説明

溶剤吸収体とそれを用いた印刷方法

【課題】従来に比べて交換や溶剤除去の操作を頻繁に実施する必要がないため、前記印刷のタクトタイムを短くして製品の生産性を向上できる新規な溶剤吸収体と、前記溶剤吸収体を用いた印刷方法とを提供する。
【解決手段】溶剤吸収体は、基材上に、シリコーンブランケットの表面に接触して前記シリコーンブランケットに含浸された溶剤を吸収して除去するための吸収層を設けると共に、前記吸収層を、前記シリコーンブランケットの表面に接触する表面を構成する表層と、前記表層より基材側に配設される、連続気孔構造を有する多孔質体からなる層(下層)とを含む2層以上の積層構造とした。印刷方法は、前記溶剤吸収体を用いてシリコーンブランケットに含浸された溶剤吸収して除去しながら印刷をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンブランケットの表面に担持させたインキを被印刷体の表面に転写させて前記表面に前記インキからなる所定のパターンを印刷するための印刷方法において、前記インキ中に含まれ、前記シリコーンブランケットに含浸される溶剤を吸収して除去するために用いる溶剤吸収体と、前記溶剤吸収体を用いた印刷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷方法は、インキパターンを簡易に、かつ少ない工程数で効率よく多量に、しかも安価に形成できる利点を有しており、また近年に至って印刷精度の向上が図られていることから、特にエレクトロニクス分野において利用が広まりつつある。
例えば電気配線のパターンや蛍光体のパターン、あるいはプラズマディスプレイパネル(PDP)や液晶ディスプレイパネル(LCD)の構成部品等における各種のパターンといった、微細でかつ高精度のパターンの形成が求められる分野において、従来のフォトリソグラフ法によるパターン形成に代えて、前記オフセット印刷方法が普及してきている。
【0003】
オフセット印刷方法では、版の表面にパターン形成したインキをブランケットの表面に転写させたのち、被印刷体としての基板の表面に再転写させることで、前記基板の表面に所定のパターンが印刷される。
ブランケットとしては、少なくともその表面を、インキに対する離型性に優れたシリコーンゴムまたはシリコーン樹脂によって形成したシリコーンブランケットが広く用いられる。
【0004】
シリコーンブランケットはインキと繰り返し接触することから、特に被印刷体がガラス基板等の溶剤を吸収しない材料からなるとき、印刷を繰り返すうちに前記インキ中に含まれる溶剤が含浸されて前記シリコーンブランケットが徐々に膨潤し、それに伴ってインキに対するシリコーンブランケットの表面の濡れ性が徐々に上昇する。そのため、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続けることは困難である。
【0005】
シリコーンゴムやシリコーン樹脂を殆ど膨潤しない濡れ性の低い溶剤を含むインキを使用すれば、印刷を繰り返しても前記濡れ性は殆ど変化しないため、安定して印刷できるように思われる。しかし濡れ性の低い溶剤を含むインキは、版の表面からシリコーンブランケットの表面への受理性が低いことから、特に細線のパターンにおいて断線を生じやすい。
【0006】
断線は最も回避すべき不良の一つであり、それを防止するためにはシリコーンブランケットをある程度膨潤しうる溶剤を使用しなければならない。ところが前記溶剤を含むインキを使用して印刷を繰り返すとシリコーンブランケットが徐々に膨潤して、インキに対する濡れ性が徐々に上昇し、離型性が徐々に低下する。そして濡れ性の上昇に伴ってインキが滲みやすくなって、特に細線のパターンの線幅が徐々に広くなったり、版表面の微小な汚れを転写するようになったりし、また離型性の低下に伴ってシリコーンブランケットから基板へのインキの転写性が徐々に低下するようになって印刷の精度が低下する。
【0007】
シリコーンブランケットを加熱して膨潤した溶剤を除去することが考えられている。しかしそのためにはシリコーンブランケットをおよそ40〜200℃程度に加熱する必要があり、加熱直後の表面温度の高いシリコーンブランケットを版に接触させると、前記版が熱膨張して印刷の精度が低下するという問題がある。
シリコーンブランケットの表面に、溶剤を吸収する機能を有する溶剤吸収体を接触させて、前記シリコーンブランケット中に含浸された溶剤を溶剤吸収体へ移動させて除去することが提案されている(特許文献1、2等参照)。この方法によればシリコーンブランケットを加熱せずに溶剤を除去できるため、印刷の精度を高いレベルに維持することができる。溶剤吸収体による溶剤の除去は、1回ないし数回の印刷ごとに実施される。
【0008】
前記方法に用いる溶剤吸収体は、基材の少なくとも片面に、シリコーンブランケットの表面とほぼ同等のシリコーンゴムまたはシリコーン樹脂からなる単層の吸収層を積層して構成されるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−156388号公報
【特許文献2】特開2009−119709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、前記従来の溶剤吸収体の吸収層は、溶剤の吸収しやすさについてもシリコーンブランケットとほぼ同等であって、単に含浸している溶剤の濃度差に基づいて溶剤を吸収しているに過ぎず、シリコーンブランケットの表面に接触させて溶剤を吸収する操作を繰り返すうちに、吸収した溶剤によって吸収層それ自体が膨潤して徐々に溶剤を吸収しにくくなる傾向がある。
【0011】
そのため、例えば溶剤吸収体の使用回数をあらかじめ設定しておき、所定の使用回数に達した時点で新たな溶剤吸収体に交換すること等が考えられている。
具体的には、例えば溶剤吸収体を長尺のベルト状に形成してロール状に捲回しておき、前記ロールから繰り出した溶剤吸収体の所定長の領域をシリコーンブランケットの表面に接触させて溶剤を吸収させる操作を、同じ領域を用いて1回ないし数回実施するとともに、前記所定回の操作をするごとに、前記ロールから溶剤吸収体の新たな領域を繰り出して、同様に溶剤吸収に使用すること等が検討されている。
