説明

溶接方法および装置

【課題】ランニングコストを抑えつつ、生産能力の向上を実現する。
【解決手段】溶接装置1は、自身の内部を真空雰囲気に保つ一つの真空チャンバ100と、この真空チャンバ100内に設けられた一つの溶接ヘッド230と、この溶接ヘッド230に対して、水平軸回りに回転可能に配設された溶接ローラ240と、真空チャンバ100内における溶接ヘッド230の下方において、ワークトレイ20上に配列された複数のワーク10が当該ワークトレイ20と共に載置されるキャリア210と、溶接ヘッド230またはキャリア210を水平面内に略90度回転させて、溶接ローラ240およびワーク10を略90度相対回転させるキャリア回転機構225と、を備え、相対回転前のワーク10の一方の対辺を、一つの溶接ヘッド230によって真空雰囲気下で溶接すると共に、相対回転後のワーク10の他方の対辺を、一つの溶接ヘッドによって真空雰囲気下で溶接するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シーム溶接に適した溶接方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子等の電子部品は、パッケージの開口に蓋となるリッド(以下、パッケージとリッドをまとめてワークともいう。)をシーム溶接する等して製造される(例えば、特許文献1〜3参照)。シーム溶接は、X、Y方向のマトリクス状に配列された複数のワークにローラ電極を押し付けて、パルス状の電圧を印加しながら転動させることによって行われる。
【0003】
このようなシーム溶接は、チャンバ内に窒素ガスを充填した窒素ガス下で行われたり、チャンバ内を真空雰囲気(略真空)に保った真空雰囲気下で行われたりする。これにより、ワーク内に空気が入ることを防止できる。
【0004】
また、シーム溶接は、X方向の行毎にX方向に沿って全てのワークに行われてから、その後、Y方向の列毎にY方向に沿って全てのワークに行われる。これにより、複数の電子部品を効率良く短時間に製造できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−194544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
窒素ガス下でシーム溶接を行う場合には、窒素ガスを充填し続ける必要がある。この場合においてチャンバ内で不具合が発生し、その不具合を解消した後は、窒素ガスを充填し直して復帰させる必要がある。窒素ガスの充填し直しは、露点を下げるために十分に行う必要がある。このように、窒素ガスを消耗するので、ランニングコストが嵩む等の問題があった。また、チャンバ内で不具合が発生した場合には、窒素ガスの充填し直しに長い時間が掛かり、電子部品の生産能力が低下する等の問題があった。
【0007】
また、電子部品は低価格化の傾向にあり、その低価格化の傾向を補うためにも、生産能力の向上が懇願されていた。
【0008】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、ランニングコストを抑えつつ、生産能力の向上を実現する溶接方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者の鋭意研究により、上記目的は以下の手段によって達成される。
【0010】
(1)本発明は、自身の内部を真空雰囲気に保つ一つの真空チャンバと、前記真空チャンバ内に設けられた一つの溶接ヘッドと、前記溶接ヘッドに対して、水平軸回りに回転可能に配設された溶接ローラと、前記真空チャンバ内における前記溶接ヘッドの下方において、ワークトレイ上に配列された複数のワークが該ワークトレイと共に載置されるキャリアと、前記溶接ヘッドまたは前記キャリアを水平面内に略90度回転させて、前記溶接ローラおよび前記ワークを略90度相対回転させる回転機構と、を備え、相対回転前の前記ワークの一方の対辺を、前記一つの溶接ヘッドによって真空雰囲気下で溶接すると共に、相対回転後の前記ワークの他方の対辺を、前記一つの溶接ヘッドによって真空雰囲気下で溶接することを特徴とする、溶接装置である。
【0011】
(2)本発明はまた、前記溶接ヘッドは、溶接ヘッド用ベースと、前記溶接ヘッド用ベースに対して鉛直方向に移動可能な鉛直方向可動部材と、前記鉛直方向可動部材に配設されて前記溶接ローラを前記水平軸回りに回転可能に保持すると共に、該溶接ローラに電流を供給する溶接ローラ保持部と、を備え、前記鉛直方向可動部材は、熱伝導性と、熱放射性と、絶縁性と、を有してなることで、前記溶接ローラで発生する溶接熱は、前記溶接ローラ保持部を経て前記鉛直方向可動部材に伝達すると同時に該鉛直方向可動部材の表面から外部に放熱され、且つ、前記溶接ローラ保持部と前記溶接ヘッド用ベースとは前記鉛直方向可動部材によって絶縁されることを特徴とする、上記(1)に記載の溶接装置である。
