説明

潤滑剤組成物、及びそれを用いた機械要素、ならびにトリアジン誘導体の製造方法

【課題】優れた潤滑剤性能を示す潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】(a)一般式(1)(R−X−)m−Dで表される化合物の少なくとも一種及び(b)トリアジン誘導体で表される特定な化合物の少なくとも一層を含有することにより、摩擦摺動する機械要素等に用いられるような、極圧高剪断条件での低摩擦性、耐摩耗性及びその長期耐久性に優れる潤滑剤組成物である。なお、式(1)中、Dはm個の側鎖と結合可能な環状の基を表し;Xは、単結合、NH基等の二価の連結基を表し;Rは、置換基を表し、;mは2〜11の整数を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦摺動する機械要素等に用いられる、極圧高剪断条件での低摩擦性、耐摩耗性及びその長期耐久性に優れる潤滑剤組成物に関する。また、本発明は潤滑剤組成物に有用なトリアジン誘導体の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑剤に求められる性能は、広い温度範囲及び広い圧力範囲において、機械的摩擦摺動部の摩擦係数を低下することができ、さらにその効果ができるだけ持続することである。また、潤滑剤には、摩擦摺動部材間の潤滑性を向上させるという効果だけでなく、それによって摩擦摺動部材自体に耐磨耗性が付与できることも望まれる。エンジンオイル等の潤滑油の、摩擦摺動部における摩擦係数の低減効果及びその長寿命化は、機械駆動のための燃費の向上、すなわちエネルギーの節約に直結する。エンジンオイルの長寿命化は、廃オイル量の低減のみならず、CO2排出量の低減をも可能とするので、近年注目されている環境適合性の面でも好ましい。また、産業機械系の摺動部の中でも、特に苛酷な摩擦条件で摺動する軸受やギヤなどでは、従来の潤滑油やグリースなどの潤滑剤を用いた場合、潤滑条件が苛酷になると、潤滑剤が膜切れや焼付けを起こし、摩耗傷のために、所望の低摩擦係数を得られなくなる場合がある。その結果、装置の信頼性を損ねることがあり、特に装置を小型化した場合に、摺動部の摩擦条件が過酷化する傾向になり、装置の小型化の妨げにもなっていた。従って、苛酷な条件においても、摩耗や焼付きを生じず、装置の信頼性を向上させることができ、さらに装置の小型化に寄与することができるような省エネルギーな潤滑剤が望まれている。
【0003】
ところで、従来、潤滑剤としては、一般的には、潤滑剤基油を主成分とし、これに有機化合物等の潤滑助剤を配合したものが用いられる。特許文献1に示されるように、柔らかい基油(合成基油、鉱物系基油等)とその高温での柔らかすぎる欠点を補う粘度指数向上剤の配合によって、低摩擦性と耐摩耗性の両立した内燃機関用潤滑油組成物が提供されている。しかし、このような欠点を補い合う素材の組み合わせによる性能が、広い温度域と圧力域で発現及び維持できるかについては示されていないし、また一般的に劣化に伴う素材の補償は難しい。
また、従来の潤滑剤は、重金属元素、リン酸化合物及び硫化物等の環境有害物質又は環境汚染物質を含むことなく、潤滑剤としての優れた性能を示すとともに、その性能を長期的に維持できる材料は、未だに提供されていない。
【0004】
特許文献2及び特許文献3では、トリアジン構造を有する円盤状化合物を含んだ低摩擦係数を発現する潤滑油組成物が提供されている。
【特許文献1】特開2002−3876号公報
【特許文献2】特開2002−69472号公報
【特許文献3】特開2004−315703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
潤滑剤の技術分野では、より高い潤滑性能への要求があり、さらにその使用温度範囲を広げることについても要求がある。
本発明は前記諸問題に鑑みなされたものであって、従来の潤滑剤基油と混合した形態のみならず、潤滑剤基油を混合しない形態でも、優れた潤滑剤性能を示す潤滑剤組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、摺動面において低摩擦性及び耐摩耗性を長期的に維持できる、特に極圧下においても、低摩擦性及び耐摩耗性を長期的に維持できる潤滑剤組成物を提供することを課題とする。
さらに、本発明は、使用可能な温度範囲が広く、且つかかる広い温度範囲で優れた潤滑能を示す潤滑剤組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、環境適合性に乏しい重金属元素、リン酸基及び硫化物を排除することにより、長寿命化及び環境適合性を両立し得る潤滑剤組成物、及びその製造方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、かかる潤滑剤組成物を用いることによって、長寿命な機械要素を提供することを課題とする。
また、本発明は、潤滑剤組成物の調製に有用なトリアジン誘導体の新規な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
[1] 下記成分(a)及び(b):
(a)下記一般式(1)で表される化合物の少なくとも一種
【化1】

(式中、Dはm個の側鎖と結合可能な環状の基を表し;Xは各々独立に、単結合、NH基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し;Rは各々独立に、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、スルフィド基、カルボキシ基又はその塩、スルホ基又はその塩、ヒドロキシアミノ基、ウレイド基又はウレタン基を表し;mは2〜11の整数を表す。)
(b)下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも一種
【化2】

(式中、X11、X12、X13は各々独立に、単結合、NRa基(Raは、水素原子又は炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し、X11、X12、X13のうち1つ以上は、NRb基(Rbは、炭素数が1〜30のアルキル基)であり;R11、R12及びR13はそれぞれ独立して、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表す。)
を含有する潤滑剤組成物。
【0007】
[2] 前記一般式(1)中、Dが、下記一般式[1]〜[74]のいずれかで表される環状の基である[1]の潤滑剤組成物。
【化3】


(式中、nは2以上の整数を表し、*は側鎖との結合可能部位を意味する。但し*は2以上であれば全ての部位に側鎖が結合していなくてもよい。Mは金属イオン又は2つの水素原子を表す。)
【0008】
[3] 前記一般式(1)中、Dが5〜7員環構造の複素環残基を表す[1]又は[2]の潤滑剤組成物。
[4] 前記一般式(2)で表される化合物のR11−X11、R12−X12及びR13−X13のうち少なくとも1つは、下記一般式(3)で表される基を含む[1]〜[3]のいずれかの潤滑剤組成物。
【化4】

(式中、Rbは、炭素数が1〜30のアルキル基を表し;R21は置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表し;nは1〜5の整数である。)
【0009】
[5] 前記一般式(3)中、Rbが炭素数1〜3のアルキル基である[4]の潤滑剤組成物。
[6] (a)成分を5.0質量%〜90.0質量%、及び(b)成分を10.0質量%〜95.0質量%含有する[1]〜[5]のいずれかの潤滑剤組成物。
[7] (b)成分として、前記一般式(2)で表される化合物を二種類以上含有する[1]〜[6]のいずれかの潤滑剤組成物。
[8] 互いに異なる周速で運動する二面と、該二面の間に配置された[1]〜[7]のいずれかの潤滑剤組成物とを少なくとも有する機械要素。
[9] 摩擦摺動する二面間に[1]〜[7]のいずれかの潤滑剤組成物を配置して二面間の摩擦を軽減する方法。
【0010】
[10] [1]〜[7]のいずれかの潤滑剤組成物の製造方法であって、前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物を同時に又はそれぞれ添加する工程を含み、
前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物の少なくとも一方を、2種以上の混合物として合成し、混合物として添加することを特徴とする潤滑剤組成物の製造方法。
[11] 前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物の少なくとも一方を、2種以上の混合物を反応試薬として用いた合成工程によって、混合物として合成することを特徴とする[10]の方法。
[12] 前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物の少なくとも一方を、エチレンオキシドガス又はプロピレンオキシドガスによる付加反応を経て、該付加反応時に鎖長分布を利用して、混合物として合成することを特徴とする[10]又は[11]の方法。
[13] [10]〜[12]のいずれかの方法によって製造された潤滑剤組成物であって、前記一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物の少なくとも一方を混合物として含有する潤滑剤組成物。
[14] 前記一般式(1)で表される化合物が、少なくとも一つの置換基Rとして、及び/又は、一般式(2)で表される化合物が、R11、R12及びR13のうち少なくとも1つとして、エチレンオキシ単位又はプロピレンオキシ単位を含む置換基を有し、該置換基中に含まれるエチレンオキシ単位又はプロピレンオキシ単位の繰り返し数が互いに異なる化合物の混合物であることを特徴とする[13]の潤滑剤組成物。
[15] 前記一般式(1)で表される化合物の合成方法であって、該化合物が、少なくとも一つの置換基Rとして、エチレンオキシ単位又はプロピレンオキシ単位を含む置換基を有し、エチレンオキシドガス又はプロピレンオキシドガスを付加させる付加反応工程を含み、該付加反応工程時に鎖長分布を利用して、エチレンオキシド単位又はプロピレンオキシド単位の繰り返し数が互いに異なる混合物として合成することを特徴とする一般式(1)で表される化合物の製造方法。
[16] 前記一般式(2)で表される化合物の合成方法であって、該化合物が、R11、R12及びR13のうち少なくとも1つとして、エチレンオキシ単位又はプロピレンオキシ単位を含む置換基を有し、エチレンオキシドガス又はプロピレンオキシドガスを付加させる付加反応工程を含み、該付加反応工程時に鎖長分布を利用して、エチレンオキシド単位又はプロピレンオキシド単位の繰り返し数が互いに異なる混合物として合成することを特徴とする一般式(2)で表される化合物の製造方法。
【0011】
[17] トリクロロトリアジン、ジクロロトリアジン類又はモノクロロトリアジン類と、アミン類及び/又はアミノフェノール類とを反応させることを含み、酢酸ナトリウム水溶液を反応系中に添加して反応を進行させることを特徴とする、下記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体の製造方法。
【化5】