【0012】
また溶剤吸収体を無端ベルト状に形成し、前記溶剤吸収体を回転させながらシリコーンブランケットの表面に接触させて溶剤を吸収させる操作を1回ないし数回実施するごとに、溶剤吸収体を加熱する等して吸収した溶剤を除去しながら、前記溶剤吸収体を溶剤吸収に繰り返し使用することも検討されている。
しかしいずれの操作をするにしても、その間は印刷をストップさせなければならないため、これらの操作を頻繁に実施するほどオフセット印刷のタクトタイム、つまりオフセット印刷機に基板をセットし、先に説明した手順にしたがって前記基板の表面にインキを印刷してパターンを形成したのちオフセット印刷機に新たな基板をセットするまでに要する平均の時間が長くなって、オフセット印刷方法によって製造される製品の生産性が低下するという問題を生じる。
【0013】
また、前記のように溶剤吸収体を交換したり、加熱して溶剤を除去したりする操作を頻繁に実施することは省資源、省エネルギーの観点からも決して望ましいことではない。
そこで発明者は、前記溶剤吸収層を、前記表面を構成する表層を含む2層以上の積層構造とし、かつ前記表層よりも基材側に、表層よりも溶剤の膨潤率の高い層を配設することを検討した。
【0014】
膨潤率とは、ゴムまたは樹脂からなる所定の層が、全く溶剤を吸収していない乾燥状態からスタートして一定時間内に吸収できる溶剤の量、つまりその層が乾燥状態からどれだけの溶剤を吸収できる能力を有するかを示す指標であり、膨潤率が高いほど、当該層は溶剤を吸収する能力に優れており、一定時間内により多くの溶剤を吸収できることを表している。
【0015】
発明者が検討したところ、前記膨潤率の異なる2層を積層し、そのうち膨潤率の低い方の層に溶剤を含浸させると、含浸された溶剤は、前記膨潤率の差に基づいて膨潤率の高い方の層へ移動するという現象を生じる。
前記のように吸収層を、表層を含む2層以上の積層構造とし、前記表層より基材側(下側)に溶剤の膨潤率の高い層を配設すると、溶剤吸収の工程でシリコーンブランケットから吸収層に移動した溶剤の多くは、前記現象を生じることで、表層に留まることなく、膨潤率の相違に基づいて下側の層に移動する。
【0016】
そのため吸収層の表面である表層の表面を、溶剤の含浸量が少なく溶剤を吸収しやすい状態に比較的長く、つまりできるだけ多くの印刷回数に亘って維持し続けることができ、従来に比べて交換や溶剤除去の操作をする頻度を少なくし、印刷のタクトタイムを短くして製品の生産性を向上することが可能となる。
しかし下側の層が吸収できる溶剤の量にも限りはあり、それを超えた後は表層に溶剤が蓄積されることになるため、やがて表層の表面は溶剤を十分に吸収できない状態に至る。
【0017】
この時点で溶剤吸収体を加熱して吸収した溶剤を除去することが考えられるが、単に加熱するだけでは、特に下側の層に吸収された溶剤を十分に除去することができない。
すなわち下側の層は、その両面が表層と基材とで覆われており、溶剤吸収体の側面の、層の厚み分のごく僅かな面積でしか外部に露出していない。
しかも基材としてはPETフィルムや金属の薄板等の、溶剤を殆ど透過しない材料からなるものが用いられるとともに、表層は、先に説明したように下側の層よりも溶剤の膨潤率が低いため、前記加熱によって先に表層中の溶剤が除去されて濃度が低くなっても、下側の層に吸収された溶剤は表層へは殆ど移動されない。
【0018】
そのため表層に吸収された溶剤は、加熱によってその露出した表面から速やかに外部に放散されて除去されるが、下側の層に吸収された溶剤の多くは前記下側の層中に残留する。特に、僅かに露出した側面から遠い、前記層の面方向内方に多くの溶剤が残留する。
その結果、加熱をした後の溶剤吸収体の再使用時には、初回の使用時に比べて、表層が溶剤を十分に吸収できる状態を維持できる印刷回数が大幅に低下するため、前記加熱による溶剤除去の操作を実施する頻度を増加させなければならないという問題を生じる。
【0019】
本発明の目的は、従来に比べて交換や溶剤除去の操作を頻繁に実施する必要がないため、前記印刷のタクトタイムを短くして製品の生産性を向上できる新規な溶剤吸収体と、前記溶剤吸収体を用いた印刷方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、フィルム状またはシート状の基材と、前記基材の少なくとも片面に形成した吸収層とを備え、シリコーンブランケットを用いた印刷方法に用いるインキ中に含まれ、前記シリコーンブランケットに含浸される溶剤を、前記吸収層の表面を前記シリコーンブランケットの表面に接触させることで、前記吸収層によって吸収して除去するための溶剤吸収体であって、前記吸収層を、前記表面を構成する表層を含む2層以上の積層構造とし、かつ前記表層より基材側に、連続気孔構造を有する多孔質体からなる層を配設したことを特徴とする溶剤吸収体である。
【0021】
本発明によれば、表層よりも基材側(下側)に連続気孔構造を有する多孔質体からなる層を配設することで、加熱時に、前記表層より下側の層中に吸収された溶剤を、特に層の面方向内方に吸収された溶剤まで、前記連続気孔を通して速やかに、かつ十分に外部に放散させて除去することができる。そのため加熱をした後の溶剤吸収体を繰り返し再使用する際に表層が溶剤を十分に吸収できる状態を維持できる印刷回数を、初回の使用時と同等程度に維持することが可能となる。
【0022】
前記吸収層は、前記表層と、前記多孔質体からなり、前記表層よりも前記溶剤の膨潤率の高い下層の2層構造とするのが好ましい。これにより、構造をできるだけ簡略化して溶剤吸収体の生産性を向上できる。
このうち表層は、シリコーンブランケットの表面を形成するのと同種のシリコーンゴムまたはシリコーン樹脂によって形成するのが好ましい。これにより吸収層の表面の、シリコーンブランケットの表面への密着性を高めて、前記シリコーンブランケットに含浸された溶剤をできるだけスムースに、前記吸収層によって吸収して除去することができる。
【0023】
また下層は、シリコーンゴムまたはシリコーン樹脂に水溶性粉末を添加し、前記シリコーンゴムまたはシリコーン樹脂の硬化後に前記水溶性粉末を溶出させて形成するのが好ましい。これにより、面方向内方まで連続気孔が連通した下層を効率よく、できるだけ少ない工程で形成して溶剤吸収体の生産性を向上できる。
