説明

温度履歴データ作成・保存装置およびその方法

【課題】メモリ容量の低減化が図れる温度履歴データ作成・保存装置を提供する。
【解決手段】温度履歴データ作成・保存部22は、温度センサ8によって検出される温度Tを5分毎に取り込み、不揮発性メモリ20内の第1領域E1内に順次記憶させる。温度履歴データ作成・保存部22は、1時間分の温度データTiの累積値を、16段階のレベル値αのうちのいずれかに変換して、第2領域E1内に記憶させる。温度履歴データ作成・保存部22は、1日分のレベル値αjの平均値を、該当する日の1日単位のレベル値βとして算出し、第3領域E3に記憶させる。温度履歴データ作成・保存部22は、1ケ月分のレベル値βkの平均値を、該当する月の1ケ月単位のレベル値γとして算出し、第4領域E4に記憶させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、温度履歴データを作成して保存する温度履歴データ作成・保存装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、パワーステアリングシステムの設計品質の向上を図るために、実際に市場で使用された部品の返却品(市場返却品)と、ベンチ試験装置によって耐久試験等のベンチ試験を受けた部品(試験終了品)とを比較することによって、ベンチ試験に基づく設計品質の評価方法の妥当性を確認するといったことが行われている。具体的には、走行距離に対する各構成部品の磨耗量、走行距離に対する樹脂部品、ゴム部品、グリス等の劣化度合い、走行距離に対する錆の侵食度合い等が、市場返却品と試験終了品との間で比較される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-62271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、市場返却品に関する情報は、走行距離および走行地域のみである場合がほとんどある。しかしながら、市場返却品から走行距離および走行地域に対する市場返却品の磨耗量や劣化度合いの関係が得られても、市場返却品と試験終了品との間において磨耗量や劣化度合いに差が生じる原因を特定できない場合がある。
そこで、樹脂部品、ゴム部品、グリス等の劣化度合いに大きな影響を与えると想定される温度の履歴を、市場返却品に関する情報に加えることが考えられる。しかしながら、長期間にわたって温度履歴をメモリに記憶するためには、容量の大きなメモリが必要となる。
【0005】
この発明の目的は、メモリ容量の低減化が図れる温度履歴データ作成・保存装置およびその方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための請求項1に記載の発明は、所定の1番目の単位時間毎に、温度を検出または推定してメモリ(20)に記憶する第1手段(22)と、前記1番目の単位時間より大きい所定の2番目の単位時間毎に、当該2番目の単位時間内に前記メモリに記憶された前記1番目の単位時間毎の複数の温度の平均値または累積値に対してレベル付けを行い、そのレベル付結果であるレベル値を前記メモリに記憶する第2手段(22)と、nをその初期値である2から始まる2以上の自然数として、n番目の単位時間より大きい(n+1)番目の単位時間毎に、前記(n+1)番目の単位時間内に前記メモリに記憶された前記n番目の単位時間毎の複数のレベル値に基づいて、当該(n+1)番目の単位時間に対応したレベル値を演算して前記メモリに記憶する処理を少なくともnの初期値に対して行なうことにより、所定の最大単位時間毎のレベル値が前記メモリに記憶されるようにする第3手段(22)とを含む、温度履歴データ作成・保存装置である。なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、むろん、この発明の範囲は当該実施形態に限定されない。以下、この項において同じ。
【0007】
この発明によれば、所定の最大単位時間毎のレベル値(温度履歴データ)をメモリに記憶させることができる。また、所定の最大単位時間より小さい単位時間毎の温度履歴データに関しては、それぞれ、それより1段階大きい単位時間に対応した温度履歴データを作成するために使用された後はメモリに保存しておく必要がないので、これらの温度履歴データを記憶するためのメモリ容量を少なくすることができる。このため、メモリの容量を少なくできる。
【0008】
