説明

溶液製膜方法

【課題】側部に軸ズレ領域がない長尺のセルロースアシレートフィルムを製造する。
【解決手段】溶剤を含むフィルム16の乾燥をローラ乾燥装置19ですすめて2質量%以下の溶剤含有率にし、このフィルム16を第1テンタ23に案内する。ローラ乾燥装置19では、溶剤含有率が8質量%に達したフィルム16を100〜200℃の温度範囲に保持した状態で、搬送方向における第1張力T1が幅1mあたり35×9.8N〜200×9.8Nの範囲になるように、第1駆動ローラ45と第2駆動ローラ46との回転速度を調整する。第1テンタ23では、Reが目的とする値となるように、幅方向における第2張力T2をフィルム16に対して付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用途のセルロースアシレートフィルムを製造する溶液製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレートフィルムは、光学的異方性が小さいために各種の光学部材として用いられている。セルロースアシレートフィルムを光学部材として用いるためには、光学的異方性のみならず、透明性やフィルム面の平滑性等も求められる。このため、セルロースアシレートフィルムの製造方法としては、高い透明性や平滑なフィルム面をもつフィルムをつくることができる点で溶融製膜方法よりも溶液製膜方法の方が好ましい。
【0003】
長尺のフィルムを製造する溶液製膜方法では、周知のように、ドープから、溶剤を含むセルロースアシレートフィルム、いわゆる湿潤フィルムを形成し、これを搬送しながら乾燥する。搬送は、湿潤フィルムの各側端部を保持手段で保持し、この保持手段を走行させることで行ったり、ローラの周面に湿潤フィルムをまきかけて、ローラを周方向に回転させることにより行う。いずれの場合にも、湿潤フィルムには力が付与されるので、得られるセルロースアシレートフィルムは、光学的異方性が小さいとはいえ全く無いわけではない。そして、製造速度をより大きくして生産性を向上させようとするほど、光学的異方性は大きくなる傾向がある。
【0004】
そこで、特許文献1では、前記保持手段を備えるテンタで溶剤含有率が5〜8%になるまで長尺の湿潤フィルムを加熱して乾燥した後に、前記ローラを備える乾燥ゾーンでさらに乾燥する。テンタでは、湿潤フィルムの幅を拡げるように、すなわち拡幅するように、保持手段を移動させる。乾燥ゾーンでは、搬送方向における張力を幅1mあたり3.5〜16kgf(=3.5×9.8〜16×9.8N)となるように、ローラの回転のトルクを調整している。これにより、光学的異方性を小さくする。
【0005】
しかし、テンタにおいては、湿潤フィルムのうち保持手段で保持される保持位置及びその周辺は、一方の側端部と他方の側端部との間の中央部に比べて温度が低くなってしまい、中央部よりも伸びにくい。幅方向で伸びやすさが異なると、結果として遅相軸の方向が幅方向で異なるフィルムとなる。遅相軸の方向がフィルムの位置によって互いに異なる現象は、軸ズレと呼ばれており、上記のように側端部で顕著である。このため、保持手段による保持跡を後工程で切除しても製品は、軸ズレがある領域(以降、軸ズレ領域と称する)を側部にもつようになってしまう。このような軸ズレがあるフィルムを位相差フィルムとして液晶表示装置に用いると、コントラストが低い表示品位となってしまう。そして、側部の軸ズレの程度がフィルムの長手方向(フィルム製造過程での搬送方向)で異なると、各側部の軸ズレ領域の幅も長手方向で異なったりする。
【0006】
幅方向での光学特性を均一化する試みは種々為されており、例えば特許文献2は、遅相軸の方向を長尺のフィルムの幅方向で一定にするために、一方の側端部を保持する複数の保持手段同士の間隔と、他方の側端部を保持する複数の保持手段同士の間隔とを、独立して調整するテンタを提案している。
【0007】
また、近年は、Reが互いに異なる種々のセルロースアシレートフィルムが求められている。30〜80nmと大きなReをもつフィルムを製造する方法として、特許文献3は、前記保持手段を備えるテンタで拡幅を行った後に、前記ローラを備える加熱室で乾燥をすすめる。テンタでは、湿潤フィルムの温度を(Tg−10)℃〜(Tg+80)℃の範囲に保持するように加熱し、1.2〜1.7倍に拡幅する。なお、Tgはポリマーのガラス転移点である。加熱室では、フィルムの温度と、搬送方向における張力と、加熱時間とをそれぞれ所定範囲としている。Reは、周知のように、フィルム面内の遅相軸方向における屈折率をnx、進相軸方向における屈折率をny、フィルムの厚みをd(単位;nm)とするときに式(1)で求められる値である。
Re=(nx−ny)×d ・・・(1)
【0008】
また、近年では、既存設備を利用してより大量もしくは多品種のセルロースアシレートフィルムを製造するために、製造効率をより向上させる試みが続けられている。例えば、特許文献4は、前記ローラの周面を所定形状にしており、このローラを備える第1乾燥室及び第2乾燥室と、第1乾燥室と第2乾燥室の間のテンタとによりフィルムを製造する。第1乾燥室と第2乾燥室には溶剤含有率がそれぞれ所定範囲のフィルムを導入し、各乾燥室では搬送方向における張力を所定範囲とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−009380号公報
【特許文献2】特開2006−182020号公報
【特許文献3】特開2009−098656号公報
