説明

溶融処理方法及びその装置

【課題】放射性物質8と鉄鋼系金属9とを効率的に分離することができるとともに、安全性を向上することができる放射性汚染金属の溶融処理装置及びその処理方法を提供する。
【解決手段】放射性物質8で汚染された放射性汚染金属である核燃料棒2から鉄鋼系金属9と放射性物質8とを溶融炉15内で分離するための放射性汚染金属の溶融処理方法であって、核燃料棒2を破砕し、破砕された混在廃棄物cを前記溶融炉15で加熱し浮揚させ、前記溶融炉15内で分離された溶融金属21を鋳型22へ出湯することとした。混在廃棄物cが溶け落ち後、出湯前に加熱量を小さくし、溶湯23の表面に放射性物質8を固化したスラグ20を形成し、溶融金属21のみを出湯する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力関連施設から発生するウランやプルトニウムなどの放射性物質を含む炭素鋼やステンレスなどの放射性汚染金属から放射性物質を除去する溶融処理装置及びその処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力関連施設からは、ウランやプルトニウムなどの放射性物質に汚染された放射性汚染金属が発生する。これら廃棄物の内、汚染濃度が高いものについては、地中深くに設けた保管施設に保管する深地層処分が想定されているが、その処分費用は莫大なものとなる。このため、これら汚染された放射性汚染金属から放射性物質を除去する、いわゆる除染を行い、廃棄物の汚染濃度を規制除外レベルまで下げてから別途処理することによりコストの削減を図っている。さらに、除染された廃棄物は、ドラム缶等に詰められて保管されることになるが、保管施設の容積には限りがあるため、このような汚染された放射性汚染金属を放射性物質と金属とに分離し、放射性物質を大幅に減容化している。
【0003】
このような汚染された放射性汚染金属を放射性物質と金属とに分離する方法として、放射性物質で汚染された金属にカルシア、シリカ、アルミナなどのスラグ材を添加して加熱溶融し、放射性物質を酸化物として金属成分から分離して回収することが行われている。また、この方法を改良したものとして、放射性物質で汚染した金属に塩基性無機酸化物と酸性無機酸化物とからなるスラグ材を添加して加熱溶融し、前記放射性物質をスラグ中に包含させる放射性汚染金属の溶融除染方法において、前記酸性無機酸化物がケイ酸であり、且つ塩基度が1から2の間にある組成の塩基性無機酸化物を用いる方法が開示されている(例えば特許文献1)。このスラグ材を用いる除染方法により、金属成分と放射性物質とを分離することができ、ある程度の減容効果が得られるとともに有害物質を安定化させ、さらに固化体の均質化を図ることが可能となった。
【0004】
ところが、このような処理方法は、スラグ中に酸化ウランなどとして放射性物質を閉じ込めて分離するものであるので、十分な量のスラグ材を添加する必要があり、ウランを含有するスラグ材の量もある程度の量とならざるを得ない。そして、このウランを含有するスラグは高レベルの放射線を帯びた廃棄物と同様の取り扱いが必要となるため、このスラグが二次廃棄物となる上に、分離した金属成分の処理も必要となるため、結果として十分な減容化が図られていないのが現状であった。
【0005】
ところで、放射性物質に汚染された放射性汚染金属の代表的なものとして「ハル」がある。このハルとは、被覆管に充填されて棒状体として収納された使用済み核燃料棒を処理する際に、被覆管ごと切断することによって発生する被覆管廃棄物のことである。この被覆管として通常の原子炉ではジルコニウム合金などが用いられているが、高速増殖炉等ではこれに代わって鉄鋼系金属材料としてのSUS316系ステンレス鋼が使用されている。破砕された後のハルは、磁気選別等により金属片と核燃料とに分離され、金属片は放射性廃棄物として処分され、核燃料は再処理を施されてあらたな核燃料として利用される。しかし、金属片は磁気選別等で分離し切れなかった核燃料が含まれることから、放射性汚染金属としての廃棄を困難にするとともに燃料回収率の向上を妨げる。
【0006】
