説明

湛液型水耕栽培装置、温度調節システム、植物栽培施設、並びに方法

【課題】施設内植物栽培における気温制御を省エネルギーで行う手段の提供。
【解決手段】養液B2に対し曝気する曝気手段1を備える湛液型水耕栽培装置Bであって、曝気する空気を加熱又は冷却する温度調節手段12を備える湛液型水耕栽培装置を提供する。また、この装置Bは、害虫の侵入を抑制できる半通気性被覆材2で栽培面が被覆された構成にしてもよい。これにより、植物栽培施設の空間全体ではなく、養液B2及び植物周囲空間3に限局して温度制御を行うため、施設内植物栽培における温度制御を省エネルギーで行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養液に対し曝気する曝気手段を備える湛液型水耕栽培装置であって、曝気する空気を加熱又は冷却する温度調節手段を備える湛液型水耕栽培装置、曝気した空気の気泡径を調整することにより培養液・植物周囲空間の温度を調節する温度調節システム、植物栽培施設、湛液型水耕栽培方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
季節ごとの気候の変化の影響をあまり受けずに、年間を通して植物生産に好適な環境を維持する手段として、温室など、植物栽培施設内での栽培が広く普及している。施設内で植物栽培を行うことにより、周年生産、出荷時期の調整などを行うことができる。
【0003】
従来、植物栽培施設における冬季の温度制御は、ボイラー・地熱などを利用して、温風・温湯などで施設内全体を温める方法が取られている。
【0004】
植物栽培施設における夏季の温度制御は、天窓・側窓の開放による自然換気、換気扇などを利用した強制換気、遮光カーテンなどによる日射遮断などの方法が採られている。近年では、細霧冷房、パット・アンド・ファン冷房などの方法なども、一部で採用されている。
【0005】
植物栽培施設における虫害防除は、施設外での植物栽培(露地栽培)と同様、農薬を用いて行われることが多い。しかし、近年、無農薬・減農薬に対する社会的な要請が高まっている。それに対し、無農薬・減農薬での虫害防除手段として、例えば、植物栽培施設の天窓・側窓に網戸を設置する方法、栽培面に通気性被覆材などを被覆して害虫の侵入を防ぐ方法などの物理的防除手段が用いられている。
【0006】
水耕栽培は、土壌・固形培地などを用いずに、生長に必要な養水分を液肥として与える栽培方法である。水耕栽培は土壌を用いないことから施設内植物栽培に適している。そのため、近年、各種植物の水耕栽培が広く行われている。
【0007】
湛液型水耕栽培法(DFT;Deep Flow Technique、以下同じ)は、水耕栽培法の一つで、植物の定植部(栽培パネルなど)の下側に養液を溜めて栽培する方法である。養液中の肥料濃度、液温の変化などが緩やかで管理しやすい一方、養液中の溶存酸素量が低くなるため、養液の曝気が必要となる。
【0008】
特許文献1には、植物栽置部の下方から空調空気を送り出すことにより、プラントの高さを低くして空調空間を小さくした植物栽培装置が記載されている。
【0009】
特許文献2には、気泡発生部を介して養液供給系に酸素を供給する酸素供給系を備える水耕栽培装置が記載されている。特許文献3には、エアレーションと活水器を具備する水処理装置とボイラーによって加熱された温水が循環するヒートパイプとを有する養液栽培装置・プラントが記載されている。特許文献4には、溶存酸素濃度を栽培作物の種類や生育状況に応じて制御・管理する水耕栽培システムが記載されている。特許文献5には、マイクロバブルで曝気を行うことにより養液中の溶存酸素を増加させる水耕栽培酸素供給システムが記載されている。特許文献6には、加圧式エア供給装置を用いて発生させた泡を混合させることにより、培養液の溶存酸素濃度を富化する方法が記載されている。
【0010】
特許文献7には、空気を加熱又は冷却する空調装置を備え、送風機が温室内を陽圧に保つことにより病害虫の温室内への侵入を防止し、更に導風管から植物の葉に向って吹き出すことにより、植物の光合成を促し、温室内温度を保つ土耕植物栽培プラントが記載されている。特許文献8には、防虫ネットと吸気用換気扇を備え、吸気用換気扇の風量を調整することにより、ハウス内の気圧を正圧にする植物栽培用害虫侵入防止ハウスが記載されている。
【特許文献1】特開2000−209969号公報
【特許文献2】特開平3−133323号公報