【0012】
(3)本発明はまた、前記鉛直方向可動部材は、熱伝導率が170W/(m・K)以上の材料からなることを特徴とする、上記(2)に記載の溶接装置である。
【0013】
(4)本発明はまた、前記鉛直方向可動部材は、熱の放射率が0.8以上の材料からなることを特徴とする、上記(2)または(3)に記載の溶接装置である。
【0014】
(5)本発明はまた、前記鉛直方向可動部材は、絶縁抵抗値が10Ω・cm以上の材料からなることを特徴とする、上記(2)乃至(4)のいずれかに記載の溶接装置である。
【0015】
(6)本発明はまた、前記鉛直方向可動部材は、セラミックスからなることを特徴とする、上記(2)乃至(5)のいずれかに記載の溶接装置である。
【0016】
(7)本発明はまた、前記セラミックスは、炭化ケイ素または窒化アルミニウムであることを特徴とする、上記(6)に記載の溶接装置である。
【0017】
(8)本発明はまた、前記真空チャンバ内において、前記ワークを冷却する内部冷却ユニットを備えることを特徴とする、上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の溶接装置である。
【0018】
(9)本発明はまた、前記真空チャンバを外部から冷却する外部冷却ユニットを備えることを特徴とする、上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の溶接装置である。
【0019】
(10)本発明はまた、自身の内部を真空雰囲気に保つ一つの真空チャンバ内に、一つの溶接ヘッドと、前記溶接ヘッドに対して、水平軸回りに回転可能に配設された溶接ローラと、前記溶接ヘッドの下方において、ワークトレイ上に配列された複数のワークが該ワークトレイと共に載置されるキャリアと、前記溶接ヘッドまたは前記キャリアを水平面内に略90度回転させて、前記溶接ローラおよび前記ワークを略90度相対回転させる回転機構と、を備えることで、相対回転前の前記ワークの一方の対辺を、前記一つの溶接ヘッドによって真空雰囲気下で溶接すると共に、相対回転後の前記ワークの他方の対辺を、前記一つの溶接ヘッドによって真空雰囲気下で溶接することを特徴とする、溶接方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ランニングコストを抑えつつ、歩留まりが低下することを防止できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係る溶接装置の平面図である。
【図2】溶接装置の正面図である。
【図3A】溶接ヘッドの拡大正面図である。
【図3B】溶接ヘッドの拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の例について詳細に説明する。なお、以下の説明では、図に示したX、Y、Z軸を基準として方向を説明する。X、Y軸は互いに直角な水平軸であり、Z軸はX、Y軸に直角な鉛直軸である。図のX軸方向は本発明に係るX方向であり、Y軸方向は本発明に係るY方向であり、Z軸方向は本発明に係るZ方向であるが、本発明はこれに限定されるものではない。各図において、一部の構成の図示を適宜省略して、図面を簡略化している。
【0023】
図1は本発明の実施の形態に係る溶接装置1の平面図である。図2は溶接装置1の正面図である。図3Aは溶接ヘッド230の拡大正面図である。図3Bは溶接ヘッド230の拡大側面図である。なお、図1〜図3では、一部を断面にして、断面部分を斜線で示している。
【0024】
これらの図に示される溶接装置1は、電子部品を製造するラインに設置され、真空雰囲気中でワーク10に対してシーム溶接する際に使用される。ワーク10は、パッケージの開口に蓋となるリッドが載置され、または、仮付けされた状態で、ワークトレイ20上に配列される。ワークトレイ20上には、ワーク10を収容する複数の窪みがX、Y軸方向のマトリクス状に形成されており、複数のワーク10はX、Y軸方向のマトリクス状に配列される。
【0025】
