説明

溶接装置及び溶接方法

【課題】簡単な構成で溶接の品質を管理することができる溶接装置及び溶接方法を提供する。
【解決手段】第1電極12と第2電極13との間でワークW1、W2の溶接箇所に電流が流されると、熱が発生してワークW1、W2が溶融する。この熱は、ワークW1、W2から第1電極12及び第2電極13に伝導し、排出路17によって第1電極12から排出される液体の温度を上昇させる。その結果、供給路16によって第1電極12に供給される液体の温度と排出路17によって第1電極12から排出される液体の温度とに温度差が生じる。制御部26は、この温度差が所定の範囲にない場合に異常が発生したと判定する。こうした溶接装置11では、溶接箇所に位置決めされる電極12内の供給路16及び排出路17に温度センサ21、22が組み込まれるので、溶接箇所ごとに温度測定器を位置決めする必要はなく、簡単な構成で溶接の品質を管理することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つのワークを相互に溶接する溶接装置及び溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、抵抗溶接の品質を管理するために溶接箇所の温度を検出する溶接装置が開示されている。この溶接装置は、上部電極に把持されたワークと下部電極上のチップ材との溶接箇所の温度を赤外線放射温度測定器によって計測している。計測された温度に応じて電流値及び通電時間の少なくともいずれか一方が制御される。こうして溶接箇所の温度が最適になるように制御することによって、溶接の強度のばらつきを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−201681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この溶接装置では、ワークやチップ材に例えば銅が用いられる場合、銅の酸化状態の相違によって溶接箇所からの赤外線の輻射が異なることがあるので、正確に温度を計測することができない場合がある。また、溶接箇所が著しく多いワーク同士を溶接する場合には、それぞれの溶接箇所に温度測定器を位置決めしなければならないので、多くの溶接箇所を有する抵抗溶接を実施することは事実上困難である。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、簡単な構成で溶接の品質を管理することができる溶接装置及び溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明によれば、
2つのワークを挟み込む電極同士の間に電流を流して前記ワークを溶融させ、前記ワーク同士を相互に溶接する溶接装置において、
液体の供給路及び当該供給路に連続する液体の排出路を有する第1電極と、
2つの前記ワークを前記第1電極との間に挟み込む第2電極と、
前記供給路内の液体の温度を検出する第1温度センサと、
前記排出路内の液体の温度を検出する第2温度センサと、
前記溶接前に前記第1温度センサから出力される温度と前記溶接後に前記第2温度センサから出力される温度との第1の温度差を検出する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記第1の温度差が所定の範囲内にない場合に異常が発生したと判定する溶接装置が提供される。
【0007】
この溶接装置では、第1電極と第2電極との間に2つのワークを挟み込み、第1電極と第2電極との間でワークの溶接箇所に電流が流される。溶接箇所では電流の流通によって熱が発生してワークが溶融する。この熱は、ワークから第1及び第2電極に伝導し、排出路によって第1電極から排出される液体の温度を上昇させる。その結果、供給路によって第1電極に供給される液体の温度と排出路によって第1電極から排出される液体の温度とに温度差が生じる。制御部は、この温度差が所定の範囲にない場合に異常が発生したと判定する。こうした溶接装置では、溶接箇所に位置決めされる電極内に形成される液体の供給路及び排出路に温度センサが組み込まれるので、溶接箇所ごとに温度測定器を位置決めする必要はなく、簡単な構成で溶接の品質を管理することができる。
【0008】
こうした溶接装置は、前記第2電極内に形成されて、液体の供給路及び当該供給路に連続する液体の排出路と、前記第2電極の供給路内の液体の温度を検出する第3温度センサと、前記第2電極の排出路内の液体の温度を検出する第4温度センサと、をさらに備え、前記制御部は、前記溶接前に前記第3温度センサから出力される温度と前記溶接後に前記第4温度センサから出力される温度との第2の温度差を検出し、前記第2の温度差が所定の範囲内にない場合に溶接に異常が発生したと判定する。この溶接装置によれば、制御部は、第2電極内に形成された供給路の液体の温度と排出路の液体の温度との温度差によっても異常が発生したと判定するので、第1電極内に形成された供給路の液体の温度と排出路の液体の温度との温度差のみによる判定に比べて、より高い精度で溶接の品質を管理することができる。
