説明

温度分布測定器

【課題】温度分布測定器において、AD変換器のリニアリティ誤差の影響を軽減させる。
【解決手段】光ファイバに光パルスを出射する光源と、光ファイバからのラマン散乱光を受光して電気信号に変換する受光部と、電気信号に加算するオフセット電圧を発生するオフセット電圧発生部と、オフセット電圧が加算された電気信号に応じたアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、AD変換器によって変換された複数個のデジタル信号を平均化する平均化回路と、平均化された信号に基づいて光ファイバの温度分布を演算する演算部とを備えた温度分布測定器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバにパルス光を入射したときに発生するラマン散乱光を用いて温度分布を測定する温度分布測定器に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバにパルス光を入射したときに発生するラマン散乱光を用いて温度分布を測定する温度分布測定器が知られている。図6は、従来の温度分布測定器の構成を示すブロック図である。本図に示すように温度分布測定器300は、センサ用光ファイバ200、パルス発生部310、光源320、方向性結合器330、フィルタ340、受光部350、受光部351、増幅器352、増幅器353、AD変換器354、AD変換器355、平均化回路360、演算部370を備えている。
【0003】
温度分布測定器300では、パルス発生部310が発生するパルス信号に基づいて、光源320から光パルスがセンサ用光ファイバ200に出射され、光パルスの後方散乱光がセンサ用光ファイバ200から戻ってくる。
【0004】
図7に示すように、波長λの入射光の後方散乱光には、波長λのレイリー散乱光、波長λ±数10nmのラマン散乱光、波長λ±数nmのブリルアン散乱光などが含まれる。温度分布測定器300は、これらの後方散乱光のうち、温度依存性が高いラマン散乱光を利用する。
【0005】
本図に示すように、ラマン散乱光には、光パルスの波長に対して短い波長側に発生するアンチストークス光と、長い波長側に発生するストークス光があり、その強度比は、温度変化に比例して変化する。温度分布測定器300は、この特性を利用して、センサ用光ファイバ200によって対象物の温度分布を測定する。
【0006】
温度分布測定器300は、方向性結合器330、フィルタ340を用いてストークス光とアンチストークス光を抽出し、受光部350、受光部351で受光する。ストークス光は、受光部350で電気信号に変換され、増幅器352、AD変換器354を経て平均化回路360に入力される。アンチストークス光は、受光部351で電気信号に変換され、増幅器353、AD変換器355を経て平均化回路360に入力される。
【0007】
後方散乱光は微弱であるため、光パルスの出射によるストークス光、アンチストークス光の測定は多数回繰り返し行ない、平均化回路360で、それぞれの測定結果を平均化することにより、温度測定分解能を上げるようにしている。そして、演算部370で、平均化されたストークス光とアンチストークス光の強度比が演算される。
【0008】
パルス光に対するストークス光とアンチストークス光の強度の時間変化は、センサ用光ファイバ200の経路長に対応するため、演算部370の演算によりセンサ用光ファイバ200が検出した温度分布を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−349792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ストークス光強度とアンチストークス光強度に対応したアナログ信号は、AD変換器354、AD変換器355でそれぞれデジタル化されるが、AD変換器354、AD変換器355が、リニアリティ誤差を有していると、測定結果の温度に誤差が生じ、特に、2地点の温度差を高精度に測定するような場合に問題が発生する。
【0011】
図8は、均一の温度分布を有する対象物を測定したときに、A/D変換器のリニアリティ誤差の影響を受けた場合の測定結果例を示している。本来であれば、すべての距離で均一の温度分布になるべきであるが、測定結果では温度がばらついている。
【0012】
そこで、本発明は、温度分布測定器において、AD変換器のリニアリティ誤差の影響を軽減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の温度分布測定器は、光ファイバに光パルスを出射する光源と、前記光ファイバからのラマン散乱光を受光して電気信号に変換する受光部と、前記電気信号に加算するオフセット電圧を発生するオフセット電圧発生部と、前記オフセット電圧が加算された前記電気信号に応じたアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、前記AD変換器によって変換された複数個の前記デジタル信号を平均化する平均化回路と、前記平均化された信号に基づいて前記光ファイバの温度分布を演算する演算部と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明では、オフセット電圧を加えた信号を用いてデジタル変換を行なった値を平均化するため、AD変換器のリニアリティ誤差の影響が分散されることになる。したがって、AD変換器のリニアリティ誤差の影響が軽減される。
【0015】
ここで、前記受光部および前記AD変換器は、ラマン散乱光のストークス光とアンチストークス光に対応して備えることができる。
【0016】
