説明

測量装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、土木測量などに用いられる測量装置に関し、特に、GSP受信機を用いる測量装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】土木測量の分野において、例えば、比較的広い面積の飛行場などを造成する場合には、三角点(基準点)から造成対象地域の近傍に既知地点を地図上から求め、この既知地点から造成対象地域内に複数の地点を指定し、指定された地点に杭を打設して、その後の工事の目印などに用いる。
【0003】このような測量においては、従来、一般的には、トータルステーションを使用して、以下に説明するようにして杭の打設作業が行われていた。まず、杭の打設作業の前に、既知地点と指定地点との地図上の座標が求められ、これらの地点間の距離と、目印物と既知地点とを結ぶ線分と、既知地点と指定地点とを結ぶ線分との交角とを求めておく。この場合の目標物は、例えば、測量現場で見渡せて、その座標が地図上に明示されている煙突などが選択される。
【0004】そして、測量現場の既知地点上にトータルステーションを設置し、目印物を視準して、この方向から交角に相当する角度だけ回転した直線上において、指定地点と既知地点との間の距離に相当する位置にターゲットを立設し、このターゲットまでの距離を光波距離計(トータルステーション)により測定して、その距離を確認し、確認されたターゲーットの支持地点に杭を打設する。
【0005】しかしながら、このような従来の杭の打設作業には、以下に説明する問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】すなわち、上述した従来の杭の打設作業では、まず、交角を決めた後に、距離の測定確認を行うので、杭の打設地点を特定するまでに時間がかかるという問題があった。本発明は、以上のような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、杭の打設地点の特定が迅速にできる測量装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するために、本発明は、複数の衛星から発信された電波を受信する少なくとも一対のGPS受信機を用い、前記GPS受信機の一方を順次指定地点に設置し、他方を既知地点に設置し、前記両GPS受信機で同時刻に受信された受信電波の位相差に基づいて、前記指定地点の座標値を求め、前記指定地点に杭打設用の目印を表示する測量装置であって、前記一方のGPS受信機は、ポールの上端側に支持され、前記衛星から発信された電波を受信するGPSアンテナと、このGPSアンテナで受信された電波を前記衛星から発信された電波よりも低い搬送周波数に変換するアナログ信号処理部と、このアナログ信号処理部の出力信号を受けて送信アンテナから無線信号を送出する無線信号送出部とを有し、前記他方のGPS受信機は、前記一方のGPS受信機から送出された無線信号を受信する受信アンテナを備えた無線信号受信部と、前記衛星から発信された電波を受信するGPSアンテナと、このGPSアンテナで受信された電波を周波数変換して増幅するアナログ信号処理部と、前記無線信号受信部と前記アナログ信号処理部との出力信号から電波の搬送波位相をデジタル化した位相データを生成するデジタル信号処理部と、前記デジタル信号処理部から送出される位相データを所定時間間隔毎に抽出してエポック位相データを求め、この位相データに基づいて前記指定地点の座標値を演算し、この演算された座標値と予め入力されている前記指定地点の地図上の座標値とが一致するように指示する制御部とを有することを特徴とする。
【0008】
【作用】上記構成の測量装置によれば、デジタル信号処理部からは異なった地点(既知地点と指定地点)に設置された2個のGPS受信機で受信した電波に基づく位相データが生成されるので、この位相データに基づいてエポック位相データを求め、このエポック位相データにより指定地点の座標値を制御部でリアルタイムに求めることができる。そして、このようにして求められた指定地点の座標値と予め入力されている指定地点の地図上の座標値とを比較演算することにより、どの方向にどれだけ移動すればこれらの座標値が一致するかが判り、測量現場で指定地点の特定が正確かつ迅速に行える。
【0009】
【実施例】以下、本発明の好適な実施例について添附図面を参照して詳細に説明する。図1から図6は、本発明にかかる測量装置の一実施例を示している。同図に示す測量装置は、2個のGPS受信機10,12が用いられ、一方の受信機10を未知の指定地点A1 〜An に順次移動させるとともに、各指定地点A1 〜An で数分間の測定を行い、既知地点B(座標値Xs,s )に固定設置されている第2GPS受信機12との関係から指定地点A1 〜An の座標値(x1 〜xn ,y1 〜yn )を求め、杭の打設点を表示するものである。
