溶接部の疲労強度向上方法および溶接継手
【課題】ハンマーピーニングに用いて好適な、鋼橋など鋼構造物における溶接部の疲労強度を、溶接部に新たな応力集中部となる変形を与えずに圧縮残留応力を導入して向上させる疲労強度向上方法を提供する。
【解決手段】打撃面が面取りされた平坦な形状のチッパーで溶接止端部から離れた母材表面の一部を、母材表面に対して垂直に打撃、好ましくは打撃による塑性変形領域の一部が重なるように止端部近傍側から漸次外側に移動させるように打撃して塑性変形させ、溶接止端部に圧縮の残留応力を導入する。窪み特性値(最大深さと幅の積)(mm2)が所定の値を有する帯状の塑性変形領域を溶接止端部に接して形成する場合は、チッパーの打撃面の平坦部周囲の面取り部で溶接止端部を、前記平坦部で母材を打撃する。打撃に用いるチッパーの打撃面の幅Bとした場合、母材表面の止端部からB/4以内の部位を打撃して塑性変形させる。
【解決手段】打撃面が面取りされた平坦な形状のチッパーで溶接止端部から離れた母材表面の一部を、母材表面に対して垂直に打撃、好ましくは打撃による塑性変形領域の一部が重なるように止端部近傍側から漸次外側に移動させるように打撃して塑性変形させ、溶接止端部に圧縮の残留応力を導入する。窪み特性値(最大深さと幅の積)(mm2)が所定の値を有する帯状の塑性変形領域を溶接止端部に接して形成する場合は、チッパーの打撃面の平坦部周囲の面取り部で溶接止端部を、前記平坦部で母材を打撃する。打撃に用いるチッパーの打撃面の幅Bとした場合、母材表面の止端部からB/4以内の部位を打撃して塑性変形させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼橋など鋼構造物における溶接部の疲労強度を、溶接部に新たな応力集中部となる変形を与えずに圧縮残留応力を導入し向上させる疲労強度向上方法および該方法を施した溶接継手に関し、ハンマーピーニングに用いて好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼橋の老朽化に伴い腐食や疲労に伴う損傷事例の報告が増加している。疲労損傷の防止には検査体制の確立とともに、通過車両などの作用外力を軽減したり、設計製作面からの溶接品質の向上が重要である。
【0003】
溶接部は、割れなどの欠陥が存在したり、溶接止端部の形状が不適で応力集中部となると繰り返し応力に溶接残留応力の影響が重畳して疲労亀裂が発生しやすく、疲労破壊をもたらす場合があるため、その防止のため種々の観点からの提案がなされている。
【0004】
特許文献1は、溶接部の疲労強度向上方法およびそれを用いた溶接構造物に関し、溶接止端部の近傍を超音波振動する打撃装置で塑性変形させる際、所定の打撃条件で特定寸法の溝を加工することで、短時間でかつ作業者の熟練度に依存しないで安定して疲労強度を向上させることが記載されている。
【0005】
特許文献2は、レーザ衝撃ピーニング方法に関し、レーザ光源からのパルスレーザビームを使用して、表面のコーティングを瞬間的に気化させてその爆発力により表面の一部に局所的に圧縮力を発生させる方法で、ガスタービンエンジンのファン動翼に圧縮残留応力を導入させることが記載されている。
【0006】
非特許文献1は、ハンマーピーニング及びTIG処理による高強度鋼(SM570)の溶接継手部の疲労強度向上法に関し、ハンマーピーニングを施すと疲労強度が低下する場合があるため、溶接止端部の応力集中や残留応力を低減させる新たなハンマーピーニング法について検討した結果が記載されている。
【0007】
通常、ハンマーピーニングは、作業者がピーニング装置のチッパーを手で持って、溶接止端部にチッパー先端が斜め上方から当たるようにし、ピーニング装置の荷重を溶接止端部に預けるようにして作業を行い作業負荷を軽減している。
【0008】
そのため、図27に示す母材1にリブ2を直立させた面外ガセット継手にハンマーピーニングを施した場合、ピーニング装置のチッパー5の先端により溶接止端部に応力集中箇所となる深い溝6が形成され、溶接ビード3の先端部から疲労亀裂7が発生する場合がある。
【0009】
非特許文献1にはハンマーピーニングの前にグラインダで溶接止端部の一部を予め研削すると疲労亀裂の発生防止に有効であることが紹介され、ハンマーピーニングを3パス程度の複数回行うことを提案している。
【0010】
また、特許文献3には、溶接止端部に応力集中箇所となる深い溝が形成されないように、先端部が曲面の打撃ピンを用い、溶接ビードの止端から打撃中心までの距離が打撃ピンの先端曲率半径の2.5倍未満となる母材表面に、特定寸法の残留塑性変形が生じるように、ハンマーピーニングまたは超音波衝撃処理を施す突合せ溶接継手の疲労特性改善方法が記載されている(図28)。
【0011】
特許文献4には溶接継手の疲労特性改善打撃処理方法として、溶接ビードの止端付近の母材金属材料表面に、打撃ピンを押し付けながら溶接線方向に相対的に移動操作させてハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す際、前記打撃ピンとして、先端曲率半径Rが金属材料の厚さの1/2以下かつ2〜10mmの打撃ピンを用い、前記溶接ビードの止端から打撃処理位置の中心までの距離が、前記打撃ピンの先端曲率半径Rの2.5倍以内とすることが記載されている。
【0012】
更に、特許文献4には、前記打撃ピンが打撃処理中に溶接金属に触れない範囲までの母材金属材料表面に、前記打撃ピンによって、打撃痕の溝深さが、0.1〜2mm、該打撃ピンの先端曲率半径R以下、かつ前記金属材料の厚さの1/10以下であり、打撃痕の幅が、1.5〜15mm、かつ前記溝深さの5倍以上である残留塑性変形が生じるように、ハンマーピーニング又は超音波衝撃処理を施すことも記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、鋼橋など大型構造物の場合、溶接線長さが長く、溶接止端部が溶接線方向に直線でなく幅1mm程度をもって蛇行することが多い。特許文献3記載の溶接継手の疲労特性改善打撃処理方法のように溶接止端部から微小な距離だけ離れた位置を保ちつつ溶接止端部に沿って、ハンマーピーニングすることは困難である。
【0014】
特許文献1記載の超音波によるピーニング方法は使用する装置が従来の空気圧でチッパーを駆動する装置と比較すると高価で入手も困難である。特許文献2記載のレーザ衝撃ピーニング方法は、素材の前処理が必要で、且つ装置が高価で大きく、鋼橋製造に適用することは難しい。特許文献3記載の超音波打撃処理を用いた加工方法は、突き合わせ溶接継手が対象で、鋼構造物に多い、隅肉溶接継手に対する効果は不明である。
【0015】
尚、特許文献4は、チッパーの先端が曲率半径Rを有する形状とすることを必須用件としたものであり、溶接ビードの止端から打撃処理位置の中心までの距離が、先端曲率半径Rの関数で規定されるなど現在利用されているハンマーピーニング法に容易に適用できず汎用性に乏しい。
【0016】
そこで、本発明は、応力集中源となるような深い溝状の打撃痕を形成せず、圧縮残留応力を広範囲に導入できるチッパーを用いてハンマーピーニングを行い、溶接止端部における溶接残留応力を低減させて疲労強度を向上させる溶接部の疲労強度向上方法および溶接継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の課題は以下の手段で達成可能である。
1.溶接部の溶接止端部近傍にチッパーの打撃による複数の打撃痕からなる帯状の塑性変形領域を形成して疲労強度を向上させる溶接部の疲労強度向上方法であって、前記チッパーの先端部の打撃面は平坦部と前記平坦部に沿った面取り部を有し、前記溶接止端部と前記打撃面の溶接止端部側との距離が前記打撃面の幅の1/4以内となるように前記溶接止端部近傍を打撃して窪み特性値(最大深さと幅の積)(mm2)が所定の値を有する帯状の塑性変形領域を母材に形成する際、前記帯状の塑性変形領域を溶接止端部に接して形成する場合は、前記打撃面の平坦部周囲の面取り部で溶接止端部を、前記平坦部で母材を打撃することを特徴とする溶接部の疲労強度向上方法。
2.前記打撃面の幅が4mm以上で、前記溶接止端部と前記打撃面の溶接止端部側との距離が1mm以内であることを特徴とする1記載の溶接部の疲労強度向上方法。
3.前記帯状の塑性変形領域における窪み特性値(最大深さと幅の積)(mm2)が前記溶接部に負荷される公称応力振幅が150MPa以下の場合は0.7mm2以上、公称応力振幅が250MPa以下の場合は0.8mm2以上であることを特徴とする2記載の溶接部の疲労強度向上方法。
4.前記帯状の塑性変形領域における最大深さが前記溶接部に負荷される公称応力振幅が150MPa以下の場合は0.19mm以上、公称応力振幅が250MPa以下の場合は0.22mm以上であることを特徴とする2または3に記載の溶接部の疲労強度向上方法。
5.チッパーによる打撃が打撃周期80Hz以上で溶接止端部に沿って移動速度10cm/min以下であることを特徴とする2乃至4のいずれか一つに記載の溶接部の疲労強度向上方法。