このような問題点を解決するものとして、放射性物質で汚染された放射性汚染金属から鉄鋼系金属と放射性物質とを分離するための方法であって、前記放射性汚染金属を溶融してこの放射性物質を酸化物として分離する方法が開示されている(例えば特許文献2)。この処理方法によれば、スラグ材を用いることなく、鉄鋼系の金属成分と放射性物質とを分離することができるので、分離された放射性物質は非常に少量でしかもスラグ材が含まれていないので、そのまま再処理して利用することができる。また、鉄鋼系の金属成分については、残存ウラン量が非常に低くなっているので、廃棄物としての廃棄方法や管理が簡便であり、また、場合によっては資源としての再利用を図ることもできるものである。
【特許文献1】特公平5−31759号公報
【特許文献2】特開2004−239693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら上記した特許文献2によっても、分離した放射性物質と鉄鋼系金属とは異層として形成されるものの、共存した固化体として回収されるため、それらの分離工程が複雑となる。すなわち、分離された放射性物質と鉄鋼系金属とは異層ではあるものの単一の塊として取り出され、塊の放射性物質を構成する部分を削るなど、機械的手段によって鉄鋼系金属と放射性物質とを分離する必要があるため、工数がかかり、また、汚染物質に触れる機会が増え、安全上の問題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記した問題点に鑑みなされたもので、放射性物質と金属とを効率的に分離することができるとともに、安全性を向上することができる溶融処理方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、破砕された放射性汚染金属を溶融炉に投入し、前記溶融炉で前記放射性汚染金属を浮揚させながら加熱して溶湯を形成し、前記溶湯に含まれる放射性物質を前記溶融炉内に残留させたまま分離された溶融金属を出湯することとした。
【0010】
また、請求項2に係る発明は、前記放射性汚染金属が溶解した後、加熱量を小さくして前記溶湯の表面に前記放射性物質を固化させたスラグを形成し、前記溶融金属を出湯することとした。
【0011】
また、請求項3に係る発明は、出湯する前に加熱量を小さくして前記溶湯と前記溶融炉の炉壁との間にスカル層を形成することとした。
【0012】
また、請求項4に係る発明は、前記溶融金属を出湯後、前記溶融炉内へ除去用杆を挿入し、前記除去用杆で前記溶融炉内に残留した前記放射性物質を除去することとした。
【0013】
また、請求項5に係る発明は、前記炉壁を覆う内容器を備えた溶融炉を使用し、前記内容器ごと前記溶融炉に残留した放射性物質を除去することとした。
【0014】
また、請求項6に係る発明は、前記溶融炉内の出湯口近傍を覆う底カバーを備えた溶融炉を使用し、前記底カバーごと前記溶融炉に残留した放射性物質を除去することとした。
【0015】
また、請求項7に係る発明は、溶融炉内に投入された放射性汚染金属を加熱し溶湯を形成する加熱コイルと、前記溶湯を浮揚させる浮揚コイルとを備え、前記溶融炉内で分離された前記溶融金属を出湯する出湯口を前記溶融炉に設けたことを特徴とする。
【0016】
また、請求項8に係る発明は、前記出湯口は、外側から挿入された除去用杆によって前記溶融炉内に形成された残留物を除去可能に設けられていることを特徴とする。
【0017】
また、請求項9に係る発明は、前記溶融炉内には、前記溶融炉の炉壁を覆う内容器が着脱可能に設けられていることを特徴とする。
【0018】
また、請求項10に係る発明は、前記溶融炉内には、前記出湯口近傍を覆う底カバーが着脱可能に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の請求項1又は7に記載の発明によれば、放射性物質と金属とを効率的に分離することができるとともに、安全性を向上することができる。
【0020】
