説明

溶接継手の変形抑制部材とこの変形抑制部材を用いた変形抑制方法

【課題】 板厚が薄い鋼板を裏当金上で突合せ溶接する際に溶接熱による変形を防止することができるようにした、製作加工と取付け撤去が簡単な構造の溶接継手の変形抑制部材とこの変形抑制部材を用いた変形抑制方法を提供する。
【解決手段】 鋼板1a,1bを裏当金2上で突合せて溶接する際に溶接熱によって発生する変形を防止するために、取付ける溶接継手の変形抑制部材であって、鋼板1a,1bを裏当金2上で突合せて溶接する際に溶接熱によって発生する変形を防止するために、取付ける溶接継手の変形抑制部材であって、鋼板1a,1bの開先部3を跨ぐように設ける門形部材4と、この門形部材4を挿通し溶接部6で鋼板1に固着した引き上げ板5と、この引き上げ板5のほぼ中央部に挿通するテーパーピン7とで形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋼板の裏当金付き突合せ溶接継手部に発生する溶接熱による変形を防止するために取付ける溶接継手の変形抑制部材と、この変形抑制部材を用いた変形抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス製の平底円筒貯槽の底板など板厚が薄い鋼板には、裏当金付き突合せ溶接継手が採用されることがある。この溶接継手にティグ溶接法を適用する場合、複数層を重ねて溶接するため溶接熱によって角変形が発生することが知られている。
従来一般に板厚が薄い鋼板を裏当金付き突合せ溶接する場合について、図7に例示して概略説明する。
図7(A)は、平面に置いた鋼板1a,1bの裏当金2付き突合せ溶接継手の開先部3を、上側から溶接部4のように溶接する場合を示している。
図7(B)は、溶接部4の溶接熱によって、矢印に示すように中央が沈み両側が湾曲して浮き上がるように熱歪みによって角変形する状態を示している。
そこで、図7(C)に示すように、鋼板1a,1bを左右対称の矢印に示すように、中央は上側に押上げ両側は押下げるように変形させておく対策が考えられる。
【0003】
図8は、上記のような角変形を防止するために、突合せた裏当金2上の開先部3をまたぐように鋼板1a,1bの上面に平板形の取付部材5を、複数箇所の溶接部6,6によって固定した一般的な事例である。
【0004】
従来発明の溶接技術として、特許文献1の特開昭56−4577号「鋼板製タンクの歪防止溶接法」がある。この発明は鋼板製タンクの底板などを組立てる際に溶接手順に工夫をこらして溶接歪の発生を抑制したもので、その従来技術として第1図に重ね溶接継手部に直交させて設ける歪防止治具が紹介されている。
【0005】
また、特許文献2の特開平11−156590号「溶接用裏当て」がある。この発明には、側板材を突合せて両面溶接する際に、開先部に設ける溶接用裏当てとして、開先部のルートエッジに当接する断面略円形状の当接材とこの当接材を開先部へ押し付ける押圧材とから形成した部材が開示され、さらにその開先部近傍に門形の部材が溶接にて取付けられている。
【0006】
さらに、特許文献3の特開2007−118044号「突合せ溶接方法」には、平板1相互の開先部2を突合せて定盤3上の銅裏当て5の上部に配置し、その開先部2,2の突合せ溶接を行う方法であって、定盤3上の所定位置にライナ6を配置し、銅裏当て5の下部に袋体4を設け、このライナ6と銅裏当て5の上部に平板1を配置しその上にウエイト9を載置して形成し、上記袋体4の内部へガスを圧入して膨張させることにより、上記銅裏当て5を押し上げて開先部2裏面に密着させて溶接を行うことが開示されている。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56−4577号公報
【特許文献2】特開平11−156590号公報
