説明

温度計測方法

【課題】広い温度範囲に渡り高精度な計測を可能にする温度センサーを提供する事。
【解決手段】温度センサーは、温度の計測条件を第一条件へと設定する設定ステップと、計測条件にて第一の温度計測を命ずる命令ステップと、第一の温度計測の終了か第二の温度計測の実行かを判断する判断ステップと、第二の温度計測の計測条件を再設定する再設定ステップとを有する。計測される温度が第一の温度計測の計測範囲外にあった際に、第二の温度計測を異なった計測範囲にて行い、各計測範囲にて温度計測は精密になされるので、広い温度範囲に渡って精密な温度計測を行う事ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体表面の温度を計測する温度計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の温度計測方法は、例えば、特許文献1に記載されている様な面状温度センサーが
用いられていた。面状温度センサーでは、計測セルが行列状に配置され、各計測セル内で
薄膜トランジスターと抵抗体とが直列接続されていた。抵抗体の電気抵抗は温度依存性を
持つので、これを利用して温度が計測された。具体的には、計測の際に、薄膜トランジス
ターをオン状態とした上で、抵抗体に電流を通し、その電流値(抵抗体の電気抵抗)の変
化を計測して、各計測セルの温度を計測していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−170642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の面状温度センサーを用いた温度計測方法は、計測それ自体が温度
変動を招き、計測結果に信頼感を抱けないという課題があった。即ち、電気抵抗を測定す
る抵抗体と薄膜トランジスターとが直接結ばれており、しかも薄膜トランジスターをオン
状態として計測する為に、薄膜トランジスターの自己発熱が抵抗体の温度を上げ、正確な
温度計測の妨げとなっていた。加えて、電気抵抗の温度依存性が弱い為に、従来の面状温
度センサーを用いた温度計測方法は、僅かな温度変化の計測を行いがたいという課題があ
った。この様に、従来の面状温度センサーを用いた温度計測方法は、計測結果に信頼感を
抱けず、計測分解能も低いという課題があった。換言すれば、高性能で実用的な温度計測
方法が存在しない、という課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決する為になされたものであり、以下の形態
又は適用例として実現する事が可能である。
【0006】
(適用例1) 本適用例に係わる温度計測方法は、薄膜トランジスターをオン状態とし
、薄膜トランジスターに接続される容量素子の一端を初期電位に充電する第一工程と、薄
膜トランジスターのゲート電極に第一電位を供給して薄膜トランジスターを第一オフ状態
とし、第一オフ状態を維持する第二工程と、一端の電位を検出する第三工程と、を有し、
第一工程、第二工程、及び第三工程を実行した結果、一端の電位が初期電位の95%から
100%の範囲にある場合には、更に、第一工程と、ゲート電極に第二電位を供給して薄
膜トランジスターを第二オフ状態とし、第二オフ状態を維持する第四工程と、第三工程と
、を行う事を特徴とする。
薄膜トランジスターはマイクロメーター単位で形成できるため、この構成によれば、空
間分解能が数マイクロメーターと極めて高い温度センサーを実現できる。又、この構成に
よれば、温度の計測期間と計測結果の出力期間とを分ける事ができるので、計測時に薄膜
トランジスターが自己発熱することなく、正確な温度測定が実現する。更に、計測される
温度が最初の温度計測の計測範囲外にあった際に、次の温度計測を異なった計測範囲にて
行い、各計測範囲にて温度計測は精密になされるので、広い温度範囲に渡って精密な温度
計測を行う事ができる。換言すれば、高性能で実用的な温度計測方法を提供できる。
【0007】
(適用例2) 上記適用例に係わる温度計測方法において、第一電位より第二電位の方
が低い事が好ましい。
低温の計測には時間が掛かるが、この構成によれば、二回目の温度計測が低温の計測を
対象としているので、平均すると比較的短時間で精密な温度計測を広い範囲で行う事がで
きる。
【0008】
(適用例3) 上記適用例に係わる温度計測方法において、第二工程の期間より第四工
程の期間の方が長い事が好ましい。
この構成によれば、一回目の温度計測が短時間ので、平均すると比較的短時間で精密な
温度計測を行う事ができる。
【0009】
(適用例4) 上記適用例に係わる温度計測方法において、第一工程、第四工程、及び
第三工程を実行した結果、一端の電位が初期電位の95%から100%の範囲にある場合
には、更に、第一工程と、ゲート電極に第三電位を供給して薄膜トランジスターを第三オ
フ状態とし、第三オフ状態を維持する第五工程と、第三工程と、を行う事が好ましい。
この構成によれば、計測される温度が一回目や二回目の温度計測の計測範囲外にあった
際に、更に三回目の温度計測を異なった計測範囲にて行い、各計測範囲にて温度計測は精
密になされるので、広い温度範囲に渡って精密な温度計測を行う事ができる。
【0010】
(適用例5) 上記適用例に係わる温度計測方法において、第二電位より、第三電位の
方が低い事が好ましい。
低温の計測には時間が掛かるが、この構成によれば、一回目、二回目、三回目と温度計
測が進むに従い、より低温の計測を対象として行くので、平均すると比較的短時間で精密
な温度計測を広い範囲で行う事ができる。
【0011】
(適用例6) 上記適用例に係わる温度計測方法において、第四工程の期間より第五工
程の期間の方が長い事が好ましい。
この構成によれば、一回目、二回目、三回目と温度計測が進むに従い、計測時間が長く
なって行くので、平均すると比較的短時間で精密な温度計測を広い範囲で行う事ができる