本発明は、シリコーンブランケットの表面に担持させたインキを被印刷体の表面に転写させて、前記被印刷体の表面に前記インキからなるパターンを印刷する印刷方法であって、前記シリコーンブランケットの表面に、前記請求項1〜4のいずれか1項に記載の溶剤吸収体を接触させることにより、前記インキ中に含まれ、前記シリコーンブランケットに含浸される溶剤を前記溶剤吸収体によって吸収して除去する工程を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明によれば、シリコーンブランケットに含浸された溶剤を、前記本発明の溶剤吸収体を用いて吸収することで前記シリコーンブランケットの膨潤を抑制しながら印刷を続けることができる。
しかも前記溶剤吸収体は、先に説明したように表層が溶剤を十分に吸収できる状態を維持できる印刷回数を、加熱後の再使用時にも初回の使用時と同等程度に維持できるため、交換や溶剤除去の操作を頻繁に実施する必要がない。
【0025】
そのため本発明によれば、印刷のタクトタイムを短くして製品の生産性を向上することが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、従来に比べて交換や溶剤除去の操作を頻繁に実施する必要がないため、前記印刷のタクトタイムを短くして製品の生産性を向上できる新規な溶剤吸収体と、前記溶剤吸収体を用いた印刷方法とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
〈溶剤吸収体〉
本発明は、フィルム状またはシート状の基材と、前記基材の少なくとも片面に形成した吸収層とを備え、シリコーンブランケットを用いた印刷方法に用いるインキ中に含まれ、前記シリコーンブランケットに含浸される溶剤を、前記吸収層の表面を前記シリコーンブランケットの表面に接触させることで、前記吸収層によって吸収して除去するための溶剤吸収体であって、前記吸収層を、前記表面を構成する表層を含む2層以上の積層構造とし、かつ前記表層より基材側に、連続気孔構造を有する多孔質体からなる層を配設したことを特徴とするものである。
【0028】
前記吸収層のうち表層は、シリコーンゴムまたはシリコーン樹脂(以下「シリコーンゴム等」と総称する場合がある)によって形成するのが好ましい。これにより、吸収層の表面の、シリコーンブランケットの表面への密着性を高めて、前記シリコーンブランケットに含浸された溶剤をできるだけスムースに、前記吸収層によって吸収して除去することができる。またシリコーンブランケットの表面が異種材料との接触によって汚染されるのを防いで、前記表面の状態を一定に保つこともできる。
【0029】
前記表層とともに吸収層を構成する下側の層は、単層であっても、また2層以上の複数層であってもよい。例えば、表層よりも溶剤の膨潤率の高い第1の下層と、連続気孔構造を有する多孔質体からなる第2の下層との積層構造としてもよい。
しかし下側の層は、多孔質体からなり、表層よりも溶剤の膨潤率の高い単層の下層であるのが好ましい。これにより吸収層を、前記単層の下層とその上の表層の2層構造として構造をできるだけ簡略化でき、溶剤吸収体の生産性を向上することができる。
【0030】
前記単層の下層は、表層と同種のシリコーンゴム等によって形成するのが好ましい。これにより前記両層間での密着性を高めて、シリコーンブランケットから吸収した溶剤を表層から下層へできるだけスムースに移動させることができる。また、溶剤吸収のために溶剤吸収体をシリコーンブランケットの表面に追従させて湾曲させた際などに両層間での剥離を生じにくくすることもできる。
【0031】
また表層は、基材上に形成した下層上に、後述するように未硬化時に液状ないしペースト状を呈するシリコーンゴム等を塗布したのち硬化反応させて形成するのが好ましいが、下層を同種のシリコーンゴム等によって形成した場合には、前記表層用の液状のシリコーンゴム等を、前記下層上に、気泡等を巻き込んだりはじき等を生じたりすることなくできるだけ均一に塗布することができる。
【0032】
また、塗布後のシリコーンゴム等の硬化反応が異種材料によって阻害されるのを防止することもできる。そのため前記下層上に、表面の平滑性や強度等に優れた良好な表層を形成することができる。
前記シリコーンゴム等からなる下層における溶剤の膨潤率を、表層よりも高くするためには、例えば膨潤に寄与するシリコーンゴム等の架橋度を両層間で違えたり、前記両層を形成するシリコーンゴム等として前記膨潤率の異なるものを選択して組み合わせたりすればよい。
【0033】
なお膨潤率を、本発明では室温23±1℃、相対湿度55±1%の環境下、下記の測定をして求めた値でもって表すこととする。
すなわち、まず吸収層を構成する各層(表層等)を形成するのと同じ材料によってそれぞれサンプルを作製し、前記サンプルの、溶剤を全く吸収していない乾燥状態での質量Wを測定したのち、実際に使用するインキに含まれる溶剤中にサンプルの全体が浸るように浸漬して2時間静置する。
【0034】
次いで、溶剤中から引き上げた直後のサンプルの質量Wを測定して、式(1):
膨潤率(%)=〔(W−W)/W〕×100 (1)
により、溶剤の膨潤による質量変化率としての膨潤率(%)を求める。
表層と下層の膨潤率は特に限定されないが、前記表層の膨潤率は4%以上、特に6%であるのが好ましく、12%未満、特に10%以下であるのが好ましい。
【0035】
表層の膨潤率が前記範囲未満では、前記表層それ自体における溶剤を吸収する能力が不足して、シリコーンブランケットの表面から、前記溶剤を短時間でスムースに吸収して除去できなくなるおそれがある。そのため溶剤吸収の工程に要する時間が長くなって、印刷のタクトタイムを短くする効果が不十分になるおそれがある。
一方、表層の膨潤率が前記範囲を超える場合には、前記表層それ自体における溶剤を吸収する能力が高すぎるため、溶剤吸収の工程を繰り返すうちに、シリコーンブランケットの表面が徐々に溶剤不足の状態となるおそれがある。そのため凹版からシリコーンブランケットの表面へのインキの受理性が徐々に低下して、特に細線のパターンの線幅が、逆に徐々に狭くなったり、断線を生じたりするおそれがある。
