説明

潜像印刷物

【課題】 本発明は、複製防止対策や偽造防止対策を必要とするセキュリティ印刷物である銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード及び通行券等の貴重印刷物の分野において、通常の可視光下で観察することができる画像が、特定の条件下で観察した場合には全く異なる画像に変化する、特殊な画像の構成と、これによって形成される潜像印刷物を提供する。
【解決手段】 浸透性インキによって形成された第二の画像の上に、光輝性材料によって第一の画像が形成された印刷物であって、拡散反射光下で視認される画像と、正反射光下で視認される画像が全く相関のない画像であり、加えて透過光で観察した場合に正反射光下で視認される画像とネガポジの関係にある画像を視認することが可能な潜像印刷物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複製防止対策や偽造防止対策を必要とするセキュリティ印刷物である銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード、通行券等の貴重印刷物の分野において、通常の可視光下で観察することができる画像が、特定の条件下で観察した場合には全く異なる画像に変化する、特殊な画像の構成と、これによって形成される潜像印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のスキャナ、プリンタ及びカラーコピー機等のデジタル機器の進展により、セキュリティ印刷物の精巧な複製物を容易に作製することが可能となっている。そのため、前述したような複製や偽造を防止するため、すき入れに代表されるようなコピー等による複製では、再現不可能な様々な偽造防止技術が必要とされている。
【0003】
すき入れ技術の一例として、あらかじめ入力された画像パターン情報に基づき、シート基材面の所定部にレーザ光を照射し、照射部のシート基材を貫通させない程度に部分的に除去し、ハーフカット様態のすかし画像をシート面に形成したすかし画像が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、前述した偽造防止技術の中には、複雑な画素構成や画線構成と、特殊な機能を有する様々な機能性インキの組合せによって構成する技術であって、通常光下で観察される可視画像と、特定の条件下で観察される潜像画像が、全く相関のない異なる画像である、いわゆる画像のチェンジ効果を有する技術が存在する。
【0005】
本出願人は、拡散反射光下では、等色に観察されるが、正反射光下では色彩が異なって観察される関係にある二つのインキをペアインキとして用い、かつ、特殊な網点構成によって構成する印刷物であって、拡散反射光下の観察で視認される画像と、正反射光下の観察で視認される画像とが、全く相関のない異なる画像である、いわゆるチェンジ効果を有することを特徴とする潜像印刷物に関わる発明を既に出願している(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、本出願人は、基材に印刷した場合に反射光下では等色に観察されるが、透過率が異なる関係にある二つのインキをペアインキとして用い、かつ、特殊な網点構成によって画像を形成する印刷物であって、反射光下で観察することができる画像と透過光下で観察することができる画像が全く相関のない異なる画像である、チェンジ効果を有することを特徴とする潜像印刷物に関わる発明を既に出願している(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−236000号公報
【特許文献2】特願2009−267329号
【特許文献3】特願2010−008034号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2の技術に関しては、正反射光下で観察した場合にのみ潜像画像を視認することができる構成であり、特許文献3の技術に関しては、透過光下で観察した場合にのみ潜像画像を視認することができる構成であり、これらは、拡散反射光下で観察される画像を基準とすると、拡散反射光下とは異なる、一つの特定の条件下(正反射光下又は透過光下)で潜像画像を視認可能な技術であった。しかし、この技術は、セキュリティ印刷物を真偽判別することができる環境が限定されてしまうことを意味しており、あらゆる環境及び状況下で真偽判別が行う場合があるセキュリティ印刷物の性質を考慮すると、解決すべき問題であった。例えば、一つのセキュリティ印刷物中に特許文献2及び特許文献3の技術の両方を形成することでこの問題に対応することは可能であるが、その場合、刷色数の増加や印刷面積の増大を招くことから、一つの技術であるにも関わらず、複数の条件下で潜像画像が視認可能であり、真偽判別が行える環境が限定されない技術が望まれていた。
【0009】
また、特許文献2及び特許文献3に記載の技術に関しては、二つの画像を組み合わせて印刷物を形成する場合、二つの画像を高精度に刷り合わせて形成する必要があった。刷り合わせがわずかでもずれてしまった場合には、拡散反射光下でも正反射光下で観察されるべき潜像画像が視認され、かつ、可視画像が不明瞭な画像として視認されてしまうという課題があった。
【0010】
また、偽造防止効果を必要とするセキュリティ印刷物に関しても、従来と同様、生産性の高い印刷方式での製造が求められ、同時に、最新のデジタル機器を用いても複製物を容易に作製できない技術が求められている。
【0011】
正反射光下で真偽判別する行為は、照明に対してわずかに印刷物を傾ける程度の、人目につかない小さな動作で行うことができる反面、観察環境中に存在する光の影響に強く左右されるため、常に認証性が高いとはいい難い(例えば、認証環境中に大きな窓があれば昼間と夜では見え方が異なる。)。
【0012】
逆に、引用文献1記載のすかし技術は、極めて認証性の高い真偽判別技術であるが、印刷物を透かすという行為は、多くの場合、目立つ動作を伴う。対面販売における真偽判別は、客本人が居る間に迅速に行う必要があるが、例えば、スーパーやコンビニ等のレジにおいて、客から渡されたお金を透かすという行為を、客本人の前で行うことは現在の日本人の感覚では失礼にあたると考えられ、安易に行える行為ではない。
【0013】
以上のように、従来の技術においては、人目につかない小さな動作で真偽判別することができる反面、認証性が低くなったり、認証性が高い反面、目立つ動作を必要としたり等、相反する問題を有していた。
【0014】
