説明

溶湯品質評価方法および溶湯品質評価装置

【課題】試料溶湯の温度の合否判断を可及的に早い段階で行うことで、溶湯品質評価を迅速に実施可能な溶湯品質評価方法および装置を提供する。
【解決手段】試料用ルツボを収納する試験チャンバーと、試験チャンバーの内部を減圧する減圧手段と、試験チャンバー内の圧力を検出する圧力検出手段とを用い、試料用ルツボに試料溶湯を採取し、減圧手段による減圧開始以降の、圧力検出手段によって検出された圧力変化パターンに基づいて、試料溶湯中の介在物量、同介在物外径、または溶存ガス量を判定する溶湯品質評価方法であって、圧力変化パターンに含まれる減圧開始後から最初の圧力上昇ピーク発生までの初期時間長さ又は最初の圧力上昇ピークの高さに基づいて試料溶湯の温度条件を合否判定する試料温度エラー判定工程#11、#14を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミ合金などの溶湯の品質、特に、溶湯に含まれる介在物量、同介在物外径、または溶存ガス量を評価するための溶湯品質評価方法、及び、同評価に用いる溶湯品質評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の溶湯品質評価に関連する先行技術文献情報として下記に示す特許文献1がある。この特許文献1に記されたガス量及び介在物測定装置では、試料溶湯を入れたルツボを収納する試験チャンバーと、同試験チャンバーの内部を減圧する減圧手段と、試験チャンバー内の圧力を検出する圧力検出手段とを用いている。試料用ルツボに試料溶湯を採取し、試験チャンバーの内部を減圧手段によって減圧していくと、試料溶湯中に溶存していたガスは次第に析出して試料溶湯の表面から出て試験チャンバーの減圧状態に静的な影響を及ぼす。また、図3に例示するように、試料溶湯中の介在物は気泡状になったガスによって浮上されて試料溶湯の表面で破裂するため試験チャンバーの減圧状態に瞬間的で急激な影響を及ぼす。そこで、減圧開始以降に圧力検出手段によって検出された同試験チャンバーの内部の圧力低下曲線を、試料溶湯なしの条件で予め求めておいた圧力低下曲線と比較することで、試料溶湯中の溶存ガス量を判定できる。また、圧力低下曲線の中に現れる急峻な上昇ピークの数量に基づいて試料溶湯中介在物量を判定できる。また、その後、上昇ピークの高さから介在物の外径も特定できることが判っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−192530号公報(0018〜0021段落、図1、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の溶湯品質評価では、試験チャンバーに設置する試料溶湯の温度が重要であり、溶湯の合金品種毎に設定された規定の温度範囲よりも低い場合は、溶存ガスの析出が円滑に行われずに、正しい評価ができない。しかし、特許文献1の溶湯品質評価技術では、試料溶湯の温度の合否判断(規定の温度範囲であったか否か)を、評価のために得た圧力低下曲線全体の観察から行うため、溶湯品質評価を迅速に行うことができなかった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、上に例示した従来技術による溶湯品質評価技術が与える課題に鑑み、試料溶湯の温度の合否判断を可及的に早い段階で行うことで、溶湯品質評価を迅速に実施可能な溶湯品質評価方法および溶湯品質評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による溶湯品質評価方法の特徴構成は、
試料用ルツボを収納する試験チャンバーと、前記試験チャンバーの内部を減圧する減圧手段と、前記試験チャンバー内の圧力を検出する圧力検出手段とを用い、前記試料用ルツボに試料溶湯を採取し、前記減圧手段による減圧開始以降の、前記圧力検出手段によって検出された圧力変化パターンに基づいて、前記試料溶湯中の介在物量、同介在物外径、または溶存ガス量を判定する溶湯品質評価方法であって、
前記圧力変化パターンに含まれる前記減圧開始後から最初の圧力上昇ピーク発生までの初期時間長さ又は最初の前記圧力上昇ピークの高さに基づいて前記試料溶湯の温度条件を合否判定する試料温度エラー判定工程を有する点にある。
