説明

湿式比重選別装置

【課題】軽比重物と重比重物、殊に板片状の軽比重物と板片状の重比重物とを、短時間かつ高精度に水中で比重選別でき、軽比重物と重比重物との回収率も高まる湿式比重選別装置を提供する。
【解決手段】水流発生手段により発生した水流を、軽比重物は下流へ押し流し、かつ搬送面上の重比重物は選別トラフの斜め上方へ競り上がる水量に調整し、競り上げ中の重比重物に向かってシャワー手段の噴射ノズルから水を噴射して撹拌し、搬送面に直交する面を基準として、上部が搬送面の上流部へ近接するように傾斜した選別堰に複数の通水孔を形成した。これにより、軽比重物と重比重物、殊に板片状のこれらを、短時間で高精度に湿式比重選別でき、軽比重物と重比重物との回収率も高まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、湿式比重選別装置、詳しくは軽比重物および重比重物が混在する被選別物を水中で選別トラフの搬送面に沿って搬送中に、比重差により軽比重物と重比重物とに選別する湿式比重選別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、使用済みラジエタをシュレッダにかけて得られた複合廃材破砕物(被選別物)は、多くの異素材が混在した資源化可能な廃棄物である。複合廃材破砕物を各素材に選別して資源転用する際には、まず磁力選別機を用いた鉄などの磁性物の分離回収と、渦電流選別機によるプラスチック、木材などの非導電体の分離回収とが行われる。その後、残った厚肉の板形状のアルミニウム片と、薄肉の板形状に変形した銅パイプ片とが選別される。
【0003】
アルミニウムと銅とには比重差がある。そこで、これを利用してアルミニウム片と銅パイプ片とを湿式選別することが考えられる。従来の湿式比重選別装置として、例えば以下の2つが知られている(特許文献1および特許文献2)。
特許文献1は、上下方向に傾斜した選別トラフの下流部に、粒状の軽比重物のみが乗り越え可能な無孔板からなる堰を設け、シャワー手段から選別トラフの搬送面の略全域に水を噴射して得られた低速度の水流の中、選別トラフを常時斜め上方へ向けて振動させることで、堰に捕獲された粒状の重比重物を徐々に競り上げて選別トラフの上端から排出する選別方式の粒体選別装置である。
【0004】
特許文献2は、この粒体選別装置を基本構成とし、選別トラフの下流部に受け槽を設け、連絡通路を介して槽内沈降物を第2の選別台へ搬送し、片刃形状の電線くずを再選別する電線くずの銅回収装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平8−29265号公報
【特許文献2】特開2007−136427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の粒体選別装置および特許文献2の電線くずの銅回収装置では被選別物が粒体であることから、湿式選別に必要とされる水量は、シャワー手段から噴射された程度であった。そのため、これらの装置構成も、例えば堰が単なる無孔板からなるなど、少量の水を利用して行う湿式選別に好適なものとなっていた。これにより、選別トラフ内に使用済みラジエタのシュレッダー破砕物のうち、軽比重物であるアルミニウム片を押し流すほどの勢いで水を流せば、選別トラフの下端部で水が激しく堰に衝突し、軽比重のアルミニウム片だけでなく、重比重の銅パイプ片も堰を飛び越えてしまうおそれがあった。その結果、軽比重物の選別精度が低下するとともに、両片材の回収率も低下するおそれがあった。
【0007】
特に、特許文献2の選別装置の場合においては、アルミニウム片および銅パイプ片などのように、連絡通路で詰まりが生じるサイズの槽内沈降物を処理することはできなかった。
また、他の従来技術として、上下方向への水の脈動により、重比重物と軽比重物との上下入れ替えを期待した別タイプの湿式比重選別装置も開発されているが、被選別物が板片サイズまで大きくなれば、脈動程度の水の上下動程度では、重比重物と軽比重物との上下入れ替えは困難であるのが実情であった。
【0008】
そこで、発明者は、鋭意研究の結果、選別トラフの搬送面を流れる水の量を、板片状の軽比重物は下流へ押し流し、板片状の重比重物は選別トラフの斜め上方への振動により搬送面を競り上がる水量に調整し、また搬送面に直交する面を基準として、上部が搬送面の上流部へ近接するように傾斜した選別堰に複数の通水孔を形成するように構成すれば、上述した問題は全て解消することを知見し、この発明を完成させた。