【特許文献3】特開2003−265057号公報
【特許文献4】特開2007−6859号公報
【特許文献5】特開2002−142582号公報
【特許文献6】特開2004−337077号公報
【特許文献7】特開2005−34043号公報
【特許文献8】特開2008−5823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
植物栽培施設における冬季の温度制御は、上述の通り、ボイラー・地熱などを利用して行われているため、燃料コストが農家の経営負担となっている。
【0012】
植物栽培施設における夏季の温度制御は、上述の通り、自然換気・強制換気など外気導入が主であるが、換気のみで植物の生育に適した温度にまで下げることは難しい。また、植物栽培施設で冷房などの空調設備を整備することは、コストの面から、一部の研究・実験施設などを除き、ほとんど行われていない。その他、細霧冷房やパット・アンド・ファン冷房は、費用対効果が低く、普及率は低い。
【0013】
そこで、本発明は、施設内植物栽培における温度制御を省エネルギーで行う手段を提供することなどを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では、養液に対し曝気する曝気手段を備える湛液型水耕栽培装置であって、曝気する空気を加熱又は冷却する温度調節手段を備える湛液型水耕栽培装置を提供する。
【0015】
加熱又は冷却した空気を養液中に曝気することにより、養液中の含気量を増加させるとともに、養液を温度制御できる。
【0016】
この装置は、害虫の侵入を抑制できる半通気性被覆材で栽培面が被覆された構成にしてもよい。曝気した空気の一部は養液を通過して、養液と半通気性被覆材の間に形成される植物周囲空間に到達する。従って、養液だけでなく、植物周囲空間も温度制御できる。
【0017】
また、これにより、植物栽培施設の空間全体ではなく、養液及び植物周囲空間に限局して温度制御を行うため、施設内植物栽培における温度制御を省エネルギーで行うことができる。
【0018】
この湛液型水耕栽培装置は、曝気する空気の気泡径を調整する気泡径調整手段を備える構成にしてもよい。
【0019】
曝気する空気の気泡が小さい場合、気泡の表面積が大きくなるため、気泡と養液との間の熱交換効率が高くなる。また、気泡が養液中に留まる時間が長くなる。従って、曝気する空気の気泡径が小さくなるように調整することにより、主に養液の温度を制御できる。
【0020】
一方、曝気する空気の気泡が大きい場合、気泡の表面積が小さくなるため、気泡と養液との間の熱交換効率が低くなる。また、気泡が養液中に留まる時間が短くなるため、気泡が、養液との温度差を保持した状態で、植物周囲空間に到達する。従って、曝気する空気の気泡径が大きくなるように調整することにより、主に植物周囲空間の温度を制御できる。
【0021】
このように、曝気した空気の気泡径を調整することにより、養液、及び/又は、植物周囲空間の温度を調節できる。
【0022】
その他、本発明には、次のような有利性がある。
【0023】
上記の通り、この装置では、害虫の侵入を抑制できる半通気性被覆材で栽培面を被覆する。この半通気性被覆材の通気抵抗と、曝気による空気圧を利用することにより、植物周囲空間を陽圧に保つことができる。従って、この被覆材で害虫の侵入を抑制するとともに、植物周囲空間を陽圧に保つことにより、害虫の侵入防止の確実性を高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、施設内植物栽培における温度制御を省エネルギーで行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
<本発明に係る植物栽培施設について>
本発明に係る湛液型水耕栽培装置は、例えば、植物栽培施設内に設置できる。
【0026】
図1は、本発明に係る植物栽培施設Aの構成例を示す略示構成図である。
【0027】
図1では、植物栽培施設A内に複数の湛液型水耕栽培装置Bが設置されている。
【0028】
冬季の温度制御では、例えば、天窓A1の閉鎖、側窓A2の閉鎖などを行い、施設内の保温性を高めるとともに、水耕栽培装置Bの温度調節手段(後述する)で曝気する空気を加熱し、植物周囲空間を好適な温度に維持する。
【0029】
