説明

滴下原液

【課題】高品質の燃料核を得ることができる滴下原液を提供すること。
【解決手段】本発明の滴下原液は、高温ガス炉用燃料核製造で使用される滴下原液であって、15℃における粘度が40×10−3〜65×10−3Pa・sである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滴下原液に関し、詳しくは、高温ガス炉用燃料核製造に使用される滴下原液に関する。
【背景技術】
【0002】
高温ガス炉は、高温ガス炉用燃料を投入する炉心構造を熱容量が大きく、高温健全性の良好な黒鉛で構成している。この高温ガス炉においては、冷却ガスとして高温下でも化学反応の起こらないヘリウムガス等の気体を用いることにより、安全性が高く、出口温度が高い場合でも冷却ガスを取り出すことが可能となっている。そのため、炉心において約900℃くらいまで上昇しても、発電はもちろん水素製造や化学プラント等、幅広い分野での安全な熱利用を可能にしている。
【0003】
一方、この高温ガス炉に投入される高温ガス炉用燃料は、一般的に、燃料核と、この燃料核の周囲に被覆された被覆層とを備えて成る。燃料核は、例えば、二酸化ウランをセラミックス状に焼結してなる直径約350〜650μmの微小粒子である。
【0004】
被覆層は、4層構造を有し、燃料核表面側より、第一層、第二層、第三層、および第四層を備えて成る。被覆層を構成する被覆粒子の直径は、例えば、約500〜1000μmである。
【0005】
第一層は、密度が約1g/cmの低密度熱分解炭素からなり、ガス状の核分裂生成物(以下、「FP」と略す場合がある。)のガス溜めとしての機能および燃料核のスウェリングを吸収するバッファとしての機能を有するものである。第二層は、密度が約1.8g/cmの高密度熱分解炭素からなり、ガス状FPの保持する機能を有するものである。
【0006】
第三層は、密度が約3.2g/cmの炭素珪素(以下、「SiC」と略す場合がある。)からなり、固体FPの保持する機能を有するものであり、被覆層の主要な強度材である。第四層は、第二層と同様の密度が約1.8g/cmの高密度熱分解炭素からなり、ガス状FPの保持する機能を有するとともに、第三層の保護層としての機能を有するものである。
【0007】
以上のような高温ガス炉用燃料は、一般的に以下のような工程を経て製造される。まず、酸化ウランの粉末を硝酸に溶かし硝酸ウラニル原液とする。次に、この硝酸ウラニル原液に純水、増粘剤を添加し、攪拌して滴下原液とする。調製された滴下原液は、所定の温度に冷却され、粘度を調製後、細径の滴下ノズルを用いてアンモニア水溶液に滴下される。
【0008】
このアンモニア水溶液に滴下された液滴は、アンモニア水溶液表面に達するまでの間に、アンモニアガスが吹きかけられる。このアンモニアガスによって、液滴表面をゲル化させるため、アンモニア水溶液表面到達時における変形を防止することができる。アンモニア水溶液中における硝酸ウラニルは、アンモニアと十分に反応し、重ウラン酸アンモニウム粒子(以下、「ADU粒子」と略する場合がある。)となる。
【0009】
この重ウラン酸アンモニウム粒子は、乾燥された後、大気中で焙焼され、三酸化ウラン粒子となる。さらに、三酸化ウラン粒子は、還元・焼結されることにより、高密度のセラミック状の二酸化ウラン粒子となる。この二酸化ウラン粒子をふるい分け、すなわち分級して、所定の粒子径を有する燃料核微粒子を得る。
【0010】
この燃料核微粒子を流動床に装荷し、被覆層を形成するためのガスを熱分解して、燃料核微粒子表面に被覆層を形成する。被覆層の第一層の低密度熱分解炭素の場合は、約1300℃でアセチレンを熱分解する。また、被覆層の第二層、第四層の高密度熱分解炭素の場合は、約1400℃でプロピレンを熱分解する。さらに、被覆層の第三層のSiCの場合は、約1500℃でメチルトリクロロシランを熱分解する。
【0011】
被覆層が形成された後、高温ガス炉用燃料は、一般的な燃料コンパクトとして成型される。この燃料コンパクトは、高温ガス炉用燃料を黒鉛粉末、粘結剤等からなる黒鉛マトリックス材とともに、中空円筒形等にプレス成型またはモールド成型したのち、焼成して得られる(非特許文献1、2参照)。
