説明

溶液分析装置および溶液分析方法

【課題】例えば水道水,環境水等の溶液や、土壌,食品,廃棄物等から溶出する溶液等を高感度および高精度で微量分析(例えば、微量金属イオンの測定)できるようにする。
【解決手段】被分析対象1a中に作用電極(銅電極)2,対電極3,参照電極4を浸し、作用電極2の電位を所定電位に保持(電位保持工程)してから、作用電極2の電位を微分パルスモードにより掃引することにより、前記の作用電極2で析出された測定対象を被分析対象中に溶出すると共に、その作用電極2の電位変化に対する電流変化を検出(電位掃引工程)する。前記の電位掃引工程では、充電電流の減衰が十分ではない減衰十分位置以外(すなわち、減衰不十分位置)のサンプリング位置(例えば、23ms以内)にて電解電流をサンプリングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作用電極,対電極,参照電極を構成したボルタンメトリーにより金属イオン等を測定(定性,定量)して分析することが可能な溶液分析装置および溶液分析方法であって、例えば水道水,環境水等の溶液や、土壌,食品,廃棄物等から溶出する溶液等に含まれる微量(100pptレベル以上)な鉛,カドミウム,亜鉛等を測定して分析することが可能な装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水道水,環境水(例えば、海水,河川,湖沼,地下水)等の溶液や、土壌,食品,廃棄物等から溶出する溶液等には、意図しない種々の有害物質(例えば、有害金属等)が含まれている可能性があり、従来から問題提起されている。
【0003】
例えば、世界保健機構(WHO)による飲料水水質ガイドラインの改訂の検討、厚生労働省による水道法の改正の検討(平成16年4月1日から改正水道法が施行(水質検査機関の登録制度関係は平成16年3月31日から施行)、土壌汚染対策法の改正の検討(平成15年2月15日から土壌汚染対策法の施行)が行われている。
【0004】
有害金属としては、例えば水銀,亜鉛,カドミウム,鉛等の重金属が挙げられ、その量の増加に伴って人体等に影響を及ぼす可能性が指摘されている。このようなことから、自然界に存在する各種物質を測定(定性,定量)して分析し、監視する必要性が指摘されている。
【0005】
例えば水道水,環境水等の溶液や、土壌,食品,廃棄物等から溶出する溶液等(被分析対象)に含まれる重金属(測定対象)を分析する方法としては、公定分析法である原子吸光分析法,ICP発光分析法,ICP質量分析法等により特定の物質(測定対象)を測定して分析する方法が知られている。
【0006】
この公定分析法は被分析対象中の微量な測定対象を測定して分析(以下、微量分析と称する)できるものの、使用する装置が大型(例えば、作業者が手軽に運搬できない程度の形態)および高価であり、その装置の操作において技術的な熟練度や手間(長時間を要する等)を必要とするため一般的(容易)に扱えるものではない。このため、公定分析法と比較して、使用する装置が小型および安価であって、煩雑な操作等を要しない簡易分析法等の適用も試みられている。
【0007】
近年においては、溶液中に存在する有害物質の多くが電気化学的活性を有することに着目し、種々の有害物質を電気化学的な手法で分析する試み、例えば作用電極(水銀電極,炭素系電極,金電極,銅電極等),対電極,参照電極等を用いたアノーディック(またはカソーディック)・ストリッピング・ボルタンメトリー法(以下、ボルタンメトリー法と称する)で分析する試みが行われている。このボルタンメトリー法は、前記の公定分析法よりも簡略化(例えば、使用装置の小型化,低コスト化)された方法であって、微量分析(例えば、微量金属イオン濃度の定量)が短時間で容易にできる可能性があり、電解質を多量に含んだ被分析対象(例えば、海水等)の分析にも有利とされている。
【0008】
例えば、作用電極として水銀電極(水銀滴を用いる電極等)を用い、その水銀電極にてアマルガムを形成して分析する方法(極めて低濃度の分析方法;(例えば、非特許文献1))や、作用電極として銅電極を用い、その銅電極表面に測定対象を析出(還元等による濃縮)させて分析する方法(比較的低濃度(100nMレベル)を想定した分析方法)が知られている(例えば、特許文献1)。これらのボルタンメトリー法は、例えば作用電極の電位を所定電位に保持し該作用電極にて測定対象を析出する工程(以下、電位保持工程と称する)を経てから、その作用電極の電位を一方向(測定対象に応じて正方向または負方向)に掃引することにより、該作用電極で析出された測定対象を被分析対象中に溶出すると共に、その作用電極の電位変化に対する電流変化を検出(サンプリング)する工程(以下、電位掃引工程と称する)を行うものである。
【0009】
前記の電位掃引工程では、作用電極に対して、電解電流の他に充電電流(荷電電流)が通電されるため、微分パルスモードを適用し該充電電流の影響を回避(例えば、S/N比を向上)する手法が慣用されている。
【0010】
例えば、作用電極として水銀電極を用いた微分パルスポーラログラフィーの場合、作用電極の電位がパルス状に掃引されると、ファラデー電流の他に充電電流が通電される。この充電電流は所定時間経過後に十分減衰するため、その十分減衰した以降のサンプリング位置(以下、減衰十分位置と称する)にて電解電流をそれぞれサンプリングする。一般的には、特に極めて低濃度の被分析対象を分析を想定した場合には、例えば水銀電極を用い、パルス幅を50ms以上に設定し、例えば40ms〜50msのサンプリング位置(すなわち、各パルス期間の前縁からの時間(40ms〜50ms)に相当)で電解電流をサンプリングし、If(ファラデー電流)とIB(バックグランド電流)の電流差(各パルス期間にてサンプリングした電解電流の差)ΔIに基づいたポーラログラム(電位変化に対する電流変化特性)を得ている(例えば、非特許文献2)。このポーラログラムのピーク電流値は測定対象の濃度に応じて変化するため、種々の濃度(測定対象の濃度)に対する各ピーク電流値の特性線(以下、ピーク電流特性線と称する)が直線性を有する場合には、該ピーク電流特性線を検量線として適用することができる。