【0007】
上記の特徴構成による溶湯品質評価方法では、個々の試料溶湯に関する溶湯品質評価操作において、減圧開始後から最初の圧力上昇ピーク発生までの初期時間長さ又は減圧開始後から最初に現れる圧力上昇ピークの高さを先ず判定し、判定結果を所定の基準値と比較することで、試料溶湯の温度条件が良好か否かを簡単に且つ迅速に判断することが可能になった。すなわち、温度条件が不良と判明した試料溶湯については、評価操作プロセスの極めて初期に測定を合理的に中止できるため、結果的に溶湯品質評価操作を迅速に進めることが可能になった。尚、この試料溶湯の温度条件の良否に関する判断は、減圧開始後から最初の前記圧力上昇ピーク発生までの初期時間長さや最初の前記圧力上昇ピークの高さが、試料溶湯の温度条件が良好であれば、合金品種毎にほぼ一定であるという今般の新たな知見に基づくものである。
【0008】
本発明による溶湯品質評価方法の他の特徴構成は、
前記減圧開始後からの前記試験チャンバーの内部の雰囲気温度上昇パターンに基づいて、前記試料溶湯の品種を特定する品種判定工程と、この品種判定工程によって判定された品種に応じて、前記初期時間長さ又は前記最初の圧力上昇ピークの高さの基準値を決定する基準値決定工程とを備え、
前記試料温度エラー判定工程では、前記基準値決定工程によって決定された基準値に基づいて前記合否判定が行われる点にある。
【0009】
今般、一連の実験の成果として、採取した試料溶湯を入れた試料用ルツボを試験チャンバー内に収納し、減圧を開始してからの試験チャンバー内の雰囲気温度上昇パターンは、合金品種毎に一定であるという新たな知見が得られた。すなわち、試験チャンバー内の雰囲気温度上昇パターンから試料溶湯の合金品種を特定できることになる。したがって、本構成であれば、試料溶湯の合金品種が不明な状況であっても、品種判定工程において試験チャンバーの内部の雰囲気温度上昇パターンに基づいて試料溶湯の合金品種を特定できると共に、試料温度エラー判定工程では、特定された合金品種に対応した基準値に基づいて精度の高い合否判定を行うことが可能になった。
【0010】
本発明による溶湯品質評価方法の他の特徴構成は、
前記減圧開始後からの前記試験チャンバーの内部の雰囲気温度上昇パターンに基づいて、前記試料溶湯中のSi量を判定する成分判定工程と、この成分判定工程によって判定されたSi量に応じて、前記初期時間長さ又は前記最初の圧力上昇ピークの高さの基準値を決定する基準値決定工程とを備え、
前記試料温度エラー判定工程では、前記基準値決定工程によって決定された基準値に基づいて前記合否判定が行われる点にある。
【0011】
アルミ合金などの溶湯では、同一合金品種の中でもSi含有量が一定の範囲内で変動する場合がある。前述した一連の実験では、さらに、減圧を開始してからの試験チャンバー内の雰囲気温度上昇パターンは、同一合金品種の中でのSi含有量の違いによっても左右されるという知見も得られた。すなわち、試験チャンバー内の雰囲気温度上昇パターンから試料溶湯のSi量を特定できることになる。また、同時に、減圧開始後から最初の前記圧力上昇ピーク発生までの初期時間長さや最初の前記圧力上昇ピークの高さが、試料溶湯の温度条件が良好であれば、同一合金品種の中でのSi含有量毎にほぼ一定であるという知見も得られた。したがって、本構成であれば、試料用ルツボに採取された試料溶湯毎に、試験チャンバー内の雰囲気温度上昇パターンに基づいて溶湯のSi含有量を特定でき、そのSi含有量に基づいて、減圧開始後から最初の前記圧力上昇ピーク発生までの初期時間長さや最初の前記圧力上昇ピークの高さの正しい値を知ることができる。その結果、もしも採取された試料溶湯に合金品種の中での微細なSi量のばらつきが見られても、その試料毎のSi量に則した正確な合否判定を実施可能になった。また、合金品種が不明な場合にも試験チャンバー内の雰囲気温度上昇パターンに基づいて正確な合否判定を実施可能となった。
【0012】
本発明による溶湯品質評価装置の第1の特徴構成は、
試料用ルツボを密閉状に収納する試験チャンバーと、