【0009】
この発明は、板片状の軽比重物と板片状の重比重物とを、短時間でかつ高精度に水中で比重選別することができ、これにより、各板片状の軽比重物と重比重物との回収率を高めることができる湿式比重選別装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、軽比重物および重比重物が混在する被選別物が、その上下に傾斜した搬送面に載置されるとともに、下端部には軽比重物排出口が形成され、かつ上端部には重比重物排出口が形成された選別トラフと、該選別トラフの上部に水を常時供給し、前記搬送面に沿って下方へ向かう水の流れを発生させる水流発生手段と、前記選別トラフを斜め上方へ振動させ、前記水流発生手段から供給された水の中で、前記搬送面上の重比重物を徐々に競り上げる振動手段と、該振動手段により競り上げ中の前記重比重物に向かって水を噴射し、前記重比重物を撹拌および洗浄する噴射ノズルを有したシャワー手段と、前記選別トラフの下端部のうち、前記軽比重物排出口より上流部分に前記選別トラフの幅方向の全長にわたって設けられ、比重差を利用して前記軽比重物は水とともに越流させて前記重比重物はせき止める選別堰とを備え、前記選別堰には、その上流面と下流面とを貫通する複数の通水孔が形成され、かつ前記選別堰は、その上部が、前記搬送面に直交する面を基準として前記搬送面の上流部へ近接するように傾斜した湿式比重選別装置である。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、水流発生手段から選別トラフの上部へ向かって、装置運転中は常時、水を供給する。このときの水量は、板片状の軽比重物であれば支障なく押し流せるものの、板片状の重比重物であれば押し流し難くなる量である。搬送面上に投下された被選別物は、この水の圧力で選別トラフの下端部へ向かって押し流される。
【0012】
その際、水流の中の被選別物は、比重差により軽比重物が上層、重比重物が下層となるように徐々に層分けされる。このとき、搬送面上に沈降した重比重物は、振動手段による選別トラフの斜め上方への振動に伴い徐々に競り上げられ、最終的には選別トラフの上端部の重比重物排出口から排出されて例えば資源として回収される。
このとき、移動(競り上げ)中の重比重物に向かって噴射ノズルから水が噴射され、重比重物が洗浄を伴いながら撹拌される。これにより、移動中の重比重物において、部分的に軽比重物と重比重物との比重選別が促進される。すなわち、水噴射による撹拌作用により、重比重物間に潜伏していた軽比重物が上層側に移動し、その後、軽比重物は水流により選別トラフの下端部へ向かって押し流される。
【0013】
一方、この上層側へ移動したものを含む軽比重物は、選別トラフの下端部において、水面付近の水とともに選別堰を越流する。このとき、選別堰に達した水の一部は各通水孔を通過する。また、選別堰に衝突した水は、この選別堰が搬送面の上流部へ近接するように傾斜しているため、選別堰の上流側に現出した貯水域の下部へ潜り込む水流となり、貯水域内で乱流が発生し、被選別物の比重選別が促進される。しかも、選別堰に衝突した重比重物は順次沈降し、搬送面上に載置される。
これにより板片状の軽比重物と板片状の重比重物とを、短時間でかつ高精度に湿式比重選別することができる。その結果、各板片状の軽比重物と重比重物との回収率を高めることができる。
【0014】
なお、従来法では、被選別物が板片より軽量な粒体または粉体であった。そのため、選別トラフ内の流水量は少なくて済み、選別トラフの下端部において、無孔板からなる選別堰により水がせき止められることで初めて、この堰より上流側に比重選別を行う貯水域が形成される構成となっている。これに対して、本発明では、従来法の場合より大量の水が水流発生手段から供給されるため、水の一部が通水孔を介して選別堰を素通りしても、選別堰の上流側には、常に比重選別用の貯水域が存在し、この点からも粒体、粉体より大きい板形状の被選別物の湿式での比重選別が、従来装置に比べて優位になることは容易に理解できる。
【0015】
被選別物としては、例えば各種の複合廃材破砕物、具体的には家電破砕物、自動車破砕物など、さらに詳しくは使用済みラジエタのシュレッダー破砕物などを採用することができる。
