説明

漏電遮断器

【課題】 電圧極および中性極を一方の筐体に、漏電検出部分を他方の筐体にそれぞれ収納し、かつ中性極にもアーク走行方式に係わる部材を配設する、といった部品配置構成を変更することなく、組立が容易な2極1素子形の漏電遮断器を得る。
【解決手段】 中性極の可動接触子と中性極の負荷導体を接続する可撓電線を零相変流器に貫通させるとともに、この可撓電線の可動接触子との接合部に近い側で可撓電線に固着された導電性パイプが消弧室の上部に配設されるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、零相変流器により漏電の検出を行う、特に電灯分電盤などに使用される漏電遮断器に関し、詳しくは電圧極および中性極を一方の筐体に収納し、漏電検出部分を他方の筐体に収納するように構成された2極1素子形漏電遮断器の組立方法の改善に関するものである。
【背景技術】
【0002】
漏電遮断器は一例として国際規格(IEC)では、過電流素子を内蔵したもの(esidual urrent operated circuit−reakers with integral vercurrent protection、略称RCBOs)と過電流素子を持たないもの(esidual urrent operated ircuit−reakers without integral overcurrent protection、略称RCCBs)に大別することができるが、RCBOsの場合、配線用遮断器と同様、過電流引き外し素子を具備することはもちろんのこと、短絡電流のような大電流を遮断して電路の焼損などを未然に防ぐことも求められるのは言うまでもない。
【0003】
この大電流の遮断に関しては、特に過電流引き外し素子を経由する、いわゆる通常の電流経路とは別に、遮断時に発生したアークを、該漏電遮断器に配設した消弧室へ電磁反発力を利用しながら導かせ、このアークによる電流経路を確保しつつ、最終的には消弧室でアークを裁断することが広く知られている。なお、この遮断方式は、一般にはアーク走行方式と呼ばれている。
【0004】
ところで、2極の漏電遮断器は、配電路のうち、電圧極から負荷へ、そしてこの負荷から中性極に戻る配線上に配設されるケースが多いが、このケースでは、前述した過電流素子は少なくとも電圧極側に具備されていれば良い。このような漏電遮断器は通常、2極1素子形と呼ばれている。なお、この2極1素子形であっても、前述したアーク走行方式に係わる部材は、電圧極側はもちろんのこと、中性極側にも具備されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−184294号公報(図1、図2および図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の漏電遮断器では、電圧極および中性極を一方の筐体に、漏電検出部分を他方の筐体にそれぞれ収納するとともに、中性極にもアーク走行方式に係わる部材を必要とする、といった制約があるため、特に中性極の電路を複数の部材によって構成せざるを得ず、組立の繁雑さによるコストアップが発生していた。
【0007】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、電圧極および中性極を一方の筐体に、漏電検出部分を他方の筐体にそれぞれ収納し、かつ中性極にもアーク走行方式に係わる部材を配設する、といった部品配置構成を変更することなく、組立が容易な漏電遮断器を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る漏電遮断器においては、カバー、中ベース、およびベースよりなる絶縁筐体と、外部から開閉操作可能な取っ手部を有するハンドルと、上記絶縁筐体の内部に装着され固定接点を有する固定子と、この固定子に対向して接離する可動接触子と、この可動接触子を駆動する開閉機構部と、過電流に応動して上記開閉機構部を作動させる電磁石装置と、主回路の漏電電流を検出する零相変流器と、この零相変流器で検出した信号に応動して上記開閉機構部を作動させる引き外しコイルと、上記可動接触子が駆動された際に発生するアークを裁断する消弧室とを備えた漏電遮断器において、上記絶縁筐体の内部に装着された負荷導体と、上記可動接触子が可撓電線で接続され、かつこの可撓電線が上記消弧室の近傍に配設されるように構成したものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明は以上説明したように、高遮断性能を有しながら、簡素で安価な2極1素子形漏電遮断器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1における漏電遮断器の開状態(以下、OFFと略す)を示す外観斜視図、図2は図1においてカバーおよび漏電用中ベースを除去しA方向から見た側面図、図3は図1においてベースを除去しB方向から見た側面図である。