説明

溶解炉

【課題】溶湯の出湯を繰り返しても、湯口自体に割れが発生することを抑制でき、長ライフサイクルで低コストの溶解炉を提供する。
【解決手段】本発明の溶解炉Fは、炉内に金属材料Mを収納する、上面を開口した坩堝1を備え、この坩堝の上部にカーボン製で筒状の湯口2が着脱自在に設けられている。そして、金属材料を受け入れる上向き姿勢から湯口が前下がりとなる傾斜姿勢に炉を傾動して坩堝内で溶解させた金属材料を湯口から出湯される。この場合、湯口の上半分の所定位置にその長手方向全長に亘るスリット21が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造物の製造に用いられる溶解炉に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造物の製造に用いられる溶解炉は、炉内に金属材料を収納する坩堝を備え、坩堝の上部に、炉外に延出する湯口が設けられている。そして、誘導電気式やアーク溶解式等により坩堝内の金属材料を溶解した後、坩堝が金属材料を受け入れる上向き姿勢から、湯口が前下がりとなる傾斜姿勢に炉を傾動させて、当該坩堝内で溶解させた金属材料を鋳型等に出湯するようになっている。
【0003】
湯口として、例えば溶解炉から出湯される溶湯を冷却ロールにストリップキャストして一次冷却することで鋳造物を得るような場合には、冷却ロールに対して一定の流量で溶湯を供給できればよいため、樋状のものを用いることが一般である。それに対して、シリコン原料から金属シリコンを精製するような場合、坩堝内で溶解させた金属材料を鋳型に可及的速やかに流し込む必要があるため、炉を急激に傾動させても溶湯が湯口から漏れ出さないように、当該湯口として筒状のものを用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記炉内にて坩堝に収容した金属材料を溶解し、湯口を通して出湯するまでの間、坩堝と湯口とに大きな温度差(シリコン精製の場合の例では、約1000℃)が生じ、しかも、湯口を通して出湯する間でも、湯口のうち溶湯が接触する領域とそれ以外の領域とに大きな温度差(シリコン精製の場合の例では、約500℃)が生じる。ここで、シリコン精製の場合を例とし、金属シリコンの溶湯と反応せずかつ比較的廉価な材質、例えばカーボンから筒状の湯口を形成すると、出湯時の熱膨張の差により割れが多発するという問題がある。このような場合に、湯口のライフサイクルをのばすため、MoやW等の高融点材料を用いることが考えられるが、これではコストアップとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−126858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、溶湯の出湯を繰り返しても、湯口自体に割れが発生することを抑制でき、長ライフサイクルで低コストの溶解炉を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、炉内に金属材料を収納する、上面を開口した坩堝を備え、この坩堝の上部にカーボン製で筒状の湯口が着脱自在に設けられ、金属材料を受け入れる上向き姿勢から湯口が前下がりとなる傾斜姿勢に炉を傾動して当該坩堝内で溶解させた金属材料を湯口から出湯するように構成した溶解炉において、前記湯口の上半分の所定位置にその長手方向全長に亘るスリットを形成したことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、筒状の湯口の上半分の所定位置に(最適には、炉の上向き姿勢における湯口の頂部に)、その長手方向全長に亘るスリットを形成したため、当該スリットにより、出湯時に生じる熱膨張の差が吸収される。このため、湯口を筒状でカーボン製としても、当該湯口での割れの発生が抑制でき、ライフサイクルを長くして低コスト化を図ることができる。ここで、炉を連続して傾動させながら、坩堝内で溶解させた金属材料の溶湯を湯口から鋳型等に出湯する場合、その当初、湯口内での溶湯表面が局所的に高くなる場合がある。このため、本発明においては、前記湯口の上半分の所定位置に形成するスリットの幅が、湯口を流れる溶湯の表面張力でスリットから外側に漏れ出さない範囲で適宜設定される。また、スリットの断面形状は、湯口の内壁面でのスリット幅が上記の如く設定されていれば、特に問わない。