軽比重物および重比重物の素材、重量、比重は任意である。ただし、当然ながら重比重物の方が軽比重物より比重が大きくなければならない。また、この発明の湿式比重選別装置により選別される好適な被選別物(軽比重物および重比重物)は、長さ5〜150mm、幅3〜30mm、厚さ0.3〜15mmの板片で、その重さは0.01〜70gである。
【0016】
選別トラフとは、長さ方向を上下に向けて傾斜した搬送面を有する樋形状の部材(シュート材)である。
選別トラフの素材としては、鋼、ステンレス鋼、アルミニウムなどを採用することができる。選別トラフの水平面を基準とした搬送面の傾斜角度は、例えば6°〜10°である。また、選別トラフの長さ方向の両端部は、それぞれ端板により蓋止めされてもよい。選別トラフは、一般的に装置架台上に取り付けられている。この装置架台には、選別トラフの傾斜角度を調整する角度調整手段を設けてもよい。
【0017】
選別トラフの下端部における軽比重物排出口の形成位置、および選別トラフの上端部における重比重物排出口の形成位置は任意である。また、軽比重物排出口および重比重物排出口の形状も任意である。例えば円形、楕円形の他、三角形、四角形などの多角形でもよい。
選別トラフは、その平坦な上面が被選別物の搬送面となっている。搬送面には、例えばその略全面に対して、凹凸加工を施したり、ゴムマットを敷設して被選別物との摩擦力を高めた方が、振動手段により選別トラフを斜め上方へ振動させた際、搬送面上の被選別物(主に重比重物)を、確実かつ大きなピッチ(飛距離)で競り上げることができる。
【0018】
水流発生手段としては、搬送面に沿って下方へ向かう水の流れを発生させることができれば、その構造は任意である。例えば、水道の蛇口に一端部が直に連通されたホースを採用することができる。その他、貯水槽と、この貯水槽の排水口に、ポンプを介して、一端部が連通された水供給用ノズルとを有したものなどでもよい。
水としては、例えば上水道水、工業用水、貯水槽内の貯め水などを採用することができる。
振動手段としては、例えばカムを使用した機械式のバイブレータや選別トラフの底面または側面に固定された電動式のバイブレータなどを採用することができる。
【0019】
シャワー手段としては、搬送面上の重比重物に対して撹拌可能な水量および水圧で、噴射ノズルの先端から水を噴射するものを採用することができる。
噴射ノズルの使用本数は、1本でも2本以上でもよい。
噴射ノズルのノズル口から搬送面上の重比重物(被選別物)までの距離は200mm以下である。この範囲であれば、被選別物に噴射水が当接した際の当接圧(水圧)の制御および噴射水の噴射形状(扇型等)の制御が容易となり、従来の粉体、粒体に比べて大型でかつ重量が大きい板状片の重比重物(被選別物)を、支障なく洗浄および撹拌することができる。
【0020】
選別堰の素材としては、ステンレス鋼、真鍮といった各種の金属を採用することができる。その他、各種の合成樹脂などでもよい。
選別堰としては、例えば金網、パンチングメタル、エキスパンドメタル、クロスパンチメタルなどを採用することができる。
通水孔の形状としては、例えば円形、楕円形、三角形状以上の多角形などを採用することができる。通水孔の孔サイズは、軽比重物と重比重物とが通過しないサイズでなければならない。
通水孔の形成数は2つ以上であれば任意である。通水孔は、選別堰の全域に形成しても、その一部に形成してもよい。
【0021】
選別堰の傾斜角度は、搬送面に直交する面を基準として0°を超えて45°以下である。0°以下(搬送面に直交する基準面と同一角(0°)の場合と、搬送面の下流部へ近接するように傾斜した場合とを含む)では、水流が従来に比べて大きいため、軽比重物だけでなく、重比重物も選別堰を飛び超えてしまう。また、45°を超えれば、貯水域が必要以上に長くなり、選別トラフが過剰に長大化する。選別堰の好ましい傾斜角度は、20°〜35°である。この範囲であれば、貯水域での重比重物と軽比重物との上下移動が容易になり、比重選別をより短時間で行うことができる。
「選別トラフの幅方向の全長にわたって選別堰を設ける」とは、選別トラフの幅方向の全長にわたって選別堰が切断された箇所がない状態をいう。これにより、選別トラフの下端部に到達した全ての被選別物を対象として、選別堰を用いての比重選別を行うことができる。
