説明

溶剤含浸ワイパー取り出し容器、その使用方法及びそれに使用されるロールワイパー

【課題】製造工場、作業現場等で、工具等や身体等に付着した油性の汚れを容易に落とすことができ、安全性にも問題のない、溶剤含浸ワイパー取り出し容器の提供と、その簡便で経済的な使用方法を提供すること。
【解決手段】有機溶剤が含浸されたロールワイパーを収納できるロールワイパー収納容器、及び、該ロールワイパー収納容器の上部に設けられ、ロールワイパーの収納と有機溶剤の注入をするための開口口を塞ぐ押し込み式の密封蓋、を有する溶剤含浸ワイパー取り出し容器であって、該密封蓋の略中央にワイパー取り出し穴が設けられ、更に、該ワイパー取り出し穴から有機溶剤又は有機溶剤の蒸気が漏洩しないように、ワイパー取り出し穴封じ部材が、該ワイパー取り出し穴を囲むように設けられていることを特徴とする溶剤含浸ワイパー取り出し容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造工場、作業現場等で付着した汚れを容易に落とすことができる溶剤含浸ワイパー取り出し容器、その使用方法、及び、それに使用されるロールワイパーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙、不織布等のワイパー本体に、水、エタノール、プロピレングリコール、それらの混合液等が含浸されたウェットティッシュやウェットタオルが知られている。このウェットティッシュやウェットタオルは、主に携帯用のおしぼりとしてや、衛生用品、化粧用品、育児用品、キッチン用品として広く普及していると共に、清涼感を得る目的でも多くの機会に使われているものである。また、顔や手や首筋の汗取り用具としても、野外等の水道の施設がない場所での、汚れ取り用具としても欠かせないもので、殺菌作用のある携帯用のお手拭きとしても非常に便利なものである。
【0003】
しかしながら、従来のウェットティッシュやウェットタオルは、日常的に付着する汗や果汁等の単純な水溶性の汚れを落とすことはできるが、業務的に工具や身体に付着するオイル、ガソリン、石油、塗料、印刷インキ、樹脂モルタル、ペンキ等の油性の汚れ、匂い等を落とすことは困難であった。
【0004】
また、塗装現場、建築現場、印刷現場等の作業現場;製造工場等では、ウエス(使用済みの布)に有機溶剤を染み込ませて、工具、ヘラ、被着面、手や身体等に付着した油性の汚れを拭き取って落とす場合もあったが、使用する度にウエスに有機溶剤を染み込ませる作業が面倒であり、足場が悪いとき等は染み込ませる作業に危険を伴い、また、染み込ませる際に有機溶媒が蒸発して危険であり、更にそれに加えて、ウエスが下着等の場合もあり衛生上の問題もあった。
【0005】
また、作業現場が離れた場所にあるときは、車両にウエスと有機溶剤の両方を積載して作業現場まで運搬しなければならず、ウエスと有機溶剤の準備や、運搬・保管方法に手間が掛かるものであった。特に、運搬・保管方法に関しては、車両で運搬中に有機溶剤入りの容器が転倒したりして中の有機溶剤が洩れたりすると、車内の汚れ、引火、溶剤気化による中毒等の危険性が生じるので、その運搬・保管方法に関して細心の注意が必要であった。
【0006】
上記の問題を解決するために、例えば特許文献1では、水溶性の汚れと共に油性の汚れをも落とすことができるという、水、エタノール及び界面活性剤を含浸させたウェットティッシュが提案されている。
【0007】
しかしながら、かかる公知技術では、工具等や身体等に付着した油性の汚れを十分には落としきれず、製造工場や作業現場等の油性の汚れが付き易い場所では、十分には役に立つとは言い難かった。
【0008】
更に、界面活性剤を含む「水/エタノール溶媒」は、そもそも容器の材質に対する溶解性が低く、また、ワイパー(ティッシュ)を取り出す穴から気化した溶剤蒸気が漏洩しても危険性が低いので、ワイパー(ティッシュ)や溶剤を保存する収納容器の材質や構造については検討がなされていなかった。
【0009】