夏季の温度制御では、例えば、天窓A1の開放(矢印A4参照)、側窓A2の開放などで自然換気を行ったり、換気扇A3などで強制換気を行ったりして、植物栽培施設内全体の冷却を進めるとともに、水耕栽培装置Bの温度調節手段(後述する)で曝気する空気を冷却し、植物周囲空間を好適な温度に維持する。
【0030】
これにより、一年を通して、施設内植物栽培における温度制御を省エネルギーで行うことができる。
【0031】
<本発明に係る湛液型水耕栽培装置について>
本発明に係る湛液型水耕栽培装置の例について、以下、図2、図3を用いて説明する。なお、本発明は、これらの例のみに狭く限定されない。
【0032】
図2は、本発明に係る湛液型水耕栽培装置Bの構成例を示す略示構成図である。
【0033】
図2の湛液型水耕栽培装置Bは、養液槽B1と、該養液槽B1内に溜められた養液B2と、養液B2上に配置された植物担持体B3と、植物担持体B3に植え付けられた植物B4とを備える。
【0034】
また、養液B2に対し曝気する曝気手段1と、栽培面(符号B3)を被覆し害虫の侵入を抑制できる半通気性被覆材2とを備え、養液B2と被覆材2の間には植物周囲空間3が形成されている。
【0035】
その他、図2では、養液B2の温度を検出する温度検知手段41と、植物周囲空間3の温度を検出する温度検知手段42と、植物栽培施設内の温度を検知する温度検知手段43と、この装置Bを制御する制御手段5とを備える。
【0036】
養液槽B1は、養液B2を貯留する部位である。養液槽B1は、公知のものを利用でき、材質は特に限定されないが、長期間、養液B2を貯留しても劣化の少ないものが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂(例えば、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂など)製のもの、発泡性樹脂(発泡ポリスチレン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリウレタンなど)製のものなどを利用できる。
【0037】
養液B2は、肥料・各種栄養素などを溶解した水であり、養液槽B1に貯留される。養液B2には、公知のものを利用できる。植物B4の根をこの部位に浸すことにより、必要な元素などが植物に供給される。
【0038】
植物担持体B3は、栽培パネルなど、植物を担持させる板状体であり、養液B2に浮上させるなどして配置する。植物担持体B3は、公知のものを利用でき、材質は特に限定されない。例えば、発泡性樹脂(発泡ポリスチレン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリウレタンなど)製のもの、不織布(例えば、アラミド繊維、ガラス繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン繊維、エチレン酢酸ビニル樹脂、合成ゴム、ナイロン樹脂など、又はその組み合わせにより加工されたもの)を利用できる。
【0039】
植物B4は、栽培する植物であり、植物担持体B3に植え付けられる。植物B4は湛液型水耕栽培が可能なものであればよい。植物周囲空間3を小さくすることによりエネルギーコストを低減するという観点からは、成長時の丈の低い植物の方がより好適である。
【0040】
曝気手段1は、養液B2に対し曝気することにより、養液B2の溶存酸素量などを保持する。曝気手段1は、例えば、曝気する空気を供給する空気供給手段11と、曝気する空気を加熱又は冷却する温度調節手段12と、送風管13と、曝気する空気を噴射する噴射孔14とを備える構成にすることができる。
【0041】
空気供給手段11は、曝気する空気を供給する部位である。空気供給手段11は、エアポンプ、エアコンプレッサー(空気圧縮供給機)、エアボンベなど、公知のものを用いることができる。また、酸素又は炭酸ガスの富化などの観点から、酸素ボンベ、炭酸ガスボンベなどを適宜用いてもよい。
【0042】
温度調節手段12は、曝気する空気を加熱又は冷却する部位である。加熱・冷却手段は公知のものを利用できる。加熱手段としては、例えば、ボイラー、ヒーター、地熱などを利用して、温風・温湯などで行う方法を利用できる。冷却手段としては、例えば、ヒートポンプ、ヒートパイプ、ペルティエ素子などを利用できる。
【0043】
なお、図2では、温度調節手段12の上流に空気供給手段11を備える構成であるが、本発明はこれに限定されない。例えば、温度調節手段12により温度を調節した空気を、空気供給手段11により下流へ供給する場合も、本発明に包含される。