また、請求項2に記載の発明によれば、放射性物質をスラグとして溶湯の表面に固化させることにより、溶融したスラグが金属と共に出湯されるのを防いで、多くの放射性物質を溶融炉内に残留させることができ、より効率的に放射性物質を回収することができる。
【0021】
また、請求項3に記載の発明によれば、均一にスカル層を形成することができ、これにより均一に鋳型等へ出湯することができる。
【0022】
また、請求項4又は8に記載の発明によれば、除去用杆を出湯口から溶融炉へ挿入するだけで、容易に溶融炉に形成された残留物を除去することができる。
【0023】
また、請求項5又は9に記載の発明によれば、溶融処理の際、溶融炉を傷めることなく、しかも放射性物質が金属と共に出湯されるのを防いで、より確実に溶融炉内に放射性物質を残留させることができる。また、内容器は溶融炉の炉壁を覆うので、出湯後、内容器を溶融炉から取り除くことによって、溶融炉に放射性物質を残さずに放射性物質を回収することができる。
【0024】
また、請求項6又は10に記載の発明によれば、溶融処理の際、溶融炉を傷めることなく、しかも放射性物質が金属とともに出湯されるのを防いで、確実に溶融炉内に放射性物質を残留させることができる。また、底カバーは内容器に比べ小型化できるので二次的廃棄物を少なくすることができる。また、底カバーは出湯口近傍を覆うので、出湯後、底カバーを溶融炉から取り除くことによって、溶融炉から確実に放射性物質を回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0026】
(第1実施形態)
放射性汚染金属を処理する本発明の構成について、SUS316系ステンレス製の放射性汚染金属であるハルから放射性物質であるウランを除染、回収する場合を例に説明する。尚、後述する燃料棒は、SUS316系ステンレスからなる被覆管に使用済核燃料を収納した状態で保管されているものである。図1に示す放射性汚染金属の処理システム1は、前記燃料棒2を被覆管3ごと機械的に破砕する機械式破砕装置4と、破砕された廃棄物aを使用済核燃料6のみからなる廃棄物bと、被覆管3の破砕片であるハル5及び使用済核燃料6が混在した混在廃棄物cとに分別する磁気分離装置7と、混在廃棄物cを放射性物質8と金属としての鉄鋼系金属9とに分離する放射性汚染金属の溶融処理装置(以下、溶融処理装置という)10とにより構成される。
【0027】
溶融処理装置10は、図2に示すように、前記混在廃棄物cを投入し溶解する水冷式の溶融炉15と、電磁誘導によって生じる渦電流を利用して前記混在廃棄物cに主として誘導加熱エネルギを与える加熱コイル16と、混在廃棄物cに主として電磁力による浮揚力を与える浮揚コイル17とにより構成される。
【0028】
前記溶融炉15は、有底筒状の銅製の容器であって、底部18は、漏斗状に形成され、中心が下方へ突出しており、前記底部18の中心に前記溶融炉15内で分離された鉄鋼系金属9を鋳型へ出湯する出湯口19が設けられている。前記加熱コイル16と浮揚コイル17とは、図示しない交流電源に接続され、電流が供給される。
【0029】
次に上記構成の作用について説明する。まず、燃料棒2を被覆管3ごと機械式破砕装置4により機械的に破砕する(図1(A))。次いで、破砕された廃棄物aを磁気分離装置7により使用済核燃料6のみからなる廃棄物bと、被覆管3の破砕片であるハル5及び使用済核燃料6が混在した混在廃棄物cとに分離する(図1(B))。
【0030】
次いで、溶融処理方法について説明する。混在廃棄物cを溶融炉15に投入し、加熱コイル16及び浮揚コイル17により混在廃棄物cの融点以上の温度、具体的には1500〜1650℃で加熱する(図1(C))。この際の雰囲気としては、通常の大気あるいは若干のアルゴンガスを導入したものでよく、これにより雰囲気中の酸素がこの溶融浴中に巻き込まれ、放射性物質8を酸化し、この放射性物質8からなる酸化物によりスラグ20が形成される(図2(A))。