前記試験チャンバーの内部を減圧する減圧手段と、
前記試験チャンバー内の圧力を検出する圧力検出手段と、
前記試料用ルツボに試料溶湯を採取し、前記減圧手段による減圧開始後において、前記圧力検出手段によって検出された圧力上昇ピークから前記試料溶湯中の介在物の外径を判定する粒子径判定部、または、同減圧開始後において、前記圧力検出手段によって検出された圧力変化曲線に基づいて、前記試料溶湯中の溶存ガス量を判定する溶存ガス量判定部と、
前記減圧開始後から最初の圧力上昇ピーク発生までの初期時間長さを判定する初期時間長判定部と、
前記初期時間長判定部によって得られた初期時間長さを所定の基準値と比較することで、前記試料溶湯の温度条件を合否判定する試料温度合否判定部とを有する点にある。
【0013】
上記の特徴構成による溶湯品質評価装置では、個々の試料溶湯に関する溶湯品質評価操作において、減圧開始後から最初の圧力上昇ピーク発生までの初期時間長さを先ず判定し、判定結果を所定の基準値と比較することで、試料溶湯の温度条件が良好か否かを簡単に且つ迅速に判断することが可能になった。すなわち、温度条件が不良と判明した試料溶湯については、評価操作プロセスの極めて初期に測定を合理的に中止できるため、結果的に溶湯品質評価操作を迅速に進めることが可能になった。
【0014】
本発明の他の特徴構成は、前記試験チャンバーの内部の雰囲気温度を測定する温度測定手段と、
前記温度測定手段によって得られた、前記減圧開始後からの雰囲気温度上昇パターンに基づいて前記試料溶湯中のSi量を判定する成分判定部と、
前記成分判定部によって判定されたSi量に応じて、前記初期時間長さの基準値を判定する第1基準値決定部と、を有する点にある。
【0015】
アルミ合金などの溶湯では、同一合金品種の中でもSi含有量が一定の範囲内で変動する場合がある。しかし、減圧を開始してからの試験チャンバー内の雰囲気温度上昇パターンは、同一合金品種の中でのSi含有量の違いによっても左右されることが判ったので、試験チャンバー内の雰囲気温度上昇パターンから試料溶湯のSi量を特定可能となった。同時に、もしも試料溶湯の温度条件が良好であれば、減圧開始後から最初の前記圧力上昇ピーク発生までの初期時間長さが、Si含有量毎にほぼ一定であることも判った。したがって、本構成であれば、試料用ルツボに採取された試料溶湯毎に、試験チャンバー内の雰囲気温度上昇パターンに基づいて溶湯のSi含有量を特定でき、そのSi含有量に基づいて、初期時間長さの正しい値を知ることができる。その結果、もしも採取された試料溶湯に合金品種の中での微細なSi量のばらつきが見られても、その試料毎のSi量に則した正確な合否判定を実施可能になった。また、合金品種が不明な場合にも試験チャンバー内の雰囲気温度上昇パターンに基づいて正確な合否判定を実施可能となった。
【0016】
本発明による溶湯品質評価装置の第2の特徴構成は、
前記試験チャンバーの内部を減圧する減圧手段と、
前記試験チャンバー内の圧力を検出する圧力検出手段と、
前記試料用ルツボに試料溶湯を採取し、前記減圧手段による減圧開始後において、前記圧力検出手段によって検出された圧力上昇ピークから前記試料溶湯中の介在物の外径を判定する粒子径判定部、または、同減圧開始後において、前記圧力検出手段によって検出された圧力変化曲線に基づいて、前記試料溶湯中の溶存ガス量を判定する溶存ガス量判定部と、
前記減圧開始後から最初の前記圧力上昇ピークの高さを判定する初期ピーク高さ評価部と、
前記初期ピーク高さ評価部によって得られた前記最初の圧力上昇ピークの高さを所定の基準値と比較することで、前記試料溶湯の温度条件を合否判定する試料温度合否判定部とを有する点にある。
【0017】
上記の特徴構成による溶湯品質評価装置では、個々の試料溶湯に関する溶湯品質評価操作において、減圧開始後に現れる最初の圧力上昇ピークの高さを先ず判定し、判定結果を所定の基準値と比較することで、試料溶湯の温度条件が良好か否かを簡単に且つ迅速に判断することが可能になった。すなわち、温度条件が不良と判明した試料溶湯については、評価操作プロセスの極めて初期に測定を合理的に中止できるため、結果的に溶湯品質評価操作を迅速に進めることが可能になった。
【0018】