(式中、X11、X12及びX13は各々独立に、単結合、NRa基(Raは、水素原子又は炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し、X11、X12、X13のうち1つ以上は、NRb基(Rbは、炭素数が1〜30のアルキル基)であり;R11、R12及びR13はそれぞれ独立して、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表す。)
【0012】
[18] 前記一般式(2)中、R11−X11、R12−X12及びR13−X13のうち少なくとも一つが、下記一般式(3)で表される基を含むことを特徴とする[17]の方法。
【化6】

(式中、Rbは、炭素数が1〜30のアルキル基を表し;R21は置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表し;nは1〜5の整数である。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来の潤滑剤基油と混合した形態のみならず、潤滑剤基油を混合しない形態でも、優れた潤滑剤性能を示す潤滑剤組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、摺動面において低摩擦性及び耐摩耗性を長期的に維持できる、特に極圧下においても、低摩擦性及び耐摩耗性を長期的に維持できる潤滑剤組成物を提供することができる。
さらに、本発明によれば、使用可能な温度範囲が広く、且つかかる広い温度範囲で優れた潤滑能を示す潤滑剤組成物、及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、環境適合性に乏しい重金属元素、リン酸基及び硫化物を排除することにより、長寿命化及び環境適合性を両立し得る潤滑剤組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、かかる潤滑剤組成物を用いることによって、長寿命な機械要素を提供することができる。
また、本発明によれば、潤滑剤組成物の調製に有用なトリアジン誘導体の新規な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
[潤滑剤組成物]
本発明の潤滑剤組成物は、下記成分(a)及び(b)を含有することを特徴とする。本発明の潤滑剤組成物は、下記成分(a)及び成分(b)の双方を含有することにより、摺動面において、垂直方向の荷重に耐え得る潤滑膜を形成可能であり、摺動方向へのすべり性に優れる。しかも、それぞれを単独で使用した場合と比較して、より低温においても、優れた潤滑性能を示す。
潤滑剤に求められる性能、即ち、摺動面で油膜を形成し、それを維持し、且つ低摩擦作用を発現させるためには、摺動面への効果的な分子配向が必要である。その観点では、成分(a)と成分(b)とを組み合わせずに、それぞれ単独で使用するほうが、摺動面への分子配向性が高く、より優れた潤滑性能を示すと考えるのが一般的である。しかし、本発明の潤滑剤組成物は、下記成分(a)及び(b)の双方を含有するが、摺動面における分子配向は乱れず、むしろ油膜形成性に優れ、そればかりか、上記した通り、単独で使用するよりも、より低温側においても、優れた潤滑性能を示すという、予期せぬ効果を奏する。
【0015】
以下、各成分について説明する。
(a)成分
(a)成分は、一般式(1)で表される化合物の少なくとも一種からなる。
【0016】
【化7】

【0017】
式中、Dはm個の側鎖と結合可能な環状の基を表し、Xは各々独立に、単結合、NH基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し;Rは各々独立に、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、スルフィド基、カルボキシ基又はその塩、スルホ基又はその塩、ヒドロキシアミノ基、ウレイド基又はウレタン基を表す。mは2〜11の整数を表す。
【0018】
前記一般式(1)で表される化合物は、環状の基Dと、該環状の基に結合したm個(mは2〜11)の側鎖(R−X−)とを有する化合物である。前記化合物は、円盤状化合物であるのが好ましい。本明細書において、「円盤状化合物」とはその中心部に円盤状の部分構造を有する化合物をいう。円盤状の部分構造は、分子構造から側鎖部を除いた中心の部分構造であり、その形態的特徴を、例えば、その原形となる化合物である水素置換体について説明すれば、以下のように表現することができる。
まず、以下の1)〜5)の方法により、円盤状の部分構造の原形となる水素置換体についての分子の大きさを求める。
1) 対象となる分子につき、できる限り平面に近い、好ましくは平面分子構造を構築する。この場合、結合距離、結合角としては、軌道の混成に応じた標準値を用いる事が好ましく、例えば日本化学会編、化学便覧改訂4版基礎編、第II分冊15章(1993年刊 丸善)を参照することができる。
2) 前記1)で得られた構造を初期値として、分子軌道法や分子力場法にて構造最適化する。方法としては例えば、Gaussian92、MOPAC93、CHARMm/QUANTA、MM3が挙げられる。好ましくはGaussian92である。
3) 構造最適化によって得られた構造の重心を原点に移動させ、座標軸を慣性主軸(慣性テンソル楕円体の主軸)にとる。
4) 各原子にファンデルワールス半径で定義される球を付与し、これによって分子の形状を記述する。
5) ファンデルワールス表面上で各座標軸方向の長さを計測し、それらそれぞれをa、b及びcとする。
以上の手順1)〜5)により求められたa、b及びcを用いて、円盤状の形態を定義すると、a≧b>c且つa≧b≧a/2を満足する形態、好ましくはa≧b>c且つa≧b≧0.7aを満足する形態である。また、b/2>cを満足する形態も好ましい。
【0019】
また、円盤状部分構造の原形となる水素置換体である円盤状化合物の具体例を挙げると、例えば、日本化学会編、季刊化学総説No.22「液晶の化学」第5章、第10章2節(1994年刊 学会出版センター);C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.liq.Cryst.71巻、111頁(1981年);B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年);J.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Soc.Chem.Commun.,1794頁(1985年);J.Zhang、J.s.Mooreらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.,116巻、2655頁(1994年);に記載の母核化合物及びその誘導体が挙げられる。例えば、ベンゼン誘導体、トリフェニレン誘導体、トルキセン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、アントラセン誘導体、ヘキサエチニルベンゼン誘導体、ジベンゾピレン誘導体、コロネン誘導体及びフェニルアセチレンマクロサイクル誘導体が挙げられる。さらに、日本化学会編、“化学総説No.15 新しい芳香族の化学”(1977年 東京大学出版会刊)に記載の環状化合物及びそれらの複素原子置換等電子構造体を挙げることができる。
【0020】
前記一般式(1)中、Dが表す環状の基の例には、芳香族基及び複素環基が含まれる。芳香族基の芳香族環の例には、ベンゼン環、インデン環、ナフタレン環、トリフェニレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環及びピレン環が含まれる。芳香族基は置換基を有していてもよい。
複素環基は、5員、6員又は7員の複素環を有することが好ましい。5員環又は6員環がさらに好ましく、6員環が最も好ましい。複素環を構成する複素原子としては、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子が好ましい。複素環は、芳香族性複素環であることが好ましい。芳香族性複素環は、一般に不飽和複素環である。最多二重結合を有する不飽和複素環がさらに好ましい。複素環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピロリン環、ピロリジン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、イミダゾリン環、イミダゾリジン環、ピラゾール環、ピラゾリン環、ピラゾリジン環、トリアゾール環、フラザン環、テトラゾール環、ピラン環、チイン環、ピリジン環、ピペリジン環、オキサジン環、モルホリン環、チアジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペラジン環及びトリアジン環が含まれる。トリアジン環が好ましく、1,3,5−トリアジン環が特に好ましい。複素環に他の複素環、脂肪族環又は芳香族環が縮合していてもよい。ただし、単環式複素環が好ましい。
【0021】
以下に環状の基Dの好ましい例[1]〜[74]を示す。
【0022】
【化8】


