溝付円板または溝付き円筒容器の成形方法
【課題】 溝付円板または溝付円筒容器の冷間成形にて割れを防止する成形法を提供すること。
【解決手段】 中央部に凹部を持つパンチと中央部に凸部を持つダイスの間に被加工材を挟み、パンチを被加工材に押し込んで被加工材の中央部に凸部を成形し、引続き、リング状の凸部を持つパンチと中央部に凸部を持つダイスの間に被加工材を挟んだ状態でリング状のダイスを押し込んで溝部を成形して溝付円板とする。次いで、冷間成形した溝付円板をリング状のダイス上に置き、円柱状のパンチを押し込んで縦壁部を冷間成形することで溝付円筒容器とする。
【解決手段】 中央部に凹部を持つパンチと中央部に凸部を持つダイスの間に被加工材を挟み、パンチを被加工材に押し込んで被加工材の中央部に凸部を成形し、引続き、リング状の凸部を持つパンチと中央部に凸部を持つダイスの間に被加工材を挟んだ状態でリング状のダイスを押し込んで溝部を成形して溝付円板とする。次いで、冷間成形した溝付円板をリング状のダイス上に置き、円柱状のパンチを押し込んで縦壁部を冷間成形することで溝付円筒容器とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円板状の被加工材を溝付円板または溝付円筒容器に冷間成形する成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被加工材をパンチとダイスの間に挟み、パンチを被加工材に押し込んで成形することは周知である(例えば、特許文献1〜3参照)。また、リング状の溝部を有する円板の成形方法において、円板状の被加工材をリング状の凸部を持つパンチとリング状の凹部を持つダイスの間に挟み、パンチを被加工材に押し込んで溝部を成形することも周知である。そして、そのようにして成形した溝付円板の端部を曲げて円筒容器が成形されている。上述した成形では、リング状の凸部を持つパンチとリング状の凹部を持つダイスの間に円板状の被加工材を挟んだ状態で溝を成形する際に、割れが発生するという問題があった。
【0003】
また、成形時に破壊が生じるかどうかについての延性破壊条件式は、非特許文献1に種々の条件式が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−100241号公報
【特許文献2】特開2008−23535号公報
【特許文献3】特開平11−129035号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「静的解法FEM−バルク加工」、日本塑性加工学会編、コロナ社、2003年11月28日初版第1刷発行、P121〜P122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、円板状の被加工材を冷間成形して溝付円板または溝付円筒容器に冷間成形する際に発生する割れを防止する成形方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは円板状の被加工材に溝部を成形することで発生する割れ防止方法について鋭意検討を行った。その結果、図2に示すように中央部に凹部22aを持つパンチ22と中央部に凸部23aを持つダイス23の間に被加工材21を挟み、パンチ22を被加工材21に押し込んで被加工材の中央部に凸部24aを成形し、引続き、図3に示すようにリング状の凸部32aを持つパンチ32と中央部に凸部33aを持つダイス33の間に被加工材31を挟んだ状態でリング状のダイス34を押し込んで溝部を成形することで割れが防止できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明の要旨は、次の通りである。
【0009】
(1) 中央部に凹部を持つパンチと中央部に凸部を持つダイスの間に被加工材を挟み、パンチを被加工材に押し込んで被加工材の中央部に凸部を成形し、引続き、リング状の凸部を持つパンチと中央部に凸部を持つダイスの間に被加工材を挟んだ状態でリング状のダイスを押し込んで溝部を冷間成形することを特徴とする溝付円板の成形方法。
【0010】