【0011】
しかしながら、前記のボルタンメトリー法であっても、例えば水銀電極を用いる場合には、該水銀電極自体が危険物であり、その取扱方法や環境汚染(側定時の溶出や廃棄等による汚染)等の観点において懸念されている。また、水銀電極以外の電極(銅電極,グラッシーカーボン電極等の炭素系電極)を用いた場合であっても、例えば近年の環境問題の提起等に伴って、より高感度および高精度で微量分析できる分析方法の出現が求められている。
【特許文献1】特開2004−294422
【非特許文献1】Daniel F. Tibbetts,James Davis,Richard G. Compton,“Sonoelectroanalytical detection of lead at a bare copper electrode”,(独国),Fresenius’ Journal Analytical Chemistry,Springer−Verlag,2000,368,p.412−414。
【非特許文献2】鈴木繁喬,吉森孝良著、「電気分解法‐電解分析・ボルタンメトリー」、初版、共立出版株式会社、1987年7月20日、p.105−108。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上示したようなことから、前記の公定分析法よりも簡略化(例えば、使用する装置の小型化,低コスト化)された装置および方法であって、より高感度および高精度の微量分析(例えば、微量金属イオンの測定)が容易にでき(例えば、公定分析法のような煩雑な作業を要さず短時間ででき)、また危険物の取扱や環境汚染等を考慮する必要の無い分析装置および分析方法の出現が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記課題の解決を図るために、電位保持工程,電位掃引工程を行うボルタンメトリー法に基づいたものであって、作用電極として銅電極を用い、該電位掃引工程を新たな微分パルスモードで行うことにより、被分析対象中の極めて低濃度の測定対象を測定でき、該被分析対象をより高感度および高精度で微量分析できるものである。
【0014】
具体的に、請求項1記載の発明は、少なくとも作用電極,対電極(例えば、例えば、後述の実施例では白金電極等),参照電極(Ag/AgCl参照電極)から構成され、測定対象を含んだ被分析対象中(例えば、水道水,環境水等の溶液や、土壌,食品,廃棄物等から溶出する溶液等)に前記の各電極を配置し、該作用電極の電位を被分析対象中の測定対象が析出し得る電位に保持でき、その保持された電位によって析出された測定対象が溶出し得る方向に微分パルスモードにより掃引でき、該作用電極における電位変化に対する電流変化を検出でき、100ppt以上レベルの被分析対象を分析することが可能な溶液分析装置において、前記作用電極は銅電極であることを特徴とする。
【0015】
請求項2記載の発明は、作用電極,対電極,参照電極を被分析対象中に配置してから、前記作用電極の電位を、被分析対象中の測定対象が析出し得る電位に保持する電位保持工程と、前記の保持された作用電極の電位を、前記の電位保持工程で析出した測定対象が溶出し得る方向に微分パルスモードにより掃引しながら、該作用電極における電位変化に対する電流変化を検出する電位掃引工程と、による分析操作を行い数100ppt以上レベルの被分析対象を分析することが可能な方法であって、前記の作用電極には銅電極を用いたことを特徴とする。
【0016】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記の被分析対象中に塩化物イオンが含まれていることを特徴とする。
【0017】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記の電位保持工程で測定対象が析出し得る電位に保持する前に、−100mV(vs.Ag/AgCl)より正方向の電位で前記作用電極に電位析出前電位印加を行うことを特徴とする。
【0018】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記の析出前電位印加の電位は±0V(vs.Ag/AgCl)より正方向であることを特徴とする。
【0019】
請求項6記載の発明は、請求項2〜5記載の発明において、前記の被分析対象は鉛,カドミウム,亜鉛のうち少なくとも何れか一つ以上が含まれていることを特徴とする。
【0020】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、前記の被分析対象中に少なくとも鉛が測定対象として含まれ、前記の電位保持工程において微分パルスモードによりパルス印加後23ms以内(すなわち、減衰不十分位置)で電解電流をサンプリングすることを特徴とする。
【0021】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明において、前記の被分析対象が鉛を含まないものであって、測定対象がカドミウムの場合には、該被分析対象に対し鉛を添加することを特徴とする。
【0022】
請求項1,2記載の発明では、作用電極が銅電極であり、作用電極に析出された測定対象が溶出し得る方向に微分パルスモードにより掃引することにより、100pptレベル以上の測定対象を測定できる。
【0023】
請求項3記載の発明では、塩化物イオン共存下(例えば、塩化カリウム溶液を含む被分析対象中)での電位保持工程が行われるため、該塩化物イオンが銅電極表面に特異吸着、すなわち1価の塩化銅が形成されるため、測定対象(鉛,カドミウム,亜鉛等)と電極である銅との合金が形成され易くなる。また、前記の塩化物イオンの特異吸着により、被分析対象中における溶存酸素の還元反応が抑制、および水素発生が抑制され、電位窓が広くなり、検出感度が向上する。
【0024】