6.溶接止端部に沿って打撃線を設定し、当該打撃線上近傍を複数回打撃して帯状の塑性変形領域を形成することを特徴とする1乃至5のいずれか一つに記載の溶接部の疲労強度向上方法。
7.溶接部が隅肉溶接継手であることを特徴とする1乃至6のいずれか一つに記載の溶接部の疲労強度向上方法。
8.1乃至6のいずれか一つに記載の溶接部の疲労強度向上方法を施した溶接継手。
9.溶接止端部近傍を、先端部の打撃面に平坦部と前記平坦部に沿った面取り部を有するチッパーで前記打撃面に垂直方向に複数回打撃して形成した帯状の塑性変形領域を有する隅肉溶接継手であって、
前記打撃面の溶接止端部(線)と直角の辺の長さをB(mm)とした場合、前記帯状の塑性変形領域の溶接止端部側が前記溶接止端部から母材側にB/4(mm)以内となるように母材を打撃して帯状の塑性変形領域を形成した隅肉溶接継手。
10.前記打撃面の辺の長さが4mm以上で、前記帯状の塑性変形領域の溶接止端部側が前記溶接止端部から母材側に1mm以内で、
前記帯状の塑性変形領域における最大深さが
前記溶接部に負荷される公称応力振幅が150MPa以下の場合は0.19mm以上、公称応力振幅が250MPa以下の場合は0.22mm以上で、
前記帯状の塑性変形領域における最大深さと幅の積が
前記溶接部に負荷される公称応力振幅が150MPa以下の場合は0.7mm2以上、公称応力振幅が250MPa以下の場合は0.8mm2以上であることを特徴とする9記載の隅肉溶接継手。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、溶接止端部にノッチ状の欠陥を生じさせることなく溶接止端部近傍をハンマーピーニングして溶接部の疲労強度を向上させることが可能で、1.疲労等級がD等級からA等級に飛躍的に向上する。2.溶接止端部および母材の両方が打撃可能で、母材表面のみを打撃しなければならないという施工上の制約がないため、廻し溶接部などの施工が容易となり、適用構造、適用部位の制限を受けにくい。という効果が得られ、産業上、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を説明するための模式図。
【図2】チッパー先端部の形状を説明する図。
【図3】prandtlの理論を説明する図。
【図4】本発明の原理を説明するためのFEM解析条件を示す図。
【図5】図4の条件によるFEM解析結果を3次元残留応力分布として示す図。
【図6】図4の条件によるFEM解析結果を板厚方向断面で示す図(先端部に平坦部を有するチッパーの場合)
【図7】図4の条件によるFEM解析結果を板厚方向断面で示す図(先端部に半球部を有する丸型チッパーの場合)
【図8】4分の1対称モデルによる板厚方向断面における残留応力の大きさと打撃中心からの距離との関係を示す図(先端部に平坦部を有するチッパー(角型)と先端部に半球部を有するチッパー(丸型)の場合)。
【図9】本発明の効果を溶接止端部近傍における圧縮残留応力分布で説明する図。
【図10】試験体形状を示す図で(a)は上面図、(b)は側面図。
【図11】疲労試験結果を示す図。
【図12】150MPa破断回数を塑性変形領域の窪み特性値(最大深さ×幅)(mm2)で整理した結果を示す図(実施例1)。
【図13】250MPa破断回数を塑性変形領域の窪み特性値(最大深さ×幅)(mm2)で整理した結果を示す図(実施例1)。
【図14】塑性変形領域の窪み特性値(最大深さ×幅)(mm2)と溶接止端部の最大残留応力との関係を示す図。
【図15】150MPa破断回数を塑性変形領域の最大深さで整理した結果を示す図(実施例1)。
【図16】250MPa破断回数を塑性変形領域の最大深さで整理した結果を示す図(実施例1)。
【図17】最も発生応力の大きいリブ2の端部における塑性変形領域で計測した窪み特性値(最大深さ×幅)(mm2)と実際の断面積の関係を示す図。
【図18】250MPa破断回数を塑性変形領域の溶接止端部側の端部から溶接止端部までの距離(止端距離)で整理した結果を示す図(実施例2)。
【図19】実施例3で用いた隅肉溶接により溶接した残留応力測定試験体の形状を示し、(a)は断面図、(b)は上面図、(c)は側面図を示す図。
【図20】溶接止端からチッパー端部までの距離が0mmの場合のX方向残留応力分布図で(a)は先端部に平坦部を有する角型チッパーの場合、(b)は先端部に半球部を有する丸型チッパーの場合を示す図。
【図21】溶接止端からチッパー端部までの距離が1mmの場合のX方向残留応力分布図で(a)は先端部に平坦部を有する角型チッパーの場合、(b)は先端部に半球部を有する丸型チッパーの場合を示す図。
【図22】溶接止端からチッパー端部までの距離が2mmの場合のX方向残留応力分布図で(a)は先端部に平坦部を有する角型チッパーの場合、(b)は先端部に半球部を有する丸型チッパーの場合を示す図。
【図23】溶接止端からチッパー端部までの距離が3mmの場合のX方向残留応力分布図で(a)は先端部に平坦部を有する角型チッパーの場合、(b)は先端部に半球部を有する丸型チッパーの場合を示す図。
【図24】溶接止端からチッパー端部までの距離が4mmの場合のX方向残留応力分布図で(a)は先端部に平坦部を有する角型チッパーの場合、(b)は先端部に半球部を有する丸型チッパーの場合を示す図。
【図25】ハンマーピーニング時に、残留応力測定試験体の打撃面の溶接止端部側の端部から溶接止端部まで離した距離Xが0mm,1mm,2mm,3mm,4mmの場合におけるX方向最小残留応力(最大圧縮残留応力)に関する角型チッパーの場合と丸型チッパーの場合とを比較する図。
【図26】ハンマーピーニング時に溶接止端部から離した距離Xと試験体との位置関係を示す側面図。
【図27】従来のハンマーピーニングによる溶接止端部の損傷例を示す図。
【図28】従来技術(特許文献3)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は溶接止端部近傍をチッパー(打撃ピンという場合がある)で連続的に打撃し、特定の領域に所定の寸法の帯状の塑性変形領域を形成することで、溶接止端部に圧縮の残留応力を導入して溶接継手の疲労強度を向上させることを特徴とする。
【0021】
図1は本発明を説明する概念図で、母材1にリブ2を廻し溶接で溶接した部材の側面図において、溶接ビード3の溶接止端部(以下、止端部という場合がある。)4から特定距離B/4だけ離れて幅Bの塑性変形(点線で表示)を母材1の表面に生じさせた場合を示している。
【0022】
本発明では塑性変形領域に生じる圧縮残留応力が、溶接止端部4の引張残留応力を打消し、更に溶接止端部4に圧縮残留応力が導入されるように、面圧をかけて塑性変形させた領域と溶接止端部との距離を塑性変形させた領域の幅Bの1/4以内となるように規定する。
【0023】
塑性変形させる領域の幅Bは、止端部4に圧縮残留応力が導入され、且つ、止端部4に、母材1の表面を塑性変形させたことにより新たな応力集中源となる変形が生じないように設定する。
【0024】
母材1の表面を塑性変形させる場合は、プレス装置または繰り返し衝撃的な打撃を与える装置を用いる。以下の説明は、母材1の表面をハンマーピーニング装置のチッパー5で打撃する場合について行い、チッパー5の先端部の打撃面は平坦部と前記平坦部に沿った面取り部を有するものとする。
【0025】
図2でチッパー5の先端部の形状を説明する。図2は、チッパーを側面方向から見た側面図である。打撃面は正方形で、溶接止端部(線)に直角となる一辺の長さをチッパー5の先端のテーパー部51、テーパー部52の延長線と平坦部53の延長線の交点α1、α2間の長さL2とする。長さL2は平坦部53の一辺の長さL1とR面取り部の半径Rの2倍を加算した値と略等しく、本発明では幅Bとする。
【0026】
チッパー5で母材1の表面を打撃する場合、溶接止端部からチッパー5の打撃面の溶接止端部側までの距離が、チッパー5の打撃面の幅Bの1/4以内となるように打撃する。図2に示した先端部の形状を有するチッパー5で母材1の表面を打撃した場合、当該打撃により塑性変形する領域の幅は打撃面の平坦部の幅と略等しい。
【0027】
本発明において母材表面に対して垂直に打撃する際の垂直とは、厳密な意味での垂直に限るものではなく、打撃方向の傾き角が母材表面に対して80〜100°程度までであれば許容されるが、90°とすることが望ましい。
【0028】
チッパー5で母材表面を打撃する前に、止端部4と母材1の境界部にグラインダ研削などで窪み(r部)、好ましくは曲率半径が1mm以上の窪み(r部)を設けると母材表面の変形を止端部4に及ばさずに、より大きな圧縮残留応力を止端部4に導入させることが可能で好ましい。
【0029】
なお、母材表面の一部を打撃して塑性変形させた領域を形成した場合に、当該領域より離れている溶接止端部に圧縮応力が付与される理由は、図3に示したprandtlの理論(非特許文献2より図を抜粋)で説明される。
【0030】
平板に圧縮応力qを導入すると、その直下に鋭角が45°である直角三角型ABC、扇型のADC、BCEで示される、すべり線が発生する。その結果、圧縮応力を与えた長さと同じ長さの斜辺からなる直角三角型ADF、BEGに外側に押し出す力が作用し、圧縮応力が除荷された後も圧縮残留応力として板に作用する。