(2) 円板状の被加工材をリング状の凸部を持つパンチとリング状の凹部を持つダイスの間に挟み、パンチを被加工材に押し込んで溝部を成形する際に、有限要素法を用いて破断解析を行い、破断しない判定が得られた場合は前記成形で溝部の冷間成形を行い、破断する判定が得られた場合、上記(1)記載の中央部に凹部を持つパンチと中央部に凸部を持つダイスの間に被加工材を挟み、パンチを被加工材に押し込んで被加工材の中央部に凸部を成形し、引続き、リング状の凸部を持つパンチと中央部に凸部を持つダイスの間に被加工材を挟んだ状態でリング状のダイスを押し込んで溝部を冷間成形することを特徴とする溝付円板の成形方法。
【0011】
(3) 上記(1)または(2)記載で冷間成形した溝付円板をリング状のダイス上に置き、円柱状のパンチを押し込んで縦壁部を冷間成形することを特徴とする溝付円筒容器の製造方法。
【0012】
(4)上記(2)記載の破断解析において延性破壊条件式を用いることを特徴とする溝付円板の成形方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、円板状の被加工材を溝付円板または溝付円筒容器に冷間成形する際に、割れの発生を防止する成形方法を提供することができ、例えば、車両部品、産業機器等に使用される溝付円板および溝付円筒容器の成形に好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】溝付円板を成形する過程を示す断面図である。
【図2】円板の中央部に凸部を成形する過程を示す断面図である。
【図3】溝付円板を成形する過程を示す断面図である。
【図4】第1実施例に係わり、本発明にて円板の中央部に凸部を成形する過程を示す断面図である。
【図5】第1実施例に係わり、本発明にて溝付円板を成形する過程を示す断面図である。
【図6】第1実施例に係わり、本発明にて溝付円筒容器を成形する過程を示す断面図である。
【図7】第1実施例に係わり、従来技術にて溝付円板を成形する過程を示す断面図である。
【図8】第2実施例に係わり、従来技術にて溝付円板を成形する過程を示す断面図である。
【図9】有限要素法による損傷値分布である。
【図10】第2実施例に係わり、本発明にて円板の中央部に凸部を成形する過程を示す断面図である。
【図11】第2実施例に係わり、本発明にて溝付円板を成形する過程を示す断面図である。
【図12】第2実施例に係わり、本発明にて溝付円筒容器を成形する過程を示す断面図である。
【図13】第3実施例に係わり、従来技術にて溝付円板を成形する過程を示す断面図である。
【図14】有限要素法による損傷値分布を示す図である。
【図15】第3実施例に係わり、溝付円筒容器を成形する過程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明の実施態様について図を用いて詳細に説明する。
【0016】
溝付円板の成形では、通常、図1の溝付円板を成形する過程を示す断面図のように、円板状の被加工材をリング状の凸部12aを持つパンチ12とリング状の凹部13aを持つダイス13の間に挟み、パンチ12を被加工材に押し込んで溝部を成形している。このような成形において、S50C鋼で直径が120mm、板厚が2mmの円板状の被加工材に溝部を成形した結果、割れが発生しなかったが、板厚が3mmの厚い円板11を用いて成形すると溝部に割れ14aが発生した。
【0017】
本発明者らは割れ発生の原因を検討した結果、被加工材の板厚が厚くなると、外表面で曲げによる応力が大きくなることに加えて、ダイスの肩R部13b及び肩R部13cで拘束された状態でパンチ12の凸部12aで押し込まれて成形されるため引張変形による引張応力も作用し、曲げの外側で引張応力が過大になり割れることを突き止めた。
【0018】
そこで、本発明者らは円板状の被加工材に溝部を成形することで発生する割れ防止方法について鋭意検討を行った結果、図2に示すように中央部に凹部22aを持つパンチ22と中央部に凸部23aを持つダイス23の間に被加工材21を挟み、パンチ22を被加工材21に押し込んで被加工材の中央部に凸部24aを成形して成形品24とし、引続き、図3に示すようにリング状の凸部32aを持つパンチ32と中央部に凸部33aを持つダイス33の間に被加工材31を挟んだ状態でリング状のダイス34を押し込んで溝部を成形して溝付円盤35とすることで割れが防止でき、また、溝付円板の端部を曲げて成形することで、割れが発生することなく円筒容器に成形できることを見出した。
