説明

溶融亜鉛めっき鋼材の高力ボルト摩擦接合部に対するりん酸塩処理方法及びそれに使用する塗布具

【課題】溶融亜鉛めっき鋼材の高力ボルト摩擦接合部に対して、簡易、迅速、経済的にりん酸塩処理する方法及びそれに使用する塗布具を提供する。
【解決手段】りん酸塩処理用塗布具(20)は、頭部(21)と把手(22)からなる。前記頭部(21)は、平面板(24)と、その平面板(24)の中央から突出する中央突起(23)からなり、前記平面板(24)に塗布面(25)が取り付けられている。この塗布具(20)の中央突起(23)を前記ボルト孔(15)に挿入して、前記平面板上の塗布面(25)で前記ボルト孔(15)の周辺にリング状に塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛めっき鋼材の溶融亜鉛めっき高力ボルト摩擦接合部に対して、りん酸塩処理する方法及びそれに使用する塗布具に関する。本方法は、例えば、建築工事などにおいて使用される。
【背景技術】
【0002】
日本建築学会の建築工事標準仕様書・同解説JASS6鉄骨工事においては、摩擦面にブラスト以外の特別な処理を施す場合は、すべり耐力試験を実施し、すべり荷重が設計すべり耐力の1.2倍以上であることが要求されている。
【0003】
このすべり荷重を得るため、下記特許文献1では、母材および添接板のうち少なくとも片方の接合面に対してりん酸塩処理を施すことを提案している。下記特許文献2では、そのための塗布具を提案している。この塗布具は、後部にタンクを付けたハケのようなものであり、ハケの先端塗布部にフェルトを取り付けている。
【特許文献1】特開平4−327006号明細書
【特許文献2】実開平7−2465号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハケのような塗布具を使用してりん酸塩処理する場合、次のような欠点があることが知られている。第一に、大量に処理しなければならないので、一つ一つにあまり時間はかけられない。しかし、ハケを素早く直線的に動かすのは難しい。そのため、処理個所が見苦しくなって、鋼材に対する見た目の印象が悪くなる。第二に、高力ボルト摩擦接合部を含め、かなり広範囲に塗布せざるを得なくなり、塗布液を必要以上に使用するので不経済である。
【0005】
本発明は、この従来技術の問題点に鑑みて行なわれたもので、溶融亜鉛めっき鋼材の高力ボルト摩擦接合部に対して、簡易、迅速、経済的にりん酸塩処理する方法及びそれに使用する塗布具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のりん酸塩処理用塗布具は、頭部と把手からなり、前記頭部は、平面板と、その平面板の中央から突出する中央突起部からなり、前記平面板に塗布面が取り付けられていることを特徴とする。
【0007】
本発明の方法は、溶融亜鉛めっき鋼材の高力ボルト摩擦接合部における母材および添接板のうち少なくとも片方の高力ボルト摩擦接合部のボルト孔に対してりん酸塩処理を施すりん酸塩処理方法であって、前記塗布具の中央突起部を前記ボルト孔に挿入して、前記平面板上の塗布面で前記ボルト孔の周辺にリング状に塗布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塗布具は、頭部と把手からなり、前記頭部は、平面板と、その平面板の中央から突出する中央突起部からなり、前記平面板に塗布面が取り付けられているだけの簡単な構造であり、安価に生産することができる。
【0009】
それにもかかわらず、この塗布具を使用すれば、誰でも熟練を要することなく、ボルト孔の周辺にリング状に正確に美しく処理液を塗布することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
りん酸塩処理は鉄鋼、亜鉛、溶融亜鉛めっきなどに対する工業的塗装下地法として業界ではよく知られている工法である。例えば、溶融亜鉛めっきに対するりん酸塩処理は典型的には次のように行なわれる。
【0011】
めっき直後の汚れのない溶融亜鉛めっき鋼の場合、ファインクリーナー(アルカリ度17−21ポイント)により55−65℃で5−10分間脱脂する。その後、常温において浄水で水洗し、プレパレンZ(日本パーカライジング株式会社の商標)により、30−40℃で10−20秒間表面調整をする。その後、例えば、りん酸亜鉛系のパルボンド(日本パーカライジング株式会社の商標)(全酸度17−23ポイント、遊離酸度1−3ポイント)により、60−75℃で3−5分間りん酸塩処理する。その後、70℃以上の湯水により湯洗の上、乾燥させて製品とする。
【0012】
めっき後長時間経過して汚れのある溶融亜鉛めっき鋼の場合には、前記方法において水洗工程と表面調整工程の間で、酸洗工程と水洗工程を加える。酸洗は1−3.5%の混合酸に常温で20−120秒間処理する。水洗は常温で浄水により行なう。
【0013】
りん酸塩処理には浸漬法と塗布法があるが、本発明のように塗布法で使用する場合、摩擦接合面から処理液が流れ出さないように、粘液剤を添加しておくことが好ましい。そのようなりん酸塩処理液としては、例えば本出願人の製造販売に係る「OMZP−2」(登録商標)を使用することができる。
【0014】
本発明で使用するりん酸塩処理用塗布具は、少なくとも頭部と把手からなる。そのほか、処理液貯蔵用の小型タンクを付加し、塗布面に徐々に処理液を供給することもできる。
【0015】
前記頭部は、平面板と、その平面板の中央から突出する中央突起部からなる。平面板としては、例えば円板や多角形板を使用することができる。
【0016】
中央突起の直径は、ボルト孔径より2〜3mm小さいものが挿入の容易さという点で好ましい。ボルト孔径には数種類あるので、それらに適合できるように、予め数種類(例えば4種類)用意としておくことが好ましい。しかし、ボルト孔径の最も小さいものに適合するりん酸塩処理用塗布具1種類であっても、他のボルト孔径に対し、孔円周面に沿って回転させてリング状に塗布することにより対処することができる。
【0017】
このうち、中央突起、平面板、把手は、合成樹脂で一体成形するのが好ましいが、それぞれの部品をねじ込みなどにより組み立ててもよい。
【0018】
前記平面板に塗布面が取り付けられている。塗布面はスポンジ、フェルト、ブラシ状の植毛など、液体をある程度保持できるものであればどのようなものでもよい。塗布面は、接着剤で平面板に取り付けるのが簡単であるが、植毛等の場合には多数の毛状体が植え込まれる。
【実施例1】
【0019】
以下、添付の図面に基づき、本発明の実施例を説明する。図1は、りん酸亜鉛処理を施す大型構造物の高力ボルト接合部の断面を示す。2つの母材10,11を突き合わせ、その連結部の表裏にまたがって添接板12,13を接合し、それらを高力ボルト14で締結したものである。
【0020】
図2は母材10,11の端部を示す斜視図である。ボルト孔15が数カ所開けられている。このボルト孔15の周辺に符号16で示すようにリング状にりん酸亜鉛処理が施されている。
【0021】
図3は、そのために使用する塗布具20の斜視図である。この塗布具は、頭部21と把手22からなる。頭部21は、平面円板24と、その平面円板の中央から突出する中央突起23からなる。この平面円板24に塗布面25が取り付けられている。
【0022】
塗布面25は、スポンジであり、単に、中央突起23の部分を円形に切り抜いて、平面円板24に接着剤などで接合したものである。
【0023】
図4は、塗布具20の使用方法を示す断面図である。塗布具20の中央突起23を前記ボルト孔15に挿入して、前記平面円板24上の塗布面25で前記ボルト孔15の周辺に塗布する。「塗布」といっても、1〜3回ボルト孔15の周辺に塗布面25に押し付けるだけである。必要ならその後で、握った把手を左右に振るように回転させてもよい。このようにして、図2に符号16で示すように、りん酸処理液がボルト孔15の周辺にリング状に塗布される。
<効果確認実験>
【0024】
溶融亜鉛めっき鋼材の高力ボルト摩擦接合部における母材および添接板のうち少なくとも片方の高力ボルト摩擦接合部のボルト孔に対してりん酸塩処理を施す実験を行い、すべり耐力比を調べた。
【0025】
結果は表1及び2に示すとおりである。
【0026】
表1では、母材の高力ボルト摩擦接合部のボルト孔に対しては塗布法で、添接板に対しては浸漬法でりん酸塩処理を施した。
【表1】