【0023】
前記式中、nは2以上の整数を表し、*は側鎖との結合可能部位を意味する。但し*は2以上であれば全ての部位に側鎖が結合していなくてもよい。nは好ましくは3以上の整数を表す。Mは金属イオン又は2つの水素原子を表す。
母核は、極性元素を含むπ共役系の骨格を有するのが好ましく、上記の中で、[1]、[2]、[3]、[6]、[10]、[11]、[20]、[22]、[27]及び[55]が好ましく、その中でも[1]、[2]、[3]、[6]、[10]及び[20]がより好ましく、特に好ましくは[1]、[2]及び[3]である。
【0024】
前記一般式(1)中、Xは各々独立に、単結合、NH基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。Xが単結合の場合、複素環基でピペリジンのように遊離原子価をもった窒素原子で直接結合してもよく、さらに、遊離原子価がなくともヘテロ原子で結合し、オキソニウム塩、スルホニウム塩、アンモニウム塩のようにオニウム塩を形成してもよい。一般式(1)のXは、硫黄原子又はNHが好ましい。
【0025】
前記一般式(1)中、Rがアルキル基の場合は、炭素数が1〜40であるのが好ましく、2〜30であることがより好ましく、4〜30であることがさらに好ましく、6〜30であることがよりさらに好ましい。アルキル基は、直鎖状であっても、分枝状であってもよい。また、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、ハロゲン原子、アルコキシ基(炭素数1〜40の、好ましくは炭素数1〜20のアルコキシ基で、例えば、メトキシ、エトキシ、メトキシエトキシ、フェノキシ等)、アルキルもしくはアリールチオ基(炭素数1〜40の、好ましくは炭素数1〜20のアルキルチオ基、もしくは炭素数6〜40の、好ましくは炭素数6〜20のアリールチオ基で、例えば、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、フェニルチオ等)、アルキルアミノ基(炭素数1〜40の、好ましくは炭素数1〜20のアルキルアミノ基で、例えば、メチルアミノ、プロピルアミノ等)、アシル基(炭素数1〜40の、好ましくは炭素数2〜20のアシル基で、例えば、アセチル、プロパノイル、オクタノイル、ベンゾイル等)及びアシルオキシ基(炭素数1〜40の、好ましくは炭素数2〜20のアシルオキシ基で、例えば、アセトキシ、ピバロイルオキシ、ベンゾイルオキシ等)や、水酸基、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基及びウレイド基等が挙げられる。
【0026】
一般式(1)のRがアルケニル基又はアルキニル基の場合には、炭素数が2〜40であるのが好ましく、2〜30であることがより好ましく、4〜30であることがさらに好ましく、6〜30であることがよりさらに好ましい。アルケニル基及びアルキニルは、直鎖状であっても、分枝状であってもよい。また、アルキル基と同様の置換基を有していてもよい。
【0027】
前記一般式(1)中、Rがアリール基の場合は、フェニル基、インデニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、フルオレニル基、フェナンスレニル基、アントラセニル基及びピレニル基等が挙げられるが、フェニル基やナフチル基が好ましい。さらに、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、上記アルキル基の置換基で例示したものの他、炭素数1〜40のアルキル基が挙げられ、炭素数8〜30の直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基、例えばアルキル基(オクチル、デシル、ヘキサデシル、2−エチルヘキシル等)、アルコキシ基(ドデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ等)、スルフィド基(ヘキサデシルチオ等)、置換アミノ基(ヘプタデシルアミノ等)、オクチルカルバモイル基、オクタノイル基及びデシルスルファモイル基等で置換されることが好ましい。また、これらの置換基は、2つ以上置換していることが好ましく、さらに、上記の置換基の他にも、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基等に置換されていてもよい。
【0028】
前記一般式(1)中、Rが複素環基の場合では、Dと同様に、5〜7員環構造の複素環基が好ましく、5員環又は6員環がより好ましく、6員環が最も好ましい。これらの骨格の具体的な例も、岩波理化学辞典 第3版増補版(岩波書店発行)の付録11章 有機化学命名法 表4.主要複素単環式化合物の名称 1606頁及び表5.主要縮合複素環式化合物の名称 1607頁に記載される化合物が挙げられる。また、これらは、アリール基と同様の置換基を有していてもよく、炭素数8〜30の直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換されることが好ましい。また、これらの置換基は、2つ以上置換していることが好ましく、さらに、上記の置換基の他にも、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基等に置換されていてもよい。
【0029】
m個存在するRのうち少なくとも1つは、エステル結合を有しているのが好ましく、エステル結合を含有する直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換されたアルコキシ基であるのがより好ましい。Rの全てがエステル結合を含んでいるのがさらに好ましく、全てが、エステル結合を含有する直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換されたアルコキシ基であるのがさらにより好ましい。
【0030】
m個存在するR(以下、−Rを「側鎖」という場合がある)のうち、少なくとも一つが、下記一般式(4a)又は一般式(4b)で表される基を含んでいるのが好ましい。なお、以下の式中、左側(−X0)がX側である。
【0031】
【化9】

【0032】
【化10】

【0033】
式中、X0は、単結合、NR1基(R1は、水素原子又は炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。
0は、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜20の、直鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキレン基を表す)、NR1基(R1は、水素原子又は炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。二価の連結基は置換基を有していてもよい。L0はアルキレン基が好ましい。
また、X0とL0との組み合わせの基としては、−O(C=O)−アルキレン−、−O(C=O)−シクロアルキレン−が好ましい。
0は、置換もしくは無置換のアルキル基、又は置換もしくは無置換のアリール基を表す。
【0034】
また、前記側鎖のうち少なくとも一つは、前記一般式(4a)で表される基を含んでいるのがより好ましい。中でも、側鎖が下記一般式(4)で表される基を含んでいるのがさらに好ましい。なお、以下の式中、左側(−L01)が環状の基D側である。
【0035】
【化11】

【0036】
01はX0と同義である。L01は酸素原子、硫黄原子、−(C=O)O−、−NH−(C=O)O−であるのが好ましい。R01は炭素原子数が1〜30の置換もしくは無置換のアルキル基を表し、p及びqは各々整数を表す。R01の炭素原子数は1〜40であるのが好ましく、1〜20であるのがより好ましい。置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、メトキシエトキシ、フェノキシ等)、スルフィド基(メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ等)、アルキルアミノ基(メチルアミノ、プロピルアミノ等)、アシル基(アセチル、プロパノイル、オクタノイル、ベンゾイル等)及びアシルオキシ基(アセトキシ、ピバロイルオキシ、バンゾイルオキシ等)や、アリール基、複素環基、水酸基、メルカプト基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基、及びウレイド基等が挙げられる。pは1〜20が好ましく、2〜10がより好ましい。qは1〜10が好ましく、1〜5がより好ましい。
【0037】
また、前記側鎖のうち少なくとも一つが、下記一般式(5)で表される基を含んでいるのも好ましい。なお、以下の式中、左側(−L01)が環状の基D側である。
【0038】
【化12】

【0039】
01、R01、p及びqのそれぞれについては、前記式(4)中のそれぞれと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0040】
また、前記側鎖のうち少なくとも一つが、下記一般式(6)又は(7)で表される基を含んでいるのも好ましい。
【0041】
【化13】

【0042】
式中、R01は炭素原子数が1〜30の置換もしくは無置換のアルキル基を表し、m及びnは各々整数を表し、一般式(4)におけるR01と同じ意味の基を表す。
【0043】
【化14】

【0044】
式中、R25は置換基を表し、a24は1〜5の整数を表す。
前記式中、置換基R25、R71及びR72の例には、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素)、アルキル基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアルキル基で、例えば、メチル、エチル、プロピル、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル)、アルケニル基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20のアルケニル基で、例えば、ビニル、2−ブテン−1−イル、オレイル)、アルキニル基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20のアルキニル基で、例えば、プロパルギル)、アリール基(炭素原子数6〜40の、好ましくは6〜20のアリール基で、例えば、フェニル、ナフチル)、ヘテロ環基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のヘテロ環基で、例えば、2−フリル、2−チエニル、4−ピリジル,2−イミダゾリル、2−ベンゾチアゾリル、2−ベンゾオキサゾリル、1−ベンゾイミダゾリル)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアルコキシ基で、例えば、メトキシ、エトキシ、ヘキシルオキシ、オクチルオキシ、2−エチルヘキシルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ、テトラデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ、オクタデシルオキシ)、アリールオキシ基(炭素原子数6〜40の、好ましくは6〜20のアリールオキシ基で、例えば、フェノキシ、1−ナフトキシ)、シリルオキシ基(炭素原子数3〜40の、好ましくは3〜20のシリルオキシ基で、例えば、トリメチルシリルオキシ)、ヘテロオキシ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のヘテロオキシ基で、例えば、2−フリルオキシ、2−テトラヒドロピラニルオキシ、3−ピリジルオキシ、2−イミダゾリルオキシ)、アシルオキシ基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20のアシルオキシ基で、例えば、アセトキシ、ブタノイルオキシ、オクタノイルオキシ、ドデカノイルオキシ、ベンゾイルオキシ)、カルバモイルオキシ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のカルバモイルオキシ基で、例えば、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ)、アルコキシカルボニルオキシ基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20のアルコキシカルボニルオキシ基で、例えば、エトキシカルボニルオキシ、ブトキシカルボニルオキシ、2−エチルへキルオキシカルボニルオキシ、ドデシルオキシカルボニルオキシ、ヘキサデシルオキシカルボニルオキシ)、アリールオキシカルボニルオキシ基(炭素原子数7〜40の、好ましくは7〜20のアリールオキシカルボニルオキシ基で、例えば、フェノキシカルボニルオキシ)、アミノ基(炭素原子数0〜40の、好ましくは1〜20のアミノ基で、例えば、アミノ、N−メチルアミノ、N−2−エチルヘキシルアミノ、N−テトラデシルアミノ、N,N−ジエチルアミノ、N,N−ジオクチルアミノ)、アシルアミノ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアシルアミノ基で、例えば、アセチルアミノ、オクタノイルアミノ、ドデカノイルアミノ)、アミノカルボニルアミノ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアミノカルボニルアミノ基で、例えば、N,N−ジオクチルカルバモイルアミノ)、アルコキシカルボニルアミノ基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20のアルコキシカルボニルアミノ基で、例えば、メトキシカルボニルアミノ、エトキシカルボニルアミノ、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ、テトラデシルオキシカルボニルアミノ)、アリールオキシカルボニルアミノ基(炭素原子数7〜40の、好ましくは7〜20のアリールオキシカルボニルアミノ基で、例えば、フェノキシカルボニルアミノ)、スルファモイルアミノ基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20のスルファモイルアミノ基で、例えば、N,N−ジメチルスルファモイルアミノ)、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアルキル及びアリールスルホニルアミノ基で、例えば、メチルスルホニルアミノ、ブチルスルホニルアミノ、ドデシルスルホニルアミノ、p−トルエンスルホニルアミノ)、メルカプト基、アルキルチオ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアルキルチオ基で、例えば、メチルチオ、エチルチオ、2−エチルヘキシルチオ、ドデシルチオ)、アリールチオ基(炭素原子数6〜40の、好ましくは6〜20のアリールチオ基で、例えば、フェニルチオ)、ヘテロ環チオ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のヘテロ環チオ基で、例えば、4−ピリジルチオ、チアゾール−2−イルチオ、ベンゾオキサゾール−2−イルチオ、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ、1,3,4−チアジアゾール−2−イルチオ)、スルファモイル基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20のスルファモイル基で、例えば、スルファモイル、N,N−ジエチルスルファモイル、N−ヘキサデシルスルファモイル)、スルホ基、アルキル及びアリールスルフィニル基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアルキル及びアリールスルフィニル基で、例えば、メチルスルフィニル、フェニルスルフィニル)、アルキル及びアリールスルホニル基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアルキル及びアリールスルホニル基で、例えば、メチルスルホニル、ブチルスルホニル、ヘキサデシルスルホニル、p−トリルスルホニル)、アシル基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアシル基で、例えば、アセチル、プロピオニル、イソブチリル、テトラデカノイル、ベンゾイル)、アリールオキシカルボニル基(炭素原子数7〜40の、好ましくは7〜20のアリールオキシカルボニル基で、例えば、フォノキシカルボニル)、アルコキシカルボニル基(炭素原子数2〜40の、好ましくは2〜20のアルコキシカルボニル基で、例えば、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、ヘキサデシルオキシカルボニル)、カルバモイル基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のカルバモイル基で、例えば、カルバモイル、N,N−ジエチルカルバモイル、N−ドデシルカルバモイル)、アリール及びヘテロ環アゾ基(炭素原子数1〜40の、好ましくは1〜20のアリール及びヘテロ環アゾ基で、例えば、フェニルアゾ、3−メチル−1,2,4−オキサジアゾール−5−イルアゾ、2−メチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−5−イルアゾ)、イミド基(炭素原子数4〜40の、好ましくは4〜20のイミド基で、例えば、スクシンイミド、フタルイミド)、ホスフィノ基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20のホスフィノ基)、ホスフィニル基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20のホスフィニル基)、ホスフィニルオキシ基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20のホスフィニルオキシ基)、ホスフィニルアミノ基(炭素原子数0〜40の、好ましくは0〜20のホスフィニルアミノ基)、シリル基(炭素原子数3〜40の、好ましくは3〜20のシリル基で、例えば、トリメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル)が含まれる。さらに、置換基R71及びR72は、これらの置換基から選ばれる1種以上の置換基によって置換されたこれらの置換基も含まれる。R71の置換基としては直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換された、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基及びアシル基が好ましい。aは0あるいは1〜5の整数であり、好ましくは1〜3である。
71の炭素原子数は1〜40であるのが好ましく、1〜20であるのがより好ましい。
【0045】
前記一般式(1)中、Dが、1,3,5−トリアジン環骨格を有する環状の基[2]等、環中に窒素原子、及び酸素原子等のヘテロ原子を有するヘテロ環である場合は、3個存在する−X−Rのうち少なくとも一つは、下記一般式(8)で表される基であるのが好ましい。
【0046】
【化15】

