説明

温熱治療装置

【課題】 健康な臓器を傷つけることなく癌細胞のみを死滅させることが可能な温熱治療装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 温熱治療装置は、赤外線を含む光を出射するハロゲンランプ等の光源11と、光源11から出射された光を平行光とするためのコリメートレンズ12と、コリメートレンズ12により平行光となった光を偏向するための折り返しミラー13と、折り返しミラー13により偏向された光を収束させる収束レンズ14と、収束レンズ14により収束された光を癌細胞が存在する患部10に向けて偏向する移動ミラー15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、温熱治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、癌の治療方法として、従来の、メスによる切開後の癌の摘出施術以外に、各種の治療方法が提案されている。
【0003】
癌細胞は摂氏43度になると死滅することを利用した、温熱療法(ハイパーサーミア)が提案されている(非特許文献1)。例えば、磁気共鳴装置(MRI)やエックス線CT装置を使用して、人体内部の癌の形状や位置を確認し、この癌の三次元画像を見ながら癌に向けて針を刺し、この針の先端に装着したヒータで癌を加熱して癌細胞を死滅させる治療法も提案されている(非特許文献2参照)。
【0004】
また、ヒータを装着した針を刺す代わりに、エックス線源を人体内部の癌を中心として回転させ、癌細胞にX線を常時照射させることにより、癌細胞を死滅させる治療法も提案されている(非特許文献3参照)。
【0005】
これらの治療法は、従来の、メスによる切開後の癌の摘出施術に比べると、患者への負担が大幅に軽減されるという利点がある。
【非特許文献1】”温熱療法(ハイパーサーミア)はなぜ“がん”に効くのでしょうか” 日本ハイパーサーミア学会 「平成17年6月6日検索」 インターネット<URL http://www.gakkai.net/JSHO/misc/hyp-1.html>
【非特許文献2】資料名:J Magn Reson Imaging 標題:MR-guided microwave thermocoagulation therapy of liver tumors: initial clinical experiences using a 0.5 T open MR system. 著者名:Morikawa, Shigehiro; Inubushi, Toshiro; Kurumi, Yoshimasa; Naka, Shigeyuki; Sato, Koichiro; Tani, Tohru; Yamamoto, Ikuo; Fujimura, Masaki
【非特許文献3】資料名:医学のあゆみ 標題:前立腺癌治療の最近の進歩-とくに放射線療法 外部照射 著者名:五味光太郎, 道本幸一
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した新しい治療方法を採用した場合であっても、体内の深部にある癌の場合には、人体の表面から癌細胞に至る途中の健康な臓器を、針またはエックス線が傷つけるという問題を生ずる。
【0007】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、健康な臓器を傷つけることなく癌細胞のみを死滅させることが可能な温熱治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、人体の患部に光エネルギーを照射するための温熱治療装置であって、光源と、前記光源から出射された光を、前記患部に対する照射角度を順次変更しながら、前記患部に対して収束させる光学系とを備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記光学系は、前記光源から出射された光を平行光とするコリメートレンズと、 前記コリメートレンズにより平行光となった光を前記患部に向けて収束させる収束レンズと、前記収束レンズにより収束された光を前記患部に向けて偏向するミラーと、前記収束レンズと前記ミラーとを、前記収束レンズから前記患部までの光路長が一定となる状態で、光路に沿って移動させる移動手段とを備えている。