説明

滑り止め手袋

【課題】物を掴むときなどの滑り止め効果が大きく且つ手袋内面で手が滑り難い滑り止め手袋を提供する。
【解決手段】弾性繊維と非弾性繊維とにより編製された繊維手袋1上にゴムまたは熱可塑性樹脂の発泡皮膜2を形成する。前記の発泡皮膜2という滑り止め効果の非常に大きい皮膜を設ける繊維手袋1を、弾性繊維を混合して作製しているので、追従性に優れ、手袋内面で手が滑ることがなくなり、このことにより逆に、手の力を効率よく手袋に伝達することができ、発泡皮膜2の滑り止め効果を十分に発揮させることになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグリップ性が要求される分野で使用される滑り止め手袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グリップ性が要求される分野、たとえば組立て作業や梱包作業などで使用されている従来の手袋は、綿等の天然繊維やアクリル、ポリエステル、ナイロン等の化学繊維で作製した繊維手袋の表面を合成ゴム、天然ゴム、ポリ塩化ビニル等で被覆したものが一般的である。手首部分にゴム糸を挿入することでフィット性を高め、ずり落ちを防止するようにしたもの(特許文献1)や、手袋基布の布目を利用して、その外側面に形成する樹脂部に布目の凹凸編目と同じ凹凸状を付与することにより、滑り止め効果を発揮させるものもある(特許文献2)。
【特許文献1】特開2003−313712公報
【特許文献2】特開2003−268611公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記したように繊維手袋基材にゴムや樹脂の皮膜を形成して滑り止めとする手袋には、皮膜の滑り止め効果が大きいほど手袋内面で手が滑りやすくなるという問題があった。
【0004】
本発明は上記問題を解決するもので、物を掴むときなどの滑り止め効果が大きく且つ手袋内面で手が滑り難い滑り止め手袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の滑り止め手袋は、弾性繊維と非弾性繊維とにより編製された繊維手袋基材上にゴムまたは熱可塑性樹脂の発泡皮膜が形成されたことを特徴とする。
【0006】
弾性繊維および非弾性繊維は50d〜600d糸として用いるのが好ましい。また繊維手袋基材(以下、繊維手袋という)は、その全体もしくは指部分を、弾性繊維を5〜80質量%の割合で用いて編製するのが好ましい。これらのことにより、繊維手袋が追従性に優れ、物を掴んだときにも手袋内面で手が滑ることがなくなり、手の力を効率よく手袋に伝達できることとなり、ゴムまたは熱可塑性樹脂の発泡皮膜という滑り止め効果の非常に大きい皮膜の性能を十分に発揮させることができる。発泡皮膜が動摩擦係数μK1.0以上となるものである場合にこのような繊維手袋を用いるのが適当である。動摩擦係数は滑り難さの指標として用いるもので、数値が大きいほど滑りにくく、グリップ性が良好となることを表わす。
【0007】
フィラメント糸であっても紡績糸であってもよい。フィラメント糸については「d」、紡績糸については「番手」で太さ(繊度)が表わされるのであるが、本発明においては紡績糸等についてもデニール換算して表わすものとする。上記の範囲内の太さであると、繊維手袋が薄地となり、素肌感覚で作業性がよい。この範囲よりも細いと手袋編製ができず、太いと厚地になって素肌感覚が得られず作業性がよくない。
【0008】
弾性繊維としては、100%伸張時に100%以上の回復性を有するものを好適に使用することができ、たとえば、伸度400−800%、繊度15dから500dのポリウレタン系繊維を使用することができる。繊度15dから40dのポリウレタン系繊維が好ましい。弾性繊維を非弾性繊維でカバーリングして複合糸として用いても構わない。
【0009】
非弾性繊維としては、綿、羊毛等の天然繊維や、ポリエステル、ナイロン等の化学繊維を単独で用いてもよいし、これら天然繊維、化学繊維にアラミド、強化ポリエチレン、金属、カーボン等を混合した複合糸として用いてもよい。低発塵性のものが好ましい。
【0010】
皮膜の形成に使用されるゴムは、天然ゴム、イソプレン、クロロプレン、アクリル酸エステル、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリウレタン、ブチルゴム、ポリブタジエンゴム、シリコーンゴム、10重量%以下のカルボキシル変性基等を持つこれらの共重合体、あるいはこれらをブレンドしたものなどである。