【0019】
但し、溝の深さが浅い場合や溝の曲げ半径が大きい場合には、図1に示す1回の成形で溝の成形が可能である。そこで、本発明においては、有限要素法を用いて図1に示す成形の成形解析を行い、延性破壊条件式を用い破断判定を行い、割れる判定が得られた場合は、図2及び図3に示す2回成形を行い、割れない判定が得られた場合は図1に示す成形を行う。
【0020】
延性破壊条件式は、非特許文献1のP121〜P122にあるように、以下に示す種々の条件式が提案されているが、特に条件式を限定するものではない。
【0021】
Cockcroft and Lathamの延性破壊条件式
【数1】
【0022】
Jeongの延性破壊条件式
【数2】
【0023】
大矢根の延性破壊条件式
【数3】
【0024】
上述のようにして成形した溝付円板を用いて円筒容器を成形するには、溝付円板をリング状のダイス上に置き、円柱状のパンチを押し込んで縦壁部を冷間成形する。
【実施例】
【0025】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0026】
<実施例1>
板厚3.2mmのS50Cの鋼板から直径120mmの円板に剪断加工したものを被加工材とした。図4に示すように中央部に凹部42aを持つパンチ42と中央部に凸部43aを持つダイス43の間に被加工材41を挟み、パンチ42を被加工材41に押し込んで被加工材の中央部に凸部44aを成形してプレス成形品44とした。その後、図5に示すようにリング状の凸部52aを持つパンチ52と中央部に凸部53aを持つダイス53の間に被加工材51を挟んだ状態でリング状のダイス54を押し込んで溝部を成形した結果、割れの無い溝付円板55を成形できた。
【0027】
上記溝付円板61を図6に示すリング状のダイス63の上の置き、円柱状のパンチ62を押し込んで成形することで溝付円筒容器64が成形できた。
【0028】
比較例として、板厚3.2mmのS50Cの鋼板から直径120mmの円板に剪断加工したものを被加工材とし、図7に示すリング状の凸部72aを有するパンチ72とリング状の凹部73aを有するダイス73を用いて、ダイスの肩R部73b及び肩R部73cで拘束された状態でパンチ72の凸部72aで押し込んで被加工材71を成形して溝付円盤74とした結果、割れ74aが発生した。
【0029】
<実施例2>
板厚4mmのS35Cの鋼板から直径120mmの円板に剪断加工したものを被加工材とした。図8に示すリング状の凸部82aを有するパンチ82及びリング状の凹部83bを有するダイス83を用い被加工材81を成形して、溝付円盤84とする工程を有限要素法を用いて破断解析を行った。延性破壊条件式はJeongの延性破壊条件式を用いた。破壊基準値はS35Cの鋼板からJIS5号試験片を加工し、引張試験を行い、破断部の断面積A1を測定し、式(4)により求めた。
【0030】
【数4】
【0031】
上述の方法で求めたS35Cの破壊基準値は0.80であった。FEM解析による式(5)で示す損傷値dの分布を図9に示す。
【0032】
【数5】
【0033】
図9に矢印で示す箇所の損傷値は0.83であり、破壊基準値0.80を超え、破断する結果になった。そこで、図10示すように中央部に凹部102aを持つパンチ102と中央部に凸部103aを持つダイス103の間に被加工材101を挟み、パンチ102を被加工材101に押し込んで被加工材の中央部に凸部104aを成形した。引続き、図11に示すようにリング状の凸部112aを持つパンチ112と中央部に凸部113aを持つダイス113の間に被加工材111を挟んだ状態でリング状のダイス114を押し込んで溝部を成形した結果、割れの無い溝付円板115を成形できた。
【0034】
上記溝付円板121を図12に示す円柱状のダイス123の上に置き、円柱状のパンチ122を押し込んで成形することで溝付円筒容器124が成形できた。
【0035】
比較例として、板厚4mmのS35Cの鋼板から直径120mmの円板に剪断加工したものを被加工材81とし、図8に示すパンチ82とダイス83を用いて成形した結果、FEMで予測した箇所に割れが発生した。
【0036】
<実施例3>