【0047】
式中、R81及びR82はそれぞれ置換基であり、その例は、R25が表す置換基の例と同様である。R81及びR82はそれぞれ、上記式(4)、(4a)、(4b)、(5)、(6)及び(7)で表される基のいずれかであるのが好ましく、上記式(4)又は(5)で表される基であるのがより好ましい。
式中、bは0〜4の整数であり、0又は1であるのが好ましい。
【0048】
一方、前記一般式(1)中、Dが、ベンゼン環の基[1]、トリフェニレン環の基[2]である等、環中に窒素原子、及び酸素原子等のヘテロ原子を含まない炭化水素環である場合は、3個存在する−X−Rのうち少なくとも一つは、上記式(4)、(4a)、(4b)、(5)、(6)及び(7)で表される基のいずれかであるのが好ましく、上記式(4)〜(7)で表される基のいずれかであるのがより好ましく、上記式(4)又は(6)で表される基であるのがよりさらに好ましい。
【0049】
本発明に使用可能な前記一般式(1)で表される化合物の具体例には、特開2006−257384号公報の[0056]〜[0085]に記載の化合物が含まれる。
また、前記一般式(1)で表される化合物の好ましい具体例には、下記一般式(a1)〜(a3)で表される化合物が含まれる。
【0050】
【化16】

【0051】
前記式中、R11a、R12a、R13a、R21a、R22a、R23a、R31a、R32a、R33a、R34a、R35a、及びR36aはそれぞれ、前記一般式(4)〜(7)のいずれかで表される基である。R11a、R12a、及びR13aはすべてがそれぞれ、前記式(7)で表される基であるか、2つがそれぞれ前記式(7)で表される基であり、1つが前記式(5)で表される基であるのが好ましい。R21a、R22a、及びR23aはそれぞれ、前記式(4)で表される基であるのが好ましい。R31a、R32a、R33a、R34a、R35a、及びR36aはそれぞれ、前記式(6)で表される基であるのが好ましい。
【0052】
(b)成分
(b)成分は、下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも一種からなる。
【0053】
【化17】

【0054】
式中、X11、X12及びX13は各々独立に、単結合、NRa基(Raは、水素原子又は炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。
11、X12及びX13が単結合の場合、複素環基でピペリジンのように遊離原子価をもった窒素原子で直接結合してもよく、さらに、遊離原子価がなくともヘテロ原子で結合し、オキソニウム塩、スルホニウム塩、アンモニウム塩のようにオニウム塩を形成してもよい。
11、X12及びX13が、単結合でない場合、NRa基(Raは、水素原子又は炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。該二価の連結基の例には、オキシカルボニル基、アミノカルボニル基、ウレイレン基、オキシスルホニル基、スルファモイル基等が含まれる。硫黄原子又はNRa基が好ましく、Raは、炭素数が1〜30のアルキル基が好ましく、炭素数が3以下のアルキル基(メチル、エチル、n−プロピル又はiso−プロピル)がより好ましい。
【0055】
11、X12、X13のうち1つ以上は、NRb基(Rbは、炭素数が1〜30のアルキル基)である。Rbは、炭素数が1〜30のアルキル基が好ましく、炭素数が3以下のアルキル基(メチル、エチル、n−プロピル又はiso−プロピル)がより好ましく、メチル基であるのが最も好ましい。X11、X12、X13のうち2つが、NRb基であるのが好ましい。
【0056】
前記一般式(2)中、R11、R12及びR13は、各々独立に、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表す。
【0057】
11、R12及びR13でそれぞれ表されるアルキル基は、炭素数が1〜40であるのが好ましく、炭素数2〜30であることがより好ましく、炭素数4〜30であることがさらに好ましく、炭素数6〜30であることがよりさらに好ましい。アルキル基は、直鎖状であっても、分枝状であってもよい。また、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、ハロゲン原子、アルコキシ基(炭素数1〜40の、好ましくは炭素数1〜20のアルコキシ基で、例えば、メトキシ、エトキシ、メトキシエトキシ、フェノキシ等)、アルキルもしくはアリールチオ基(炭素数1〜40の、好ましくは炭素数1〜20のアルキルチオ基、もしくは炭素数6〜40の、好ましくは炭素数6〜20のアリールチオ基で、例えば、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、フェニルチオ等)、アルキルアミノ基(炭素数1〜40の、好ましくは炭素数1〜20のアルキルアミノ基で、例えば、メチルアミノ、プロピルアミノ等)、アシル基(炭素数1〜40の、好ましくは炭素数2〜20のアシル基で、例えば、アセチル、プロパノイル、オクタノイル、ベンゾイル等)及びアシルオキシ基(炭素数1〜40の、好ましくは炭素数2〜20のアシルオキシ基で、例えば、アセトキシ、ピバロイルオキシ、ベンゾイルオキシ等)や、水酸基、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基及びウレイド基等が挙げられる。
【0058】
11、R12及びR13のそれぞれが、アルケニル基又はアルキニル基の場合には、炭素数が2〜40であるのが好ましく、2〜30であることがより好ましく、4〜30であることがさらに好ましく、6〜30であることがよりさらに好ましい。アルケニル基及びアルキニルは、直鎖状であっても、分枝状であってもよい。また、アルキル基と同様の置換基を有していてもよい。
【0059】
11、R12、R13でそれぞれ表されるアリール基の例には、フェニル基、インデニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、フルオレニル基、フェナンスレニル基、アントラセニル基及びピレニル基等が含まれる。中でも、フェニル基やナフチル基が好ましく、さらに、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、上記アルキル基の置換基で例示したものの他、炭素数1〜40のアルキル基が挙げられ、さらに、炭素数8〜30の直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基、例えばアルキル基(オクチル、デシル、ヘキサデシル、2−エチルヘキシル等)、アルコキシ基(ドデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ、2−ヘキシルデシルオキシ、ヘキシルオキシエチレンオキシエチレンオキシ等)、スルフィド基(ヘキサデシルチオ等)、置換アミノ基(ヘプタデシルアミノ等)、オクチルカルバモイル基、オクタノイル基及びデシルスルファモイル基等で置換されることが好ましい。また、これらの置換基は、2つ以上置換していることが好ましく、さらに、上記の置換基の他にも、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基等に置換されていてもよい。
【0060】
11、R12及びR13でそれぞれ表される複素環基は、一般式(1)のDと同様に、5〜7員環構造の複素環残基が好ましく、5員環又は6員環がより好ましく、6員環が最も好ましい。これらの骨格の具体的な例も、岩波理化学辞典 第3版増補版(岩波書店発行)の付録11章 有機化学命名法 表4.主要複素単環式化合物の名称 1606頁及び表5.主要縮合複素環式化合物の名称1607頁に記載される化合物が挙げられる。また、これらは、アリール基と同様の置換基を有していてもよく、炭素数8以上の直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換されることが好ましい。また、これらの置換基は、2つ以上置換していることが好ましく、さらに、上記の置換基の他にも、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基等に置換されていてもよい。
【0061】
11、R12及びR13のうち少なくとも1つは、エステル結合を有しているのが好ましく、エステル結合を含有する直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換されたアルコキシ基であるのがより好ましい。さらに、R11、R12及びR13の全てがエステル結合を含んでいるのがさらに好ましく、全てが、エステル結合を含有する直鎖状あるいは分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換されたアルコキシ基であるのがさらにより好ましい。
【0062】
11、R12及びR13には総炭素数8以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル鎖、総炭素数4以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル鎖、総炭素数2以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のパーフルオロアルキルエーテル鎖、又は直鎖状もしくは分岐鎖状の有機ポリシリル鎖を含む置換基を含んでいるのがより好ましい。R11、R12及びR13は、それぞれ、直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖を含む置換基であるのが好ましく、総炭素数4以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖を含む置換基で置換されたフェニル基であるのが特に好ましい。
【0063】
一般式(2)で表される化合物のR11−X11、R12−X12及びR13−X13のうち少なくとも1つは、下記一般式(3)で表される基を含む化合物が好ましく、2つが下記一般式(3)で表される基を含む化合物であるのが好ましい。
【0064】
【化18】