請求項2記載の発明は、所定の1番目の単位時間毎に、温度を検出または推定してメモリに記憶する第1ステップと、前記1番目の単位時間より大きい所定の2番目の単位時間毎に、当該2番目の単位時間内に前記メモリに記憶された前記1番目の単位時間毎の複数の温度の平均値または累積値に対してレベル付けを行い、そのレベル付結果であるレベル値を前記メモリに記憶する第2ステップと、nをその初期値である2から始まる2以上の自然数として、n番目の単位時間より大きい(n+1)番目の単位時間毎に、前記(n+1)番目の単位時間内に前記メモリに記憶された前記n番目の単位時間毎の複数のレベル値に基づいて、当該(n+1)番目の単位時間に対応したレベル値を演算して前記メモリに記憶する処理を少なくともnの初期値に対して行なうことにより、所定の最大単位時間毎のレベル値が前記メモリに記憶されるようにする第3ステップとを含む、温度履歴データ作成・保存方法である。この発明によれば、請求項1記載の発明と同様な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る温度履歴データ作成・保存装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、不揮発性メモリの内容を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、この発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る温度履歴データ作成・保存装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を示すブロック図である。
この電動パワーステアリング装置(EPC:Electric Power Steering)は、トルクセンサ1と、車速センサ2と、電動モータ3と、回転角センサ4と、電流センサ5,6,7と、温度センサ8と、ECU(Electronic Control Unit)9とを備えている。
【0011】
トルクセンサ1は、車両のステアリングホイール等の操舵部材に加えられる操舵トルクを検出するためのセンサである。車速センサ2は、車両の速度を検出するためのセンサである。電動モータ3は、車両の舵取り機構(図示せず)に減速機構(図示せず)を介して操舵補助力を与えるためのモータである。電動モータ3は、この実施形態では、3相ブラシレスモータであり、界磁としてのロータ(図示せず)と、ロータに対向するステータ(図示せず)に配置されたU相、V相、W相のステータ巻線(図示せず)とを備えている。
【0012】
回転角センサ4は、電動モータ3のロータの回転角を検出するためのセンサである。回転角センサ4は、例えばレゾルバである。電流センサ5,6,7は、電動モータ3に流れる電流(モータ電流)を検出するためのセンサである。温度センサ8は、電動モータ3の周辺温度を検出するためのセンサである。
ECU9は、マイクロコンピュータ11と、マイクロコンピュータ11によって制御され、電動モータ5に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)12とを含んでいる。マイクロコンピュータ11は、CPU、ROM、RAM、不揮発性メモリ20を備えており、所定のプログラムを実行することにより、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、モータ制御部21と、温度履歴データ作成・保存部22とを含んでいる。
【0013】
モータ制御部21は、トルクセンサ1が検出する操舵トルクおよび車速センサ2が検出する車速に基づいて、操舵トルクおよび車速に応じたモータトルクを電動モータ3から発生させるための電流指令値を演算する。そして、モータ制御部21は、電流指令値、回転角センサ4よって検出されるロータ回転角および電流センサ5,6,7によって検出されるモータ電流に基づいて、電動モータ3に流れる電流が電流指令値と等しくなるように、駆動回路12を制御する。これにより、操舵状況および車速に応じた適切な操舵補助が実現される。
【0014】
温度履歴データ作成・保存部22は、温度センサ8によって検出される温度に基づいて、温度履歴データを作成して、不揮発性メモリ20に記憶させる。なお、この実施形態では、イグニッションキーが挿入されているか否かにかかわらず、温度履歴データ作成・保存部22は、常時、作動しているものとする。また、この実施形態では、不揮発性メモリ20に最終的に保存すべき所望の温度履歴データが、月単位の温度履歴データである場合について説明する。
【0015】
不揮発性メモリ20内には、図2に示すように、第1領域E1、第2領域E2、第3領域E3および第4領域E4が設けられている。