【0009】
こうした溶接装置では、前記液体は冷却水であることが好ましい。こうして本発明の供給路及び排出路の確立にあたって、従来からある冷却水の供給路及び排出路を用いることができる。その結果、既存の溶接装置に本発明を容易に適用することができる。なお、液体は、冷却を意図しない液体であってもよい。
【0010】
また、本発明によれば、
2つのワークを相互に溶接する溶接方法において、
2つのワークを第1電極と第2電極との間に挟み込み、前記第1及び第2電極の間に電流を流して前記ワークを溶融させて前記ワーク同士を溶接する工程と、
前記第1電極の供給路内の液体の温度と、前記供給路に連続する前記第1電極の排出路内の前記溶接後の液体の温度との第1の温度差が所定の範囲内にない場合に異常が発生したと判定する工程と、
を備える溶接方法が提供される。
【0011】
この溶接方法によれば、第1電極と第2電極との間に2つのワークを挟み込み、第1電極と第2電極との間でワークの溶接箇所に電流が流される。溶接箇所では電流の流通によって熱が発生してワークが溶融する。この熱は、ワークから第1及び第2電極に伝導し、排出路によって第1電極から排出される液体の温度を上昇させる。その結果、供給路によって第1電極に供給される液体の温度と排出路によって第1電極から排出される液体の温度とに温度差が生じる。制御部は、この温度差が所定の範囲にない場合に異常が発生したと判定する。こうした溶接装置では、溶接箇所に位置決めされる電極内に形成される液体の供給路及び排出路に温度センサが組み込まれるので、溶接箇所ごとに温度測定器を位置決めする必要はなく、簡単な構成で溶接の品質を管理することができる。
【0012】
こうした溶接方法は、前記第2電極の供給路内の液体の温度と、前記供給路に連続する前記第2電極の排出路内の前記溶接後の液体の温度との第2の温度差が所定の範囲内にない場合に異常が発生したと判定する工程を、さらに備える。この溶接方法によれば、第2電極内に形成された供給路の液体の温度と排出路の液体の温度との温度差によっても異常が発生したと判定するので、第1電極内に形成された供給路の液体の温度と排出路の液体の温度との温度差のみによる判定に比べて、より高い精度で溶接の品質を管理することができる。
【0013】
こうした溶接方法では、前記液体は冷却水であることが好ましい。こうして本発明の供給路及び排出路の確立にあたって、従来からある冷却水の供給路及び排出路を用いることができる。その結果、既存の溶接装置に本発明を容易に適用することができる。なお、液体は、冷却を意図しない液体であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明によれば、簡単な構成で溶接の品質を管理することができる溶接装置及び溶接方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る溶接装置の構造を概略的に示す図である。
【図2】本発明に係る溶接方法の実施にあたって制御部の処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】本発明の第2実施形態に係る溶接装置の構造を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る溶接装置11の構造を概略的に示す図である。この溶接装置11はスポット溶接といった電気抵抗溶接を実施することができる。溶接装置11は、上下に配列される上側電極12及び下側電極13を備える。上側電極12及び下側電極13の間に水平面に沿って例えば平板状に広がる1対のワークW1、W2が配置される。ワークW1、W2には例えばステンレス鋼板が用いられる。ここでは、ワークW1の下面にワークW2の上面が重ね合わせられる。
【0017】
上側電極12及び下側電極13はそれぞれ、例えば円柱形状の電極本体14を備える。ここでは、上側電極12の電極本体14の中心軸線と下側電極13の電極本体14の中心軸線とが一致している。上側電極12の電極本体14の先端と下側電極13の電極本体14の先端とは相互に対向している。電極本体14はシャンク15に保持されている。電極本体14及びシャンク15は銅といった導電性の金属材料から形成される。電極本体14とシャンク15とはろう付けや圧入によって相互に連結される。上側及び下側電極12、13とワークW1、W2とは水平面に沿って相対移動することができる。同時に、上側電極12及び下側電極13は前述の中心軸線に沿って垂直方向に移動することができる。