【0010】このような測量に当たっては、地球上を周回する少なくとも4個の衛星S(S1 〜S4 )から発信された電波を第1および第2GPS受信機10,12で受信し、受信した電波の位相差に基づいて指定地点A1 〜An の座標値(x1 〜xn,y1 〜yn )が測定される。指定地点A1 〜An に設置される第1GPS受信機10の詳細を図2,3に示している。同図に示す第1GPS受信機10は、ポール14に支持された形態を有し、電源スイッチ16が外表面に設けられた半球状のカバー18内に電源電池20と、マイクロストリップから構成されたGPSアンテナ22と、増幅器などを構成する電子部品が搭載されたプリント基板24とが収納されている。
【0011】また、ポール14の外周には、アンテナ保持具26が装着され、このアンテナ保持具26には、棒状の無線用送信アンテナ28が支持されている。この送信アンテナ28は、カバー18の下面に取り付けられたコネクタ30を介してケーブル32でプリント基板24に接続されている。図3は、第1GPS受信機10の電気的な構成を示すブロック図であり、第1GPS受信機10は、GPSアンテナ22に接続され、このGPSアンテナ22で受信された衛星Sからの電波を、衛星Sから発信された電波の搬送周波数f1、例えば、これがL1 信号であれば1575.42MHzなので、これよりも低い搬送周波数f2 、例えば、63MHzに変換するアナログ信号処理部34と、このアナログ信号処理部34からの出力信号を受けて送信アンテナ28から無線信号を送出する無線信号送出部36とを有している。
【0012】第1GPS受信機10のアナログ信号処理部34は、GPSアンテナ22に接続された低雑音増幅器34aと、この増幅器34aの出力側に接続された第1バンドパスフィルタ34bと、局部発振器34cと、バンドパスフィルタ34bの出力信号と局部発振器34cの出力信号とを混合して、所定の搬送周波数f2 に変換する混合器34dと、混合器34dの出力側に接続された第2バンドパスフィルタ34eとを有している。
【0013】また、無線信号送出部36は、アナログ信号処理部34の第2バンドパスフィルタ34eの出力側に接続された中間周波増幅器36aと、この中間周波増幅器36aの出力側に接続された電力増幅器36bとを有していて、電力増幅器36bの出力側に送信用アンテナ28が接続されている。既知地点Bに設置される第2GPS受信機12の詳細を図4,5に示している。同図に示す第2GPS受信機12は、三脚38に支持された半球状のカバー40内に収納され、衛星Sから発信された電波を受信するGPSアンテナ42を有している。また、カバー40内には、GPSアンテナ42で受信された電波の搬送周波数を周波数変換して増幅するアナログ信号処理部44を構成する電子部品が搭載されたプリント基板46が収納されている。
【0014】アナログ信号処理部44は、カバー40に取り付けられたコネクタ48とケーブル50を介して受信機本体52に接続され、この受信機本体52内には、無線信号受信部54,デジタル信号処理部56,制御部58,メモリ60が収納され、その前面側には、操作部62や表示部64が設けられるとともに、背面側には、無線信号受信部54と電気的に接続された受信アンテナ62が取り付けられている。
【0015】図5は、第2GPS受信機12の電気的な構成を示すブロック図である。第2GPS受信機12のアナログ信号処理部44は、GPSアンテナ42に接続された低雑音増幅器44aと、この増幅器44aの出力側に接続された第1バンドパスフィルタ44bと、局部発振器44cと、バンドパスフィルタ44bの出力信号と局部発振器44cの出力信号とを混合して、所定の搬送周波数f3 に変換する混合器44dと、混合器44dの出力側に接続された第2バンドパスフィルタ44eと、第2バンドパスフィルタ44eの出力側に接続された中間周波増幅器44fとを有している。
【0016】また、無線信号受信部54は、受信アンテナ62に接続された低雑音増幅器54aと、この増幅器54aの出力側に接続された第1バンドパスフィルタ54bの出力側に接続された中間周波増幅器54fとを有している。デジタル信号処理部56は、無線信号受信部54とアナログ信号処理部44との出力信号から電波の搬送波位相をディジタル化した位相データなどを生成するものであって、具体的にはD.S.P(Digital Signal Processor) から構成されていて、少なくとも8以上のチャンネル数を有し、この実施例では、1〜4チャンネルが第2GPS受信機12で直接衛星S1 〜S4 から受信する電波、すなわち、アナログ信号処理部44から出力される信号に割り当てられ、残りの5〜8チャンネルが第1GPS受信機10で衛星S1 〜S4 から受信する電波、すなわち、無線信号受信部54から出力される信号に割り当てられる。