板厚4mmのS35Cの鋼板から円板に剪断加工したものを被加工材とした。図13に示すパンチ132及びダイス133を用い被加工材131を成形する工程を有限要素法を用いて破断解析を行った。延性破壊条件式はJeongの延性破壊条件式を用いた。S35Cの破壊基準値は0.80である。式(5)で定義する損傷値の分布を図14に示す。損傷値は0.8未満であるので破断しない結果になった。そこで、図13に示すパンチ132とダイス133を用い成形した結果、割れの無い溝付円板134を成形することができた。上記溝付円板151を図15に示すリング状のダイス153の上に置き、円柱状のパンチ152を押し込んで成形することで溝付円筒容器154が成形できた。
【0037】
以上の実施例に述べたように、本発明によれば、円板状の被加工材(例えば、薄鋼板)を溝付円板または溝付円筒容器に冷間成形する際に、割れの発生を防止することができた。
【符号の説明】
【0038】
11・・被加工材、12・・パンチ、12a・・パンチに加工したリング状の凸部、
13・・ダイス、13a・・ダイスに加工したリング状の凹部、13b・・ダイスの肩R部、13c・・ダイスの肩R部、14・・溝付円板、14a・・被加工材で発生した割れ
21・・被加工材、22・・パンチ、22a・・パンチに加工した凹部、23・・ダイス、23a・・ダイスに加工した凸部、24・・プレス成形品、24a・・被加工材に成形した凸部、31・・被加工材、32・・パンチ、32a・・パンチに加工したリング状の凸部、33・・ダイス、33a・・ダイスに加工した凸部、34・・ダイス、35・・溝付円板、41・・被加工材、42・・パンチ、42a・・パンチに加工したリング状の凸部、43・・ダイス、43a・・ダイスに加工したリング状の凹部、44・・プレス成形品、44a・・被加工材に成形した凸部、51・・・被加工材、52・・・パンチ、
52a・・パンチに加工したリング状の凸部、53・・ダイス、53a・・ダイスに加工した凸部、54・・ダイス、55・・溝付円板、61・・溝付円板、62・・パンチ、63・・ダイス、64・・溝付円筒容器、71・・被加工材、72・・パンチ、72a・・パンチに加工したリング状の凸部、73・・ダイス、73a・・ダイスに加工したリング状の凹部、73b・・ダイスの肩R部、73c・・ダイスの肩R部、74・・溝付円板、74a・・被加工材で発生した割れ、81・・被加工材、82・・パンチ、82a・・パンチに加工したリング状の凸部、83・・ダイス、83a・・ダイスに加工したリング状の凹部、84・・溝付円板、101・・被加工材、102・・パンチ、102a・・パンチに加工した凹部、103・・ダイス、103a・・ダイスに加工した凸部、104・・プレス成形品、104a・・被加工材の中央部の凸部、111・・被加工材、112・・パンチ、112a・・パンチに加工したリング状の凸部、113・・ダイス、113a・・ダイスに加工した凸部、114・・ダイス、115・・溝付円板、121・・溝付円板、122・・パンチ、123・・ダイス、124・・溝付円筒容器、131・・被加工材、132・・パンチ、133・・ダイス、134・・溝付円板、151・・溝付円板、152・・パンチ、153・・ダイス、154・・溝付円筒容器
【技術分野】
【0001】
本発明は、円板状の被加工材を溝付円板または溝付円筒容器に冷間成形する成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被加工材をパンチとダイスの間に挟み、パンチを被加工材に押し込んで成形することは周知である(例えば、特許文献1〜3参照)。また、リング状の溝部を有する円板の成形方法において、円板状の被加工材をリング状の凸部を持つパンチとリング状の凹部を持つダイスの間に挟み、パンチを被加工材に押し込んで溝部を成形することも周知である。そして、そのようにして成形した溝付円板の端部を曲げて円筒容器が成形されている。上述した成形では、リング状の凸部を持つパンチとリング状の凹部を持つダイスの間に円板状の被加工材を挟んだ状態で溝を成形する際に、割れが発生するという問題があった。
【0003】
また、成形時に破壊が生じるかどうかについての延性破壊条件式は、非特許文献1に種々の条件式が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−100241号公報
【特許文献2】特開2008−23535号公報