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、二つの画像を単純に重ね合わせるだけで形成可能な画像のチェンジ効果を有する印刷物であって、拡散反射光下で視認される画像と、正反射光下で視認される画像が全く相関のない画像であり、加えて正反射光下で視認される画像は、透過光で観察した場合にも視認することが可能であり、かつ、生産性の高いオフセット印刷方式で形成可能な潜像印刷物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明における潜像印刷物は、基材の少なくとも一部に、基材と異なる色を有する印刷画像が形成されており、印刷画像は、第一の画像と第二の画像を備え、第二の画像は、無色透明の浸透型の第二のインキにより、ベタ刷りで形成されて成り、第二の画像の上に、光輝性材料を含む第一のインキにより第一の画像が形成され、第一の画像は、情報要素が規則的に複数配列されて成る情報部と、情報部とは異なる面積率で、背景要素が規則的に複数配列されて成る背景部とに区分けされ、情報要素と背景要素は、重なり合わないように形成されて成り、拡散反射光下で観察した場合は、第一の画像のみが視認され、正反射光下で観察した場合は、第二の画像のみが視認され、透過光下で観察した場合は、正反射光下で視認される第二の画像とネガポジの関係を有して視認されることを特徴とする。
【0016】
本発明における潜像印刷物は、第一の画像が、更にカモフラージュ部を備え、カモフラージュ部は、カモフラージュ要素が複数配列され、複数配列されたカモフラージュ要素は、第二の画像をネガポジ反転させた画像から情報部を取り除いて形成するか、又は第二の画像をネガポジ反転して形成され、情報要素及び背景要素と重なり合わないように、拡散反射光下において、カモフラージュ部が第二の画像と等色と成る面積率で形成されることを特徴とする。
【0017】
本発明における潜像印刷物は、情報要素、背景要素及びカモフラージュ要素が、画線及び画素の少なくとも一つ又はそれぞれの組み合わせであることを特徴とする。
【0018】
本発明における潜像印刷物は、第一の画像の面積率が、10%から80%の範囲で形成され、かつ、最小面積率と最大面積率の差異が50%以下であることを特徴とする。
【0019】
本発明における潜像印刷物は、基材が、浸透性を有する基材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の潜像印刷物において、通常の観察条件(拡散反射光下)で第一の画像を視認することができ、正反射光下及び透過光下では、第二の画像を視認することができることから、一つの印刷画像を用いて複数の異なる条件下での潜像の確認による真偽判別が可能となった。また、この複数の異なる条件下で潜像が出現する効果を模倣することは、一つの条件下で潜像が出現する技術を模倣するよりも当然のことながら困難であることから、より偽造抵抗力に優れる。
【0021】
本発明の潜像印刷物の場合、客から手渡された潜像印刷物を、まず、わずかに傾けて正反射させ、第二の画像を視認することができるか否かを確認する。この動作は、極めて小さな動作であるから、客の側からは真偽判別が行われているかどうかはわからない。真正品であればこの段階で、第二の画像を視認することができることから、これ以上のチェックは不要とある。しかし、この状態で第二の画像を視認することができなかったり、画像が不鮮明であったりして、疑わしい場合にのみ、潜像印刷物を透かす行為を行い、確実な真偽判別を行えるものである。以上のように、本潜像印刷物によって、正反射光及び透過光による真偽判別方法のそれぞれの弱点を一つの要素で補完することができる。よって、より自然で確実な真偽判別が可能となり、従来よりも偽造品の排除が容易にでき得る状況を提供することができる。
【0022】
以上の手法で形成した潜像印刷物は、生産性の高い印刷方式であるオフセット印刷でも製造可能であることからコストパフォーマンスに優れる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明における潜像印刷物を示す。
【図2】本発明における潜像印刷物に含まれる印刷画像を示し、(a)は、第一の画像、(b)は、第二の画像を示す。
【図3】本発明における第一の画像を構成する各画像部を示し、(a)は、情報部、(b)は、背景部を示す。
【図4】本発明における第一の画像が、カモフラージュ部を有する一例を示す。
【図5】本発明における第一の画像が、カモフラージュ部を有する一例を示す。
【図6】本発明における潜像印刷物の効果を示し、(a)は、拡散反射光下で観察者が潜像印刷物を見た場合に視認される画像を示し、(b)は、正反射光下で観察者が潜像印刷物を見た場合に視認される画像を示す。(c)は、透過光下で観察者が潜像印刷物を見た場合に視認される画像を示す。
【図7】本発明における第一の画像を画素で形成した場合の一例を示す。
【図8】本発明における第一の画像を画線で形成した場合の一例を示す。
【図9】各要素における、画線及び画素の少なくとも一つ又はそれぞれの組合せを示す。
【図10】実施例1における潜像印刷物を示す。
【図11】実施例1における潜像印刷物に含まれる画像を示し、(a)は、第一の画像、(b)は、第二の画像を示す。
【図12】実施例1における第一の画像を構成する各画像部を示し、(a)は、情報部、(b)は、背景部を示す。
【図13】実施例1における第一の画像の具体的な構成を示し、(a)は、情報部、(b)は、背景部を示す。
【図14】実施例1における潜像印刷物の効果を示し、(a)は、拡散反射光下で観察者が潜像印刷物を見た場合に視認される画像を示し、(b)は、正反射光下で観察者が潜像印刷物を見た場合に視認される画像を示す。(c)は、透過光下で観察者が潜像印刷物を見た場合に視認される画像を示す。
【図15】実施例2における潜像印刷物を示す。
【図16】実施例2における潜像印刷物に含まれる画像を示し、(a)は、第一の画像、(b)は、第二の画像を示す。
【図17】実施例2における第一の画像を構成する各画像部を示し、(a)は、情報部、(b)は、背景部、(c)はカモフラージュ部を示す。
【図18】実施例2における第一の画像の具体的な構成を示し、(a)は、情報部、(b)は、背景部、(c)は、カモフラージュ部を示す。
【図19】実施例2における潜像印刷物の効果を示し、(a)は、拡散反射光下で観察者が潜像印刷物を見た場合に視認される画像を示し、(b)は、正反射光下で観察者が潜像印刷物を見た場合に視認される画像を示す。(c)は、透過光下で観察者が潜像印刷物を見た場合に視認される画像を示す。
【図20】実施例3における潜像印刷物を示す。
【図21】実施例3における潜像印刷物に含まれる画像を示し、(a)は、第一の画像、(b)は、第二の画像を示す。
【図22】実施例3における第一の画像を構成する各画像部を示し、(a)は、情報部、(b)は、背景部、(c)は、カモフラージュ部を示す。
【図23】実施例3における第一の画像の具体的な構成を示し、(a)は、情報部、(b)は、背景部、(c)は、カモフラージュ部を示す。
【図24】実施例3における潜像印刷物の効果を示し、(a)は、拡散反射光下で観察者が潜像印刷物を見た場合に視認される画像を示し、(b)は、正反射光下で観察者が潜像印刷物を見た場合に視認される画像を示す。(c)は、透過光下で観察者が潜像印刷物を見た場合に視認される画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0025】
