説明

潜血を検出する方法および装置

本発明は、一般に潜血の検出に関する。特に、本発明は、便のサンプル内の潜血のより感度の高い診断と下部消化管に対する上部消化管の出血の鑑別診断とを可能にし、便のサンプル中のヘモグロビンとトランスフェリンとを同時に検出する装置および方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に消化管(GI)のサンプルからの潜血の検出に関する。特に、本発明は、消化管サンプルを使用して、トランスフェリンを検出、または、ヘモグロビンとトランスフェリンとを同時に検出する装置および方法を提供する。本発明の方法は、消化管の出血の診断の基礎と、下部消化管に対する上部消化管からの出血の鑑別診断の基礎とを提供する。
【背景技術】
【0002】
便潜血(FOB)は、消化系(GI)からの出血を監視するための良好な指標である。何らかの結腸・直腸ポリープが結腸・直腸がんになるには数年かかることがあるため、出血している結腸・直腸ポリープの検出は、初期段階での結腸・直腸がんの選別に効果的な方法である。50歳以上の成人について、便のサンプル内の潜血を選別することを実施することで、結腸・直腸がんの発生を20%、または死亡を30%減少させている。
【0003】
現在利用可能なFOB試験には、便のサンプル中のヘモグロビン代謝産物を検出する化学試験が含まれる。この試験では、過酸化物とヘモグロビンとが存在するときに着色物質を生成する酸化可能基質(グアヤックなど)が採用されている。動物のヘム分子、植物原料および一般的なビタミンのほとんどが過酸化水素水反応に触媒作用を及ぼすため、この種の化学試験の特異度に対して食物管理が不可欠である。厳格な食物管理は、患者の応諾に関する重大な問題を発生させる。平均的に10%未満の応諾率は異常なことではない。さらに、化学試験は、一般に感度が限定されている。例えば、グアヤックを基質として使用したFOB試験では、試験感度が50μg/mlであって、改良版では試験感度が20μg/mlである。
【0004】
ヘモグロビンに対するサンドイッチ免疫測定法が開発されており、化学試験と比較して試験感度および特異度が改善された。そのような免疫測定法については、食物管理の必要性もない。
【0005】
ヘモグロビンは不安定タンパク質で、人間の消化管系内で急速に劣化する。ヘモグロビンは、便サンプルが採取された後、輸送や保管中にも劣化しやすい。これら全てのサンプルの劣化の問題が、ヘモグロビン測定の試験精度に影響を与える。
【0006】
トランスフェリンは、便の潜血の検出のための別のバイオマーカーである。正常な人間の血液中では、トランスフェリンおよびヘモグロビンの濃度はそれぞれ3mg/mlおよび150mg/mlである。他方、便サンプル中のヘモグロビン対トランスフェリンの割合は約5であって、これは、血液中の割合(約50)よりもはるかに低い。この測定結果は、消化管内では、トランスフェリンは、ヘモグロビンよりも約10倍安定していることを示している。トランスフェリンのみに基づいたFOB試験が誤った陰性の結果を示すように、特定の疾病が血液中と便のサンプル中のトランスフェリンのレベルに影響を与える場合があることが報告されている。ヘモグロビンとトランスフェリンの両方を検出する組み合わせ試験によって、試験の特異度を犠牲にすることなく試験の感度を改善できる可能性がある。
【0007】
FOB測定の開発についての他の課題は、便のサンプルを扱うことができ、現在市販されている自動分析装置がほとんどないことである。そのため、現場での素早いFOB試験が望まれており、また求められている。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、消化管系全体からの出血を検出可能で、下部消化管の出血に対する上部消化管の出血の鑑別診断(differential diagnosis)を支援できる免疫測定方法および装置を提供する。本発明の免疫測定は、消化管サンプルを使用し、トランスフェリン単独の検出、またはその代わりに、ヘモグロビンとトランスフェリンとの同時の検出を伴う。
【0009】
一態様では、本発明は、上部消化管からの出血の診断を支援するため、上部消化管サンプル内のトランスフェリンを検出する方法を提供する。上部消化管サンプルには、たとえば、嘔吐物または胃から採取された物質が含まれる。
【0010】
他の態様において、本発明は、消化管からの出血の診断を支援し、下部消化管の出血から上部消化管の出血を鑑別する、便のサンプル中のヘモグロビンとトランスフェリンとを同時に検出する方法を提供する。
【0011】
一実施態様において、本発明は、便サンプル中のトランスフェリンとヘモグロビンとを検出し、検出されたトランスフェリンの量とヘモグロビンの量とをそれぞれの所定の値と比較して、サンプル中の潜血の有無を判断することによって便潜血を検出する方法を提供する。