【0065】
式中、Rbは、炭素数が1〜30のアルキル基を表す。Rbは、炭素数が1〜30のアルキル基が好ましく、炭素数が3以下のアルキル基がより好ましく、メチル基が最も好ましい。
21は直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基等が挙げられる。R21は総炭素数8以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル鎖、総炭素数4以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル鎖、総炭素数2以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のパーフルオロアルキルエーテル鎖、又は直鎖状もしくは分岐鎖状の有機ポリシリル鎖を含む置換基であるのが好ましく、炭素数8以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル残基、又は総炭素数4以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖を含む置換基であるのが好ましく、総炭素数4以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖を含む置換基であるのがより好ましい。より具体的には、R21は、−O(Cn2nO)lm2m+1(但し、lは1〜10、nは2〜6、mは1〜24)であるのが好ましい。
前記一般式(3)中、nは1〜5の整数である。
【0066】
以下に、前記一般式(2)で表される成分(b)として使用可能な化合物の具体例を挙げるが、以下の具体例に限定されるものではない。また、以下の例示化合物中、エチレンオキシ単位又はプロピレンオキシ単位について、平均n数で示されている化合物については、nが互いに異なる複数の化合物の混合物であることを意味する。
【0067】
【化19】

【0068】
【化20】

【0069】
【化21】

【0070】
【化22】

【0071】
【化23】

【0072】
【化24】

【0073】
【化25】

【0074】
【化26】

【0075】
【化27】

【0076】
【化28】

【0077】
【化29】

【0078】
【化30】

【0079】
【化31】

【0080】
【化32】

【0081】
前記前記一般式(2)で表される化合物は、種々の反応を利用して、塩化シアヌルを出発原料として合成することができる。一例は、トリクロロトリアジン、ジクロロトリアジン類又はモノクロロトリアジン類と、アミン類又はアミノフェノール類とを反応させることで製造することができる。この反応はHClの脱離を伴うので、脱酸剤を用いるのが好ましい。脱酸剤としては塩基が用いられる。脱酸剤として使用可能な塩基の例には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、トリエチルアミン、N,N―ジイソプロピルエチルアミン、1,8−ジアザービシクロー[5.4.0]−ウンデセ−7−エン(DBU)、ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、N−メチルモルホリン、ナトリウムメトキシド及び酢酸ナトリウムが含まれる。中でも、アミノフェノールのN位を選択的に反応させるためには、脱酸剤として酢酸ナトリウムを用いるのが特に好ましい。
【0082】
ジクロロトリアジン類とは、トリクロロトリアジンの塩素原子の一つが他の置換基に置換された化合物類である。置換基の例としてはアルキル基(炭素数1〜40の、好ましくは1〜20であることがより好ましい。アルキル基は直鎖状であっても、分岐状であってもよい。)、アリール基(例えば、フェニル、ナフチル基等)、アルコキシ基(炭素数1〜40の、好ましくは炭素数1〜20のアルコキシ基で、例えば、メトキシ、エトキシ、メトキシエトキシ、フェノキシ基等)、モノアルキルアミノもしくはジアルキルアミノ基(炭素数1〜40の、好ましくは炭素数1〜20で、例えば、ブチルアミノ、オクチルアミノ、2−エチルヘキシルアミノ、ジブチルアミノ、ジオクチルアミノ、ジー2−エチルヘキシルアミノ基等)、アルキルもしくはアリールチオ基(炭素数1〜40の、好ましくは炭素数1〜20のアルキルチオ基、もしくは炭素数6〜40の、好ましくは炭素数6〜20のアリールチオ基で、例えばメチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、フェニルチオ基等)、アシル基(炭素数1〜40の、好ましくは炭素数1〜20のアシル基で、例えば、アセチル、プロパノイル、オクタノイル、ベンゾイル基等)、アシルオキシ基(炭素数1〜40の、好ましくは炭素数1〜20のアシルオキシ基で、アセトキシ、ピバロイルオキシ、ベンゾイルオキシ基等)、アルケニル及びアルキニル基(炭素数2〜40の、好ましくは炭素数6〜30で、直鎖状であっても、分岐状であってもよい)、及び複素環基(例えば5〜6員環のピロリジン、ピペリジン、モルホリン等)等が挙げられる。また、これらの基は、さらに置換基を有していてもよい。
【0083】
また、モノクロロトリアジン類とは、トリクロロトリアジンの二つの塩素原子が他の置換基で置換された化合物類である。二つの置換基は同じであっても、異なってもよい。置換基の例としては、ジクロロトリアジン類の置換基と同様である。
【0084】
次に、アミン類とは、第一級及び第二級の脂肪族モノアミン類をいう。脂肪族モノアミンは直鎖状であっても、分岐状であってもよいアルキルアミン(炭素数1〜40の、好ましくは炭素数1〜20で、第二アミンの場合、アルキル基は同じであっても、異なってもよい)もしくはシクロアルキルアミン(3〜6員環の例えば、シクロプロピル、シクロヘキシル等)等が挙げられる。
次に、アミノフェノール類とは無置換のアミノフェノールもしくはN位にアルキル基が置換したアルキルアミノフェノールを表す。アルキル基は炭素数1〜10であることが好ましく、炭素数1〜5であることがさらに好ましく、1〜3であることがよりさらに好ましい。
【0085】
前記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体の製造方法の例には、以下の反応式(I)又は (II)で表される工程を含む製造方法が含まれる。なお、下記反応式において、R10は炭素数1〜3のアルキル基を表し、R11及びR12はそれぞれ、置換もしくは無置換の炭素数1〜30の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を表す。
【0086】
【化33】

【0087】
さらに、種々の反応を利用して、式中に含まれるフェノール性水酸基OHを、OR(Rは、置換基であり、総炭素数8以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル鎖、総炭素数4以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のオリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル鎖、総炭素数2以上の直鎖状もしくは分岐鎖状のパーフルオロアルキルエーテル鎖、又は直鎖状もしくは分岐鎖状の有機ポリシリル鎖を含む置換基を含む置換基であるのんでいるのが好ましい)に変換して、前記式(2)で表されるトリアジン誘導体を合成してもよい。この方法によれば、前記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体であって、式中のR11−X11、R12−X12及びR13−X13の少なくとも1つが、前記一般式(3)で表される基である化合物を簡易な方法で高収率で製造することができる。
【0088】
以下に、上記例示化合物b−116、b−122及びb−44の合成例をそれぞれ記載するが、これらに限定されるものではない。
[例示化合物b−116の合成例]
【化34】

【0089】
中間体Aの製造法:
塩化シアヌル232.2g(1.26モル)をメチルエチルケトン(MEK)1600mLに溶解させ、氷冷した後ジブチルアミン163g(1.26モル)を5℃以下で滴下した。滴下終了後、酢酸ナトリウム113g(1.38モル)を水250mLに溶解させた溶液を5℃以下で滴下した。滴下終了後、室温下で1時間攪拌させた後、p−メチルアミノフェノール・硫酸塩(メトール)475g(2.78モル)を添加し、次いで、酢酸ナトリウム465g(5.67モル)を水1000mLに溶解させた溶液を窒素雰囲気下で滴下した。滴下終了後、そのまま室温下で30分間攪拌し、その後3時間加熱還流した。反応終了後、MEKを約半分量(約800mL)留去し、30℃以下に冷却した後、攪拌を伴って、メタノール630mLと水1260mLとの混合液を添加した。その後更に、水630mLを添加し、15℃以下まで冷却した。析出した結晶を濾過し、次いでメタノール300mLと水300mLとの混合液で掛け洗いした後、結晶を取り出し乾燥することにより、目的物512.3gを得た(2工程のトータル収率:90.3%)。
【0090】
中間体Bの製造法:
テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチセノール40:協和発酵ケミカル製)737g(2.95モル)を酢酸エチル2500mLに溶解させ、冷却した後、メタンスルホニルクロライド338g(2.95モル)を10℃以下で滴下し、次いでトリエチルアミン323.8g(3.20モル)を5℃以下で滴下した。滴下終了後、室温下で1時間攪拌させた後、反応液を水2000mLで3回抽出洗浄した。抽出した有機層(酢酸エチル層)を減圧濃縮することにより目的物972gを得た(収率:100%)。
【0091】
化合物b−116の製造法:
中間体A 512.3g(1.13モル)と中間体B972g(2.96モル)とをN−メチルピロリドン(NMP)1500mLに溶解し、次いで炭酸カリウム610g(4.41モル)を添加し90〜100℃で5時間反応させた。反応終了後、25℃まで冷却し、水2000mLを添加した後、トルエン2500mLで抽出した。
分液後、有機層(トルエン層)を水2000mLで2回洗浄した後、有機層を減圧濃縮することにより目的物1000gを得た(収率:95%)。
【0092】
[例示化合物b−122の合成例]
【化35】