【0012】
(適用例7) 上記適用例に係わる温度計測方法において、薄膜トランジスターと容量
素子とを計測セルに備えた温度センサーを用い、温度センサーは、第一の方向に沿って配
置され、計測セルを選択する第一選択回路を備え、計測セルは第一の方向に沿って複数個
配置される事が好ましい。
この構成によれば、計測セルを第一の方向に複数個配置して、個別に選択するので、第
一の方向に関する温度の空間分布を計測できる。従って、温度が第一の方向に沿って異な
っていても、温度を場所の関数として定量的に正確に計測できる。
【0013】
(適用例8) 上記適用例に係わる温度計測方法において、更に、温度センサーは、第
一の方向と交差する第二の方向に沿って配置され、計測セルを選択する第二選択回路を備
え、計測セルは第二の方向に沿って複数個配置される事が好ましい。
この構成によれば、計測セルを第二の方向に複数個配置して、個別に選択するので、第
二の方向に関する温度の空間分布を計測できる。従って、温度が第二の方向に沿って異な
っていても、温度を場所の関数として定量的に正確に計測できる。
【0014】
(適用例9) 上記適用例に係わる温度計測方法において、更に、計測セルは第一薄膜
トランジスターと第二薄膜トランジスターとを備え、第一薄膜トランジスターと第二薄膜
トランジスターとは差動トランジスター対をなし、第一薄膜トランジスターのゲート電極
は薄膜トランジスターのソース電極又はドレイン電極の一方に接続される事が好ましい。
この構成によれば、各計測セルに差動トランジスター対が設けられている為に、面状の
温度センサーが大面積となっても、高精細になっても、高精度に温度を計測する事ができ
る。
【0015】
(適用例10) 上記適用例に係わる温度計測方法において、更に、温度センサーは、
第三薄膜トランジスターと第四薄膜トランジスターとを備え、第三薄膜トランジスターは
第一薄膜トランジスターに接続され、第四薄膜トランジスターは第二薄膜トランジスター
に接続され、第三薄膜トランジスターと第四薄膜トランジスターとは、第一選択回路及び
第二選択回路にて制御される事が好ましい。
この構成によれば、第三薄膜トランジスターと第四薄膜トランジスターとが第一の方向
及び第二の方向での選択回路の一部として機能するので、第一の方向及び第二の方向に於
ける温度の情報が干渉する事を防げる。
【0016】
(適用例11) 上記適用例に係わる温度計測方法において、更に、温度センサーは、
第五薄膜トランジスターと第六薄膜トランジスターとを備え、第五薄膜トランジスターと
第六薄膜トランジスターとはカレントミラー対をなし、第一薄膜トランジスターと第五薄
膜トランジスターとの間に第三薄膜トランジスターが配置され、第二薄膜トランジスター
と第六薄膜トランジスターとの間に第四薄膜トランジスターが配置される事が好ましい。
この構成によれば、薄膜トランジスター群がカレントミラー型差動増幅回路を構成する
ので、温度を電圧に変換した上で増幅できる。即ち、温度を正確に計測できる。
【0017】
(適用例12) 上記適用例に係わる温度計測方法において、更に、温度センサーは、
第一電源と第二電源と第七薄膜トランジスターとを備え、第一薄膜トランジスターと第二
薄膜トランジスターとは第一電源に接続され、第五薄膜トランジスターと第六薄膜トラン
ジスターとは第七薄膜トランジスターに接続され、第七薄膜トランジスターは第二電源に
接続される事が好ましい。
この構成によれば、第七薄膜トランジスターが定電流源と成り得るので、第一薄膜トラ
ンジスターのゲート電位の増幅が線型となり、温度を正確に計測できる。
【0018】
(適用例13) 上記適用例に係わる温度計測方法において、第五薄膜トランジスター
と第六薄膜トランジスターと第七薄膜トランジスターとがN型であり、第二電源が負電源
である事が好ましい。
この構成によれば、N型の薄膜トランジスターで温度センサーを実現できる。
【0019】
(適用例14) 上記適用例に係わる温度計測方法において、第五薄膜トランジスター
と第六薄膜トランジスターと第七薄膜トランジスターとがP型であり、第二電源が正電源
である事が好ましい。
この構成によれば、P型の薄膜トランジスターで温度センサーを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態1に係わる温度センサーを模式的に示す斜視外観図。
【図2】実施形態1に係わる温度センサーの計測原理を説明する図。
【図3】実施形態1に係わる温度センサーの回路を説明する図。
【図4】実施形態1に係わる温度センサーにて温度を計測する際のタイミングチャートを説明する図。
【図5】実施形態1に係わる温度センサーにて温度を計測する際の計測ステップを説明する図。
【図6】実施形態1に係わる温度センサーにて温度を計測する際の測温期間を説明する図。
【図7】実施形態1に係わる温度センサーにて温度を計測する際の等価回路図。
【図8】実施形態1に係わる温度センサーで使用される各種回路の平面レイアウトを説明する図で、(a)は出力回路、(b)は列選択トランジスター、(c)は計測セル。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、図面を用いて説明する。尚、以下の図面においては、各層
や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとする為、各層や各部材毎に縮尺を異ならし
めてある。
【0022】
(実施形態1)
「温度センサーの概要」
図1は、本実施形態に係わる温度センサーを模式的に示す斜視外観図である。以下、図
1を用いて、まず温度センサーの概要を説明する。
【0023】
本実施形態に係わる温度センサー1は、外部コントローラー7と基板2、及びケーブル
72とを有している。ケーブル72は外部コントローラー7と基板2とを電気的に接続す
る。外部コントローラー7は温度の計測を制御する制御装置71や、必要に応じて、他の
電子機器とのインターフェースや電源などを有している。制御装置71は中央演算装置(
CPU)や記憶装置(メモリー)などから構成され、温度計測に関する各種プログラムを
実行する。
【0024】
温度センサー1は、柔軟なプラスチックフィルムなどの可撓性を有する基板2を利用し
ている。基板2には計測セル(i,j)が行列状に複数個配置され、計測回路3をなして
いる。各計測セルには薄膜トランジスターT0(以降単にT0と略称する事がある)と容
量素子Cpとが備えられている(図3参照)。尚、本願では、薄膜トランジスターT0と
その他の薄膜トランジスターとを区別する為に、この薄膜トランジスターを計測用薄膜ト
ランジスターT0と命名する。容量素子Cpは計測用薄膜トランジスターT0のソース電
極又はドレイン電極の一方に接続されている。トランジスターのソース電極とドレイン電
極とは電位に応じて入れ替わるが、以降は説明の便宜上、容量素子Cpが接続している電
極を、計測用薄膜トランジスターT0のドレイン電極とする。温度は、充電工程と検出工
程とを用いて計測される。第一工程は充電工程で、計測用薄膜トランジスターをオン状態
にし、容量素子Cpの一端を初期電位(ここでは第一電極を正電源電位Vdd)に充電する
。次いで第二工程として、計測用薄膜トランジスターT0のゲート電極に第一電位を供給
する事で、T0を第一オフ状態とする。T0をオフ状態として維持している期間が温度の
計測期間に相当する。計測期間には、T0のオフ電流により容量素子Cpの電位は増減す
る。この現象を利用して、温度が計測される。主には容量に充電した電荷がオフ電流で減
少する現象を利用して温度が計測されるが、これとは反対に、空の容量にオフ電流で充電
する現象を利用して温度計測を行っても良い。計測期間が終了した後に容量素子Cpの一
端の電位を検出するのが第三工程で、第二工程と第三工程とを合わせて検出工程となる。
検出工程にて検出された電位を第一高電位と呼ぶ。この第一高電位が初期電位と異なって
居れば(第一高電位が初期電位の95%未満で有れば)、この第一高電位に対応する温度
が照会される。一方、第一高電位が初期電位とほぼ等しければ(第一高電位が初期電位の
95%以上100%以下の範囲にある場合には)、充電工程と検出工程とを繰り返す。こ
の際に、計測期間にT0のゲート電極に供給する電位を第一電位とは異なる第二電位とす
る。こうして計測用薄膜トランジスターT0が配置されている部位の温度が計測される。
【0025】
図1に戻って説明を続ける。
基板2には、計測回路3の他に、出力回路4と、第一選択回路51と、第一処理回路5
2と、第二選択回路61と、第二処理回路62と、が設けられている。計測回路3に配置
された複数の計測セルは、計測回路3の外周部に配置された第一選択回路51と第二選択
回路61とにより、順次選択される。基板2の一辺を第一の方向(x軸に平行な方向で、
行方向とする)とし、第一の方向と交差する(ほぼ直交する)別の方向を第二の方向(y
軸に平行な方向で、列方向とする)とすると、第一選択回路51と第一処理回路52とは
、計測回路3の外側で第一の方向に沿って形成され、第二選択回路61と第二処理回路6
2とは、計測回路3の外側で第二の方向に沿って形成される。計測セルは第一の方向に沿
って複数個形成されると共に、第一選択回路51によって、第一の方向で選択される。同
様に、計測セルは第二の方向に沿って複数個形成されると共に、第二選択回路61によっ
て、第二の方向で選択される。選択された計測セルは出力回路4と接続され、温度計測が
なされる。こうして行列状に配置された計測セルにて順次温度が測定され、温度に関する
面分布が得られる。
【0026】
「計測原理」
図2は、本実施形態に係わる温度センサーの計測原理を説明する図である。以下、図2
を参照して、温度を計測する原理を説明する。
【0027】
図2は、N型薄膜トランジスターの伝達特性が温度依存性を有する様子を示している。
トランジスターの伝達特性は、一般にオン状態とオフ状態と閾値下状態とに分類される。
オン状態とは、チャンネル形成領域の少なくとも一部にチャネルが形成され、ドレインコ
ンダクタンスが高い状態である。即ち、ゲート電圧が閾値電圧よりも高く、図2の場合、
ゲート電圧が閾値電圧の1.5V程度以上である。シリコンを用いた薄膜トランジスター
では、チャネルはソースドレイン領域と同一伝導型になっている。オン状態に於けるソー
スドレイン電流をオン電流という。オフ状態とは、整流作用が働いている状態で、ドレイ
ンコンダクタンスが低い状態である。シリコンを用いた薄膜トランジスターでは、チャン
ネル形成領域が真性又はソースドレイン領域と逆伝導型になっており、ドレイン端のPN
接合には逆バイアスが印加されている。オフ状態でのゲート電圧は、伝達特性が急激に立
ち上がる電圧(図2の場合、ゲート電圧が0V程度)よりも低くなっている。オフ状態に
於けるソースドレイン電流をオフ電流という。閾値下状態とは、オン状態とオフ状態との
間の状態で、図2の場合、ゲート電圧が0V程度から1.5V程度の間に有る状態である
。以上が一般の定義であるが、本願のオフ状態とは一般のオフ状態と閾値下状態とを含み
、一般のオン状態以外の状態を指す。即ち、本願のオフ状態とはゲート電圧が閾値電圧よ
りも低い状態を指す。ゲート電圧が閾値電圧より低いとは、N型薄膜トランジスターでは
ゲート電圧が閾値電圧よりもマイナス側に有る事を意味し、P型薄膜トランジスターでは
ゲート電圧が閾値電圧よりもプラス側に有る事を意味する。尚、ゲート電圧Vgsとは、ソ
ース電位に対するゲート電位である。以下、本明細書では、ゲート電極に印加されるとト
ランジスターにオン状態をもたらす電位を高電位と呼び、オフ状態をもたらすゲート電位
を低電位と呼ぶ。
【0028】
オン状態もオフ状態も、いずれも温度依存性を有するが、オフ状態に於ける温度依存性
が強い。これはオフ電流値がフェルミ関数の広がりに対して最も敏感に変化する為である
。オフ電流は、電子−正孔対の熱生成や、プールフレンケル効果を伴うフォノンアシステ
ッドトネリング、バンド間トネリングなどの機構に起因する。フェルミ関数は、僅かな温
度変化でも指数関数的に変化して、これらの機構(取り分け、電子−正孔対の熱生成やプ
ールフレンケル効果を伴うフォノンアシステッドトネリング)に強く影響する。その為に
オフ電流値の温度依存性は極めて強くなる。実際に図2から、200℃のオフ電流は50
℃のオフ電流の千倍程度になっている事が判る。これに対して、同じ温度変化の際にオン
電流は数倍しか増えていない。即ち、オフ電流は温度に対してオン電流よりも1000倍
近く敏感で有る事になる。大雑把に云って、温度が50℃上昇する毎にオフ電流は10倍
になり、従って温度が5℃上昇しただけで、オフ電流は26%も増加する。要するにほん
の僅かの温度変化であっても、オフ電流値は計測可能な大きな変化を示すので、高精度な
温度計測が実現する事になる。
【0029】
温度は、最初に容量に充電した電荷がオフ電流により増減する現象を利用して、計測さ
れる。計測用薄膜トランジスターT0のオフ電流は温度に応じて激しく変化するので、温
度に応じて容量に蓄積された電荷量も変化する。この電荷量の変化(又は容量電位の変化
)を計量する事で温度が計測される。本実施形態では、容量電位を第一薄膜トランジスタ
ーT1のゲート電位とし、これが第二薄膜トランジスターのゲート電位と比較される。即
ち、第二薄膜トランジスターT2は基準トランジスターとして動作している。両ゲート電
位間の相違は差動増幅され、計測セルに於ける温度は電圧値又は電流値として出力される

