説明

潅水施肥栽培での灌水施肥制御方法及びその装置

【課題】果菜類及び花き類を含む作物の潅水施肥栽培に関し、それぞれの系統での潅水と施肥を効率的に実施し、フィルターの目詰まり等による水圧や潅水量に影響されずに、決められた時間で正確に設定した肥料を施用し、操作を簡便にし、コンパクトで設置場所を要しない潅水施肥装置を提供することを目的とする。
【解決手段】同一栽培圃場での異なる栽培方法の実施や培地の養分状態を考慮して複数系統に分割し、その面積と、それぞれの系統毎の施肥量を入力し、潅水時刻パターン及び潅水施肥パターンと水分計の出力と、潅水時間と点滴チューブ等の目詰まりを防止するための洗浄時間の差である施肥時間を元に、系統毎に設定した肥料を、フィルターの目詰まり等による水圧や潅水量の変動に影響されずに、決められた時間内で正確に施用する機能を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作物栽培での潅水施肥栽培に関し、栽培面積を複数ヶ所の系統に分割し、各系統の面積と、基準面積の施肥量と、時刻パターンと、潅水施肥パターンに基づいて、設定した潅水時間と洗浄時間の差である施肥時間の中で、水圧や潅水量に影響されずに正確に肥料の設定量を施用する潅水施肥装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開2001−186824(以下、特許文献1という)に、「また、原水タンク8と肥料濃厚液タンク9にそれぞれ供給管10が接続され、これらにそれぞれポンプ11と減圧弁12や電磁弁13などの管路開閉器を備えており、これらを別々に開閉させることにより水と肥料を別々に供給停止させることができるような構成になっている。(段落番号0013)」の記載がある。
【0003】
「供給制御部1はタイマーからの情報を演算する時刻比較演算部14、流量センサーからの情報を演算する流量演算部15、水分センサーからの情報を演算する水分値比較演算部16、日射センサーからの情報を演算する日射量比較演算部17、記憶部を備えた動作判定部18、異常時に警報機を作動させるための異常判定部19および判定部の情報に基づいてポンプや電磁弁に情報を出力する動作回路部20から構成されている。
これらの構成により各土壌毎にあらかじめ設定入力した各時刻において、施肥と灌水をそれぞれ別個に実行すると共に、各土壌の水分量と日射量を連続して測定し、水分量が設定値を上回った場合および又は日射量が設定値を下回った場合は灌水の信号のみを解除し、施肥の信号のみを出力して実行する。これによって肥料は必要にして充分な量を確保し、水分量は環境の状況を反映させることが可能となる。(段落番号0017〜0018)」の記載がある。
この装置は、任意の設定時刻に自動的に灌水と施肥をそれぞれ別個に実行する灌水施肥制御方法に加えて、連続的に土壌水分値と日射量を測定するセンサーを有し、そのセンサーによって得た値により、それぞれの設定時刻の灌水のみを実行させないとする手段を備えたことを特長とする灌水施肥制御方法及びその制御方法を用いた灌水施肥装置である。
【0004】
特開2005−2758535(以下、特許文献2という)に、点滴施肥 潅水栽培によって花き類及び蔬菜類を含む作物を生育するために、その生育期間中の潅水量、施肥量、及び最終的な目標収量等に関し、従来に比してより正確な計画を作成し得る作物生育設計方法と装置との記載がある。
【0005】
特願2001−170989(以下、特許文献3という)に、原水に肥料を溶解させた養液を、耕作地に供給して作物を栽培する養液土耕栽培方法であって、作物を栽培する前に、前記耕作地中に残存する特定肥料元素の残留量を測定する土壌分析工程と、作物を栽培する前に、作物の生育ステージ毎に必要となる所定時間当たりの同種特定肥料元素の量を予定し、この予定量に則して肥料を溶解して養液を調製して作物を栽培する栽培工程とを有し、前記栽培工程に於いて、栽培開始時から加算した予定量の合計量が、前記土壌分析工程で得られた特定肥料元素の残存量に相当するまでの期間は、原水若しくは施肥量が予定量よりも少量となるように全窒素濃度が10〜50ppmの養液を供給し、この期間を経過した後は、前記予定量に則して肥料を溶解させた養液を調製して作物を栽培することを特徴とする養液土耕栽培方法であり、点滴する養水量を示す潅水量について、各生育ステージでの値を、生育にかかる全期間にわたってCPUでの演算により取得し、取得した情報を表示部に表示した内容で濃度を設定する方法であるとの記載がある。
【0006】
また、特開平10−106413(以下、特許文献4という)には、養液栽培での潅水装置の潅水パターンをマイクロコンピュータ上に登録しておき、かつその索引コードを自由に選択することによって、希望する潅水パターンを用いるタイムスイッチの記載がある。
【0007】
また、非特許文献1に、トマト栽培用の施肥と灌水の精密制御が容易な流量制御方式による点滴潅水施肥装置がある(非特許文献1参照)。本装置では、電子式流量計を利用して、電子カウンターで正確に1回の窒素施用量及び潅水量を設定し、同一点滴チューブで窒素施用量(液肥)と潅水量を個別に設定し、流量制御方式で注入する。施肥潅水は朝の1〜3回で行い、それ以降の潅水は水分センサーを用いることにより潅水を行う。
【0008】
また、非特許文献2に、液体が流れるときの圧力と流速の関係について、非圧縮形で粘性のない理想流体には数1のベルヌーイの式が成立し、式中のρ/γを圧力水頭、ν /2gを速度水頭、τを配置水頭 、Hを全水頭とすると、流体の単位流当たりの圧力エネルギー、速度エネルギーの関係が成り立つと記載されている。
【0009】
【数1】

【0010】
【特許文献1】特開2001−186824(P2001−186824A)
【特許文献2】特開2005−2758535(P2005−278535A)
【特許文献3】特願2001−170989(P2001−170989)
【特許文献4】特開平10−106413