浮遊コイルはその電磁力により混在廃棄物cを溶融炉15の炉壁15aに接触させずに浮いた状態で溶融し、溶湯23を形成する。その際、溶湯23に含まれるウラン等の放射性物質8はスラグ20となり鉄鋼系金属9からなる溶融金属21から排除される力を受け、溶融金属21の外側、すなわち、溶融金属21と溶融炉15の炉壁15aとの間や、溶融金属21の上部に分離されながら溶融が行われる。尚、放射性物質8がすでに酸化物として存在している場合には放射性物質8が酸化される必要はなく、そのままでスラグ20が形成され、放射性物質成分と金属成分とが異層として形成される。
【0031】
次いで、出湯口19から溶融金属21を鋳型22へ出湯する(図2(B))。このように、鉄鋼系金属9からなる溶融金属21を鋳型22へ出湯するので、放射性物質8を鉄鋼系金属9から機械的手段によって分離する必要がなく、工数を低減できると共に、安全性を向上することができる。一方、溶融金属21が出湯された溶融炉15には、スラグ20が残留する(図2(C))。そして、このスラグ20は研削されるなどして取り除かれ、放射性物質8が回収される。
【0032】
このようにして放射性物質8と鉄鋼系金属9とを分離したら、放射性物質8は核燃料として再処理工程を経て再利用され(図1(D))、鉄鋼系金属9のみを廃棄物として処理する(図1(E))。
【0033】
このようにして処理を行うことにより鉄鋼系金属9中における使用済核燃料6の残存量は数ppm以下とすることができ、廃棄物として処分する場合にも廃棄方法や管理が簡便で済む、という効果も奏する。さらに、放射性物質8においては酸化放射性物質のみを濃縮して回収することができるので、大幅に減容化されているだけでなく、再処理工程で再処理することで再利用可能となるため全体として放射性廃棄物の量を大幅に低減できる。また、上記のように分離することにより、分離性が向上し、溶融処理後に放射性物質8と鉄鋼系金属9とを機械的手段により分離する工程を省略することができるので、コストを低減するとともに、安全性を向上することができる。
【0034】
上記のように本実施形態では、破砕された廃棄物cを溶融炉15に投入し、前記溶融炉15に設けた加熱コイル16と浮揚コイル17とによって前記廃棄物cを浮揚させながら加熱して溶湯23を形成し、前記溶湯23に含まれる放射性物質8を前記溶融炉15内に残留させたまま分離された溶融金属21を出湯することとしたから、放射性物質8と鉄鋼系金属9とを効率的に分離することができる。さらに分離された放射性物質8は、再処理して利用することができる。また、分離された鉄鋼系金属9は残存する放射性物質8の量が非常に小さくなるため、廃棄物としての廃棄方法や管理が簡便になり、コストを低減できるだけでなく、場合によっては資源として再利用を図ることもできる。
【0035】
また、溶融炉15の底部18を漏斗状に形成したから、溶融炉15内の溶湯23をスムーズに出湯することができる。
【0036】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図3を参照して説明する。尚、本実施形態は上記構成と同じ構成からなり、混在廃棄物cを溶融炉15に投入し、溶融処理を行う際の運転条件のみが異なる。したがって、以下の説明では異なる部分のみ詳細に説明することとし、他の部分については簡単のため説明を省略する。
【0037】
破砕された廃棄物aのうち、磁気分離装置7により分離された、被覆管3の破砕片であるハル5及び使用済核燃料6が混在した混在廃棄物cを溶融炉15に投入し、加熱コイル16及び浮揚コイル17により混在廃棄物cの融点以上の温度、具体的には1500〜1650℃で加熱する。この加熱により混在廃棄物cが溶解した後、加熱量を一端下げ、その状態を保持する。このように加熱量を一端下げ保持することにより、放射性物質8を含むスラグ20を固化した状態で上表面に分離することができるので、出湯時にスラグ20が溶融した状態のまま溶融炉15から出湯されるのを防いで、より確実に多くの放射性物質8を溶融炉15内に残留させることができる(図3(A))。
【0038】