溶接装置1は、ワークトレイ20上に配列した複数のワーク10を全体としてX軸方向に搬送しながらまとめて溶接する。具体的に、溶接装置1は、内部を真空雰囲気に保つ真空チャンバ100と、この真空チャンバ100内において複数のワーク10に対して溶接する溶接ユニット200と、真空チャンバ100の上流側に並設された仕込室(ロードロック)300と、真空チャンバ100の下流側に並設された取出室(アンロードロック)400と、真空チャンバ100にワーク10を送り込む上流側搬送ユニット500と、真空チャンバ100からワーク10を送り出す下流側搬送ユニット600と、制御ユニット(図示省略)と、等を備えている。
【0026】
これら溶接装置1の各部は、制御ユニットによって統括的に制御される。制御ユニットは、CPU、RAMおよびROM等から構成され、各種制御を実行する。CPUは、いわゆる中央演算処理装置であり、各種プログラムが実行されて各種機能(例えば、溶接回数をカウントする機能)を実現する。RAMは、CPUの作業領域として使用される。ROMは、CPUで実行されるプログラムを記憶する。
【0027】
真空チャンバ100は、略六面体の箱形容器であるチャンバ本体110と、真空ポンプ120と、大気開放弁130と、を備えている。チャンバ本体110には、上流側の側壁に仕込室300と連通する第一開口112が形成されていると共に、下流側の側壁に取出室400と連通する第二開口114が形成されている。第一開口112は、後述する仕込室300の上流側仕切扉315によって開閉される。第二開口114は、後述する取出室400の下流側仕切扉415によって開閉される。第一開口112および第二開口114が閉じられた状態の真空チャンバ100は、真空ポンプの動作によって、チャンバ本体110内の空気圧を大気圧から真空雰囲気までの任意の圧力に制御する。大気開放弁130は、メンテナンス時等に利用される。
【0028】
溶接ユニット200は、複数のワーク10がワークトレイ20と共に載置されるキャリア210と、このキャリア210をX軸方向に移動させるキャリア移動機構220と、キャリア210を水平面内に略90度回転させるキャリア回転機構225と、一対の溶接ローラ240を有する溶接ヘッド230と、この溶接ヘッド230をY軸方向に移動させる溶接ヘッド移動機構250と、溶接ヘッド230を構成する溶接ヘッド用ベース231に対してZ軸方向に移動可能に配設されて溶接ローラ240を回転可能に支持する一対のローラハウジング270と、を備えている。
【0029】
キャリア210は、チャンバ本体110内の下方に、X軸方向に直線移動可能に、かつ、水平面内に略90度回転可能に配設されている。キャリア移動機構220およびキャリア回転機構225は、キャリア210の動力源として、チャンバ本体110内の底面に配設されている。具体的に、キャリア移動機構220は、X軸方向に沿って互いに平行に配設された一対のキャリア用レール222と、これら一対のキャリア用レール222に沿ってX軸方向に直線移動するリニアモータ式の二対のキャリア用スライダ224と、を備えている。二対のキャリア用スライダ224は、キャリア回転機構225を介してキャリア210を搭載し、当該キャリア210について、一対のキャリア用レール222に沿ったX軸方向の直線移動を可能にする。キャリア回転機構225は、二対のキャリア用スライダ224に固定された固定ベース226と、このベース226に回転可能に取り付けられた回転ベース228と、回転ベース228を回転させるモータ(図示省略)と、を備えている。回転ベース228は、キャリア210を搭載し、当該キャリア210について、水平面内の回転を可能にする。
【0030】
溶接ヘッド230は、基礎となる溶接ヘッド用ベース231と、この溶接ヘッド用ベース231の前面に対してY軸方向に沿って互いに平行に配設された一対のY方向レール232と、これら一対のY方向レール232に沿ってY軸方向に直線移動するリニアモータ式の二対のY方向スライダ233と、これら二対のY方向スライダ233に対してZ軸方向に沿って互いに平行に配設された一対のZ方向レール234と、これら一対のZ方向レール234に沿ってZ軸方向に直線移動するリニアモータ式の二対のZ方向スライダ235と、これら二対のZ方向スライダ235に取り付けられてZ軸方向に移動可能な一対の鉛直方向可動部材260と、これら一対の鉛直方向可動部材260の下端に配設された一対のローラ保持部236と、これら一対のローラ保持部236に着脱可能に配設された一対のローラハウジング270と、これら一対のローラハウジング270に対して回転シャフト237が回転可能に支持される一対の溶接ローラ240と、を備えている。
【0031】