【非特許文献1】樋江井清隆、他2名、「流量制御方式による点滴潅水施肥装置」、平成14年度 関東東海北陸農業研究成果情報、64
【非特許文献2】千葉孝男、「配管の設計」、建築設備設計マニュアル、社団法人建築設備技術協会、166−172(平成6年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1には、タイマーと流量センサーを用いて任意の設定時刻に自動的に灌水と施肥をそれぞれ別個に実行する灌水施肥制御方法に加えて、連続的に土壌水分値と日射量を測定するセンサーを有し、そのセンサーによって得た値により、それぞれの設定時刻の灌水のみを実行させないとする手段を備えているが、施肥量を正確に行うことに対する対応はなされていない。また、水分センサーを使って土壌(又は培地ともいう)水分を管理するかん水方法については、特許文献1の出願以前に既に広く利用されている。
【0012】
また、特許文献2では、潅水施肥を行う際に、作物の生育期間中の潅水量、施肥量、及び最終的な目標収量に関し、従来に比してより正確な計画を策定し得うる作物生育設計装置があるが、栽培法の提示を行っているにすぎず、潅水と施肥を制御するための具体的な方法の記載がない。
【0013】
また、特許文献3では、潅水施肥を行う場合の栽培圃場の土壌分析に基づく施肥設計に基づいて、肥料を溶解して養液を調製して作物を栽培する栽培工程で肥料濃度を調整する方法であり、点滴する養水量を示す潅水量について、各生育ステージでの値を、生育にかかる全期間にわたって内蔵するコンピュータで演算し、取得した情報を表示部に表示した内容で濃度を設定する方法と装置であり、フィルターや点滴チューブの目詰まりによる水圧変動や、作物の生育量や雨天、曇天下に作物の吸水量が少ない時期での少量の潅水で、所定量の肥料を確実に施用することはできない。
【0014】
また、特許文献4は、養液栽培での潅水装置の潅水パターンを選択する方法を記したもので、培地に土壌を使用する潅水施肥栽培での潅水や施肥の潅水パターンとしては有用であるが、土壌の潅水や施肥を組み合わせて安定して実施する改良が求められていた。
【0015】
また、非特許文献1では、電子式流量計を利用して、同一点滴チューブを用いて、水圧で肥料を吸い上げる肥料混入器で肥料濃度を設定し、電子カウンターで潅水量を設定して流量制御を行い、施肥量と潅水量を個別に設定し、施肥と潅水を分けて管理することができる装置である。この方法は、肥料の設定は肥料混入器で行い、肥料用と潅水用の電磁弁をそれぞれ制御しているため、肥料と潅水を個別に制御することができるが、肥料は比例混入式で注入されるため、肥料濃度を設定ダイアルで設定する必要があり、取扱が煩雑となる。また、原水の使用との競合や、フィルターや点滴チューブ等の目詰まりにより水圧変動が起きる場合には、施肥量が変動する。また、点滴チューブの洗浄については配慮されていない。
【0016】
また、非特許文献2によると、水が配管内を流れるとき、潅水開始直後は、点滴チューブ内には水が満たされていないため、点滴チューブ内の圧力(水圧)が小さく流速が増加するため、吸引力によって肥料を吸込む方法では、肥料の吸込み量が増加する。また、水圧が変動すると吸込み量も変化する。よって、ベルヌーイ定理に基づいて肥料を吸込み混入する方法を用いた、潅水量について潅水時間で設定する方法を用いた吸引装置では施肥量が安定しない。
【0017】
また、非特許文献2によると、水が配管内を流れるとき、潅水開始直後は、点滴チューブ内には水が満たされていないため、点滴チューブ内の圧力(水圧)が小さく流速が増加する。配管絞りによる吸引力によって肥料を吸込む方法は、ベルヌーイ定理に基づいており、流速の項が二乗で増加するため、圧力の項が大きく減少し吸込量が極端に大きくなる。このため、絞りを用いて決まった潅水時間内で肥料を混入する方法を用いた吸引装置では、一回の施肥量が安定しない。
【0018】
本発明は、果菜類及び花き類を含む作物の潅水施肥栽培に関し、同一栽培圃場での異なる栽培方法の実施や培地の養分状態を考慮して複数の系統に分割し、それぞれの系統での潅水と施肥を効率的に実施し、電子式流量計を利用せず、フィルターや点滴チューブの目詰まり等による水圧や潅水量に影響されず、決められた時間で正確に設定した肥料を施用し、従来の手法に比して設定操作を簡便にし、コンパクトで設置場所を要しない潅水施肥装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、鋭意研究の結果、現地での利用上の課題解決方法を潅水施肥制御方法にフィードバックさせることにより発明を完成し、上記課題を解決した。すなわち、
【0020】
本発明は、電子式流量計を利用しないで、潅水時刻パターンと潅水施肥パターンの索引コードを選択し、潅水時間と洗浄時間を設定し、潅水施肥を行う栽培圃場若しくは系統毎の面積、施肥量を入力する操作を行い、潅水ポンプと電磁弁と肥料ポンプの制御を行う潅水施肥装置によって、新規な潅水施肥栽培を実現したものである。
【0021】
本発明にいう、潅水時刻パターンの選択は、潅水を行う時刻を栽培時期により選択するもので、低温の時期には、早朝からの潅水によって培地温が低下するため、潅水開始時刻が遅く、潅水終了時刻が早い潅水時刻パターンを選択し、温暖な時期には潅水開始時刻が早く、潅水終了時刻が遅い潅水時刻パターンを選択する。また、潅水時刻の数も、初回の潅水開始時刻に続いて1〜多回数の時刻を選択する。
さらに、任意の潅水時刻を索引コードに登録し選択する。潅水施肥パターンは、選択された潅水時刻パターンの上で、潅水や施肥のタイミングを選択するために使用するもので、潅水時刻パターンの初回又は2〜3回の潅水や、設定したN回目の潅水や施肥を、作物の生長や栽培時期に合わせて最適な潅水施肥パターンを行うものである。
【0022】
〔潅水時刻パターン〕
