説明

漬物の着色方法

【課題】鮮やかな赤乃至紫赤色に着色され、調製時及び保存時における耐光性、及び食味やフレーバーリリースに優れ、更には浸漬時間が短縮された漬物を提供する。
【解決手段】Convolvulaceae科Ipomoea属に属する植物体を、pH1.0〜6.5の酸性条件下で水又は含水アルコールで抽出後、吸着処理、イオン交換処理、酸処理及び膜分離処理よりなる群から選択される少なくとも1種の処理を行って得られた色素を用いて漬物を着色する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鮮やかな赤乃至紫赤色に着色可能な漬物の着色方法に関する。詳細には、耐光性に優れると共に、浸透性が高く浸漬時間を短縮することのできる、漬物の着色方法に関する。更に、本発明は浸漬時や保存時に色素特有の臭気が漬物の食味に影響を与えることなく、フレーバーリリースの良好な漬物を提供できる漬物の着色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食用赤色2号、食用赤色3号、食用赤色40号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号、カルモイシン(アゾルビン)、シトラスレッドNo.2 New Redといった各種合成着色料は耐光性に優れ、また鮮やかな色に食品を着色できることから、各種食品の着色料として使用されてきたが、近年の天然嗜好によりこれら合成着色料は敬遠されがちである。天然色素を用いた漬物の製造方法としては、有色米から抽出した赤色系色素を漬物に使用する方法(特許文献1)が開示されており、その他、赤系の着色料であるコチニール色素、ラック色素などのキノン系色素、赤キャベツ色素、赤ダイコン色素、クチナシ赤色素、紅麹色素、ビートレッドや、紫赤色系の着色料であるブドウ果汁や紫トウモロコシ色素をはじめとした各種色素が用いられてきた。
【0003】
しかし、有色米から抽出した赤色色素は色調が暗い赤色で商品価値に影響があることがあり、また、調味液に沈殿物がでることがある。赤キャベツ色素や、赤ダイコン色素は色素特有の臭いが漬物の食味に影響を与える、コチニール色素コチニール色素等のキノン系色素ではpHが5以下となると漬物が黄色〜橙色となり求められる赤乃至紫赤色に着色することができない、紅麹色素は耐光性が、ビートレッドは耐熱性が劣り色素の退色が著しく、クチナシ赤色素は紫がかった暗い色素であり、このようにこれらの色素では鮮明な赤乃至紫赤色に着色することが困難であった。また、ブドウ果汁や紫トウモロコシ色素あるいはベリー類色素を用いた場合であっても、目的とする鮮やかな赤乃至紫赤色に着色できない、耐光性に著しく劣るなどその着色効果は未だ改良の余地があった。また、合成着色料は成分含量が高く、食品への添加量が少ないことから食材の食味にほとんど影響を与えていなかった。しかし、上記の天然系着色料はその素材の持つ臭いや味といった着色以外の効果が食材の食味に影響するといった欠点があった。
【0004】
【特許文献1】特公平03−976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
色素特有の臭気が漬物の食味に影響を与えることなく、鮮やかな赤乃至紫赤色に着色可能な漬物の着色方法を提供することを目的とする。さらには、浸透性が高く浸漬時間が短縮され、耐光性に優れた漬物を提供可能な漬物の着色方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記問題点に鑑みて鋭意研究を行った結果、Convolvulaceae科Ipomoea属に属する植物体をpH1.0〜6.5の酸性条件下で、水又は含水アルコールで抽出後、吸着処理、イオン交換処理、酸処理及び膜分離処理よりなる群から選択される少なくとも1種の処理を行って得られた色素を用いることにより、漬物本来の食味に影響を与えることなく鮮やかな赤乃至紫赤色に着色可能であり、かかる方法で着色された漬物は耐光性を有する点、更には浸透性が高く短時間で浸漬可能であることを見出して本発明を完成した。