請求項4記載の発明では、析出前電位印加によって、電位保持工程の際に被分析対象中の塩化物イオンが銅電極表面に対して特異吸着し易くなるため、測定対象(鉛,カドミウム,亜鉛等)と電極である銅との合金がより形成され易くなる。また、被分析対象中における溶存酸素の還元反応、および水素発生がより抑制されるため、電位窓(負電位側の電位窓)がより広くなり、検出感度がより向上する。
【0025】
請求項5記載の発明では、作用電極表面自体が分子レベルで酸化溶出する。
【0026】
請求項7記載の発明では、電位掃引工程でのサンプリング位置が減衰十分位置でない条件において、測定対象濃度の増加に伴って大きくなるピーク電流が得られ、そのピーク電流特性線において十分良好な直線性が得られる。
【0027】
請求項8記載の発明では、鉛を含まない被分析対象中のカドミウムを測定する際において、該被分析対象に鉛を添加(添加剤として使用)すれば、バックグランド電流を減衰して安定できる(S/B比が高くなる)。
【発明の効果】
【0028】
請求項1〜8記載の発明によれば、公定分析法等のように大型および高価で複雑な操作が必要な分析とは異なり(簡略化された分析であって)、また危険物の取扱や環境汚染等を考慮する必要の無い分析であり、極めて低濃度(例えば、数100pptレベル以上)の測定対象を含む被分析対象について高感度および高精度の微量分析が可能となる。
【0029】
また請求項3記載の発明によれば、例えば被分析対象が複数の測定対象を含むものや夾雑物を多く含むものであっても、析出時に電極である銅と選択的に合金を形成するため、それら測定対象同士の相互作用を回避(少なくとも抑制)しながら選択的に測定でき、より高感度(特に、検出感度等)および高精度な微量分析が再現性良くできる。また、電位窓が広くなることにより、微量分析できる範囲が広くなる。
【0030】
さらに、請求項4記載の発明によれば、被分析対象中の複数の測定対象をより選択的に測定し易くなり、より高感度および高精度な微量分析がより再現性良くでき、微量分析できる範囲がより広くなる。
【0031】
さらにまた、請求項5記載の発明によれば、作用電極表面が清浄(再生)される。
【0032】
加えて、請求項7記載の発明によれば、特に極めて低濃度(例えば、数100pptレベル以上)の鉛に係る微量分析においてさらに高感度および高精度で行うことが可能となる。
【0033】
加えてまた、請求項8記載の発明によれば、微量分析の再現性がさらに良好になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本実施の形態における溶液分析装置および溶液分析方法を図面等に基づいて説明する。
【0035】
本実施の形態は、作用電極,対電極,参照電極を用い、水道水,環境水(例えば、海水,河川,湖沼,地下水)等の溶液や、土壌,食品,廃棄物等から溶出する溶液等の被分析対象(例えば、鉛,亜鉛,カドミウム等の測定対象を含んだ溶液)を分析するボルタンメトリー法による分析装置および分析方法であって、前記の作用電極として銅電極を用い、電位掃引工程で微分パルスモードを適用したものである。本実施の形態のように銅電極を用い電位掃引工程で微分パルスモードを適用することにより、100pptレベル以上の分析が可能となる。
【0036】
銅電極を用いた分析においては、特許文献1等の従来法により100nMレベルの鉛を測定できることが知られていたが、本実施形態のように100pptレベル以上の分析に適用する試みが全くなかった。すなわち、従来法により100pptレベル以上の分析を行う場合には、銅電極以外の電極、例えば水銀電極等が適用されることになる。
【0037】
本実施形態において、特に鉛を測定対象とする場合には、微分パルス条件を調整することが好ましい。すなわち、前述の非特許文献2等の従来法とは異なり、充電電流の減衰が十分ではない減衰十分位置以外(すなわち、減衰不十分位置)のサンプリング位置(例えば、23ms以内)、すなわち従来法では全く想定されなかったサンプリング位置にて電解電流をそれぞれサンプリングし、If(ファラデー電流)とIB(バックグランド電流)の電流差(各パルス期間にてサンプリングした電解電流の差)ΔIに基づいたポーラログラム(電位変化に対する電流変化特性)を得る。
【0038】
前記のように各パルス期間のうち減衰不十分位置のサンプリング位置で電解電流をサンプリングする微分パルスモードは、該サンプリング時の充電電流の減衰が不十分であり、従来法の観点(特に微量分析の観点)では全く想定されなかったものであるが、本実施の形態のように作用電極として銅電極を用い電位掃引工程で微分パルスモードを適用した場合には、たとえ被分析対象中の測定対象が極めて微量(例えば、数100pptレベル以上)であっても、高精度および高感度の微量分析が可能となる。また、減衰不十分位置のサンプリング位置であるため、例えば従来法のようにパルス幅を50ms以上に設定する必要は無い(すなわち、パルス幅が制限されることは無い)。
【0039】
[分析方法に適用される装置例]
図1は、本実施の形態における分析方法に適用される装置の一例を示す概略図である。図1において、符号1は測定容器(セル)を示すものであり、その測定容器1内には被分析対象(例えば、水道水,環境水等の溶液や、土壌,食品,廃棄物等から溶出する溶液等)1aが入っており、封止部材1bにより封止される。符号2は銅電極から成る作用電極(例えば、略円柱状,略平板状の電極)、符号3は対電極(例えば、白金やカーボンから成るコイル状の電極)、符号4は参照電極(基準電極;例えば、Ag/AgCl電極(飽和塩化カリウム)や飽和カロメル電極(Saturated Calomel Electrode)等)を示すものであり、それら作用電極2,対電極3,参照電極4はそれぞれ一定の距離を隔てて、前記測定容器1内の被分析対象1a中に浸漬されるように配置される。
【0040】