【特許文献3】特開平11−129035号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「静的解法FEM−バルク加工」、日本塑性加工学会編、コロナ社、2003年11月28日初版第1刷発行、P121〜P122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、円板状の被加工材を冷間成形して溝付円板または溝付円筒容器に冷間成形する際に発生する割れを防止する成形方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは円板状の被加工材に溝部を成形することで発生する割れ防止方法について鋭意検討を行った。その結果、図2に示すように中央部に凹部22aを持つパンチ22と中央部に凸部23aを持つダイス23の間に被加工材21を挟み、パンチ22を被加工材21に押し込んで被加工材の中央部に凸部24aを成形し、引続き、図3に示すようにリング状の凸部32aを持つパンチ32と中央部に凸部33aを持つダイス33の間に被加工材31を挟んだ状態でリング状のダイス34を押し込んで溝部を成形することで割れが防止できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明の要旨は、次の通りである。
【0009】
(1) 中央部に凹部を持つパンチと中央部に凸部を持つダイスの間に被加工材を挟み、パンチを被加工材に押し込んで被加工材の中央部に凸部を成形し、引続き、リング状の凸部を持つパンチと中央部に凸部を持つダイスの間に被加工材を挟んだ状態でリング状のダイスを押し込んで溝部を冷間成形することを特徴とする溝付円板の成形方法。
【0010】
(2) 円板状の被加工材をリング状の凸部を持つパンチとリング状の凹部を持つダイスの間に挟み、パンチを被加工材に押し込んで溝部を成形する際に、有限要素法を用いて破断解析を行い、破断しない判定が得られた場合は前記成形で溝部の冷間成形を行い、破断する判定が得られた場合、上記(1)記載の中央部に凹部を持つパンチと中央部に凸部を持つダイスの間に被加工材を挟み、パンチを被加工材に押し込んで被加工材の中央部に凸部を成形し、引続き、リング状の凸部を持つパンチと中央部に凸部を持つダイスの間に被加工材を挟んだ状態でリング状のダイスを押し込んで溝部を冷間成形することを特徴とする溝付円板の成形方法。
【0011】
(3) 上記(1)または(2)記載で冷間成形した溝付円板をリング状のダイス上に置き、円柱状のパンチを押し込んで縦壁部を冷間成形することを特徴とする溝付円筒容器の製造方法。
【0012】
(4)上記(2)記載の破断解析において延性破壊条件式を用いることを特徴とする溝付円板の成形方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、円板状の被加工材を溝付円板または溝付円筒容器に冷間成形する際に、割れの発生を防止する成形方法を提供することができ、例えば、車両部品、産業機器等に使用される溝付円板および溝付円筒容器の成形に好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】溝付円板を成形する過程を示す断面図である。
【図2】円板の中央部に凸部を成形する過程を示す断面図である。
【図3】溝付円板を成形する過程を示す断面図である。
【図4】第1実施例に係わり、本発明にて円板の中央部に凸部を成形する過程を示す断面図である。
【図5】第1実施例に係わり、本発明にて溝付円板を成形する過程を示す断面図である。
【図6】第1実施例に係わり、本発明にて溝付円筒容器を成形する過程を示す断面図である。
【図7】第1実施例に係わり、従来技術にて溝付円板を成形する過程を示す断面図である。
【図8】第2実施例に係わり、従来技術にて溝付円板を成形する過程を示す断面図である。
【図9】有限要素法による損傷値分布である。
【図10】第2実施例に係わり、本発明にて円板の中央部に凸部を成形する過程を示す断面図である。
【図11】第2実施例に係わり、本発明にて溝付円板を成形する過程を示す断面図である。
【図12】第2実施例に係わり、本発明にて溝付円筒容器を成形する過程を示す断面図である。
【図13】第3実施例に係わり、従来技術にて溝付円板を成形する過程を示す断面図である。