【0044】
噴射孔14は、送られてきた空気を気泡状にして養液B2に噴射する部位である。また、噴射孔14の中に気泡径調整手段を付加し、曝気する空気の気泡径を調整できる構成にしてもよい。気泡径調整手段としては、例えば、気体導入量調整弁を備えたノズルなどを利用できる。また、電磁ノズルなどを用いて、気泡径調整を自動化してもよい。
【0045】
噴射孔14は、例えば、公知の治具などを用いて、噴射方向を任意の向きに調整できる構成にしてもよい。これにより、養液B2の対流を生じさせ、養液濃度を均一にさせることができる。
【0046】
半通気性被覆材2は、通気性・透光性を保持しつつ害虫の侵入を抑制し、かつ、通気抵抗により植物周囲空間3を陽圧に保つ部材である。植物B4と一定の距離を確保しつつ、栽培面(符号B3)を被覆するように設置する。なお、半通気性被覆材2は、半通気性であり、被覆材の内外間で緩やかに空気交換されるため、炭酸ガス飢餓などの問題は生じない。
【0047】
半通気性被覆材2は、栽培作業などを効率的に行うという観点などから、取り外し可能な(着脱自在な)構成にすることが好ましい。一方、この被覆材2を装置Bに取り付ける際には、害虫の侵入を抑制し、植物周囲空間を陽圧に保つため、できるだけ隙間なく、より好適には略気密状態になるように取り付けることが好ましい。
【0048】
半通気性被覆材2として、例えば、目合い0.1〜2.0mmの防虫ネットなどを利用できる。例えば、目合い0.4mmのネットを用いた場合、通気抵抗を保持しつつ、タバココナジラミなどの害虫の侵入を防止できる。
【0049】
半通気性被覆材2の材質などは特に限定されないが、例えば、ビニロン繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン繊維などのものを利用できる。
【0050】
植物周囲空間3は、養液B2と半通気性被覆材2の間に形成される領域であり、植物B4の根上部分の生育空間である。本発明では、植物栽培施設の空間全体ではなく、植物周囲空間3に限局して温度制御を行うことにより、施設内植物栽培における温度制御を省エネルギーで行う。なお、植物周囲空間3は曝気により陽圧に保たれている(詳細は後述する)。
【0051】
温度検知手段4(符号41、42、43)は、例えば、養液B2中、植物周囲空間3、植物栽培施設内などに設置して、その部位の温度を検知する部位である。そして、それらの情報に基づいて、制御手段5が、空気供給手段11、温度調節手段12、気泡調整手段14などを制御し、養液B2・植物周囲空間3の温度、曝気量、気泡径などを調節する。なお、温度検知手段4の設置は任意である。
【0052】
図3は、植物周囲空間3が陽圧であることを示す模式図である。
【0053】
気泡15は、噴射孔14から噴射され、養液B2に供給される(矢印X1参照)。その一部は養液B2に留まり、養液B2の溶存酸素量などを増加させる。一方、一部の気泡15は、養液B2を通過し、植物周囲空間3に供給される(矢印X2参照)。
【0054】
半通気性被覆材2は通気抵抗を有するため、半通気性被覆材2を通過して装置Bの外へ出る空気圧よりも養液B2に供給される空気圧の方が高い場合、植物周囲空間3は陽圧となる(矢印X3参照)。
【0055】
半通気性被覆材2が半通気性であり、かつ植物周囲空間3が陽圧であるため、一部の空気が該被覆材2を通過し、植物周囲空間3の外へ出る(矢印X4参照)。従って、この被覆材で害虫の侵入を抑制するとともに、植物周囲空間を陽圧に保つことで装置B内から外への空気の流れができることにより、害虫の侵入防止の確実性を高めることができる。
【0056】
<本発明に係る温度調節システムについて>
本発明に係る温度調節システムは、養液に対し曝気する曝気手段を用いる湛液型水耕栽培における温度調節システムである。曝気する空気を加熱又は冷却する温度調節手段と、栽培面を被覆し害虫の侵入を抑制できる半通気性被覆材と、養液と前記半通気性被覆材の間に形成される植物周囲空間を備え、曝気した空気の気泡径を調節することにより、養液、及び/又は、植物周囲空間の温度を調節する。
【0057】
以下、図4、図5を用いて説明する。なお、本発明は、これらの例のみに狭く限定されない。
【0058】