このようにして放射性物質8と鉄鋼系金属9とを分離したら、加熱コイル16及び浮揚コイル17に供給する電流を下げる。加熱コイル16及び浮揚コイル17に供給する電流を下げると、浮揚力が低下し溶融炉15の炉壁15aに溶湯23が接触する。溶湯23が炉壁15aに接触すると、接触した部分が冷却され薄皮のスカル層25を形成する(図3(B))。その後、加熱コイル16及び浮揚コイル17に供給する電流を上げ、再加熱する。このように再加熱することにより、溶湯23の表面に形成されたスラグ20と、炉壁15aと溶融金属21との間に形成されたスカル層25とを溶融炉15内に残し、溶融金属21のみを出湯することができる。溶融金属21を出湯した後、溶融炉15内に残留したスラグ20及びスカル層25は内部が空洞の塊となる(図3(C))。
【0039】
このように運転条件を調節することにより、鉄鋼系金属9を放射性物質8から分離し、鉄鋼系金属9から放射性物質8を効率的に回収することができる。
【0040】
上記のように本実施形態では、混在廃棄物cが溶解した後、加熱量を小さくして前記溶湯23の表面に放射性物質8を固化させた薄皮状のスラグ20を形成し、溶融金属21のみを出湯することとしたから、溶融したスラグ20が溶融金属21と共に出湯されるのを防いで、多くの放射性物質8を溶融炉15内に残留させることができ、より効率的に放射性物質8を回収することができる。
【0041】
また、出湯する前に加熱量を小さくして溶湯23と炉壁15aとの間にスカル層25を形成することとしたから、均一にスカル層25を形成することができ、これにより均一に鋳型等へ出湯することができる。
【0042】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。尚、本実施形態は上記構成と同じ構成からなり、溶融炉15から出湯した後、溶融炉15に残留したスラグ20の除去方法のみが異なる。したがって、以下の説明では異なる部分のみ詳細に説明することとし、他の部分については簡単のため説明を省略する。
【0043】
図4に示すように、本実施形態においてスラグ20を除去するには、除去用杆30を用いる。除去用杆30は、出湯口19から溶融炉15内へ突出し可能な杆で構成され、出湯口19を構成する穴の外形よりやや小さい外形を備える。また、出湯口19は、前記除去用杆30を挿入可能に構成されており、具体的には、溶融炉15の中心に鉛直方向に穿設された穴で構成される。
【0044】
溶融炉15から溶融金属21を出湯した後、出湯口19から溶融炉15内へ除去用杆30を挿入する。溶融炉15内へ除去用杆30を挿入すると、除去用杆30の先端がスカル層25に当接する(図4(A))。さらに除去用杆30を上方へ押し上げると、溶融炉15に形成された薄皮状のスラグ20とスカル層25が炉壁15aから剥がれる(図4(B))。このようにして、溶融炉15内に残留した放射性物質8を容易に回収することができる。
【0045】
上記のように本実施形態では、溶融金属21を出湯後、出湯口19から溶融炉15内へ除去用杆30を挿入し、前記突出杆30で溶融炉15内に残留した放射性物質8を押出し、溶融炉15内に形成された放射性物質8を除去することとしたから、除去用杆30を出湯口19から溶融炉15へ挿入するだけで、容易に溶融炉15に形成された残留物を除去することができる。
【0046】
(第4実施形態)
次に本発明の第4実施形態について説明する。図5に示す溶融炉15には、内部に内容器35が着脱可能に備えられる。内容器35は、有底筒状の容器で、底は漏斗状に形成されており、その底の中央には溶融炉15の底部18に設けられた出湯口19に繋がる貫通穴36を有している。この内容器35は、高周波による電磁誘導を阻害することなく、かつ、耐火性を備えた材料で形成される必要があり、例えば、ジルコン系の材料が好適である。
【0047】
このように内容器35を内部に備えた溶融炉15に混在廃棄物cを投入し、溶解して溶融金属21のみを出湯口19から出湯すると、溶融炉15内は内容器35と、内容器35の炉壁に形成されたスラグ20が残留する。したがって、スラグ20とともに内容器35を溶融炉15から取り出すことにより、溶湯23と炉壁15aとの間にスカル層25を形成する必要がないため、溶融処理における運転条件を調整しなくても、容易に放射性物質8を回収することができる。
【0048】
