説明

湿式現像用電子写真感光体及び湿式現像用画像形成装置

【課題】 長期間にわたって、所定感度を有するとともに、耐久性や耐溶剤性に優れた湿式現像用電子写真感光体及び湿式現像用画像形成装置を提供する。
【解決手段】 少なくとも結着樹脂と、正孔輸送剤と、電荷発生剤と、を含む感光体層を備えた湿式現像用電子写真感光体であって、正孔輸送剤として、下記一般式(1)で表されるアミン化合物誘導体を含有する導電性基体上に感光体層を設けた湿式現像用電子写真感光体及びそのような湿式現像用電子写真感光体を備えた湿式現像用画像形成装置である。
【化1】


(一般式(1)中のR1及びR2は、それぞれ独立した置換基であり、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換又は非置換のアルキル基、炭素数6〜40の置換又は非置換のアリール基、炭素数2〜20の置換又は非置換の不飽和炭化水素基、あるいは置換又は非置換のアミノ基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式現像用電子写真感光体及び湿式現像用画像形成装置に関し、特定の正孔輸送剤を用いることにより、長期間にわたって、優れた耐久性及び耐溶剤性を示すとともに、所定感度を維持することができる湿式現像用電子写真感光体及び湿式現像用画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像形成装置等に用いられる電子写真感光体として、電荷輸送剤(正孔輸送剤、電子輸送剤)、電荷発生剤、及び結着樹脂(バインダー樹脂)等の有機感光体材料からなる有機感光体が使用されている。かかる有機感光体は、従来の無機感光体に比べて、製造が容易であるとともに、感光体材料の選択肢が多様であることから、構造設計の自由度が高いという利点がある。
このような有機感光体材料のうち、電荷輸送剤として、下記一般式(38)や下記一般式(39)で表されるm−フェニルジアミン化合物を用いた電子写真感光体が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
【化1】

【0004】
(一般式(38)中、R34、R35、R36、R37、R38は、アルキル基、アルコキシル基、ハロゲン原子を示し、それぞれフェニル基に置換しなくてもまた、置換し得る限り何個置換してもよく、またすべての置換基は同一でも、それぞれ互いに異なっていてもよい。)
【0005】
【化2】

【0006】
(一般式(39)中、R39、R40、R41、R42は、同一又は異なって、アルキル基、アルコキシル基、ハロゲン原子、アミノ基、N−置換アミノ基を示し、t、u、v、wは同一又 は異なって、0〜5の整数を示し、R43はアルキル基、アルコキシル基、アミノ基、N−置換アミノ基、アリル基、アリール基を示している。)
【0007】
【特許文献1】特開平1−142642号(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平4−13777号(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2に記載された電荷輸送剤の一部は、結着樹脂との間の相溶性が乏しい一方、分子量が比較的低いために、炭化水素系溶剤(液体現像剤)によって浸されやすかった。したがって、湿式現像用電子写真感光体として、長時間使用した場合に、電荷輸送剤等が溶出しやすく、クラックが生じやすいという問題が見られた。
【0009】
そこで、本発明者らは、正孔輸送剤として、アミン化合物誘導体を使用することにより、結着樹脂との相溶性が優れ、湿式現像用電子写真感光体として、長時間使用した場合であっても、クラックが生じにくく、電荷輸送剤等の溶出量を著しく低下させるととともに、所定の感度特性を維持できるという事実を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の目的は、耐久性や耐溶剤性に優れた湿式現像用電子写真感光体及びそのような湿式現像用電子写真感光体を備えた画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、少なくとも結着樹脂と、正孔輸送剤と、電荷発生剤と、を含む感光体層を備えた湿式現像用電子写真感光体であって、
正孔輸送剤として、下記一般式(1)で表されるアミン化合物誘導体を含有する湿式現像用電子写真感光体が提供され、上述した問題を解決することができる。
【0011】
【化3】

【0012】
(一般式(1)中のR1及びR2は、それぞれ独立した置換基であり、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換又は非置換のアルキル基、炭素数6〜40の置換又は非置換のアリール基、炭素数2〜20の置換又は非置換の不飽和炭化水素基、あるいは置換又は非置換のアミノ基である。)
【0013】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体を構成するにあたり、一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2)で表されるアミン化合物誘導体であることが好ましい。
【0014】
【化4】

【0015】
(一般式(2)中のR3〜R12は、それぞれ独立した置換基であり、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換又は非置換のアルキル基、炭素数6〜40の置換又は非置換のアリール基、炭素数2〜20の置換又は非置換の不飽和炭化水素基、置換又は非置換のアミノ基、あるいは、R3〜R12のうち隣り合ういずれか2つが結合又は縮合して形成した炭素環構造である。ただし、R3、R7、R8及びR12のうち少なくとも一つは、水素原子以外の前記置換基である。)
【0016】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体を構成するにあたり、一般式(2)中のR5及びR10のうち少なくとも一つが、下記一般式(3)で表されるアリール基含有の置換アミノ基であることが好ましい。
【0017】
【化5】