符号5はポテンシオスタットを示すものであり、そのポテンシオスタット5には前記作用電極2,対電極3,参照電極4が例えば配線2a,3a,4a等を介して接続される。また、前記ポテンシオスタット5には、該ポテンシオスタット5等を介して得た測定データに係る演算等が可能なコンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータ)6の他に、必要に応じてレコーダ,ポテンシャルスイーパ等が接続される。符号7はスターラーを示すものであり、そのスターラー7によって前記測定容器1内の底部に位置する撹拌子7aを動作させて、前記測定容器1内の被分析対象1aを撹拌するものである。
【0041】
次に、図1に示した装置による分析方法の概略を説明する。まず、作用電極2表面への測定対象の移動を促進するために、スターラー7,撹拌子7aを介して被分析対象1aを撹拌(乱流)することにより、該被分析対象1a中の物質移動(電気化学的活性物質の物質移動、すなわち後述の析出物質の析出効率(濃縮効率))を促進させながら、ポテンシオスタット5により作用電極2の電位(参照電極4によって規制された電位)を所望の電位(少なくとも測定対象が析出し得る電位)に設定して所定時間保持し、被分析対象1a中の測定対象を前記作用電極2表面に析出(単体濃縮物質を形成、または銅電極との合金濃縮物質を形成)させる。その後、前記ポテンシオスタット5により、前記作用電極2の保持されていた電位を、析出物質(単体濃縮物質または合金濃縮物質)が溶出し得る方向(正方向または負方向)に所定の微分パルス条件で掃引して、前記の析出物質を被分析対象1a中に溶出(ストリッピング)する。
【0042】
前記の析出物質は、所定の電位でそれぞれ溶出することから、前記作用電極2の電位を掃引(該析出物質を被分析対象1a中に溶出)する際に、該作用電極2の電位変化に対する電流変化を検出(作用電極2と対電極3との間を流れる電解電流をサンプリング)する。そして、その電流変化を積分計算して得られる電気量(クーロン量)もしくはピーク電流値を検量線と比較することにより、測定対象を測定(定量,定性)し前記被分析対象1aの分析(測定対象濃度等の測定による分析)を行うことができる。
【実施例】
【0043】
次に、図1の概略説明図(図1と同様のものには同一符号等を用いて詳細な説明を省略)に示すような分析において、クロノアンペロメトリー法により充電電流の減衰挙動を検証してから、実施例1〜7により種々の試料S1〜S7(被分析対象1aに相当)の分析を行った。
【0044】
なお、図1に示す分析装置において、作用電極2,対電極3,参照電極4には、それぞれ収縮テフロン(登録商標)チューブ内に銅電極を埋設させて形成した北斗電工社製の電極(被分析対象に接触する面積が0.07cm2),Φ0.5mmのコイル状白金線,飽和塩化カリウムのAg/AgCl電極(北斗電工社製のHX−R6)を用いた。また、測定容器1には50mLガラスビーカー、ポテンシオスタット5には北斗電工社製のHOEシリーズを用いた。また、作用電極2は、表面をサンドペーパ(♯1200)で研磨してから用いた。
【0045】
(検証例)
本検証例では、まず、塩化カリウム(KCl)の溶液(0.2M溶液)に10mM(緩衝作用を奏するのに必要な程度の濃度)の酢酸緩衝溶液(pH4.5)を配合し得た配合液を用い、その配合液中に作用電極2,対電極3,参照電極4が浸漬されるように、測定容器1を封止部材1bで封止した。
【0046】
その後、クロノアンペロメトリー法により、前記参照電極4に対する作用電極2の電位を−200mVから−150mVに電位ステップさせ、その電位ステップ直後の作用電極2に通電された充電電流変化を所定時間検出して、図1に示すような時間変化に対する充電電流変化特性図を得た。
【0047】
図2に示すように、電位ステップ直後に約150μAの充電電流が通電され、時間経過と共に減衰していることが読み取れる。例えば、約40ms〜50ms以降では充電電流が十分減衰し、電位ステップ直後の約1/75以下に収束していること(充電電流値が略フラットになること)が読み取れる。
【0048】
したがって、従来法の観点であれば、図1に示すような分析装置を用いて微分パルスモードにより分析を行う場合、例えばパルス幅を約50ms以上とし、各パルス期間の減衰十分位置である約40ms〜50ms以降のサンプリング位置で電解電流をサンプリングすることになる。
【0049】
(実施例1)
本実施例1では、種々の濃度の鉛イオンを含む被分析対象を用い、電位掃引工程の微分パルス条件を種々設定して、それぞれの分析を実施した。まず、0.2Mの塩化カリウム溶液に対し、10mMの酢酸緩衝溶液(pH4.5),0〜0.060mg/l(0,0.006,0.012,0.018,0.024,0.030,0.036,0.042,0.048,0.054,0.060mg/l(数ppbレベルの濃度))の鉛イオンを配合して試料S1を得た。次に、測定容器1内の試料S1中に作用電極2,対電極3,参照電極4が浸漬されるように封止部材1bで封止した。
【0050】
その後、スターラー7,撹拌子7aを介して物質移動促進雰囲気下を保ちながら、前記参照電極4に対する作用電極2の電位を−500mVで180秒間保持することにより、試料S1中の鉛イオンを作用電極2表面に析出(還元濃縮)させた(電位保持工程)。
【0051】
そして、前記スターラー7,撹拌子7aを停止してから、前記参照電極4に対する作用電極2の電位を、微分パルスモード(微分パルス条件…パルス周期100ms,パルス間隔50ms,パルス高さ50mV,サンプリング位置8ms〜35ms)にて、−500mVから正方向に掃引(析出物質を酸化溶出)することにより、その作用電極2の電位変化に対する電流変化を検出し、その検出結果を各サンプリング位置毎に図3A〜図4Dのピーク電流特性線図に示した。
【0052】
図3A〜図4Dに示す結果から、サンプリング位置が26ms以上のピーク電流特性線の場合には直線性が低く、鉛イオン濃度0.02ppm以上でのピーク電流値が検量線の直線上から外れてしまうことが読み取れる。一方、サンプリング位置が23ms以内のピーク電流特性線の場合には直線性が良好であり、鉛イオン濃度0.02ppm以上のピーク電流値でも検量線の直線上に位置することが読み取れる。
【0053】