溶接ヘッド用ベース231は、キャリア210の上方に、水平方向となるY軸方向に直線移動可能に配設されている。溶接ヘッド移動機構250は、溶接ヘッド230の動力源として、チャンバ本体110内の天井に配設されている。具体的に、溶接ヘッド移動機構250は、Y軸方向に沿って配設された溶接ヘッド用レール252と、この溶接ヘッド用レール252に沿ってY軸方向に直線移動するリニアモータ式の溶接ヘッド用スライダ254と、を備えている。溶接ヘッド用スライダ254は、溶接ヘッド用ベース231を搭載し、溶接ヘッド230について、溶接ヘッド用レール252に沿ったY軸方向の直線移動を可能にする。
【0032】
鉛直方向可動部材260は、溶接ヘッド用ベース231の前面に対し、Z軸方向に移動可能に配設されている。この鉛直方向可動部材260は、熱伝導性と、熱放射性と、絶縁性と、を有する材料からなり、シーム溶接により生じる熱の放熱性能を高めている。また、この鉛直方向可動部材260は、真空チャンバ100の内壁と対向する所定の面積となる放熱面260Aを備えている。この放熱面260Aによって、途中に気体(媒介)が存在しない真空環境下であっても、真空チャンバ100の内壁に熱を伝達する。即ち、溶接ローラ240で発生する溶接熱は、ローラ保持部236を経て鉛直方向可動部材260に伝達すると同時に当該鉛直方向可動部材260の表面(ひょうめん)から真空チャンバ100の内壁まで放熱される。また、ローラ保持部236と溶接ヘッド用ベース231とは、鉛直方向可動部材260によって絶縁される。なお、鉛直方向可動部材260の前面を放熱面260Aとする場合は、その面積を可能な限り大きく設定し、放熱性能を高めることが好ましい。また、この放熱面の面積は、3cm以上、好ましくは5cm以上を確保することが望ましい。
【0033】
鉛直方向可動部材260の材料は、熱伝導率が170W/(m・K)以上であることが好ましい。そして、鉛直方向可動部材260の材料は、熱の放射率が0.8以上であること、すなわち、1に近いことが好ましい。また、鉛直方向可動部材260の材料は、絶縁抵抗が10Ω・cm以上であることが好ましい。さらに、鉛直方向可動部材260の材料は、防錆性、軽量性を有することが好ましい。鉛直方向可動部材260の材料には、セラミックスが適しており、その中では、炭化ケイ素または窒化アルミニウムが更に適している。採用するセラミックスの熱の放射率は0.8以上1.0以下であることが好ましく、0.93以上0.95以下であることがより好ましい。すなわち、セラミックスの熱の放射率は、アルミニウムの熱の放射率の0.02以上0.1以下や、鉄の熱の放射率の0.5以上0.9以下と比較すると高い。炭化ケイ素は、熱伝導率が170W/(m・K)であり、熱の放射率が0.8以上1.0以下であり、絶縁抵抗が10Ω・cm以上5×10Ω・cm以下である。窒化アルミニウムは、熱伝導率が170W/(m・K)以上230W/(m・K)以下であり、熱放射率が0.93であり、絶縁抵抗が1013Ω・cm以上である。なお、炭化ケイ素および窒化アルミニウムは、上記の好ましいとした条件を全て満たしている。
【0034】
ローラ保持部236は、鉛直方向可動部材260の下端に配設されて溶接ローラ240を回転可能に保持すると共に、当該溶接ローラ240に電流を供給して、溶接ローラ240による溶接を可能にする。
【0035】
ローラハウジング270は、溶接ローラ240との間に介在させる通電用の導電ペーストを内包している。このローラハウジング270は、溶接ローラ240と一体に構成されており、当該溶接ローラ240と一体に交換可能となっている。
【0036】
一対の溶接ローラ240は、鉛直方向可動部材260によってZ軸方向に移動可能で、かつ、溶接ヘッド用ベース231と共にY軸方向に移動可能となっている。また、一対の溶接ローラ240は、Y軸回りに回転可能となっている。さらに、一対の溶接ローラ240は、Y方向スライダ233によってY方向に移動して互いの間隔が調整可能となっている。これら一対の溶接ローラ240は、溶接電極を構成し、ワーク10に対してシーム溶接をする。すなわち、一対の溶接ローラ240は、ワーク10に対してパルス状の電圧を印加しながら転動することによって、当該ワーク10に対するシーム溶接をする。このため、一対の溶接ローラ240は、溶接ヘッド用ベース231と絶縁をする必要があるが、その絶縁は、絶縁性を有する鉛直方向可動部材260によって実現されている。
【0037】
この溶接装置1では、溶接ユニット200において、キャリア210をX軸方向に移動させると共に、溶接ヘッド230をY軸方向に移動させることで、ワークトレイ20上にマトリクス状に配列された任意のワーク10の上に一対の溶接ローラ240を配置できる。
【0038】