【0018】
(一般式(3)中のR13は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換又は非置換のアルキル基、炭素数6〜30の置換又は非置換のアリール基、炭素数2〜20の置換又は非置換の不飽和炭化水素基であり、R14は、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換又は非置換のアルキル基、炭素数6〜30の置換又は非置換のアリール基、炭素数2〜20の置換又は非置換の不飽和炭化水素基であり、R15は、水素原子、あるいは炭素数1〜20の置換又は非置換のアルキル基であり、繰り返し数aは0〜4の整数である。)
【0019】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体を構成するにあたり、正孔輸送剤の分子量を400〜1500の範囲内の値とすることが好ましい。
【0020】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体を構成するにあたり、正孔輸送剤の添加量を、結着樹脂100重量部に対して、10〜80重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
【0021】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体を構成するにあたり、感光体層に、さらに電子輸送剤を含み、当該電子輸送剤の添加量を、結着樹脂100重量部に対して、10〜100重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
【0022】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体を構成するにあたり、電荷発生剤として、無金属フタロシアニン(τ型又はx型)、チタニルフタロシアニン(α型又はY型)、ヒドロキシガリウムフタロシアニン(V型)、及びクロロガリウムフタロシアニン(II型)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含むことが好ましい。
【0023】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体を構成するにあたり、電荷発生剤の添加量を、結着樹脂100重量部に対して、0.2〜40重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
【0024】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体を構成するにあたり、結着樹脂として、I/O値(無機性値/有機性値)が0.38以上の値であるポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい。
【0025】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体を構成するにあたり、液体現像剤の炭化水素系溶媒中に、室温、2000時間の条件で浸漬させた場合に、正孔輸送剤の溶出量が15×10-7g/cm3以下であることが好ましい。
【0026】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体を構成するにあたり、感光体層が、単層型であることが好ましい。
【0027】
また、本発明の別の態様は、上述したいずれかに記載の湿式現像用電子写真感光体を備えるとともに、当該湿式現像用電子写真感光体の周囲に、帯電工程、露光工程、現像工程、転写工程を実施するための部位をそれぞれ配置し、かつ、現像工程において、炭化水素系溶媒にトナーを分散した液体現像剤を用いて画像形成を行う湿式現像用画像形成装置である。
【発明の効果】
【0028】
本発明の湿式現像用電子写真感光体によれば、少なくとも結着樹脂と、正孔輸送剤と、電荷発生剤と、を含む感光体層を備えた湿式現像用電子写真感光体であって、正孔輸送剤として、一般式(1)で表されるアミン化合物誘導体を含むことにより、耐久性及び耐溶剤性に優れた湿式電子写真感光体を提供することができる。
すなわち、一般式(1)で表されるアミン化合物誘導体は、特定の置換基を有していることから、結着樹脂への相溶性を向上させることができる。
したがって、このようなアミン化合物誘導体を、湿式電子写真感光体における正孔輸送剤として使用することにより、液体現像剤に長時間使用した場合であっても、感光体層におけるクラックの発生を抑え、電荷輸送剤等の溶出量を低下させることができるとともに、所定の感度特性を維持することができる。
【0029】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体によれば、一般式(1)が一般式(2)で表されるアミン化合物誘導体であることから、結着樹脂との相溶性にさらに優れ、所定の耐久性や耐溶剤性を得ることができる。
すなわち、かかるアミン化合物誘導体は、それぞれのトリフェニルアミン構造の特定位置に特定の置換基を有していることから、結着樹脂への相溶性をさらに向上させることができる。
したがって、このようなアミン化合物誘導体を、湿式電子写真感光体における正孔輸送剤として使用することにより、液体現像剤に長時間使用した場合であっても、感光体層におけるクラックの発生を抑え、電荷輸送剤等の溶出量をさらに低下させることができるとともに、所定の感度特性を維持することができる。
【0030】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体によれば、一般式(2)中のR5及びR10のうち少なくとも一つが一般式(3)で表されるアリール基含有置換アミノ基であることから、分子量の調整が容易になるばかりか、結着樹脂との相溶性にさらに優れ、感光体層中に均一に分散されるため、耐久性及び耐溶剤性が向上するとともに、電荷移動度を高めることができる。
【0031】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体によれば、正孔輸送剤の分子量を所定範囲内の値とすることにより、結着樹脂との相溶性にさらに優れ、感光体層中に均一に分散されるため、耐久性及び耐溶剤性を向上させることができる。また、正孔輸送剤の分子量を所定範囲内の値とすることにより、正孔輸送剤の結晶化を有効に防ぐことができるとともに、感度特性についても優れた湿式現像用電子写真感光体を提供することができる。
【0032】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体によれば、正孔輸送剤の添加量を所定範囲内の値とすることにより、感光体層中に均一に分散されるため、耐久性及び耐溶剤性を向上させることができる。また、正孔輸送剤の添加量を所定範囲内の値とすることにより、正孔輸送剤の結晶化を有効に防ぐことができるとともに、感度特性についても優れた湿式現像用電子写真感光体を提供することができる。
【0033】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体によれば、所定量の電子輸送剤を含むことにより、電子輸送剤の結晶化を有効に防ぐことができるともに、さらに感度特性に優れた湿式現像用電子写真感光体を提供することができる。
【0034】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体によれば、所定の電荷発生剤を含むことにより、正孔輸送剤及び電子輸送剤を併用した場合に、感度特性、電気特性及び安定性をさらに優れたものとすることができる。
したがって、湿式現像用電子写真感光体に、かかる電荷発生剤を含むことにより、長時間使用時においても、所定の感度特性を維持することができる。
【0035】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体によれば、所定量の電荷発生剤を含むことにより、量子収率を高める効果が向上して、さらに可視光における赤色領域、近赤外領域、あるいは赤外領域に波長を有する光に対する吸光係数を大きくすることができる。
したがって、湿式現像用電子写真感光体の感度特性、電気特性、及び安定性等をさらに優れたものとすることができる。
【0036】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体によれば、所定のI/O値を有する結着樹脂を含むことにより、正孔輸送剤や電子輸送剤、さらには電荷発生剤との間の相溶性にさらに優れるとともに、耐久性及び耐溶剤性を向上させることができる。
【0037】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体によれば、正孔輸送剤の溶出量を所定値に制御することにより、現像時における耐溶剤性を、精度良く判定することができる。例えば、2000時間の浸漬試験により、10万枚の画像形成を実施した場合の耐溶剤性を、精度良く推定することができ
【0038】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体によれば、感光体層が、単層型であることから、構成や製造が容易になる。
したがって、湿式現像用電子写真感光体が単層型であることにより、長時間にわたって所定感度を有する湿式現像用電子写真感光体を効率よく製造することができる。
【0039】
また、本発明の湿式現像用画像形成装置によれば、湿式現像用電子写真感光体に、上述したいずれかの湿式現像用電子写真感光体を備えることにより、湿式現像液として使用される炭化水素溶剤に、長時間浸漬した場合であっても、電荷輸送剤等の溶出量が少なく、かつ、感度特性にも優れた湿式現像用電子写真感光体を備えた画像形成装置を提供することができる。
したがって、湿式現像用画像形成装置に、このような湿式現像用電子写真感光体を備えることにより、長時間にわたって鮮明な画像を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の湿式現像用電子写真感光体に関する実施の形態を、適宜図面を参照しながら、具体的に説明する。
【0041】
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、導電性基体上に感光体層を設けた湿式現像用電子写真感光体であって、感光体層が、正孔輸送剤として、下記一般式(1)で表されるアミン化合物誘導体を含有する湿式現像用電子写真感光体である。
【0042】
【化6】

【0043】
(一般式(1)中のR1及びR2は、それぞれ独立した置換基であり、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換又は非置換のアルキル基、炭素数6〜40の置換又は非置換のアリール基、炭素数2〜20の置換又は非置換の不飽和炭化水素基、あるいは置換又は非置換のアミノ基である。)
【0044】
ここで、湿式現像用電子写真感光体には、単層型と積層型とがあるが、本発明の湿式現像用電子写真感光体は、いずれにも適用可能である。
ただし、特に正負いずれの帯電性にも使用できること、構造が簡単で製造が容易であること、感光体層を形成する際の被膜欠陥を抑制できることから、層間の界面が少なく、光学的特性を向上できること等の理由から、単層型に適用することがより好ましい。
【0045】
1.単層型感光体
(1)基本的構成
図1(a)に示すように、単層型感光体10は、導電性基体12上に単一の感光体層14を設けたものである。
この感光体層は、例えば、一般式(1)で表されるアミン化合物誘導体(正孔輸送剤)と、電荷発生剤と、結着樹脂と、さらに必要に応じて電子輸送剤、レベリング剤等を適当な溶媒に溶解又は分散させ、得られた塗布液を導電性基体上に塗布し、乾燥させることで形成することができる。かかる単層型感光体は、単独の構成で正負いずれの帯電型にも適用可能であるとともに、層構成が簡単であって、生産性に優れているという特徴がある。
また、得られた単層型感光体は、一般式(1)で表されるアミン化合物誘導体を含んでいることから、残留電位が低下しており、所定感度を有しているという特徴がある。
さらに、単層型感光体の感光体層に、電子輸送剤を含有させる場合には、電荷発生剤と正孔輸送剤との電子の授受が効率よく行われるようになり、感度等がより安定する傾向が見られる。
【0046】
(2)正孔輸送剤
(2)−1 種類
正孔輸送剤として、一般式(1)で表されるアミン化合物誘導体を含有することを特徴とする。
この理由は、正孔輸送剤として、アミン化合物誘導体に、それぞれ特定の置換基を有していることから、アイソパー(商品名)等に代表される炭化水素系溶剤に対する耐溶剤性を著しく向上させることができるためである。したがって、湿式現像用電子写真感光体により、長期間にわたって安定した画像形成を実施することができる。
また、このようなアミン化合物誘導体を使用することにより、感度特性をさらに向上できるばかりでなく、機械的特性や成膜性についても向上することができるためである。
【0047】
また、正孔輸送剤として、一般式(1)が、下記一般式(2)で表されるアミン化合物誘導体であることが好ましい。
この理由は、一般式(2)中のR3、R7、R8及びR12のうち少なくとも一つが特定の置換基を有することにより、結着樹脂との相溶性にさらに優れ、所定の耐久性や耐溶剤性を得ることができるためである。さらに、R3、R7、R8及びR12のうち少なくとも一つが、炭素数が2〜6のアルキル基を有することがより好ましい。
また、かかるアミン化合物誘導体を使用することにより、結着樹脂との相溶性にさらに優れるため、耐久性や耐溶剤性が向上するととともに、このような置換基であれば、製造が容易であるため、比較的安価に湿式現像用電子写真感光体を提供することができるからである。
なお、下記一般式(2)中のR3〜R12は、既に説明した内容である。
【0048】
【化7】