図1に、本発明における潜像印刷物(1)を示す。潜像印刷物(1)は、基材(2)の少なくとも一部に、基材と異なる色を有する印刷画像(3)が形成されている。なお、説明の便宜上、印刷画像(3)の中に「桜」の模様を表現しているが、拡散反射下で観察した場合には、「桜」の模様は視認不可である。
【0026】
図2に、印刷画像(3)の構成を示す。印刷画像(3)は、図2(a)に示す第一の画像(4)と、図2(b)に示す第二の画像(5)から構成されて成る。
【0027】
図3に、第一の画像(4)の構成を示す。第一の画像(4)は、図3(a)に示す情報部(6)と、図3(b)に示す情報部(6)の周囲を取り囲む背景部(7)から成り、情報部(6)は、文字、数字及び記号等の有意味情報から成る。本発明を実施するための形態の説明において、情報部(6)は、「JAPAN」の文字とする。
【0028】
また、第二の画像(5)は、面積率100%のベタ刷りで形成され、文字や数字、記号等の有意味情報のみから成る。本発明を実施するための形態の説明において、第二の画像(5)は、「桜」の模様とする。
【0029】
ただし、前述したとおり、第二の画像(5)は、面積率100%のベタ刷りで形成することが最も望ましいが、むかれ(ピッキング)、トラッピング不良等の印刷トラブルを防ぐ目的で、わずかに面積率を落として(例えば、80%程度まで。)設計することは、本発明の技術的思想の範疇である。また、例えば、基材(2)上に、面積率95%で第二の画像(5)を印刷した場合でも、多少のドットゲインを起こし、作製された潜像印刷物(1)における第二の画像(5)の面積率が100%と成る。この場合においても、本発明における第二の画像(5)は、ベタ刷りで形成されている、ということとする。
【0030】
また、例えば、面積率75%で印刷を行った第二の画像(5)が、ドットゲインにより面積率80%と成った場合においても、本発明における第二の画像(5)は、ベタ刷りで形成されている、ということとする。これらのことから、第二の画像(5)における面積率については、潜像印刷物(1)の作製後、第二の画像(5)の面積率が80%を超えていればベタ刷りの範疇とする。ただし、本発明の効果を考慮すると、潜像印刷物(1)の作製後、第二の画像(5)は、面積率100%のベタの状態と成ることが好ましい。
【0031】
むかれ(ピッキング)とは、印刷時に紙表面が変形したり剥離したりする現象で、インキが転移する過程で起こる紙表面層の障害であり、トラッピング不良とは、先刷りのインキが後刷りのインキを受け付けないで、後刷りインキが綺麗に転移しない現象のことである。また、ドットゲインとは、版上のインキが印圧によって押し広げられるために、網点が対応する版の網点よりも大きく印刷される現象のことである。
【0032】
第一の画像(4)を形成する情報部(6)と背景部(7)は、濃淡差を有する。この濃淡差を形成するには、単純に情報部(6)と背景部(7)の網点の面積率が異なっていれば良い。面積率を異ならせる方法としては、網点の大小を用いる方法や網点の粗密を用いる方法が公知であり、加えて、後述する実施例1、2及び3で説明するような、特定の大きさの画素や特定幅の画線を規則的に複数配置して一定の面積率を形成する方法を用いても良い。なお、本発明における面積率とは、一定の面積中に占める印刷された面積の割合のことである。
【0033】
第一の画像(4)は、光輝性材料を含んだインキで形成する。これによって、一定の階調制限を設けて形成された第一の画像(4)は、正反射光下において強く光を反射して淡く変化し、情報部(6)と背景部(7)の階調差が収束する。よって、拡散反射光下で視認される情報部(6)と背景部(7)間の濃淡差は、正反射光下では消失し、第一の画像(4)は目視上フラットな画像として視認される効果が生じる。
【0034】
光輝性材料は、アルミニウム粉末、銅粉末、亜鉛粉末、錫粉末、真鍮粉末又はリン化鉄等の一般的な金属粉顔料で良い。また、虹彩色パール顔料、鱗片状顔料等の一般的なパール顔料や、ガラスフレーク顔料、コレステリック液晶顔料等の機能性顔料を用いた場合には、第一の画像の明度のみが変化する明暗フリップフロップ性のみでなく、第一の画像の色調も変化するカラーフリップフロップ性を付与することができる。
【0035】
第二の画像(5)を形成する第二のインキには、すかしインキのように印刷後の用紙内部に浸透することで、第二のインキを印刷した領域の透過率を高くする浸透成分を有したインキ(以下「浸透型インキ」という。)を用いる。これは、透過光下で第二の画像(5)を観察するために必要となる特性であり、これらの浸透型インキは、無色透明とする。本明細書における無色透明とは、インキ中に白を除く有色の顔料や染料を含まないことを必須条件とするものであり、インキのワニス自体にわずかな色(浸透型インキの多くは、ワニスが、黄味がかっている。)を有している場合については、無色透明に含むものとする。また、インキの粘度や印刷適性をコントロールするために、白色顔料や半透明な顔料を配合している場合についても、無色透明に含むものとする。
【0036】
また、第二のインキとして浸透型インキを用いているが、浸透型インキは、インキ自体が無色透明であっても、印刷後のインキが基材に浸透した場合に、わずかに視認することができる程度の色濃度を形成する場合が多い。この場合、拡散反射光下では、不可視であるべき第二の画像(5)が可視化され、第一の画像(4)も同時に視認することができてしまう場合がある。このような場合、第一の画像(4)にカモフラージュ部を付与することで、この問題を回避することができる。カモフラージュ部の構成について、図4及び図5を用いて説明する。
【0037】
図4に示すように、印刷画像(3)は、第一の画像(4)と第二の画像(5)を含んでいる。このうち、第一の画像(4)は、情報部(6)、背景部(7)及びカモフラージュ部(12)から成る。情報部(6)は、有意味情報である「JAPAN」の文字を形成し、背景部(7)は、情報部(6)の周囲を取り囲むように隣接して成る。また、カモフラージュ部(12)は、カモフラージュ要素が複数配列されて成り、カモフラージュ部(12)は、第二の画像(5)である「桜」模様をネガポジ反転させた画像から、情報部(6)を取り除いた画像である。この具体的な方法については、後述する実施例2で説明する。
【0038】
図5に示すように、印刷画像(3)は、第一の画像(4)と第二の画像(5)を含んでいる。このうち、第一の画像(4)は、情報部(6)、背景部(7)及びカモフラージュ部(12)から成る。情報部(6)は、有意味情報である「JAPAN」の文字を形成し、背景部(7)は、情報部(6)の周囲を取り囲むように隣接して成る。また、カモフラージュ部(12)は、カモフラージュ要素が複数配列されて成り、カモフラージュ部(12)は、第二の画像である「桜」模様をネガポジ逆転させた画像である。この具体的な方法については、後述する実施例3で説明する。
【0039】
