説明

溶銑傾注樋装置

【課題】高炉の出銑口から溶銑鍋までの必要高さを低減可能な傾注樋構造とすることにより高炉高さが低減可能で、鋳床全体をコンパクトに構成することが可能になるとともに、傾注樋の長寿命化が可能な溶銑傾注樋装置を提供する。
【解決手段】高炉1から出銑されて大樋3から落下する溶銑を受銑する受銑樋13と、両端に設けられた銑鉄流出口15のうち一方の銑鉄流出口15から傾動により銑鉄を落下させて溶銑鍋7a又は7bに注入する傾注樋14とが設けられた溶銑傾注樋装置において、受銑樋13が、傾注樋14の大樋側の中央位置で且つ傾注樋14の長手方向に直交する方向で大樋側より傾注樋に溶銑が連通可能に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の出銑口から大樋へ出銑されて流下する溶銑を溶銑鍋へ注入する溶銑傾注樋装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉の出銑口から排出された高炉スラグは大樋で溶銑と溶滓に分離され、分離された溶銑は溶銑樋(溶銑枝樋ともいう。)を経由して傾注樋から溶銑を搬送する溶銑鍋へ投入される(特許文献1参照)。
【0003】
図6,図7において、高炉1の出銑口2から溶銑が大樋3に出銑され、その時、高炉スラグも溶銑と共に高炉から排出される。溶銑と高炉スラグは、大樋3内で上下に分離しながら下流に流れ、分離された高炉滓は高炉スラグ樋に流入する。分離された溶銑は、堰4を越えて溶銑樋5に流入し、溶銑樋5を流れて傾注樋6に落下し、更に、傾注樋6から溶銑鍋(トピードカー)7a又は7bに落下して注入される。一方の溶銑鍋7aへの所定量の溶銑の注入が完了すれば、傾注樋6を傾動させて他方の溶銑鍋7bへ切り替えて注入を開始する。
【0004】
傾注樋6は、複数の溶銑鍋7a又は7bへの排出の切り替えを行うための傾動可能な樋であり、傾注樋6の長さ方向の中央に傾動軸8を有し、図5(b)に示すように、傾注樋6の傾動中心部で溶銑樋5からの溶銑を受け入れてから、傾注樋6の傾動による傾きに従って溶銑を流下させ、排出方向を切り替えて傾注樋6の溶銑流出口の下部に位置する2箇所の溶銑鍋7a又は7bのうちで選択されたものに投入するものである。
【0005】
また、傾注樋について、上部から落下する溶銑の落下位置における底部の耐久性を向上させて長寿命化を計るための耐火物や保護層についての提案がなされている(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−263261号公報
【特許文献2】特開2007−217236号公報
【特許文献3】特開2005−76097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、高炉本体の周囲には、例えば、炉底部を冷却するための冷却装置9などが設置されていることから、溶銑鍋7a,7bの受銑位置は、高炉本体から距離が必要であり、通常、大樋3の溶銑排出口よりも離れた位置となることが多い。このために、溶銑は溶銑鍋7a,7bの待機可能な位置まで溶銑樋5で導いてから傾注樋6を介して溶銑鍋7a,7bに投入している。
【0008】
また、大樋3は堰4により溶銑溜り10を有しており、大樋3の補修時には溶銑溜り10に貯留する残銑を除去する必要がある。残銑を除去する際には、図7に示すように、溶銑樋5の上に残銑抜き機11を上架し、大樋3の溶銑溜り10の堰4を残銑抜き機11で削孔して残銑を流下させる。このとき、残銑抜き機11の溶損を防止するために溶銑樋5は大樋3から落差を有して形成しなければならず、溶銑樋5を設置すると、溶銑樋5の金物や耐火物の厚みと上述の落差とにより、出銑口2から溶銑鍋5までの必要な高さが高くなるという問題があった。
【0009】
さらに、図5(b)に示すように、傾注樋6への溶銑落下位置は傾注樋6の長手方向の中央部で傾注樋6の中心線から溶銑樋側に偏った位置Cにおいて、溶銑が常に傾注樋6の同じ位置に落下して衝突するため、溶銑の比重が大きいことと、溶銑排出時と非排出時の熱衝撃とにより溶銑樋5からの落下衝突部の耐火物の損耗が激しく、傾注樋6の長寿命化が望まれていた。
【0010】
そこで、本発明は、高炉の出銑口から溶銑鍋までの必要高さを低減可能な傾注樋構造とすることにより高炉高さが低減可能で、鋳床全体をコンパクトに構成することが可能になるとともに、傾注樋の長寿命化が可能な溶銑傾注樋装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、高炉から出銑されて大樋から落下する溶銑を受銑する受銑樋と、両端に設けられた銑鉄流出口のうち一方の銑鉄流出口から傾動により銑鉄を落下させて溶銑鍋に注入する傾注樋とが設けられた溶銑傾注樋装置において、前記受銑樋が、前記傾注樋の前記大樋側の中央位置で且つ前記傾注樋の長手方向に直交する方向で前記大樋側より傾注樋に溶銑が連通可能に設けられていることを特徴とする。
【0012】
前記構成において、受銑樋及び受銑樋を大樋方向に沿って移動させて溶銑の落下位置を変更する移動装置を設ける。また、前記受銑樋の底に、溶銑だまりを形成する堰を設けてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の溶銑傾注樋装置により従来設置されていた溶銑樋がなくなる。このことにより、大樋の排出口の受銑位置から溶銑流出口の切り替えのための傾動樋までの距離が受銑樋の長さで任意に選定することができ、大樋の排出口から溶銑鍋停止位置までの間で溶銑鍋が不要となる。