潅水時刻パターンは、一日を単位とする潅水時刻を決定するタイムスイッチであって、潅水施肥の開始や終了時刻又は時刻の間隔、潅水時刻の回数の異なるパターンを複数登録した、表1のパターンコード表を作成し、各パターンに索引コードをつけたものである。低温期や温暖期の栽培時期や作物の種類や栽培法の違いに対応して最適なパターンを選択する。潅水時刻パターンと索引コードの関係を不変とすればパターンを記号で表すことができ、潅水施肥パターンと組合わせるときに実績データとして簡便に表現できる。
【0023】
【表1】

【0024】
〔潅水施肥パターン〕
潅水施肥パターンは、潅水施肥パターンが、0から始まる潅水施肥ナンバーに選択した潅水時刻パターンの時刻を並べ、潅水ポンプ、電磁弁又は肥料ポンプを作動する方法を並べたパターンであって、設定した潅水時刻パターンの潅水時刻において、潅水ポンプ、電磁弁又は肥料ポンプを初回に強制作動し、又は2回目若しくは3回目まで強制作動し、これをONで示し、強制作動をし終えた次の回から水分計の出力による潅水ポンプ、電磁弁又は肥料ポンプの作動をPF?−>ON、或いはn回目の作動をONで示したパターンをいくつか作成したパターン群からなる表である。この表から栽培時期や栽培品目の種類によって最適なパターンを選択する。
これにより、1日の中で、作物の光合成が盛んで、養分の要求量が多い時間帯にも施肥が可能となる。また、潅水時刻パターンの索引コード及び潅水施肥パターン索引コード、繰返し回数、N数を記録しておけば栽培成果と共に翌年の栽培に利用できる。
潅水施肥パターンの例を表2、表3に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
本発明にいう潅水施肥とは、作物の潅水を行う際に、固形肥料を溶かした液肥を、潅水する水で薄めて施肥を行うものであり、養液土耕といわれるものと同義である。
本発明にいう系統とは、潅水施肥栽培を行う圃場の面積を複数分割し、それぞれの圃場をいう。
【0028】
本発明は、上述したような事情を解決するためになされたものであり、本発明に係る機能を備えた潅水施肥栽培装置は次のような構成をしている。
本発明の潅水施肥装置は、潅水時刻パターンと潅水施肥パターンを選択して栽培時期に適切な潅水施肥を行う潅水施肥装置であって、複数回の潅水時刻を規定した、各潅水時刻パターンコードに索引コードを付した潅水時刻パターンコード表と、初回、繰り返し又はN回目毎に実施する潅水、潅水施肥又は水分測定における潅水の時間、水分計の出力から選ばれた少なくとも一つに基づく潅水及び/又は潅水施肥を実施する潅水施肥パターン表とを有し、潅水時刻パターンコード表と潅水施肥パターン表とをマイクロコンピュータに登録し、制御することを特徴とする。
【0029】
また、Nが数2で表される本発明の潅水施肥装置に含まれる。
【0030】
【数2】

【0031】
さらに、1回の潅水時間Tiと、肥料によって汚染した点滴チューブを水で洗浄する任意の設定される洗浄時間Twと、圃場面積Aと、施肥量Bと、肥料ポンプの能力である最大ストローク数(肥料ポンプ能力定数(K))と肥料ポンプ最大能力定数(P)とを組合せ、数3に基づいて、潅水時間Tiと洗浄時間Twの差の施肥時間内に肥料ポンプストローク数Sを演算し、圃場面積に必要な潅水施肥を実施する潅水施肥装置も本発明に含まれる。
【0032】
【数3】

【0033】
本発明の潅水施肥装置に用いる潅水施肥パターンは、0から始まる潅水施肥ナンバーに選択した潅水時刻パターンの時刻を並べ、潅水ポンプ、電磁弁又は肥料ポンプを作動する方法を並べたパターンであって、設定した潅水時刻パターンの潅水時刻において、潅水ポンプ、電磁弁又は肥料ポンプを初回に強制作動し、又は2回目若しくは3回目まで強制作動し、これをONで示し、強制作動をし終えた次の回から水分計の出力による潅水ポンプ、電磁弁又は肥料ポンプの作動をPF?−>ON、或いはn回目の作動をONで示したパターンである。
いくつか作成したパターン群からなるものが潅水施肥パターン表である。潅水時刻パターン設定と、潅水施肥パターン設定と、圃場面積の入力と、施肥量の入力と、洗浄時間の入力と、一定期間毎の潅水と施肥の履歴とを、記録し、表示し、これらに基づいてその後の設定を変更する、マイクロコンピュータに対人操作画面を有する潅水施肥装置も本発明に含まれる。
【0034】
本発明の潅水施肥制御方法は、潅水時刻パターンと潅水施肥パターンを選択して栽培時期に適切な潅水施肥を行う潅水施肥制御方法であって、複数回の潅水時刻を規定した、各潅水時刻パターンコードに索引コードを付した潅水時刻パターンコード表と、初回、繰り返し又はN回目毎に実施する潅水、潅水施肥又は水分測定における潅水の時間、水分計の出力から選ばれた少なくとも一つに基づく潅水及び/又は潅水施肥を実施する潅水施肥パターン表とを有し、潅水時刻パターンコード表と潅水施肥パターン表とをマイクロコンピュータに登録し、制御することを特徴とする。
【0035】
一日を単位とする潅水時刻を決定するタイムスイッチであって、潅水時刻を複数回登録するパターンコード表を作成し、各パターンに索引コードをつけ、マイクロコンピュータに登録し管理する。
また、作物を栽培する期間において、栽培時期毎に適切な潅水施肥を行う方法で、1日の潅水と施肥のパターンを切り替え、1日の潅水施肥で、潅水・潅水施肥・水分計の出力に基づく潅水のタイミングを、潅水施肥パターンに番号を付け、栽培時期に適切なパターンを選択し、人為的に設定したN値によりN回毎に必ず潅水施肥ができる設定を行う。
【0036】
フィルター等の目詰まり等で水圧変動が起きたときに、配管の絞りによる流速の上昇による吸込みで肥料を吸込み吸引する方法ではフィルター等の目詰まりにより施肥量が変動し易いため、潅水時間で潅水量を設定する方法では、水圧変動が生じても施肥量が変動しない方法を講じる必要がある。本発明では、時間内に数3に基づいて肥料ポンプで肥料を打込むため水圧変動による施肥量の変動が起きない。
【0037】