【0012】
特定の実施態様において、トランスフェリンの試験とヘモグロビンの試験の両方が陽性の場合、つまり、便のサンプル中のトランスフェリンの量がトランスフェリンの所定の値を超えており、サンプル中のヘモグロビンの量がヘモグロビンの所定の値を超えている場合、トランスフェリンおよびヘモグロビンの試験の検出結果は、下部消化管からの出血を示している。
【0013】
他の実施態様において、トランスフェリンの試験が陽性でヘモグロビンの試験が陰性の場合、つまり、サンプル中のトランスフェリンの量がトランスフェリンの所定の値を超えており、サンプル中のヘモグロビンの量がヘモグロビンの所定の値を下回っている場合、検出結果は、上部消化管からの出血を示している。
【0014】
さらに他の実施態様において、便のサンプルを使用したトランスフェリンの試験とヘモグロビンの試験の両方が陰性の場合、そのような結果は消化管全体からの出血がないことを示している。
【0015】
本発明によれば、トランスフェリンおよびヘモグロビンの検出は、様々な測定によって実現することができる。一実施態様において、この検出は、抗トランスフェリン抗体の相補的な対と抗ヘモグロビン抗体の相補的な対とを採用するサンドイッチ免疫測定法によって実現される。
【0016】
特定の実施態様において、トランスフェリンおよびヘモグロビンの検出は側方流動免疫測定装置(lateral flow immunoassay device)によって実施される。
【0017】
一実施態様において、本発明における使用に適した側方流動装置はテストストリップを有している。テストストリップは固体の支持部分を有しており、この支持部分の上部に試験膜が配置されている。試験膜の上面には、試薬が固定化されている複数の領域がある。この領域は、一方には抗トランスフェリン抗体が固定化されており、他方には抗ヘモグロビン抗体が固定化されている2つの別個のサイトを有しているテストゾーンと、対照抗体(ヤギ抗マウス抗体など)が固定化されている対照ゾーンと、を有している。また、テストストリップは、サンプルパッド、結合体パッドおよび吸収パッドを有している。サンプルパッドは、結合体パッドの上流に配置され、結合体パッドに接触しており、それに対して、結合体パッドは試験膜の一方の端部に接触して配されている。吸収パッドは、試験膜の他方の端部の上に配置されている。結合体パッドは、標識抗トランスフェリン抗体と標識抗ヘモグロビン抗体とを有しており、テストゾーンの上流に配置されている。試験膜はニトロセルロールからなることが好ましく、標識抗トランスフェリン抗体と標識抗ヘモグロビン抗体とは、共に、金の粒子に結合されている抗体であることが好ましい。
【0018】
他の実施態様において、本発明において使用するのに適している側方流動装置は、2つのテストストリップを有しており、一方はヘモグロビンの試験用で、他方はトランスフェリンの試験用である。
【0019】
さらなる態様において、本発明は、サンプル中のトランスフェリンとヘモグロビンを同時に検出する側方流動免疫測定装置を提供する。サンプルは、消化管サンプルまたは体液サンプルであって良い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】便のサンプルの採取装置の図である。この装置は、小さいねじキャップと、スティックを備えている大きいキャップと、保存緩衝液を備えている瓶とを有している。ユーザは、ブラシを備えている大きなキャップのねじをゆるめて瓶から外して、便のサンプルに異なる位置で複数回突き刺して、ブラシを瓶内に戻して挿入し、ねじを締める。それから、ブラシ上に採取されている便の物質は、保存緩衝液内で再び懸濁されて、試験の準備が完了することになる。試験のオペレータが瓶を受け取ると、オペレータは小さいキャップをゆるめて外して、サンプル溶液を直接試験装置に絞り出すだけでよい。
【図2】トランスフェロンとヘモグロビンを組み合わせたサンドイッチ免疫測定法用の試験膜の平面図である。テストストリップは、吸収パッド(1)、ニトロセルロース薄膜(2)、対照線(3)、トランスフェリン用とヘモグロビン用の2つのテスト線(4)、最大の液体レベル用のマークが付けられている線(8)、およびサンプルパッド(6)を有している。
【図3】サンプルストリップの断面図であって、符号7はプラスチック製裏材であり、符号5はラベルの下方の、金−抗体結合体パッドである。
【図4】便のサンプル中の血液の存在に関する結果が陽性であると考えられる3つの可能性を示す図である。
【図5】組み合わせ試験による陰性の結果を示す図である。