【0012】
【非特許文献1】原子炉材料ハンドブック、昭和52年10月31日発行、日刊工業新聞社発行
【0013】
【非特許文献2】原子力ハンドブック、平成7年12月20日発行、株式会社オーム社
【0014】
しかしながら、従来の高温ガス炉用燃料の製造方法においては、硝酸ウラニル原液に純水、増粘剤を添加し、攪拌して滴下原液を得ており、真球度、内部組織、ともに良好に形成された高品質の燃料核を得ることができないという不具合を生じることがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような従来の問題点を解消し、高品質の燃料核を得ることができる滴下原液を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明の滴下原液は、高温ガス炉用燃料核製造で使用される滴下原液であって、15℃における粘度が40×10−3〜65×10−3Pa・s(40〜65cPを換算した値)であることを特徴とする。
【0017】
本発明の滴下原液においては、15℃における粘度が45×10−3〜60×10−3Pa・s(45〜60cPを換算した値)であることが好ましい。
【0018】
本発明の滴下原液においては、硝酸ウラニルと水溶性環状エーテルと水溶性ポリマーとを含有してなることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、滴下原液の粘度が15℃で40×10−3〜65×10−3Pa・sであることにより、真球度の良好な滴下原液の液滴を形成することができ、これによって、この真球度の高い液滴から高品質の燃料核を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[滴下原液]
本発明の滴下原液は、高温ガス炉用燃料核製造に使用される。本発明の滴下原液は、その粘度が40×10−3〜65×10−3Pa・s(40〜65cPを換算した値)、好ましくは45×10−3〜60×10−3Pa・s(45〜60cPを換算した値)である。滴下原液の粘度が前記範囲内にあると真球度の良好な重ウラン酸アンモニウムを良好に形成することができる。一方、粘度が前記下限値よりも下回ると、形が悪くなり易く、真球度の良好な重ウラン酸アンモニウム粒子を形成することができないことがある。また粘度が前記上限値よりも大きいと、粘度が高すぎることによって、内部組織の不均一な重ウラン酸アンモニウム粒子が形成されることがある。
【0021】
このような滴下原液の粘度調整を良好に行うことのできる滴下原液としては、例えば硝酸ウラニルとテトラヒドロフルフリルアルコール等の環状エーテルとポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーとを含有し、15℃におけるその粘度が40×10−3〜65×10−3Pa・s、好ましくは45×10−3〜60×10−3Pa・sである水溶液を挙げることができる。
【0022】
硝酸ウラニルは、硝酸に酸化ウランを溶解することにより容易に形成することができる。前記硝酸は硝酸水溶液の形態で通常に使用される。硝酸水溶液の濃度としては、特に制限がなく、公知の濃度でよい。硝酸ウラニルの滴下原液における含有量としては、通常、0.6〜0.9mol−U/Lである。硝酸ウラニルの含有量が前記範囲内にあると、真球度の高い二酸化ウランを良好に再現性よく製造することができ、前記範囲を外れると、真球度の低い二酸化ウランが生成することがある。
【0023】
前記環状エーテルとしては、前記テトラヒドロフルフリルアルコールの他に、オキセタン、テトラヒドロフラン、及びジオキサン等の炭素数1〜4の水溶性環状エーテル、並びに2,5−テトラヒドロフランジメタノール等の、炭素数が1〜3のアルカノール基を前記環状エーテルに結合するアルカノール基含有水溶性環状エーテル等を挙げることができる。これら各種の環状エーテルはその一種を単独で滴下原液中に含められていても、またそれらの二種以上が滴下原液中に含められていてもよい。
【0024】
