説明

溶接ワイヤ巻替装置及び溶接ワイヤ巻替方法

【課題】溶接ワイヤに適用しても塑性変形を一定に保ち、巻き替えるときに与える張力を一定に保つことができる溶接ワイヤ巻替装置を提供すること。
【解決手段】ワイヤ繰出機2と、ダンサーローラ機10と、ワイヤ巻取機50と、を備える溶接ワイヤ巻替装置1において、ダンサーローラ機10は、溶接ワイヤWを巻回する固定プーリー11及び移動プーリー12と、移動プーリーを支持する支持機構14と、移動プーリーの位置を検出するセンサ19と、移動ローラ側を押動する押動機構20と、溶接ワイヤWの速度を検出するワイヤ速度検出機構30と、を備え、前記押動機構20が、上側ホイール21及び下側ホイール22と、上側ホイール及び下側ホイール間にかけ渡されて支持機構で支持する移動プーリーを係合する張架材23と、張架材の他側に保持されたバランス錘24と、張架材を押動するシリンダ機構25と、制御を行う制御機構26と、を有する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボビンに巻回された溶接ワイヤを繰り出して、前記ボビンよりも小径のスプールに溶接ワイヤを巻き替える溶接ワイヤ巻替装置及び溶接ワイヤ巻替方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ボビンに巻回された溶接ワイヤを繰り出して、ボビンよりも小径のスプールなどに巻取る溶接ワイヤ巻替装置においては、ボビンがセットされるワイヤ繰出機と、前記ボビンから繰り出された溶接ワイヤを巻取るスプールがセットされるスプール巻取機と、ワイヤ繰出機及びスプール巻取機の間に設置されるダンサーローラ機が配設されて構成されている。ここで使用されるダンサーローラ機は、ワイヤ繰出機とスプール巻取機との間における巻替速度の変動やワイヤの伸び等々により発生する繰出機から巻取機までの間のワイヤ長の変動を吸収して、溶接ワイヤの張力を所定範囲内に保持する働きをするものである。従来のダンサーローラ機を備えるワイヤを巻き替える装置としては、以下に示すような様々な構成のものが開示されている。
【0003】
先ず、特許文献1に記載されたワイヤ巻取装置は、ワイヤをワークに巻いている最中、ワイヤに緩みが発生する位置毎に、ワイヤの供給源から送り出されるワイヤをワイヤ押圧片で挟み、送り出しを停止させ、さらに固定プーリーと2つ移動プーリーを動かし、ワイヤの直線状態の経路を曲線凹凸状態の経路に変更してワイヤの緩みを取り除いている。
【0004】
また、特許文献2に記載されたワイヤ巻取装置は、ワイヤに張力を与えるために、ブレーキローラーでワイヤに抵抗を与え続けている。このワイヤ巻取装置では、ワイヤの速度が一定、または停止中において、ブレーキローラーからワイヤボビン間では動滑車がレールガイドの最上端の位置にあるようにトルクモーターが制御され、ワイヤには動滑車の重量とバネの反発力の和に等しいワイヤテンションになるように制御される。そして、ワイヤ巻取装置は、ワイヤの速度が高速から低速に切り替わった際には、ブレーキローラーからワイヤボビン間にワイヤの緩みが発生するが、動滑車が下降し、ワイヤの緩みを解消する。このときワイヤのテンションは動滑車の重量のみとなるように構成されている。
【0005】
さらに、特許文献3に記載のワイヤ巻取装置は、線条体がダンサープーリー装置を経由し、その後、複数の押圧プーリーを経由し、巻取りボビンに巻取られる構成となっている。ここで、ダンサープーリー装置は固定プーリーと、これに近接または離隔する稼動プーリーによって構成され、巻取り中の線条体に発生した比較的長期的な張力変動が吸収される。また、ダンサープーリー装置で吸収できない微小な張力変動については、押圧ローラにより、ワイヤ経路が直線状から曲線状に変化して吸収される。なお、押圧ローラは、バネで押圧力を調整する機構となっている。
【0006】
そして、特許文献4に記載の装置では、複数本の線条体が巻き取られたリールから線条体を繰出す方法として、ダンサーローラ、アキュームレーターを経由して線条体が巻き取られる構成となっている。ダンサーローラは、バネで線条体を引っ張るように張力が与えられている。また、アキュームレーターは、2群のプーリーで構成されており、プーリーにはバネまたは重りでワイヤに張力を与えるように力が加わる機構となっている。
【0007】
さらに、特許文献5に記載の装置では、巻取り駆動モータが所定の方向に巻取りドラムを回転させ、ワイヤが巻き取られる機構となっている。この装置では、ワイヤはテンション付与ローラがワイヤを負荷の方へ送るように回転して、巻取りドラムからローラ間のワイヤテンションを調整するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平06−321427号公報
【特許文献2】特開2007−268631号公報
【特許文献3】特開平05−000768号公報
【特許文献4】特開平03−200672号公報
【特許文献5】特開平04−053759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、前記した従来のそれぞれの装置では、以下に示すような問題点が存在していた。
すなわち、特許文献1の装置では、巻替中にワイヤの送り出しを停止させてワイヤの緩みを取っており、瞬間的に生産がストップすることになり、生産性が低下してしまう。また、バックテンションを調整する稼動ローラが固定ローラとワイヤを挟み込むように動作してワイヤにテンションを付加するため、ワイヤに塑性変形を与える可能性がある。特に、溶接ワイヤにおいては、ワイヤの直進性が一定であることが品質上重要であり、当該溶接ワイヤを挟み込むことでテンションをかけるようにすることは困難である。
【0010】
特許文献2の装置では、ブレーキローラーによりワイヤに常に抵抗が与えられているため、ワイヤ表面にはキズが発生、もしくは表面が荒れることが懸念される。溶接ワイヤにとって、表面のキズや荒れは製品品質として致命的となる場合もあり、本技術を溶接ワイヤに適用することは困難となる。さらに、ワイヤの送り速度が一定速度のとき、ワイヤにテンションを与えるものは主にレールガイド上端のバネによる反発力となるが、バネはその伸縮長により反発力が変動するため、ワイヤに付加されるテンションは常に変動的となり、不安定である。
【0011】
そして、ワイヤの送り速度が高速から低速に減速する時、動滑車が下降するが、このとき固定ローラと動滑車を経由するワイヤの経路は常に変動的であり、ワイヤに付加される曲がりぐせ(塑性変形)も常に変動的となってしまい、ワイヤの形状(直進性)に対してバラツキを生じてしまう。溶接ワイヤにおいては、ワイヤの直進性が安定的(一定)であることが品質上重要であり、この点からも当該装置は、溶接ワイヤに適用困難となる。
【0012】
特許文献3の装置は、ワイヤの比較的短周期の張力変動に対して、複数の押圧プーリーでワイヤを挟み込み、ワイヤの経路を曲線状に変化させ、ワイヤの張力を保つ機構となっている。しかし、溶接ワイヤにおいては、ワイヤの曲がりぐせ(塑性変形)を一定に保つことが重要な製品品質となっており、ワイヤ経路を直線状から曲線状に変化させることは溶接ワイヤの品質を損なうことになってしまう。また、押圧ローラの圧力はバネの伸縮によって決定されるが、バネは伸縮長により反発力が変動するため、ワイヤに付加される張力は変動的なものとなってしまう。
【0013】
特許文献4の装置は、ダンサーローラ及びアキュームレーターは、バネを使用してワイヤ張力を調整しているが、バネは伸縮長により反発力が変動するため、ワイヤに付加する張力が変動的となってしまう。また、固定ローラに対して、ダンサーローラが昇降する構造となっているが、ダンサーローラの位置によってワイヤの経路は変動するため、ワイヤの直進性が損なわれる恐れがある。溶接ワイヤにとって直進性が安定的(一定)であることが品質上重要であるため、本技術を溶接ワイヤに適用することは困難となる。
【0014】
特許文献5の装置は、テンション付与ローラがワイヤ送り方向に逆らうように回転してワイヤにテンションを付加するため、ワイヤとローラ間に摩擦抵抗が発生する。このため、ワイヤ表面にはキズや荒れが発生することが懸念される。溶接ワイヤにおいては、ワイヤ表面のキズや荒れは製品品質を損なうものであり、本技術を溶接ワイヤに適用することは困難となる。
【0015】