【0049】
また、一般式(2)中のR3〜R12のうち隣り合ういずれか2つは結合又は縮合して形成した炭素数3〜20の炭素環構造であることが好ましい。より具体的には、一般式(2)中のかかる置換基は、R3〜R7の置換基を有しているベンゼン環、あるいはR8〜R12の置換基を有しているベンゼン環とともに形成したナフタレン、アントラセン、フェナントレン、インダン、又はテトラヒドロナフタレン等であることが好ましい。
この理由は、一般式(2)中のかかる置換基が、飽和又は不飽和の炭素環構造を形成することにより、電子の分布が非局在化し、かつ平面的になることによって、電荷移動度が大きくなるためである。したがって、本発明の湿式現像用電子写真感光体に、かかる炭素環構造を有するアミン化合物誘導体を用いることにより、感度特性が優れた湿式現像用電子写真感光体を提供することができる。
【0050】
また、正孔輸送剤として、一般式(2)中のR5及びR10のうち少なくとも一つが、下記一般式(3)で表されるアリール基含有の置換アミノ基であることが好ましい。
この理由は、一般式(1)中のR5及びR10のうち少なくとも一つが、下記一般式(3)で表されるアリール基含有の置換アミノ基であることにより、結着樹脂との相溶性が向上し、電気的特性及び耐熱性を向上することができるためである。また、電子の分布が非局在化し、かつ平面的になることによって、電荷移動度が大きくなるとともに、電荷発生剤からの電荷の注入性を高めることができるためである。
【0051】
さらに、下記一般式(3)中のR14は、炭素数2〜6のアルキル基であることがより好ましい。
この理由は、記一般式(3)中のR14が所定の置換基であることにより、結着樹脂との相溶性にさらに優れるため、耐久性や耐溶剤性が向上するととともに、このような置換基であれば、製造が容易であるため、比較的安価に湿式現像用電子写真感光体を提供することができるからである。
なお、下記一般式(3)中のR13〜R15及びaは、既に説明した内容である。
【0052】
【化8】

【0053】
また、一般式(3)中のR13は、炭素数6〜30の置換又は非置換のアリール基であることが好ましい。より具体的には、一般式(3)中のR13は水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数2〜20のエテニル基、あるいはハロゲン原子を置換基に有するアリール基であることがより好ましい。
この理由は、一般式(3)中のR13がかる置換基であることにより、結着樹脂との相溶性を向上させることができるとともに、感度特性を向上させることができるためである。
【0054】
また、正孔輸送剤として、一般式(2)中のR5及びR10のうち少なくとも一つが、下記一般式(4)で表されるビニル基含有の置換アリール基であることが好ましい。
この理由は、このような置換基を有することにより、立体障害により正孔輸送剤の平面性が低下し、より効果的に結晶化を防ぐためであり、結着樹脂との相溶性が向上し、耐久性及び耐溶剤性が向上するためである。
【0055】
【化9】

【0056】
(一般式(4)中のR16及びR17は、それぞれ独立した置換基であり、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換又は非置換のアルキル基、炭素数6〜30の置換又は非置換のアリール基、炭素数2〜20の置換又は非置換の不飽和炭化水素基である。)
【0057】
さらに下記一般式(4)中のR16及びR17は、炭素数6〜20の置換又は非置換のアリール基であることがより好ましい。
この理由は、下記一般式(4)中のR16及びR17が所定の置換基でることにより、電子の分布が非局在化し、かつ平面的になることによって、電荷移動度が大きくなるとともに、電荷発生剤からの電荷の注入性を高めることができ、感度特性を向上させることができるためである。
【0058】
また、正孔輸送剤として、一般式(1)で表されるアミン化合物誘導体の分子量を400〜1500の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、このような分子量の値に制限することにより、結着樹脂との相溶性がよくない、結晶化を効果的に防ぐことができるとともに、感度特性に優れることができる。
したがって、かかる正孔輸送剤の分子量の値を600〜1300の範囲内の値とすることがより好ましい。
なお、正孔輸送剤の分子量、及び後述する電子輸送剤の分子量は、構造式をもとに算出することもできるし、あるいはマススペクトルを用いて測定することができる。
【0059】
また、液体現像剤の炭化水素系溶媒中に、室温で2000時間の条件で浸漬させた場合に、正孔輸送剤の溶出量が15×10-7g/cm3以下であることが好ましい。
この理由は、正孔輸送剤の溶出量を所定値に制限することにより、現像時における耐溶剤性を制度良く判定することができるためである。また、このような溶出量であれば、10万枚の画像形成を実施した場合においても、優れた耐溶剤性を示しているということがわかる。
ここで、図3を参照して、湿式現像用電子写真感光体の浸漬時間と、正孔輸送剤の溶出量の関係を説明する。この図3の横軸には、湿式現像用電子写真感光体の浸漬時間(Hrs)を採って示してあり、縦軸には、湿式現像湯電子写真感光体の正孔輸送剤の溶出量(g/cm3)を採って示してある。
そして、図3に示されている複数の特性ラインA〜C(実施例1、比較例1および比較例2)から、いずれも湿式現像用電子写真感光体の浸漬時間が長くなるほど、正孔輸送剤の溶出量が多くなる傾向があることがわかる。
具体的には、浸漬時間が600時間程度であって、正孔輸送剤の溶出量が比較的少ない湿式現像用電子写真感光体、例えば、特性ラインAについては、浸漬時間が2,000時間程度と長くなっても、正孔輸送剤の溶出量が比較的少ないままであることが容易に理解できる。
【0060】
(2)−2 具体例
一般式(1)で表されるアミン化合物誘導体の具体例として、下記構造式(5)〜(8)で表されるアミン化合物誘導体(HTM−A〜D)を示す。
【0061】
【化10】

