説明

溶融ガラスを搬送する槽間の結合部を封止する装置

【課題】溶融ガラスを搬送する槽間の、間隙に隔てられた結合部で、搬送される溶融ガラス内にガス状含有物が生成されないようにするとともに、槽間の相対運動に順応する。
【解決手段】開口している遠位端を有する降水管20と、開口している遠位端を有する入口パイプ40とを備え、降水管20の遠位端付近の少なくとも第1部分48が、入口パイプ40と接触することなく入口パイプ内に配置され、降水管20と入口パイプ40の間には、溶融ガラス28の自由表面を雰囲気94に曝す間隙が存在している。入口パイプ40の開口遠位端から延びている降水管20の第2部分88近傍に蛇腹部54を配置し、さらに降水管20に降水管封止フランジ56を、入口パイプ40に入口封止フランジ58を結合させ、蛇腹部54、降水管封止フランジ56、および入口封止フランジ58が、雰囲気94を周囲雰囲気から分離する、気密シールを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融ガラスを搬送するための2つの槽間の移行結合部近傍における環境を制御する装置および方法に関し、特に2つの非接触導管間の拡張結合部に関する。
【背景技術】
【0002】
薄ガラスシートを成形する1つの方法として、溶融ガラスの入った容器からガラスリボンを延伸する延伸プロセスによるものが挙げられる。これは、例えばダウンドロープロセス(例えば、スロットまたはフュージョン)によって達成され得、このときリボンは、典型的には成形本体から下方に延伸される。リボンが成形されると、このリボンから個々のガラスシートが切断される。
【0003】
従来のダウンドロープロセスでは、前駆体すなわちバッチ材料を溶融炉内で溶融することにより溶融ガラスが形成される。溶融ガラスはさらに、清澄槽および攪拌槽などの種々の他の構成要素を通って流れる。溶融ガラスは最終的に成形本体に搬送され、そこで連続的なガラスリボンに成形される。リボンをその後、個々のガラスパネルすなわちガラスシートに分離してもよい。溶融ガラスを搬送系の上流部分から成形本体に移動させる装置は特に重要であり、系の様々な材料の熱膨張など、多くの要求のバランスを取ることができるものでなければならない。例えば、フュージョンタイプのダウンドロープロセスの場合、成形本体は典型的には耐火材料(セラミックなど)であり、この耐火材料はそれ以前の主に白金または白金合金製の槽とは異なる熱膨張特性を有している。このため、それ以前の系と成形本体の入口との間の接続は典型的には自由浮動性であり、これは入口導管および供給導管が直接接合されているのではなく、代わりに一方を他方の内部に直接接触することなく重ねるという意味である。しかしながら、供給導管と入口導管との間にシールを設けたいという要望がある。
【0004】
光学部品(例えば、光学レンズ)や液晶ディスプレイ基板用のガラスなど、高純度のガラス製品を製造する成形装置に溶融ガラスを搬送する送出系において、溶融ガラスを搬送するために使用される槽は、時には1600℃を超える超高温に長時間曝されることに耐え得る、耐酸化性金属で形成されることが多い。特定の白金群金属、特に白金、ロジウム、およびこれらの合金(例えば、70〜80%の白金および30〜20%のロジウムを含む合金)のような白金群金属が、この用途には理想的である。送出系は金属槽(例えば、導管)から形成されているため、典型的には堅く結合および支持され、そしてわずかなずれであっても槽に損傷を引き起こし、および/または成形プロセスを崩壊させる可能性がある。これは槽が白金を含む場合に特に当てはまり、というのも金属が高コストであると、槽をできるだけ薄くしたいという要求が増すためである。
【0005】
残念なことに、送出および/または成形装置の特定の構成要素は可動でなければならない。例えば、送出および/または成形装置の特定の構成要素は、異なる熱膨張特性を有する異なる材料からなるものである可能性がある。系または装置を加熱または冷却している間、この膨張差によって構成要素に相対運動が生じることがあり、この相対運動に順応することが必要となる。さらに1以上の構成要素を意図的に動かす可能性もある。例えば、ガラスシートを成形するフュージョンタイプのプロセスにおいて、溶融ガラスは成形本体の外側成形面上を流れるが、成形本体上の質量流量を調整するために、成形本体を時々傾斜させることがある。すなわち、送出系は、系の構成要素を損傷することなく、この動きに順応できるものでなければならない。
【0006】