【特許文献4】特開2009−160804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献2の発明は、テンタの構造自体を変えなければならない。そして、テンタは非常に高価格であり、設置するために確保する面積も大きいため、特許文献2の提案を適用することは現実的ではない。また、仮に適用することができるとしても、テンタにおける条件は、製造しようとするフィルムのRe等に応じて決定するものであり、軸ズレをも考慮するとなると、その設定条件はより複雑化してしまうという問題がある。
【0011】
また、特許文献3や特許文献4の方法でも、製品たるフィルムの側部は、軸ズレ領域となってしまう。
【0012】
そこで本発明は、側部の軸ズレ領域の幅が従来よりも小さいもしくは側部に軸ズレ領域がない長尺のセルロースアシレートフィルムを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、セルロースアシレートが溶剤に溶解したドープを支持体上に流延して溶剤を含む状態で前記支持体から剥ぎ取ることにより形成されたセルロースアシレートフィルムを、搬送しながら乾燥する乾燥工程と、溶剤の含有率が8質量%以下のセルロースアシレートフィルムを100℃以上200℃以下の温度範囲に保持しながら、このセルロースアシレートフィルムに対して、幅1mあたり35×9.8N以上200×9.8N以下の範囲の搬送方向での第1張力を付与する第1張力付与工程と、セルロースアシレートフィルム面内の遅相軸方向における屈折率をnx、進相軸方向における屈折率をny、セルロースアシレートフィルムの厚みをd(単位;nm)とするときに(nx−ny)×dで求めるレタデーションReが予め設定した値となるように、第1張力付与工程を経たセルロースアシレートフィルムに対して幅方向での第2張力を付与する第2張力付与工程とを有することを特徴として構成されている。
【0014】
第1張力付与工程では、周方向に回転しセルロースアシレートフィルムの搬送方向に並ぶ2つの駆動ローラの各周面にセルロースアシレートフィルムを巻き掛け、前記2つの駆動ローラの回転によりセルロースアシレートフィルムを搬送し、上流側の一方の駆動ローラと、下流側の他方の駆動ローラとの各回転速度を調整することにより、一方の駆動ローラと他方の駆動ローラとの間のセルロースアシレートフィルムに対して付与する第1張力を制御することが好ましい。
【0015】
第2張力の付与により、前記セルロースアシレートフィルムの幅を18%以上拡げることが好ましい。
【0016】
第1張力付与工程の前に、前記乾燥工程の間のセルロースアシレートフィルムの各側端部を保持手段で保持することによりセルロースアシレートフィルムの幅を規制することが好ましい。
【0017】
セルロースアシレートフィルムの予め設定した値であるレタデーションReが、20nm以上300nm以下の範囲である場合に、上記の発明は特に効果が大きい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、側部の軸ズレ領域の幅が従来よりも小さいもしくは側部に軸ズレ領域がない長尺のセルロースアシレートフィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を実施する溶液製膜設備の概略図である。
【図2】第1テンタの内部の概略図である。
【図3】溶液製膜設備の概略図である。
【図4】軸ズレの評価に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1の溶液製膜設備10は、セルロースアシレート11が溶剤12に溶解したドープ13からセルロースアシレートフィルム(以降、単に「フィルム」と称する)16を形成するフィルム形成装置17と、セルロースアシレートフィルム16を複数のローラ18で支持しながら乾燥して、溶剤含有率を2質量%以下にするローラ乾燥装置19と、フィルム16の各側部を保持手段で保持し、フィルム16に対して幅方向での張力をフィルム16に付与する第1テンタ23と、第1テンタ23の保持手段により保持された各側部の保持跡を切除するスリッタ24と、フィルム16の内部応力を緩和する緩和装置80と、フィルム16を冷却してフィルム16の温度を下げる冷却装置82と、フィルム16を巻き芯に巻いてロール状にする巻取装置25とを、上流側から順に備える。なお、本明細書においては、溶剤含有率(単位;%)は乾量基準の値であり、具体的には、溶剤の質量をx、フィルム16の質量をyとするときに、{x/(y−x)}×100で求める値である。
【0021】
なお、ローラ乾燥装置19において溶剤含有率が2質量%以下になるまでフィルム16が乾燥しない場合には、ローラ乾燥装置19からのフィルム16を第1テンタ23に案内して、この第1テンタ23でさらに乾燥をすすめることにより溶剤含有率を2質量%以下にしてもよい。
【0022】
フィルム形成装置17は、周方向に回転する第1のローラ27と第2のローラ28とを備える。第1のローラ27と第2のローラ28との周面には、無端の流延支持体としてのバンド29が巻き掛けられる。第1のローラ27と第2のローラ28との少なくともいずれか一方が、駆動手段を有する駆動ローラであればよい。この第1のローラ27と第2のローラ28とからなるローラ対の少なくともいずれか一方が周方向に回転することにより、周面に接するバンド29が搬送される。
【0023】
バンド29の上方にはドープ13を流出する流延ダイ31が備えられている。搬送されているバンド29に流延ダイ31からドープ13を連続的に流出することにより、ドープ13はバンド29上で流延されて流延膜32が形成される。なお、ダイ31からバンド29に至るドープ13、いわゆるビードに関して、バンド29の走行方向における上流には、減圧チャンバが設けられるが図示は略す。この減圧チャンバは、流出したドープ13の上流側エリアの雰囲気を吸引して前記エリアを減圧する。
