説明

溶接用バックバー支持構造

【課題】 溶接用バックバー支持構造を改良することで、複数のバックバーを使用する場合でも、ワークをバックバーに大きな力で押し付けて沿わせる必要がなく、また、バックバーの姿勢をワークの形状に沿うように容易に変更できるようにする。
【解決手段】 スポット溶接時に補助電極板として用いる溶接用バックバー13であって、基台32に設けたブラケット27に複数枚の積層された板ばね21,22,23の一端部を第1ボルト26で取付け、これらの板ばね21,22,23の他端部に第2ボルト35でバックバー13を固定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接用バックバー支持構造の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スポット溶接時にワークに直接に電極を当てると、ワークの表面に打痕、圧痕等が付くため、ワークの外観となる面には、上記の打痕等の発生を防止するための当て板としてのバックバーを介して電極を当てて通電する。
【0003】
このような溶接用バックバーを支持する構造としては、ブラケットに弾性部材を介してバックバーを取付けたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】実開平3−116277号公報
【0004】
特許文献1の第1図を以下の図5で説明する。なお、符号は振り直した。
図5は従来の溶接用バックバーを備えたスポット溶接ガン装置の側面図であり、スポット溶接ガン装置は、ガンアーム101及びガンシリンダ102を備え、ガンアーム101の先端に固定スポット電極103を設け、ガンシリンダ102の端部に進退自在に設けたロッド104の先端に可動スポット電極106を設け、ガンアーム101にブラケット107を取付け、このブラケット107にスプリング108を介してバックバーとしての溶接保護金属板111を取付けるとともに、この溶接保護金属板111を固定スポット電極103と可動スポット電極106との間に配置したものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のスプリング108によって、溶接保護金属板111の姿勢をワークに沿うように一次的に変更することは可能であるが、ワークを溶接保護金属板111に沿わせるためにスプリング108の弾性力に抗して押し付ける必要があり、ワークに溶接保護金属板111を複数当てる場合には、弾性力が大きくなり、ワークを溶接保護金属板111に押し付ける押付け力も大きくなる。そこで、複数の溶接保護金属板111がワークの各位置毎の形状に沿うように専用に形成すれば、ワークの形状が変更になったときに溶接保護金属板111が使用できなくなる。
【0006】
本発明の目的は、溶接用バックバー支持構造を改良することで、複数のバックバーを使用する場合でも、ワークをバックバーに大きな力で押し付けて沿わせる必要がなく、また、バックバーの姿勢をワークの形状に沿うように容易に変更できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、スポット溶接時に補助電極板として用いる溶接用バックバーであって、基台に設けたブラケットに複数枚の積層された板ばねの一端部を第1ボルトで取付け、これらの板ばねの他端部に第2ボルトでバックバーを固定したことを特徴とする。
【0008】
第1ボルト又は第2ボルトを弛めた状態で、複数枚の板ばねを変形させてバックバーをワークの表面形状に沿う姿勢に近い状態に保持し、この状態で弛めておいた第1ボルト又は第2ボルトを締め込めば、バックバーはワークの表面形状に沿う姿勢を維持することが可能になる。
【0009】
請求項2に係る発明は、第1ボルト及び第2ボルトを通すために板ばねに開けたボルト挿通穴を、第1ボルト及び第2ボルトの外径よりも大きく形成し、ブラケットに対して板ばね及びバックバーを揺動した位置で固定可能としたことを特徴とする。
【0010】
ボルト挿通穴を、第1ボルト及び第2ボルトの外径よりも大きく形成して、ブラケットに対して板ばねを揺動させて第1ボルトを締め付け、板ばねに対してバックバーを揺動させて第2ボルトを締め付けることで、バックバーの姿勢変更の自由度を増すことが可能になる。
【0011】
請求項3に係る発明は、板ばねの枚数を、好ましくは3枚としたことを特徴とする。