【0007】
本発明は、以下の態様を有する漬物の着色方法に関する;
項1.Convolvulaceae科Ipomoea属に属する植物体を、pH1.0〜6.5の酸性条件下で水又は含水アルコールで抽出後、吸着処理、イオン交換処理、酸処理及び膜分離処理よりなる群から選択される少なくとも1種の処理を行って得られた色素を用いることを特徴とする、漬物の着色方法。
【発明の効果】
【0008】
色素が有する臭いが漬物に影響を与えることなく漬物の素材本来の食味を楽しむことができ、耐光性に優れ、鮮やかな赤乃至紫赤色に着色された漬物を提供できる。更に浸漬時間が短縮できる漬物の着色方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、Convolvulaceae科Ipomoea属に属する植物体をpH1.0〜6.5の酸性条件下で、水又は含水アルコールで抽出後、吸着処理、イオン交換処理、酸処理及び膜分離処理よりなる群から選択される少なくとも1種の処理を行って得られた色素を用いることを特徴とする。
【0010】
本発明のConvolvulaceae科Ipomoea属の植物体としては、Ipomoea Batatas、Ipomoea nil、Ipomoea congesta、Ipomoea alba等を挙げることができ、好ましくはIpomoea Batatasである。かかる植物体の抽出液は、Convolvulaceae科Ipomoea属に属する植物体中、赤乃至紫赤色を呈する部位、例えば葉や茎、又は塊根をpH1.0〜6.5、好ましくはpH2〜4の酸性条件下で、水又は含水アルコールで抽出することにより得られる。
【0011】
上記植物体抽出時の酸性条件へのpH調整は、通常酸味料が用いられる。制限はされないが、かかる酸味料としては、具体的にはクエン酸、乳酸、酢酸、氷酢酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、フィチン酸、グルコン酸、コハク酸、アスコルビン酸、アジピン酸、イタコン酸、グルコノデルタラクトン等の有機酸またはその塩(例えばクエン酸ナトリウム、フマル酸一ナトリウム);リン酸及び二酸化炭素(炭酸ガス)、硫酸、塩酸等の無機酸を例示することができ、好ましくは、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の食品添加物で認められているものを好適に使用できる。抽出に用いる含水アルコールとしては、メタノール、エタノールなどの低級アルコール、多価アルコールなどの水と均一に混合可能な溶剤をいう。好ましい抽出液としてはエタノールを例示できる。含水アルコールとしては、例えばアルコール量が40容量%以下、好ましくは約25容量%以下の含水アルコールを好適に使用できる。
【0012】
抽出方法としては、Convolvulaceae科Ipomoea属に属する植物体の抽出部位を洗浄後そのまま、若しくは適当な大きさに裁断、もしくはペースト状に摩砕後、酸性に調整した抽出液に投入し、例えば4〜12時間若しくは一晩、植物を冷浸又は温浸によって浸漬する方法を挙げることができる。得られた抽出液は、必要に応じて濾過、共沈または遠心分離によって固形物を除去した後、そのまま若しくは濃縮することができる。
【0013】
本発明では、かくして得られた抽出液を更に、吸着処理、イオン交換処理、酸処理及び膜分離処理よりなる群から選択される少なくとも1種の処理を行うことを特徴とする。
【0014】