したがって、図1に示したような分析においては、電位掃引工程のサンプリング位置が各パルス期間のうち減衰不十分位置(例えば、本実施例1のように23ms以内)の場合、被分析対象1a中の極めて低濃度(例えば、本実施例1のように数ppbレベル)の鉛イオンを十分測定でき、その鉛イオン濃度に対するピーク電流特性線は高濃度にわたって良好な直線性を有し、信頼性の高い検量線として適用できることから、たとえ測定対象が極めて低濃度であっても広い濃度範囲で高感度および高精度な微量分析が可能であることを判明した。
【0054】
(実施例2)
本実施例2では、種々の濃度の鉛イオンを含む被分析対象を用い、電位掃引工程の微分パルス条件のうちサンプリング位置を、各パルス期間のうち減衰十分位置(従来法の範囲内)と減衰不十分位置(本実施の形態の範囲内)とに設定して、それぞれの分析を実施した。まず、0.2Mの塩化カリウム溶液に対し、10mMの酢酸緩衝溶液(pH4.5),0〜0.01mg/l(0,0.01,0.02,0.03,0.04,0.05,0.06,0.07,0.08,0.09,0.10mg/l(数10ppbレベルの濃度))の鉛イオンを配合して試料S2を得た。
【0055】
そして、試料S2について、実施例1と同様の電位保持工程,電位掃引工程であって、該電位掃引工程の微分パルス条件のうちサンプリング位置を10〜15ms(10,11,12,13,14,15msの積算)に設定した分析操作を行い、電位変化に対する電流変化特性をそれぞれ検出し、各サンプリング位置毎に得られた検出結果を図5Aのピーク電流特性線図に示した。また、試料S2について、前記電位掃引工程のサンプリング位置を45〜50ms(45,46,47,48,49,50msの積算)に設定した場合においても同様に電位変化に対する電流変化特性をそれぞれ検出し、各サンプリング位置毎に得られた検出結果を図5Bのピーク電流特性線図に示した。
【0056】
図5Bに示すように、サンプリング位置が45〜50msのピーク電流特性線の場合には直線性が低く、鉛イオン濃度0.03mg/l以上でのピーク電流値が検量線の直線上から外れてしまうことが読み取れる。一方、図5Aに示すように、サンプリング位置が10〜15msのピーク電流特性線の場合には直線性が良好であり、鉛イオン濃度0.03mg/l以上のピーク電流値でも検量線の直線上に位置することが読み取れる。
【0057】
したがって、図1に示したような分析においては、電位掃引工程のサンプリング位置が各パルス期間のうち減衰不十分位置(例えば、本実施例2のように10〜15ms)であるにもかかわらず、被分析対象1a中の極めて低濃度(本実施例では数10ppbレベル)の鉛イオンを十分測定でき、その鉛イオン濃度に対するピーク電流特性線は高濃度にわたって良好な直線性を有し、信頼性の高い検量線として適用できることから、たとえ測定対象が極めて低濃度であっても広い濃度範囲で高感度および高精度な微量分析が可能であることを判明した。
【0058】
(実施例3)
本実施例3では、前記実施例2の試料S2(鉛イオン濃度0〜0.01mg/l(数10ppbレベルの濃度))を用い、電位掃引工程の微分パルス条件を種々設定して、それぞれの分析を実施した。
【0059】
まず、試料S2について、実施例2と同様の電位保持工程,電位掃引工程(サンプリング位置10,11,12,13,14,15msの積算)であって、該電位掃引工程の微分パルス条件のうちパルス幅を25,50,100ms(パルス周期がそれぞれ50,100,200ms)に設定した分析操作を行い、電位変化に対する電流変化特性をそれぞれ検出し、各サンプリング位置毎に得られた検出結果をそれぞれ図6のピーク電流特性線6A(パルス幅25msの場合),6B(パルス幅50msの場合),6C(パルス幅100msの場合)に示した。
【0060】
図6の各ピーク電流特性線6A〜6Cに示すように、測定対象である鉛イオン濃度の増加に伴って各ピーク電流が同様に大きくなり(各ピーク電流特性線の傾きが略同一)、ピーク電流特性線の直線性も良好であることが読み取れる。
【0061】
したがって、図1に示したような分析においては、電位掃引工程のサンプリング位置を各パルス期間のうち減衰不十分位置(例えば、本実施例3のように10〜15ms)に設定した場合、たとえ異なるパルス幅であったり50ms以下であっても(本実施例3ではパルス幅25〜100ms)、被分析対象1a中の極めて低濃度(例えば、本実施例3のように数10ppbレベル)の鉛イオンを十分測定でき、その鉛イオン濃度に対するピーク電流特性線は高濃度にわたって良好な直線性を有し、信頼性の高い検量線として適用できることから、たとえ測定対象が極めて低濃度であっても広い濃度範囲で高感度および高精度な微量分析が可能であることを判明した。
【0062】
(実施例4)
被分析対象中に鉛イオンとその他の重金属イオンとが含まれている場合、該鉛イオンと重金属イオンとの相互作用は回避することが好ましいと考えられる。例えば、従来法において水銀電極を用いた場合、電位保持工程の際に電極である水銀と測定対象のアマルガムを形成するため、被分析対象中に夾雑物が含まれていても、該夾雑物による影響を受けることなく該相互作用を回避して、所望の分析を行うことができる。
【0063】
グラッシーカーボン電極等を用いた場合、該鉛イオンを十分測定することはできるものの、電位保持工程の際に測定対象が単体で析出されるため、特に被分析対象中に多くの夾雑物が含まれていると、該夾雑物による影響で該相互作用が起こり得る。このため、必要に応じて被分析対象を前処理(夾雑物の除去等)する場合がある。
【0064】
一方、作用電極として銅電極を用いた場合、電位保持工程の際に鉛イオンと銅電極との合金反応により、該合金のみにおいて電位変化に対する電流変化特性を検出できる可能性があり、たとえ被分析対象中に夾雑物が含まれていても、水銀電極を用いた場合と同様に、該夾雑物による影響を受けることなく該相互作用を回避して、所望の分析を行うことができる(前記の前処理等を行うことなく直接分析できる)。
【0065】