選別堰の上部が、搬送面に直交する面を基準として搬送面の上流部へ近接するように傾斜した」とは、搬送面の幅方向に延びて、かつ搬送面に対して90°で交わった仮想面を基準面とし、選別堰の全体を含む選別堰の少なくとも上部が、基準面より上流側へ傾斜している状態をいう。
【0022】
請求項2に記載の発明は、前記選別堰の下部は、該選別堰の上部に比べて、前記搬送面の上流部に近接する方向への傾斜角度が大きい請求項1に記載の湿式比重選別装置である。
【0023】
請求項2に記載の発明によれば、選別堰の下部の方が選別堰の上部に比べて搬送面の上流部に近接する方向への傾斜角度が大きく構成されている。
しかも、選別堰の上流側には、選別堰の上部により発生した大きな水の流れと、選別堰の下部で発生した小さな水の流れとが共存し、選別堰の上部の水の流れにより、軽比重物の越流が促進され、選別堰の下部の水の流れにより、重比重物の沈降が促進される。
なお、選別堰の下部の傾斜角度を大きくすれば、より大きく選別堰がくの字に屈曲することになり、搬送面と選別堰の下部との間に流入した被選別物が排出され難くなる。しかしながら、振動手段により選別トラフが斜め上方へ常時振動しているため、このような先細りの狭い空間に入り込んだ被選別物であっても、容易にこの空間から排出することができる。
【0024】
選別堰の下部が搬送面の上流部に近接する方向へ傾斜する角度は、選別堰の上部の傾斜角度に比べて10°以上大きい。10°未満では傾斜角度を大きくしない場合と大差がない。また、選別堰の下部の傾斜角度は75°未満である。75°を超えれば、傾斜角度を大きくしないものと大差がない。
【0025】
請求項3に記載の発明は、前記水流発生手段は、前記選別トラフの上部に配置され、前記搬送面の幅方向の全域にわたって水をオーバーフローさせる給水槽と、該給水槽からオーバーフローした水を、前記搬送面の幅方向の全域にわたって均一な流量で排水する均一流量路とを有した請求項1または請求項2に記載の湿式比重選別装置である。
【0026】
請求項3に記載の発明によれば、給水槽の搬送面の幅方向の全域にわたってオーバーフローさせた水は、均一流量路を通過することで搬送面の幅方向の全域にわたって均一な流量となり、その後、選別トラフに供給される。これにより、水流発生手段によって発生した選別トラフ内の水を、選別トラフの搬送面の幅方向の全域にわたり、均一な水量で流すことができる。
【0027】
給水槽の平面視した形状としては、例えば搬送面の幅方向へ長い矩形状などを採用することができる。給水槽は、上面が開口した容器形状のものでも、上面が密閉されたタンク形状のものでもよい。何れの場合でも、常時、水道水などの水を槽内に導入可能に構成されている。
搬送面の幅方向の全域にわたり、給水槽から水をオーバーフローさせる構成としては、例えば、給水槽のうち、水がオーバーフローする側の壁板(下流側の側板または上流側の側板)の高さを、その全長にわたって均一化する構成などを採用することができる。
また、均一流量路とは、水がオーバーフローする側の壁板を均一流量路の内壁とし、この内壁の外面から平行に離間しかつこの内壁と同一長さの流量規制板を外壁として、両壁の間に形成された細長い水路である。均一流量路は、その長さ方向の全長にわたり流路幅が均一となっている。
【0028】
請求項4に記載の発明は、前記選別トラフには、前記搬送面のうち、前記水流発生手段から前記選別堰までの間の部分を前記搬送面の幅方向へ複数に分割する仕切り板が設けられた請求項1〜請求項3のうち、何れか1項に記載の湿式比重選別装置である。
【0029】
請求項4に記載の発明によれば、搬送面のうち、水流発生手段から選別堰までの領域を仕切り板により、搬送面の幅方向へ複数に仕切るように構成したので、水流発生手段により発生した水流が、搬送面の幅方向へ向かって複数に分割される。これにより、搬送面上の被選別物が搬送面の幅方向において偏在することを原因として、選別トラフを流れる水が、搬送面の幅方向で部分的に寸断されて、軽比重物および重比重物の撹拌に、支障が生じるのを防止することができる。
【0030】
搬送面を仕切り板により分割して得られた1つの部分搬送面の幅は、例えば10〜25cmである。10cm未満では、被選別物が競り合って選別に支障を生じる。また、25cmを超えれば、選別トラフ内を流れる水が、搬送面の幅方向で部分的に寸断され、被選別物の撹拌に支障が生じる。
仕切り板の使用本数は、1本でも2本以上でもよい。
【発明の効果】
【0031】