温度履歴データ作成・保存部22は、温度センサ8によって検出される温度Tを5分(1番目の単位時間)毎に取り込み、不揮発性メモリ20内の第1領域E1内に順次記憶させる。この実施形態では、第1領域E1は、1時間(2番目の単位時間)分の温度データTi(i=1,2,…,12)を記憶するための記憶領域を有している。1時間分の温度データTiが第1領域E1に記憶されている状態において、次の温度データが読み込まれたときには、読み込まれた温度データは、既に温度データが書き込まれている記憶領域に上書きされる。つまり、第1領域E1には、5分間隔で読み込まれた温度データが1時間単位で循環的に記憶される。
【0016】
任意の時刻に対する1時間分の温度データTiが第1領域E1に記憶されると、温度履歴データ作成・保存部22は、当該1時間分の温度データTiの累積値ΣTiを、予め設定された累積値−レベル値変換テーブルを用いて、16段階のレベル値α(0〜15)(以下、「第1レベル値α」という)のうちのいずれかに変換する。そして、変換された第1レベル値αを、第2領域E1内に記憶させる。なお、累積値−レベル値変換テーブルは、累積値ΣTiが取りうる範囲を16段階の小範囲に分け、各小範囲に累積値ΣTiが小さいものから順に0〜15の第1レベル値αを割り当てたテーブルである。
【0017】
この実施形態では、第2領域E2は、1日(3番目の単位時間)分の第1レベル値αj(j=1,2,…,24)を記憶するための記憶領域を有している。1日分の第1レベル値αjが第2領域E2に記憶されている状態において、次の1時間単位に対応する第1レベル値αが求められたときには、当該第1レベル値αは既に第1レベル値αが書き込まれている記憶領域に上書きされる。つまり、第2領域E2には、1時間単位毎に求められる第1レベル値αが1日単位で循環的に記憶される。
【0018】
任意の日に対する1日分の第1レベル値αj(j=1,2,…,24)が第2領域E2に記憶されると、温度履歴データ作成・保存部22は、当該1日分の第1レベル値αjの平均値を、当該日の1日単位のレベル値β(以下、「第2レベル値β」という)として算出し、第3領域E3に記憶する。
この実施形態では、第3領域E3は、1ケ月(4番目の4単位時間。所定の最大単位時間に相当する。)の最大日数分の第2レベル値βk(k=1,2,…,31)を記憶するための記憶領域を有している。1カ月分の第2レベル値βkが第3領域E3に記憶されている状態において、次の1日単位に対応する第2レベル値βが求められたときには、当該第2レベル値βは既に第2レベル値βが書き込まれている記憶領域に上書きされる。つまり、第3領域E3内には、1日単位毎に求められる第2レベル値βが1ケ月単位で循環的に記憶される。
【0019】
任意の月に対する1ケ月分の第2レベル値βkが第3領域E3に記憶されると、温度履歴データ作成・保存部22は、当該1ケ月分の第2レベル値βkの平均値を、当該月の1ケ月単位のレベル値γ(以下、「第3レベル値γ」という)として算出し、第4領域E4に記憶する。
第4領域E4は、複数月分の第3レベル値γm(m=1,2,…)を記憶するための記憶領域を有している。つまり、第4領域E4には、月単位の温度履歴データである第3レベル値γmが順次記憶されていく。
【0020】
不揮発性メモリ20に記憶された月単位(所定の最大単位時間)の温度履歴データ(第3レベル値γm)は、必要なときに、読み取り可能となっている。したがって、当該電動パワーステアリング装置の構成部品が市場返却品として取り外されるときに、不揮発性メモリ20に記憶された月単位の温度履歴データを読み取ることにより、当該市場返却品に関する情報として月単位の温度履歴データを付加することができる。
【0021】
また、月単位より小さい単位時間の温度履歴データT、αおよびβに関しては、それぞれ、それより1段階大きい単位時間に対応した温度履歴データα、βおよびγを作成するために使用された後は不揮発性メモリ20に保存しておく必要がない。このため、月単位より小さい単位時間の温度履歴データT、αおよびβを記憶するためのメモリ容量を少なくすることができるから、不揮発性メモリ20の容量が少なくて済む。
【0022】
より具体的に説明すると、5分単位の温度履歴データTiを記憶するための第1領域E1としては、少なくとも1時間分の温度履歴データTiを記憶するための容量があればよい。また、1時間単位の温度履歴データαjを記憶するための領域E2としては、少なくとも1日分の温度履歴データαjを記憶するための容量があればよい。また、1日単位の温度履歴データβkを記憶するための領域E3としては、少なくとも1月分の温度履歴データβkを記憶するための容量があればよい。このため、温度履歴データを記憶するための不揮発性メモリ20の容量が少なくて済む。