この発明において好ましい環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、テトラヒドロフルフリルアルコール及び2,5−テトラヒドロフランジメタノール等の水溶性環状エーテルを挙げることができる。
【0025】
前記環状エーテルの滴下原液全体における含有量としては、通常、40〜50体積%が好ましく、43〜47体積%がより好ましい。前記環状エーテルの滴下原液における含有量が前記範囲内にあると、真球度の高い二酸化ウランを良好に再現性よく製造することができ、前記範囲を外れると、真球度の低い二酸化ウランが生成することがある。
【0026】
前記水溶性ポリマーとしては、前記ポリビニルアルコールの他に、ポリアクリル酸ナトリウム及びポリエチレンオキシド等の合成ポリマー、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、及びエチルセルロース等のセルロース系ポリマー、可溶性でんぷん、及びカルボキシメチルでんぷん等のでんぷん系ポリマー、デキストリン、及びガラクタン等の水溶性天然高分子等を挙げることができる。
【0027】
これら各種の水溶性ポリマーはその一種を単独で滴下原液中に含められていても、またそれらの二種以上が滴下原液中に含められていてもよい。これらの中でも、水溶性ポリマーとして前記合成ポリマーが好ましく、特にポリビニルアルコールが好ましい。
【0028】
前記水溶性ポリマーの滴下原液における含有量としては、通常、10〜15g/Lが好ましい。前記水溶性ポリマーの滴下原液における含有量が前記範囲内にあると、滴下原液の粘度を良好に維持することができて真球度の高い二酸化ウランを良好に再現性よく製造することができる。含有量が10g/Lより小さい場合、真球度の低い二酸化ウランが生成することがある。一方、含有量が15g/Lを超える場合、内部組織に欠陥のある二酸化ウランを生成することがある。
【0029】
本発明に係る滴下原液は、本発明の目的を阻害しない限り、その他の成分を含有することができる。その他の成分としては増粘剤、安定化剤等を含有していてもよい。
【0030】
[滴下原液調製方法]
この発明に係る滴下原液は、例えば以下に説明する滴下原液調製方法により調製することができる。好適な滴下原液調製方法としては、図1に示されるように、硝酸ウラニル溶液と水溶性環状エーテル例えばテトラヒドロフルフリルアルコール(以下、THFAと略す場合がある。)とを混合するTHFA混合工程S10と、THFA混合工程S10により得られた混合液と水溶性ポリマー例えばポリビニルアルコール溶液(以下、PVA溶液と略す場合がある。)とを混合するPVA溶液混合工程S20とを有する方法が好ましい。
【0031】
場合によっては、硝酸ウラニル溶液とTHFA等の環状エーテルとPVA溶液等の水溶性ポリマー溶液とを同時に混合する方法、硝酸ウラニルと水溶性ポリマー溶液とを混合し、次いで環状エーテルを添加混合する方法によってもこの発明に係る滴下原液を調製することができる。以下においては好適な方法を例示しながらこの発明に係る滴下原液の製造方法について説明する。
【0032】
[THFA混合工程S10]
THFA混合工程S10は、硝酸ウラニル溶液と環状エーテル例えばTHFAとを混合する工程である。
【0033】
上記硝酸ウラニル溶液は、酸化ウランの粉末を硝酸に溶解して得られる。硝酸ウラニル溶液の調製方法、硝酸ウラニル溶液における酸化ウランの濃度等については、従来から公知であるから、この発明においても公知の手法にしたがって公知の濃度範囲にある硝酸ウラニル溶液が調製されるが、通常の場合には、最終的に得られる滴下原液中のウラン濃度が0.6〜0.9mol−U/Lとなるように適宜に決定される。
【0034】
前記硝酸ウラニル溶液と環状エーテル例えばTHFAとの混合は、15℃以下に冷却しながら行うのが好ましい。混合操作は、滴下原液を調製する貯留槽で行うのが好ましく、その貯留槽は、硝酸ウラニル溶液と環状エーテルとの攪拌を、約15℃以下に冷却、保持しつつ実行可能な装置であればよい。
【0035】
硝酸ウラニル溶液に対する水溶性環状エーテル例えばTHFAの添加量は、滴下原液全体の40〜50体積%になるように添加することが好ましい。なお、滴下原液全体の40〜50体積%になるように添加することは、THFA混合工程S10およびPVA溶液混合工程S20における添加量全体を意味する。