【図14】有限要素法による損傷値分布を示す図である。
【図15】第3実施例に係わり、溝付円筒容器を成形する過程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明の実施態様について図を用いて詳細に説明する。
【0016】
溝付円板の成形では、通常、図1の溝付円板を成形する過程を示す断面図のように、円板状の被加工材をリング状の凸部12aを持つパンチ12とリング状の凹部13aを持つダイス13の間に挟み、パンチ12を被加工材に押し込んで溝部を成形している。このような成形において、S50C鋼で直径が120mm、板厚が2mmの円板状の被加工材に溝部を成形した結果、割れが発生しなかったが、板厚が3mmの厚い円板11を用いて成形すると溝部に割れ14aが発生した。
【0017】
本発明者らは割れ発生の原因を検討した結果、被加工材の板厚が厚くなると、外表面で曲げによる応力が大きくなることに加えて、ダイスの肩R部13b及び肩R部13cで拘束された状態でパンチ12の凸部12aで押し込まれて成形されるため引張変形による引張応力も作用し、曲げの外側で引張応力が過大になり割れることを突き止めた。
【0018】
そこで、本発明者らは円板状の被加工材に溝部を成形することで発生する割れ防止方法について鋭意検討を行った結果、図2に示すように中央部に凹部22aを持つパンチ22と中央部に凸部23aを持つダイス23の間に被加工材21を挟み、パンチ22を被加工材21に押し込んで被加工材の中央部に凸部24aを成形して成形品24とし、引続き、図3に示すようにリング状の凸部32aを持つパンチ32と中央部に凸部33aを持つダイス33の間に被加工材31を挟んだ状態でリング状のダイス34を押し込んで溝部を成形して溝付円盤35とすることで割れが防止でき、また、溝付円板の端部を曲げて成形することで、割れが発生することなく円筒容器に成形できることを見出した。
【0019】
但し、溝の深さが浅い場合や溝の曲げ半径が大きい場合には、図1に示す1回の成形で溝の成形が可能である。そこで、本発明においては、有限要素法を用いて図1に示す成形の成形解析を行い、延性破壊条件式を用い破断判定を行い、割れる判定が得られた場合は、図2及び図3に示す2回成形を行い、割れない判定が得られた場合は図1に示す成形を行う。
【0020】
延性破壊条件式は、非特許文献1のP121〜P122にあるように、以下に示す種々の条件式が提案されているが、特に条件式を限定するものではない。
【0021】
Cockcroft and Lathamの延性破壊条件式
【数1】
【0022】
Jeongの延性破壊条件式
【数2】
【0023】
大矢根の延性破壊条件式
【数3】
【0024】
上述のようにして成形した溝付円板を用いて円筒容器を成形するには、溝付円板をリング状のダイス上に置き、円柱状のパンチを押し込んで縦壁部を冷間成形する。
【実施例】
【0025】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0026】
<実施例1>
板厚3.2mmのS50Cの鋼板から直径120mmの円板に剪断加工したものを被加工材とした。図4に示すように中央部に凹部42aを持つパンチ42と中央部に凸部43aを持つダイス43の間に被加工材41を挟み、パンチ42を被加工材41に押し込んで被加工材の中央部に凸部44aを成形してプレス成形品44とした。その後、図5に示すようにリング状の凸部52aを持つパンチ52と中央部に凸部53aを持つダイス53の間に被加工材51を挟んだ状態でリング状のダイス54を押し込んで溝部を成形した結果、割れの無い溝付円板55を成形できた。
【0027】
上記溝付円板61を図6に示すリング状のダイス63の上の置き、円柱状のパンチ62を押し込んで成形することで溝付円筒容器64が成形できた。
【0028】
比較例として、板厚3.2mmのS50Cの鋼板から直径120mmの円板に剪断加工したものを被加工材とし、図7に示すリング状の凸部72aを有するパンチ72とリング状の凹部73aを有するダイス73を用いて、ダイスの肩R部73b及び肩R部73cで拘束された状態でパンチ72の凸部72aで押し込んで被加工材71を成形して溝付円盤74とした結果、割れ74aが発生した。
【0029】