また、業務用として使用される場合は、大量のワイパーが必要となるため、上記の技術で製品化されたウェットティッシュを使用することは、収納容器が使い捨てとなるため資源の有効利用が図れないばかりか、コスト的にも極めて不利であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】登録実用新案第3053304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、製造工場、作業現場等で、例えば、工具、ヘラ、被着面、手や身体等に付着した油性の汚れを容易に落とすことができ、安全性にも問題のない、溶剤含浸ワイパー取り出し容器の提供と、その簡便で経済的な使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ロールワイパー収納容器と、その略中央にワイパー取り出し穴が設けられた密封蓋とを有する容器において、該密封蓋を、「ワイパー取り出し穴封じ部材」を有する特定の構造のものにすることによって、上記課題が解決できることを見出し本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、
「有機溶剤が含浸されたロールワイパーを収納できるロールワイパー収納容器」、及び
「該ロールワイパー収納容器の上部に設けられ、ロールワイパーの収納と有機溶剤の注入をするための開口口を塞ぐ押し込み式の密封蓋」
を有する溶剤含浸ワイパー取り出し容器であって、
該密封蓋の略中央にワイパー取り出し穴が設けられ、更に、該ワイパー取り出し穴から有機溶剤又は有機溶剤の蒸気が漏洩しないように、ワイパー取り出し穴封じ部材が、該ワイパー取り出し穴を囲むように設けられていることを特徴とする
溶剤含浸ワイパー取り出し容器、を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、
上記ワイパー取り出し穴封じ部材がキャップとキャップ口金を有し、
該キャップ口金が、上記密封蓋の略中央に設けられた口金穴に密着されていると共に、該口金穴の下方部に、上記ワイパー取り出し穴を有する閉塞板が該口金穴を塞ぐように添設されている、
上記の溶剤含浸ワイパー取り出し容器、を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、
上記の溶剤含浸ワイパー取り出し容器に、ロールワイパーが収納され、有機溶剤が注入されてなることを特徴とする溶剤含浸ワイパー取り出し器、を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、
上記溶剤含浸ワイパー取り出し容器の使用者が、有機溶剤が含浸されていないロールワイパーを上記ロールワイパー収納容器に収納し、かつ、使用者が、有機溶剤を上記ロールワイパー収納容器に注入して使用することを特徴とする
上記の溶剤含浸ワイパー取り出し容器の使用方法、を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、
上記の溶剤含浸ワイパー取り出し容器用に使用されるものであることを特徴とするロールワイパー、を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、
上記の溶剤含浸ワイパー取り出し容器の使用方法において、使用者がロールワイパー収納容器に収納して使用するものであることを特徴とするロールワイパー、を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、前記問題点を解消し上記課題を解決し、下記の優れた効果を奏する溶剤含浸ワイパー取り出し容器を提供することができる。
【0020】
(1)本発明の溶剤含浸ワイパー取り出し容器における密封蓋の略中央にはワイパー取り出し穴が設けられており、そこから小出しにワンタッチで有機溶剤が含浸されたワイパーを取り出せるので、製造現場、作業現場等(以下、単に「現場」と略記する)で、工具、ヘラ、被着面等(以下、単に「工具等」と略記する)、手、顔、足、身体等(以下、単に「身体等」と略記する)に付着した油溶性の汚れを簡単に拭き取ることができる。
【0021】
(2)ウエスに有機溶剤をその度に浸み込ませる必要がなく、片手で、ワンタッチで、有機溶剤が含浸されたワイパーが取り出せるので、動作が簡略化されると共に、例えばゴンドラ上での作業のとき等、誤って蓋の開いた容器が倒れても有機溶剤がこぼれ出ることがなく、作業者の安全性も極めて高くなる。
【0022】
(3)本発明の溶剤含浸ワイパー取り出し容器におけるロールワイパー収納容器は、好ましくは、缶、すなわち金属製の容器、又は、瓶、すなわちガラス製若しくは陶製の容器であるので、中に注入する有機溶剤に侵される可能性が殆どない。
【0023】
(4)ワイパー取り出し穴を囲むように、ワイパー取り出し穴封じ部材が設けられているので、該ワイパー取り出し穴から有機溶剤又はその蒸気(以下、単に「有機溶剤蒸気等」と略記することがある)の漏洩がない。そのため、保管時、車両等での運搬時、現場での長時間不使用時等(以下、単に「不使用時」と略記する)にはキャップをしておけば有機溶剤蒸気等の漏洩が防げ、一方、現場でのワイパーの断続的使用に当たっては、容易にキャップの開閉ができるので、極めて安全性と作業性に優れる。