3枚の板ばねのうちの中間の板ばねは支柱になり、両側の板ばねはその支柱の板ばねに対して相対的にスライドし、あるいは、捩れる、即ち、中間の板ばねが芯となって両側の板ばねがそれぞれ別々にスライド、あるいは、捩れるから、3枚の板ばねの全体を目標とする形状に形成し易く、また、中間の板ばねと両側の板ばねとのそれぞれの摩擦により、一旦形成された3枚の板ばねの全体の形状は変化し難い。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、ブラケットに複数枚の積層された板ばねを介してバックバーを固定するので、第1ボルト又は第2ボルトを弛めた状態でバックバーをワークの形状に沿う姿勢に近い状態に保持し、この状態で弛めておいた第1ボルト又は第2ボルトを締め込むことで、バックバーをワークの形状に沿う形状に容易に姿勢変更することができる。
【0013】
従って、複数のバックバーをワークに当てる場合でも、板ばねの弾性力に抗してワークをバックバーに押圧するための大きな押圧力が必要なく、バックバーを簡単にワークに沿わせることができる。また、ワーク形状に合わせてバックバーの姿勢を容易に変更できるため、バックバーの汎用性を向上させることができる。
【0014】
請求項2に係る発明では、ボルト挿通穴を、第1ボルト及び第2ボルトの外径よりも大きく形成したので、ブラケットに対する板ばねの揺動及び板ばねに対するバックバーの揺動が可能になり、ワークに沿わせるためのバックバーの姿勢変更の自由度をより一層増すことができる。
【0015】
請求項3に係る発明では、板ばねの枚数を、好ましくは3枚としたので、3枚の板ばねのうちの中間の板ばねが支柱となり、この板ばねに対して他の板ばねが相対的にスライドし、あるいは、捩れるため、第1ボルト又は第2ボルトを弛めることによりバックバーの姿勢をを目標とする姿勢に変更し易くすることができるとともに、第1ボルト又は第2ボルトを締め込むことによりバックバーの姿勢を確実に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る溶接用バックバー支持構造を示す側面図であり、第1パネル11に第2パネル12を重ね、第1パネル11の表の面11aにバックバー13の一側面13aを当て、バックバー13の他側面13bに第1電極14を押し当て、第2パネル12の裏の面12bに第2電極16を押し当て、これらの第1電極14と第2電極16との間に通電して第1パネル11と第2パネル12とをスポット溶接する状態を示す。なお、11bは第1パネル11の裏の面、12aは第2パネルの表の面である。
【0017】
バックバー13は、一側面13aを備えるワーク当接部13cと、複数、ここでは3枚の板ばね21,22,23からなる積層ばね24の一端部に取付けた取付部13dとを一体成形した部材である。
【0018】
板ばね21,22,23は、同一形状のものであるが、ここでは、識別のために符号を変えた。積層ばね24は、他端部を第1ボルト26,26でブラケット27に取付けたものである。ブラケット27は、ボルト31,31で基台32に取付けたものである。
図中の35,35は積層ばね24にバックバー13を取付ける第2ボルト、36は第2ボルト35,35とねじ結合するために積層ばね24の下部に配置したナット部材である。
【0019】
図2は本発明に係るバックバー支持構造の分解側面図であり、基台32にめねじ32a,32aを形成し、ブラケット27にボルト挿通穴27a,27aを開け、ボルト31,31をボルト挿通穴27a,27aにそれぞれ通すとともに基台32のめねじ32a,32aにねじ込むことで、基台32にブラケット27を取付ける。
【0020】
また、ブラケット27にめねじ27b,27bを形成し、板ばね21,22,23にそれぞれボルト挿通穴21a,22a,23a,21a,22a,23aを開け、第1ボルト26,26をボルト挿通穴21a,22a,23a,21a,22a,23aに通すとともにブラケット27のめねじ27b,27bにねじ込むことで、ブラケット27に積層ばね24を取付ける。
【0021】
更に、ナット部材36にめねじ36a,36aを形成し、板ばね21,22,23にそれぞれボルト挿通穴21b,22b,23b,21b,22b,23bを開け、バックバー13にボルト挿通穴13e,13eを開けるとともにこれらのボルト挿通穴13e,13eの端部に座ぐり部13f,13fを形成し、第2ボルト35,35をボルト挿通穴13e,13e及びボルト挿通穴21b,22b,23b,21b,22b,23bに通すとともにナット部材36のめねじ36a,36aにねじ込むことで、積層ばね24にバックバー13を取付ける。
【0022】
図3は本発明に係る板ばねのボルト挿通穴を説明する平面図であり、バックバー13及びブラケット27と共に板ばね21を示す。