上記のように本実施形態では、前記溶融炉15の炉壁15aを覆う内容器35を備えた溶融炉15を使用し、前記内容器35ごと前記溶融炉15に残留した放射性物質8を除去することとしたから、溶融処理の際、溶融炉15を傷めることなく、より確実に溶融炉15内に放射性物質8を残留させることができる。また、内容器35は溶融炉15の炉壁15aを覆うので、出湯後、内容器35を溶融炉15から取り除くことによって、溶融炉15に放射性物質8を残さずに溶融炉15から確実に放射性物質8を回収することができる。
【0049】
(第5実施形態)
次に本発明の第5実施形態について説明する。図6に示す溶融炉15には、内部に出湯口19を覆う底カバー40が着脱可能に備えられる。この底カバー40は、漏斗状に形成されており、その底の中央には溶融炉15の底部18に設けられた出湯口19に繋がる貫通穴41を有している。この底カバー40は周波による電磁誘導を阻害することなく、かつ、耐火性を備えた材料で形成される必要があり、例えば、ジルコン系の材料が好適である。
【0050】
この底カバー40を内部に備えた溶融炉15に混在廃棄物cを投入し、溶解して溶融金属21のみを出湯口19から出湯すると、溶融炉15内には、底カバー40と、底カバー40の内面に形成されたスラグ20が残留する。したがって、スラグ20とともに底カバー40を溶融炉15から取り出すことにより、容易に放射性物質8を回収することができる。また、溶湯23と炉壁15aとの間にスカル層25を形成する必要がなく、溶融処理における運転条件を調整しなくても、放射性物質8と鉄鋼系金属9とを分離し、放射性物質8を回収することができる。また、内容器35を用いる場合に比べ、溶融炉15の残留物の容積を小さくすることができ、二次的廃棄物を少なくすることができる。
【0051】
上記のように本実施形態では、前記溶融炉15内の出湯口19近傍を覆う底カバー40を備えた溶融炉15を使用し、前記底カバー40ごと前記溶融炉15に残留した放射性物質8を除去することとしたから、溶融処理の際、溶融炉15を傷めることなく、確実に溶融炉15内に放射性物質8を残留させることができると共に、二次的廃棄物を少なくすることができる。また、底カバー40は溶融炉15の炉壁15aを覆うので、出湯後、底カバー40を溶融炉15から取り除くことによって、溶融炉15に放射性物質8を残さずに溶融炉15から確実に放射性物質8を回収することができる。
【実施例】
【0052】
以下の具体的実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0053】
(実施例1)
表1に示すように、2.5(kg)のSUS316小片に模擬燃料である粒径2.0(mm)以下の酸化セリウム(CeO2)を1重量パーセント(wt%)添加したものを基準として(レファレンス試験)、酸化セリウムを増やして5(wt%)添加したもの(添加量変化試験)、酸化セリウムの粒径を小さくして0.5(mm)以下としたもの(粒径変化試験)について、それぞれ溶融温度1600(℃)、保持時間30(min)の条件のもと、溶融処理を行い、溶融炉15から出湯した溶融金属21を固化した金属固化体及び溶融炉15内に残留したスラグ20からそれぞれサンプルを採取しIPC分析を行った(分離性確認試験)。
【0054】
【表1】

その結果、表2に示すように、炉内残留金属に含まれる酸化セリウムの移行率は、いずれの試験においても約90(%)であり、大部分が溶融炉15内に残留し、効率的に回収できることが確認できた。また、溶融炉15から出湯した溶融金属21が固化した金属固化体における酸化セリウムの移行率は、Run1(レファレンス試験)では0.05(%)、Run2(添加量変化試験)では0.09(%)であるのに対し、粒径を小さくしたRun3(粒径変化試験)では、0.25(%)であることから、添加した酸化セリウムの粒径が小さくなるほど出湯される金属に酸化セリウムが多く含まれる傾向があることが分かった。また、添加量を5倍にしたRun2(添加量変化試験)において、移行率がRun1(レファレンス試験)の約2倍弱となったことから、添加量の変化に比べ移行率の変化が少ないことが分かった。これにより、多くの放射性物質8を溶融炉15内に残留させ、効率的に混在廃棄物cから放射性物質8を回収できることが確認できた。