【特許文献3】特開2007−118044号号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来一般に考えられる図7(C)に示すように、開先部3の近傍を上側に押上げ両側の鋼板1a,1bは左右対称に押下げるように変形させておく対策は、大きな鋼板1の縁近傍を湾曲させる製作加工が大変で、さらに板厚が薄い鋼板1の湾曲形状を維持しながら運搬し設置することが困難である。
【0009】
また、図8に示す歪み防止のための開先部3をまたぐ平板形の取付部材5の溶接固定は、取付部材5の溶接部6が多くなり撤去跡の表面処理や検査などが煩雑で手間を要するものであった。
【0010】
特許文献1に開示されている歪防止治具は、重ね溶接継手部に直交させ間隔をおいて設ける歪防止治具であって、板厚の薄い鋼板を突合せて溶接する継手部近傍に生じる歪みによる変形防止に適する治具ではない。
【0011】
特許文献2に開示されている開先部への取付部材は、側板表裏両面に設ける開先部に合わせた銅裏当てや門形部材および押え部材などに使用する取付部材であって、貯槽の底板など鋼板を突合せて上面から溶接する継手部に適用することはできない。
【0012】
特許文献3は、簡単な構造の治具を用いて銅裏当ての密着性を保ち、裏波形状が滑らかで、はみ出しや割れなどの欠陥が生じない突合せ溶接方法であるが、平板1の下部にライナ6、銅裏当て5、袋体4などの多くの部材を設ける必要があるため、貯槽の底板などの広い面積を有する鋼板継手部の下部に設置して使用することは困難である。
【0013】
この発明は上述のような従来技術が有する問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、貯槽の底板など板厚が薄い鋼板を裏当金上で突合せ溶接する際に溶接熱による変形を防止することができるようにした、製作加工と取付け撤去が簡単な構造の溶接継手の変形抑制部材とこの変形抑制部材を用いた変形抑制方法を提供することにある。

【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の溶接継手の変形抑制部材は、板厚が薄い鋼板1を裏当金2上で突合せて溶接する際に溶接熱によって発生する変形を防止するために、取付ける溶接継手の変形抑制部材であって、鋼板1の開先部3を跨ぐように設ける門形部材4と、この門形部材4を挿通し溶接部6で鋼板1に固着した引き上げ板5と、この引き上げ板5のほぼ中央部に挿通するテーパーピン7とで形成する。
【0015】
請求項2記載の溶接継手の変形抑制部材は、板厚が薄い鋼板1を裏当金2上で突合せて溶接する際に溶接熱によって発生する変形を防止するために、取付ける溶接継手の変形抑制部材であって、鋼板1の開先部3を跨ぐように設ける門形部材4と、この門形部材4を挿通し溶接部8で裏当金2に固着した引き上げ板5と、この引き上げ板5のほぼ中央部に挿通するテーパーピン7とで形成する。
【0016】
請求項3記載の溶接継手の変形抑制部材は、板厚が薄い鋼板1を裏当金2上で突合せて溶接する際に溶接熱によって発生する変形を防止するために、取付ける溶接継手の変形抑制部材であって、鋼板1の開先部3を跨ぐように設ける門形部材4と、この門形部材4を挿通し上記裏当金2に設けたネジ穴2aに螺着するように設ける、ネジ部9aとネジ部9bと調整ナット10とからなる引き上げボルト9とで形成する。
【0017】
請求項4記載の変形抑制方法は、請求項1乃至3の溶接継手の変形抑制部材を鋼板の裏当金付き突合せ溶接開先部近傍に設置して溶接による角変形を防止する変形抑制方法であって、引き上げ板5又は引き上げボルト9を鋼板1又は裏当金2に固定する工程と、この引き上げ板5又は引き上げボルト9に門形部材4を挿通して門形部材4を設置する工程と、引き上げ板5又は引き上げボルト9にテーパーピン7又は調整ナット10を挿通する工程と、テーパーピン7の打込み又は調整ナット10の調整によって開先部3近傍を引き上げる工程とを有し、変形防止対策を行わない場合での溶接角変形に相当する反対方向の変形を予め与えることにより、仕上がりの溶接変形を小さくすることを特徴とする。