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記光学系は、前記光源から出射された光を平行光とするコリメートレンズと、前記コリメートレンズにより平行光となった光を前記患部に向けて収束させるフレネルレンズとを備え、前記コリメートレンズにより平行光とされた光を、前記フレネルレンズに対して垂直な方向から、その位置を移動させて入射させる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記光学系は、前記光源から出射された光を平行光とするコリメートレンズと、前記コリメートレンズにより平行光となった光を前記患部に向けて収束させるフレネルレンズと、前記コリメートレンズにより平行光とされた光をフレネルレンズに向けて偏向するミラーと、前記ミラーを、前記フレネルレンズと平行に移動させる移動手段とを備えている。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記光学系は、前記光源から出射された光を平行光とするコリメートレンズと、前記コリメートレンズにより平行光となった光を前記患部に向けて偏向するミラーと、 前記ミラーにより偏向された光を前記患部に向けて収束させる収束レンズと、前記ミラーと前記収束レンズとを、光路に沿って同期して移動させる移動手段とを備えている。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記光学系は、当該光源から出射された光を平行光とするコリメートレンズと、前記コリメートレンズにより平行光となった光を前記患部に向けて収束させる収束レンズと、前記光源、前記コリメートレンズおよび前記収束レンズを、前記患部を中心とする円弧に沿って同期して移動させる移動手段とを備えている。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記光学系は、前記光源から出射された光を平行光とするコリメートレンズと、 前記コリメートレンズにより平行光となった光を前記患部に向けて収束させる収束レンズと、前記収束レンズにより収束された光を偏向する第1ミラーと、前記第1ミラーにより偏向された光を前記患部に向けて偏向する第2ミラーと、前記第1ミラーと前記第2ミラーとを、光路を中心に回転させる回転手段とを備えている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1乃至請求項7に記載の発明によれば、健康な臓器を傷つけることなく癌細胞のみを死滅させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1はこの発明の第1実施形態に係る温熱治療装置の概要図である。
【0017】
この温熱治療装置は、赤外線を含む光を出射するハロゲンランプまたはレーザ光源等の光源11と、光源11から出射された光を平行光とするためのコリメートレンズ12と、コリメートレンズ12により平行光となった光を偏向するための折り返しミラー13と、折り返しミラー13により偏向された光を収束させる収束レンズ14と、収束レンズ14により収束された光を癌細胞が存在する患部10に向けて偏向する移動ミラー15とを備える。
【0018】
なお、図1においては、コリメートレンズ12や収束レンズ14等のレンズを一枚のレンズで表現しているが、これらのレンズは、複数枚のレンズを組み合わせて機能させるものであってもよい。これは、後述する他の実施形態においても同様である。
【0019】
光源11、コリメートレンズ12および折り返しミラー13は、磁気共鳴装置(MRI)やエックス線CT装置(以下、これらを総称して「MRI等」と呼称する)が設置された床に固定されている。このため、光源11、コリメートレンズ12および折り返しミラー13を、収束レンズ14から十分離れた別室等に設置することも可能となる。この場合には、光源11のメンテナンス等を容易に実行することが可能となる。
【0020】
収束レンズ14は、ベース部材20に対して往復移動可能な第1移動架21に連結されている。すなわち、第1移動架21は、図示しない案内部材を介して、ベース部材20に連結されており、後述するモータ35の作用により、折り返しミラー13で偏向された光の光路と平行な方向に往復移動可能となっている。なお、ベース部材20は、患部10に対して上下・左右方向にその位置を調整し得る機構を介して、MRI等が設置された床、あるいは、MRI等自体に固定されている。
【0021】