【0024】
流延膜32を、ローラ乾燥装置19への搬送が可能な程度にまで固くしてから、溶剤を含む状態でバンド29から剥がす。剥ぎ取りの際には、フィルム16を剥ぎ取り用のローラ(以下、剥取ローラと称する)33で支持し、流延膜32がバンド29から剥がれる剥取位置を一定に保持する。剥取ローラ33は、駆動手段を備え周方向に回転する駆動ローラであってもよい。
【0025】
フィルム形成装置17には、バンド29の走行路に沿って上流側から順に、乾燥した気体を流延膜32に向けて送り出す第1ダクト36、第2ダクト37、第3ダクト38の3つのダクトが設けられる。ただし、ダクトの数は3に限定されない。
【0026】
第1ダクト〜第3ダクト36〜38には、乾燥した気体を流出する流出口(図示せず)がバンド29の走行路に対向してそれぞれ複数形成される。各流出口は、バンド29の幅方向に延びたスリット形状としてある。しかし、流出口の形状はこれに限定されない。
【0027】
第1ダクト〜第3ダクト36〜38は、それぞれ送風機(図示せず)に接続し、送風機から供給された気体を流出口から流出する。送風機には、第1ダクト〜第3ダクト36〜38のそれぞれへ供給する気体の温度、湿度、流量を独立して制御する送風コントローラ(図示せず)が接続する。第1ダクト〜第3ダクト36〜38による気体の流出により、流延膜32の乾燥をすすめる。
【0028】
第1〜第3ダクト36〜38からの気体は、加熱された温風であり、この温風により流延膜32を加熱する。流延膜32の温度は、この温風の温度及び流量の制御と、第1ローラ27及び第2ローラ28の後述の温度制御とにより、調整される。
【0029】
第1ローラ27及び第2ローラには、周面温度を所定の温度に制御する第1コントローラ(図示せず)及び第2コントローラ(図示せず)がそれぞれ備えられる。
【0030】
流延膜32を乾燥するために、本実施形態では、第1〜第3ダクト36〜38を含む乾燥手段を用いる。しかし、乾燥手段はこれに限定されず、流延膜32の性状及びその経時変化に応じて他の乾燥手段を用いてもよい。他の乾燥手段としては、例えば、凝縮器を含む乾燥手段があり、これを第1〜第3ダクト36〜38を含む乾燥手段に代えて、または加えてもよい。
【0031】
フィルム形成装置17からローラ乾燥装置19への渡りには、複数のローラ36が備えられる。各ローラ36は、回転自在に設けられており、搬送されているフィルム16が周面に接すると周方向に回転する。剥ぎ取りによって形成されたフィルム16はこれらのローラ36による支持と、後述の第1駆動ローラ45による搬送とにより、ローラ乾燥装置19に案内される。
【0032】
ローラ乾燥装置19は、フィルム16の搬送路を囲むようにして温度及び湿度を調整すべき空間を外部空間と仕切るチャンバ38と、チャンバ38に所定の温度及び湿度の気体を所定の流量で送り込む第1送風機41と、第1送風機41から送り出す気体の温度及び湿度と流量とを制御する第1送風コントローラ42とを備える。
【0033】
チャンバ38には、第1送風機41からの気体が供給される供給口(図示せず)と、内部の雰囲気を外部に排出する排出口(図示せず)とが形成されてある。フィルム16がチャンバ38に案内されると、フィルム16に含まれる溶剤12が蒸発する。蒸発した溶剤成分、すなわち溶剤ガスの濃度が一定量を超えないように、供給口からの気体の供給と、排気口からの雰囲気の排出とを行う。
【0034】
チャンバ38の内部温度は、第1送風機41からの気体により調整される。チャンバ38の内部には、フィルム16の温度を検出する温度計39が備えられる。温度計39は、フィルム16が乾燥を進められて溶剤含有率が徐々に減り8質量%に達する第1位置P1またはこの第1位置P1よりも下流に備えてあればよい。温度計39により、溶剤含有率が8質量%以下のフィルム16の温度を検出する。したがって、フィルム16が8質量%以下の溶剤含有率でローラ乾燥装置19に導入される場合には、温度計39のチャンバ38内部における位置は、特に限定されない。好ましくは、溶剤含有率が3%以上8%以下の範囲であるフィルム16の温度を温度計39で検出することが好ましい。
【0035】
ドープ13の処方やフィルム16の搬送速度等に応じて第1位置P1は通常変わる。そこで、チャンバ38の内部の搬送路に沿った複数箇所に予めそれぞれ温度計39を配しておいてもよい。これにより、複数の位置でフィルム16の温度を測定することができるので、ドープ13の処方や搬送速度に応じて第1位置P1が上流や下流に変化しても、温度計39を変位させることなく第1位置P1またはその下流でのフィルム18の温度を測定することができる。
【0036】
第1位置P1は、予め特定しておくことが好ましい。ただし、上記のように、ローラ乾燥装置19内の温度計39で測定するフィルム16の溶剤含有率は、8質量%以下であればよいので、第1位置P1は必ずしも厳格に求めなくてもよい。ドープ13の処方やフィルム形成装置17における流延膜32とフィルム16との乾燥条件、ローラ乾燥装置19における乾燥条件、フィルム16の搬送速度の各条件と、溶剤含有率との関係を予め求めておき、求めた関係に基づいて、おおよその第1位置P1を求めることができる。
【0037】