【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の溶接継手の変形抑制部材は、板厚が薄い鋼板1を裏当金2上で突合せて溶接する際に溶接熱によって発生する変形を防止するために、取付ける溶接継手の変形抑制部材であって、鋼板1の開先部3を跨ぐように設ける門形部材4と、この門形部材4を挿通し溶接部6で鋼板1に固着した引き上げ板5と、この引き上げ板5のほぼ中央部に挿通するテーパーピン7とで形成するので、門形部材4および引き上げ板5は、簡単な構造の部材で製作が容易で、従来に比べて取付け溶接の箇所が少なく、取付け取外しが作業性良く簡単にできる。門形部材4の設置およびテーパーピン7の打ち込みによって予歪み、つまり逆歪みの付与が簡単かつ調整容易で確実にできる。また、取付溶接部6の除去、補修溶接や検査の低減が可能となる。
【0019】
請求項2記載の溶接継手の変形抑制部材は、板厚が薄い鋼板1を裏当金2上で突合せて溶接する際に溶接熱によって発生する変形を防止するために、取付ける溶接継手の変形抑制部材であって、鋼板1の開先部3を跨ぐように設ける門形部材4と、この門形部材4を挿通し溶接部8で裏当金2に固着した引き上げ板5と、この引き上げ板5のほぼ中央部に挿通するテーパーピン7とで形成するので、変形に必要な付加力を直接的に、必要箇所へ加えることが可能となり、開先部3を平均に引き上げることができる。また、鋼板1への溶接がないため治具跡の修復検査が不要となる。
【0020】
請求項3記載の溶接継手の変形抑制部材は、板厚が薄い鋼板1を裏当金2上で突合せて溶接する際に溶接熱によって発生する変形を防止するために、取付ける溶接継手の変形抑制部材であって、鋼板1の開先部3を跨ぐように設ける門形部材4と、この門形部材4を挿通し上記裏当金2に設けたネジ穴2aに螺着するように設ける、ネジ部9aとネジ部9bと調整ナット10とからなる引き上げボルト9とで形成するので、引き上げボルト9の取付け取外し作業が簡単になり、引き上げ高さの微妙な調整が簡単容易にできるため、必要以上の力を加えることなく、残留応力の低減化も期待できる。また、鋼板1への溶接がないため治具跡の修復検査が不要となる。
【0021】
請求項4の変形抑制方法は、請求項1乃至3の溶接継手の変形抑制部材を鋼板の裏当金付き突合せ溶接開先部近傍に設置して溶接による角変形を防止する変形抑制方法であって、引き上げ板5又は引き上げボルト9を鋼板1又は裏当金2に固定する工程と、この引き上げ板5又は引き上げボルト9に門形部材4を挿通して門形部材4を設置する工程と、引き上げ板5又は引き上げボルト9にテーパーピン7又は調整ナット10を挿通する工程と、テーパーピン7の打込み又は調整ナット10の調整によって開先部3近傍を引き上げる工程とを有し、変形防止対策を行わない場合での溶接角変形に相当する反対方向の変形を予め与えることにより、仕上がりの溶接変形を小さくするので、作業性良く開先部3近傍を引き上げて確実に所定量の変形、つまり逆歪みを与えることができる。
テーパーピン7の打込みによって調整する構造は、この打込み量によって必要高さだけ引き上げることができる。
また、裏当金2に引き上げ板5の下端を固着する構造を採用する場合は、開先部3の近傍を平均に引き上げることができ、また鋼板1に溶接部がないためその撤去治具跡の修復検査が不要となる。
さらに、裏当金2に設けたネジ穴2aにボルト9の下端を螺着する構造は、引き上げボルト9の取付けおよび取外しが簡単で、引き上げ高さの調整は調整ナットの回転締め付けによって簡単容易にでき、さらに複数層を溶接する際にその都度生ずる熱歪みによる変形量に対応して引き上げ高さを、様子を見ながら容易に調整することができる。また鋼板1および裏当金2に溶接部がないためその修復検査が不要となる。