【0030】
「回路」
図3は、本実施形態に係わる温度センサーの回路を説明する図である。以下、図3を参
照して、温度センサーの回路を説明する。尚、N型薄膜トランジスターのソースドレイン
は、両者を比較して電位の高い方がドレインになり、電位の低い方がソースとなる。参考
の為に、図3には各薄膜トランジスターのソースドレインをそれぞれsとdとで記載して
ある。
【0031】
まず図1を用いて説明する。
温度センサー1は計測回路3と出力回路4、第一選択回路51、第一処理回路52、第
二選択回路61、第二処理回路62とを有する。計測回路3には計測セル(i,j)がM
行N列の行列状に配置されている。MとNは1以上の整数である(1≦i≦M、1≦j≦
N)。第一選択回路51は第一の方向に関してM行の行線R(i)から特定の一本の行線
を選択する。従って、第一選択回路51は行選択回路でもある。第一選択回路51にはシ
フトレジスターやデコーダーが使用される。第一処理回路52は第一選択回路51からの
選択信号を計測に適する様に加工する。具体的には選択電位を変換するレベルシフターや
、高速で安定的に行線を選択する様にバッファーを備える。第二選択回路61は第二の方
向に関してN列の列線C(j)から特定の一本の列線を選択する。従って、第二選択回路
61は列選択回路でもある。第二選択回路61にはシフトレジスターやデコーダーが使用
される。第二処理回路62は第二選択回路61からの選択信号を計測に適する様に加工す
る。具体的には選択電位を変換するレベルシフターや、高速で安定的に列線を選択する様
にバッファーを備える。
【0032】
図3に戻って説明を続ける。
第二処理回路62は、上述の回路の他に、列選択トランジスターT3CとT4Cとを含
む。列選択トランジスターT3CとT4Cとは、列毎にペアとなって設けられる。出力回
路4は差動トランジスター対に対する電流源になると共に、LDOUT及びXLDOUT
として計測結果を出力する。これらの回路の内で、計測回路3と出力回路4、第二処理回
路62の内の列選択トランジスターT3CとT4Cとが薄膜トランジスターで形成される
。本実施形態では、これらの他に第一選択回路51と第一処理回路52、第二選択回路6
1、もCMOS構成の(N型及びP型の)薄膜トランジスターで形成されたが、第一選択
回路51と第一処理回路52、第二選択回路61、第二処理回路62の内の列選択トラン
ジスターT3CとT4C以外の回路は、外付けのシリコンICチップにて形成されても良
い。
【0033】
計測セル内には、計測用薄膜トランジスターT0と第一薄膜トランジスターT1と第二
薄膜トランジスターT2とが配置されている。第一薄膜トランジスターT1と第二薄膜ト
ランジスターT2とは差動トランジスター対をなし、互いに対称に配置される。即ち、両
トランジスターのドレインが第一電源に接続され、電源に対して並列に配置されている。
尚、第一電源は正電源Vddである。第一薄膜トランジスターT1のゲートは、計測用薄膜
トランジスターT0のドレインに接続している。計測用薄膜トランジスターT0のドレイ
ンには、容量素子Cpが接続されている。容量素子Cpは誘電体膜を第一電極と第二電極
とで挟持し、図3では、第一電極が計測用薄膜トランジスターT0のドレイン及び第一薄
膜トランジスターT1のゲートに接続し、第二電極が第二電源に接続している。第二電源
は、この場合、負電源Vssである。計測用薄膜トランジスターT0のソースは充電用列線
CCに接続し、ゲートは充電用行線RCに接続する。第二薄膜トランジスターT2のゲー
トには基準信号Vrefが供給される。
【0034】
i行j列に位置する計測セル(i,j)内には更に行選択トランジスターT3RとT4
Rとが設けられている。列選択トランジスターT3Cと行選択トランジスターT3Rとで
第三薄膜トランジスターT3をなす。行選択トランジスターT3Rのドレインは第一薄膜
トランジスターT1のソースに接続し、ソースはj列目の奇数列線CO(j)を介してj
列目の列選択トランジスターT3Cのドレインに接続し、ゲートはi行目の行線R(i)
に接続する。同様に列選択トランジスターT4Cと行選択トランジスターT4Rとで第四
薄膜トランジスターT4をなす。行選択トランジスターT4Rのドレインは第二薄膜トラ
ンジスターT2のソースに接続し、ソースはj列目の偶数列線CE(j)を介してj列目
の列選択トランジスターT4Cのドレインに接続し、ゲートはi行目の行線R(i)に接
続する。
【0035】
温度センサー1は、更に第五薄膜トランジスターT5と第六薄膜トランジスターT6と
を出力回路4に備え、第五薄膜トランジスターT5と第六薄膜トランジスターT6とはカ
レントミラー対をなしている。カレントミラー対とは、両トランジスターのソースが共通
に接続され、ゲートに同電位を印加する事で、飽和動作時(Vds>Vgs−Vth>0)に、
両トランジスターのドレイン電位が多少異なっていても、同じ電流を通すトランジスター
対である。ここでは両薄膜トランジスターのゲートは第五薄膜トランジスターのドレイン
に接続している。更に、第五薄膜トランジスターT5のドレインは列選択トランジスター
T3Cのソースに接続し、第六薄膜トランジスターT6のドレインは列選択トランジスタ
ーT4Cのソースに接続する。
【0036】
温度センサー1は、更に第七薄膜トランジスターT7を出力回路4に備える。第七薄膜
トランジスターT7は電流源トランジスターである。電流源トランジスターとは、飽和動
作し、ドレイン電位が多少変動しても常に一定電流を供給するトランジスターである。第
五薄膜トランジスターT5のソースと第六薄膜トランジスターT6のソースとは、第七薄
膜トランジスターT7のドレインに接続し、第七薄膜トランジスターT7のソースは第二
電源に接続する。第二電源は負電源Vssである。第七薄膜トランジスターT7のゲートに
は第一制御信号Cnt1が供給される。第五薄膜トランジスターT5と第六薄膜トランジ
スターT6とが常に等しい電流を通し、第七薄膜トランジスターT7が一定電流を供給す
るので、第五薄膜トランジスターT5も第六薄膜トランジスターT6も常に同一電流(第
七薄膜トランジスターT7を通る電流の半分)を通す。
【0037】
第三薄膜トランジスターT3は、列選択や行選択がなされる毎に列選択トランジスター
や行選択トランジスターを変えながらも、常に第一薄膜トランジスターT1と第五薄膜ト
ランジスターT5との間に配置され、第一薄膜トランジスターT1と第五薄膜トランジス
ターT5とを電気的に接続可能としている。同様に、第四薄膜トランジスターT4は、列
選択や行選択がなされる毎に列選択トランジスターや行選択トランジスターを変えながら
も、常に第二薄膜トランジスターT2と第六薄膜トランジスターT6との間に配置され、
第二薄膜トランジスターT2と第六薄膜トランジスターT6とを電気的に接続可能として
いる。即ち、i行目の行線R(i)に選択信号(高電位信号)が供給されると、i行目の
計測セルに配置された第一薄膜トランジスターT1は奇数列線COに電気的に接続され、
第二薄膜トランジスターT2は偶数列線CEに電気的に接続される。反対に行線R(i)
に非選択信号(低電位信号)が入ると、第一薄膜トランジスターT1と奇数列線COとは
電気的に絶縁され、第二薄膜トランジスターT2と偶数列線CEとは電気的に絶縁される