また、前記光源が出射する光パルスは、単一の光パルスの場合は、前記オフセット電圧発生部は、前記平均化回路が平均化を行なう期間において、総和がゼロになるように前記オフセット電圧を発生するようにする。これにより、平均化された値は、オフセット電圧の影響は受けないことになる。
【0017】
前記光源が出射する光パルスは、ゴーレイ符号を用いて符号変調された光パルス列とすることもできる。この場合、オフセット電圧の総和をゼロにする必要はない。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、温度分布測定器において、AD変換器のリニアリティ誤差の影響を軽減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係る温度分布測定器の構成を示すブロック図である。
【図2】オフセット電圧発生部が発生するオフセット電圧を説明する図である。
【図3】オフセット電圧を用いた場合の効果を説明する図である。
【図4】本実施形態の温度分布測定器の測定結果例を示す図である。
【図5】本実施形態の変形例を示す図である。
【図6】温度分布測定器の構成を示すブロック図である。
【図7】後方散乱光について説明する図である。
【図8】A/D変換器のリニアリティ誤差の影響を受けた測定結果例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る温度分布測定器の構成を示すブロック図である。本図に示すように温度分布測定器100は、従来と同様に、センサ用光ファイバ200、パルス発生部110、光源120、方向性結合器130、フィルタ140、受光部150、受光部151、増幅器152、増幅器153、AD変換器154、AD変換器155、平均化回路160、演算部170を備え、さらに、本実施形態の特徴部分として、オフセット電圧発生部180、加算器190、加算器191を備えている。
【0021】
本実施形態において、センサ用光ファイバ200は、GI型石英系マルチモード光ファイバが用いられており、対象物からの温度が効率よく伝わるよう敷設されているものとする。
【0022】
オフセット電圧発生部180は、図2(a)に示すように、光パルスの出射毎に値が変化するオフセット電圧を発生させる。オフセット電圧はなるべくランダムに変化するような任意の値とすることができる。ただし、図2(b)に示すように、N回のパルス出射によって光強度の平均値算出を算出する場合、オフセット値が光強度の平均値に表れるのを防ぐために、平均値算出期間でオフセット値の総和(平均値)がゼロになるように発生させる。
【0023】
オフセット電圧発生部180が発生させたオフセット値は、加算器190により受光部150が出力するストークス光信号に加算され、加算器191によって受光部151が出力するアンチストークス光信号に加算される。これにより、AD変換器154、AD変換器155がリニアリティ誤差を有していても、その影響が分散されることになる。
【0024】
なお、オフセット電圧発生部180が発生させるオフセット電圧は、それぞれの総和がゼロであれば、ストークス光に対する値と、アンチストークス光に対する値とが異なっていてもよい。
【0025】
この構成により、温度分布測定器100は、以下のような動作を行なう。すなわち、パルス発生部110が発生するパルス信号に基づいて光源120から光パルスがセンサ用光ファイバ200に出射され、光パルスの後方散乱光がセンサ用光ファイバ200から連続的に戻ってくる。
【0026】
後方散乱光は、方向性結合器130によってフィルタ140に導かれ、フィルタ140によって、ストークス光と、アンチストークス光に分離される。ストークス光は、受光部150で電気信号に変換され、加算器190によりオフセット電圧発生部180が出力するオフセット電圧が加算される。そして、増幅器152で増幅され、AD変換器154によってデジタル変換されて平均化回路160に入力される。
【0027】
アンチストークス光は、受光部151で電気信号に変換され、加算器191によりオフセット電圧発生部180が出力するオフセット電圧が加算される。そして、増幅器153で増幅され、AD変換器155によってデジタル変換されて平均化回路160に入力される。
【0028】
後方散乱光は微弱なため、光パルスの出射によるストークス光、アンチストークス光の測定はN回繰り返され、平均化回路160で、それぞれN回の測定結果が平均化される。このとき、光パルスの出射毎に、オフセット電圧発生部180は、最終的に総和がゼロになるようにオフセット電圧値をランダムに変化させる。なお、測定の繰り返し回数Nは、例えば、2の17乗以上程度の大きい値とすることができる。
【0029】
そして、演算部170で、平均化されたストークス光とアンチストークス光の強度比が距離ごとに演算され、センサ用光ファイバ200が敷設された対象物の温度分布を得ることができる。
【0030】
このように、本実施形態の温度分布測定器100では、AD変換器154、AD変換器155への入力信号として、ストークス光信号、アンチストークス信号に様々な値のオフセット電圧を加算した信号を用いることにより、AD変換器154、AD変換器155のリニアリティ誤差の影響が分散されることになる。この結果、AD変換器154、AD変換器155のリニアリティ誤差による温度分布測定への影響を少なくすることができる。
【0031】
例えば、図3(a)に示す光パルス信号の出射によって、図3(b)に示すようなストークス光あるいはアンチストークス光が得られる場合に、図3(b)中の領域aで示す電圧範囲で、AD変換器154あるいはAD変換器155のリニアリティ誤差が発生すると仮定すると、温度分布が均一であっても、ばらついた測定結果が得られてしまう。
【0032】
そこで、図3(c)に示すようなオフセット電圧を加えた信号を用いてデジタル変換を行なって平均化すると、図3(d)に示すように、AD変換器154、AD変換器155のリニアリティ誤差の影響が分散されることになる。しかも、オフセット電圧の総和はゼロとなるため、平均化された値は、オフセット電圧の影響は受けないことになる。
