説明

溶接治具

【課題】溶接不良の低減を図った溶接治具を提供するにある。
【解決手段】ブラケット24に取付けられた上型25と、治具ベース21上に設けられた下型22とを有し、この下型22上に被溶接部材2の突き合わせ部を載せ、上型25を上方から下型に向かってプレスして被溶接部材2を保持するように構成した溶接治具20において、ブラケット24には上型25の受部29が設けられると共に、上型25を複数個に分割し、これらの上型25a〜25cをブラケット24にスライド可能に取り付ける一方、分割された上型25a〜25cのうちプレス方向に平行、またはそれに近い方向に延びる被溶接部材2の突き合わせ部の上型25cとその受部29cとの間に弾性体32を弾装し、この弾性体32の付勢力の方向を被溶接部材2の突き合わせ部と直交させたものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は溶接治具に係り、特に自動二輪車用の燃料タンク等の半割状の素材を接合するための溶接治具に関する。
【0002】
【従来の技術】半割状の被溶接部材である金属板プレス素材(ワーク)を突き合わせ、この突き合わせ部を溶接したものに、例えば図3に示すような自動二輪車用の燃料タンク1がある。この燃料タンク1は、図4に示すように、アウタータンク2とインナータンク3とをタンク1の最下部にて接合したものであるが、アウタータンク2は、さらに半割状のアウターレフト2Lとアウターライト2Rとを突き合わせ、この突き合わせ部を溶接することにより形成されている。
【0003】突き合わせ部の溶接は、例えば図5および図6に示すような溶接治具4を用いて行われる場合が多い。この溶接治具4は、主に治具ベース5上に設けられた下型6と、プレスプレート7下部にブラケット8を介して設けられた上型9とから構成され、上型9と下型6との対向面はワーク2、この場合はアウタータンク2の突き合わせ部に倣った形状となっている。
【0004】そして、下型6上に半割状のワーク2の突き合わせ部を載せ、上方から上型9を下型6に向かってプレスしてワーク2を保持し、プレスプレート7に設けられている作業穴10から図示しない溶接トーチを挿入して突き合わせ部を溶接するようになっている。
【0005】また、ブラケット8に設けられた上型9の受部11と上型9との間に必要に応じてシム12を挟み込み、ワーク2の押え不足を補っている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上型に掛かるプレス方向は治具ベースに直交する方向であるため、治具ベースに対して直交、すなわちプレス方向に平行またはそれに近い方向に延びる突き合わせ部、図5においては円で囲った部分Aに対しては充分なプレス力が掛からない。また、例え上述したようにシムを用いてもワークの押え不足は充分に補えない。
【0007】下型は冷却金具を兼ねているので、プレス力が不足してワークと下型との接触が不充分になると溶接熱が充分に逃げ切らず、穴開きやピンホール等の溶接不良を発生させる原因となる。
【0008】本発明は上述した事情を考慮してなされたもので、溶接不良の低減を図った溶接治具を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明に係る溶接治具は、上述した課題を解決するために、請求項1に記載したように、ブラケットに取付けられた上型と、治具ベース上に設けられた下型とを有し、この下型上に被溶接部材(ワーク)の突き合わせ部を載せ、上記上型を上方から上記下型に向かってプレスして上記被溶接部材を保持するように構成した溶接治具において、上記ブラケットには上記上型の受部が設けられると共に、上記上型を複数個に分割し、これらの上型を上記ブラケットにスライド可能に取り付ける一方、分割された上型のうちプレス方向に平行、またはそれに近い方向に延びる上記被溶接部材の突き合わせ部の上型とその受部との間にコイルスプリング等の弾性体を弾装し、この弾性体の付勢力の方向を上記被溶接部材の突き合わせ部と直交させたものである。
【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】図1は、本発明を適用した溶接治具の側面図であり、図2は図1のII−II線に沿う断面図である。この溶接治具20は、半割状の金属板プレス素材を突き合わせ、この突き合わせ部を溶接ためのものであって、本実施形態においては、例えば図3に示すような自動二輪車用の燃料タンク1製造用のものをこの溶接治具20の一例として説明する。
【0012】この燃料タンク1は、図4に示すように、アウタータンク2とインナータンク3とをタンク1の最下部にて接合したものであり、被溶接部材であるアウタータンク2(以下ワークと称す)は、さらに半割状の金属板プレス素材であるアウターレフト2Lとアウターライト2Rとを突き合わせ、この突き合わせ部を溶接することにより形成される。
【0013】溶接治具20は、主に治具ベース21上に設けられた下型22と、プレスプレート23下部にブラケット24を介して設けられた上型25とから構成され、上型25と下型22との対向面はワーク2の突き合わせ部に倣った形状に構成される。また、上型25と下型22とは共に例えばクロム銅(CuCr)で形成され、特に下型22は溶接時の冷却金具を兼ねる。
【0014】そして、下型22上に半割状のワーク2の突き合わせ部を載せ、上方から上型25を下型22に向かってプレスしてワーク2を保持し、プレスプレート23に設けられた作業穴26から図示しない溶接トーチを挿入して突き合わせ部を溶接するように構成される。
【0015】ところで、上型25に掛かるプレス方向は治具ベース21に直交する方向であるため、治具ベース21に対して直交、すなわちプレス方向に平行、またはそれに近い方向に延びるワーク2の突き合わせ部、図1においては円で囲った部分Bに対しては充分なプレス力が掛からない。
【0016】そこで、上型25は、まずワーク2の複雑な曲面形状に合わせることを容易にするために複数個、本実施形態においては三個に分割される。なお、分割された上型25は説明の便宜上図1の左側から第一上型25a、第二上型25bそして第三上型25cとする。