さらに、潅水実施により水分が培地に浸潤して、ポーラスカップに作用し、真空度が下がることによって培地水分の変化を観察し電気的に出力する水分計を使い、1回当たりの潅水時間(又は潅水量)を定め、次の潅水時刻に水分計が作動していれば潅水を行い、作動しなければ潅水を行わない潅水方法と、温度上昇や作物の生育量が大きくなり、蒸発散量が増加し培地が乾燥し易い条件となった場合に、潅水時刻パターンコード表の潅水回数が多い索引コードを設定する方法と、毎日の潅水施肥で、潅水施肥パターン表において、初回又は2回又は3回、又はN回目は必ず潅水又は施肥ができる方法とを組合わせる。
【0038】
さらに、複数の電磁弁のそれぞれが対応する管理圃場(系統)に対し、潅水と施肥を行う圃場の面積(a)をあらかじめ登録する。また、作物を栽培する圃場には、栽培の前歴の違いにより土壌に残っている肥料の量の違い、又は、苗の定植時期の違い、又は、定植後の生育が大きく異なる形態の苗(セル苗、未開花苗、開花苗)の違い、又は、周りの培地(土壌)と根を通さず水を通す防根シートで隔離して栽培する隔離栽培等の栽培法の違う圃場が混在しており、それぞれの栽培方法の違いに対応した、施肥や潅水の方法を工夫する必要がある。また、生育時期毎に肥料の量を変える必要がある。そのため、複数系統の面積に対し、異なる施肥量(CC/a)を設定する。
【0039】
さらに、これまでは、肥料注入には希釈率が一定である必要があるとの観念から、単位面積当たりの必要な施肥量(g/a)を求め、肥料ポンプ能力、肥料希釈率、潅水時間、潅水量から潅水希釈率を求める複雑な手順が必要であったが、当方法では汎用性のある施肥量(CC/a)を入力するだけで施肥でき、単位面積(a)当たりの施肥量を容易に設定できる。
【0040】
また、1回の潅水時間と、肥料によって汚染した点滴チューブを水で洗浄する任意の設定される洗浄時間と、圃場の面積を入力する方法と、施肥量(a)を入力する方法と、肥料ポンプの能力を組合せ、潅水時間と洗浄時間の差の肥料施用時間内に潅水施肥を行おうとする面積に必要な肥料を注入する。
【0041】
また、マイクロコンピュータ上に対人操作画面として、潅水時刻パターン設定画面と、請潅水施肥パターン設定画面と、各系統の面積と、各系統の施肥量の入力と、洗浄時間と、2週間の潅水と施肥の履歴を記録し表示し、設定を変更することができる。
【0042】
本発明は、作物の潅水施肥栽培に関し、同一栽培圃場での異なる栽培方法の実施や培地の養分状態を考慮して複数系統に分割し、その面積と、それぞれの系統毎の施肥量を入力し、潅水時刻パターン及び潅水施肥パターンと水分計の出力と、潅水時間と点滴チューブ等の目詰まりを防止するための洗浄時間の差である施肥時間を元に、系統毎に設定した肥料を、フィルターや点滴チューブの目詰まり等による水圧や潅水量の変動に影響されずに、決められた時間内で正確に施用する機能を備えている。
【発明の効果】
【0043】
以上説明したように、栽培期間中の作物の生育状態や天候に対応し、水圧の変動の影響を受けずに、単に面積当たり設定した肥料を正確に施用でき、また、操作が簡単なため肥料の量や潅水時間の変更が容易で、潅水時間と点滴チューブの洗浄時間の差の内で、それぞれの時間を任意に変更しても肥料の量の施定を変更することがない。また、洗浄時間を適宜変更すことで点滴チューブの肥料による汚染を防止することができる。このように、潅水施肥制御盤で電磁弁と肥料ポンプを制御して潅水と肥料を個別に管理するため、多様な品目、多様な栽培法に対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて記述する。本実施の形態では、作物として野菜の中で果菜類での栽培法をピーマン、トマトを例にとって説明する。他の野菜類や花きにも適用し得るものである。初めに、果菜類を栽培する栽培システムの構成を図1を用いて説明する。この栽培システムは、本発明に係る果菜類を栽培することができるものである。
【0045】
〔果菜類栽培設備〕
果菜類栽培システムを、点滴施肥潅水栽培として図1に示す。
原水が蓄えられた井戸又は貯水槽1などから原水を汲み上げて送水する潅水ポンプ2、潅水ポンプによって、又は、潅水に必要な一定の水圧を有する取水源3には潅水ポンプを用いずに直接的に取水源用電磁弁4によって送水された原水の異物を除去するフィルター5、原水に肥料を混入する肥料混入部6及び複数個の電磁弁7a〜7dを介して、栽培圃場10に設置された複数の点滴チューブ9に送液され、果菜類の栽培圃場10に水及び/又は肥料を給液する。
水分計8a、8bのデータに基づいて潅水施肥制御盤13が働いて、潅水ポンプ起動装置14が作動し、潅水する。必要ならば肥料タンク11a、11bの肥料を肥料ポンプ12a、12bで吸い上げ、所定量の肥料を肥料混入部6において原水に混入する。
【0046】
〔水分計〕
果菜類の栽培圃場10には、潅水することによって水分が培地に浸潤する。この水分を水分計を用いて測定し、得られたデータに基づいて潅水施肥制御盤13を動作させる。たとえば、水分がポーラスカップに作用し、真空度が下がることによって培地水分の変化を電気的に出力する水分計8を土壌に挿入している。
【0047】
〔電磁弁〕
潅水施肥制御盤13の制御により肥料が注入された原水又は原水のみを、複数個の電磁弁の開閉によって、面積の異なる複数カ所の圃場(系統ともいう)の点滴チューブに給水し、圃場に散水する。
また、取水源が潅水に必要な一定の水圧を有する場合で、畑地潅漑用のダムから圃場に定置配管された施設を利用する場合には、先ず取水源用電磁弁4を開き、続いて潅水用の電磁弁7a〜7dを潅水施肥制御盤13の制御に従って開閉し、最後に電磁弁4を閉じる。
【0048】
〔水分計と電磁弁の連動〕
水分計8はそれぞれの電磁弁と連動している。複数個の水分計により複数系統の潅水を制御する。各系統の水分状態を同じ水分管理で行う場合には、1個の水分計8aの出力を複数個の電磁弁に連動するように結線することで、全ての系統について同一の水分管理ができる。