【0024】
(5)本発明の溶剤含浸ワイパー取り出し容器における密封蓋が押し込み式の密封蓋であるため、密封蓋の溝構造とロールワイパー収納容器の開口口の溝構造によって、密封性を高くでき、また、密封蓋の緩みや脱落がないようにでき、結果として有機溶剤蒸気等の漏洩の危険性がない。
【0025】
更に、本発明の溶剤含浸ワイパー取り出し容器は、以下のような優れた効果を更に付加できる。
【0026】
(6)ワイパー取り出し穴封じ部材の方式は特に限定はないが、好ましくは、ローヤル式、ネジ式又はワンタッチ式にすることによって、簡単にキャップを取ることができ、ワイパーの断続的使用時に簡単にスタンバイできると共に、不使用時には有機溶剤蒸気等の漏洩の危険性がない。なお、「ワンタッチ式」とは、1個以上の凸部と凹部がキャップ口金とキャップ(順不同)の周に沿って設けられ、不使用時(キャップをしている時)には凸部と凹部が嵌合するようになっているものをいう。
特に現場への車両による運搬時には、揺れたり高温になったりし、万一漏洩したときは引火の危険性もあるが、かかる可能性を殆ど皆無にできる。現場での使用のためには、上記点から、ローヤル式が特に好ましい。
【0027】
(7)ワイパー取り出し穴封じ部材のキャップ口金を、密封蓋の略中央に設けられた口金穴に密着させ、ワイパー取り出し穴を有する閉塞板を該口金穴の下方部から該口金穴に対してそれを塞ぐように添設することによって、製造コストを低く抑えつつ有機溶剤蒸気等の漏洩のない溶剤含浸ワイパー取り出し容器を提供できる。また、上記「密着」を「巻き付け密着」や「カシメ密着」にすることによって、更に上記効果を発揮できる。
【0028】
(8)閉塞板の略中央に設けられるワイパー取り出し穴の縁に多様なカット用切り込みを設けることによって、ワイパー取り出し穴から、ロールワイパーを容易に小出しに切り取りながら取り出すことができる。
【0029】
(9)使用者は、交換用ロールワイパーを購入してロールワイパー収納容器に収納し、そこに使用者が通常業務上使用している任意の好適の有機溶剤を注入して使用するという、新しいワイパーの使用システムを与えることができる。
すなわち、「有機溶剤が含浸されたロールワイパーの入った溶剤含浸ワイパー取り出し容器」を使用者自らが製作できるので、用途に応じた(使用者の拭き取るべき汚れの種類や物性に応じた)有機溶媒の使用が可能であり、また簡便であると共に、溶剤含浸ワイパー取り出し容器の繰り返し使用ができ、コスト削減ができると共に容器資源の無駄を防げる。
【0030】
(10)ロールワイパー収納容器を実質的に円筒丸缶又は円筒丸瓶にすれば、交換用のロールワイパーが収まり易く、更に吊り手(手提げ)を付ければ持ち易くなり、移動時に便利である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の溶剤含浸ワイパー取り出し容器の一例を示す斜視図である(ローヤル式キャップ使用)。 (a):閉塞板にワイパー取り出し穴が設けられている場合の分解斜視図である。 (b):溶剤含浸ワイパー取り出し容器の一例を示す全体斜視図である。
【図2】本発明におけるロールワイパー収納容器にロールワイパーを収納して、押し込み式の密封蓋をする操作を示す斜視図である。
【図3】ロールワイパー収納容器に、有機溶剤を注入し、有機溶剤が含浸されていないロールワイパーを収納し、押し込み式の密封蓋をし、キャップをする、本発明の溶剤含浸ワイパー取り出し容器の使用方法を示す説明図である。
【図4】本発明の溶剤含浸ワイパー取り出し容器の密封蓋に直接ワイパー取り出し穴が設けられている場合の分解斜視図である。
【図5】本発明の溶剤含浸ワイパー取り出し容器の一例を示す分解斜視図である(ネジ式キャップ使用)。
【図6】密封蓋又は閉塞板が有するワイパー取り出し穴の形状の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の溶剤含浸ワイパー取り出し容器10は、例えば、図1(b)に示したように、少なくとも、ロールワイパー収納容器11と、押し込み式の密封蓋30、又はネジ式(図示せず)の密封蓋30を有している。そして、ロールワイパー収納容器11は、有機溶剤60が含浸されたロールワイパー20を収納できるようになっている。
【0033】