【0036】
また下層の膨潤率は、前記表層の膨潤率より高ければよいが12%以上、特に14%以上であるのが好ましく、18%以下、特に16%以下であるのが好ましい。
下層の膨潤率が前記範囲未満では、組み合わせる表層の膨潤率にもよるが前記表層の膨潤率との差が小さくなって、前記膨潤率の差に基づいて表層において含浸した溶剤を下層にスムースに移動できなくなるおそれがある。そのため表層の表面を、溶剤の含浸量が少なく溶剤を吸収しやすい状態に比較的長く維持し続けることで交換や溶剤除去の操作を実施する頻度を少なくして印刷のタクトタイムを短くする効果が不十分になるおそれがある。
【0037】
また膨潤率が前記範囲を超える膨潤率の高い下層は強度が不足して頻繁に交換する必要を生じ、印刷のタクトタイムを短くする効果が不十分になるおそれがある。
また表層と下層との膨潤率の差は3ポイント以上、特に5ポイント以上であるのが好ましく、11ポイント以下、特に9ポイント以下であるのが好ましい。
膨潤率の差が前記範囲未満では、両層間の膨潤率の差が小さくなって、前記膨潤率の差に基づいて表層において含浸した溶剤を下層にスムースに移動できなくなるおそれがある。そのため表層の表面を、溶剤の含浸量が少なく溶剤を吸収しやすい状態に比較的長く維持し続けることで交換や溶剤除去の操作を実施する頻度を少なくして印刷のタクトタイムを短くする効果が不十分になるおそれがある。
【0038】
また前記範囲を超える表層と下層とを組み合わせようとすると、表層の膨潤率が前記の好適な範囲を下回るか、あるいは下層の膨潤率が前記の好適な範囲を超えることになるため、いずれの場合も印刷のタクトタイムを短くする効果が不十分になるおそれがある。
下層は、連続気孔構造を有する多孔質体によって形成される。これにより、前記下層中に吸収された溶剤を、加熱時に、特に層の面方向内方に吸収された溶剤まで、前記連続気孔を通して速やかに、かつ十分に外部に放散させて除去することができる。そのため加熱をした後の溶剤吸収体を繰り返し再使用する際に表層が溶剤を十分に吸収できる状態を維持できる印刷回数を、初回の使用時と同等程度に維持することが可能となる。
【0039】
前記下層を形成するシリコーンゴム等としては、未硬化時に液状ないしペースト状を呈するものが好ましい。前記液状ないしペースト状を呈するシリコーンゴム等に水溶性粉末を添加したものを、例えばドクターナイフ、バーコータ、ロールコータ等を用いて所定の厚みとなるように基材上に塗布して硬化させた後、前記水溶性粉末を溶出させることで、前記多孔質体からなる下層が形成される。
【0040】
その際に、いわゆるセルフレベリング効果によって、前記下層のもとになる塗膜の表面、つまり硬化後の下層の表面を平滑化するとともに、前記下層の厚みを均一化できる。また硬化後に溶出処理をするだけで、面方向内方まで連続気孔が連通した下層を効率よく、できるだけ少ない工程で形成して溶剤吸収体の生産性を向上できる。
前記水溶性粉末としては、例えば水溶性デキストリン、砂糖、ポリビニルアルコール、アラビアゴム、ゼラチン、尿素、カルボキシメチルセルロース等の水溶性の有機物の粉末や、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硝酸アンモニウム等の水溶性の無機物の粉末等が挙げられる。特に水溶性デキストリンの粉末が好ましい。
【0041】
また前記水溶性デキストリンの粉末としては、例えばデンプンを希酸または加熱により僅かに加水分解した高分子量のいわゆる可溶性デンプンから、ヨウ素デンプン反応を呈しない低分子量のものまで、従来公知の種々のデキストリンを使用することができ、特に流動焙焼法等で製造される黄色デキストリンが好ましい。
前記水溶性粉末の粒径は1μm以上、特に10μm以上であるのが好ましく、50μm以下、特に20μm以下であるのが好ましい。
【0042】
粒径が前記範囲未満では、先に説明したように溶剤を速やかに、かつ十分に外部に放散させて除去できる連続気孔構造を下層内に形成できないおそれがある。
また前記範囲を超える場合には下層中に形成される連続気候構造が大きくなりすぎて、前記下層の強度が低下するおそれがある。また、相対的に下層を形成するシリコーンゴム等の量が少なくなって、前記下層中に吸収できる溶剤の量が少なくなるため、表層が溶剤を十分に吸収できる状態を維持できる印刷回数が少なくなるおそれもある。
【0043】
水溶性粉末の添加量は、前記シリコーンゴム等の総量(例えば後述する二液付加反応型のシリコーンゴム等の場合は主剤+硬化剤の合計量)100質量部あたり20質量部以上、特に30質量部以上であるのが好ましく、50質量部以下、特に40質量部以下であるのが好ましい。
添加量が前記範囲未満では、先に説明したように溶剤を速やかに、かつ十分に外部に放散させて除去できる連続気孔構造を下層内に形成できないおそれがある。
【0044】
また前記範囲を超える場合には下層中に形成される連続気候構造が大きくなりすぎて、前記下層の強度が低下するおそれがある。また、相対的に下層を形成するシリコーンゴム等の量が少なくなって、前記下層中に吸収できる溶剤の量が少なくなるため、表層が溶剤を十分に吸収できる状態を維持できる印刷回数が少なくなるおそれもある。
表層を形成するシリコーンゴム等としては、先に説明したように未硬化時に液状ないしペースト状を呈するものが好ましい。
【0045】
表層は、前記液状ないしペースト状を呈するシリコーンゴム等を、下層と同様にドクターナイフ、バーコータ、ロールコータ等を用いて所定の厚みとなるように前記下層上に塗布したのち硬化させて形成することができる。その際に、やはりセルフレベリング効果によって、前記表層のもとになる塗膜の表面、つまり硬化後の表層の表面を平滑化するとともに、前記表層の厚みを均一化できる。
【0046】
そのためシリコーンブランケットの表面に隙間なく密着させて溶剤を吸収できる、表面の平滑性に優れた溶剤吸収体を研磨等の工程を経ることなく生産性よく製造できる。なお必要に応じて下層および表層の表面を研磨してもよいことはいうまでもない。
なお下層は、前記液状ないしペースト状を呈するシリコーンゴム等に水溶性粉末を添加したものを、その表面形状に対応する賦形面を有し、基材をセットした金型内に注入して硬化させたのち、前記水溶性粉末を溶出させることで形成してもよい。