【0062】
【化11】

【0063】
【化12】

【0064】
【化13】

【0065】
また、従来公知の正孔輸送剤を併用することも好ましい。かかる正孔輸送剤としては、例えば、N,N,N’,N’−テトラフェニルベンジジン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニルフェニレンジアミン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニルナフチレンジアミン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニルフェナントリレンジアミン誘導体、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン等のスチリル系化合物、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール系化合物、有機ポリシラン化合物、1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン等のピラゾリン系化合物、ヒドラゾン系化合物、インドール系化合物、オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物、トリアゾール系化合物等の含窒素環式化合物や、縮合多環式化合物が挙げられる。
【0066】
(2)−3 添加量
また、正孔輸送剤の添加量に関し、結着樹脂100重量部に対して、10〜80重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる正孔輸送剤の添加量が10重量部未満の値になると、感度が低下して、実用上の弊害が生じる場合があるためである。一方、かかる正孔輸送剤の添加量が80重量部を超えた値になると、正孔輸送剤が結晶化しやすくなり、感光体として適正な膜が形成されない場合があるためである。
したがって、かかる正孔輸送剤の添加量を30〜70重量部の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0067】
(3)電子輸送剤
(3)−1 分子量
また、電子輸送剤の選択にあたり、分子量を400〜1000の範囲の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる電子輸送剤の分子量を特定範囲に制限することにより、電子輸送剤と結着樹脂との相溶性があがり、優れた耐久性及び耐溶剤性が得られるためである。
したがって、電子輸送剤の分子量を600〜900の範囲の値とすることがより好ましい。
【0068】
(3)−2 I/O値(無機性値/有機性値)
また、電子輸送剤の選択にあたり、I/O値を0.5以上とすることが好ましい。
この理由は、かかる電子輸送剤のI/O値を特定範囲に制限することにより、電子輸送剤の無機性を増加させ、有機性溶媒である炭化水素系溶剤に対して、優れた耐溶剤性が得られるためである。ただし、かかるI/O値の値が過度に大きくなると、溶剤及び結着樹脂に対する溶解性が低下する場合がある。
したがって、電子輸送剤のI/O値を0.6〜1.7の範囲内の値とすることがより好ましく、0.7〜1.5の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、具体的に、電子輸送剤の無機性値(I値)を240〜900の範囲内の値、有機性値(O値)を240〜1000の範囲内の値とすることが好ましい。
【0069】
ここで、本発明において用いられる無機性値(I値)及び有機性値(O値)、並びにその比であるI/O値は、各種有機化合物の極性を有機概念的に取り扱った値である。例えば、KUMAMOTO PHARMACEUTICAL BULLETIN、第1号、第1〜16項(1954年);化学の領域、第11巻、第10号、719〜725頁(1957年);フレグランスジャーナル、第34号、第97〜111頁(1979年);フレグランスジャーナル、第50号、第79〜82頁(1981年);などの文献に詳細に説明されており、基準値として、炭素(C)1個を有機性20と定めてある。それに対し、代表的な各種極性基の無機性及び有機性の値を表1に示す如く定めるが、かかる表1等に基づき、化合物に含まれる各種極性基の無機性値の和(I値)と、有機性値との和(O値)を求め、さらに無機性値の和と、有機性値との和との比(I/O値)を算出し、I/O値とするものである。
【0070】
【表1】

【0071】
すなわち、I/O値の概念をより詳細に説明すると、化合物の性質を、共有結合性を表す有機性基と、イオン結合性を表す無機性基とに分け、すべての有機化合物を有機軸と無機軸と名付けた直行座標上の1点ずつに位置づけて示すものである。
この場合において、無機性値(I値)とは、有機化合物が有している種々の置換基や結合等の沸点への影響力の大小を、水酸基を基準に数値化したものである。具体的には、直鎖アルコールの沸点曲線と直鎖パラフィンの沸点曲線との距離を炭素数5の付近で取ると約100℃となるので、水酸基1個の影響力を数値で100と定め、この数値に基づいて、各種置換基あるいは各種結合などの沸点への影響力を数値化した値が、有機化合物が有している置換基の無機性値である。例えば、−COOH基の無機性値は150であり、2重結合の無機性値は2である。従って、ある種の有機化合物の無機性値とは、該化合物が有している各種置換基や結合等の無機性値の総和を意味する。
一方、有機性値(O値)とは、分子内のメチレン基を単位とし、そのメチレン基を代表する炭素原子の沸点への影響力を基準にして定めたものである。すなわち、直鎖飽和炭化水素の炭素数5〜10付近での炭素1個加わることに沸点上昇の平均値は20℃であるから、これを基準に、炭素原子1個の有機性値を20と定め、これを基準として、各種置換基や結合等の沸点への影響力を数値化した値が有機性値である。例えば、ニトロ基(−NO)の有機性値は70である。従って、ある種の有機化合物の有機性値とは、該化合物が有している各種置換基や結合等の総和を意味する。
【0072】
したがって、一例として、後述する式(11)で表される電子輸送剤(ETM−C)で表されるナフトキノン誘導体のI/O値は、以下のように算出される。
すなわち、かかる化合物は、炭素原子(有機性20)を23個有し、ニトロ基(有機性70)を1個有しており、有機性値は20×23+70=530となる。また、ナフタレン環(無機性60)を1個有し、ベンゼン環(無機性15)を2個有し、ケトン基(無機性65)を2個有し、ニトロ基(無機性70)を1個有し、カルボキシル基(無機性60)を1個有していることから、無機性値は60×1+15×2+65×2+70+60=350となる。したがって、かかる化合物のI/O値は、350/530=0.6604となる。
【0073】
また、特定の電子輸送剤が、少なくとも一つのニトロ基(−NO2)、置換カルボキシル基(−COOR(Rは置換又は非置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換又は非置換の炭素数6〜30のアリール基))、及び置換カルボニル基(−COR(Rは置換又は非置換の炭素数1〜20のアルキル基、置換又は非置換の炭素数6〜30のアリール基))を有することが好ましい。
この理由は、使用する電子輸送剤が特定の置換基を備えることにより、耐溶剤性に優れた湿式現像用電子写真感光体を提供することができるためである。
また、さらに優れた耐溶剤性を得たい場合には、上述の電子輸送剤が、2つ以上の置換カルボキシル基、あるいは、2つ以上の置換カルボニル基(ただし、キノン部分のケトン基は除く。)を有することがより好ましい。
【0074】
(3)−3 種類
また、電子輸送剤の種類としては、ナフタレンカルボン酸誘導体、ナフトキノン誘導体、及びアゾキノン誘導体からなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含むことが好ましい。
この理由は、電子輸送剤として、特定の化合物を使用することにより、電子受容性に優れており、感度特性や耐溶剤性に優れた湿式現像用電子写真感光体を提供することができるためである。
【0075】
(3)−4 具体例
これらの電子輸送剤の具体例として、下記式(9)〜(14)で表される化合物(ETM−A〜H)が挙げられる。
【0076】
【化14】