本発明は、前記した問題点に鑑み創案されたものであり、溶接ワイヤに適用しても塑性変形を一定に保ち、巻き替えるときに与える張力を一定に保つことができる溶接ワイヤ巻替装置及び溶接ワイヤ巻替方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明に係る溶接ワイヤ巻替装置は、以下のように構成している。すなわち、溶接ワイヤを巻いたボビンを回転自在に設置して前記溶接ワイヤを繰出回転駆動部の駆動により繰り出すワイヤ繰出機と、このワイヤ繰出機のボビンから繰り出される溶接ワイヤのテンションを一定に保つダンサーローラ機と、このダンサーローラ機を経由して前記溶接ワイヤを巻き取るスプールを回転自在に設置すると共に巻取回転駆動部により巻取り方向に回転させるワイヤ巻取機と、を備える溶接ワイヤ巻替装置において、前記ダンサーローラ機は、前記ボビンから繰り出された前記溶接ワイヤを巻回すように、対向して離間配置された各々複数枚のプーリーからなる固定プーリー及び移動プーリーと、前記複数枚からなる移動プーリーを回転自在に支持すると共に、前記固定プーリーに対して近接離隔自在に支持する支持機構と、前記移動プーリーの位置を検出するセンサと、前記移動ローラの前記固定ローラに対する間隔を調整する押動機構と、前記複数枚のプーリーからなる固定プーリー及び前記複数枚のプーリーからなる移動プーリー間を通過した溶接ワイヤを巻付プーリーに巻き付けて速度を検出するワイヤ速度検出機構とを備えている。
【0017】
さらに、前記溶接ワイヤ巻替装置は、前記押動機構が、前記固定プーリー及び前記移動プーリーに巻回される溶接ワイヤの方向に沿って離間して設置された上側ホイール及び下側ホイールと、前記上側ホイール及び下側ホイール間にかけ渡され、前記上側ホイール及び下側ホイール間における一側において前記支持機構で支持する移動プーリーを係合する張架材と、前記移動プーリーに対して重量のバランスを保つように、前記上側ホイール及び下側ホイール間にかけ渡される前記張架材の他側に保持されたバランス錘と、前記移動プーリーの位置を予め設定した設定位置となるように前記張架材を押動して調整するシリンダ機構と、前記センサによる移動プーリーの検出位置が、設定位置と比較して当該設定位置から前記固定プーリー側に対して近づいた位置であったと判定した場合に、前記繰出回転駆動部を現速度より減速させる制御を行うと共に、前記センサによる移動プーリーの検出位置が、前記設定位置と比較して当該設定位置から前記固定プーリー側に対して遠ざかる位置であったと判定した場合に、前記繰出回転駆動部を現速度より加速させるように制御を行う制御機構とを有する構成とした。
【0018】
かかる構成により、溶接ワイヤ巻替装置は、溶接ワイヤをワイヤ繰出機から繰出回転駆動部の回転駆動によりボビンを回転して溶接ワイヤが繰り出される。そして、溶接ワイヤ巻替装置は、溶接ワイヤがダンサーローラ機の固定プーリー及び移動プーリー間に巻回され一定のテンションを保った状態で、巻付プーリーに巻かれてワイヤの送り速度がワイヤ速度検出機構により検出される。溶接ワイヤ巻替装置は、ダンサーローラ機を経由して巻付プーリーからの溶接ワイヤを、巻取回転駆動部の回転駆動によりワイヤ巻取機のスプールに巻き取っている。そして、ダンサーローラ機の固定プーリー及び移動プーリー間を巻回されるときに移動プーリーは、固定プーリーに対して近接離間自在に支持機構に支持されており、その移動プーリーの設定位置に押動機構により調整されて保持される。なお、押動機構は、所定間隔に設置された上側ホイール及び下側ホイールにかけ渡されるチェーン等の張架材に支持機構で支持する移動プーリーを係合し、その他側となる張架材の位置にバランス錘を保持している。したがって、張架材に係合している移動プーリーは、バランス錘側の張架材に係合するシリンダ機構により小さな力で押してもその位置が調整できるようになっている。そして、溶接ワイヤ巻替装置は、制御機構によりセンサで検出された移動プーリーの位置に基づいて、予め設定された設定位置との比較において繰出回転駆動部の回転駆動を現速度から減速するように制御し、あるいは、現速度より加速するように制御して、移動プーリーの位置を設定位置に調整することで溶接ワイヤのテンションを常に適正となるようにしている。
【0019】
また、溶接ワイヤ巻替装置において、前記支持機構が、前記移動プーリーを中央としてその左右に配置した移動ガイドレールと、この移動ガイドレールに沿って移動する移動車輪と、この移動車輪を支持すると共に前記移動プーリーを回転自在に支持する支持フレームとを備えることとしてもよい。
かかる構成により、溶接ワイヤ巻替装置は、移動プーリーを回転自在に支持している支持フレームが移動車輪を移動ガイドレールに沿って移動することで、支持フレームを移動ガイドレールに沿ってスムーズに移動することができる。
【0020】
さらに、溶接ワイヤ巻替装置において、前記押動機構は、前記下側ホイールが、前記上側ホイールから所定間隔を隔てた位置において並設した第1下側ホイール及び第2下側ホイールで構成してもよい。
かかる構成により溶接ワイヤ巻替装置は、押動機構の下側ホイールを第1下側ホイール及び第2下側ホイールで構成され、下側のホイールの直径を小さくできるので、保持するバランス錘の下側の空間を広く取れることで移動範囲を広くすることができる。
【0021】
さらに、溶接ワイヤ巻替装置において、前記ワイヤ速度検出機構は、前記巻付プーリーのワイヤ接触面が、前記溶接ワイヤの直径に対して2倍より広い巻回幅面を備えるようにすると都合がよい。
かかる構成により、溶接ワイヤ巻替装置は、巻付プーリーのワイヤ接触面が溶接ワイヤの2倍より広い巻回幅面であるので、溶接ワイヤを一回り巻き付けてスプール側に向けて引っ張られるときに、溶接ワイヤの表面が一回りされるどの位置でも互いに接触することがない。
【0022】
そして、溶接ワイヤ巻替装置において、ワイヤ速度検出機構は、前記巻付プーリーの設置位置を前記スプールの設置位置の高さに合わせて配置し、かつ、前記巻付プーリーの回転軸に前記溶接ワイヤの速度を測定するセンサを設置した構成としてもよい。
かかる構成により溶接ワイヤ巻替装置は、溶接ワイヤが一回りしている巻付プーリーの回転速度を計測することで溶接ワイヤの送り速度を測定することができる共に、スプールの設置位置の高さに合わせて巻付プーリーが配置されていることで、スプールの巻回す高さが揃えられ、溶接ワイヤにかかる負荷を小さくできる。
【0023】
また、溶接ワイヤ巻替装置において、前記溶接ワイヤを巻き付ける前記巻付プーリーの巻胴径、前記固定プーリーの巻胴径、及び前記移動プーリーの巻胴径を、前記スプールの巻胴径と同じかあるいはそれより大きく形成してもよい。
かかる構成により、溶接ワイヤ巻替装置は、各プーリーの直径が同等以上になることで、無用な癖を付けることなくスプールに巻き替えることができる。
【0024】
さらに、溶接ワイヤ巻替装置において、前記溶接ワイヤは、ボビンからの巻き出された当該溶接ワイヤの向きを腹方向としたときに、前記固定プーリー、前記移動プーリー、前記巻付プーリー、並びに、前記スプールまで前記腹方向に巻き回されるように巻き回し向きを設定してもよい。
かかる構成により、溶接ワイヤ巻替装置は、ボビンからスプールに巻き替えるときに、溶接ワイヤに無用な負荷を与えることがない。
【0025】
なお、溶接ワイヤ巻替装置において、前記溶接ワイヤは、フラックスワイヤであっても構わない。
溶接ワイヤ巻替装置は、塑性変形しやすいフラックスワイヤであっても無用な負荷をかけずに、かつ、表面に傷をつけずにボビンからスプールに巻き替えることが可能となる。
【0026】
また、溶接ワイヤ巻替装置は、溶接ワイヤを巻いたボビンを回転自在に設置して前記溶接ワイヤを繰出回転駆動部の駆動により繰り出すワイヤ繰出機と、このワイヤ繰出機のボビンから繰り出される溶接ワイヤを固定プーリー及び移動プーリー間に巻回してテンションを一定に保つダンサーローラ機と、このダンサーローラ機を経由して前記溶接ワイヤを巻き取るスプールを回転自在に設置すると共に巻取回転駆動部により巻取り方向に回転させるワイヤ巻取機と、を備える溶接ワイヤ巻替装置において、前記移動プーリーを予め設定した設定位置から前記固定プーリーに近接する方向、あるいは、前記移動プーリーが前記固定プーリーから離間する方向となる移動方向における前記移動プーリーの位置を検出するセンサと、このセンサの検出した移動プーリーの位置が、前記設定位置から前記固定プーリー側に対して近づいた場合に、前記繰出回転駆動部を現速度より減速させると共に、前記センサの検出した移動プーリーの位置が、前記設定位置から前記固定プーリー側に対して遠ざかる場合に、前記繰出回転駆動部を現速度より加速させるように制御する制御機構と、を備える構成としてもよい。
【0027】
かかる構成により、溶接ワイヤ巻替装置は、センサにより移動プーリーの位置を検出して、制御機構が設定位置よりも固定プーリーに近いか、あるいは、遠いかを判定することにより、溶接ワイヤを繰り出す繰出回転駆動部を現速度から減速又は加速させる制御を行うことで、溶接ワイヤのテンションを常に正常となるように維持することができる。
【0028】