【0023】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。たとえば、前述の実施形態では、電動モータ3の周辺温度を検出するための温度センサ8の検出温度に基づいて、温度履歴データが作成されているが、電動パワーステアリング装置における所定の部品連結部付近の温度を検出するための温度センサの検出温度に基づいて、温度履歴データを作成するようにしてもよい。
【0024】
また、図1に破線で示すように、電流センサ5,6,7によって検出されるモータ電流等に基づいて、電動モータ3の温度を推定する温度推定部23を設け、温度推定部23によって推定される温度に基づいて温度履歴データを作成するようにしてもよい。温度推定部23としては、たとえば、特開2007−181330号公報に開示された温度推定手段、特開2007−267548号公報に開示された方法で電動モータの温度を推定するものなどを用いることができる。
【0025】
また、前述の実施形態では、温度履歴データ作成・保存部22は、1時間分の温度データTiの累積値ΣTiを、予め設定された累積値−レベル値変換テーブルを用いて、16段階のレベル値α(0〜15)のうちのいずれかに変換しているが、1時間分の温度データTiの平均値を、予め設定された平均値−レベル値変換テーブルを用いて、16段階のレベル値α(0〜15)に変換するようにしてもよい。
【0026】
また、前述の実施形態では、前記1番目の単位時間は、5分であるが任意の時間に設定することができる。また、前記2番目の単位時間は、1時間であるが、前記1番目の単位時間より長い時間であれば、任意の時間に設定することができる。同様に、前記3番目の単位時間は、1日であるが、前記2番目の単位時間より長い時間であれば、任意の時間に設定することができる。同様に、前記4番目の単位時間は、1ケ月であるが、前記3番目の単位時間より長い時間であれば、任意の時間に設定することができる。
【0027】
また、前述の実施形態では、不揮発性メモリ20に最終的に保存すべき所望の温度履歴データが、月単位の温度履歴データである場合について説明したが、不揮発性メモリ20に最終的に保存すべき所望の温度履歴データは、月単位以外の単位時間の温度履歴データであってもよい。
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0028】
11…マイクロコンピュータ、20…不揮発性メモリ、22…温度履歴データ作成・保存部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の1番目の単位時間毎に、温度を検出または推定してメモリに記憶する第1手段と、
前記1番目の単位時間より大きい所定の2番目の単位時間毎に、当該2番目の単位時間内に前記メモリに記憶された前記1番目の単位時間毎の複数の温度の平均値または累積値に対してレベル付けを行い、そのレベル付結果であるレベル値を前記メモリに記憶する第2手段と、
nをその初期値である2から始まる2以上の自然数として、n番目の単位時間より大きい(n+1)番目の単位時間毎に、前記(n+1)番目の単位時間内に前記メモリに記憶された前記n番目の単位時間毎の複数のレベル値に基づいて、当該(n+1)番目の単位時間に対応したレベル値を演算して前記メモリに記憶する処理を少なくともnの初期値に対して行なうことにより、所定の最大単位時間毎のレベル値が前記メモリに記憶されるようにする第3手段とを含む、温度履歴データ作成・保存装置。
【請求項2】
所定の1番目の単位時間毎に、温度を検出または推定してメモリに記憶する第1ステップと、
前記1番目の単位時間より大きい所定の2番目の単位時間毎に、当該2番目の単位時間内に前記メモリに記憶された前記1番目の単位時間毎の複数の温度の平均値または累積値に対してレベル付けを行い、そのレベル付結果であるレベル値を前記メモリに記憶する第2ステップと、
nをその初期値である2から始まる2以上の自然数として、n番目の単位時間より大きい(n+1)番目の単位時間毎に、前記(n+1)番目の単位時間内に前記メモリに記憶された前記n番目の単位時間毎の複数のレベル値に基づいて、当該(n+1)番目の単位時間に対応したレベル値を演算して前記メモリに記憶する処理を少なくともnの初期値に対して行なうことにより、所定の最大単位時間毎のレベル値が前記メモリに記憶されるようにする第3ステップとを含む、温度履歴データ作成・保存方法。

【図1】
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【図2】
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