送出系および/または成形装置の部分間に柔軟な非接触結合部を提供するため、第1槽が第2槽に接触しないような手法で、一方の槽の少なくとも一部を他方の層の内部に入れ子にすることが行われている。例えば、第1導管(パイプ)の端部を別の下流の導管(パイプ)の開口部内に挿入してもよく、このとき間隙が第1導管と第2導管とを隔て、そして溶融ガラスは第1導管から第2導管内へと流れる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この間隙によって、溶融ガラスには周囲雰囲気に曝される自由表面が生じる。送出系および周囲の装置に付随する大きな温度差のため、熱的に誘導された通気が溶融ガラス内にガス状含有物(ブリスター)を形成させることがあり、このガス状含有物は、成形装置に移動し、そして形成されたガラス製品内に含まれることになる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本書で説明するように、槽から槽への非接触結合部の周りに気密シールを形成し、かつ溶融ガラスの自由表面が曝される雰囲気を分離する、柔軟なバリアが提案される。この柔軟なバリアによって、結合部の一方の槽を結合部の他方の槽の位置に影響を与えることなく動かすことができ、さらにこの柔軟なバリアが、溶融ガラスの自由表面と接触している雰囲気を、周囲雰囲気から独立して調整するのを助ける。
【0009】
一実施の形態によれば、溶融ガラスを搬送する槽の間の間隙を封止する装置は、開口している遠位端を有している第1導管と、開口している遠位端を有している第2導管とを備えている。第1導管の遠位端付近のこの第1導管の少なくとも第1部分が、第2導管と接触することなく第2導管内に配置される。第2導管内の溶融ガラスの自由表面を第1雰囲気に曝す間隙が、第1導管と第2導管との間に存在している。この装置は、第2導管の開口遠位端から延びている第1導管の第2部分の近傍に配置された、柔軟なバリアをさらに備える。第1封止フランジが第1導管に結合され、かつ第2封止フランジが第2導管に結合されている。柔軟なバリア、第1封止フランジ、および第2封止フランジが、柔軟なバリアの外側近傍に存在している周囲雰囲気から第1雰囲気を分離する、気密シールを構成する。柔軟なバリアは、例えば蛇腹部でもよい。
【0010】
いくつかの実施形態において、第1および第2フランジ夫々は、内側リングと、この各内側リングに結合された外側リングとを備えている。すなわち、外側リングは内側リングの外周周りに結合される。外側リングおよび内側リングは、例えば溶接されて接合されたものでもよい。特定の実施形態においては、第1導管のフランジおよび第2導管のフランジの両方の内側リングが、白金を含む。内側リングは、白金ロジウム合金などの白金合金でもよい。第1導管および第2導管も、白金を含んでもよい。
【0011】
ガルバニック電流の発生を防ぐため、柔軟なバリアは、第1導管および第2導管から電気的に絶縁される。さらに、第1フランジまたは第2フランジのいずれか一方または両方の内側リングは非平面であって、平面に代えて凹凸部(平面からの逸脱)を有し、各フランジを曲げることによってこの凹凸部が夫々の導管の動きに適応する。
【0012】
溶融ガラスの自由表面と接触している第1雰囲気は、第2雰囲気と異なることが好ましい。例えば、この装置は、第1雰囲気の水素分圧を変化させる制御系を含んでもよい。
【0013】
柔軟なバリアは、500℃を超える温度に少なくとも2ヶ月間、著しく劣化することなく曝されることに耐え得る材料から形成することが好ましい。例えば、柔軟なバリアに適した材料は、ニッケルまたはクロムを含むステンレス鋼である。いくつかの事例において、例えば第1導管または第2導管のいずれかを、導管の一方または両方に電流を流すことによって直接加熱する場合、渦電流の発生を防ぐために柔軟なバリアは非磁性であることが好ましい。
【0014】
導管間にガルバニック電流が流れ、さらに続いて溶融ガラス内に酸素の気泡が生成されるのを防ぐため、第1導管および/または第2導管はアースと電気的に絶縁されている。
【0015】
別の実施形態において、ガラス製品を製造する方法が開示され、この方法は、溶融ガラスを生成する工程と、第1槽から第2槽に溶融ガラスを搬送する工程とを含む。このガラス製品は、例えば、後に個々のガラスシートに分離され得るガラスリボンでもよい。第1槽の少なくとも一部は、第2槽と接触することなく第2槽内に延在し、溶融ガラスの自由表面が、第1槽と第2槽との間の間隙内の第1雰囲気に曝されている。第1雰囲気は、第1槽および第2槽に連結された柔軟な金属製バリアによって周囲雰囲気から分離される。柔軟なバリアは、第1雰囲気および周囲雰囲気間の気密シールを構成する。溶融ガラスは第2槽から成形本体に流れ、ガラス製品が製造される。柔軟なバリアは、例えば蛇腹部を含んでもよい。蛇腹部は、蛇腹部の拡張および収縮の両方を可能とする、ひだを含む。柔軟なバリアは、第1槽と第2槽との間にガルバニック電流が流れるのを排除するため、第1槽および第2槽と電気的に絶縁されていることが好ましい。