移動ミラー15は、揺動機構23を介して第2移動架22に連結されている。この揺動機構23は、後述するモータ37の駆動を受け、移動ミラー15を軸24を中心に揺動させるためものもである。また、第2移動架22は、第1移動架21に対して往復移動可能となっている。すなわち、第2移動架22は、図示しない案内部材を介して、第1移動架21に連結されており、後述するモータ36の作用により、折り返しミラー13で偏向された光の光路と平行な方向に往復移動可能となっている。
【0022】
図2は、上述した温熱治療装置の主要な電気的構成を示すブロック図である。
【0023】
この温熱治療装置は、装置の制御に必要な動作プログラムが格納されたROM31と、制御時にデータ等が一時的にストアされるRAM32と、論理演算を実行するCPU33とから成る制御部30を備える。この制御部30は、インターフェース34を介して、上述した光源11、第1移動架21を往復移動するためのモータ35、第2移動架22を往復移動させるためのモータ36、および、移動ミラー15を揺動させるためのモータ37と連結されている。
【0024】
以上のような構成を有する温熱治療装置により治療を行う際には、予め、MRI等を使用して、患部10の位置を特定しておく。そして、光源11からの光をコリメートレンズ12により平行光とした後、収束レンズ14により収束させ、移動ミラー15により患部10に収束させる。すなわち、この光は、人体に侵入後、拡散や散乱を伴いながら患部10に収束する。
【0025】
この状態において、モータ35、36の駆動により、収束レンズ14と移動ミラー15とを、折り返しミラー13で偏向された光の光路と平行な方向に移動させる。そして、移動ミラー15の移動にかかわらず折り返しミラー13で偏向された光を患部10に向かって収束させるために、モータ37の駆動により揺動機構23を動作させ、移動ミラー15の角度を変更する。
【0026】
なお、収束レンズ14と移動ミラー15との移動速度は、収束レンズ14から移動ミラー15を介して患部10までの光路長が、常に、収束レンズ14の焦点距離と一致する状態となる移動速度とする。制御部30は、収束レンズ14から移動ミラー15を介して患部10までの光路長が、常に、収束レンズ14の焦点距離と一致し、折り返しミラー13で偏向された光が患部10に向かって収束するように、モータ35、36、37の回転数を制御する。
【0027】
これにより、光源11から出射された光は、患部10に対する照射角度を順次変更しながら患部10に対して収束する。このため、光が収束した患部10の温度が上昇する。一般に、癌細胞は摂氏43度になると死滅する。従って、収束した光による患部10の温度上昇により、癌細胞を有効に死滅させることが可能となる。このとき、人体に入射する光は、その照射角度を順次変更しながら患部10に対して収束することから、癌の手前にある健康な臓器に損傷を与えることはない。
【0028】
なお、収束レンズ14と移動ミラー15との移動速度は、癌の手前にある健康な臓器に損傷を与えない程度の速度であれば、高速である必要はない。また、収束レンズ14と移動ミラー15とは、図1における左端の位置から仮想線で示す右端の位置まで移動する1ストロークの間に患部10への光照射を実行してもよく、また、収束レンズ14と移動ミラー15とを複数回往復移動させて光照射を実行してもよい。
【0029】
上述した実施形態においては、光源11、コリメートレンズ12および折り返しミラー13を、MRI等が設置された床に固定することにより、光源11、コリメートレンズ12および折り返しミラー13を収束レンズ14から十分離れた別室等に設置することを可能とし、これにより、光源11のメンテナンス等を容易に実行することを可能としている。しかしながら、この発明はこのような形態に限定されるものではない。
【0030】
図3はこの発明の第2実施形態に係る温熱治療装置の概要図であり、図4はこの発明の第3実施形態に係る温熱治療装置の概要図である。なお、上述した第1実施形態と同様の部材については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0031】
図3に示す第2実施形態に係る温熱治療装置においては、光源11とコリメートレンズ12とがベース部材20に固定された構成を有する。また、図4に示す第3実施形態に係る温熱治療装置においては、光源11とコリメートレンズ12とが第1移動架21に固定され、収束レンズ14とともに移動する構成を有する。これらいずれの場合であっても、コリメートレンズ12を通過後の光は平行光となっていることから、第1実施形態と同様の作用・効果を奏する。
【0032】
次に、この発明の他の実施形態について説明する。図5は、この発明の第4実施形態に係る温熱治療装置の概要図である。
【0033】