【0093】
中間体Aの製造法:
塩化シアヌル232.2g(1.26モル)をメチルエチルケトン(MEK)1600mLに溶解させ、氷冷した後ジブチルアミン163g(1.26モル)を5℃以下で滴下した。滴下終了後、酢酸ナトリウム113g(1.38モル)を水250mLに溶解させた溶液を5℃以下で滴下した。滴下終了後、室温下で1時間攪拌させた後、p−メチルアミノフェノール・硫酸塩(メトール)475g(2.78モル)を添加し、次いで、酢酸ナトリウム465g(5.67モル)を水1000mLに溶解させた溶液を窒素雰囲気下で滴下した。滴下終了後、そのまま室温下で30分間攪拌させた後、3時間加熱還流した。反応終了後、MEKを約半分量(約800mL)留去し、30℃以下に冷却した後、メタノール630mLと水1260mLとの混合液を添加した。更に水630mLを添加し15℃以下まで冷却した後、析出した結晶を濾過し、メタノール300mLと水300mLの混合液で掛け洗いした後、結晶を取り出し乾燥することにより目的物512.3gを得た(2工程トータルの収率:90.3%)。
【0094】
中間体Bの製造法:
中間体A 512.3g(1.13モル)、水酸化ナトリウム2.3g(0.057モル)及び酸化エチレンガス(9.04モル相当)を専用容器に入れて、120℃で5時間反応させた。反応終了後、室温まで冷却して酢酸エチル3000mLに溶解させた後、有機層を水2000mLで2回抽出洗浄した。抽出後、有機層を減圧濃縮して目的物816gを得た(収率:90%)。
【0095】
化合物b−122(n≒4)の製造法:
中間体B 816g(1.02モル)、n−ブチルブロマイド1398g(10.2モル)、25%水酸化ナトリウム1632g(10.2モル)及びテトラブチルアンモニウムブロマイド(TBAB)32.9g(0.102モル)を入れ、65〜70℃で5時間反応させた。反応終了後、25℃まで冷却し、トルエン3000mLで溶解させた後、有機層を水1500mLで3回洗浄した。洗浄後、有機層を減圧濃縮することにより目的物914.8gを得た(収率:98%)。
【0096】
[例示化合物b−44の合成例]
【化36】