そこで、本実施例4では、種々の濃度の鉛イオン,種々のアニオン種による支持電解質を含む被分析対象を用いて、それぞれの分析を実施した。まず、0.2Mの塩化カリウム溶液に対し、10mMの酢酸緩衝溶液(pH4.5),0〜5μMの鉛イオンを配合して試料S3を得た。また、試料S3と同様の配合であって、塩化カリウム溶液の替わりに硝酸カリウム溶液を配合して試料S4を得た。
【0066】
そして、試料S3,S4について、実施例2と同様の電位保持工程,電位掃引工程(サンプリング位置10,11,12,13,14,15msの積算)による分析操作を行って電位変化に対する電流変化特性をそれぞれ検出した。その結果、図7A(試料S3の場合),B(試料S4の場合)に示すように、各試料S3,S4において、鉛イオンの単体の析出によるピーク電流特性線と、該鉛イオンおよび銅電極の合金によるピーク電流特性線が得られた。
【0067】
この図7Bに示す結果から、被分析対象中にアニオン種として硝酸イオンが含まれる場合には、鉛イオン濃度が約2.5μMより上昇するに連れて、ピーク電流(鉛イオンの単体の析出に付随するピーク電流)が大きくなるものの、合金によるピーク電流は殆ど検出されないことが読み取れる。
【0068】
一方、図7Aに示す結果から、被分析対象中にアニオン種として塩化物イオン(クロライド)が含まれる場合には、鉛イオン濃度が上昇(特に、約2μM以下の範囲での上昇)するに連れて合金によるピーク電流が大きくなり、そのピーク電流特性線も良好な直線性を有するものの、ピーク電流(鉛イオンの単体の析出に付随するピーク電流)は鉛イオン濃度が約1.5μM超でなければ殆ど検出されないことが読み取れる。
【0069】
試料S3のように塩化物イオンが含まれる場合、電位保持工程の際に該塩化物イオンが銅電極表面に特異吸着、すなわち1価の塩化銅が形成されるため、鉛イオンおよび銅電極の合金が形成され易くなるものと思われる。また、前記の塩化物イオンの特異吸着により、被分析対象中における溶存酸素の還元反応を抑制、および水素発生を抑制することが可能となり、電位窓が広くなるものと思われる。
【0070】
したがって、図1に示したような分析においては、被分析対象中にアニオン種として塩化物イオンが共存すれば、例えば測定対象として鉛イオン(例えば、本実施例4のように約1.5μM以下の鉛イオン)とその他の重金属イオンが含まれる場合であっても、その他の重金属との相互作用を受けずに、鉛イオンおよび銅電極の合金のみにおいて電位変化に対する電流変化特性を検出できる。すなわち、被分析対象中に複数の測定対象(例えば、後述の実施例のように鉛イオン,カドミウムイオン,亜鉛イオン)が含まれる場合であっても、それら測定対象同士の相互作用を回避しながら選択的に測定でき、より高感度および高精度な微量分析が可能で、良好な再現性を有することを判明した。また、電位窓が広くなることにより、微量分析できる範囲が広くなることを判明した。
【0071】
(実施例5)
前記の実施例4のように、電位保持工程の際に鉛イオンと銅電極との合金反応(鉛イオン濃度に応じた合金反応)を利用することにより、被分析対象中の複数の測定対象を十分選択的に測定できるが、該合金反応のみが起こる鉛イオン濃度の範囲(測定対象の単体の析出によるピーク電流が検出されない範囲)は、より広いことが好ましいと考えられる。この銅電極においては、単に銅電極表面の汚れ等を清浄(作用電極表面を分子レベルで酸化溶出し再生処理)する目的の手法ではあるが、各分析毎(例えば、繰り返し分析を行う毎)に±0V付近(vs.Ag/AgCl)を僅かに超える程度の正電位(すなわち、測定対象が析出し得る電位よりも正方向の電位)を銅電極に所定時間印加することが知られている。
【0072】
そこで、本実施例5では、前記実施例4の試料S3(鉛イオン濃度0〜5μM)を用い、電位保持工程での測定対象の析出を行う前に、該測定対象が析出し得る電位よりも正方向の電位を作用電極に印加し、それぞれの分析を実施した。
【0073】
まず、試料S3について、実施例4と同様の電位保持工程,電位掃引工程(サンプリング位置10,11,12,13,14,15ms積算)による分析操作を行って電位変化に対する電流変化特性をそれぞれ検出し、各サンプリング位置毎に得られた検出結果をそれぞれ図8のピーク電流特性線図に示した。なお、本実施例5の各電位保持工程では、測定対象の析出を行う前に、被分析対象中に浸漬された作用電極に+300mVの電位を10秒間印加(以下、析出前電位印加と称する)した。
【0074】
図8に示すように、鉛イオンの単体の析出によるピーク電流特性線と、該鉛イオンおよび銅電極の合金によるピーク電流特性線が得られ、鉛イオンの単体の析出によるピーク電流は鉛イオン濃度が約2.5μM超でなければ殆ど検出されていないことから、図7Aの結果(すなわち、析出前正電位印加を行わない場合の結果)と比較すると、合金反応のみが起こる鉛イオン濃度の範囲が、より広くなっていることが読み取れる。
【0075】
この理由としては、前記の析出前電位印加によって、電位保持工程の際に塩化物イオン(被分析対象中の塩化物イオン)が銅電極表面に対して特異吸着し易くなり(すなわち1価の塩化銅が形成され易くなり)、鉛イオンおよび銅電極の合金が形成され易くなったものと思われる。また、被分析対象中における溶存酸素の還元反応、および水素発生がより抑制され、電位窓がより広くなるものと思われる。
【0076】
なお、図8に示す分析では、析出前電位印加において電位+300mV,印加時間10秒に設定したが、前記のように塩化物イオンの特異吸着が起こる範囲であれば、適宜変更しても良いものと考えられる。例えば、析出前電位印加において電位−100mVより正方向,3秒以上に設定し、図8と同様の分析を行ったところ、少なくとも図7Aの結果よりは、合金反応のみが起こる鉛イオン濃度の範囲が、より広くなることを確認できた。また、析出前電位印加において、電位±0Vより正方向であれば作用電極表面自体が分子レベルで酸化溶出し、該表面が清浄(再生)されることが読み取れる。さらに、電位+300mV超に設定したり印加時間を長く(例えば、10秒超)に設定した場合においても、塩化物イオンの特異吸着が起こる可能性はあるが、例えば銅電極表面が大きく酸化溶出して該表面積等が大きく変化する可能性もある。