【0018】
電極本体14及び対応のシャンク15には、シャンク15から電極本体14の先端に向かって液体すなわち冷却水を供給する供給路16が形成される。供給路16は上側電極12及び下側電極13の共通の中心軸線に沿って延びる。供給路16には、電極本体14の先端から電極12、13の外側に冷却水を排出する排出路17が連続する。排出路17は供給路16の周りに広がって供給路16と同軸に形成される。供給路16及び排水路17は電極本体14の先端で相互に接続される。供給路16から排出路17に流れる冷却水は、熱交換器やタンク、ポンプ(図示せず)などを経由して再び供給路16に循環する。こうした冷却水の循環によって上側電極12及び下側電極13の過度の温度上昇を回避することができる。
【0019】
上側電極12では、例えばシャンク15の外側の供給路16内にその供給路16を流れる冷却水の温度を検出する第1温度センサ21が組み込まれる。同様に、例えばシャンク15の外側の排出路17内にその排出路17を流れる冷却水の温度を検出する第2温度センサ22が組み込まれる。第1及び第2温度センサ21、22は冷却水の温度を特定する温度情報を出力することができる。なお、第1及び第2温度センサ21、22と同じ箇所に供給路16及び排出路17のそれぞれの冷却水の流量を検出する流量センサ(図示せず)が組み込まれてもよい。流量センサは、冷却水の流量を特定する流量を特定する流量情報を出力することができる。
【0020】
下側電極13では、例えばシャンク15の外側の供給路16内にその供給路16を流れる冷却水の温度を検出する第3温度センサ23が組み込まれる。同様に、例えばシャンク15の外側の排出路17内にその排出路17を流れる冷却水の温度を検出する第4温度センサ24が組み込まれる。第3及び第4温度センサ23、24は冷却水の温度を特定する温度情報を出力することができる。なお、上側電極12と同様に、下側電極13の供給路16及び排出路17には冷却水の流量を検出する流量センサ(図示せず)が組み込まれてもよい。流量センサは、冷却水の流量を特定する流量を特定する流量情報を出力することができる。
【0021】
第1〜第4温度センサ21〜24には記憶部25が接続されており、記憶部25は、第1〜第4温度センサ21〜24から出力される温度情報を格納する。同時に、記憶部25には、スポット溶接の実施前の供給路16内の冷却水の温度と、1回のスポット溶接の実施後の排出路17内の冷却水の温度と、の温度差の許容範囲に関する情報が格納されている。この許容範囲は、正常なスポット溶接が実施された場合に特定される温度差であって、スポット溶接の実施前の供給路16内の冷却水の温度とスポット溶接の実施後の排出路17内の冷却水の温度との温度差の平均値に対して例えば±10%の温度の範囲に相当する。
【0022】
温度差の許容範囲は、実際のスポット溶接時に実施される検証に基づいて特定される。なお、許容範囲は、電極本体14の先端の形状、電極本体14の材質、ワークW1、W2の材料や厚さ、電極12、13に供給される電流の電流値や通電時間、冷却水の種類や流量、冷却水の、スポット溶接時の周囲の環境の温度、スポット溶接のナゲットの径などを含む様々な要因によって変化することが想定される。従って、許容範囲は、実施するスポット溶接に応じて、そうした様々な要因を考慮して実際に検証された許容範囲によって特定されることが好ましい。
【0023】
記憶部25にはスポット溶接のためのワークの加工プログラムがさらに格納される。加工プログラムではワークW1、W2に対するスポット溶接の打点の位置や数などの様々な条件が設定される。制御部26は、記憶部25から読み出した加工プログラムに従って所定の演算処理を実行する。演算処理に基づいて制御部26は、溶接装置11を駆動する溶接機27に所定の制御信号を供給する。溶接機27は、制御信号に基づいて、上側及び下側電極12、13に電流を供給したり、上側及び下側電極12、13を垂直方向に移動させたり、上側及び下側電極12、13とワークW1、W2とを水平方向に相対移動させたり、冷却水の循環用のポンプなどを駆動させたりする。
【0024】