【0077】
【化15】

【0078】
【化16】

【0079】
【化17】

【0080】
【化18】

【0081】
【化19】

【0082】
また、従来公知の電子輸送剤を併用することも好ましい。かかる電子輸送剤の種類としては、ジフェノキノン誘導体、ベンゾキノン誘導体のほか、アントラキノン誘導体、マロノニトリル誘導体、チオピラン誘導体、トリニトロチオキサントン誘導体、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン誘導体、ジニトロアントラセン誘導体、ジニトロアクリジン誘導体、ニトロアントアラキノン誘導体、ジニトロアントラキノン誘導体、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、ニトロアントラキノン、ジニトロアントラキノン、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸等の電子受容性を有する種々の化合物が挙げられ、1種単独又は2種以上をブレンドして使用することが好ましい。
また、これらの化合物のうち、樹脂60重量%に対して、濃度40重量%に調整した場合であって、電界強度が5×105v/cmにおける電子移動度が1.0×10-8cm2/V・sec以上である電子輸送剤がより好ましい。
【0083】
(3)−4 添加量
また、湿式現像用電子写真感光体を構成するにあたり、結着樹脂100重量部に対して、電子輸送剤の添加量を、10〜100重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる複数の電子輸送剤の添加量が10重量部未満の値になると、感度が低下して、実用上の弊害が生じる場合があるためである。一方、かかる複数の電子輸送剤の添加量が100重量部を超えた値になると、電子輸送剤が結晶化しやすくなり、感光体として適正な膜が形成されない場合があるためである。
したがって、電子輸送剤の添加量を、結着樹脂100重量部に対して、20〜80重量部の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0084】
なお、電子輸送剤の添加量を定めるにあたり、前述した正孔輸送剤の添加量を考慮することが好ましい。より具体的には、電子輸送剤(全ETM)の添加割合(全ETM/全HTM)を、正孔輸送剤(全HTM)に対して、0.25〜1.3の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる全ETM/全HTMの比率がかかる範囲外の値になると、感度が低下して、実用上の弊害が生じる場合があるためである。
したがって、かかる全ETM/全HTMの比率を0.5〜1.25の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0085】
(4)電荷発生剤
(4)−1 種類
本発明の電子写真感光体に使用される電荷発生剤としては、無金属フタロシアニン(τ型又はx型)、チタニルフタロシアニン(α型又はY型)、ヒドロキシガリウムフタロシアニン(V型)、及びクロロガリウムフタロシアニン(II型)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含むことが好ましい。
この理由は、電荷発生剤の種類を特定することにより、正孔輸送剤及び電子輸送剤を併用した場合に、感度特性、電気特性及び安定性等がより優れた湿式現像用電子写真感光体を提供することができるためである。
【0086】
(4)−2 具体例
これらの電荷発生剤のうち、具体的に、下記式(15)〜(18)で表されるフタロシアニン系顔料(CGM−A〜CGM−D)を使用することがより好ましい。
【0087】
【化20】

【0088】
【化21】

【0089】
【化22】

【0090】
【化23】

【0091】
また、従来公知の電荷発生剤を使用することも好ましい。かかる電荷発生剤の種類としては、オキソチタニルフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、ペリレン系顔料、ビスアゾ顔料、ジオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、ピリリウム顔料、アンサンスロン顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、キナクリドン系顔料といった有機光導電体や、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、アモルファスシリコンといった無機光導電剤料等の一種単独又は二種以上の混合物が挙げられる。
【0092】
(4)−3 添加量
また、電荷発生剤の添加量を、結着樹脂100重量部に対して、0.2〜40重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる複数の電荷発生剤の添加量が0.2重量部未満の値になると、量子収率を高める効果が不十分となり、電子写真感光体の感度、電気特性、安定性等を向上させることができなくなるためである。一方、かかる複数の電荷発生剤の添加量が40重量部を超えた値になると、赤色及び赤外ないし近赤外領域に吸収波長を有する光に対する吸光係数が低下して、感光体の感度、電気特性、安定性等がそれに伴い低下する場合があるためである。
したがって、電荷発生剤の添加量を、結着樹脂100重量部に対して、0.5〜20重量部の範囲内の値とすることがより好ましい。
【0093】
また、本発明で用いられる電荷発生剤のうち、式(16)で表される化合物(CGM−B)を用いる場合には、下記式(19)又は(20)で表される分散補助剤(C.IPigmentOrange16、PigmentYellow93)を添加してもよい。
この理由は、かかる電荷発生剤(CGM−B)と分散補助剤をあわせて用いることにより、塗工溶液中でのCGM−Bの分散性を向上させ、塗工溶液のポットライフを長くすることができるためである。
【0094】
なお、式(19)又は(20)で表される分散補助剤を使用する場合、その添加量を、全電荷発生剤100重量部に対して、30〜200重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる分散補助剤の添加量が30重量部未満の値になると、溶剤及び結着樹脂への溶解性が不十分になり、感光体として適正な膜か製造されないためである。一方、かかる分散補助剤が200重量部を超えると、かかる電荷発生剤の量子収率を高める効果が不十分となり、電子写真感光体の感度特性、電気特性、及び安定性等を向上させることができなくなるためである。
【0095】
【化24】

【0096】
【化25】

【0097】
(5)結着樹脂
(5)−1 種類
電荷発生剤等を分散させるための結着樹脂としては、I/O値(無機性値/有機性値)が0.38以上の値であるポリカーボネート樹脂を使用することが好ましい。
この理由は、かかる構造を有するポリカーボネート樹脂であれば、有機感光体の耐溶剤性をさらに向上することができるためである。
【0098】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体を構成するにあたり、下記一般式(21)、(22)及び(23)で表されるポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
この理由は、かかるポリカーボネート樹脂であれば、シロキサン構造等を導入することなく、炭化水素系溶媒に対して難溶であるとともに、撥油性も高いためである。その結果、感光体層表面と前述の炭化水素系溶媒との相互作用が小さくなって、長期間にわたって、感光体層表面の外観変化が少なくなるためである。
【0099】
【化26】

【0100】
(一般式(21)中のR18〜R21は、それぞれ独立した置換基であり、水素原子、ハロゲン原子、置換又は非置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換又は非置換の炭素数1〜12のハロゲン化アルキル基、置換又は非置換の炭素数6〜30のアリール基、置換又は非置換の炭素数6〜30のアルケニル基、又は炭素数10〜30の縮合多環式炭化水素基であり、Xは単結合、−O−、又は−CO−であり、かつ、m/(m+n)で表されるモル比が0.05〜0.6の範囲内の値である。)
【0101】
【化27】

【0102】
(一般式(22)中の複数のR22〜R27は、それぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、置換又は非置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換又は非置換の炭素数1〜12のハロゲン化アルキル基、置換又は非置換の炭素数6〜30のアリール基、置換又は非置換の炭素数6〜30のアルケニル基、又は炭素数10〜30の縮合多環式炭化水素基であり、かつ、p/(p+q)で表されるモル比が0.05〜0.6の範囲内の値である。)
【0103】
【化28】