【0014】
また、本発明では、大樋の排出口から溶銑傾注樋装置の受銑樋までの空間に残銑抜き機を設置することができることから、従来の溶銑樋の設置に伴う、溶銑樋の金物高さ、耐火物厚み、残銑抜き機の設置高さ、溶銑樋の勾配による高さの低減が可能となる。
【0015】
さらには、本発明では、受銑樋では、従来の傾注樋における流路切り替えのための傾きが生じないことから、溶銑溜りの形成が可能となり、上部から落下する溶銑の衝撃が緩和されて、耐火物の損耗を低減できる。このことにより、最も損耗の激しい溶銑の落下位置を変えられて、耐火物の長寿命化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)は本発明の溶銑傾注樋装置の配置を示す概略平面図、(b)は同概略正面図、(c)は同概略側面図である。
【図2】本発明の溶銑傾注樋装置の配置を示す斜視図である。
【図3】本発明の溶銑傾注樋装置の概略正面図である。
【図4】本発明の場合の残銑抜きの説明図である。
【図5】溶銑落下位置を示す概略図で、(a)は本発明、(b)従来例である。
【図6】(a)は従来の傾注樋の配置を示す概略平面図、(b)は同概略正面図、(c)は同概略側面図である。
【図7】従来の残銑抜きの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0018】
図1〜図3において、高炉1の出銑口2から溶銑が大樋3に高炉スラグと溶銑が共に高炉から排出される。溶銑と高炉スラグは、大樋3内で上下に分離しながら下流に流れ、分離された高炉滓は高炉スラグ樋(図示せず)に流入する。分離された溶銑は、堰4を越えて、溶銑傾注樋装置12に落下し、溶銑鍋7a又は7bに落下して注入される。溶銑傾注樋装置12を傾動軸8の回動により傾動させて他方の溶銑鍋7a又は7bへ切り替えて注入を開始する。
溶銑傾注樋装置12は、受銑樋13と傾注樋14が溶銑を連通可能に一体に形成されている。傾注樋14は従来の傾注樋と同じく溶銑が流出する溶銑流出口15が両端に設けられている。受銑樋13は、傾注樋14の受銑側の中央位置で且つ長さ方向に直交する方向に接続されて連通可能にT型形状に形成されている。
【0019】
溶銑傾注樋装置12は、台車16の上に傾動軸8で傾動自在に載置されている。台車16はシリンダ−17により前進後退する。台車16の前進後退により図5(a)に示すように、受銑樋13に落下する溶銑の落下位置A、Bを変更することが可能になる。受銑樋13の底には、溶銑だまり18を形成する堰19を形成し、落下する溶銑が受銑樋13の底面に直接当たらないようにして衝撃が緩和されて、耐火物の損耗を低減できる。
【0020】
本発明の溶銑傾注樋装置の動作について説明する。
【0021】
高炉1から出銑されて大樋3を流下して溶銑は、受銑樋13の溶銑だまり18に落下して受銑される。溶銑は受銑樋13に連通する傾注樋14に流入し、傾動軸8で下側に傾斜した溶銑流出口15から溶銑鍋7a(又は7b)に落下して注入される。
【0022】
溶銑鍋7aみに所定量注入されると、傾注樋14を傾動軸8の回動により傾動させて他方の溶銑鍋7b(又は7a)へ切り替えて注入を開始する。受銑樋13の溶銑落下位置を変える場合は、台車16を移動させて落下位置A又はBを変更する。なお、溶銑鍋の停止位置は、溶鋼落下位置の変更に合わせて設けておく。
【符号の説明】
【0023】
1:高炉 2:出銑口
3:大樋 4:堰
5:溶銑樋 6:傾注樋
7a,b:溶銑鍋 8:傾動軸
9:冷却装置 10:溶銑溜り
11:残銑抜き機 12:溶銑傾注樋装置
13:受銑樋 14:傾注樋
15:溶銑流出口 16:台車
17:シリンダ− 18:溶銑溜まり
19:堰

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉から出銑されて大樋から落下する溶銑を受銑する受銑樋と、両端に設けられた銑鉄流出口のうち一方の銑鉄流出口から傾動により銑鉄を落下させて溶銑鍋に注入する傾注樋とが設けられた溶銑傾注樋装置において、
前記受銑樋が、前記傾注樋の前記大樋側の中央位置で且つ前記傾注樋の長手方向に直交する方向で前記大樋側より傾注樋に溶銑が連通可能に設けられていることを特徴とする溶銑傾注樋装置。
【請求項2】
前記受銑樋を前記大樋の方向に沿って移動させて溶銑の落下位置を変更する移動装置を設けたことを特徴とする請求項1記載の溶銑傾注樋装置。
【請求項3】
前記受銑樋の底に、溶銑だまりを形成する堰を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の溶銑傾注樋装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−80123(P2011−80123A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234351(P2009−234351)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(390022873)日鐵プラント設計株式会社 (275)