【0097】
中間体Aの製造法:
塩化シアヌル170g(0.92モル)をメチルエチルケトン(MEK)1360mLに溶解させ、冷却した後、5℃以下でp−メチルアミノフェノール・硫酸塩(メトール)525.6g(3.04モル)を添加し、次いで酢酸ナトリウム501.2g(6.12モル)を水1100mLに溶解させた溶液を窒素雰囲気下において滴下した。滴下終了後、3時間加熱還流させた後、MEKをそのまま常圧下で留去し30℃以下に冷却した後、アセトン340mLと水1360mLとの混合液を添加し、5℃以下で1時間攪拌した。析出した結晶を濾過し、得られた結晶をアセトン170mLと水680mLとの混合液で掛け洗いした後、結晶を取り出し乾燥することにより目的物391gを得た(収率:95%)。
【0098】
中間体Bの製造法:
ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル641.2g(3.37モル)を酢酸エチル3400mLに溶解させ、冷却した後、10℃以下でメタンスルホニルクロライド405g(3.55モル)を滴下し、次いでトリエチルアミン376g(3.71モル)を10℃以下で滴下した。滴下終了後、室温で1時間攪拌した後、反応液を水1000mLで3回抽出洗浄した。抽出した有機層(酢酸エチル層)を減圧濃縮することにより目的物904gを得た(収率:100%)。
【0099】
化合物b−44の製造法:
中間体A 411.4g(0.92モル)と中間体B 904g(3.37モル)とを、N−メチルピロリドン(NMP)1500mLに室温下で溶解させた後、炭酸カリウム513g(6.26モル)を添加し、反応温度95〜100℃で5時間反応させた。反応終了後、25℃まで冷却し水3000mLを添加した後、トルエン3000mLを添加して抽出した。分液後、有機層(トルエン層)を水2000mLで2回抽出洗浄した後、有機層を減圧濃縮することにより目的物961.3gを得た(収率:95%)。
【0100】
本発明の潤滑剤組成物は、(a)成分を50.0質量%〜99.9質量%、及び(b)成分を0.01質量%〜50質量%含有するのが好ましい。(a)成分を80.0質量%〜99.9質量%含有し、及び(b)成分を1.0〜20質量%含有するのがより好ましい。
【0101】
基油:
本発明の潤滑剤組成物は、基油さらに含有していてもよい。基油として用いられる油性物質(潤滑油)としては、従来、潤滑剤組成物の基油として用いられている一般的な鉱油及び合成油から選択することができる。基油は、特に限定されない。例えば、合成炭化水素油、パラフィン系鉱油、アルキルジフェニルエーテル油、シリコーン油、ナフテン系鉱油、ポリオキシアルキレン及び/又はポリオキシアルキレンのエーテル誘導体、すなわちポリグリコール系合成油(特開平4−266995号公報)、及びジエステルやポリオールエステルに代表されるエステル油等が挙げられる。しかし、樹脂材の応力割れを引き起こしにくい点で、合成炭化水素油が好ましい。
合成炭化水素油の代表例としては、ポリα−オレフィン、エチレンとα−オレフィンのコオリゴマー、ポリブテンなどが挙げられる。樹脂材の応力割れを引き起こしにくい点で、合成炭化水素油に次いで好ましい基油は、パラフィン系鉱油、アルキルジフェニルエーテル油、シリコーン油である。これらの基油は2種以上を混合して使用してもよい。
例えば、鉱油、合成油、あるいはそれらの混合油のいずれも用いることができる。鉱油としては、例えば、パラフィン系、中間基系又はナフテン系原油の常圧又は減圧蒸留により誘導される潤滑油原料をフェノール、フルフラール、N−メチルピロリドンの如き芳香族抽出溶剤で処理して得られる溶剤精製ラフィネート、潤滑油原料をシリカーアルミナを担体とするコバルト、モリブデン等の水素化処理用触媒の存在下において水素化処理条件下で水素と接触させて得られる水素化処理油、水素化分解触媒の存在下において苛酷な分解反応条件下で水素と接触させて得られる水素化分解油、ワックスを異性化用触媒の存在下において異性化条件下で水素と接触させて得られる異性化油、あるいは溶剤精製工程と水素化処理工程、水素化分解工程及び異性化工程等を組み合わせて得られる潤滑油留分等を挙げることができる。特に、水素化分解工程や異性化工程によって得られる高粘度指数鉱油が好適なものとして挙げることができる。いずれの製造法においても、脱蝋工程、水素化仕上げ工程、白土処理工程等の工程は、常法により、任意に採用することができる。鉱油の具体例としては、軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油及びブライトストック等が挙げられ、要求性状を満たすように適宜混合することにより基油を調整することができる。合成油としては、例えば、ポリα−オレフィン、α−オレフィンオリゴマー、ポリブテン、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングルコールエーテル、シリコーン油等を挙げることができる。これらの基油は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができ、鉱油と合成油を組み合わせて使用してもよい。
【0102】
一方、潤滑油基油には、高粘度指数、良好な低温流動性、優れた熱酸化安定性、低揮発性等の性質等を発現させるために、ヒンダードエステル系の合成潤滑油基油が提案されている。例えば、特開平6−158079号公報には、2位に側鎖を有する炭素数4〜26の脂肪酸を必須とし、3位に側鎖を有する炭素数4〜26の脂肪酸と2位と3位に側鎖を有しない炭素数4〜54の脂肪酸を含んだエステル系潤滑油組成物が開示されている。また、特開平7−224289号公報には、ペンタエリスリトールと直鎖飽和モノカルボン酸及びα分岐鎖飽和カルボン酸とを含有した合成潤滑油基油が開示されている。これらを用いてもよい。
【0103】
シリコーン油:
本発明の潤滑剤組成物中に、基油として、シリコーン油を添加してもよい。このような場合、耐摩耗性と共に高摩擦性を要求される潤滑部、より具体的には自動車スタータのオーバーランニングクラッチ、事務機器のワンウエイクラッチ及び各種トラクション駆動機構等に使用される。シリコーン油は、オルガノポリシロキサンであり、耐熱性、酸化安定性、粘度温度特性に優れている。さらに、シリコーン油の置換基の一部をクロロフェニル基、フルオロアルキル基、長鎖アルキル基、高級脂肪酸残基等に置換した変性シリコーン油も使用することができる。
【0104】
添加剤:
その他、本発明の潤滑剤組成物には、種々の用途に適応した実用性能を確保するため、さらに必要に応じて、潤滑剤、例えば軸受油、ギヤ油、動力伝達油などに用いられている各種添加剤、すなわち摩耗防止剤、極圧剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、清浄分散剤、金属不活性化剤、腐食防止剤、防錆剤、消泡剤、固体潤滑剤等を本発明の目的を損なわない範囲で適宜添加することができる。但し、他の成分を含有する場合も、上記(a)成分である所定の有機化合物が、全組成物中50質量%以上であるのが好ましく、80モ質量%以上であるのがより好ましい。
【0105】
用途:
本発明の潤滑剤組成物は、種々の用途に利用できる。例えば、自動車等の車両のエンジン油、ギヤ油、自動車用作動油、船舶・航空機用潤滑油、マシン油,タービン油、軸受油、油圧作動油、圧縮機・真空ポンプ油、冷凍機油及び金属加工用潤滑油剤、また磁気記録媒体用潤滑剤、マイクロマシン用潤滑剤や人工骨用潤滑剤等に利用することができる。
性質:
本発明の潤滑剤組成物は、(a)及び(b)をそれぞれ個々に用いた場合と比較して、流動点が低いという特徴を有する。
【0106】
[機械要素]
本発明の機械要素は、互いに異なる周速で運動する二面と、該二面の間に配置された本発明の潤滑剤組成物とを少なくとも有する。前記機械要素は、異なる周速で運動する二面を有する限り、特にその構造については限定されない。潤滑油、グリース等を必要とする従来公知の摩擦摺動部分に組み込まれる機械要素のいずれであってもよい。異なる周速で運動する二面は、曲面であっても、平面であってもよいし、また面の全部又は一部に凹凸部を有していてもよい。例えば、すべり軸受や、転がり軸受の摩擦摺動部分などが挙げられる。本発明の機械要素は、さらに、伝動要素として、歯車、カム、ねじ、摩擦ドライブを備えていてもよい。また、前記潤滑剤組成物を密封するための密封要素として、オイルシール、メカニカルシール、ピストンリングなどの接触式シールを備えていてもよい。
【0107】
運動する二面の材質について特に制限されず、本発明の組成物は、鋼鉄、鋼鉄以外の各種金属、金属以外の無機又は有機材料、及びこれらの混合体のいずれに対しても、低摩擦性及び耐摩耗性に優れる。
鋼鉄の例には、機械構造用炭素鋼、ニッケルクロム鋼材・ニッケルクロムモリブデン鋼材・クロム鋼材・クロムモリブデン鋼材・アルミニウムクロムモリブデン鋼材などの構造機械用合金鋼、ステンレス鋼、マルチエージング鋼などが含まれる。
鋼鉄以外の各種金属、又は金属以外の無機もしくは有機材料も広く用いられる。
金属以外の無機もしくは有機材料としては、各種プラスチック、セラミック、カーボン等、及びその混合体などが挙げられる。より具体的には、鋼鉄以外の金属材料としては、鋳鉄、銅・銅−鉛・アルミニウム合金、その鋳物及びホワイトメタルが挙げられる。
有機材料としては、すべての汎用プラスチック、エンジニアリングプラスチック、例えば高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリアミド、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、フッ素樹脂、四フッ化エチレン樹脂(PFPE)、ポリアリレート、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド、ポリピロメリットイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリイミド(PI)、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、フェノール樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、ABS/ポリカーボネートアロイ等に適用される。
これらの樹脂は、各種部品や部材として成形品や樹脂層を形成し、これらが他の樹脂や金属と接触する個所にこのグリース組成物が適用される。具体的には、例えば電動パワーステアリング、ドアミラー等によって代表される自動車電装品の摺動部、軸受、樹脂ギヤ部、ラジカセ、VTR、CDプレーヤ等音響機器の樹脂ギヤ部、レーザービームプリンターによって代表されるプリンター、複写機、ファックス等のOA機器の樹脂ギヤ部、自動車用各種アクチュエータ、エアシリンダ内部の摺動部などを形成する樹脂材料と他の樹脂材料又は金属材料との接触個所に有効に適用される。
【0108】
無機材料としては、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ、ジルコニア、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニア(ZrC)、窒化チタン(TiN)などのセラミックス;及びカーボン材料が挙げられる。またこれらの混合体として、プラスチックにガラス、カーボン又はアラミドなどの繊維を複合化した有機−無機複合材料、セラミックと金属の複合材料サーメットなどが挙げられる。
一部が鉄鋼以外の材料からなっている場合としては、鋼材の表面の少なくとも一部が、鉄鋼以外の金属材料、又は金属材料以外の有機もしくは無機材料からなる膜で被覆されていてもよい。被覆膜としては、ダイヤモンドライクカーボンの薄膜等の磁性材料薄膜、及び有機もしくは無機多孔質膜などが挙げられる。
【0109】
また、前記二面の少なくとも一方の面に、多孔性焼結層を形成して、かかる多孔質層に潤滑剤組成物を含浸させて、摺動時に摺動面に潤滑剤組成物が適宜供給されるように構成してもよい。前記多孔質層は、金属材料、有機材料及び無機材料のいずれからなっていてもよい。具体的には、焼結金属、ジルコン酸カルシウム(CaZrO3)とマグネシア(MgO)の微粒子が互いに強く結合して形成されるような多孔質セラミックス、シリカとホウ酸系成分を熱的に相分離させることにより得られる多孔質ガラス、超高分子量ポリエチレン粉末の焼結多孔質成形体、四フッ化エチレン等フッ素樹脂系多孔質膜、ミクロフィルターなどに用いられるポリスルホン系多孔質膜、予め成形体の貧溶媒とその成形体形成モノマーを重合時相分離を起こさせて形成される多孔質膜などが挙げられる。
【0110】
金属又は酸化金属焼結層としては、銅系、鉄系又はTiO2系の粉末を焼結することにより形成される多孔質層が挙げられる。銅系金属焼結層は、鋳鉄基板の上に銅粉末(例えば、88質量%)、スズ(例えば、10質量%)及び黒鉛(例えば、2質量%)の混合物を設置し、250MPaで圧縮形成したものを還元気流中で、高温、例えば770℃程度で、約一時間焼結することによって形成することができる。また、鉄系金属焼結層は、鋳鉄基板上に、鉄粉末に銅粉末(例えば、3質量%)及び化学炭素(0.6質量%)を添加した混合物を設置して、250MPaで圧縮成形したものを還元気流中で高温、例えば770℃程度で、約一時間焼結することによって形成することができる。また、TiO2焼結層は、Ti(OC817−n)(例えば、33質量%)、TiO2の微粉末(例えば、57質量%)及びPEO(分子量MW=3000)の混合物を、鋳鉄上に設置して、UV光を照射しつつ560℃に3時間加熱焼結することによって形成される。
なお、これらの多孔質層によって被覆される材料については特に限定されず、上述したセラミックス、樹脂、有機−無機複合材料や、勿論鋼鉄であってもよい。
【0111】
前記ダイヤモンドライクカーボン薄膜等の磁性材料薄膜等の被膜は、表面処理によって形成することができる。表面処理の詳細については、日本トライボロジー学会編 トライボロジーハンドブック 第一版 (2001年)B編 第三章 表面改質 544−574頁に記載されていて、本発明の機械要素の作製にいずれも利用することができる。表面処理は、一般的に、表面改質によるトライボロジー特性の改善を目的になされるものであるが、機械要素の駆動には低摩擦や耐摩耗性だけでなく、駆動する環境の要請に応じて低騒音、耐食、化学安定、耐熱、寸法安定、低アウトガス、生体親和、抗菌など多様な材料特性が併せて要求されることが多く、従って、本発明においては、表面処理は、トライボロジー特性の改善を目的になされるものに限定されない。表面処理法としては、
1) 真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング、イオン注入による物理蒸着(PhisicalVaporDeposition)法による、アルミニウム、銅、銀、金、クロム、モリブデン、タンタルまたその合金膜、窒化チタン、窒化クロム、炭化チタン、炭化クロム等のセラミックス、酸化アルミニウム、二酸化珪素、ケイ化モリブデン、酸化タンタル、チタン酸バリウム等の酸化膜の形成;
2) 熱、プラズマ、光などによる化学蒸着(ChemicalVaporDeposition)法を用いた各種金属、WC、TiC、B4Cなどの炭化物、TiN、Si34などの窒化物、TiB2、W23などのホウ化物、Al23、ZrO2などの酸化物膜、CrW、Ti金属を含有したアモルフォスカーボン膜、フッ素含有カーボン膜、プラズマ重合膜の形成;
3) 浸炭、窒化、浸硫、ホウ化処理などの拡散被覆法(化学反応法)による表層部分の耐摩耗性、耐焼きつき性などの特性を付与する方法;及び
4) 電気めっき、無電解めっきなどのめっき法による金属、複合金属膜などがあげられる。
【0112】
[潤滑剤組成物の製造方法]
本発明は、本発明の潤滑剤組成物の製造方法にも関する。
本発明の潤滑剤組成物の製造方法は、前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物を同時に又はそれぞれ添加する工程を含み、前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物の少なくとも一方が、合成時に2種以上の混合物として生成され、混合物として添加されることを特徴とする。例えば、前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物の少なくとも一方を、2種以上の混合物を反応試薬として用いた合成工程によって、混合物として合成し、該混合物を添加する方法などが挙げられる。より具体的には、前記一般式(1)で表される化合物が、置換基Rとして、及び/又は一般式(2)で表される化合物が、R11、R12及びR13のうち少なくとも1つとして、エチレンオキシ単位又はプロピレンオキシ単位を含む置換基を有する化合物である場合は、該置換基中に含まれるエチレンオキシ単位又はプロピレンオキシ単位の数が互いに異なる混合物として、添加することができる。かかる混合物は、エチレンオキシドガス又はプロピレンオキシドガスによる付加反応を経て合成され、該付加反応時に鎖長分布を利用することで生成することができる。
【0113】
本発明の製造方法の一例は、前記一般式(1)の化合物の置換基Rとして、及び/又は一般式(2)で表される化合物のR11、R12及びR13のうち少なくとも1つとして、エチレンオキシ単位又はプロピレンオキシ単位を有する置換基を導入する工程を含む。鎖長分布を利用して、置換基中に含まれるエチレンオキシ単位又はプロピレンオキシ単位の繰り返し単位の数が異なる混合物を生成するのが好ましい。この方法の一例として、塩基性触媒の存在下に、所望により有機溶媒存在下、エチレンオキシドガス又はプロピレンオキシドガスを付加させる方法が挙げられる。以下に、一般式(1)で表される化合物の混合物を合成する上記方法の一例を示す。なお、下記式中では、m個の−X−Rのうち、1つの−X−Rにエチレンオキシ単位又はプロピレンオキシ単位を導入する例を示し、m−1個の−X−Rは式中から省略した。
【0114】
【化37】

【0115】
鎖長分布により、平均n数が2〜4程度の混合物が得られる。所望により、下記の反応を進行させて、末端にアルキル鎖(Cy2y+1)を導入してもよい。
【0116】
【化38】