一方、図4にも示したように、また、図1(a)でも最終的にはそうなるが、押し込み式の密封蓋30には、該密封蓋30の略中央にワイパー取り出し穴31が設けられており、該ワイパー取り出し穴31から有機溶剤蒸気等が漏洩しないように、その周りにワイパー取り出し穴封じ部材37が、該ワイパー取り出し穴31を囲むように設けられている。「ワイパー取り出し穴封じ部材37」は、密封蓋30から垂直に立ち上がったローヤル式キャップ口金40と、そのローヤル式キャップ口金40を塞ぐローヤル式キャップ52とを有してなるものである。
【0034】
図1(a)は、本発明の溶剤含浸ワイパー取り出し容器10の一例を示す分解斜視図である。ロールワイパー収納容器11は、開口口12に溝13と内壁部13aを有する。ロールワイパー収納容器11は、実質的に円筒丸缶又は円筒丸瓶であることが、密封性を上げ有機溶剤蒸気等の漏洩を防ぐために好ましい。
【0035】
密封蓋30は、塗料等の容器に蓋として広く使われるものが使用でき、円周状に溝33が設けられ、その溝33の外壁部33aと、上記ロールワイパー収納容器11の溝13の内壁部13aが嵌合して密封されるようになっている。また、図には示していないが、密封蓋30はネジ式になっていてもよい。すなわち、密封蓋30とロールワイパー収納容器11とにらせん状の溝を設けて、密封蓋30をロールワイパー収納容器11にネジで留めて密封されるようになっていてもよい。
【0036】
ロールワイパー収納容器11の上部に設けられた開口口12の直径は特に限定はないが、ロールワイパー20又は21を容易に収納できるように、ロールワイパー収納容器11の直径より若干(10〜60mmが好ましく、20〜40mmが特に好ましい。)小さい程度が好ましい。
【0037】
本発明に好適に用いられる後述する有機溶剤60、例えば、トルエン、アセトン等は、通常、500mLの細口ネジ式ガラス瓶やローヤル式石油缶に入れて扱うことが多く、ロールワイパーを収納できる程度に大きい開口口12を有する容器に入れて扱うことは稀であり、従って、かかる大きな開口口12を有機溶剤蒸気等の漏洩なしに密封するに好適な蓋についてはあまり知られていない。本発明者は鋭意検討した結果、上記の構造、すなわち、円周状に溝33が設けられ、その溝33の外壁部33aと、上記ロールワイパー収納容器11の溝13の内壁部13aが嵌合して密封されるようになっている方式が、非常に密封性が高く、最も有機溶剤蒸気等の漏洩が少ないことを見出した。
【0038】
図1(a)では、押し込み式の密封蓋30の略中央には口金穴35が設けられていて、そこにローヤル式キャップ口金40が密着されるようになっている。密着の方法は特に限定はないが、ローヤル式キャップ口金40の長さを長く作製しておき、口金穴35に挿入した後、口金穴35の周囲の金属板とローヤル式キャップ口金40の長く作製した部分の金属板とを巻き付けて密着させてもよいし、その両方の金属板を打ったり締めたりして、すなわちカシメて密着させてもよい。
【0039】
図4で後記するように、密封蓋30に直接「ワイパー取り出し穴31」を開け、それを囲むように、ローヤル式キャップ口金40を密封蓋30に垂直にろう付け等をして固定すると、ろう付け部分から溶剤蒸気等が漏洩するおそれが生じる場合もあるが、上記巻き付け密着やカシメ密着をすればそのおそれがないので好ましい。また、ろう付け等よりコスト的にも有利である。
【0040】
口金穴35の直径は特に限定はないが、2〜6cmが好ましく、3〜5cmがより好ましい。また、図1に示したように、ワイパー取り出し穴封じ部材37として、ローヤル式キャップ52とローヤル式キャップ口金40を用いるときは、40番のローヤル式の規定のサイズに合わせ、4±0.3cmとすることが特に好ましい。
【0041】
上記口金穴35の直径では大き過ぎて、ワイパーを小出しに切り取りながら取り出すことはできないので、ワイパーが切り取れるように直径の小さい「ワイパー取り出し穴31」が設けられる。図1(a)では、密封蓋30に設けられた口金穴35にローヤル式キャップ口金40を密着させた後、該口金穴35の下方部から、上記「ワイパー取り出し穴31」を有する閉塞板34を、該口金穴35を塞ぐように添設している。このことによって、密封蓋30に、ワイパーが切り取れる程度に直径が小さい「ワイパー取り出し穴31」を設けることが可能である。
【0042】
図4に示したように、一般に、密封蓋30に直接「ワイパー取り出し穴31」を開け、それを囲むように、キャップ口金40を密封蓋30に取り付ける方が単純で簡単のようにも考えられるが、それだと、両端が解放された円柱状のキャップ口金40を密封蓋30に、円周上のどこからも溶剤蒸気等が漏洩するおそれが全くないように取り付けられない場合がある。そこで、図1(a)のように、まず密封蓋30に大きく開けた口金穴35にキャップ口金40を密着させ、その後、小さなワイパー取り出し穴31を有する閉塞板34を、下から該口金穴35を塞ぐように添設することが好ましい。