【図6】着色されている対照線が存在せず、試験結果が無効であることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、消化系全体からの出血を検出可能であり、下部消化管の出血に対する上部消化管の出血の鑑別診断(differential diagnosis)を支援できるサンドイッチ免疫測定方法および装置を提供する。免疫測定法は、トランスフェリン単独の検出、またはこれに代えて、ヘモグロビンとトランスフェリンの同時の検出を伴う。本発明の免疫測定法は、消化管サンプルと同様に、潜血を含んでいる疑いのある体液サンプルを利用することができる。
【0022】
本発明は、少なくとも部分的に、潜血マーカーとしてのヘモグロビンとトランスフェリンとの間の安定性の違いに基づいている。ほとんどの上部消化管の出血の場合では、ヘモグロビンは、胃および腸からの、胃酸、プロテアーゼおよびバクテリアによって完全に破壊される。他方、トランスフェリンは、消化管を通過しても残存する。本発明を想到するために実施された試験において、上部消化管の障害であると臨床的に診断された患者では、便のサンプルだけでなく上部消化管から採取された液体サンプルや嘔吐物においても、トランスフェリンのテストは陽性で、ヘモグロビンのテストは陰性であるいうことが見出された。さらに、下部消化管の障害であると臨床的に診断された患者では、便のサンプルにおいて、ヘモグロビンの試験は陽性で、トランスフェリンの試験も陽性であることが見出された。
【0023】
よって、一実施形態では、本発明は、上部消化管からの出血の診断を支援するため、上部消化管サンプル内のトランスフェリンを検出する方法を提供する。他の形態において、本発明は、消化管全体からの出血の診断を支援し、下部消化管の出血から上部消化管の出血を鑑別する、便のサンプル中のヘモグロビンとトランスフェリンとを同時に検出する方法を提供する。さらなる実施形態において、本発明の方法を実施する試験装置が提供される。
【0024】
「上部消化管」なる用語は、消化管の上部を指し、口、咽頭、食道、胃および十二指腸が含まれる。他方、「下部消化管」は消化管の下部を指し、腸、結腸、直腸および肛門からなる。請求している本方法は、消化管の任意の部分からの出血の診断に適用可能であるが、上部消化管からの出血の診断に対して特に有効である。これに対し、現在、臨床状態で利用可能な、便用のストリップベースの信頼性のある試験は存在しない。
【0025】
「消化管サンプル」という用語は、排泄物や嘔吐物(上部消化管サンプル)だけでなく、胃から回収された胃の物質(同様に上部消化管サンプル)などのように消化管から採取された固体または液体のサンプルなど、消化管から放出または排出された、固体または液体のサンプル、つまり採取物を指す。採取された未処理の物質は、免疫測定で使用される前に、通常、緩衝液(生理的食塩水溶媒など)内で懸濁または希釈される。
【0026】
「便のサンプル」は、排便により採取されたサンプルを意味し、後に免疫測定で使用するのに適した溶媒と混合される。
【0027】
「診断」または「診断する」なる用語は、当然、上部または下部消化管に関連した出血の可能性を判断することを意味している。例えば、便のサンプルにおいてトランスフェリンの試験が陽性であるのに対して、ヘモグロビンの試験が陰性である場合、出血は上部消化管からである可能性が高い。便のサンプルにおいてヘモグロビンとトランスフェリンの試験が「陽性」である場合、出血は下部消化管からの可能性が高い。診断は、便のサンプル中の、トランスフェリンに対するヘモグロビンの相対的な割合に基づいても行うことができる。この割合が高くなる(つまりこの割合が血液中における割合に近づく)ほど、被験者が下部消化管の出血を起こしている可能性が高い。逆に、この割合が低くなるほど、被験者は、上部消化管の出血を起こしている可能性が高い。
【0028】
「陽性」および「陰性」なる用語は、所定の値(基準の濃度、つまり閾値の濃度)よりも高いまたは低い、試験検体の値をそれぞれ指す。これらの用語は、検知可能な信号つまり視認可能な信号の有無も指すものとする。
【0029】
検体についての「所定の値」は、正常な個人における検体の基準濃度つまり閾値濃度を指す。検体の値がそのような所定の値よりも有意に高い場合、それは出血などの異常を示している。検体についての所定の値は、測定の態様と、測定に採用される特定の試薬(たとえば、使用される特定の抗体)に依存して変化することがある。しかし、検体についての所定の値は、当業者が既知の量の検体を含んでいる対照サンプルに対する正常な個人における検体の濃度を評価することによって、決定および設定することができる。
【0030】
本発明によれば、消化管サンプル中のヘモグロビンとトランスフェリンとは、ヘモグロビンおよびトランスフェリンに対する特定の抗体を用いる様々な免疫測定によって検出することができる。
【0031】