【0027】
表2では、母材と添接板双方の高力ボルト摩擦接合部のボルト孔に対していずれも塗布法でりん酸塩処理を施した。
【表2】

【0028】
設計すべり耐力=設計ボルト張力×0.4×摩擦面数×ボルト本数
M16 85.4×0.4×2×2 =137
M20 133×0.4×2×2 =213
M22 165×0.4×2×2 =264
M24 192×0.4×2×2 =307
【0029】
すべり耐力比1.2以上が合格であり、本発明の方法を施した鋼材はすべて合格した。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】りん酸亜鉛処理を施す大型構造物の高力ボルト接合部の断面を示す。
【図2】母材10,11の端部を示す斜視図である。
【図3】りん酸亜鉛処理に使用する塗布具20の斜視図である。
【図4】塗布具20の使用方法を示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
10,11 母材
12,13 添接板
14 高力ボルト
15 ボルト孔
16 りん酸塩処理を施した個所
20 りん酸塩処理用塗布具
21 頭部
22 把手
23 中央突起
24 平面板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部(21)と把手(22)からなり、前記頭部(21)は、平面板(24)と、その平面板(24)の中央から突出する中央突起(23)からなり、前記平面板(24)に塗布面(25)が取り付けられていることを特徴とするりん酸塩処理用塗布具(20)。
【請求項2】
溶融亜鉛めっき鋼材の高力ボルト摩擦接合部における母材(10,11)および添接板(13)のうち少なくとも片方の高力ボルト摩擦接合部のボルト孔(15)に対してりん酸塩処理を施す方法であって、
請求項1に記載した塗布具(20)の中央突起(23)を前記ボルト孔(15)に挿入して、前記平面板上の塗布面(25)で前記ボルト孔(15)の周辺にリング状に塗布することを特徴とする、
溶融亜鉛めっき鋼材の高力ボルト摩擦接合部に対するりん酸塩処理方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部(21)と把手(22)からなり、前記頭部(21)は、平面板(24)と、その平面板(24)の中央から突出する中央突起(23)からなり、前記平面板(24)に塗布面(25)が取り付けられていることを特徴とするりん酸塩処理用塗布具(20)。
【請求項2】
溶融亜鉛めっき鋼材の高力ボルト摩擦接合部における母材(10,11)および添接板(13)のうち少なくとも片方の高力ボルト摩擦接合部のボルト孔(15)に対してりん酸塩処理を施す方法であって、
請求項1に記載した塗布具(20)の平面板(24)上の塗布面(25)にりん酸塩処理液を供給し、この塗布具(20)の中央突起(23)を前記ボルト孔(15)に挿入して、前記塗布面(25)上のりん酸塩処理液を前記ボルト孔(15)の周辺にリング状に塗布することを特徴とする、
溶融亜鉛めっき鋼材の高力ボルト摩擦接合部に対するりん酸塩処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−37144(P2006−37144A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216183(P2004−216183)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(591113895)オーエム工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】