吸着処理は、常法に従って行うことができ、例えば活性炭、シリカゲルまたは多孔質セラミックなどによる吸着処理;スチレン系のデュオライトS−861(商標Duolite,U.S.A.ダイヤモンド・シャムロック社製、以下同じ)、デュオライトS−862、デュオライトS−863又はデュオライトS−866;芳香族系のセパビーズSP70(商標、三菱化学(株)製、以下同じ)、セパビーズSP700、セパビーズSP825;ダイヤイオンHP10(商標、三菱化学(株)製、以下同じ)、ダイヤイオンHP20、ダイヤイオンHP21、ダイヤイオンHP40、及びダイヤイオンHP50;あるいはアンバーライトXAD−4(商標、オルガノ製、以下同じ)、アンバーライトXAD−7、アンバーライトXAD−2000などの合成吸着樹脂を用いた吸着処理を挙げることができる。その後、Convolvulaceae科Ipomoea属に属する植物色素抽出液が付されて色素成分を吸着した樹脂担体を例えば含水アルコールなどの適当な溶媒で洗浄することによって、回収取得することができる。含水アルコールとしては、通常1〜20容量%程度のエタノールを含有する水を好適に例示することができる。
【0015】
イオン交換処理は、特に制限されず慣用のイオン交換樹脂(陽イオン交換樹脂または陰イオン交換樹脂)を用いて常法に従って行うことができる。例えば陽イオン交換樹脂としては、制限されないがダイヤイオンSK1B(商標、三菱化学(株)製、以下同じ)、ダイヤイオンSK102、ダイヤイオンSK116、ダイヤイオンPK208、ダイヤイオンWK10、ダイヤイオンWK20などが、また陰イオン交換樹脂としては、制限されないがダイヤイオンSA10A(商標、三菱化学(株)製、以下同じ)、ダイヤイオンSA12A、ダイヤイオンSA20A、ダイヤイオンPA306、ダイヤイオンWA10、ダイヤイオンWA20などが例示される。
【0016】
酸処理は、Convolvulaceae科Ipomoea属に属する植物体をpH1.0〜6.5の酸性条件下で、水又は含水アルコールで抽出して得られた抽出液、若しくは上記の各種処理(吸着処理、イオン交換処理、抽出処理または膜分離処理等)が施された処理液をpH1〜4、好ましくはpH1〜3の酸性条件下に曝すことによって実施できる。酸処理は、具体的には上記処理液に酸を添加配合することによって簡便に行うことができる。かかる酸としては、上述の酸を使用することができる。
【0017】
酸処理を行う温度条件は特に制限されず、通常5〜100℃の範囲から適宜選択使用することができる。例えば20〜100℃や40〜100℃の範囲を例示することができる。酸処理時間も特に制限されず、通常1〜300分の範囲から適宜選択することができる。一般に高温下での酸処理であればより短い処理時間で十分であり、よって例えば40〜100℃での酸処理の場合は5〜60分の範囲から処理時間を採択することができる。なおこの時、処理液は撹拌してもしなくても特に制限されない。
【0018】
本発明でいう膜分離法とは、膜による濾過方法を広く意味するものであり、例えばメンブレンフィルター(MF)膜、限外濾過(UF)膜、逆浸透膜(NF)および電気透析膜などの機能性高分子膜を用いた濾過処理を挙げることができる。また膜分離法としてはこれらの膜を利用した限外濾過法や逆浸透膜法などのほか、イオン選別膜による濃度勾配を利用した透析法、隔膜としてイオン交換膜を使用し電圧を印加する電気透析法などが知られている。工業的には逆浸透膜法による膜分離法が好ましい。かかる膜分離法に用いられる膜材料としては、天然、合成、半合成の別を問わず、例えばセルロース、セルロース・ジ−アセテート若しくはトリ−アセテート、ポリアミド、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアクリロニトリルなどを挙げることができる。
【0019】