「抗体」は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を意味する。完全長の抗体分子と完全長の抗体の抗原結合性フラグメントとの両方を採用することができる。
【0032】
特定の実施形態においては、検出すべき検体に対する1対の抗体の使用を伴ったサンドイッチ免疫測定法を採用することによって検出が実施される。1対の抗体は、互いに相補的であって、つまり、抗体は検体の異なるエピトープに結合し、サンドイッチ合成物、つまり抗体1−検体−抗体2の形成を可能にする。通常、一対の抗体のうちの一方の抗体が、たとえば、ニトロセルロース薄膜、マイクロタイタープレート、またはビーズなどの固体の材料(「捕捉抗体」とも呼ばれる)上に固定化されるのに対して、他方の抗体は、標識つまり信号発生物と結合される。測定を実施するために、検体を含んでいるサンプルは、反応混合物を形成するように抗体結合体と混合され、それから反応混合物は固体物質に適用されて、捕捉抗体が検体と抗体結合体との間で形成された合成物を捕捉できるようにする。その代わりに、検体を含んでいるサンプルが、固体の材料に塗布され、捕捉抗体によって固体材料に結合されるように捕捉される。それから抗体結合体が、捕捉抗体と検体と抗体結合体との間でサンドイッチ合成物を構成するように追加される。結合されていない物質は洗い流されて、信号が生成され、視覚または機器によって読み取られる。
【0033】
本発明によれば、酵素やその結果として生じる基質上での効果、コロイド状金属粒子、染料を含有しているラテックス、および染料粒子となどの多数の様々な形態を実施できる実体を指す、「標識」、「信号発生物」つまり「信号発生要素」に、抗体を結合することができる(したがって「標識抗体」とも呼ばれる)。酵素は、基質上で反応して、たとえば、吸収する色(紫外線、可視光、赤外線など)、または蛍光によって知覚可能な生成物を生成することができる。
【0034】
本発明の一実施形態においては、プラチナ、金、銀、セレンまたは銅、あるいは特徴的な色を示す任意の他の金属化合物からなる金属粒子が信号発生物として採用される。本発明での使用に適している金属粒子は、従来の方法によって準備することができる。例えば、金ゾル粒子の準備は、「Frens、Nature 241 20〜22(1973)」に記述されている。また、金属粒子は、金属、金属化合物、または米国特許明細書第4,313,734号に記載されているように、金属または金属化合物によって被覆されているポリマー核であってもよい。
【0035】
好ましい実施形態においては、金属粒子は、大きさが5nmから100nmの範囲、好ましくは8nmから60nmの範囲、より好ましくは10nmから40nmの範囲の、金の粒子である。
【0036】
所望の抗体は、共有結合や疎水結合などの従来の技法を用いて金属粒子に結合することができるが、これらの技法には限定されない。また、抗体は、ビオチン/ストレプトアビジン結合を用いて粒子に結合することができる。
【0037】
また、抗体に結合する粒子を作るために使用するのに適した他の固体粒子には、たとえば、色付きラテックス、カーボンブラックおよび染料粒子がある。
【0038】
他の特定の実施形態において、ヘモグロビンとトランスフェリンとの検出は側方流動免疫測定装置を使用して実施される。そのような測定を行う装置が図2〜図3に示されている。
【0039】
免疫測定の側方流動試験装置は、一般に、裏材の支持部分7を有するテストストリップを備えている。裏材の支持部分7は、プラスチック、厚紙、または任意の他の剛性のある材料で作ることが可能で、プラスチック材料からなることが好ましい。裏材の支持部7の上部には、好ましくはニトロセルロース薄膜からなる試験膜2があり、試験膜2は支持部7に付着していてもよい。試験膜2の上面には、2つの別個のテストサイトを有するテスト領域4を含む複数の適切な試薬が付着した複数の領域がある。一方の領域に抗トランスフェリン抗体が固定化されており、他方の領域に抗ヘモグロビン抗体が固定化されている。試験膜は、対照抗体(control antibody)が固定化されている対照ゾーン3も有している。
【0040】
テストストリップは、さらに、希釈されたサンプルをテストストリップに塗布するサンプルサイトと、サンプルサイトの下流の結合体サイトと、を有している。一般に、吸収性サンプルパッド6は、サンプルサイトの位置に配されており、結合体サイトの位置にある結合体パッド5に接触している。結合体パッドは、通常、試験膜2の一方の端部上に直接接触して配されており、信号発生要素に結合している抗トランスフェリン抗体と、同様に信号発生要素に結合している抗ヘモグロビン抗体とを有している。吸収パッド1が、試験膜2の他方の端部であってその試験膜の上に配されている。消化管サンプルをサンプルパッド6に塗布すると、サンプルは吸収パッド1に向けて移動し、試験膜2へ移る。