また、溶接ワイヤ巻替装置は、溶接ワイヤを巻いたボビンを回転自在に設置して前記溶接ワイヤを繰出回転駆動部の駆動により繰り出すワイヤ繰出機と、このワイヤ繰出機のボビンから繰り出される溶接ワイヤを固定プーリー及び移動プーリー間に巻回してテンションを一定に保つダンサーローラ機と、このダンサーローラ機を経由して前記溶接ワイヤを巻き取るスプールを回転自在に設置すると共に巻取回転駆動部により巻取り方向に回転させるワイヤ巻取機と、を備える溶接ワイヤ巻替装置において、前記移動プーリーを予め設定した設定位置から前記固定プーリーに近接する方向、あるいは、前記移動プーリーが前記固定プーリーから離間する方向となる移動方向における前記移動プーリーの位置を検出するセンサと、前記センサが検出する移動プーリーの位置により前記繰出回転駆動部を制御する制御機構とを備える構成とした。さらに、前記溶接ワイヤ巻替装置は、前記制御機構が、前記センサの検出した前記移動プーリーの検出位置を入力する入力手段と、前記設定位置を記憶する記憶手段と、前記入力手段に入力された検出位置が、前記記憶手段に記憶されている前記設定位置を越えたか否かを比較して判定する判定手段と、この判定手段で、前記設定位置を前記検出位置が固定プーリー側に超えたと判定した場合に、前記繰出回転駆動部の速度を設定された基準速度より遅い速度に減速する信号を繰出回転駆動部に出力すると共に、前記判定手段で、前記設定位置を前記検出位置が越えないと判定した場合に、前記繰出回転駆動部に前記基準速度となる信号を出力する出力手段と、を有する構成としても構わない。
【0029】
かかる構成により溶接ワイヤ巻替装置は、センサにより検出した移動プーリーの位置が入力手段により入力され、判定手段により記憶手段から予め記憶している設定位置と比較することで、その比較結果により出力手段を介して繰出回転駆動部の速度を減速又は基準速度となるように制御しているので、ダンサーローラ機が常に溶接ワイヤに一定のテンションを与えることが可能となる。
【0030】
また、本発明に係る溶接ワイヤ巻替方法は、溶接ワイヤを巻いたボビンを回転自在に設置して前記溶接ワイヤを繰出回転駆動部の駆動により繰り出すワイヤ繰出機と、このワイヤ繰出機のボビンから繰り出される溶接ワイヤを対向して離間配置した固定プーリー及び移動プーリー間に巻回してテンションを一定に保って送り出すダンサーローラ機と、このダンサーローラ機を経由して送り出される溶接ワイヤを巻き取るスプールを着脱自在に設置すると共に巻取回転駆動部により巻取り方向に回転させるワイヤ巻取機と、を備える溶接ワイヤ巻替装置により溶接ワイヤを前記ボビンから前記スプールに巻き替える溶接ワイヤ巻替方法において、前記溶接ワイヤを前記ワイヤ繰出機によりダンサーローラ機に繰り出すと共に、前記ダンサーローラ機における溶接ワイヤのテンションを調整する調整工程を行いながらダンサーローラ機で溶接ワイヤのテンションを一定にしてワイヤ巻取機のスプールに巻き取る工程を行い、前記調整工程は、前記移動プーリーの位置をセンサにより検出し、前記移動プーリーが予め設定した閾値の範囲を外れた場合に、制御機構により、前記繰出回転駆動部の基準速度を減速させる工程と、前記センサにより検出した前記移動プーリーの位置が前記閾値の範囲になったときに、前記繰出回転駆動部を基準速度にする工程とを行う。
【0031】
かかる手順により、溶接ワイヤ巻替方法では、調整工程において、移動プーリーの位置をセンサで検出して、閾値と比較してその結果により繰出回転駆動部を介して繰り出される溶接ワイヤの速度を調整するように制御することで、溶接ワイヤをダンサーローラ機におけるテンションを適切に与えるようにしている。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る溶接ワイヤ巻替装置及び溶接ワイヤ巻替方法は、以下に示すような優れた効果を奏するものである。
溶接ワイヤ巻替装置は、上側ホイール及び下側ホイールにかけ渡される張架材に支持機構で支持されている移動プーリーを係合し、その張架材にバランス錘を設けた状態でシリンダ機構により一定の圧力となるようにして、移動プーリーを固定プーリーに対して近接離間自在となるように調整する構成とし、制御機構によりセンサで検出した移動プーリーの位置により繰出回転駆動部で駆動する溶接ワイヤの送出速度を調整することでダンサーローラ機においてテンションの調整を適正に行なうことが可能となる。
【0033】
したがって、溶接ワイヤ巻替装置は、シリンダ機構の押動により常に一定のテンションを溶接ワイヤに与えるため、巻き替える最中の溶接ワイヤの緩みを抑制すると共に、緩みにより生じる振動を抑制することができるので、溶接ワイヤの緩みあるいは振動による溶接ワイヤの巻き乱れを防止することができる。
また、溶接ワイヤ巻替装置は、溶接ワイヤをボビンからスプールまでの間で挟み付けるような構成がないので、溶接ワイヤの塑性変形(曲がりぐせ)を一定に保つことができ、かつ、溶接ワイヤの表面にキズや荒れを発生させることがない。
【0034】
溶接ワイヤ巻替装置は、移動プーリーを回転自在に支持フレームに移動車輪を設け、その移動車輪が支持フレームの左右に配置した移動ガイドレールに沿って移動するように支持機構を構成したので、押動機構による移動プーリーを安定して固定プーリーに近接離間自在に移動することが可能となる。
【0035】
溶接ワイヤ巻替装置は、押動機構の下側ホイールを併設した第1下側ホイール及び第2下側ホイールとすることで、上側ホイールと比較して下側ホイールの直径を小さくすることができる。
【0036】
溶接ワイヤ巻替装置は、巻付プーリーの巻回幅面を溶接ワイヤの2倍以上にしているため、溶接ワイヤを巻付プーリーに巻き付けても溶接ワイヤ同士が接触することがなく、溶接ワイヤの外観形状に傷をつけるようなことがない。また、巻付プーリーの回転を溶接ワイヤの送り速度として測定しているため、速度の計測を正確に行なうことができる。
【0037】
溶接ワイヤ巻替装置は、巻付プーリーの巻胴径、固定プーリーの巻胴径、及び移動プーリーの巻胴径を、スプールの巻胴径と同じかあるいはそれより大きく形成しているので、スプールに巻き替える溶接ワイヤに余計な塑性変形をさせることがない。さらに、溶接ワイヤを各プーリーに巻き付ける向きを腹方向として揃えることでも、スプールに巻き替える溶接ワイヤに余計な塑性変形をさせることがない。
【0038】
溶接ワイヤ巻替方法は、調整工程において、移動プーリーの位置をセンサで検出した状態により、閾値と比較して繰出回転駆動部を制御しているので、溶接ワイヤの緩みあるいは振動による溶接ワイヤの巻き乱れを防止することができると共に、溶接ワイヤの塑性変形(曲がりぐせ)を一定に保つことができ、かつ、溶接ワイヤの表面にキズや荒れを発生させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る溶接ワイヤ巻替装置の全体を模式的に示す側面図である。
【図2】本発明に係る溶接ワイヤ巻替装置のダンサーローラ機を示す図であり、(a)はダンサーローラ機の側面図、(b)はダンサーローラ機の正面図である。
【図3】本発明に係る溶接ワイヤ巻替装置のダンサーローラ機を模式的に示して制御状態をあらわすブロック図である。
【図4】(a)〜(d)は、本発明に係る溶接ワイヤ巻替装置のスプールに溶接ワイヤを巻き付ける状態とシリンダ機構の圧力を切り換えるタイミングを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明に係る溶接ワイヤ巻替装置及び溶接ワイヤ巻替方法について図面を参照して説明する。
図1に示すように、溶接ワイヤ巻替装置1は、ボビンBWに巻かれている溶接ワイヤWをスプールSPに巻き替えるものである。この溶接ワイヤ巻替装置1は、溶接ワイヤWを繰り出すワイヤ繰出機2と、このワイヤ繰出機2から繰り出される溶接ワイヤWに一定のテンションを与えるダンサーローラ機10と、このダンサーローラ機10からの溶接ワイヤWをスプールに巻き取るワイヤ巻取機50とを備えている。この溶接ワイヤ巻替装置1は、ワイヤ繰出機2とワイヤ巻取機50の間にダンサーローラ機10を配置するように構成されている。なお、溶接ワイヤ巻替装置1では、ワイヤ繰出機2、ワイヤ巻取機50などの駆動脈は、図示しない制御盤によって同調制御されている。
【0041】
図1に示すように、ボビンBWに巻回されてなる溶接ワイヤWは、例えば、フラックス入りワイヤであり、その直径が1.2〜1.6mmの範囲のものを一例として説明する。また、ボビンBWは、巻き替えるスプールSPよりも大径であり、より長い溶接ワイヤWを巻付けている。そして、ボビンBWは、ワイヤ繰出機2に設置されて繰出されるように設置される。
【0042】
ワイヤ繰出機2は、ボビンBWを設置してダンサーローラ機10に溶接ワイヤWを所定の速度で繰り出すものである。このワイヤ繰出機2は、ボビンBWを回転自在に設置する設置台3と、この設置台3に設置されるボビンBWを回転させて溶接ワイヤWを繰り出す繰出回転駆動部4とを主に備えている。
設置台3は、ボビンBWを設置して回転自在に保持して繰出回転駆動部4からの駆動を伝達する伝達機構を有する一般的な構成を備えるものである。また、繰出回転駆動部4は、設置台3に設置したボビンBWを回転させる駆動モータであり、例えば、スピンドルモータ(ベクトルモータ)、サーボモータのようなモータを用いることができる。