次に、本発明の第1実施形態に係る溶接装置11でスポット溶接を実施する場合を説明する。まず、ステップS1で、制御部26は記憶部25からメモリ(図示せず)に加工プログラムを一時的に読み出す。制御部26が加工プログラムに基づいて演算処理を開始すると、溶接装置11では冷却水の循環が開始され、第1〜第4温度センサ21〜24から冷却水の温度を特定する温度情報が所定の時間間隔ごとに出力される。出力された温度情報は記憶部25に格納される。続いて、制御部26は、スポット溶接を開始する前に、ステップS2で、第1温度センサ21及び第3温度センサ23からの温度情報を取得する。こうして供給路16内の冷却水の温度を特定する。
【0025】
制御部26はステップS3でスポット溶接を実施する。スポット溶接が開始されると、制御部26は、加工プログラムで設定された条件に基づいてワークW1、W2に対して上側及び下側電極12、13を所定の打点の位置に位置決めする。位置決め後、上側電極12がワークW1の表面に向かって移動するとともに下側電極13がワークW2の裏面に向かって移動する。その結果、上側電極12及び下側電極13はワークW1、W2に対して所定の押し付け力で押し付けられる。このとき、所定の通電時間にわたって上側及び下側電極12、13に所定の電流値で電流が供給されると、例えば上側電極12からワークW1、W2の溶接箇所を通って下側電極13に電流が流れる。
【0026】
通電時、上側及び下側電極12、13の間の打点の位置でワークW1の下面とワークW2の上面との間の溶接箇所に電流が集中して流れるので、抵抗値の高い溶接箇所でジュール熱が発生する。こうしたジュール熱によってワークW1、W2は溶接箇所で溶融するので、溶接箇所でさらに抵抗値が上昇してワークW1、W2は溶接箇所でさらに発熱して溶融する。その結果、ワークW1とワークW2との間の溶接箇所にいわゆるナゲットが形成される。上側及び下側電極12、13への通電を停止した後、ワークW1、W2に対する上側及び下側電極12、13の押し付けを所定の時間にわたって維持する。こうしてワークW1、W2が冷却されると、溶接箇所は凝固して1打点におけるスポット溶接が完了する。
【0027】
その後、上側及び下側電極12、13がワークW1、W2からそれぞれ遠ざかる方向に移動すると、1打点の位置でのスポット溶接が完了する。このとき、ステップS4で、制御部26は、第2温度センサ22及び第4温度センサ24からの温度情報を取得して排出路17の温度を特定する。溶融時に発生したワークW1、W2からの熱は、上側及び下側電極12、13の電極本体14に伝導し、電極本体14から供給路16及び排出路17内の冷却水に受け渡される。熱を受け取った冷却水はその温度を上昇させるので、スポット溶接後の排出路17内の冷却水の温度とスポット溶接前の供給路16内の冷却水の温度との間に温度差が生じる。こうした冷却水の働きで上側及び下側電極12、13の温度は常温まで低下する。
【0028】
制御部26は、ステップS5で、第1温度センサ21からの温度情報で特定される上側電極12の供給路16内の冷却水の温度と、第2温度センサ22からの温度情報で特定される排出路17内の冷却水の温度と、の温度差(第1の温度差)を特定する。同様に、制御部26は、第3温度センサ23からの温度情報で特定される下側電極13の供給路16内の冷却水の温度と、第4温度センサ24からの温度情報で特定される排出路17内の冷却水の温度と、の温度差(第2の温度差)を特定する。制御部26は、ステップS6で、第1の温度差及び第2の温度差のいずれもが前述の許容範囲内にあるか否かを判定する。判定にあたって、制御部26は、記憶部25に格納された温度差の許容範囲に関する情報を参照する。
【0029】
第1の温度差及び第2の温度差のいずれもが許容範囲内にある場合(ステップS6、YES)、制御部26の処理はステップS7に進む。すなわち、制御部26はスポット溶接に異常が発生していないものと判定する。ステップS7では、制御部26は、加工プログラムで設定された条件に基づいてすべての打点に対するスポット溶接が完了したか否かを判定する。この判定にあたって加工プログラムが参照される。次に設定された打点がある場合(ステップS7、NO)、制御部26の処理はステップS2に戻る。その後、制御部26の処理はステップS2〜S7まで繰り返される。ステップS7で、すべての打点に対するスポット溶接が完了したことが確認されると(ステップS7、YES)、ワークW1、W2に対するスポット溶接は終了する。
【0030】
その一方で、ステップS6で、第1の温度差及び第2の温度差の少なくともいずれか一方が前述の許容範囲内にないと判定されると(ステップS6、NO)、制御部26はスポット溶接に何らかの異常が発生したものと判定する。この場合、制御部26の処理はステップS8に進む。ステップS8で制御部26はスポット溶接の処理を一時的に停止させる。このとき、制御部26は、その溶接箇所でスポット溶接に何かしらの異常が発生したことをオペレータに警告してもよい。警告は、溶接装置11に組み込まれるディスプレイなどの表示装置(図示せず)に警告を表示してもよい。その後、異常が特定されて異常が解消された場合には、制御部26の処理はステップS2に戻る。