本発明の他の特徴構成は、前記試験チャンバーの内部の雰囲気温度を測定する温度測定手段と、
前記温度測定手段によって得られた、前記減圧開始後からの雰囲気温度上昇パターンに基づいて前記試料溶湯中のSi量を判定する成分判定部と、
前記成分判定部によって判定されたSi量に応じて、前記最初の圧力上昇ピークの高さの基準値を判定する第2基準値決定部と、を有する点にある。
【0019】
アルミ合金などの溶湯では、同一合金品種の中でもSi含有量が一定の範囲内で変動する場合がある。しかし、減圧を開始してからの試験チャンバー内の雰囲気温度上昇パターンは、同一合金品種の中でのSi含有量の違いによっても左右されることが判ったので、試験チャンバー内の雰囲気温度上昇パターンから試料溶湯のSi量を特定可能となった。同時に、もしも試料溶湯の温度条件が良好であれば、減圧開始後から最初の圧力上昇ピークの高さが、Si含有量毎にほぼ一定であることも判った。したがって、本構成であれば、試料用ルツボに採取された試料溶湯毎に、試験チャンバー内の雰囲気温度上昇パターンに基づいて溶湯のSi含有量を特定でき、そのSi含有量に基づいて、最初の圧力上昇ピークの高さの正しい値を知ることができる。その結果、もしも採取された試料溶湯に合金品種の中での微細なSi量のばらつきが見られても、その試料毎のSi量に則した正確な合否判定を実施可能になった。また、合金品種が不明な場合にも試験チャンバー内の雰囲気温度上昇パターンに基づいて正確な合否判定を実施可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る溶湯品質評価装置を示す模式図である。
【図2】試験チャンバーの内部圧力の測定結果を例示するグラフである。
【図3】減圧時に試料溶湯中に生じる現象を模式的に示す説明図である。
【図4】溶湯品質評価装置に設けられた制御装置の構成を示すブロック図である。
【図5】試験チャンバー内の温度変化の測定結果を例示するグラフである。
【図6】本発明に係る溶湯品質評価方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
(溶湯品質評価装置の概略構成)
図1に示す溶湯品質評価装置50は、内部を蓋2で密閉可能な耐熱性の試験チャンバー1を備え、試験チャンバー1の内部に設置された棚3の所定箇所には、品質評価の対象となる高温の試料溶湯Sを入れたルツボ8を載置可能となっている。
【0022】
試験チャンバー1の内部空間Vは、ルツボ8の下方近くに設置された螺旋状の電熱ヒータ4によって180℃以下にならないように保温されている。
試験チャンバー1には内部空間Vを減圧する真空ポンプ10(減圧手段の一例)が接続され、さらに、内部空間Vの圧力を測定する圧力計5及び内部空間Vの雰囲気温度を測定する熱電対6が設置されている。
【0023】
また、溶湯品質評価装置50は、圧力計5によって得られた内部空間Vの圧力変化に基づいて、試料溶湯Sに含まれるスピネル等の介在物量、同介在物外径、及び、水素などの溶存ガス量を評価することの可能な制御装置20、それらの評価結果を表示する表示モニター16、内部空間Vの減圧不足や試料溶湯Sの温度条件不良などを作業者に警告するエラー警告灯14を備えている。
【0024】
尚、この溶湯品質評価装置50を構成する部材の一部は従来から知られたものであり、本発明に特有な構成は、内部空間Vの雰囲気温度を測定する熱電対6、エラー警告灯14、及び、制御装置20に備えられた後述する幾つかの判定部である。
【0025】
(溶湯品質評価方法の概要)
本発明による溶湯品質評価装置50を用いた溶湯品質評価は概して以下の手順で実施される。
電熱ヒータ4によって180℃に保持された試験チャンバー1の棚3に所定温度の試料溶湯Sを入れたルツボ8を載置し、蓋2で密閉し、直ぐに真空ポンプ10によって内部空間Vを所定の期間で約0.5Paにまで減圧し、圧力計5によって内部空間Vの圧力を測定開始する。
【0026】
内部空間Vの圧力の測定結果を、内部空間Vの圧力(単位:Pa)を縦軸、減圧開始からの経過時間(単位:秒)を横軸としてグラフ化すると、概して図2に実線で例示した形状の線(測定値)が描かれる(圧力変化パターンの一例)。図2で扱われた試料溶湯の例では、時間経過と共に全体的には右下がりの線を描くと同時に、約60秒後から急峻な上向きのピークが現れ始める。