【0031】
[チッパー先端部の形状および打撃位置]
本発明では、チッパーの先端部の打撃面を周囲を面取りした平坦な形状とする。図4〜9に、チッパー先端部の形状が母材の残留応力分布に及ぼす影響をFEM解析によってシミュレートした結果を示す。FEM解析条件は、以下のとおりとした。
【0032】
チッパー5にて最大26kNの荷重を変位1mmで、母材1表面に垂直方向から与えて、母材1を塑性変形させた。母材1は、大きさ:200mm×200mm、板厚:12mm、材質:SM490Y相当とした。一方、チッパー5は、高さ:135mm、先端部以外のチッパー部(一般部):9mm角とした。なお、チッパー5の先端部の打撃面は、正方形の場合と丸型の場合それぞれについて解析した。チッパー5の先端部の打撃面の形状は、正方形の場合が4×4(mm2)の正方形で面取りのない完全な平坦とし、丸型の場合が直径4mmの半球状とした。さらにチッパー5の先端部の打撃面は、母材1に圧縮応力を与える範囲に相当するとした。
【0033】
図4は、FEM解析を行う上でのメッシュ形状の例を示す。4分の1対称モデルによる弾塑性解析を行うとした為、母材1の大きさとチッパー5の先端部の打撃面の寸法は半分となっている。
【0034】
図5に得られた残留応力の3次元分布の概要の一例として打撃面が4×4(mm2)の正方形のチッパー5の場合について示す。図6、7は残留応力分布の概要を板厚方向断面の2次元で表示したもので、図6は打撃面が4×4(mm2)の正方形のチッパー5の場合、図7は打撃面が丸型のチッパー5の場合を示す。図6、7より、打撃面が4×4(mm2)の矩形状のチッパー5の場合、打撃面が丸型のチッパー5の場合と比較して、母材内に広く圧縮残留応力が分布し、その値も大きい。
【0035】
図8に、上記FEM解析結果から得られた、板厚方向に平行な母材1の断面における残留応力の大きさと打撃中心からの距離との関係を示す。図8において、X=0mmが打撃中心位置、X=2mm上の点線が打撃面の端部位置に相当する。
【0036】
図8に太い実線で示した打撃面が正方形のチッパー5の場合、打撃した領域には圧縮残留応力が発生し、打撃中心から離れるに従って増大し、打撃中心から水平方向に3〜4mm程度はなれた図8にb領域として示した位置で400MPa程度の最大値が発生している。その後、徐々に低下するが、打撃した領域の端部から、9mm程度離れたところまで、100MPaを超える大きな圧縮残留応力が発生している。
【0037】
打撃面の幅(B)が4mm、即ち、図8において打撃中心からの距離2mmの位置の場合、溶接止端部から打撃面の溶接止端部側までの距離を1〜2mmとして母材を打撃すると、略最大の圧縮残留応力を溶接止端部に導入することが可能である。
【0038】
一方、図8に細い実線で示した打撃面が丸型のチッパー5の場合、打撃面の中心近傍には引張残留応力が発生し、圧縮応力は、打撃面の中心から水平方向に3mm程度はなれた図8にa領域として示した位置で最大値350MPa程度が発生する。100MPaを超える大きな圧縮残留応力は、打撃した領域の端部から、6.5mm程度離れたところまでで、打撃面が平坦なチッパー5と比較して、母材に圧縮残留応力が導入される領域は小さい。
【0039】
図6〜8に示す結果より、本発明ではチッパー先端部の打撃面を平坦な形状(ハンマーピーニングを容易とするため、面取りを施す)とし、溶接止端部から打撃面の溶接止端部側までの距離を打撃面幅(B)の1/4以内とする。
【0040】
平坦部の周囲を面取りすることによりチッパーの打撃による塑性変形領域を溶接止端部に接して形成する場合、打撃面の面取りされた部分が溶接止端部を打撃し、平坦部が溶接止端部に接した母材を打撃する。面取りされた部分が溶接止端部を打撃するので、溶接止端部にノッチ状の欠陥を生じさせることなく溶接止端部に接して塑性変形領域が形成される。尚、面取りは角を切り落とすC面取りでも半径Rの曲率で角部を丸めるR面取りのいずれでも良いが、C面取りの場合は辺長さ0.5mm以下、R面取の場合は0.5mmR以下とすることが望ましい。
【0041】
図5には、平板状の母材表面を加圧し塑性変形させた際のFEM解析結果を示したが、溶接止端部4の近傍の母材表面を加圧(打撃)した際の残留応力分布をFEM解析で求めた結果の一例を図9に示す。圧縮残留応力分布は、溶接ビード3が存在しても平板の場合と同様な分布形態、大きさを示すことがわかる。
【0042】
以上より、本発明では、溶接止端部近傍にチッパーの打撃による複数の打撃痕からなる帯状の塑性変形領域を形成する場合、打撃におけるチッパーの移動方向を示す打撃線(チッパーの打撃面の溶接止端部側の位置で表す)は、溶接止端部と打撃線との距離がチッパーの打撃面の幅の1/4以内となるように設定する。
【0043】
この際、打撃による塑性変形領域の一部が重なるように止端部4近傍側から漸次外側に打撃線を設定すると、変動の小さな圧縮残留応力分布が得られ、より安定して疲労強度を向上させることが可能である。
【0044】
ハンマーピーニングに本発明を適用する場合、ハンマーピーニング装置のチッパーの先端部の寸法(幅B)と加圧力、母材特性(鋼橋の場合、SS400〜SM570が用いられ、降伏応力215N/mm2〜450N/mm2となる)を用いて図4の解析を行い、母材表面における圧縮残留応力分布(図8)を求め、予め求めておいた止端部4の溶接残留応力分布に重畳させた場合に当該止端部4で最も大きな圧縮残留応力が得られるように、溶接止端部からチッパーの溶接止端部側までの距離をB/4以内で規定すれば良い。なお、本発明において、チッパーの打撃面の形状は面取り加工された平坦部を有していれば良く正方形に限定されない。
【0045】
本発明を実施する場合、チッパー先端部の形状が損なわれた時点で新しいチッパーに交換する。先端を焼き入れし硬度を増したチッパーを用いることが望ましい。
【実施例1】
【0046】
幅150mm×長さ500mm×板厚12mmで材質がSM490Yの母材1に、幅75mm×高さ50mm×板厚12mmで材質がSM490Yのリブ2を廻し溶接にて溶接して試験体とした。廻し溶接条件は、ワイヤーMXZ200−1、2Φ、100%CO2、240A、30V、40CPM、10、8KJ/cmとした。一方、チッパーは、0.5mmRのR面取り加工され平坦部が3mm角の略平坦形状の、4mm角の打撃面を先端部に有するものを使用した。そして、上記試験体の母材1表面を溶接線に沿って垂直に繰り返し打撃し、ハンマーピーニング処理を行った。打撃の際、上記試験体の溶接止端部から上記チッパーによる打撃面の溶接止端部側の端部までの距離は、1mmとした。その後、疲労試験に供した。
【0047】
図10に試験体の平面図と側面図を示す。ハンマーピーニングは図示した試験体において溶接残留応力が大きい領域であるリブ2の長手方向の端部を取り囲むU字状の領域を、溶接部に沿ってリブの一方の側面から他方の側面に向かって同一打撃線上を連続打撃することを1〜8回(偶数回の場合は往復)行った。
【0048】
ハンマーピーニングの条件は、チッパーによる打撃を打撃周期90±10Hz、溶接線方向に移動速度10cm/min以下とし、IIW(International Institute of Welding)推薦条件のうち空気圧約6kg/cm2、ハンマー荷重1.7kgを変化させ、1回の打撃による打撃痕の寸法を変化させた。
【0049】
塑性変形領域の寸法は、図示した試験体で最も発生応力の大きいリブ2の先端部(廻し溶接部)においてリブ2の板厚中心線の延長線上の塑性変形領域をレーザ変位計で測定し、塑性変形領域の形状を示す特性値として塑性変形領域における最大深さ×幅で定義される窪み特性値(単位はmm2)を求めた。また、最大深さは、母材の平坦な表面を基準とする窪み部分の最大値とする。複数回打撃した場合、レーザ変位計による測定は、個々の打撃痕の一部が重畳した、塑性変形領域の断面形状を測定することになる。また、溶接止端部の最大残留応力をX線回析法によって測定した。
【0050】
比較のため、溶接後、ハンマーピーニングを行わない試験体も作成して、疲労試験に供した。疲労試験は、試験体に対して、母材1の両端をチャッキングし、リブ2の長手方向に繰返し応力を与えて行った。
【0051】
図11に打撃線上を端から端まで移動する回数が実際の施工を想定した3、4回の場合の疲労試験結果を、溶接ままの場合と比較して示す。ハンマーピーニングを施した試験体はC等級ライン以上で、溶接まま試験体に比べ、日本鋼構造協会に示される疲労設計曲線(非特許文献3参照)の3等級程度の疲労強度向上効果が認められた。
【0052】
表1と図12に母材に作用する公称応力振幅が150MPaの場合の破断回数を、表2と図13に公称応力振幅が250MPaの場合の破断回数を、塑性変形領域の窪み特性値(mm2)で整理した結果を示す。
【0053】
溶接まま(窪み特性値が0mm2の場合)の試験結果に対し、公称応力振幅が150MPa以下の場合は0.7mm2以上、公称応力振幅が250MPa以下の場合は0.8mm2以上で、疲労強度が2等級向上したC等級ライン以上となる。