【0016】
いくつかの実施形態において、溶融ガラス内に水素透過気泡が生成されるのを防ぐため、第1雰囲気内の水素分圧が制御される。特定の実施形態において、第1フランジは第1槽に結合されかつ第2フランジは第2槽に結合され、第1および第2フランジは柔軟な金属製バリアに連結されたものであり、さらに第1フランジは第2フランジと電気的に絶縁されている。
【0017】
いくつかのプロセスにおいて、第2槽を第1槽に対して動かしてもよく、かつ第2槽の動きは、柔軟な金属製バリアの伸長または圧縮を生じさせる。第1槽内を搬送される溶融ガラスの温度を制御するため、第1導管の壁に近接して配置された外部加熱素子を使用すること、または第1槽に電流を流すことなどにより、第1槽を加熱してもよい。
【0018】
第1雰囲気を第1フランジによって第2雰囲気から分離させ、かつ第2雰囲気の水素分圧も制御してもよい。いくつかの実施形態において、第2槽の少なくとも一部の周りに第3雰囲気が存在していてもよく、かつ第3雰囲気は第2雰囲気と分離される。第3雰囲気の水素分圧を、第1および第2雰囲気から独立して制御してもよい。
【0019】
多少なりとも限定する意味を含まずに添付の図面を参照して与えられる以下の説明のための記述の中で、本発明はより容易に理解されるであろうし、これの他の目的、特徴、詳細および利点はより明確に明らかになるであろう。この全ての追加のシステム、方法、特徴、および利点は、本説明に含まれ、本発明の範囲内であり、かつ添付の請求項によって保護されると意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態による例示的なフュージョンダウンドロープロセスの断面正面図
【図2】図1の装置を構成する成形本体の断面図
【図3】本発明の一実施の形態による例示的な封止装置の断面図
【図4】接続された槽の動きに順応するための凹凸部を示している、本発明の実施形態による封止フランジの断面図
【図5】図4の封止フランジの上面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の詳細な説明においては、限定ではなく説明のため、具体的詳細を開示する実施形態例を明記して本発明の完全な理解を提供する。しかしながら、本開示から利益を得る通常の当業者には、本発明がここで開示される具体的詳細とは異なる他の実施形態において実施し得ることは明らかであろう。さらに、周知の装置、方法、および材料の説明は、本発明の説明を不明瞭にしないよう省略されることがある。最後に、適用できる限り、同じ参照数字は同様の要素を示す。
【0022】
例示的なフュージョンタイプのダウンドロープロセスでは、バッチ材料(例えば、種々の金属酸化物または他の成分)が供給される溶融炉内で溶融ガラスが生成される。溶融ガラスは次に気泡を除去するよう調整されて、さらにガラスを均質化するために攪拌される。溶融ガラスはその後、上部が開口している溝をその上面に形成して備えている成形本体の入口に供給導管から供給される。溶融ガラスは溝の壁から溢れ出て、成形本体の合流外側面を流れ落ち、その後合流面が交わるラインの位置(すなわち「底部」)で、分離した流れが合流する。その位置で、分離していた流れは結合すなわち融合し、単一のガラスリボンとなって成形本体から下方に流れる。リボンのエッジに沿って設置された種々のローラが、リボンを下方に延伸すなわち牽引する役割を果たし、および/またはリボン幅を維持するのを助けるようリボンに外側への引張力を加える。いくつかのローラはモータによって回転させてもよく、これに対し他のローラは惰性で回るものでもよい。溶融炉、すなわち「溶解装置」は、典型的には耐火セラミック材料(例えば、アルミナまたはジルコン)から形成されるが、溶融ガラスを搬送および処理する下流の系の多くは、白金または白金合金(例えば、白金ロジウム)などの高耐熱金属から形成される。最後に成形本体自体も典型的には耐火性(例えば、ジルコン)である。
【0023】
ガラス製造システムの種々の構成要素の温度が(白金製の構成要素の部分を通って流れるときに溶融ガラスが徐々に冷却されることにより)様々であるだけではなく、下流の構成要素の一部は、他の部分とは異なる材料で形成され、かつ異なる熱膨張特性を有している。例えば白金製の構成要素の熱膨張特性は、成形本体の熱膨張特性とは異なる。LCDディスプレイ用途のためにガラスシートを製造する際などに要求される厳格な寸法要件に合わせてガラスシートを成形するプロセスは、安定した成形本体に頼っているため、白金製の系の動きが成形本体の位置に影響を与えないよう、成形本体はそれ以前の白金製の系とは分離されている。