仕込室300は、真空チャンバ100を真空雰囲気に保ちながら大気中から当該真空チャンバ100に複数のワーク10を送り込む機能を有する。具体的に、仕込室300は、略六面体の箱形容器である仕込室本体310と、仕込室本体用真空ポンプ320と、仕込室本体用大気開放弁330と、を備えている。仕込室本体310には、上流側の側壁に外部に連通する仕込室本体用外部開口312が形成されて、当該仕込室本体用外部開口312を開閉する仕込室本体用外部扉313を備えている。また、仕込室本体310には、真空チャンバ100側の側壁に第一開口112を介して真空チャンバ100と連通する仕込室本体用連通口314が形成されて、当該仕込室本体用連通口314を開閉する上流側仕切扉315を備えている。仕込室本体用外部開口312および仕込室本体用連通口314が閉じられた状態の仕込室300は、仕込室本体用真空ポンプ320の動作によって、仕込室本体310内の空気圧を大気圧から真空雰囲気までの任意の圧力に制御する。なお、仕込室300は、仕込室本体用真空ポンプ320として、真空ポンプ120を兼用するように構成することも可能であり、仕込室本体用真空ポンプ320を省略することも可能である。
【0039】
取出室400は、真空チャンバ100を真空雰囲気に保ちながら当該真空チャンバ100から大気中に複数のワーク10を送り出す機能を有する。具体的に、取出室400は、略六面体の箱形容器である取出室本体410と、取出室本体用真空ポンプ420と、取出室本体用大気開放弁430と、を備えている。取出室本体410には、下流側の側壁に外部に連通する取出室本体用外部開口412が形成されて、当該取出室本体用外部開口412を開閉する取出室本体用外部扉413を備えている。また、取出室本体410には、真空チャンバ100側の側壁に第二開口114を介して真空チャンバ100と連通する取出室本体用連通口414が形成されて、当該取出室本体用連通口414を開閉する下流側仕切扉415を備えている。取出室本体用外部開口412および取出室本体用連通口414が閉じられた状態の取出室400は、取出室本体用真空ポンプ420の動作によって、取出室本体410内の空気圧を大気圧から真空雰囲気までの任意の圧力に制御する。なお、取出室400は、取出室本体用真空ポンプ420として、真空ポンプ120を兼用するように構成することも可能であり、取出室本体用真空ポンプ420を省略することも可能である。
【0040】
上流側搬送ユニット500は、上流側第一搬送機構510と、上流側第二搬送機構520と、を備え、これらが上流側から順に配設されている。上流側第一搬送機構510は、仕込室本体310の外側底面における仕込室本体用外部扉313の近傍に配設され、ワークトレイ20を仕込室本体310の外側から内側に向けて搬送する。具体的に、上流側第一搬送機構510は、X軸方向に連続して配列された複数の上流側第一搬送ローラ512を備えている。これら複数の上流側第一搬送ローラ512は、それぞれ、Y軸回りに回転可能に配設され、ワークトレイ20をX軸方向に搬送する。上流側第二搬送機構520は、仕込室本体310の内側底面に配設され、ワークトレイ20を仕込室本体310からチャンバ本体110に向けて搬送する。具体的に、上流側第二搬送機構520は、X軸方向に連続して配設された複数の上流側第二搬送ローラ522を備えている。これら複数の上流側第二搬送ローラ522は、それぞれ、Y軸回りに回転可能に配設され、ワークトレイ20をX軸方向に搬送する。
【0041】
下流側搬送ユニット600は、下流側第一搬送機構610と、下流側第二搬送機構620と、を備え、これらが下流側へ順に配設されている。下流側第一搬送機構610は、取出室本体410の内側底面に配設され、ワークトレイ20を取出室本体410の内側から外側に向けて搬送する。具体的に、下流側第一搬送機構610は、X軸方向に連続して配設された複数の下流側第一搬送ローラ612を備えている。これら複数の下流側第一搬送ローラ612は、それぞれ、Y軸回りに回転可能に配設され、ワークトレイ20をX軸方向に搬送する。下流側第二搬送機構620は、取出室本体410の外側底面における取出室本体用外部扉413の近傍に配設され、ワークトレイ20を取出室本体410の外側から遠退くように搬送する。具体的に、下流側第二搬送機構620は、X軸方向に連続して配設された複数の下流側第二搬送ローラ622を備えている。これら複数の下流側第二搬送ローラ622は、それぞれ、Y軸回りに回転可能に配設され、ワークトレイ20をX軸方向に搬送する。
【0042】
