検知用熱センサ以外の熱センサのうち少なくとも1本は、温度測定するための温度測定用熱センサである温度センサ。
【請求項2】
前記劣化検知用熱センサ及び前記温度測定用熱センサは、熱電対であり、
劣化検知用熱センサは、温度測定用熱センサに比べ相対的に断面積が小さい請求項1に記載の温度センサ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の温度センサを用いた温度計測システムにおいて、
前記温度測定用熱センサから出力される温度情報を取得する第一温度情報取得部と、
前記劣化検知用熱センサから出力される温度情報を取得する第二温度情報取得部と、
前記第一温度情報取得部と前記第二温度情報取得部が取得した温度情報を比較し、劣化検知用熱センサの劣化を判断する比較判断部と、
前記比較判断部の判断結果が、劣化しているという判断であった場合、劣化信号を発信する劣化信号発信部と、
からなる温度計測システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の温度センサを用いた温度計測システムにおいて、
前記温度測定用熱センサから出力される温度情報を取得する第一温度情報取得ステップと、
前記劣化検知用熱センサから出力される温度情報を取得する第二温度情報取得ステップと、
前記第一温度情報取得ステップと前記第二温度情報取得ステップにて取得した温度情報を比較し、劣化検知用熱センサの劣化を判断する比較判断ステップと、
前記比較判断ステップでの判断結果が、劣化しているという判断であった場合、劣化信号を発信する劣化信号発信ステップと、
からなる温度計測システムの動作方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−256166(P2010−256166A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106534(P2009−106534)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000133526)株式会社チノー (113)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000133526)株式会社チノー (113)
【Fターム(参考)】
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