【0033】
この結果、温度分布が均一な対象物を測定した場合、図4に示すように、ばらつきの少ない、精度の高い温度分布測定結果を得ることができる。
【0034】
次に、本実施形態の変形例について説明する。上述の実施形態では、単一の光パルスを出射して後方散乱光を測定する場合について説明した。近年では、測定結果の温度分解能を高めるために、ゴーレイ符号(Golay code)を用いて符号変調した光パルス列をセンサ用光ファイバに出射し、センサ用光ファイバからの後方散乱光を受光して得られる受光信号に対して相関処理(復調)を施して温度分布を算出する温度分布測定器が実用化されている。本発明は、このような温度分布測定器にも適用することができる。
【0035】
本実施形態の変形例における温度分布測定器では、光パルス列がゴーレイ符号を用いて符号変調された光パルス列となるように、パルス発生部110が、光源120にパルス信号を出力する。ここで、nビット(例えば、64ビット)のゴーレイ符号は、2種類の符号列A:a,a,a…a、B:b,b,b…bであり、それぞれ(−1)と(+1)の要素からなる双極性相関符号である。
【0036】
ただし、光は負のパワーを有さないため、温度分布測定器は、A+、A−、B+、B−の4種類の符号列を用いて変調する。ここで、A+=(1+A)/2、B+=(1+B)/2、A−=(1−A)/2、B−=(1−B)/2である。そして、それぞれの変調時に受信した信号S(A+)、S(A−)、S(B+)、S(B−)と、変調コードの符号列(A,B)とを用いて、「数1」に示す式による相互相関を取ることで信号強度を演算する。
【数1】

なお、ゴーレイ符号のより詳細な内容については、必要であれば、Nazarathy Moshe,Newton Steven A.,Giffard R. P.,Moberly D. S.,Sischka F.,Trutna W. R. Jr.,Foster S.,"Real-time long range complementary correlation optical time domain reflectometer",Journal of Lightwave Technology,1989年1月,Vol.7,p.24−38を参照されたい。また、ゴーレイ符号の他に、例えば、バーカー符号(Barker code)を用いることもできる。
【0037】
温度分布測定器が、ゴーレイ符号を用いて符号変調された光パルス列を出射する場合、「数1」における受信信号S(X±)にオフセット値が加算されていたとしても、4種類のパルス列送信で同じオフセット値であれば、「数1」から導かれるように、そのオフセット分は差し引かれることになり、最終的な結果には影響しないことになる。
【0038】
このため、上述の実施形態では、オフセット値の総和をゼロにする必要があったが、ゴーレイ符号を用いて符号変調された光パルス列を出射する場合は、オフセット値の総和をゼロにする必要がなくなる。
【0039】
したがって、図5に示すように、4種類の符号列による光パルス列を1単位として、その単位に同期させてオフセット電圧を任意に変化させれば足りる。
【符号の説明】
【0040】
100…温度分布測定器、110…パルス発生部、120…光源、130…方向性結合器、140…フィルタ、150…受光部、151…受光部、152…増幅器、153…増幅器、154…AD変換器、155…AD変換器、160…平均化回路、170…演算部、180…オフセット電圧発生部、190…加算器、191…加算器、200…センサ用光ファイバ、300…温度分布測定器、310…パルス発生部、320…光源、330…方向性結合器、340…フィルタ、350…受光部、351…受光部、352…増幅器、353…増幅器、354…AD変換器、355…AD変換器、360…平均化回路、370…演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバに光パルスを出射する光源と、
前記光ファイバからのラマン散乱光を受光して電気信号に変換する受光部と、
前記電気信号に加算するオフセット電圧を発生するオフセット電圧発生部と、
前記オフセット電圧が加算された前記電気信号に応じたアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器によって変換された複数個の前記デジタル信号を平均化する平均化回路と、
前記平均化された信号に基づいて前記光ファイバの温度分布を演算する演算部と、を備えたことを特徴とする温度分布測定器。
【請求項2】
前記受光部および前記AD変換器は、ラマン散乱光のストークス光とアンチストークス光に対応して備えられていることを特徴とする請求項1に記載の温度分布測定器。
【請求項3】
前記光源が出射する光パルスは、単一の光パルスであり、
前記オフセット電圧発生部は、前記平均化回路が平均化を行なう期間において、総和がゼロになるように前記オフセット電圧を発生することを特徴とする請求項1または2に記載の温度分布測定器。
【請求項4】
前記光源が出射する光パルスは、ゴーレイ符号を用いて符号変調された光パルス列であることを特徴とする請求項1または2に記載の温度分布測定器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−242141(P2011−242141A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111713(P2010−111713)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】