図4は、本発明に係る温度調節システムの概略を示す模式図である。図4Aは、養液B2の温度調節を行う場合を示す模式図、図4Bは、植物周囲空間3の温度調節を行う場合を示す模式図である。
【0059】
図4Aにおいて、例えば、気泡径を調整することにより、噴射孔14から気泡径の小さい気泡15を噴射した場合(矢印X1)、多くの気泡は養液B2中に留まる(矢印X5参照)。
【0060】
本発明では、加熱又は冷却した空気を噴射するため、多くの気泡が養液B2中に留まる場合、その熱は主に養液B2に伝導する。従って、気泡径の小さい気泡を噴射するように気泡径を調整することにより、養液B2の温度制御を行うことができる。
【0061】
一方、図4Bにおいて、例えば、気泡径を調整することにより、噴射孔14から気泡径の大きい気泡15を噴射した場合(矢印X1)、多くの気泡は養液B2を通過して植物周囲空間3に到達する(矢印X2参照)。
【0062】
本発明では、加熱又は冷却した空気を噴射するため、多くの気泡が植物周囲空間3に到達する場合、その熱は主に植物周囲空間3に伝導する。従って、気泡径の大きい気泡を噴射するように気泡径を調整することにより、植物周囲空間3の温度制御を行うことができる。
【0063】
図5は、本発明に係る温度調節システムの例を示すシステム構成図である。図5のシステムでは、養液、及び/又は、植物周囲空間の温度を検知する温度検知手段を用いて温度制御を行う。
【0064】
例えば、養液の温度制御を行いたい場合、まず、気泡径が小さくなるように気泡調整手段14を設定する。この手順は手作業でもよい。
【0065】
次に、入力手段6を用いて養液の目標温度を設定する。次に、温度検知手段41を用いて養液の温度を検知し、制御手段5が目標温度と養液温度との比較を行う。
【0066】
次に、目標温度と養液温度が異なる場合、制御手段5は、空気供給手段11、温度調節手段12を駆動する。空気供給手段11は指示された供給量の空気を温度調節手段12に供給し、温度調節手段12は、制御手段5の指示に基づき、空気を加熱又は冷却して噴射孔へ空気を送る。
【0067】
そして、目標温度と養液温度が一致した時点で、制御手段5は、空気供給手段11、温度調節手段12の駆動を止める。これにより、養液を温度制御できる。
【0068】
一方、例えば、植物周囲空間の温度制御を行いたい場合、まず、気泡径が大きくなるように気泡調整手段14を設定する。この手順は手作業でもよい。
【0069】
次に、入力手段6を用いて植物周囲空間の目標温度を設定する。次に、温度検知手段41を用いて植物周囲空間の温度を検知し、制御手段5が目標温度と植物周囲空間の温度との比較を行う。
【0070】
次に、目標温度と植物周囲空間の温度が異なる場合、制御手段5は、空気供給手段11、温度調節手段12を駆動する。空気供給手段11は指示された供給量の空気を温度調節手段12に供給し、温度調節手段12は、制御手段5の指示に基づき、空気を加熱又は冷却して噴射孔へ空気を送る。
【0071】
そして、目標温度と植物周囲空間の温度が一致した時点で、制御手段5は、空気供給手段11、温度調節手段12の駆動を止める。これにより、植物周囲空間を温度制御できる。
【0072】
その他、湛液型水耕栽培装置の外(植物栽培施設内)に温度検知手段43を設置し、その情報を加味して各手段を制御する構成にしてもよい。
【0073】
以上の温度制御手段は、例えば、コンピュータプログラムで記述することにより、自動化できる。
【0074】
なお、空気供給手段11は、空気の供給量を常に一定にする場合には、制御手段5が制御する構成にしなくてもよい。また、気泡径調整手段14を電磁ノズルなどで構成する場合、制御手段5で気泡径を調整する構成にすることもできる。
【0075】
<本発明に係る湛液型水耕栽培方法について>
本発明に係る湛液型水耕栽培方法は、加熱又は冷却した空気で養液を曝気する段階を有するものを全て包含する。
【0076】
湛液型水耕栽培において、加熱又は冷却した空気で養液を曝気することにより、養液中の含気量を増加させるとともに、養液を温度制御できる。
【0077】
また、湛液型水耕栽培において、害虫の侵入を抑制できる半通気性被覆材で栽培面を被覆することにより、養液及び植物周囲空間に限局して温度制御を行うため、施設内植物栽培における温度制御を省エネルギーで行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