【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る溶接継手の変形抑制部材を示す斜視説明図である。
【図2】図1に示す変形抑制部材を複数配置した状況を示す。
【図3】第1の実施形態例を示す側断面説明図である。
【図4】第2の実施形態例を示す側断面説明図である。
【図5】第3の実施形態例を示す側断面説明図である。
【図6】第4の実施形態例を示す側断面説明図である。
【図7】(A),(B),(C)は、従来一般の水平継手の開先部を示す側断面説明図である。
【図8】従来一般の溶接継手の変形抑制部材を示す斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の溶接継手の変形抑制部材の実施形態例について図1から図6を参照しながら説明する。図面において同様のものや対応するもの、総称できるものについては同じ符号を付して説明する。
ステンレス製の平底円筒貯槽の底板など、板厚が例えば6、9、12〜16ミリメートル程度の薄い鋼板1は、平面に置いた裏当金2の上で突合せる溶接継手を採用する。この溶接継手の開先部3にティグ溶接法を適用する場合、複数層を重ねて溶接する際の溶接熱の熱歪みによる角変形を防止するために、開先部3をまたぐように門形部材4などの変形抑制部材を設ける。
本発明は、下記の実施形態にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲で実施形態に変更を加えることが出来るのはもちろんである。
【0024】
図1は、板厚が薄い鋼板を突合せ溶接する際に発生しやすい角変形を防止するために、取付ける変形抑制部材を示す。図2は、図1に示す変形抑制部材を複数個連続して配置した状況を示す。
この溶接継手の変形抑制部材は、鋼板1a,1bの開先部3を跨ぐように設ける門形部材4と、この門形部材4を挿通し溶接部6で鋼板1に固着した引き上げ板5と、この引き上げ板5のほぼ中央部に挿通する楔状部材のテーパーピン7とで形成する。
これら各部材は、少なくとも鋼板1と接触する部位や溶接固定する部位、或いは全体を同じ材質のステンレス製鋼材を使用する。
【0025】
門形部材4は、チャンネル材やアングル材などの形鋼材および鋼板材を用いて製作し、製作および、持運びや取付け取外しの設置が容易で簡便な仮設治具に形成する。
この門形部材4の水平部には、引き上げ板5を遊嵌状に挿通する細長の開口部4aを設けておく。また門形部材4の両脚部の下端縁は鋼板1a,1bの上面の開先部3から直行方向に所定距離、例えば10〜30センチメートル程度離れた位置に広い面積で接触するように形成する。
【0026】
引き上げ板5は、板厚が薄い帯板材で、門形部材4の開口部4aに遊嵌状に挿通する寸法とし、その上部近傍にテーパーピン7を打込むための矩形の開口窓5aを設ける。この引き上げ板5に設ける矩形の開口窓5aの寸法は、門形部材4を設置した際に上部に覗き出る開口窓5aにテーパーピン7の先端が1〜2センチメートル入る程度の高さ以下に所定距離を開口し、テーパーピン7をさらに打込むことにより上方に移動して開くように形成する。
【0027】
上記テーパーピン7は、水平に打込むことによって鋼板1a,1bの開先部3が所定高さ位置に引き上がった状態で、打込み深さがほぼ中央位置となる程度の傾斜角度を有する楔状部材を採用する。
このテーパーピン7の打込みによる引き上げ板5への引き上げの力は、門形部材4の両足部鋼板1a,1bとの接触部を押えの支点として、あたかもテコのようになって中央部近傍の開先部3を効率よく持ち上げることができる。
【0028】
上記変形抑制部材は、まず引き上げ板5の下端縁を鋼板1bの上面の溶接部6から所定距離、例えば1〜5センチメートル程度離れた位置に仮溶接し立設する。次に門形部材4を上方からその水平部に設けた細長の開口部4aに挿通して設置する。続いて門形部材4から突き出た引き上げ板5の覗き出た状態の矩形の開口窓5aにテーパーピン7を水平に打込む。