【0024】
例示的なフュージョンダウンドロー装置10が図1に示され、溶解装置12、清澄器14、攪拌槽16、ボウル18、および降水管20を備えている。溶解装置12は溶解装置‐清澄器接続導管22を介して清澄器14に結合され、そして清澄器14は清澄器‐攪拌槽接続導管24を介して攪拌槽16に結合される。バッチ材料26が溶解装置12内に投入されて加熱され、粘性の溶融ガラス材料28が生成される。溶融ガラスは接続導管30を通って攪拌槽16からボウル18へと流れ、さらにボウル18から供給導管すなわち降水管20内を鉛直に流れる。
【0025】
図2から最もよく分かるように、成形本体32は溝すなわちトラフ34を画成し、かつ合流成形面36aおよび36bを含む。合流成形面36は実質的に水平の延伸ラインを形成する底部38で交わり、この延伸ラインから溶融ガラス28が延伸される。トラフ34には、成形本体32に連結された白金または白金合金製の入口パイプ40から溶融ガラス28が供給される。溶融ガラスは成形本体のトラフの壁から溢れ出て、成形本体の外表面上を分離流となって下降する。合流成形面36aおよび36b上を流れた溶融ガラスの分離流は底部38で合流し、ガラスリボン42を形成する。ガラスリボン42は、底部の下方に設置された対向しているエッジローラ44aおよび44bによって底部38から延伸され、底部から下降するときに冷却されて、粘性の溶融材料から弾性固体に変化する。
【0026】
ガラスリボン42がリボンの弾性領域において最終的な厚さおよび粘性に達すると、リボンはその弾性領域においてその幅を横切って分離され、独立したガラスシート46が生成される。溶融ガラスを成形本体に供給し続け、リボンが延長されると、リボンからさらにガラスシートが分離される。
【0027】
降水管と成形本体との間は、降水管上流の白金製の系に剛結合された降水管20と成形本体の入口パイプ40との間の結合部で接続される。差別化のため、本書では「白金製の系」という用語は、入口パイプ40の上流のガラス製造装置の白金(または白金合金)製構成要素、例えば、白金含有構成要素14、16、18、20、22、および24を意味すると解釈する。
【0028】
降水管20の動きが成形本体32の位置に影響しないようにするため、降水管と成形本体の入口パイプとの間の結合部は自由浮動である。すなわち、降水管20と入口パイプ40は直接接触していない。代わりに、降水管20の一部48が入口パイプ40内に位置するよう、降水管20は入口パイプ内に有限距離挿入される。図3に最もよく示されているが、降水管20の自由端すなわち遠位端50は、入口内部の溶融ガラス表面の平均高さより上方に位置していてもよいし、その平均高さに位置していてもよいし、あるいはその下方に位置していてもよい。すなわち、白金製の系に動きが生じた場合、降水管20はその動きを入口パイプや成形本体に伝達することなく、入口パイプ40の内部で自由に動く。同様に、成形本体外側の成形面上を流れる溶融ガラスの質量流量のバランスを保つよう成形本体を意図的に動かすことが必要となることもあるため、降水管と入口との間の結合部が自由浮動であると、入口を降水管に制約されずに(成形本体と同調して)動かすことができる。このように降水管を入口パイプから分断することによって、降水管を入口パイプから独立して動かすことが可能となる。
【0029】
降水管と入口パイプとの間に自由浮動の結合部を有しているという利点はあるが、この2つの構成要素間に気密シールが設けられていなければ、入口内部の溶融ガラスの自由表面は環境に(例えば、周囲雰囲気に)対して開放されていることになり、それにより溶融ガラスを汚染に曝すことになる。例えば、降水管と入口との結合部分に生じる熱的に生成された通気は、ガラスの温度勾配につながり得、この温度勾配によってガラス内にガス状の含有物が生じる可能性がある。入口と降水管との間のシールは、複数の目的を達成することができるものでなければならない。シールは降水管が入口や成形本体と異なる動きができるようなものであるべきであり、シール部品は昇温に耐え得るものでなければならず、シール部品間の調整可能性は維持されなければならず、溶融ガラス搬送管内の温度勾配は最小限に抑えられるべきであり、降水管は入口およびアースと電気的に絶縁されているべきであり、位置合わせ目的のために視覚的アクセスは維持されるべきであり、そして降水管、入口管アセンブリ、および一般的環境の間の気密分離が確立されるべきである。
【0030】
図3は、降水管と入口の結合部を封止する装置52の例示的な実施形態を図示している。この装置は、蛇腹部54、降水管封止フランジ56、および入口封止フランジ58を含む。この装置は、1以上の降水管蛇腹部クランプ60、1以上の入口蛇腹部クランプ62、および封止装置上またはその付近の様々な位置に配置された電気絶縁材料64をさらに備えてもよい。上記の少なくともいくつかの目的に対処する、これらおよび他の特徴については、以下でより詳細に説明する。