【0117】
所望により反応系に使用される有機溶媒としては、不活性有機溶媒が好ましく、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶媒、その他、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0118】
また、アルキレンオキサイドの付加反応に使用する触媒としては、アルカリ金属、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属アルコキサイド、第三級アミン等の塩基性触媒を使用できる。副反応の抑制効果、取り扱い易さの面でアルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムがより好ましい。また、触媒の添加量は目的とするアルキレンオキサイドの付加物および反応に供するアルキレンオキサイドの種類により異なるが、通常目的とする生成物に対し、0.05〜0.5重量%となるように添加することが好ましい。
【0119】
反応温度については特に制限はなく、室温で行ってもよいし、加熱下で行ってもよい。好ましくは、50℃〜150℃である。また、反応容器にも制限はないが、オートクレーブ中で行うことが好ましい。
本発明の製造方法では、反応終了後、得られた反応混合物を、そのまま原料として、または、その後、所望によりさらに末端にアルキル基等を導入した後、得られた混合物を、本発明の潤滑剤組成物の製造に用いる。
【0120】
[b−97の合成例]
以下のスキームに従って、b−97を合成した。
【0121】
【化39】

【0122】
(b−97−Aの合成)
撹拌器を装着した1Lの三ツ口フラスコに、シアヌルクロライド(1.0mol)、メチルエチルケトン250mlを加え、撹拌して溶液を得た。溶液を5℃以下に冷却し、ジブチルアミン(1.0mol)を撹拌しながら滴下した。次いで、酢酸ナトリウム(1.0mol)の水溶液100mlを滴下し、滴下終了後室温で2時間撹拌した。さらにその反応溶液にメトール(1.0mol)を加え、次いで、酢酸ナトリウム(2.0mol)の水溶液200mlを滴下した。滴下終了後、還流下5時間反応させた。反応終了後、酢酸エチルで抽出、水で洗浄した後、有機層を分取して溶媒を減圧留去した。メタノール−水の混合液で晶析後、目的物b−97−Aを得た。
【0123】
(b−97−Bの合成)
b−97−A(1.0mol)をオートクレーブに仕込み、触媒として水酸化カリウム粉末0.5gを加えた後、オートクレーブ内に窒素で置換した。攪拌しながら反応温度を130℃〜140℃に維持してエチレンオキサイドを圧入して付加重合を行った。5時間熟成後、内容物を取り出し、水洗後、目的物b−97−Bを得た。
【0124】
(b−97の合成)
撹拌器を装着した500mlの三ツ口フラスコに、得られたb−97−B(0.5mol)、水200ml、水酸化ナトリウム(2.0mol)および、触媒としてヨウ化ナトリウムとテトラブチルアンモニウムブロマイドを加え、撹拌して溶液を得た。この溶液にブチルクロライド(2.0mol)を撹拌しながら滴下した。滴下終了後、65℃で4時間撹拌した。反応終了後、酢酸エチルで抽出、水で洗浄した後、有機層を分取して溶媒を減圧留去後、目的物b−97を得た。
【実施例】
【0125】
本発明について実施例及び比較例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0126】
実施例1〜11及び比較例1〜10にいては(a)成分として以下に示す化合物(a−1〜a−4)、(b)成分として、b−7、b−12及びb−47を用いて、下記表に示す潤滑剤組成物をそれぞれ調製した。
【0127】
【化40】

【0128】
調製したこれらの組成物のそれぞれについて以下の条件で摩擦試験(往復動型摩擦試験機(SRV摩擦摩耗試験機))を実施し、摩擦係数を測定した。
[摩擦係数試験条件]
試験条件はシリンダ−オンプレートの条件で行った。
試験片(摩擦材):SUJ−2
プレート:φ24×6.9mm
シリンダ:φ15×22mm
温度:20℃、60℃
荷重:20N、200N
振幅:1.5mm
振動数:50Hz
試験時間:試験開始10分後
【0129】
【表1】

【0130】
【表2】

【0131】
上記表に示した結果から、本発明の実施例の潤滑剤組成物は、低圧化で比較的低い温度でも低摩擦係数を示すとともに、高圧・高温処理した後でも低摩擦係数を示すことが理解できる。また、(a)成分と(b)成分とを組み合せることによって、流動点が下がることが見出され、低温特性も示すことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(a)及び(b):
(a)下記一般式(1)で表される化合物の少なくとも一種
【化1】

(式中、Dはm個の側鎖と結合可能な環状の基を表し;Xは各々独立に、単結合、NH基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し;Rは各々独立に、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、スルフィド基、カルボキシ基又はその塩、スルホ基又はその塩、ヒドロキシアミノ基、ウレイド基又はウレタン基を表し;mは2〜11の整数を表す。)
(b)下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも一種
【化2】

(式中、X11、X12及びX13は各々独立に、単結合、NRa基(Raは、水素原子又は炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し、X11、X12、X13のうち1つ以上は、NRb基(Rbは、炭素数が1〜30のアルキル基)であり;R11、R12及びR13はそれぞれ独立して、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表す。)
を含有する潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記一般式(1)中、Dが、下記一般式[1]〜[74]のいずれかで表される環状の基である請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【化3】


(式中、nは2以上の整数を表し、*は側鎖との結合可能部位を意味する。但し*は2以上であれば全ての部位に側鎖が結合していなくてもよい。Mは金属イオン又は2つの水素原子を表す。)
【請求項3】
前記一般式(1)中、Dが5〜7員環構造の複素環残基を表す請求項1又は2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記一般式(2)で表される化合物のR11−X11、R12−X12及びR13−X13のうち少なくとも1つは、下記一般式(3)で表される基を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【化4】

(式中、Rbは、炭素数が1〜30のアルキル基を表し;R21は置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表し;nは1〜5の整数である。)
【請求項5】
前記一般式(3)中、Rbが炭素数1〜3のアルキル基である請求項4に記載の潤滑剤組成物。
【請求項6】
(a)成分を5.0質量%〜90.0質量%、及び(b)成分を10.0質量%〜95.0質量%含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項7】
(b)成分として、前記一般式(2)で表される化合物を二種類以上含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項8】
互いに異なる周速で運動する二面と、該二面の間に配置された請求項1〜7のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物とを少なくとも有する機械要素。
【請求項9】
摩擦摺動する二面間に請求項1〜7のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物を配置して二面間の摩擦を軽減する方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物の製造方法であって、前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物を同時に又はそれぞれ添加する工程を含み、
前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物の少なくとも一方を、2種以上の混合物として合成し、混合物として添加することを特徴とする潤滑剤組成物の製造方法。
【請求項11】
前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物の少なくとも一方を、2種以上の混合物を反応試薬として用いた合成工程によって、混合物として合成することを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物の少なくとも一方を、エチレンオキシドガス又はプロピレンオキシドガスによる付加反応を経て、該付加反応時に鎖長分布を利用して、混合物として合成することを特徴とする請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法によって製造された潤滑剤組成物であって、請求項1中に記載の一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物の少なくとも一方を混合物として含有する潤滑剤組成物。
【請求項14】
前記一般式(1)で表される化合物が、少なくとも一つの置換基Rとして、及び/又は、一般式(2)で表される化合物が、R11、R12及びR13のうち少なくとも1つとして、エチレンオキシ単位又はプロピレンオキシ単位を含む置換基を有し、該置換基中に含まれるエチレンオキシ単位又はプロピレンオキシ単位の繰り返し数が互いに異なる化合物の混合物であることを特徴とする請求項13に記載の潤滑剤組成物。
【請求項15】
請求項1中に記載の一般式(1)で表される化合物の合成方法であって、該化合物が、少なくとも一つの置換基Rとして、エチレンオキシ単位又はプロピレンオキシ単位を含む置換基を有し、エチレンオキシドガス又はプロピレンオキシドガスを付加させる付加反応工程を含み、該付加反応工程時に鎖長分布を利用して、エチレンオキシド単位又はプロピレンオキシド単位の繰り返し数が互いに異なる混合物として合成することを特徴とする一般式(1)で表される化合物の製造方法。
【請求項16】
請求項1中に記載の一般式(2)で表される化合物の合成方法であって、該化合物が、R11、R12及びR13のうち少なくとも1つとして、エチレンオキシ単位又はプロピレンオキシ単位を含む置換基を有し、エチレンオキシドガス又はプロピレンオキシドガスを付加させる付加反応工程を含み、該付加反応工程時に鎖長分布を利用して、エチレンオキシド単位又はプロピレンオキシド単位の繰り返し数が互いに異なる混合物として合成することを特徴とする一般式(2)で表される化合物の製造方法。
【請求項17】
トリクロロトリアジン、ジクロロトリアジン類又はモノクロロトリアジン類と、アミン類及び/又はアミノフェノール類とを反応させることを含み、酢酸ナトリウム水溶液を反応系中に添加して反応を進行させることを特徴とする、下記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体の製造方法。
【化5】

(式中、X11、X12及びX13は各々独立に、単結合、NRa基(Raは、水素原子又は炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し、X11、X12、X13のうち1つ以上は、NRb基(Rbは、炭素数が1〜30のアルキル基)であり;R11、R12及びR13はそれぞれ独立して、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表す。)
【請求項18】
前記一般式(2)中、R11−X11、R12−X12及びR13−X13のうち少なくとも一つが、下記一般式(3)で表される基を含むことを特徴とする請求項17に記載の方法。
【化6】

(式中、Rbは、炭素数が1〜30のアルキル基を表し;R21は置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表し;nは1〜5の整数である。)

【公開番号】特開2009−84546(P2009−84546A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60500(P2008−60500)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】