本実施形態では、複数のローラ18のうち最も下流のローラ18よりも下流に温度計39を配してある。チャンバ38の内部温度がチャンバ38に案内されるフィルム16の温度よりも高い場合には、チャンバ38で搬送されるにつれてフィルム16の温度は徐々に上昇し、チャンバ38の内部温度に近づく。温度計39により検出される温度に基づいて、第1送風コントローラ42により第1送風機41を制御する。第1送風機41からの気体の温度を制御することにより、ローラ乾燥装置19におけるフィルム16の乾燥速度と溶剤含有率が8%以下のフィルム16の温度とを制御する。
【0038】
図1では、第1位置P1が、ローラ乾燥装置19の上流にある場合を図示している。このように、フィルム16は、ローラ乾燥装置19に入る時点で既に溶剤含有率が8質量%に達していてもよい。このような場合には、搬送方向Z1における温度計39の位置は限定されず、チャンバ38内のフィルム16の温度をいずれのタイミングで測定してもよい。
【0039】
溶剤含有率が8%以下のフィルム16の温度は、100℃以上200℃以下の範囲にする。なお、この温度範囲にする温度調整は、溶剤含有率が8%以下の間継続的に実施する必要はない。すなわち、溶剤含有率が8%以下となってから一定の時間のみ、この温度範囲にすればよい。
【0040】
溶剤含有率が8%以下のフィルム16の温度を100℃未満に保持する場合に比べて、100℃以上にした場合には、このローラ乾燥装置19における後述の幅方向Z2(図2参照)の屈折率(以降、幅方向屈折率と称する)n2の低下と搬送方向Z1の屈折率(以降、搬送方向屈折率と称する)n1の上昇との少なくともいずれか一方の効果が確実に得られる。溶剤含有率が8%以下のフィルム16の温度を200℃以上にすると、ローラ乾燥装置19においてフィルム面の状態が悪化する。
【0041】
溶剤含有率が8%以下のフィルム16の温度は、110℃以上180℃以下の範囲にすることがより好ましく、120℃以上160℃以下の範囲とすることがさらに好ましい。
【0042】
チャンバ38の外部には、案内された雰囲気から溶剤ガスを除去して、この雰囲気をチャンバ38に供給する気体として再利用するように回収する回収機(図示せず)が備えられる。この回収機により、排気口から排出された雰囲気は、溶剤ガスを除去された後に第1送風機41に送られる。このようにして、チャンバ38に送る気体は循環して利用する。
【0043】
ローラ乾燥装置19は、フィルム16の搬送方向に並ぶ第1駆動ローラ45と第2駆動ローラ46との2つの駆動ローラ、第1駆動ローラ45の回転数を制御する第1コントローラ、及び、第2駆動ローラの回転数を制御する第2コントローラを備える。第1駆動ローラ45はチャンバ38の上流に、第2駆動ローラはチャンバ38の下流に配される。第1駆動ローラ45は、周方向に回転する回転速度を制御する第1コントローラ47を有し、第2駆動ローラ46は、第1コントローラ47と同様の第2コントローラ48を有する。
【0044】
第1駆動ローラ45と第2駆動ローラ46との周面にフィルム16を巻き掛け、これら第1駆動ローラ45と第2駆動ローラ46との回転によりフィルム16を搬送する。第1駆動ローラ45と第2駆動ローラ46との各回転速度を第1コントローラ47と第2コントローラ48とにより制御することにより、チャンバ38におけるフィルム16の搬送方向Z1における張力T1を制御する。搬送方向Z1における張力T1を、以下の説明においては第1張力T1と称する。
【0045】
ローラ乾燥装置19は、チャンバ38を搬送されているフィルム16の第1張力T1を測定するための張力計51を備える。張力計51としては、温度計39により測定されているフィルム16について第1張力T1を測定することができるものであれば特に限定されない。すなわち、張力計51は、溶剤含有率が8%以下であるフィルム16について第1張力T1を測定する。本実施形態では、張力計51は、複数のローラ18のうち最も下流のローラ18に備えられ、このローラ18に巻き掛かったフィルム16がローラ18を押す力とフィルム16の幅とに基づき第1張力T1を測定する。これにより、このローラ18と第2駆動ローラ46との間のフィルム16に対して付与されている第1張力T1を測定する。
【0046】
張力計51により測定される第1張力T1が35×9.8N以上200×9.8N以下の範囲、より好ましくは38×9.8N以上150×9.8N以下の範囲、さらに好ましくは40×9.8N以上100×9.8N以下の範囲となるように、第1駆動ローラ45と第2駆動ローラ46との少なくともいずれか一方の回転速度を調整する。これら第1張力T1の値は、いずれもフィルム16の幅1mあたりの値である。
【0047】
張力計51により測定される第1張力T1を上記範囲とすることにより、第1テンタ23に供するフィルム16の幅方向屈折率n2が低下もしくは搬送方向屈折率n1が上昇する。幅方向屈折率n2を低下させるとともに搬送方向屈折率n1を上昇させることもある。これにより、第1テンタ23で従来よりも大きな延伸倍率で幅を拡げても、従来の方法で得られるフィルムと同じ大きさのReをフィルム16に発現させることができる。したがって、本発明では、フィルム16に所定のReを発現させるために、後述のように従来の方法よりも大きな延伸倍率でフィルム16を幅方向に延伸する。延伸倍率を大きくすることで第1テンタ23を経たフィルム16の幅はより大きくなる。このため、スリッタ24で切除した側端部に軸ズレ領域が含まれ、巻取装置25で巻き取られる長尺のフィルム16には軸ズレ領域が含まれなくなる。仮に、延伸倍率を大きくすることで軸ズレ領域の幅が大きくなっても、延伸倍率を大きくすることで遅相軸の方向が一定である領域の幅も大きくなっているので、スリッタ24で軸ズレ領域のすべてを切除しても、十分な製品幅を確保することができる。
【0048】