【0031】
図4および5は、降水管封止フランジまたは入口封止フランジのいずれかまたは両方に使用可能な、例示的な封止フランジを図示している。降水管および入口封止フランジ56、58は、サイズおよび形状は異なっていてもよいが、これらの基本材料および構造は一般的に同一である。したがって、この説明が入口封止フランジ58に同様に適用できるという理解の下で、降水管封止フランジ56について参照する。
【0032】
降水管封止フランジ56は単一の材料から形成してもよい。しかしながら、図4に示すように、降水管封止フランジ56は、白金または白金合金(例えば、白金ロジウム)から形成された内側リング66を備えることが好ましい。内側リング66は高価な金属(すなわち貴金属)から形成されるため、内側リングの厚さはその封止機能を果たすのに十分な程度に厚いものであるべきであるが、同時にこれが取り付けられている槽(例えば、パイプ)の動きに適応するに足りる柔軟性を確実にする程度に薄いものであるべきである。内側リング66の厚さは、例えば、約0.0254cmから0.0762cmの間でもよい。内側リング66は、内側リング内側の切欠き68と、周辺部分70とをさらに画成する。内側リング66は、例えば環状形状を有していてもよい。降水管20は切欠き68を貫通し、そしてリングの内側エッジ72に沿って溶接などにより内側リング66に結合される。降水管封止フランジ56は、クロム、ニッケル、およびアルミニウムを含む金属のような、高耐熱金属で形成された外側リング74をさらに備える。例えば、Haynes214は外側リング74に適していることが分かっている。しかしながら、外側リングが受ける高温(例えば、約500℃超)において長時間に亘り十分酸化に耐え得るという条件で、他の材料を使用することもできる。内側リング66は、内側リング66と略同心である外側リング74と、内側リング66の周辺部分70に沿って結合される。降水管封止フランジ56はさらに、降水管20の少なくとも一部を包囲している降水管ケーシング76に、外側リングのボルト孔78からボルトで結合することなどによって結合される。降水管ケーシング76は、例えば鋼で形成してもよい。電気絶縁材料64が降水管封止フランジ56と降水管ケーシング76との間に位置付けられ、降水管と降水管ケーシングとの間、および降水管封止フランジとアースとの間に、電気的分離を提供する。例えば、Zircar Refractory Composites, Inc.によって製造されたRS−100は、電気絶縁体に適していることが分かっている。しかしながら、適切な高温耐性および高誘電性を示すという条件で、他の電気絶縁材料を使用してもよい。構成要素(例えば、降水管封止フランジ56)を固定するボルトは、接続しているボルトが電気回路を完成しないように、例えば絶縁ブッシングを含んでもよい。降水管20を、降水管ケーシング76、入口パイプ40、およびアースから電気的に絶縁するよう、電気絶縁材料64を必要に応じて設けてもよい。
【0033】
熱膨張による降水管20と降水管ケーシング76との間の動きに適応するため、内側リング66はその断面を横切って波状部分すなわち凹凸部80を含むことが好ましく、これにより各構成要素はフランジに過度の応力を生じさせることなく動かすことができる。図3および4に示されている凹凸部は、概して葱花線(ogee)状である。しかしながら異なる種類(形状)の凹凸部を採用することもできる。
【0034】
降水管封止フランジ56と同様に、入口封止フランジ58は内側リング82と外側リング84とを備えていることが好ましい。内側リング82は白金または白金合金(例えば、白金ロジウム)などの高耐熱金属で形成することが好ましい。外側リング84は、Haynes214など、低酸化電位のより費用のかからない耐熱金属で形成してもよい。内側リング82は入口パイプ40の外側外周に溶接などによって結合され、そして外側リング84は入口パイプケーシングの一部、例えば入口ケーシング部材86に連結される。入口封止フランジ58は入口ケーシング部材86と電気的に分離(絶縁)されている。
【0035】
図3に示すように、降水管封止フランジ56が降水管20に結合され、かつ入口封止フランジ58が入口パイプ40に結合された状態であっても、入口40の端部すなわち口90から延びている降水管20の一部88や入口パイプ40内の溶融ガラス28の自由表面92は、周囲雰囲気に曝されたままとなる。
【0036】