【0043】
図1及び図2に示すように、ダンサーローラ機10は、ワイヤ繰出機2から繰り出される溶接ワイヤWを固定プーリー11及び移動プーリー12間に巻回して一定のテンションを保つものである。このダンサーローラ機10は、溶接ワイヤWを巻回する固定プーリー11及び移動プーリー12と、移動プーリー12を固定プーリー11に近接離間自在に支持する支持機構14と、この支持機構14の移動プーリー12に係合して支持機構14に支持されている移動プーリー12の位置を調整する押動機構20と、この押動機構20により移動する移動プーリー12の位置を検出するセンサ19(図3参照)と、溶接ワイヤWをスプールSPに向かって巻き出される位置に設置したワイヤ速度検出機構30とを備えている。なお、ダンサーローラ機10は、溶接ワイヤWを固定プーリー11に巻き付ける前段にワイヤキャッチャ9が設置されており、溶接ワイヤWの導入案内及び溶接ワイヤWの切断時に対応できるようになっている。
【0044】
図2(a)、(b)に示すように、固定プーリー11及び移動プーリー12は、互いに対向して躯体フレーム13に離間配置されている。固定プーリー11は、プーリー11aを複数枚重ねて構成されており、それぞれのプーリー11aが個別に回転自在となるように支持軸11bにより回転自在に支持されている。なお、固定プーリー11を支持する支持軸11bは、躯体フレーム13に固定されている。
【0045】
移動プーリー12は、プーリー12aを複数枚重ねて構成されており、それぞれのプーリー12aが個別に回転自在となるように支持機構14に固定される支持軸12bにより回転自在に支持されている。なお、移動プーリー12は、重ねるプーリー12aの数を、ここでは、固定プーリー11の重ねるプーリー11aの数より一枚少なくなるように構成されている。
【0046】
図2(a)、(b)に示すように、移動プーリー12を支持する支持機構14は、当該移動プーリー12を躯体フレーム13に沿って固定プーリー11に対して近接離間自在(ここでは上下方向)に支持するものである。この支持機構14は、躯体フレーム13に沿って移動プーリー12の両側に設置した移動ガイドレール15と、この移動ガイドレール15に沿って移動する移動車輪16と、この移動車輪16を支持する支持フレーム17とを備えている。
【0047】
移動ガイドレール15は、躯体フレーム13の左右のフレーム柱13a,13aに沿って左右に設置されている。この移動ガイドレール15は、設置長さ、形状等は、特に限定されるものではなく、移動車輪16を上下に直線的に移動させることができればよい。
移動車輪16は、移動ガイドレール15に沿って回転して移動するものである。この移動車輪16は、ここでは、4箇所に配置されているが、その数、大きさは、特に限定されるものではない。
【0048】
支持フレーム17は、移動車輪16のそれぞれを回転自在に支持すると共に、その中央において、移動プーリー12を回転自在に支持している。この支持フレーム17は、移動車輪16を回転自在に支持する支持アーム17aと、この支持アーム17aを支持して、かつ、移動プーリー12を回転自在に支持する本体フレーム17bとを有している。
支持アーム17aは、ここでは、上下2つの移動車輪16,16を支持して本体フレーム17bの左右に設置されている。この支持アーム17aは、ここではコ字形状に形成され、左右同じ形状のものを使用することが可能となる。また、本体フレーム17bは、矩形に形成されており、支持アーム17aが支持している移動車輪16を両側に突出するように当該支持アーム17a,17aを固定している。そして、本体フレーム17bは、その中央に移動プーリー12を回転自在に支持する支持軸12bが設置されている。
【0049】
なお、この本体フレーム17bは、ここでは、その矩形の左右側面部分が移動ガイドレール15、15の内側に案内されて、移動車輪16及び本体フレーム17bの左右側面部分が移動ガイドレール15,15に係合した状態で、移動ガイドレール15,15に沿って上下方向(固定プーリー11に近接離間方向)に移動するように構成されている。このような構成により移動プーリー12は、回転することで振動を発生する可能性があるが、本体フレーム17bが移動ガイドレール15,15の左右それぞれにおいて、移動車輪16及び本体フレーム17bの側辺で挟持するようにして移動するので、その振動の影響を最小限に抑えて上下動することが可能となる。
【0050】
図2(a)、(b)に示すように、押動機構20は、移動プーリー12を回転自在に支持している支持機構14を固定プーリー11に近接離間方向に押動するものである。この押動機構20は、躯体フレーム13のフレーム柱13a,13aの間に配置され、上側ホイール21と、下側ホイール22と、上側ホイール21及び下側ホイール22に掛け渡され支持機構14の移動プーリー12に係合する張架材23と、この張架材23に保持されるバランス錘24と、張架材23を押動するシリンダ機構25と、シリンダ機構25及び繰出回転駆動部4を制御する制御機構26(図3参照)とを備えている。
【0051】
上側ホイール21は、所定距離を隔ててフレーム柱13a,13a間に支持されたホイール軸21aに回転自在に保持されている。この上側ホイール21は、固定プーリー11に対して接触しない位置に設置されている。
【0052】
下側ホイール22は、上側ホイール21と対をなして張架材23を掛け渡して支持するものであり、ここでは、第1下側ホイール22aと、第2下側ホイール22bとにより構成されている。第1下側ホイール22a及び第2下側ホイール22bは、躯体フレーム13の下部フレームに13cに並列に設置されている。第1下側ホイール22a及び第2下側ホイール22bは、互いに離間して配置され、ここでは、上側ホイール21の直径に合わせた間隔を開けて下部フレーム13cに回動自在に設置されている。下側ホイール22を第1下側ホイール22a及び第2下側ホイール22bの構成とすることで、ホイール径を小さくでき、張架材23に沿って移動するバランス錘24及び移動プーリー12の移動範囲をより広く取ることができる。
【0053】
図2(a)、(b)に示すように、張架材23は、移動プーリー12側に係合して押動させるためのものである。この張架材23は、上側ホイール21及び下側ホイール22に掛けわたされる一側(以下、吊一側という)において、本体フレーム17bの上下端に取付部材23aを介して本体フレーム17bを係合することで移動プーリー12を係合し、さらに、上側ホイール21及び下側ホイール22に掛けわたされる他側(以下、吊他側という)においてバランス錘24を保持している。そして、張架材23は、吊他側において、シリンダ機構25が係合され、そのシリンダ機構25のロッドの出没する範囲において上下に作動するように構成されている。
【0054】
張架材23は、上側ホイール21及び下側ホイール22に掛け渡されて、その吊一側及び吊他側において、シリンダ機構25の押動により係合しているものを所定範囲において移動することができれば、例えば、チェーン、無端ベルト、ワイヤ等の長尺条部材であれば、その形態は特に限定されるものではない。張架材23は、吊他側において、バランス錘24を保持し、シリンダ機構25を係合する場合、バランス錘24の上端側において錘取付部材23cを介在させている。錘取付部材23cは、バランス錘24の上端側に突出する係止部分24a、シリンダ機構25の先端部分及び張架材23を取り付けて係合できる構成のものであれば、その形状等は限定されるものではなく、ここでは、台形状に形成した取付金具が使用されている。
【0055】
バランス錘24は、移動プーリー12にかかる荷重と同等の重さとなるように設定されて保持されている。このバランス錘24は、金属板等の重さをかけることができるものでれば限定されるものではない。また、バランス錘24は、張架材23との係合を解除しなくても、係止部分24aに円板状で中央に向かって外周から係合溝が形成された錘を着脱自在に係止できるように構成されている。
【0056】
シリンダ機構25は、張架材23を押動させるものである。このシリンダ機構25は、上部フレーム13bに支持されて、錘取付部材23cを介して張架材23に係合して、制御機構26(図3参照)により所定の圧力で張架材23を押動するように構成されている。このシリンダ機構25は、ロッド25aと、このロッド25aを出没させるシリンダ25bと、このシリンダ25b内に圧を与えてロッド25aを出没させる構成のものである。シリンダ機構25は、エア圧、油圧等のシリンダ25bから出没するロッド25aの長さが変化しても、一定の圧力で張架材23を押動することができれば、その構成を限定されるものではない。
【0057】
図3に示すように、制御機構26は、センサ19により検出された移動プーリー12の位置を入力して、予め設定した設置位置(閾値)に基づいて、繰出回転駆動部4を制御するものである。また、制御機構26は、後記するワイヤ巻取機50のトラバーサ40からの信号に基づいて、シリンダ機構25を制御するものである。この制御機構26は、ワイヤ巻取機50を説明した後に説明する。