【0009】
ところで、金属材料を溶解する間、坩堝自体には然程温度差は生じるものではないものの、金属材料の溶解を一定期間繰り返すと、特に坩堝の溶湯が接する箇所で割れやひびが発生し得る。このため、定期的に坩堝自体も交換する必要がある。ここで、坩堝の周壁面の高さ寸法は、坩堝内に収容した例えば塊状の金属材料から必要量の溶湯が得られるように設定されるが、上記の如く、割れやひびが生じる坩堝の箇所は溶湯が接する箇所が大半である。このため、坩堝を一体に形成し、当該坩堝全体を定期的に交換するのでは、ランニングコストが高くなるという問題が生じる。
【0010】
本発明においては、前記坩堝は、溶解した金属材料の溶湯表面より高い周壁面を備えた本体と、この坩堝本体の上部に嵌合される筒状の嵩上げ部とから構成され、前記本体と嵩上げ部とを跨ぐように透孔が開設され、この透孔に湯口の一端が嵌着されることが好ましい。これによれば、溶解を繰り返しても、比較的割れやひびが発生し難い部分(つまり、嵩上げ部分)を再利用し、比較的割れやひびが発生し易い部分(本体)のみを交換できるようにすることで、当該部分の体積が一体もので製作したものと比較して小さくなり、交換部分製造のコストダウンを図ることができて有利である。また、本体と嵩上げ部とを跨ぐように透孔を開設し、湯口を装着することで、炉を傾動させ、湯口を通して出湯する際に本体と嵩上げ部との連結部分から溶湯が漏れ出す等の不具合も生じない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態の溶解炉の内部構造を模式的に示す断面図。
【図2】(a)及び(b)は、湯口の断面図。
【図3】坩堝への湯口の取り付けを説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の溶解炉を説明する。図1中、Fは、特に図示して説明しないが、例えば真空排気管と気体導入管とが接続された密閉容器から構成される溶解鋳造室に設けられる誘導電気式の溶解炉である。溶解炉F内には、金属材料Mを収納する、上面を開口した坩堝1が配置されている。坩堝1の上部には円形開口1aが形成され、円形開口1aには、筒状の湯口2が着脱自在に嵌着され、その先端が炉外まで延出している。この場合、坩堝1や湯口2は、例えば金属シリコンの精製に用いられる場合、金属シリコンの溶湯と反応せずかつ比較的廉価な材質であるカーボンからなり、冷間等方圧加工法にて所定形状に作製されている。
【0013】
坩堝1は、図示しない断熱材を備えた支持台3上に載置され、坩堝1の周囲には、例えば、カーボン製の断熱材4が設けられている。断熱材4の周囲には誘導コイル5が設けられ、坩堝1内に収納される金属材料Mを誘導電気式で溶解する。なお、溶解炉Fは、これに限定されるものではなく、アーク溶解式等の他の溶解形式のものでもよい。また、本実施形態の溶解炉Fを金属シリコンの精製に用いる場合には、坩堝1の上方にプラズマトーチ等の部品が組み込まれる。
【0014】
また、溶解炉Fは、特に図示して説明しないが、例えば溶解鋳造室内に立設した支柱に軸支され、シリンダによって、図1中、実線で示す上向き姿勢から、湯口2の先端が前下がりの傾斜姿勢に傾動されるようになっている。そして、溶解炉Fを上向き姿勢とし、この状態で坩堝1内に、図1中、仮想線で示すように塊状等の金属材料Mを投入した後、溶解鋳造室を所定圧力まで減圧し、溶解炉F内で金属材料Mを誘導加熱して溶解する。金属材料Mの溶解が完了すると、溶解炉Fを、所定の速度で連続して傾斜姿勢に傾動させ、例えば溶解鋳造室内に設けた鋳型(図示せず)に湯口2を通して出湯する。
【0015】
ところで、上記溶解炉F内にて坩堝1に収容した金属材料Mを溶解し、湯口2を通して出湯するまでの間、坩堝1と湯口2とに大きな温度差(シリコン精製時の場合の例では、約1000℃)が生じ、しかも、湯口2を通して出湯する間でも、湯口2のうち溶湯が接触する領域とそれ以外の領域とに大きな温度差(シリコン精製時の場合の例では、約500℃)が生じる。このため、湯口2をカーボン製で筒状とすると、出湯時の熱膨張の差により割れが多発する。
【0016】