請求項1に記載の発明によれば、水流発生手段から選別トラフに水が供給されて発生した水流の作用で、搬送面上に供給された被選別物は、比重選別されながら選別トラフの下端部へ押し流される。選別トラフの下端部では、軽比重物が水面付近の水とともに選別堰を越流し、最終的に軽比重物排出口から回収される。一方、重比重物は選別堰によりせき止められ、水の一部は通水孔を通過するものの、残りの水は搬送面の上流部へ近接するように傾斜した選別堰に衝突し、選別堰の上流側付近に現出した貯水域内で下方へ潜り込んで乱流となり、被選別物の比重選別が促進されるとともに、選別堰に衝突した重比重物は、順次、沈降して搬送面上に載置される。
【0032】
その後、搬送面上の重比重物は、振動手段による選別トラフの斜め上方への振動によって、選別トラフの上端部に向かって徐々に競り上げられ、最終的に重比重物排出口から回収される。
これにより、板片状の軽比重物と板片状の重比重物とを、短時間でかつ高精度に湿式比重選別することができる。その結果、各板状片の軽比重物と重比重物との回収率を高めることができる。
【0033】
特に、請求項2に記載の発明によれば、選別堰の下部の方が、その上部に比べて搬送面の上流部に近接する方向への傾斜角度が大きいため、選別堰の上部の水の流れにより、軽比重物の越流が促進され、選別堰の下部の水の流れにより重比重物の沈降が促進される。
【0034】
また、請求項3に記載の発明によれば、給水槽の搬送面の幅方向の全域にわたってオーバーフローした水を、均一流量路に通すように構成したので、水流発生手段により発生した水流を、選別トラフの搬送面の幅方向の全域にわたり、均一な水量とすることができる。これにより、搬送面全体を有効に利用して被選別物を湿式比重選別することができる。
【0035】
さらに、請求項4に記載の発明によれば、搬送面のうち、水流発生手段から選別堰までの領域を仕切り板により仕切るように構成したので、水流発生手段により発生した水流を、搬送面の幅方向へ向かって複数に分割することができる。これにより、競り上がり中の重比重物が搬送面の幅方向で偏在することを原因として、選別トラフを流れる水が搬送面の幅方向で部分的に寸断され、被選別物の撹拌に支障が生じることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明に係る実施例1の湿式比重選別装置の側面図である。
【図2】この発明に係る実施例1の湿式比重選別装置の平面図である。
【図3】この発明に係る実施例1の湿式比重選別装置の正面図である。
【図4】この発明に係る実施例1の湿式比重選別装置の下端部の要部拡大斜視図である。
【図5】この発明に係る実施例1の湿式比重選別装置の一部を構成する選別トラフの使用状態を示す縦断面図である。
【図6】この発明に係る実施例1の湿式比重選別装置の一部を構成する選別トラフの使用状態を示す要部拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、この発明の実施例を具体的に説明する。なお、説明の都合上、X1方向(搬送面の下方向)を装置の前方向、X2方向(搬送面の上方向)を装置の後方向、Y1方向を装置の左方向、Y2方向を装置の右方向、Z1方向を装置の上方向、Z2方向を装置の下方向とする。
【実施例】
【0038】
図1〜図4において、10はこの発明の実施例1に係る湿式比重選別装置で、この湿式比重選別装置10は、上下に傾斜した搬送面11aに被選別物12が投下されるとともに、下端部には軽比重物12aが排出される軽比重物排出口13が形成され、かつ上端部には重比重物12bが排出される重比重物排出口14が形成された選別トラフ11と、選別トラフ11を下方から支持する装置架台15と、選別トラフ11の上部に水を常時供給し、搬送面11aに沿って下方へ向かう水の流れ(水流)を発生させる水流発生手段16と、選別トラフ11と装置架台15との間に設けられ、選別トラフ11を斜め上方へ振動させることで、水流発生手段16から供給された水の中で、搬送面11a上の重比重物12bを徐々に競り上げる振動手段17と、振動手段17により競り上げ中の重比重物12bに向かって水を噴射し、重比重物12bを撹拌および洗浄する5対(10本)の噴射ノズル18を有したシャワー手段Sと、選別トラフ11の下端部のうち、軽比重物排出口13より上流部分に選別トラフ11の幅方向の全長にわたって設けられ、比重差を利用して軽比重物12aは水とともに越流させて重比重物12bはせき止める選別堰19とを備えたものである。
