説明

測温素子及び温度計測器

【課題】薄膜熱電対において、極めて微小な材料と同種のバルク材料とが異なる性質を示すことに起因する、温度測定時の誤差を解消する。
【解決手段】測温素子1において、薄膜熱電対である第1の熱電対の信号取り出し用外部金属13及び14の接続部分20及び21近傍に、前記第1の熱電対と同じ構成材料により構成され、かつ同じ長さの外部金属線15及び16を接続した第2の熱電対を備える。前記測温素子1を用い、所定の計算式で演算を行うことにより、薄膜熱電対をバルク材料と接続することに起因する温度測定時の誤差を軽減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は測温素子及び温度計測器に係り、特に、物体の温度を接触、非接触で測定する薄膜熱電対を利用した測温素子及び温度計測器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノテクノロジーやバイオテクノロジーの進展、また、半導体デバイスの微細化、新規物質の開発に伴い、部品微細化、多様化が進んでいる。特に半導体デバイス、磁気記録媒体の高密度化、大容量化は急速に進んでおり、それに伴い、微細パターン化が進んでいる。
上述のように微細化されたパターンを有する半導体デバイス、磁気記録媒体などにおいて、その不具合を生じる箇所もまた、微細化しており、その不具合箇所の解析は困難を極めるものとなっている。このような不具合箇所の解析には、異常電流に伴う発熱箇所の発見、観察が有効であるとされており、こうした背景の下、微小、狭隘な領域の温度の測定に対するニーズが増加している。
【0003】
一方、温度測定用に作られた二種類の金属の組み合わせからなる素子は熱電対と称され、ゼーベック効果を利用した温度測定として古くから利用されている公知の技術である。一般的に、熱電対は、異なる材料の金属線を接続して(以下、「温接点」と称する。)、方端(以下、「冷接点」と称する。)を開放し、電位差(熱起電力)の形で検出することができ、それにより測温することができる。
こうした熱電対において、上述のニーズに対応するため数十ミクロンの極細線の熱電対素線が製造されており、極細線の熱電対素線は極小部品の電極に付着できるほか、熱電対自体の熱容量が小さいため、より応答が速く、かつ高精度に温度を測定することが可能である。しかしながら、極細線の熱電対素線は、その細さ故に断線しやすく、接合部の強度が低下したり、接合部が測定部から剥がれたりするという物理的脆弱性が問題となり、また、これら極細線の熱電対は高価であるという問題を有している。
【0004】
こうした極細線の熱電対素線の問題点に対し、薄膜熱電対が提案されている。薄膜熱電対とは、無機、有機物からなる基板に物理的、また化学的に熱電材料薄膜を形成したものである。例えば基板に高分子フィルムを用い、数ミクロン未満の熱電材料薄膜を形成した薄膜熱電対は、厚さが数十ミクロン未満でありながら、可撓性を有し、上述の問題を解決することが可能である。さらに、薄膜熱電対の形成は、薄膜成膜技術を基礎として行われることから、従来の技術をそのまま応用して、薄膜熱電対を作成することが可能である。
【0005】
たとえば、特許文献1では、微細領域における温度制御装置の表面温度を測定するため、温度制御板上に薄膜熱電対用金属を付着させ、薄膜熱電対を作製し、温度制御板の温度測定を実施している。また、特許文献2では、基板上に電流検出型の薄膜熱電対を作製し、温度測定機器を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−219896号公報
【特許文献2】特開2008−107307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に、熱電対を用いた温度計測器においては、冷接点は計測器本体内に設けられるため、実際の測定には、薄膜熱電対の一端で各金属パターンに接続された金属細線二本を、計測器の端子につなぐ必要がある。特許文献1では、温度制御板上に作製した薄膜熱電対の各金属の非接触端に、薄膜熱電対に用いている金属と同質の材料の金属細線を介して温度を測定する例が開示されている。
【0008】
しかしながら、薄膜熱電対と金属細線を接続することにより、以下のような不具合が発生する。すなわち、数ミクロン未満の薄膜が、バルク材料と異なる性質を示すことに起因する、熱起電力の低下である。このようなバルク材料と数ミクロン未満の薄膜における性質の違いは、主に粒径サイズの差や、表面効果が強調されることに起因している。