また、複数系統を2分割し2系統を2個の水分計8a、8bで水分管理を行う場合には、1個の水分計を2個の電磁弁7に連動するように結線することで、2分割した水分管理ができる。
【0049】
〔肥料ポンプの作動〕
肥料ポンプ12は、1台12a又は2台12bの電磁式ポンプからなり、潅水施肥制御盤13の制御により、肥料タンク11から一定の濃度の液体の肥料を吸水し、一定時間の範囲内で原水に肥料を注入する。1台の場合は、作物に必要な総合養分を含む肥料を一定濃度に溶かした1種類(1液11a)を使用し、2台の場合は、肥料の混合により沈殿を招く複数の成分を含む肥料を互いに別々に一定濃度に溶かした2種類(2液11b)を使用する。
2台のポンプは潅水施肥制御盤13にそれぞれ独立して結線され、潅水施肥制御盤13で肥料ポンプ12a、12bの作動又は停止を制御する。
【0050】
〔潅水ポンプの起動〕
潅水ポンプ2を使用する場合は、潅水ポンプ2、電磁弁7、肥料ポンプ12、水分計8及び潅水ポンプ起動装置14それぞれを潅水施肥制御盤13との間で電気的に結線している。この潅水施肥制御盤は、電磁弁、肥料ポンプを制御し、潅水ポンプ起動装置を制御し潅水ポンプを駆動する。
潅水ポンプ2を使用しない場合は、潅水施肥制御盤は、電磁弁、肥料ポンプを制御する。
以下、潅水施肥制御の制御で潅水が行われる場合は、潅水ポンプを使用するときは潅水ポンプの駆動し、井戸又は貯水槽から送水し、使用しないときは潅水ポンプを駆動せずに取水源から送水されるものとする。
【0051】
〔電磁弁の制御〕
潅水施肥制御盤は、予め入力されたプログラムに従って制御し、所定の時期に所定の時間だけ電磁弁を開閉する。
【0052】
〔潅水施肥制御盤の制御フロー〕
本発明の栽培システムを、図4のフローチャートに示す。ブロック100で示す作物・栽培時期・栽培法に基づいて、ブロック200で示す潅水時刻パターンナンバー、潅水時刻パターン変更値、潅水施肥パターンナンバー設定値、潅水施肥パターン設定値、間隔数値(N)設定値、潅水時間設定値、潅水面積設定値、洗浄時間設定値、施肥量設定値を入力する。これらの値はブロック300で示すようにコンピュータに記憶される。コンピュータはこのデータを元に、ブロック400で示すように、潅水時刻パターン設定値、潅水施肥パターン番号設定値、繰返し回数R設定値、間隔数値Nの設定値、さらに、水分計の出力を判断し、数3を用いて演算し潅水施肥パターンを決定する。これにより、潅水ポンプの駆動と電磁弁の開閉を行う。また、同時に、潅水時間Ti設定値、圃場面積A設定値、洗浄時間Tw設定値、施肥量B設定値を元に数3で肥料ポンプストローク数を演算し肥料ポンプを駆動する。また、ブロック500で示すように、潅水施肥実績データ表示画面では、運転実績画面、潅水時間実績画面、施肥実績画面で3週間の履歴を記憶、表示する。
【0053】
これらの構成により、各系統毎に潅水時刻パターン、潅水施肥パターンに設定された時刻において、施肥と灌水をそれぞれ別個に実行するとともに、一日の1〜数回の肥料施用、潅水を行い、培地(土壌)の水分量が設定値より上回り、潅水の信号が出た場合は、潅水時刻パターンの設定時刻において、潅水ポンプを駆動し、また、電磁弁を開閉し、潅水や施肥が行われる。また、肥料ポンプのストローク数が演算され、肥料ポンプを駆動処理し設定された潅水施肥時間内に正確に肥料を注入する。
【0054】
また、制御部には潅水施肥実績データ表示場面があり、運転実績や潅水時間実績、施肥実績を記憶し、実績を複数系統について表示可能としている。
【0055】
〔電子式流量計を使用しない開発した方法での対応方法〕
開発した方法では、同一の電磁弁を潅水と施肥に用い、一定時間の潅水や一定量の施肥を行うことのできる高い機能を備えたたままで、電子式流量計を使用せずに潅水や施肥を行う。この場合、潅水時間、肥料ポンプの動作速度を一定にすると、複数系統が対応する基準面積当たりの潅水量は、同じ潅水時間で同じ潅水量となり、培地(土壌)の水分状態を複数系統ともそれぞれ同じ状態とすることができるが、複数系統が対応する面積が異なる場合は、潅水時間の中で肥料ポンプが同じ速度で動作するため、面積の大きい系統が対応する圃場では基準面積当たりの肥料が少なく、面積の小さい系統が対応する圃場では基準面積当たりの肥料が多くなる。
【0056】
このため、各系統が対応する基準面積当たりの土壌水分を同一にし、施肥量を同一にするために、各系統毎の面積の入力と基準施肥量から、肥料ポンプの動作速度を制御する方法が必要となる。
【0057】
これらの開発した方法により、夏秋期に栽培されるトマトでの、梅雨時期での少ない潅水量での必要な肥料の施用による草勢の維持、初秋期の少ない潅水量での必要な肥料の施用による品質向上が可能となる。
【0058】
〔潅水施肥制御盤の入力画面〕
潅水施肥制御盤は、潅水時刻パターンの入力画面、潅水施肥パターンの入力画面、潅水施肥を行う複数系統の面積(a)の入力画面、洗浄時間の入力画面、潅水時間と一定面積当たり施肥量の入力画面、また、このようにして入力された条件での潅水量や施肥量を強制的に作動させる入力画面、また、入力条件にかかわらず潅水量や施肥量を複数系統で作動させる潅水、施肥のテスト入力画面、時刻の入力画面、潅水や施肥の履歴を最大2週間分表示させる画面からなる。
【0059】
〔潅水施肥制御盤の画面切り替えと入力〕
それぞれの画面の切り替えや数値入力は、各画面の切り替えスイッチ、カーソル移動によって数値を入力する。登録スイッチで設定された数値のコンピュータへの登録を行う。
【0060】
〔面積入力〕
潅水施肥を行う面積とは、1個の電磁弁を介してつながっている点滴チューブが散水する面積であって、複数系統の面積をそれぞれ、アール(a)単位で入力する。
【0061】
〔潅水時間と潅水方法〕
1回当たりの潅水量は、栽培時期や作物の生育量を元に、潅水時間で設定し、一定の水圧条件での1分間の単位長当たりの点滴チューブからの水の吐出量を元に、一回の潅水に必要な潅水時間を入力する。潅水は、設定された1回当たりの潅水時間及び選定した索引コードの潅水時刻パターン及び潅水施肥パターン及び水分計の出力に基づいて、潅水動作を繰り返す。