【0036】
ここで、THFA等の水溶性環状エーテルを滴下原液全体の40体積%未満になるように添加すると、真球度の高い液滴を得ることができないことがある。一方、THFA等の水溶性環状エーテルを滴下原液全体の50体積%を超えるように添加すると、真球度の高い液滴を得ることができないことがある。なお、この水溶性環状エーテルは、その一部を水溶性ポリマーとともに硝酸ウラニル溶液と混合するのが、好ましい。
【0037】
つまり、後述するようなPVA溶液混合工程S20において、硝酸ウラニル溶液と水溶性環状エーテルとを混合した混合溶液と、水溶性環状エーテル及び水溶性ポリマーを含有する水溶性ポリマー水溶液とを混合するのも、好ましい方法である。このように水溶性ポリマー水溶液に一部の水溶性環状エーテル例えばTHFAを含有させると、水溶性環状エーテル及び水溶性ポリマーを滴下原液中に均一に分散することができる。水溶性環状エーテルをポリマー溶液に含有させる場合は、滴下原液中に含有させようとする水溶性環状エーテルの含有量の1〜50質量%が好適であり、30〜40質量%がより好適である。
【0038】
[PVA溶液混合工程S20]
PVA溶液混合工程S20は、THFA混合工程S10により得られた混合液と、PVA溶液等の水溶性ポリマー溶液とを混合する工程である。
【0039】
水溶性ポリマー溶液としては、水溶性ポリマーを含有する水溶液を挙げることができ、水溶性ポリマー水溶液と水溶性環状エーテルとの混合溶液を好適例として挙げることができる。
【0040】
滴下原液中の水溶性ポリマーの含有量が前述した範囲内にあるように、水溶性ポリマー溶液における水溶性ポリマーの濃度及び水溶性ポリマーの添加量が決定される。
【0041】
PVA水溶液を滴下原液全体の15〜20体積%となるように添加することが好ましい。ここで、PVA溶液を滴下原液全体の15体積%未満になるように添加すると、滴下原液の粘度が低くなり、滴下時に、例えば、アンモニア水への衝撃により粒子が変形するという不利を生じることがある。PVA溶液を滴下原液全体の20体積%を超えるように添加すると、滴下後に得られる重ウラン酸アンモニウム粒子(ADU粒子)の組織が不均一になるという不具合を生じることがある。
【0042】
この滴下原液調製方法においては、前記PVA水溶液は、6〜9質量%の濃度を有するポリビニルアルコール水溶液が好ましい。PVAの濃度が上記下限値よりも低いと所望する真球度の液滴を調製することができなくなることがあり、またPVAの濃度が上記上限値を越えると、燃料核内部にクラック等の欠陥を生ずる場合がある。
【0043】
また、この滴下原液調製方法においては、前記THFA混合工程において、添加するTHFAは、滴下原液に添加されるTHFA全体の50〜99体積%であり、前記PVA溶液混合工程において、前記PVA溶液中に含まれるTHFAは、滴下原液に添加されるTHFA全体の50〜1体積%であることが好ましい。ここで、THFAが上記の範囲内であると、真球度および内部組織が良好となり、より一層、高品質の燃料核を得ることができる。
【0044】
[体積調整工程S30]
体積調整工程S30は、PVA溶液混合工程S20後、混合された溶液に対するガス抜きおよび純水添加をして体積調整を行う工程である。
【0045】
体積調製後の滴下原液のウラン濃度は、0.6〜0.9mol−U/Lであることが好ましい。ここで、体積調整後の滴下原液のウラン濃度が、0.6mol−U/L未満であると、バッチ当たりのウラン量が少なくなる場合がある。また、滴下時間が増大する場合がある。一方、体積調整後の滴下原液のウラン濃度が、0.9mol−U/Lを超えると、増粘剤の添加量が相対的に少なくなり、真球度等の燃料核の品質に影響を与えることがある。
【0046】
[燃料核の製造手順]
以上のような滴下原液調製方法で、調製された滴下原液は、所定の温度に冷却され上記粘度に調製後、細径の滴下ノズルを用いてアンモニア水溶液に滴下される。
【0047】