【0043】
従来の水/エタノールを溶剤とするウェットワイパー等では、水、エタノール、それらの蒸気は、漏洩しても危険性が少ないので、不使用時にワイパー取り出し穴を完全に密封して覆っておく必要性はなかった。しかし、本発明の場合は、溶剤が危険性のある有機溶剤であるので、完全に密封して覆っておく必要性があるので、上記のような新規な構造が要求される。
【0044】
ワイパー取り出し穴31の直径は、ワイパーを小出しに切り取りながら取り出せれば特に限定はなく、またワイパーの厚さや材質にも依存するが、5〜20mmが好ましく、7〜12mmが特に好ましい。
【0045】
図1では、ワイパー取り出し穴封じ部材37が、ローヤル式キャップ52とローヤル式キャップ口金40を有するものになっている。ローヤル式キャップ52は、石油缶や溶剤缶のキャップとして広く用いられ、ワンタッチでローヤル式キャップ52を着脱できることや、衝撃や振動に強く密封剛性を持つので本発明には特に好ましい。ローヤル式キャップ口金40との嵌合によって、高所作業現場での使い勝手が良いことや、ローヤル式キャップ52自体が金属製なので腐食や溶剤の漏れ等の危険性がない等の利点も有する。
【0046】
断続的な使用に際して紛失して安全性が損なわれないように、該ローヤル式キャップ52と「ロールワイパー収納容器11又はローヤル式キャップ口金40」とを鎖等のつなぎ部材でつないでおくことも好ましい。このつなぎ部材は、その一端を、ローヤル式キャップ52の回りに金属製又は耐有機溶剤性樹脂製のカバー(バンド状のものが好ましい)等を取り付け、そこに固定しておくことが好ましい。
【0047】
ロールワイパー収納容器11を実質的に円筒丸缶にして、更に吊り手(手提げ)を付ければ持ち易くなり、現場で吊るして持ち運びが容易になるために好ましい。吊り手(手提げ)は、図1に示したように、ロールワイパー収納容器11の外筒部に設けることが好ましい。
【0048】
ロールワイパー収納容器11は、「缶」、すなわち金属製の容器であるか、「瓶」、すなわちガラス製若しくは陶製の容器であることが、中に入れる有機溶剤に耐久性があるため好ましい。缶の材質は金属であれば特に限定はないが、鉄、銅、スズ皮膜処理された鉄、ブリキ、ホウロウ引き鉄、亜鉛皮膜処理された鉄、トタン、ステンレス等が好ましい。また、瓶の材質はガラス又は陶であれば特に限定はなく、その種類やグレードは何れのものも用いられる。なお、ロールワイパー収納容器11が金属製の容器である場合、「ロールワイパー収納缶11」という。
【0049】
公知のエタノール/水系のウェットワイパー等の容器には、ポリエチレン、ポリプロピレン等の耐溶剤性の有機ポリマーが用いられているが、かかる有機ポリマーは耐溶剤性とはいうものの、本発明における有機溶剤、例えば、トルエン、アセトン等には耐えられず、膨潤して使用不可能になってしまう場合がある。
【0050】
密封蓋30;ローヤル式キャップ口金40、ネジ式キャップ口金32等のキャップ口金;ローヤル式キャップ52、ネジ式キャップ51等のキャップ;等の材質は特に限定はないが、金属であることが耐溶剤性、機械的強度等の点から好ましい。
【0051】
本発明の溶剤含浸ワイパー取り出し容器10の使用時は、ロールワイパー21には有機溶剤60が含浸される。ロールワイパー21には、ワイパー取り出し穴31から有機溶剤60が含浸されワイパーが小出しに切れて取り出せるように、その長手方向に対し直角方向に(すなわち巻かれた細長いワイパーを横断するように)切れ目22が入れられていることが好ましい。ワイパーの材質や形態は特に限定はないが、好ましくは、不織布、織布、編布、紙等が挙げられる。ロールワイパー21は、一重に巻かれていてもよく、二重以上に巻かれていてもよい。
【0052】
上記有機溶剤60は、工場や現場で、工具等や身体等に付着した汚れを落とすことができるものであれば特に限定はないが、脂肪族若しくは芳香族炭化水素類、ケトン類、エステル類、エーテル類又はアルコール類であることが好ましい。公知の水/エタノール混合溶剤や、更に界面活性剤を含有したものに比べ、これらの有機溶剤60は、工場や現場で工具等や身体等に付着した汚れを落とす能力がはるかに高い。
【0053】