【0077】
したがって、図1に示したような分析においては、各電位保持工程での測定対象の析出を行う前に、作用電極に析出前電位印加(例えば、本実施例5のように電位−100mV〜+300mV,印加時間3〜10秒の検出前電位印加)を行うことにより、実施例4での試料3の分析と比較して、被分析対象中の複数の測定対象(例えば、本実施例5のように約2.5μM以下の鉛イオンを含む場合)をより選択的に測定し易くなり、より高感度および高精度な微量分析が可能で、より良好な再現性を有することを判明した。また、電位窓もより広くなることから、微量分析できる範囲がより広くなることを判明した。
【0078】
(実施例6)
本実施例6では、カドミウムイオンを含む被分析対象、および鉛イオン,カドミウムイオンを含む被分析対象を用い、それぞれの分析を実施した。まず、0.2Mの塩化カリウム溶液に対し、10mMの酢酸緩衝溶液(pH4.5),0.04ppm(数10ppbレベルの濃度)のカドミウムイオンを配合して試料S5を得た。また、前記試料S5と同様の配合に対し、さらに0.05ppm(数10ppbレベルの濃度)の鉛イオンを配合して試料S6を得た。
【0079】
そして、試料S5,S6について、実施例5と同様の電位保持工程(電位+300mV,印加時間10秒の析出前電位印加の後、−650mVで180秒間保持),電位掃引工程(サンプリング位置10,11,12,13,14,15ms積算)による分析操作を行って電位変化に対する電流変化特性をそれぞれ検出し、各サンプリング位置毎に得られた検出結果を図9A,Bの電位変化に対する電流変化特性線9A1(試料S5の場合),9B1(試料S6の場合)に示した。また、前記の各試料S5,S6について、それぞれカドミウムイオンを含まない場合における電位変化に対する電流変化特性、すなわちバックグラウンド電流特性も同様にそれぞれ検出し、図9A,Bのバックグランド電流特性線9A2(試料S5の場合),9B2(試料S6の場合)に示した。
【0080】
図9Aに示す結果においては、バックグランド電流が不安定であり、正確にカドミウムイオン濃度に応じたピーク電流値の算出が困難であることが読み取れる。一方、図9Bに示す結果においては、バックグランド電流が減少し安定しているため、カドミウムイオン濃度に応じたピーク電流値の算出が可能であることを読み取れる。
【0081】
したがって、図1に示したような分析においては、測定対象がカドミウムイオンであっても、前記の実施例1〜5と同様の測定による微量分析が可能であることを判明した。また、例えば鉛イオンを含まない被分析対象中のカドミウムイオンを測定する際において、該被分析対象に鉛イオン(例えば、本実施例6のように数10ppbレベルの鉛イオン)を添加(添加剤として使用)すれば、バックグランド電流を減衰して安定させることができ、微量分析の再現性がより良好になることを判明した。
【0082】
(実施例7)
本実施例7では、バックグランド溶液に対し種々の濃度の鉛イオン,カドミウムイオンを加えて得た試料を用い、その試料について繰り返し分析(N=10)を実施し、分析可能レベルの確認を行った。まず、0.2Mの塩化カリウム溶液に対し、10mMの酢酸緩衝溶液(pH4.5)を配合してバックグランド溶液を得た。このバックグランド溶液に0,0.01,0.02,0.03,0.04,0.05ppmの鉛イオンを配合してそれぞれ試料S7a,S7b,S7c,S7d,S7e,S7fを得た。また、試料S7a〜S7fと同様の配合であって、鉛イオンの替わりに、0,0.01.0.02,0.03,0.04,0.05ppmのカドミウムイオンを配合して試料S8a,S8b,S8c,S8d,S8e,S8fを得た。
【0083】
その後、前記の試料S7a〜S7f,S8a〜S8fについて、実施例5,6と同様の電位保持工程(析出前電位印加後の析出時に保持される電位は、試料S7a〜S7f場合は−500mV,試料S8a〜S8fの場合は−650mV),電位掃引工程(試料S7a〜S7f場合はサンプリング位置10,11,12,13,14,15ms積算、試料S8a〜S8fの場合はサンプリング位置35,36,37,38,39,40,41,42,43,44,45,46,47,48,49ms積算)による分析操作を行って電位変化に対する電流変化特性をそれぞれ検出し、それら検出結果から各々の濃度(鉛イオンまたはカドミウムイオンの濃度)に対するピーク電流値特性を検量線(以下、それぞれを鉛検量線,カドミウム検量線と称する)として求めた。
【0084】
次に、前記のバックグランド溶液について、それぞれ前記の鉛検量線,カドミウム検量線の場合と同様の電位保持工程,電位掃引工程による分析操作を、それぞれ合計10回繰り返して電位変化に対する電流変化特性を求めた。そして、各10回におけるピーク電流値を該鉛検量線,カドミウム検量線と照合させることにより濃度換算を行い、標準偏差(σ)を算出すると共に、検出下限値(3σ),定量下限値(10σ)を算出して、その結果を下記表1に示した。
【0085】
【表1】

【0086】
前記の表1に示す結果から、各S7a〜S7f,S8a〜S8fについて、数100pptレベルで測定できたことが読み取れる。したがって、図1に示したような分析においては、被分析対象中に含まれる数100pptレベルの測定対象(本実施例7のように鉛イオン,カドミウムイオン等)を測定し分析できることを確認できた。
【0087】
(実施例8)
本実施例8では、種々の濃度の鉛イオン,カドミウムイオン,亜鉛イオンを含む被分析対象を用い、それぞれの分析を実施した。まず、0.2Mの塩化カリウム溶液に対し、10mMの酢酸緩衝溶液(pH5.0),0〜0.24ppm(数10ppbレベルの濃度)の鉛イオン,0〜0.12ppm(数10ppbレベルの濃度)のカドミウムイオン,0〜0.084ppm(数ppbレベルの濃度)の亜鉛イオンを配合して、試料S9を得た。
【0088】