【0058】
なお、センサ19は、移動プーリー12の位置の検出ができ、制御機構26に検出位置の信号を送ることができるものであれば、特にその取り付け位置、構造について限定されるものではない。
つぎに、図1に示すように、固定プーリー11及び移動プーリー12間を通過した溶接ワイヤWは、巻付プーリー31に巻き付けられた後に、ワイヤ巻取機50に巻き取られる。
【0059】
巻付プーリー31は、溶接ワイヤWを一巻きしてワイヤ巻取機50に溶接ワイヤWを送り出す位置に設置されている。この巻付プーリー31は、溶接ワイヤWの送り速度を検出するワイヤ速度検出機構30として回転軸にセンサ(図示せず)を設けている。溶接ワイヤWの速度を検出するサンサは、回転軸の回転数を計測することで溶接ワイヤWの速度を計測するように構成されている。なお、回転軸の回転数を計測する手段としては、機械的に測定する手段や、回転軸の回転する音(周波数)から速度を検出する手段を用いることができる。
【0060】
また、巻付プーリー31は、ワイヤ接触面が溶接ワイヤWの直径に対して2倍より広い巻回幅面を備えるように構成されている。この巻付プーリー31は、巻回幅面が広く形成されているため、溶接ワイヤWを巻き付けて回転するときに、溶接ワイヤW同士が接触することがなく、溶接ワイヤWの表面に傷を付けるようなことが全くない状態となる。なお、巻付プーリー31は、その設置位置が、スプールSPの設置位置と高さを合わせて設けられていると、スプールSPに溶接ワイヤWを巻き付ける場合に溶接ワイヤWに余計な負荷をかけずにスムーズに巻き取ることができる状態となり、より好ましい。
【0061】
このダンサーローラ機10では、制御機構26が、移動プーリー12の位置をセンサ19で検出してシリンダ機構25を制御しているので、溶接ワイヤWのテンションを常に一定となるように維持してスプールSPに送り出すことができる。
【0062】
図1に示すように、ワイヤ巻取機50は、ダンサーローラ機10からの溶接ワイヤWをスプールSPに巻き取るためのものである。このワイヤ巻取機50は、溶接ワイヤWを所定間隔でスプールSPの幅方向に往復移動させて振り分けるトラバーサ40と、このトラバーサ40で振り分けられる溶接ワイヤWを巻き付ける位置にスプールSPを回転自在に設置するスプール設置台55と、このスプール設置台55に設置されるスプールSPを回転させる巻取回転駆動部56とを主に備えている。
【0063】
トラバーサ40は、スプールSPの巻き取られる幅に亘って往復移動させスプールSPに溶接ワイヤWを整列巻きさせるものである。このトラバーサ40は、ガイドローラ41と、このガイドローラ41に支持される溶接ワイヤWを予め設定される往復移動幅に亘って往復移動させる往復移動部42と、この往復移動部42をスライド移動させるスライド機構43と、往復移動部42の後段でスプールSPまでの間に、溶接ワイヤWをスプールSPに導く案内ローラ44と、センサ(図示せず)等を主に備えている。なお、このトラバーサ40の往復移動部42の移動速度の速度信号はセンサにより検出され後記する制御機構26に送られている。このトラバーサ40は、溶接ワイヤWを設定される巻き取り速度に伴って往復移動させることができるものであれば、その構成を限定されるものではない。
【0064】
スプール設置台55は、スプールSPを回転自在に設置して巻取回転駆動部56からの回転駆動を伝達する機構を有するものである。また、巻取回転駆動部56は、スプールSPを所定速度で回転させるスピンドルモータ、ベクトルモータ、汎用モータ、サーボモータ等の駆動手段である。
【0065】
溶接ワイヤ巻替装置1は、機械的な構造について以上説明したようにダンサーローラ機10においてシリンダ機構25を介して移動プーリー12を上下動自在に支持していると共に溶接ワイヤWにかかるテンションを一定になるように以下で説明する制御機構26で制御しているので、溶接ワイヤWに常に一定のテンションを与えてボビンBWからスプールSPに溶接ワイヤWを巻き替えることが可能となる。なお、溶接ワイヤ巻替装置1において、ここでは、巻付プーリー31の巻胴径、固定プーリー11の巻胴径、及び移動プーリー12の巻胴径を、スプールSPの巻胴径と同じかあるいはそれより大きく形成している。この構成により、溶接ワイヤWに余計な塑性変形を与える負荷を最小限としている。
【0066】
つぎに、制御機構26について説明する。図3に示すように、制御機構26は、センサ19により検出される移動プーリー12の位置に基づいて、繰出回転駆動部4を制御する回転速度制御機構26Aと、トラバーサ40からの信号に基づいて、シリンダ機構25を制御するシリンダ制御機構27とを備えている。なお、制御機構26は、ここでは、ワイヤ速度検出機構30からの速度を示す信号を入力して表示モニタ29に表示する表示手段28についても備える構成として説明する。
【0067】
回転速度制御機構26Aは、入力した移動プーリー12の検出位置と設定されている設定位置とを比較した結果、検出位置が設定位置から固定プーリー11に近接する位置側である場合には、繰出回転駆動部4の現速度より減速させる制御を行う。また、回転速度制御機構26Aは、入力した検出位置と設定位置とを比較した結果、検出位置が設定位置から固定プーリーとは離間する位置側である場合には、繰出回転駆動部4の現速度よりも加速させる制御を行う。
【0068】
この回転速度制御機構26Aは、入力手段26aと、記憶手段26bと、判定手段26cと、出力手段26dとを備えている。
入力手段26aは、センサ19で検出した移動プーリー12の検出位置の値を入力するものである。この入力手段26aで入力された検出位置の値は判定手段26cに送られる。
記憶手段26bは、移動プーリー12を制御する基準となる予め設定された設定位置(閾値)が記憶されている。この記憶手段26bは、ハードディスク、メモリ、ボリューム等で設定するアナログ基盤等のいずれかの記憶する一般的な手段で構成されている。
【0069】
判定手段26cは、入力手段26aからの検出位置の値と、記憶手段26bに記憶されている設定位置である閾値とを比較した結果、設定位置から前記固定プーリー側に対して検出位置が近づいた位置である場合には、溶接ワイヤWの送り速度が速いと判定し、また、検出位置の値と閾値とを比較した結果、検出位置が設定位置から前記固定プーリー側に対して遠ざかった位置である場合に、溶接ワイヤWの送り速度が遅いと判定する。そして、判定手段26cは、その判定した結果を出力手段26dに出力している。
【0070】
出力手段26dは、判定手段26cからの信号を受け取り、繰出回転駆動部4に信号を出力するものである。この出力手段26dは、溶接ワイヤWの送り速度が早いと判定した結果の信号を受け取ると、繰出回転駆動部4の回転速度を減速する信号を出力し、また、溶接ワイヤWの送り速度が遅いと判定した結果の信号を受け取ると、繰出回転駆動部4の回転速度を加速する信号を出力する。なお、出力手段26dは、加速、減速の度合いをダンサー位置の変位に応じてリニアに変化させた信号を出力している。
【0071】
回転速度制御機構26Aは、以上のように構成されているので、入力手段26aによりセンサ19で検出した移動プーリー12の検出位置を入力し、入力した検出位置を記憶手段26bに予め記憶している設定位置(閾値)と判定手段26cにより比較して判定し、その判定結果を出力手段26dから出力される信号により繰出回転駆動部4を制御しているため、固定プーリー11及び移動プーリー12間に巻回された溶接ワイヤの塑性変形を一定に保ち、常に一定のテンションを与えることができる。
【0072】
つぎに、シリンダ制御機構27について説明する。シリンダ制御機構27は、スプールSPに溶接ワイヤWを巻き付けるときにシリンダ機構25を制御するものである。このシリンダ制御機構27は、ワイヤ検出位置入力手段27aと、記憶手段27bと、ワイヤ検出位置判定手段27cと、シリンダ制御信号出力手段27dと、とを備えている。なお、このシリンダ制御機構27では、トラバーサ40のセンサ(図示せず)から送られてくる位置信号(溶接ワイヤWを左右にスライドさせる位置)によりシリンダ機構25を制御するように、ここでは構成されている。
【0073】
ワイヤ検出位置入力手段27aは、溶接ワイヤWをスプールSPの幅範囲において左右に振り分けるトラバーサ40からの位置信号を入力する。なお、トラバーサ40からの位置信号は、例えば、溶接ワイヤWを左右に移動させる往復移動部42の移動位置をセンサ(図示せず)で検出した信号である。
【0074】