なお、溶剤含有率が8質量%よりも高いフィルム16について、上記範囲の第1張力T1を付与しても、第1テンタ23に供するフィルム16の幅方向屈折率n2の低下と搬送方向屈折率n2の上昇との効果はほとんど得られない。これに対し、溶剤含有率が2質量%以下、例えば0質量%であるフィルム16に対して、100℃以上200℃以下の温度保持下で上記範囲の第1張力T1を付与しても、幅方向屈折率n2の低下と搬送方向屈折率n2の上昇とについて一定の効果はある。しかし、製造効率の観点と、幅方向屈折率n2の低下と搬送方向屈折率n2の上昇との少なくともいずれか一方の効果をより確実に得る観点とにおいては、2質量%よりも高い溶剤含有率のフィルム16に対してこの第1張力T1の付与を実施することがより好ましい。
【0049】
張力計51により測定される第1張力T1が幅1mあたり35×9.8N未満であっても、第1テンタ23に供するフィルム16に、幅方向屈折率n2の低下と搬送方向屈折率n2の上昇との少なくともいずれか一方を発現させることができる場合もあるが、35×9.8N以上とすることで確実になる。また、張力計51により測定される第1張力T1が幅1mあたり200×9.8Nよりも大きい場合に比べて200×9.8N以下の場合には、破断をより確実に防止しつつ搬送方向Z1におけるフィルム16の伸び率を幅方向でより均一にすることができ、このため、一定のRe及び一定の遅相軸方向を発現する幅方向での領域をより確実に確保することができる。すなわち、側部における軸ズレ領域の幅がより狭くなる、あるいは無くなる。
【0050】
第1張力T1は、100℃以上200℃以下の温度範囲とされているフィルム16について上記範囲とする。ただし、100℃以上200℃以下の範囲に温度が保持されている間のフィルム16全体を、上記の範囲の第1張力T1にする必要はない。すなわち、本発明では、100℃以上200℃以下の範囲に温度が保持されているフィルム16について、一時的にでも上記範囲の第1張力を付与すればよい。
【0051】
フィルム16のReは以下の方法で測定することができる。Reは、フィルム16から切り出したサンプルを温度25℃、湿度60%RHで2時間調湿し、自動複屈折率計(KOBRA21DH 王子計測機器(株))により632.8nmにおける垂直方向から測定したレタデーション値である。このレタデーション値は前述の式(1)で求められたものである。
【0052】
本実施形態では、第1駆動ローラ45と第2駆動ローラ46とを用いて第1張力T1を制御しているが、第1張力T1の制御方法はこれに限定されない。また、ローラ乾燥装置19の複数のローラ18のうちいずれかを、第1駆動ローラ45や第2駆動ローラ46と同じ構成をもつ駆動ローラに代えて、これにより第1張力T1を制御してもよい。
【0053】
第1テンタ23は、第2駆動ローラ46の下流で、フィルム16の搬送路を囲むようにして温度及び湿度を調整すべき空間を外部空間と仕切るチャンバ52と、チャンバ52に所定の温度及び湿度の気体を所定の流量で送り込む第2送風機53と、第2送風機52から送り出す気体の温度及び湿度と流量とを制御する第2送風コントローラ53とを備える。
【0054】
チャンバ52には、第2送風機53からの気体を流出するダクト57が設けられる。フィルム16は、チャンバ52に案内されると、ダクト57から出る気体により、昇温する。なお、溶剤含有率が2質量%に達しないうちにフィルム16がローラ乾燥装置19から出てチャンバ52に案内された場合には、チャンバ52でフィルム16に含まれる溶剤12が徐々に蒸発していき、フィルム16の溶剤含有率が2質量%以下になる。
【0055】
第1テンタ23は、フィルム16の側部を保持する複数の保持手段を備える。第1テンタ23は、保持手段がフィルム16を把持するクリップ58である周知のクリップテンタであることが好ましい。第1テンタ23の詳細は、別の図面を用いて後述する。
【0056】
スリッタ24は、フィルム16の各側部を連続的に切断する。一方の側部と他方の側部との間は製品領域である。この製品領域のフィルム16を、緩和装置80に案内する。緩和装置80には、フィルム16を周面で支持して搬送する複数のローラ81と、乾燥気体をフィルム16に吹き付けるダクト(図示無し)とが設けられる。フィルム16は、これらローラ81に巻きかけられて搬送される間に、ダクトからの乾燥気体により加熱される。搬送方向Z1における張力は、第1張力T1よりも非常に小さくしてあり、幅1mあたり40N以上100N以下の範囲である。加熱して昇温されたフィルム16に対して、搬送方向Z1での小さな張力を付与することにより、ローラ乾燥装置19での第1張力T1の付与と第1テンタ23での第2張力T2の付与とによるフィルム16の内部応力を緩和して除去する。この緩和装置80による緩和処理で、第1テンタ23における緩和で除去しきれなかった内部応力が除去される。この緩和装置80における搬送方向Z1での張力は非常に小さいので、フィルム16の幅はほとんど変化しない。
【0057】
緩和装置80で昇温したフィルム16を冷却するために、緩和装置80から冷却装置82へフィルム16を案内する。フィルム16は、この冷却装置82で所定温度に冷却された後、巻取装置25に案内されてロール状に巻き取られる。
【0058】
図2に示すように、第1テンタ23のチャンバ52は、搬送方向Z1の上流側から順に、予熱エリア61、延伸エリア62、緩和エリア63及び冷却エリア64を有する。ただし、チャンバ52は、各エリア61〜64がそれぞれ独立した空間となるように区画する仕切り部材が内部に設けてあるものではない。各エリア61〜64は、後述のように、クリップ58の走行軌道と、ダクト57(図1参照)のそれぞれから流出する気体とにより概念的に形成される。なお、図2は、第1テンタ23をフィルム16のフィルム面の法線方向から見た図である。この図2では、フィルム16の幅に対して第1テンタ23の各部材を大きく誇張して描いてある。