上述したように、封止装置52は蛇腹部54をさらに備え、この蛇腹部54は、著しい酸化や他の浸食なしに降水管‐入口結合部分での高温に耐え得る材料から形成される。例えば、蛇腹部54はステンレス鋼で形成することができる。蛇腹部54の第1端部は1以上のクランプ60を介して降水管ケーシング76に取外し可能に取り付けられ、このクランプ60は、降水管ケーシング76にボルトで結合され、かつ蛇腹部を降水管ケーシングに固定する。同様に、蛇腹部54の反対側の第2端部は、1以上のクランプ部材62を介して入口ケーシング部材86に連結される。クランプ部材62は、例えばボルトによって固定してもよい。上述したように、これらのボルトは、接続しているボルトが電気回路を完成しないように、例えば絶縁ブッシングを含んでもよい。
【0037】
蛇腹部54は、ガラス製造システムの操作準備ができた状態(例えば、蛇腹部54の両端部が夫々降水管および入口ケーシングにクランプされた状態)にあるときに、蛇腹部54が張っている(強く拡張または伸長されている)ように導入することが好ましい。すなわち、この伸長された状態で蛇腹部がいずれかの端部で開放される(固定しているクランプが取り外される)と、蛇腹部が長手方向に収縮し、蛇腹部の内部領域の点検が可能となることが好ましい。蛇腹部の内部への視覚的アクセスを用いて、入口パイプ内での降水管の半径方向および/または長手方向の位置決めを助けることができる。
【0038】
降水管20および入口パイプ40と同様に、蛇腹部54を降水管ケーシング76、入口ケーシング部材86、およびアースから電気的に絶縁するよう、電気絶縁材料64がさらに設置される。すなわち、蛇腹部54、降水管20、入口40、降水管ケーシング部材76、入口ケーシング部材86、およびアースは、全て互いに電気的に絶縁される。電気絶縁材料64の位置決めは、封止装置の構成要素の具体的設計、およびこれらの結合方法に当然のことながら依存する。
【0039】
降水管封止フランジ56と入口封止フランジ58との間の降水管部分88を通って流れている溶融ガラス内に水素透過ブリスターが形成されるのを防ぐため、参照数字94で表される、降水管部分88に接触している雰囲気を制御してもよい。外部環境(蛇腹部内部領域内の雰囲気など)内の水素分圧が白金(または白金合金)製の槽を流れている溶融ガラス内の水素分圧よりも低いとき、水素透過ブリスターが生じる。溶融ガラスが高温になると溶融ガラス内のOH基が切り離され得、そして白金の境界を隔てた水素分圧の差によって水素が境界を浸透し、残された酸素が溶融ガラス内に気泡を形成する。蛇腹部領域内に水分を導入して露点を制御するなどして、蛇腹部内部領域94の水素分圧を制御することにより、水素透過ブリスターを防ぐことができる。例えば、1以上の弁および関連するパイプ(図示なし)を通して内部領域94に水蒸気を導入し、内部領域内の雰囲気の露点を調整することができる。内部雰囲気の露点を制御して、いわゆる水素透過ブリスターの形成を防ぐことができる。当然のことながら、水素ガス、メタン、または他の水素源を導入するなど、蛇腹部内部領域94内の水素分圧を制御する他の方法を使用することもできる。しかしながら、多くの水素化合物は爆発の危険を呈し、そして水蒸気は安全な代用品となることが既に示されている。
【0040】
特定の実施形態において、蛇腹部からの熱損失を防ぐため、蛇腹部内部領域内に断熱材料(図示なし)を設けてもよい。例えば、耐火性(例えば、セラミック)ブランケット(図示なし)を蛇腹部の内部に設けてもよい。このような耐火性の断熱ブランケットは市販されている。
【0041】
ほとんどのガラス製造装置10と同様に、降水管20および入口パイプ40は耐火断熱材により断熱されている。例えば、この耐火断熱材は、耐火ブロック96の形を取ったものでもよい。他の実施形態において、降水管および入口パイプを包囲している耐火材料はキャスタブル耐火物でもよい。さらに、降水管20および入口40は夫々、加熱部材98、100でもよい。熱電対102および104を用いて、夫々降水管および入口パイプの温度を監視してもよい。フィードバック系を用いて、熱電対からの温度由来の電気信号を、加熱部材の電気出力を調整する温度調整コントローラと関連付けてもよい。
【0042】
いくつかの実施形態において、降水管ケーシング76内部の雰囲気を、蛇腹部54の内部領域と同様の手法で制御してもよい。すなわち、水素含有成分を、水素含有ガスを用いるなどして直接的に、あるいは水蒸気を介して間接的に、矢印106で示すように導入することによって、ケーシング内部の水素分圧を制御してもよい。さらに、入口パイプ40、および入口パイプを包囲している耐火ブロック96を、第2入口ケーシング108によって包囲してもよい。耐火ブロック96は典型的には多孔性であるため、ケーシング108の内部の参照数字110で表される第3雰囲気は、蛇腹部54に包囲されている領域内部および降水管領域内の、第1および第2の雰囲気と同様に制御してもよい。すなわち、第3雰囲気内の水素分圧は、第1および第2雰囲気94および89から独立して制御してもよい。