この第4実施形態に係る温熱治療装置は、赤外線を含む光を出射するハロゲンランプまたはレーザ光源等の光源11と、光源11から出射された光を平行光とするためのコリメートレンズ12と、コリメートレンズ12により平行光となった光を偏向するための折り返しミラー13と、折り返しミラー13により偏向された光を偏向する移動ミラー42と、移動ミラー42により偏向された光を患部10に向けて収束させるフレネルレンズ43とを備える。
【0034】
フレネルレンズ43は、ベース部材20に支持されている。このフレネルレンズ43は、光照射時には、その光軸上の焦点が患部10の位置と一致する位置に設置される。なお、このフレネルレンズ43の移動ミラー42の移動方向と直交する方向(図5における紙面に垂直な方向)の幅は、そこに入射する光の直径以上であればよい。
【0035】
移動ミラー42は、ベース部材20に対して往復移動可能な移動架41に連結されている。すなわち、移動架41は、図示しない案内部材を介して、ベース部材20に連結されており、図示しないモータの作用により、折り返しミラー13で偏向された光の光路と平行な方向に往復移動可能となっている。なお、ベース部材20は、患部10に対して上下・左右方向にその位置を調整し得る機構を介して、MRI等が設置された床、あるいは、MRI等自体に固定されている。
【0036】
第1実施形態と同様、光源11、コリメートレンズ12および折り返しミラー13は、MRI等が設置された床に固定されている。このため、光源11、コリメートレンズ12および折り返しミラー13を、収束レンズ14から十分離れた別室等に設置することも可能となる。この場合には、光源11のメンテナンス等を容易に実行することが可能となる。
【0037】
なお、この第4実施形態に係る温熱治療装置も、第1実施形態に係る温熱治療装置と同様、移動ミラー42を移動架41とともに往復移動させるためのモータを制御する制御部30を備える。
【0038】
以上のような構成を有する温熱治療装置により治療を行う際には、予め、MRI等を使用して、患部10の位置を特定しておく。そして、光源11からの光をコリメートレンズ12により平行光とした後、移動ミラー42により偏向し、フレネルレンズ43に垂直に入射させる。これにより、光をフレネルレンズ43の作用で収束させる。この光は、人体に侵入後、拡散や散乱を伴いながら患部10に収束する。
【0039】
この状態において、図示しないモータの駆動により、移動ミラー42を、折り返しミラー13で偏向された光の光路と平行な方向に移動させる。
【0040】
これにより、光源11から出射された光は、患部10に対する照射角度を順次変更しながら患部10に対して収束する。このため、光が収束した患部10の温度が上昇する。この収束した光による患部10の温度上昇により、癌細胞を有効に死滅させることが可能となる。このとき、人体に入射する光は、その照射角度を順次変更しながら患部10に対して収束することから、癌の手前にある健康な臓器に損傷を与えることはない。
【0041】
なお、移動ミラー42の移動速度は、癌の手前にある健康な臓器に損傷を与えない程度の速度であれば、高速である必要はない。また、移動ミラー42は、図5において実線で示す左端の位置から仮想線で示す右端の位置まで移動する1ストロークの間に患部10への光照射を実行してもよく、また、移動ミラー42を複数回往復移動させて光照射を実行してもよい。
【0042】
この第4実施形態においては、光源11、コリメートレンズ12および折り返しミラー13を、MRI等が設置された床に固定しているが、第2実施形態と同様、光源11とコリメートレンズ12とをベース部材20に固定する構成を採用してもよい。また、移動架41に対し、移動ミラー42の替わりに光源11とコリメートレンズ12とを装着し、コリメートレンズ12により平行光とされた光をフレネルレンズ43に対して垂直な方向からその位置を移動させて入射させる構成を採用してもよい。
【0043】
次に、この発明のさらに他の実施形態について説明する。図6は、この発明の第5実施形態に係る温熱治療装置の概要図である。
【0044】
この第5実施形態に係る温熱治療装置は、赤外線を含む光を出射するハロゲンランプまたはレーザ光源等の光源11と、光源11から出射された光を平行光とするためのコリメートレンズ12と、コリメートレンズ12により平行光となった光を偏向するための折り返しミラー13と、折り返しミラー13により偏向された光を偏向する移動ミラー52と、移動ミラー52により偏向された光を患部10に向けて収束させる収束レンズ55とを備える。
【0045】