板ばね21に設けたボルト挿通穴21a,21bは同一形状であり、第1ボルト26及び第2ボルト35の外径よりも大きな内径(詳しくは、板ばね21の長手方向に沿う長径及び板ばね21の長手方向に直交する短径)を有する長穴である。従って、第1ボルト26及び第2ボルト35は、長穴状のボルト挿通穴21a,21bのなかで移動可能である。
【0023】
以上に述べたバックバー支持構造の作用を次に説明する。
図4(a)〜(c)は本発明に係るバックバー支持構造の作用を示す作用図である。
(a)は、バックバー支持構造の側面図であり、ブラケット27に第1ボルト26,26で3枚の板ばね21,22,23を固定した状態で、図1の状態から、第2ボルト35,35を弛め、バックバー13のワーク当接部13c側を持ち上げるとともに取付部13d側を下げ、その状態を保ちつつ第2ボルト35,35を締め付けて、バックバー13を水平線40から角度θ1だけ傾けた姿勢を保持することを示す。即ち、バックバー13の姿勢を鉛直方向に二次元的に変更したことを示す。中間の板ばね22に対して両側の板ばね21,23は長手方向に相対的にスライドしている。
【0024】
(b)は、バックバー支持構造の側面図であり、ブラケット27に第1ボルト26,26で3枚の板ばね21,22,23を固定した状態で、第2ボルト35,35を弛め、バックバー13を矢印Aの方向に捩り、その状態を保ちつつ第2ボルト35,35を締め付けて、バックバー13をブラケット27に対して捩った姿勢を保持することを示す。即ち、バックバー13の姿勢を三次元的に変更したことを示す。中間の板ばね22に対して両側の板ばね21,23は相対的に捩られるとともに長手方向にスライドしている。
【0025】
以上の(a),(b)では、第1ボルト26を締め付けた状態で、第2ボルト35を弛め、バックバー13の姿勢変更後に第2ボルト35を締め付けたが、これに限らず、第2ボルト35を締め付けた状態で、第1ボルト26を弛め、バックバー13の姿勢変更後に第1ボルト26を締め付けてもよい。
【0026】
(c)は、バックバー支持構造の平面図であり、板ばね21,22,23にそれぞれ設けたボルト挿通穴21a,21b,22a,22b,23a,23b(図3参照)と第1ボルト26及び第2ボルト35との隙間によって、ブラケット27の中心線42に対して積層ばね24を傾けて取付け、積層ばね24に対してバックバー13を傾けて取付け、中心線42に対してバックバー13を角度θ2だけ傾けた姿勢を保持することを示す。即ち、バックバー13の姿勢を水平方向に二次元的に変更したことを示す。
更に、このようなバックバー13姿勢と、(a)で説明したバックバー13の姿勢とを組み合わせることも可能である。
【0027】
以上の(a)〜(c)に示したようなバックバー13の二次元的、三次元的な姿勢変更を本発明のバックバー支持構造では簡単に行うことができ、ワークの形状にバックバー13の面を沿わせ易いから、バックバー13の摩耗が大きくなったときにのみバックバー13の形状修正を行えばよく、バックバー13の形状修正の回数を減らすことができる。更に、バックバー13を多数用いてスポット溶接する場合でも、ワークの各部の形状に各バックバー13の姿勢を容易に合わせることができるから、段取り時間を短縮することができる。
【0028】
また、バックバー13を姿勢変更した状態でその姿勢を保持できるため、例えば、バックバーを一枚の板ばねで支持した場合にワークをバックバーに大きな力で押し付けて無理にワークに沿わせるということが、本発明のバックバー支持構造では必要ない。
【0029】
以上の図1及び図4で説明したように、本発明は第1に、スポット溶接時に補助電極板として用いる溶接用バックバー13であって、基台32に設けたブラケット27に複数枚の積層された板ばね21,22,23の一端部を第1ボルト26で取付け、これらの板ばね21,22,23の他端部に第2ボルト35でバックバー13を固定したことを特徴とする。
【0030】
ブラケット27に複数枚の積層された板ばね21,22,23を介してバックバー13を固定するので、第1ボルト26又は第2ボルト35を弛めた状態でバックバー13をワークとしての第1パネル11の形状に沿う姿勢に近い状態に保持し、この状態で弛めておいた第1ボルト26又は第2ボルト35を締め込むことで、バックバー13を第1パネル11の形状に沿う形状に容易に姿勢変更することができる。
【0031】
従って、複数のバックバー13を第1パネル11に当てる場合でも、板ばね21,22,23の弾性力に抗して第1パネル11を複数のバックバー13に押圧するための大きな押圧力が必要なく、複数のバックバー13を簡単に第1パネル11に沿わせることができる。また、第1パネル11の形状に合わせてバックバー13の姿勢を容易に変更できるため、バックバー13の汎用性を向上させることができる。