【0011】
天然ゴムなる語句は、天然ゴム単独だけでなく、天然ゴム−メチルメタクリレート共重合体やエポキシ化変性天然ゴム共重合体等を包含する。アクリル酸エステル(ゴム)なる語句は、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、iso−ブチルアクリレート、iso−ブチルメタクリレート、エチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、iso−プロピルアクリレート、iso−プロピルメタクリレート等の単独重合体あるいは共重合体の他、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、アリルメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等を含んだ共重合体を包含する。
【0012】
ゴムには、周知の架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、増粘剤等を添加する。またグリップ力を向上させるべく、皮膜を発泡構造にするために、起泡剤、整泡剤を添加し、好ましくは機械発泡を併用する。起泡剤としては、スルホコハク酸アルキルモノアミドジナトリウム、オレイン酸カリ、ひまし油カリ、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダーが利用できる。整泡剤としては、ステアリン酸アンモニウム、ペプチド、アルキルジプロピオン酸ソーダー等が利用できる。ここで言うアルキルはたとえば、ラウリル、オクチル、ステアリルである。なお起泡剤と整泡剤の成分区別は一般に厳密でないので、いずれの名称で呼ばれているものであってもよい。
【0013】
また皮膜の形成に使用される熱可塑性樹脂は、たとえば、塩化ビニルの単独重合体あるいは酢酸ビニルとの共重合体である。周知の可塑剤、安定剤、増粘剤等を添加する。皮膜を発泡構造にするために、熱膨張を利用する場合は、トルエンスルホニルヒドラジド、PP’オキシビス(ベンゾスルホニルヒドラジド)、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル等の化学発泡剤やマイクロカプセルが使用できる。機械発泡させるためにシリコーン系の整泡剤を添加することもできる。
【0014】
熱可塑性樹脂またはゴムにさらに、アクリル、ウレタン、天然ゴム粉、EVA粉、PVC、NBR等の粒子、タルク、炭酸カルシウムを添加してもよい。
これらの熱可塑性樹脂またはゴムの皮膜を繊維手袋上に形成するには、繊維手袋を手型に被せ、ゴムコンパウンドあるいは熱可塑性樹脂配合物を浸漬あるいはスクリーン印刷等の方法で付着させた後、キュアする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の滑り止め手袋は、ゴムまたは熱可塑性樹脂の発泡皮膜という滑り止め効果の非常に大きい皮膜を設ける繊維手袋基材を、弾性繊維を混合して作製しているので、追従性に優れ、手袋内面で手が滑ることがなくなり、このことにより逆に、手の力を効率よく手袋に伝達できるようになり、発泡皮膜の滑り止め効果を十分に発揮させることができる。よってグリップ性が良好となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を説明する。ただし本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
ゴム皮膜を持った滑り止め手袋を作製する場合、上述した弾性繊維と非弾性繊維とからなる繊維手袋を手型に被せ、硝酸カルシウム溶液に浸漬し、次いでゴムコンパウンドに浸漬し、70−95℃、10−20分間の乾燥を経て、120−130℃、40−60分間キュアすることにより、皮膜形成する。同じ配合もしくは異なる配合のゴムコンパウンドに数回浸漬することで積層皮膜としても構わない。リーチングはキュアの前後いずれで行っても構わない。硝酸カルシウム溶液を用いない感熱浸漬法も利用できる。
【0017】