また、第二のインキに無色透明のインキを用いる場合、脱刷や印刷不良等の致命欠点の発生の有無を見極めることを目的とするか、又は真偽判別性の向上を目的として、第二のインキ中に蛍光顔料、蛍光染料及び燐光顔料等の発光顔料又は発光染料並びに赤外線吸収材料及び赤外透過材料等の機能性材料を添加しても何ら問題ない。真偽判別性の向上を目的とする場合には、第二のインキだけでなく、第一のインキにこれらの機能性材料を添加することは、より有効であるといえる。
【0040】
また、第二のインキにより第二の画像(5)を印刷し、インキが浸透して第二の画像(5)が可視化された際、第二の画像(5)にわずかでも色濃度が生じる場合に限り、第一のインキと第二のインキは、拡散光下での色相が同じである必要がある。第二のインキを印刷した場合に、印刷画像(3)にわずかでも色濃度が生じる場合には、拡散反射光下において第二の画像(5)を不可視とするために、前述のカモフラージュ部(12)を第一のインキで形成して、第二の画像(5)を隠ぺいする構成を用いるが、第一のインキと第二のインキの色相が異なっている場合には、第二の画像(5)を目視上隠ぺいすることが不可能となるためである。
【0041】
第二の画像(5)を面積率100%で形成することが望ましい理由は、浸透型インキの転移量を可能な限り多くして透過性を上げ、透過光下で視認することができる第二の画像(5)の視認性を高め、真偽判別性を高く保つためである。また、本発明のもう一つの効果である、正反射光下において第二の画像(5)を視認することができる効果を得るためには、印刷された部分と印刷されていない部分における反射率を利用するため、この反射率に違いを保つためにも第二の画像(5)は、100%の面積率で形成することが望ましい。
【0042】
本発明の潜像印刷物(1)の作製手順について説明する。まず、第二のインキを用いて、第二の画像(5)を基材(2)に印刷した後、第一のインキを用いて第一の画像(4)を重ねて印刷する。この際、第二のインキで第二の画像(5)を印刷した後、第二のインキが乾燥してしまう前に第一のインキで第一の画像(4)を印刷することが好ましい。これは、第二インキが完全に乾燥した状態で第一の画像(4)を印刷した場合、第二の画像(5)の上に第一の画像(4)を重ねて印刷した部分と、基材の上に第一の画像(4)を印刷した部分との反射率の差が半減するため、本発明の効果が低くなるためである。
【0043】
第二のインキは浸透型インキであるため、その浸透までに一定の時間が必要であり、前述した手順で印刷することで、第一の画像(4)のうち、第二の画像(5)の上に重ねて印刷された領域は、第二のインキが浸透及びレベリングをして、セットに至る前の状態で、第一のインキが重ねて形成されることとなる。
【0044】
レベリングとは、印刷後にインキ表面が平滑になる性質か、又はその状態のことである。インキは、転移の段階で筋状に伸びてから分裂し、それが収縮し、横方向に流動しながらインキ被膜を形成する。このインキ被膜は、その後の乾燥過程で粘度が高くなるまで流動する。この間、印刷された印刷画像は、濡れている状態となる。
【0045】
印刷において、印刷する下地の部分的な濡れ性の違いは、後刷りで印刷するインキの転移や印刷物品質に大きな影響を与えるが、特に、後刷りで印刷するインキが光輝性材料を含むインキである場合、転移後の光輝性材料の顔料配向にも特に大きな影響を与える。顔料配向の違いは、正反射光下の印刷画像における反射の強弱を生じる。よって、後刷り印刷時の下地の状態を調整することによって、意図した画像を正反射光下の光の強弱によって出現させることができる。
【0046】
下地のレベリングに至らず膜厚が厚いほど、重ねて形成される光輝性材料の転移や転移後の配向が乱れ、下地の印刷がない部分と比較して正反射光下の反射光量が小さくなることから、下地の印刷がある領域との光のコントラストは大きくなる。
【0047】
よって、観察者に、正反射光下において第二の画像(5)を視認させるためには、第一の画像(4)を印刷する時点で、第二の画像(5)を印刷した第二のインキが、基材(2)に浸透せずに、基材(2)の表面に留まっていることが好ましく、基材(2)に第二のインキを用いて第二の画像(5)を印刷した後、第二のインキが基材(2)に浸透する前に、第一のインキを用いて第一の画像(4)を重ねて印刷することが好ましい。
【0048】
ただし、この先刷りインキの膜厚が厚すぎる場合、下地の印刷がある領域と、下地の印刷がない領域とで、インキの転移量自体も変化し、第一の画像(4)の中に不必要な濃淡やムラが生じる。先刷りインキの状態の違いによって生じる濃淡やムラの発生を抑制するためには、インキの転移量は変化せず、光輝性材料の顔料配向のみが変化する程度の適正な表面上のインキ量と浸透及びレベリングに至らないインキ皮膜表面を粗面状態に調整して後刷りの印刷をする必要がある。
【0049】
先に転移したインキの適正な状態の範囲は、第一のインキ及び第二のインキの構成物質や流動特性及び印刷方式等によって大きく左右されることから、使用するインキや印刷方式等に合わせて随時調整する必要がある。
【0050】
以上のように、適正なインキの状態を保った第二の画像(5)の上に、光輝性材料を含む第一のインキによって第一の画像(4)を形成することで、本発明の潜像印刷物(1)を得ることができる。以下に発明の効果について、図6を用いて説明する。
【0051】
図6(a)に示すように、潜像印刷物(1)、光源(10)及び観察者(11a)のような位置関係にある拡散反射光下の観察においては、観察者には、第一の画像(4)のみが視認される。これは、第二のインキが無色透明であって、略不可視であり、かつ、第一の画像(4)のうち、第二のインキの上に重ね合わせた領域と、基材に直接重ね合わせた領域とで、インキ転移量が略等しくなるように、先に転移したインキの状態を調整しているために、第一の画像(4)の中に不必要な濃淡が生じていないためである。
【0052】
本発明における「拡散反射光下」とは、正反射光下の領域以外の、光源(10)から潜像印刷物(1)へ入射する光の角度と、潜像印刷物(1)を反射した光の角度が大きく異なる、正反射光がほとんど存在しない領域のことであり、本発明における「拡散反射光下の観察」とは、観察者(11a)の視点が、正反射光がほとんど存在しない領域中にあって潜像印刷物(1)を観察している状況を示している。
【0053】
また、図6(b)に示すように、潜像印刷物(1)、光源(10)及び観察者(11b)のような位置関係にある正反射光下の観察においては、観察者には第二の画像(5)のみがポジの状態で視認される。これは、第一の画像(4)が光を強く反射することで淡く変化し、情報部(6)と背景部(7)の階調差が収束して、第一の画像(4)中の濃淡が失われるとともに、先に転移したインキの状態にした第二のインキの有無によって、第二の画像(5)上に重ねられた第一の画像(4)の光輝性材料の顔料配向が変化し、正反射光下での反射光の強弱が生じて第二の画像(5)が暗く視認されるためである。
【0054】