【0062】
〔洗浄時間〕
洗浄時間は、点滴チューブが肥料の析出によって汚染するのを防止するため、1回の潅水時間の範囲内で任意の洗浄時間(分)を入力する。これにより、点滴チューブの肥料の析出等による目詰まりを防ぎ、点滴チューブの使用期間中の散水能力の維持や使用年数を伸ばすことができる。洗浄時間の設定は、各系統の点滴チューブの長さにより適宜変更するが、この変更によって、後述の肥料の設定を変更する必要はない。
【0063】
〔施肥量の入力〕
施肥量の入力は、1回の潅水中に施肥を行う、基準面積(a)当たりの肥料の量であり、表4に示すピーマンの事例のように、栽培法や栽培時期によって施肥量を変更する。各系統毎の圃場の土壌の養分状態、地力、栽培方法が異なる場合にも施肥量を変更する。
【0064】
〔N値を入力する潅水施肥の方法と表示〕
選択された潅水時刻パターンの時刻表において、任意の数値Nを入力し潅水施肥時刻を算出する。Nを入力すると数4により、初回及び任意の設定時刻での潅水又は潅水施肥の時刻を設定し、潅水時刻パターンと潅水施肥パターンの設定により、最適な潅水施肥のパターンでの動作を行うことができる。また、各時刻での潅水又は潅水施肥の実施方法を対人画面に示すことができる。
【0065】
【数4】

【0066】
〔施肥量の計算方法〕
1回の潅水時間と、肥料によって汚染した点滴チューブを水で洗浄する任意の設定される洗浄時間と、圃場の面積の入力と、施肥量(a)の入力と、肥料ポンプの能力である最大ストローク数(肥料ポンプ定数K)と肥料ポンプ最大能力定数(P)を組合せ、数3に基づいて、潅水時間と洗浄時間の差の肥料施用時間内に肥料ポンプのストローク数を演算し、潅水施肥を行おうとする面積に必要な肥料を注入する。ここで、ポンプの能力によってストローク当たりの容量が定まっており、数5により得られたストローク数Sに施肥時間を乗ずることで肥料の容量が定まる。
【0067】
【数5】

【0068】
〔施肥、潅水の履歴保存〕
潅水や施肥の日と量の履歴をコンピュータに最大3週間保存することができることにより、潅水や施肥の動作確認とともに、栽培履歴をまとめて書き留めることで、肥料の施用量の証明等に用いることができる。この肥料の施用量の証明は、前述の減化学肥料栽培、減肥栽培を証明するのに有効である。
【0069】
〔潅水、施肥の方法〕
潅水と施肥の方法は、各系統毎の面積、潅水時刻パターンの選択、潅水施肥パターンの選択、洗浄時間、潅水時間、施肥量を設定する。設定した潅水時刻パターンにあって、潅水時刻パターンで、施肥の繰り返し1回で、その後、水分計による潅水をするパターンを選択したときは、タイマーが最初の時刻に達したとき、強制的に各系統毎の面積に対し、1回潅水と施肥を行い、その後、水分計の出力によって潅水を行う。また、施肥の繰り返し2回とすると、潅水時刻パターンの時刻の最初の2回強制的に潅水と施肥を行い、その後、動作は前述と同じとなる。また、N回を入力すると、潅水時刻パターンのN回毎に潅水又は施肥を繰り返す。これにより、作物の生育量や栽培時期に適応した、適正な施肥や水管理ができる。
【実施例1】
【0070】
表2の潅水施肥パターンは、潅水ポンプと電磁弁、肥料ポンプを作動させる方法を選択するもので、設定した潅水時刻パターンの潅水時刻において、潅水ポンプと電磁弁又は肥料ポンプを初回に強制作動し、これをONで示し、水分計の出力による潅水ポンプと電磁弁又は肥料ポンプの作動をpF?−>ON、それぞれのN回目の作動をONで示す。また、表3の潅水パターンでは、潅水時刻パターンの潅水時刻において、初回の動作を連続して2回以上繰り返し、潅水ポンプと電磁弁又は肥料ポンプの強制作動を初回及び繰返し回数の時刻にONで示したものである。
【0071】
表1の潅水時刻パターン16の例では、8:00から毎時毎に18:00までの潅水時刻が設定されているが、表2の潅水施肥パターン番号1と組合わせると、一回目8:00に強制的に潅水と施肥を行い、その他の時刻では水分計の出力に基づいて潅水が実施される。これにより、毎日の必要な肥料が確実に施用され、培地水分は適正に維持された。
【0072】
〔比較例1〕
〔電子式流量計を備えた従来の機種〕
図2に示すように、同一の電磁弁を潅水と施肥に用い、一定時間の潅水や一定量の施肥を行うことのできる高い機能を備えた潅水施肥装置では、潅水制御盤と電子式流量計が結線されており、電子式流量計の信号を電圧で出力し、それを元に流量を制御し必要な潅水量を流量で設定する。制御盤上の流量、肥料の濃度の設定で、電子式流量計を流れる潅水の流速に比例して肥料濃度が一定となるように、肥料ポンプが肥料を注入する。この方法は、電子式流量計やそれを制御する装置の価格が高いこと等から、生産規模が小さい果菜類生産者での導入が困難である。
【0073】
〔比較例2〕
〔電子式流量計を備えていない従来の機種〕
図2に示すように、電子式流量計15を備えていない従来の機種では、フィルター5と肥料混入器16からなるユニットと電磁弁がつながっており、電磁弁を一定時間開閉する間に水圧で肥料を吸い上げる肥料混入器によって肥料が注入される。電磁弁には常に肥料が残り、汚染により目詰まりを起こし易い。また、肥料混入器は潅水量に対して一定の肥料希釈率となるように、肥料混入器の肥料ダイアル16aを手動で回して設定するが、施肥精度は肥料ポンプに比べて劣る。また、原水の水圧変動が起きる条件での使用では、水圧が変動すると肥料注入量も変動するため正確な量の肥料を施用することができない。購入価格は低いものの、細かい潅水や肥料の施用が必要な栽培法には利用できない。
【0074】
これを改良するため、図3に示すように、潅水用の電磁弁7a又は肥料混入器16からなるユニットがつながる肥料用電磁弁7eがそれぞれ結線した制御盤2枚17a、17bを備え、2枚の制御盤の設定をそれぞれ行う必要方法があるが、装置や取扱が複雑となる。
【0075】