熱可塑性樹脂の皮膜を持った滑り止め手袋を作製する場合、上述した弾性繊維と非弾性繊維とからなる繊維手袋を平型に被せ、表面に樹脂コンパウンドをスクリーン印刷にて凸状に付着させ、110−150℃、10−20分間キュアすることにより、皮膜形成する。繊維手袋を手型に被せ、熱可塑性樹脂コンパウンドに浸漬し、約190℃、10分間程度キュアすることで皮膜形成する方法も利用できる。
【0018】
いずれの皮膜も、発泡構造(発泡層)にすることで、グリップ力が向上し、動摩擦係数μKが1.0以上になってくる。熱プレスすると、グリップ効果がさらに向上する。熱プレスとは、ゴムや熱可塑性樹脂をわずかに熱セットして半架橋、ゲル化させた状態で、金属製あるいは合成樹脂製の凹凸板を用いて、プレス圧:1〜100kgf/cm、熱:60〜300℃程度をかけて熱固化させることを言い、凹凸模様が付与される結果となる。なお上述したように皮膜を積層構造としてもよいが、繊維手袋上に直接に発泡皮膜を形成するのが、内面での滑り防止効果が大きい。
【0019】
発泡させる際のコンパウンドの気泡含有率は、家庭用ミキサーや発泡機によって1%〜300%まで任意に調整できる。気泡含有率は比重で測定することができ、コンパウンドの気泡含有率と成形後の発泡層の気泡含有率とはほぼ同じ値となっている。平均径10μm〜400μmの気泡(あるいは気泡痕)が1cmあたり10個〜130個、発泡層の内面及び表面に含まれるのが好ましい。化学発泡剤のみを利用するよりは機械的発泡も併用する方が、気泡数が多くなり、発泡層の表面に気泡痕が多く開口する。気泡痕が多いと、手袋表面と対象物との間に介在する水や油が気泡痕内に吸収排除されるため、より滑り止め効果に優れる。
【0020】
上述のように凹凸板にて熱プレスすれば、凹凸板の凸部が押圧する気泡がつぶれて熱融着を起こし、耐摩耗強度が強くなる。気泡数が多い方が熱融着する気泡数も多くなる。熱融着状態をマイクロスコープによって確認すると、発泡層の凹部の気泡含有量は凸部の気泡含有量の10%〜90%に圧縮されている。この熱融着状態は凹凸板の凹凸程度やプレス圧に依存する。耐摩耗強度を大きくするためには、凹凸板の凹部の内底面でも発泡層の表面を軽く押さえる程度としてもよいが、その場合は発泡層の表面の気泡痕が消失し易くなる。凹凸板の凸部は発泡層の表面を押さえるが凹部の内底面は発泡層の表面を押さえないように、凹凸板の凹部の掘り込みを大きくしておけば、発泡層の表面の気泡痕が消失しにくく、滑り止め効果にも優れることとなる。
【0021】
滑り止め手袋の一例を図1(a)(b)に示す。図中の1が繊維手袋、2が熱プレスにより凹凸を付型した発泡皮膜、3が押圧箇所、4が気泡(痕)である。
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
20dのポリウレタン(弾性繊維)を70dのウーリーナイロン(非弾性繊維)にて300T/Mでカバーリングした複合糸と、ウーリーナイロンの70d双糸2本とから編製した繊維手袋(以下第1の繊維手袋という)を準備した。またウーリーナイロンの70d双糸2本で全体を編み、指部のみに、20dのポリウレタンを70dのウーリーナイロンにて300T/Mでカバーリングした複合糸を1本追糸した繊維手袋(以下第2の繊維手袋という)を準備した。また下記の配合1のゴムコンパウンドを家庭用自動ハンドミキサーにて気泡含有量が50%となるように調整した。
【0022】
第1および第2の繊維手袋を浸漬型に被せ、各々、硝酸カルシウムのメタノール溶液に浸漬し、上記の気泡含有量50%のゴムコンパウンドに掌部(指部を含む片面の意)のみ浸漬し、75℃、10分間の熱セットを行った後、離型した。その後に、第1および第2の繊維手袋の片手を120℃、20分間熱セットした。残りの片手は、平型に被せなおしてから、2mm×3mmの長方形且つ深度0.5mmの凹部を10個/cmにて形成した凹凸板を用いて、掌部上を1kgf/cm、180℃×5秒間熱プレスし、120℃、20分間熱セットした。形成された発泡皮膜(熱プレスしなかった片手、あるいは熱プレス時に押えなかった部分)の気泡含有量がコンパウンドのそれと同等であることは比重測定により確認した。
(実施例2)
実施例1と同様の第1および第2の繊維手袋を準備した。また下記の配合2の樹脂コンパウンドを家庭用自動ハンドミキサーにて気泡含有量が50%となるように調整した。
【0023】