なお、便宜上、図2を電圧極側面図、図3を中性極側面図、とそれぞれ呼ぶこととする。
【0011】
図4は閉状態(以下、ONと略す)における、また図5は短絡発生時における、それぞれ中性極の消弧室を中心とした拡大図であり、いずれも矢印は、各状態における電流経路を示している。また、図5については、電流経路をわかり易くするため、可撓電線の一部およびパイプは断面形状で表している。なお、図6は図1においてカバーを除去しA方向から見た側面図であり、便宜上、漏電部側面図と呼ぶこととする。
【0012】
図1において、カバー1、漏電用中ベース2、中ベース3、およびベース4は漏電遮断器101の筐体を構成するものであり、それぞれ合成樹脂で形成されている。中ベース3に後述する開閉機構部が収納されており、この開閉機構部に連動するハンドル5が、中ベース3のハンドル用窓孔3aから中ベース3の表面に突出しており、外部から手によって操作可能であることは周知の通りである。なお、紙面上、手前側が電源側端子締付用孔6、奥行側が負荷側端子締付用孔7であることから、ハンドル5はOFF状態を示していることも、やはり周知の通りである。
【0013】
漏電用中ベース2には、漏電動作に必要な、後述する引き外しコイルや零相変流器が収納されており、この引き外しコイルに連動する図示しない漏電表示片が漏電表示窓2aの位置に移動することで、漏電遮断器101が漏電遮断を行ったことを外部に知らしめることは周知の通りである。また、8は漏電テストボタンであるが、これら漏電表示窓2aや漏電テストボタン8は、本発明の要部をなすものではないため、その詳しい説明は省略する。なお、この実施の形態1においては、同一線上に配設される各締付用孔6aおよび7aは電圧極に相当する電路が、6bおよび7bは中性極に相当する電路が、それぞれ接続されることになる。以下、それぞれの極について、電源側から負荷側に至る電流経路について詳しく説明する。
【0014】
まず電圧極について、図2に基づき説明する。図示しない例えば電源側電線が電源側端子9に挿入され、電源側端子締付用孔6aより締付ネジ10にて固定子11と接続される。この固定子11には固定接点12が設けられており、ON状態、すなわち、ハンドル5を紙面上、反時計方向に回動させることで、開閉機構部102とともに連動する可動接触子13と接触することになる。したがって、電流は、固定子11、固定接点12、可動接触子13の順に流れ、以下、可撓電線14、短絡発生時に動作する電磁石装置103を構成するコイル15を流れる。
【0015】
コイル15の終端15aは図6に示すように、漏電用中ベース2の内壁2bから突出しており、この終端15aには零相変流器16を貫通する貫通導体17が固着されている。この貫通導体17は、再度図2に示すように、過電流引き外し装置104を構成するバイメタル18に固着されており、以下、負荷導体19、負荷側端子20に挿入され、負荷側端子締付用孔7aより締付ネジ10にて負荷導体19と接続される図示しない例えば負荷側電線を流れる。
【0016】
続いて中性極について、図3に基づき説明する。図示しない例えば電源側電線が電源側端子21に挿入され、電源側端子締付用穴6bより締付ネジ10にて固定子22と接続される。この固定子22には固定接点23が設けられており、ON状態、すなわち、ハンドル5を紙面上、時計方向に回動させることで、電圧極と同様、開閉機構部102とともに連動する可動接触子24と接触することになる。この可動接触子24には可撓電線25が固着されているため、電流は、固定子22、固定接点23、可動接触子24、可撓電線25の順に流れる。
【0017】