【0027】
図2に破線で描かれた曲線はブランク値を示す。このブランク値は、事前の実験として、溶湯品質評価で実際に用いるルツボ8を、全く溶湯のない空の状態で、180℃に保持された試験チャンバー1の棚3に載置し、内部空間Vを同様に所定の期間で約0.5Paにまで減圧した時に得られた内部空間Vの圧力変化を示す。
【0028】
そこで、図5に示す制御装置20の溶存ガス量判定部34が、測定値のグラフとブランク値のグラフとで囲まれた斜線領域の面積Aから、ボイルシャルルの法則を用いて試料溶湯S中の溶存ガス量を判定し、表示モニター16に表示する。
また、制御装置20の粒子径判定部36が、測定値のグラフに現れる上向きの各ピークの高さhから試料溶湯S中の個々の介在物(主にスピネルなどの酸化物粒子で構成される)の外径を判定し、表示モニター16に表示する。さらに、ピークの数から介在物の量も判定可能である。
【0029】
ここで、内部空間Vを減圧開始する時点で、ルツボ8内の試料溶湯Sの温度は、合金品種毎に定められた規定温度を上回っている必要があり、その規定温度を下回っていれば、溶存ガスの析出が円滑に行われず、正しい評価ができない。しかし、実際の評価試験では、内部空間Vを減圧開始する時点で、試料溶湯Sの温度が規定温度範囲を下回る事例(採取溶湯温度エラーと呼ぶ)が多く発生し得る。
【0030】
本発明による溶湯品質評価装置50は、正しい溶湯品質評価をできるだけ短期間で完了できるように、上述した採取溶湯温度エラーを溶湯品質評価プロセスのできるだけ速い段階で特定し、作業者に告知する機能を備えている。
【0031】
(制御装置の構成)
そのために、本発明による溶湯品質評価装置50の制御装置20は、溶湯品質評価の開始時における試験チャンバー1の内部空間Vの減圧速度と試験終了時の最終減圧レベルとを合金品種と無関係に判定する真空度合否判定部21の他に、内部空間Vを減圧開始する時点での試料溶湯Sの温度が、合金品種毎の規定温度を上回るか否かを判定する試料温度合否判定部22を備えている。
【0032】
試料温度合否判定部22は、熱電対6によって測定された減圧開始から20秒後までの内部空間Vにおける雰囲気温度の上昇速度に基づいて、採取溶湯温度エラーか否かを判定する第1昇温判定部24と、最初のピークが現れるまでの時間長さ(図2のt0)に基づいて、採取溶湯温度エラーか否かを特定する初期ピーク時期評価部30と、最初に現れるピークの高さ(図2のh0)に基づいて、採取溶湯温度エラーか否かを判定する初期ピーク高さ評価部32とを有する。
【0033】
第1昇温判定部24による判定は、制御装置20内の一般基準値格納部(不図示)に格納されている合金品種毎の基準値に基づいて行われる。初期ピーク時期評価部30による判定は、第1基準値格納部30Sに格納されている第1基準値に基づいて行われる。初期ピーク高さ評価部32による判定は、第2基準値格納部32Sに格納されている第2基準値に基づいて行われる。
【0034】
また、試料温度合否判定部22は、基本的に合金品種と無関係に、試料溶湯Sが取り替えられる度に第1基準値及び第2基準値を決定し直し、第1基準値格納部30S及び第2基準値格納部32Sに格納されている各基準値を更新する基準値決定部26を有する。
【0035】
基準値決定部26は、減圧開始から20秒後までの内部空間Vにおける雰囲気温度の上昇パターンを第1昇温判定部24よりも詳細に識別・判定する第2昇温判定部28と、第2昇温判定部28によって判定された上昇パターンまたは正確な温度上昇速度に基づいて試料溶湯Sに含まれるSi量を判定する成分判定部29と、成分判定部29によって判定されたSi量に対応した正しい初期ピーク時期の範囲を決定する第1基準値決定部30R、及び、判定されたSi量に対応した正しい初期ピーク高さの範囲を決定する第2基準値決定部32Rとを有する。
【0036】
溶存ガス量判定部34は、図2に例示される測定値のグラフとブランク値のグラフとで囲まれた斜線領域の面積Aから、ボイルシャルルの法則を用いて試料溶湯S中の溶存ガス量を判定し、表示モニター16に表示する。