このような改良された機種あるいは従来の機種を用いた栽培について、果菜類の中で夏秋期に栽培されるトマトでは、梅雨時期には果実が連続して多く着果し、株への着果負担が急増し草勢が低下する。この時期の日射量は少なく作物体の水分の吸収も減少するため、1日の潅水量を少なくし培地(土壌)が過湿とならないように管理する必要がある。潅水量を減らすと肥料の施用量も少なくなり、作物体が栄養不足に陥り易く草勢が低下する原因となる。また、初秋期には、同様に潅水量が減って肥料の施用量も少なくなり、品質低下の原因となる。このように、少ない潅水量で必要な肥料を施用するには、潅水量と施肥量を個別に設定する必要があり、毎日、設定変更することは大変煩雑な作業となり、困難である。
【実施例2】
【0076】
また、表1の潅水時刻パターン牽引番号16と、表2の潅水施肥パターン番号4でNを3とし、これを組合わせると、一回目の8:00に強制的に潅水と施肥を行い、その後、潅水時刻パターンの設定時刻の初回の8:00とその後の3回目の14:00に、強制的に潅水施肥が行われる。また、その他の時刻では水分計の出力に基づいて潅水が実施される。また、表2潅水時刻パターン牽引番号16と潅水施肥パターン番号1の組合せでは8:00と10:00の2回に強制的に潅水施肥が繰返される。その他の時刻には水分計の出力に基づいて潅水が行われる。これらを時期により組合わせることで、作物の盛んな生育に対して水分や養分の供給を円滑に行うことができた。
【実施例3】
【0077】
最大注入量が750(CC/分)、最大ストローク数が360の能力を有する肥料ポンプの使用例で、表4のピーマンの施肥例1の7月の施肥を実施する場合、10aの面積に対し1日1回の潅水施肥を行うに当たり、肥料の原体を水で10倍に薄めた肥料の量を1250(CC/アール)に設定し、潅水時間を12分、洗浄時間を2分と設定し潅水施肥を行うと、肥料ポンプのストロークは数3により300となる。これを1日2回に分けて施肥を行う場合に肥料の量を625(CC/アール)に設定すると、ストローク数が150となる。1回の潅水時間を長くすると、施肥時間(潅水時間−洗浄時間)が長くなり、ストローク数は小さくなる。これにより、設定された施肥時間の範囲で正確に施肥ができ、水圧が低下する等により潅水量が低下しても設定された量の施肥が正確に行われた。
【0078】
【表4】

【実施例4】
【0079】
表4のピーマンの施肥例1で、7月に最大注入量が450(CC/分)、最大ストローク数が360の能力を有する肥料ポンプで、肥料の量を1250(CC/アール)に設定し、潅水時間を12分、洗浄時間を2分と設定し潅水施肥を行う場合、肥料ポンプのストロークは数3により500となり、肥料ポンプの能力を超える。この時期は潅水量も多く必要とする時期であるため、1日に2回に分けて潅水施肥を行う場合には、肥料の量を625(CC/アール)に設定すると、ストローク数が260となって肥料ポンプの許容範囲となり、適正な潅水と正確な施肥が行われた。
【実施例5】
【0080】
点滴チューブの洗浄時間は必要に応じて任意に設定できるため、点滴チューブ長等を考慮して適宜に洗浄時間を変えても、コンピュータが潅水時間−洗浄時間により施肥時間を求め、施肥時間と施肥量と面積から自動的に肥料ポンプの注入量(ストローク数)を演算するため、肥料の希釈倍率等を変更する等の煩わしい操作を行うことなく、設定した肥料を施用できた。
【実施例6】
【0081】
山間地の狭隘な地形に近傍に点在する複数カ所の系統の圃場に対し、それぞれの圃場が蓄えている養分量である、いわゆる地力の違い等を考慮して、各系統毎に面積を入力し、施肥量を変えて栽培を行うと、各圃場の作物の生育を整えることができた。
【実施例7】
【0082】
果菜類の中で夏秋期に栽培されるトマトでは、曇天の続く梅雨時期になると果実が数段果房に連続して着果し肥大するため、株の着果負担が急増し草勢が低下し易い。この時期の日射量は少なく作物体の水分の吸収も減少するため、1日の潅水量を少なくし培地(土壌)が過湿とならないように管理する必要がある。潅水量と比例して肥料を注入する吸引式肥料混入装置での肥料の施用では、潅水量を減らすと肥料の施用量も少なくなるため、作物体が栄養不足に陥り易く草勢が低下する原因となる。また、初秋期には、日射量が次第に低下し、潅水量を減らすと肥料の施用量も少なくなって培地の肥料濃度が低下するため、糖度が高まらずに品質低下の原因となる。このような場合でも、本装置では、表5ように、曇天が続く梅雨期の6月の施肥では1回の潅水時間10分で1244cc/aを、日射量の低下する初秋期の9月の施肥では1回の潅水時間10分で1000cc/aを施肥すると、草勢を低下することなく、また、果実品質を低下することなく生育を確保できた。
【0083】
【表5】


〔比較例1〕
【0084】
潅水量が少ない時期には、培地(土壌)の水分が減少するため、水分計の指示値が高くなり易い。使用する水分計は長時間にわたって、少ない水分状態(乾燥状態)に置かれると、水分計の真空度が高まって水分計に詰められている水がポーラスカップから培地に浸み出て、真空度が次第に高まり、水分計の水が無くなると正常な作動ができなくなった。この場合は、水分計を使用せずに、潅水時刻パターンや潅水施肥パターンに設定した任意のパターンで潅水と施肥を行う必要があった。
【実施例8】
【0085】
果菜類の栽培で、表4の施肥例2のように、生育期間中に緩やかに肥効が現れる肥料を基肥に施用する方法で、全量を基肥に施肥する表4の施肥例1に対し、その施肥量の1/2量を、生育の状況に応じて、当潅水施肥装置の機能を利用した潅水施肥栽培により安定した生育が確保できた。
【実施例9】
【0086】
果菜類の栽培で、表4の施肥例3のように、有機物を基肥に施用して有機物の分解によって供給される養分で栽培初期の養分供給を行い、水分計に基づく自動潅水のみで生育を調整する。その後、生育の状況に応じて、時刻パターンの初回に潅水施肥を必ず行い、水分計に基づく自動潅水で培地の水分調整を行い、さらに生育が進むと初回と2回に潅水施肥を必ず行うなどで年間の潅水施肥を完全に自動化できた。これにより、表4の潅水施肥例3のように特別栽培農産物の認証基準である慣行施肥量の1/2を有機物で施用し、残りの1/2を肥料の原体を水で希釈し施用した栽培が可能であった。