熱電対は異種金属の二つの接点にかかる温度差に応じて熱起電力が発生する素子で、その熱起電力から逆に温度差の導出を行っており、公知の技術では温接点から冷接点までで発生する熱起電力から正しい温度を算出している。したがって、熱起電力が実際よりも小さい値で測定された場合、正確な温度を求めることができないという不都合がある。
つまり、金属細線に接続した薄膜熱電対は、その接続における金属細線と薄膜との相違等の問題により、実際の温度差に由来する熱起電力よりも低い値を示すことになり、その結果、JIS規格のそれとは一致せず、正確な温度測定が困難となる。
【0009】
薄膜熱電対は数ミクロン未満の金属薄膜により形成されているため、公知の技術で用いられている冷接点に直接接続することは困難である。従って接続導線において、薄膜熱電対とは熱起電力特性の異なるバルクの金属細線を用いる必要がある。
その場合、薄膜熱電対から冷接点までの熱起電力を測定しても、前記金属細線における熱起電力、また熱伝導の影響を評価し、測定結果に反映させることができず、温度測定に誤差が生じるという問題があった。
これに対し、特許文献2の発明によると、測定用薄膜熱電対の校正を行うことができる。しかしながら、その装置は測定用熱電対の近傍に温度補正用熱電対を並列して作製したものであり、測温素子の作成工程が煩雑になる。さらに加熱手段が必要であるため、測温素子が大型にならざるを得ない。
また、測定用薄膜熱電対から取り出した出力を、演算部及び演算結果表示部を備えた機器などに接続する際は、薄膜熱電対と外部の機器とを直接接続することができないため、金属細線を用いる必要があり、依然として温度測定に誤差が生じるという問題が残ることになる。
【0010】
本発明の目的は、薄膜熱電対を利用した測温素子及び温度計測器において、薄膜熱電対とバルク材料からなる金属細線の熱起電力の違いに由来する測定温度の誤差を補正し、薄膜形状において被温度測定物体の温度を正確に求めることができる単純な構成かつ小型の測温素子を提供し、併せてその測温素子を用いた温度計測器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題は、本発明に係る測温素子によれば、基板上に異なる金属からなる一対の薄膜により形成され、一端側に測温用接点を有し、他端側に各薄膜の外部接続点を備えた第1の熱電対と、前記第1の熱電対の外部接続点と接続された一対の金属線と、前記外部接続点と離間した近傍に接点を有する、一対の金属線からなる第2の熱電対と、を備え、前記第1の熱電対の外部接続点と接続された一対の金属線と、前記第2の熱電対の一対の金属線は、同一組み合わせの材料により構成されていること、によって解決される。
【0012】
上述のように、金属細線による第2の熱電対を第1の熱電対と金属細線(以下、「補償導線」と称する。)の接続部(以下、「補償接点」と称する。)近傍に設置して、その熱起電力を評価することにより、上述のバルク材料における熱起電力を測定することができる。これを、補償導線に接続した第1の熱電対における熱起電力と併せて評価することで、バルク材料と薄膜材料の共存により発生する熱起電力の相違を相殺することができ、正確な温度測定が可能となる。このとき、前記第1の熱電対に接続される補償導線は、その材料が前記第2の熱電対の材料と同じでなくてはならない。熱電対における熱起電力特性は、熱電対を構成する金属材料に依存しており、したがって、補償導線に用いる金属材料が異なるものを用いた場合、正確な測定を行うことはできない。
【0013】
また請求項2のように、前記一対の薄膜の材料は、前記第1の熱電対の外部接続点と接続された一対の金属線と同一組み合わせの材料により構成されると好適である。
このように、同じ材料で構成された測温素子とした場合、同じ熱起電力特性を持つ材料で評価できるため、より正確な温度測定が可能となる。
【0014】
また請求項3のように、前記外部接続点と、前記外部接続点で接続される前記一対の金属線とを内部に収容するコネクタを有し、前記第2の熱電対の接点は、前記外部接続点のそれぞれを結ぶ同一線上に離間して、前記コネクタ内に一体に配設されていると好適である。
これにより、補償接点と温度補正用である第2の熱電対の温接点が常に一定の位置に固定されるため、正確な温度を測定することができる。
【0015】
このとき請求項4のように、前記第1の熱電対の外部接続点と、該外部接続点で接続される前記一対の金属線は、弾性体で圧接されて接続されていると好ましい。