【0041】
特定の実施形態において、結合体サイトは、抗トランスフェリン抗体に結合している金の粒子と、抗ヘモグロビン抗体に結合している金の粒子と、を有しているパッドである。抗体に結合している金の粒子は、前述のようにして準備することが可能であって、5nmから100nmの範囲の大きさであることが好ましく、8nmから60nmの範囲であることがより好ましく、10nmから40nmの範囲であることがいっそう好ましい。
【0042】
前述のように、抗体に結合する金属の粒子を作るために、他の金属(プラチナ、銀、セレンおよび銅など)を使用することもできる。さらに、抗体に結合する粒子を作るために適している他の固体粒子には、たとえば、色付きラテックス、カーボンブラックおよび染料粒子がある。
【0043】
一実施形態において、金と抗体の結合体は、サンプルが塗布されるサンプルパッド6の下流に配置されている吸収性パッド5上に配置され、乾燥される。代替の実施形態においては、所望の抗体に結合している金の粒子を、乾燥させて、サンプルパッド6に隣接する、その下流の試験膜2の端部上に直接配置する。
【0044】
図2〜図3に示している側方流動免疫測定装は、テストストリップが配置される筐体を有していても良い。この筐体は、サンプルをサンプルパッドに付着させ、サンプルを側方流動によって試験膜に沿って移動できるようにし、テストゾーンと対照ゾーンとで生じた結果を観察できるように、多数の異なる形態を取ることができる。
【0045】
図2〜図5は、サンドイッチ免疫測定法に基づいて、トランスフェリンとヘモグロビンとを同時に検出するテストストリップの組立品を示している。消化管サンプルをサンプルパッド6上に塗布し、サンプル中の液体が毛管現象によって吸収パッド1に向けて移動する。液体サンプルが金結合体パッド5に到達すると、金結合体パッド5内の、金−抗トランスフェリン結合体と金−抗ヘモグロビン結合体とが液体中で再び懸濁されて、それから、その結果として得られた合成物、つまり金−抗トランスフェリン−トランスフェリンと金−抗ヘモグロビン−ヘモグロビンとが、薄膜2上へ移動する。この合成物を含んでいる液体サンプルがテストゾーン4に到達すると、液体サンプルは、それぞれのテスト線上に固定化されている抗トランスフェリン抗体および抗ヘモグロビン抗体と反応することになる。特定の検体が存在しない場合、サンドイッチ合成物、つまり、金結合体抗体−検体−固定化されている抗体、が生成されることはなく、テスト線ゾーン4は、図5に示しているように無色のままとなる。検体が存在する場合、図4に示しているように、サンドイッチ合成物が特定のテスト線上で生成されることになる。サンプル中に存在する抗原(トランスフェリンおよびヘモグロビン)よりも常に過剰にある金−抗体結合体が、薄膜を流れ、対照線3に到達すると、固定化されているヤギ抗マウスIgGが金−抗体結合体と反応して対照ゾーン3内に色付きの線が生成される。対照ゾーンは、装置の液体の移動を確認するための指標としての役割を果たしている。図6に示しているように色の付いた対照線が存在しない場合、試験が失敗したことを示している。
【0046】
図2〜図5は、トランスフェリンとヘモグロビンとを同時に検出するという、本発明の1つの試験装置の単なる例示であって、本発明を限定することを意図したものではない。たとえば、当業者は、テスト領域4の2つのサイトを、側方流動の方向に対して同じ位置に別個に配置(並列に配置)できることも容易に理解できる。さらに、試験装置は、ヘモグロビンを試験する一方のテストストリップ(サンプルパッド、金−結合体パッド、抗ヘモグロビン抗体のみを有するテスト領域および対照領域を含む)と、トランスフェリンを試験する他方のテストストリップ(サンプルパッド、金−結合体パッド、抗トランスフェリン抗体のみを有するテスト領域および対照領域を含む)と、の2つの別個のテストストリップを有していても良い。ユーザは、そのような装置を用いて、試験の必要性および状況に応じて、サンプルを2つのテストストリップのうちの一方にだけ塗布するというように選択することもできる。
【0047】
本発明を、本発明の範囲を決して限定することのないように構成されている以下の例によってさらに説明する。本開示で採用している用語と表現とは、限定のためではなく説明のための用語として使用しており、そのような用語と表現との使用は、図示し説明した特徴とそれらの一部の任意の等価物を除外することを意図してはいない。当然、本発明の範囲内でさまざまな修正が可能である。本開示で示している全ての刊行物は、参照によって本明細書に援用される。
【0048】
例1
ヘモグロビンおよびトランスフェリンに対するモノクローナル抗体の準備