【0047】
同様に表層は、前記液状ないしペースト状を呈するシリコーンゴム等を、その表面形状に対応する賦形面を有し、下層を形成した基材をセットした金型内に注入して硬化させることで形成してもよい。
前記シリコーンゴム等としては、室温硬化型(RTV)であるものが好ましい。前記室温硬化型のシリコーンゴム等は、その名のとおり加熱しなくても室温(5〜35℃)で硬化させることが可能であるため、溶剤吸収体の製造工程および製造のための設備を簡略化できる上、加熱による膨張と冷却時の収縮を経ないため、下層、表層、ならびに両層の積層体である吸収層の厚みの精度を向上できる。
【0048】
ただし加熱によって硬化を促進させて、溶剤吸収体の製造時間を短縮し、生産性を向上させることもできる。
また前記シリコーンゴム等としては、先に説明したように主剤と硬化剤の2成分からなり、前記両者を付加反応によって硬化させることができる二液付加反応型のものが好ましい。
【0049】
前記二液付加反応型のシリコーンゴム等は、硬化反応に際して副生成物(脱水縮合反応による水等)を生じないため下層や表層の寸法精度を向上し、かつ前記副生成物に基づく気泡等を含まない均一な下層や表層を形成できる。
前記室温硬化型でかつ二液付加型の液状シリコーンゴム等としては、例えば信越化学工業(株)製の品番KE1600、KE1603、KE1606、KE1310ST、KE1300T、KE1314、KE1241、KE106、KE103、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製の品番TSE3402、TSE3453、TSE3455T、TSE3457、TSE3466等が挙げられる。
【0050】
前記表層および下層の2層からなる2層構造の吸収層、あるいは3層以上の多層構造の吸収層の全体の厚みは0.01mm以上、1mm以下であるのが好ましい。
厚みが前記範囲未満の薄い吸収層には十分な量の溶剤を吸収させることができないため、溶剤吸収体を交換したり、加熱等によって溶剤を除去したりする操作をする頻度を少なくして印刷のタクトタイムを短くする効果が不十分になるおそれがある。
【0051】
また前記範囲を超える場合には、溶剤吸収体全体としての柔軟性と、それに伴うシリコーンブランケットの表面への追従性が低下して、例えばブランケット胴の外周に捲回する等下状態で使用されるシリコーンブランケットの表面に、前記吸収層をできるだけ隙間なく接触させた状態で溶剤を吸収させることができないおそれがある。
また吸収層の重量が増加して、前記のようにシリコーンブランケットの表面に接触させる際の取扱性が低下したり、前記取り扱い時に基材が折れたりシワになったりしやすくなるおそれもある。
【0052】
前記吸収層が表層と下層の2層で形成される場合、前記両層の厚みは任意に設定できるが、特に下層の厚みTを表層の厚みT以上(T≧T)に設定するのが好ましい。これにより、下層においてより多くの溶剤を吸収して、表層の表面を、溶剤の含浸量が少なく溶剤を吸収しやすい状態にできるだけ長く維持し続けることができる。またシリコーンブランケットの表面から吸収した溶剤を、前記表層をスムースに通過させて下層に含浸させることができる。
【0053】
ただし表層の厚みが小さすぎる場合には、溶剤吸収の工程において前記表層の表面をシリコーンブランケットの表面に接触させた際に、その接触圧等によって、下層に含浸した溶剤が表層の表面に逆戻りして、シリコーンブランケットからの溶剤吸収を妨げたり、逆にシリコーンブランケットにおける溶剤の含浸量を増加させたりするおそれがある。そのため表層の厚みは0.005mm以上、特に0.008mm以上であるのが好ましい。
【0054】
吸収層の全体の硬さは、シリコーンブランケットの表面に良好に追従させて隙間なく接触させることを考慮すると、前記シリコーンブランケットの表面の硬さと同等かまたはそれ以下であるのが好ましい。
吸収層の全体の硬さを、シリコーンブランケットの表面の硬さ以下にするためには、例えば吸収層を構成する各層のもとになるシリコーンゴム等として、いずれも硬化後の硬さがシリコーンブランケットの表面の硬さと同等またはそれ以下であるものを選択して用いればよい。これにより吸収層の全体の硬さを、シリコーンブランケットの表面よりも柔らかくすることができる。
【0055】
なお、硬化後の硬さがシリコーンブランケットの表面の硬さと同等であるシリコーンゴム等を用いて形成して、吸収層の全体の硬さを、シリコーンブランケットの表面の硬さ以下にできるのは、本発明の溶剤吸収体が、連続気孔構造を有する多孔質体からなる下層を有するためである。
吸収層のもとになる各層の硬さの具体的な範囲は、前記のようにシリコーンブランケットの表面の硬さ以下であればよく、特に限定されないが、例えば日本工業規格JIS K6253:2006「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−硬さの求め方」において規定されたタイプAデュロメータ硬さで表してA5/S以上、A50/S以下、特にA10/S以上、A30/S以下程度であるのが好ましい。
【0056】
また吸収層のうち表層の表面は、シリコーンブランケットの表面に隙間なく密着させるためにできるだけ平滑であるのが好ましい。ただし吸収層は前記のように柔軟であるため、シリコーンブランケットの表面ほど平坦でなくても、前記表面に十分に隙間なく密着させることは可能である。
前記表面の表面粗さの具体的な範囲は、特に限定されないが、日本工業規格JIS B0601:2001「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語,定義及び表面性状パラメータ」の付属書1で規定された十点平均粗さRzJIS94で表して0.01μm以上、5μm以下、特に0.05μm以上、1μm以下程度であるのが好ましい。
【0057】
表層より下側の層が2層以上の複数層である場合、先に説明した溶剤移動のメカニズムをできるだけスムースかつ良好に機能させるためには、前記複数層のうち少なくとも表層の直下に、前記表層よりも前記溶剤の膨潤率の高い層を配設するのが好ましい。