これにより、測温用である第1の熱電対及び補正用である第2の熱電対の位置が固定され、さらにその固定のために使用する圧着部材を弾性体とすることにより、コネクタ内における薄膜熱電対にかかる力が軽減され、薄膜熱電対が割れることを防ぐことができる。したがって、薄膜熱電対の使用場所を制限することなく、携帯しやすい測温素子を提供することができる。
【0016】
前記課題は、本発明に係る温度計測器によれば、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の測温素子と、該測温素子と接続され、演算部及び演算結果表示部を備えた機器と、を備え、前記演算部は、前記第1の熱電対の測温用接点の出力と前記第2の熱電対の接点の出力とから前記測温用接点の温度を前記演算部で演算し、前記演算結果表示部で、前記演算部により算出された温度を表示すること、により解決される。
このように、補正後の温度を直接表示することで、使用者が誤った計算方法により測温部の温度を導出することがなくなり、簡便に正確な測温結果を読み取ることができる。
【0017】
このとき請求項6のように、前記第1の熱電対はK型熱電対であり、前記測温用接点の出力をV、前記第2の熱電対の接点の出力をV、ゼロ点補償による計測器の温度をTとしたときに、前記測温用接点の温度Tが、下記の式(1)で算出されるように構成すると好ましい。
T=aV+bV+T(1)
(但し、パラメータa,bは温度差と発生する熱起電力との関係から求められる近似曲線により算出される値である。)
【0018】
ここで、第2の熱電対における熱起電力は、第1の熱電対及びその補償導線などを含めた系においても同等であると見做す。これにより、薄膜熱電対とバルク材料の金属線からなる熱電対における熱起電力の差を上述の式(1)により反映させることができ、その結果、得られた測定温度を補正して正確な温度を求めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の請求項1の測温素子によれば、温度補正用として第2の熱電対を補償接点付近に設けることにより、正確な温度測定が可能となる。すなわち、薄膜熱電対である第1の熱電対と補償導線との相違により、実際の温度差に由来する熱起電力よりも得られる熱起電力が小さく評価されるが、本発明の請求項1の第2の熱電対を備えることにより、的確な温度補正をすることができる。
また、請求項2の発明によれば、第1の熱電対と補償導線に同じ材料を用いることで、同じ熱起電力特性を持つ測温素子とすることができ、正確な温度測定が可能となる。
さらに請求項3の発明によれば、温度補正用である第2の熱電対を測温用である第1の熱電対の近傍に設けることができるため、より正確な温度補正を行うことができる。また、前記コネクタのような設計とすることにより、測温素子が複雑になることなく、狭い場所での使用も可能になるなど、使用場所を限定することがない。
さらにまた、請求項4の発明によれば、コネクタに使用される部材の剛性により、圧着される第1の薄膜熱電対及び温度補正用第2の熱電対に過度な力がかかることによる、熱電対の損傷を防ぐことができる。したがって、十分な強度を得やすくなり、その使用場所を制限することがない。
また、請求項5の発明によれば、予め構成された測定温度が表示されるため、使用者の操作が簡便になる上、測定温度の補正過程での誤計算を防止することができ、さらに素早く測定温度を知ることができる。
さらに請求項6の発明によれば、補償導線と薄膜熱電対である第1の熱電対の接続において、金属細線と薄膜との相違等の問題により、実際の温度差に由来する熱起電力よりも低い値を示す現象を補正することができる。この補正により、薄膜熱電対を用いた測温素子において、正確な温度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る測温素子および温度計測器の概略図である。
【図2】図1のI−I線における断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る温度計測器における熱起電力と温度差の概略図である。
【図4】第1の熱電対にかかる温度差と発生する熱起電力のグラフ図である。
【図5】第1の熱電対をKタイプ熱電対温度表示器に接続して測定したときの表示温度と温度変換のグラフ図である。
【図6】本発明の実施形態に係る第1の熱電対および第2の熱電対用コネクタの概略図である。