このテーパーピン7の打込み量によって必要個所、所定範囲を必要高さだけ引き上げることができ、複数層を溶接する際にその都度生ずる熱歪みによる変形量に対応して引き上げ高さを、様子を見ながら調整することができる。
【0029】
図2に示すように門形部材4を複数個、例えば板厚との関係で30、50、60〜100センチメートル程度のうち、同じピッチ間隔で連続して設置し、引き上げ板5を同一の鋼板1b上に沿って溶接固定する。なお図示しないが、この引き上げ板5を鋼板1a,1b上に交互の千鳥状に設けると、溶接部3近傍の引き上げの力が平均化し、かつ溶接の作業性を向上させることができる。
【0030】
図3は、図1と同様の第1の実施形態例を示す側断面説明図である。引き上げ板5の開口窓5aへテーパーピン7を打込むことによって、上記鋼板1a,1bを引き上げ調整する。この引き上げ高さは、溶接熱影響による鋼板1a,1bの変形量に対応する反対方向の変形、つまり逆歪みを与えるように、冷却後に鋼板1a,1bが水平に戻る高さ、例えば1〜5センチメートル程度とする。
【0031】
門形部材4および引き上げ板5は、簡単な構造の部材で、製作が容易で、取付け取外しが簡単で、逆歪みの付与が簡単容易で確実にできる。
また、門形部材4の設置およびテーパーピン7の打込みと除去が作業性良く簡単にでき、溶接施工後の冷却、治具取外し後に、水平位置に復帰させることができ、この治具跡の補修溶接や検査の低減が可能となる。
【0032】
図4は、第2の実施形態例を示す側断面説明図である。
引き上げ板5は、開先部3を挟んで左右対称の鋼板1a,1b上に複数箇所の溶接部6,6で固定する。この引き上げ板5,5によって引上げ荷重が平均化されるため、開先部3近傍を平均に上昇させることができる。この場合、開先部3内の裏当金2に鋼板1aを仮付け溶接しておく。
【0033】
図5は、第3の実施形態例を示す側断面説明図である。
原子力関係貯槽など、鋼板1に直接溶接することを嫌う場合には、引き上げ板5を鋼板1に溶接することなく、溶接部8内の裏当金2に溶接固定する構造とする。
変形抑制部材は、鋼板1a,1bの開先部3を跨ぐように設ける門形部材4と、この門形部材4を挿通し溶接部8で裏当金2に固着した引き上げ板5と、この引き上げ板5のほぼ中央部に挿通するテーパーピン7とで形成する。
溶接部8のルート間隔は4〜10ミリメートル程度で、裏当金2に固着する引き上げ板5の板厚はこのルート間隔内に入る寸法とする。
この裏当金2に引き上げ板5の下端を固着する構造は、開先部3の近傍を平均に引き上げることができる。また、鋼板1への溶接がないためその治具撤去跡の検査および補修が不要となる。
溶接部8の溶接の際には、引き上げ板5を裏当金2へ固着した箇所の両脇2〜3センチメートル程度は溶接を行わず、それ以外の部分の溶接が全て終了して50度C以下に冷却した後に、引き上げ板5を含めた変形抑制部材を撤去し、残っている開先部8の溶接を行う。
【0034】
図6は、第4の実施形態例を示す側断面説明図である。
さらに、溶接部8内の裏当金2に溶接固定することを厳しく嫌う場合には、裏当金2に引き上げボルト9を螺着して固定する構造とする。
変形抑制部材は、鋼板1a,1bの開先部3を跨ぐように設ける門形部材4と、この門形部材4を挿通し上記裏当金2に設けたネジ穴2aに螺着するように設けるネジ部9aとネジ部9bと調整ナット10とからなる引き上げボルト9とで形成する。
ボルト9を上から締めて固定し、次に調整ナット10を締付けて引き上げ高さを調整する。溶接部8のルート間隔は4〜10ミリメートル程度で、裏当金2に設けるネジ穴2aの直径およびボルト9の外形は、上記ルート間隔以内の寸法とする。