基材としては、種々の樹脂のフィルムまたはシートや、金属の薄板等が挙げられる。このうち樹脂のフィルムまたはシートとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンおよびその共重合物、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、ポリカーボネート、セルロースアセテート、ポリアミド、ポリイミド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、TPXポリマ、およびポリパラキシレン等の樹脂からなるフィルムまたはシートが挙げられる。
【0058】
また金属の薄板としては銅またはその合金、アルミニウムまたはその合金、ステンレス鋼、ニッケル等の金属からなる薄板が好ましい。
特に任意の厚み、および表面粗さを有するフィルム状またはシート状に加工しやすい上、寸法安定性に優れたPETのフィルムまたはシートを基材として用いるのが好ましい。
基材の厚みは0.05mm以上、特に0.1mm以上であるのが好ましく、0.35mm以下、特に0.25mm以下であるのが好ましい。
【0059】
厚みが前記範囲未満では、前記基材による、吸収層の支持体として溶剤吸収体全体の強度を維持し、かつ良好な取扱性を確保する効果が十分に得られず、取り扱い時に基材が折れたりシワになったりしやすくなるおそれもある。
また厚みが前記範囲を超える場合には、溶剤吸収体全体としての柔軟性と、それに伴うシリコーンブランケットの表面への追従性が低下して、例えばブランケット胴の外周に捲回される等した状態で使用されるシリコーンブランケットの表面に、前記吸収層をできるだけ隙間なく接触させた状態で溶剤を吸収させることができないおそれがある。
【0060】
吸収層を形成する前の基材の表面には、前記吸収層の密着性を高めるために、例えばプラズマ処理、フレーム処理等の前処理を施したり、任意の下地層を形成したりしてもよい。
吸収層は、基材の片面に形成してもよいし、両面に形成してもよい。両面に吸収層を形成した溶剤吸収体は、片面の吸収層を溶剤の吸収に使用した後、裏返して反対面の吸収層を溶剤の吸収に使用できる。
【0061】
前記溶剤吸収体は、印刷方法を実施する印刷機の構造等に応じて任意の形状に形成でき、特にベルト状(無端ベルト状を含む)に形成するのが好ましい。これにより、従来の、前記ベルト状等の溶剤吸収体を用いるオフセット印刷機にそのまま適用することができる。
例えば溶剤吸収体を長尺のベルト状に形成してロール状に捲回しておき、前記ロールから繰り出した溶剤吸収体の所定長の領域をシリコーンブランケットの表面に接触させて溶剤を吸収させる操作を、同じ領域を用いて1回ないし数回実施するとともに、前記所定回の操作をするごとに、前記ロールから溶剤吸収体の新たな領域を繰り出して、同様に溶剤吸収に使用することができる。
【0062】
また溶剤吸収体を無端ベルト状に形成し、前記溶剤吸収体を回転させながらシリコーンブランケットの表面に接触させて溶剤を吸収させる操作を1回ないし数回実施するごとに、溶剤吸収体を加熱する等して吸収した溶剤を除去しながら、前記溶剤吸収体を溶剤吸収に繰り返し使用することができる。
しかもこのいずれの場合においても、溶剤吸収体の吸収層が、前記のように表層と、前記表層よりも溶剤の膨潤率の高い層との積層構造を有しているため、吸収層の表面である表層の表面を、溶剤の含浸量が少なく溶剤を吸収しやすい状態に比較的長く維持し続けることができ、従来に比べて交換や溶剤除去の操作を実施する頻度を少なくし、印刷のタクトタイムを短くして製品の生産性を向上することが可能となる。
【0063】
〈印刷方法〉
本発明の印刷方法は、シリコーンブランケットの表面に担持させたインキを被印刷体の表面に転写させて、前記被印刷体の表面に前記インキからなるパターンを印刷する印刷方法であって、前記シリコーンブランケットの表面に、前記本発明の溶剤吸収体を接触させることにより、前記インキ中に含まれ、前記シリコーンブランケットに含浸される溶剤を前記溶剤吸収体によって吸収して除去する工程を含むことを特徴とするものである。
【0064】
かかる印刷方法としては、例えば
(1) 凹版、平版等の版の表面にパターン形成したインキをシリコーンブランケットの表面に転写したのち、被印刷体としての基板の表面に再転写させるオフセット印刷方法、
(2) シリコーンブランケットの表面の全面にインキを塗布したのち凹版と接触させることで、前記凹版の凹部以外の領域と接触したインキを選択的にシリコーンブランケットの表面から除去して前記表面のインキ層をパターン形成したのち、前記基板の表面に転写する反転印刷方法、
(3) シリコーンブランケットの表面に直接にインキパターンを描画したのち、前記基板の表面に転写する印刷方法、
等の、シリコーンブランケットを用いる種々の印刷方法が採用できる。
【0065】
前記各種の印刷方法において、印刷の合間に、シリコーンブランケットの表面に溶剤吸収体を接触させることで、前記シリコーンブランケットに含浸される溶剤を前記溶剤吸収体によって吸収して除去する工程を、前記溶剤吸収体を用いて実施できる。これにより、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続けることが可能となる。
また溶剤吸収体が溶剤を十分に吸収できなくなった時点で印刷機から取り外す等して加熱することで、前記溶剤吸収体内に吸収された溶剤を、前記連続気孔を通して速やかに、かつ十分に外部に放散させて除去できるため、加熱をした後の溶剤吸収体を繰り返し再使用する際に表層が溶剤を十分に吸収できる状態を維持できる印刷回数を、初回の使用時と同等程度に維持することができる。したがって、溶剤吸収体の交換や溶剤除去の操作を頻繁に実施する必要がなくなる分、印刷のタクトタイムを短くして製品の生産性を向上することが可能となる。
【0066】
シリコーンブランケットとしては、少なくともその表面がシリコーンゴム等によって形成された種々のシリコーンブランケットが使用可能である。具体的には、例えばフィルム状またはシート状の基材と、前記基材の片面に形成した、少なくともシリコーンゴム等を含む組成物からなる表面ゴム層とを備えたシリコーンブランケットが好ましい。