<実施例2>
板厚4mmのS35Cの鋼板から直径120mmの円板に剪断加工したものを被加工材とした。図8に示すリング状の凸部82aを有するパンチ82及びリング状の凹部83bを有するダイス83を用い被加工材81を成形して、溝付円盤84とする工程を有限要素法を用いて破断解析を行った。延性破壊条件式はJeongの延性破壊条件式を用いた。破壊基準値はS35Cの鋼板からJIS5号試験片を加工し、引張試験を行い、破断部の断面積A1を測定し、式(4)により求めた。
【0030】
【数4】
【0031】
上述の方法で求めたS35Cの破壊基準値は0.80であった。FEM解析による式(5)で示す損傷値dの分布を図9に示す。
【0032】
【数5】
【0033】
図9に矢印で示す箇所の損傷値は0.83であり、破壊基準値0.80を超え、破断する結果になった。そこで、図10示すように中央部に凹部102aを持つパンチ102と中央部に凸部103aを持つダイス103の間に被加工材101を挟み、パンチ102を被加工材101に押し込んで被加工材の中央部に凸部104aを成形した。引続き、図11に示すようにリング状の凸部112aを持つパンチ112と中央部に凸部113aを持つダイス113の間に被加工材111を挟んだ状態でリング状のダイス114を押し込んで溝部を成形した結果、割れの無い溝付円板115を成形できた。
【0034】
上記溝付円板121を図12に示す円柱状のダイス123の上に置き、円柱状のパンチ122を押し込んで成形することで溝付円筒容器124が成形できた。
【0035】
比較例として、板厚4mmのS35Cの鋼板から直径120mmの円板に剪断加工したものを被加工材81とし、図8に示すパンチ82とダイス83を用いて成形した結果、FEMで予測した箇所に割れが発生した。
【0036】
<実施例3>
板厚4mmのS35Cの鋼板から円板に剪断加工したものを被加工材とした。図13に示すパンチ132及びダイス133を用い被加工材131を成形する工程を有限要素法を用いて破断解析を行った。延性破壊条件式はJeongの延性破壊条件式を用いた。S35Cの破壊基準値は0.80である。式(5)で定義する損傷値の分布を図14に示す。損傷値は0.8未満であるので破断しない結果になった。そこで、図13に示すパンチ132とダイス133を用い成形した結果、割れの無い溝付円板134を成形することができた。上記溝付円板151を図15に示すリング状のダイス153の上に置き、円柱状のパンチ152を押し込んで成形することで溝付円筒容器154が成形できた。
【0037】
以上の実施例に述べたように、本発明によれば、円板状の被加工材(例えば、薄鋼板)を溝付円板または溝付円筒容器に冷間成形する際に、割れの発生を防止することができた。
【符号の説明】
【0038】
11・・被加工材、12・・パンチ、12a・・パンチに加工したリング状の凸部、
13・・ダイス、13a・・ダイスに加工したリング状の凹部、13b・・ダイスの肩R部、13c・・ダイスの肩R部、14・・溝付円板、14a・・被加工材で発生した割れ
21・・被加工材、22・・パンチ、22a・・パンチに加工した凹部、23・・ダイス、23a・・ダイスに加工した凸部、24・・プレス成形品、24a・・被加工材に成形した凸部、31・・被加工材、32・・パンチ、32a・・パンチに加工したリング状の凸部、33・・ダイス、33a・・ダイスに加工した凸部、34・・ダイス、35・・溝付円板、41・・被加工材、42・・パンチ、42a・・パンチに加工したリング状の凸部、43・・ダイス、43a・・ダイスに加工したリング状の凹部、44・・プレス成形品、44a・・被加工材に成形した凸部、51・・・被加工材、52・・・パンチ、