なお、正反射光下での観察時には、第二の画像(5)がベタ状か、又はベタに近い状態で印刷されているために、光輝性材料を印刷していない非画線領域における第二の画像(5)を印刷した部分と、印刷していない基材部分と比較しての光沢感や質感の違いも相乗効果として、正反射光下での第二の画像(5)の発現効果の視認性の向上に寄与していることはいうまでもない。
【0055】
本発明における「正反射光下」とは、光源(10)から潜像印刷物(1)へ入射する光の角度と、潜像印刷物(1)を反射した光の角度が略等しい場合、例えば、光源(10)から潜像印刷物(1)に入射角度−45°で光が入射した場合、受光角度45°近傍の領域の強い反射光が生じている領域のことであり、本発明における「正反射光下の観察」とは、観察者(11b)の視点が、前述した正反射光が生じている領域中にあって潜像印刷物(1)を観察している状況を示している。
【0056】
また、図6(c)に示すように、透過光下の観察においては、入射する光が基材(2)を透過したのちに観察者(11c)に達することから、拡散反射光下での観察と比較して観察者に達する光量が小さくなり、観察者(11c)は、第一の画像(4)の情報部(6)と背景部(7)の間の濃淡差を視認しづらくなる。逆に、第二の画像(5)は、浸透型インキである第二のインキで形成され、高い光の透過率を有することから、透過光下において、印刷されていない領域との光の透過率の差異からネガの状態で視認される。よって、透過光下の観察において、潜像印刷物(1)を観察した場合には、第二の画像(5)が高いコントラストを成したネガの状態で視認される。透過光下で観察した場合は、第二の画像(5)が主体的に視認されるが、同時に第一の画像(4)も多少、重なり合って視認される。
【0057】
このように、本発明を実施するための形態においては、第二の画像(5)として、「桜」の模様の形態とし、正反射光下で観察した場合は、第二の画像(5)のみがポジの状態で視認され、透過光下で観察した場合は、第二の画像(5)のみがネガの状態で視認される形態を説明した。しかし、第二の画像(5)として、「桜」の模様をくり抜いた模様の形態とした場合は、正反射光下で観察した場合の画像と、透過光下で観察した場合の画像におけるネガポジの関係が逆転する。つまり、正反射光下で観察した場合は、第二の画像(5)のみがネガの状態で視認され、透過光下で観察した場合は、第二の画像(5)がポジの状態で視認される。このような状態のことを、第二の画像(5)がネガポジの関係を有して視認されるという。
【0058】
本発明における「透過光下」とは、光源(10)が潜像印刷物(1)の表面を透過した状態で裏面から観察する状態のことであり、本発明における「透過光下の観察」とは、観察者(11c)の視点が、前述した透過光下の領域中にあって潜像印刷物(1)を観察している状況を示している。
【0059】
以上のように、本発明の潜像印刷物(1)は、拡散反射光下での観察と、それ以外の条件下の観察で、異なる画像が視認される、いわゆる画像のチェンジ効果を有する。このチェンジ効果は、複数の特定の条件下として、正反射光下と透過光下においてそれぞれを確認することができるため、従来の技術と比較して、真偽判別を行える認証環境が拡大する効果を得た。また、潜像印刷物(1)を確認する方向に関しては、特に限定されず、環境中の入射光を受けて正反射光が生じるのであれば、どちらの方向から観察しても、前述したような同様の効果を得ることができる。
【0060】
本発明の潜像印刷物(1)において、第一の画像(4)における最小面積率と最大面積率の差異は、50%以内に設計する必要がある。この差異が50%を超える場合には、正反射光下及び透過光下で視認される画像が、第二の画像(5)と第一の画像(4)が同時に視認される画像となり、潜像印刷物(1)の真偽判別性が損なわれることから望ましくない。
【0061】
また、正反射光下での第一の画像(4)の消失効果を重視すると、面積率は、シャドー寄りの面積率の高い範囲(例えば、最小面積率を50%とし、最大面積率を100%とする。)で形成することが望ましいが、透過光下での第一の画像(4)の消失効果を重視すると、ハイライト寄りの面積率の低い範囲(例えば、最小面積率を10%とし、最大面積率を60%とする。)で形成することが望ましい。
【0062】
よって、二つの相反する特性を満たすために、本発明の第一の画像(4)は、極端なハイライトや極端なシャドーを除いた、ハーフトーンを中心とした網点で形成することが望ましい。以上のことから、本発明の第一の画像(4)を形成するための面積率の具体的な範囲は、10%から80%の面積率の範囲である。10%に満たない、過度に小さな面積率では、安定した印刷物品質を得ることが困難になり、80%を超えると、透過光下における第二の画像(5)の視認効果が失われるためである。この範囲の中で最小面積率と最大面積率の差異が50%以内に収まるように設計する。
【0063】
なお、前述したとおり、第一の画像に濃淡を付与する方法は、単純に情報部(6)と背景部(7)の面積率を変更する方法に限られるわけではなく、画素や画線を規則的に複数配置して情報部(6)と背景部(7)の面積率を任意に形成しても良い。
【0064】
図7に、第一の画像(4)の情報部(6)と背景部(7)を画素で形成し、画素の大小によって面積率を異ならせる例を示す。図7(a)に示すように、高さ(H1)及び幅(R1)の画素である情報要素(8)を、特定の方向にピッチ(P1)で規則的に配置して情報部(6)を形成し、図7(b)に示すように、高さ(H2)幅(R2)の画素である背景要素(9)を特定の方向にピッチ(P2)で規則的に配置して背景部(7)を形成することができる。
【0065】
この場合、情報要素(8)の画素の高さ(H1)は、背景要素(9)の画素の高さ(H2)よりも高く、更に情報要素(8)の画素の幅(R1)は、背景要素(9)の画素の幅(R2)よりも広く形成されるため、情報要素(8)の面積率は、背景要素(9)の面積率より大きく形成されて成る。
【0066】
また、図8に、第一の画像(4)の情報部(6)と背景部(7)を画線で形成し、画線の幅によって面積率を異ならせる例を示す。図8(a)に示すように、幅(W1)の画線である情報要素(8)を、特定の方向にピッチ(P1)で規則的に配置して情報部(6)を形成し、図8(b)に示すように、幅(W2)の画線である背景要素(9)を、特定の方向にピッチ(P2)で規則的に配置して背景部(7)を形成することができる。
【0067】
この場合、情報要素(8)の画線の幅(W1)は、背景要素(9)の画線の幅(W2)よりも広く形成されるため、情報要素(8)の面積率は、背景要素(9)の面積率より大きく形成されて成る。
【0068】
情報要素(8)、背景要素(9)及びカモフラージュ要素(13)は、画線及び画素の少なくとも一つ又はそれぞれの組み合わせで形成される。つまり、図9(a)に示すように、情報要素(8)及び背景要素(9)を画素で形成し、カモフラージュ要素(13)を画線で形成する等、要素ごとの単位で画線と画素を組み合わせても良い。また、図9(b)に示すように、情報要素(8)、背景要素(9)及びカモフラージュ要素(13)において、それぞれの各要素同士で画線と画素を組み合わせても良い。また、図9(c)に示すように、情報要素(8)、背景要素(9)及びカモフラージュ要素(13)において、それぞれの各要素の中で画線と画素を組み合わせても良い。