前記表面ゴム層を構成するシリコーンゴム等としては、未硬化時に液状ないしペースト状を呈する液状のシリコーンゴムまたはシリコーン樹脂が好ましい。前記液状のシリコーンゴム等は、例えばドクターナイフ、バーコータ、ロールコータ等を用いて所定の厚みとなるように基材上に塗布し、硬化させて表面ゴム層を形成する際に、前記セルフレベリング効果によって、前記表面ゴム層の表面を平滑化するとともに厚みを均一化できる。そのため被印刷体としての基板の表面に微細でかつ高精度のパターンを形成するのに適した表面平滑性に優れた表面ゴム層を有するシリコーンブランケットを、研磨等の工程を経ることなく生産性よく製造できる。なお必要に応じて表面ゴム層の表面を研磨してもよいことはいうまでもない。
【0067】
またシリコーンブランケットは、前記液状ないしはペースト状を呈するシリコーンゴム等を、表面ゴム層の表面形状に対応する賦形面を有し、基材をセットした金型内に注入して硬化させることによって製造してもよい。
前記シリコーンゴム等としては、やはり室温硬化型(RTV)であるものが好ましい。前記室温硬化型のシリコーンゴム等は加熱しなくても室温で硬化させることが可能であるため、シリコーンブランケットの製造工程および製造のための設備を簡略化できる上、加熱による膨張と冷却時の収縮を経ないため、表面ゴム層の厚みの精度を向上できる。
【0068】
また前記シリコーンゴム等としては、主剤と硬化剤の2成分からなり、前記両者を付加反応によって硬化させることができる二液付加反応型のものが好ましい。
前記二液付加反応型のシリコーンゴム等は、硬化反応に際して副生成物(脱水縮合反応による水等)を生じないため、表面ゴム層の寸法精度を向上し、かつ前記副生成物に基づく気泡等を含まない均一な表面ゴム層を形成できる。
【0069】
前記室温硬化型でかつ二液付加型の液状シリコーンゴム等としては、例えば前出の、信越化学工業(株)製の品番KE1600、KE1603、KE1606、KE1310ST、KE1300T、KE1314、KE1241、KE106、KE103、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製の品番TSE3402、TSE3453、TSE3455T、TSE3457、TSE3466等が挙げられる。
【0070】
表面ゴム層の厚みは、特に先に説明したPDPやLCDのパターン等の高い印刷精度が要求される精密印刷用のシリコーンブランケットの場合は0.01mm以上、0.5mm以下程度であるのが好ましい。
基材としては、先に説明した溶剤吸収体において使用したのと同様の種々の樹脂のフィルムまたはシートまた、金属の薄板等が挙げられ、特に任意の厚み、および表面粗さを有するフィルム状またはシート状に加工しやすい上、寸法安定性に優れたPETのフィルムまたはシートが好ましい。
【0071】
基材の厚みは、前記精密印刷用のシリコーンブランケットの場合は0.01mm以上、0.4mm以下程度であるのが好ましい。
表面ゴム層を形成する前の基材の表面には、前記表面ゴム層の密着性を高めるために、例えばプラズマ処理、フレーム処理等の前処理を施したり、任意の下地層を形成したりしてもよい。
【0072】
表面ゴム層の硬さは、前記JIS K6253:2006において規定されたタイプAデュロメータ硬さで表してA10/S以上、A70/S以下、特にA30/S以上、A60/S以下程度であるのが好ましい。
またシリコーンブランケットの表面状態は、インキパターンが微細になるほどその精度に影響を及ぼすため、できるだけ平坦であることが好ましい。例えば前記精密印刷用のシリコーンブランケットの表面粗さは、前記JIS B0601:2001「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語,定義及び表面性状パラメータ」の付属書1で規定された十点平均粗さRzJIS94で表して0.01μm以上、1μm以下程度であるのが好ましい。
【実施例】
【0073】
以下の実施例、比較例、従来例の溶剤吸収体の製造、特性の測定、および試験を、特記した以外は温度23±1℃、相対湿度55±1%の環境下で実施した。
〈実施例1〉
室温硬化型で、かつ二液付加反応型の液状ジメチルシリコーンゴム〔越化学工業(株)製のKE1241〕の主剤100質量部、および硬化剤10質量部と、コーンスターチから流動焙焼法で製造した黄色デキストリン粉末〔平均重合度31000〜37000、粒径12〜18μm〕35質量部とを混合したのち脱泡して下層用の塗布液を調製し、前記塗布液を、基材としての厚み0.25mmのPETフィルムの片面にバーコータを用いて塗布したのち室温で24時間静置して硬化させた。
【0074】
次いで前記積層体を40℃の温水に浸漬して黄色デキストリン粉末を溶出させて、厚み0.4mm、PETフィルムの面方向の寸法が縦60cm×横50cmで、かつ連続気孔構造を有する多孔質体からなる下層を形成した。
次いで、室温硬化型で、かつ二液付加反応型の液状ジメチルシリコーンゴム〔信越化学工業(株)製のKE1603〕の主剤100質量部、および硬化剤100質量部を混合したのち脱泡して表層用の塗布液を調製し、前記塗布液を、前記PETフィルム上の下層の表面にバーコータを用いて塗布したのち室温で24時間静置して硬化させて、厚み0.1mm、PETフィルムの面方向の寸法が縦60cm×横50cmである表層を形成して、前記下層と表層の2層構造を有する吸収層を備えた溶剤吸収体を製造した。
【0075】
なお前記下層、および表層の形成に使用したのと同じ塗布液を用いてそれぞれの層のサンプルを作製し、前記両サンプルについて、溶剤としてのブチルカルビトールアセテートの膨潤量を、先に説明した方法によって測定したところ下層の膨潤量は15%、表層の膨潤量は8%であった。
〈比較例1〉
下層用の塗布液に黄色デキストリン粉末を配合せず、また下層の硬化後に黄色デキストリン粉末の溶出処理をしなかったこと以外は実施例1と同様にして、連続気孔構造を有しない中実状の下層と、前記と同じ表層の2層構造を有する吸収層を備えた溶剤吸収体を製造した。
【0076】
前記下層の膨潤量は15%、表層の膨潤量は8%であった。
〈従来例1〉
