説明

湿式電気集塵装置

【課題】集塵極の振動および腐食を抑制することができる湿式電気集塵装置を提供する。
【解決手段】ケーシング内の被処理ガスの流路に沿って集塵極10を配設した湿式電気集塵装置である。湿式電気集塵装置は、前記ケーシングの梁30に両端を固定するとともに、前記集塵極10の中段であって予め設定した離隔距離で前記集塵極10の表裏面を挟み込む一対の固定バンド40と、前記固定バンド40に沿って、前記集塵極10の表裏面に沿って洗浄水を噴霧する分岐配管50と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に被処理ガスの流路に沿って集塵極を配設した湿式電気集塵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電所のボイラから排出される排ガス中には、主成分となる二酸化炭素のほか、燃料に含有された硫黄分から生成された硫黄化合物や、高温・高圧状態の燃焼室で窒素が酸化された窒素酸化物などの有害物質が含まれている。そこで排出される排ガスが周辺環境に影響を与えないように連続的に脱窒・脱硫の捕集処理を経てから大気中に排出している(特許文献1)。ここで一般的な排ガス処理設備はボイラ側から脱硝装置、乾式電気集塵装置、湿式脱硫装置、湿式電気集塵装置の順に配置されている。
【0003】
ところで排ガスに含まれる硫黄化合物は、二酸化硫黄(SO)が主であるが、ボイラ内での燃焼や触媒酸化によって、一部は三酸化硫黄(SO)となりさらに三酸化硫黄は水と反応して硫酸になる。この三酸化硫黄は濃度が数十ppmの場合、温度が百数十度以上ではガス状であるが、ガス温度が酸露点(例えばSO濃度が1〜100ppmの場合、硫酸露点は120度から150度)以下になると、凝縮して硫酸ミストになる。この硫酸ミストは腐食性があるので、湿式脱硫装置の前段では、排ガスを酸露点よりも高い温度、例えば約170度以上にエアヒータで温度制御して、硫酸ミストの発生を抑制している。
【0004】
一方、湿式脱硫装置は、排ガス温度が水の露点近傍で最も脱硫性能が高いため、装置内では多量の循環水をスプレーしている。従って、湿式脱硫装置では、排ガス温度が約170度から水分の露点である約50度〜60度まで急激に低下される。このとき排ガス中の硫酸は湿式脱硫装置内の温度降下時にミスト化される。このような急冷による硫酸ミストは粒径が小さいため、噴霧スラリとの衝突確率が低く、湿式脱硫装置で除去することは困難である。そこで後段の湿式電気集塵装置で硫酸ミストを除去している。
【0005】
湿式電気集塵装置では、湿式脱硫装置から送られた排ガス中の硫酸ミストなどのミストや残存している塵埃を電気集塵の原理によって集塵極で捕集している。捕集されたミストはそれ自体が集塵極表面に濡れ膜を形成して自然落下する。またミスト量が少なく、自然流下が起こり難い場合には、図5に示すような洗浄手段を用いている。図5は従来の湿式電気集塵装置の主要部の説明図である。図5(1)は集塵極の正面図であり、図5(2)は同図(1)のB矢視図である。図示のように、集塵板1の上部に形成したメイン配管2の洗浄ノズル3から洗浄水を常時または間欠的に流し、集塵板1の表面に捕集したミストや塵埃を流し落としている。
【特許文献1】特開2002−45643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の湿式電気集塵装置は大型であり、既存設備への追設または省スペース化を要する箇所へ設置するには集塵装置全体を小型化する要請がある。集塵装置を小型化すると被処理ガスの煙道の通過断面積も小さくなるため、同じ被処理ガスを処理する場合には流速を増大させる必要がある。
【0007】
そうすると湿式電気集塵装置内に流れる被処理ガスの流速が、例えば3m/s以上と高い場合、図5(2)中の矢印Aに示すように、集塵板1が大きく振動する。集塵板1は、放電極4と予め設定した離隔距離Cで取り付けている。よって集塵極1が振動すると、放電極4との離間距離Cを規定値以内に維持することができない。このように離間距離を規定値に維持できない場合、集塵板1と放電極4との間でスパークが発生して荷電不良となり、集塵性能が著しく低下してしまうという問題があった。
【0008】
また高流速の場合、集塵極上部から噴霧している洗浄スプレー水が排ガスに流されてしまい、集塵極の下部まで水滴を到達させることができず、硫酸ミストを満遍なく流し落とすことが困難となる。仮に、集塵極に洗浄できない箇所があれば、洗浄できていない箇所で硫酸ミストが溜り集塵性能が低下してしまう。さらに硫酸ミストは腐食性であるため、ミストが蓄積された箇所では集塵極が腐食を受け、集塵極の耐用期間が短くなるという問題がある。