移動ミラー52と収束レンズ55は、ベース部材20に対して往復移動可能な移動架51に連結されている。すなわち、移動架51は、図示しない案内部材を介して、ベース部材20に連結されており、図示しないモータの作用により、折り返しミラー13で偏向された光の光路と平行な方向に往復移動可能となっている。なお、ベース部材20は、患部10に対して上下・左右方向にその位置を調整し得る機構を介して、MRI等が設置された床、あるいは、MRI等自体に固定されている。
【0046】
移動ミラー52は、揺動機構53を介して移動架51に連結されている。この揺動機構53は、図示しないモータの駆動を受け、移動ミラー52を軸54を中心に揺動させるためものもである。
【0047】
第1〜第4実施形態と同様、光源11、コリメートレンズ12および折り返しミラー13は、MRI等が設置された床に固定されている。このため、光源11、コリメートレンズ12および折り返しミラー13を、収束レンズ14から十分離れた別室等に設置することも可能となる。この場合には、光源11のメンテナンス等を容易に実行することが可能となる。
【0048】
なお、この第5実施形態に係る温熱治療装置も、第1実施形態に係る温熱治療装置と同様、移動架51を往復移動させるためのモータと、駆動機構を駆動するためのモータとを制御する制御部30を備える。
【0049】
以上のような構成を有する温熱治療装置により治療を行う際には、予め、MRI等を使用して、患部10の位置を特定しておく。そして、光源11からの光をコリメートレンズ12により平行光とした後、移動ミラー52により偏向し、収束レンズ55に入射させる。一般に、収束レンズ55に平行光が角度θで入射すると、その光は収束レンズの光軸からf・tanθ離れた点に収束される。このため、移動架51の位置に応じて移動ミラー52の角度を制御し、光を患部10に収束させる。この光は、人体に侵入後、拡散や散乱を伴いながら患部10に収束する。
【0050】
この状態において、図示しないモータの駆動により、移動架51を移動ミラー52および収束レンズ55とともに、折り返しミラー13で偏向された光の光路と平行な方向に移動させる。そして、移動架51の移動量に応じて移動ミラー52の角度を制御し、光を患部10に常に収束させる。
【0051】
これにより、光源11から出射された光は、患部10に対する照射角度を順次変更しながら患部10に対して収束する。このため、光が収束した患部10の温度が上昇する。この収束した光による患部10の温度上昇により、癌細胞を有効に死滅させることが可能となる。このとき、人体に入射する光は、その照射角度を順次変更しながら患部10に対して収束することから、癌の手前にある健康な臓器に損傷を与えることはない。
【0052】
なお、移動ミラー52および収束レンズ55の移動速度は、癌の手前にある健康な臓器に損傷を与えない程度の速度であれば、高速である必要はない。また、移動ミラー52および収束レンズ55は、図6において実線で示す左端の位置から仮想線で示す右端の位置まで移動する1ストロークの間に患部10への光照射を実行してもよく、また、移動ミラー52および収束レンズ55を複数回往復移動させて光照射を実行してもよい。
【0053】
なお、この実施形態においては、収束レンズ55としてf・θレンズを使用した場合には、移動架51の移動速度を等速とすることができ、移動架51を移動させるためのモータの制御を容易なものとすることが可能となる。
【0054】
この第5実施形態においては、光源11、コリメートレンズ12および折り返しミラー13を、MRI等が設置された床に固定しているが、第2、第3実施形態と同様、光源11とコリメートレンズ12とを、ベース部材20または移動架51に固定する構成を採用してもよい。
【0055】
次に、この発明のさらに他の実施形態について説明する。図7は、この発明の第6実施形態に係る温熱治療装置の概要図である。
【0056】
この第6実施形態に係る温熱治療装置は、赤外線を含む光を出射するハロゲンランプまたはレーザ光源等の光源11と、光源11から出射された光を平行光とするためのコリメートレンズ12と、コリメートレンズ12により平行光となった光を患部10に向けて収束させる収束レンズ14とを有する照射ヘッド57を備える。この照射ヘッド57は、円弧状の案内部材58に沿って移動可能となっており、図示しないモータの駆動により、図7において実線で示す左端の位置から仮想線で示す右端の位置まで移動する構成となっている。なお、案内部材58は、患部10に対して上下・左右方向にその位置を調整し得る機構を備えており、光照射時には、その円弧の中心が患部10の位置と一致する位置に設置される。