【0055】
【表2】

(実施例2)
次に、溶融処理における運転条件を適宜調整してスラグ20を薄皮状にして回収するパラメータ試験と、前記底カバー40を備えた溶融炉15でスラグ20を回収する底カバー試験について説明する。尚、試験片は、上記Run1(レファレンス試験)で用いた試験片を用い、各試験における金属固化体及び溶融炉15内に残留したスラグ20とスカル層25からサンプルを採取しIPC分析を行った(回収性確認試験)。
【0056】
パラメータ試験は、図7に示すように、スタートと同時に、加熱コイル16の出力を160(kw)、浮揚コイル17の出力を80(kw)にして溶融炉15内に投入された混在廃棄物cを加熱する。溶融炉15内の混在廃棄物cが溶解した後、加熱コイル16の出力を130(kw)、浮揚コイル17の出力を70(kw)とし、30分間保持する。このように、混在廃棄物cの溶け落ち後、出力を一端下げた状態で保持することにより、放射性物質8を含むスラグ20が上表面に固化した形態で分離される。これにより、出湯時にスラグ20が溶融したまま溶融炉15から出湯されるのを防ぐことができる。さらに、保持後、出湯する前に、加熱コイル16及び浮揚コイル17の出力を共に60(kw)とする。このように、加熱コイル16及び浮揚コイル17の出力を下げることにより浮揚力が低下し、溶融炉15の炉壁15aに溶湯23が接触する。溶湯23が接触すると、接触した部分が冷却され、薄皮状のスカル層25を形成する。その後、加熱コイル16の出力を100(kw)、浮揚コイル17の出力を70(kw)にして、再び出力を上げることによりスカル層25はそのままの状態を保持しながら、溶湯23及び出湯口19を再加熱し、溶融金属21のみを出湯する。
【0057】
底カバー試験は、図8に示すように、ジルコン系の材料で形成された底カバー40を使用するので、急激な加熱による割れなどを防ぐため、緩やかに昇温させ、加熱、溶融する必要がある。例えば、加熱コイル16の出力を20(kw)、浮揚コイル17の出力を10(kw)にして4分間保持する。次いで、加熱コイル16の出力を30(kw)、浮揚コイル17の出力を20(kw)にして3分間保持する。さらに、加熱コイル16の出力を65(kw)、浮揚コイル17の出力を40(kw)にして1分間保持した後、加熱コイル16の出力を70(kw)、浮揚コイル17の出力を45(kw)にする。このように段階的に出力を上げ、緩やかに昇温させることによって底カバー40の割れを防止する。そして混在廃棄物cの溶け落ち後、加熱コイル16の出力を60(kw)、浮揚コイル17の出力を40(kw)にして30分間保持する。このように、混在廃棄物cが溶け落ち後、出力を一端下げた状態で保持することにより、放射性物質8を含むスラグ20が上表面に固化した形態で分離される。保持後、出湯するため、加熱コイル16の出力を100(kw)、浮揚コイル17の出力を70(kw)とし再加熱する。本試験においては、溶融炉15に底カバー40を備えており、溶湯23と炉壁15aとの間にスカル層25を形成する必要がないため、出湯の際、出力を一端下げることなく、出湯することができる。
【0058】
【表3】

上記試験の結果、表3に示すように、炉内残留金属に含まれる酸化セリウムの移行率は、パラメータ試験では94.3(%)、底カバー試験では93.4(%)となり、上記分離性確認試験に比べ、3〜4%向上できることが確認できた。また、溶融炉15から出湯した金属固化体における酸化セリウムの移行率が、パラメータ試験及び底カバー試験共に0.02(%)となり、上記Run1(レファレンス試験)に比べ半減できることが分かった。
【0059】
以上の結果より、加熱コイル16及び浮揚コイル17へ供給される出力電力を調整すること、溶融炉15内に底カバー40を備えること、によって、より多くの放射性物質8を溶融炉15内に残留させ、混在廃棄物cから核燃料をより効率的に回収できることが確認できた。
【0060】