本発明で用いる膜分離法には、分画分子量が例えば10〜10の範囲にある膜を用いて高分子化合物を分離除去する処理方法と、分画分子量が約2,000〜4,000程度、好ましくは3,000程度の膜を用いて低分子化合物を分離除去する処理方法が含まれる。前者の方法として具体的にはNTU−3150膜、NTU−3250膜、NTU−3550膜、NTU−3800 UF膜(以上、日東電工製);Cefilt−UF(日本ガイシ製);AHP−2013膜、AHP−3013膜、AHP−1010膜(以上、旭化成製);等を利用した限外濾過(UF)膜処理を挙げることができ、また後者の方法として具体的にはNTR−7250膜、NTR−7410膜、NTR−7430膜、NTR−7450膜(以上、日東電工製);AIP−3013膜、ACP−3013膜、ACP−2013膜、AIP−2013膜、AIO−1010膜(以上、旭化成製)などの膜を利用した逆浸透膜(分画分子量3,000程度)処理を挙げることができる。
【0020】
これらの各種処理は、1種単独で行っても、また2種以上を任意に組み合わせて行ってもよく、また同一処理を、同一もしくは異なる条件で、繰り返し実施してもよい。好ましい処理方法は、特に制限されないが、Convolvulaceae科Ipomoea属に属する植物色素抽出液の吸着処理液を脱蛋白処理し、ついでこの脱蛋白処理した処理色素液について膜分離処理を行う方法である。
【0021】
脱蛋白処理は、前述する抽出処理、イオン交換処理または限外濾過膜等を利用した膜分離処理によって実効的に行うことができる。なお、この場合、膜分離処理は、高分子化合物の分離除去に使用される分画分子量約10〜10の範囲にある膜を用いた処理を好適に採用することができる。ただし、脱蛋白処理は、これらの方法に限定されることなく、ゲルろ過処理などの常法の脱蛋白処理に従って行うこともできる。
【0022】
必要に応じて上記脱蛋白処理後に更に吸着処理を行うこともできる。好ましい処理方法としては、脱蛋白処理した処理色素液を、必要に応じて吸着処理し、次いで酸処理し、斯くして得られる処理色素液に対して膜分離処理を行う方法を挙げることができる。なお、ここで膜分離処理は、好ましくは逆浸透膜処理または限外濾過膜処理であり、より好ましくは逆浸透膜処理である。また、当該膜分離処理は、分画分子量が2,000〜4,000、好ましくは3,000付近である膜を用いて行うことが好ましい。
【0023】
本発明では、かくして得られた色素を用いることを特徴とする漬物の着色方法に関する。かかる色素は、植物由来の異臭あるいは悪臭の原因となる香気成分が効果的に除去されており、該色素を用いることにより漬物本来の食味に影響を与えることなく、鮮やかな赤乃至紫赤色に漬物を着色することができる。
【0024】
このとき、本発明で得られた色素は、上記形状のごとく液状品でも、また、デキストリン、乳糖等の賦形剤を添加し噴霧乾燥して粉末化した形状でも、乳化剤、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アラビアガム等を使用した乳化あるいは二重乳化の形状でもよい。このようにして得られた本発明の色素製剤を漬物に対して添加して使用する。
【0025】
本発明でいう漬物とは、野菜、果実、きのこ、海藻などを主原料として、塩、醤油、味噌、粕、麹、酢、糠、芥子、もろみ、その他の材料に漬け込んだものをいう。これらは、漬け込み後熟成させ、塩、アルコール、酸などにより保存性をもたせたものと短時間に漬けあがる一夜漬に分類される。代表的なものとして塩漬け、醤油漬け、味噌漬け、粕漬け、麹漬け、酢漬け、糠漬け、芥子漬け、もろみ漬け、梅干、梅漬け、福神漬け、しば漬け、しょうが漬け、朝鮮漬け、梅酢漬け等の各種漬物が挙げられる。これら漬物は、pHが1〜6、更には2〜5のpHを有し、特に色素の色調が合成着色料のように明るい色合いを出すことが天然色素ではできないと言った問題が指摘されていた。しかし、Convolvulaceae科Ipomoea属に属する植物体を、pH1.0〜6.5の酸性条件下で水又は含水アルコールで抽出後、吸着処理、イオン交換処理、酸処理及び膜分離処理よりなる群から選択される少なくとも1種の処理を行って得られた色素を用いることにより、かかる漬物であっても鮮やかな赤乃至紫赤色に着色し、その色素の安定化を図ることが可能となった。
【0026】
以下、これら漬物の着色方法について説明する。