【0038】
行線R(i)に選択信号が供給されている状態で、j列目の列線C(j)に選択信号(
高電位信号)が入ると、j列目の列選択トランジスターT3Cがオン状態となるので、j
列目の奇数列線COと第五薄膜トランジスターT5とが接続される。その結果、i行j列
の計測セル(i,j)に位置する第一薄膜トランジスターT1と第五薄膜トランジスター
T5とは電気的に接続される。同様に、j列目の列線C(j)に選択信号(高電位信号)
が入ると、j列目の列選択トランジスターT4Cがオン状態となるので、j列目の偶数列
線CEと第六薄膜トランジスターT6とが接続される。その結果、i行j列の計測セル(
i,j)に位置する第二薄膜トランジスターT2と第六薄膜トランジスターT6とは電気
的に接続される。反対に、j列目の列線C(j)に非選択信号(低電位信号)が入ると、
j列目の列選択トランジスターT3CとT4Cとがオフ状態となるので、出力回路4とj
列目の奇数列線CO及びj列目の偶数列線CEとは電気的に絶縁される。この様に複数の
計測セルの内で、行線と列線とで選択された計測セルが出力回路4と接続する。出力回路
4からの計測結果は、第六薄膜トランジスターT6のドレイン電位V6がLDOUTとし
て出力され、第五薄膜トランジスターT5のドレイン電位V5がXLDOUTとして出力
される。
【0039】
列線C(j)に供給される選択信号乃至は非選択信号は、第二選択回路61からの出力
を必要に応じてレベルシフトし、レベルシフターからの出力はバッファーで補強されてい
る。即ち、列選択トランジスターT3CとT4Cとは第二選択回路61にて制御される。
又、行線R(i)に供給される選択信号乃至は非選択信号は、第一選択回路51からの出
力を必要に応じてレベルシフトし、レベルシフターからの出力はバッファーで補強されて
いる。即ち、行選択トランジスターT3RとT4Rとは第一選択回路51にて制御される
。尚、ここでは行選択がなされた状態で列選択を行ったが、列選択がなされた状態で行選
択を行っても良い。又、ここでの奇数列線とは単なる名称で、奇数番号のトランジスター
列(T1やT3)に設けられた列線を意味し、偶数列線も同様に単なる名称で、偶数番号
のトランジスター列(T2やT4)に設けられた列線を意味する。
【0040】
「計測方法」
図4は、本実施形態に係わる温度センサーにて温度を計測する際に、回路を駆動させる
タイミングチャートを説明する図である。図5は、本実施形態に係わる温度センサーにて
温度を計測する際の計測ステップを説明する図である。図6は、本実施形態に係わる温度
センサーにて温度を計測する際の測温期間を説明する図である。以下、図4乃至図6を参
照して、温度センサーを用いた計測方法を説明する。
【0041】
温度計測は、一回乃至複数回の測温期間を用いてなされる。図4に示す様に、一回の測
温期間は準備期間PPと計測期間MPと出力期間OPとを含む。準備期間PPには計測用
薄膜トランジスターT0をオン状態として、第一薄膜トランジスターT1と容量素子Cp
とを所定の電位に充電する。計測期間MPには計測用薄膜トランジスターT0をオフ状態
として、先に充電された電荷を容量素子Cpから漏らす。漏れ電荷量は温度依存性を示す
ので、温度に応じて第一薄膜トランジスターT1のゲート電位は低下する。出力期間OP
には低下したゲート電位に応じた出力を各計測セルから取り出す。これが一回の測温期間
の基本サイクルである。
【0042】
実際の温度計測の際には、まず、温度計測に先立ち、計測時に供給する基準信号Vref
の電位値を定める。上述の如く、温度センサー1は、基準トランジスターである第二薄膜
トランジスターT2の電気特性と、温度に応じてゲート電位が変化する第一薄膜トランジ
スターT1の電気特性とが比較される。一方で、薄膜トランジスターはトランジスター毎
に電気特性が僅かに異なるのが一般である。これを補正する為に、計測セル毎に基準温度
に対応する基準信号Vrefの値を定める。以下に基準信号Vrefの値を定める具体的な手法
を記す。
【0043】
(1)温度センサー1を基準温度のヒートリザーヴォアーに設置し、総ての計測セルが
基準温度となる様にする。基準温度は測定対象温度範囲内で適宜設定される。基準温度は
大凡その範囲の下限値とするのが望ましい。例えば測定対象温度範囲が寒冷地の冬の温度
で、−20℃から30℃の範囲にあると予想される場合、基準温度は−20℃程度に設定
する。
【0044】
(2)総ての計測セルにて、基準信号Vrefの選択電位として、数式1で表される仮の
基準高電位Hrを設定する。
【0045】
【数1】

ここでVddは正電源電位、Vthは薄膜トランジスターの閾値電圧の平均値、δは0.0
5Vから0.3V程度の小さい電圧値である。仮の基準高電位Hrは、例えばHr=4.0
5Vである。
【0046】
(3)後述する方法で温度を計測し、総ての計測セルからの出力結果(V5−V6)の平
均値がほぼゼロになる様に計測期間MPの時間を定める。即ち、数式2となる様に計測期
間MPの長さを定める。ほぼゼロとは、出力結果の平均値が概ね−0.4Vから+0.4
Vの範囲に入る事を意味する。
【0047】
【数2】