【0039】
ここで、被選別物12はラジエタのシュレッダー破砕物、軽比重物12aは厚肉な板形状のアルミニウム片(平均長さ40.6mm、平均幅22.5mm、平均厚さ5.2mm、平均重さ6.2g)、重比重物12bは薄肉な板形状に変形した銅パイプ片(平均長さ49.9mm、平均幅9.3mm、平均厚さ3.3mm、平均重さ5.1g)である。シュレッダー破砕物は、あらかじめ磁力選別機による鉄などの磁性物の分離回収と、渦電流選別機によるプラスチック、木材などの非導電体の分離回収とが順次行われたものである。
【0040】
選別トラフ11は、X1−X2方向へ長い底板を有した、長さ195cm、幅39cm、高さ17cmの樋形状の部材で、底板の平坦な上面が、ゴムマットが敷かれるか、エンボス加工が施された搬送面11aである。選別トラフ11の両側板の上縁には、フランジが形成されている。選別トラフ11には、搬送面11aのうち、水流発生手段16の直下から選別堰19までの間の部分を搬送面11aの幅方向へ2つに分割するX1−X2方向に長い1枚の仕切り板20が立設されている。仕切り板20により選別トラフ11の下部内には、左右一対の部分搬送路a,bが現出する。仕切り板20の高さは、選別堰19の高さと略同一である。なお、仕切り板20の高さは、選別堰19の上縁から選別トラフ11の両側板の上縁までの間で任意に変更することができる。
選別トラフ11のX1側の端は開口され、軽比重物排出口13となっている。また、選別トラフ11のX2側の端部には、1段下がった位置に、平面視して三角形状のシュート部11bが形成されている。このシュート部11bの先端部分に、前記重比重物排出口14が設けられている。
【0041】
装置架台15は、X1−X2方向へ長い門形のフレーム材である(図1〜図3)。装置架台15に対する選別トラフ11の傾斜角度は、0°〜12°の間で調整可能に構成されている。また、装置架台15と選別トラフ11との間には、選別トラフ11を装置架台15に振動可能に支持する一対のばね支持体21が配設されている。ばね支持体21は、ブラケットを介して下端部が装置架台15に軸支されるとともに、上端部が選別トラフ11に軸支されたリンク22と、ブラケットを介して下端部が装置架台15に軸支されるとともに、上端部が選別トラフ11に軸支されたコイルばね23とからなる。これらの軸支部位には、Y1−Y2方向へ長い回動ピンがそれぞれ配置されている。両ばね支持体21は、選別トラフ11のX1側の端部とX2側の端部とを下方から強制的に支持している。
【0042】
選別トラフ11の底板のうち、X1−X2方向の中間部には、選別トラフ11を傾斜方向に振動させる前記振動手段17が設けられている(図1)。振動手段17は、装置架台15に固定された軸受24と、この軸受24に軸支されたY1−Y2方向へ延びた回動軸25と、回動軸25の先端部に下端部が連結され、上端部が選別トラフ11に固定されたブラケットに軸支される偏心リンク26と、回動軸25の先端に中心部が固定された従動プーリ27と、装置架台15の上枠のX1−X2方向の中間部から下方へ延出した逆さ門形の小枠台28に設置された駆動モータ29とを有している。駆動モータ29の出力軸には駆動プーリ30が固定され、駆動プーリ30と従動プーリ27との間には無端ベルト31が架け渡されている。
【0043】
選別トラフ11の下部の上方には、Y1−Y2方向の長さが搬送面11aの幅と略同一の平面視して矩形状の原料投入シュート32が配置されている。そのため、原料投入シュート32から搬送面11a上に落下された被選別物12は、その略半量ずつが前記左右の部分搬送路a,bに投入される。
また、選別トラフ11の上端部の上方には、水流発生手段16が配置されている。水流発生手段16は、選別トラフ11の上部の上方に配置され、搬送面11aの幅方向の全域にわたって水をオーバーフローさせる給水槽32Aと、給水槽32Aに水道水を供給し、かつY1−Y2方向へ延びた給水配管33と、給水槽32Aからオーバーフローした水を、搬送面11aの幅方向の全域にわたって均一な流量で排水する均一流量路34とを有している。
【0044】