このアンモニア水溶液に滴下された液滴は、アンモニア水溶液表面に達するまでの間に、アンモニアガスを吹きかけられる。このアンモニアガスによって、液滴表面をゲル化させるため、アンモニア水溶液表面到達時における変形を防止することができる。アンモニア水溶液中における硝酸ウラニルは、アンモニアと十分に反応し、重ウラン酸アンモニウム粒子(ADU粒子)となる。
【0048】
この重ウラン酸アンモニウム粒子は、乾燥された後、大気中で焙焼され、三酸化ウラン粒子となる。さらに、三酸化ウラン粒子は、還元・焼結されることにより、高密度のセラミック状の二酸化ウラン粒子となる。この二酸化ウラン粒子をふるい分け、すなわち分級して、所定の粒子径を有する燃料核を得る。
【0049】
[高温ガス炉用燃料]
なお、この燃料核を使用してなる高温ガス炉用燃料は、以下のような構造を有している。高温ガス炉用燃料は、燃料核と、この燃料核の周囲に被覆された被覆層とを備えて成る。燃料核は、上記のようにして得られた二酸化ウラン粒子をセラミックス状に焼結してなる。
【0050】
また、被覆層は、4層構造を有し、燃料核表面側より、第一層、第二層、第三層、および第四層とを備えて成る。被覆層を構成する被覆粒子の直径は、例えば、約500〜1000μmである。
【0051】
第一層は、密度が約1g/cmの低密度熱分解炭素からなり、ガス状の核分裂生成物(以下、「FP」と略す場合がある。)のガス溜めとしての機能および燃料核のスウェリングを吸収するバッファとしての機能を有するものである。
【0052】
第二層は、密度が約1.8g/cmの高密度熱分解炭素からなり、ガス状FPの保持する機能を有するものである。第三層は、密度が約3.2g/cmの炭素珪素からなり、固体FPの保持する機能を有するものであり、被覆層の主要な強度材である。第四層は、第二層と同様の密度が約1.8g/cmの高密度熱分解炭素からなり、ガス状FPの保持する機能を有するとともに、第三層の保護層としての機能を有するものである。
【0053】
[高温ガス炉用燃料の製造手順]
高温ガス炉用燃料の製造手順は、以下のとおりである。まず、上記のようにして得られた二酸化ウラン粒子を流動床に装荷し、被覆層を形成するためのガスを熱分解して、高温ガス炉用燃料核微粒子としての二酸化ウラン粒子表面に被覆層を形成する。被覆層の第一層の低密度熱分解炭素の場合は、約1400℃でアセチレンを熱分解する。
【0054】
また、被覆層の第二層、第四層の高密度熱分解炭素の場合は、約1400℃でプロピレンを熱分解する。さらに、被覆層の第三層の炭素珪素の場合は、約1500〜1700℃でメチルトリクロロシランを熱分解する。
【0055】
以上の被覆層が形成された後、高温ガス炉用燃料は、一般的な燃料コンパクトとして成型される。この燃料コンパクトは、高温ガス炉用燃料を黒鉛粉末、粘結剤等からなる黒鉛マトリックス材とともに、中空円筒形等にプレス成型またはモールド成型したのち、焼成して得られる。
【0056】
上述のような本実施形態によれば、次のような効果がある。
(1)滴下原液の粘度が40×10−3〜65×10−3Pa・sであることにより、滴下原液の真球度、内部組成が不均一となることがなく、滴下原液の滴下時に不都合が生ずることがないので、高品質の燃料核を得ることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は実施例の内容に限定されるものではない。前記実施形態において、以下の具体的条件で、滴下原液を調製した。この条件は、滴下原液の粘度が52×10−3Pa・s(52cPを換算した値)である場合である。
THFAの滴下原液全体の割合 :45体積%
PVA溶液の滴下原液全体の割合 :18体積%
PVA溶液の溶解時間 :90分
PVA溶液の保管時間 :60分
PVA溶液中のポリビニルアルコール水溶液の濃度 :7.3質量%
PVA溶液中に含まれる滴下原液全体のTHFA量
に対するTHFAの濃度 :37体積%
体積調製後の滴下原液のウラン濃度割合 :0.76mol/L
体積調製後の硝酸とウランとのモル比 :2.3
【0058】
さらに、条件を変えて、様々な粘度の滴下原液を作製した。そして、前記実施形態のように、燃料核を製造した。なお、滴下原液の粘度は、振動式粘度計である山一電機(株)製ビスコメントVM−1A−Lを使用して、測定した。
【0059】
[評価方法および評価結果]
