説明

源泉水系のスケール防止方法

【課題】環境に悪影響を与えず、泉質を維持したままで、温泉水の送水管内壁等に付着するスケールを防止する方法を提供する。
【解決手段】温泉水中に炭酸ガスを混入して、分散・溶解させることにより、泉質を維持したままで、温泉水の配管内壁等に付着するスケールを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、温泉水の送水管内壁等に形成されるスケールの付着を防止する方法に関するものであり、より詳細には重炭酸塩を含有する温泉水中に炭酸ガスを混入して、分散させ、溶解させることにより、温泉水の送水管内壁等に形成されるスケールの付着を防止する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
温泉水の送水管内壁等に付着するスケールの防止方法として、次のような方法が知られていた:
温泉水に磁気処理とポリリン酸ナトリウムの溶解混合処理とを施すことにより生成したスケール防除液を温泉水に混合する方法(特許文献1)、
温泉水に磁気処理およびイオン封鎖液注入処理を施すことにより生成したスケール防除液を温泉水に注入する方法(特許文献2)、
【0003】
無機ポリリン酸塩とホスホン酸、ホスフィン酸、ポリカルボン酸およびこれらの塩から選ばれる少なくとも1種を主成分とするスケール防止剤をエアー・リフト方式の空気管中に注入する方法(特許文献3)、
スケール防止剤を遠赤外線により処理した水に溶解して得られる組成物を温泉水に添加する方法(特許文献4)、
【0004】
アスパラギン酸、イミノジコハク酸、ポリアスパラギン酸およびこれらのアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも1種と、ホスホン酸、ホスフィン酸、ポリカルボン酸およびこれらのアルカリ金属塩から選ばれる少なくとも1種とを含むスケール防止剤を用いる方法(特許文献5)、および
電場印加装置を用いて温泉水に電場印加処理を施す方法(特許文献6)。
【0005】
【特許文献1】特開平5−57299号公報
【特許文献2】特開平6−23393号公報
【特許文献3】特開平6−178999号公報
【特許文献4】特開平9−108695号公報
【特許文献5】特開2002−102886号公報
【特許文献6】特開2002−219490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来法のうち、化学薬品からなるスケール防止剤を用いる方法では、使用される化学薬品に起因する環境汚染が懸念されるため好ましくない。
特に、本発明の方法が好適に用いられる重炭酸泉は、海岸付近に多く存在するため、化学薬品からなるスケール防止剤を海岸付近の温泉で使用すると、海洋汚染につながりやすく、好ましくない。
【0007】
また、電場印加装置を用いる方法では、温泉水の泉質に変化をきたし、源泉に近い状態に泉質を維持することができず、したがって温泉療法による所期の湯治効果を期待しがたいという点で満足できるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のような問題を伴わないスケール防止方法を見出すべく鋭意研究した結果、温泉水中に炭酸ガスを混入して分散・溶解させることにより、温泉水の送水管内壁等に形成される炭酸塩によるスケールの付着を防止でき、しかも温泉水の泉質を源泉に近い状態に維持することができることを見出し、この発明を完成した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来、スケールの防止または除去に用いられていたような化学薬品を使用しないため、環境汚染の恐れがまったくない。
また、温泉水の泉質を源泉に近い状態に戻して維持できるため、温泉水による湯治効果が低下しない。
その上、化学薬品に代わって炭酸ガスだけを用いるため、運転経費をきわめて安価に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の方法は、温泉水中に炭酸ガスを混入して、分散・溶解させることにより行なわれる。
上記の炭酸ガスの混入は、温泉水の湧出口に近い箇所で行なうのが、スケール防止効果の面で特に好ましい。
【0011】
本発明で用いられる炭酸ガスは、市販の炭酸ガスボンベに充填された液化炭酸ガスをそのまま用いることができる。
【0012】
温泉水中へ炭酸ガスを混入して分散・溶解させる手段は、特に限定されず任意であるが、気液混合装置を用いて行なえば、温泉水中へ混入された炭酸ガスを効率よく短時間で温泉水中に分散・溶解させることができるので好ましい。
【0013】
上記の気液混合装置としては、特に限定されないが、例えば特許第2516172号公報に記載されたような装置を用いると、約60℃の温泉水に対しても瞬時に大量の炭酸ガスを分散・溶解させることができるという点で、特に好ましい。
【0014】
この気液混合装置を用いる場合には、図1に示すように、気液混合装置の液体吸込口を温泉水の湧出口に近い送水管に直結して該吸込口から温泉水を気液混合装置内へ取り込み、別途ガスボンベから供給される炭酸ガスを気液混合装置内で、該装置内へ取り込まれた上記の温泉水中に混入して、高圧下に分散させ、溶解させた後、炭酸ガスが分散・溶解した温泉水を送水管中の温泉水の圧力と同程度の圧力まで減圧し、次いで炭酸ガスが分散・溶解した温泉水を気液混合装置の液体吐出口から上記の温泉水取入れ口のすぐ下流側の送水管内へ戻す。
【0015】
この場合、高温の温泉水が送水管から気液混合装置の液体吸込口へ取り込まれた後、瞬時にして同装置内で炭酸ガスと混合され、同装置の液体吐出口から送水管へ戻されるため、また炭酸ガスボンベと気液混合装置との間にヒータ付きのガス圧力・流量計が用いられているため、温泉水の温度低下を回避できる。
【0016】
温泉水中への炭酸ガスの混入割合は特に限定されず、炭酸ガスの混入・分散・溶解処理後の温泉水のpHが約6〜7未満となるような割合で、炭酸ガスを混入すればよい。
【0017】
なお、すべての温泉水が気液混合装置を経由して炭酸ガスの混入・分散・溶解処理に付されるのが好ましいが、温泉水の一部が気液混合装置を経由するようにしてもよい。この場合には、気液混合装置により処理された温泉水と、気液混合装置を経由しない未処理の温泉水とが合流した後のpHが所定の値となるように、炭酸ガスの混入量を調整すればよい。
【0018】
従来、地中の温泉水が汲み上げられて大気圧下に解放されると、温泉水中に溶存していた重炭酸塩、例えば重炭酸カルシウムから炭酸ガスが遊離して炭酸カルシウムが生成し、この物質がスケール化していたところ、本発明の方法によれば、炭酸ガスが混入・分散されて温泉水中に溶解すると、一旦生成した炭酸カルシウムが炭酸ガスと水の作用により、再び温泉水に溶解しやすい重炭酸カルシウムに戻されるため、スケールの発生を防止できるものと考えられる。
【0019】
これらの現象を化学式で表すと、次のとおりである。
【化1】