【0009】
そこで本発明は上記従来技術の問題点を解決するため、湿式電気集塵装置内に流れる被処理ガスの流速が高い場合でも、集塵板の振動を抑制して荷電不良を防止することを目的としている。また、集塵極下部まで満遍なく洗い流して集塵極の腐食を抑制することができる湿式電気集塵装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の湿式電気集塵装置は、ケーシング内の被処理ガスの流路に沿って集塵極を配設した湿式電気集塵装置において、前記ケーシング内の梁に両端を固定するとともに、前記集塵極の中段であって予め設定した離隔距離で前記集塵極のエレメントと交差する方向に沿って前記集塵極を挟み込んだサポートバーを備えたことを特徴としている。
【0011】
また本発明の湿式電気集塵装置は、ケーシング内の被処理ガスの流路に沿って集塵極を配設した湿式電気集塵装置において、前記集塵極のエレメントと交差する方向に沿って洗浄水を噴霧する洗浄手段を備え、前記洗浄手段は、前記ケーシングの梁に両端を固定するとともに、前記集塵極の中段であって予め設定した離隔距離で前記集塵極の表裏面に沿って前記集塵極を挟み込んだことを特徴としている。
【0012】
さらに本発明の湿式電気集塵装置は、ケーシング内の被処理ガスの流路に沿って集塵極を配設した湿式電気集塵装置において、前記ケーシング内の梁に両端を固定するとともに、前記集塵極の中段であって予め設定した離隔距離で前記集塵極のエレメントと交差する方向に沿って前記集塵極を挟み込んだ固定バンドと、前記固定バンドに沿って、前記集塵極の中段の表裏面に沿って洗浄水を噴霧する配管と、を備えたことを特徴としている。
【0013】
この場合において、前記固定バンドは、下部に前記配管の洗浄水を前記集塵極の表裏面に沿って流す水受けガイドを取り付けるとよい。
【発明の効果】
【0014】
上記構成による本発明によれば、集塵極の表裏面を一対のサポートバーで挟み込むことで、集塵板の振動を抑えることができる。このため、放電極との離間距離を規定値以内に維持することができる。したがって、荷電電圧を常時安定にすることができ、高い集塵性能を維持することができる。
【0015】
サポートバーは集塵極と予め定めた離隔距離で離間させて配置している。このため、集塵極の上部に形成した洗浄手段によって集塵極の表面を流下する洗浄水を、サポートバーの振動を抑制する固定バーで遮断することなく、表面に付着した硫酸ミストを満遍なく洗浄することができる。
【0016】
集塵極の洗浄を上部に設置したスプレーと固定バンドから流れる洗浄水の2段式にしたことで、集塵極全体に洗浄水が行き渡るようになり、集塵極に付着した硫酸ミストをきれいに洗い流すことができる。このため、排ガスが高流速の場合でも高い集塵性能を維持できるとともに、集塵極の腐食も防止し、長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の湿式電気集塵装置の実施形態を添付の図面を参照しながら、以下詳細に説明する。
【0018】
図1は第1実施形態の湿式電気集塵装置のケーシング内に取り付けた集塵極の説明図である。図1(1)は集塵極の正面図を示し、図1(2)は集塵極の部分斜視図を示している。
【0019】
図示のように、実施形態に係る湿式電気集塵装置の集塵極10は、長尺のエレメント12を所定の間隔を空けて同一平面上に複数枚並べて配置している。エレメント12は上端を一対の上端ビーム14で、下端を一対の下端ビーム16でそれぞれ挟み込み、締結手段18によって固定されている。そして上端ビーム14及び下端ビーム16は図示しない固定手段によって湿式電気集塵装置のケーシング内に取り付けている。集塵極10間には放電極を予め設定した離隔距離で取り付けている。そして平面上の集塵極10および放電極は、排ガスなどの被処理ガスの流路と平行であって、幅方向に複数枚配列している。
【0020】
また集塵極10の上方には、洗浄手段となるメイン配管20が取り付けてある。メイン配管20は、集塵極10の上端ビーム14と平行に所定間隔を空けて取り付けてある。そしてメイン配管20は、上端ビーム14を挟むように、すなわちメイン配管20と交差する方向に上部洗浄ノズル22を分岐させている。上部洗浄ノズル22は、上端ビーム14を跨ぐように配置してあり、集塵極10の表裏面に洗浄水を噴霧可能に取り付けている。
【0021】