【0104】
(一般式(23)中の複数のR28〜R33は、それぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、置換又は非置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換又は非置換の炭素数1〜12のハロゲン化アルキル基、置換又は非置換の炭素数6〜30のアリール基、置換又は非置換の炭素数6〜30のアルケニル基、又は炭素数10〜30の縮合多環式炭化水素基であり、かつ、r/(r+s)で表されるモル比が0.05〜0.6の範囲内の値である。)
【0105】
また、本発明の湿式現像用電子写真感光体に使用する結着樹脂として、一般式(22)中のR26とR27が異なる置換基であり、また一般式(23)中のR32とR33が異なる置換基であることが好ましい。
この理由は、かかるポリカーボネート樹脂であれば、正孔輸送剤との間の相溶性がさらに良好になって、現像液として使用される炭化水素系溶媒に長時間浸漬した場合であっても、正孔輸送剤の溶出量が極めて少ない湿式現像用電子写真感光体を提供することができるためである。
【0106】
(5)−2 具体例
また、一般式(21)、(22)及び(23)で表されるポリカーボネート樹脂の具体例としては、例えば、下記式(24)〜(34)で示される化合物(Resin−A〜Resin−K)が挙げられる。
【0107】
【化29】

【0108】
【化30】

【0109】
【化31】

【0110】
【化32】

【0111】
【化33】

【0112】
【化34】

【0113】
【化35】

【0114】
【化36】

【0115】
【化37】

【0116】
【化38】

【0117】
【化39】

【0118】
ただし、従来、湿式現像用電子写真感光体に使用されている種々の樹脂を併用することも好ましい。例えば、ビスフェノールZ型、ビスフェノールZC型、ビスフェノールC型、ビスフェノールA型等のポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂等の熱可塑性樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、その他架橋性の熱硬化性樹脂、エポキシアクリレート、ウレタン−アクリレート等の光硬化型樹脂等の樹脂が使用可能である。
また、これらの結着樹脂のうち、ポリカーボネート樹脂を使用することがより好ましい。
この理由は、ポリカーボネート樹脂であれば、一般的に、炭化水素系溶媒に対して難溶であるとともに、撥油性も高いためである。その結果、感光体層表面と前述の炭化水素系溶媒との相互作用が小さくなって、長期間にわたって、感光体層表面の外観変化が少なくなるためである。
【0119】
(6)添加剤
また、感光体層には、上記各成分のほかに、電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、従来公知の種々の添加剤、例えば酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、一重項クエンチャー、紫外線吸収剤等の劣化防止剤、軟化剤、可塑剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー等を配合することができる。また、感光体層の感度を向上させるために、例えばテルフェニル、ハロナフトキノン類、アセナフチレン等の公知の増感剤を電荷発生剤と併用してもよい。
【0120】
(7)構造
また、単層型感光体における感光体層の厚さは、通常、5〜100μmの範囲内の値であり、好ましくは10〜50μmの範囲内の値である。
そして、このような感光体層が形成される導電性基体としては、導電性を有する種々の材料を使用することができ、例えば鉄、アルミニウム、銅、スズ、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼、真鍮等の金属や、これらの金属が蒸着又はラミネートされたプラスチック材料、カーボンブラック等の導電性微粒子が分散されてなるプラスッチック材料、ヨウ化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム等で被覆されたガラス等があげられる。
【0121】
また、導電性基体の形状は、使用する画像形成装置の構造に合わせて、シート状、ドラム状等のいずれであってもよく、基体自体が導電性を有するか、あるいは基体の表面が導電性を有していればよい。また、導電性基体は、使用に際して十分な機械的強度を有するものが好ましい。
また、単層型の構成に関して、図1(b)に示すように、導電性基体12と感光層14との間に、感光体の特性を阻害しない範囲でバリア層16が形成されている感光体10´でもよい。また、図1(c)に示すように、感光層14の表面には、保護層18が形成されている感光体10´´でもよい。
【0122】
(8)製造方法
単層型感光体を製造するにあたり、結着樹脂と、電荷発生剤と、電子輸送剤と、正孔輸送剤と、を溶媒に添加して、分散混合し、塗布液とする。すなわち、単層型感光体を塗布方法により形成する場合には、例示の電荷発生剤、電荷輸送剤、結着樹脂等を適当な溶剤とともに、公知の方法、例えばロールミル、ボールミル、アトライタ、ペイントシェーカー、超音波分散機等を用いて分散混合して分散液を調整し、これを公知の手段により塗布して乾燥させればよい。
より具体的には、固形分濃度が10〜30重量%の塗布液を作成することが好ましい。この理由は、塗布液の固形分濃度は10重量%未満の値になると、被膜欠陥を生じるおそれがあるためであり、一方、塗布液の固形分濃度は30重量%を超えると、層むらが生じやすくなり、感光体として均一な厚さを有する薄膜を形成することが困難となる場合があるためである。
また、塗布液を作るための溶剤としては、種々の有機溶剤が使用可能であり、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;n−ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン、ジオキソラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル類;ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等があげられる。これらの溶剤は単独1種又は2種以上を混合して用いられる。
さらに、電荷輸送剤や電荷発生剤の分散性、感光体層表面の平滑性を良くするために界面活性剤、レベリング剤等を使用してもよい。
【0123】
2.積層型感光体
(1)基本的構造
図2(a)に示すように、積層型感光体20は、導電性基体12上に、蒸着又は塗布等の手段によって、電荷発生剤を含有する電荷発生層24を形成し、次いでこの電荷発生層24上に、正孔輸送剤としてアミン化合物誘導体等の少なくとも1種と、結着樹脂とを含む塗布液を塗布し、乾燥させて電荷輸送層22を形成することによって作製される。
また、上記構造とは逆に、図2(b)に示すように、導電性基体12上に電荷輸送層22を形成し、その上に電荷発生層24を形成している積層型感光体20´もよい。
ただし、電荷発生層24は、電荷輸送層22に比べて膜厚がごく薄いため、その保護のためには、図2(a)に示すように、電荷発生層24の上に電荷輸送層22を形成することがより好ましい。
【0124】
なお、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、結着剤等については、単層型感光体と基本的に同様の内容とすることができる。ただし、積層型感光体の場合、電荷発生剤の添加量については、電荷発生層を構成する結着樹脂100重量部に対して、0.5〜150重量部の範囲内の値とすることが好ましい。
【0125】
また、積層型感光体は、上記電荷発生層及び電荷輸送層の形成順序と、電荷輸送層に使用する電荷輸送剤の種類によって、正負いずれの帯電型となるかが選択される。例えば、導電性基体上に電荷発生層を形成し、その上に電荷輸送層を形成した場合において、電荷輸送層における電荷輸送剤として、一般式(1)で表されるアミン化合物誘導体のような正孔輸送剤を使用した場合には、感光体は負帯電型となる。この場合、電荷発生層には電子輸送剤を含有させてもよい。そして、積層型の電子写真感光体であれば、感光体の残留電位が大きく低下しており、感度を向上させることができる。
なお、積層型感光体における感光体層の厚さに関しては、電荷発生層が0.01〜5μm程度、好ましくは0.1〜3μm程度であり、電荷輸送層が2〜100μm、好ましくは5〜50μm程度である。