この裏当金2に設けたネジ穴2aにボルト9の下端を螺着する構造は、引き上げボルト9の取付けおよび取外しが簡単で、引き上げ高さの調整は調整ナット10の回転締め付けによって簡単容易にできる。さらに、複数層を溶接する際にその都度生ずる熱歪みによる変形量に対応して引き上げ高さを、様子を見ながら容易に調整することができる。また、鋼板1のみならず裏当金2にも溶接部がないためその治具撤去跡の検査および補修が不要となる。
溶接部8の溶接の際には、引き上げボルト9の裏当金2への固定部の両脇2〜3センチメートル程度は溶接を行わずそれ以外の部分の溶接を行う。この溶接が終了して50度C以下に冷却した後に、引き上げボルト9を含む変形抑制部材を撤去する。この際に、引き上げボルト9は裏当金2の表面で切断して穴埋めとしてもよく、或いはネジ部9aから取外した後に栓溶接で穴埋めをしてもよい。その後、残っている開先部8を溶接し、全ての溶接を完了する。

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の溶接継手の変形抑制部材は、貯槽の底板など板厚が薄い鋼板を裏当金上で突合せ溶接する場合について示しているが、その外に屋根板や側板などの溶接継手の溶接熱による歪み変形を防止する場合、その他必要に応じて種々の溶接構築物の水平溶接継手や垂直溶接継手に適用することができる。殊に、溶接変形量が大きくなりやすいステンレス鋼材の溶接に用いれば、効率の顕著性は格段的に優れる。

【符号の説明】
【0036】
1,1a,1b 鋼板
2 裏当金
2a ネジ穴
3 開先部
4 門形部材
4a 開口部
5 引き上げ板
5a 開口窓
6 溶接部
7 テーパーピン
8 溶接部
9 ボルト
9a ネジ部
9b ネジ部
10 調整ナット



【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を裏当金上で突合せて溶接する際に溶接熱によって発生する変形を防止するために、取付ける溶接継手の変形抑制部材であって、鋼板の開先部を跨ぐように設ける門形部材と、この門形部材を挿通し鋼板に固着した引き上げ板と、この引き上げ板のほぼ中央部に挿通するテーパーピンとで形成したことを特徴とする溶接継手の変形抑制部材。
【請求項2】
鋼板の開先部を跨ぐように設ける門形部材と、この門形部材を挿通し裏当金に固着した引き上げ板と、この引き上げ板のほぼ中央部に挿通するテーパーピンとで形成したことを特徴とする溶接継手の変形抑制部材。
【請求項3】
鋼板の開先部を跨ぐように設ける門形部材と、この門形部材を挿通し裏当金に設けたネジ穴に螺着するように設ける固定用ネジ部と調整ネジ部と調整ナットとからなる引き上げボルトとで形成したことを特徴とする溶接継手の変形抑制部材。
【請求項4】
請求項1乃至3の溶接継手の変形抑制部材を鋼板の裏当金付き突合せ溶接開先部近傍に設置して溶接による角変形を防止する変形抑制方法であって、引き上げ板又は引き上げボルトを鋼板又は裏当金に固定する工程と、この引き上げ板又は引き上げボルトに門形部材を挿通して門形部材を設置する工程と、引き上げ板又は引き上げボルトにテーパーピン又は調整ナットを挿通する工程と、テーパーピンの打込み又は調整ナットの調整によって開先部近傍を引き上げる工程とを有し、変形防止対策を行わない場合での溶接角変形に相当する反対方向の変形を予め与えることにより、仕上がりの溶接変形を小さくすることを特徴とする変形抑制部材を用いた変形抑制方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−139702(P2012−139702A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292737(P2010−292737)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000147729)株式会社石井鐵工所 (67)
【Fターム(参考)】