【図7】図6のII−II線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態に係る測温素子および温度計測器を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する材料、配置、構成等は、本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
図1は本発明の実施形態に係る測温素子および温度計測器の概略図、図2は図1のI−I線における断面図、図3は本発明の実施形態に係る温度計測器における熱起電力と温度差の概略図、図4は第1の熱電対にかかる温度差と発生する熱起電力のグラフ図、図5は第1の熱電対をKタイプ熱電対温度表示器に接続して測定したときの表示温度と温度変換のグラフ図、図6は第1の熱電対および第2の熱電対用コネクタの概略図、図7は図6のII−II線における断面図である。
【0022】
図1は本発明の実施形態に係る測温用である第1の熱電対及び補正用である第2の熱電対の概略図である。図1において導電性薄膜11及び12はそれぞれ異種材料であり、第1の熱電対の測温接点18にて接合されている。第1の熱電対の測温接点18は、図2のように、導電性薄膜11及び12が重なるように接合されている。また、図1において導電性薄膜11及び12は、第1の熱電対の測温接点18のもう一方の端に位置する外部接続点20及び21にて、導電性薄膜11及び12と同一の金属線と接合される。そして、本発明の測温素子1においては、基板10上に薄膜熱電対11及び12を有し、その一端に被対象物の測温用である第1の熱電対の測温接点18、および他端に開放端となる各薄膜パターンの外部接続点20及び21が設置されており、その外部接続点20及び21において、補償導線13及び14が接続されている。
【0023】
さらに、外部接続点20及び21の近傍に他の金属細線からなる第2の熱電対の測温接点19があり、第1の熱電対のそれぞれの補償導線13及び14は第2の熱電対のそれぞれの金属線15及び16と同一材料である。またこの測温素子において、第1の熱電対の導電性薄膜11及び12の材料は補償導線13及び14とそれぞれ同一材料であり、外部接続点20及び21と第2の熱電対の測温接点19が一体のコネクタ2内に配置されていると好ましい(図1及び図6を参照)。この第2の熱電対を、第1の熱電対の外部接続点20及び21の近傍に設置することにより、単純な構成の測温素子となり、かつ正確な温度を測定することができる。このとき、各熱電対は補償導線13及び14、金属線15及び16は、CPUを備えた演算部17a及び接続線17cにより接続された演算結果表示部17bに接続されている。
また、本発明の実施形態に係るコネクタは、図7に示す断面図の構成のように作製される。コネクタ2は、筺体(蓋側)2a及び筺体(本体側)2bからなり、導電性薄膜11及び12を補償導線13及び14に圧着するため、基板10の導電性薄膜を有しない側に圧着用弾性物2cを備えている。
【0024】
薄膜熱電対である第1の熱電対を形成する基板10として、ガラス、フィルム、金属などを用いることができる。但し、基板10を金属などの導電性のある材料とする場合には、予め金属表面にSiO、Al等の絶縁膜を形成した上で薄膜熱電対を形成する必要がある。
したがって、好ましくはフィルムを用いるのが良い。ガラス、フィルムは金属などの導電性のある基板のように、前処理を必要とすることがないため、操作が煩雑になることが無く、好適である。また、フィルムはその可撓性により、測温素子の強度を高めることができる。さらに好ましくは、ポリイミドフィルムを用いるのが良い。ポリイミドフィルムは、折り曲げることが可能で基板を数十ミクロンの厚さにしても壊れにくく取り扱いが容易である点と、200℃を超える温度でも比較的安定している点において、薄膜熱電対の基板として適した材料である。
【0025】
第1の熱電対を構成する異種金属の組み合わせとしては、クロメル−アルメル、PtRh−Pt、クロメル−コンスタンタン、ナイクロシル−ナイシル、Cu−コンスタンタン、Fe−コンスタンタン、Ir−IrRh、W−Re、Au−Pt、Pt−Pd、Bi−Sbなどを用いることができる。好ましくは、使用温度範囲が広く、温度と熱起電力の関係が直線的である、クロメル−アルメルの組み合わせを用いるのが良い。
【0026】
上記第1の熱電対の形成方法としては、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、加熱蒸着法等の真空成膜法や、塗布法等を用いることができる。好ましくは、より薄く均一に薄膜を形成できる真空成膜法を用いるのが良い。さらに好ましくは、蒸着物質との原子組成のずれが少なく、均一に成膜ができるスパッタリング法を用いるのが良い。