【0048】
(4)こうして定められた計測期間MPの時間を用いて、再度ヒートリザーヴォアーの
温度計測を行う。その際に、LDOUT出力とXLDOUT出力とが等しくなる様に(V
5=V6となる様に)計測セル毎に提供するVrefの基準高電位値を定め、これを外部コン
トローラー7に設けられている記憶装置に記憶させる。その後に温度センサー1を計測対
象に配置し、計測を開始する。
【0049】
次に一回の測温期間の基本サイクルを説明する。温度計測に際しては、外部コントロー
ラー7が第一選択回路51や第一処理回路52、第二選択回路61、第二処理回路62な
どに適当な信号や電源を供給し、その結果、各行線や列線、出力回路4等には図4に示す
、以下の様な信号が供給される。
【0050】
準備期間PPには第一工程が行われる。まず充電用列線CCを正電源電位Vddとする。
次いで充電用行線RCを第二高電位H2とし、計測用薄膜トランジスターT0をオン状態
とする。次いで充電用行線RCを負電源電位Vssに戻す。次に充電用列線CCの電位を負
電源電位Vssに戻す。この第一工程に依り総ての計測セルの容量素子Cpの第一電極は初
期電位の正電源電位Vddへと充電される。負電源電位Vssは正電源電位Vddよりも低い電
位で、例えばVss=0V(接地電位)である。又、正電源電位は、例えばVdd=4.8V
で、第二高電位は、例えばH2=7.3Vである。
【0051】
計測期間MPには、充電用列線CCを負電源電位Vssとする。充電用行線RCは低電位
Lとする。この結果、計測用薄膜トランジスターT0はオフ状態となり、計測期間MPに
渡ってこのオフ状態を維持する。計測期間MP中に温度に応じたオフ電流が第一電極から
充電用列線CCに漏れる。こうして計測期間MPの終了時には第一薄膜トランジスターT
1のゲート電位は第一高電位H1となる。これが第二工程である。
【0052】
計測期間MPが終了した後に出力期間OPに移る。出力期間OPでは第三工程として、
第一電極の電位を検出する。即ち、出力期間OPに入ると、第一制御信号Cnt1に第三
高電位H3を供給する。この値は、例えばH3=1.6Vである。出力期間OPでは、まず
、行線R(1)からR(M)が一本ずつ交替に選択される。通常は1行目の行線R(1)
から最終行のM行目の行線R(M)へと順番に選択されて行く。行線には、選択持に選択
信号電位(第二高電位H2)供給され、非選択時には非選択信号電位(負電源電位Vss
が供給される。
【0053】
一本の行線が選択されている期間に、列線(C(1)からC(N))が一本ずつ交替に
選択される。通常は1列目の列線C(1)から最終列のN列目の列線C(N)へと順番に
選択されて行く。列線には、選択持に選択信号電位(第二高電位H2)が供給され、非選
択時には非選択信号電位(負電源電位Vss)が供給される。
【0054】
この様にして複数の計測セルから特定の一つの計測セルが選択される。この選択された
計測セルに対応する基準高電位を外部コントローラー7の記憶装置より読み出して、Vre
fとする。第二薄膜トランジスターT2のゲートに供給される基準高電位は、その計測セ
ルの温度が基準温度に等しければ、出力電圧がV5=V6となる様に設定されているので、
5乃至はV6の値を読むと、選択された計測セルの温度が分かる。例えば、選択された計
測セルが基準温度よりも低温であると、漏れ電流は少ないので、第一高電位(第一薄膜ト
ランジスターT1のゲート電位)は基準高電位(第二薄膜トランジスターT2のゲート電
位)よりも高くなる。その結果、LDOUT(V6)の電位は低くなり、XLDOUT(
5)の電位は高くなるので、V5−V6の値は正になる。反対に、選択された計測セルが
基準温度よりも高温であると、LDOUT(V6)の電位は高くなり、XLDOUT(V5
)の電位は低くなるので、V5−V6の値は負になる。この計測方法では、出力期間を通じ
て、容量素子Cpと第一薄膜トランジスターT1のゲート容量とに残留する電荷が維持さ
れる。即ち、非破壊にて(測定が測定対象物に影響することなく、言い換えると、電荷量
を変動させることなく)温度計測が行われ、それ故に温度センサーが大面積になっても高
精細になっても、正確な計測が行われる事になる。
【0055】
以上が一回の測温期間の基本サイクルであるが、これを何度か繰り返さねばならない場
合があるので、次にそれを説明する。温度計測は、図5に示すステップで実施される。具
体的には、制御装置71は設定ステップS1と実行ステップS2と判断ステップS3と参
照ステップS4と決定ステップS5と再設定ステップS11とを含むプログラムを実行す
る。
【0056】
設定ステップS1は温度の計測条件を第一条件へと設定する。計測条件とは計測期間M
Pに充電用行線RCに印加する低電位Lの値と計測期間MPの時間長である。第一条件で
は低電位Lを第一電位とし、時間長は前述の出力結果(V5−V6)の平均値がほぼゼロに
なる様に定める(MP=t0)。第一電位は図2に示す伝達特性が極小値となるゲート電
圧Vminとする。本実施形態ではVmin=Vss=0Vである。
【0057】
実行ステップS2はこうして設定された計測条件にて一回目の計測期間の基本サイクル
を実行する。即ち、第一工程と第二工程と第三工程とを行う。第二工程では、計測用薄膜
トランジスターT0のゲート電極に第一電位が供給され、計測用薄膜トランジスターT0
は、計測期間MP(=t0)の間、第一オフ状態に維持される。
【0058】
判断ステップS3は一回目の計測期間の基本サイクルにて温度計測を終了させるか計測
期間の基本サイクルを再び実行するかを判断する。即ち、第一高電位H1が初期電位Vin
の95%未満になっておれば、温度計測を終了させる判断をし、95%以上で有れば、計
測期間の基本サイクルを再度実行する判断をする。これは、第一高電位H1が初期電位Vi
nの95%未満で有れば、次の参照ステップS4にて第一高電位H1と温度とを高精度で対
応付けられるが、95%以上の場合には誤差が大きくなる為である。その為に、95%以
上の場合には計測条件を変更して、再計測する。
【0059】
判断ステップS3で温度計測の終了を判断されると、次に参照ステップS4へと進む。
外部コントローラー7の記憶装置には第一高電位H1と温度とを対応付けるルックアップ
テーブルが設けられており、これを参照するのが参照ステップS4である。決定ステップ
S5では、こうして計測された温度を決定する。即ち、計測された温度を出力したり、或
いは記憶装置に記憶させたりする。
【0060】
判断ステップS3で第一高電位H1が初期電位Vinから減少していなければ(第一高電
位H1と初期電位Vinとがほぼ等しければ)、再設定ステップS11に進む。再設定ステ
ップS11は次の測温期間に於ける計測条件を、前回の計測条件から変更する。即ち、前
回の計測が第一条件で行われた場合、第一条件とは異なる第二条件へと再設定する。低電
位Lは前回よりもΔVだけ低くされ、第二電位となる。併せて、計測期間MPを前回より
もΔtだけ長くしても良い。これらが第二条件となる。再設定ステップS11の後は、再
び実行ステップS2へと進む。二回目の実行ステップでは、二回目の計測期間の基本サイ
クルを実行する。即ち、第一工程と第四工程と第三工程とを行う。第四工程では、計測用
薄膜トランジスターT0のゲート電極に第二電位が供給され、計測用薄膜トランジスター
T0は、計測期間MP(=t0+Δt)の間、第二オフ状態に維持される。次いで判断ス
テップS3に進む。
【0061】
二回目の基本サイクルを実行した結果、第一高電位H1が初期電位Vinの95%以上の
場合、判断ステップS3から再設定ステップS11へと進む。再設定ステップS11は三
回目の測温期間に於ける計測条件を、二回目の計測条件から変更する。即ち、第二条件と
は異なる第三条件へと計測条件を再設定する。低電位Lは前回よりもΔVだけ低くされ、
第三電位となる。併せて、計測期間MPを前回よりもΔtだけ長くしても良い。これらが
第三条件となる。再設定ステップS11の後は、再び実行ステップS2へと進む。三回目
の実行ステップでは、三回目の計測期間の基本サイクルを実行する。即ち、第一工程と第
五工程と第三工程とを行う。第五工程では、計測用薄膜トランジスターT0のゲート電極
に第三電位が供給され、計測用薄膜トランジスターT0は、計測期間MP(=t0+2Δ
t)の間、第三オフ状態に維持される。次いで判断ステップS3に進む。以下、必要に応
じて、四回目、五回目、六回目と、同様な計測期間の基本サイクルを回して行く。
【0062】
各計測の結果、第一高電位H1と初期電位Vinとがほぼ等しくなった場合、これは計測
対象としている温度がその計測の計測範囲よりも低い事を意味している。従って、次に行
われる計測の温度計測範囲は、直前に行われた計測の温度計測範囲よりも低温側にする必
要がある。具体的には、第二条件に依る温度計測範囲は、第一条件に依る温度計測範囲よ
りも低温側とされ、第三条件に依る温度計測範囲は、第二条件に依る温度計測範囲よりも
更に低温側とされる。
【0063】
これに対応するのが図6である。図6では第一測温期間から第三測温期間までが描かれ
ている。第一測温期間に於ける計測期間MP1の計測条件は第一条件にて定められる。同
様に、第二測温期間に於ける計測期間MP2の計測条件は第二条件にて定められ、第三測
温期間に於ける計測期間MP3の計測条件は第三条件にて定められる。第一条件が定める
低電位(第一電位L1)よりも、第二条件が定める低電位(第二電位L2)の方がより低く
、第二条件が定める低電位(第二電位L2)よりも、第三条件が定める低電位(第三電位
3)の方がより低い。例えば、L1=0V、L2=−2.5V、L3=−5Vである。又、
第一条件が定める計測期間MP1よりも、第二条件が定める計測期間MP2の方がより長
く、第二条件が定める計測期間MP2よりも、第三条件が定める計測期間MP3の方がよ
り長い。例えば、MP1=2.5ミリ秒、MP2=5ミリ秒、MP3=7.5ミリ秒であ
る。図2に示されている様に、ゲート電圧が低下する程、オフ電流は(特に低温で)増加
するので、こうする事で、第二条件の温度計測範囲の方が第一条件の温度計測範囲よりも
低温側にずれる。同様に、第三条件の温度計測範囲の方が第二条件の温度計測範囲よりも
低温側にずれるのである。
【0064】
「使用方法」
温度センサーを使用する際には、低頻度測定モードと高頻度測定モードとを設けても良
い。低頻度測定モードとは高頻度測定モードに備えて低頻度で計測を繰り返している期間
で有る。高頻度測定モードでは、温度センサーは高頻度で計測を繰り返している。例えば
、温度センサーを水道の凍結防止帯に内蔵させて使用する場合、暖かな日中は低頻度測定
モードとし、気温が低下し始めて凍結しそうな期間を高頻度測定モードとする。或いは、
温度の時間変化が緩やかな場合に低頻度測定モードとし、温度の時間変化が緩やかな場合
には高頻度測定モードとする。
【0065】
低頻度測定モードにも高頻度測定モードにも、上述の「計測方法」の章に記載した方法
で温度センサーは計測動作を行っているが、その計測頻度が異なる。低頻度測定モードで
は単位時間内に行われる計測回数が少なく、高頻度測定モードではこれが多い。M行N列
に配置された計測セルの総てを選択して計測する期間をフレーム期間とし、一つのフレー
ム期間から次のフレーム期間までの時間をスタンバイ期間とすると、計測頻度はフレーム
期間とスタンバイ期間との和の逆数(1/(フレーム期間+スタンバイ期間))となる。
即ち、高頻度測定モードに於ける計測頻度を、低頻度測定モードに於ける計測頻度よりも
大きくする。一例としては、高頻度測定モードではスタンバイ期間をゼロとし、フレーム
周波数(フレーム期間の逆数)と計測頻度とを一致させる。一方で、低頻度測定モードに
於けるスタンバイ期間は数ミリ秒以上の比較的長時間とし(例えば1秒)、低頻度測定モ
ードに於ける計測頻度をスタンバイ期間の逆数にほぼ一致させる。
【0066】
この様な低頻度測定モードと高頻度測定モードとを設ける事に依り、低頻度測定モード
に於いては消費電力を低減でき、高頻度測定モードに於いては時間分解能を最大にする事
ができる。尚、ここでは低頻度測定モードでも高頻度測定モードでもフレーム期間を同一
とし、スタンバイ期間を変えたが、これに限らず、フレーム期間を低頻度測定モードと高
頻度測定モードとで変えても構わない。即ち、高頻度測定モードに於けるクロック周波数
の方を低頻度測定モードのクロック周波数よりも高くして、高頻度測定モードに於ける計
測頻度を高くしても良い。
【0067】
「トランジスターサイズ及び駆動条件」
図7は、本実施形態に係わる温度センサーにて温度を計測する際の等価回路図である。
次に、図7を参照して、高感度で高性能な計測を実現する為の条件を示す。以下、第一薄
膜トランジスターT1をT1と略称する。第二薄膜トランジスターT2から第七薄膜トラ
ンジスターT7も同様に略す。尚、T3のドレイン電位をV3で表し、T4のドレイン電
位をV4、T7のドレイン電位をV7、で表す。
【0068】
T1とT2とは差動入力対であるので、飽和動作などの非線型動作が望ましい。T3と
T4は選択トランジスターで、出力電位範囲を広くする視点から、線型動作が望ましい。
従って、T3とT4とに関しては、ソースドレイン電圧Vdsは出来る限り小さく、V3
5やV4=V6となるのが望ましい。T5とT6とはカレントミラー対で飽和動作でなけ
ればならない。又、T7は電流源トランジスターなので、矢張り飽和動作でなければなら
ない。
【0069】
まず、トランジスターの電流式を表現するのに数式3の記号を用いる。
【0070】
【数3】