【0059】
第1テンタ23は、クリップ58の走行軌道を成すレール67,68を備える。レール67,68はフィルム16の搬送路の両側に設置され、所定のレール間隔をもって互いに離間している。
【0060】
複数のクリップ58は、所定の間隔をもってチェーン(図示せず)に取り付けられている。チェーンは、レール67とレール68とにそれぞれ取り付けられており、レール67,68に沿って移動自在とされている。チェーンは、予熱エリア61よりも上流側に配されるターンホイール71と、冷却エリア64の下流端に配されるスプロケット72とに噛み合っている。スプロケット72が回転することにより、チェーンは連続走行する。チェーンの走行により、クリップ58はレール67,68に沿って移動する。
【0061】
予熱エリア61よりも上流には、クリップ58によるフィルム16の側部の把持を開始する把持開始手段(図示無し)が設けられ、冷却エリア64の下流側には、クリップ58によるフィルム16の側部の把持を解除する把持解除手段(図示無し)が設けられる。これにより、フィルム16は、予熱エリア61よりも上流でクリップ58に把持され、クリップ58がレール67,68に沿って移動することで搬送方向Z1へ搬送され、各エリア61〜64を順次通過し、各エリア61〜64において所定の処理が施され、冷却エリア64の下流端で把持を解除される。
【0062】
レール67とレール68とのレール間隔は、予熱エリア61では幅W1と一定であり、延伸エリア62では搬送方向Z1に向かうに従って幅W1から幅W2へと次第に広くなり、緩和エリア63では搬送方向Z1に向かうに従って幅W2から幅W3へと次第に狭くなり、冷却エリア64では幅W3と一定である。このように各レール間隔を設定することにより、予熱エリア61では、フィルム16は一定の幅を保持するように、幅を規制された状態で搬送され、延伸エリア62では、搬送されているフィルム16は幅方向Z2へ拡げられるように、すなわち拡幅されるように、張力が付与されて延伸される。また、緩和エリア63では、フィルム16は、幅が小さくされながらも所定の張力で幅を規制された状態で搬送され、冷却エリア64では、幅を一定に保持された状態で搬送される。なお、搬送方向Z1は、巻取装置25に巻き取られるフィルム16の進相軸方向に一致し、幅方向Z2は、遅相軸方向に一致する。
【0063】
ただし、予熱エリア61及び冷却エリア64におけるレール間隔に関する上記「一定」とは、厳密である必要はない。つまり、製品たるフィルム16に目的とするReを発現させるために、予熱エリア61と冷却エリア64とのそれぞれにおいて、上流から下流にかけて幅W1、幅W3でそれぞれ略一定と言える程度にレール間隔を若干変化させる態様でもよい。また、緩和エリア63におけるレール間隔についても、必ずしも上流から下流にかけて次第に狭くする必要はない。例えば、緩和エリア63では、レール間隔が上流から下流にかけて幅W2で略一定といえる程度に若干変化する態様でもよい。
【0064】
本発明では、幅W1よりも幅W3が大きくなるように各幅W1〜W3を設定する。このように、第1テンタ23では、幅方向での張力(以降、第2張力と称する)T2を付与する。各幅W1〜W3は、フィルム16のReが目的とする値となるように設定する。
【0065】
本発明では、一定のReをフィルム16に発現させるための延伸倍率は、従来の方法における延伸倍率よりも大きい。ローラ乾燥装置19で、所定の温度範囲とされたフィルム16に第1張力T1を付与するからである。第1張力T1を付与するので、第2張力T2を従来の方法におけるより大きくしても、フィルム16のReが一定のReを超えることがない。なお、延伸倍率は、延伸エリア63での拡幅開始時点におけるフィルム16の幅W1と、第1テンタ23を出る時点でのフィルム16の幅とから求め、{(W3−W1)/W1}×100で求める値(単位;%)である。
【0066】
延伸倍率は、18%以上であることが好ましい。これにより、スリッタ24で切除した側端部に、軸ズレ領域がより確実に含まれるようになり、巻取装置25で巻き取られるフィルム16には軸ズレ領域が含まれなくなる。すなわち、巻き取られるフィルム16の遅相軸の方向は、幅方向で一定である。
【0067】
延伸倍率は、22%以上であることがより好ましく、25%以上であることがさらに好ましい。
【0068】
なお、第1テンタ23での拡幅は、溶剤含有率が2質量%以下のフィルム16に対して行えばよい。したがって、0(ゼロ)質量%となってから拡幅を行ってもよい。また2質量%よりも大きい溶剤含有率のフィルム16が第1テンタ23に導入された場合には、フィルム16の乾燥を予熱エリア61で十分すすめて溶剤含有率が2質量%に達してから延伸エリア62で拡幅をするとよい。
【0069】
以上のように、本発明によると、第1テンタ23による第2張力T2の大きさでの調整で容易に目的とするReを発現させることができる。また、ローラ乾燥装置19で付与する第1張力T1の大きさを大きくするほど、第2張力T2をより大きく設定することができる。このため、Reを20nm〜300nmの範囲で高精度に発現する場合に特に効果がある。
【0070】
ローラ乾燥装置19で所定温度範囲とされたフィルム16に第1張力T1を付与し、第1テンタ23で一定のReが得られるように第2張力T2を付与すると、Rthが目標値にならない場合がある。この場合には、フィルム16の厚みや、拡幅している間のフィルム16の温度を調整することによりRthを目標の値に制御することができる。