記憶手段27bは、シリンダ機構25の圧力を基準圧力又は高圧力に切り換えるために予め切り換える移動位置を記憶するためのものである。この記憶手段27bは、ハードディスク、メモリ等の一般的なデータを記憶する手段である。記憶手段27bには、スプールSPの左側において、基準圧力から高圧に切り換える第1切換位置(切換位置)と、高圧から基準圧力に切り換える第2切換位置(切換位置)と、スプールSPの右側において、基準位置から高圧に切り換える第3切換位置(切換位置)と、高圧から基準圧力に切り換える第4切換位置(切換位置)とが記憶されている。
なお、切換位置は、その第1切換位置から第4切換位置を任意に変更可能で、トラバーサ40が反転する直前から直後までを、ある時間の幅でもって、高圧にすることが可能となっており、これによってワイヤの振動発生を抑える効果を有する。また、切換位置は、左右対称である場合、2つの切換位置を記憶していれば足りることになる。
【0075】
記憶手段27bに記憶される切換位置は、シリンダ機構25が信号により基準圧力あるいは高圧力に切り換えられるまでにタイムラグがあることから、このタイムラグを実測あるいは演算により算出して予め考慮して設定されている。
【0076】
ワイヤ検出位置判定手段27cは、ワイヤ検出位置入力手段27aから入力する移動位置と記憶手段27bの切換位置とを比較して判定するものである。このワイヤ検出位置ワイヤ検出位置入力手段27aから受け取った信号が示すスライド方向における移動位置と、記憶手段27bに記憶されている切換位置とを比較して、移動位置が第1切換位置又は第3切換位置を越えた場合に、シリンダ機構25の圧力が予め設定した高圧となる圧力をかける高圧切換信号を出力する必要があると判定し、移動位置が第2切換位置及び第4切換位置号を越えた場合には、高圧から予め設定された基準圧力となる基準圧力切換信号を出力する必要があると判定する。つまり、このワイヤ検出位置判定手段27cは、溶接ワイヤWのスプールSPにおいて巻付層が一層上がる位置(両端)においてシリンダ機構25に予め設定した高圧をかけるように切り換えるように判定し、同じ巻付層内のときにはシリンダ機構25に予め設定した基準圧力をかけるように判定している。このワイヤ検出位置判定手段27cで判定した結果は、シリンダ制御信号出力手段27dに出力される。
【0077】
シリンダ制御信号出力手段27dは、ここでは、シリンダ機構25を基準圧力又は高圧力のいずれかに切り換えるための信号を出力するものである。このシリンダ制御信号出力手段27dは、ワイヤ検出位置判定手段27cから受け取った判定信号(基準圧力判定信号、又は、高圧力判定信号)により、シリンダ機構25が予め設定された基準圧力となるように切り換える切換信号、又は、シリンダ機構25が設定された高圧力となるように切り換える切換信号を、シリンダ機構25に出力するものである。
【0078】
シリンダ制御機構27は、以上説明したような構成を備えているので、トラバーサ40からの信号をワイヤ検出位置入力手段27aにより入力し、ワイヤ検出位置判定手段27bによりシリンダ機構25を基準圧力又は高圧力にするかを判定し、シリンダ制御信号出力手段27cからの切換信号によりシリンダ機構25の圧力を切り換える制御を行っている。
【0079】
さらに、制御機構26は、ダンサーローラ機10のワイヤ速度検出機構30からの検出した速度を表示モニタ29に表示する表示手段28を備えている。表示手段28は、ワイヤ速度検出機構30から送られてくる速度信号を入力し、表示モニタ29に操作者が視認できるように数字あるいはグラフ表示により表示するものである。この表示手段28は、制御機構26に入力された信号を操作者が視認できるように、表示モニタ29に出力して表示することも可能である。なお、ワイヤ速度検出機構30からの信号は、速度の表示以外に、スプールSPの駆動速度制御(ワイヤを一定速度に保つ)、トラバースの移動速度制御、等々、様々に活用することが可能である。
【0080】
つぎに、溶接ワイヤ巻替装置1の動作について説明する。
はじめに、溶接ワイヤ巻替装置1は、ワイヤ繰出機2の設置台3にボビンBWを設置すると共に、ワイヤ巻取機50のスプール設置台55にスプールSPを設置して、溶接ワイヤWをボビンBWから引き出し、ダンサーローラ機10の固定プーリー11及び移動プーリー12間に巻回し、このダンサーローラ機10を経由して溶接ワイヤWをスプールSPに係合した状態とする。なお、溶接ワイヤWを各プーリーに設定する場合には、ボビンBWからの巻き出された当該溶接ワイヤWの向きを腹方向としたときに、固定プーリー11、移動プーリー12、巻付プーリー31、並びに、スプールSPまで腹方向に巻き回されるように巻き回し向きを設定している。このように溶接ワイヤWの向きを揃えることで、溶接ワイヤWを塑性変形させる原因を最小限に抑えることが可能となる。
【0081】
そして、溶接ワイヤ巻替装置1は、ワイヤ繰出機2の繰出回転駆動部4と、ワイヤ巻取機50の巻取回転駆動部56とを同期して駆動することで、ワイヤ繰出機2のボビンBWから溶接ワイヤWを繰り出し、ダンサーローラ機10で溶接ワイヤWのテンションを一定に保ってスプールSPに巻き付ける。
【0082】
溶接ワイヤWがダンサーローラ機10を経由する場合は、固定プーリー11の一番目のプーリー11aから移動プーリー12の一番目のプーリー12a、固定プーリー11の二番目のプーリー11aから移動プーリー12の二番目のプーリー12aというように、固定プーリー11の各プーリー11a及び移動プーリー12の各プーリー12aを経由して巻付プーリーからワイヤ巻取機50側に巻き取られる。
溶接ワイヤWがダンサーローラ機10でテンションを一定に保たれる状態を維持する場合には、移動プーリー12の位置をセンサ19で検出し、その検出した移動プーリーの検出位置に基づいて、制御機構26の回転速度制御機構26Aにより繰出回転駆動部4を制御している。
【0083】
すなわち、回転速度制御機構26Aは、判定手段26cにより、記憶手段26bに記憶している設定位置とセンサ19で検出した移動プーリー12とを比較して、検出した移動プーリー12の検出位置が、設定位置から固定プーリー11側に対して近づいた位置であると判定された場合には、出力手段26dから信号が繰出回転駆動部4に送られ、現速度より減速させるように制御している。また、回転速度制御機構16Aは、判定手段26cにより、記憶手段26bに記憶している設定位置とセンサ19で検出した移動プーリー12の検出位置とを比較して、移動プーリー12の検出位置が、設定位置から固定プーリー11側に対して遠ざかる位置として判定された場合に、出力手段26dにより繰出回転駆動部4に信号が送られ現速度より加速させるように制御している。
【0084】
そのため、支持フレーム17に回転自在に支持されている移動プーリー12は、繰出回転駆動部4の回転速度が減速されることで、張架材23に係合された状態で、固定プーリー11側から徐々に離間する方向に、移動ガイドレール15,15に沿って移動車輪16,16,16,16が回転して移動する。また、繰出回転駆動部4の回転速度が加速されることで、移動プーリー12は、張架材23に係合された状態で、固定プーリー11側から徐々に近接する方向に、移動ガイドレール15,15に沿って移動車輪16,16,16,16が回転して移動する。
【0085】
このように、常に、移動プーリーの位置をセンサ19で検出して適性な設定位置に近づけるような制御を行っているので、ダンサーローラ機10を経由する溶接ワイヤWは、一定のテンションが均等にかかるようになっている。
そして、ダンサーローラ機10を経由した溶接ワイヤWは、ワイヤ巻取機50に設定されているスプールSPに巻きつけられる。ワイヤ巻取機50に設定されたスプールSPは、トラバーサ40の動作により溶接ワイヤWを一段(一層)ずつ整列巻きすることができる。なお、溶接ワイヤ巻替装置において、この回転速度制御機構26Aで行なわれる制御が調整工程となる。
【0086】
なお、シリンダ制御機構27は、トラバーサ40に設けたセンサ(図示せず)から送られてくる信号により、シリンダ機構25の圧力を制御することで、スプールSPに巻き付けられる溶接ワイヤWの整列巻をより均等なテンションを維持して巻き付けることを可能としている。すなわち、図4に示すように、ワイヤ巻取機50では、スプールSPの一端から他端あるいは他端から一端に向かってトラバーサ40が溶接ワイヤWの位置を横方向にスライドさせる。そして、図4(a)に示すように、スプールSPの一層目を巻き取るときには、シリンダ機構25は、基準圧力(常圧)で張架材23を押圧して移動プーリー12の位置を維持している。このとき、シリンダ制御機構27は、トラバーサ40からの溶接ワイヤWを振り分けるときのスライドした移動位置を示す信号を、ワイヤ検出位置入力手段27aから入力したワイヤ検出位置判定手段27cで判定した結果、シリンダ制御信号出力手段27dから出力される信号を介して、シリンダ機構25を基準圧力となるように制御している。
【0087】