【0057】
なお、この第6実施形態に係る温熱治療装置も、第1実施形態に係る温熱治療装置と同様、照射ヘッド57を往復移動させるためのモータを制御する制御部30を備える。
【0058】
以上のような構成を有する温熱治療装置により治療を行う際には、予め、MRI等を使用して、患部10の位置を特定しておく。そして、光源11からの光をコリメートレンズ12により平行光とした後、収束ミラー14により患部10に収束させる。この光は、人体に侵入後、拡散や散乱を伴いながら患部10に収束する。
【0059】
この状態において、図示しないモータの駆動により、照射ヘッド57案内部材58に沿って移動させる。これにより、光源11から出射された光は、患部10に対する照射角度を順次変更しながら患部10に対して収束する。このため、光が収束した患部10の温度が上昇する。この収束した光による患部10の温度上昇により、癌細胞を有効に死滅させることが可能となる。このとき、人体に入射する光は、その照射角度を順次変更しながら患部10に対して収束することから、癌の手前にある健康な臓器に損傷を与えることはない。
【0060】
なお、照射ヘッド57の移動速度は、癌の手前にある健康な臓器に損傷を与えない程度の速度であれば、高速である必要はない。また、照射ヘッド57は、図7において実線で示す左端の位置から仮想線で示す右端の位置まで移動する1ストロークの間に患部10への光照射を実行してもよく、また、照射ヘッド57を複数回往復移動させて光照射を実行してもよい。
【0061】
次に、この発明のさらに他の実施形態について説明する。図8は、この発明の第7実施形態に係る温熱治療装置の概要図である。
【0062】
この第7実施形態に係る温熱治療装置は、赤外線を含む光を出射するハロゲンランプまたはレーザ光源等の光源11と、光源11から出射された光を平行光とするためのコリメートレンズ12と、コリメートレンズ12により平行光となった光を患部10に向けて収束させる収束レンズ14とを備える。これらの光源11、コリメートレンズ12および収束レンズ14は、ベース部材20に連結されている。なお、ベース部材20は、患部10に対して上下・左右方向にその位置を調整し得る機構を介して、MRI等が設置された床、あるいは、MRI等自体に固定されている。
【0063】
また、この第7実施形態に係る温熱治療装置は、第1ミラー61および第2ミラー62を備え、ベース部材20に連結された軸64を中心に回転可能な偏向部材63を備える。この軸64は、コリメートレンズ12および収束レンズ14の光軸上に配置される。そして、偏向部材63は、図示しないモータの駆動により、軸64を中心に回転する。
【0064】
なお、この第8実施形態に係る温熱治療装置も、第1実施形態に係る温熱治療装置と同様、偏向部材63を回転させるためのモータを制御する制御部30を備える。
【0065】
以上のような構成を有する温熱治療装置により治療を行う際には、予め、MRI等を使用して、患部10の位置を特定しておく。そして、光源11からの光をコリメートレンズ12により平行光とした後、収束レンズ14により収束させる。そして、この光は、第1ミラー61により第2ミラー62に向けて偏向され、第2ミラー62により患部10に向けて偏向される。この光は、人体に侵入後、拡散や散乱を伴いながら患部10に収束する。
【0066】
この状態において、図示しないモータの駆動により、偏向部材63を、軸64を中心に回転させる。これにより、光源11から出射された光は、患部10に対する照射角度を360度の範囲で変更しながら患部10に対して収束する。このため、光が収束した患部10の温度が上昇する。この収束した光による患部10の温度上昇により、癌細胞を有効に死滅させることが可能となる。このとき、人体に入射する光は、その照射角度を順次変更しながら患部10に対して収束することから、癌の手前にある健康な臓器に損傷を与えることはない。
【0067】
この第7実施形態においては、光源11およびコリメートレンズ12をベース部材20に固定しているが、第1実施形態の場合と同様、光源11およびコリメートレンズ12を、MRI等が設置された床に固定してもよい。
【0068】
なお、上述した各実施形態に係る温熱治療装置をMRI等と連結し、MRI等からの各種のデータを受け取って、自動的に患部10に光を照射する構成とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】この発明の第1実施形態に係る温熱治療装置の概要図である。