【0054】
表3と図14に塑性変形領域の窪み特性値(mm2)と溶接止端部の最大圧縮残留応力との関係を示す。溶接止端部の最大圧縮残留応力は窪み特性値(mm2)によって整理され、窪み特性値(mm2)が大きくなると低下することが認められる。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
図15に表1の150MPa破断回数を塑性変形領域の最大深さで整理した結果を、図16に表2の250MPa破断回数を塑性変形領域の最大深さで整理した結果を示す。溶接ままの試験結果(打撃痕最大深さ0.00mmの場合)に対し、公称応力振幅が150MPa以下の場合は最大深さ0.19mm以上、公称応力振幅が250MPa以下の場合は最大深さ0.22mm以上で、疲労強度が2等級向上したC等級ライン以上となる。疲労強度の等級は、上述の日本鋼構造協会に示される疲労設計曲線による。
【0059】
尚、図17に示すように最も溶接残留応力の大きいリブ2の先端部(廻し溶接部)における塑性変形領域で計測した窪み特性値(最大深さ×幅)と実際の窪みの断面積との間には、良好な比例関係が認められた。図中の回数は打撃線上を端から端まで移動する回数を示す。
【実施例2】
【0060】
実施例1と同じ方法で作成した試験体を6体準備し、4mm角の打撃面を有するチッパーで、塑性変形領域の溶接止端部側の端部から溶接止端部までの距離が0mm、1mm、2mm、3mm、4mm、5mmのいずれかとなるようにハンマーピーニングを行った後、疲労試験に供した。
【0061】
ハンマーピーニングは母材表面を溶接線に沿って垂直に繰り返して打撃し、窪み特性値(最大深さ×幅)0.8mm2以上、最大深さ0.20mm以上の塑性変形領域を形成するように条件を調整した。ハンマーピーニングの打撃線の設定および塑性変形領域の寸法の計測は、実施例1に準じた。塑性変形領域の溶接止端部側の端部から溶接止端部までの距離が0mmの場合、溶接止端部はチッパーの面取りされた部分で打撃されたが、ノッチ状の欠陥は発生しなかった。疲労試験は実施例1と同条件で行った。
【0062】
図18に250MPa破断回数を溶接止端部と塑性変形領域との距離(止端距離)で整理した結果を示す。溶接止端部と塑性変形領域との距離が打撃面の幅の1/4以内で本発明例となる塑性変形領域の溶接止端部側の端部から溶接止端部までの距離を0mm、1mmとした試験体では優れた疲労特性が得られている。
【0063】
ハンマーピーニングの場合、チッパーの打撃面と塑性変形領域の大きさはほぼ等しいので、溶接止端部とチッパーの打撃面の溶接止端部側との距離を2mm以上離して、母材のみを打撃した場合には、非特許文献2より算定される疲労等級がD等級であるのに対して、本発明による施工方法である、溶接止端部とチッパーの打撃面の溶接止端部側との距離を1mm以内として、溶接止端部と母材の境界部および母材の両方を打撃した場合には、疲労等級がA等級となり、溶接継手部の疲労強度が飛躍的に向上する。
【実施例3】
【0064】
幅150mm×長さ150mm×板厚12mmで材質がSM400の母材1に、幅150mm×高さ50mm×板厚12mmでSM400Aのリブ2を隅肉溶接にて溶接して残留応力測定試験体とした。隅肉溶接条件は、ワイヤーMXZ200−1、2Φ、100%CO2、240A、30V、40CPM、10、8KJ/cmとした。一方、チッパーは、先端部の打撃面が0.5mmRのR面取り加工され平坦部が3mm角の略平坦形状の4mm角を有するもの、または、先端部の打撃面が直径4mmの半球を有するものを使用した。そして、上記残留応力測定試験体の母材1表面を溶接線に沿って垂直に繰り返し打撃し、ハンマーピーニング処理を行った。打撃の際、上記残留応力測定試験体の溶接止端部から上記各チッパーによる打撃面の溶接止端部側の端部までの距離は、0mm、1mm、2mm、3mm、4mmのいずれかとした。その後、残留応力測定に供した。
【0065】
図19は残留応力測定試験体の形状を示し、(a)は断面図、(b)は上面図、(c)は側面図を示す。ハンマーピーニングは図示した試験体においてリブの溶接止端両側を、溶接部に沿って直線状の連続打撃を複数回行った。
【0066】
ハンマーピーニングの条件は、チッパーによる打撃を打撃周期90±10Hz、溶接線方向に移動速度10cm/min以下とし、打撃痕深さ0.15mm以上になるように、略平坦形状の4mm角の打撃面を有するチッパーの場合5回、直径4mmの半球の打撃面を有するチッパーの場合2回の打撃を行った。
【0067】
打撃による塑性変形領域の寸法は、残留応力計測ラインおよびその前後10mmの位置の合計3切断面においてレーザ変位計で測定した。そして、3切断面の打撃痕の最大深さの平均値を各試験体における最大深さ、また同じ3切断面の打撃痕幅の平均値を各試験体における幅とした。さらに参考のため、最大深さ×幅を併記した。残留応力測定試験体と最大深さとの関係を表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
また、溶接止端部の最大残留応力をX線回析法によって測定した。表5に先端部に平坦部を有する角型チッパー(単に角型チッパーという場合がある)を用いた試験体の残留応力分布を、表6に先端部に半球部を有する丸型チッパー(単に丸型チッパーという場合がある)を用いた試験体の残留応力分布を示す。X方向残留応力は約−100MPaあるいは溶接止端からの距離が約10mmを満たす位置まで測定した。試験体によって残留応力の測定位置および測定結果が異なるため、表5、6中には空欄が生じている。
また図20〜図24に残留応力測定結果(溶接止端からチッパー端部までの距離が0mm、1mm、2mm、3mm、4mmの場合のX方向残留応力分布図)を示す。
【0070】
各図において(a)は先端部に平坦部を有する角型チッパーの場合、(b)は先端部に半球部を有する丸型チッパーの場合を示す。
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
ハンマーピーニング時における残留応力測定試験体の打撃面の溶接止端部側の端部から溶接止端部までの距離Xと、X方向最小残留応力(最大圧縮残留応力)との関係を表7に示す。また図25に、残留応力測定試験体の打撃面の溶接止端部側の端部から溶接止端部まで、ハンマーピーニング時に離した距離Xが、0mm,1mm,2mm,3mm,4mmの場合におけるX方向最小残留応力(最大圧縮残留応力)を、先端部に平坦部を有する角型チッパーと先端部に半球部を有する丸型チッパーの場合とを比較して示す。図26は、上記距離Xと試験体との位置関係を示した側面図である。
【0074】
【表7】
【0075】
図20〜24および図25より、先端部に平坦部を有する角型チッパーを用いてハンマーピーニングを行った残留応力測定試験体の溶接止端近傍の圧縮残留応力は、先端部に半球部を有する丸型チッパーを用いてハンマーピーニングを行った残留応力測定試験体の溶接止端近傍の圧縮残留応力と比較して、打撃面の溶接止端部側の端部から溶接止端部までの距離が0mm、1mm、2mm、3mm、4mmのいずれにおいても、打撃痕の最大深さが小さいにもかかわらず、圧縮残留応力が大きい。
【0076】
例えば、図22の(a)と(b)とを溶接止端近傍の圧縮残留応力で比較すると、先端部に平坦部を有する角型チッパーの場合は先端部に半球部を有する丸型チッパーの場合の約2倍となっている。このことは、打撃痕形状と残留応力との関係が先端部に平坦部を有する角型チッパーと先端部に半球部を有する丸型チッパーとで異なることを意味している。すなわち、所定の残留応力を溶接止端近傍に導入するためには、平坦部を有する角型チッパーによる溶接止端部の打撃痕の形状に関する管理値は半球部を有する丸型チッパーによる溶接止端部の打撃痕の形状に関する管理値と異なり、新たな管理指標である窪み特性値(最大深さと幅の積)での管理が必要となる。
【符号の説明】
【0077】
1 母材
2 リブ
3 溶接ビード
4 溶接止端部
5 チッパー
51、52 テーパー部
53 平坦部
6 打撃部
7 疲労亀裂
【先行技術文献】
【特許文献】
【0078】
【特許文献1】特開2006−175512号公報
【特許文献2】特開2006−159290号公報
【特許文献3】特開2010−142870号公報
【特許文献4】特開2010−29897号公報
【非特許文献】
【0079】
【非特許文献1】IMPROVING FATIGUE STRENGTH OF WELDED JOINTS BY HAMMER PEENING AND TIG−DRESSING:Kengo ANAMI、Chitoshi MIKI、Hideki TANI、Haruhito YAMAMOTO、Structual Eng./Earthquake Eng.、JSCE、Vol.17、NO.1、57s−68s、2000 April)
【非特許文献2】加藤健三著:金属塑性加工学、丸善、pp.74−76
【非特許文献3】日本鋼構造協会:鋼構造物の疲労設計指針・同解説、pp.1−18、1993年.