そして、図4(a)、(b)に示すように、トラバーサ40からのスライド方向における移動位置を示す信号が記憶手段27bの切換位置(第1切換位置)と比較して超えていると判定した場合、つまり、溶接ワイヤWがスプールの他端W1からW2の位置になるときにシリンダ機構25を切り換えることを行なっている。すなわち、ワイヤ検出位置入力手段27aから入力された移動位置を、ワイヤ検出位置判定手段27cが記憶手段27bに記憶されている切換位置(第1切換位置)と比較して超えていると判定したときに、シリンダ機構25の圧力を高圧に切り換えるタイミングと判定し、シリンダ制御信号出力手段27dからシリンダ機構25の圧力を基準圧力から高圧力に切り換える信号が出力される。なお、シリンダ制御機構27では、シリンダ制御信号出力手段27dからシリンダ機構25の圧力を制御する場合には、信号を出力して圧力を変化させるタイムラグを考慮する必要がある。したがって、シリンダ制御機構27では、予めトラバーサ40のスライドの移動速度と切換位置の関係を予め演算しておき、スプールSPに巻き付ける層において、どの移動位置であるとタイミングよくW1からW2の位置でシリンダ機構25の圧力が切り換えることができるかを調べて切換位置を設定していることが好ましい。切換位置の設定は、第1切換位置から第4切換位置のすべてにおいて予め設定されていることが好ましい。
【0088】
シリンダ機構25は、圧力が基準圧力から高圧力に切り換えられると、係合している張架材23を押動している圧力を一瞬強める方向に力を加えることになる。このとき、移動プーリー12は、固定プーリーから離間する方向に力がかけられることで、瞬間的にスプールSPに巻付けられる溶接ワイヤWのテンションを上げることになる。
【0089】
溶接ワイヤWをスプールSPに巻き付ける場合、層が一層上がった瞬間は、スプール回転速度が減速する傾向がある。つまり、溶接ワイヤ巻替装置1は、ワイヤ速度を一定にするようにスプールSPの回転速度を調整するため、溶接ワイヤWが一層上がる位置では、スプール回転速は減速してしまう。そのため、スプールSPが減速する瞬間、溶接ワイヤWの送給が滞ることなく、かつ、緩みの発生をすることなく巻き付けるために、ダンサーローラ機10におけるシリンダ機構25を高圧に切替えて、溶接ワイヤWを強制的に押さえ込み、溶接ワイヤWの振れを抑制している。
【0090】
つづいて、図4(b)、(c)に示すように、溶接ワイヤWがW2からW3の位置にトラバーサ40により横方向にスライドして移動したときに、シリンダ機構25を高圧力から基準圧力に切り換える動作を行なうようにしている。この場合、トラバーサ40からスライド方向における移動位置がワイヤ検出位置入力手段27aに入力され、そのワイヤ検出位置入力手段27aからワイヤ検出位置判定手段27cに送られる。
【0091】
そうすると、ワイヤ検出位置判定手段27cにより、記憶手段27bの切換位置(第2切換位置)と移動位置とを比較して、切換位置(第2切換位置)を移動位置が超えている場合、シリンダ機構25の圧力を基準圧力に切り換えるタイミングと判定されて、シリンダ制御信号出力手段27dからシリンダ機構25の圧力を高圧力から基準圧力に切り換える信号が出力される。したがって、シリンダ機構25で押圧する張架材23がW2の位置からW3の位置において基準圧力で押動される状態に戻るようになる。溶接ワイヤ巻替装置1では、同様に、図4に示すように、スプールSPにおける左側においても移動位置と切換位置(第3切換位置及び第4切換位置)との比較、判定が行なわれ、右側と同様の圧力調整が行なわれる。
【0092】
このように、図4(a)〜(d)に示すように、溶接ワイヤ巻替装置1は、シリンダ機構25の制御を制御機構26のシリンダ制御機構27が行なうことで、スプールSPの両端側の巻き層が変わる位置において、溶接ワイヤWが緩む原因が抑制され、均等なテンションでスプールSPに溶接ワイヤWを巻き付けて巻替作業を行うことが可能となる。
なお、このようなシリンダ機構25で張架材23を押圧する圧力を瞬間的に変化させても移動プーリー12の位置の変動はほとんどない。
【0093】
ちなみに、溶接ワイヤ巻替装置1において、溶接ワイヤWの速度を変動することで改善しようとすると、速度の変動に伴い、ダンサーローラ機10の溶接ワイヤWは振られることになってしまう。したがって、溶接ワイヤ巻替装置1では、スプールSPの両端において溶接ワイヤWにかかるテンションを巻き層が変わるときにシリンダ機構25による溶接ワイヤにかかる圧力を調整するように制御することで、溶接ワイヤWの速度を変動することなく、溶接ワイヤWの振れを抑制して溶接ワイヤWをスプールSPに均等なテンションで整列巻きすることを可能としている。
【0094】
溶接ワイヤ巻替装置1は、制御機構26において、回転速度制御機構26Aを備えていれば、基本的には、溶接ワイヤWのテンションを一定に保って溶接ワイヤWをボビンBWからスプールSPに巻き替えることができるが、制御機構26にシリンダ制御機構27を備えることで、さらに確実に、溶接ワイヤのテンションを一定に保ってスプールSPに巻き付けることが可能になる。そのため、溶接ワイヤWは、直進性を確保した溶接作業が行なうことができる。
【0095】
なお、溶接ワイヤ巻替装置1では、回転速度制御機構26Aの回転速度を、センサ19で検出する移動プーリーの検出位置の変位に応じたリニアな出力信号により、減速あるいは加速させる制御を行うように説明したが、以下のようにしても構わない。
すなわち、回転速度制御機構26Aは、判定手段26cが基準圧力又はその基準圧力より高圧となる圧力にするか否かの判定を行うこととする。つまり、判定手段26cは、入力手段26aに入力された検出位置が、記憶手段26bに記憶されている設定位置(閾値)の範囲を越えたか否かを比較して判定し基準圧力とするか高圧力とするかの信号を出力することとする。
【0096】
そして、設定位置を検出位置が超えたと判定手段26cで判定した場合に、繰出回転駆動部4の速度を設定された基準速度より、予め設定された遅い速度に減速する信号を出力手段26dが繰出回転駆動部4に出力するようにする。また、設定位置を検出位置が越えない、つまり閾値の範囲内であると判定手段26cで判定した場合に、繰出回転駆動部4に基準速度となる信号を出力手段26dが出力するようにする。
このように、回転速度制御機構26Aにより、繰出回転駆動部4の駆動制御を閾値の範囲内であるか否かで判定し、基準速度及びその基準速度よりも遅い減速速度とするように、繰出回転駆動部4を制御することで、固定プーリー11及び移動プーリー12による溶接ワイヤWのテンションを常に一定に保つことが可能となる。
【0097】
なお、溶接ワイヤ巻替え作業終了時、溶接ワイヤ切断時における溶接ワイヤWの巻替えの稼動停止時におけるワイヤキャッチャ9による溶接ワイヤWの挟持力は、走行する溶接ワイヤWの波打現象を解消させる場合における摺動走行を許容する挟持力以上であればよい。
また、溶接ワイヤ巻替装置1では、フラックス入り溶接ワイヤWを巻替える態様を説明したが、ソリッド溶接ワイヤなど他の溶接ワイヤを巻取る態様に対しても適用することができる。
【0098】
さらに、ワイヤ検出位置判定手段27cは、受け取る信号が溶接ワイヤWの位置を示すことができる信号であれば後記するトラバーサ40により振り分ける溶接ワイヤWの移動速度の信号であっても構わない。ワイヤ検出位置判定手段27cは、溶接ワイヤWの移動速度を示す信号について判定する場合には、メモリに予め移動速度を示すデータを記憶しておき、その記憶しているデータと入力された移動速度の信号とを比較して判定するように構成されることになる。
【符号の説明】
【0099】
1 溶接ワイヤ巻替装置
2 ワイヤ繰出機
3 設置台
4 繰出回転駆動部
9 ワイヤキャッチャ
10 ダンサーローラ機
11 固定プーリー
11a プーリー
11b 支持軸
12 移動プーリー
12a プーリー
12b 支持軸
13 躯体フレーム
13a フレーム柱
13b 上部フレーム
13c 下部フレーム
14 支持機構
15 移動ガイドレール
16 移動車輪
17 支持フレーム
17a 支持アーム
17b 本体フレーム
19 センサ
20 押動機構
21 上側ホイール
21a ホイール軸
22 下側ホイール
22a 第1下側ホイール
22b 第2下側ホイール
23 張架材
23a 取付部材
24 バランス錘
24a 係止部分
25 シリンダ機構
25a ロッド
25b シリンダ
26 制御機構
26A 回転速度制御機構
26a 入力手段
26b 記憶手段
26c 判定手段
26d 出力手段
27 シリンダ制御機構
27a ワイヤ検出位置入力手段
27b 記憶手段
27c ワイヤ検出位置判定手段
27d シリンダ制御信号出力手段
28 表示手段
29 表示モニタ
30 ワイヤ速度検出機構
31 巻付プーリー
40 トラバーサ
41 ガイドローラ
42 往復移動部
43 スライド機構
44 案内ローラ
50 ワイヤ巻取機
55 スプール設置台
56 巻取回転駆動部
BW ボビン
SP スプール