ここでWはトランジスターチャンネル形成領域の幅、Lはトランジスターチャンネル形
成領域の長さ、Coxは単位面積当たりのゲート絶縁膜容量、μは移動度である。すると、
飽和特性の近似式は数式4で表される。
【0071】
【数4】

又、線型特性の近似式は数式5で表される。
【0072】
【数5】

本実施形態では薄膜トランジスターの閾値電圧をVthで表し、薄膜トランジスター間の
th変動は僅かであると近似する。即ち、T1からT7のVthは総て等しいと近似する。
又、Vthは正であるとし、全体の電流(T7の電流)を2Iとする。まず、T1からT7
のZをZ1からZ7で表し、これらを数式6の関係とする。
【0073】
【数6】

数式6が満たされていると、T1のゲート電位H1とT2のゲート電位Hrとの差は線型
増幅されて出力される。以下、各トランジスターに求められる駆動条件を検討する。
【0074】
(1)T1は飽和動作が望ましい。従って、数式7と数式8で表される飽和条件が満た
されるのが望ましい。
【0075】
【数7】

【0076】
【数8】

その結果、T1のドレイン電流は次式となる。
【0077】
【数9】

【0078】
(2)T2は飽和動作が望ましい。従って、数式10と数式11とで表される飽和条件
が満たされるのが望ましい。
【0079】
【数10】

【0080】
【数11】

その結果、T2のドレイン電流は次式となる。
【0081】
【数12】

【0082】
(3)T3は線型動作が好ましい。従って、数式13で表される線型条件が満たされる
のが望ましい。
【0083】
【数13】

その結果、T3のドレイン電流は次式となる。
【0084】
【数14】

【0085】
(4)T4は線型動作が好ましい。従って、数式15で表される線型条件が満たされる
のが望ましい。
【0086】
【数15】

その結果、T4のドレイン電流は次式となる。
【0087】
【数16】

【0088】
(5)T5は飽和動作するのが望ましい。従って、数式17で表される飽和条件が満た
されるのが望ましい。
【0089】
【数17】

その結果、T5のドレイン電流は次式となる。
【0090】
【数18】

【0091】
(6)T6は飽和動作するのが望ましい。従って、数式19と数式20とで表される飽
和条件が満たされるのが望ましい。
【0092】
【数19】

【0093】
【数20】

その結果、T6のドレイン電流は次式となる。
【0094】
【数21】

【0095】
(7)T7は飽和動作するのが望ましい従って、数式22で表される飽和条件が満たさ
れるのが望ましい。
【0096】
【数22】

その結果、T7のドレイン電流は次式となる。
【0097】
【数23】

ここで、数式22を満たす為に、数式24とする。
【0098】
【数24】

δは例えば0.1V程度で、容易に飽和条件を満たすには0.3V程度未満の正の値が
理想である。
【0099】
次に数式13と数式15を満たす為に、数式25とする。
【0100】
【数25】

これにより、少なくとも数式26と数式27とが満たされる様になる。
【0101】
【数26】

【0102】
【数27】

【0103】
T7に関する数式23と、T4に関する数式16とから、次式が得られる。
【0104】
【数28】

この数式28に数式24と数式25とを適応すると、次の様になる。
【0105】
【数29】

数式29の右辺に関しては、数式30を考慮する。
【0106】
【数30】

ここで数式31とする。
【0107】
【数31】

こうすれば、数式32が得られる。
【0108】
【数32】

即ち、T4はゲート電圧がVth+1V以上ならば、線型動作する。更に、T4での電位
降下を確実に0.1V未満と小さくし、T4を線型動作させる為には、概ね次式が満たさ
れれば良い。
【0109】
【数33】

数式33は数式34と変形される。
【0110】
【数34】

この場合、数式35の関係が得られる。
【0111】
【数35】

即ち、明らかに線型条件(数式15)は満たされる。
【0112】
次に、総ての望ましい条件を満たす様に構成を定める。T7に関する数式23とT6に
関する数式21に対して、数式36とする。
【0113】
【数36】

こうすると、数式21と数式23とから数式37が得られる。
【0114】
【数37】

【0115】
次にT1に関する数式9とT5に関する数式18とに対して、数式38とする。
【0116】
【数38】

こうすると、数式39が得られる。
【0117】
【数39】

T7とT4の議論(数式28から数式35までの議論)により、数式40と数式41で
表される関係になっている。
【0118】
【数40】

【0119】
【数41】

数式39に数式41を代入し、数式37と連立させると、数式42と数式43の解が得
られる。
【0120】
【数42】

【0121】
【数43】

【0122】
T2に関する数式12とT6に関する数式21とからは、数式44が得られる。
【0123】
【数44】

数式44に数式37と数式40とを代入すると、数式45が得られる。
【0124】
【数45】

【0125】
以下、高感度で高性能な測定を実現する為に、満たされる事が望ましい各条件を如何に
満たすかを示す。
【0126】
好適条件としての数式7: 数式41と数式42とから数式7は数式46となる。
【0127】
【数46】

【0128】
好適条件としての数式10: 数式40と数式44とから数式10は数式46となる。
【0129】
好適条件としての数式8: 数式8は、Vthが正なので、数式47が成り立てば、確実
に満たされる。
【0130】
【数47】

【0131】
好適条件としての数式11: 数式11は、Vthが正なので、数式48が成り立てば、
確実に満たされる。
【0132】
【数48】

【0133】
好適条件としての数式13と数式15: 数式13と数式15とは、数式24と数式3
4とで満たされる。
【0134】
好適条件としての数式17: 数式17は、数式42と数式43とから、数式46とな
る。
【0135】
好適条件としての数式19: 数式19は、数式42と数式45とから、数式49とな
る。
【0136】
【数49】

従って、計測温度が基準温度よりも高温の時の方が低温の時よりも高精度に温度計測が
なされる。その意味では、基準温度は測定対象温度範囲の下限値に設定するのが好ましい

【0137】
好適条件としての数式22: 数式24から数式22は、数式50となる。
【0138】
【数50】

これに数式43を適応すると、数式22は、数式51となる。
【0139】
【数51】

数式24により、これは、数式52を意味する。
【0140】
【数52】

【0141】
数式47と数式52とから、H1に対する好適条件は数式53となる。
【0142】
【数53】

【0143】
数式53の右辺を満たすべく、T1のゲート電位は準備期間PPにVddへと充電され、
計測期間MPに放電させる。第一高電位H1と基準高電位Hrとが等しい時に、出力(V5
−V6)がゼロになるので、第一高電位H1の左辺を満たし易くする為に、仮の基準高電位
を数式53の右辺と左辺との中間を取り、数式1の様に設定する。
【0144】
正電源電圧Vddを、数式54が示す様に、第三高電位H3の三倍以上に設定する事がで
きる。尚、数式54では数式24を配慮している。
【0145】
【数54】

【0146】
第一高電位H1は正電源電圧付近の値にあるので、こうすると、Vddが最も小さいH3
3倍の時でも、数式43と数式42とから、数式55が得られる。
【0147】
【数55】

即ち、T1とT5、T7にはほぼ均等なドレイン電圧が印加され、これらのトランジス
ターは飽和動作する。同様にT2、T6、T7にもほぼ均等なドレイン電圧が掛かり、飽
和動作する。Vddが3倍よりも大きくなると、T1やT5、T7に掛かるソースドレイン
電圧は更に高くなるので、差動増幅範囲は更に広がる。
【0148】
纏めると、電位関係としては、Vddに関する数式54と、H3に関する数式24、H2
関する数式25、Hrに関する数式1とを満たす様にする。一例としては、Vth=1.5
Vとして、δ=0.1V、γ=1Vとし、正電源電位Vdd=4.8V、第三高電位H3
1.6V、第二高電位H2=7.3V、仮の基準高電位Hr=4.05Vとする。
【0149】
トランジスターサイズに関しては、数式6と数式34、数式36、数式38から数式5
6とする。
【0150】
【数56】

この様な電気関係とトランジスターサイズとを採用する事で、高感度で正確な計測が実
現する。但し、T3とT4とは、実際には列選択トランジスターと行選択トランジスター
との直列接続なので、列選択トランジスターや行選択トランジスターのZはZ3やZ4の二
倍とする。即ち、T3CやT3R、T4C、T4RのZをそれぞれZ3C、Z3R、Z4C、Z
4Rにて表現した時に数式57とする。
【0151】
【数57】