この溶接装置1では、溶接ユニット200において、キャリア210をX軸方向に移動させると共に、溶接ヘッド230をY軸方向に移動させることで、ワークトレイ20上にマトリクス状に配列された任意のワーク10の上に一対の溶接ローラ240を配置できる。そして、複数のワーク10に対して溶接ローラ240をつづら折り状または川の字状に相対移動させることで、複数のワーク10をX軸方向の行毎にX軸方向に沿って溶接できる。その後、キャリア210を90度回転させて複数のワーク10の姿勢を90度回転させてから、複数のワーク10に対して溶接ローラ240を同様に移動させることで、複数のワーク10をX軸方向の行毎にX軸方向に沿って溶接できる。
【0043】
次に、溶接装置1によるシーム溶接の手順について説明する。
【0044】
まず、ワークトレイ20に配列された複数のワーク10を、仕込室300を経由して真空チャンバ100のチャンバ本体110内に送り込む。仕込室300を経由することで、チャンバ本体110内を真空雰囲気に保ち続けた状態で送り込める。そして、チャンバ本体110内に送り込まれた複数のワーク10を、溶接ユニット200において溶接する。その後、溶接後のワーク10を、チャンバ本体110内から取出室400を経由して大気中に送り出す。取出室400を経由することで、チャンバ本体110内を真空雰囲気に保ち続けた状態で送り出せる。なお、仕込室300を経由したワーク10の流れの詳細、あるいは、取出室400を経由したワーク10の流れの詳細は、上記特許文献1を参照されたい。
【0045】
次に、シーム溶接により生じる熱の経路について説明する。
【0046】
シーム溶接によりワーク10や溶接ヘッド240に生じた熱は、ローラハウジング270に移動する。ローラハウジング270に移動した熱は、当該ローラハウジング270から鉛直方向可動部材260に移動する。鉛直方向可動部材260に移動した熱は、当該鉛直方向可動部材260内を伝導して、当該鉛直方向可動部材260の前面に拡散する。鉛直方向可動部材260の前面に拡散した熱は、真空雰囲気中に放射して、真空チャンバ100の外部に放出される。
【0047】
以上説明したように、本実施形態に係る溶接装置1は、自身の内部を真空雰囲気に保つ一つの真空チャンバ100と、この真空チャンバ100内に設けられた一つの溶接ヘッド230と、この溶接ヘッド230に対して、水平軸回りに回転可能に配設された溶接ローラ240と、真空チャンバ100内における溶接ヘッド230の下方において、ワークトレイ20上に配列された複数のワーク10が当該ワークトレイ20と共に載置されるキャリア210と、このキャリア210を水平面内に略90度回転させて、溶接ローラ240およびワーク10を略90度相対回転させる回転機構(図示省略)と、を備えている。
【0048】
そして、溶接装置1は、相対回転前のワーク10の一方の対辺を、一つの溶接ヘッド230によって真空雰囲気下で溶接すると共に、相対回転後のワーク10の他方の対辺を、一つの溶接ヘッド230によって真空雰囲気下で溶接する。
【0049】
このため、真空雰囲気に保った真空チャンバ100内でシーム溶接を完結でき、生産能力の向上を実現できる。また、窒素ガスを充填したチャンバ内でシーム溶接を行って窒素ガスを消耗する場合と比較して、ランニングコストを抑えられる。さらに、窒素ガスを充填したチャンバ内で不具合が発生した場合には、その不具合を解消した後に、窒素ガスの充填し直しを十分に行って露点を下げる必要がある。結果、長い時間が掛かり、電子部品の生産能力が低下する等の問題があったが、窒素ガスを必要としていないので、このような問題がない。
【0050】
また、溶接装置1は、溶接ヘッド用ベース231と、この溶接ヘッド用ベース231に対してZ軸方向に移動可能な鉛直方向可動部材260と、この鉛直方向可動部材260に配設されて溶接ローラ240を回転可能に保持すると共に、当該溶接ローラ240に電流を供給するローラ保持部236と、を備えている。
【0051】
そして、鉛直方向可動部材260は、絶縁性を有している。このため、溶接ヘッド230を溶接ローラ240から絶縁するために、ローラ保持部236と鉛直方向可動部材260との間に絶縁体を介在させる必要がない。このような絶縁体を介在させなければ、シーム溶接によって溶接ローラ240から生じる熱のローラ保持部236から鉛直方向可動部材260への移動を妨げることはない。また、鉛直方向可動部材260は、熱伝導性を有している。このため、ローラ保持部236から鉛直方向可動部材260に移動した熱を当該鉛直方向可動部材260の前面に拡散させることができる。さらに、鉛直方向可動部材260は、熱放射性を有しており、更に真空チャンバ100の内壁に対向する熱放射面260Aを備えている。このため、鉛直方向可動部材260の前面に拡散した熱を、この熱放射面260Aから放射させることができ、ひいては、溶接ローラ240およびローラ保持部236に熱が蓄積することを防止できる。すなわち、放熱性能を向上させられる。結果、溶接ローラ240およびローラハウジング270の間に介在する導電ペーストが溶けて外部に流出することを防止でき、ひいては、溶接ローラ240の通電に不具合を生じさせることを防止できる。結果、溶接装置1を長時間連続使用できる。