給水槽32Aは、Y1−Y2方向へ長い平面視して矩形状の貯水部35を本体とし、周囲に貯水部35の形成壁より高い周側板を有している(図1、図5)。また、貯水部35の下流側の側板35aは、高さがY1−Y2方向の全長にわたって同じで、かつこの貯水部35の下流側の側板35aと、給水槽32Aの下流側の側板(流量規制板)32aとの間に、前記均一流量路34が配置されている。均一流量路34は、その長さ方向の全長にわたって一定の隙間である。
【0045】
選別トラフ11のうち、選別堰19と給水槽32Aとの間の領域の上方には、Y1−Y2方向へ長い5本のシャワー排水管36が、X1−X2方向に向かって所定のピッチで配置されている。各シャワー排水管36の両側部には、各部分搬送路a,bに水道水を噴射する前記5対の噴射ノズル18が、X1方向へ傾斜して連通されている。なお、前記原料投入シュート32は、最も下流に配置されたシャワー排水管36と、これに隣接するシャワー排水管36との間に配置されている。
【0046】
前記選別堰19は、網目サイズが水流を阻害しない縦横1mmのステンレス鋼製の金網からなる。そのため、選別堰19には、上流面と下流面とを貫通する多数の通水孔19aが形成されている。選別堰19の高さは、70mmである。
選別堰19は、その上部が、搬送面11aに直交する面を基準として搬送面11aの上流部へ近接するように30°だけ傾斜している。また、選別堰19の下部は、搬送面11aの上流部に近接する方向へ45°傾斜している。すなわち、選別堰19の下部はその上部に比べて大きく屈曲し、選別堰19の上部の支持材を構成している。
【0047】
次に、図1〜図6を参照して、この発明の実施例1に係る湿式比重選別装置10による被選別物12の湿式比重選別方法を説明する。
図1に示すように、駆動モータ29の出力軸を回転させ、無端ベルト31を周回させる。これにより、偏心リンク26が偏心回転し、両ばね支持体21を介して装置架台15上に弾性支持された選別トラフ11が斜め上方へ常時振動する。
【0048】
次に、図1および図5に示すように、まず水流発生手段16において、給水配管33から排出された水を貯水部35へ常時給水する。貯水部35に溜まった水は、搬送面11aの幅方向の全域にわたってオーバーフローし、均一流量路34を通過する。このとき、オーバーフローした水は、搬送面11aの幅方向の全域にわたって均一な流量となって、装置運転中は常時、選別トラフ11の上部に供給される。これにより、水流発生手段16によって発生した選別トラフ11内の水を、選別トラフ11の搬送面11aの幅方向の全域にわたり、均一な水量で流すことができる。
【0049】
このときの水量は、軽比重物12aであれば支障なく押し流せるものの、重比重物12bであれば押し流し難くなる300〜350リットル/分である。搬送面11a上に投下された被選別物12は、この水の圧力で選別トラフ11の下端部へ向かって押し流される。
その際、水流の中の被選別物12は、比重差により軽比重物12aが上層、重比重物12bが下層となるように徐々に層分けされる。このとき、搬送面11a上に沈降した重比重物12bは、振動手段17による選別トラフ11の斜め上方への振動に伴い徐々に競り上げられ、最終的には選別トラフ11の上端部の重比重物排出口14から排出されて例えば資源として回収される(図5)。
【0050】
また、搬送面11aのうち、水流発生手段16から選別堰19までの領域を、高さが選別堰19の高さと同一の仕切り板20により、搬送面11aの幅方向へ2つに仕切っている(図1)。そのため、水流発生手段16から発生した水流は、搬送面11aの幅方向へ向かって2つに分割される(図2〜図4)。これにより、搬送面11a上の被選別物12が搬送面11aの幅方向において偏在することを原因として、選別トラフ11を流れる水が、搬送面11aの幅方向で部分的に寸断され、軽比重物12aおよび重比重物12bの撹拌に、支障が生じるのを防止することができる。
【0051】
このとき、図5および図6に示すように、移動(競り上げ)中の重比重物12bに向かって、これに近接配置されたシャワー手段Sの各噴射ノズル18から水が噴射され、重比重物12bが洗浄を伴いながら撹拌される。これにより、移動中の重比重物12bにおいて、部分的に軽比重物12aと重比重物12bとの比重選別が促進される。すなわち、水噴射による撹拌作用により、重比重物12b間に潜伏していた軽比重物12aが上層側に移動し、その後、軽比重物12aは水流により選別トラフ11の下端部へ向かって押し流される。
【0052】