【0069】
なお、本発明における「画線」とは、印刷物の最小単位である網点を一定方向に隙間無く連続して配置して構成した画像要素であって、点線や破線の分断線、直線、曲線及び波線のことであり、いかなる画線形状で構成しても本発明の技術思想に含まれる。また、同様に「画素」とは、網点を複数集合させて形成した一塊の画像要素であって、形状に関しては円でも多角形でも星型等でも良く、その他特殊な文字や記号等も含まれる。
【0070】
本発明における潜像印刷物の印刷方式は、オフセット印刷、フレキソ印刷、凸版印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、凹版印刷等、特に限定はなく、様々な印刷方式で形成することが可能である。また、浸透型インキと、光輝性材料を含んだインキを使用することができるのであれば、IJP等でも形成することができ、この場合には、一枚一枚の出力物の情報を変える、いわゆる可変印刷を実施することができる。
【0071】
また、本発明における潜像印刷物に使用する基材は、コート紙や上質紙等、浸透性を有する紙を用いることが望ましい。インキが全く浸透しないか、又は浸透性の極めて低い金属やプラスティック等では充分な効果を得ることができない。
【0072】
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した潜像印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0073】
本発明の実施例1について、図10乃至図14を用いて説明をする。基材として白色の上質紙(日本製紙株式会社製)を用いた。
【0074】
図10に、本発明における潜像印刷物(1´)を示す。潜像印刷物(1´)は、基材(2´)の一部に灰色の印刷画像(3´)が形成されており、印刷画像(3´)は、図11(a)に示す第一の画像(4´)と、図11(b)に示す第二の画像(5´)を含んでいる。このうち、第一の画像(4´)は、図12(a)及び図12(b)に示すように、情報部(6´)と背景部(7´)から成る。情報部(6´)は有意味情報である「JAPAN」の文字を形成し、背景部(7´)は情報部(6´)の周囲を取り囲むように隣接して成る。
【0075】
図13に、第一の画像(4´)の情報部(6´)及び背景部(7´)の具体的な構成を示す。図13(a)は、情報部(6´)と、その一部の拡大図を示す。情報部(6´)は、複数の情報要素(8´)によって構成されている。具体的には、直径0.36mmの円形の画素である情報要素(8´)がピッチ0.45mmでお互いに重なり合わないよう規則的に配置されて成る。
【0076】
図13(b)は、背景部(7´)と、その一部の拡大図を示す。背景部(7´)は、直径0.20mmの円形の背景要素(9´)が、ピッチ0.45mmで規則的に配置されて成る。
【0077】
情報部(6´)の面積率は、約51%であり、背景部(7´)の面積率は、約16%である。よって、第一の画像における最大面積率は51%、最小面積率16%であって、その面積率の差異は35%である。
【0078】
本実施例1における潜像印刷物(1´)の作製手順について説明する。まず、図11(b)に示した第二の画像(5´)を、第二のインキとして浸透セットタイプの透過型インキ(T&K TOKA製 ベストワン すかしインキ)を用い、オフセット印刷方式で印刷した。その直後に、図11(a)に示した第一の画像(4´)を、第一のインキとしてアルミニウム粉末を含んだ銀インキ(T&K TOKA製 UV NO3 シルバー)を用いてUV乾燥方式のオフセット印刷で重ね合わせて、本実施例1における潜像印刷物(1´)を形成した。
【0079】
第二のインキは、上質紙に面積率100%で印刷した際、6時間から12時間程度経過しない場合、未浸透のインキが用紙表面に留まって、印刷物表面が濡れた状態を保っている。ただし、このインキの表面状態は時間の経過とともに浸透セットし、後刷りの光輝性の顔料の配向に与える影響が小さくなることから、第二の画像の印刷直後に第一の画像を重ね合わせることが望ましい。
【0080】
以上の手順で形成した潜像印刷物(1´)の効果の確認を行った。まず、図14(a)に示すように、潜像印刷物(1´)、光源(10´)及び観察者(11a´)のような位置関係にある、拡散反射光下の観察においては、第一の画像(4´)である「JAPAN」の文字とその背景のみが視認された。
【0081】
また、図14(b)に示すように、潜像印刷物(1´)、光源(10´)及び観察者(11b´)のような位置関係にある、正反射光下の観察においては、第二の画像(5´)である「桜」の模様のみがポジの状態で視認された。
【0082】
また、図14(c)に示すように、潜像印刷物(1´)に観察者(11c´)と反対側の面から光が入射し、潜像印刷物(1´)を透過した光を観察者(11c´)が視認する状態において、潜像印刷物(1´)を観察した場合には、第二の画像(5´)である「桜」の模様がネガの状態で視認された。
【0083】
以上のように、本実施例1における潜像印刷物(1´)は、拡散反射光下での観察と、それ以外の条件下の観察で、異なる画像が視認される、いわゆる画像のチェンジ効果を有することを確認することができた。
【実施例2】
【0084】
本発明の実施例2について、図15乃至図19を用いて説明をする。本実施例2は、第二の画像がわずかな色濃度を有し、拡散反射光下で不可視にならない場合に、第二の画像とネガポジ逆転の関係にあるカモフラージュ部を第一の画像中に設けることによって、第二の画像を観察者に視認させない構成をとった例である。基材としては実施例1同様に白色の上質紙(日本製紙株式会社製)を用いた。
【0085】
図15に、本発明における潜像印刷物(1´´)を示す。潜像印刷物(1´´)は、基材(2´´)の一部に灰色の印刷画像(3´´)が形成されており、印刷画像(3´´)は、図16(a)に示す第一の画像(4´´)と、図16(b)に示す第二の画像(5´´)を含んでいる。このうち、第一の画像(4´´)は、図17(a)に示す情報部(6´´)と、図17(b)に示す背景部(7´´)及び図17(c)に示すカモフラージュ部(12´´)から成る。情報部(6´´)は、有意味情報である「JAPAN」の文字を形成し、背景部(7´´)は情報部(6´´)の周囲を取り囲むように隣接して成る。また、本実施例2におけるカモフラージュ部(12´´)は、第二の画像(5´´)である「桜」模様をネガポジ反転させた画像から、情報部(6´´)を取り除いた画像である。
【0086】
図18に、第一の画像(4´´)の情報部(6´´)、背景部(7´´)及びカモフラージュ部(12´´)の具体的な構成を示す。
【0087】