抗体の産生のために、BALB/cマウスを、3か月間、精製ヒトヘモグロビンを使用して免疫の感作をさせた。抗血清の濃度が所望のレベルに到達した後、マウスは屠殺された。分離された脾臓細胞がSP20系の細胞とのハイブリドーマ融合に使用された。1対のハイブリドーマ株化細胞、Hb10E11G12およびHb2H11D12が分離され、BALB/cマウスから腹水を作るために用いられた。それから、腹水から抗ヘモグロビン抗体が精製され、ヘモグロビンを検出するサンドイッチ免疫測定で使用された。
【0049】
抗トランスフェリン抗体が同様の手順に従って作られた。対応するハイブリドーマ株化細胞、TF31E5G1およびTF32A2G1が分離され、トランスフェリンを検出するサンドイッチ免疫測定法で使用された。
【0050】
例2
金の粒子と抗体との結合体の準備
抗体と結合した金の粒子が、側方流動免疫測定法における検出手段として選択された。塩化金を、クエン酸ナトリウムによってこれらの混合物の沸点で還元することによって、コロイド状の金の粒子の溶液が準備された。約10から40nmの大きさの金の粒子を含んでいる、ピンクから紫の色が付いているコロイド状金溶液が、金−抗体の結合体の準備に使用された。一対の抗体の一方が、抗体のpI値に近いpH値で、金の粒子の被覆のために使用された。BSAとPEGとが、金の粒子上に残っている結合部位を遮断し、結合している金−抗体溶液を洗浄および凝集させるために使用された。パッドは、通常、ファイバーグラスまたはレーヨンからなり、結合している金−抗体溶液中に浸漬され、金−抗体結合体がパッド上に付着するように、その後乾燥された。
【0051】
例3
テスト線と対照線
平均の大きさが約5から20μmの穴を有するニトロセルロース薄膜が試験膜として選択された。選択された2つの抗体が、薄膜上の指定された2つのテスト線ゾーンの位置に固定化された。試験の物理的な性能を確認するため、ヤギ抗マウスIgG抗体が固定化された対照線ゾーンが、試験膜上に配された。
【0052】
例4
テストストリップの組み立ておよび性能
図2〜図3は、サンドイッチ免疫測定法に基づいて、トランスフェリンとヘモグロビンとを同時に検出するテストストリップの組立品を示している。
【0053】
例5
トランスフェリンの検出
便のサンプル採取装置内の希釈緩衝溶液(通常はPBS緩衝液)は、最終的なトランスフェリンの濃度がそれぞれ10、20、40、50、75および100ng/mlとなるように、添加(トランスフェリンの補足)が行われた。複数の健常者から3つの無作為の便のサンプルが採取され、トランスフェリンを添加した緩衝溶液を収容している採取装置に挿入した。これら3つのサンプルが図2〜図3に示している試験装置を用いて試験された。その結果を表1に示している。トランスフェリンのレベルがカットオフ値である30ng/mlよりも高い全てのサンプル溶液は、陽性の信号を示し、トランスフェリンがカットオフ値よりも低い全てのサンプルは陰性の結果を示した。
【0054】
【表1】

【0055】
例6
ヘモグロビンの検出
便のサンプル採取装置内の希釈緩衝溶液は、最終的なヘモグロビンの濃度がそれぞれ0.05、0.1、0.2、0.5、20および2000μg/mlとなるように、添加が行われた。複数の健常者からの3つの無作為の便のサンプルを採取し、ヘモグロビンが添加された緩衝溶液を収容している採取装置に挿入した。これら3つのサンプルが図2〜3に示している試験装置を使用して試験された。その結果を表2に示している。ヘモグロビンのレベルがカットオフ値である0.2ng/mlよりも高い全てのサンプル溶液は陽性の信号を示し、ヘモグロビンがカットオフ値よりも低い全てのサンプルは陰性の結果を示した。
【0056】
【表2】

【0057】
例7
便のサンプルを使用した上部消化管の出血の鑑別診断
表3に示す、臨床的に確認された胃の異常を感じている患者の便のサンプルを検査するため、ヘモグロビンとトランスフェリンとの組み合わせの試験およびグアヤック試験を行った。抗ヘモグロビン抗体のみに基づいている側方流動サンドイッチ免疫測定の結果、62件中7件のみが、便潜血について陽性であると検出した。グアヤック試験、つまりヘムのペルオキシダーゼ活性を検出する化学試験では、25件が識別された。しかし、グアヤック試験の特異度の欠如のため、これらの25件の識別は疑わしいものとなった。他方、抗トランスフェリン抗体は、62件中51件を、便潜血について陽性であると識別した。表3はこれらの結果を示している。したがって、トランスフェリンは上部消化管の出血の検出に関しては、より敏感なマーカーである。トランスフェリンとヘモグロビンとの組み合わせによる免疫測定によって、上部消化管の出血のさまざまな診断が可能になる。
【0058】
【表3】

【0059】
例8
上部消化管系からの嘔吐サンプルおよび液体サンプルを使用した上部消化管の出血の診断