粒子径判定部36は、測定値のグラフに現れる上向きの各ピークの高さhから試料溶湯S中の個々の介在物の外径や介在物の量を判定し、表示モニター16に表示する。
【0037】
(溶湯品質評価方法の詳細)
溶湯品質評価方法について図6のフローチャートに沿って説明する。
アルミ保持炉(不図示)などから試料溶湯Sを採取した試料用ルツボ8を試験チャンバー1の所定箇所に載置し、蓋2で内部を密閉後、直ぐに真空ポンプ10で試験チャンバー1内を減圧開始する。
【0038】
先ず、制御装置20に設けられた真空度合否判定部21が、圧力計5からの出力信号に基づいて、減圧開始直後の試験チャンバー1の内部空間Vの減圧速度P′(Pa/秒)をチェックする(#01)。蓋2などの密閉度不良や真空ポンプ10の不具合によって規定の減圧速度に達していない場合は、エラー警告灯14または表示モニター16を介して減圧エラーが告知され(#02)、測定が中止される(#03)。規定の減圧速度:P1(Pa/秒)に達していれば、ガス量・介在物量の測定プログラムが開始される(#04)。
【0039】
ガス量・介在物量の測定プログラム(#04)では、先ず、試料温度合否判定部22の第1昇温判定部24が、熱電対6からの出力信号に基づいて、高温の試料溶湯Sによる内部空間Vの雰囲気温度の温度上昇速度(℃/秒)をチェックする(#05、試料温度エラー判定工程の一例)。この温度上昇速度が、制御装置20内の一般基準値格納部(不図示)に格納されている合金品種毎の基準値:L0(℃/秒)に達しない場合は、エラー警告灯14または表示モニター16を介して採取溶湯温度エラーが告知され(#06)、測定が中止される(#07)。他方、基準値:L0(℃/秒)に達していれば、後続する詳細な判定で用いる基準値を設定するための基準値決定ルーチン(#08−#09)に進む。
【0040】
基準値決定ルーチンでは、先ず、基準値決定部26の第2昇温判定部28が、減圧開始から20秒後までの内部空間Vにおける雰囲気温度の上昇パターンを、第1昇温判定部24よりも詳細に識別・判定する(#08)。
次に、成分判定部29が、第2昇温判定部28によって判定された上昇パターンに基づいて、一般基準値格納部(不図示)のLUT(ルックアップテーブル)を参照することで、試料溶湯S中のSi量を判定する(#09、成分判定工程の一例)。
【0041】
引き続き、第1基準値決定部30Rが、成分判定部29によって判定されたSi量に基づいて、一般基準値格納部のLUTから第1基準値を決定し(基準値決定工程の一例)、この値を第1基準値格納部30Sに格納する(#10)。第1基準値とは、採取された試料溶湯Sの温度が正常な場合に、成分判定部29によって判定されたSi量に該当する合金溶湯に対応する最初の圧力上昇ピークの時期(初期ピーク時期:t0)が取るべき値の範囲(t1〜t2)である。
【0042】
同様に、第2基準値決定部32Rが、成分判定部29によって判定されたSi量に基づいて、一般基準値格納部のLUTから第2基準値を決定し(基準値決定工程の一例)、この値を第2基準値格納部32Sに格納する(#10)。第2基準値とは、採取された試料溶湯Sの温度が正常な場合に、成分判定部29によって判定されたSi量に該当する合金溶湯に対応する最初の圧力上昇ピークの高さ(初期ピーク高さ:ho)が取るべき値の範囲(h1〜h2)である。
【0043】
次に、初期ピーク時期評価部30が、測定中の試料溶湯Sに関して、圧力計6とタイマー12との出力信号に基づいて測定された初期ピーク時期(t0)が、第1基準値格納部30Sに格納されている更新された規定範囲(t1〜t2)に含まれるか否かを評価する(#11、試料温度エラー判定工程の一例)。もしも、測定された初期ピーク時期(t0)の値が規定範囲(t1〜t2)から外れていれば、採取溶湯温度エラーが告知され(#12)、測定が中止される(#13)。他方、規定範囲(t1〜t2)に含まれていれば、次の判定ステップに進む。
【0044】