【0032】
本発明は第2に、図3に示したように、第1ボルト26及び第2ボルト35を通すために板ばね21,22,23に開けたボルト挿通穴21a,22a,23a,21b,22b,23bを、第1ボルト26及び第2ボルト35の外径よりも大きく形成し、ブラケット27に対して板ばね21,22,23及びバックバー13を揺動した位置で固定可能としたことを特徴とする。
【0033】
ボルト挿通穴21a,22a,23a,21b,22b,23bを、第1ボルト26及び第2ボルト35の外径よりも大きく形成したので、ブラケット27に対する板ばね21,22,23の揺動及び板ばね21,22,23に対するバックバー13の揺動が可能になり、第1パネル11(図1参照)に沿わせるためのバックバー13の姿勢変更の自由度をより一層増すことができる。
【0034】
本発明は第3に、図1及び図4に示したように、板ばね21,22,23の枚数を、好ましくは3枚としたことを特徴とする。
板ばね21,22,23の枚数を、好ましくは3枚としたので、3枚の板ばね21,22,23のうちの中間の板ばね22が支柱となり、この板ばね22に対して他の板ばね21,23が相対的にスライドし、あるいは、捩れる、即ち、板ばね22が芯となって両側の板ばね21,23がそれぞれ別々にスライド、あるいは、捩れるから、板ばね21,22,23の全体を目標とする形状に形成し易く、また、板ばね22と板ばね21との摩擦及び板ばね22と板ばね23との摩擦により、一旦形成された板ばね21,22,23の全体の形状は変化し難い。
【0035】
従って、第1ボルト26又は第2ボルト35を弛めることによりバックバー13の姿勢を目標とする姿勢に変更し易くすることができるとともに、第1ボルト26又は第2ボルト35を締め込むことによりバックバー13の姿勢を確実に維持することができる。
【0036】
尚、本実施形態では、図3に示したように、ボルト挿通穴21a,22a,23a,21b,22b,23b(符号22a,23a,22b,23bは図2参照)を長穴状としたが、これに限らず、第1ボルト26及び第2ボルト35の外径よりも大きな丸穴としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の溶接用バックバー支持構造は、バックバーを複数用いるスポット溶接に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る溶接用バックバー支持構造を示す側面図である。
【図2】本発明に係るバックバー支持構造の分解側面図である。
【図3】本発明に係る板ばねのボルト挿通穴を説明する平面図である。
【図4】本発明に係るバックバー支持構造の作用を示す作用図である。
【図5】従来の溶接用バックバーを備えたスポット溶接ガン装置の側面図である。
【符号の説明】
【0039】
13…バックバー、21,22,23…板ばね、21a,21b,22a,22b,23a,23b…ボルト挿通穴、26…第1ボルト、27…ブラケット、32…基台、35…第2ボルト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポット溶接時に補助電極板として用いる溶接用バックバーを支持する構造であって、
基台に設けたブラケットに複数枚の積層された板ばねの一端部を第1ボルトで取付け、これらの板ばねの他端部に第2ボルトで前記バックバーを固定したことを特徴とする溶接用バックバー支持構造。
【請求項2】
前記第1ボルト及び前記第2ボルトを通すために前記板ばねに開けたボルト挿通穴は、前記第1ボルト及び前記第2ボルトの外径よりも大きく形成され、前記ブラケットに対して前記板ばね及び前記バックバーを揺動した位置で固定可能としたことを特徴とする請求項1記載の溶接用バックバー支持構造。
【請求項3】
前記板ばねの枚数は、好ましくは3枚であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の溶接用バックバー支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−305589(P2006−305589A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−130051(P2005−130051)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】