【0071】
溶液製膜設備10(図1参照)で製造効率をさらにあげようとすると、フィルム形成装置17におけるフィルム16の乾燥が十分にすすまないうちに、フィルム16がローラ乾燥装置19へ案内されることがある。ローラ乾燥装置19でフィルム16の溶剤含有率が8質量%に達しない場合には、上記の第1張力T1を付与することができなくなる。このような場合には、以下のようにするとよい。
【0072】
図3に示す溶液製膜設備110は、第1テンタ23に加えて、第2テンタ111を備える。第2テンタ111は、フィルム形成装置17とローラ乾燥装置19との間に配される。第2テンタ111は、第1テンタ23と同じ構成をもつので詳細な説明は略す。第2テンタ111のチャンバ(図示せず)には、第1テンタ23と同様に気体が外部から所定の温度及び湿度の気体が所定流量で送り込まれ、これによりフィルム16が乾燥する。
【0073】
第2テンタ111では、フィルム16の各側端部を保持手段で保持するが、フィルム16の溶剤含有率が多すぎてクリップの把持に耐えることができない場合には、クリップ58(図1,図2参照)に代えて複数のピン(図示せず)を保持手段として用いるとよい。
【0074】
第2テンタ111では、フィルム16の各側端部を保持手段で保持することで、幅を規制する。これにより、フィルム16の乾燥による収縮及びこの収縮による変形を抑止するとともに、収縮による軸ズレの発生を抑止することができる。
【0075】
この方法によると、製造速度をさらに上げてもローラ乾燥装置19で幅方向屈折率n2を下げたり搬送方向屈折率n1を上げることができるので、溶液製膜設備10を用いる第1の実施態様と同様の効果を得ることができる。
【0076】
以下、本発明の実施例と本発明に対する比較例とを挙げる。
【実施例】
【0077】
図1の溶液製膜設備10により、Reが55nm、Rthが140nm、幅が1340mmであるフィルム16を40m/分の速度で連続的に製造した。第1張力付与工程の条件が互いに異なる実施例1〜実施例7を行った。
【0078】
実施例1〜7の各第1張力付与工程の条件は表1に示す。表1において「溶剤含有率(質量%)」は第1張力T1を付与しているフィルム16における最も上流位置における値である。「温度(℃)」は、第1張力T1が付与されている時点のフィルム16の温度である。
【0079】
第1テンタ23の内部温度を、第2送風機53からの気体により180℃に設定することにより、案内されてきたフィルム16の温度を180℃にした。そして、180℃のフィルム16をReが55nmとなるように、表1に示す延伸倍率(単位;%)とした。
【0080】
Rthが140nmとなるように、フィルム16の厚みを表1の「厚み(μm)」の値に調整した。
【0081】
実施例1〜実施例7で得られた各フィルム16について、軸ズレの程度と、軸ズレ領域の幅を測定した。測定方法は図4を参照しながら以下に説明する。まず、得られた長尺のフィルム16から、サンプリング範囲を決めた。サンプリング範囲は、搬送方向Z1での長さL1で10mとした。なお、前述の通り、得られたフィルム16の幅L2は1340mmであり、幅方向Z2でのサンプリング範囲は得られたフィルム16の全幅域とした。このサンプリング範囲から、正方形のサンプル片を260枚切り出した。
【0082】
図4では、フィルム16の搬送方向Z1を上方に採る場合の右側縁に符号16e(R)、左側縁に符号16e(L)を付す。各サンプル片は、一辺の長さL3が4cm、すなわち4cm×4cmのサイズであり、サンプリング範囲から以下のようにマトリックス状に切り出した。
【0083】
幅方向Z2に沿って切り出すサンプル片は13枚であり、これらを等間隔で切り出した。幅方向Z2において隣り合うサンプルの幅方向Z2での中心と中心との距離L4は100mmとした。右側縁16e(R)に最も近いサンプルの幅方向Z2での中心から右側縁16e(R)までの距離L5(R)と、左側縁16e(L)に最も近いサンプルの幅方向Z2での中心から左側縁16e(L)までの距離L5(L)とは、いずれも70mmとした。
【0084】
搬送方向Z1に沿って切り出すサンプル片は20枚であり、これらを等間隔で切り出した。搬送方向Z1において隣り合うサンプルの搬送方向Z1での中心と中心との距離L6は500mmとした。
【0085】
各サンプルを、温度25℃、湿度60%RHで2時間調湿した。この後、自動複屈折計(KOBRA21DHまたはWR 王子計測機器(株)製)にサンプルをセットした。波長λが632.8nmである光を、フィルム面の法線方向からフィルム16に入射させて配向角θ(単位;°)を測定した。配向角θは、搬送方向Z1と遅相軸とのなす角であり、採りうる範囲を0°≦θ<180°として測定した。遅相軸が搬送方向Z1に一致する場合をθ=0°、遅相軸が幅方向Z2に一致する場合をθ=90°とした。測定波長λ(nm)は、特定の波長を通過させる波長選択フィルタを、適宜選定することにより設定する。
【0086】
<軸ズレの程度>
260枚すべてのサンプル片につき、配向角θを測定した。260個の測定値のうち最も大きい値をθmax,最も小さい値をθminとおいた。そして、θmax−θminで求める値を軸ズレ量(単位;°)とした。結果は表1に示す。この軸ズレ量が小さいフィルム16ほど軸ズレの程度が小さく、好ましいフィルムといえる。
【0087】
<軸ズレ領域の幅>