この例では、臨床的に確認されている上部消化管不調の患者からの7つの嘔吐および胃液サンプルが、ヘモグロビン/トランスフェリンの組み合わせ試験装置およびグアヤック試験によって再び試験された。表4の結果は、グアヤック試験とマーカーとしてのヘモグロビンについての免疫測定とにおいて、すべてのサンプルの試験が陰性であったことを示している。他方、全てのサンプルについてのトランスフェリンの試験は陽性であり、上部消化管サンプルからの潜血を示している。
【0060】
【表4】

【0061】
例9
便サンプルを使用した下部消化管の出血の診断
表5は、下部消化管の不調が臨床的に確認されている患者からの45個の便のサンプルに対する試験の結果を示している。ヘモグロビンの試験で陽性とされた40件では、トランスフェリンの試験も陽性であった。この結果は、ヘモグロビン試験とトランスフェリン試験がFOB検出の試験感度を増大させるように互いに補完し合うことも示している。いずれか一方の試験のみでは、数個の陽性のサンプルを見逃してしまったが、組み合わせ試験(いずれかの試験の結果が陽性であることに基づいてFOBを判断する)は2つの陽性サンプルを除いて全てを検出した。この結果は、さらに、ヘモグロビンとトランスフェリンの試験は、グアヤック試験よりもよりも感度が高いことを示している。
【0062】
【表5】

【図1A】

【図1B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
消化管からの出血を検出する方法であって、消化管サンプル中のトランスフェリンおよびヘモグロビンの検出をすることと、検出された前記トランスフェリンの量および前記ヘモグロビンの量を、トランスフェリンおよびヘモグロビンのそれぞれの所定の値と比較して、消化管からの出血を検出することと、を有する方法。
【請求項2】
前記消化管サンプルは便のサンプルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記トランスフェリンの前記量がトランスフェリンの前記所定の値よりも多く、かつ、前記ヘモグロビンの前記量がヘモグロビンの前記所定の値よりも多い場合、前記検出の結果は下部消化管からの出血を示している、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記トランスフェリンの前記量がトランスフェリンの前記所定の値よりも多く、かつ、前記ヘモグロビンの前記量がヘモグロビンの前記所定の量よりも少ない場合、前記検出の結果は上部消化管からの出血を示している、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記消化管サンプルは、嘔吐サンプルまたは胃から採取された液体サンプルである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記トランスフェリンの前記量がトランスフェリンの前記所定の値よりも多い場合、前記検出の結果は上部消化管からの出血を示している、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上部消化管サンプル内のトランスフェリンの検出をすることと、前記トランスフェリンの量が、上部消化管からの出血を示す所定の値より多いかどうか測定することと、を有する、上部消化管の出血を検出する方法。
【請求項8】
便のサンプル中のトランスフェリンおよびヘモグロビンの検出をすることと、
検出された前記トランスフェリンの量および前記ヘモグロビンの量を、トランスフェリンおよびヘモグロビンのそれぞれの所定の量と比較して、下部消化管に対する上部消化管からの出血の鑑別診断を行うことと、を有する、下部消化管に対する上部消化管からの出血の鑑別診断の方法。
【請求項9】
前記トランスフェリンの前記量がトランスフェリンの前記所定の値よりも多く、かつ前記ヘモグロビンの前記量がヘモグロビンの前記所定の量よりも多い場合、前記検出の結果は前記下部消化管からの出血を示している、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記トランスフェリンの前記量がトランスフェリンの前記所定の値よりも多く、かつ前記ヘモグロビンの前記量がヘモグロビンの前記所定の量よりも少ない場合、前記検出の結果は前記上部消化管からの出血を示している、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記トランスフェリンおよび前記ヘモグロビンの前記検出は、サンドイッチ免疫測定法によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記トランスフェリンおよび前記ヘモグロビンの前記検出は、側方流動免疫測定装置によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記装置は、