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼橋など鋼構造物における溶接部の疲労強度を、溶接部に新たな応力集中部となる変形を与えずに圧縮残留応力を導入し向上させる疲労強度向上方法および該方法を施した溶接継手に関し、ハンマーピーニングに用いて好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鋼橋の老朽化に伴い腐食や疲労に伴う損傷事例の報告が増加している。疲労損傷の防止には検査体制の確立とともに、通過車両などの作用外力を軽減したり、設計製作面からの溶接品質の向上が重要である。
【0003】
溶接部は、割れなどの欠陥が存在したり、溶接止端部の形状が不適で応力集中部となると繰り返し応力に溶接残留応力の影響が重畳して疲労亀裂が発生しやすく、疲労破壊をもたらす場合があるため、その防止のため種々の観点からの提案がなされている。
【0004】
特許文献1は、溶接部の疲労強度向上方法およびそれを用いた溶接構造物に関し、溶接止端部の近傍を超音波振動する打撃装置で塑性変形させる際、所定の打撃条件で特定寸法の溝を加工することで、短時間でかつ作業者の熟練度に依存しないで安定して疲労強度を向上させることが記載されている。
【0005】
特許文献2は、レーザ衝撃ピーニング方法に関し、レーザ光源からのパルスレーザビームを使用して、表面のコーティングを瞬間的に気化させてその爆発力により表面の一部に局所的に圧縮力を発生させる方法で、ガスタービンエンジンのファン動翼に圧縮残留応力を導入させることが記載されている。
【0006】
非特許文献1は、ハンマーピーニング及びTIG処理による高強度鋼(SM570)の溶接継手部の疲労強度向上法に関し、ハンマーピーニングを施すと疲労強度が低下する場合があるため、溶接止端部の応力集中や残留応力を低減させる新たなハンマーピーニング法について検討した結果が記載されている。
【0007】
通常、ハンマーピーニングは、作業者がピーニング装置のチッパーを手で持って、溶接止端部にチッパー先端が斜め上方から当たるようにし、ピーニング装置の荷重を溶接止端部に預けるようにして作業を行い作業負荷を軽減している。
【0008】
そのため、図27に示す母材1にリブ2を直立させた面外ガセット継手にハンマーピーニングを施した場合、ピーニング装置のチッパー5の先端により溶接止端部に応力集中箇所となる深い溝6が形成され、溶接ビード3の先端部から疲労亀裂7が発生する場合がある。
【0009】
非特許文献1にはハンマーピーニングの前にグラインダで溶接止端部の一部を予め研削すると疲労亀裂の発生防止に有効であることが紹介され、ハンマーピーニングを3パス程度の複数回行うことを提案している。
【0010】
また、特許文献3には、溶接止端部に応力集中箇所となる深い溝が形成されないように、先端部が曲面の打撃ピンを用い、溶接ビードの止端から打撃中心までの距離が打撃ピンの先端曲率半径の2.5倍未満となる母材表面に、特定寸法の残留塑性変形が生じるように、ハンマーピーニングまたは超音波衝撃処理を施す突合せ溶接継手の疲労特性改善方法が記載されている(図28)。
【0011】
特許文献4には溶接継手の疲労特性改善打撃処理方法として、溶接ビードの止端付近の母材金属材料表面に、打撃ピンを押し付けながら溶接線方向に相対的に移動操作させてハンマーピーニング処理又は超音波衝撃処理を施す際、前記打撃ピンとして、先端曲率半径Rが金属材料の厚さの1/2以下かつ2〜10mmの打撃ピンを用い、前記溶接ビードの止端から打撃処理位置の中心までの距離が、前記打撃ピンの先端曲率半径Rの2.5倍以内とすることが記載されている。
【0012】
更に、特許文献4には、前記打撃ピンが打撃処理中に溶接金属に触れない範囲までの母材金属材料表面に、前記打撃ピンによって、打撃痕の溝深さが、0.1〜2mm、該打撃ピンの先端曲率半径R以下、かつ前記金属材料の厚さの1/10以下であり、打撃痕の幅が、1.5〜15mm、かつ前記溝深さの5倍以上である残留塑性変形が生じるように、ハンマーピーニング又は超音波衝撃処理を施すことも記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、鋼橋など大型構造物の場合、溶接線長さが長く、溶接止端部が溶接線方向に直線でなく幅1mm程度をもって蛇行することが多い。特許文献3記載の溶接継手の疲労特性改善打撃処理方法のように溶接止端部から微小な距離だけ離れた位置を保ちつつ溶接止端部に沿って、ハンマーピーニングすることは困難である。
【0014】
特許文献1記載の超音波によるピーニング方法は使用する装置が従来の空気圧でチッパーを駆動する装置と比較すると高価で入手も困難である。特許文献2記載のレーザ衝撃ピーニング方法は、素材の前処理が必要で、且つ装置が高価で大きく、鋼橋製造に適用することは難しい。特許文献3記載の超音波打撃処理を用いた加工方法は、突き合わせ溶接継手が対象で、鋼構造物に多い、隅肉溶接継手に対する効果は不明である。
【0015】
尚、特許文献4は、チッパーの先端が曲率半径Rを有する形状とすることを必須用件としたものであり、溶接ビードの止端から打撃処理位置の中心までの距離が、先端曲率半径Rの関数で規定されるなど現在利用されているハンマーピーニング法に容易に適用できず汎用性に乏しい。
【0016】
そこで、本発明は、応力集中源となるような深い溝状の打撃痕を形成せず、圧縮残留応力を広範囲に導入できるチッパーを用いてハンマーピーニングを行い、溶接止端部における溶接残留応力を低減させて疲労強度を向上させる溶接部の疲労強度向上方法および溶接継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の課題は以下の手段で達成可能である。
1.溶接部の溶接止端部近傍にチッパーの打撃による複数の打撃痕からなる帯状の塑性変形領域を形成して疲労強度を向上させる溶接部の疲労強度向上方法であって、前記チッパーの先端部の打撃面は平坦部と前記平坦部に沿った面取り部を有し、前記溶接止端部と前記打撃面の溶接止端部側との距離が前記打撃面の幅の1/4以内となるように前記溶接止端部近傍を打撃して窪み特性値(最大深さと幅の積)(mm2)が所定の値を有する帯状の塑性変形領域を母材に形成する際、前記帯状の塑性変形領域を溶接止端部に接して形成する場合は、前記打撃面の平坦部周囲の面取り部で溶接止端部を、前記平坦部で母材を打撃することを特徴とする溶接部の疲労強度向上方法。
2.前記打撃面の幅が4mm以上で、前記溶接止端部と前記打撃面の溶接止端部側との距離が1mm以内であることを特徴とする1記載の溶接部の疲労強度向上方法。
3.前記帯状の塑性変形領域における窪み特性値(最大深さと幅の積)(mm2)が前記溶接部に負荷される公称応力振幅が150MPa以下の場合は0.7mm2以上、公称応力振幅が250MPa以下の場合は0.8mm2以上であることを特徴とする2記載の溶接部の疲労強度向上方法。
4.前記帯状の塑性変形領域における最大深さが前記溶接部に負荷される公称応力振幅が150MPa以下の場合は0.19mm以上、公称応力振幅が250MPa以下の場合は0.22mm以上であることを特徴とする2または3に記載の溶接部の疲労強度向上方法。
5.チッパーによる打撃が打撃周期80Hz以上で溶接止端部に沿って移動速度10cm/min以下であることを特徴とする2乃至4のいずれか一つに記載の溶接部の疲労強度向上方法。
6.溶接止端部に沿って打撃線を設定し、当該打撃線上近傍を複数回打撃して帯状の塑性変形領域を形成することを特徴とする1乃至5のいずれか一つに記載の溶接部の疲労強度向上方法。
7.溶接部が隅肉溶接継手であることを特徴とする1乃至6のいずれか一つに記載の溶接部の疲労強度向上方法。
8.1乃至6のいずれか一つに記載の溶接部の疲労強度向上方法を施した溶接継手。
9.溶接止端部近傍を、先端部の打撃面に平坦部と前記平坦部に沿った面取り部を有するチッパーで前記打撃面に垂直方向に複数回打撃して形成した帯状の塑性変形領域を有する隅肉溶接継手であって、
前記打撃面の溶接止端部(線)と直角の辺の長さをB(mm)とした場合、前記帯状の塑性変形領域の溶接止端部側が前記溶接止端部から母材側にB/4(mm)以内となるように母材を打撃して帯状の塑性変形領域を形成した隅肉溶接継手。
10.前記打撃面の辺の長さが4mm以上で、前記帯状の塑性変形領域の溶接止端部側が前記溶接止端部から母材側に1mm以内で、
前記帯状の塑性変形領域における最大深さが
前記溶接部に負荷される公称応力振幅が150MPa以下の場合は0.19mm以上、公称応力振幅が250MPa以下の場合は0.22mm以上で、
前記帯状の塑性変形領域における最大深さと幅の積が
前記溶接部に負荷される公称応力振幅が150MPa以下の場合は0.7mm2以上、公称応力振幅が250MPa以下の場合は0.8mm2以上であることを特徴とする9記載の隅肉溶接継手。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、溶接止端部にノッチ状の欠陥を生じさせることなく溶接止端部近傍をハンマーピーニングして溶接部の疲労強度を向上させることが可能で、1.疲労等級がD等級からA等級に飛躍的に向上する。2.溶接止端部および母材の両方が打撃可能で、母材表面のみを打撃しなければならないという施工上の制約がないため、廻し溶接部などの施工が容易となり、適用構造、適用部位の制限を受けにくい。という効果が得られ、産業上、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を説明するための模式図。
【図2】チッパー先端部の形状を説明する図。
【図3】prandtlの理論を説明する図。
【図4】本発明の原理を説明するためのFEM解析条件を示す図。
【図5】図4の条件によるFEM解析結果を3次元残留応力分布として示す図。
【図6】図4の条件によるFEM解析結果を板厚方向断面で示す図(先端部に平坦部を有するチッパーの場合)
【図7】図4の条件によるFEM解析結果を板厚方向断面で示す図(先端部に半球部を有する丸型チッパーの場合)
【図8】4分の1対称モデルによる板厚方向断面における残留応力の大きさと打撃中心からの距離との関係を示す図(先端部に平坦部を有するチッパー(角型)と先端部に半球部を有するチッパー(丸型)の場合)。
【図9】本発明の効果を溶接止端部近傍における圧縮残留応力分布で説明する図。
【図10】試験体形状を示す図で(a)は上面図、(b)は側面図。
【図11】疲労試験結果を示す図。
【図12】150MPa破断回数を塑性変形領域の窪み特性値(最大深さ×幅)(mm2)で整理した結果を示す図(実施例1)。
【図13】250MPa破断回数を塑性変形領域の窪み特性値(最大深さ×幅)(mm2)で整理した結果を示す図(実施例1)。
【図14】塑性変形領域の窪み特性値(最大深さ×幅)(mm2)と溶接止端部の最大残留応力との関係を示す図。
【図15】150MPa破断回数を塑性変形領域の最大深さで整理した結果を示す図(実施例1)。
【図16】250MPa破断回数を塑性変形領域の最大深さで整理した結果を示す図(実施例1)。
【図17】最も発生応力の大きいリブ2の端部における塑性変形領域で計測した窪み特性値(最大深さ×幅)(mm2)と実際の断面積の関係を示す図。
【図18】250MPa破断回数を塑性変形領域の溶接止端部側の端部から溶接止端部までの距離(止端距離)で整理した結果を示す図(実施例2)。
【図19】実施例3で用いた隅肉溶接により溶接した残留応力測定試験体の形状を示し、(a)は断面図、(b)は上面図、(c)は側面図を示す図。