幅方向Z2でのサンプル片13枚のうち1枚を選択した。選択した1枚を含み、搬送方向Z1に並ぶ20枚のサンプル片のそれぞれに関して、サンプル片の中央における配向角θを測定した。なお、搬送方向Z1に並ぶ20枚のサンプル片のそれぞれに関して配向角θを測定する場合には、図4に示すように、搬送方向Z1から遅相軸に向かって互いに同じ方向で回転させて測定するなす角を配向角θとした。20個の測定値のうち最も大きい値をθ(MD)max,最も小さい値をθ(MD)minとおいた。そして、θ(MD)max−θ(MD)minで求めた。このように求めた値を、以降、搬送方向軸ズレ量(単位;°)と称する。
【0088】
幅方向Z2に並ぶ他の12枚から同様に1枚を選択し、選択したこの1枚を含み、搬送方向Z1に並ぶ20枚のサンプル片のそれぞれに関して、配向角θを測定した。そして、同様に搬送方向軸ズレ量を求めた。なお、搬送方向Z1での20枚のサンプル片からなる各並びを「列」と称すると、幅方向Z2には13列が並んでいることになる。他の11列についてもそれぞれ搬送方向軸ズレ量を求めた。
【0089】
求めた13個の搬送方向軸ズレ量のうち、設定した基準値より大きい列を検出した。本実施例では、基準値を0.5°とした。搬送方向軸ズレ量は、右側縁16e(R)と左側縁16e(L)との各側縁に近くなるほど大きい。そこで、右側縁16e(R)から0.5°より大きい列までの長さを右軸ズレ領域の幅とし、左側縁16e(L)から0.5°より大きい列の中央までの長さを左軸ズレ領域の幅とした。例えば、左側縁16e(L)から1列目と2列目との各搬送方向軸ズレ量が0.5°よりも大きい場合には、図4に示すように、左軸ズレ領域の幅は、左側縁16e(L)から第1列の中央までの距離(=70mm)と、1列目の中央から第2列の中央までの距離(=100mm)の和で求め、170mmということになる。
【0090】
そこで、両者の和、すなわち(右軸ズレ領域の幅)+(左軸ズレ領域の幅)で求める値を、軸ズレ領域の幅とした。結果は表1に示す。この値が小さいフィルム16ほど好ましいフィルムといえる。なお、搬送方向軸ズレ量は、フィルム16の幅方向Z2における中央に関して対象、すなわち左右対称となる場合が多い。このような場合には、右軸ズレ領域の幅と左軸ズレ領域の幅とは互いに同じ値となるので、これらのうちいずれか一方を求めて、求めた値を2倍にすると軸ズレ領域の幅を求めることができる。
【0091】
【表1】

【0092】
[比較例]
第1張力付与工程の条件が互いに異なる比較例1〜5を行った。第1張力付与工程での各条件、第1テンタ23での延伸倍率は表1に示す。得られたフィルムの厚みは表1に示す通りである。他の条件は実施例と同じである。
【0093】
比較例1〜5でそれぞれ得られたフィルムについても、実施例と同様の方法で軸ズレの程度と軸ズレ領域の幅とを求めた。結果は表1に示す。
【符号の説明】
【0094】
10,110 溶液製膜設備
16 フィルム
17 フィルム形成装置
19 ローラ乾燥装置
23 第1テンタ
24 スリッタ
111 第2テンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアシレートが溶剤に溶解したドープを支持体上に流延して前記溶剤を含む状態で前記支持体から剥ぎ取ることにより形成されたセルロースアシレートフィルムを、搬送しながら乾燥する乾燥工程と、
前記溶剤の含有率が8質量%以下の前記セルロースアシレートフィルムを100℃以上200℃以下の温度範囲に保持しながら、このセルロースアシレートフィルムに対して、幅1mあたり35×9.8N以上200×9.8N以下の範囲の搬送方向での第1張力を付与する第1張力付与工程と、
前記セルロースアシレートフィルム面内の遅相軸方向における屈折率をnx、進相軸方向における屈折率をny、前記セルロースアシレートフィルムの厚みをd(単位;nm)とするときに(nx−ny)×dで求めるレタデーションReが予め設定した値となるように、前記第1張力付与工程を経た前記セルロースアシレートフィルムに対して幅方向での第2張力を付与する第2張力付与工程とを有することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項2】
前記第1張力付与工程では、
周方向に回転し前記セルロースアシレートフィルムの搬送方向に並ぶ2つの駆動ローラの各周面に前記セルロースアシレートフィルムを巻き掛け、前記2つの駆動ローラの回転により前記セルロースアシレートフィルムを搬送し、
上流側の一方の前記駆動ローラと、下流側の他方の前記駆動ローラとの各回転速度を調整することにより、前記一方の駆動ローラと前記他方の駆動ローラとの間の前記セルロースアシレートフィルムに対して付与する前記第1張力を制御することを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項3】
前記第2張力の付与により、前記セルロースアシレートフィルムの幅を18%以上拡げることを特徴とする請求項1または2いずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項4】
前記第1張力付与工程の前に、前記乾燥工程の間の前記セルロースアシレートフィルムの各側端部を保持手段で保持することにより前記セルロースアシレートフィルムの幅を規制することを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項5】
前記セルロースアシレートフィルムの前記予め設定した値であるレタデーションReが、20nm以上300nm以下の範囲であることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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