【0031】
ここで、許容範囲の上限値を上回る温度差が検出される場合には、何らかの原因で上側及び下側電極12、13の間で過電流が発生した場合、電極本体14とワークW1、W2との間でいわゆる散りが発生した場合、電流の電流値が設定値よりも大きい場合、電流の通電時間が設定時間よりも大きい場合、上側及び下側電極12、13からの押し付け力が設定値よりも大きい場合などが想定される。こうした場合にはワークW1、W2の間で生成された過度に大きなジュール熱が冷却水に伝達されたことが要因と考えられる。すなわち、溶接箇所で生成される熱量が不適切であることを意味する。なお、散りは、電極本体14とワークW1、W2との間の接触面積が十分に確保されずに、局所に集中的に電流が流れて過度に大きなジュール熱が生成されたことを示している。
【0032】
また、許容範囲の下限値を下回る温度差が検出される場合には、何らかの原因で上側及び下側電極12、13の間での電流の電流値が設定値よりも小さい場合、電流の通電時間が設定時間よりも小さい場合、上側及び下側電極12、13からの押し付け力が設定値よりも小さい場合などが想定される。こうした場合にはワークW1、W2の間の溶接箇所で生成された過度に小さなジュール熱が冷却水に伝達されたことが要因であると考えられる。すなわち、ワークW1、W2の間の溶接箇所で生成される熱量が不適切であることを意味する。
【0033】
以上のような異常が発生した場合、溶接装置11のオペレータは、記憶部25に格納された温度情報に基づいて冷却水の温度変化を分析し、異常が溶接装置11及びワークW1、W2のどこで発生したかを診断することができる。こうして診断した異常の発生箇所を適宜修正することによって、溶接装置11及びワークW1、W2における異常が解消される。その後、制御部26の処理はステップS2から再開される。異常の修正の結果、ワークW1、W2の間では適切な熱量でスポット溶接を実施することができるので、ワークW1、W2の間のすべての打点で高い品質でスポット溶接を実施することができる。なお、上側電極12及び下側電極13の両側のいずれか一方から出力される温度差が異常の判定に用いられてもよい。
【0034】
以上のような溶接装置11によれば、スポット溶接の品質の管理にあたって、制御部26は、供給路16内の冷却水の温度と排出路17内の冷却水の温度との温度差と、所定の許容範囲とを比較することによって、溶接装置11やワークW1、W2で異常が発生したことを簡単に判定することができる。また、冷却水の供給路16及び排出路17に温度センサを設置すればよいので、比較的に簡単な構成によって高い精度でスポット溶接の品質を管理することができる。また、異常の発生の特定によって、適切な電流値や通電時間でスポット溶接を実施することができるので、過大なエネルギー消費を抑えることができる。
【0035】
また、従来技術のように、スポット溶接の溶融部の温度の検出にあたって赤外線放射測定器を用いる例では、鉄道車両のパネルなどのように打点が15000箇所以上もある場合、すべての打点に赤外線放射測定器を位置決めすることは事実上困難であり現実的ではない。その一方で、本発明によれば、従来からある冷却水の供給路16及び排出路17内に温度センサを組み込めば足りることから、既存の溶接装置に本発明を容易に適用することができる。その結果、溶接装置の製造コストを増大させることなく本発明を実施することができる。
【0036】
図3は、本発明の第2実施形態に係る溶接装置11の構造を概略的に示す図である。この溶接装置11では、下側電極13が第1実施形態の棒状に代えて盤状に形成され、下側電極13はその上面でワークW2の下面の全面を受け止める。こうした下側電極13は、ワークW2の下側で電極の取り回しが困難な場合に用いられる。スポット溶接の実施にあたって上側電極12がワークW1の表面に押し付けられる。なお、第2実施形態に係る溶接装置11では、第1実施形態と同様の構造に同一の参照符号を付した。
【0037】
なお、図3の下側電極13では、供給路16は電極本体14の上面に隣接して配置され、排出路17は電極本体14の下面に隣接して配置されるように図示されているものの、実際には、電極本体14内で供給路16及び排出路17は同一の水平面に沿って配置されてよい。この場合、供給路16及び排出路17は電極本体14の上面の全面にわたって蛇行して延びる。こうして供給路16及び排出路17が電極本体14の上面の全面にわたって延びることから、電極本体14の全体に満遍なく冷却水を行き届かせることができる。