次のステップでは、初期ピーク高さ評価部32が、測定中の試料溶湯Sに関して、圧力計6とタイマー12との出力信号に基づいて測定された初期ピーク高さ(h0)が、第2基準値格納部32Sに格納されている更新された値の範囲(h1〜h2)に含まれるか否かを評価する(#14、試料温度エラー判定工程の一例)。もしも、測定された初期ピーク高さ(h0)が規定範囲(h1〜h2)から外れていれば、採取溶湯温度エラーが告知され(#15)、測定が中止される(#16)。他方、規定範囲(h1〜h2)に含まれていれば、次のステップに進む。
【0045】
次に、真空度合否判定部21が、圧力計5からの出力信号に基づいて、データ取得後の所定時刻(減圧開始から200秒後など)における試験チャンバー1の内部空間Vの圧力(最終真空度)をチェックする(#17)。蓋2などの密閉度不良や真空ポンプ10の不具合など何らかの要因によって最終真空度が規定の真空度:P2(例えば0.5Pa未満)に達していない場合は、エラー警告灯14または表示モニター16を介して減圧エラーが告知され(#18)、測定が中止される(#19)。最終真空度が規定の真空度:P2に達していれば、次のステップに進む。
【0046】
次のステップでは、溶存ガス量判定部34と粒子径判定部36とによって、試料溶湯Sの溶存ガス量と、介在物の外径や介在物の量とが順次算出され(#20、#21)、評価結果表示部38によって各算出値が表示モニター16に表示され(#22)、試験チャンバー1に設置した試料溶湯Sに関する一連の評価プロセスが完了する。
【0047】
〔別実施形態〕
〈1〉減圧開始後における内部空間Vの温度変化パターンに基づいて、試料溶湯S中のSi量ではなく、試料溶湯の合金品種のみを特定し(品種判定工程)、後続する基準値決定工程(#08−#10)では、この特定された合金品種に基づいて初期時間長さ又は前記最初の圧力上昇ピークの高さの基準値を決定する形態での実施も可能である。
【0048】
〈2〉上記実施形態よりも合否判定基準を緩和して、初期ピーク時期(t0)の判定工程(#11)と初期ピーク高さ(h0)の判定工程(#14)いずれか一方のみに基づいて試料温度エラー判定を実施してもよい。
【0049】
〈3〉さらに合否判定基準を緩和して、初期ピーク時期(t0)と初期ピーク高さ(h0)に基づく試料温度エラー判定(#11,#14)を双方とも省略し、第1昇温判定部24による内部空間Vの温度上昇の判定(#05)結果のみに基づいて試料温度エラー判定を実施してもよい。
【0050】
〈4〉本発明は、アルミニウム合金溶湯に限らず、マグネシウム合金溶湯を含む種々の溶湯品質の評価に対して適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
アルミ合金などの溶湯の品質、特に、溶湯に含まれる介在物量、同介在物外径、または溶存ガス量を評価するための溶湯品質評価方法、及び、同評価に用いる溶湯品質評価装置を改良する技術として利用できる。
【符号の説明】
【0052】
S 試料溶湯
V 内部空間
1 試験チャンバー
5 圧力計(圧力検出手段)
6 熱電対
8 ルツボ(試料用ルツボ)
10 真空ポンプ(減圧手段)
20 制御装置
22 試料温度合否判定部
24 第1昇温判定部
26 基準値決定部
28 第2昇温判定部
29 成分判定部
30 初期ピーク時期評価部
30S 第1基準値格納部
30R 第1基準値決定部
32 初期ピーク高さ評価部
32R 第2基準値決定部
34 溶存ガス量判定部
36 粒子径判定部
50 溶湯品質評価装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料用ルツボを収納する試験チャンバーと、前記試験チャンバーの内部を減圧する減圧手段と、前記試験チャンバー内の圧力を検出する圧力検出手段とを用い、前記試料用ルツボに試料溶湯を採取し、前記減圧手段による減圧開始以降の、前記圧力検出手段によって検出された圧力変化パターンに基づいて、前記試料溶湯中の介在物量、同介在物外径、または溶存ガス量を判定する溶湯品質評価方法であって、
前記圧力変化パターンに含まれる前記減圧開始後から最初の圧力上昇ピーク発生までの初期時間長さ又は最初の前記圧力上昇ピークの高さに基づいて前記試料溶湯の温度条件を合否判定する試料温度エラー判定工程を有する溶湯品質評価方法。
【請求項2】