【図20】溶接止端からチッパー端部までの距離が0mmの場合のX方向残留応力分布図で(a)は先端部に平坦部を有する角型チッパーの場合、(b)は先端部に半球部を有する丸型チッパーの場合を示す図。
【図21】溶接止端からチッパー端部までの距離が1mmの場合のX方向残留応力分布図で(a)は先端部に平坦部を有する角型チッパーの場合、(b)は先端部に半球部を有する丸型チッパーの場合を示す図。
【図22】溶接止端からチッパー端部までの距離が2mmの場合のX方向残留応力分布図で(a)は先端部に平坦部を有する角型チッパーの場合、(b)は先端部に半球部を有する丸型チッパーの場合を示す図。
【図23】溶接止端からチッパー端部までの距離が3mmの場合のX方向残留応力分布図で(a)は先端部に平坦部を有する角型チッパーの場合、(b)は先端部に半球部を有する丸型チッパーの場合を示す図。
【図24】溶接止端からチッパー端部までの距離が4mmの場合のX方向残留応力分布図で(a)は先端部に平坦部を有する角型チッパーの場合、(b)は先端部に半球部を有する丸型チッパーの場合を示す図。
【図25】ハンマーピーニング時に、残留応力測定試験体の打撃面の溶接止端部側の端部から溶接止端部まで離した距離Xが0mm,1mm,2mm,3mm,4mmの場合におけるX方向最小残留応力(最大圧縮残留応力)に関する角型チッパーの場合と丸型チッパーの場合とを比較する図。
【図26】ハンマーピーニング時に溶接止端部から離した距離Xと試験体との位置関係を示す側面図。
【図27】従来のハンマーピーニングによる溶接止端部の損傷例を示す図。
【図28】従来技術(特許文献3)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は溶接止端部近傍をチッパー(打撃ピンという場合がある)で連続的に打撃し、特定の領域に所定の寸法の帯状の塑性変形領域を形成することで、溶接止端部に圧縮の残留応力を導入して溶接継手の疲労強度を向上させることを特徴とする。
【0021】
図1は本発明を説明する概念図で、母材1にリブ2を廻し溶接で溶接した部材の側面図において、溶接ビード3の溶接止端部(以下、止端部という場合がある。)4から特定距離B/4だけ離れて幅Bの塑性変形(点線で表示)を母材1の表面に生じさせた場合を示している。
【0022】
本発明では塑性変形領域に生じる圧縮残留応力が、溶接止端部4の引張残留応力を打消し、更に溶接止端部4に圧縮残留応力が導入されるように、面圧をかけて塑性変形させた領域と溶接止端部との距離を塑性変形させた領域の幅Bの1/4以内となるように規定する。
【0023】
塑性変形させる領域の幅Bは、止端部4に圧縮残留応力が導入され、且つ、止端部4に、母材1の表面を塑性変形させたことにより新たな応力集中源となる変形が生じないように設定する。
【0024】
母材1の表面を塑性変形させる場合は、プレス装置または繰り返し衝撃的な打撃を与える装置を用いる。以下の説明は、母材1の表面をハンマーピーニング装置のチッパー5で打撃する場合について行い、チッパー5の先端部の打撃面は平坦部と前記平坦部に沿った面取り部を有するものとする。
【0025】
図2でチッパー5の先端部の形状を説明する。図2は、チッパーを側面方向から見た側面図である。打撃面は正方形で、溶接止端部(線)に直角となる一辺の長さをチッパー5の先端のテーパー部51、テーパー部52の延長線と平坦部53の延長線の交点α1、α2間の長さL2とする。長さL2は平坦部53の一辺の長さL1とR面取り部の半径Rの2倍を加算した値と略等しく、本発明では幅Bとする。
【0026】
チッパー5で母材1の表面を打撃する場合、溶接止端部からチッパー5の打撃面の溶接止端部側までの距離が、チッパー5の打撃面の幅Bの1/4以内となるように打撃する。図2に示した先端部の形状を有するチッパー5で母材1の表面を打撃した場合、当該打撃により塑性変形する領域の幅は打撃面の平坦部の幅と略等しい。
【0027】
本発明において母材表面に対して垂直に打撃する際の垂直とは、厳密な意味での垂直に限るものではなく、打撃方向の傾き角が母材表面に対して80〜100°程度までであれば許容されるが、90°とすることが望ましい。
【0028】
チッパー5で母材表面を打撃する前に、止端部4と母材1の境界部にグラインダ研削などで窪み(r部)、好ましくは曲率半径が1mm以上の窪み(r部)を設けると母材表面の変形を止端部4に及ばさずに、より大きな圧縮残留応力を止端部4に導入させることが可能で好ましい。
【0029】
なお、母材表面の一部を打撃して塑性変形させた領域を形成した場合に、当該領域より離れている溶接止端部に圧縮応力が付与される理由は、図3に示したprandtlの理論(非特許文献2より図を抜粋)で説明される。
【0030】
平板に圧縮応力qを導入すると、その直下に鋭角が45°である直角三角型ABC、扇型のADC、BCEで示される、すべり線が発生する。その結果、圧縮応力を与えた長さと同じ長さの斜辺からなる直角三角型ADF、BEGに外側に押し出す力が作用し、圧縮応力が除荷された後も圧縮残留応力として板に作用する。
【0031】
[チッパー先端部の形状および打撃位置]
本発明では、チッパーの先端部の打撃面を周囲を面取りした平坦な形状とする。図4〜9に、チッパー先端部の形状が母材の残留応力分布に及ぼす影響をFEM解析によってシミュレートした結果を示す。FEM解析条件は、以下のとおりとした。
【0032】
チッパー5にて最大26kNの荷重を変位1mmで、母材1表面に垂直方向から与えて、母材1を塑性変形させた。母材1は、大きさ:200mm×200mm、板厚:12mm、材質:SM490Y相当とした。一方、チッパー5は、高さ:135mm、先端部以外のチッパー部(一般部):9mm角とした。なお、チッパー5の先端部の打撃面は、正方形の場合と丸型の場合それぞれについて解析した。チッパー5の先端部の打撃面の形状は、正方形の場合が4×4(mm2)の正方形で面取りのない完全な平坦とし、丸型の場合が直径4mmの半球状とした。さらにチッパー5の先端部の打撃面は、母材1に圧縮応力を与える範囲に相当するとした。
【0033】
図4は、FEM解析を行う上でのメッシュ形状の例を示す。4分の1対称モデルによる弾塑性解析を行うとした為、母材1の大きさとチッパー5の先端部の打撃面の寸法は半分となっている。
【0034】
図5に得られた残留応力の3次元分布の概要の一例として打撃面が4×4(mm2)の正方形のチッパー5の場合について示す。図6、7は残留応力分布の概要を板厚方向断面の2次元で表示したもので、図6は打撃面が4×4(mm2)の正方形のチッパー5の場合、図7は打撃面が丸型のチッパー5の場合を示す。図6、7より、打撃面が4×4(mm2)の矩形状のチッパー5の場合、打撃面が丸型のチッパー5の場合と比較して、母材内に広く圧縮残留応力が分布し、その値も大きい。
【0035】
図8に、上記FEM解析結果から得られた、板厚方向に平行な母材1の断面における残留応力の大きさと打撃中心からの距離との関係を示す。図8において、X=0mmが打撃中心位置、X=2mm上の点線が打撃面の端部位置に相当する。
【0036】
図8に太い実線で示した打撃面が正方形のチッパー5の場合、打撃した領域には圧縮残留応力が発生し、打撃中心から離れるに従って増大し、打撃中心から水平方向に3〜4mm程度はなれた図8にb領域として示した位置で400MPa程度の最大値が発生している。その後、徐々に低下するが、打撃した領域の端部から、9mm程度離れたところまで、100MPaを超える大きな圧縮残留応力が発生している。
【0037】
打撃面の幅(B)が4mm、即ち、図8において打撃中心からの距離2mmの位置の場合、溶接止端部から打撃面の溶接止端部側までの距離を1〜2mmとして母材を打撃すると、略最大の圧縮残留応力を溶接止端部に導入することが可能である。
【0038】
一方、図8に細い実線で示した打撃面が丸型のチッパー5の場合、打撃面の中心近傍には引張残留応力が発生し、圧縮応力は、打撃面の中心から水平方向に3mm程度はなれた図8にa領域として示した位置で最大値350MPa程度が発生する。100MPaを超える大きな圧縮残留応力は、打撃した領域の端部から、6.5mm程度離れたところまでで、打撃面が平坦なチッパー5と比較して、母材に圧縮残留応力が導入される領域は小さい。
【0039】
図6〜8に示す結果より、本発明ではチッパー先端部の打撃面を平坦な形状(ハンマーピーニングを容易とするため、面取りを施す)とし、溶接止端部から打撃面の溶接止端部側までの距離を打撃面幅(B)の1/4以内とする。
【0040】
平坦部の周囲を面取りすることによりチッパーの打撃による塑性変形領域を溶接止端部に接して形成する場合、打撃面の面取りされた部分が溶接止端部を打撃し、平坦部が溶接止端部に接した母材を打撃する。面取りされた部分が溶接止端部を打撃するので、溶接止端部にノッチ状の欠陥を生じさせることなく溶接止端部に接して塑性変形領域が形成される。尚、面取りは角を切り落とすC面取りでも半径Rの曲率で角部を丸めるR面取りのいずれでも良いが、C面取りの場合は辺長さ0.5mm以下、R面取の場合は0.5mmR以下とすることが望ましい。
【0041】
図5には、平板状の母材表面を加圧し塑性変形させた際のFEM解析結果を示したが、溶接止端部4の近傍の母材表面を加圧(打撃)した際の残留応力分布をFEM解析で求めた結果の一例を図9に示す。圧縮残留応力分布は、溶接ビード3が存在しても平板の場合と同様な分布形態、大きさを示すことがわかる。
【0042】
以上より、本発明では、溶接止端部近傍にチッパーの打撃による複数の打撃痕からなる帯状の塑性変形領域を形成する場合、打撃におけるチッパーの移動方向を示す打撃線(チッパーの打撃面の溶接止端部側の位置で表す)は、溶接止端部と打撃線との距離がチッパーの打撃面の幅の1/4以内となるように設定する。
【0043】
この際、打撃による塑性変形領域の一部が重なるように止端部4近傍側から漸次外側に打撃線を設定すると、変動の小さな圧縮残留応力分布が得られ、より安定して疲労強度を向上させることが可能である。
【0044】
ハンマーピーニングに本発明を適用する場合、ハンマーピーニング装置のチッパーの先端部の寸法(幅B)と加圧力、母材特性(鋼橋の場合、SS400〜SM570が用いられ、降伏応力215N/mm2〜450N/mm2となる)を用いて図4の解析を行い、母材表面における圧縮残留応力分布(図8)を求め、予め求めておいた止端部4の溶接残留応力分布に重畳させた場合に当該止端部4で最も大きな圧縮残留応力が得られるように、溶接止端部からチッパーの溶接止端部側までの距離をB/4以内で規定すれば良い。なお、本発明において、チッパーの打撃面の形状は面取り加工された平坦部を有していれば良く正方形に限定されない。
【0045】
本発明を実施する場合、チッパー先端部の形状が損なわれた時点で新しいチッパーに交換する。先端を焼き入れし硬度を増したチッパーを用いることが望ましい。
【実施例1】
【0046】
幅150mm×長さ500mm×板厚12mmで材質がSM490Yの母材1に、幅75mm×高さ50mm×板厚12mmで材質がSM490Yのリブ2を廻し溶接にて溶接して試験体とした。廻し溶接条件は、ワイヤーMXZ200−1、2Φ、100%CO2、240A、30V、40CPM、10、8KJ/cmとした。一方、チッパーは、0.5mmRのR面取り加工され平坦部が3mm角の略平坦形状の、4mm角の打撃面を先端部に有するものを使用した。そして、上記試験体の母材1表面を溶接線に沿って垂直に繰り返し打撃し、ハンマーピーニング処理を行った。打撃の際、上記試験体の溶接止端部から上記チッパーによる打撃面の溶接止端部側の端部までの距離は、1mmとした。その後、疲労試験に供した。
【0047】
図10に試験体の平面図と側面図を示す。ハンマーピーニングは図示した試験体において溶接残留応力が大きい領域であるリブ2の長手方向の端部を取り囲むU字状の領域を、溶接部に沿ってリブの一方の側面から他方の側面に向かって同一打撃線上を連続打撃することを1〜8回(偶数回の場合は往復)行った。
【0048】
ハンマーピーニングの条件は、チッパーによる打撃を打撃周期90±10Hz、溶接線方向に移動速度10cm/min以下とし、IIW(International Institute of Welding)推薦条件のうち空気圧約6kg/cm2、ハンマー荷重1.7kgを変化させ、1回の打撃による打撃痕の寸法を変化させた。
【0049】
塑性変形領域の寸法は、図示した試験体で最も発生応力の大きいリブ2の先端部(廻し溶接部)においてリブ2の板厚中心線の延長線上の塑性変形領域をレーザ変位計で測定し、塑性変形領域の形状を示す特性値として塑性変形領域における最大深さ×幅で定義される窪み特性値(単位はmm2)を求めた。また、最大深さは、母材の平坦な表面を基準とする窪み部分の最大値とする。複数回打撃した場合、レーザ変位計による測定は、個々の打撃痕の一部が重畳した、塑性変形領域の断面形状を測定することになる。また、溶接止端部の最大残留応力をX線回析法によって測定した。
【0050】
比較のため、溶接後、ハンマーピーニングを行わない試験体も作成して、疲労試験に供した。疲労試験は、試験体に対して、母材1の両端をチャッキングし、リブ2の長手方向に繰返し応力を与えて行った。
【0051】
図11に打撃線上を端から端まで移動する回数が実際の施工を想定した3、4回の場合の疲労試験結果を、溶接ままの場合と比較して示す。ハンマーピーニングを施した試験体はC等級ライン以上で、溶接まま試験体に比べ、日本鋼構造協会に示される疲労設計曲線(非特許文献3参照)の3等級程度の疲労強度向上効果が認められた。
【0052】
表1と図12に母材に作用する公称応力振幅が150MPaの場合の破断回数を、表2と図13に公称応力振幅が250MPaの場合の破断回数を、塑性変形領域の窪み特性値(mm2)で整理した結果を示す。
【0053】
溶接まま(窪み特性値が0mm2の場合)の試験結果に対し、公称応力振幅が150MPa以下の場合は0.7mm2以上、公称応力振幅が250MPa以下の場合は0.8mm2以上で、疲労強度が2等級向上したC等級ライン以上となる。
【0054】
表3と図14に塑性変形領域の窪み特性値(mm2)と溶接止端部の最大圧縮残留応力との関係を示す。溶接止端部の最大圧縮残留応力は窪み特性値(mm2)によって整理され、窪み特性値(mm2)が大きくなると低下することが認められる。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
図15に表1の150MPa破断回数を塑性変形領域の最大深さで整理した結果を、図16に表2の250MPa破断回数を塑性変形領域の最大深さで整理した結果を示す。溶接ままの試験結果(打撃痕最大深さ0.00mmの場合)に対し、公称応力振幅が150MPa以下の場合は最大深さ0.19mm以上、公称応力振幅が250MPa以下の場合は最大深さ0.22mm以上で、疲労強度が2等級向上したC等級ライン以上となる。疲労強度の等級は、上述の日本鋼構造協会に示される疲労設計曲線による。
【0059】
尚、図17に示すように最も溶接残留応力の大きいリブ2の先端部(廻し溶接部)における塑性変形領域で計測した窪み特性値(最大深さ×幅)と実際の窪みの断面積との間には、良好な比例関係が認められた。図中の回数は打撃線上を端から端まで移動する回数を示す。
【実施例2】
【0060】
実施例1と同じ方法で作成した試験体を6体準備し、4mm角の打撃面を有するチッパーで、塑性変形領域の溶接止端部側の端部から溶接止端部までの距離が0mm、1mm、2mm、3mm、4mm、5mmのいずれかとなるようにハンマーピーニングを行った後、疲労試験に供した。
【0061】
ハンマーピーニングは母材表面を溶接線に沿って垂直に繰り返して打撃し、窪み特性値(最大深さ×幅)0.8mm2以上、最大深さ0.20mm以上の塑性変形領域を形成するように条件を調整した。ハンマーピーニングの打撃線の設定および塑性変形領域の寸法の計測は、実施例1に準じた。塑性変形領域の溶接止端部側の端部から溶接止端部までの距離が0mmの場合、溶接止端部はチッパーの面取りされた部分で打撃されたが、ノッチ状の欠陥は発生しなかった。疲労試験は実施例1と同条件で行った。
【0062】
図18に250MPa破断回数を溶接止端部と塑性変形領域との距離(止端距離)で整理した結果を示す。溶接止端部と塑性変形領域との距離が打撃面の幅の1/4以内で本発明例となる塑性変形領域の溶接止端部側の端部から溶接止端部までの距離を0mm、1mmとした試験体では優れた疲労特性が得られている。
【0063】
ハンマーピーニングの場合、チッパーの打撃面と塑性変形領域の大きさはほぼ等しいので、溶接止端部とチッパーの打撃面の溶接止端部側との距離を2mm以上離して、母材のみを打撃した場合には、非特許文献2より算定される疲労等級がD等級であるのに対して、本発明による施工方法である、溶接止端部とチッパーの打撃面の溶接止端部側との距離を1mm以内として、溶接止端部と母材の境界部および母材の両方を打撃した場合には、疲労等級がA等級となり、溶接継手部の疲労強度が飛躍的に向上する。
【実施例3】
【0064】
幅150mm×長さ150mm×板厚12mmで材質がSM400の母材1に、幅150mm×高さ50mm×板厚12mmでSM400Aのリブ2を隅肉溶接にて溶接して残留応力測定試験体とした。隅肉溶接条件は、ワイヤーMXZ200−1、2Φ、100%CO2、240A、30V、40CPM、10、8KJ/cmとした。一方、チッパーは、先端部の打撃面が0.5mmRのR面取り加工され平坦部が3mm角の略平坦形状の4mm角を有するもの、または、先端部の打撃面が直径4mmの半球を有するものを使用した。そして、上記残留応力測定試験体の母材1表面を溶接線に沿って垂直に繰り返し打撃し、ハンマーピーニング処理を行った。打撃の際、上記残留応力測定試験体の溶接止端部から上記各チッパーによる打撃面の溶接止端部側の端部までの距離は、0mm、1mm、2mm、3mm、4mmのいずれかとした。その後、残留応力測定に供した。
【0065】
図19は残留応力測定試験体の形状を示し、(a)は断面図、(b)は上面図、(c)は側面図を示す。ハンマーピーニングは図示した試験体においてリブの溶接止端両側を、溶接部に沿って直線状の連続打撃を複数回行った。
【0066】
ハンマーピーニングの条件は、チッパーによる打撃を打撃周期90±10Hz、溶接線方向に移動速度10cm/min以下とし、打撃痕深さ0.15mm以上になるように、略平坦形状の4mm角の打撃面を有するチッパーの場合5回、直径4mmの半球の打撃面を有するチッパーの場合2回の打撃を行った。
【0067】
打撃による塑性変形領域の寸法は、残留応力計測ラインおよびその前後10mmの位置の合計3切断面においてレーザ変位計で測定した。そして、3切断面の打撃痕の最大深さの平均値を各試験体における最大深さ、また同じ3切断面の打撃痕幅の平均値を各試験体における幅とした。さらに参考のため、最大深さ×幅を併記した。残留応力測定試験体と最大深さとの関係を表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
また、溶接止端部の最大残留応力をX線回析法によって測定した。表5に先端部に平坦部を有する角型チッパー(単に角型チッパーという場合がある)を用いた試験体の残留応力分布を、表6に先端部に半球部を有する丸型チッパー(単に丸型チッパーという場合がある)を用いた試験体の残留応力分布を示す。X方向残留応力は約−100MPaあるいは溶接止端からの距離が約10mmを満たす位置まで測定した。試験体によって残留応力の測定位置および測定結果が異なるため、表5、6中には空欄が生じている。
また図20〜図24に残留応力測定結果(溶接止端からチッパー端部までの距離が0mm、1mm、2mm、3mm、4mmの場合のX方向残留応力分布図)を示す。
【0070】
各図において(a)は先端部に平坦部を有する角型チッパーの場合、(b)は先端部に半球部を有する丸型チッパーの場合を示す。
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
ハンマーピーニング時における残留応力測定試験体の打撃面の溶接止端部側の端部から溶接止端部までの距離Xと、X方向最小残留応力(最大圧縮残留応力)との関係を表7に示す。また図25に、残留応力測定試験体の打撃面の溶接止端部側の端部から溶接止端部まで、ハンマーピーニング時に離した距離Xが、0mm,1mm,2mm,3mm,4mmの場合におけるX方向最小残留応力(最大圧縮残留応力)を、先端部に平坦部を有する角型チッパーと先端部に半球部を有する丸型チッパーの場合とを比較して示す。図26は、上記距離Xと試験体との位置関係を示した側面図である。
【0074】
【表7】
【0075】
図20〜24および図25より、先端部に平坦部を有する角型チッパーを用いてハンマーピーニングを行った残留応力測定試験体の溶接止端近傍の圧縮残留応力は、先端部に半球部を有する丸型チッパーを用いてハンマーピーニングを行った残留応力測定試験体の溶接止端近傍の圧縮残留応力と比較して、打撃面の溶接止端部側の端部から溶接止端部までの距離が0mm、1mm、2mm、3mm、4mmのいずれにおいても、打撃痕の最大深さが小さいにもかかわらず、圧縮残留応力が大きい。
【0076】
例えば、図22の(a)と(b)とを溶接止端近傍の圧縮残留応力で比較すると、先端部に平坦部を有する角型チッパーの場合は先端部に半球部を有する丸型チッパーの場合の約2倍となっている。このことは、打撃痕形状と残留応力との関係が先端部に平坦部を有する角型チッパーと先端部に半球部を有する丸型チッパーとで異なることを意味している。すなわち、所定の残留応力を溶接止端近傍に導入するためには、平坦部を有する角型チッパーによる溶接止端部の打撃痕の形状に関する管理値は半球部を有する丸型チッパーによる溶接止端部の打撃痕の形状に関する管理値と異なり、新たな管理指標である窪み特性値(最大深さと幅の積)での管理が必要となる。
【符号の説明】
【0077】
1 母材
2 リブ
3 溶接ビード
4 溶接止端部
5 チッパー
51、52 テーパー部
53 平坦部
6 打撃部
7 疲労亀裂
【先行技術文献】
【特許文献】
【0078】
【特許文献1】特開2006−175512号公報
【特許文献2】特開2006−159290号公報
【特許文献3】特開2010−142870号公報
【特許文献4】特開2010−29897号公報
【非特許文献】
【0079】
【非特許文献1】IMPROVING FATIGUE STRENGTH OF WELDED JOINTS BY HAMMER PEENING AND TIG−DRESSING:Kengo ANAMI、Chitoshi MIKI、Hideki TANI、Haruhito YAMAMOTO、Structual Eng./Earthquake Eng.、JSCE、Vol.17、NO.1、57s−68s、2000 April)
【非特許文献2】加藤健三著:金属塑性加工学、丸善、pp.74−76
【非特許文献3】日本鋼構造協会:鋼構造物の疲労設計指針・同解説、pp.1−18、1993年.
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接部の溶接止端部近傍にチッパーの打撃による複数の打撃痕からなる帯状の塑性変形領域を形成して疲労強度を向上させる溶接部の疲労強度向上方法であって、前記チッパーの先端部の打撃面は平坦部と前記平坦部に沿った面取り部を有し、前記溶接止端部と前記打撃面の溶接止端部側との距離が前記打撃面の幅の1/4以内となるように前記溶接止端部近傍を打撃して窪み特性値(最大深さと幅の積)(mm2)が所定の値を有する帯状の塑性変形領域を母材に形成する際、前記帯状の塑性変形領域を溶接止端部に接して形成する場合は、前記打撃面の平坦部周囲の面取り部で溶接止端部を、前記平坦部で母材を打撃することを特徴とする溶接部の疲労強度向上方法。
【請求項2】
前記打撃面の幅が4mm以上で、前記溶接止端部と前記打撃面の溶接止端部側との距離が1mm以内であることを特徴とする請求項1記載の溶接部の疲労強度向上方法。
【請求項3】
前記帯状の塑性変形領域における窪み特性値(最大深さと幅の積)(mm2)が前記溶接部に負荷される公称応力振幅が150MPa以下の場合は0.7mm2以上、公称応力振幅が250MPa以下の場合は0.8mm2以上であることを特徴とする請求項2記載の溶接部の疲労強度向上方法。
【請求項4】
前記帯状の塑性変形領域における最大深さが前記溶接部に負荷される公称応力振幅が150MPa以下の場合は0.19mm以上、公称応力振幅が250MPa以下の場合は0.22mm以上であることを特徴とする請求項2または3に記載の溶接部の疲労強度向上方法。
【請求項5】
チッパーによる打撃が打撃周期80Hz以上で溶接止端部に沿って移動速度10cm/min以下であることを特徴とする請求項2乃至4のいづれか一つに記載の溶接部の疲労強度向上方法。
【請求項6】
溶接止端部に沿って打撃線を設定し、当該打撃線上近傍を複数回打撃して帯状の塑性変形領域を形成することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の溶接部の疲労強度向上方法。
【請求項7】
溶接部が隅肉溶接継手であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の溶接部の疲労強度向上方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一つに記載の溶接部の疲労強度向上方法を施した溶接継手。
【請求項9】
溶接止端部近傍を、先端部の打撃面に平坦部と前記平坦部に沿った面取り部を有するチッパーで前記打撃面に垂直方向に複数回打撃して形成した帯状の塑性変形領域を有する隅肉溶接継手であって、
前記打撃面の溶接止端部(線)と直角の辺の長さをB(mm)とした場合、前記帯状の塑性変形領域の溶接止端部側が前記溶接止端部から母材側にB/4(mm)以内となるように母材を打撃して帯状の塑性変形領域を形成した隅肉溶接継手。
【請求項10】
前記打撃面の辺の長さが4mm以上で、前記帯状の塑性変形領域の溶接止端部側が前記溶接止端部から母材側に1mm以内で、
前記帯状の塑性変形領域における最大深さが
前記溶接部に負荷される公称応力振幅が150MPa以下の場合は0.19mm以上、公称応力振幅が250MPa以下の場合は0.22mm以上で、
前記帯状の塑性変形領域における最大深さと幅の積が前記溶接部に負荷される公称応力振幅が150MPa以下の場合は0.7mm2以上、公称応力振幅が250MPa以下の場合は0.8mm2以上であることを特徴とする請求項9記載の隅肉溶接継手。
【請求項1】
溶接部の溶接止端部近傍にチッパーの打撃による複数の打撃痕からなる帯状の塑性変形領域を形成して疲労強度を向上させる溶接部の疲労強度向上方法であって、前記チッパーの先端部の打撃面は平坦部と前記平坦部に沿った面取り部を有し、前記溶接止端部と前記打撃面の溶接止端部側との距離が前記打撃面の幅の1/4以内となるように前記溶接止端部近傍を打撃して窪み特性値(最大深さと幅の積)(mm2)が所定の値を有する帯状の塑性変形領域を母材に形成する際、前記帯状の塑性変形領域を溶接止端部に接して形成する場合は、前記打撃面の平坦部周囲の面取り部で溶接止端部を、前記平坦部で母材を打撃することを特徴とする溶接部の疲労強度向上方法。
【請求項2】
前記打撃面の幅が4mm以上で、前記溶接止端部と前記打撃面の溶接止端部側との距離が1mm以内であることを特徴とする請求項1記載の溶接部の疲労強度向上方法。
【請求項3】
前記帯状の塑性変形領域における窪み特性値(最大深さと幅の積)(mm2)が前記溶接部に負荷される公称応力振幅が150MPa以下の場合は0.7mm2以上、公称応力振幅が250MPa以下の場合は0.8mm2以上であることを特徴とする請求項2記載の溶接部の疲労強度向上方法。
【請求項4】
前記帯状の塑性変形領域における最大深さが前記溶接部に負荷される公称応力振幅が150MPa以下の場合は0.19mm以上、公称応力振幅が250MPa以下の場合は0.22mm以上であることを特徴とする請求項2または3に記載の溶接部の疲労強度向上方法。
【請求項5】
チッパーによる打撃が打撃周期80Hz以上で溶接止端部に沿って移動速度10cm/min以下であることを特徴とする請求項2乃至4のいづれか一つに記載の溶接部の疲労強度向上方法。
【請求項6】
溶接止端部に沿って打撃線を設定し、当該打撃線上近傍を複数回打撃して帯状の塑性変形領域を形成することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の溶接部の疲労強度向上方法。
【請求項7】
溶接部が隅肉溶接継手であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の溶接部の疲労強度向上方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一つに記載の溶接部の疲労強度向上方法を施した溶接継手。
【請求項9】
溶接止端部近傍を、先端部の打撃面に平坦部と前記平坦部に沿った面取り部を有するチッパーで前記打撃面に垂直方向に複数回打撃して形成した帯状の塑性変形領域を有する隅肉溶接継手であって、
前記打撃面の溶接止端部(線)と直角の辺の長さをB(mm)とした場合、前記帯状の塑性変形領域の溶接止端部側が前記溶接止端部から母材側にB/4(mm)以内となるように母材を打撃して帯状の塑性変形領域を形成した隅肉溶接継手。
【請求項10】
前記打撃面の辺の長さが4mm以上で、前記帯状の塑性変形領域の溶接止端部側が前記溶接止端部から母材側に1mm以内で、
前記帯状の塑性変形領域における最大深さが
前記溶接部に負荷される公称応力振幅が150MPa以下の場合は0.19mm以上、公称応力振幅が250MPa以下の場合は0.22mm以上で、
前記帯状の塑性変形領域における最大深さと幅の積が前記溶接部に負荷される公称応力振幅が150MPa以下の場合は0.7mm2以上、公称応力振幅が250MPa以下の場合は0.8mm2以上であることを特徴とする請求項9記載の隅肉溶接継手。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
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【図17】
【図18】
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【図20】
【図21】
【図22】
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【図24】
【図25】
【図26】
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【図28】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【公開番号】特開2012−176437(P2012−176437A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−998(P2012−998)
【出願日】平成24年1月6日(2012.1.6)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年1月6日(2012.1.6)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
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