【0043】
限定するものではないが、本書において説明する例示的な実施形態を以下に示す。
【0044】
C1.溶融ガラスを搬送する槽の間の間隙を封止する装置において、開口している遠位端を有している第1導管、開口している遠位端を有している第2導管であって、第1導管の遠位端付近のこの第1導管の少なくとも第1部分が、第2導管と接触することなく第2導管内に配置され、第2導管内の溶融ガラスの自由表面を第1雰囲気に曝す間隙が第1導管と第2導管との間に存在している、この第2導管、第2導管の開口遠位端から延びている第1導管の第2部分近傍に配置された、柔軟なバリア、第1導管に結合された第1封止フランジ、第2導管に結合された第2封止フランジ、を備え、さらに、柔軟なバリア、第1封止フランジ、および第2封止フランジが、第1雰囲気を周囲雰囲気から分離する、気密シールを構成することを特徴とする装置。
【0045】
C2.柔軟なバリアが蛇腹部であることを特徴とするC1記載の装置。
【0046】
C3.第1および第2フランジ夫々が、内側リングと、この各内側リングに結合された外側リングとを備えていることを特徴とするC1またはC2記載の装置。
【0047】
C4.第1導管のフランジおよび第2導管のフランジの両方の内側リングが、白金を含むことを特徴とするC3記載の装置。
【0048】
C5.第1フランジの内側リングが非平面であることを特徴とするC3またはC4記載の装置。
【0049】
C6.第1導管および第2導管が白金を含むことを特徴とするC1からC5いずれか1項記載の装置。
【0050】
C7.柔軟なバリアが、第1および第2導管と電気的に絶縁されていることを特徴とするC1からC6いずれか1項記載の装置。
【0051】
C8.第1雰囲気が第2雰囲気と異なることを特徴とするC1からC7いずれか1項記載の装置。
【0052】
C9.第2導管の位置が、第1導管の位置を変化させることなく変化可能であることを特徴とするC1からC8いずれか1項記載の装置。
【0053】
C10.柔軟なバリアがニッケルまたはクロムを含むことを特徴とするC1からC9いずれか1項記載の装置。
【0054】
C11.柔軟なバリアが非磁性であることを特徴とするC1からC10いずれか1項記載の装置。
【0055】
C12.第1および第2導管が、アースと電気的に絶縁されていることを特徴とするC1からC11いずれか1項記載の装置。
【0056】
C13.ガラス製品を製造する方法において、溶融ガラスを生成する工程、第1槽から第2槽に溶融ガラスを搬送する工程であって、このとき第1槽の少なくとも一部が、第2槽と接触することなく第2槽内に延在し、溶融ガラスの自由表面が第1槽と第2槽との間の間隙内の第1雰囲気に曝されている、この工程、を備え、第1雰囲気および周囲雰囲気間の気密シールを構成する、第1槽および第2槽に連結された柔軟な金属製バリアによって、第1雰囲気が周囲雰囲気から分離され、さらに、第2槽から成形本体に溶融ガラスを流してガラス製品を製造する工程を含むことを特徴とする方法。
【0057】
C14.柔軟なバリアが蛇腹部を含むことを特徴とするC13記載の方法。
【0058】
C15.柔軟なバリアが、第1および第2槽と電気的に絶縁されていることを特徴とするC13またはC14記載の方法。
【0059】
C16.第1雰囲気内の水素分圧を制御する工程をさらに含むことを特徴とするC13からC15いずれか1項記載の方法。
【0060】
C17.第1フランジが第1槽に結合されかつ第2フランジが第2槽に結合され、第1および第2フランジが柔軟な金属製バリアに連結されたものであり、さらにこのとき第1フランジが第2フランジと電気的に絶縁されていることを特徴とするC13からC16いずれか1項記載の方法。
【0061】
C18.第2槽を第1槽に対して動かす工程をさらに備え、かつ第2槽の動きが、柔軟な金属製バリアの伸長または圧縮を生じさせることを特徴とするC13からC17いずれか1項記載の方法。
【0062】
C19.第1槽に電流を流すことによって第1槽を加熱する工程をさらに含むことを特徴とするC13からC18いずれか1項記載の方法。
【0063】
C20.ガラス製品がガラスリボンであることを特徴とするC13からC19いずれか1項記載の方法。
【0064】
上述した本発明の実施形態、特に任意の「好ましい」実施形態は、単に実施可能な例であって、本発明の原理を明確に理解するための単なる説明であることを強調したい。本発明の精神および原理から実質的に逸脱することなく、上述の本発明の実施形態に対して多くの変形および改変を作製することができる。全てのこのような改変および変形は、本書において本開示および本発明の範囲内に含まれ、そして以下の請求項によって保護されると意図されている。