一方、この上層側へ移動したものを含む軽比重物12aは、選別トラフ11の下端部において、水面付近の水とともに選別堰19を越流する(図6)。このとき、選別堰19に達した水の一部は各通水孔19aを通過する。また、選別堰19に衝突した水は、この選別堰19が搬送面11aの上流部へ近接するように傾斜しているため、選別堰19の上流側に現出した貯水域の下部へ潜り込む水流となり、貯水域内で乱流が発生し、被選別物12の比重選別が促進されるとともに、選別堰19に衝突した重比重物12bは順次沈降し、搬送面11a上に載置される。
これにより、板片状の軽比重物12aと板片状の重比重物12bとを、短時間でかつ高精度に湿式比重選別することができる。その結果、各板片状の軽比重物12aと重比重物12bとの回収率を高めることができる。
【0053】
このとき、選別堰19の下部の方が、選別堰19の上部に比べて搬送面11aの上流部に近接する方向への傾斜角度が大きく構成されている。選別堰19の上部の水の流れにより、軽比重物12aの越流が促進され、選別堰19の下部の水の流れにより、重比重物12bの搬送面11aに向かっての沈降が促進される。
【0054】
また、このように選別堰19の下部の傾斜角度を大きくすれば、より大きく選別堰19がくの字に屈曲するため、搬送面11aと選別堰19の下部との間に流入した被選別物12が排出され難くなる。しかしながら、振動手段17により選別トラフ11が斜め上方へ常時振動しているため、このような先細りの狭い空間に入り込んだ被選別物12であっても、容易にこの空間から排出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
この発明は、使用済み家電品や使用済み自動車などを破砕して得られた各種の複合廃材破砕物を、比重差を利用して軽比重物と重比重物とに分別して回収する湿式比重選別装置として有用である。
【符号の説明】
【0056】
10 湿式比重選別装置、
11 選別トラフ、
11a 搬送面、
12 被選別物、
12a 軽比重物、
12b 重比重物、
13 軽比重物排出口、
14 重比重物排出口、
16 水流発生手段、
17 振動手段、
18 噴射ノズル、
19 選別堰、
19a 通水孔、
S シャワー手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽比重物および重比重物が混在する被選別物が、その上下に傾斜した搬送面に載置されるとともに、下端部には軽比重物排出口が形成され、かつ上端部には重比重物排出口が形成された選別トラフと、
該選別トラフの上部に水を常時供給し、前記搬送面に沿って下方へ向かう水の流れを発生させる水流発生手段と、
前記選別トラフを斜め上方へ振動させ、前記水流発生手段から供給された水の中で、前記搬送面上の重比重物を徐々に競り上げる振動手段と、
該振動手段により競り上げ中の前記重比重物に向かって水を噴射し、前記重比重物を撹拌および洗浄する噴射ノズルを有したシャワー手段と、
前記選別トラフの下端部のうち、前記軽比重物排出口より上流部分に前記選別トラフの幅方向の全長にわたって設けられ、比重差を利用して前記軽比重物は水とともに越流させて前記重比重物はせき止める選別堰とを備え、
前記選別堰には、その上流面と下流面とを貫通する複数の通水孔が形成され、かつ前記選別堰は、その上部が、前記搬送面に直交する面を基準として前記搬送面の上流部へ近接するように傾斜した湿式比重選別装置。
【請求項2】
前記選別堰の下部は、該選別堰の上部に比べて、前記搬送面の上流部に近接する方向への傾斜角度が大きい請求項1に記載の湿式比重選別装置。
【請求項3】
前記水流発生手段は、
前記選別トラフの上部に配置され、前記搬送面の幅方向の全域にわたって水をオーバーフローさせる給水槽と、
該給水槽からオーバーフローした水を、前記搬送面の幅方向の全域にわたって均一な流量で排水する均一流量路とを有した請求項1または請求項2に記載の湿式比重選別装置。
【請求項4】
前記選別トラフには、前記搬送面のうち、前記水流発生手段から前記選別堰までの間の部分を前記搬送面の幅方向へ複数に分割する仕切り板が設けられた請求項1〜請求項3のうち、何れか1項に記載の湿式比重選別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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