まず、漬物材料の野菜、果物、きのこ、海藻等を用意する。これらは、生のままのものでもよいし、蒸煮済みのものでも、食塩漬けしたものであってもよい。材料の野菜、果物、きのこ、海藻等の選別した主原料に、本発明の色素を温湯で溶解した色素液と糠、粕または食塩、調味料、酸味料、保存料、甘味料、糊料などの副原料を添加して、漬け込むことによって鮮明な赤乃至紫赤色を呈する漬物を調製できる。
【0027】
上記製造中、浸漬といった製造工程を有する点で、漬物を着色する際は色素特有の臭気が食品の食味に与える影響が多大であるが、本発明の色素を用いることにより、色素の臭気が食味に影響を与えることなく、フレーバーリリースに優れた漬物を提供できる。更に、本発明の色素は浸透性が高く、他の天然色素を用いた場合に比較して、短時間で着色された漬物を調製することができる。
【0028】
漬物に対するConvolvulaceae科Ipomoea属に属する植物体から得られる色素の配合割合は、漬物に所望の色を付与できる量であればよく、特に制限されない。一例としてあげれば、漬物100質量%に対する本発明の色素(E10%1cm =160)の配合割合として0.001〜1.0質量%、好ましくは0.005〜0.5質量%を挙げることができる。
【0029】
なお、本発明の色素における「E10%1cm =160」とは、漬物に配合する本発明の色素濃度(色価)を意味するものであって、具体的には、本発明の色素の10wt/v%溶液の可視部での極大吸収波長における吸光度を液層幅1cmで測定した場合、160であることを意味する。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0031】
実験例1 桜漬けの着色
硫酸によりpH2に調整した酸性水20LにIpomoea Batatasの塊根の磨砕品10kgを投入し、室温下に一夜放置して、色素を抽出した。得られた色素抽出液に、濾過助剤と珪藻土を配合して吸引濾過し、濾液としてIpomoea Batatas植物色素抽出液約25Lを得た。この抽出液を合成吸着樹脂アンバーライトXAD−7(樹脂量3L、SV=1、オルガノ製)に吸着させてから、水洗したのち、60%エタノール水溶液を用いてその吸着している色素を溶出した(10L)。溶出液のうち8Lを、限外濾過膜(AHP−2013膜(商標):旭化成製、分画分子量50,000)を用いて3.5kg/cm,20℃で処理した(膜分離処理)。次いで、得られた処理液を硫酸を用いてpH2.0に調整し、これを40〜80℃の温度条件下で30分間撹拌をした(酸処理)。つづいて、当該酸処理液に、水5Lを加えて逆浸透膜処理(NTR−7250膜(商標):日東電工製、分画分子量約3,000程度)を行い、膜処理液1Lを得た(膜分離処理)。この際、Ipomoea Batatasの香気成分および夾雑物は濾液として透過除去され、精製脱臭された色素成分が残液として濃縮された。次いでこの残液を減圧下で濃縮して、色価E10%1cm=300の有意に脱臭精製された濃縮液120gを得た。この濃縮液120gに水60gとエタノール45gを加えて色価E10%1cm=160のIpomoea Batatas(A)色素製剤225gを調製した。この製剤は全く無臭であった。次に、このようにして得られたIpomoea Batatas(A)色素製剤を用いて、下記表1の処方に従い桜漬けを調製した。詳細には、下記処方で調製した桜付け液1000mlに円形に輪切りしたカブ1000gを浸漬し、桜漬けを調製した。
【0032】
【表1】

【0033】
比較例として、以下の製法で調製されたIpomoea Batatas(B)色素製剤(比較例1)、及びIpomoea Batatas(A)色素製剤の代わりに、赤キャベツ色素製剤(比較例2)、紅麹色素製剤(比較例3)、ブドウ果汁製剤(比較例4)及び紫トウモロコシ色素製剤(比較例5)を、各々個々に、ほぼ同一の濃度感に合わせて桜漬け液を調製し、かかる桜漬け液を用いて実施例1と同様に着色された桜漬けを調製した。これらの桜漬け(比較例1〜5)、及び実施例1の桜漬けの色相、耐光性及び風味を評価した。結果を表2に示す。評価は、以下の基準に従って行った。