【符号の説明】
【0065】
20 降水管
28 溶融ガラス
40 入口パイプ
52 封止装置
54 蛇腹部
56 降水管封止フランジ
58 入口封止フランジ
64 絶縁材料
66 内側リング
74 外側リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ガラスを搬送する槽の間の間隙を封止する装置において、
開口している遠位端を有している第1導管、
開口している遠位端を有している第2導管であって、前記第1導管の遠位端付近の該第1導管の少なくとも第1部分が、前記第2導管と接触することなく前記第2導管内に配置され、前記第2導管内の溶融ガラスの自由表面を第1雰囲気に曝す間隙が前記第1導管と前記第2導管との間に存在している、該第2導管、
前記第2導管の開口遠位端から延びている前記第1導管の第2部分近傍に配置された、柔軟なバリア、
前記第1導管に結合された第1封止フランジ、
前記第2導管に結合された第2封止フランジ、を備え、さらに、
前記柔軟なバリア、前記第1封止フランジ、および前記第2封止フランジが、前記第1雰囲気を周囲雰囲気から分離する、気密シールを構成することを特徴とする装置。
【請求項2】
前記第1および第2フランジ夫々が、内側リングと、該各内側リングに結合された外側リングとを備えていることを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記第1フランジの前記内側リングが非平面であることを特徴とする請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記柔軟なバリアが、前記第1および第2導管と電気的に絶縁されていることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の装置。
【請求項5】
前記第1および第2導管が、アースと電気的に絶縁されていることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の装置。
【請求項6】
ガラス製品を製造する方法において、
溶融ガラスを生成する工程、
第1槽から第2槽に前記溶融ガラスを搬送する工程であって、このとき前記第1槽の少なくとも一部が、前記第2槽と接触することなく前記第2槽内に延在し、前記溶融ガラスの自由表面が前記第1槽と第2槽との間の間隙内の第1雰囲気に曝されている、該工程、を備え、
前記第1雰囲気および周囲雰囲気間の気密シールを構成する、前記第1槽および第2槽に連結された柔軟な金属製バリアによって、前記第1雰囲気が前記周囲雰囲気から分離され、さらに、
前記第2槽から成形本体に前記溶融ガラスを流してガラス製品を製造する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
前記柔軟なバリアが、前記第1および第2槽と電気的に絶縁されていることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記第1雰囲気内の水素分圧を制御する工程をさらに含むことを特徴とする請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
第1フランジが前記第1槽に結合されかつ第2フランジが前記第2槽に結合され、該第1および第2フランジが前記柔軟な金属製バリアに連結されたものであり、さらにこのとき前記第1フランジが前記第2フランジと電気的に絶縁されていることを特徴とする請求項6から8いずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記第1槽に電流を流すことによって前記第1槽を加熱する工程をさらに含むことを特徴とする請求項6から9いずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−168482(P2011−168482A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−35521(P2011−35521)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【復代理人】
【識別番号】100116540
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 香
【復代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