本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係る溶融処理方法を示す概略図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る溶融処理の様子を段階的に示す縦断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る溶融処理の様子を段階的に示す縦断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係るスラグを回収する様子を示す縦断面図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係る溶融処理の様子を示す縦断面図である。
【図6】本発明の第5実施形態に係る溶融処理の様子を示す縦断面図である。
【図7】本発明の実施例2に係るパラメータ試験における運転条件を示すチャート図である。
【図8】本発明の実施例2に係る底カバー試験における運転条件を示すチャート図である。
【符号の説明】
【0062】
5 ハル(放射性汚染金属)
8 放射性物質
9 鉄鋼系金属(金属)
10 溶融処理装置
15 溶融炉
15a 炉壁
16 加熱コイル
17 浮揚コイル
19 出湯口
20 スラグ
21 溶融金属
23 溶湯
25 スカル層
30 除去用杆
35 内容器
40 底カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
破砕された放射性汚染金属を溶融炉に投入し、前記溶融炉で前記放射性汚染金属を浮揚させながら加熱して溶湯を形成し、前記溶湯に含まれる放射性物質を前記溶融炉内に残留させたまま分離された溶融金属を出湯することを特徴とする溶融処理方法。
【請求項2】
前記放射性汚染金属が溶解した後、加熱量を小さくして前記溶湯の表面に前記放射性物質を固化させたスラグを形成し、前記溶融金属を出湯することを特徴とする請求項1記載の溶融処理方法。
【請求項3】
出湯する前に加熱量を小さくして前記溶湯と前記溶融炉の炉壁との間にスカル層を形成することを特徴とする請求項1又は2記載の溶融処理方法。
【請求項4】
前記溶融金属を出湯後、前記溶融炉内へ除去用杆を挿入し、前記除去用杆で前記溶融炉内に残留した前記放射性物質を除去することを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の溶融処理方法。
【請求項5】
前記炉壁を覆う内容器を備えた溶融炉を使用し、前記内容器ごと前記溶融炉に残留した放射性物質を除去することを特徴とする請求項1又は2記載の溶融処理方法。
【請求項6】
前記溶融炉内の出湯口近傍を覆う底カバーを備えた溶融炉を使用し、前記底カバーごと前記溶融炉に残留した放射性物質を除去することを特徴とする請求項1又は2記載の溶融処理方法。
【請求項7】
溶融炉内に投入された放射性汚染金属を加熱し溶湯を形成する加熱コイルと、前記溶湯を浮揚させる浮揚コイルとを備え、前記溶融炉内で分離された溶融金属を出湯する出湯口を前記溶融炉に設けたことを特徴とする溶融処理装置。
【請求項8】
前記出湯口は、外側から挿入された除去用杆によって前記溶融炉内に形成された残留物を除去可能に設けられていることを特徴とする請求項7記載の溶融処理装置。
【請求項9】
前記溶融炉内には、前記溶融炉の炉壁を覆う内容器が着脱可能に設けられていることを特徴とする請求項7記載の溶融処理装置。
【請求項10】
前記溶融炉内には、前記出湯口近傍を覆う底カバーが着脱可能に設けられていることを特徴とする請求項7記載の溶融処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−101206(P2007−101206A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287583(P2005−287583)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000224754)核燃料サイクル開発機構 (51)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(502165300)富士電機サーモシステムズ株式会社 (33)