【0126】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、第1の実施形態である湿式現像用電子写真感光体(以下、単に、感光体と称する場合がある。)を備えるとともに、当該湿式現像用電子写真感光体の周囲に、帯電工程を実施するための帯電器32、露光工程を実施するための露光光源33、現像工程を実施するための湿式現像器34、及び転写工程を実施するための転写器35を配置し、かつ、現像工程において、炭化水素系溶媒にトナーを分散した液体現像剤を用いて画像形成を行う湿式現像用画像形成装置である。
なお、以下の湿式現像用画像形成装置の説明では、電子写真感光体として、単層型感光体を用いた場合を想定して説明する。
【0127】
すなわち、図4に示すように、かかる湿式現像用画像形成装置には、感光体31の周囲に、帯電工程を実施するための帯電器32、露光工程を実施するための露光光源33、現像工程を実施するための湿式現像器34、及び転写工程を実施するための転写器35を少なくとも備えていることが好ましい。
また、感光体31は、矢印の方向に一定速度で回転しており、感光体31の表面で、次の順に電子写真プロセスが行われることになる。より詳細には、帯電器32により、感光体31が全面的に帯電され、次いで、露光光源33によって、印字パターンが露光される。次いで、湿式現像器34によって、印字パターンに対応して、トナー現像され、さらに、転写器35によって、転写材(紙)36へのトナーの転写が行われる。そして、最後に、感光体31に残った余分なトナーに対して、クリーニングブレード37による掻き落としが行われるとともに、除電光源38によって、感光体31の除電が行われることになる。
【0128】
ここで、トナーが分散された液体現像剤34aは、現像ローラ34bによって運ばれ、所定の現像バイアスを印加することで、感光体31の表面上にトナーが引き付けられて、感光体31上に現像されることになる。また、液体現像剤34aにおける固形分濃度を、例えば、5〜25重量%の範囲内の値とすることが好ましい。さらに、液体現像剤34aに使用される液体(トナー分散溶媒)としては、炭化水素系溶剤やシリコーン系オイルが好適に使用される。
そして、感光体31において、特定のアミン化合物誘導体を正孔輸送剤として、使用することにより、耐溶剤性や感度特性に優れた単層型の湿式現像用電子写真感光体が得られ、長時間にわたって、優れた画像特性を維持することができる。
【実施例】
【0129】
[実施例1]
(1)湿式現像用電子写真感光体の作成
電荷発生剤として式(15)で表されるX型無金属フタロシアニン(CGM−A)を4重量部、正孔輸送剤として式(5)で表されるアミン化合物(HTM−A)を40重量部、電子輸送剤として式(9)で表されるナフトキノン誘導体(ETM−A)を50重量部、バインダ樹脂として式(24)で表される粘度平均分子量50,000の共重合ポリカーボネート樹脂(Resin−A)を100重量部、レベリング剤としてジメチルシリコンオイルKF−96−50CS(信越化学工業)0.1重量部及び溶媒として750重量部のテトラヒドロフランを添加した後、超音波分散機にて、50分間混合分散して、単層型感光層用塗布液とした。
得られた調整液を、直径30mmで、長さ254mm、厚さ5μmのアルマイト処理済みアルミニウム素管外面全域に塗布した。その後、130℃、30分間の条件で熱風乾燥して、膜厚22μmの単層型感光体層を有する湿式現像用電子写真感光体を得た。
また、共重合ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は、オストワルド粘度計によって、極限粘度[η]を求め、Schnellの式によって、[η]=1.23×10-40.83より算出した。なお、[η]は、20℃で、塩化メチレン溶液を溶媒として、濃度(C)が6.0g/dm3となるようにポリカーボネート樹脂を溶解させて得られたポリカーボネート樹脂溶液から測定することができる。
【0130】
(2)評価
(2)−1 感度測定
得られた湿式現像用電子写真感光体における明電位を測定した。すなわち、ドラム感度試験機(GENTEC社製)を用いて、850Vになるように帯電させ、次いで、ハロゲンランプの光からハンドパルスフィルターを用いて取り出した波長780nmの単色光(半値幅:20nm、光量:1.0μJ/cm2)を露光した。露光後330msec経過後の電位を測定し、初期明電位(VL)とした。
また、得られた湿式現像用電子写真感光体全体を、湿式現像の現像液として使用される炭化水素系溶剤(エクソン化学社製:アイソパーL)500mlに、温度25℃、600時間の条件で浸漬した。その後、アイソパー液から湿式現像用電子写真感光体を取り出し、明電位を同様に測定し、初期明電位とアイソパー浸漬後の明電位の差を算出し、感度変化(ΔVL)とした。得られた結果を表2に示す。
【0131】
(2)−2 耐溶剤性評価
得られた単層型湿式現像用電子写真感光体を、その感光体層の全面が浸るように、炭化水素系溶剤である炭化水素系溶剤(アイソパーL)に、温度25℃、600時間の条件で浸漬させた。一方、正孔輸送剤の濃度を変えて、炭化水素系溶剤(アイソパーL)中に溶解させた。その状態で紫外線吸収ピーク波長における吸光度を測定し、正孔輸送剤に関する濃度−吸光度検量線を予め作成した。次いで、炭化水素系溶剤(アイソパーL)に浸漬した湿式現像用電子写真感光体について、紫外線吸収測定を行い、検量線に照らして、正孔輸送剤の紫外線吸収ピーク波長における吸光度から、正孔輸送剤の溶出量を算出した。得られた結果を表2に示す。
【0132】
(2)−3 外観評価
また、耐溶剤性評価後の湿式現像用電子写真感光体の外観を目視にてクラックの発生の有無を観察し、下記基準に準じて外観評価を実施した。得られた結果を表1に示す。
◎:外観変化が全く見られない。
○:顕著な外観変化は見られない。
△:外観変化が少々見られる。
×:顕著な外観変化が見られる。
【0133】
[実施例2]
実施例2では、実施例1で使用した電荷発生剤としての式(15)で表される無金属フタロシアニン(CGM−A)のかわりに、上述した式(16)で表される化合物(CGM−B)を4重量部と、式(19)で表される分散補助剤(PigmentYellow16)を3重量部添加したほかは、実施例1と同様に単層型感光体を作成して、評価した。
【0134】
[実施例3〜4]
実施例3〜4では、実施例1で使用した電荷発生剤としての式(15)で表される無金属フタロシアニン(CGM−A)のかわりに、上述した式(17)、(18)で表される化合物(CGM−C、D)をそれぞれ使用したほかは、実施例1と同様に単層型感光体を作成して、評価した。
【0135】
[実施例5〜7]
実施例5〜7では、実施例1で使用した正孔輸送剤としての式(5)で表されるアミン化合物誘導体(HTM−A)のかわりに、式(6)〜(8)で表されるスチルベン化合物(HTM−B〜D)をそれぞれ使用したほかは、実施例1と同様に湿式現像用電子写真感光体を作成して、評価した。
【0136】
[実施例8〜10]
実施例8では、実施例1で使用した電子輸送剤としての式(9)で表されるナフトキノン誘導体(ETM−A)のかわりに、式(10)で表される電子輸送剤(ETM−B)を使用し、実施例9〜10では、実施例1で使用したポリカーボネート樹脂としての式(24)で表されるポリカーボネート樹脂(Resin−A)のかわりに、式(25)で表される粘度平均分子量が50,000のポリカーボネート樹脂(Resin−B)又は、式(26)表される粘度平均分子量が49,500のポリカーボネート樹脂(Resin−C)をそれぞれ使用したほかは、実施例1と同様に湿式現像用電子写真感光体を作成して、評価した。
【0137】
[実施例11〜14]
実施例11〜14では、実施例1に使用した正孔輸送剤としての式(5)で表されるアミン化合物(HTM−A)のかわりに、式(7)で表されるアミン化合物(HTM−C)をそれぞれ使用するとともに、電子輸送剤としての式(9)で表されるナフトキノン誘導体(ETM−A)のかわりに、式(11)〜(14)で表される化合物(ETM−C〜F)をそれぞれ使用したほかは、実施例1と同様に湿式現像用電子写真感光体を作成して、評価した。
【0138】
[実施例15〜17]
実施例15〜17では、実施例1に使用した結着樹脂としての式(24)で表されるポリカーボネート樹脂(Reisn−A)のかわりに、式(29)で表される粘度平均分子量が50,500のポリカーボネート樹脂(Resin−F)、式(30)で表される粘度平均分子量が49,000のポリカーボネート樹脂(Reisn−G)、又は式(31)で表される粘度平均分子量50,000のポリカーボネート樹脂(Resin−H)をそれぞれ使用したほかは、実施例1と同様に湿式現像用電子写真感光体を作成して、評価した。
【0139】
[比較例1]
比較例1においては、実施例1で使用した正孔輸送剤として、式(5)で表されるアミン化合物誘導体(HTM−A)のかわりに下記式(35)で表されるトリフェニルアミン誘導体(HTM−E)を使用したほかは、実施例1と同様に湿式現像用電子写真感光体を作成して、評価した。
【0140】
【化40】