【0052】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨および技術思想を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0053】
すなわち、上記実施形態において、溶接装置1は、キャリア210を水平面内に略90度回転させて、溶接ローラ240およびワーク10を略90度相対回転させるキャリア回転機構225に代えて、溶接ヘッド230を水平面内に略90度回転させて、溶接ローラ240およびワーク10を略90度相対回転させる溶接ヘッド回転機構を備えるようにしてもよい。
【0054】
あるいは、上記実施形態において、溶接装置1は、真空チャンバ100内において、ワーク10を冷却する内部冷却ユニットを備えるようにしてもよい。内部冷却ユニットは、冷媒用のタンクと、一対の内部冷却用配管と、内部冷却用熱交換器と、内部冷却用ポンプと、を備えている。
【0055】
タンクは、キャリア210に内蔵されている。このタンクは、一対の内部冷却用配管が接続されている。これら一対の内部冷却用配管はそれぞれ、キャリア210の移動や回転に伴って移動できる長さを有する。また、これら一対の内部冷却用配管はそれぞれ、タンクと、内部冷却用ポンプと、を接続する。一方の内部冷却用配管は、内部冷却用ポンプからの水等の冷媒をタンクに送り出す。他方の内部冷却用配管は、タンクを循環した冷媒を、内部冷却用熱交換器を経由して内部冷却用ポンプに回収する。内部冷却用熱交換器は、冷却に使用されて熱を帯びた冷媒を冷却する。内部冷却用ポンプは、冷媒を循環させる。熱対策を講じない場合には、キャリア210の反りや延びが発生したり、チャンバ本体110などの各部材が変形したりするが、内部冷却ユニットによる熱対策により、各部材の変形が防止できる。
【0056】
あるいは、上記実施形態において、溶接装置1は、真空チャンバ100を外部から冷却する外部冷却ユニットを備えるようにしてもよい。外部冷却ユニットは、チャンバ本体110の外表面に配設されて、鉛直方向可動部材260等から放射(輻射)された熱を吸収し、ひいては、ワーク10や溶接ユニット200などを冷却する。具体的に、外部冷却ユニットは、冷媒用のタンクとなるジャケットと、一対の外部冷却用配管と、外部冷却用熱交換器と、外部冷却用ポンプと、を備えている。
【0057】
ジャケットは、コの字形に形成され、数ミリ程度の厚さを有する。このジャケットは、両端に一対の外部冷却用配管が接続されている。一対の外部冷却用配管はそれぞれ、ジャケットと、外部冷却用ポンプと、を接続する。一方の外部冷却用配管は、外部冷却用ポンプからの水等の冷媒をジャケットに送り出す。他方の外部冷却用配管は、ジャケットを循環した冷媒を、外部冷却用熱交換器を経由して外部冷却用ポンプに回収する。外部冷却用熱交換器は、冷却に使用されて熱を帯びた冷媒を冷却する。外部冷却用ポンプは、冷媒を循環させる。熱対策を講じない場合には、キャリア210の反りや延びが発生したり、チャンバ本体110などの各部材が変形したりするが、外部冷却ユニットによる熱対策により、各部材の変形が防止できる。
【0058】
あるいは、上記実施形態における溶接装置1は、電子部品を製造するラインにおいて、パッケージとリッドとをシーム溶接する場合を例示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、パッケージに対してリッドの一部を溶接する仮付け工程や、パッケージに対してシームリングを仮付けする溶接工程など、他の組立工程で用いることも可能である。
【0059】
また、上記実施形態において、鉛直方向可動部材260は、その全体が、熱伝導性と、熱放射性と、絶縁性と、を有する材料からなるようにするだけでなく、その一部が、熱伝導性と、熱放射性と、絶縁性と、を有する材料からなるようにしてもよい。この場合、少なくともその一部は、ローラ保持部236との接触箇所に介在して、絶縁を確保しながらローラ保持部236の熱を回収することが重要である。また、少なくともその一部は、真空チャンバ100の内壁に対向するような、ある程度の表面(ひょうめん)を確保することが好ましい。この表面を放熱面として、ローラ保持部236から回収した熱を真空チャンバ100の内壁に対して放射できるからである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の溶接装置は、電子機器や電子部品もしくはその他の各種物品の製造、または物流の分野において利用できる。