【0038】
その他、以上のような第1及び第2実施形態に係る溶接装置11では、液体には、冷却を意図した冷却水ではなく、冷却を意図しない液体を用いてもよい。言い替えれば、上側電極12や下側電極13には前述の冷却水用の供給路16及び排出路17に加えて新たに供給路及び排出路が形成されてもよい。追加の供給路及び排出路では、例えば供給路16及び排出路17の液体の流れる方向に直交する断面の断面積よりも小さな断面積が設定されてよい。こうして液体の流量を減少させることによって温度の検出の応答性を高めることができる。
【0039】
また、上述の第1及び第2実施形態では、上側電極12及び下側電極13の双方において、供給路16内の冷却水の温度及び排出路17内の冷却水の温度の温度差と、所定の許容範囲とを比較するようにしているが、これに限定されるものではなく、上側電極12及び下側電極13のいずれか一方において、供給路16内の冷却水の温度及び排出路17内の冷却水の温度の温度差と、所定の許容範囲とを比較するようにしてもよい。言い替えれば、いずれか一方の電極に対する温度センサの組み込みを省略してもよい。
【符号の説明】
【0040】
11 溶接装置
12 第1電極(第2電極)
13 第2電極(第1電極)
16 供給路
17 排出路
21 第1温度センサ(第3温度センサ)
22 第2温度センサ(第4温度センサ)
23 第3温度センサ(第1温度センサ)
24 第4温度センサ(第2温度センサ)
26 制御部
W1 ワーク
W2 ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのワークを挟み込む電極同士の間に電流を流して前記ワークを溶融させ、前記ワーク同士を相互に溶接する溶接装置において、
液体の供給路及び当該供給路に連続する液体の排出路を有する第1電極と、
2つの前記ワークを前記第1電極との間に挟み込む第2電極と、
前記供給路内の液体の温度を検出する第1温度センサと、
前記排出路内の液体の温度を検出する第2温度センサと、
前記溶接前に前記第1温度センサから出力される温度と前記溶接後に前記第2温度センサから出力される温度との第1の温度差を検出する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記差が所定の範囲内にない場合に異常が発生したと判定することを特徴とする溶接装置。
【請求項2】
前記第2電極内に形成されて、液体の供給路及び当該供給路に連続する液体の排出路と、
前記第2電極の供給路内の液体の温度を検出する第3温度センサと、
前記第2電極の排出路内の液体の温度を検出する第4温度センサと、をさらに備え、
前記制御部は、前記溶接前に前記第3温度センサから出力される温度と前記溶接後に前記第4温度センサから出力される温度との第2の温度差を検出し、前記第2の差が所定の範囲内にない場合に溶接に異常が発生したと判定することを特徴とする請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記液体は冷却水であることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶接装置。
【請求項4】
2つのワークを相互に溶接する溶接方法において、
2つのワークを第1電極と第2電極との間に挟み込み、前記第1及び第2電極の間に電流を流して前記ワークを溶融させて前記ワーク同士を溶接する工程と、
前記第1電極の供給路内の液体の温度と、前記供給路に連続する前記第1電極の排出路内の前記溶接後の液体の温度との第1の温度差が所定の範囲内にない場合に異常が発生したと判定する工程と、
を備えることを特徴とする溶接方法。
【請求項5】
前記第2電極の供給路内の液体の温度と、前記供給路に連続する前記第2電極の排出路内の前記溶接後の液体の温度との第2の温度差が所定の範囲内にない場合に異常が発生したと判定する工程を、
さらに備えることを特徴とする請求項4に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記液体は冷却水であることを特徴とする請求項4又は5に記載の溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−63447(P2013−63447A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202162(P2011−202162)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(712004783)株式会社総合車両製作所 (40)