【0152】
「平面レイアウト」
図8は、本実施形態に係わる温度センサーで使用される各種回路の平面レイアウトを説
明する図で、(a)は出力回路、(b)は列選択トランジスター、(c)は計測セル(i
,j)である。以下、図8を参照して、これらの回路の平面レイアウトを説明する。
【0153】
薄膜トランジスターの製造方法は後に詳述するが、薄膜トランジスターは半導体層SL
の他に、ゲート電極を構成するゲート配線金属層GMと、ソースドレイン電極に主として
接続するソース配線金属層SMとを有する。これら三層の間には絶縁膜が設けられて、コ
ンタクトホールで接続されぬ限り、電気的に分離されている。図8(a)に示す様に、カ
レントミラー対T5とT6とは平面的に隣接して形成される。即ち、T5の半導体層SL
とT6の半導体層SLとは隣り合わせに配置される。両半導体層は、それらの間に別の半
導体層が位置することはなく、デザインルールが許す限り、出来る限り近くに配置される
。ゲート電極は無論共通で、T5のゲート電極とT6のゲート電極が直線になる様に、最
短距離で配置される。また、両トランジスターのソースはゲート配線金属層GMにて接続
され、T7のドレインに接続される。T5とT6との配置が近く、ゲート電極が最短距離
で形成され、ソースコンタクトがゲート配線金属層GMにて接続される為、両トランジス
ターの温度はほぼ等しくなり、カレントミラー対は正確に動作する事になる。
【0154】
同様に、図8(b)に示す様に、列選択トランジスター対T3CとT4Cも両トランジ
スターの半導体層SLを隣接させ、ゲート電極が直線になる様に配置される。これにより
、両トランジスターの温度がほぼ等しくなり、列選択トランジスター対に起因する増幅誤
差を最小とできる。
【0155】
計測セルでは、図8(c)に示す様に、差動トランジスター対T1とT2とが隣接して
配置され、両トランジスターのドレインがゲート配線金属層GMにてVddに接続される。
これにより、両トランジスターの温度がほぼ等しくなり、正確な差動増幅がなされる。又
、行選択トランジスター対T3RとT4Rも両トランジスターの半導体層SLを隣接させ
、ゲート電極が直線になる様に配置される。これにより、両トランジスターの温度がほぼ
等しくなり、行選択トランジスター対に起因する増幅誤差を最小とできる。
【0156】
「温度センサーの製造方法」
温度センサー1では、柔軟性を有するプラスチックフィルムの基板2に薄膜回路を形成
してあるが、ここでは温度センサー1の製造方法を述べる。具体的には、最初にガラス基
板に形成された薄膜回路を剥離して、プラスチックフィルムに転写する方法で温度センサ
ー1を製造する。
【0157】
第一製造工程として、製造元基板となるガラス基板上に剥離層を設ける。剥離層は厚み
が50nm程の水素化非晶質シリコン膜である。この剥離層上に下地絶縁膜となる酸化硅
素膜を成膜した後に、薄膜トランジスターなどからなる薄膜回路を製造する。薄膜回路は
、公知の低温工程多結晶シリコン薄膜トランジスターの製造方法を適応する。具体的には
、下地絶縁膜上にレーザー結晶化された多結晶シリコン半導体層を設け、その後に、酸化
硅素膜を用いたゲート絶縁層と、アルミニウム又はアルミニウムに添加物を加えた金属を
用いたゲート電極(ゲート配線金属層と称す)とを作成する。更に、酸化硅素膜を用いた
第一層間絶縁層、アルミニウム又はアルミニウムに添加物を加えた金属を用いたソースコ
ンタクト及びドレインコンタクト(ソース配線金属層と称す)、ポリイミド系の樹脂を用
いた第二層間絶縁層(保護膜)、インジウム錫酸化物(ITO:Indium Tin
Oxide)を用いた電極端子(実装端子)を作成する。
【0158】
次に第二製造工程として、仮接着剤を薄膜回路表面に塗布し、製造元基板を仮転写基板
に貼り付ける。仮接着剤としては、アクリル系の樹脂に水溶性を与えるべくポリビニルピ
ロリドン樹脂を混合したものを用いる。仮転写基板は平滑なガラス基板である。
【0159】
次に第三製造工程として、製造元基板を取り外し、薄膜回路を仮転写基板に移す。製造
元基板を取り外す方法としては、製造元基板裏面からレーザー光を照射して剥離層の内部
又は界面に於ける密着力を弱め、次いで製造元基板と仮転写基板とを引き剥がす。こうす
る事で薄膜回路は仮転写基板に移される。
【0160】
次に第四製造工程として、薄膜回路裏面に残る剥離層を除去し、例えばイオナイザーを
用いて薄膜回路裏面に存在する電荷を除去する。此により剥離帯電や乾燥時の空気との摩
擦帯電を或る程度除去できる。
【0161】
次に第五製造工程として、例えばアクリル系の樹脂からなる永久接着剤を用いてプラス
チックフィルムの第一面側に薄膜回路裏面を貼り付ける。プラスチックフィルムとしては
、ポリイミドなどの耐熱性の高いフィルムを用いることができる。
【0162】
プラスチックフィルムを貼り付けた後、第六製造工程として、プラスチックフィルム第
二面側(第一面側と反対の面)に一時接着剤を用いて支持基板を接着する。この一時接着
剤は熱や紫外光などの刺激で容易に接着性を喪失する材料で、且つ先の仮接着剤を溶解す
る溶媒には溶けない材質である。
【0163】
次に第七製造工程として、仮接着剤を溶解する溶媒(この場合には水)を用いて仮転写
基板を外す。その後、仮接着剤を洗浄して除去する。
【0164】
次に第八製造工程として、実装作業を行う。まず、実装端子にテープ配線を実装する。
この際には異方性導電ペーストや異方性導電フィルムを実装端子とテープ配線との間に配
置して両者を接着する。その後、熱や紫外光などの刺激を一時接着剤に加えて、支持基板
を取り外す。最後にテープ配線は温度センサー1の外に設けられた外部コントローラー7
に接続される。こうして、温度センサー1が完成する。
【0165】
尚、基板2は上述のプラスチックフィルムの他に、厚みが50マイクロメーターから5
00マイクロメーター程度の薄い金属箔や、厚みが10マイクロメーターから200マイ
クロメーター程度の薄いガラスであっても良い。これらの基板は可撓性を有するので、ロ
ボットの皮膚と云った様なあらゆる形状に適応できるが、平面形状の用途に温度センサー
1を使用する場合には、厚みが0.4mmから2mm程度のガラスを基板として使用して
も良い。又、製造方法も厚いガラスに薄膜回路を形成した後にガラスを薄く削る方法や、
プラスチックフィルムや金属箔に直接薄膜回路を形成する方法であっても良い。直接形成
する場合には非晶質シリコン薄膜トランジスターや、亜鉛又は錫を含む酸化物を半導体層
に利用した酸化物薄膜トランジスター等を利用することが出来る。
【0166】
上述した通り、本実施形態に係わる温度センサー1によれば、以下の効果を得る事がで
きる。
制御装置71が設定ステップと実行ステップと判断ステップと再設定ステップとを実行
するので、計測される温度が第一の温度計測の計測範囲外にあった際に、第二の温度計測
を異なった計測範囲にて行い、広い温度範囲に渡って精密な温度計測を行う事ができる。
換言すれば、高性能で実用的な温度計測方法を提供できる。
【0167】
又、第二の温度計測を第一の温度計測よりも低温の計測を対象としているので、平均す
ると比較的短時間で精密な温度計測を行う事ができる。
【0168】
又、計測セルが、計測用薄膜トランジスターとこれに接続する容量素子とを備え、温度
計測が実行される測温期間は、準備期間と計測期間と出力期間とを有するので、高性能で
実用的な温度計測方法を提供できる。
【0169】
又、第一条件に基づく低電位よりも、第二条件に基づく低電位の方がより低いので、平
均すると比較的短時間で精密な温度計測を行う事ができる。
【0170】
又、判断ステップは、初期電位と第一高電位とが同一で有った場合に、第二の温度計測
の実行を判断するので、高精度な温度計測を平均すると短時間で行う事ができる。
【0171】
又、計測セルを第一の方向に複数個配置して、個別に選択するので、第一の方向に関す
る温度の空間分布を計測できる。従って、温度が第一の方向に沿って異なっていても、正
確に温度を計測できる。
【0172】
又、計測セルを第二の方向に複数個配置して、個別に選択するので、第二の方向に関す
る温度の空間分布を計測できる。従って、温度が第二の方向に沿って異なっていても、正
確に温度を計測できる。
【0173】
又、更に、計測セルが差動トランジスター対を備えるので、面状の温度センサーが大面
積となっても、高精細になっても、高精度に温度を計測する事ができる。
【0174】
又、第三薄膜トランジスターと第四薄膜トランジスターとが選択回路の一部として機能
するので、第一の方向及び第二の方向に於ける温度の情報が干渉する事を防げる。
【0175】
又、第五薄膜トランジスターと第六薄膜トランジスターとを備え、これらがカレントミ
ラー対をなして、第一薄膜トランジスターや第二薄膜トランジスターと接続可能であるの
で、温度を正確に計測できる。
【0176】
又、第一電源と第二電源と第七薄膜トランジスターとを備え、第七薄膜トランジスター
が定電流源と成り得るので、温度に関する信号増幅が線型となり、第一薄膜トランジスタ
ーのゲート電位を正確に計測できる。
【0177】
又、第五薄膜トランジスターと第六薄膜トランジスターと第七薄膜トランジスターとが
N型であり、第二電源が負電源であるので、P型の薄膜トランジスターを用いずにN型の
薄膜トランジスターで温度センサー1を実現できる。
【0178】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されず、上述した実施形態に種々の変更や改良な
どを加える事が可能である。変形例を以下に述べる。
【0179】
(変形例1)
「回路がPMOSにて形成されている形態」
図3を用いて、変形例1に係わる温度センサーを説明する。尚、実施形態1と同一の構
成部位については、同一の番号を附し、重複する説明は省略する。
本変形例は実施形態1と比べて、温度センサー1の回路を構成する薄膜トランジスター
の伝導型が異なっている。それ以外の構成は、実施形態1とほぼ同様である。
【0180】
実施形態1ではN型の薄膜トランジスターを用いて温度センサー1の回路(計測回路3
と出力回路4、及び第二処理回路62の列選択トランジスター)を構成していたが、本変
形例ではP型の薄膜トランジスターT1からT7を用いてこれらの回路を構成する。この
場合、第一電源が負電源Vssとなり、第二電源が正電源Vddとなる。又、P型薄膜トラン
ジスターのソースドレインは電位の高い方がソースとなり、電位の低い方がドレインにな
る。P型薄膜トランジスターとしては、半導体層にポリ(9,9−ジオクチルフルオレン
−コージチオフェン)(F8T2)や、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)、
ポリ[5,5’−ビス(3−ドデシル−2チニル)−2,2’−ビチオフェン](PQT
−12)、PBTTT、ペンタセン等の有機物を使用した有機物薄膜トランジスターを使
用することができる。
【0181】
トランジスターサイズに関しては、実施形態1と同じである。駆動方法は実施形態1の
図4と同じだが、非選択期間の電位をVddとし、選択期間の各種高電位H2やH3、Hr
ddに対して負の絶対値が大きくなる様に変える。又、低電位LはVdd付近の値となり、
1<L2<L3<L4と、測温期間を繰り返すほど低電位の値は大きくなって行く。尚、P
型薄膜トランジスターの閾値電圧VthPは負である。具体的には、Vddに関する数式54
は数式58へと変えられる。
【0182】
【数58】