【符号の説明】
【0061】
1 溶接装置
10 ワーク
20 ワークトレイ
100 真空チャンバ
200 溶接ユニット
210 キャリア
225 キャリア回転機構(回転機構)
230 溶接ヘッド
231 溶接ヘッド用ベース
236 ローラ保持部
240 溶接ローラ
260 鉛直方向可動部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自身の内部を真空雰囲気に保つ一つの真空チャンバと、
前記真空チャンバ内に設けられた一つの溶接ヘッドと、
前記溶接ヘッドに対して、水平軸回りに回転可能に配設された溶接ローラと、
前記真空チャンバ内における前記溶接ヘッドの下方において、ワークトレイ上に配列された複数のワークが該ワークトレイと共に載置されるキャリアと、
前記溶接ヘッドまたは前記キャリアを水平面内に略90度回転させて、前記溶接ローラおよび前記ワークを略90度相対回転させる回転機構と、を備え、
相対回転前の前記ワークの一方の対辺を、前記一つの溶接ヘッドによって真空雰囲気下で溶接すると共に、相対回転後の前記ワークの他方の対辺を、前記一つの溶接ヘッドによって真空雰囲気下で溶接することを特徴とする、
溶接装置。
【請求項2】
前記溶接ヘッドは、
溶接ヘッド用ベースと、
前記溶接ヘッド用ベースに対して鉛直方向に移動可能な鉛直方向可動部材と、
前記鉛直方向可動部材に配設されて前記溶接ローラを前記水平軸回りに回転可能に保持すると共に、該溶接ローラに電流を供給する溶接ローラ保持部と、を備え、
前記鉛直方向可動部材は、熱伝導性と、熱放射性と、絶縁性と、を有してなることで、
前記溶接ローラで発生する溶接熱は、前記溶接ローラ保持部を経て前記鉛直方向可動部材に伝達すると同時に該鉛直方向可動部材の表面から外部に放熱され、且つ、前記溶接ローラ保持部と前記溶接ヘッド用ベースとは前記鉛直方向可動部材によって絶縁されることを特徴とする、
請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記鉛直方向可動部材は、熱伝導率が170W/(m・K)以上の材料からなることを特徴とする、
請求項2に記載の溶接装置。
【請求項4】
前記鉛直方向可動部材は、熱の放射率が0.8以上の材料からなることを特徴とする、
請求項2または3に記載の溶接装置。
【請求項5】
前記鉛直方向可動部材は、絶縁抵抗値が10Ω・cm以上の材料からなることを特徴とする、
請求項2乃至4のいずれかに記載の溶接装置。
【請求項6】
前記鉛直方向可動部材は、セラミックスからなることを特徴とする、
請求項2乃至5のいずれかに記載の溶接装置。
【請求項7】
前記セラミックスは、炭化ケイ素または窒化アルミニウムであることを特徴とする、
請求項6に記載の溶接装置。
【請求項8】
前記真空チャンバ内において、前記ワークを冷却する内部冷却ユニットを備えることを特徴とする、
請求項1乃至7のいずれかに記載の溶接装置。
【請求項9】
前記真空チャンバを外部から冷却する外部冷却ユニットを備えることを特徴とする、
請求項1乃至8のいずれかに記載の溶接装置。
【請求項10】
自身の内部を真空雰囲気に保つ一つの真空チャンバ内に、
一つの溶接ヘッドと、
前記溶接ヘッドに対して、水平軸回りに回転可能に配設された溶接ローラと、
前記溶接ヘッドの下方において、ワークトレイ上に配列された複数のワークが該ワークトレイと共に載置されるキャリアと、
前記溶接ヘッドまたは前記キャリアを水平面内に略90度回転させて、前記溶接ローラおよび前記ワークを略90度相対回転させるキャリア回転機構と、を備えることで、
相対回転前の前記ワークの一方の対辺を、前記一つの溶接ヘッドによって真空雰囲気下で溶接すると共に、相対回転後の前記ワークの他方の対辺を、前記一つの溶接ヘッドによって真空雰囲気下で溶接することを特徴とする、
溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【公開番号】特開2013−86162(P2013−86162A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231260(P2011−231260)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(501410137)アキム株式会社 (49)