実施例で得られた滴下原液を使用して得られた重ウラン酸アンモニウム粒子(ADU粒子)の内部組織の評価を行った。
【0060】
また、得られた重ウラン酸アンモニウム粒子を、乾燥した後、大気中で焙焼して、三酸化ウラン粒子とした。さらに、三酸化ウラン粒子を、還元・焼結して、高密度のセラミック状の二酸化ウラン粒子とした。この二酸化ウラン粒子をふるい分け、すなわち分級して、所定の粒子径を有する燃料核(二酸化ウラン粒子)を得た。その後、得られた燃料核(二酸化ウラン粒子)を用いて、真球度の評価を行った。また、様々な粘度における燃料核を分級後に、歩留まりの評価を行った。
【0061】
[ADU粒子の内部組織の評価方法]
得られたADU粒子を研磨し、ADU粒子の横断面を観察し、目視により、クラック等の有無を判断することにより、内部組織の評価を行った。その裁断面を観察したところ、均一な内部組織が形成されていることを確認した(図2参照)。
【0062】
[燃料核の真球度の評価方法]
PSA法によって、燃料核(二酸化ウラン粒子)の真球度の評価を行った。PSA法とは、図3に示されるように、フォトダイオード、スリット、光源を使用する方法である。光源から照射された光がスリットを通過し、フォトダイオードおよびスリットの間を動く燃料核(二酸化ウラン粒子)の陰影をフォトダイオードにより測定する。フォトダイオードにより測定された燃料核(二酸化ウラン粒子)の陰影により粒子の直径が求められる。以上の測定を燃料核(二酸化ウラン粒子)のあらゆる方向に関して行うことにより、燃料核(二酸化ウラン粒子)の真球度が求められる。
【0063】
このPSA法により、1粒子につき、50回直径を測定し、最大直径/最小直径の比により、100粒子について真球度を求めた。例えば、真球度1.2以下の粒子が、全体の95%以上あれば、真球度は良好であると判断される。
【0064】
[燃料核の歩留まりの評価]
歩留まりの評価は、以下の式に基づいて行った。なお、この評価結果を図4に示す。
【0065】
【数1】

【0066】
ここで、得られた燃料核粒子に対して、外径選別と真球度選別を行う。外径選別は、篩い目の大きさを変えて、篩い作業を燃料核粒子に対して実施し、所定の外径範囲内になった燃料核を合格とした。真球度選別は、振動をかけた微少角度傾けた面に対し、燃料核粒子を供給し、真球度の良好な燃料核粒子が、垂直に落下することを利用した作業であり、上記のように、垂直に落下した燃料核粒子を合格とした。
【0067】
以上のように、重ウラン酸アンモニウム粒子(ADU粒子)の内部組織、真球度の評価を行った結果、良好な重ウラン酸アンモニウム粒子(ADU粒子)が得られたことが分かった。さらに、図4によれば、滴下原液の粘度が約40×10−3〜65×10−3Pa・s(40〜65cPを換算した値)の範囲内で歩留まりがよいことがわかった。これにより、本発明に係る滴下原液を用いれば、高品質の高品質の燃料核を得ることができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、滴下原液調製方法のフローチャートを示している。
【図2】図2は、実施例で得られた重ウラン酸アンモニウム粒子の裁断面の写真である。
【図3】図3は、燃料核の真球度を評価する方法を示す概略図である。
【図4】図4は、燃料核の歩留まりと滴下原液の粘度との関係を示すグラフを示している。
【符号の説明】
【0069】
S10 THFA混合工程
S20 PVA溶液混合工程
S30 体積調整工程



【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温ガス炉用燃料核製造で使用される滴下原液であって、15℃における粘度が40×10−3〜65×10−3Pa・sであることを特徴とする滴下原液。
【請求項2】
15℃における粘度が45×10−3〜60×10−3Pa・sであることを特徴とする前記請求項1記載の滴下原液。
【請求項3】
硝酸ウラニルと水溶性環状エーテルと水溶性ポリマーとを含有してなる前記請求項1又は2に記載の滴下原液。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate