説明

漂白方法および該方法によって加工されたインジゴ染色生地

【課題】中古感を付与できるインジゴ染色生地の加工方法、および中古感を付与されたインジゴ染色生地の提供。
【解決手段】ナトリウム、マグネシウム、カルシウムの金属イオン及び塩素イオンを含有する水溶液であって、海水またはナトリウム、マグネシウム、カルシウムの金属塩を水に溶かした水溶液に、インジゴ染色生地を浸漬し、ペルオキソ硫酸塩類を添加することにより、黄緑色・緑青色系に深くくすんだ色相にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は染色物を海水・複数の金属イオンを含有する水溶液を使った漂白方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インジゴや化学染料により染色されたブルージーンズでは濃淡のコントラストが使い古しの感じ(中古感)として好まれている。中古感を出し商品価値を上げるため、新しい商品をわざわざ洗ったり、こすったり、薬品で色を落としたりして、実際に着古した中古感を出す中古加工が実施されている。
【0003】
ストーンウオッシュ加工の物理系加工か、バイオウォッシュのバイオ系の加工で漂白する場合には、濃色から中色までの展開しか出来ない。一方、工業用の漂白剤を使用すると、その色相は、ブルージーンズ場合に純な青色を基調とした色相変化を濃色から淡色までを表現できる。
【0004】
工業用の漂白剤として、次亜塩素酸ナトリウム、過マンガン酸カリ、ハイドロサルファイトなどが知られている。このうち次亜塩素酸ナトリウムは、安価な薬品であり広く使用されているが、繊維の繊維内部に浸透し、引裂き強度を低下させたり、緯糸に使用されているウレタン素材の弾性を低下させたりする要因になることが知られている。このため、強度軽減薬剤を使用する対策を必要とする。
また、次亜塩素酸ナトリウムによる漂白では、インジゴの発色が薄くなるだけである。くすみによる中古感を出するため、さらに工業用の上掛染料が使用して黄味のある染色を行う。
【0005】
しかしながら、くすみ感の変化のために工業用染料を使って染色すると、織物の緯糸を着色してしまい、本当の中古感が表現しにくい商品になる事がある。つまり、ジーンズを裏返すと緯糸が見えるが、緯糸はインジゴ染料による染色をされていない状態で、工業用染料の染色を受けてしまうので、全体的な中古感を出せずに不自然な状態となる。
またくすみによる中古感を出す別の方法として、ロープ染色の際に予めインジゴ以外の工業用の染料を混合して色相の変化をするような工夫も行われている。この染色方法においても、工業用染料を処理するために排水処理にコストがかかるという問題がある。
【0006】
特許文献1には、短時間かつ低コストで容易にインジゴ染色生地表面におけるよくこすられた部分とあまりこすられていない部分との間で比較的大きい濃淡のコントラストを出して優れた中古感を付与する例が示されている。
この方法においては、塩化マグネシウムと有機酸とを併用して漂白して中古感を得るものである。使用される有機酸は分子中、1個以上、好ましくは2個以上、より好ましくは2〜3個のカルボキシル基を有する有機化合物であり、特にクン酸、シュウ酸を使用することが開示されている。この方法によれば、デニム生地は色相がやや黒味を帯びてメリハリの利いたアタリ(比較的大きい濃淡のコントラスト)が得られるというものである。
【0007】
また、特許文献2においては、窒素系酸化剤を用いて漂白して中古感を得るものが開示されており、窒素系酸化剤の例として、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウムあるいは亜硝酸カルシウムとが示されている。この特許文献2によれば、窒素酸化物が、インジゴ染料に対して作用してデニム生地は色相をやや黄味を帯びた色相に変化させている。
【特許文献1】特開平11−200261号公報
【特許文献2】特開2003−268683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ファッショントレンドして、エコロジー・天然といったテーマがある。綿花のオーガニックコットン(R)ナチュラルダイ草木染料などの天然素材を使った商品が多く出ているが、中古感のある製品染色においては、テーマに沿った加工方法がないまま現在にいたっている。
尚、エコロジー・天然といった観点からすると、海晒しという古来の漂白方法もあるが、日光が海面に当たりこれにより発生するオゾンの漂白作用を利用するものであり、くすみ感を出すような色相の変化をもたらすものではない。
本発明は、天然に存在する素材を利用して、黄緑色・緑青色系に深くくすんだ色相に変化させる漂白方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、エコロジー・天然といったテーマを探求するなかで、海水を使った漂白作用に着目し検討を重ねたところ、海水にペルオキソ硫酸塩類を添加することにより、黄緑色・緑青色系に深くくすんだ色相に変化させることを見出した。いずれも、インジゴの色相から黄色がかったくすみへと変化している。
反応の仕組みを種々検討した結果、目的の色相変化に多く影響するのは、海水の成分中で特にナトリウム、マグネシウム、カルシウムの金属イオンと塩素イオンが有効と推定し、その効果を検査した結果、色相変化に対して有効である事を見出した。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、化学染料の染色された染色物、インジゴが有する本来の色素と海水などのミネラル分とが、液中で接触反応する事で深く、くすんだ色相変化加工として、従来とは違う漂白・ブリーチ加工方法となる。加工中の色相はインジゴでは、変化の流れとして群青・黄緑・黄色茶・黄色などの色変化をし、ブラックデニムなどでは、焦げ茶・茶・黄茶の変化をするものとなる。化学染料で最終的な調整をしなくても、古着の商品力ラー、ビンテージカラーに近い色相にできるという効果がある。緯糸が不自然に染まるという問題も生じない。
また、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムの金属イオンと塩素イオンとを含有する水溶液として天然の海水を使用することにより、エコロジー加工としてニーズの要求に応えるものである。
また、次亜塩素酸ナトリウムにより漂白したように引裂き強度、ウレタン伸度の低下を引き起こすこともない。
本発明による色相の変化は、インジゴ染料に限らず、化学染料にも適用できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本実施例において説明するデニムは、化学染料またはインジゴによって染色された綿糸を経糸、未染色の綿糸(生糸)を緯糸としてあや織した生地である。デニムは公知の加工処理、例えば、毛焼き処理、湯通し処理、ねじれ防止処理、防縮処理等を施されたものを用いてもよいし、織った直後の未処理ものを用いてもよい。
【0012】
本実施例において使用される水溶液は、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムの金属イオンと塩素イオンとを含有する水溶液であって、海水又はナトリウム、マグネシウム、カルシウムの金属塩を水に溶かした水溶液である。
【0013】
水溶液中における濃度は、得ようとする中古感の条件により適宜、選定・調製する。
この濃度を実現するにあたり、天然の海水を適当に希釈することにより、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンの濃度を調整することができる。
こうしてできた水溶液100リットルに対して、濃度が0.05から0.5%(g/l)となるようにペルオキソ硫酸塩類を加える。ペルオキソ硫酸塩類としてはペルオキソ一硫酸塩、ペルオキソ二硫酸塩があり、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0014】
本実施例においてはペルオキソ硫酸塩の水溶液濃度を調節することによって、濃淡のコントラストの程度を制御可能である。すなわち、ペルオキソ硫酸塩の水溶液濃度を高くすると濃淡のコントラストは大きくなる。一方、ペルオキソ硫酸塩の水溶液濃度を低くすると濃淡のコントラストは小さくなる。水溶液の温度は摂氏40度〜50度であることが好ましい。
【0015】
インジゴ染色物は、複数の金属イオンと塩素イオンを含有する水溶液で、ペルオキソ硫酸塩類を添加した酸性条件下で漂白加工され、マグネシウム、カルシウムの金属イオンにより黄色を基調としたくすんだ色相変化を呈する。
【0016】
以下に、実験例を数例示すが、いずれもインジゴによる染色物の縦糸糊を洗い流しておき、製品加工で使用されているロータリーウォッシャーあるいは、ランドリーウォッシャーに水を入れて、その中に海水または、複数の金属イオンや塩素イオンを含有する水溶液を入れてから回転させ、ペルオキソ硫酸塩類を投入する事により色相変化を進めるものである。変化は凡そ30分の間に起こるので、目的の色相になるまで変化を進ませる。
【0017】
(実施例1)
瀬戸内海海水を運び持ち帰り、ロータリーウォッシャに100%の濃度にてポンプで投入する。この中にインジゴによる染色物を投入した後、水温を40度〜50度に調整する。そのまま回転しながら約10分後に濃度が0.1%から0.5%となるようにペルオキソ硫酸塩類を投入して15分〜30分の間に色合わせの時間調整をして行く。
尚、瀬戸内海の海水は、成分分析によると下記の表の通りとなる。
【0018】
【表1】

【0019】
(実施例2)
四国の高知室戸市より海洋深層水(室戸海洋深層水)を運び持ち帰り、ロータリーウォッシャに100%、50%、30%、15%の濃度に調整するようにポンプで投入する。最終的に800リットルになるように調液する、この中にインジゴによる染色物を入れた後、水温を40度〜50度に調整。そのまま回転しながら約10分後に濃度が0.1%から0.5%となるようにペルオキソ硫酸塩類を投入して15分〜30分の間に色合わせの時間調整をして行く。
尚、使用した海洋深層水について成分分析した結果、下記の表2に示す通りである。
【0020】
【表2】

【0021】
色確認後は、中和工程に進み、色相安定を計る。
【0022】
(比較例1)
ロータリーウォッシャに水800リットルにインジゴの染色物を投入して水温を40度〜50度の温度調整した後に、投入口より塩化ナトリウムを40キログラム投入し溶解させた。その後、10分後に再度投入口にペルオキソ硫酸塩類0.8キログラムから0.5キログラムを投入して色素変化を確認した。
【0023】
(比較例2)
中古感を出す従来手法を実施した。具体的には、後述の比較例3により漂白した染色物を工業用染料で染色を行った。
【0024】
(比較例3)
次亜塩素酸ナトリウムにより漂白を行ったものを他の実施例、比較例との検討のために作成した。
以上の実験例、比較例により得られた色相を測定した結果を下記表3に示す。色差は測色機Macbeth Color eye 3100を使用し光源D65にて測定し、2視野10nm間隔にて測定した。
【0025】
【表3】

【0026】
以上の結果によれば、ナトリウム単独では、ペルオキソ硫酸塩類を加えても、次亜塩素酸ナトリウムにより漂白したものを工業用染料で染色した場合(比較例2)と比べて、色相の変化小さいものとなる。
ナトリウム単独の場合と比較すると、カルシウムイオン、マグネシウムイオンが存在する場合は、これらがインジゴ染料と反応し、不溶性の色素を形成して繊維と結び付き、これをペルオキソ硫酸塩類の酸化作用により、中古感のある黄緑色・緑青色系に深くくすんだ色相に変化させたものと考えられる。
【0027】
実験例2の室戸海洋深層水は海水中のミネラル成分が多いので、実験例1の瀬戸内海海水100%と比べて、濃度50%でもくすみ感としてはより深いものとなる。
一方で、室戸海洋深層水15%では、比較例2の染色物を工業用染料で染色した場合と同程度の色相となったが、染色物の裏側を見ると、比較例2においては緯糸が不自然な黄色に着色されているのに対して、そのような着色は見られず自然な中古感が得られている。
【0028】
以上の実験結果により、室戸海洋深層水15%以上のものは、より古着カラー或いはビンテージカラーに近くなっている。
以上の実験例において、天然資材海水を利用して、他の工業薬品を使わないストーウォッシュ、バイオウォッシュの表現よりも大きな色相変化、濃度変化を生む効果が確認できた。天然海水を使用することで、エコロジー加工としてニーズの要求に応えることができる。
【0029】
天然海水の成分は場所、深度により異なるが平均的の海水の成分は下記表4の通りである。この成分分析によると、実験に用いた瀬戸内海海水、室戸海洋深層水を採取した場所以外の場所の海水においても、色相の差こそあれ同様な結果を導くことが予想される。
【0030】
【表4】

【0031】
上記の実験結果により、工業用のナトリウム、マグネシウム、カルシウムを溶解した水溶液を海水の代わりに利用して、人口的に海水を作る場合の重量は、水1リットルに対して次の通りとすればよい。
ナトリウム 2.4×103〜1.6×104ミリグラム
マグネシウム 2.7×102〜1.8×103ミリグラム
カルシウム 1.3×101〜9.0×102ミリグラムグラム
【0032】
上記、マグネシウムおよびカルシウムをナトリウムとともに存在させて人工的に海洋深層水を作り、これにペルオキソ硫酸塩類を加えて確認を行った。色相についての測定は行っていないが、目視による確認において、海水で得られた結果と同様な中古感のある漂白を実現することができた。
本実施例により得られた染色物の繊維強度試験を行った結果を下記表5に示す。
【0033】
【表5】

【0034】
この表によれば、漂白剤として一般に使用されている次亜塩素酸ナトリウムに比べて、経糸及び緯糸ともに引裂き強度の劣化は少なく、特にウレタン素材を使用している緯糸については、大幅に改善されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色物をナトリウム、マグネシウム、カルシウムの金属イオンと塩素イオンを含有する水溶液に浸漬し、ペルオキソ硫酸塩類を添加して行うことを特徴とする漂白方法。
【請求項2】
ナトリウム、マグネシウム、カルシウムの金属イオンと塩素イオンを含有する水溶液は、海水であることを特徴とする請求項1記載の漂白方法。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載の方法によって加工されたインジゴ染色生地。
【請求項4】
マグネシウムイオン及びカルシウムイオンにより発色していることを特徴とするインジゴ染色生地。

【公開番号】特開2009−144270(P2009−144270A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320634(P2007−320634)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(507407685)株式会社四川 (1)
【Fターム(参考)】