第1および第2の繊維手袋を平型に被せ、各々の掌部に上記の気泡含有量50%の樹脂コンパウンドをスクリーン印刷にて5mm×15mmずつ複数箇所の凸状に付着させ、その後に140℃、10分間のキュアを施した。形成された発泡皮膜の気泡含有量がコンパウンドのそれと同等であることは比重測定により確認した。
【0024】
【表1】

(比較例1)
ウーリーナイロンの70d双糸2本と70dの単糸1本とで編成した繊維手袋を用いて実施例1と同様にして発泡皮膜付き手袋を作製した。ただし配合1のゴムコンパウンドは気泡含有量0%、50%を準備した。皮膜は掌部に形成した。
(比較例2)
綿の20番手双糸2本で編成した繊維手袋を用いて実施例1と同様にして発泡皮膜付き手袋を作製した。ただし配合1のゴムコンパウンドは気泡含有量0%、50%を準備した。皮膜は掌部に形成した。
(評価)
実施例1,2および比較例1,2で作製した発泡皮膜付き手袋の各々を装着し、一定荷重(約3kg)でステンレス板に押し付けながら板面に沿う方向に手を引くことによって、手袋内面での手の滑りを評価した。結果を表1に示す。表中の記号は、◎:全く滑らない、○:滑らない、△:わずかに滑る、×:滑る、を表わす。
【0025】
また、実施例1,2および比較例1,2で作製した発泡皮膜付き手袋の各々の掌部(発泡皮膜付き部分)から試験片(63.5mm×63.5mm)を切り取り、動摩擦係数μKを求めた。この方法は、ASTM D1894に基づくもので、摩擦係数測定装置の移動重錘に試験片を取り付け、前記移動重錘をステンレス板上にて150mm/minで移動距離130mmだけ走行させ、その間の荷重を測定し、試験片とステンレス板との摩擦によって生じる走行抵抗(動摩擦係数)を次式で算出するというものである。結果を表1に示す。動摩擦係数の値が大きいほど、ゴムあるいは熱可塑性樹脂の皮膜の滑り止め効果が大きいと評価する。
【0026】
μK(動摩擦係数)=C/D
ここで、Cは均斉な走行になってからの平均荷重値(g)であり、Dは移動重錘の質量200(g)である。
【0027】
【表2】

上記の<表1>に示した比較例1、比較例2の結果から、使用したコンパウンドが同じときには、気泡含有量が多い方が動摩擦係数が大きくなり、気泡含有量も同じであれば熱プレスありの方が動摩擦係数が大きくなること、また動摩擦係数が大きいほど手袋内面で手が滑りやすいことがわかる。
【0028】
比較例1、2と同じコンパウンド(ゴム)および気泡含有量(50%)で発泡皮膜を形成した実施例1では、動摩擦係数は比較例1、2とほぼ同等であるが、手袋内面で手が滑ることはなく、繊維手袋に弾性繊維を混合したことによって滑り止め効果が大幅に向上している。
【0029】
比較例1、2、実施例1とは異なるコンパウンド(熱可塑性樹脂)で発泡皮膜を形成した実施例2では、動摩擦係数は比較例1、2、実施例1の気泡含有量(50%)のものより幾分小さいとはいえ、比較例1、2の気泡含有量(0%)のものより十分大きいのに、手袋内面で手が滑ることはなく、繊維手袋に弾性繊維を混合したことによって滑り止め効果が大幅に向上している。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の滑り止め手袋は、グリップ性が要求される分野での使用に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態における滑り止め手袋の平面図および一部断面図
【符号の説明】
【0032】
1 繊維手袋
2 発泡皮膜
3 押圧箇所
4 気泡(痕)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性繊維と非弾性繊維とにより編製された繊維手袋基材上にゴムまたは熱可塑性樹脂の発泡皮膜が形成された滑り止め手袋。
【請求項2】
弾性繊維および非弾性繊維は50d〜600d糸として用いられている請求項1記載の滑り止め手袋。

【図1】
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【公開番号】特開2008−75201(P2008−75201A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255119(P2006−255119)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(591161900)ショーワグローブ株式会社 (39)
【Fターム(参考)】