【0034】
(色相):着色した桜漬けを肉眼で観察した。
(耐光性):蛍光灯(3000lux)下で3日間照射した後、肉眼比較により色素の残存率(%)を求めた。
(風味):色素特有の臭気がなく、漬物本来の風味、フレーバーリリースが良好であるものから+++>++>+>±>−の5段階で評価した。
【0035】
比較例1 Ipomoea Batatas(B)色素製剤の調製
硫酸によりpH2に調整した酸性水20LにIpomoea Batatasの塊根の磨砕品10kgを投入し、室温下に一夜放置して、色素を抽出した。得られた色素抽出液に、濾過助剤と珪藻土を配合して吸引濾過し、濾液としてIpomoea Batatas(B)植物色素抽出液約25Lを得た。次いで得られた抽出液を減圧濃縮して色価E10%1cm=300の色素液160gを得た。この濃縮液160gに水80gとエタノール60gを加えて色価E10%1cm=160のIpomoea Batatas(B)色素製剤300gを調製した。
【0036】
【表2】

【0037】
表2から明らかなように、赤キャベツ色素製剤を用いた際は植物特有の臭気が漬物の風味に影響を与え(比較例2)、紅麹色素は耐光性がなく(比較例3)、ブドウ果汁色素製剤、紫トウモロコシ色素製剤を用いた場合は、着色された桜漬けの色相が暗い赤色である、また鮮明さが欠けるなど、目的とする鮮明な赤乃至紫赤色に着色できず、その耐光性もIpomoea Batatas(A)色素製剤に比して劣っていた(比較例4、5)。また、pH1.0〜6.5の酸性条件下で水又は含水アルコールで抽出されたIpomoea Batatas色素を用いた場合であっても、吸着処理、イオン交換処理、酸処理及び膜分離処理よりなる群から選択される少なくとも1種の処理を行わずに得られたIpomoea Batatas(B)色素製剤(比較例1)は、本発明のIpomoea Batatas(A)色素製剤に比べて色素特有の臭気が桜漬けに影響を与え、目的とする漬物を調製することができなかった。一方、本発明のIpomoea Batatas(A)色素製剤を用いた場合は、目的とする鮮やかな赤乃至紫赤色にカブが着色され、桜漬け自体の食味に影響を与えることもなく、着色された漬物良好な風味を有していた。更に、本発明のIpomoea Batatas(A)色素製剤を用いた場合は、浸透性が高く、他の天然色素を用いた場合、約5〜10時間の浸漬時間が着色に必要であったところ(比較例2〜5)、本発明のIpomoea Batatas(A)色素製剤を用いた場合は3〜8時間の浸漬時間であり、その浸漬時間は2時間程短縮された。特に調味液の温度が関係し、夏場では全体の浸漬時間が1/5程短縮され、冬場では全体の浸漬時間が1/2程短縮されるなど、低温になるほど短縮され、短時間で鮮やかな赤乃至紫赤色に着色された漬物を提供できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
鮮やかな赤乃至紫赤色に着色され、調製時及び保存時における耐光性、及びフレーバーリリースや食味に優れた漬物を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Convolvulaceae科Ipomoea属に属する植物体を、pH1.0〜6.5の酸性条件下で水又は含水アルコールで抽出後、吸着処理、イオン交換処理、酸処理及び膜分離処理よりなる群から選択される少なくとも1種の処理を行って得られた色素を用いることを特徴とする、漬物の着色方法。

【公開番号】特開2009−201453(P2009−201453A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−49115(P2008−49115)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】