「脂肪族若しくは芳香族炭化水素類」としては特に限定はないが、常温での自然蒸発までの時間内で皮膚刺激性が実質的にないものが好ましく、具体的には、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、鉱物油、直鎖若しくは脂環式の石油分解留分等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いられる。中でも、トルエン、キシレン、トルエンとキシレンの混合、アセトン等が特に好ましい。
【0054】
水溶性の有機溶剤の使用は排除されないが、水の混合は、油溶性汚れに対する有機溶剤の溶解性を落とすので、水は実質的に含有されていないことが好ましい。また、必要に応じて界面活性剤を配合することもできる。使用者は、作業の種類に応じて、すなわち、例えば塗装であれば、使用する塗料の固形成分の種類等に応じて、適宜、好適な良溶媒を選択して、ロールワイパー収納容器11に注入して使用することができる。一の作業が済んで別の作業をするときに、有機溶剤60を入れ替えて使用することも可能である。
【0055】
図1(b)は、溶剤含浸ワイパー取り出し容器10の組み合わせた状態を示す斜視図である。図1(a)で示された構成部品を順次組みこんだもので、ロールティッュ収納缶11の開口口12に、密封蓋30の溝33を押し込んで密封すると共に、ローヤル式キャップ口金40のキャップ口41に、ローヤル式キャップ52を当て嵌めて閉栓するものである。
【0056】
図2は、自社工場や現場等で、ロールワイパー収納容器11に、(1)有機溶剤が含浸されていないロールワイパー21を収納し、(2)有機溶剤60を注入し(図示せず)、(3)押し込み式の密封蓋30で密封する、という本発明の溶剤含浸ワイパー取り出し容器10の使用方法を示す説明図である。上記(1)と(2)は操作として逆でもよい。
【0057】
図3は、ロールワイパー収納容器11と密封蓋30、有機溶剤が含浸されていないロールワイパー21及び有機溶剤60が、それぞれ単体で提供されたときの使用方法を示す説明図である。自社工場や現場等で、業務用に使用している有機溶剤60で、簡単に経済的に使用者自らが組み立てて使用することができるので、下記にその製作手順を図3に従って述べる。
【0058】
(a)ロールワイパー収納容器11を準備する。
(b)ロールワイパー収納容器11の内部に有機溶剤60を注入する。その際、有機溶剤60の過不足を防ぐため、ロールワイパー収納容器11に溶剤注入ライン15が設けられ、そこまで有機溶剤60を注入すればよいことが分かるようになっていることが好ましい。
(c)有機溶剤が含浸されていないロールワイパー21を、ロールワイパー収納容器11に入れる。有機溶剤60が、有機溶剤が含浸されていないロールワイパー21に含浸されて、有機溶剤が含有されたロールワイパー20となる。
なお、有機溶剤60とロールワイパー21を入れる順番は逆でもよい。
(d)有機溶剤が含有されたロールワイパー20の一片を、密封蓋30のワイパー取り出し穴31を通し、ローヤル式キャップ口金40のキャップ口41から引き出す。
(e)ロールワイパー収納容器11の溝13に、密封蓋30の溝33を押し込んで密封する。また、ネジ式の場合は、ロールワイパー収納容器に密封蓋30をネジで密封する。
次いで、ロールワイパー収納容器11のワイパー取り出し穴31から有機溶剤が含有されたロールワイパー20を、必要な分だけ小出しに取り出して使用する。
(f)使用後、ローヤル式キャップ52を締めて、有機溶剤蒸気等が漏洩しないようにする。ワンタッチ式キャップ(図示せず)の場合も、同様に締めて有機溶剤蒸気等が漏洩しないようにする。
【0059】
上記、(b)と(c)は逆でもよい。すなわち、先に有機溶剤が含浸されていないロールワイパー21をロールワイパー収納容器11の内部に入れてから、有機溶剤60を注入してもよい。また、(e)の後段と(f)は、ロールワイパー20がなくなるまで交互に繰り返すことができる。また、有機溶剤60が不足してきたときは、(c)の操作を行うことができる。
【0060】
図4は、本発明の溶剤含浸ワイパー取り出し容器10の、図1とは別の形態を示す分解斜視図である。図4では、ワイパー取り出し穴31が、密封蓋30に直接設けられており、ワイパー取り出し穴31を有する閉塞板34がない構成となっている。すなわち、図4では、キャップ口金40の下方部には円盤状のフランジがあり、密封蓋30の略中央に直接設けられたワイパー取り出し穴31を囲うように、上方からキャップ口金40を密封蓋30に当てて密着させている。
【0061】
上記「密着」の具体的方法は特に限定はないが、溶着、ろう付け等が挙げられる。なお、キャップ口金40が、密封蓋30に有機溶剤蒸気等が漏洩しないように取り付けられる構造であったり、漏洩しないように取り付けられる方法であったりすれば、キャップ口金40には、特にフランジを設けなくてもよい。
【0062】
本発明の場合は、溶剤が水/エタノールの従来の場合と異なり、溶剤が危険性のある有機溶剤であるので、完全に密封して覆っておく必要性があり、従って上記のような新規な構造が要求される。
【0063】
図5は、ワイパー取り出し穴封じ部材37が、ネジ式キャップ51とネジ式キャップ口金32を有してなるものになっている。ネジ式キャップ51は、通常のボトル缶の密封キャップに使用されるものが使用でき、構造が簡単で取り付け取り外しが容易である。
【0064】
ワイパー取り出し穴封じ部材37が、ネジ式キャップ口金32とネジ式キャップ51からなるネジ式に代わっても、その他の構造や作製方法は、ローヤル式を例に上記したものと同様である。
【0065】
ネジ式キャップ51が紛失して安全性が損なわれないように、ネジ式キャップ51と「ロールワイパー収納容器11又はネジ式キャップ口金32」とを、鎖等のつなぎ部材でつないでおくことも好ましい。このつなぎ部材は、その一端を、ネジ式キャップ51に固定しておくことが好ましい。
【0066】
図6は、本発明における溶剤含浸ワイパー取り出し容器10のワイパー取り出し穴31の形状の好ましい例を示す図である。図6に示すワイパー取り出し穴31の形状は、図1と図5に示したように、キャップ口金40を、「密封蓋30に設けられた口金穴35」に密着させ、その裏から「ワイパー取り出し穴31を有する閉塞板34」で口金穴35を塞ぐ構造のものにも、図4に示したように、ワイパー取り出し穴31が、密封蓋30に直接開けられているものにも適用される。すなわち、図6に示すワイパー取り出し穴31の好ましい形状は、閉塞板34に開けられているものにも、密封蓋30に開けられているものにも適用される。
【0067】
図6(a)は、ワイパー取り出し穴31が円形のものである。
図6(b)は、ワイパー取り出し穴31の縁に、一定間隔にカット用切り込み42を設けたものである。
図6(c)は、ワイパー取り出し穴31の縁に、連続してカット用切り込み42を設けたものである。
図6(d)は、ワイパー取り出し穴31の縁に、十字状に長いカット用切り込み42を設けたものである。
【0068】
ワイパー取り出し穴31の縁には、ロールワイパー20を必要な分だけ小出しに取り出せるように、カット用切り込み42が入っているもの、すなわち、図6(b)、(c)又は(d)が特に好ましい。ワイパー取り出し穴31の直径は、前記したように、5〜20mmが好ましく、7〜12mmが特に好ましいが、特に図6(d)の場合、1つのカット用切り込み42の長さは、1〜6mmが好ましく、1.5〜2mmが特に好ましい。
【0069】
本発明の溶剤含浸ワイパー取り出し容器に、ロールワイパーが収納され、有機溶剤が注入されてなる溶剤含浸ワイパー取り出し器は、製造工場、作業現場等で、例えば、工具、ヘラ、被着面、手や身体等に付着した油性の汚れを容易に落とすことができ、安全性にも問題が少ない。また、家庭内でも、水及び/又はエタノールを主成分とする溶剤では対応できないものに好適に適用可能である。
【0070】
上記の溶剤含浸ワイパー取り出し容器用に使用されるものであるロールワイパー、更には、上記の溶剤含浸ワイパー取り出し容器の使用方法において、使用者が本発明のロールワイパー収納容器に収納して使用するものであるロールワイパーは、たとえ他に使用できたとしても汎用品ではないので、正当な権原を有する者に限り、詰め替え用として販売することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の有機溶剤60が含浸されたロールワイパー20を収納した溶剤含浸ワイパー取り出し容器10は、その都度、ウエスに有機溶剤60を浸み込ませて使用する必要がないため、工場や現場等の特に有機物による汚れが多い場所で極めて便利であり、油溶性の汚れを拭き取る必要がある、例えば、現場、工場内、家庭内等、あらゆる場所で広く利用されるものである。
【符号の説明】
【0072】
10 溶剤含浸ワイパー取り出し容器
11 ロールワイパー収納容器
12 開口口
13 (ロールワイパー収納容器に存在する)溝
13a 内壁部
15 溶剤注入ライン
20 有機溶剤が含浸されているロールワイパー
21 有機溶剤が含浸されていないロールワイパー
22 切れ目
30 密封蓋
31 ワイパー取り出し穴
32 ねじ式キャップ口金
33 (密封蓋に存在する)溝
33a 外壁部
34 閉塞板
35 口金穴
37 ワイパー取り出し穴封じ部材
40 ローヤル式キャップ口金
41 キャップ口
42 カット用切り込み
51 ネジ式キャップ
52 ローヤル式キャップ
60 有機溶剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤が含浸されたロールワイパーを収納できるロールワイパー収納容器、及び、該ロールワイパー収納容器の上部に設けられ、ロールワイパーの収納と有機溶剤の注入をするための開口口を塞ぐ押し込み式の密封蓋、を有する溶剤含浸ワイパー取り出し容器であって、該密封蓋の略中央にワイパー取り出し穴が設けられ、更に、該ワイパー取り出し穴から有機溶剤又は有機溶剤の蒸気が漏洩しないように、ワイパー取り出し穴封じ部材が、該ワイパー取り出し穴を囲むように設けられていることを特徴とする溶剤含浸ワイパー取り出し容器。
【請求項2】
上記ワイパー取り出し穴封じ部材がキャップとキャップ口金を有し、該キャップ口金が、上記密封蓋の略中央に設けられた口金穴に密着されていると共に、該口金穴の下方部に、上記ワイパー取り出し穴を有する閉塞板が該口金穴を塞ぐように添設されている請求項1に記載の溶剤含浸ワイパー取り出し容器。
【請求項3】
上記ロールワイパー収納容器が、実質的に円筒丸缶又は円筒丸瓶である請求項1又は請求項2に記載の溶剤含浸ワイパー取り出し容器。
【請求項4】
上記密封蓋が実質的に円盤状である請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載の溶剤含浸ワイパー取り出し容器。
【請求項5】
上記ワイパー取り出し穴封じ部材が、ローヤル式キャップとローヤル式キャップ口金を有するものである請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載の溶剤含浸ワイパー取り出し容器。
【請求項6】
上記ワイパー取り出し穴封じ部材が、ネジ式キャップとネジ式キャップ口金を有するものである請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載の溶剤含浸ワイパー取り出し容器。
【請求項7】
上記ワイパー取り出し穴の縁に、ロールワイパーを小出しに取り出せるように、カット用切り込みが入っている請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載の溶剤含浸ワイパー取り出し容器。
【請求項8】
上記ロールワイパーが、上記ワイパー取り出し穴からロールワイパーを小出しに取り出せるように、その長手方向に対し直角方向に切れ目が入れられているものである請求項1ないし請求項7の何れかの請求項に記載の溶剤含浸ワイパー取り出し容器。
【請求項9】
上記有機溶剤が、脂肪族若しくは芳香族炭化水素類、ケトン類、エステル類、エーテル類又はアルコール類である請求項1ないし請求項8の何れかの請求項に記載の溶剤含浸ワイパー取り出し容器。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9の何れかの請求項に記載の溶剤含浸ワイパー取り出し容器に、ロールワイパーが収納され、有機溶剤が注入されてなることを特徴とする溶剤含浸ワイパー取り出し器。
【請求項11】
上記溶剤含浸ワイパー取り出し容器の使用者が、有機溶剤が含浸されていないロールワイパーを上記ロールワイパー収納容器に収納し、かつ、使用者が、有機溶剤を上記ロールワイパー収納容器に注入して使用することを特徴とする請求項1ないし請求項9の何れかの請求項に記載の溶剤含浸ワイパー取り出し容器の使用方法。
【請求項12】
請求項1ないし請求項9の何れかの請求項に記載の溶剤含浸ワイパー取り出し容器用に使用されるものであることを特徴とするロールワイパー。
【請求項13】
請求項11記載の溶剤含浸ワイパー取り出し容器の使用方法において、使用者がロールワイパー収納容器に収納して使用するものであることを特徴とするロールワイパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−98776(P2011−98776A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128325(P2010−128325)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(598171508)株式会社秀カンパニー (15)
【出願人】(508179545)東洋紡スペシャルティズトレーディング株式会社 (51)
【Fターム(参考)】