一方、集塵極10の中段付近にはメイン配管20からの分岐配管24を取り付けている。分岐配管24は、集塵極10の上端ビーム14両端付近のメイン配管20から下方へ分岐させるとともに、集塵極10の中段付近に張り出している一対の梁30上で水平方向に折り曲げている。梁30は、長尺の部材であり、被処理ガスの流路(図1の矢印D)と交差する方向に沿って配置して、その両端をケーシング内に固定している。また梁30は集塵極10の両端に一対形成している。分岐配管24は、梁30上で折り曲げて、折り曲げ部を梁30上に固定している。分岐配管24は、図1(1)に示すように集塵極10の正面視でメイン配管から分岐したバイパス管のように環状に形成している。そして分岐配管24の下方には長手方向に沿って複数の開口を形成してある。分岐配管24を流れる洗浄水は、開口から集塵極10の表裏面に向かって噴霧される。
【0022】
また分岐配管24は、図1(2)に示すように梁30上でさらに二股に分岐させている。一対の梁30上の分岐配管24は、集塵極10のエレメントと交差する方向であって集塵極10の表裏面を挟むように環状に形成している。このとき分岐配管24は、集塵極10と予め設定した離隔距離tを空けて配置している。そして集塵極10を中心とした分岐配管24の離隔距離tは、図示しない放電極の放電に影響を及ぼさない距離に設定することが望ましい。なお分岐配管24は、集塵極10の最大振幅位置と同じ高さに形成することが望ましい。
【0023】
次に上記構成による湿式電気集塵装置の作用について以下説明する。硫酸ミストなどの腐食性ミストを含む被処理ガスは、ケーシングのガス流入口から図1中の矢印Dに示すように、被処理ガスの流路に沿って交互に配置した放電極と集塵極10と間に流れ込む。被処理水ガス中の硫酸ミストや残存している塵埃は、放電極と集塵極10の間を通過する間に電気集塵の原理によって集塵極10に捕集される。そして電気集塵によって硫酸ミストや塵埃が除去された処理ガスは、ケーシングのガス排出口からケーシング外に排出される。
【0024】
このとき集塵極10に捕集された硫酸ミストは、それ自体が集塵極10の表面に濡れ膜を形成して自然流下するか、またはミスト量が少なく自然流下が起きにくい場合には、洗浄手段によって洗浄している。すなわち集塵極10の上部に配置した上部洗浄ノズル22から洗浄水を常時又は完結的に流し、集塵極10で捕集した硫酸ミストや塵埃を流し落としている。一方、集塵極10の中段に配置した分岐配管24からも洗浄水を常時又は間欠的に流す。すなわちメイン配管20からの洗浄水は、分岐部分から下方に流れ、梁30上で折れ曲がり、分岐配管24の両端から中央に向って流れる。これにより上部洗浄ノズル22と同様に集塵極10で捕集した硫酸ミストや塵埃を流し落としている。そして分岐配管24は、集塵極10と予め設定した離隔距離tで配置してあり、集塵極10の表面を流下する洗浄水の流れを妨げることがなく、下方に流すことができる。
【0025】
また分岐配管24の両端は一対の梁30に固定してある。よって、振動する集塵極10のエレメント12が接触した場合であっても、振動を十分に抑える強度を備えている。
【0026】
なお分岐配管24に形成した複数の開口は両端から中央に向って穴径を次第に大きくするように穿孔し、開口からの流量を均等にして、配管全体に洗浄水を行き届かせるようにするとよい。
【0027】
図2は湿式電気集塵装置の第2実施形態の説明図である。図2(1)は集塵極の正面図を示し、図2(2)は同図(1)のE矢視図を示す。図3は第2実施形態の湿式電気集塵装置の主要部の説明図である。図3(1)は図2のF部拡大図を示し、図3(2)は同図(1)のG矢視図を示し、図3(3)は同図(1)のH矢視図を示す。
【0028】
第2実施形態の湿式電気集塵装置は、第1実施形態の湿式電気集塵装置と同様の集塵極10を備えるとともに、サポートバーとなる固定バンド40と、洗浄手段となる配管50を取り付けている。
【0029】
固定バンド40は、図2に示すように長尺の部材で、集塵極10の両端に配置した一対の梁30上に形成してある。この梁30は第1実施形態で説明した構成と同一であり、その詳細な説明を省略する。固定バンド40は、同一平面上に配列したエレメント12と交差する方向に取り付けている。そして固定バンド40は図1の洗浄手段と同様に、集塵極10と予め設定した離隔距離tを空けて梁30上に取り付けている。
【0030】
配管50は、メイン配管20から下方に分岐した分岐配管240である。図4は第2実施形態の湿式電気集塵装置の分岐配管の説明図である。分岐配管240は図1に示す分岐配管24と同様に集塵極10の両側に配置している一対の梁30上で折り曲げている。このとき分岐配管240は、図4に示すように上側分岐250と下側分岐260の2箇所折り曲げている。上側分岐250と下側分岐260はいずれも、同一平面上に配列したエレメント12と交差する方向であって固定バンド40に沿って互いに所定間隔を空けて取り付けている。上側分岐250と下側分岐260はいずれも集塵極10の中央部で分断し、互いに結合させている。下側分岐260は図3(1)に示すように前述の固定バンド40内に取り付けている。また下側分岐260は、管下方に図3(1)に示すような分岐路270を複数形成している。