【0141】
[比較例2]
比較例2においては、比較例1で使用した電子輸送剤として、式(9)で表されるナフトキノン誘導体(ETM−A)のかわりに式(36)で表される電子輸送剤(ETM−G)を使用し、さらに、結着樹脂として、式(24)で表されるポリカーボネート樹脂(Resin−A)のかわりに、式(37)で表される粘度度平均分子量50,000のポリカーボネート樹脂(Resin−M)を使用したほかは、比較例1と同様に湿式現像用電子写真感光体を作成して、評価した。
【0142】
【化41】

【0143】
【化42】

【0144】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0145】
以上詳述したように、湿式現像用電子写真感光体における正孔輸送剤として、特定構造のアミン化合物誘導体を用いることにより、結着樹脂との相溶性が優れており、長時間にわたって、所定感度を維持するとともに、優れた耐久性や耐溶剤性を得ることができる。
したがって、本発明の湿式現像用電子写真感光体は、各種画像形成装置の高速化、高性能化等に寄与することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】(a)〜(c)は、単層型感光体の基本構造及び変形構造を説明するために供する図である。
【図2】(a)〜(b)は、積層型感光体の基本構造及び変形構造を説明するために供する図である。
【図3】湿式現像用電子写真感光体の浸漬時間と、正孔輸送剤の溶出量との関係を説明するために供する図である。
【図4】湿式現像用電子写真感光体を備えた画像形成装置を説明するために供する図である。
【符号の説明】
【0147】
10:単層型感光体
12:導電性基体
14:感光体層
16:バリア層
18:保護層
20:積層型感光体
22:電荷輸送層
24:電荷発生層
31:感光体
32:帯電器
33:露光光源
34:湿式現像器
34a:液体現像剤
34b:現像ローラ
35:転写器
36:転写材
37:クリーニングブレード
38:除電光源
39:プローブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも結着樹脂と、正孔輸送剤と、電荷発生剤と、を含む感光体層を備えた湿式現像用電子写真感光体であって、
前記正孔輸送剤として、下記一般式(1)で表されるアミン化合物誘導体を含有することを特徴とする湿式現像用電子写真感光体。
【化1】


(一般式(1)中のR1及びR2は、それぞれ独立した置換基であり、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換又は非置換のアルキル基、炭素数6〜40の置換又は非置換のアリール基、炭素数2〜20の置換又は非置換の不飽和炭化水素基、あるいは置換又は非置換のアミノ基である。)
【請求項2】
前記一般式(1)が、下記一般式(2)で表されるアミン化合物誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の湿式現像用電子写真感光体。
【化2】


(一般式(2)中のR3〜R12は、それぞれ独立した置換基であり、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換又は非置換のアルキル基、炭素数6〜40の置換又は非置換のアリール基、炭素数2〜20の置換又は非置換の不飽和炭化水素基、置換又は非置換のアミノ基、あるいは、R3〜R12のうち隣り合ういずれか2つが結合又は縮合して形成した炭素環構造である。ただし、R3、R7、R8及びR12のうち少なくとも一つは、水素原子以外の前記置換基である。)
【請求項3】
前記一般式(2)中のR5及びR10のうち少なくとも一つが、下記一般式(3)で表されるアリール基含有の置換アミノ基であることを特徴とする請求項2に記載の湿式現像用電子写真感光体。
【化3】


(一般式(3)中のR13は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換又は非置換のアルキル基、炭素数6〜30の置換又は非置換のアリール基、炭素数2〜20の置換又は非置換の不飽和炭化水素基であり、R14は、ハロゲン原子、炭素数1〜20の置換又は非置換のアルキル基、炭素数6〜30の置換又は非置換のアリール基、炭素数2〜20の置換又は非置換の不飽和炭化水素基であり、R15は、水素原子、あるいは炭素数1〜20の置換又は非置換のアルキル基であり、繰り返し数aは0〜4の整数である。)
【請求項4】
前記正孔輸送剤の分子量を400〜1,500の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜3に記載の湿式現像用電子写真感光体。
【請求項5】
前記正孔輸送剤の添加量を、前記結着樹脂100重量部に対して、10〜80重量部の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜4に記載の湿式現像用電子写真感光体。
【請求項6】
前記感光体層に、さらに電子輸送剤を含み、当該電子輸送剤の添加量を、前記結着樹脂100重量部に対して、10〜100重量部の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜5に記載の湿式現像用電子写真感光体。
【請求項7】
前記電荷発生剤として、無金属フタロシアニン(τ型又はx型)、チタニルフタロシアニン(α型又はY型)、ヒドロキシガリウムフタロシアニン(V型)、及びクロロガリウムフタロシアニン(II型)からなる群から選択される少なくとも一つの化合物を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の湿式現像用電子写真感光体。
【請求項8】
前記電荷発生剤の添加量を、前記結着樹脂100重量部に対して、0.2〜40重量部の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜7に記載の湿式現像用電子写真感光体。
【請求項9】
前記結着樹脂として、I/O値(無機性値/有機性値)が0.38以上の値であるポリカーボネート樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜8に記載の湿式現像用電子写真感光体。
【請求項10】
液体現像剤の炭化水素系溶媒中に、室温、2000時間の条件で浸漬させた場合に、前記正孔輸送剤の溶出量が15×10-7g/cm3以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の湿式現像用電子写真感光体。
【請求項11】
前記感光体層が、単層型であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の湿式現像用電子写真感光体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の湿式現像用電子写真感光体を備えるとともに、当該湿式現像用電子写真感光体の周囲に、帯電工程、露光工程、現像工程、転写工程を実施するための部位をそれぞれ配置し、かつ、現像工程において、炭化水素系溶媒にトナーを分散した液体現像剤を用いて画像形成を行うことを特徴とする湿式現像用画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−126608(P2006−126608A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316326(P2004−316326)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】