【0027】
薄膜熱電対である第1の熱電対は保護膜により覆われていることが望ましい。保護膜は薄膜熱電対の耐環境性を高めると共に、薄膜熱電対が外力により変形した際に懸念されるクラックの発生を防ぐ効果もあるためである。適用可能な保護膜は、SiO、Alなどを蒸着法、スパッタリング法、ディッピング法等により形成した絶縁膜、スクリーン印刷法によるポリイミドフィルムなどである。好ましくは、耐熱性および耐薬品性が高く、接着性の高いポリイミドフィルムを用いるのがよい。
【0028】
図1における第1の熱電対の温度と熱起電力の模式図を図3に示す。Vは、補償導線13及び14と導電性薄膜11及び12の外部接続点20及び21と、導電性薄膜11及び12の外部接続点である第1の熱電対の測温接点18との二点間の温度差ΔTに対して発生する第1の熱電対の熱起電力である。ここで、外部接続点20及び21は近接していることと、外部接続点20及び21の環境の温度は安定していることを前提とする。Vは、金属線15及び16の第2の熱電対の測温接点19と、温度表示器17との間の温度差ΔTに対して発生する熱起電力である。第1の熱電対に接続されている補償導線13及び14において、第1の熱電対との外部接続点20及び21と温度表示器17との間にもΔTの温度差があるため、その補償導線13及び14では熱起電力Vが発生する。温度表示器17の温度をTとすると、第1の熱電対の測温接点18の温度Tは以下の式(2)のようになる。
T=ΔT+ΔT+T(2)
また、この時に薄膜熱電対である第1の熱電対の測温接点18から温度表示器17の閉回路で発生する熱起電力Vは以下の式(3)のようになる。
V=V+V(3)
ここで注意するべき点は、薄膜熱電対において、ある温度差ΔTに対し発生する熱起電力と、薄膜熱電対と同一の材料の金属線で形成される熱電対において温度差ΔTに対し発生する熱起電力とは等しくないということである。よって温度計測器を用いて熱起電力Vを測定しても、得られた熱起電力から第1の熱電対の測温接点18の温度Tを一意的に決めることはできない。本実施例においては導電性薄膜11及び12と補償導線13及び14の外部接続点20及び21付近に、補償導線13及び14と同一の材料の金属線で構成される第2の熱電対の測温接点19を設置して、その熱電対の熱起電力を測定する。そのことによりVを得られ、薄膜熱電対である第1の熱電対側の閉回路で発生する熱起電力VからVを差し引くことにより、導電性薄膜で発生する熱起電力Vを得ることが可能になる。
【0029】
金属線15及び16で補償導線13及び14と異なる材料を使用した場合、熱起電力Vを正しく評価できなくなり、正確な温度を算出することはできない。
【実施例】
【0030】
前記した測温素子及び温度計測器を図1の構成のように作製した。
また、本実施例では第1の熱電対の材料金属として、クロメル−アルメルを用い、スパッタリング法により、ポリイミドフィルム上に薄膜熱電対を形成した。さらに本実施例では、薄膜熱電対に基板10とは異なるポリイミドフィルムを接着し、それを保護膜とした。
【0031】
本実施例における第1の熱電対である薄膜熱電対により温度を測定した時の、薄膜熱電対の測温接点18から金属線との外部接続点20及び21までにかかる温度差と、熱起電力との関係を図4に示す。第1の熱電対である薄膜熱電対の熱起電力は、Kタイプ熱電対の熱起電力に比し、8割程度の大きさであった。第1の熱電対である薄膜熱電対で発生する熱起電力を、上述の式(1)において、予め評価し算出した値aで定数倍増幅することにより、Kタイプの熱起電力とほぼ一致させることができ、更に定数倍増幅した熱起電力をKタイプ熱電対として温度換算することにより正確な温度を得ることができる。ただし、熱起電力が正の値の場合と負の値の場合でKタイプ熱電対との熱起電力の比が若干異なるので、定数倍する値も熱起電力の符号に応じて変更することが正確な温度を求める上で望ましい。
【0032】
実際にKタイプ熱電対用温度計測器に第1の熱電対である薄膜熱電対を接続し、温度測定を行った結果を図5に示す。温度計測器の表示は、室温を境にして高温側での真の温度より低めになり、低温側では高めになった。この結果を上述の式(1)〜(3)を用いた温度変換を行うことにより正確な温度を算出した。ここで式(1)のパラメータa、bは、高温側でa=0.0307[℃/μV]、b=−0.0063[℃/μV]であり、また、低温側でa=0.0380[℃/μV]、b=−0.0118[℃/μV]である。