施設内で植物栽培を行う場合、夏季又は冬季の温度制御が非常に重要となる。しかし、植物栽培施設は空間容積が大きいため、電気・燃料などを用いて温度制御を行うと、エネルギーコストが膨大となる。
【0079】
それに対し、本発明では、植物周囲の空間及び養液のみの温度制御を行うことにより、省エネルギー型の環境制御を実現できる。従って、本発明は有用である。
【0080】
植物栽培のおける虫害は、害虫自体による食害に加え、病原菌の媒介による病害の蔓延、新鮮野菜における出荷品への付着、などの点からも非常に重要な問題である。
【0081】
虫害は、いったん害虫が侵入・蔓延すると、農薬以外での速やかな防除は困難である。一方、近年、無農薬・減農薬に対する社会的な要請が高まっている。従って、植物栽培施設内における虫害防除を無農薬・減農薬で行うためには、害虫の侵入防止の確実性を高める必要がある。
【0082】
しかし、植物栽培領域の密閉性を高めると、害虫の侵入を抑止できるが、通気性を損ねるという問題があった。即ち、密閉性を高めると夏季における温度上昇が著しく、植物の生育が阻害されるという問題があった。
【0083】
それに対し、本発明では、半通気性被覆材で害虫の侵入を抑制するとともに、植物周囲空間を陽圧に保つことにより、通気性を保持しつつ、害虫の侵入防止の確実性を高めることができる。従って、本発明は、施設内栽培における無農薬・減農薬管理を実現する手段として有用である。
【0084】
なお、本発明の構成では、植物周囲空間が湛液型水耕栽培装置ごとに区切られている。そのため、万一、害虫などがいずれかの装置に侵入した場合でも、植物栽培施設全体に蔓延する可能性は少ない。従って、本発明は、害虫などによる病害の蔓延・拡大を有効に抑制できるという点でも有利性がある。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明に係る植物栽培施設の構成例を示す略示構成図。
【図2】本発明に係る湛液型水耕栽培装置の構成例を示す略示構成図。
【図3】植物周囲空間3が陽圧であることを示す模式図。
【図4A】本発明に係る温度調節システムの概略を示す模式図であって、養液B2の温度調節を行う場合を示す模式図。
【図4B】本発明に係る温度調節システムの概略を示す模式図であって、植物周囲空間3の温度調節を行う場合を示す模式図。
【図5】本発明に係る温度調節システムの例を示すシステム構成図。
【符号の説明】
【0086】
1 曝気手段
11 空気供給手段
12 温度調節手段
13 通気管
14 噴射孔(気泡径調整手段)
15 気泡
2 半通気性被覆材
3 植物周囲空間
4 温度検知手段
5 制御手段
6 入力手段
A 植物栽培施設
B 湛液型水耕栽培装置
B1 養液槽
B2 養液
B3 植物担持体(栽培面)
B4 植物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
養液に対し曝気する曝気手段を備える湛液型水耕栽培装置であって、
前記曝気する空気を加熱又は冷却する温度調節手段を備える湛液型水耕栽培装置。
【請求項2】
害虫の侵入を抑制できる半通気性被覆材で栽培面が被覆された請求項1記載の湛液型水耕栽培装置。
【請求項3】
曝気する空気の気泡径を調整する気泡径調整手段を備える請求項1記載の湛液型水耕栽培装置。
【請求項4】
養液に対し曝気する曝気手段を用いる湛液型水耕栽培における温度調節システムであって、
前記曝気する空気を加熱又は冷却する温度調節手段と、栽培面を被覆し害虫の侵入を抑制できる半通気性被覆材と、前記養液と前記半通気性被覆材の間に形成される植物周囲空間を備え、
曝気した空気の気泡径を調節することにより、前記養液、及び/又は、前記植物周囲空間の温度を調節する温度調節システム。
【請求項5】
前記養液、及び/又は、前記植物周囲空間の温度を検知する温度検知手段を備える請求項4記載の温度調節システム。
【請求項6】
請求項1記載の湛液型水耕栽培装置を一又は複数備える植物栽培施設。
【請求項7】
加熱又は冷却した空気で養液を曝気する湛液型水耕栽培方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−233481(P2010−233481A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83800(P2009−83800)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】