W 溶接ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを巻いたボビンを回転自在に設置して前記溶接ワイヤを繰出回転駆動部の駆動により繰り出すワイヤ繰出機と、このワイヤ繰出機のボビンから繰り出される溶接ワイヤのテンションを一定に保つダンサーローラ機と、このダンサーローラ機を経由して前記溶接ワイヤを巻き取るスプールを回転自在に設置すると共に巻取回転駆動部により巻取り方向に回転させるワイヤ巻取機と、を備える溶接ワイヤ巻替装置において、
前記ダンサーローラ機は、
前記ボビンから繰り出された前記溶接ワイヤを巻回すように、対向して離間配置された各々複数枚のプーリーからなる固定プーリー及び移動プーリーと、
前記複数枚からなる移動プーリーを回転自在に支持すると共に、前記固定プーリーに対して近接離隔自在に支持する支持機構と、
前記移動プーリーの位置を検出するセンサと、
前記移動ローラの前記固定ローラに対する間隔を調整する押動機構と、
前記複数枚のプーリーからなる固定プーリー及び前記複数枚のプーリーからなる移動プーリー間を通過した溶接ワイヤを巻付プーリーに巻き付けて速度を検出するワイヤ速度検出機構と、を備え、
前記押動機構は、
前記固定プーリー及び前記移動プーリーに巻回される溶接ワイヤの方向に沿って離間して設置された上側ホイール及び下側ホイールと、
前記上側ホイール及び下側ホイール間にかけ渡され、前記上側ホイール及び下側ホイール間における一側において前記支持機構で支持する移動プーリーを係合する張架材と、
前記移動プーリーに対して重量のバランスを保つように、前記上側ホイール及び下側ホイール間にかけ渡される前記張架材の他側に保持されたバランス錘と、
前記移動プーリーの位置を予め設定した設定位置となるように前記張架材を押動して調整するシリンダ機構と、
前記センサによる移動プーリーの検出位置が、設定位置と比較して当該設定位置から前記固定プーリー側に対して近づいた位置であったと判定した場合に、前記繰出回転駆動部を現速度より減速させる制御を行うと共に、前記センサによる移動プーリーの検出位置が、前記設定位置と比較して当該設定位置から前記固定プーリー側に対して遠ざかる位置であったと判定した場合に、前記繰出回転駆動部を現速度より加速させるように制御を行う制御機構と、を有することを特徴とする溶接ワイヤ巻替装置。
【請求項2】
前記支持機構は、前記移動プーリーを中央としてその左右に配置した移動ガイドレールと、この移動ガイドレールに沿って移動する移動車輪と、この移動車輪を支持すると共に前記移動プーリーを回転自在に支持する支持フレームとを備えることを特徴とする請求項1に記載の溶接ワイヤ巻替装置。
【請求項3】
前記押動機構は、前記下側ホイールが、前記上側ホイールから所定間隔を隔てた位置において並設した第1下側ホイール及び第2下側ホイールで構成したことを特徴とする請求項1に記載の溶接ワイヤ巻替装置。
【請求項4】
前記ワイヤ速度検出機構は、前記巻付プーリーのワイヤ接触面が、前記溶接ワイヤの直径に対して2倍より広い巻回幅面を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項の溶接ワイヤ巻替装置。
【請求項5】
前記ワイヤ速度検出機構は、前記巻付プーリーの設置位置を前記スプールの設置位置の高さに合わせて配置し、かつ、前記巻付プーリーの回転軸に前記溶接ワイヤの速度を測定するセンサを設置したことを特徴とする請求項1に記載の溶接ワイヤ巻替装置。
【請求項6】
前記溶接ワイヤを巻き付ける前記巻付プーリーの巻胴径、前記固定プーリーの巻胴径、及び前記移動プーリーの巻胴径を、前記スプールの巻胴径と同じかあるいはそれより大きく形成したことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の溶接ワイヤ巻替装置。
【請求項7】
前記溶接ワイヤは、ボビンからの巻き出された当該溶接ワイヤの向きを腹方向としたときに、前記固定プーリー、前記移動プーリー、前記巻付プーリー、並びに、前記スプールまで前記腹方向に巻き回されるように巻き回し向きを設定したことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の溶接ワイヤ巻替装置。
【請求項8】
前記溶接ワイヤがフラックスワイヤであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の溶接ワイヤ巻替装置。
【請求項9】
溶接ワイヤを巻いたボビンを回転自在に設置して前記溶接ワイヤを繰出回転駆動部の駆動により繰り出すワイヤ繰出機と、このワイヤ繰出機のボビンから繰り出される溶接ワイヤを固定プーリー及び移動プーリー間に巻回してテンションを一定に保つダンサーローラ機と、このダンサーローラ機を経由して前記溶接ワイヤを巻き取るスプールを回転自在に設置すると共に巻取回転駆動部により巻取り方向に回転させるワイヤ巻取機と、を備える溶接ワイヤ巻替装置において、
前記移動プーリーを予め設定した設定位置から前記固定プーリーに近接する方向、あるいは、前記移動プーリーが前記固定プーリーから離間する方向となる移動方向における前記移動プーリーの位置を検出するセンサと、
このセンサの検出した移動プーリーの位置が、前記設定位置と比較して当該設定位置から前記固定プーリー側に対して近づいたと判定した場合に、前記繰出回転駆動部を現速度より減速させるように制御を行うと共に、前記センサの検出した移動プーリーの位置が、前記設定位置と比較して当該設定位置から前記固定プーリー側に対して遠ざかったと判定した場合に、前記繰出回転駆動部を現速度より加速させるように制御する制御機構と、を備えることを特徴とする溶接ワイヤ巻替装置。
【請求項10】
溶接ワイヤを巻いたボビンを回転自在に設置して前記溶接ワイヤを繰出回転駆動部の駆動により繰り出すワイヤ繰出機と、このワイヤ繰出機のボビンから繰り出される溶接ワイヤを固定プーリー及び移動プーリー間に巻回してテンションを一定に保つダンサーローラ機と、このダンサーローラ機を経由して前記溶接ワイヤを巻き取るスプールを回転自在に設置すると共に巻取回転駆動部により巻取り方向に回転させるワイヤ巻取機と、を備える溶接ワイヤ巻替装置において、
前記移動プーリーを予め設定した設定位置から前記固定プーリーに近接する方向、あるいは、前記移動プーリーが前記固定プーリーから離間する方向となる移動方向における前記移動プーリーの位置を検出するセンサと、
前記センサが検出する移動プーリーの位置により前記繰出回転駆動部を制御する制御機構とを備え、
前記制御機構は、前記センサの検出した前記移動プーリーの検出位置を入力する入力手段と、
前記設定位置を記憶する記憶手段と、
前記入力手段に入力された検出位置が、前記記憶手段に記憶されている前記設定位置を越えたか否かを比較して判定する判定手段と、
この判定手段で、前記設定位置を前記検出位置が前記固定プーリー側に超えたと判定した場合に、前記繰出回転駆動部の速度を設定された基準速度より遅い速度に減速する信号を繰出回転駆動部に出力すると共に、前記判定手段で、前記設定位置を前記検出位置が越えないと判定した場合に、前記繰出回転駆動部に前記基準速度となる信号を出力する出力手段と、を有することを特徴とする溶接ワイヤ巻替装置。
【請求項11】
溶接ワイヤを巻いたボビンを回転自在に設置して前記溶接ワイヤを繰出回転駆動部の駆動により繰り出すワイヤ繰出機と、このワイヤ繰出機のボビンから繰り出される溶接ワイヤを対向して離間配置した固定プーリー及び移動プーリー間に巻回してテンションを一定に保って送り出すダンサーローラ機と、このダンサーローラ機を経由して送り出される溶接ワイヤを巻き取るスプールを着脱自在に設置すると共に巻取回転駆動部により巻取り方向に回転させるワイヤ巻取機と、を備える溶接ワイヤ巻替装置により溶接ワイヤを前記ボビンから前記スプールに巻き替える溶接ワイヤ巻替方法において、
前記溶接ワイヤを前記ワイヤ繰出機によりダンサーローラ機に繰り出すと共に、前記ダンサーローラ機における溶接ワイヤのテンションを調整する調整工程を行いながらダンサーローラ機で溶接ワイヤのテンションを一定にしてワイヤ巻取機のスプールに巻き取る工程を行い、
前記調整工程は、前記移動プーリーの位置をセンサにより検出し、前記移動プーリーが予め設定した閾値の範囲を外れた場合に、制御機構により、前記繰出回転駆動部の基準速度を減速させる工程と、
前記センサにより検出した前記移動プーリーの位置が前記閾値の範囲になったときに、前記繰出回転駆動部を基準速度にする工程とを行うことを特徴とする溶接ワイヤ巻替方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−82023(P2012−82023A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226811(P2010−226811)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】