【0017】制御部58は、デジタル信号処理部56から送出される位相データを所定時間間隔毎に抽出してエポック位相データとして内部メモリ60に記憶させ、メモリ60に予め格納されている手順に従って、2個のGPS受信機10,12で受信されたエポック位相データに含まれている航法データ,C/Aコード位相,キャリア位相から指定地点A1 〜An の座標値(x1 〜xn ,y1 〜yn )を演算し、この座標値と予め入力されている指定地点A1 〜An の地図上の座標値(X1〜Xn,1 〜Yn )との間の差を求め、この差がなくなるように指示するものであって、具体的には、マイクロコンピュータから構成されている。
【0018】図6は、制御部58で実行される制御手順の一例を示している。同図に示す制御手順では、手順がスタートするとまず、ステップs1でデジタル信号処理部56が有している8チャンネルに対して衛星S1 〜S4 の割り付けが行われる。この場合、本実施例では、1〜4チャンネル(主チャンネル)が第2GPS受信機12で受信する衛星S1 〜S4 に割り当てられ、残りの5〜8チャンネル(予備チャンネル)が第1GPS受信機10で受信する衛星S1 〜S4 に割り当てられる。
【0019】チャンネルの割り付けが終了すると、ステップs2で測定開始条件が完了したか否かが判断される。ここで判断される測定開始条件は、各衛星S1 〜S4 から発信されている電波(GPS信号)のC/Aコードが異なっているので、指定されたチャンネル毎にその周波数と同期をとる必要があるので、この同期状態を判断しており、同期がとられると各チャンネルは順次そのC/Aコードにロックされる。
【0020】そして、全チャンネルの同期がとられると、測定開始条件が満たされたと判断され、ステップs3に移行する。ステップs3では、測定のための初期設定が行われる。ここで行われる初期設定は、キネマティツク測量では、不確定解(波数)を解く操作を行なう必要があり、この不確定解を解くための操作ないしはデータの入力と、既知地点Bの座標値(Xs,s )、指定地点A1 〜An の地図上の座標値(X1 〜Xn ,Y1 〜Yn )の入力およびメモリ60への格納が行われる。
【0021】ここで行われる座標値の入力に関しては、例えば、これらの各座標値をメモリカードに予め記憶させておき、制御部58に設けられている読み取り装置にこのメモリカードを挿入する方法や、キーボードから直接制御部58に入力する方法が採用される。また、不確定解を解くための初期設定は、■第1GPS受信機10のGPSアンテナ22と、第2GPS受信機12のGPSアンテナ42とを取り替える、■既知地点Bの座標を入力する、■第1GPS受信機10を観測点A1 に固定設置し、30分から1時間程度の定置測量をする、のいずれかの手段を選択して行う。初期設定が完了すると、続くステップs4で不確定解の演算を行い、その値をメモリ60に格納する。
【0022】そして、次のステップs5で指定地点A1 への移動を指示して、移動が開始され、指定地点A1 にほぼ到達すると、その地点で数分間程度停止し、GPS受信機10,12の測定が行われ(ステップs6)、ステップs7で指定エポック分のデータが取り込まれ、ステップs8で不確定解と1〜8チャンネルで得られたエポック位相データに基づいて指定地点A1 のGPS座標系における座標値が演算される。
【0023】次いで、ステップs9でGPS座標系からローカル座標系への変換が行われ、指定地点A1 の座標値x1,1 が演算され、ステップs10でメモリ60に格納されている指定地点A1 の地図上の座標値X1,1 が読みだされ、座標値x1,1 と 座標値X1,1 との間の座標差が演算され、その結果が表示部64に表示される。
【0024】続くステップs11では、座標差が0か否かが判断され、これが0でない場合には、ステップs5に移行し、第1GPS受信機10が移動され、移動した地点で上記ステップs6からの操作を繰り返し、再び座標差を求めることになるが、この場合、ステップs10で座標値の差が判っているので、その移動方向も、例えば、東に××m、南に××mといった的確な指示が行える。
【0025】そして、ステップs11で座標値の差が0であると判断された場合には、第1GPS受信機10の現在位置が指定地点A1 の地図上の座標値X1,1 と一致したことになるので、その地点にポール14で孔をあけ、杭の打設位置を表示する。このようにして指定地点A1 が表示されると、続くステップs12で測定が全て終了したか否かが判断され、終了していなければステップs5に戻り、次の指定地点A2 での測定が続行され、指定地点A1 〜An の全ての表示が完了すると、手順が終了する。
【0026】以上のように構成された測量装置では、第1GPS受信機10を指定地点A1〜An に順次移動して数分間の測定を行えば、指定地A1 〜An の座標値x1 〜xn ,y1 〜yn を測量の現場でリアルタイムに求めることができ、この求められた座標値x1 〜xn ,y1 〜yn と予め入力されている指定地点の地図上の座標値X1 〜Xn ,Y1 〜Yn とを比較演算することにより、どの方向にどれだけ移動すればこれらの座標値が一致するかが判り、その後に行われる杭の打設作業が迅速かつ正確に行える。