(1)消化管サンプルが塗られるサンプルサイトと、
(2)標識抗トランスフェリン抗体と標識抗ヘモグロビン抗体とが付着し、前記サンプルサイトの下流の結合体サイトと、
(3)抗トランスフェリン抗体が固定化されている一方のサイトと、抗ヘモグロビン抗体が固定化されて付けられている他方のサイトとの、2つの別個のサイトを有している、前記結合体サイトの下流のテストゾーンと、
(4)対照抗体が固定化されている対照サイトと、
を有するテストストリップを備えている、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記装置は、2つのテストストリップを有し、
第1のストリップは、
(1)消化管サンプルが塗布されるサンプルサイトと、
(2)標識抗トランスフェリン抗体が付着している、前記サンプルサイトの下流の結合体サイトと、
(3)抗トランスフェリン抗体が固定化されているテストサイトを有する、前記結合体サイトの下流のテストゾーンと、
(4)対照抗体が固定化されている対照サイトと、
を有し、第2のストリップは、
(1)消化管サンプルが塗布されるサンプルサイトと、
(2)標識抗ヘモグロビン抗体が付着している、前記サンプルサイトの下流の結合体サイトと、
(3)抗ヘモグロビン抗体が固定化されているテストサイトを有する、前記結合体サイトの下流のテストゾーンと、
(4)対照抗体が固定化されている対照サイトと、
を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記テストストリップは、ニトロセルロースからなる試験膜を有する、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記標識抗トランスフェリン抗体と前記標識抗ヘモグロビン抗体とは、共に、金の粒子に結合した抗体である、請求項13または14に記載の方法。
【請求項17】
(1)便のサンプルが塗布されるサンプルサイトと、
(2)標識抗トランスフェリン抗体と標識抗ヘモグロビン抗体とが付着している、前記サンプルサイトの下流の結合体サイトと、
(3)抗トランスフェリン抗体が固定化されている一方のサイトと、抗ヘモグロビン抗体が固定化され付けられている他方のサイトとの、2つの別個のサイトを有している、前記結合体サイトの下流のテストゾーンと、
(4)対照抗体が固定化されている対照サイトと、
を有するテストストリップを備えた、サンプル中のトランスフェリンとヘモグロビンとを同時に検出する側方流動免疫測定装置。
【請求項18】
2つのテストストリップを有し、
第1のストリップは、
(1)サンプルが塗布されるサンプルサイトと、
(2)標識抗トランスフェリン抗体が付着している、前記サンプルサイトの下流の結合体サイトと、
(3)抗トランスフェリン抗体が固定化されているテストサイトを有している、前記結合体サイトの下流のテストゾーンと、
(4)対照抗体が固定化されている対照サイトと、
を有し、第2のストリップは、
(1)サンプルが塗布されるサンプルサイトと、
(2)標識抗ヘモグロビン抗体が付着している、前記サンプルサイトの下流の結合体サイトと、
(3)抗ヘモグロビン抗体が固定化されているテストサイトを有している、前記結合体サイトの下流のテストゾーンと、
(4)対照抗体が固定化されている対照サイトと、
を有し、
サンプル中のトランスフェリンとヘモグロビンとを同時に検出する側方流動免疫測定装置。
【請求項19】
前記テストストリップは、ニトロセルロースからなる試験膜を有する、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記標識抗トランスフェリン抗体と前記標識抗ヘモグロビン抗体とは、共に、金の粒子に結合している抗体である、請求項17または18に記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4A−4C】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−502260(P2011−502260A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−532100(P2010−532100)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【国際出願番号】PCT/US2008/075394
【国際公開番号】WO2009/058478
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(510122027)
【氏名又は名称原語表記】WAN, JOHN
【出願人】(510122038)
【氏名又は名称原語表記】WAN, ZHIJING
【Fターム(参考)】