又、H3に関する数式24は数式59へと変えられる。
【0183】
【数59】

又、H2に関する数式25は数式60へと変えられる。
【0184】
【数60】

又、Hrに関する数式1は数式61へと変えられる。
【0185】
【数61】

【0186】
従って、例えば、VthP=−1.5Vとして、δP=−0.1V、γP=−1V、Vss
0Vとし、Vdd=4.8V、H3=3.2V、H2=−2.5V、Hr=0.75V、L1
4.8V、L2=7.3V、L3=9.8Vとする。ここでのH2様に、負電圧を準備する
のが困難な場合、総ての電位が正になる様にVddとVssを一定量ずらしても良い。例えば
、Vddに関する数式58を数式62へと変える。
【0187】
【数62】

これに応じて、Vssを数式63へと変える。
【0188】
【数63】

上記例では全体が2.5Vずれて、Vdd=7.3V、Vss=2.5V、H3=5.7V
、H2=0V、Hr=3.25V、L1=7.3V、L2=9.8V、L3=12.3Vとな
る。
【0189】
上述した通り、本変形例に係わる温度センサー1によれば、N型の薄膜トランジスター
を使用せずに、P型の薄膜トランジスターで温度センサー1を実現できる。
【0190】
尚、上記の例では計測回路3と出力回路4、及び第二処理回路62の列選択トランジス
ターを総てP型の薄膜トランジスターで形成したが、これ以外にもこれらの回路の一部を
P型とし、他の部分をN型としても良い。例えば出力回路4をP型薄膜トランジスターで
形成し、計測回路3をN型薄膜トランジスターで形成しても良い。更には、差動トランジ
スター対(T1とT2との対)や、行選択トランジスター対(T3RとT4Rとの対)、
列選択トランジスター対(T3CとT4Cとの対)、カレントミラー対(T5とT6との
対)と云った各対の内部で対をなす薄膜トランジスターが同一伝導型で有れば、対間では
薄膜トランジスターの伝導型が異なっていても構わない。
【符号の説明】
【0191】
1…温度センサー、2…基板、3…計測回路、4…出力回路、7…外部コントローラー
、51…第一選択回路、52…第一処理回路、61…第二選択回路、62…第二処理回路
、71…制御装置、72…ケーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜トランジスターをオン状態とし、前記薄膜トランジスターに接続される容量素子の
一端を初期電位に充電する第一工程と、
前記薄膜トランジスターのゲート電極に第一電位を供給して前記薄膜トランジスターを
第一オフ状態とし、前記第一オフ状態を維持する第二工程と、
前記一端の電位を検出する第三工程と、を有し、
前記第一工程、前記第二工程、及び前記第三工程を実行した結果、前記一端の電位が前
記初期電位の95%から100%の範囲にある場合には、更に、
前記第一工程と、
前記ゲート電極に第二電位を供給して前記薄膜トランジスターを第二オフ状態とし、前
記第二オフ状態を維持する第四工程と、
前記第三工程と、を行う事を特徴とする温度計測方法。
【請求項2】
前記第一電位より前記第二電位の方が低い事を特徴とする請求項1に記載の温度計測方
法。
【請求項3】
前記第二工程の期間より前記第四工程の期間の方が長い事を特徴とする請求項1又は2
に記載の温度計測方法。
【請求項4】
前記第一工程、前記第四工程、及び前記第三工程を実行した結果、前記一端の電位が前
記初期電位の95%から100%の範囲にある場合には、更に、
前記第一工程と、
前記ゲート電極に第三電位を供給して前記薄膜トランジスターを第三オフ状態とし、前
記第三オフ状態を維持する第五工程と、
前記第三工程と、を行う事を特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の温度計
測方法。
【請求項5】
前記第二電位より、前記第三電位の方が低い事を特徴とする請求項4に記載の温度計測
方法。
【請求項6】
前記第四工程の期間より前記第五工程の期間の方が長い事を特徴とする請求項4又は5
に記載の温度計測方法。
【請求項7】
前記薄膜トランジスターと前記容量素子とを計測セルに備えた温度センサーを用い、
前記温度センサーは、第一の方向に沿って配置され、前記計測セルを選択する第一選択
回路を備え、
前記計測セルは前記第一の方向に沿って複数個配置される事を特徴とする請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の温度計測方法。
【請求項8】
更に、前記温度センサーは、前記第一の方向と交差する第二の方向に沿って配置され、
前記計測セルを選択する第二選択回路を備え、
前記計測セルは前記第二の方向に沿って複数個配置される事を特徴とする請求項7に記
載の温度計測方法。
【請求項9】
更に、前記計測セルは第一薄膜トランジスターと第二薄膜トランジスターとを備え、
前記第一薄膜トランジスターと前記第二薄膜トランジスターとは差動トランジスター対
をなし、
前記第一薄膜トランジスターのゲート電極は前記薄膜トランジスターのソース電極又は
ドレイン電極の一方に接続される事を特徴とする請求項7又は8に記載の温度計測方法。
【請求項10】
更に、前記温度センサーは、第三薄膜トランジスターと第四薄膜トランジスターとを備
え、
前記第三薄膜トランジスターは前記第一薄膜トランジスターに接続され、
前記第四薄膜トランジスターは前記第二薄膜トランジスターに接続され、
前記第三薄膜トランジスターと前記第四薄膜トランジスターとは、前記第一選択回路及
び前記第二選択回路にて制御される事を特徴とする請求項9に記載の温度計測方法。
【請求項11】
更に、前記温度センサーは、第五薄膜トランジスターと第六薄膜トランジスターとを備
え、
前記第五薄膜トランジスターと前記第六薄膜トランジスターとはカレントミラー対をな
し、
前記第一薄膜トランジスターと前記第五薄膜トランジスターとの間に前記第三薄膜トラ
ンジスターが配置され、
前記第二薄膜トランジスターと前記第六薄膜トランジスターとの間に前記第四薄膜トラ
ンジスターが配置される事を特徴とする請求項10に記載の温度計測方法。
【請求項12】
更に、前記温度センサーは、第一電源と第二電源と第七薄膜トランジスターとを備え、
前記第一薄膜トランジスターと前記第二薄膜トランジスターとは前記第一電源に接続さ
れ、
前記第五薄膜トランジスターと前記第六薄膜トランジスターとは前記第七薄膜トランジ
スターに接続され、
前記第七薄膜トランジスターは前記第二電源に接続される事を特徴とする請求項11に
記載の温度計測方法。
【請求項13】
前記第五薄膜トランジスターと前記第六薄膜トランジスターと前記第七薄膜トランジス
ターとがN型であり、
前記第二電源が負電源である事を特徴とする請求項12に記載の温度計測方法。
【請求項14】
前記第五薄膜トランジスターと前記第六薄膜トランジスターと前記第七薄膜トランジス
ターとがP型であり、
前記第二電源が正電源である事を特徴とする請求項12に記載の温度計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−230040(P2012−230040A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99227(P2011−99227)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(597065329)学校法人 龍谷大学 (120)