実施例1で調整したのと同じ表層用の塗布液を、基材としての厚み0.25mmのPETフィルムの片面にバーコータを用いて塗布したのち室温で24時間静置して硬化させて、厚み0.5mm、PETフィルムの面方向の寸法が縦60cm×横50cmである単層構造の吸収層を備えた溶剤吸収体を製造した。
【0077】
〈印刷特性試験〉
(シリコーンブラケットの作製)
室温硬化型で、かつ二液付加反応型の液状シリコーンゴム〔硬化後のタイプAデュロメータ硬さ(JIS K6253:2006準拠)がA30/Sであるもの〕の主剤91質量部と硬化剤9質量部とを混合したのち脱泡して表面ゴム層用の塗布液を調製し、前記塗布液を、基材としての厚み0.25mmのPETフィルムの片面にバーコータを用いて塗布したのち室温で24時間静置して硬化させて、厚み0.70mm、PETフィルムの面方向の寸法が縦60cm×横50cmである表面ゴム層を形成してシリコーンブランケットを作製した。
【0078】
(印刷工程)
前記シリコーンブランケットを、凹版オフセット印刷機〔ナカン(株)製、360mm×460mm対応の平板型精密印刷機〕のブランケット胴の外周に捲回して固定した。また凹版としては、ガラス板の表面に線幅20μm、ピッチ300μm、深さ8μmの凹部を格子状にパターン形成したものを用いた。
【0079】
インキとしては、ポリエステル樹脂〔住友ゴム工業(株)製〕と、溶剤としてのブチルカルビトールアセテート〔米山薬品工業(株)製〕と、銀粉末〔三井金属鉱業(株)製のSPQ03R〕とを3本ロールを用いて混練して調製したものを用いた。
また前記実施例、比較例、従来例で製造したいずれかの溶剤吸収体を、両端をつなぎ合わせて無端ベルト状として、前記ブランケット胴の外周に巻きつけたシリコーンブランケットと同期回転させながら互いに接触させて溶剤吸収の工程を実施できるようにセットした。同期回転時の無端ベルトの送り速度は40mm/sに設定した。溶剤吸収の工程は、1回印刷をするごとに実施した。
【0080】
印刷の条件は、凹版からシリコーンブランケットへのインキの転写速度を100mm/s、シリコーンブランケットから、被印刷体としてのガラス基板の表面へのインキの転写速度を100mm/sに設定して、前記ガラス基板を交換しながら連続印刷をした。
そしてガラス基板の表面に印刷されたパターンを観察して、前記パターンの線幅が徐々に広くなって25μmを超えるか、逆に徐々に狭くなって15μmを下回るか、あるいは断線が生じるまでに印刷できた印刷枚数を計数して連続印刷を停止した(1サイクル目)。
【0081】
そして溶剤吸収体を凹版オフセット印刷機から取り外し、100℃で30分間加熱して吸収した溶剤を除去する操作をした後、再び凹版オフセット印刷機にセットして前記と同条件で印刷を再開し、ガラス基板の表面に印刷されたパターンを観察して、前記パターンの線幅が徐々に広くなって25μmを超えるか、逆に徐々に狭くなって15μmを下回るか、あるいは断線が生じるまでに印刷できた印刷枚数を再度計数して連続印刷を再び停止した(2サイクル目)。
【0082】
そして溶剤吸収体を凹版オフセット印刷機から取り外し、100℃で30分間加熱して吸収した溶剤を除去する操作をした後、再び凹版オフセット印刷機にセットして前記と同条件で印刷を再開し、ガラス基板の表面に印刷されたパターンを観察して、前記パターンの線幅が徐々に広くなって25μmを超えるか、逆に徐々に狭くなって15μmを下回るか、あるいは断線が生じるまでに印刷できた印刷枚数を再度計数した(3サイクル目)。
【0083】
なお従来例1については、1サイクル目の印刷枚数が実施例1、比較例1に比べて大幅に少なかったため、2サイクル目および3サイクル目の連続印刷は実施しなかった。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
表1より、吸収層を表層と、前記表層より膨潤率の大きい中実状の下層の2層構造とした比較例1の溶剤吸収体は、前記表層のみの単層構造である従来例1のものに比べて1サイクル目の印刷枚数を大幅に増加できたが、吸収した溶剤を加熱によって十分に除去できないため、2サイクル目以降の印刷枚数が大幅に減少することが判った。
これに対し、吸収層を表層と、前記表層より膨潤率が大きく、かつ連続気孔構造を有する多孔質体によって形成した実施例1の溶剤吸収体は、やはり前記従来例1のものに比べて1サイクル目の印刷枚数を大幅に増加できる上、吸収した溶剤を加熱によって十分に除去できるため、2サイクル目以降の印刷枚数を1サイクル目と同等レベルに維持できることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状またはシート状の基材と、前記基材の少なくとも片面に形成した吸収層とを備え、シリコーンブランケットを用いた印刷方法に用いるインキ中に含まれ、前記シリコーンブランケットに含浸される溶剤を、前記吸収層の表面を前記シリコーンブランケットの表面に接触させることで、前記吸収層によって吸収して除去するための溶剤吸収体であって、前記吸収層を、前記表面を構成する表層を含む2層以上の積層構造とし、かつ前記表層より基材側に、連続気孔構造を有する多孔質体からなる層を配設したことを特徴とする溶剤吸収体。
【請求項2】
前記吸収層は、前記表層と、前記多孔質体からなり、前記表層よりも前記溶剤の膨潤率の高い下層の2層構造である請求項1に記載の溶剤吸収体。
【請求項3】
前記表層は、シリコーンゴムまたはシリコーン樹脂によって形成されている請求項2に記載の溶剤吸収体。
【請求項4】
前記下層は、シリコーンゴムまたはシリコーン樹脂に水溶性粉末を添加し、前記シリコーンゴムまたはシリコーン樹脂の硬化後に前記水溶性粉末を溶出させて形成されている請求項2または3に記載の溶剤吸収体。
【請求項5】
シリコーンブランケットの表面に担持させたインキを被印刷体の表面に転写させて、前記被印刷体の表面に前記インキからなるパターンを印刷する印刷方法であって、前記シリコーンブランケットの表面に、前記請求項1〜4のいずれか1項に記載の溶剤吸収体を接触させることにより、前記インキ中に含まれ、前記シリコーンブランケットに含浸される溶剤を前記溶剤吸収体によって吸収して除去する工程を含むことを特徴とする印刷方法。