可撓電線25は図2からもわかるように電圧極側を横断し、さらに図6に示すように零相変流器16を貫通する貫通導体の役目も兼ねていることがわかる。この可撓電線25は、漏電用中ベース2の内壁2bから突出している負荷導体26に固着しており、以下、この負荷導体26、再度図3に示すように、負荷側端子27に挿入され、負荷側端子締付用孔7bより締付ネジ10にて負荷導体26と接続される図示しない例えば負荷側電線を流れる。
【0018】
前述したON状態において過電流が発生すると、図2に示すバイメタル18が負荷導体19との固着点を支点に紙面上、時計方向に回動することで、トリップカム28も時計方向に回動し、このトリップカム28の突起28aが、ラッチ29とUピン30の係合を解除する。すると、ラッチ29によって得られた、可動接触子13(中性極は可動接触子24)の固定接点12(中性極は固定接点23)に対する押圧力の保持が解除され、図2(および図3)に示すように、OFF状態になることは周知の通りである。なお、このラッチ29を中心とした開閉機構部102の一連の動作は、この発明の要部をなすものではないため、詳しい説明は省略する。
【0019】
次に、ON状態において短絡が発生すると、コイル15によって発生する磁束によって、プランジャ31が図2紙面上、右方向に移動し、前述した過電流発生時と同様、ラッチ29とUピン30の係合が解除され、可動接触子13(中性極は可動接触子24)を固定接点12(中性極は固定接点23)から開離させる。やはり、この際の開閉機構部102の一連の動作は、この発明の要部をなすものではないため、詳しい説明は省略するが、固定接点12(中性極は固定接点23)と可動接触子13(中性極は可動接触子24)に発生するアークのアーク走行方式による消滅は、この発明の要部をなすものであるため、以下に詳しく説明する。
【0020】
まず電圧極については、固定接点12と可動接触子13間に発生したアークは、固定子11とアークランナー32間に移設するが、このとき、固定子11の先端部11aへの電流の向きと、消弧室33を構成する図2紙面上、下端部のグリッド33aから上端部のグリッド33bへの電流の向きが、異方向であることによる発生する磁界の反発力、および、この下端部のグリッド33aから上端部のグリッド33bへの電流の向きと、アークランナー32のUターン部32aへの電流の向きが、異方向であることによる発生する磁界の反発力により、アークは消弧室33に導かれる。
【0021】
したがって、通常時の電流経路が、前述したように、固定子11→固定接点12→可動接触子13→可撓電線14→コイル15→貫通導体17→バイメタル18→負荷導体19でありながら、短絡発生時に限って、固定子11とアークランナー32間のアーク、およびこのアークランナー32が図2からもわかるように負荷導体19に固着されていることから、固定子11→アークランナー32→負荷導体19とバイパスすることがわかる。ただし、下端部のグリッド33aおよび上端部のグリッド33bを含め他のグリッド(付番せず)とも、V字切欠を有する磁性板であることから、アークは消弧室33内で裁断され、短絡発生に伴う大電流が速やかに遮断されることは周知の通りである。なお、アークランナー32は、前述した磁界の反発力を得るためにも材質は鉄であることが好ましい。
【0022】
一方、中性極については、図4で示す矢印の如く、通常時は、固定子22→固定接点23→可動接触子24→可撓電線25と流れるが、可撓電線25が消弧室34の紙面上、上側に配設されていることから、短絡発生時においては、図5で示す矢印の如く、固定子22→可撓電線25とバイパスすることがわかる。したがって、この可撓電線25が前述したように、零相変流器16を貫通する貫通導体を兼ねているため、部品点数の削減に繋がり、ひいては組立費の低減を図ることができる。
【0023】
アークの消滅、すなわち遮断に至る過程は電圧極とほぼ同じであるが、詳述すると、図5に示すように、固定子22の先端部22aへの電流の向きと、消弧室34を構成する紙面上、下端部のグリッド34aから上端部のグリッド34bへの電流の向きが、異方向であることによる発生する磁界の反発力、およびこの下端部のグリッド34aから上端部のグリッド34bへの電流の向きと、電圧極で説明したアークランナー32の機能を持たせた導電性パイプ35の可撓電線25との固着点35aへの電流の向きが、異方向であることによる発生する磁界の反発力により、アークは消弧室34に導かれる。なお、ここで、固着点35aは、固着点35aへ向かう電流を得るための、すなわち電圧極で言うところのUターン部32aに相当する機能を持たせており、大電流の遮断までは、ここから負荷導体26(図3参照)に向けて電流が継続する。したがって、固着点35aは、カシメなどによって強固に電気的接続を施しておく必要がある。