【0020】
したがって、本発明の方法によれば、温泉水の泉質は地中から汲み上げられた直後の状態と変わらないため、温泉水の泉質は汲上げ直後とほとんど変わらない状態に維持されるという優れた効果も奏される。
【0021】
以下、本発明の方法を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例では図1に示される構成の装置が用いられた。
【実施例1】
【0022】
図2の表に示す陽イオンおよび陰イオンを含有する白浜温泉の合気湯泉にて、気液混合装置(特許第2516172号公報に記載の第1実施例に相当)を用い、すべての温泉水が気液混合装置を経由するように設定して、次の操作条件で、90時間連続運転した。
処置直前の温泉水のpH:7.12
処置前の温泉水の温度:60〜62℃
温泉水の流量:35L/分
気液混合装置への炭酸ガス供給量:1.5kg/cm2の圧力下で8L/分
気液混合時の圧力:6.5kg/cm2
送水管の長さ:40m
送水管の内径:19mm
送水管終端出口の温泉水のpH:6.62
温泉水の吐出量:35L/分
【0023】
比較例として、気液混合装置を用いないで、同じ温泉水を同じ流量で90時間流した。
90時間通水後に、送水管の終端開口部の写真を撮影した。その結果を、図3に示す。
図3から明らかなように、気液混合装置を用いて炭酸ガスを温泉水中に混入して分散・溶解させた本発明の実施例[図3(a)]ではスケールがまったく付着していなかったが、比較例[図3(b)]ではスケールが送水管内壁の全面にわたって付着していた。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、源泉の泉質を維持したまま、温泉水の送水管内壁等に付着するスケールを、簡便かつ安価に防止することができる。
その上、本発明の方法では、従来のスケール防止剤として使用されていたような化学薬品を用いないため、環境保全の面でも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は本発明の方法の一実施態様を示す概略説明図である。
【図2】実施例1で用いられた温泉水の陽イオンおよび陰イオンの含有量(和歌山県環境衛生研究センター分析)
【図3】図3(a)は本発明の実施例1における送水管内のスケール付着状況を示す写真であり、図3(b)は比較例における送水管内のスケール付着状況を示す写真である。
【符号の説明】
【0026】
1:揚水管
2:ポンプ
3:気液混合装置
4:炭酸ガスボンベ
4a:バルブ
4b:ヒータ付きのガス圧力・流量計
5:送水管
5a、5b、5c:バルブ
6:温泉浴場

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温泉水中に炭酸ガスを混入して分散・溶解させることにより、温泉水の送水管内壁等に形成されるスケールの付着を防止することを特徴とする、温泉水系のスケ−ル防止方法。
【請求項2】
温泉水が重炭酸泉である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
炭酸ガスが分散・溶解した温泉水が約pH6以上〜pH7未満となるように炭酸ガスが混入される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
炭酸ガスの混入・分散・溶解が気液混合装置により行なわれる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【公開番号】特開2009−39667(P2009−39667A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208482(P2007−208482)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(507270311)株式会社ワールド・ライセンス (1)
【出願人】(502127412)
【Fターム(参考)】