【0017】各上型25a〜25cは例えばボルト27によってブラケット24に取り付けられる。ブラケット24に形成されるボルト穴28は、例えば治具ベース21に比較的平行に近い角度で延びるワーク2の突き合わせ部を有する上型、本実施形態においては第一上型25aおよび第二上型25bのものに関してはプレス方向と平行に、すなわち治具ベース21と直交する方向に延びる長穴とする。また、例えば治具ベース21に比較的直角に近い角度で延びるワーク2の突き合わせ部を有する上型、本実施形態においては第三上型25cのボルト穴28に関してはワーク2の突き合わせ部と直交する方向に延びる長穴とする。
【0018】そして、各上型25a〜25cはガタ無き程度のボルト27の締め込みでブラケット24に取り付けられ、長穴であるボルト穴28の長径方向にスライド可能とする。
【0019】さらに、ブラケット24には各上型25a〜25cの受部29が例えばボルト30で取り付けられる。これらの受部29は上型25のプレス時にワーク2の押え不足を補うものであって、たとえば第一および第二受部29a,29bと第一および第二上型25a,25bとの間に必要に応じてシム31を挟み込むことによりこれらの上型25a,25bのプレス力を補う。
【0020】一方、第三上型25cにおいてはシム31の代わりに第三受部29cと第三上型25cとの間に例えばコイルスプリング32等の弾性体が弾装される。具体的には第三受部29にスプリング挿着用の窪み33が形成され、この窪み33内にコイルスプリング32が圧縮された状態で装着される。また、コイルスプリング32はその付勢力の方向がワーク2の突き合わせ部と直交する位置に配置される。
【0021】なお、ワーク2の突き合わせ部と直交する付勢力を得るためにスプリング32等の弾性体を用いず、エアシリンダ(図示せず)等を用いてもよい。
【0022】上型25をワーク2の複雑な曲面形状に合わせて複数個に分割すると共に、治具ベース21に対して直交、またはそれに近い方向に延びるワーク2の突き合わせ部の上型、本実施形態においては第三上型25cと、ブラケット24に設けられた受部29、本実施形態においては第三受部29cとの間に例えばコイルスプリング32等の弾性体を弾装し、その付勢力の方向をワーク2の突き合わせ部と直交させることにより上型25のプレス時にワーク2の押え不足を充分補うことができる。その結果、ワーク2と下型22との接触,すなわち密着度が向上し、下型22を通じて溶接時の溶接熱を充分に逃がすことができ、穴開きやピンホール等の溶接不良の発生が低減できる。
【0023】また、構造が比較的簡単であり、従来機種にも容易に適用可能なため、コストの上昇を低く抑えることができる。
【0024】なお、上記実施形態においては半割状の金属板プレス素材(ワーク)として自動二輪車用の燃料タンク1のアウタータンク2を例として用いたが、この溶接治具20はあらゆる溶接可能な素材の突き合わせ部の溶接に適用することが可能である。
【0025】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る溶接治具によれば、ブラケットに取付けられた上型と、治具ベース上に設けられた下型とを有し、この下型上に被溶接部材(ワーク)の突き合わせ部を載せ、上記上型を上方から上記下型に向かってプレスして上記被溶接部材を保持するように構成した溶接治具において、上記ブラケットには上記上型の受部が設けられると共に、上記上型を複数個に分割し、これらの上型を上記ブラケットにスライド可能に取り付ける一方、分割された上型のうちプレス方向に平行、またはそれに近い方向に延びる上記被溶接部材の突き合わせ部の上型とその受部との間にコイルスプリング等の弾性体を弾装し、この弾性体の付勢力の方向を上記被溶接部材の突き合わせ部と直交させたため、溶接時の溶接熱を充分に逃がすことができ、溶接不良の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る溶接治具の一実施形態を示す側面図。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図。
【図3】自動二輪車用の燃料タンクの側面図。
【図4】図3のIV−IV線に沿う断面図。
【図5】従来の溶接治具の側面図。
【図6】図5のVI−VI線に沿う断面図。
【符号の説明】
1 自動二輪車用燃料タンク
2 ワーク(アウタータンク、被溶接部材)
20 溶接治具
21 治具ベース
22 下型
24 ブラケット
25 上型
25a 第一上型
25b 第二上型
25c 第三上型
29 受部
29a 第一受部
29b 第二受部
29c 第三受部
31 シム
32 コイルスプリング(弾性体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ブラケットに取付けられた上型と、治具ベース上に設けられた下型とを有し、この下型上に被溶接部材の突き合わせ部を載せ、上記上型を上方から上記下型に向かってプレスして上記被溶接部材を保持するように構成した溶接治具において、上記ブラケット24には上記上型25の受部29が設けられると共に、上記上型25を複数個に分割し、これらの上型25a〜25cを上記ブラケット24にスライド可能に取り付ける一方、分割された上型25a〜25cのうちプレス方向に平行、またはそれに近い方向に延びる上記被溶接部材2の突き合わせ部の上型25cとその受部29cとの間に弾性体32を弾装し、この弾性体32の付勢力の方向を上記被溶接部材2の突き合わせ部と直交させたことを特徴とする溶接治具。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開平10−128584
【公開日】平成10年(1998)5月19日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−285116
【出願日】平成8年(1996)10月28日
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)