【0031】
このような分岐配管240は、メイン配管20の分岐部分から下方に洗浄水が流れ、上側分岐250および下側分岐260で折れ曲がる。そして上側分岐250中の洗浄水は、集塵極10の中央付近で、接続する下側分岐260に流れ込む。このように下側分岐260は両端から洗浄水が流れ込み、流路全体に洗浄水を行き届かせることができる。上側分岐250と下側分岐260は集塵極10の表面を挟むように形成している。そして下側分岐260の下方には、分岐路270が加工されており、1枚の集塵板10に対して数個所ずつ、洗浄水を散布している。このため集塵板10の両面を洗浄できるようになっている。
【0032】
水受けガイド60は、図3(3)に示すように、固定バンド40の下方に取り付けている。そして、流出した洗浄水が集塵極10の面に沿って流れ落ちるように、開口から流出直後に設けている。この水受けガイド60は固定バンド40と溶接等の固定手段により設けている。
【0033】
このような構成による湿式電気集塵装置によれば、固定バンドで集塵極を挟み込むことで、排ガス流速が高い場合でも、集塵板の振動を抑制し、放電極との離間距離を規定値以内に保持することが可能となり、スパーク発生による荷電不良を防止することができる。
【0034】
また、固定バンドの内部に分岐配管のような水路を形成し、固定バンドからも集塵極の中段に洗浄水を流すことで、排ガス流速が高い場合でも、集塵極下部まで付着したミストを満遍なく洗い流すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の湿式電気集塵装置は硫黄酸化物を含む排気ガスの処理分野において特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第1実施形態の湿式電気集塵装置の集塵極の説明図である。
【図2】湿式電気集塵装置の第2実施形態の説明図である。
【図3】第2実施形態の湿式電気集塵装置の主要部の説明図である。
【図4】第2実施形態の湿式電気集塵装置の分岐配管の説明図である。
【図5】従来の湿式電気集塵装置の主要部の説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1………集塵板、2………メイン配管、3………洗浄ノズル、4………放電極、10………集塵極、12………エレメント、14………上端ビーム、16………下端ビーム、18………締結手段、20………メイン配管、22………上部洗浄ノズル、24、240………分岐配管、30………梁、40………固定バンド、50………配管、60………水受けガイド、250………上側分岐、260………下側分岐、270………分岐路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内の被処理ガスの流路に沿って集塵極を配設した湿式電気集塵装置において、
前記ケーシング内の梁に両端を固定するとともに、前記集塵極の中段であって予め設定した離隔距離で前記集塵極のエレメントと交差する方向に沿って前記集塵極を挟み込んだサポートバーを備えたことを特徴とする湿式電気集塵装置。
【請求項2】
ケーシング内の被処理ガスの流路に沿って集塵極を配設した湿式電気集塵装置において、
前記集塵極の表裏面に沿って洗浄水を噴霧する洗浄手段を備え、
前記洗浄手段は、前記ケーシングの梁に両端を固定するとともに、前記集塵極の中段であって予め設定した離隔距離で前記集塵極のエレメントと交差する方向に沿って前記集塵極を挟み込んだことを特徴とする湿式電気集塵装置。
【請求項3】
ケーシング内の被処理ガスの流路に沿って集塵極を配設した湿式電気集塵装置において、
前記ケーシング内の梁に両端を固定するとともに、前記集塵極の中段であって予め設定した離隔距離で前記集塵極のエレメントと交差する方向に沿って前記集塵極を挟み込んだ固定バンドと、
前記固定バンドに沿って、前記集塵極の中段の表裏面に洗浄水を噴霧する配管と、
を備えたことを特徴とする湿式電気集塵装置。
【請求項4】
前記固定バンドは、下部に前記配管の洗浄水を前記集塵極の表裏面に沿って流す水受けガイドを取り付けたことを特徴とする請求項3に記載の湿式電気集塵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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