本実施形態では、図2に示すように、溶解炉Fの上向き姿勢における湯口2の頂部に、その長手方向全長に亘るスリット21を形成した。この場合、スリット21の幅Wは、湯口2を流れる溶湯の表面張力でスリット21から外側に漏れ出さない範囲、例えば、1〜3mmの範囲に設定される。また、スリット21の断面形状は、湯口2の内壁面でのスリット21の幅Wが上記の如く設定されていれば、例えば、図2の如く断面視矩形や台形等に形成できる。更に、スリットの形成位置は、溶解炉Fの上向き姿勢における湯口21の上半分であればよく、特に、図2(b)に示すように、水平線に対して45度以上となる位置に形成することが望ましい。
【0017】
以上によれば、スリット21により、湯口2に出湯時に生じる熱膨張の差が吸収される。このため、湯口2をカーボン製としても、当該湯口2での割れの発生が抑制でき、ライフサイクルを長くして低コスト化を図ることができる。また、スリット21の幅W、形状や形成位置を上記の如く設定することで、湯口2を流れる溶湯の表面張力でスリット21から溶湯が外側に漏れ出すことを確実に防止できる。
【0018】
ところで、金属材料Mを溶解したりしても、坩堝1自体には然程温度差は生じないものの、金属材料Mの溶解を一定期間繰り返すと、特に坩堝1の溶湯が接する箇所で割れやひびが発生し得る。このため、定期的に坩堝1自体も交換する必要がある。ここで、坩堝1の周壁面の高さ寸法は、坩堝1内に収容した例えば塊状の金属材料Mから必要量の溶湯が得られるように設定されるが、上記の如く、割れやひびが生じる坩堝1の箇所は溶湯が接する箇所が大半である。
【0019】
本実施形態では、図1及び図3に示すように、溶解した金属材料Mの溶湯表面M1より高い周壁面11aを備えた本体11と、この本体11の上部に着脱自在に嵌着される、所定の高さの筒状の嵩上げ部12とから坩堝1を構成することとした。この場合、嵩上げ部12の高さ寸法は、坩堝1内に収容する金属材料Mに応じて適宜設定される。また、湯口2を嵌着する円形開口1aは、本体11と嵩上げ部12とを跨ぐように開設されている。
【0020】
以上によれば、溶解を繰り返しても、比較的割れやひびが発生し難い嵩上げ部分12を再利用し、比較的割れやひびが発生し易い本体11のみを交換できるようにすることで、本体11の体積を、一体もので製作したものと比較して小さくでき、交換部分たる本体11製造のコストダウンを図ることができて有利である。また、本体11と嵩上げ部12とを跨ぐように円形開口1aを開設し、湯口2を装着することで、溶解炉Fを傾動させ、湯口2を通して出湯する際に、本体11と嵩上げ部12との結合から溶湯が漏れ出す等の不具合も生じない。
【0021】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記のものに限定されるものではない。上記実施形態では、坩堝1を本体11と嵩上げ部12から構成したものを例に説明したが、本発明の湯口2は、一体のものの坩堝にも適用できる。また、本発明をカーボン製のものとしたものを例に説明したが、筒状の湯口であれば、他の材質のものにも広く適用できる。更に、坩堝1を本体11と嵩上げ部12から構成したものは、例えば、坩堝の底部から出湯する形式の溶解炉に適用することができる。
【符号の説明】
【0022】
F…溶解炉(炉)、1…坩堝、1a…円形開口、11…本体、11a…周壁面、12…嵩上げ部、2…湯口、21…スリット。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内に金属材料を収納する、上面を開口した坩堝を備え、この坩堝の上部にカーボン製で筒状の湯口が着脱自在に設けられ、金属材料を受け入れる上向き姿勢から湯口が前下がりとなる傾斜姿勢に炉を傾動して当該坩堝内で溶解させた金属材料を湯口から出湯するように構成した溶解炉において、
前記湯口の上半分の所定位置にその長手方向全長に亘るスリットを形成したことを特徴とする溶解炉。
【請求項2】
前記坩堝は、溶解した金属材料の溶湯表面より高い周壁面を備えた本体と、この坩堝本体の上部に嵌合される筒状の嵩上げ部とから構成され、前記本体と嵩上げ部とを跨ぐように透孔が開設され、この透孔に湯口の一端が嵌着されることを特徴とする請求項1の溶解炉。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−7494(P2013−7494A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138352(P2011−138352)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】