前記減圧開始後からの前記試験チャンバーの内部の雰囲気温度上昇パターンに基づいて、前記試料溶湯の品種を特定する品種判定工程と、この品種判定工程によって判定された品種に応じて、前記初期時間長さ又は前記最初の圧力上昇ピークの高さの基準値を決定する基準値決定工程とを備え、
前記試料温度エラー判定工程では、前記基準値決定工程によって決定された基準値に基づいて前記合否判定が行われる請求項1に記載の溶湯品質評価方法。
【請求項3】
前記減圧開始後からの前記試験チャンバーの内部の雰囲気温度上昇パターンに基づいて、前記試料溶湯中のSi量を判定する成分判定工程と、この成分判定工程によって判定されたSi量に応じて、前記初期時間長さ又は前記最初の圧力上昇ピークの高さの基準値を判定する基準値決定工程とを備え、
前記試料温度エラー判定工程では、前記基準値決定工程によって決定された基準値に基づいて前記合否判定が行われる請求項1または2に記載の溶湯品質評価方法。
【請求項4】
試料用ルツボを密閉状に収納する試験チャンバーと、
前記試験チャンバーの内部を減圧する減圧手段と、
前記試験チャンバー内の圧力を検出する圧力検出手段と、
前記試料用ルツボに試料溶湯を採取し、前記減圧手段による減圧開始後において、前記圧力検出手段によって検出された圧力上昇ピークから前記試料溶湯中の介在物の外径を判定する粒子径判定部、または、同減圧開始後において、前記圧力検出手段によって検出された圧力変化曲線に基づいて、前記試料溶湯中の溶存ガス量を判定する溶存ガス量判定部と、
前記減圧開始後から最初の圧力上昇ピーク発生までの初期時間長さを判定する初期ピーク時期評価部と、
前記初期ピーク時期評価部によって得られた初期時間長さを所定の基準値と比較することで、前記試料溶湯の温度条件を合否判定する試料温度合否判定部とを有する溶湯品質評価装置。
【請求項5】
前記試験チャンバーの内部の雰囲気温度を測定する温度測定手段と、
前記温度測定手段によって得られた、前記減圧開始後からの雰囲気温度上昇パターンに基づいて前記試料溶湯中のSi量を判定する成分判定部と、
前記成分判定部によって判定されたSi量に応じて、前記初期時間長さの基準値を判定する第1基準値決定部と、を有する請求項4に記載の溶湯品質評価装置。
【請求項6】
試料用ルツボを密閉状に収納する試験チャンバーと、
前記試験チャンバーの内部を減圧する減圧手段と、
前記試験チャンバー内の圧力を検出する圧力検出手段と、
前記試料用ルツボに試料溶湯を採取し、前記減圧手段による減圧開始後において、前記圧力検出手段によって検出された圧力上昇ピークから前記試料溶湯中の介在物の外径を判定する粒子径判定部、または、同減圧開始後において、前記圧力検出手段によって検出された圧力変化曲線に基づいて、前記試料溶湯中の溶存ガス量を判定する溶存ガス量判定部と、
前記減圧開始後から最初の前記圧力上昇ピークの高さを判定する初期ピーク高さ評価部と、
前記初期ピーク高さ評価部によって得られた前記最初の圧力上昇ピークの高さを所定の基準値と比較することで、前記試料溶湯の温度条件を合否判定する試料温度合否判定部とを有する溶湯品質評価装置。
【請求項7】
前記試験チャンバーの内部の雰囲気温度を測定する温度測定手段と、
前記温度測定手段によって得られた、前記減圧開始後からの雰囲気温度上昇パターンに基づいて前記試料溶湯中のSi量を判定する成分判定部と、
前記成分判定部によって判定されたSi量に応じて、前記最初の圧力上昇ピークの高さの基準値を判定する第2基準値決定部と、を有する請求項6に記載の溶湯品質評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−32178(P2012−32178A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169597(P2010−169597)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 アイシン精機株式会社 刊行物名 生産技術技報 第36巻第2号 発行年月日 平成22年3月12日
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】