【図2】温熱治療装置の主要な電気的構成を示すブロック図である。
【図3】この発明の第2実施形態に係る温熱治療装置の概要図である。
【図4】この発明の第3実施形態に係る温熱治療装置の概要図である。
【図5】この発明の第4実施形態に係る温熱治療装置の概要図である。
【図6】この発明の第5実施形態に係る温熱治療装置の概要図である。
【図7】この発明の第6実施形態に係る温熱治療装置の概要図である。
【図8】この発明の第7実施形態に係る温熱治療装置の概要図である。
【符号の説明】
【0070】
10 患部
11 光源
12 コリメートレンズ
13 折り返しミラー
14 収束レンズ
15 移動ミラー
20 ベース部材
21 第1移動架
22 第2移動架
30 制御部
35 モータ
36 モータ
37 モータ
42 移動ミラー
43 フレネルレンズ
52 移動ミラー
53 揺動機構
54 軸
55 収束レンズ
57 照射ヘッド
58 案内部材
61 第1ミラー
62 第2ミラー
63 偏向部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の患部に光エネルギーを照射するための温熱治療装置であって、
光源と、
前記光源から出射された光を、前記患部に対する照射角度を順次変更しながら、前記患部に対して収束させる光学系と、
を備えたことを特徴とする温熱治療装置。
【請求項2】
請求項1に記載の温熱治療装置において、
前記光学系は、
前記光源から出射された光を平行光とするコリメートレンズと、
前記コリメートレンズにより平行光となった光を前記患部に向けて収束させる収束レンズと、
前記収束レンズにより収束された光を前記患部に向けて偏向するミラーと、
前記収束レンズと前記ミラーとを、前記収束レンズから前記患部までの光路長が一定となる状態で、光路に沿って移動させる移動手段と、
を備える温熱治療装置。
【請求項3】
請求項1に記載の温熱治療装置において、
前記光学系は、
前記光源から出射された光を平行光とするコリメートレンズと、
前記コリメートレンズにより平行光となった光を前記患部に向けて収束させるフレネルレンズとを備え、
前記コリメートレンズにより平行光とされた光を、前記フレネルレンズに対して垂直な方向から、その位置を移動させて入射させる温熱治療装置。
【請求項4】
請求項3に記載の温熱治療装置において、
前記光学系は、
前記光源から出射された光を平行光とするコリメートレンズと、
前記コリメートレンズにより平行光となった光を前記患部に向けて収束させるフレネルレンズと、
前記コリメートレンズにより平行光とされた光をフレネルレンズに向けて偏向するミラーと、
前記ミラーを、前記フレネルレンズと平行に移動させる移動手段と、
を備える温熱治療装置。
【請求項5】
請求項1に記載の温熱治療装置において、
前記光学系は、
前記光源から出射された光を平行光とするコリメートレンズと、
前記コリメートレンズにより平行光となった光を前記患部に向けて偏向するミラーと、
前記ミラーにより偏向された光を前記患部に向けて収束させる収束レンズと、
前記ミラーと前記収束レンズとを、光路に沿って同期して移動させる移動手段と、
を備える温熱治療装置。
【請求項6】
請求項1に記載の温熱治療装置において、
前記光学系は、
当該光源から出射された光を平行光とするコリメートレンズと、
前記コリメートレンズにより平行光となった光を前記患部に向けて収束させる収束レンズと、
前記光源、前記コリメートレンズおよび前記収束レンズを、前記患部を中心とする円弧に沿って同期して移動させる移動手段と、
を備える温熱治療装置。
【請求項7】
請求項1に記載の温熱治療装置において、
前記光学系は、
前記光源から出射された光を平行光とするコリメートレンズと、
前記コリメートレンズにより平行光となった光を前記患部に向けて収束させる収束レンズと、
前記収束レンズにより収束された光を偏向する第1ミラーと、
前記第1ミラーにより偏向された光を前記患部に向けて偏向する第2ミラーと、
前記第1ミラーと前記第2ミラーとを、光路を中心に回転させる回転手段と、
を備える温熱治療装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−340767(P2006−340767A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−166727(P2005−166727)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】