【実施例10】
【0087】
培地が周辺の土壌から隔離され、人の腰の高さに少量の培地が重点され高設されているイチゴの高設栽培では、培地の水分保持量には限界があり、タイマーを使用した潅水では培地の水分状態にかかわらず一定量の潅水が行われるため。保水量を上回る水分が培地の肥料過養分を排液として圃場外に流出させて環境汚染を招き易い。そこで、時刻パターンに基づく初回又は2回目に必ず潅水液肥を行い、その後水分計で潅水を行うことで、排液量を著しく削減できた。
【実施例11】
【0088】
土壌から隔離されたトマトの隔離栽培にあって、培地の容積が制限された条件では、培地の保水量が制限されるため、保水量を超える潅水が行われると培地中に潅水による水が停滞し作物の根の障害(湿害)を招いた。よって、前述の潅水や施肥を行うことで培地中での停滞水がなくなり、健全な生育を維持できた。
【実施例12】
【0089】
チューブの散水穴から水が滴下する散水方式の点滴チューブを施用せずに、チューブの両側又は片側に空いた散水穴から水を吐出する潅水チューブを使った潅水法でも、チューブの単位長当たりの水の吐出量を元に潅水時間を設定することで、点滴チューブ使った潅水施肥栽培と同様の栽培ができた。
【実施例13】
【0090】
コンピュータに記憶された2週間の潅水や施肥の履歴を、第3者が確認することで、使用した肥料の量を確認ができ、前述の特別栽培農産物での1/2化学肥料の削減の実施状況を認証する方法として利用できた。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】潅水施肥システム図である。
【図2】電子式流量計を備えたあるいは備えないシステムの比較図である。
【図3】2枚の制御盤を利用した潅水と施肥図である。
【図4】潅水と施肥を制御するコンピュータの制御フローチャートである。
【符号の説明】
【0092】
1 井戸又は貯水槽
2 潅水ポンプ
3 水圧を有する取水源
4 取水源用電磁弁
5 フィルター
6 肥料混入部
7a〜7d 電磁弁
8a、8b 水分計
9 点滴チューブ
10 栽培圃場
11a、11b 肥料タンク
12a、12b 肥料ポンプ
13 潅水施肥制御盤
14 潅水ポンプ起動装置
15 電子式流量計
16 吸引式肥料混入装置
17a 潅水制御盤
17b 肥料制御盤



【特許請求の範囲】
【請求項1】
潅水時刻パターンと潅水施肥パターンを選択して栽培時期に適切な潅水施肥を行う潅水施肥装置であって、複数回の潅水時刻を規定した、各潅水時刻パターンコードに索引コードを付した潅水時刻パターンコード表と、初回、繰り返し又はN回目毎に実施する潅水、潅水施肥又は水分測定における潅水の時間、水分計の出力から選ばれた少なくとも一つに基づく潅水及び/又は潅水施肥を実施する潅水施肥パターン表とを有し、潅水時刻パターンコード表と潅水施肥パターン表とをマイクロコンピュータに登録し、制御することを特徴とする潅水施肥装置。
【請求項2】
Nが数1で表される請求項1に記載の潅水施肥装置。
【数1】

【請求項3】
1回の潅水時間Tiと、肥料によって汚染した点滴チューブを水で洗浄する任意の設定される洗浄時間Twと、圃場面積Aと、施肥量Bと、肥料ポンプの能力である最大ストローク数(肥料ポンプ能力定数(K))と肥料ポンプ最大能力定数(P)とを組合せ、数2に基づいて、潅水時間Tiと洗浄時間Twの差の施肥時間内に肥料ポンプストローク数Sを演算し、圃場面積に必要な潅水施肥を実施する請求項1又は請求項2に記載の潅水施肥装置。
【数2】

【請求項4】
潅水施肥パターンが、0から始まる潅水施肥ナンバーに選択した潅水時刻パターンの時刻を並べ、潅水ポンプ、電磁弁又は肥料ポンプを作動する方法を並べたパターンであって、設定した潅水時刻パターンの潅水時刻において、潅水ポンプ、電磁弁又は肥料ポンプを初回に強制作動し、又は2回目若しくは3回目まで強制作動し、これをONで示し、強制作動をし終えた次の回から水分計の出力による潅水ポンプ、電磁弁又は肥料ポンプの作動をPF?−>ON、或いはn回目の作動をONで示したパターンをいくつか作成したパターン群からなる表である請求項1から請求項3のいずれかに記載の潅水施肥装置。
【請求項5】
潅水時刻パターン設定と、潅水施肥パターン設定と、圃場面積の入力と、施肥量の入力と、洗浄時間の入力と、一定期間毎の潅水と施肥の履歴とを、記録し、表示し、これらに基づいてその後の設定を変更する、マイクロコンピュータに対人操作画面を有する請求項1から請求項4のいずれかに記載の潅水施肥装置。
【請求項6】
潅水時刻パターンと潅水施肥パターンを選択して栽培時期に適切な潅水施肥を行う潅水施肥制御方法であって、複数回の潅水時刻を規定した、各潅水時刻パターンコードに索引コードを付した潅水時刻パターンコード表と、初回、繰り返し又はN回目毎に実施する潅水、潅水施肥又は水分測定における潅水の時間、水分計の出力から選ばれた少なくとも一つに基づく潅水及び/又は潅水施肥を実施する潅水施肥パターン表とを有し、潅水時刻パターンコード表と潅水施肥パターン表とをマイクロコンピュータに登録し、制御することを特徴とする潅水施肥制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−295876(P2007−295876A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128049(P2006−128049)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(306015489)有限会社 平田電気計装 (4)
【出願人】(591224788)大分県 (31)