【0024】
また、導電性パイプ35は、アークランナー32と同様、前述した磁界の反発力を得るためにも鉄であることが好ましい。よって、電磁石装置や過電流引き外し装置を必要としないこの中性極に、特許文献1で示したような、例えば鉄であるアークランナーを使用せず、例えば銅線で組成される可撓電線25を短絡発生時はもちろんのこと、通常時も電流経路に組み込んでいるので、通電に伴う発熱を抑えることができ、設計の自由度や定格電流の格上げといった波及効果が期待できる。
【0025】
この発明は、図6からもわかるように、零相変流器16に貫通導体17(電圧極)および可撓電線25(中性極)を貫通させることで、電路の漏れ電流を検出し、この検出した信号に応じて、引き外しコイル36によって開閉機構部102を作動させ、電路を遮断する漏電遮断器101を、高遮断性能も有しつつ、電流経路に要する部品を削減し、その組立を改善しようとするものであるが、前述した通電に伴う発熱の抑制に着目した場合、可撓電線25を零相変流器16に貫通させず、そのまま負荷導体26に固着、すなわち漏電引き外し機能を有しない配線用遮断器であっても、その効果が期待できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の実施の形態1における、漏電遮断器の開状態を示す外観斜視図である。
【図2】図1においてカバーおよび漏電用中ベースを除去しA方向から見た側面図である。
【図3】図1においてベースを除去しB方向から見た側面図である。
【図4】この発明の実施の形態1における、漏電遮断器の閉状態での、中性極の消弧室を中心とした拡大図である。
【図5】この発明の実施の形態1における、漏電遮断器の短絡発生時での、中性極の消弧室を中心とした拡大図である。
【図6】図1においてカバーを除去しA方向から見た側面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 カバー、2 漏電用中ベース、3 中ベース、4 ベース、5 ハンドル、
11 固定子、12 固定接点、13 可動接触子、16 零相変流器、
22 固定子、23 固定接点、24 可動接触子、25 可撓電線、
26 負荷導体、33、34 消弧室、35 導電性パイプ、35a 固着点、
36 引き外しコイル、101 漏電遮断器、102 開閉機構部、
103 電磁石装置。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
カバー、中ベース、およびベースよりなる絶縁筐体と、外部から開閉操作可能な取っ手部を有するハンドルと、上記絶縁筐体の内部に装着され固定接点を有する固定子と、この固定子に対向して接離する可動接触子と、この可動接触子を駆動する開閉機構部と、過電流に応動して上記開閉機構部を作動させる電磁石装置と、主回路の漏電電流を検出する零相変流器と、この零相変流器で検出した信号に応動して上記開閉機構部を作動させる引き外しコイルと、上記可動接触子が駆動された際に発生するアークを裁断する消弧室とを備えた漏電遮断器において、
上記絶縁筐体の内部に装着された負荷導体と、上記可動接触子が可撓電線で接続され、かつこの可撓電線が上記消弧室の近傍に配設されるように構成されたことを特徴とする漏電遮断器。
【請求項2】
導電性パイプが消弧室の近傍に配設されるように、可撓電線に固着されていることを特徴とする請求項1に記載の漏電遮断器。
【請求項3】
導電性パイプの材質が鉄であることを特徴とする請求項2に記載の漏電遮断器。
【請求項4】
導電性パイプと可撓電線の固着箇所が、上記可撓電線と可動接触子との固着位置に近い側の上記導電性パイプの先端であることを特徴とする請求項2または3に記載の漏電遮断器。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−278113(P2006−278113A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94706(P2005−94706)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】