そして、試料S9について、実施例6と同様の電位保持工程(析出前電位印加の後、−950mVで180秒間保持),電位掃引工程(サンプリング位置5〜19ms)による分析操作を行って電位変化に対する電流変化特性をそれぞれ検出し、各サンプリング位置毎に得られた検出結果を図10の電位変化に対する電流変化特性線10A〜10Lに示した。また、前記の試料S9における鉛イオン,カドミウムイオン,亜鉛イオンを含まない場合の電位変化に対する電流変化特性、すなわちバックグラウンド電流特性も同様に検出し、図10のバックグランド電流特性線10Mに示した。なお、下記表1は、試料S7において各特性線10A〜10Mに対応する鉛イオン,カドミウムイオン,亜鉛イオンの各濃度を示すものである。
【0089】
【表2】

【0090】
図10に示すように、バックグランド電流は比較的低く安定し、前記の実施例1〜5の鉛イオン測定の場合と同様に、鉛イオン,カドミウムイオン,亜鉛イオンの各濃度に応じたピーク電流が十分検出されていることを読み取れる。
【0091】
したがって、図1に示したような分析においては、測定対象が鉛イオンやカドミウムイオン以外(例えば、亜鉛イオン)であっても、前記の実施例1〜5と同様の測定による微量分析が可能であることを判明した。また、被分析対象中に複数の測定対象(例えば、本実施例8のように数ppb〜数10ppbレベルの鉛イオン,カドミウムイオン,亜鉛イオン)が含まれていても、前記の実施例1〜5と同様の測定による微量分析が可能であることを判明した。
【0092】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0093】
例えば、少なくとも作用電極(金電極から成る作用電極),対電極,参照電極から構成され、被分析対象中に前記の各電極を配置し、電位保持工程によって前記作用電極の電位を所定電位に保持し、電位掃引工程にて前記の作用電極の電位を掃引しながら該作用電極における電位変化に対する電流変化を検出することが可能なものであれば、たとえ技術常識の範囲内で適宜設計変更(例えば、各電極の形態の変更)等を行ったとしても、本実施例等と同様の作用効果が得られることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本実施の形態における溶液分析方法に適用可能な装置の概略説明図。
【図2】検証例のクロノアンペロメトリー法による時間変化に対する充電電流変化特性図。
【図3】実施例1のピーク電流特性線図(サンプリング位置8〜23ms)。
【図4】実施例1のピーク電流特性線図(サンプリング位置26〜35ms)。
【図5】実施例2のピーク電流特性線図(図5Aはサンプリング位置10〜15ms、図5Bはサンプリング位置45〜50ms)。
【図6】実施例3のピーク電流特性線図。
【図7】実施例4のピーク電流特性線図(図7Aは試料S3、図7Bは試料S4)。
【図8】実施例5のピーク電流特性線図。
【図9】実施例6の電位変化に対する電流変化特性図(図9Aは試料S5、図9Bは試料S6)。
【図10】実施例8の電位変化に対する電流変化特性図。
【符号の説明】
【0095】
1…容器
1a…被分析対象
2…作用電極
3…対電極
4…参照電極
5…ポテンシオスタット
6…コンピュータ
7…スターラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも作用電極,対電極,参照電極から構成され、
測定対象を含んだ被分析対象中に前記の各電極を配置し、該作用電極の電位を被分析対象中の測定対象が析出し得る電位に保持でき、その保持された電位によって析出された測定対象が溶出し得る方向に微分パルスモードにより掃引でき、該作用電極における電位変化に対する電流変化を検出でき、100ppt以上レベルの被分析対象を分析することが可能な溶液分析装置において、
前記作用電極は銅電極であることを特徴とする溶液分析装置。
【請求項2】
作用電極,対電極,参照電極を被分析対象中に配置してから、
前記作用電極の電位を、被分析対象中の測定対象が析出し得る電位に保持する電位保持工程と、
前記の保持された作用電極の電位を、前記の電位保持工程で析出した測定対象が溶出し得る方向に微分パルスモードにより掃引しながら、該作用電極における電位変化に対する電流変化を検出する電位掃引工程と、による分析操作を行い数100ppt以上レベルの被分析対象を分析することが可能な方法であって、
前記の作用電極には銅電極を用いたことを特徴とする溶液分析方法。
【請求項3】
前記の被分析対象中に塩化物イオンが含まれていることを特徴とする請求項2に記載の溶液分析方法。
【請求項4】
前記の電位保持工程で測定対象が析出し得る電位に保持する前に、−100mVより正方向の電位で前記作用電極に析出前電位印加を行うことを特徴とする請求項3記載の溶液分析方法。
【請求項5】
前記の析出前電位印加の電位は±0Vより正方向であることを特徴とする請求項4記載の溶液分析方法。
【請求項6】
前記の被分析対象は鉛,カドミウム,亜鉛のうち少なくとも何れか一つ以上が含まれていることを特徴とする請求項2〜5のうち何れか1項に記載の溶液分析方法。
【請求項7】
前記の被分析対象中に少なくとも鉛が測定対象として含まれ、前記の電位保持工程において微分パルスモードによりパルス印加後23ms以内で電解電流をサンプリングすることを特徴とする請求項6記載の溶液分析方法。
【請求項8】
前記の被分析対象が鉛を含まないものであって、測定対象がカドミウムの場合には、該被分析対象に対し鉛を添加することを特徴とする請求項7に記載の溶液分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−309802(P2007−309802A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−139604(P2006−139604)
【出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(591031212)北斗電工株式会社 (20)