図18(a)は、情報部(6´´)と、その一部の拡大図を示す。情報部(6´´)は、複数の情報要素(8´´)によって構成されている。具体的には、直径0.36mmの円形の画素である情報要素(8´´)がピッチ0.45mmでお互いに重なり合わないよう規則的に配置されて成る。
【0088】
図18(b)は、背景部(7´´)と、その一部の拡大図を示す。背景部(7´´)は、直径0.20mmの円形の画素である背景要素(9´´)が、ピッチ0.45mmで規則的に配置されて成る。
【0089】
図18(c)は、カモフラージュ部(12´´)と、その一部の拡大図を示す。カモフラージュ部(12´´)は、直径0.16mmの円形の画素であるカモフラージュ要素(13´´)が、ピッチ0.45mmで規則的に配置されて成る。
【0090】
また、それぞれを構成する情報要素(8´´)、背景要素(9´´)、カモフラージュ要素(13´´)は、互いに重なり合うことなく配置される。情報部(6´´)の面積率は約51%であり、背景部(7´´)の面積率は約16%、カモフラージュ部(12´´)の面積率は約13%である。よって、第一の画像(4´´)における最大面積率は51%、最小面積率は29%(16%+13%)であって、その面積率の差異は22%である。
【0091】
カモフラージュ部(12´´)は、第二の画像(5´´)と対を成す構成であり、わずかに視認される状態となる第二の画像(5´´)を背景部(7´´)中に隠ぺいし、不可視にする効果を有する。第二の画像(5´)を不可視にするための適正な効果を得るためには、第二の画像(5´´)と等しい濃度になるようにカモフラージュ部(12´´)の面積率を調整する必要がある。
【0092】
本実施例2で用いた第二のインキ(帝国インキ製 ユニマーク)は、インキ自体は無色透明であるものの、基材に印刷した場合には、基材に浸透し、基材の色の濃度をわずかに上昇させるために、印刷画像が基材の色よりもわずかに濃い色(例えば、基材が白色であれば、印刷画像は淡い灰色)となる。
【0093】
このため、本実施例2においては、あらかじめ第二のインキを100%で印刷した場合の色濃度が、第一のインキで10〜15%の面積率で印刷した場合の色濃度と略等色となることをテストで確認し、カモフラージュ部(12´´)の面積率を13%に設計している。これによって、わずかに可視化された第二の画像(5´´)は、カモフラージュ部(12´´)を有する第一の画像(4´´)が重ねられることによって、再び不可視となる。
【0094】
カモフラージュ部(12´´)の面積率は、第二の画像(5´´)の色濃度と、第一のインキの色濃度に応じて決定されるため、使用するインキに応じて、その都度適正な値を見出す必要がある。
【0095】
また、本実施例2においては、カモフラージュ部(12´´)を背景部(7´´)と重複する領域にのみ形成したが、背景部(7´´)に加えて情報部(6´´)と重複する領域にも形成しても良い。本実施例2において、情報部(7´´)と重複する領域にカモフラージュ部(12´´)を設けなかったのは、情報部(7´´)は背景部(6´´)と比較して面積率が高く、加えて第二の画像(5´´)よりもはるかに濃い濃度となるため、第二の画像(5´´)によって上昇した色濃度程度は、目視上、略隠ぺいしてしまうためである。
【0096】
なお、情報部(7´´)と重複する領域にカモフラージュ部(12´´)を形成する例については、実施例3で説明する。ただし、いずれの場合でも、第二の画像(5´´)が可視化された場合には、背景部(7´´)については、その面積率が低いことから、第二の画像(5´´)のわずかな色濃度でも隠ぺいすることが困難であるため、カモフラージュ部(12´´)を設ける必要が生じる。
【0097】
本実施例2における潜像印刷物(1´´)の作製手順について説明する。図16(b)に示した第二の画像(5´´)を、第二のインキとして浸透成分を含んだ透過型インキ(帝国インキ製 ユニマーク)を用い、オフセット印刷方式で印刷した。その直後に、図16(a)に示した第一の画像(4´´)を、第一のインキとしてアルミニウム粉末を含んだ銀インキ(T&K シルバー TKSO)を用いてUV乾燥方式のオフセット印刷で重ね合わせて、本実施例2における潜像印刷物(1´´)を形成した。
【0098】
以上の手順で形成した潜像印刷物(1´´)の効果の確認を行った。まず、図19(a)に示すように、潜像印刷物(1´´)、光源(10´´)及び観察者(11a´´)のような位置関係にある、拡散反射光下の観察においては、第一の画像(4´´)である「JAPAN」の文字とその背景部のみが視認された。
【0099】
また、図19(b)に示すように、潜像印刷物(1´´)、光源(10´´)及び観察者(11b´´)のような位置関係にある、正反射光下の観察においては、第二の画像(5´´)である「桜」の模様のみがポジの状態で視認された。
【0100】
また、図19(c)に示すように、潜像印刷物(1´´)に観察者(11c´´)と反対側の面から光(10´´)が入射し、潜像印刷物(1´´)を透過した光(10´´)を観察者(11c´´)が視認する状態において、潜像印刷物(1´´)を観察した場合には、第二の画像(5´´)である「桜」の模様がネガの状態で視認された。
【0101】
以上のように、本実施例2における潜像印刷物(1´´)は、拡散反射光下での観察と、それ以外の条件下の観察で、異なる画像が視認される、いわゆる画像のチェンジ効果を有することを確認することができた。また、第二のインキで形成した第二の画像(5´´)において、目視される程度の濃度上昇が発生したとしても、適切な面積率で設計されたカモフラージュ部(12´´)を設けることによって、拡散反射光下で第二の画像(5´´)を不可視にすることができることを確認することができた。
【実施例3】
【0102】
本発明の実施例3について、図20乃至図24を用いて説明をする。本実施例3は、実施例2同様に、第一の画像中にカモフラージュ部を設け、かつ、画線で第一の画像を構成した例である。基材としては実施例1同様に白色の上質紙(日本製紙株式会社製)を用いた。
【0103】
図20に、本発明における潜像印刷物(1´´´)を示す。潜像印刷物(1´´´)は、基材(2´´´)の一部に灰色の印刷画像(3´´´)が形成されており、印刷画像(3´´´)は、図21(a)に示す第一の画像(4´´´)と、図21(b)に示す第二の画像(5´´´)を含んでいる。このうち、第一の画像(4´´´)は、図22(a)に示す情報部(6´´´)、図22(b)に示す背景部(7´´´)及び図22(c)に示すカモフラージュ部(12´´´)から成る。情報部(6´´´)は有意味情報である「JAPAN」の文字を形成し、背景部(7´´´)は、情報部(6´´´)の周囲を取り囲むように隣接して成る。また、カモフラージュ部(12´´´)は、第二の画像(5´´´)である「桜」模様をネガポジ反転させた画像である。
【0104】
図23に、第一の画像(4´´´)の情報部(6´´´)、背景部(7´´´)及びカモフラージュ部(12´´´)の具体的な構成を示す。
【0105】