【0027】また、本実施例の測量装置では、第1GPS受信機10に、GPSアンテナ22で受信された電波を衛星Sから発信された電波よりも低い周波数に変換するアナログ信号処理部34と、このアナログ処理部34の出力信号を受けて送信アンテナ28から無線信号を送出する無線信号送出部36とを設け、他方の第2GPS受信機12に、前記無線信号を受信する受信アンテナ62を備えた無線信号受信部54と、GPSアンテナ42で受信された電波を周波数変換して増幅するアナログ信号処理部44と、前記無線信号受信部54と前記アナログ信号処理部44との出力信号から電波の搬送波位相をディジタル化した位相データを生成するデジタル信号処理部56とを設けているので、2個の受信機10,12で受信された電波から1つのデジタル信号処理部56で位相データを生成することになり、サンプリング周期の完全一致化が図れる。
【0028】さらに、第1GPS受信機は、従来のデジタル信号処理部と制御部とを除去し、これらに代えてアンテナを備えた無線信号送出部36を設けたものなので、軽量化および低価格化が図れ、特に、一方のGPS受信機を順次移動させながら測量を行う場合には、移動が簡単に行えるなどその効果が極めて有効に発揮される。
【0029】
【発明の効果】以上、実施例で詳細に説明したように、本発明にかかる測量装置によれば、測量の現場でリアルタイムに測定結果が得られ、杭打ち作業の迅速化が図れるとともに、位相データのサンプリング周期が完全に一致させることで測量の精度を向上させ、しかも、軽量化と低価格化とを同時に達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる測量装置を用いた測量状態の概要を示す説明図である。
【図2】本発明にかかるGPS受信機の一方の受信機の一例を示す外観説明図である。
【図3】図2に示したGPS受信機の機能ブロック図である。
【図4】本発明にかかるGPS受信機の他方の受信機の一例を示す外観説明図である。
【図5】図4に示したGPS受信機の機能ブロック図である。
【図6】本発明のGPS測量装置で行われる制御部の制御手順の一例をしめすフローチャート図である。
【符号の説明】
10,12 GPS受信機
22,42 GPSアンテナ
28 送信アンテナ
34 アナログ信号処理部
36 無線信号送出部
44 アナログ信号処理部
54 無線信号受信部
56 デジタル信号処理部
58 制御部
60 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数の衛星から発信された電波を受信する少なくとも一対のGPS受信機を用い、前記GPS受信機の一方を順次指定地点に設置し、他方を既知地点に設置し、前記両GPS受信機で同時刻に受信された受信電波の位相差に基づいて、前記指定地点の座標値を求め、前記指定地点に杭打設用の目印を表示する測量装置であって、前記一方のGPS受信機は、ポールの上端側に支持され、前記衛星から発信された電波を受信するGPSアンテナと、このGPSアンテナで受信された電波を前記衛星から発信された電波よりも低い搬送周波数に変換するアナログ信号処理部と、このアナログ信号処理部の出力信号を受けて送信アンテナから無線信号を送出する無線信号送出部とを有し、前記他方のGPS受信機は、前記一方のGPS受信機から送出された無線信号を受信する受信アンテナを備えた無線信号受信部と、前記衛星から発信された電波を受信するGPSアンテナと、このGPSアンテナで受信された電波を周波数変換して増幅するアナログ信号処理部と、前記無線信号受信部と前記アナログ信号処理部との出力信号から電波の搬送波位相をデジタル化した位相データを生成するデジタル信号処理部と、前記デジタル信号処理部から送出される位相データを所定時間間隔毎に抽出してエポック位相データを求め、この位相データに基づいて前記指定地点の座標値を演算し、この演算された座標値と予め入力されている前記指定地点の地図上の座標値とが一致するように指示する制御部とを有することを特徴とする測量装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【特許番号】特許第3502434号(P3502434)
【登録日】平成15年12月12日(2003.12.12)
【発行日】平成16年3月2日(2004.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−50147
【出願日】平成6年3月22日(1994.3.22)
【公開番号】特開平7−260480
【公開日】平成7年10月13日(1995.10.13)
【審査請求日】平成13年1月29日(2001.1.29)
【出願人】(000148623)株式会社ソキア (114)
【参考文献】
【文献】特開 平5−280983(JP,A)
【文献】特開 昭63−269079(JP,A)
【文献】特開 平5−223588(JP,A)
【文献】特開 平4−296683(JP,A)
【文献】特開 平6−75034(JP,A)
【文献】特開 平3−210491(JP,A)
【文献】特開 昭61−235775(JP,A)
【文献】特許3273823(JP,B2)