【0033】
本実施例における薄膜熱電対用の温度表示器17を説明する。ここで接続されている第1の熱電対である薄膜熱電対はクロメル−アルメルを材料として作製された導電性薄膜からなる熱電対である。この温度計測器は図1における第1の熱電対の測温接点18と第2の熱電対の測温接点19の、それぞれの閉回路での熱起電力を計測するために、2チャンネルの接続口を具備する。2チャンネルそれぞれで計測された熱起電力は上述の式(1)〜(3)を用いた温度変換を電子回路上で演算・増幅することにより、Kタイプ熱電対と同一の熱起電力に調整される。調整された熱起電力は演算部17aにおいて温度換算され、演算結果表示部17bに薄膜熱電対の測温接点18における温度が表示される。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明により、薄膜形状において被温度測定物体の温度を正確に求めることができる温度計測器を作製することができる。本発明により作製された温度計測器は、電子デバイスの性能・品質の改良、化学分析機器の微細化、燃料電池の性能・品質改善などに有用であると期待される。
【符号の説明】
【0035】
1 測温素子
2 コネクタ
2a 筐体(蓋側)
2b 筐体(本体側)
2c 圧着用弾性物
10 基板
11 導電性薄膜
12 導電性薄膜
13 補償導線
14 補償導線
15 金属線
16 金属線
17 演算及び演算結果表示部(温度表示器)
17a 演算部
17b 演算結果表示部
17c 接続線
18 第1の熱電対の測温接点(薄膜熱電対の測温接点)
19 第2の熱電対の測温接点
20 外部接続点
21 外部接続点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に異なる金属からなる一対の薄膜により形成され、一端側に測温用接点を有し、他端側に各薄膜の外部接続点を備えた第1の熱電対と、
前記第1の熱電対の外部接続点と接続された一対の金属線と、
前記外部接続点と離間した近傍に接点を有する、一対の金属線からなる第2の熱電対と、
を備え、
前記第1の熱電対の外部接続点と接続された一対の金属線と、前記第2の熱電対の一対の金属線は、同一組み合わせの材料により構成されていることを特徴とする測温素子。
【請求項2】
前記一対の薄膜の材料は、前記第1の熱電対の外部接続点と接続された一対の金属線と同一組み合わせの材料からなることを特徴とする請求項1記載の測温素子。
【請求項3】
前記外部接続点と、
前記外部接続点で接続される前記一対の金属線とを内部に収容するコネクタを有し、
前記第2の熱電対の接点は、前記外部接続点のそれぞれを結ぶ同一線上に離間して、
前記コネクタ内に一体に配設されていることを特徴とする請求項1記載の測温素子。
【請求項4】
前記第1の熱電対の外部接続点と、該外部接続点で接続される前記一対の金属線は、弾性体で圧接されて接続されていることを特徴とする請求項3記載の測温素子。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の測温素子と、該測温素子と接続され、演算部及び演算結果表示部を備えた機器と、を備え、
前記演算部は、前記第1の熱電対の測温用接点の出力と前記第2の熱電対の接点の出力とから前記測温用接点の温度を前記演算部で演算し、前記演算結果表示部で、前記演算部により算出された温度を表示することを特徴とする温度計測器。
【請求項6】
前記第1の熱電対はK型熱電対であり、前記測温用接点の出力をV、前記第2の熱電対の接点の出力をV、ゼロ点補償による計測器の温度をTとしたときに、前記測温用接点の温度Tが、下記の式(1)で算出されることを特徴とする請求項5に記載の温度計測器。
T=aV+bV+T(1)
(但し、パラメータa,bは温度差と発生する熱起電力との関係から求められる近似曲線により算出される値である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−190735(P2010−190735A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−35464(P2009−35464)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【出願人】(591124765)ジオマテック株式会社 (35)
【Fターム(参考)】