図23(a)は、情報部(6´´´)と、その一部の拡大図を示す。情報部(6´´´)は、画線幅0.60mmの画線の情報要素(8´´´)が、ピッチ1.0mmで規則的に配置されて成る。
【0106】
図23(b)は、背景部(7´´´)と、その一部の拡大図を示す。背景部(7´´´)は、画線幅0.20mmの画線の背景要素(9´´´)が、ピッチ1.0mmで規則的に配置されて成る。
【0107】
図23(c)は、カモフラージュ部(12´´´)と、その一部の拡大図を示す。カモフラージュ部(12´´´)は、画線幅0.10mmの画線のカモフラージュ要素(13´´´)が、ピッチ1.0mmで規則的に配置されて成る。
【0108】
また、それぞれを構成する情報要素(8´´´)、背景要素(9´´´)及びカモフラージュ要素(13´´´)は、互いに重なり合うことなく配置される。情報部(6´´´)の面積率は約60%であり、背景部(7´´´)の面積率は約20%、カモフラージュ部(12´´´)の面積率は約10%である。よって、第一の画像における最大面積率は70%(60%+10%)、最小面積率20%であって、その面積率の差異は50%である。
【0109】
また、本実施例3においては、カモフラージュ部(12´´´)を情報部(6´´´)及び背景部(7´´´)と重複する領域にも形成した。この場合、情報部(6´´´)を構成する画線及び背景部(7´´´)を構成する画線と、カモフラージュ部(12´´´)を構成する画線は互いに重なり合わないように構成する必要がある。これは、重なりあう構成とした場合には、不必要な濃淡が生じて、第一の画像(4´´´)が不明瞭になるためである。
【0110】
本実施例3における潜像印刷物(1´´´)の作製手順について説明する。図21(b)に示した第二の画像(5´´´)を、第二のインキとして浸透成分を含んだ透過型インキ(帝国インキ製 ユニマーク)を用い、オフセット印刷方式で印刷した。その直後に、図21(a)に示した第一の画像(4´´´)を、第一のインキとしてアルミニウム粉末を含んだ銀インキ(T&K シルバー TKSO)を用いてUV乾燥方式のオフセット印刷で重ね合わせて、本実施例3における潜像印刷物(1´´´)を形成した。
【0111】
以上の手順で形成した潜像印刷物(1´´´)の効果の確認を行った。まず、図24(a)に示すように、潜像印刷物(1´´´)、光源(10´´´)及び観察者(11a´´´)のような位置関係にある、拡散反射光下の観察においては、第一の画像(4´´´)である「JAPAN」の文字とその背景部のみが視認された。
【0112】
図24(b)に示すように、潜像印刷物(1´´´)、光源(10´´´)及び観察者(11b´´´)のような位置関係にある、正反射光下の観察においては、第二の画像(5´´´)である「桜」の模様のみがポジの状態で視認された。
【0113】
図24(c)に示すように、潜像印刷物(1´´´)に観察者(11c´´´)と反対側の面から光が入射し、潜像印刷物(1´´´)を透過した光を観察者(11c´´´)が視認する状態において、潜像印刷物(1´´´)を観察した場合には、第二の画像(5´´´)である「桜」の模様がネガの状態で視認された。
【0114】
以上のように、本実施例3における潜像印刷物(1´´´)は、拡散反射光下での観察と、それ以外の条件下の観察で、異なる画像が視認される、いわゆる画像のチェンジ効果を有することを確認することができた。また、第二のインキで形成した第二の画像(5´´´)において、目視される程度の濃度上昇が発生したとしても、適切な面積率で設計されたカモフラージュ部(12´´´)を設けることによって、拡散反射光下で第二の画像(5´´´)を不可視とすることができることを確認することができた。
【符号の説明】
【0115】
1、1´、1´´、1´´´ 潜像印刷物
2、2´、2´´、2´´´ 基材
3、3´、3´´、3´´´ 印刷画像
4、4´、4´´、4´´´ 第一の画像
5、5´、5´´、5´´´ 第二の画像
6、6´、6´´、6´´´ 情報部
7、7´、7´´、7´´´ 背景部
8、8´、8´´、8´´´ 情報要素
9、9´ 9´´、9´´´ 背景要素
10、10´ 10´´、10´´´ 光
11a、11b、11c、11a´、 11b´、11c´、11a´´、11b´´、11c´´、11a´´´、 11b´´´、11c´´´ 観察者
12、12´´、12´´´ カモフラージュ部
13、13´´、13´´´ カモフラージュ要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一部に、前記基材と異なる色を有する印刷画像が形成されており、前記印刷画像は、第一の画像と第二の画像を備え、
前記第二の画像は、無色透明の浸透型の第二のインキにより、ベタ刷りで形成されて成り、
前記第二の画像の上に、光輝性材料を含む第一のインキにより前記第一の画像が形成され、前記第一の画像は、情報要素が規則的に複数配列されて成る情報部と、前記情報部とは異なる面積率で、背景要素が規則的に複数配列されて成る背景部とに区分けされ、前記情報要素と前記背景要素は重なり合わないように形成されて成り、
拡散反射光下で観察した場合は、前記第一の画像のみが視認され、正反射光下で観察した場合は、前記第二の画像のみが視認され、透過光下で観察した場合は、前記正反射光下で視認される前記第二の画像とネガポジの関係を有して視認されることを特徴とする潜像印刷物。
【請求項2】
前記第一の画像は、更にカモフラージュ部を備え、
前記カモフラージュ部は、カモフラージュ要素が複数配列され、
前記複数配列されたカモフラージュ要素は、前記第二の画像をネガポジ反転させた画像から前記情報部を取り除いて形成し、又は前記第二の画像をネガポジ反転して形成され、前記情報要素及び前記背景要素と重なり合わないように、拡散反射光下において、前記カモフラージュ部が前記第二の画像と等色と成る面積率で形成されることを特徴とする請求項1記載の潜像印刷物。
【請求項3】
前記情報要素、前記背景要素及び前記カモフラージュ要素は、画線及び画素の少なくとも一つ又はそれぞれの組み合わせであることを特徴とする請求項1又は2記載の潜像印刷物。
【請求項4】
前記第一の画像の面積率は、10%から80%の範囲で形成され、かつ、最小面積率と最大面積率の差異が50%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の潜像印刷物。
【請求項5】
前記基材は、浸透性を有する基材であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の潜像印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−56227(P2012−56227A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202809(P2010−202809)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】