52a・・パンチに加工したリング状の凸部、53・・ダイス、53a・・ダイスに加工した凸部、54・・ダイス、55・・溝付円板、61・・溝付円板、62・・パンチ、63・・ダイス、64・・溝付円筒容器、71・・被加工材、72・・パンチ、72a・・パンチに加工したリング状の凸部、73・・ダイス、73a・・ダイスに加工したリング状の凹部、73b・・ダイスの肩R部、73c・・ダイスの肩R部、74・・溝付円板、74a・・被加工材で発生した割れ、81・・被加工材、82・・パンチ、82a・・パンチに加工したリング状の凸部、83・・ダイス、83a・・ダイスに加工したリング状の凹部、84・・溝付円板、101・・被加工材、102・・パンチ、102a・・パンチに加工した凹部、103・・ダイス、103a・・ダイスに加工した凸部、104・・プレス成形品、104a・・被加工材の中央部の凸部、111・・被加工材、112・・パンチ、112a・・パンチに加工したリング状の凸部、113・・ダイス、113a・・ダイスに加工した凸部、114・・ダイス、115・・溝付円板、121・・溝付円板、122・・パンチ、123・・ダイス、124・・溝付円筒容器、131・・被加工材、132・・パンチ、133・・ダイス、134・・溝付円板、151・・溝付円板、152・・パンチ、153・・ダイス、154・・溝付円筒容器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部に凹部を持つパンチと中央部に凸部を持つダイスの間に被加工材を挟み、パンチを被加工材に押し込んで被加工材の中央部に凸部を成形し、引続き、リング状の凸部を持つパンチと中央部に凸部を持つダイスの間に被加工材を挟んだ状態でリング状のダイスを押し込んで溝部を冷間成形することを特徴とする溝付円板の成形方法。
【請求項2】
円板状の被加工材をリング状の凸部を持つパンチとリング状の凹部を持つダイスの間に挟み、パンチを被加工材に押し込んで溝部を成形する際に、有限要素法を用いて破断解析を行い、破断しない判定が得られた場合は前記成形で溝部の冷間成形を行い、破断する判定が得られた場合、請求項1記載の中央部に凹部を持つパンチと中央部に凸部を持つダイスの間に被加工材を挟み、パンチを被加工材に押し込んで被加工材の中央部に凸部を成形し、引続き、リング状の凸部を持つパンチと中央部に凸部を持つダイスの間に被加工材を挟んだ状態でリング状のダイスを押し込んで溝部を冷間成形することを特徴とする溝付円板の成形方法。
【請求項3】
請求項1記載または請求項2記載で冷間成形した溝付円板をリング状のダイス上に置き、円柱状のパンチを押し込んで縦壁部を冷間成形することを特徴とする溝付円筒容器の製造方法。
【請求項4】
請求項2記載の破断解析において延性破壊条件式を用いることを特徴とする溝付円板の成形方法。
【請求項1】
中央部に凹部を持つパンチと中央部に凸部を持つダイスの間に被加工材を挟み、パンチを被加工材に押し込んで被加工材の中央部に凸部を成形し、引続き、リング状の凸部を持つパンチと中央部に凸部を持つダイスの間に被加工材を挟んだ状態でリング状のダイスを押し込んで溝部を冷間成形することを特徴とする溝付円板の成形方法。
【請求項2】
円板状の被加工材をリング状の凸部を持つパンチとリング状の凹部を持つダイスの間に挟み、パンチを被加工材に押し込んで溝部を成形する際に、有限要素法を用いて破断解析を行い、破断しない判定が得られた場合は前記成形で溝部の冷間成形を行い、破断する判定が得られた場合、請求項1記載の中央部に凹部を持つパンチと中央部に凸部を持つダイスの間に被加工材を挟み、パンチを被加工材に押し込んで被加工材の中央部に凸部を成形し、引続き、リング状の凸部を持つパンチと中央部に凸部を持つダイスの間に被加工材を挟んだ状態でリング状のダイスを押し込んで溝部を冷間成形することを特徴とする溝付円板の成形方法。
【請求項3】
請求項1記載または請求項2記載で冷間成形した溝付円板をリング状のダイス上に置き、円柱状のパンチを押し込んで縦壁部を冷間成形することを特徴とする溝付円筒容器の製造方法。
【請求項4】
請求項2記載の破断解析において延性破壊条件式を用いることを特徴とする溝付円板の成形方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図9】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図9】
【図14】
【公開番号】特開2013−81978(P2013−81978A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222682(P2011−222682)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
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